(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】アドミタンス制御を適用した駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20230322BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
G05B13/04
G05B13/02 A
(21)【出願番号】P 2020012828
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】515304190
【氏名又は名称】株式会社人機一体
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金岡 克弥
(72)【発明者】
【氏名】菊植 亮
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013067(WO,A1)
【文献】益山 健太郎(山梨大)・野田 善之(山梨大),モデル規範型アドミタンス制御による鑿切削の人工現実感の創出,第35回日本ロボット学会学術講演会 Proceedings of the 35th Annual Conference of the RSJ,第1-4ページ,日本,2017年09月11日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/04
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から与えられた目標駆動力指令に応じた駆動力を環境に対して作用させる駆動ユニットであって、
仮想相互作用力の影響を受ける第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータを記憶したパラメータ記憶装置と、
前記駆動力の計測結果を駆動力計測値として出力する力計測器と、
前記パラメータ記憶装置に記憶された前記第1仮想物体および前記第2仮想物体の動特性パラメータと、前記目標駆動力指令と、前記駆動力計測値とに応じて演算により求めた前記第1仮想物体の変位を出力するアドミタンスモデル演算装置と、
目標位置指令に追従して動作することにより前記環境に対して前記駆動力を作用させる位置制御駆動装置と、
を備え、
前記力計測器は、前記位置制御駆動装置と前記環境との間に配置され、
前記目標位置指令は、前記アドミタンスモデル演算装置から出力された前記第1仮想物体の変位に対応している
ことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項2】
前記位置制御駆動装置は、前記目標位置指令に追従して動作する単一軸の装置である
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動ユニット。
【請求項3】
外部から与えられた目標駆動力指令に応じた駆動力を環境に対して作用させる駆動ユニットであって、
仮想相互作用力の影響を受ける第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータを記憶したパラメータ記憶装置と、
前記駆動力の計測結果を駆動力計測値として出力する力計測器と、
前記パラメータ記憶装置に記憶された前記第1仮想物体および前記第2仮想物体の動特性パラメータと、前記目標駆動力指令と、前記駆動力計測値とに応じて演算により求めた前記第1仮想物体の速度を出力するアドミタンスモデル演算装置と、
目標速度指令に追従して動作することにより前記環境に対して前記駆動力を作用させる速度制御駆動装置と、
を備え、
前記力計測器は、前記速度制御駆動装置と前記環境との間に配置され、
前記目標速度指令は、前記アドミタンスモデル演算装置から出力された前記第1仮想物体の速度に対応している
ことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項4】
前記速度制御駆動装置は、前記目標速度指令に追従して動作する単一軸の装置である
ことを特徴とする請求項3に記載の駆動ユニット。
【請求項5】
前記パラメータ記憶装置に記憶された前記第1仮想物体および前記第2仮想物体の動特性パラメータは、外部からの変更が可能である
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の駆動ユニット。
【請求項6】
前記駆動力計測値は、前記アドミタンスモデル演算装置の前記演算において前記第1仮想物体の動特性にのみ直接的に作用し、
前記目標駆動力指令は、前記アドミタンスモデル演算装置の前記演算において前記第2仮想物体の動特性にのみ直接的に作用し、
前記第1仮想物体および前記第2仮想物体の動特性は、仮想相互作用力モデルが出力する前記仮想相互作用力のみを介して相互作用する
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の駆動ユニット。
【請求項7】
前記パラメータ記憶装置は、前記仮想相互作用力モデルの相互作用パラメータをさらに記憶し、
前記相互作用パラメータは、前記仮想相互作用力の上限値および下限値を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の駆動ユニット。
【請求項8】
前記パラメータ記憶装置は、前記仮想相互作用力モデルの相互作用パラメータをさらに記憶し、
前記仮想相互作用力モデルは、前記第1仮想物体および前記第2仮想物体の間に生じた相対変位または相対速度をゼロに収束させる機能を有し、
前記相互作用パラメータは、前記収束のパラメータを含む、
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の駆動ユニット。
【請求項9】
前記パラメータ記憶装置に記憶された前記仮想相互作用力モデルの相互作用パラメータは、外部からの変更が可能である
ことを特徴とする請求項6~請求項8のいずれか一項に記載の駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドミタンス制御を用いて位置制御駆動装置または速度制御駆動装置による力制御を可能とした駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動装置(アクチュエータ、またはそのインテグレーションとしてのロボット)が発生する力を制御するために、種々の制御手法が用いられている。例えば、駆動装置が位置制御または速度制御されており、かつ駆動装置が環境に作用させる駆動力を力計測器によって計測することができる場合は、アドミタンス制御と呼ばれる制御手法がよく用いられている。
【0003】
図10に、アドミタンス制御を適用した典型的な駆動ユニット100を示す。一般に、アドミタンス制御では、理想的な動特性をもつ仮想物体を想定し、力計測器106で計測した駆動力の情報に基づいて、アドミタンスモデル演算装置103(順運動学シミュレータ)で仮想物体の運動をシミュレートする。このとき、駆動装置111は、シミュレーション結果としての仮想物体の運動に追従するように位置制御器110によって位置制御される。この位置制御が十分に正確であれば、環境50からの外力に対する駆動装置111の反応は、仮想物体がもつ理想的な動特性に近いものとなる。すなわち、アドミタンス制御を用いれば、理想的な動特性に従った力制御を位置制御駆動装置104によって実現することができる。
【0004】
なお、アドミタンス制御において仮想物体を想定することは、例えば、特許文献1に記載されている。
【0005】
ところで、駆動装置111が一般的な回転モータであり、かつその出力側に減速機からなる伝達装置105が設けられている場合は、伝達装置105に存在する比較的大きな慣性および摩擦(駆動装置111に存在するものよりも大きな慣性および摩擦)により、いわゆるバックドライバビリティの低下が起きることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。バックドライバビリティの低下が起きると、駆動装置111は、環境50からの外力に対して滑らかに、あるいは柔らかく対応することが困難となる。
【0006】
この点、上記のアドミタンス制御によれば、最終出力軸となる伝達装置105の出力軸に力計測器106を設けてアドミタンス制御を適用し、仮想物体の動特性を低慣性かつ低摩擦に設定しさえすれば、伝達装置105のバックドライバビリティが低くても、環境50からの外力に対して低慣性かつ低摩擦な、高いバックドライバビリティを実現することができる。バックドライバビリティを高くすることができれば、駆動装置111の安全性が高まるとともに、環境50に対して駆動装置111が滑らかに順応することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】鈴森康一,“ロボットとアクチュエータのバックドライバビリティ”,日本ロボット学会誌,2013年7月,第31巻,第6号,p.548-551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高バックドライバビリティの実現のために仮想物体の慣性を低く設定し過ぎると、駆動力に対して仮想物体の加速度が過大となり、位置制御駆動装置104における位置制御が不安定化することがある。
【0010】
また、駆動ユニット100の用途によっては、低バックドライバビリティであることが好ましい場合もある。例えば、伝達装置105として高い減速比を有する減速機を含む駆動部102は、見掛けの機構慣性(すなわち、実際の駆動部102がもつ慣性)が比較的大きいが、この機構慣性に合うように仮想物体の慣性を設定しておけば、駆動装置111に負担がかかりにくくなるとともに、位置制御の安定性を高めることができる。
【0011】
さらに、仮想物体の摩擦を単純に小さくするのではなく、性質の良い摩擦(例えば、線形な粘性摩擦や理想的なクーロン摩擦)を導入することにより、(1)静止すべきときに駆動装置111がフラフラせずにしっかりと静止する、(2)動くべきときに駆動装置111が過大な速度になることなく滑らかに軽く動く、との機能を実現することもできる。
【0012】
このように、高バックドライバビリティおよび低バックドライバビリティには、それぞれ利点がある。しかしながら、単一の仮想物体のみを想定する従来のアドミタンス制御では、高バックドライバビリティの利点と低バックドライバビリティの利点とを両立させることは困難であった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高バックドライバビリティの利点と低バックドライバビリティの利点とを兼ね備えた駆動ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の駆動ユニットは、外部から与えられた目標駆動力指令に応じた駆動力を環境に対して作用させるものであって、仮想相互作用力の影響を受ける第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータを記憶したパラメータ記憶装置と、駆動力の計測結果を駆動力計測値として出力する力計測器と、パラメータ記憶装置に記憶された第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータと、目標駆動力指令と、駆動力計測値とに応じて演算により求めた第1仮想物体の変位を出力するアドミタンスモデル演算装置と、目標位置指令に追従して動作することにより環境に対して駆動力を作用させる位置制御駆動装置とを備え、力計測器は、位置制御駆動装置と環境との間に配置され、目標位置指令は、アドミタンスモデル演算装置から出力された第1仮想物体の変位に対応している、との構成を有している。
【0015】
上記第1の駆動ユニットの位置制御駆動装置は、例えば、目標位置指令に追従して動作する単一軸の装置である。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る第2の駆動ユニットは、外部から与えられた目標駆動力指令に応じた駆動力を環境に対して作用させるものであって、仮想相互作用力の影響を受ける第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータを記憶したパラメータ記憶装置と、駆動力の計測結果を駆動力計測値として出力する力計測器と、パラメータ記憶装置に記憶された第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータと、目標駆動力指令と、駆動力計測値とに応じて演算により求めた第1仮想物体の速度を出力するアドミタンスモデル演算装置と、目標速度指令に追従して動作することにより環境に対して駆動力を作用させる速度制御駆動装置とを備え、力計測器は、速度制御駆動装置と環境との間に配置され、目標速度指令は、アドミタンスモデル演算装置から出力された第1仮想物体の速度に対応している、との構成を有している。
【0017】
上記第2の駆動ユニットの速度制御駆動装置は、例えば、目標速度指令に追従して動作する単一軸の装置である。
【0018】
上記第1および第2の駆動ユニットのパラメータ記憶装置に記憶された第1仮想物体および第2仮想物体の動特性パラメータは、外部からの変更が可能であることが好ましい。
【0019】
上記第1および第2の駆動ユニットは、駆動力計測値がアドミタンスモデル演算装置の演算において第1仮想物体の動特性にのみ直接的に作用し、目標駆動力指令がアドミタンスモデル演算装置の演算において第2仮想物体の動特性にのみ直接的に作用し、かつ、第1仮想物体および第2仮想物体の動特性が仮想相互作用力モデルが出力する仮想相互作用力のみを介して相互作用する、との構成を有していてもよい。
【0020】
上記第1および第2の駆動ユニットのパラメータ記憶装置は、仮想相互作用力モデルの相互作用パラメータ(これには、仮想相互作用力の上限値および下限値が含まれる)をさらに記憶していてもよい。
【0021】
上記第1および第2の駆動ユニットの仮想相互作用力モデルは、第1仮想物体および第2仮想物体の間に生じた相対変位または相対速度をゼロに収束させる機能を有していてもよく、この場合、上記第1および第2の駆動ユニットのパラメータ記憶装置は、仮想相互作用力モデルの相互作用パラメータ(これには、上記収束のパラメータが含まれる)をさらに記憶していてもよい。
【0022】
上記第1および第2の駆動ユニットのパラメータ記憶装置に記憶された仮想相互作用力モデルの相互作用パラメータは、外部からの変更が可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高バックドライバビリティの利点と低バックドライバビリティの利点とを兼ね備えた駆動ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施例に係る駆動ユニットの模式的な実体図である。
【
図2】本発明の第1実施例に係る駆動ユニットのブロック線図である。
【
図3】本発明における第1仮想物体と第2仮想物体の関係を示す図である。
【
図4】本発明の第2実施例に係る駆動ユニットの模式的な実体図である。
【
図5】本発明の第2実施例に係る駆動ユニットのブロック線図である。
【
図6】本発明の第3実施例に係る駆動ユニットの模式的な実体図である。
【
図7】本発明の第3実施例に係る駆動ユニットのブロック線図である。
【
図8】本発明の変形例に係る駆動ユニットの模式的な実体図である。
【
図9】本発明の変形例に係る駆動ユニットのブロック線図である。
【
図10】従来の駆動ユニットのブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る駆動ユニットのいくつかの実施例について説明する。
【0026】
[第1実施例]
図1に、本発明の第1実施例に係る駆動ユニット10Aの模式的な実体図を示す。本実施例に係る駆動ユニット10Aは、外部から与えられた目標駆動力指令τ
dに応じた駆動力を環境に対して作用させるものであって、制御部20Aと、駆動部21Aとを備えている。
【0027】
制御部20Aは、マイクロプロセッサおよびこれに付随する揮発性/不揮発性のメモリ等を含んでいる。
【0028】
一方、駆動部21Aは、単一軸の回転モータからなる駆動装置41と、駆動装置41の変位を計測するとともに該計測の結果を位置計測値として出力する位置計測器42と、駆動装置41の出力軸に設けられた減速機からなる伝達装置34と、伝達装置34の最終端(最終出力軸)に設けられたトルクセンサからなる力計測器35とを含んでいる。力計測器35は、駆動ユニット10Aが環境に対して作用させる駆動力を計測するとともに該計測の結果を駆動力計測値τsとして出力する。駆動装置41は、制御部20Aから与えられる駆動電流によって位置制御される。
【0029】
なお、駆動装置41は、任意のアクチュエータまたは複数軸のロボットであってもよい。伝達装置34は、駆動装置41の内部駆動力を適切なかたちに変換して環境に伝達する任意のパワートレイン(クラッチ、トランスミッション、ドライブシャフト、リンク等)であってもよい。また、駆動装置41が並進系である場合、力計測器35は、力センサであることが好ましい。
【0030】
図2に、本実施例に係る駆動ユニット10Aのブロック線図を示す。同図に示すように、駆動ユニット10Aの制御部20Aは、パラメータ記憶装置30Aと、アドミタンスモデル演算装置31Aと、逆モデル演算装置32Aと、前述の駆動装置41および位置計測器42とともに位置制御駆動装置33Aを構成する位置制御器40とを含んでいる。位置制御駆動装置33Aは、目標位置指令に追従して動作する。
【0031】
アドミタンスモデル演算装置31Aは、目標駆動力指令τ
dおよび駆動力計測値τ
sに従って、式(1)~(3)からなる連立微分方程式を時間積分することにより、第1仮想物体および第2仮想物体の運動をシミュレートするように構成されている。
【数1】
【数2】
【数3】
ただし、
M,κ: 仮想物体総慣性,慣性分配率(0<κ<1)
D,γ: 仮想物体総粘性摩擦,粘性摩擦分配率(0<γ<1)
p
1,p’
1,p”
1: 第1仮想物体の変位,速度,加速度
p
2,p’
2,p”
2: 第2仮想物体の変位,速度,加速度
λ
R: 仮想相互作用力
である。
【0032】
仮想物体総慣性Mは、駆動部21Aの機構がもつ実際の総慣性に一致するように設定しておくことが、制御の安定性確保や機構への負担低減の観点から好ましい。ただし、いわゆるモデルベースト制御のようにモデル化誤差を気にする必要はなく、誤差があっても制御の安定性が確保できているなら問題はない。
【0033】
一方、仮想物体総粘性摩擦Dは、駆動部21Aの機構がもつ実際の総粘性摩擦に一致させる必要はない。ただし、粘性摩擦は、制御の安定性確保や位置決め性能の向上に影響するため、全体のバランスを見て適切に設定する必要がある。
【0034】
慣性分配率κおよび粘性摩擦分配率γの設定については、後で説明する。
【0035】
パラメータ記憶装置30Aは、第1仮想物体動特性パラメータおよび第2仮想物体動特性パラメータとして、仮想物体総慣性M、慣性分配率κ、仮想物体総粘性摩擦Dおよび粘性摩擦分配率γを記憶している。本実施例では、任意のタイミングでこれらを外部から変更することができる。
【0036】
なお、パラメータ記憶装置30Aは、M、κ、Dおよびγの代わりに、第1仮想物体動特性パラメータとしての第1仮想物体慣性M1(=κM)および第1仮想物体粘性摩擦D1(=γD)と、第2仮想物体動特性パラメータとしての第2仮想物体慣性M2(=(1-κ)M)および第2仮想物体粘性摩擦D2(=(1-γ)D)とを記憶していてもよい。これらのパラメータも、任意のタイミングで外部から変更可能であることが好ましい。
【0037】
図3に、第1仮想物体および第2仮想物体の関係を示す。同図から明らかなように、アドミタンスモデル演算装置31Aの演算において、第1仮想物体の動特性および第2仮想物体の動特性は分離されており、仮想相互作用力モデルが出力する仮想相互作用力λ
Rのみを介して相互作用するようになっている。また、アドミタンスモデル演算装置31Aの演算において、目標駆動力指令τ
dは第2仮想物体の動特性にのみ直接的に作用し、駆動力計測値τ
sは第1仮想物体の動特性にのみ直接的に作用するようになっている。
【0038】
再び
図2を参照する。逆モデル演算装置32Aは、アドミタンスモデル演算装置31Aの演算により求められた第1仮想物体の変位p
1(すなわち、駆動ユニット10Aの最終端変位)を逆演算により位置制御駆動装置33Aに対する目標位置指令q
dに変換する。
【0039】
より詳しくは、伝達装置34が減速機からなる本実施例では、位置制御駆動装置33Aの変位qと駆動ユニット10Aの最終端変位pとの間に式(4)に示した幾何学的関係があるので(ただし、n
rは減速機の減速比)、式(5)で表される伝達装置逆モデルを用いることにより、位置制御駆動装置33Aに対する目標位置指令q
dを得ることができる。
【数4】
【数5】
【0040】
つまり、逆モデル演算装置32Aは、伝達装置34の入出力間に式(6)に示した幾何学的関係(運動学)がある場合に、式(7)に示した逆演算(逆運動学)を行う。
【数6】
【数7】
【0041】
位置制御駆動装置33Aを構成する位置制御器40は、目標位置指令に従って駆動装置41を位置制御する。このとき、位置制御器40は、位置計測器42が出力する位置計測値を参照する。
【0042】
このように、本実施例に係る駆動ユニット10Aでは、力計測器35で計測した駆動力の情報(駆動力計測値τs)に基づいて、仮想相互作用力λRのみで繋がった2つの仮想物体(第1仮想物体および第2仮想物体)の運動がシミュレートされるとともに、第1仮想物体の運動に追従するように駆動装置41が位置制御される。したがって、駆動ユニット10Aによれば、分配率κ,γを適切に設定することにより、高バックドライバビリティの利点と低バックドライバビリティの利点とを両立させることができる。
【0043】
[第2実施例]
図4および
図5に、本発明の第2実施例に係る駆動ユニット10Bを示す。本実施例に係る駆動ユニット10Bは、制御部20Aの代わりに制御部20Bを備えている点と、駆動部21Aの代わりに駆動部21Bを備えている点とにおいて駆動ユニット10Aと相違している。
【0044】
制御部20Bは、逆モデル演算装置32Aの代わりに逆モデル演算装置32Bを備えている点と、位置制御器40の代わりに速度制御器43を備えている点とにおいて制御部20Aと相違しているが、他の点においては制御部20Aと共通している。
【0045】
一方、駆動部21Bは、位置計測器42の代わりに速度計測器44を備えている点において駆動部21Aと相違しているが、他の点においては駆動部21Aと共通している。
【0046】
逆モデル演算装置32Bは、アドミタンスモデル演算装置31Aの演算により求められた第1仮想物体の速度p’1を逆演算により速度制御駆動装置33Bに対する目標速度指令に変換する。
【0047】
速度制御駆動装置33Bを構成する速度制御器43は、目標速度指令に従って駆動装置41を速度制御する。このとき、速度制御器43は、速度計測器44によって計測された駆動装置41の速度(速度計測値)を参照する。
【0048】
本実施例に係る駆動ユニット10Bによれば、第1実施例と同様に、分配率κ,γを適切に設定することにより、高バックドライバビリティの利点と低バックドライバビリティの利点とを両立させることができる。
【0049】
[第3実施例]
図6および
図7に、本発明の第3実施例に係る駆動ユニット10Cを示す。本実施例に係る駆動ユニット10Cは、制御部20Aの代わりに制御部20Cを備えている点において駆動ユニット10Aと相違しているが、駆動部21Aを備えている点においては駆動ユニット10Aと共通している。
【0050】
制御部20Cは、パラメータ記憶装置30Aの代わりにパラメータ記憶装置30Cを備えている点と、アドミタンスモデル演算装置31Aの代わりにアドミタンスモデル演算装置31Cを備えている点とにおいて制御部20Aと相違しているが、他の点においては制御部20Aと共通している。
【0051】
アドミタンスモデル演算装置31Cは、目標駆動力指令τ
dおよび駆動力計測値τ
sに従って、前述の式(1),(2)および式(8),(9)からなる連立微分方程式を時間積分することにより、第1仮想物体および第2仮想物体の運動をシミュレートするように構成されている。
【数8】
ただし、
R
upper: 仮想相互作用力の上限値
R
lower: 仮想相互作用力の下限値
K
RP,K
RD: 仮想相互作用力モデルのゲイン
である。
【0052】
パラメータ記憶装置30Cは、第1仮想物体動特性パラメータおよび第2仮想物体動特性パラメータに加え、仮想相互作用力パラメータとして、仮想相互作用力の上下限値Rupper,Rlowerおよび仮想相互作用力モデルのゲインKRP,KRDを記憶している。これらのパラメータも、任意のタイミングで外部から変更可能であることが好ましい。
【0053】
本実施例に係る駆動ユニット10Cでは、以下に示す2つの機能が仮想相互作用力モデルに追加されている。
【0054】
まず、「仮想トルクリミッタ機能」について説明する。
【0055】
環境50からの外力がRlower以上Rupper以下であるときは、式(9)のλRPDがそのまま仮想相互作用力λRとなる。このとき、第1仮想物体および第2仮想物体は、該外力に対して一体となって運動するとみなすことができる。一方、Rupperを上回る外力、またはRlowerを下回る外力が加わると、第1仮想物体および第2仮想物体は相対運動する。言い換えると、第1仮想物体が第2仮想物体に対して滑る。
【0056】
本実施例では、第1実施例と同様、第1仮想物体の変位p1を逆演算したものを位置制御駆動装置33Aの目標位置指令とする。このため、第1仮想物体が第2仮想物体に対して滑ると、環境50側において、駆動ユニット10Cの最終出力軸が滑ったかのような感覚が得られる。そして、このとき、駆動部21Aを構成する機械部品に実際にかかるトルクは制限される。
【0057】
まとめると、本機能によれば、仮想相互作用力λRに上下限を設けたことにより、駆動部21Aを構成する機械部品(特に破損しやすい伝達装置34および力計測器35)にかかる負荷を一定値以下に抑え、これらの破損等を防ぐことができる。つまり、本実施例に係る駆動ユニット10Cによれば、ソフトウェア的にハードウェアを保護することができる。
【0058】
なお、駆動装置41が並進系である場合は、駆動部21Aを構成する機械部品に実際にかかる力が制限される。したがって、この場合は、本機能を「仮想力リミッタ」と称するべきである。
【0059】
続いて、「滑り回復機能」について説明する。
【0060】
仮想トルクリミッタ(仮想力リミッタ)が作動すると、第1仮想物体および第2仮想物体は相対運動する。本機能によれば、第1仮想物体および第2仮想物体の相対変位または相対速度をゼロに収束させることができる。言い換えると、本機能によれば、滑りにより生じたズレを回復することができる。
【0061】
この機能を実現するべく、本実施例では、式(9)に示した通りにλRPDを定める。これにより、第1仮想物体と第2仮想物体とが仮想的なバネダンパで接続されたことになり、上記の効果が得られる。収束の程度(強さ)は、ゲインKRP,KRDによって調整することができる。
【0062】
本実施例に係る駆動ユニット10Cによれば、第1実施例および第2実施例と同様に、高バックドライバビリティの利点と低バックドライバビリティの利点とを両立させることができる。
【0063】
慣性分配率κを比較的小さな0.1に設定することにより、第1仮想物体の慣性を0.1Mとし、かつ第2仮想物体の慣性を0.9Mとした一例を用いて、本実施例の作用効果についてさらに詳しく説明する。
【0064】
仮想トルクリミッタが作動していないときは、第1仮想物体および第2仮想物体が一体となって運動するので、環境50側では、駆動ユニット10Cの最終出力軸の慣性がM(=0.1M+0.9M)であるかのような感覚が得られる。このため、本実施例に係る駆動ユニット10Cによれば、このMを駆動部21Aがもつ実際の慣性に一致させておくことにより、駆動装置41に負担がかかるのを防ぎつつ、位置制御の安定性を高めることができる。すなわち、低バックドライバビリティの利点を得ることができる。
【0065】
一方、仮想トルクリミッタが作動しているとき、環境50側から見た最終出力軸の慣性は、最小で0.1Mまで低下する。このため、本実施例に係る駆動ユニット10Cによれば、駆動部21Aを構成する機械部品を過負荷から保護することができる。すなわち、高バックドライバビリティの利点を得ることができる。
【0066】
これまでに述べてきた通り、本発明では、分配率κ,γによって仮想物体総慣性Mおよび仮想物体総粘性摩擦Dを第1仮想物体および第2仮想物体に分配する。分配率κ,γは、仮想トルクリミッタが作動したときの挙動に影響し、分配率κ,γを小さくすればするほど過負荷に対する保護性能は向上する。しかしながら、分配率κ,γを小さくし過ぎると、仮想トルクリミッタが作動したときに位置制御駆動装置33Aにおける位置制御が不安定化することがある点に注意が必要である。
【0067】
[変形例]
以上、本発明に係る駆動ユニットの第1実施例~第3実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0068】
例えば、本発明の変形例に係る駆動ユニット10Dは、逆モデル演算部を含まない制御部20Dと、伝達装置を含まない駆動部21Dとを備えていてもよい(
図8および
図9参照)。この駆動ユニット10Dは、第3実施例に係る駆動ユニット10Cから逆モデル演算装置32Aと伝達装置34とを省略したものであるといえる。駆動ユニット10Dでは、アドミタンスモデル演算装置31Cの演算により求められた第1仮想物体の変位p
1が位置制御駆動装置33Aに対する目標位置指令となる。
【0069】
当然ながら、第1実施例に係る駆動ユニット10Aまたは第2実施例に係る駆動ユニット10Bから逆モデル演算部と伝達装置を省略することもできる。
【0070】
また、第1実施例に係る駆動ユニット10A、第2実施例に係る駆動ユニット10Bまたは変形例に係る駆動ユニット10Dに、仮想トルクリミッタ機能および滑り回復機能を付加してもよい。
【0071】
また、駆動装置41が位置計測値のフィードバックを必要としないタイプ(例えば、ステッピングモータ)である場合は、位置制御駆動装置33Aから位置計測器42を省略することができる。同様に、速度制御駆動装置33Bの速度計測器44も省略することができる場合がある。
【0072】
また、第1仮想物体の動特性は、式(1)に示したもので限定されず、クーロン摩擦(静止摩擦・動摩擦)、可動範囲制限等に関する項を含んでいてもよい。同様に、第2仮想物体の動特性も、式(2)に示したものに限定されない。
【0073】
また、仮想相互作用力モデルも、式(3),(8)に示したものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、大出力で、かつ高減速比な駆動部を、高い安全性と順応性で柔らかく力制御する場合に特に有益である。
【符号の説明】
【0075】
10A,10B,10C,10D 駆動ユニット
20A,20B,20C,20D 制御部
21A,21B,21D 駆動部
30A,30C パラメータ記憶装置
31A,31C アドミタンスモデル演算装置
32A,32B 逆モデル演算装置
33A 位置制御駆動装置
33B 速度制御駆動装置
34 伝達装置
35 力計測器
40 位置制御器
41 駆動装置
42 位置計測器
43 速度制御器
44 速度計測器
50 環境