(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ワイヤロープ用心材,ワイヤロープおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2019099207
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 茂樹
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105297503(CN,A)
【文献】特開2006-009174(JP,A)
【文献】特開平06-257078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00 - 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実な樹脂からつくられ,外周面に,複数本の側ストランドのそれぞれを収めて撚り合わせるためのらせん状の複数の溝が形成されており,上記溝のピッチ長さが,上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さよりも短
く,
上記溝のピッチ長さが,上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さの80%以上100%未満である,
ワイヤロープ用心材。
【請求項2】
中実な樹脂からつくられ,外周面に,複数本の側ストランドのそれぞれを収めて撚り合わせるためのらせん状の複数の溝が形成された心材,および
上記心材の複数の溝に沿って,上記溝のピッチ長さよりも長いピッチ長さで撚り合わされた複数本の側ストランドを備
え,
上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さが,上記溝のピッチ長さの100%よりも長くかつ120%未満である,
ワイヤロープ。
【請求項3】
中実な樹脂からつくられ,外周面に複数本の側ストランドのそれぞれを収めて撚り合わせるためのらせん状の複数の溝が形成された心材であって,上記側ストランドが上記溝に沿って撚り合わされるときのピッチ長さL2よりも短いピッチ長さL1で上記複数の溝が形成された心材を巻き回した供給ドラムを用意し,
上記供給ドラムから繰り出される心材の複数の溝のそれぞれに,上記複数の側ストランドのそれぞれを収めながら,上記ピッチ長さL2によって上記複数の側ストランドを上記心材の周囲に撚り合わせる
ワイヤロープの製造方法であって,
上記複数の溝のピッチ長さL1が,上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さL2の80%以上100%未満であり,
上記撚り合わせによって回転する心材の回転方向と逆方向に上記供給ドラムを回転させる,
ワイヤロープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はワイヤロープ用心材に関するもので,クレーン,リフト,その他設備ないし施設において特に動索として用いられるワイヤロープの心材に関する。また,この発明は上記心材を用いたワイヤロープおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープは,ワイヤロープを構成するストランドによって周囲から締め付けられることでロープ直径が次第に細くなり,長手方向に伸びが生じることがある。ワイヤロープの伸びは,ワイヤロープがクレーン,リフト等の動索として用いられる場合に発生しやすく,長手方向に生じた伸びは切り詰めなければならない。
【0003】
特許文献1はロープの心材に樹脂製心材を用いるものを記載する。樹脂製心材は周囲から締め付けられたときの減径が少なく,したがって樹脂製心材を用いたロープは長手方向の伸びが少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
特許文献1は断面が星形状の樹脂製心材を有するエレベータ用ロープを開示する(
図7)。樹脂の温度が高く外力によって容易に変形する状態で外側から側ストランドを撚ることによって,樹脂製心材が変形し,その断面が星形状にされる。樹脂の温度を高めるには当然に樹脂製心材を加熱しなければならない。また,側ストランドを撚った後に樹脂製心材を冷却して固化させる必要もある。
【0006】
温度管理を不要とするためには,あらかじめ外周面に溝を形成した樹脂製心材を用意し,溝に沿って側ストランドを撚り合わせることが考えられる。側ストランドをらせん状に撚り合わせる場合であれば,樹脂製心材の外周面にはらせん状の溝が形成される。
【0007】
ここで,樹脂製心材に側ストランドを撚り合わせると,樹脂製心材の鉛直方向(周囲から中心に向かう向き)に大きな応力が加わる。樹脂製心材にあらかじめ形成されるらせん状の溝に沿って側ストランドが撚り合わされると,樹脂製心材に加わる応力は樹脂製心材の長手方向に伝達され,樹脂製心材にあらかじめ形成されたらせん状の溝のピッチを伸ばす向きに樹脂製心材を回転させる力が働く。樹脂製心材の回転は樹脂製心材にキンクを生じさせることがあるので,これを防ぐために,供給される樹脂製心材が巻き回されている供給ドラムを,樹脂製心材が逆回転することになる向きに回転させることが行われている。ワイヤロープの製造速度があがればあがるほど,供給ドラムを比較的高速に回転させなければならない。
【発明の開示】
【0008】
この発明は,樹脂製心材の供給ドラムの回転速度を少なくとも遅くすることを目的とする。
【0009】
この発明によるワイヤロープ用心材は,中実な樹脂からつくられ,外周面に,複数本の側ストランドのそれぞれを収めて撚り合わせるためのらせん状の複数の溝が形成されており,上記溝のピッチ長さが,上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さ(ロープピッチの長さ)よりも短いことを特徴とする。
【0010】
この発明によるワイヤロープ用心材は,中実な樹脂の外周面に,複数本の側ストランドを収めて撚り合わせるための複数の溝をらせん状に形成したものである。複数本の側ストランドは,心材のらせん状溝に収められた状態で,心材の周囲に撚り合わされる。
【0011】
樹脂製心材の外周面にあらかじめ形成されたらせん状溝に沿って側ストランドを撚り合わせると,撚り合わせ後の心材のらせん状溝のピッチ長さは,撚り合わせ前の心材のらせん状溝のピッチ長さよりも長くなる。これは,心材の周囲に撚り合わされた側ストランドがらせん状の溝に沿うので,側ストランドによって心材が締め付けられることによって心材に加わる応力が,心材の鉛直方向のみならず長手方向にも作用し,らせん状溝のピッチ長さを伸ばす方向(らせんを緩める方向,ねじれを戻す(抜く,解く)方向)に心材を回転させるためである。
【0012】
心材が回転することで生じるキンクを避けるには,心材を逆回転させる,すなわち,伸ばされたらせん状溝のピッチ長さを短くする方向に心材を回転させればよい。心材を供給する供給ドラムを心材の回転方向と逆方向に回転させることによって,心材を逆回転させることができる。伸ばされたらせん状溝のピッチ長さを元に戻す(短くする)ことができ,これによってキンクの発生が未然に防止される。供給ドラムの回転を,以下,「ねじれ入れ回転」と呼ぶ。
【0013】
この発明によると,側ストランドを心材の外周面に撚り合わせたときのピッチ長さ(ロープピッチの長さ)と一致するピッチ長さではなく,ロープピッチの長さよりも短いピッチ長さを持つように,心材の外周面にらせん状溝があらかじめ形成されている。心材の外周面のらせん状溝のピッチ長さがあらかじめ短く形成されているので,キンク発生を防止するための上述した供給ドラムのねじれ入れ回転の回転速度を遅くする,またはねじれ入れ回転を無くすことができる。
【0014】
理論上は,心材の外周面にあらかじめ形成されるらせん状溝のピッチ長さをロープピッチよりも短く形成しておくことによって,供給ドラムのねじれ入れ回転を無くす,すなわち供給ドラムの回転機構を不要にすることも可能である。しかしながら,らせん状溝のピッチ長さが短すぎると,心材の周囲に側ストランドを撚り合わせるときに(一般には撚り線機が用いられる),側ストランドが溝内に収められずに溝から外れて心材の周囲に撚り合わされてしまうことがある。
【0015】
好ましくは,上記複数の溝のピッチ長さが,上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さ(ロープピッチの長さ)の80%以上100%未満である。心材のらせん状溝のピッチ長さ(心材のらせん状溝のピッチ長さとワイヤロープのロープピッチの長さとの比)を種々に異ならせて試験を行ったところ,ロープピッチの80%以上のらせん状溝のピッチ長さがあれば,側ストランドを心材の溝に収めながら,心材に側ストランドを撚り合わせることができ,側ストランドが溝から外れて撚り合わされてしまうことがなかった。心材のらせん状溝のピッチ長さをロープピッチの80%以上100%未満で形成しておくことによって,心材を供給する供給ドラムのねじれ入れ回転の回転速度を遅くすることができ,かつ心材のらせん状溝に沿って側ストランドが撚り合わされたワイヤロープを製造することができる。
【0016】
ロープピッチの長さを基準にしてらせん状溝のピッチ長さを規定するのに代えて,らせん状溝の長さを基準にしてロープピッチを規定してもよい。この発明は,中実な樹脂からつくられ,外周面に,複数本の側ストランドのそれぞれを収めて撚り合わせるためのらせん状の複数の溝が形成された心材,および上記心材の複数の溝に沿って,上記溝のピッチ長さよりも長いピッチ長さで撚り合わされた複数本の側ストランドを備えているワイヤロープも提供する。心材の外周面のらせん状溝のピッチ長さが相対的に短くなるように,側ストランドを撚り合わせるときのピッチ長さ(ロープピッチ)が長くされているので,キンク発生を防止するための上述した供給ドラムのねじれ入れ回転の回転速度を遅くする,またはねじれ入れ回転を無くすことができる。上述したように,撚り線機によって側ストランドを溝内に収めるためには,好ましくは上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせるときのピッチ長さ(ロープピッチの長さ)を,上記溝のピッチ長さの100%よりも長くかつ120%未満とするとよい。
【0017】
この発明によるワイヤロープの製造方法は,中実な樹脂からつくられ,外周面に複数本の側ストランドのそれぞれを収めて撚り合わせるためのらせん状の複数の溝が形成された心材であって,上記側ストランドが上記溝に沿って撚り合わされたときのピッチ長さL2よりも短いピッチ長さL1で上記複数の溝が形成された心材を巻き回した供給ドラムを用意し,上記供給ドラムから繰り出される心材の複数の溝のそれぞれに,上記複数の側ストランドのそれぞれを収めながら,上記ピッチ長さL2によって上記複数の側ストランドを上記心材の周囲に撚り合わせる。
【0018】
好ましくは,上記複数の溝のピッチ長さL1が,上記側ストランドを上記溝に沿って撚り合わせたときのピッチ長さL2の80%以上100%未満であり,上記撚り合わせによって回転する心材の回転方向と逆方向に上記供給ドラムを回転させる。上述したように,キンク発生を防止するための供給ドラムの回転速度を少なくとも遅くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)は側ストランドが撚り合わされる前の心材を,(B)は心材を中心にしてその周囲に側ストランドが撚り合わされたワイヤロープを,それぞれ示す。
【
図2】
図1(A)のII-II線に沿う拡大端面図である。
【
図3】
図1(B)のIII-III線に沿う拡大断面図である。
【実施例】
【0020】
図1(A)は側ストランド4が撚り合わされる前の心材2を,
図1(B)は心材2の周囲に6本の側ストランド4が撚り合わされたワイヤロープ1を,それぞれ示している。
図2は
図1(A)のII-II線に沿う端面図である。
図3は
図1(B)のIII-III線に沿う断面図である。
【0021】
ワイヤロープ1は,長尺の心材2と,心材2の周囲に撚り合わされた複数本の,この実施例では6本の,側ストランド4とを備えている。
【0022】
心材2は,たとえばポリエチレン,ポリプロピレン,ポリウレタン,その他の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂からつくられ,比較的つぶれにくく(減径しにくく),かつ柔軟性に富む。心材2は中実につくられ,かつその外周面に,心材2の長手方向にらせん状にのびる,6つの内向き弧状の溝3が形成されている。6つの溝3のそれぞれに1本ずつの側ストランド4が収められかつ撚り合わされる(クロージング)。
【0023】
図3を参照して,側ストランド4のそれぞれは,直径の異なる複数の鋼線(素線)を断面円形に撚り合わせることによって構成される。側ストランド4の構成(素線数,素線径等)は任意とすることができるが,直径については心材2の外周面に形成される溝3の大きさに沿うものが用いられる。心材2の外周面に形成された溝3に沿って側ストランド4が心材2の周囲にきつく撚り合わされる。側ストランド4は心材2によって内側から支えられる。
【0024】
図1(A),(B)を対比して,側ストランド4をクロージングする前の心材2のらせん状溝3のピッチ長さL1(
図1(A))(溝3がちょうど1回転する2点を心材2の中心に平行に測ったときの長さ)は,側ストランド4をクロージングした後の心材2のらせん状溝3のピッチ長さ(これはワイヤロープ1のロープピッチの長さ(側ストランド4がちょうど1回転する2点をワイヤロープ1と平行に測ったときの長さ)と等しい)L2(
図1(B))よりも短い(L1<L2)。詳細は後述するが,心材2は,側ストランド4がクロージングされたときに,その溝ピッチが伸びる方向(らせんを緩める方向,ねじれを戻す(抜く,解く)方向)に回転する。すなわち,側ストランド4がクロージングされると,心材2のらせん状溝3のピッチは長くなる。ワイヤロープ1のロープピッチ長さL2よりも短い溝ピッチ長さL1を持つ心材2をあらかじめ作成する技術的意義の詳細は後述する。
【0025】
図2および
図3を参照して,側ストランド4がクロージングされる(さらにはワイヤロープ1がしばらく使用される)ことで,心材2の直径はわずかには減径する(D1<D2)。もっとも,心材2の減径率は小さく,上述した心材2のらせん状溝3のピッチの伸びは,心材2が周囲から押圧されて減径することに起因せず,心材2が回転することに起因する。
【0026】
図4はワイヤロープ1の製造装置を概略的に示している。
【0027】
心材供給ドラム11に上述した心材2が巻き回されている。心材供給ドラム11から心材2が繰り出される。
【0028】
心材供給ドラム11はドラム回転装置12に回転可能に固定され,心材供給ドラム11の全体を,心材2にねじれを入れる方向(らせん状溝3のピッチを短くする方向)に回転させることができる。心材2は上述したように熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂によってつくられているので,ある程度のねじれが加えられても破壊されることはない。心材供給ドラム11の回転についての詳細は後述する。
【0029】
心材供給ドラム11から繰り出された心材2は撚り線機20に進む。
【0030】
撚り線機20はかご形撚り線機であり,その全体にわたってのびる回転軸25を備え,回転軸25に3つのディスク21,22,23が,ほぼ等間隔に固定されている。ディスク21,22の間,ディスク22,23の間に,それぞれ3つずつ,合計6つの側ストランド・ドラム24が支持されている。側ストランド・ドラム24のそれぞれに,上述した側ストランド4が巻き回されている。
【0031】
かご型撚り線機20の回転軸25が回転すると,ディスク21,22,23が回転軸25を中心に回転する。ディスク21,22,23の回転に伴って側ストランド・ドラム24のそれぞれも大きな弧を描いて回転する。
【0032】
心材供給ドラム11から繰り出された心材2および6つの側ストランド・ドラム24のそれぞれから繰り出された6本の側ストランド4は,ディスク23にあけられたガイド孔(図示略)を通されて,かご型撚り線機20の外部に導かれる。
【0033】
かご型撚り線機20から送り出された1本の心材2,および6本の側ストランド4は,集合器(ボイス)31において集められ,かつ撚り合わされてワイヤロープ1となる。上述したように,心材2の周囲に形成されたらせん状溝3のそれぞれに側ストランド4が1本ずつ収められ,側ストランド4は溝3に収められた状態で心材2の周囲にらせん状に撚り合わされる。ワイヤロープ1はキャプスタン32を経て巻取りドラム33に巻き取られる。側ストランド4のばらけを防止するために,集合器31とキャプスタン32の間において,プレフォーマ(図示略)によって6本の側ストランド4のそれぞれを型付けてもよい。
【0034】
心材2が断面円形であれば,心材2の周囲に側ストランド4がクロージングされたときに心材2に加わる応力は,心材2の鉛直方向(周囲から中心に向かう方向)を向き,心材2は回転しない。しかしながら,心材2の外周面にらせん状に形成された溝3に側ストランド4を収めながら撚り合わせると,心材2に加わる応力は,鉛直方向のみならず,心材2の長手方向にも作用する。このため,クロージングのときに,心材2には,心材2を回転させる力が働き,らせん状溝3のピッチが伸ばされる(ねじれが解かれる方向の回転)。Z撚りのワイヤロープ1の場合(
図1参照),心材2は出口側から見て(巻取側から供給側を見た向き)時計周りに回転する。
【0035】
上述したように,心材2は中実な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂によって作られている。樹脂が持つ柔軟性により,心材2はある程度のねじれが加えられたとしても破壊されてしまうことはない。
【0036】
集合器31において心材2には側ストランド4がきつく撚り合わされるので,集合器31よりも出口側において心材2は側ストランド4によって周囲から強く拘束され,心材2の回転は生じない。心材2の回転は心材2の入り口側(心材供給ドラム11側)に伝達される。
図4にはクロージングに伴う心材2の回転の様子が破線によって示されている。
【0037】
心材2に形成されたらせん状溝3のピッチ長さを伸ばす回転方向(出口側から見て時計回りの方向)に心材2が回転しつづけると,心材供給ドラム11とかご型撚り線機20の間において心材2にキンクが生じてしまうことがある。これを防止するために,心材供給ドラム11は,ドラム回転装置12によって,心材2の回転と逆方向,すなわち心材2にねじれを入れる方向に回転させられる。クロージングに伴う心材2の回転が出口側から見て時計周りの場合,ドラム回転装置12によって心材供給ドラム11は反時計周りに回転させられる。
【0038】
ここで,上述したように,心材2の外周面のらせん状溝3のピッチ長さL1は,ワイヤロープ1の撚りピッチ長さL2よりも短い。すなわち,ドラム回転装置12によって心材2に入れられるねじれの一部が,あらかじめ心材2に付与されている。このため,キンク発生の防止のために行われる,らせん状溝3のピッチ長さを短くするための心材供給ドラム11の回転を,たとえばワイヤロープ1の撚りピッチ長さL2と一致する溝ピッチ長さを持つ心材を用いる場合に比べて,遅くすることができる。
【0039】
表1は,らせん状溝3のピッチ長さL1とワイヤロープ1のロープピッチの長さL2の比を様々に異ならせたときの,ドラム回転装置12による心材供給ドラム11の回転に伴う,心材2へのねじれ入れ回数を示している。表1に示すねじれ入れ回数は,上述したキンクの発生を防止するために,かご型撚り線機20が何回回転するたびに心材供給ドラム11を1回回転させる必要があるかを示している。なお,キャプスタン32によるワイヤロープ1の引出し速度およびかご型撚り線機20の回転速度は一定としている。
【0040】
【0041】
ロープピッチL2と一致する長さのピッチでらせん状溝3が形成されている場合(比較例1),撚り入れ回数は1/14である。すなわち,かご型撚り線機20が14回転するたびに1回転する割合(回転速度)で,心材供給ドラム11を回転させる必要があることを意味する。
【0042】
らせん状溝3のピッチ長さL1をロープピッチL2よりも短く形成しておくことによって,ねじれ入れ回数は格段に減少する。実施例1を参照して,ロープピッチL2の95%のピッチ長さL1でらせん状溝3を形成することによってねじれ入れ回数は1/35に減少する。実施例2を参照して,ロープピッチL2の90%のピッチ長さL1でらせん状溝3を形成することによってねじれ入れ回数は1/60にさらに減少する。実施例3を参照して,ロープピッチL2の80%のピッチ長さL1でらせん状溝3を形成することによってねじれ入れ回数は1/170にさらに減少する。
【0043】
比較例2を参照して,ロープピッチL2の70%にまでらせん状溝3のピッチ長さL1を短くすると,かご型撚り線機20を用いたクロージング工程において,側ストランド4が溝3内に収まらず,溝3から外れて心材2に撚り合わされる現象が見られた。かご型撚り線機20を用いて側ストランド4を心材2の溝3内にきちんと収めて撚り合わせるためには,現実的にはらせん状溝3のピッチ長さL1の下限が存在する。もっともこの下限は心材2の素材,心材2の直径,その他によっていくらか変動すると考えられる。
【0044】
なお,比較例3を参照して,ロープピッチL2の105%のピッチ長さL1でらせん状溝3を形成したところ,ねじれ入れ回数は1/8に増加した。比較例4を参照して,ロープピッチL2の120%のピッチ長さL1でらせん状溝3を形成したところ,かご型撚り線機20を用いたクロージング工程において側ストランド4が溝3内に収まらず,溝3から外れて心材2に撚り合わされる現象が見られた。
【0045】
いずれにしても,心材2のらせん状溝3のピッチ長さL1を,ロープピッチの80%以上100%未満で形成しておくことによって,心材2を供給する心材供給ドラム11のねじれ入れ回転の回転速度を遅くすることができ,かつ心材2のらせん状溝3に沿って側ストランド4を撚り合せたワイヤロープ1を製造することができた。
【符号の説明】
【0046】
1 ワイヤロープ
2 心材
3 溝
4 側ストランド
11 心材供給ドラム
12 ドラム回転装置
20 かご型撚り線機
24 側ストランド・ドラム
31 集合器(ボイス)
32 キャプスタン
33 巻取りドラム