(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】細胞培養用組成物の製造方法、それにより得られる細胞培養用組成物及びそれを用いた細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20230322BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20230322BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20230322BHJP
C12N 1/12 20060101ALN20230322BHJP
C12R 1/89 20060101ALN20230322BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N1/00 F
C12N5/07
C12N5/02
C12N1/12 Z
C12R1:89
(21)【出願番号】P 2021551465
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037471
(87)【国際公開番号】W WO2021066113
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019181336
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「藻類抽出液を栄養素として培養した動物細胞を用いた立体筋組織の作製と評価」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】原口 裕次
(72)【発明者】
【氏名】朝日 透
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕太
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-022331(JP,A)
【文献】特表2014-509252(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208747(WO,A1)
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7:41594,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養用組成物の製造方法であって、
以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程;及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を中和し、藻類抽出物を得る工程;
(3)前記藻類抽出物を細胞培養用培地と混合する工程であって、前記細胞培養用培地はL-グルタミンを実質的に含まないものである、
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記細胞培養用培地は、さらに、L-アルギニン、L-シスチン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンからなる群から1又は複数選択されるアミノ酸を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞培養用培地が、ビタミン類を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養用培地が、グルコースを実質的に含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞培養用培地が、無機塩培地である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
培養される細胞が、動物細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記藻類が、単細胞藻類である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記藻類が、単細胞性の緑藻類、単細胞性の藍藻類、単細胞性の紅藻類、単細胞性の車軸藻類及び単細胞性のアオサ藻網からなる群から1以上選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記藻類が、クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)、スティココックス属(Stichococcus sp.)、クロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)からなる群から1以上選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(1)が、加圧下において実施される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(1)が、60℃~200℃で実施される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により得られる細胞培養用組成物を用いる、細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用組成物の製造方法、それにより得られる細胞培養用組成物、及びそれを用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類細胞は医学、薬学、科学技術、農学、獣医学等といった様々な研究・産業分野において利用されている。研究は病因を解明し、それらの治療法の開発に至った。様々な疾患の治療/予防のために、細胞により生産されたバイオ医薬やワクチンが利用されている。更に、培養細胞は、細胞生物学、生化学、遺伝学、生理学、分子生物学等といった基礎的学術分野の進展にも大きく貢献した。より最近になって、培養した筋細胞が「培養肉」の細胞源として利用されている。「培養肉」のタンパク質生産効率は従来の家畜飼育による生産に比べはるかに効率的であり、食肉生産を従来の家畜飼育によるものから培養肉生産システムに変えることで、最大で99%の土地利用、96%の水消費、96%の温室効果ガス排出、45%のエネルギー消費を削減できるとの報告もある。そのため今後培養細胞を用いた食肉生産が持続可能な食料生産システムとして世界的に広がってくると考えられている。将来、食料としての培養哺乳類細胞の使用により、莫大な量の細胞が必要になるであろう。
【0003】
哺乳類細胞の培養には培地が不可欠であり、大量の培地が細胞研究に用いられる。培地は様々な栄養素を含むが、主なものはグルコースとアミノ酸である。それらの栄養素は一般に穀物や従属栄養微生物に由来し、それらの微生物も穀物に由来する様々な栄養素を必要とする。穀物の栽培は多くの化学肥料と農薬を必要とし、莫大な量のエネルギーを要し、温室効果ガス(GHG)の発生と環境汚染を引き起こす恐れがある。逆に、穀物生産は地球温暖化や環境汚染などの環境変化により大きく影響を受ける。
【0004】
現在のところ、150,000種以上の藻類がAlgaeBase(http://www.algaebase.org/)に登録されており、この数は日々更新されている。種の多様性のため、藻類の形質は多岐にわたり、純水か海水のいずれか又はその両方の環境で生育する種から、好塩基性及び好アルカリ性種にまで及ぶ。それらの特徴に応じ、多様な用途が現在開発されつつある。その中には、微細藻類の窒素同化能を利用する排液処理や、化石燃料の燃焼から発生する二酸化炭素ガスの固定が含まれる(非特許文献1~3)。
【0005】
微細藻類は、炭水化物(糖類)や脂質をはじめとする栄養素を光合成により二酸化炭素から合成し、窒素ガス/アンモニア/硝酸塩を使ってアミノ酸を産生する。微細藻類は太陽エネルギーと無機物を利用することによって様々な栄養素を生産する。微細藻類によって生産されたそれらの栄養素は、エネルギー及び食品産業分野において精力的に利用される。例えば、微細藻類から抽出された脂質は、石油に代わる代替エネルギーとして期待されている(非特許文献4)。その上、微細藻類から抽出されたグルコースは、バイオエタノールを生産する酵母の栄養素として利用されている(非特許文献5~6)。更に、微細藻類により生産されたアミノ酸を含む栄養素は、栄養補助食品、ペットフード、土壌用の肥料として利用されている(非特許文献7~10)。微細藻類は、ほとんど残留物なく最も効率的に栄養素を合成する光合成生物であると一般に考えられている(非特許文献11)。
【0006】
インビトロにおいて細胞を培養するためには、アミノ酸、ビタミン、ミネラル等を含む合成培地に加えて、多くの場合は、牛の胎児、ウシの新生児、馬、ニワトリ、ウサギ等の血清が必要とされている。血清には増殖因子などの細胞の増殖に必要な因子が含まれており、これらが細胞の増殖に不可欠となる場合が多い。しかしながら、血清は、ロット毎に品質が異なっており、安定しておらず、高価であるなどの課題を抱えており、これらを代替する物質が求められていた。そのような課題に対して、特許文献1及び2では、微細藻類の抽出物が、細胞培養において、血清の機能を一部代替し得ることが記載されている。しかしながら、微細藻類の抽出物が、細胞培養に必須であるアミノ酸(特に、グルタミン等)やビタミン等の成分を含まない合成培地(例えば、無機塩培地)との混合によって、細胞を培養し得るかについては全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭57-65179号
【文献】特開昭57-206384号
【非特許文献】
【0008】
【文献】L. Wang, M. Min, Y. Li, P. Chen, Y. Chen, et al., Cultivation of green algae Chlorella sp. in different wastewaters from municipal wastewater treatment plant. Appl. Biochem. Biotechnol. 162 (2010) 1174-1186.
【文献】F. Rossi, E.J. Olguin, L. Diels, R. De Philippis, Microbial fixation of CO2 in water bodies and in drylands to combat climate change, soil loss and desertification. N. Biotechnol. 32 (2015) 109-120.
【文献】J. Cheng, Y. Zhu, Z. Zhang, W. Yang, Modification and improvement of microalgae strains for strengthening CO2 fixation from coal-fired flue gas in power plants. Bioresour. Technol. (2019) doi: 10.1016/j.biortech.2019.121850.
【文献】I. Ajjawi, J. Verruto, M. Aqui, L.B. Soriaga, J. Coppersmith, et al., Lipid production in Nannochloropsis gaditana is doubled by decreasing expression of a single transcriptional regulator. Nat. Biotechnol.35 (2017) 647-652.
【文献】S.H. Ho, S.W. Huang, C.Y. Chen, T. Hasunuma, A. Kondo, et al., Bioethanol production using carbohydrate-rich microalgae biomass as feedstock. Bioresour. Technol. 135 (2013) 191-198.
【文献】G.E. Lakatos, K. Ranglova, J.C. Manoel, T. Grivalsky, J. Kopecky, et al., Bioethanol production from microalgae polysaccharides. Folia Microbiol. (Praha). (2019) doi: 10.1007/s12223-019-00732-0.
【文献】S. McCusker, P.R. Buff, Z. Yu, A.J Fascetti, Amino acid content of selected plant, algae and insect species: a search for alternative protein sources for use in pet foods. J. Nutr. Sci. 3 (2014) e39.
【文献】G. Gutierrez-Salmean, L. Fabila-Castillo, G. Chamorro-Cevallos, Nutritional and toxicological aspects of Spirulina (Arthrospira). Nutr. Hosp. 32 (2015) 34-40.
【文献】E.T. Alori, O.O. Babalola, Microbial inoculants for improving crop quality and human health in Africa. Front. Microbiol. 9 (2018) 2213.
【文献】M.I. Khan, J.H. Shin, J.D. Kim, The promising future of microalgae: current status, challenges, and optimization of a sustainable and renewable industry for biofuels, feed, and other products. Microb. Cell Fact.17 (2018) 36.
【文献】A.K. Singh, M.P. Singh, Importance of algae as a potential source of biofuel. Cell Mol. Biol. (Noisy-le-grand). 60 (2014) 106-109.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、環境負荷と環境変化への影響のリスクを減らす新規細胞培養系を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、驚くべきことに、微細藻類から抽出された栄養素を添加した培地(例えば、アミノ酸及び/又はビタミン類を含有しない培地)において、細胞を培養可能であることを見出した。すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
【0011】
[1] 藻類由来の成分を含む細胞培養用組成物であって、
前記成分が、以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程、及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を、中和する工程、
を含む工程により得られることを特徴とする、組成物。
[2] 前記細胞が、動物細胞である、項目1に記載の組成物。
[3] 前記藻類が、単細胞藻類である、項目1又は2に記載の組成物。
[4] 前記藻類が、単細胞性の緑藻類、単細胞性の藍藻類、単細胞性の紅藻類、単細胞性の車軸藻類及び単細胞性のアオサ藻網からなる群から1以上選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 前記藻類が、クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)、スティココックス属(Stichococcus sp.)、クロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)からなる群から1以上選択される、項目1~4のいずれか1項に記載の組成物。
[6] 前記工程(1)が、加圧下において実施される、項目1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 前記工程(1)が、60℃~200℃で実施される、項目1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 藻類由来の成分を含む細胞培養用組成物を添加した培地において、細胞を培養する方法であって、
前記成分が、以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程、及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を、中和する工程、
を含む工程により得られることを特徴とする、方法。
[9] 前記細胞が、動物細胞である、項目8に記載の方法。
[10] 前記藻類が、単細胞藻類である、項目8又は9に記載の方法。
[11] 前記藻類が、単細胞性の緑藻類、単細胞性の藍藻類、単細胞性の紅藻類、単細胞性の車軸藻類及び単細胞性のアオサ藻網からなる群から1以上選択される、項目8~10のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記藻類が、クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)、スティココックス属(Stichococcus sp.)、クロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)からなる群から1以上選択される、項目8~11のいずれか1項に記載の方法。
[13] 前記工程(1)が、加圧下において実施される、項目8~12のいずれか1項に記載の方法。
[14] 前記工程(1)が、60℃~200℃で実施される、項目8~13のいずれか1項に記載の方法。
【0012】
[15] 細胞培養用組成物の製造方法であって、
以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程;及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を中和し、藻類抽出物を得る工程;
(3)前記藻類抽出物を細胞培養用培地と混合する工程であって、前記細胞培養用培地はL-グルタミンを実質的に含まないものである、
を含む、前記製造方法。
[16] 前記細胞培養用培地は、さらに、L-アルギニン、L-シスチン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンからなる群から1又は複数選択されるアミノ酸を実質的に含まない、項目15に記載の方法。
[17] 前記細胞培養用培地が、ビタミン類を実質的に含まない、項目15又は16に記載の方法。
[18] 前記細胞培養用培地が、グルコースを実質的に含まない、項目15~17のいずれか1項に記載の方法。
[19] 前記細胞培養用培地が、無機塩培地である、項目15~18のいずれか1項に記載の方法。
[20] 培養される細胞が、動物細胞である、項目15~19のいずれか1項に記載の方法。
[21] 前記藻類が、単細胞藻類である、項目15~20のいずれか1項に記載の方法。
[22] 前記藻類が、単細胞性の緑藻類、単細胞性の藍藻類、単細胞性の紅藻類、単細胞性の車軸藻類及び単細胞性のアオサ藻網からなる群から1以上選択される、項目15~21のいずれか1項に記載の方法。
[23] 前記藻類が、クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)、スティココックス属(Stichococcus sp.)、クロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)からなる群から1以上選択される、項目15~22のいずれか1項に記載の方法。
[24]
前記工程(1)が、加圧下において実施される、項目15~23のいずれか1項に記載の方法。
[25] 前記工程(1)が、60℃~200℃で実施される、項目15~24のいずれか1項に記載の方法。
[26] 項目15~25のいずれか1項に記載の方法により得られる、細胞培養用組成物。
[27] 項目15~25のいずれか1項に記載の方法により得られる細胞培養用組成物を用いる、細胞の培養方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、細胞の培養に必要な栄養素を微細藻類から容易に抽出可能であり、安価であり、かつ環境負荷を低減させる新たな細胞培養系を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】微細藻類からのグルコース抽出。(A)グルコースはオートクレーブ条件により緑藻クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)から効率的に抽出された。データは平均±SD(n=3~6)として表した。
【
図1B】微細藻類からのグルコース抽出。(B)グルコースは6種の微細藻類の中でも2つの微細藻類(Chlorococcum littorale及びArthrospira platensis)からより効率的に抽出された(硫酸規定度:0.36N;反応温度:130℃;反応時間:20分)。データは平均±SD(n=3~6)として表した。DMEM:10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改良イーグル培地。
【
図1C】微細藻類からのグルコース抽出。(C)初期藻類濃度に依存して高グルコース収率が得られた(硫酸規定度:0.36N;反応温度:130℃;反応時間:20分)。データは平均±SD(n=3~6)として表した。DMEM:10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改良イーグル培地。
【
図2A】微細藻類からのアミノ酸抽出。(A)大部分のアミノ酸が1N塩酸、100℃で24時間によりChlorococcum littoraleから最も効率的に抽出された。データは平均±SD(n=3~7)として表した。DMEM:10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改良イーグル培地。
【
図2B】微細藻類からのアミノ酸抽出。(B)大部分のアミノ酸が6種の微細藻類の中でもChlorella vulgaris Beijerinskから最も効率的に抽出された(塩酸規定度:1N;反応温度100℃;反応時間:24時間)。データは平均±SD(n=3~4)として表した。DMEM:10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改良イーグル培地。
【
図2C】微細藻類からのアミノ酸抽出。(C)初期藻類濃度に依存して高アミノ酸収率が得られた(塩酸規定度:1N;反応温度:100℃;反応時間:24時間)。データは平均±SD(n=3~4)として表した。DMEM:10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改良イーグル培地。
【
図3】哺乳類細胞培養に対するグルタミンとグルタミン酸の効果。C2C12マウス筋芽細胞を、グルコース(最終濃度:25mM)/グルタミン(最終濃度:4mM)含有哺乳類細胞培地により、又はグルコース(最終濃度:25mM)もしくはグルコース/グルタミン酸(最終濃度:4mM)の添加を伴う/伴わない、グルコース/グルタミン不含有培地により培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=7)として表した。
【
図4A】栄養素欠損培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。(A)C2C12マウス筋芽細胞を、Chlorococcum littorale(C.littorale)からの抽出物の添加を伴う/伴わない、グルコース不含有の哺乳類細胞培地中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=3~12)として表した。
【
図4B】栄養素欠損培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。(B)C2C12マウス筋芽細胞を、Chlorococcum littorale(C.littorale)からの抽出物の添加を伴う/伴わない、グルコース/アミノ酸不含有培地中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=3~12)として表した。
【
図4C】栄養素欠損培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。(C)C2C12マウス筋芽細胞を、Chlorella vulgaris(C.vulgaris)からの抽出物の添加を伴う/伴わない、グルコース/アミノ酸不含有培地中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=3~12)として表した。
【
図4D】栄養素欠損培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。(D)C2C12マウス筋芽細胞を、Arthrospira platensis(A.platensis)からの抽出物の添加を伴う/伴わない、グルコース/アミノ酸不含有培地中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=3~12)として表した。
【
図4E】栄養素欠損培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。(E)C2C12マウス筋芽細胞を、Chlorococcum littorale(C.littorale)、Chlorella vulgaris(C.vulgaris)又はArthrospira platensis(A.platensis))からの抽出物の添加を伴う/伴わない、グルコース/アミノ酸不含有培地中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=3~12)として表した。
【
図5】実施例で使用した微細藻類の写真。(A)緑藻クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)、(B)スティココックス属(Stichococcus sp.)、(C)クロレラ・ブルガリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)、(D)ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、(E)スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、(F)アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)。目盛:50μm。
【
図6】無機塩培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。ウシ筋肉組織由来細胞を、DMEM、又はChlorella vulgaris(C.vulgaris)からの抽出物の添加を伴う/伴わない無機塩培中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=6)として表した。
【
図7】無機塩培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。ウシ筋肉組織由来細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)の添加を伴う/伴わないDMEM、あるいは、10%ウシ胎児血清(FBS)又はChlorella vulgaris(C.vulgaris)からの抽出物の添加を伴う/伴わない無機塩培中で培養した。データは吸光度から算出した相対生細胞数を平均±SD(n=3)として表した。
【
図8】無機塩培地及び藻類抽出物を使った哺乳類細胞の培養。ウシ筋肉組織由来細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)の添加を伴う/伴わないDMEM、あるいは、10%ウシ胎児血清(FBS)又はChlorella vulgaris(C.vulgaris)からの抽出物の添加を伴う/伴わない無機塩培中で培養した。データは生細胞数を平均±SD(n=4)として表した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、必要に応じて図面を参照にしながら説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明の構成は、実施形態の具体的構成に限定されない。
【0016】
一実施態様において、本発明は、藻類由来の成分を含む細胞培養用組成物を提供する。本発明の組成物に含まれる、藻類由来の成分は、以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程、及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を、中和する工程、
を含む工程により得られる。
【0017】
また、一実施態様において、本発明は、細胞培養用組成物の製造方法を提供するものであり、以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程;及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を中和し、藻類抽出物を得る工程;
(3)前記藻類抽出物を細胞培養用培地と混合する工程であって、前記細胞培養用培地はL-グルタミンを実質的に含まないものである、
を含む。
【0018】
また、他の実施態様において、本発明に用いられ得る細胞培養用培地は、さらに、L-アルギニン、L-シスチン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンからなる群から1又は複数選択されるアミノ酸を実質的に含まない細胞培養用培地であり得る。
【0019】
他の実施態様において、本発明に用いられ得る細胞培養用培地は、ビタミン類を実質的に含まない細胞培養用培地であり得る。本発明に用いられ得る、ビタミン類を実質的に含まない細胞培養用培地とは、例えば、パントテン酸、塩化コリン、葉酸、i-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、及びこれらの薬学的に許容し得る塩からなる群から1又は複数選択されるビタミン類を実質的に含まないものであってもよい。
【0020】
他の実施態様において、本発明に用いられ得る細胞培養用培地は、グルコースを実質的に含まない細胞培養用培地であってもよく、さらにピルビン酸を実質的に含まない細胞培養用培地であってもよい。
【0021】
本明細書において、「実質的に含まない」とは、該当する物質がほとんど含まれていないことを意味しているが、該当する物質が全く含まれていないことを意味するのではなく、例えば、グルコースであれば定量下限の10mg/L未満含まれるものであってもよく、例えばアミノ酸(例えば、L-グルタミン等)であれば、定量下限の0.1mg/L未満含まれるものであってもよく、又はビタミン類であれば定量下限の1μg/L未満含まれるものであってもよい。
【0022】
本明細書において、「藻類」とは、光合成により酸素を産生する生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称をいう。藻類は光合成に必要な環境が整えば、酸素、栄養分(例えば、グルコース、アミノ酸)を自ら作り出すことができ、増殖することができる。本発明は、藻類から抽出された成分を含む組成物を添加した培地において、細胞を培養可能であることを見出したことにより完成したものである。
【0023】
本発明の一実施態様において用いられる藻類は、「単細胞藻類(「微細藻類」ともいう。)であってもよい。本明細書において、「単細胞藻類」とは、藻類の中でも、個体が単一の細胞からなる藻類をいい、複数の単細胞藻類個体が集まり、群体を形成する単細胞藻類も含む。例えば、クロロフィルa及びbを葉緑体の主要色素とする緑藻類、クロロフィルdを主要色素とする単細胞性の藍藻類(シアノバクテリア)、クロロフィルa及びフィコビリンタンパク質を主要色素とする単細胞性の紅藻類が単細胞藻類の例として挙げられる。さらに詳しく例を挙げると、緑藻類では、緑藻綱クラミドモナス目のクラミドモナス・レインハルドティ(Chlamydomonas reinhardtii)(和名:クラミドモナス)、ドナリエラ目のドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)(和名:ドナリエラ)、オオヒゲマワリ目のボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)(和名:ボルボックス)、クロロコックム目のクロロコックム・リットラレ(Chlorococcum littorale)、ヨコワミドロ目のヒドロディクティオン・レティキュラツム(Hydrodictyon reticulatum)(和名:アミミドロ)、ペディアストラム・デュプレックス(Pediastrum duplex)(和名:クンショウモ)、セネデスムス・ディモルファウス(Scenedesmus dimorphus)(和名:イカダモ)、トレボウキシア藻綱クロレラ目のクロレラ・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)(和名:クロレラ)、ユーグレナ植物門ユーグレナ藻綱ユーグレナ目のユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)及びユーグレナ プロキシマ(Euglena proxima)(和名:ミドリムシ)などが挙げられる。単細胞性の藍藻類では、シアノバクテリア門のアカリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)などが挙げられる。単細胞性の紅藻類では、紅藻植物門イデユコゴメ綱イデユコゴメ目のシアニジウム カルダリウム(Cyanidium caldarium)(和名:イデユコゴメ)又は紅藻植物門イデユコゴメ綱イデユコゴメ目のガルディエリア パルティータ(Galdieria partita)などが挙げられる。単細胞性の車軸藻類では、緑色植物門の車軸藻網クレブソルミディウム目のスティココックス属(Stichococcus sp.)が挙げられる。また、単細胞性のアオサ藻網の藻類であるフィラメントス-ウルボフィテ(Filamentous-ulvophyte)が挙げられる。本発明に用いられる藻類は、上記で挙げられた藻類の遺伝子操作が行われた遺伝子組換え体であってもよく、上記の藻類に限定されない。
【0024】
本発明に用いられる藻類は、天然の藻類を用いても良く、公知の培養法によって増殖させた藻類を用いても良い。
【0025】
本発明において用いられる組成物に含まれる藻類由来の成分は、藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程を実施することによって抽出することができる。
【0026】
一般に、タンパク質や多糖などの生体高分子は、加熱下(例えば、60℃~200℃、好ましくは80℃~180℃、より好ましくは90℃~150℃)、で、水を加えた有機又は無機の強酸(塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸など)、或いは強アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)と混合することで加水分解され、オリゴマーやモノマー(タンパク質においてはペプチドやアミノ酸、多糖においてはオリゴ糖、単糖)を生じる。従って、本明細書において、「酸加水分解処理」とは、強酸を用いた加水分解処理をいい、「アルカリ加水分解処理」とは、強アルカリを用いた加水分解処理をいう。本発明の組成物を得るために、公知の「酸加水分解処理」及び/又は「アルカリ加水分解処理」を用いることができる。「酸加水分解処理」又は「アルカリ加水分解処理」は、用いられる藻類の種類、量、又は濃度、あるいは反応溶液のpH、温度などの条件によって、反応時間を調整することができ、例えば、1~1440分、3~720分、5~360分、5~120分、又は5~30分実施されてもよい。
【0027】
一実施態様において、藻類由来の成分を含む組成物を得るために、酸加水分解処理のみが実施されてもよく、アルカリ加水分解処理のみが行われてもよく、酸加水分解処理及びアルカリ加水分解処理の両方が実施されてもよい。酸加水分解処理及びアルカリ加水分解処理が実施される場合、酸加水分解処理に続いてアルカリ加水分解が行われても良く、アルカリ加水分解処理に続いて酸加水分解処理が行われてもよい。酸加水分解処理とアルカリ加水分解処理の間に、中和処理が実施されてもよい。
【0028】
一実施態様において、工程(1)で用いられる藻類は、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供される前に、乾燥処理に供されてもよい。
【0029】
一実施態様において、工程(1)は、加圧下で実施されてもよい。本明細書において、「加圧下」とは、大気圧、すなわち1気圧よりも高い気圧条件をいい、例えば、1.1気圧以上、1.5気圧以上、1.8気圧以上、又は2気圧以上で実施されてもよい。例えば、1.1~300気圧、1.5~200気圧、1.8~100気圧、2~50気圧、例えば2~20気圧であってもよい。加圧条件は、任意の装置や方法によって実施されてもよく、例えば、オートクレーブを用いることによって加圧条件を実現することができる。
【0030】
本発明の組成物は、工程(1)により得られる加水分解産物を、中和する工程(工程(2))を実施することによって得られる。これにより、加水分解産物が中和され、細胞の培養に用いることが可能となる。例えば、工程(1)において、最終的に酸加水分解が実施された場合は、塩基性物質又はその水溶液(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はその水溶液など)を添加し、中和してもよい。例えば、工程(1)において、最終的にアルカリ加水分解が実施された場合は、酸性物質(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)又はその水溶液(塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸など)を添加し、中和してもよい。
【0031】
本発明の組成物は、細胞、例えば原核細胞(例えば、大腸菌、乳酸菌、枯草菌、シアノバクテリアなど)及び真核細胞(酵母菌、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞など)、特に動物細胞の培養に用いることができる。一実施 態様において、本発明で培養可能な動物細胞の由来は、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類であってもよく、哺乳類動物細胞の由来は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒト、ウマ、ウシ、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ネコ、ヤギなどであってもよく、これらに限定されない。また、生体組織から採取された初代細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、多能性幹細胞(例えば、ES細胞、ntES細胞、Muse細胞、iPS細胞)若しくは組織幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)又はそれらから分化誘導された細胞であってもよい。
【0032】
本発明に用いられる組成物は、1以上の藻類由来の成分を含むものであってもよく、例えば、2以上の藻類由来の成分を含むものであってもよい。例えば、グルコースを多く含む藻類由来の成分と、タンパク質を構成するアミノ酸を多く含む藻類由来の成分とを組み合わせて含む組成物であってもよい。
【0033】
本発明は、藻類由来の成分を含む細胞培養用組成物を添加した培地において、細胞を培養する方法であって、
前記成分が、以下:
(1)藻類を、酸加水分解処理及び/又はアルカリ加水分解処理に供する工程、及び
(2)前記工程(1)により得られる加水分解産物を、中和する工程、
を含む工程により得られることを特徴とする、方法を提供する。
【0034】
また、他の実施態様において、本発明にかかる細胞を培養する方法は、さらに(3)前記藻類抽出物を細胞培養用培地と混合する工程であって、前記細胞培養用培地はL-グルタミンを実質的に含まない、工程、を含んでもよい。
【0035】
本発明の細胞を培養する方法において、藻類由来の成分を含む組成物を添加する培地は、培養する細胞の種類によって適宜選択すればよいが、緩衝作用を有する媒体が好ましく、例えば、リン酸緩衝液、イーグル培地、ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)、DMEM:F12培地、グラスゴー最小必須培地、グレース昆虫培地、ハム培地、イスコフ改良イーグル培地、RPMI-1640培地、L-15培地、マッコイ5A培地などであってもよく、これらの培地において、グルコース及び/又はタンパク質構成アミノ酸(例えば、L-グルタミン、L-アルギニン、L-シスチン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンからなる群から選択される1以上のアミノ酸)を実質的に含まないものであってもよい。培地は、液体培地であってもよく、固形培地であってもよい。本発明の藻類由来の成分を含む組成物を培地に添加することによって、細胞の生存に必要な栄養素(例えば、グルコース、及びタンパク質構成アミノ酸、ビタミン類など)が供給され、細胞培養が可能となる。藻類由来の成分を含む組成物を培地に添加する割合は、培養する細胞の種類などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、藻類由来の成分を含む組成物が添加された培地の全容量に対して、藻類由来の成分を含む組成物が、0.1~99%(v/v)、1~80%(v/v)、2~50%(v/v)、3~20%(v/v)、3~15%、又は3~12%(v/v)含まれていてもよい。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0037】
<実施例1>
1.材料と方法
1-1.微細藻類培養
本研究では、緑藻クロロコックム・リトラレ(Chlorococcum littorale)(C.littorale)(NBRC 102761)、スティココックス属(Stichococcus sp.)(NBRC 102709)(独立化学法人、製品評価技術基盤機構(NITE)、千葉県、日本)、クロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)(C.vulgaris)(NIES-2170)及びユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)(E.gracilis)(NIES-49)の4種の真核微細藻類と、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)(S.subsalsa)(NIES-3373)及びアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)(A.platensis)(NIES-39)(国立環境研究所、茨城県、日本)の2種の原核微細藻類を使用した(
図5)。C.littoraleとStichococcus属は、Daigo IMK培地(日本製薬株式会社、東京都、日本)とDaigo人工海水SP(富士フィルム和光純薬株式会社)の混合物により培養した。C.vulgaris、S.subsalsa、E.gracilis及びA.platensisはそれぞれC培地、MA培地、AF-6培地及びSOT培地(国立環境研究所、茨城県、日本)により培養した。微細藻類は浮遊培養フラスコ(AGCテクノグラス株式会社、静岡県、日本)を使って連続採光(約500~700ルクス)下で室温にて(25℃)培養した[参考文献1]。それらの微細藻類の位相差画像は、顕微鏡(ELIPSE TS2、株式会社ニコン、東京都、日本)によりソフトウェア(NIS-Elements BR、ニコン)を使って取得した。
【0038】
1-2.微細藻類からの栄養素抽出
微細藻類から栄養素を抽出するために加水分解法を用いた。上述したフラスコ中で培養した微細藻類は、培養期間を考慮せずにスクリュー瓶(アズワン株式会社、大阪府、日本)中に収集し、オーブン(タイテック株式会社、埼玉県、日本)中で乾燥した。乾燥後、乾燥重量を秤量し、純水を加えて至適濃度(10g/L又は50g/L)になるよう調整した。次いで酸/アルカリ加水分解反応を実施した。オートクレーブ(株式会社トミー精工、東京都、日本)、ヒートブロック(Labnet International Inc.,ニュージャージー州、米国)又は乾熱滅菌器(アドバンテック株式会社、東京都、日本)を使って加熱した。加熱条件は次の通りであった:温度、20~180℃;加熱時間、10~1440分;硫酸濃度、0.0036~1.8規定(N);塩酸及び水酸化ナトリウム濃度、0.36~1N。実験は、温度、時間及び試薬濃度の条件を組み合わせて行った。加熱処理後、塩酸又は水酸化ナトリウムにより中和した。グルコースとアミノ酸の濃度は、それぞれ、ヘキソキナーゼ法[参考文献2]及び液体クロマトグラフィー-質量分析法を使った定量分析により測定した。
【0039】
1-3.細胞培養と細胞生死判別試験
C2C12マウス筋芽細胞(住友大日本製薬、東京都、日本)を、10%ウシ胎仔血清(FBS、Thermo-Fischer Scientific,マサチューセッツ州、米国)と1%ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S、Invitrogen、Carlsbad、カリフォルニア州、米国)が補充されたダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich,ミズーリ州、米国)により37℃で5%CO2を含む湿潤雰囲気下で培養した[参考文献3]。細胞増殖と生存率は、XTTアッセイ(Biological Industies,コネチカット州、米国)により評価した。C2C12細胞を96ウェルプレート(AGCテクノグラス株式会社、静岡県、日本)中に10,000細胞/ウェルの密度で播種し、10%FBSと1%P/Sが補充されたDMEM中で一晩培養した。一晩培養後、培地を捨て、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS、Sigma-Aldrich社)で2回洗浄した。その後、藻類抽出物又はグルコース/グルタミン酸含有/不含有の栄養素欠損培地を用いて細胞を培養した。前記溶液を添加した細胞を2日間インキュベートした。各溶液中の色素による吸光度の差をなくすために、XTTアッセイを実施する直前に、各溶液を取り、100μLの10%FBSと1%P/Sを加え、次いで50μLのXTT試薬を添加した。それに続く細胞生死判別試験はプロトコル通り実施した。グルコース不含DMEM(Invitrogen)、グルコース/グルタミン不含DMEM(Invitrogen)及びグルコース/アミノ酸不含DMEM(United State Biological,マサチューセッツ州、米国)を栄養素欠損培地として使用した。必要であれば、グルコース(関東化学株式会社、東京都、日本)又はグルタミン酸(富士フィルム和光純薬株式会社)をそれらの培地に添加した。
【0040】
なお、実施例1及び2で用いられた培地は、特に断りがない限り、以下の組成のものを用いた。
(A)通常の動物細胞培養に用いられる培地DMEMの栄養素・ミネラル組成
(i)糖質
・グルコース:1000mg/Lまたは4500mg/L
・ピルビン酸:110mg/L
(ii)アミノ酸
・L-アルギニン:84mg/L
・L-シスチン:48mg/L
・L-グルタミン:584mg/L
・グリシン:30mg/L
・L-ヒスチジン:42mg/L
・L-イソロイシン:105mg/L
・L-ロイシン:105mg/L
・L-リジン:146mg/L
・L-メチオニン:30mg/L
・L-フェニルアラニン:66mg/L
・L-セリン:42mg/L
・L-トレオニン:95mg/L
・L-トリプトファン:16mg/L
・L-チロシン:71mg/L
・L-バリン:94mg/L
(iii)ビタミン
・パントテン酸:4mg/L
・塩化コリン:4mg/L
・葉酸:4mg/L
・i-イノシトール:7.2mg/L
・ナイアシンアミド:4mg/L
・ピリドキシン:4mg/L
・リボフラビン:0.4mg/L
・チアミン:4mg/L
(iv)ミネラル
・CaCl2:200mg/L
・KCl:400mg/L
・Fe(NO3)3・9H2O:0.10mg/L
・MgSO4:98mg/L
・NaCl:6400mg/L
・NaHCO3:3700mg/L
・NaH2PO4:109mg/L
・フェノールレッド:15mg/L
【0041】
(B)藻類抽出液を用いた動物細胞培養実験で使用した培地組成
(1)DMEM(グルコース不含)
藻類抽出液を用いることで糖質(グルコース・ピルビン酸)を代替可能であることを示すために用いた。
(i)糖質
・グルコース:0mg/L
・ピルビン酸:0mg/L
(ii)アミノ酸
・L-アルギニン:84mg/L
・L-シスチン:48mg/L
・L-グルタミン:584mg/L
・グリシン:30mg/L
・L-ヒスチジン:42mg/L
・L-イソロイシン:105mg/L
・L-ロイシン:105mg/L
・L-リジン:146mg/L
・L-メチオニン:30mg/L
・L-フェニルアラニン:66mg/L
・L-セリン:42mg/L
・L-トレオニン:95mg/L
・L-トリプトファン:16mg/L
・L-チロシン:71mg/L
・L-バリン:94mg/L
(iii)ビタミン
・パントテン酸:4mg/L
・塩化コリン:4mg/L
・葉酸:4mg/L
・i-イノシトール:7.2mg/L
・ナイアシンアミド:4mg/L
・ピリドキシン:4mg/L
・リボフラビン:0.4mg/L
・チアミン:4mg/L
(iv)ミネラル
・CaCl2:200mg/L
・KCl:400mg/L
・Fe(NO3)3・9H2O:0.10mg/L
・MgSO4:98mg/L
・NaCl:6400mg/L
・NaHCO3:3700mg/L
・NaH2PO4:109mg/L
・フェノールレッド:15mg/L
【0042】
(2)DMEM(グルコース・アミノ酸不含)
藻類抽出液を用いることで糖質(グルコース・ピルビン酸)およびアミノ酸(L-アルギニン、L-シスチン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン)を代替可能であることを示すために用いた。
(i)糖質
・グルコース:0mg/L
・ピルビン酸:0mg/L
(ii)アミノ酸
・L-アルギニン:0mg/L
・L-シスチン:0mg/L
・L-グルタミン:0mg/L
・グリシン:0mg/L
・L-ヒスチジン:0mg/L
・L-イソロイシン:0mg/L
・L-ロイシン:0mg/L
・L-リジン:0mg/L
・L-メチオニン:0mg/L
・L-フェニルアラニン:0mg/L
・L-セリン:0mg/L
・L-トレオニン:0mg/L
・L-トリプトファン:0mg/L
・L-チロシン:0mg/L
・L-バリン:0mg/L
(iii)ビタミン
・パントテン酸:4mg/L
・塩化コリン:4mg/L
・葉酸:4mg/L
・i-イノシトール:7.2mg/L
・ナイアシンアミド:4mg/L
・ピリドキシン:4mg/L
・リボフラビン:0.4mg/L
・チアミン:4mg/L
(iv)ミネラル
・CaCl2:200mg/L
・KCl:400mg/L
・Fe(NO3)3・9H2O:0.10mg/L
・MgSO4:98mg/L
・NaCl:6400mg/L
・NaHCO3:3700mg/L
・NaH2PO4:109mg/L
・フェノールレッド:15mg/L
【0043】
(3)無機塩培地
藻類抽出液を用いることで糖質(グルコース・ピルビン酸)、アミノ酸(L-アルギニン、L-シスチン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン)およびビタミン(パントテン酸、塩化コリン、葉酸、i-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン)を代替可能であることを示すために用いた。
(i)糖質
・グルコース:0mg/L
(ii)アミノ酸
・L-アルギニン:0mg/L
・L-シスチン:0mg/L
・L-グルタミン:0mg/L
・グリシン:0mg/L
・L-ヒスチジン:0mg/L
・L-イソロイシン:0mg/L
・L-ロイシン:0mg/L
・L-リジン:0mg/L
・L-メチオニン:0mg/L
・L-フェニルアラニン:0mg/L
・L-セリン:0mg/L
・L-トレオニン:0mg/L
・L-トリプトファン:0mg/L
・L-チロシン:0mg/L
・L-バリン:0mg/L
(iii)ビタミン
・パントテン酸:0mg/L
・塩化コリン:0mg/L
・葉酸:0mg/L
・i-イノシトール:0mg/L
・ナイアシンアミド:0mg/L
・ピリドキシン:0mg/L
・リボフラビン:0mg/L
・チアミン:0mg/L
(iv)ミネラル
・CaCl2:200mg/L
・KCl:400mg/L
・Fe(NO3)3・9H2O:0.10mg/L
・MgSO4:98mg/L
・NaCl:6400mg/L
・NaHCO3:3700mg/L
・NaH2PO4:109mg/L
・フェノールレッド:15mg/L
【0044】
1-4.データ解析
図面の全てのデータは、平均±SDとして示されている。2つの群を比較する際には、対応のないスチューデントt検定(unpaired Student t-test)を行い、複数の群の比較には事後(post-hoc)テューキーHSD検定を伴う一方向ANOVAを用いた。
【0045】
2.結果
2-1.微細藻類からのグルコース抽出
最初に、哺乳類細胞の培地における重要な栄養素であるグルコースを抽出することを試みた。予備実験では、硫酸を使った酸加水分解によるグルコースの抽出効率は、
図5に示される6種の微細藻類の中でクロロコックム(C.littorale)が最も高かった。従って、C.littoraleを使うことによって最適条件を検討した。グルコースは、オートクレーブを使った加圧下での高温処理により、微細藻類から効率的に抽出された(硫酸濃度:0.18規定~0.36規定;温度:130~135℃;反応時間:10~20分)(
図1A)。他方で、乾熱滅菌器を用いた加圧を伴わない加熱処理(130℃)によるグルコース収率は、同温でのオートクレーブ処理よりも低かった(
図1A)。この結果は、温度に加えて圧力が効率的なグルコース抽出に重要であることを示唆している。
【0046】
次に、6種の微細藻類、C.littorale、Stichococcus sp.、S.subsalsa、C.vulgaris、E.gracilis、及びA.platensisの中で最高グルコース収率を有する微細藻類を調べた(
図5)。試験した全ての微細藻類からグルコースを回収することができたが、C.littoraleとA.platensisから、より効率的にグルコースが抽出された(
図1B)。
【0047】
次に、高グルコース濃度を有する微細藻類抽出液を獲得するために、初期藻類濃度を10g/Lから50g/Lに増加させた。C.littoraleから抽出されたグルコースの濃度は、10g/Lでは2.4±0.3g/Lであり、50g/Lでは13.1±1.5g/Lであった。A.platensisから抽出されたグルコース濃度は10g/Lでは1.9±0.3g/Lであり、50g/Lでは10.8±0.6g/Lであった(
図1C)。この結果は、グルコース濃度も微細藻類の濃度に比例して増加したことを示している。それらの藻類抽出液は、従来の哺乳類培養培地(10%FBSと1%P/Sが補充されたDMEM)の3~4倍のグルコースを含有していた(
図1C)。
【0048】
2-2.微細藻類からのアミノ酸抽出
DMEMは20種のタンパク質構成アミノ酸のうち、15種を含有する。それらの15種のアミノ酸は、
図2の左側に示される、アルギニンからバリンまでのアミノ酸である。次に、0.36規定(N)の硫酸を使って130℃で20分間、C.littoraleからの抽出物中のアミノ酸を定量分析した。藻類抽出物中の15種のアミノ酸全ての濃度が、培地のものよりも低かった(
図2A)。タンパク質の効率的な酸加水分解のために、従来24時間の加熱処理が使用されている[参考文献4]。よって、抽出効率を高めるために、1N硫酸を使って100℃で24時間、アミノ酸を抽出した。この方法により抽出アミノ酸の濃度が増加された(
図2A)。次に、1N塩酸又は1N水酸化ナトリウムを使用して更に抽出効率を増加させようと試みた。分析結果は、塩酸で抽出された全てのアミノ酸が、硫酸で抽出されたアミノ酸よりも高かった(
図2A)。しかしながら、DMEM中に含まれているグルタミンとトリプトファンは、いずれの条件下でも検出されなかった(
図2A)。酸加水分解の間に、グルタミンがグルタミン酸に加水分解されたため、抽出物中にグルタミンが検出不可能であり、代わりに高濃度のグルタミン酸が検出された。水酸化ナトリウムを用いた場合でもアミノ酸が効率的に検出されたが、DMEM中に含まれた3種のアミノ酸(アルギニン、シスチン及びヒスチジン)は、酸加水分解によってのみ検出された。従って、アミノ酸を抽出するために、100℃で24時間1N塩酸を用いる酸加水分解を使用することにした。
【0049】
次に、6種の微細藻類(
図5)の中で最高のアミノ酸収率を有する微細藻類を調べた。それらの微細藻類の中で、C.vulgarisから獲得した抽出物が、最も豊富なアミノ酸を含むことが分かった(
図2B)。この結果は、以前の研究[参考文献5、6]におけるC.vulgarisの比較的高いタンパク質濃度と一致した。更に、加水分解により分解されるアミノ酸以外に、任意の藻類種に含まれる大部分のアミノ酸が、哺乳類細胞用の培地中に含まれるものと同じか、又はそれより高いアミノ酸濃度で回収されたことを示した(
図2B)。
【0050】
次に、より高いアミノ酸濃度を有する微細藻類抽出物を得るために、初期藻類濃度を10g/Lから50g/Lに増加させた。グルコース抽出の場合と同様に、藻類濃度を増加させることにより各アミノ酸の濃度も更に増加した(
図2C)。
【0051】
酸加水分解法によりグルタミンは抽出されなかったが、DMEM中には多量のグルタミンが含まれている(
図2)。一方で、グルタミン酸は微細藻類抽出物中に含まれていたが、DMEMにはグルタミン酸を含んでいない(
図2)。
図2において検出されたごく微量のグルタミン酸は、補充された10%FBSに由来するか又はグルタミンの分解から生じたと思われる。よって、グルタミン酸が哺乳類細胞の培養においてグルタミンの代用物(サロゲート)として利用可能かどうかを調べた。
【0052】
2日後、グルコースとグルタミンを含まない培地を使った培養により、大部分のC2C12マウス筋芽細胞が死滅した(
図3)。グルコースの添加により細胞生存率が部分的に増加し、そしてグルタミン酸の添加により更に増加した(
図3)。この結果は、グルタミン酸が哺乳類細胞の培養においてグルタミンの代用物として利用されたことを示唆している。しかしながら、グルタミン酸の添加による増加は、グルタミンを含む培地によるものよりも少なかった(
図3)。グルタミン酸の過剰な添加が必要になると推定された。
【0053】
2-3.微細藻類抽出物を使った細胞培養
次に、哺乳類細胞培養の栄養素として藻類抽出物が利用可能かどうかを調べた。C2C12マウス筋芽細胞を、グルコース不含培地を使って培養した場合、2日後に大部分の細胞が死滅した(
図4A)。しかしながら、C.littoraleから抽出された抽出物を5%、10%及び20%添加することにより細胞生存率が回復し(
図4A)、10%添加でプラトーに達した。この結果は、藻類抽出物が、哺乳類細胞の培養に、重要な栄養素であるグルコースの代用物として利用されることを証明した。
【0054】
最後に、藻類抽出物がアミノ酸の代用物としても利用可能かどうかを調べた。ここでは、グルコースとアミノ酸を含まない培地を使用した。この培地を使って2日間培養した結果、大部分の細胞は死滅した(
図4B、4C及び4D)。しかしながら、細胞生存率は5%及び10%微細藻類抽出物の添加により救済された(
図4B、4C及び4D)。C.littorale由来の抽出物を、5%、10%及び20%添加した場合、細胞生存率が、添加なしの場合よりも高い傾向があった(
図4B)。他方、A.platensisとC.vulgarisの場合、抽出物の過剰添加(20%)によって細胞生存率は回復しなかった(
図4C及び4D)。
【0055】
グルコースに富むC.littoraleとアミノ酸に富むC.vulgaris及びグルコースに富むA.platensisとアミノ酸に富むC.vulgarisの抽出物の組み合わせで、細胞を培養した(
図4E)。前記抽出物の組み合わせは両方とも、それらの抽出物を添加しない場合よりも高い生存率を有した(
図4E)。これらの結果は、藻類抽出物が、細胞培養のために重要な栄養素であるアミノ酸の代用物(サロゲート)として利用され得ることを証明した。
【0056】
以上の結果より、微細藻類から抽出された栄養素が哺乳類細胞のためのグルコースとアミノ酸の代用物として利用され得ることを証明した。
【0057】
上記の結果では、グルコースとアミノ酸のみの分析結果を示した。脂質はDMEM中に含まれていない。他方で、8種のビタミンB分子がDMEM中に含まれているが、それらの量はグルコース及びアミノ酸の量よりずっと低い濃度である。本発明者らの実験は、それらの8種のビタミンB分子が微細藻類から抽出され得ることも見出した。従って、哺乳類細胞培養に必要な全ての栄養素とビタミン類が微細藻類から供給され得ると考えられる。
【0058】
藻類抽出物は哺乳類細胞の培養のための栄養素の代用物として機能した。バイオ燃料の生産のための穀物の使用は食料と競合するため、食料と競合しない微細藻類はその分野において有望である[参考文献7]。本研究は、環境への影響を減らし、かつ環境変化に対して保護するような新規な細胞培養系の可能性だけでなく、あらゆる穀物依存培養系に取って代わる微細藻類の可能性も示した。
【0059】
<実施例2>
実施例1の1-2に記載の方法でクロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)から抽出液を調製した。培地として、DMEM又は無機塩培地を用い、クロレラ由来の藻類抽出物がウシ筋肉組織由来細胞の培養結果にどのような効果をもたらすか調べた。実験方法は、実施例1の1-3に記載の方法により行った。なお、ウシ筋肉組織由来細胞は、東京食肉市場株式会社から購入したウシ頬の筋肉細胞をプロテアーゼで処理し、単離した細胞を用いた。
【0060】
その結果、無機塩培地に藻類抽出液を添加することでDMEMと 同様にウシ筋肉組織由来細胞の維持培養が可能となった(
図6)。
【0061】
<実施例3>
実施例1の1-2に記載の方法でクロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)から抽出液を調製した。培地として、DMEM又は無機塩培地を用い、クロレラ由来の藻類抽出物の有無及びウシ胎児血清(FBS)の有無が、ウシ筋肉組織由来細胞の培養結果にどのような効果をもたらすか調べた。実験方法は、実施例1の1-3に記載の方法により行った。
【0062】
その結果、無機塩培地に藻類抽出液を添加し、さらに血清を添加することでウシ筋肉組織由来細胞の相対生細胞数が増加する傾向が認められた(
図7)。
【0063】
<実施例4>
実施例1の1-2に記載の方法でクロレラ・ブルカリス・ベイエリンク(Chlorella vulgaris Beijerinck)から抽出液を調製した。培地として、DMEM又は無機塩培地を用い、クロレラ由来の藻類抽出物の有無及びウシ胎児血清(FBS)の有無が、ウシ筋肉組織由来細胞の培養結果、特に細胞増殖期にどのような効果をもたらすか調べた。実験方法は、実施例1の1-3に記載の方法により行った。
【0064】
その結果、無機塩培地に藻類抽出液を添加し、さらに血清添加することで10%FBS DMEMと同程度のウシ筋肉組織由来細胞の増殖が認められた(
図8)。
【0065】
参考文献:
[1] Y. Haraguchi, Y. Kagawa, K. Sakaguchi, K. Matsuura, T. Shimizu, et al., Thicker three-dimensional tissue from a "symbiotic recycling system" combining mammalian cells and algae. Sci. Rep. 7 (2017) 41594.
[2] Y. Haraguchi, W. Sekine, T. Shimizu, M. Yamato, S. Miyoshi, A. et al., Development of a new assay system for evaluating the permeability of various substances through three-dimensional tissue. Tissue Eng. Part C Methods. 16 (2010) 685-692.
[3] Y. Haraguchi, T. Shimizu, T. Sasagawa, H. Sekine, K. Sakaguchi, et al., Fabrication of functional three-dimensional tissues by stacking cell sheets in vitro. Nat. Protoc. 7 (2012) 850-858.
[4] S. McCusker, P.R. Buff, Z. Yu, A.J Fascetti, Amino acid content of selected plant, algae and insect species: a search for alternative protein sources for use in pet foods. J. Nutr. Sci. 3 (2014) e39.
[5] E.W. Becker, Micro-algae as a source of protein. Biotechnol. Adv. 25 (2007) 207-210.
[6] P. Spolaore, C. Joannis-Cassan, E. Duran, A. Isambert, Commercial applications of microalgae. J. Biosci. Bioeng. 101 (2006) 87-96.
[7] S.H. Ho, S.W. Huang, C.Y. Chen, T. Hasunuma, A. Kondo, et al., Bioethanol production using carbohydrate-rich microalgae biomass as feedstock. Bioresour. Technol. 135 (2013) 191-198.