(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】防振ゴム用ゴム組成物および防振ゴムならびに防振ゴム用ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20230322BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230322BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/04
C08K5/098
(21)【出願番号】P 2018207993
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕内 則夫
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084312(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186155(WO,A1)
【文献】特開2016-117843(JP,A)
【文献】特開2018-123272(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065438(WO,A1)
【文献】特開2015-021097(JP,A)
【文献】特開2014-095014(JP,A)
【文献】特開2012-144680(JP,A)
【文献】特開2018-062619(JP,A)
【文献】特開2016-216595(JP,A)
【文献】特開2019-178199(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026657(WO,A1)
【文献】特開2017-218524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを5~100質量部含有する天然ゴムウエットマスターバッチを含有する防振ゴム用ゴム組成物であって、
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、R
1およびR
2は、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、R
1およびR
2は同一であっても異なっていてもよい。M
+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を0.1~5質量部含有し、
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、硫黄配合量が0.2~0.8質量部であることを特徴とする防振ゴム用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分の全量を100質量%としたとき、前記天然ゴムウエットマスターバッチ由来の天然ゴムを10質量%以上含有する請求項1に記載の防振ゴム用ゴム組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックの全量を100質量%としたとき、前記天然ゴムウエットマスターバッチ由来のカーボンブラックを15質量%以上含有する請求項1または2に記載の防振ゴム用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれかに記載の防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振ゴム用ゴム組成物に関し、特に自動車用エンジンマウントなどの防振部材として好適に用いることができる防振ゴム用ゴム組成物および防振ゴムならびに防振ゴム用ゴム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両にはエンジンや車体の振動を吸収し、乗り心地の向上や騒音を防止するために防振ゴムが用いられている。かかる防振ゴムにおいては、動倍率(動的バネ定数/静的バネ定数)の低減と耐へたり性の向上とを高いレベルで両立することが求められる。かかる動倍率は車内騒音の指標となるものであり、低いほど良好である。また、耐へたり性は打音などの異音となるため、これも低いほど良好である。
【0003】
特許文献1には、かかる目的を達成するため、防振ゴム用ゴム組成物において、カーボンブラックの粒径を最適化しつつ、天然ゴムラテックスとカーボンブラック含有スラリーとを液相で混合し乾燥してなるゴムウエットマスターバッチを用いることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸などのチオ硫酸化合物またはその塩を配合することにより、防振ゴムの動倍率を低減することが開示されている。
【0005】
なお、ゴムウエットマスターバッチに関する技術として、特許文献3には、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に天然ゴムラテックスの少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリーを製 造した後、前記スラリーと残りの前記天然ゴムラテックスとを混合し、凝固、乾燥させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-292465号公報
【文献】特開2016-117843号公報
【文献】特許4738551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低動倍率化と耐へたり性向上との両立が可能な防振ゴムの原料となる防振ゴム用ゴム組成物およびその製造方法、ならびに防振ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明者は、天然ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物において、特定の化合物を配合することにより、その加硫ゴムの動倍率の低減と耐へたり性の向上とが両立できることを見出した。本発明は、上記の検討の結果なされたものであり、下記の如き構成により上述の目的を達成するものである。
【0009】
すなわち、本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、天然ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを5~100質量部含有する天然ゴムウエットマスターバッチを含有する防振ゴム用ゴム組成物であって、
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、R
1およびR
2は、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、R
1およびR
2は同一であっても異なっていてもよい。M
+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を0.1~5質量部含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、天然ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを5~100質量部含有する天然ゴムウエットマスターバッチ、および前記式(I)に記載の化合物を含有する。一般に、防振ゴム用ゴム組成物中に天然ゴムウエットマスターバッチを配合した場合、加硫ゴムの低動倍率化が図れる。同様に、防振ゴム用ゴム組成物中に前記式(I)に記載の化合物を配合した場合も、加硫ゴムの低動倍率化が図れる。しかしながら、防振ゴム用ゴム組成物中に前記天然ゴムウエットマスターバッチおよび前記式(I)に記載の化合物の両方を配合した場合、それぞれを単独で配合する場合に比して、高い相乗効果が得られることが判明した。かかる相乗効果が得られる理由は明らかではないが、天然ゴムウエットマスターバッチ中では、予めゴム中でカーボンブラックが良好に分散しているが、この良好な分散状態にあるカーボンブラックに対し、前記式(I)記載の化合物が効率よく作用することにより、それぞれを単独で配合する場合に比して、高い相乗効果が得られるものと考えられる。
【0011】
前記防振ゴム用ゴム組成物において、ゴム成分の全量を100質量%としたとき、前記天然ゴムウエットマスターバッチ由来の天然ゴムを10質量%以上含有することが好ましい。また、前記カーボンブラックの全量を100質量%としたとき、前記天然ゴムウエットマスターバッチ由来のカーボンブラックを15質量%以上含有することが好ましい。また本発明は、前記防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴムに関する。かかる防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴムは、動倍率の低減と耐へたり性の向上とが両立されている。
【0012】
また、本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物の製造方法は、少なくともカーボンブラック、分散溶媒、および天然ゴムラテックス溶液を原料として得られた天然ゴムウエットマスターバッチを含有する防振ゴム用ゴム組成物の製造方法であって、前記カーボンブラックを前記分散溶媒中に分散させる際に、前記天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(i)と、前記スラリー溶液と、残りの前記天然ゴムラテックス溶液とを混合して、天然ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(ii)と、
天然ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥して、天然ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)と、前記天然ゴムウエットマスターバッチと、各種配合剤とを乾式混合する工程(iv)とを有し、前記工程(i)~(iv)の少なくとも一工程において、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、下記式(I)に記載の化合物:
【化2】
(式(I)中、R
1およびR
2は、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、R
1およびR
2は同一であっても異なっていてもよい。M
+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を0.1~5質量部配合することを特徴とする。かかる製造方法では、まず工程(i)~(iii)において、特にカーボンブラックの分散性に優れた天然ゴムウエットマスターバッチを製造する。さらに、工程(i)~(iv)の少なくとも一工程において、前記式(I)に記載の化合物を配合する。これにより、優れた分散状態にあるカーボンブラックに対し、前記式(I)記載の化合物がさらに効率よく作用する。その結果、本発明に係る製造方法により製造された防振ゴム用ゴム組成物を原料として防振ゴムを製造した場合、動倍率の低減と耐へたり性の向上とを、さらに高いレベルで両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有する天然ゴムウエットマスターバッチおよび前記式(I)に記載の化合物を含有する。
【0014】
天然ゴムウエットマスターバッチは、少なくともカーボンブラック、分散溶媒、および天然ゴムラテックスを主成分とする天然ゴムラテックス溶液を原料として得られる。天然ゴムウエットマスターバッチは公知の製造方法で製造可能であり、また市販品の使用も可能である。ただし本発明においては、好適には下記に示す防振ゴム用ゴム組成物の製造方法中の工程(i)~(iii)により製造された天然ゴムウエットマスターバッチを使用することが好ましい。
【0015】
カーボンブラックとしては、例えばSAF級(ASTMナンバーでN100番台)、ISAF級(同N200番台)、HAF級(同300番台)、FEF級(同N500番台)、GPF級(同N600番台)、SRF級(同700番台)など、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0016】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0017】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。
【0018】
以下に、防振ゴム用ゴム組成物の製造方法の一例を具体的に説明する。かかる製造方法は、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(i)と、スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを混合して、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(ii)と、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥して、天然ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)と、天然ゴムウエットマスターバッチと、各種配合剤とを乾式混合する工程(iv)とを有する。
【0019】
(1)工程(i)
工程(i)では、カーボンブラックを前記分散溶媒中に分散させる際に、前記天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。天然ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させてもよい。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させてもよく、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量の天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させてもよい。天然ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。
【0020】
工程(i)では、添加する天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.25~15%であることが好ましく、0.5~6%であることが好ましい。また、添加する天然ゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.2~5質量%であることが好ましく、0.25~1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、天然ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたタイヤ部材を製造することができる。スラリー溶液中のカーボンブラック濃度は特に限定されず、例えば1~20質量%でよく、3~10質量%でもよい。
【0021】
工程(i)において、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0022】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0023】
本発明においては、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用してもよい。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0024】
(2)工程(ii)
工程(ii)では、スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを混合して、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りの天然ゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0025】
残りの天然ゴムラテックス溶液は、次工程(iii)での乾燥時間・労力を考慮した場合、工程(i)で添加したゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10~60質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。
【0026】
(3)工程(iii)
工程(iii)では、天然ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥して、天然ゴムウエットマスターバッチを製造する。凝固方法としては、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させる方法が例示可能である。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。乾燥は、例えば単軸押出機を使用し、100~250℃に加熱しつつ、カーボンブラック含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水することが可能である。
【0027】
工程(iii)の後、必要に応じてさらに天然ゴムウエットマスターバッチの水分率を低減するため、別途、乾燥工程を設けてもよい。天然ゴムウエットマスターバッチの乾燥方法としては、単軸押出機、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0028】
(4)工程(iv)
工程(iv)では、天然ゴムウエットマスターバッチと、各種配合剤とを乾式混合する。使用可能な配合剤としては、例えば、追加ゴム、追加カーボンブラック、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。なお、前記式(I)記載の化合物は、工程(iv)で配合してもよく、天然ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(i)~(iii)で配合してもよい。式(I)記載の化合物については後述する。
【0029】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物中に含まれるゴム成分は、前記天然ゴムウエットマスターバッチ由来の天然ゴムのみであってもよく、これとは別に追加ゴムを配合してもよい。ただし、ゴム成分の全量を100質量%としたとき、天然ゴムウエットマスターバッチ由来の天然ゴムを10質量%以上含有することが好ましく、25質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。天然ゴムウエットマスターバッチ由来の天然ゴム以外に配合してもよい追加ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系合成ゴム;臭素化ブチルゴム(BR-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム;その他ポリウレタンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンなどを含めた合成ゴム類などが挙げられる。これらの中でも、追加ゴムとして天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0030】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックは、前記天然ゴムウエットマスターバッチ由来のカーボンブラックのみであってもよく、これとは別に追加カーボンブラックを配合してもよい。ただし、カーボンブラックの全量を100質量%としたとき、天然ゴムウエットマスターバッチ由来のカーボンブラックを15質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することが特に好ましい。同様に、カーボンブラックの全量を100質量%としたとき、追加カーボンブラックを85質量%以下とすることが好ましく、60質量%以下とすることがより好ましく、30質量%以下とすることが特に好ましい。なお、本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物中に含まれる全カーボンブラック含有量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、20~100質量部であることが好ましく、25~80質量部であることがより好ましく、30~60質量部であることが特に好ましい。
【0031】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、下記式(I)に記載の化合物:
【化3】
(式(I)中、R
1およびR
2は、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、R
1およびR
2は同一であっても異なっていてもよい。M
+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を0.1~5質量部含有する。
【0032】
なお、カーボンブラックへの親和性を高めるためには、式(I)中のR
1およびR
2が水素原子であり、M
+がナトリウムイオンである下記式(I’)に記載の化合物:
【化4】
を使用することが特に好ましい。
【0033】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記式(I)に記載の化合物の含有量は0.1~5質量部であり、0.3~3質量部であることが好ましく、0.5~2質量部であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、天然ゴムウエットマスターバッチおよび前記式(I)に記載の化合物と共に、追加ゴム、追加カーボンブラック、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0035】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物では、硫黄系加硫剤を含有することが好ましい。かかる硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物における硫黄の含有量は、製造される防振ゴムの動倍率および耐熱性を考慮した場合、ゴム成分100重量部に対して0.2~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。
【0036】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用してもよい。製造される防振ゴムの低動倍率化の観点から、スルフェンアミド系加硫促進剤を使用することが好ましい。また、加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。
【0037】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用してもよい。
【0038】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、天然ゴムウエットマスターバッチおよび前記式(I)に記載の化合物と共に、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0039】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0040】
上記各成分を混練し、成形加工した後、加硫を行うことで、動倍率の低減と耐久性の向上とが両立された防振ゴムを製造することができる。加硫温度としては、例えば120~200℃が例示可能であり、140~180℃が好ましい。
【0041】
本実施形態に係る防振ゴム用途の具体例としては、エンジンマウント、ストラットマウント、ボディマウント、キャブマウント、メンバーマウント、デフマウントなどのマウント、サスペンションブッシュ、アームブッシュ、トルクブッシュなどのブッシュ、トーショナルダンパー、マフラーハンガー、ダンパープーリ、ダイナミックダンパーなどの各種自動車用防振ゴムが挙げられる。また自動車用以外にも、鉄道車両用防振ゴム、産業機械用防振ゴム、建築用免震ゴム、免震ゴム支承等の防振、免震ゴムに好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0043】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100重量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1~6、比較例1~4のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0044】
・NR:天然ゴム、RSS#3
・式(I)記載の化合物((2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム):住友化学社製「スミリンク200」
・カーボンブラックFEF(N550):東海カーボン社製「シーストSO」
・カーボンブラックHAF(N339):東海カーボン社製「シーストKH」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業社製「酸化亜鉛1種」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・ワックス:日本精鑞社製「OZOACE2701」
・老化防止剤6C:Flexsys社製「SANTOFLEX6PPD」
・老化防止剤RD:大内新興化学工業社製「ノクラック224」
・硫黄:細井化学工業社製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤CZ:大内新興化学工業社製「ノクセラーDM-P」
・加硫促進剤TS:三新化学工業社製「サンセラーTS」
【0045】
実施例1~6および比較例3
レヂテックス社製の天然ゴム濃縮ラテックス(Dry Rubber Content=60%)を用い、濃度0.5質量%に調整した天然ゴム希薄ラテックス水溶液に、表1に記載の配合量となるようにカーボンブラックを添加し(水に対するカーボンブラックの濃度は1質量%)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(i))。次に、工程(i)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、天然ゴムラテックス溶液(25質量%)を、表1に記載の配合量となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM-L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造した(工程(ii))。
【0046】
工程(ii)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸(10質量%)を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造し、次いで得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV-01型に投入し、乾燥して、天然ゴムウエットマスターバッチ(GMB-1またはGMB-2)を製造した(工程(iii)。
【0047】
得られた天然ゴムウエットマスターバッチに対し、式(I)に記載の化合物を含む各種配合剤を配合し、バンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した(工程(iv))。なお、表1中の配合比率は、ゴム成分の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0048】
比較例1~2、4~5
天然ゴムウエットマスターバッチを使用することに代え、天然ゴム、カーボンブラック、式(I)に記載の化合物および各種配合剤を配合し、バンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した。
【0049】
得られた加硫ゴムを下記評価基準により評価した。
【0050】
[動倍率]
所定の金型を使用し、各ゴム組成物を150℃×25分にて加硫して得られた加硫ゴムサンプル(50mmΦ×25mm)について、静ばね定数Ksと動ばね定数Kdを下記方法により測定し、その比(Kd/Ks)を算出して動倍率を求めた。実施例1~4および比較例2については、比較例1の結果を100として指数評価を行い、実施例5~6および比較例5については、比較例4の結果を100として指数評価を行った。指数が小さいほど、加硫ゴムの動倍率が低く、動特性に優れることを意味する。
【0051】
・静ばね定数(Ks):オリエンテック(株)製テンシロンを測定機に用い、加硫ゴムサンプルについて、10mm/分のクロスヘッドスピードで0~5mm間の圧縮(20%までの圧縮)を2回繰返し、2回目の荷重-たわみ線図を描き、次式に基づいて算出した。
静ばね定数(N/mm)=(w2-w1)/(δ2-δ1)
(式中、w1はたわみ量δ1が1.3mm時の荷重(N)、w2はたわみ量δ2が3.8 mm時の荷重(N)である。)
【0052】
・動ばね定数(Kd):(株)鷺宮製作所製ダイナミックサーボを測定機に用い、初期歪(圧縮)10%、周波数100Hz、振幅±0.05mm(±0.2%)で行い、JISK6394に記載の計算方法によりを求めた(単位はN/mm)。
【0053】
[耐へたり性]
JIS-K 6262に基づき、加硫ゴムの耐ヘタリ性(CS(%)@100℃,250h)を評価した。評価は、実施例1~4および比較例2については、比較例1の結果を100として指数評価を行い、実施例5~6および比較例5については、比較例4の結果を100として指数評価を行った。指数が小さいほど、加硫ゴムの耐へたり性に優れることを意味する。
【0054】
【0055】
結果は表1に示す通りであり、コントロールである比較例1に対し、天然ゴム、カーボンブラック、式(I)に記載の化合物および各種配合剤を乾式混合した比較例2、および天然ゴムウエットマスターバッチを使用し、式(I)に記載の化合物を使用しなかった比較例3では、低動倍率化されているものの耐へたり性は向上しないことがわかる。一方、天然ゴムウエットマスターバッチおよび式(I)に記載の化合物の両方を使用する実施例1~4では、耐へたり性が顕著に改善するとともに、比較例2および比較例3に比して、顕著に低動倍率化されることがわかる。なお、実施例1~4に比してカーボンブラックを変更した実施例5~6でも、同様の効果が得られることがわかる。