(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車内装部品用成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20230322BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20230322BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20230322BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20230322BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/04
C08K3/10
C08K5/103
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2019042006
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】三戸 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】安元 一寿
(72)【発明者】
【氏名】村上 英明
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209613(JP,A)
【文献】特開2010-280841(JP,A)
【文献】特開平10-101865(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1377044(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08L 23/04
C08K 3/10
C08K 5/103
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、かつMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であり、前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が50/50~85/15であ
り、
前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルである、ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
組成物全体の総質量に対して、前記ポリプロピレン系重合体以外に他の重合体を40質量%まで含む、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記他の重合体がポリエチレン及びエチレンとα-オレフィンとの共重合体から選択される、請求項2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、組成物全体の総質量に対してハイドロタルサイト類を0.01~5質量%含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、組成物全体の総質量に対してハイドロタルサイト類以外の無機充填剤を40質量%まで含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形して得られる自動車内装部品用成形体。
【請求項7】
前記自動車内装部品用成形体が、ドアトリム、グローブボックス、コラムカバー、インスツルメントパネル、パッケージトレイ、リアトレイ、ピラーガーニッシュ又はコンソールボックスである請求項6に記載の自動車内装部品用成形体。
【請求項8】
前記自動車内装部品用成形体が、ドアトリムである請求項6に記載の自動車内装部品用成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車内装部品用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品の材料としてポリプロピレン系の樹脂組成物が広く用いられており、静電気により内装部品に塵埃が吸着されるのを防止するために帯電防止剤を配合することが多い(例えば、特許文献1)。ところが、夏場の炎天下などの条件下で自動車内装部品が加熱されることにより、帯電防止剤が成形体表面にブリードアウトすることに起因する白濁化が顕著になり、視覚的に外観・意匠性を損ねるという問題があった。さらには、自動車内装部品の素材として配合される帯電防止剤の分解物等が夏場の炎天下で揮発物質として車内の窓ガラスに付着し油膜等を形成し、自動車運転時に運転手の視界を妨げるというガラス霞性に関する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、帯電防止性に優れ、かつ夏場の炎天下車内環境下における使用状況においても、製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず外観・意匠性を確保でき、さらには自動車運転時の安全性確保の観点からガラス霞性の良好なポリプロピレン系樹脂組成物及びその組成物を成形してなる自動車内装部品用成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、帯電防止剤として、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを特定の量で配合したポリプロピレン系樹脂組成物を開発することにより上記課題を解決した。
すなわち、本発明は下記のポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車内装部品用成形体を提供する。
【0006】
[1] ポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、かつMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であり、前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が50/50~85/15であるポリプロピレン系樹脂組成物。
[2] 組成物全体の総質量に対して、前記ポリプロピレン系重合体以外に他の重合体を40質量%まで含む、[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[3] 前記他の重合体がポリエチレン及びエチレンとα-オレフィンとの共重合体から選択される、[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[4] さらに、組成物全体の総質量に対してハイドロタルサイト類を0.01~5質量%含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[5] さらに、組成物全体の総質量に対してハイドロタルサイト類以外の無機充填剤を40質量%まで含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[6] [1]~[5]のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形して得られる自動車内装部品用成形体。
[7] 前記自動車内装部品用成形体が、ドアトリム、グローブボックス、コラムカバー、インスツルメントパネル、パッケージトレイ、リアトレイ、ピラーガーニッシュ又はコンソールボックスである[6]に記載の自動車内装部品用成形体。
[8] 前記自動車内装部品用成形体が、ドアトリムである[6]に記載の自動車内装部品用成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を成形して得られる自動車内装部品は、帯電防止性が良好であり、かつ長時間の夏場の炎天下の気象条件下においても、帯電防止剤の製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、良好な外観を保つことができ、さらにはガラス霞性も良好であるので、自動車内装部材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されない。なお、本明細書において、「~」とは、その前後の数字等を含むものとする。
【0009】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物はポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、かつMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であり、前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が50/50~85/15である。
【0010】
<ポリプロピレン系重合体>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は樹脂の主成分(すなわち、組成物全体の総質量に対して50質量%以上の割合で)としてポリプロピレン系重合体を含む。
本発明で使用するポリプロピレン系重合体は、JIS K7210-1に準じて温度230℃、荷重2.16kgで測定したMFRが5~150g/10分であることが好ましく、7~120g/10分がさらに好ましい。
【0011】
本発明で樹脂の主成分として使用されるポリプロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体(ホモと略記)、ブロック共重合体(ブロックと略記)、及びランダム共重合体(ランダムと略記)のいずれでもよく、これらの2種以上を組み合わせたものでもよい。これらのブロック共重合体及びランダム共重合体のコモノマーとしては、エチレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1などのプロピレン以外のα-オレフィン類が少なくとも一種類用いられるが、なかでもエチレン及びブテン-1が好ましい。
【0012】
<他の重合体>
本発明においては上記のポリプロピレン系重合体のみを用いてもよいが、これらのポリプロピレン系重合体と共に他の重合体を用いてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ペンテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体、プロピレン-オクテン共重合体、ブテン-ヘキセン共重合体、ブテン-オクテン共重合体、ヘキセン-オクテン共重合体等のα-オレフィン系共重合体などが挙げられる。これらの共重合体の多くはエラストマーである。本発明に用いる他の重合体としては、容易に入手できることから、ポリエチレン及びエチレンとα-オレフィンとの共重合体が好ましい。
他の重合体の配合量は、本発明の組成物全体の総質量に対して、通常40質量%まで、好ましくは30質量%までである。
【0013】
上記のポリプロピレン系重合体を製造する際、もしくはポリプロピレン系樹脂組成物から自動車内装部品用成形体を製造するに至るまでの各々のプロセスにおいて、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、使用目的に応じて、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリスチレン、ポリブタジエンあるいはポリイソプレンのスチレングラフト重合体及びこれらの水素添加で得られる共重合体エラストマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートなどの重合体などを添加してもよい。
これら重合体の配合量は、本発明の組成物全体の総質量に対して、通常5質量%まで、好ましくは3質量%までである。
【0014】
<帯電防止剤>
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物中に分散して帯電防止の作用を有する、2種の成分(成分(A)及び成分(B))を併用する。成分(A)はグリセリン脂肪酸エステル(グリセリンと高級脂肪酸のエステル化物)であり、成分(B)はポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンと高級脂肪酸のエステル化物)である。成分(A)と成分(B)の配合量は、本発明の樹脂組成物の総質量に対して、合計で0.2~1.5質量%である。下限値として好ましくは0.25質量%、さらに好ましくは0.30質量%、特に好ましくは0.35質量%であり、上限値として好ましくは1.2質量%、さらに好ましくは1.0質量%、特に好ましくは0.8質量%である。特定の帯電防止剤を所定量配合することにより、帯電防止性に優れ、かつ成形製品とした時、夏場の炎天下車内環境における使用状況においても製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、さらにはガラス霞性も良好な自動車内装部品を与える。
【0015】
成分(A)又は成分(B)を構成する脂肪酸エステルは、「炭素数10以上の炭化水素の水素原子がカルボキシル基によって置換された高級脂肪酸」のエステル化物である。上記脂肪酸エステルとしては、単量体(モノ脂肪酸エステル)が好ましい。上記モノ脂肪酸エステルを構成する炭化水素は直鎖でもよいし、分岐鎖でもよいが、ポリプロピレン系重合体との親和性の観点から直鎖であることが好ましい。また、前記炭化水素は飽和炭化水素でもよいし、不飽和炭化水素でもよいが、ポリプロピレン系重合体との親和性の観点から飽和炭化水素であることが好ましい。前記炭化水素の炭素数は、10~30が好ましく、帯電防止性を発揮する上に安価で入手容易であることから14~20がより好ましい。特にパルミチン酸(前記炭素数15)又はステアリン酸(前記炭素数17)のモノ脂肪酸エステルが好ましい。このようなモノ脂肪酸エステルは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
成分(A)はグリセリンの単量体で構成され、成分(B)はグリセリンの多量体(ポリグリセリン)で構成される。成分(B)を構成するポリグリセリンとしては、二量体、三量体、四量体などが挙げられるが、ポリプロピレン系重合体との親和性の観点から二量体であるジグリセリンが好ましい。
【0016】
本発明において、成分(A)と成分(B)の配合の質量比は、50/50~85/15であり、好ましくは60/40~80/20、さらに好ましくは65/35~75/25、特に好ましくは68/32~72/28で配合することにより、帯電防止に優れ、かつ成形製品とした時、夏場の炎天下車内環境下における使用状況においても製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、さらにはガラス霞性も良好な自動車内装部品を与える。成分(A)もしくは成分(B)が単体で使用される場合、成形体表面に層(単層)が形成され導電層として機能することで帯電防止性を引き出すが、夏場の炎天下で滲み出る場合には多層配列を形成し、これが結晶化することで白濁物として視認されると考えられる。一方、成分(A)と成分(B)が適量配合されることで導電層での分子配列の規則性が乱され多層配列・結晶化しにくくなり、結果として白濁化を生じなくなると考えられる。白濁物としての成形体表面への過剰な滲み出しが抑制されることにより、ガラス霞性も良好になると考えられる。
【0017】
<ハイドロタルサイト類>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ガラス霞性をより向上させる等の目的で、ハイドロタルサイト類を含有することが好ましい。ハイドロタルサイト類を含有することにより、夏場の炎天下で成形体表面での帯電防止剤の過剰な滲み出しが抑制される効果が増すと考えられる。
【0018】
本発明で使用されるハイドロタルサイト類は一般式
[M2+
(1-x) M3+
x (OH)2 ]x+[An-
x/n ・mH2 O]x- ・・・・(1)
(ただし、0<x≦0.33、0<m≦2)で表される化合物である。ここでM2+はMg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+などの2価金属であるが、中でもMg2+が好ましい。M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+などの3価金属であるが、中でもAl3+が好ましい。また、An-はOH- 、F- 、Cl- 、Br- 、NO3
-、CO3
2- 、SO4
2- 、Fe(CN)6
3- 、CH3 COO- 、シュウ酸イオン、サリチル酸イオンなどの1ないし3価のイオンであるが、中でもCO3
2- が好ましい。いずれもプラスに荷電した基本層[M2+
(1-x) M3+
x (OH)2 ]x+とマイナスに荷電した中間層[An-
x/n ・mH2 O]x-とが積み重なる層状構造を形成している。
【0019】
ハイドロタルサイト類は、天然物でも合成品でもよいが、不純物の混入の少ない合成品が好ましい。前記ハイドロタルサイト類は、脂肪酸等により表面処理されていてもよい。
【0020】
本発明の樹脂組成物の総質量に対する、ハイドロタルサイト類の含有量は、下限値として好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.02質量%、特に好ましくは0.03質量%であり、上限値として好ましくは5質量%、さらに好ましくは0.5質量%、特に好ましくは0.1質量%である。
上記範囲の下限値以上であると、帯電防止性を損なうことなく、ガラス霞性がより一層向上した自動車内装部品を与えることができる。
上記範囲の上限値以下であると、単純な製造コスト増とはならず、産業上大量安価に製造する場合に適する。
【0021】
<無機充填剤>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、剛性や耐熱性を向上させる等の目的で、ハイドロタルサイト類以外の無機充填剤を含有することがある。該当する無機充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、シリカ、ケイ酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム等が挙げられる。中でも、成形性、剛性と耐衝撃性のバランス等の点からタルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維が好ましく、特にタルクが好ましい。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物中の無機充填剤の含有量は、ポリプロピレン系樹脂組成物中、40質量%までが好ましく、35質量%までがさらに好ましい。
【0022】
<その他の成分>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記のポリプロピレン系重合体、エラストマー等の他の重合体、帯電防止剤、ハイドロタルサイト類、無機充填剤の他に、本願発明の効果を著しく損なわない範囲において、使用目的に応じて合成樹脂や合成ゴムの分野で広く利用されている熱、酸素、光などに対する安定剤、塩酸吸収剤、耐候剤、結晶核剤、滑剤、難燃剤、中和剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤、発泡剤、過酸化物、油展および他の有機及び無機顔料などの添加剤を添加してもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。
【0023】
熱・酸素に対する安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
光による劣化防止の耐候剤としては、アミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル酸系等の各化合物が挙げられる。
結晶核剤としては、ソルビトール系、リン系、ロジン系、有機リン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩等が挙げられる。
滑剤としては、脂肪酸アミド、高級アルコール、ポリエチレンワックス等が挙げられ、
難燃剤としては、ホスフェート系、メラミン系、リン系、ハロゲン系、ノンハロゲン系化合物等が挙げられる。
可塑剤としては、フタレート系、脂肪酸系、アジペート系、トリメリテート系、エポキシ系、ポリエステル系化合物が挙げられる。
【0024】
顔料としては、無機顔料又は有機顔料が挙げられる。無機顔料は発色部分が無機物で、成分として元素単体よりなるもの、及びZn、Pb、Ti、Sb、Cd、Fe、As、Mg、Al、Co、Crなどの酸化物、硫化物、硫酸塩などが挙げられる。有機顔料は発色部分が有機化合物であり、アゾ顔料、ポリアゾ系顔料、アチン系顔料、銅フタロシアニン顔料、ジオキサン顔料、キナクリドン顔料などが挙げられる。ポリプロピレンへの顔料の分散性向上を目的として、分散助剤(脂肪酸金属塩、ナフテン酸金属塩、界面活性剤、シリコンオイル、レシチンなどが挙げられる)を用いてもよい。
【0025】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を成形体とする場合は、通常の方法により、主成分のポリプロピレン系重合体に本発明に係る帯電防止剤を配合して製造することができ、さらに、他の重合体、ハイドロタルサイト類、無機充填剤、顔料や他の添加剤を配合してもよい。例えば、パウダー状、ペレット状のポリプロピレン系重合体及び他の重合体に、本発明に係る帯電防止剤、必要により無機充填剤、顔料その他の添加剤を配合し、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等にて混合後、一軸又は二軸の混練押出機で溶融混練してペレット化する。このようにして得たペレットを射出成形機にかけて成形体に加工する。ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが5g/10分に満たないと、射出成形における成形性が悪く、自動車内装部品用途として適さない。また、150g/10分を超える場合は、耐衝撃性に劣り、自動車内装部品用途として適さない。
【0026】
[自動車内装部品用成形体]
本発明の自動車内装部品用成形体は、上記のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより製造することができる。
成形温度は一般的には150~350℃、好ましくは170~250℃で実施される。成形温度が350℃を超えると、樹脂組成物の劣化及び成形不良の原因となり、150℃より低いと外観不良、成形不良が発生する。金型温度については、10~60℃の範囲で行うことが好ましい。金型温度が60℃を超えると成形体の表面仕上げ度が優れ、剛性に優れた成形体が得られるものの、成形サイクルが長くなり生産性が低下する。逆に、金型温度を10℃より低温に設定すると反りや収縮などが顕著になり、満足な成形体が得られにくくなるばかりか、金型に結露が生じやすくなるために金型腐食を進行させる原因となる。冷却に関わるエネルギーコストの観点からも適さない。
【0027】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を成形して得られる自動車内装部品用部品は、夏場の炎天下のような高温に長時間曝しても帯電防止剤のブリードアウトが防止され、さらに帯電防止剤に由来する成分が揮発して車内のガラスを曇らせることを防止するという効果がある。例えば、乗用車などのドアトリム、グローブボックス、コラムカバー、インスツルメントパネル、パッケージトレイ、リアトレイ、ピラーガーニッシュ、コンソールボックスなど、一般にポリプロピレン系樹脂組成物を用いて射出成形により製造されている自動車内装部品用成形体に適用して本発明の効果を奏することができる。特に帯電防止剤が多用されるドアトリムへの適用において効果は顕著である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1~15及び比較例1~5:
[ポリプロピレン系重合体及び予備組成物]
実施例及び比較例において、ポリプロピレン系重合体及び予備組成物として下記のPP-1~PP-12を使用した。なお、ポリプロピレン系重合体のMFRの測定は、重合体99.5質量%に酸化防止剤としてBASF社製B225を0.5質量%ドライブレンドした後にJIS K7210-1に準じて温度230℃、荷重2.16kgで行った。他の重合体として用いたα-オレフィン系共重合体のMFRの測定は、JIS K7210-1に準じて温度190℃、荷重2.16kgで行った。
【0030】
PP-1:重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。当該固体触媒は、MgCl2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。当該固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)及びジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの質量比が11、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、-5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度、圧力を調整することよってMFRが30g/10分のホモタイプのポリプロピレン系重合体PP-1を製造した。
【0031】
PP-2:MgCl2上にTiと内部供与体化合物としてジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを担持させた固体触媒を、特開平7-2925号公報の実施例1に記載された方法によって調製した。固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてTEALと、外部電子供与体化合物としてDCPMSを用い、固体触媒に対するTEALの質量比が18、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、室温において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。
得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を製造し、二段目の重合反応器でプロピレン-エチレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。さらに一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFRが30g/10分、エチレン-プロピレン共重合体含有量19.0質量%、エチレン-プロピレン共重合体中のエチレン含有量40質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP-2を製造した。
【0032】
PP-3:PP-2と同様の製造プロセスにより、重合中は温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用い、また一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFR40g/10分、エチレン-プロピレン共重合体含有量23.0質量%、エチレン-プロピレン共重合体中のエチレン含有量46質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP-3を製造した。
【0033】
PP-4:PP-1に対し、MFR2g/10分のエチレン-ブテン共重合体(三井化学社製、A-1050S)10質量%を混合した予備組成物。
【0034】
PP-5:PP-1に対し、MFR2g/10分のエチレン-ブテン共重合体(三井化学社製、A-1050S)30質量%を混合した予備組成物。
【0035】
PP-6:PP-1に対し、MFR10g/10分のエチレン-オクテン共重合体(ダウケミカル社製、ENGAGE8200)30質量%を混合した予備組成物。
【0036】
PP-7:PP-5に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)10質量%を混合した予備組成物。
【0037】
PP-8:PP-4に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)30質量%を混合した予備組成物。
【0038】
PP-9:PP-6に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)10質量%を混合した予備組成物。
【0039】
PP-10:PP-6に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)20質量%を混合した予備組成物。
【0040】
PP-11:MgCl2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持した固体触媒を、特開2004-27218公報の段落0032の21~36行に記載された方法により調製した。次いで、上記固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてTEALと、外部電子供与体化合物としてDCPMSを用い、固体触媒に対するTEALの質量比が20、DCPMSに対するTEALの質量比が10となる量で、12℃において24分間これらを接触させて触媒を得た。得られた触媒を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行い、予重合物を得た。得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、液相状態のプロピレンをフィードしてプロピレン単独重合体を製造し、二段目の気相重合反応器でエチレン-プロピレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFRが7g/10分、エチレン-プロピレン共重合体含有量19.5質量%、エチレン-プロピレン共重合体中のエチレン含有量55質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP-11を製造した。
【0041】
PP-12:PP-11と同様の製造プロセスにより重合中は温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用い、また一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFR110g/10分、エチレン-プロピレン共重合体含有量22.5質量%、エチレン-プロピレン共重合体中のエチレン含有量46質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP-12を製造した。
【0042】
[添加剤]
下記の添加剤を各例のポリプロピレン系樹脂組成物の製造時に配合した。
・グリセリンモノステアレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールS-100)
・ジグリセリンモノステアレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールS-71-D)
・ステアリルジエタノールアミンモノステアレート(花王株式会社製、エレクトロストリッパーTS-6B)
・ステアリルジエタノールアミン(東邦化学工業株式会社製、アンステックスSA-20)
・M2+=Mg2+、M3+=Al3+、Mn-=CO3
2- の合成品ハイドロタルサイト類(協和化学工業株式会社製、DHT-4A)
・カルシウムステアレート(淡南化学工業株式会社製)
【0043】
[ポリプロピレン系樹脂組成物の調製]
ドアトリム等の自動車内装部品を想定したポリプロピレン系樹脂組成物として、上記PP-1~PP-12に対し、酸化防止剤(BASF社製B225)0.2質量%と耐候剤(株式会社ADEKA製LA502XP)0.3質量%と無機顔料(キャボット社製カーボンブラックIP-1000が60質量%、石原産業株式会社製チタンホワイトCR-60が40質量%の混合物)0.5質量%の合計1.0質量%に加え、グリセリンモノステアレートと、ジグリセリンモノステアレートと、ステアリルジエタノールアミンと、ステアリルジエタノールアミンモノステアレートと、ハイドロタルサイト類と、カルシウムステアレートと、を表1に示す配合量(樹脂組成物全体で100質量%)で添加し、ドライブレンドした。得られたポリプロピレン系樹脂組成物を直径30mmの2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX30α)を用いて、スクリュー回転数500rpm、シリンダー温度200℃、吐出量30kg/hrの条件で溶融混練した。押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。なお、表中の「-」は配合していないことを示す。
【0044】
[MFRの測定]
各例で製造したポリプロピレン系樹脂組成物について、JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0045】
[エチレン-プロピレン共重合体成分のエチレン含有量]
ブロックタイプのポリプロピレン系重合体のエチレン-プロピレン共重合体成分のエチレン含有量は、1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、Bruker社製 AVANCE III HD 400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、13C-NMR法で測定した。
【0046】
[帯電防止性(表面抵抗率)の評価]
ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ファナック株式会社製射出成形機ROBOSHOT α-100Cにより、シリンダー設定温度190℃、金型設定温度40℃の条件下で100×100×2mmの鏡面平板を5枚以上射出成形し、自動車内装部品を想定した成形体としての試験片とした。試験片は23℃±2℃、相対湿度50±5%に管理された室内で1週間保管した後、試験に供した。JIS C2139-3-2に基づき、日置電機株式会社製SM-8220(超絶縁計)及びSME-8311(平板試験用電極)を用いて各試験片の表面抵抗率を計測した。試験片5枚の測定値の平均値として表面抵抗率を算出した。結果を表に示す。
【0047】
[ブリード性の評価]
帯電防止性評価で用いた試験片と同一の操作で得た100×100×2mmの鏡面平板1枚をポリエチレン製シートに包み、50℃のオーブン中に1週間静置した後に取り出し、試験片の表面状態を目視により観察して、以下の5段階の基準で評価した。結果を表に示す。
1:白濁が極めて多い
2:白濁が多い
3:白濁を確認できる
4:白濁が少なく目立たない
5:白濁が全く見られない
【0048】
[ガラス霞性の評価]
ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、東芝機械株式会社製射出成形機EC-160NIIにより、シリンダー設定温度230℃、金型設定温度40℃の条件化で140×300×3mmの鏡面平板を射出成形し、自動車内装部品を想定した成形体としての試験片とした。試験片を23℃±2℃、相対湿度50±5%に管理された室内で24時間以上保管した後、SAE J1756に基づき評価を実施した。すなわち、140×300×3mmの平板からφ80mmの寸法に切削した試験片3枚以上を準備し、これを温度23℃±2℃の室内に置かれたデシケータ中で24時間以上保管し除湿した。スガ試験機株式会社製ウィンドウスクリーンフォギングテスター(型式WSF-2)を用いて、槽内湿度を80℃、冷却プレートを20℃に設定、試験ビン内にφ80mmの試験片を入れ清浄な透明ガラスプレートで蓋をし、3時間後にガラスプレートを取り出し、株式会社村上色彩研究所社製光沢計(GM-26PRO)を用いて入射角60°の鏡面光沢度(%)を測定した。
ガラス霞度(%)=(試験後の鏡面光沢度)/(試験前の鏡面光沢度)×100
をガラスプレート1枚あたり4箇所計測するとともにφ80mmの試験片3枚に対して行い、平均値として算出した。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
実施例1においては、ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して、グリセリンモノステアレートからなる帯電防止剤を0.18質量%、ジグリセリンモノステアレートからなる帯電防止剤を0.07質量%、ハイドロタルサイト類を0.05質量%の割合で配合している。実施例1の樹脂組成物を射出成形して得られた成形体においては、良好な帯電防止性、優れたブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
【0054】
実施例1に対し、グリセリンモノステアレート及びジグリセリンモノステアレートの配合量を増加した実施例2~3においては、優れた帯電防止性、良好なブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
実施例2に対し、ポリプロピレン系重合体とα-オレフィン共重合体の種類と量、及びタルクの量を変更した実施例4~12においても、実施例2と同様に、優れた帯電防止性、良好なブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
実施例1に対し、ポリプロピレン系重合体の種類を変更した実施例13~14においても、実施例1と同様に、良好な帯電防止性、優れたブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
実施例2に対し、ハイドロタルサイト類を配合せず、カルシウムステアレートを0.05質量%の割合で配合した実施例15においては、優れた帯電防止性、良好なブリード性、良好なガラス霞性が発揮された。
【0055】
実施例1に対し、グリセリンモノステアレートを0.2質量%で配合し、ジグリセリンモノステアレートを配合しなかった比較例1においては、実施例1と比べて、ブリード性が悪化していた。
実施例1に対し、グリセリンモノステアレートを0.1質量%で配合し、ジグリセリンモノステアレートを配合せず、ステアリルジエタノールアミンを0.1質量%で配合した比較例2においては、実施例1と比べて、ガラス霞性が悪化していた。
実施例1に対し、グリセリンモノステアレート及びジグリセリンモノステアレートを配合せず、ステアリルジエタノールアミンモノステアレートを0.3質量%で配合した比較例3においては、実施例1と比べて、ガラス霞性が悪化していた。
実施例1に対し、グリセリンモノステアレートを0.07質量%、ジグリセリンモノステアレートを0.03質量%で配合した比較例4においては、実施例1と比べて、帯電防止性が悪化していた。
実施例2に対し、グリセリンモノステアレートを0.12質量%、ジグリセリンモノステアレートを0.28質量%で配合した(グリセリンモノステアレートとジグリセリンモノステアレートの配合量を逆にした)比較例5においては、実施例2と比べて、帯電防止性が悪化していた。
【0056】
以上の試験結果から、本発明に係る成形体は、帯電防止性、ブリード性、及びガラス霞性がバランスよく優れていることが明らかである。一方、成分(B)が欠ける場合はブリード性又はガラス霞性が不良となり、成分(A)と成分(B)の合計量が少ない場合は帯電防止性が不良となり、成分(A)と成分(B)の合計量に対する成分(B)の質量比が高すぎる場合は帯電防止性が悪化することが理解される。また、ハイドロタルサイト類は、特に優れたガラス霞性を発揮するうえで有用であることが分かる。