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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】タマネギべと病発病リスクの判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20230322BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230322BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230322BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230322BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/06
C12N15/31
C12N15/53
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021024410
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126376
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2021-11-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、農林水産省、AIを活用した土壌病害診断技術の開発委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】西村 文宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 千晴
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】Jpn. J. Phytopathol., 2020年,Vol.86, No.1,p.65
【文献】Plant Disease, 2020年,Vol.104,p.3183-3191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場のタマネギべと病発病リスクの判定方法であって、
(1)圃場の土壌から得られたDNAを鋳型とし、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアを用いて、定量的PCRを行うこと、
(2)工程(1)によりCOXII遺伝子が増幅された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定すること、
を含み、
プライマーペアが、a)配列番号1のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、および、b)配列番号2のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
プローブとして、配列番号3のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドを使用する、方法。
【請求項2】
0.01~0.1gの土壌から得られたDNAを鋳型とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
土壌が、圃場の面積1~1000mに対して1箇所の割合で採取されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(2)において、土壌1g当たり1個以上のCOXII遺伝子が定量された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
a)配列番号1のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、および、b)配列番号2のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーペアを含み、プローブとして、配列番号3のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドを含む、圃場のタマネギべと病発病リスクを判定するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タマネギべと病発病リスクの判定方法およびそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
タマネギべと病は、タマネギの伝染病であり、発病株では光合成が阻害され、結球不良となり、大幅な収量の低下をもたらす。原因菌であるタマネギべと病菌(ペロノスポラ・デストラクター(Peronospora destructor))は、植物に感染後、成熟すると植物組織内に卵胞子を形成する。自然落葉や収穫作業などにより卵胞子を伴った罹病葉が土壌中に鋤きこまれ、越夏後、タマネギが圃場に播種または定植されると、土壌中の卵胞子は根を通じて全身感染し、一次伝染源となる。よって、生産現場では、タマネギべと病の予防のために、過剰な土壌消毒や薬剤散布が行われることがある。
【0003】
本願発明者らは、COXII遺伝子配列に基づいてタマネギべと病菌を特異的に検出できることを報告した(非特許文献1)。しかしながら、土壌中にどの程度の量の卵胞子が存在すればタマネギべと病の発症に至るのかは不明であり、生産現場では依然として過剰な土壌消毒や薬剤散布を行わざるを得ない。適切な栽培管理のために、タマネギべと病の発病リスクを判定する方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本植物病理学会報2020年86巻1号p.65、関西部会講演要旨
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、タマネギべと病発病リスクの判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、土壌中のタマネギべと病菌の卵胞子を高感度で検出することに成功し、土壌中にタマネギべと病菌の卵胞子が存在すると、それが非常に低密度であっても、タマネギべと病の発病リスクが高いことを見出した。
【0007】
従って、ある態様では、本開示は、圃場のタマネギべと病発病リスクの判定方法であって、
(1)圃場の土壌から得られたDNAを鋳型とし、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアを用いて、PCRを行うこと、および、
(2)工程(1)によりCOXII遺伝子が増幅された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定すること、
を含む方法を提供する。
【0008】
別の態様では、本開示は、a)配列番号1のヌクレオチド配列、または配列番号1において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド、および、b)配列番号2のヌクレオチド配列、または配列番号2において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドであるプライマーペアを含む、圃場のタマネギべと病発病リスクを判定するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、タマネギべと病の発病リスクを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】タマネギ栽培圃場の模式図である。土壌採取を行った場所を円で示す。
図2】タマネギべと病菌卵胞子を添加した土壌からの卵胞子回収試験の結果を示す。
図3】タマネギべと病菌卵胞子を添加した灰色低地土および黒ボク土からの卵胞子回収試験の結果を示す。
図4】タマネギべと病菌の菌密度および一次伝染株率を圃場別に示す。
図5】薬剤散布をしていない圃場について、タマネギべと病菌の菌密度および一次伝染株率を圃場別に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、生化学、分子生物学、微生物学、植物生理学、植物病理学、農学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0012】
<タマネギべと病発病リスクの判定方法>
本開示の方法の工程(1)では、圃場の土壌から得られたDNAを鋳型とし、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアを用いて、PCRを行う。
【0013】
典型的には、タマネギの栽培を予定している圃場から土壌を採取する。圃場は、過去にタマネギを栽培したことがあってもなくてもよい。タマネギ収穫後、かつ/または、タマネギを播種または定植する前の圃場から土壌を採取し得る。タマネギの播種または定植後に土壌を採取してもよい。土壌の種類は特に限定されず、黒ボク土、灰色低地土、赤・黄色土、褐色森林土、未熟土などであり得、特に、黒ボク土または灰色低地土、とりわけ灰色低地土である。
【0014】
土壌は、圃場の面積1~1000m、好ましくは5~500m、より好ましくは8~350mに対して1箇所の割合で採取する。1つの圃場につき、例えば1~20箇所、好ましくは5~15箇所、より好ましくは8~10箇所、例えば9箇所から土壌を採取する。複数の箇所で土壌を採取する場合、採取箇所間の距離が均等になるように採取することが好ましい。複数の箇所から採取した土壌を混合してもよい。DNAの抽出に用いる土壌の量は限定されず、例えば0.1~1g、好ましくは0.2~0.8g、より好ましくは0.3~0.5gの土壌を用いることができる。
【0015】
土壌に含まれる微生物からDNAを抽出するために、界面活性剤の使用、高温処理、凍結融解、またはビーズを用いた機械的破壊等、様々な方法が当分野で知られている。処理された試料から、マトリックス吸着、シリカ膜吸着、クロロホルム/イソプロパノール処理後のエタノール沈殿、ゲルろ過後のエタノール沈殿などの方法により、DNAを抽出し得る。例えば、農業環境技術研究所のPCR-DGGEマニュアルに従って土壌からDNAを抽出し得る。また、土壌からDNAを抽出するためのキット(例えば、Fast DNA SPIN Kit for soil(Q-BIOgene)、ISOIL for Beads Beating(NIPPON GENE)、Soil DNA Isolation kit(Norgen Biotek Corp.)が開発されており、いかなるキットを利用してもよい。DNAの抽出効率を高める物質、例えば、スキムミルクまたはRNAをDNA抽出用のバッファーに添加してもよい。土壌から抽出したDNAの全部または一部を使用して、例えば、0.01~0.1g、好ましくは0.03~0.09g、より好ましくは0.05~0.07gの土壌から得られるDNAを鋳型とし得る。
【0016】
タマネギべと病菌(ペロノスポラ・デストラクター(Peronospora destructor))は、タマネギべと病の原因となる糸状菌であり、世界各地に分布している。COXII(シトクロムCオキシダーゼサブユニット2)は、ミトコンドリア膜貫通タンパク質複合体を構成するサブユニットの1つである。タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアは、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計し得る。タマネギべと病菌のCOXII遺伝子の代表的なヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号KJ654195として登録されている。香川産のタマネギべと病菌から単離されたCOXII遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号4に示す。
【0017】
プライマーペアは、COXII遺伝子由来のPCR産物が増幅と定量に適する長さ、例えば、約30~1000、約40~500、約50~250または約60~150ヌクレオチド長を有するように設計し得る。PCRに適するプライマーの設計方法は当業者に周知である。
【0018】
プライマーペアは、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を、土壌中に存在し得る他の微生物のCOXII遺伝子に対して特異的に増幅するものが好ましく、特に、フィトフトラ・カクトラム(Phytophthora cactorum)、フィトフトラ・ニコチアネ(Phytophthora nicotianae)、フィトフトラ・グローバー(Phytophthora glovera)、フィトフトラ・ラクツカエ(Phytophthora pseudolactuae)、ピシウム・アンシヌラツム(Pythium uncinulatum)、ピシウム・ウリチマム(Pythium ultimum)、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)、フィトピシウム・ヘリコイデス(Phytopythium heliconides)、プラスモパラ・ハルステディイ(Plasmopara halstedii)、ブレミア・ラクツカエ(Bremia lactucae)、ペロノスポラ・ファリノーサ(Peronospora farinose)などの他の植物病原体のCOXII遺伝子を増幅しないものが好ましい。タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を特異的に増幅するプライマーペアは、土壌中に存在し得る各種微生物のCOXII遺伝子をアラインメントし、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子に特異的なヌクレオチド配列を選択することにより設計できる。アラインメントには、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)を利用し得る。
【0019】
例えば、プライマーペアは、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅できる、a)配列番号1のヌクレオチド配列、または配列番号1において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド、および、b)配列番号2のヌクレオチド配列、または配列番号2において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドであり得る。ある実施態様では、プライマーペアは、配列番号1のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドおよび配列番号2のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである。
【0020】
PCRのために、DNAポリメラーゼ、dNTP、バッファーなどの試薬は、当分野で通常用いられるものを用いることができ、各種試薬の量、反応時間、温度などの条件は、酵素に添付されている説明書の記載や通常用いられるプロトコール等の公知の手法により、適宜決定することができる。例えば、DNAポリメラーゼは分子生物学実験等に使用可能な公知の任意のDNAポリメラーゼ、例えば、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼ、KODポリメラーゼ、またはこれらの誘導体を使用し得る。
【0021】
PCR反応は、当分野において通常用いられるサーマルサイクラー、例えばタカラバイオTP600を用いて行うことができる。例えば、PCR反応は、次のサイクル条件で行うことができる:[50℃で5分間]を1回、[95℃で20秒間]を1回、次いで[95℃で3秒間、60℃で30秒間]のサイクルを40回反復する。
【0022】
PCRは、定量的PCR、例えば定量リアルタイムPCRであってもよい。定量リアルタイムPCRには、各種の蛍光PCR技術を用い得る。蛍光PCR技術としては、例えば、SYBR GREEN Iなどの蛍光性核酸標識剤を用いるインターカレーター法、DNAポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性を利用して増幅をリアルタイムでモニターするTaqManプローブ法、RNaseH酵素のRNase活性および専用のキメラRNAプローブを利用するサイクリングプローブ法などが挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
ある実施態様では、TaqManプローブ法により定量リアルタイムPCRを行う。一般的に、TaqManプローブ法では、5’末端を蛍光物質で、3’末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)をPCR反応系に加える。TaqManプローブは、COXII遺伝子由来のPCR産物のどちらの鎖に結合してもよく、どこに結合してもよく、当分野で周知の方法により設計し得る。また、任意の蛍光物質とクエンチャー物質の組み合わせを使用し得る。ある実施態様では、TaqManプローブは、配列番号3のヌクレオチド配列、または配列番号3において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドであり得る。ある実施態様では、TaqManプローブは、配列番号3のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである。
【0024】
定量リアルタイムPCRにおいて、既知濃度のDNAを含む標準液と未知濃度のDNA(検体)を同時に増幅し、横軸に増幅サイクル数、縦軸にレポーター色素の蛍光強度(対数変換値)をプロットした蛍光増幅曲線を作成してもよい。その場合、蛍光強度(対数変換値)が直線となる指数関数的増幅領域(定量領域)の中心付近に横軸と平行な線(crossing line)を引き、そのラインと増幅曲線の交点である増幅サイクル数を求め、横軸に各標準液の濃度(対数変換値)、縦軸に標準液の増幅サイクル数をプロットした標準曲線を作成し、この標準曲線上に検体の増幅サイクル数を当てはめることにより、検体のDNA濃度を算出し得る。
【0025】
工程(1)で用いた土壌にタマネギべと病菌の卵胞子が含まれていると、COXII遺伝子が増幅される。また、本願の実施例で立証される通り、土壌中にタマネギべと病菌の卵胞子が含まれていると、その密度が低くても、タマネギべと病が発病する可能性が高い。従って、本開示の方法の工程(2)では、工程(1)によりCOXII遺伝子が増幅された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定する。
【0026】
COXII遺伝子が増幅されたことは、公知のいかなる核酸検出方法を用いて判定してもよい。例えば、増幅後の核酸の電気泳動、検出可能な標識を結合させた核酸プローブを用いるハイブリダイゼーション法、インターカレーター性蛍光色素による二本鎖DNAの染色、蛍光プローブ法などにより、判定し得る。
【0027】
例えば、タマネギべと病菌のDNAを試料とし、プライマーペアとして配列番号1のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドおよび配列番号2のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを用いてPCRを行うと、通常、90bpの増幅産物が得られる。但し、同一種内での変異等により増幅産物のサイズは変動し得る。DNA増幅産物の配列を解読することにより、目的の配列が増幅されたか否かを確認してもよい。
【0028】
上記の通り、工程(1)において定量的PCRを行ってもよく、その場合、例えば、土壌1g当たり1個以上のCOXII遺伝子が定量された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定し得る。
【0029】
<タマネギべと病発病リスクを判定するためのキット>
ある態様では、本開示は、上記の方法を実施するために使用し得るキットを提供する。キットは、少なくとも、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアを含む。キットは、さらに、定量的PCR用のプローブを含んでもよい。プライマーペアおよびプローブの詳細は上記の通りである。
【0030】
キットは、さらに、標準品、例えば、既知量のタマネギべと病菌DNAを含み得る。キットは、さらに、上記の方法の実施に必要な試薬、例えば、PCR用のDNAポリメラーゼ、dNTP、バッファーなどを含んでもよい。キットは、さらに、使用のための説明を含む添付文書(例えば、書面または記憶媒体等)等の、商業的見地および使用者の見地から望ましいその他の構成要素を含んでもよい。
【0031】
キットに含まれる各構成要素は、各々別個に、あるいは可能であれば混合した状態で、水または適当な緩衝液中に溶解されるか、または凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容されて提供され得る。好適な容器には、ボトル、バイアル、試験管、チューブ、プレート、マルチウェルプレート等が含まれる。容器は、ガラス、プラスチック、金属などの多様な材料から形成されていてよい。容器は、ラベルを有していてもよい。
【0032】
例えば、下記の実施態様が提供される。
[1]圃場のタマネギべと病発病リスクの判定方法であって、
(1)圃場の土壌から得られたDNAを鋳型とし、タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアを用いて、PCRを行うこと、および、
(2)工程(1)によりCOXII遺伝子が増幅された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定すること、
を含む方法。
[2]プライマーペアが、a)配列番号1のヌクレオチド配列、または配列番号1において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド、および、b)配列番号2のヌクレオチド配列、または配列番号2において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである、第1項に記載の方法。
[3]プライマーペアが、配列番号1のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドおよび配列番号2のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである、第1項または第2項に記載の方法。
[4]0.01~0.1gの土壌から得られたDNAを鋳型とする、第1項~第3項のいずれかに記載の方法。
[5]土壌が、圃場の面積1~1000mに対して1箇所の割合で採取されたものである、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
[6]土壌が、1つの圃場につき、1~20箇所から採取されたものである、第1項~第5項のいずれかに記載の方法。
[7]土壌が黒ボク土または灰色低地土である、第1項~第6項のいずれかに記載の方法。
[8]土壌が黒ボク土である、第1項~第7項のいずれかに記載の方法。
[9]土壌からDNAを抽出する工程をさらに含む、第1項~第8項のいずれかに記載の方法。
[10]DNA抽出にスキムミルクを使用する、第9項に記載の方法。
【0033】
[11]PCRが定量的PCRである、第1項~第10項のいずれかに記載の方法。
[12]プローブとして、配列番号3のヌクレオチド配列、または配列番号3において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを使用する、第11項に記載の方法。
[13]プローブとして、配列番号3のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを使用する、第11項または第12項に記載の方法。
[14]工程(2)において、土壌1g当たり1個以上のCOXII遺伝子が定量された場合に、圃場のタマネギべと病発病リスクが高いと判定する、第11項~第13項のいずれかに記載の方法。
【0034】
[15]タマネギべと病菌のCOXII遺伝子を増幅するプライマーペアを含む、圃場のタマネギべと病発病リスクを判定するためのキット。
[16]プライマーペアが、a)配列番号1のヌクレオチド配列、または配列番号1において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド、および、b)配列番号2のヌクレオチド配列、または配列番号2において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである、第15項に記載のキット。
[17]プライマーペアが、配列番号1のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドおよび配列番号2のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである、第15項または第16項に記載のキット。
[18]定量的PCR用のプローブをさらに含む、第15項~第17項のいずれかに記載のキット。
[19]プローブが、配列番号3のヌクレオチド配列、または配列番号3において1個、2個もしくは3個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである、第18項に記載のキット。
[20]プローブが、配列番号3のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドである、第18項または第19項に記載のキット。
【0035】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、本発明は添付の特許請求の範囲において定義され、その技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。以下、実施例にて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例
【0036】
1)供試菌株
供試した病原菌を表1に示す。
【表1】
【0037】
2)PCRプライマーおよびTaqMan MGBプローブの設計
香川県内タマネギ圃場からべと病菌を分離し、COXIIのヌクレオチド配列を決定した(配列番号4)。この配列は、GenBankアクセッション番号KJ654195として登録されているドイツ産タマネギベと病菌のCOXIIの配列と99.82%同一であった。この配列に基づいて、qPCR用プライマー及びTaqManプローブを作成した(表2)。
【表2】
【0038】
3)DNA抽出
プライマー及びプローブの特異性評価において、改変塩化ベンジル法を用いて、DNA抽出を行った。2.0mlチューブに80μlの20%(w/v)のスキムミルク、250μlの抽出バッファー(10ml 1M TrisHCl pH9.0、8ml 0.5M EDTA、82ml 蒸留水)、50μlの10%SDS、150μlの塩化ベンジル、直径1mm 0.2gのガラスビーズを加えた。その後、タマネギべと病菌及びレタスベと病菌は罹病葉の蒸留水懸濁液0.4ml、その他の菌株はPDA培地上で生育させた菌糸を培地ごと5mm角に切り取った断片を加えた。シェイクマスター(bms製)により、1,100rpmで3分間処理し、60℃のヒートブロックで15分間静置し、150μlの3M酢酸ナトリウムpH5.2を加え、4℃の冷蔵庫に15分間静置し、遠心分離(15,000rpm 10min. 4℃)後、300μlの上清を回収した。以後は MagExtracter (TOYOBO) のマニュアルに従った。すなわち、上清300μlに対して、吸着液600μlと磁気ビーズ40μlを加えて、1分間ボルテックスを行った。磁気スタンド (Magical Trapper(TOYOBO)) にセットし、5回転倒混和後30秒間静置し、その後上清を除去した。70%エタノール900μlを加えて、10秒間ボルテックスを行った後、磁気スタンドにセットし、5回転倒混和後30秒間静置して上清を除去した。遠心分離(15,000rpm、1min. 25℃)後、磁性スタンドにセットして30秒後、エタノールを200μlピペットで除去した。エバポレーターで乾燥後、TE50μlを加えてボルテックス後、磁気スタンドにセットして、底にあるDNA抽出液をテンプレートとした。
【0039】
土壌からのDNA抽出は、農業環境技術研究所のPCR-DGGEマニュアルに基づいて行った。すなわち、0.4gの土壌を入れたキットチューブに818μlのリン酸バッファー、122μlのMTバッファー、80μlの20%(w/v)スキムミルクを添加し、シェイクマスター(bms製)により、1,100rpmで3分間処理した。14,000xGで1分間遠心し、上清を新しい1.5mlチューブに移した。250μlのPPSを加え、転倒混和後、上清を14,000xGで5分間遠心し、上清を新しい15mlチューブに移し、1mlのBinding Matrix Suspensionを添加して混和後、14,000xGで5分間遠心し、上清を500μl除去した。Binding Matrix Suspensionを再懸濁して、600μlをSPIN Filterに移し、14,000xGで1分間遠心し、流下液を捨て、残りのBinding Matrix Suspensionを再懸濁して前述と同様にSPIN Filterに移して回収した。回収したBinding Matrixに500μlのSEWS-Mを加え14,000xGで1分間遠心し、流下液を捨てたのち、再度14,000xGで2分間遠心し、SPIN Filterをキャッチチューブに載せ替えた。Matrixを風乾した後、60μLのDESを加えて穏やかに懸濁後、14,000xGで1分間遠心してDNAテンプレートとした。
【0040】
4)遺伝子の増幅および検出
DNA増幅は TaqMan Environmental Master Mix(Life Technologies)を用いて行った。8.8μlのDNA抽出液をテンプレートとして、10μlの2×Fast Advanced Master Mix、0.4μMの各プライマー及びプローブを用いて20μlの反応系で反応させた。反応条件は、50℃ 5分間、95℃ 20秒間、(95℃ 3秒間、60℃ 30秒間)×40回であった。サーマルサイクラーおよび検出器はタカラバイオTP600を用いた。スタンダードは、タマネギべと病菌卵胞子懸濁液を土壌に添加後、前述の方法で抽出したテンプレートDNAを蒸留水で段階希釈したものを用いた。
【0041】
5)土壌からの卵胞子添加回収試験
既報に基づき、植物体から卵胞子を抽出して供試した。タマネギべと病発病葉表面を水道水で洗浄後、蒸留水を加えながら250μmメッシュにこすりつけ、50μmメッシュおよび20μmメッシュでろ過した。20μmメッシュ上を蒸留水で懸濁して卵胞子懸濁液を得た。タマネギ類の作付け歴の無い香川県農業試験場内米麦連作圃場の土壌(灰色低地土)および茨城県つくば市の圃場土壌(黒ボク土)を採取し、風乾後、2mmメッシュを通し十分に乾燥させた。2mlのチューブに0.4gの上記土壌を入れ、濃度調整した卵胞子懸濁液(2.0×10~2.0×10個/ml)を100μl添加し、菌密度が5~5×10個/g乾土相当の土壌サンプルとした。
【0042】
6)タマネギ栽培圃場の解析
2019年11~12月、県内66圃場(75~4116m)について定植前又は定植直後に土壌を採取した。土壌は1圃場あたり9箇所から均等に採取し、1つにまとめて1サンプルとした(図1)。風乾後2mmで篩った土壌を用いて、前述の通りに卵胞子密度を測定した。2020年3~4月、圃場あたり約10,000株について1次伝染株と2次伝染株に分けて発病株数を調査した。
【0043】
3.結果と考察
1)PCRおよびTaqManMGBプローブの特異性
供試した卵菌類6属12種の菌株のうち、タマネギべと病菌においてのみDNAの増幅が見られ、90bpの増幅産物が得られた(表3)。また、PCR増幅産物のヌクレオチド配列を決定し、タマネギべと病菌由来であることを確認した(データ示さず)。このことから、プライマー及びプローブがタマネギべと病菌に特異的であることが担保された。
【0044】
【表3】
【0045】
2)添加回収試験
香川県農業試験場内のタマネギ作付履歴の無い土壌にタマネギべと病菌卵胞子を添加して抽出したDNA抽出液を段階希釈して定量を行ったところ、R=0.99の高い回帰性が見られ、0.5個/g乾土相当の検量線が得られた(図2)。
【0046】
様々な土壌での適応性を確認するため、香川県の灰色低地土及び茨城県の黒ボク土を用いて、添加回収試験を行った。土壌に添加したタマネギべと病菌卵胞子濃度に応じた立ち上がりが見られ、灰色低地土、黒ボク土ともにR=0.99の高い回帰性が見られ、5個/g乾土相当まで検出された(図3)。
【0047】
3)qPCRによるタマネギ栽培圃場の解析
タマネギ圃場での適応性確認のため、香川県内66箇所のタマネギ圃場から採取した土壌を用いて菌密度を測定した。最大で5.7個/g乾土の圃場が1つあったが、残りは全て1.2個/g乾土以下の低い菌密度であった(図4)。富山県および長崎県の圃場でも同様に調査したところ、富山県では最大60個/g、長崎県では最大90個/gであり(データ示さず)、香川県の菌密度は低かった。卵胞子は湛水処理に弱く、香川県ではタマネギ収穫後、水稲を行う作型が一般的であることから、他県と比較して卵胞子密度が低いものと推察された。
【0048】
収穫後、卵胞子陽性と判定された圃場のうち、一次伝染株発病圃場は5枚、非発病圃場は10枚であった。卵胞子陰性と判定された圃場のうち、発病圃場は3枚、非発病圃場は48枚であった。陽性適中率33.3、陰性適中率94.1、感度62.5、特異度82.8を示した(表3)。
【0049】
【表4】
【0050】
陰性適中率と比較して陽性適中率が大幅に低く算出された要因として、圃場での薬剤散布により発病が抑えられたことが考えられる。圃場に一次伝染株が1つでもあると大量の分生子を周辺に飛散させること、一次伝染株の陰性適中率が94.1と高いことから、土壌中の菌密度を用いたリスク評価には、定量検定よりも定性検定を用いる方が望ましいと考えられる。
【0051】
薬剤散布をしていない圃場のデータを同様に解析すると、陽性適中率、陰性適中率、感度、特異度は100%であった(表4および図5)。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示は、タマネギべと病の発症リスクの判定に関するものであり、農業の分野で利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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