(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良剤および食感改良キット、ならびに畜肉練り製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/60 20160101AFI20230322BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20230322BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20230322BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
A23L13/60 Z
A23L13/00 A
A23L13/40
A23D9/00 518
(21)【出願番号】P 2019202790
(22)【出願日】2019-11-07
(62)【分割の表示】P 2019076370の分割
【原出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】森川 彩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克紀
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-116357(JP,A)
【文献】特開平11-299455(JP,A)
【文献】特開平01-112969(JP,A)
【文献】特開平01-179667(JP,A)
【文献】特開昭55-120772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00
A23L 13/60
A23L 13/40
A23D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスハムの形態を有する畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良剤であって、動物性油脂と植物性油脂との分散体を含有し、該動物性油脂が、ラードおよびヘットからなる群から選択される少なくとも1種の油脂であり、そしてリン酸塩を含まない、食感改良剤(但し、乳化剤を含有する場合を除く)。
【請求項2】
前記植物性油脂が、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を含有する、請求項1に記載の食感改良剤。
【請求項3】
前記植物性油脂が、前記リノール酸を該植物性油脂の脂肪酸組成を基準として40%以上の割合で含有する、請求項2に記載の食感改良剤。
【請求項4】
前記植物性油脂が、前記リノレン酸を該植物性油脂の脂肪酸組成を基準として10%以上の割合で含有する、請求項2または3に記載の食感改良剤。
【請求項5】
前記植物性油脂が、サフラワー油、大豆油、菜種油、および亜麻仁油からなる群から選択される少なくとも1種の食用油である、請求項1から4のいずれかに記載の食感改良剤。
【請求項6】
プレスハムの形態を有する畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良キットであって
(1)請求項1から5のいずれかに記載の食感改良剤と
(2)アルカリ塩と
を含み、
該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩であり、そして
リン酸塩を含まない、食感改良キット。
【請求項7】
前記アルカリ塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩である、請求項6に記載の食感改良キット。
【請求項8】
プレスハムの形態を有する畜肉練り製品の製造方法であって、
原料肉に、請求項1から5のいずれかに記載の食感改良剤と混合してパティを作製する工程を含み(但し、該パティが乳化剤を含有する場合を除く)、そして
該パティがリン酸塩を含まない、
方法。
【請求項9】
前記パティを作製する工程において、前記動物性油脂100重量部に対して植物性油脂の量が10重量部~900重量部となるように、前記食感改良剤が添加される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記パティを作製する工程においてアルカリ塩をさらに混合し、該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記パティがカゼインナトリウムを含まない、請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良剤および食感改良キット、ならびに畜肉練り製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸塩は、保水性向上のため、または結着剤として、畜肉練り製品の製造の際に幅広く使用されている。
【0003】
畜肉練り製品などの肉製品の保水性および結着性は加塩操作によって発現する。結着性は保水性と密接に関連しており、保水性の向上と共に向上し得る。例えば、畜肉練り製品の1種であるソーセージの製造の際に塩漬すると、細切(カッティング)工程後の食肉は、保水性および結着性の発現により粘稠性が非常に高くなり、加熱すると弾力感のある肉塊が形成される。これには筋原線維に局在する塩溶性タンパク質であるミオシンが重要な役割を果たす。弾力感のある良質な畜肉練り製品を得るには、適正濃度として2.5重量%程度の食塩が必要とされる。しかし、日本人の嗜好から市販のソーセージ等の畜肉練り製品における食塩含有量は多くて食塩1.5重量%程度であり、この量の食塩の添加では、畜肉練り製品に良好な弾力感を付与する結着性を発現させることは難しい。
【0004】
良好な弾力感のある畜肉練り製品を得るために、上記のような高濃度の食塩の添加に代えて、畜肉練り製品の製造の際に重合リン酸塩のようなリン酸塩が添加されている。リン酸塩は、0.3重量%程度の低濃度での添加で十分な結着性を発現し、良好な弾力感のある畜肉練り製品を得ることができる。
【0005】
しかし、近年、リン酸塩の過剰摂取による腎臓への影響や、リン酸塩によるミネラル類の吸収阻害などが注目されている。このため、畜肉練り製品について、リン酸塩の量を削減するかまたはリン酸塩を使用しない代替技術が求められている。
【0006】
特に、ソーセージでは、リン酸塩がその物性および食感に大きく影響を及ぼすため、ソーセージをリン酸塩不使用で製造することは大変難しい。リン酸塩不使用ソーセージでは、従来のリン酸塩使用品よりも保水性、硬さ、弾力感、結着性が不十分であった。このため、リン酸塩不使用ソーセージの場合、本来の好ましい硬さや弾力を持つ食感(いわゆる「プリッと感」)が損なわれてしまう。
【0007】
例えば、リン酸塩不使用ソーセージの製造方法として、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムを用いる方法(特許文献1)、ならびにトランスグルタミナーゼを用いる方法(特許文献2)が報告されている。
【0008】
しかし、リン酸不使用であっても、リン酸塩使用品に匹敵するような食感を有するソーセージがなお求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-242674号公報
【文献】国際公開第2012/060470号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、リン酸塩不使用の場合であっても、ソーセージなどの畜肉練り製品に対して好ましい食感を付与することができる、畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良剤および食感改良キット、ならびに畜肉練り製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良剤であって、動物性油脂と植物性油脂との分散体を含有し、該動物性油脂が、ラードおよびヘットからなる群から選択される少なくとも1種の油脂である、食感改良剤である。
【0012】
1つの実施形態では、上記植物性油脂は、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を含有する。
【0013】
さらなる実施形態では、上記植物性油脂は、上記リノール酸を該植物性油脂の脂肪酸組成を基準として40%以上の割合で含有する。
【0014】
さらなる実施形態では、上記植物性油脂は、上記リノレン酸を該植物性油脂の脂肪酸組成を基準として10%以上の割合で含有する。
【0015】
1つの実施形態では、上記植物性油脂は、サフラワー油、大豆油、菜種油、および亜麻仁油からなる群から選択される少なくとも1種の食用油である。
【0016】
本発明はまた、畜肉練り製品の食感を改良するための食感改良キットであって
(1)上記食感改良剤と
(2)アルカリ塩と
を含み、
該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である、キットである。
【0017】
1つの実施形態では、上記アルカリ塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩である。
【0018】
1つの実施形態では、本発明の食感改良キットはリン酸塩を含まない。
【0019】
本発明はまた、畜肉練り製品の製造方法を提供し、この方法は、
原料肉に、上記食感改良剤と混合してパティを作製する工程、
を含む。
【0020】
1つの実施形態では、上記パティを作製する工程において、前記動物性油脂100重量部に対して植物性油脂の量が10重量部~900重量部となるように、上記食感改良剤が添加される。
【0021】
1つの実施形態では、上記パティを作製する工程においてアルカリ塩をさらに混合し、該アルカリ塩は、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である。
【0022】
1つの実施形態では、上記パティはリン酸塩を含まない。
【0023】
1つの実施形態では、上記パティはカゼインナトリウムを含まない。
【0024】
1つの実施形態では、上記畜肉練り製品はソーセージの形態を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、リン酸塩不使用であっても、例えば、食感に影響する弾力感などの物性が良好または改善された畜肉練り肉製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(用語の定義)
まず、本明細書に用いる用語について定義する。
【0027】
本明細書における用語「畜肉練り製品」とは、切断、削切、挽く等の物理的な分離操作が施された食用肉を原材料として含有する製品を包含していう。
【0028】
本明細書における用語「加工」とは、切断、削切、挽く等の物理的な分離操作、および原料肉と他の原材料との混合操作を含み、そしてそれらと調味、塩漬、乾燥、くん煙、加熱、冷却などの操作とをさらに組み合わせたものも含む。用語「混合」とは、原料肉と、畜肉練り製品を構成する他の原材料(例えば、食塩、糖類、調味料、香辛料、発色剤、酸化防止剤など)とが接触して合わさる状態にすることをいう(「混練」ということもある)。他の原材料が調味料を含む場合、この他の原材料と原料肉との「混合」により「調味」を行うこともできる。用語「加工」はまた、食品工場、食品店舗(スーパーマーケットのバックヤードなどを含む)での食用肉を原材料とする肉製品の製造段階における処理に加えて、家庭および飲食店における調理も包含する。
【0029】
「畜肉練り肉製品」は、これを構成する原材料の合計重量(加熱前の全原材料の合計重量)に対して、例えば、少なくとも30重量%の食用肉(生肉を基準とする)を原料肉として含有する。
【0030】
畜肉練り製品の形態としては、例えば、ソーセージ、プレスハム、チキンナゲット、ハンバーグ、ミートボール、つくね、餃子の具などが挙げられる。これらの畜肉練り製品では、例えば、ミンサーにより細かくすり潰された挽き肉を原料肉として使用するため、原料肉の肉粒子同士の混合(例えば、挽き肉の練り合わせによる)によって、当該肉粒子同士の接合が生じ得る。このような肉粒子同士の接合を「結着」ともいう。
【0031】
本明細書における用語「畜肉練り製品」はまた、当該製品に施された加熱の程度(すなわち、その一連の加工工程における加工の程度)によって、「加熱畜肉練り製品」または「非加熱畜肉練り製品」のいずれかに分類される。本明細書における用語「加熱」とは、熱エネルギーの付加を通じて原材料の性状を不可逆的に変動させることを言い、例えば、嗜好性の目的に応じて、単に畜肉練り製品(例えば、「加熱畜肉練り製品」)の温度を上昇させる「加温」とは明確に区別される。
【0032】
本明細書における用語「加熱畜肉練り製品」は、すでに原料肉に加熱を含む加工が施されており、生肉の状態を保持しておらず、かつヒトがそのまま食することが可能なものをいい、これらを満たす限り、冷蔵品および冷凍品も包含する。このため、ある畜肉練り製品について、上記のようにヒトがそのまま食することができるように、すでに加熱が施されている場合は、加温の目的で電子レンジ、湯煎などで加温される前後に関わらず、当該製品は「加熱畜肉練り製品」に該当する。「加熱畜肉練り製品」は、ヒトが食するまでにさらなる加工が施されてもよい。
【0033】
本明細書における用語「非加熱畜肉練り製品」は、「畜肉練り製品」のうち、上記加熱畜肉練り製品以外の製品であって、原料肉に加工が施され、かつヒトが食するにはさらに加熱を必要とするものをいい、これらを満たす限り、冷蔵品および冷凍品も包含する。「非加熱畜肉練り製品」には、これを構成する原料肉が生肉の状態で含まれており、ヒトが食するには加熱を必要とする製品、およびこれを構成する原料肉がすでに施された加熱によって生肉の状態にはないが、ヒトが食するにはさらなる加熱を必要とする製品(半加熱品、半製品ともいう)を含む。例えば、上記「加温」以外の目的で、フライパン、フライヤー、電子レンジなどの手段を通じて加熱を施すことにより、はじめてヒトが食することが可能な状態となる(すなわち、加熱畜肉練り製品として完成する)場合、当該加熱を施す前の状態の製品は「非加熱畜肉練り製品」に該当する。
【0034】
本明細書における用語「畜肉練り製品の食感」とは、畜肉練り製品のうち、所定の加工および/または加熱を通じてヒトが食することが可能となった畜肉練り製品に対して、当該ヒトが口腔内で感知可能な味覚、触覚、嗅覚およびそれらの組合せから得ることができる感覚を包含していう。本発明において、畜肉練り製品の食感は、例えば、原料肉の保水性が関与し得る。例えば、畜肉練り製品の食感としては、硬さ、弾力感などが挙げられる。
【0035】
本明細書における用語「畜肉練り製品の食感改良」とは、本発明の食感改良剤を含まない以外は同一組成の畜肉練り製品のうち、所定の加工および/または加熱を通じてヒトが食することが可能となった畜肉練り製品をヒトが食した際に感覚する食感に対して異なる食感を得ることをいう。例えば、リン酸塩を含有しない従来の畜肉練り製品では、製造する際に、保水性が悪くなり結着性が低下する。保水性および結着性の低下した畜肉練り製品は、加熱時の離水が激しくなってパサつきあるボソボソした食感を生み、肉粒子同士の接合が緩いため、か弱く弾力のない食感となる。これに対し、本発明の食感改良剤を用いれば、たとえリン酸塩を含有していない畜肉練り製品であってもその保水性と結着性とを向上させることができ、それによって適度な硬さと弾力感を付与することができる。結着性が高いほど良好な硬さを感じることができ、喫食時に弾力を感じることができる。このような喫食時の食感の変化を「畜肉練り製品の食感改良」の一例として説明することができる。
【0036】
本発明の1つの実施形態では、畜肉練り製品はソーセージの形態を有する。ソーセージは、例えば、食肉(例えば、豚肉、牛肉)を挽き肉にして練り合わされ、ケーシングチューブ(例えば、羊腸および豚腸のような動物の腸、あるいは人工ケーシング)に充填され、加熱されることにより得られる製品である。ソーセージは、ケーシングの材料およびソーセージの太さによって、ウインナーソーセージ、フランクフルトソーセージおよびボロニアソーセージに分けられるが、本発明におけるソーセージはいずれのものであってもよい。ソーセージは、ケーシングに充填されずに成形されたものであってもよい。ソーセージなどの畜肉練り製品の食感改良効果は、例えば、畜肉練り製品の食感(硬さ、弾力感など)の評価、保水性評価(例えば、歩留まり測定)、結着性評価などによって評価することができる。
【0037】
(食感改良剤)
本発明の食感改良剤は、畜肉練り製品の食感を改良するために使用される製剤の一形態であって、原料肉に混合して使用される。
【0038】
本発明の食感改良剤は、動物性油脂と植物性油脂との分散体、好ましくは均一分散体を含有する。
【0039】
動物性油脂は食品一般に使用される油脂であり、例えば、ラードおよびヘット、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本明細書において「ラード」は、豚の脂肪から精製された食用油脂をいう。ラードは常温(例えば、25℃)で固体の性状を示し、豚脂とも称される。本明細書において「ヘット」は牛の脂を精製した食用油脂をいう。ヘットは常温(例えば、25℃)で固体の性状を示し、牛脂とも称される。本明細書においては「ラード」および「ヘット」は、明記しない限り、その性状(例えば、固体または液体)は限定されない。種々の肉製品の原材料としても汎用されており、入手が容易であるとの理由から、動物性油脂としてはラードを用いることが好ましい。これら動物性油脂を含む限り、他の動物性油脂(例えばチーユ(鶏油))が含まれていてもよい。
【0040】
植物性油脂は食品一般に使用される油脂であり、好ましくは常温(例えば25℃)において液体の性状を示す油脂である。
【0041】
植物性油脂は、上記動物性油脂との間での分散性に優れ、かつ畜肉練り製品の食感を大きく変化させることができるとの理由から、好ましくはリノール酸および/またはリノレン酸を含有する油脂である。1つの実施形態では、本発明において、植物性油脂は、当該植物性油脂の脂肪酸組成を基準として好ましくは40%以上、より好ましく50%以上、さらにより好ましくは70%以上の割合でリノール酸を含有する。リノール酸を上記範囲内で含む油脂であることにより、動物性油脂との間での分散性がより良好であり、畜肉練り製品の食感を大きく変化させることができる。1つの実施形態では、本発明において、植物性油脂は、当該植物性油脂の脂肪酸組成を基準として好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらにより好ましくは40%以上の割合でリノレン酸を含有する。リノレン酸を上記範囲内で含む油脂であることにより、動物性油脂との間での分散性がより良好であり、畜肉練り製品の食感を大きく変化させることができる。
【0042】
本発明の食感改良剤を構成する植物性油脂としては、例えば、サフラワー油、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、ゴマ油、米油、オリーブ油、亜麻仁油、およびヤシ油、ならびにそれらの組み合わせのような食用油が挙げられる。畜肉練り製品の食感を大きく変化させることができるとの理由から、サフラワー油、大豆油、亜麻仁油、および菜種油、ならびにそれらの組み合わせのような食用油が好ましい。サフラワー油および大豆油はリノール酸を豊富に含む油脂として知られている。亜麻仁油はリノレン酸を豊富に含む油脂として知られている。
【0043】
本発明の食感改良剤は、例えば、上記動物性油脂と植物性油脂とを、予め例えば、40℃~95℃、好ましくは60℃~85℃の温度を付加して両者が液状化した状態で合わせ、均一になるまで混合し、その後必要に応じて冷却(例えば氷冷)することにより分散体の形態で得ることができる。このような動物性油脂と植物性油脂との分散体は、例えば、常温において水飴のような粘稠性を有する。
【0044】
本発明の食感改良剤の上記動物性油脂および植物性油脂の含有量は、目的の畜肉練り製品の種類、当該製品に含まれる原料肉の種類やその油脂含量、調味料やその他の原材料の種類および量等によって変動するが、例えば、畜肉練り製品の製造(例えば、パティの作製工程)の際に、植物性油脂の含有量が、動物性油脂100重量部に対して、好ましくは10重量部~900重量部、より好ましくは43重量部~240重量部となるような含有量であればよい。動物性油脂100重量部に対して植物性油脂の含有量が10重量部を下回ると、食感改良剤を構成する動物性油脂および植物性油脂と原料肉との均一な混合が困難となり畜肉練り製品の食感にあまり変化を感じることができないことがある。動物性油脂100重量部に対して植物性油脂の含有量が900重量部を上回ると、全体油脂の粘度が極度に低下し混合が困難となることがある。
【0045】
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、上記動物性油脂と植物性油脂との分散体を予備調製し、畜肉練り製品の製造(例えば、パティの作製工程)の際に、例えば、動物性油脂と植物性油脂との上記含有量比(例えば、動物性油脂100重量部に対して、好ましくは10重量部~900重量部)を満たすように、上記動物性油脂および/または植物性油脂がこの予備調製された分散体に別途混合される形態であってもよい。上記動物性油脂および/または植物性油脂の別途混合は、(例えば室温に)冷却された予備調製分散体に対して行うことができ、あるいは予備調製分散体をまたは別途混合する動物性油脂および/または植物性油脂と共に加熱して混合してもよく、必要に応じて冷却してもよい。予備調製分散体を構成する上記動物性油脂および植物性油脂の量は、例えば、植物性油脂100重量部に対して、上記動物性油脂の量が、好ましくは0.1重量部~20重量部、より好ましくは0.5重量部~10重量部とすることができる。予備調製分散体を構成する植物性油脂および動物性油脂の量は、別途混合の動物性油脂および/または植物性油脂の量と調整して決定することができる。当該実施形態では、予備調製分散体を含む食感改良剤を、例えば、畜肉練り製品の製造者に提供し、当該製造者が畜肉練り製品を製造する際に、提供された予備調製分散体を含む食感改良剤を、製造者が別途準備した上記動物性油脂および/または植物性油脂と混合して用いることもできる。このような実施形態によれば、例えば、畜肉練り製品の製造者に提供する食感改良剤の嵩を減らし、例えば、輸送効率を高めることができる。
【0046】
上記のようにして得られた食感改良剤は、畜肉練り製品の食感改良のために使用され得る。1つの実施形態では、後述のように、アルカリ塩とともに使用され得る。
【0047】
(食感改良キット)
本発明の食感改良キットは、上記食感改良剤とアルカリ塩とを含み、通常、食感改良剤とアルカリ塩とは別々に分離した状態で保管されている。
【0048】
食感改良キットを構成するアルカリ塩は、非リン酸系のアルカリ化合物、好ましくは、非リン酸系のアルカリ金属塩および/または非リン酸系のアルカリ土類金属塩である。アルカリ金属塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩などが挙げられる。非リン酸系の化合物は、リン酸系化合物以外の化合物をいう。「リン酸系化合物」とは、リン原子を含むオキソ酸をベースとする化合物をいい、リン酸塩を包含する。本明細書において「リン酸塩」は、食品添加物として用いられるオルトリン酸塩(例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウムおよびリン酸三カルシウム)、ならび重合リン酸塩(例えば、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸などの塩)を包含していう。非リン酸系の塩としては、非リン酸系化合物である有機酸および無機酸の塩が挙げられ、例えば、炭酸、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、アジピン酸などの塩が挙げられる。本発明の食感改良キットを構成するアルカリ塩としては、非リン酸系化合物である限り、食品に通常用いられるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いることができる。アルカリ塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本発明の食感改良キットを構成する食感改良剤およびアルカリ塩のそれぞれの量は、目的の畜肉練り製品の種類、当該製品に含まれる原料肉の種類やその油脂含量、調味料やその他の原材料の種類および量等によって変動するが、例えば、原料肉に対して混合する量に基づいて決定することができる。アルカリ塩の量は、例えば、食感改良剤100重量部に対して、好ましくは0.025重量部~5重量部、好ましくは0.25重量部~1.5重量部とすることができる。アルカリ塩と食感改良剤との含有比が上記範囲内であることにより、畜肉練り製品の保水性(例えば、歩留まり率)を高めて結着性をより良好なものとし、畜肉練り製品の食感をより良好なものとすることができる。
【0050】
本発明の食感改良キットはまた、食品一般に使用されるその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば食塩、糖類、香辛料、蛋白(例えば、卵白蛋白、大豆蛋白、または小麦蛋白などの食品の食感改良に通常用いられる蛋白)、酸化防止剤、発色剤などが挙げられる。このようなその他の成分の含有量は、畜肉練り製品の食感改良効果を阻害しない範囲にて当業者によって適宜設定され得る。本発明の食感改良キットにおいて、その他の成分は、予め食感改良剤に添加した形態で含まれてもよく、予めアルカリ塩と混合した形態で含まれていてもよく、あるいは食感改良剤およびアルカリ塩とは独立した状態で含まれていてもよい。
【0051】
本発明の食感改良キットまたは食感改良剤はまた、必ずしもリン酸塩を併用することを要しない。すなわち、本発明の食感改良キットは、リン酸塩を含有していてもよく、あるいは含有しなくてもよい。リン酸塩を含有しない畜肉練り製品のニーズが高まっている点を考慮すれば、本発明の食感改良キットまたは食感改良剤は、リン酸塩を含まないことが好ましい。
【0052】
本発明の食感改良キットでは、上記食感改良剤とアルカリ塩とが各々所定量が計量され、別々の容器(例えば樹脂製袋)内に収容されている。使用に際し、上記食感改良剤およびアルカリ塩は、原料肉に対して個別に添加することにより使用される。本発明の食感改良キットは、食感改良剤およびアルカリ塩の各容器の表面、または容器をさらに収容する包装の表面に、あるいはさらなる添付書面において、キットの使用説明書をさらに備えてもよい。
【0053】
(畜肉練り製品の製造方法)
次に本発明の畜肉練り製品の製造方法について説明する。
【0054】
本発明の製造方法では、まず原料肉に、上記食感改良剤が混合され、パティが作製される(本明細書中で「パティの作製工程」ともいう)。
【0055】
原料肉としては、例えば、食肉(例えば、豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉、馬肉、山羊肉、猪肉、鴨肉など)、魚肉などの食用肉が挙げられる。1つの実施形態では、原料肉は豚肉である。原料肉の部位は特に限定されず、例えば、肩、ロース、肩ロース、ヒレ、モモ、外モモ、バラ、ムネ、ささみなどが挙げられる。これらの原料肉は、例えばミンサー等を用いて予め挽き肉の形態を有していることが好ましい。挽き肉は、食感改良の硬さまたは弾力感の程度、肉製品の種類、原料肉の種類などに依存して、挽目の細かさ(例えば、粗挽き、中挽きまたは細挽き)および挽く回数(例えば、一度挽きまたは二度挽き)を適宜選択し得る。挽き肉は、単独の食用肉からなるものであってもよく(例えば、豚挽き肉、牛挽き肉)、2種以上の食用肉の混合物(例えば、牛豚合挽き肉)であってもよい。
【0056】
原料肉の使用量は、目的の畜肉練り製品の種類、当該製品に含まれる原料肉の種類やその油脂含量、調味料やその他の原材料の種類および量等によって変動するため、特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0057】
本発明の製造方法では、例えば、食感改良剤中の分散体を構成する動物性油脂および植物性油脂の量と、必要に応じて畜肉練り製品の製造の際に別途混合される動物性油脂および/または植物性油脂の量とに基づき、動物性油脂および植物性油脂の各添加量を決定することができる。動物性油脂および植物性油脂の各添加量は、目的の畜肉練り製品の種類、当該製品に含まれる原料肉の種類やその油脂含量、調味料やその他の原材料の種類および量等によって変動するが、パティの作製工程において存在する植物性油脂の量(または合計量)が、動物性油脂の量(または合計量)100重量部に対して、好ましくは10重量部~900重量部、より好ましくは43重量部~240重量部となるような添加量である。動物性油脂100重量部に対して植物性油脂が10重量部を下回ると、油脂全体と原料肉との均一な混合が困難となり畜肉練り製品の食感にあまり変化を感じることができないことがある。動物性油脂100重量部に対して植物性油脂が900重量部を上回ると、全体油脂の粘度が極度に低下し混合が困難となることがある。
【0058】
パティの作製工程において混合される油脂合計量(食感改良剤中の分散体を構成する動物性油脂および植物性油脂と必要に応じて別途混合される動物性油脂および/または植物性油脂との合計量)として、目的の畜肉練り製品の製造に通常使用される油脂(例えば、畜肉練り製品がソーセージである場合のラード)の添加量を採用することができる。このような油脂合計量は、目的の畜肉練り製品の種類、当該製品に含まれる原料肉の種類やその油脂含量、調味料やその他の原材料の種類および量等によって変動するが、例えば、目的の畜肉練り製品の原料肉100重量部(パティの作製工程における原料肉の重量を基準)に対して、好ましくは5重量部~80重量部、より好ましくは15重量部~55重量部である。油脂合計量がこのような範囲内であることにより、油脂と原料肉との均一な混合をより容易にし、畜肉練り製品の食感をより良好なものとすることができる。
【0059】
1つの実施形態では、パティの作製工程において、アルカリ塩がさらに混合される。アルカリ塩の添加量は、目的の畜肉練り製品の種類、当該製品に含まれる原料肉の種類やその油脂含量、調味料やその他の原材料の種類および量等によって変動するが、例えば、目的の畜肉練り製品の原料肉100重量部(パティの作製工程における原料肉の重量を基準)に対して、好ましくは0.01~2重量部、より好ましくは0.1重量部~0.6重量部となるような量である。アルカリ塩の添加量がこのような範囲内であることにより、畜肉練り製品の保水性の低下(離水)をより抑制することができる。
【0060】
本発明においては、パティの作製工程において、原料肉以外の原材料もまた上記原料肉と一緒に混合される。原料肉以外の原材料としては、例えば、その他の成分および他の原材料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。ここで、他の原材料とは、例えば、粉砕、スライス、またはペースト化された野菜(例えば、ニンジン、ダイコン、ゴボウ、レンコン、タマネギ、白葱、キャベツ、白菜、レタス、ほうれん草、チンゲン菜、菊菜、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、長芋等);薬味(例えばタマネギ、ネギ、ニラ、ダイコン、セリ、ミツバ、ショウガ、ニンニク、クレソン、パセリ、セロリ、コリアンダー、ミント、ケッパー、バジル、ルッコラ、レモングラス、ノリ、アオノリ、アオサ、唐辛子、コショウ、マスタード、山椒、クミン、パプリカ、八角、ナツメグ、ターメリック、シナモン、ローリア、レモン、ライム、ユズ、カボス、スダチ、シークヮーサー、ダイダイ、ゴマ、落花生、クルミ、松の実、乾し葡萄、削り節等);等が挙げられる。原料肉以外の原材料の使用量は、特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0061】
本発明の製造方法ではまた、必ずしもリン酸塩を併用することを要しない。すなわち、パティの作製工程において、原料肉にリン酸塩が添加されてもよく、あるいは添加されなくてもよい。リン酸塩を含有しない畜肉練り製品のニーズが高まっている点を考慮すれば、本発明の製造方法では、リン酸塩を添加しないことが好ましい。
【0062】
さらに本発明の製造方法では、従来の畜肉練り製品の製造で多用される乳化剤の使用も特に必要とされない。このような乳化剤の例としてはカゼインナトリウムが挙げられる。
【0063】
パティの作製工程において、原料肉と、上記食感改良剤、ならびに必要に応じて添加されるアルカリ塩および原料肉以外の原材料との混合は、当該技術分野における畜肉練り製品の製造に使用される混合手段が使用される。混合時間、温度等の混合に要する条件は当業者によって適宜選択され得る。パティの作製工程において、例えば、原料肉と、食感改良剤およびアルカリ塩、ならびに必要に応じて添加される原料肉以外の原材料との混合は、その畜肉練り製品の形態に応じて同時にまたは順次であり、パティの作製工程における「混合」は、同時混合および順次混合の両方とも包含する。例えば、食感改良剤は、原料肉と、必要に応じて添加されるアルカリ塩および原料肉以外の原材料と同時に混合して、パティを作製してもよい。例えば、畜肉練り製品がソーセージの形態を有する実施形態では、原料肉と、必要に応じて添加されるアルカリ塩および原料肉以外の原材料とを混合した後に、この混合物と食感改良剤(あるいは別途混合する動物性油脂および/または植物性油脂を含めてもよい)とをさらに混合して、パティを作製してもよい。
【0064】
このようにして、原料肉と、食感改良剤と、アルカリ塩(含む場合)とを含むパティが作製される。作製されたパティは、必要に応じて所定の大きさに分けられ、当該技術分野において公知の成形機またはヒトの手によって所定の形状に成形されてもよい。
【0065】
本発明の製造方法においては、次いで、このパティが加熱される(本明細書中で「パティの加熱工程」ともいう)。非加熱畜肉練り製品において、これを構成する原料肉が生肉の状態で含まれている製品の場合は、パティの加熱工程を省略してもよい。
【0066】
パティの加熱は、パティに熱を加える方法である限り、特に限定されず、例えば、焼く、煮る、蒸す、炒める、揚げるなど、ならびにそれらの組合せが挙げられる。当該加熱は、例えば当該技術分野における畜肉練り製品の製造に使用される加熱手段を通じて行うことができる。このような加熱手段としては、例えばスチーマー、ニーダー、フライヤー、焙焼機、蒸気釜、電気釜、蒸気撹拌装置、蒸気調理機、乾燥機などが挙げられる。加熱のために採用される温度および時間は特に限定されず、製造する畜肉練り製品の種類、原料肉および/または原料肉以外の原材料の種類、所望される製品の状態(例えば、加熱畜肉練り製品を製造するか、半製品である非加熱畜肉練り製品を製造するのか)等によって当業者に最適な条件が選択され得る。本発明の畜肉練り製品の製造方法は、パティの加熱工程の後、必要に応じて当該分野において公知の手段を用いて冷却を行う工程をさらに含むこともできる。
【0067】
このようにして畜肉練り製品を製造することができる。
【0068】
本発明の製造方法により得られた畜肉練り製品は、加熱畜肉練り製品または非加熱畜肉練り製品のいずれであってもよい。こうして得られた畜肉練り製品が加熱畜肉練り製品である場合は、喫食にあたり、畜肉練り製品は、電子レンジ、湯煎などの周知の手法で加温されてもよく、あるいは当該加温が行われることなく、そのまま食されてもよい。得られた畜肉練り製品が非加熱畜肉練り製品である場合は、喫食にあたり、畜肉練り製品は、加熱畜肉練り製品となるまで調理等を通じてさらなる加熱が施される。
【0069】
なお、本発明において、畜肉練り製品がソーセージの形態を有する場合、当該畜肉練り製品は、例えば、原料肉の塩漬、混合、充填(ケーシングへの充填)または成形(ケーシングなしの場合)、加熱および冷却を通じて製造することができる。必要に応じて乾燥、くん煙などを行うこともできる。塩漬は、例えば混合の際に食塩および発色剤(硝酸ナトリウムなど)を含むことによって代替的に行ってもよい。上記混合によってパティが得られる。このようなソーセージは、ソーセージの製造に通常用いることができる他の成分(例えば、食塩、糖類、調味料、香辛料、蛋白(例えば、卵白蛋白、大豆蛋白、または小麦蛋白などの食品の食感改良に通常用いられる蛋白)、発色剤、酸化防止剤など)をさらに含んでもよい。ソーセージの製造において、リン酸塩を添加しないことが好ましい。ソーセージの製造において、カゼインナトリウムを添加しないこともまた好ましい。
【0070】
本発明によれば、リン酸塩を用いない場合であっても、畜肉練り製品の保水性および結着性の低下が抑制され、そして肉製品に硬さおよび弾力感のような良好な食感を付与することができる。例えば、畜肉練り製品がソーセージの形態を有する場合は、本発明の食感改良剤および食感改良キットによって、リン酸塩を用いて製造した場合とほぼ匹敵するか、またはより良好な食感(弾力感および結着性など)を有するソーセージを提供することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0072】
(実施例1:食感改良剤E1の作製)
10.0gのラード(固体状)と10.0gのサフラワー油(ハイリノール)とを85℃にて3分間加温下で撹拌混合することにより、均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E1として後述の実施例に使用した。
【0073】
(実施例2:食感改良剤E2の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gの大豆油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E2として後述の実施例に使用した。
【0074】
(実施例3:食感改良剤E3の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gのヒマワリ油(ハイオレイック)を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E3として後述の実施例に使用した。
【0075】
(実施例4:食感改良剤E4の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gのゴマ油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E4として後述の実施例に使用した。
【0076】
(実施例5:食感改良剤E5の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gの菜種油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E5として後述の実施例に使用した。
【0077】
(実施例6:食感改良剤E6の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gの米油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E6として後述の実施例に使用した。
【0078】
(実施例7:食感改良剤E7の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gのオリーブ油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E7として後述の実施例に使用した。
【0079】
(実施例8:食感改良剤E8の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gの亜麻仁油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E8として後述の実施例に使用した。
【0080】
(実施例9:食感改良剤E9の作製)
サフラワー油の代わりに10.0gのヤシ油を用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た。この分散体を食感改良剤E9として後述の実施例に使用した。
【0081】
(実施例10~18:ソーセージの作製)
実施例1~9で作製した食感改良剤E1~E9のいずれかを用いて、表1に示す組成にてソーセージを以下のようにして作製した。
【0082】
(ソーセージの作製方法)
(1)豚モモ肉(生肉)をミンサーで粗挽きにして粗挽き肉を調製し、原料肉とした;
(2)粗挽き肉、炭酸ナトリウム、水(氷)、および副原料をフードカッターに入れ、1分間混合した;
(3)上記(2)で得られた混合物に、食感改良剤E1~E9のいずれか1つを入れ、さらにフードカッターで40秒間混合してパティを得た;
(4)上記(3)で得られたパティをケーシングチューブに充填し、密封した;
(5)パティを充填したケーシングチューブを85℃にて40分間ボイル加熱した;そして
(6)30分間氷冷することで冷却した。
【0083】
食感改良剤E1~E9については、実施例1~9で調製された液状分散体を1時間氷冷して冷却し、粘稠な水飴状の液体を得た。この水飴状の液体を上記ソーセージの作製方法の(3)において入れた。
【0084】
食感改良剤E1~E9はいずれも、動物性油脂(ラード)100重量部に対して植物性油脂を100重量部の割合で含有した。実施例10~18では、原料肉100重量部に対し、食感改良剤36重量部(ラード18重量部および各植物性油脂18重量部)および炭酸ナトリウム0.18重量部を混合した。
【0085】
(実施例19:ソーセージの作製)
炭酸ナトリウムを用いなかったこと以外は実施例10と同様にしてソーセージを作製した。
【0086】
(比較例1:ソーセージの作製)
実施例1で作製した食感改良剤E1の代わりに20.0gのラード(固体状:原料肉100重量部に対して36重量部)を用い、かつ炭酸ナトリウムの代わりにピロリン酸四ナトリウム(リン酸塩)0.2g(原料肉100重量部に対して0.36重量部)を用いたこと以外は実施例10と同様にしてソーセージを作製した。
【0087】
(比較例2:ソーセージの作製)
実施例1で作製した食感改良剤E1の代わりに20.0gのラード(固体状:原料肉100重量部に対して36重量部)を用い、かつ炭酸ナトリウムを用いなかったこと以外は実施例10と同様にしてソーセージを作製した。
【0088】
【0089】
(ソーセージの評価方法)
実施例10~19および比較例1および2で得られたソーセージについて以下のようにして評価した。
【0090】
(歩留まり率の測定)
実施例10~19および比較例1および2で得られたソーセージの重量(加熱後重量)を測定し、加熱前重量(表1に示す各実施例および比較例の合計(重量部)に相当する)を100とした場合の割合を百分率で算出し、これを歩留まり率(%)とした。得られた結果を表2に示す。
【0091】
(官能評価)
パネリスト10名にて、上記ソーセージの作製方法の(6)の冷却後のソーセージを喫食し、その食感を硬さおよび弾力感の観点から各自が評価し、協議して結論づけた。硬さおよび弾力感は、歯ごたえの程度に基づきそれらの有無、または強く感じられたかもしくは弱く感じられたかを判断した。得られた結果を表2に示す。
【0092】
(結着性評価)
結着性評価について、歩留まり率と官能評価結果を総合して以下のように基準を設け、評価した。結着性不良なものは上記ソーセージの作製方法の(5)の加熱時に著しい離水が見られて歩留まり率が低く、結着性良好なものは保水性が高く、歩留まり率は高くなる傾向があることから、歩留まり率が90%未満のものもしくは官能評価において「硬さ、弾力感がない」と評価されたものは、「結着性が悪い」と判断した。歩留まり率が90%以上であるが、官能評価において「硬さ、弾力感が弱い」と評価されたものは、「結着性が弱い」と判断した。歩留まり率が90%以上でかつ官能評価において「硬さが弱く、弾力感がやや弱い」と評価されたものは、「結着性がやや弱い」と判断し、歩留まり率が90%以上でかつ官能評価において「硬さが弱く、弾力感がややある」と評価されたものは、「結着性がやや良好」と判断し、歩留まり率が90%以上でかつ官能評価において「硬さ、弾力感がある」もしくは「硬さが弱く、弾力感がある」と評価されたものは、「結着性が良好」と判断した。得られた結果を表2に示す。
【0093】
【0094】
表1および2から明らかなように、実施例1~9で作製したラードと植物性油脂との分散体で構成される食感改良剤E1~E9を用いた実施例10~19のソーセージはいずれも、弾力感や結着性の評価において多少の差異を生じているものの、比較例1のピロリン酸四ナトリウム(リン酸塩)を用いたソーセージと同等またはそれ以上、あるいはそれに類する結果を示していた。特に、ラードとともに、植物性油脂として、サフラワー油を用いたソーセージ(実施例10)、大豆油を用いたソーセージ(実施例11)、菜種油を用いたソーセージ(実施例14)、および亜麻仁油を用いたソーセージ(実施例17)が良好であった。
【0095】
ここで、表2において実施例10、実施例19、比較例1および比較例2との結果を対比した。実施例10および実施例19のソーセージは共に、ラードおよびサフラワー油の分散体で構成される食感改良剤E1を用いて作製した。実施例10のソーセージはさらにアルカリ塩である炭酸ナトリウムを含むのに対し、実施例19のソーセージはアルカリ塩を用いずに作製した。実施例19のソーセージは、食感改良剤またはリン酸塩を含まずアルカリ塩を含まないソーセージ(比較例2)と比べて、歩留まり率が高く、硬さ、弾力感および結着性がより良好なものとなった。アルカリ塩を含む実施例10のソーセージは、アルカリ塩を含まないソーセージ(実施例19)と比べて、より優れた食感改良効果が観察された。さらに、実施例10のソーセージは、リン酸塩が含有されていないにも関わらず、リン酸塩(ピロリン酸四ナトリウム)を含有させたソーセージ(比較例1)と同等またはそれ以上の弾力感かつ結着性を得ることができたことがわかる。
【0096】
(実施例20:食感改良剤E20の作製)
6.0gのラードと、14.0gのサフラワー油(ハイリノール)とを用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た(ラード100重量部に対してサフラワー油233重量部)。この分散体を食感改良剤E20として後述の実施例に使用した。
【0097】
(実施例21:食感改良剤E21の作製)
14.0gのラードと、6.0gのサフラワー油(ハイリノール)とを用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た(ラード100重量部に対してサフラワー油43重量部)。この分散体を食感改良剤E21として後述の実施例に使用した。
【0098】
(実施例22:食感改良剤E22の作製)
18.0gのラードと、2.0gのサフラワー油(ハイリノール)とを用いたこと以外は実施例1と同様にして均一な分散体を得た(ラード100重量部に対してサフラワー油11重量部)。この分散体を食感改良剤E22として後述の実施例に使用した。
【0099】
(実施例23~25:ソーセージの作製)
実施例1で作製した食感改良剤E1の代わりに、実施例20~22で作製した食感改良剤E20~E22を用いたこと以外は実施例10と同様にしてソーセージを作製した。実施例23では、原料肉100重量部に対し、食感改良剤36重量部(ラード10.8重量部およびサフラワー油25.2重量部)および炭酸ナトリウム0.18重量部を混合した。実施例24では、原料肉100重量部に対し、食感改良剤36重量部(ラード25.2重量部およびサフラワー油10.8重量部)および炭酸ナトリウム0.18重量部を混合した。実施例25では、原料肉100重量部に対し、食感改良剤36重量部(ラード32.4重量部およびサフラワー油3.6重量部)および炭酸ナトリウム0.18重量部を混合した。
【0100】
(比較例3:ソーセージの作製)
実施例1で作製した食感改良剤E1の代わりに20.0gのラード(固体状:原料肉100重量部に対して36重量部)を用いたこと以外は実施例10と同様にしてソーセージを作製した。
【0101】
得られたソーセージについて、上記と同様にして、歩留まり率、官能評価、および結着性の各評価を行った。対比のため、実施例10ならびに比較例1および2のそれぞれと同様にソーセージを作製して評価を行った。実施例23~25および比較例3で作製したソーセージの組成を、実施例10ならびに比較例1および2で作製したソーセージの組成とともに表3に示し、かつこれらの評価結果をまとめて表4に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
表3および4から明らかなように、実施例1および実施例20~22で作製したラードとサフラワー油との分散体で構成される食感改良剤E1およびE20~E22を用いたソーセージ(実施例10および実施例23~25)はいずれも、弾力感や結着性の評価において多少の差異を生じているものの、食感改良剤またはリン酸塩を含まずアルカリ塩を含まないソーセージ(比較例2)と比べて、歩留まり率が高く、硬さ、弾力感および結着性が改善され、比較例1のピロリン酸四ナトリウム(リン酸塩)を用いたソーセージと同等またはそれ以上、あるいはそれに類する結果を示していた。食感改良剤またはリン酸塩を含まずにアルカリ塩を含むソーセージ(比較例3)は、歩留まり率は高いものの、ソーセージとしての食感の改良効果がほとんど見られなかった。
【0105】
ここで、表4において実施例10と実施例23~25の結果を対比すると、使用した食感改良剤E1およびE20~E22のうち、特にラード100重量部に対してサフラワー油を100重量部~233重量部の範囲にある食感改良剤を用いた場合に、得られるソーセージの弾力感および結着性が特に優れたものであったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、例えば、食品添加剤および食品の製造分野、ならびに食品加工分野において有用である。