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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230322BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P5/46 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019102400
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020198677
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金城 博文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠二
(72)【発明者】
【氏名】川崎 宏冶
(72)【発明者】
【氏名】八田 素嘉
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-300800(JP,A)
【文献】特開平07-123724(JP,A)
【文献】特開2010-183719(JP,A)
【文献】特表2015-531226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、
第1交流モータ及び第2交流モータと、
前記直流電源と前記第1交流モータの間に接続されており、第1スイッチング素子のスイッチング動作によって前記直流電源の電力を前記第1交流モータの駆動電力に変換する第1インバータと、
前記直流電源と前記第2交流モータの間に接続されており、第2スイッチング素子のスイッチング動作によって前記直流電源の電力を前記第2交流モータの駆動電力に変換する第2インバータと、
前記第1インバータの直流端の正極と負極の間に接続されている平滑コンデンサと、
前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子を制御するコントローラと、
を備え、
前記平滑コンデンサに接続されている電力線の寄生インダクタンスと前記平滑コンデンサとで構成されるLC回路が共振周波数を有しており、
前記コントローラは、
前記第1スイッチング素子から前記平滑コンデンサに伝達するノイズ及び前記第2スイッチング素子から前記平滑コンデンサに伝達するノイズのそれぞれの周波数(ノイズ周波数)が前記共振周波数を含む所定の周波数領域に属する場合に、前記第1スイッチング素子から前記平滑コンデンサまでの電流伝達特性の前記共振周波数における位相と、前記第2スイッチング素子から前記平滑コンデンサまでの電流伝達特性の前記共振周波数における位相との差(LC位相差)に応じて前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子のそれぞれのスイッチング周波数の位相差(スイッチング位相差)を調整する、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記LC位相差が180度のときには前記スイッチング位相差をゼロから90度の間に調整し、前記LC位相差がゼロのときには前記スイッチング位相差を90度から270度の間に調整する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記LC回路は、前記LC位相差が180度となる第1共振周波数と、前記LC位相差がゼロとなる第2共振周波数を有しており、
前記コントローラは、
前記第1共振周波数と前記第2共振周波数の間の所定の閾値周波数を記憶しており、
前記ノイズ周波数が前記閾値周波数よりも前記第1共振周波数側の場合に、前記スイッチング位相差をゼロから90度の間に調整し、
前記ノイズ周波数が前記閾値周波数よりも前記第2共振周波数側の場合に、前記スイッチング位相差を90度から270度の間に調整する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1スイッチング素子に対する駆動信号を生成するときに用いるキャリア信号の位相と、前記第2スイッチング素子に対する駆動信号を生成するときに用いるキャリア信号の位相との差を調整することで、前記スイッチング位相差を調整する、請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記直流電源の温度が所定の閾値温度よりも低い場合に、前記スイッチング位相差をゼロに調整する、請求項1から4のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記LC位相差と前記スイッチング位相差の合計の絶対値が180度となるように前記スイッチング位相差を調整する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、2個の交流モータを備えているモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2個の交流モータを備えているモータ駆動装置は、例えば、電気自動車に搭載される。電気自動車のモータ駆動装置は、2個の走行用の交流モータに対応して2個のインバータを備えている。それぞれのインバータの直流端は電源に接続されており、交流端が交流モータに接続されている。
【0003】
インバータはスイッチング素子を使って電力を変換する。スイッチング素子の動作に起因してスイッチングノイズが発生する。インバータの直流端の正極と負極の間には、スイッチングノイズを抑える平滑コンデンサが接続される。なお、スイッチングノイズはリプル電流とも呼ばれている。
【0004】
平滑コンデンサに接続される電力線には寄生インダクタンスが伴うため、寄生インダクタンスと平滑コンデンサはLC回路を構成し、所定の共振周波数を有することになる。スイッチングノイズの周波数が所定の共振周波数の近くになると、スイッチングノイズの振幅が増幅する。
【0005】
特許文献1に開示されているように、スイッチングノイズの周波数は、スイッチング素子に対する駆動指令(即ちPWM信号)を生成する際のキャリア信号の周波数(即ちスイッチング周波数)に基づいて決まる。特許文献1では、スイッチングノイズの周波数が所定の共振周波数の近くにならないように、スイッチング周波数を調整して、スイッチングノイズの振幅が増幅することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-531226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、スイッチングノイズの増幅を抑制するためにスイッチング周波数を上げると、スイッチング素子の負荷が高まり、スイッチング素子を冷却するための冷却器の冷却性能を高める必要がある。また、スイッチング周波数を下げると、スイッチング周波数が可聴域に近づき、騒音対策が必要となる。
【0008】
本明細書では、2個の交流モータを備えているモータ駆動装置において、スイッチング周波数を変えることなく、スイッチングノイズの振幅が増幅することを抑制するための技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書が開示するモータ駆動装置は、直流電源と、第1交流モータ及び第2交流モータと、前記直流電源と前記第1交流モータの間に接続されており、第1スイッチング素子のスイッチング動作によって前記直流電源の電力を前記第1交流モータの駆動電力に変換する第1インバータと、前記直流電源と前記第2交流モータの間に接続されており、第2スイッチング素子のスイッチング動作によって前記直流電源の電力を前記第2交流モータの駆動電力に変換する第2インバータと、前記第1インバータの直流端の正極と負極の間に接続されている平滑コンデンサと、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子を制御するコントローラと、を備える。前記平滑コンデンサに接続されている電力線の寄生インダクタンスと前記平滑コンデンサとで構成されるLC回路が共振周波数を有している。前記コントローラは、前記第1スイッチング素子から前記平滑コンデンサに伝達するノイズ及び前記第2スイッチング素子から前記平滑コンデンサに伝達するノイズのそれぞれの周波数(ノイズ周波数)が前記共振周波数を含む所定の周波数領域に属する場合に、前記第1スイッチング素子から前記平滑コンデンサまでの電流伝達特性の前記共振周波数における位相と、前記第2スイッチング素子から前記平滑コンデンサまでの電流伝達特性の前記共振周波数における位相との差(LC位相差)に応じて前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子のそれぞれのスイッチング周波数の位相差(スイッチング位相差)を調整する。
【0010】
ノイズ周波数が所定の周波数領域に属する場合に、第1スイッチング素子から平滑コンデンサに伝達するノイズと第2スイッチング素子から平滑コンデンサに伝達するノイズが重畳して大きなノイズとなる場合がある。しかし、両ノイズの位相差が調整可能であれば、両ノイズが重畳するものの、両ノイズが相殺されて、大きなノイズとなることを抑制することが可能となる。一般に、両ノイズの位相差は、スイッチング位相差を調整することによって調整可能である。上記の構成によれば、ノイズ周波数が所定の周波数領域に属する場合に、第1スイッチング素子の電流伝達特性の共振周波数における位相と第2スイッチング素子の電流伝達特性の共振周波数における位相との差を示すLC位相差に応じてスイッチング位相差を調整することによって、両ノイズを相殺するように各ノイズの位相差を調整することができる。これにより、大きなノイズとなることを抑制することができる。
【0011】
コントローラは、LC位相差が180度のときにはスイッチング位相差をゼロから90度の間に調整し、LC位相差がゼロのときにはスイッチング位相差を90度から270度の間に調整してもよい。別言すれば、コントローラは、LC位相差とスイッチング位相差の合計の絶対値が180度となるようにスイッチング位相差を調整してもよい。なお、LC位相差は、概ねゼロ度、あるいは、概ね180度であればよい。例えば、±45度のずれがある場合でも、ゼロ度、あるいは、180度みなしてもよい。上記のようにスイッチング位相差を調整することによって、平滑コンデンサに到達する第1スイッチング素子からのノイズと第2スイッチング素子からのノイズが逆位相となり、両者を相殺することができる。
【0012】
また、コントローラは、直流電源の温度が所定の閾値温度よりも低い場合に、スイッチング位相差をゼロに調整してもよい。一般に、直流電源の内部抵抗は、直流電源が低温になるほど増加する傾向にある。直流電源の温度が所定の閾値温度よりも低い場合には、スイッチング位相差をゼロに、即ち、ノイズを相殺するようなスイッチング位相差の調整を実行しないことによって、相殺されずに重畳したノイズが直流電源に伝達する。このノイズによって、直流電源が発熱し、直流電源の温度が上昇する。直流電源の温度が上昇して、内部抵抗を低減することができる。
【0013】
また、LC回路は、LC位相差が180度(上記のずれがあってもよい)となる第1共振周波数と、LC位相差がゼロ(上記のずれがあってもよい)となる第2共振周波数を有していてもよい。そして、コントローラは、第1共振周波数と第2共振周波数の間の所定の閾値周波数を記憶しており、ノイズ周波数が閾値周波数よりも第1共振周波数側の場合に、スイッチング位相差をゼロから90度の間に調整し、ノイズ周波数が閾値周波数よりも第2共振周波数側の場合に、スイッチング位相差を90度から270度の間に調整してもよい。このような構成によれば、予め記憶されている所定の閾値周波数を利用して、第1共振周波数側の領域と第2共振周波数側の領域とのそれぞれにおいて第1スイッチング素子からのノイズと第2スイッチング素子からのノイズを逆位相にして相殺することができる。
【0014】
また、具体的には、コントローラは、第1スイッチング素子に対する駆動信号を生成するときに用いる第1キャリア信号の位相と、第2スイッチング素子に対する駆動信号を生成するときに用いる第2キャリア信号の位相との差を調整することで、スイッチング位相差を調整してもよい。
【0015】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例のモータ駆動装置のブロック図である。
図2】電源線の寄生インダクタンスと平滑コンデンサの系の電流伝達特性を示す図である。
図3】電源のインダクタンスと平滑コンデンサの系の電流伝達特性を示す図である。
図4】位相調整処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(モータ駆動装置10の構成;図1
図面を参照して実施例のモータ駆動装置10を説明する。モータ駆動装置10は、電気自動車100に搭載されている。モータ駆動装置10は、2個の走行用のモータ12a、12bを備えている。モータ12a、12bは、三相交流電力で駆動する交流モータである。また、モータ駆動装置10は、さらに、電力変換装置20と、直流電源40(以下では、「電源40」と記載)と、を備える。電気自動車100は、モータ12a、12bの双方の動力で走行することも可能であるし、モータ12aの動力のみで走行することも可能である。また、電気自動車100は、モータ12a、12bだけでなく、不図示のエンジンを備えており、当該エンジンの動力で走行することも可能である。
【0018】
電源40は、リチウムイオンバッテリである。電源40は、ニッケル水素バッテリであってもよいし、鉛蓄電池であってもよい。あるいは、電源40は燃料電池であってもよい。
【0019】
電力変換装置20は、電源40とモータ12aとの間、及び、電源40とモータ12bとの間で電力を変換する。電力変換装置20は、電源40から出力される直流電力をモータ12a(又はモータ12b)の駆動電力(即ち三相交流電力)に変換可能であるとともに、モータ12a(又はモータ12b)で発電された交流電力を電源40に供給可能な直流電力に変換可能である。即ち、モータ駆動装置10は、電気自動車100の制動時に発生する回生電力を電源40に供給して、電源40を充電可能である。電力変換装置20は、2個のインバータ24a、24bと、2個の平滑コンデンサ26a、26bと、コントローラ28と、を備える。
【0020】
インバータ24aは、電源40とモータ12aとの間に接続されている。インバータ24aは、電源40から出力される直流電力をモータ12aの駆動電力に変換可能であるとともに、モータ12aから出力される回生電力を直流電力に変換可能である。
【0021】
インバータ24bは、電源40とモータ12bとの間に接続されている。インバータ24bは、電源40から出力される直流電力をモータ12bの駆動電力に変換可能であるとともに、モータ12bから出力される回生電力を直流電力に変換可能である。
【0022】
インバータ24a、24bは、複数個のスイッチング素子で構成される。インバータは、スイッチング素子のスイッチング動作によって直流電力を交流電力に変換する。インバータの構成及び動作原理は、よく知られているので、説明を省略する。
【0023】
平滑コンデンサ26aは、インバータ24aの直流端の正極と負極の間に接続されている。また、平滑コンデンサ26bは、インバータ24bの直流端の正極と負極の間に接続されている。平滑コンデンサ26a、26bによって、インバータ24a、24bのスイッチングノイズ(即ちリプル電流)が抑えられる。
【0024】
コントローラ28は、インバータ24a、24b内のスイッチング素子を制御する。具体的には、コントローラ28は、上位のコントローラ(図示省略)から取得される目標指令に基づいて、各スイッチング素子のゲート電極に入力されるPWM(Pulse Width Modulationの略)信号(即ちスイッチング周波数とデューティ比)を生成する。そして、コントローラ28は、生成済みのPWM信号を各スイッチング素子に供給する。
【0025】
図1に示すように、インバータ24aは、電力線23aを介して、電源40に接続されており、インバータ24bは、電力線23bを介して、電源40に接続されている。電力線23a、23bは、それぞれ、寄生インダクタンスを有する。このため、モータ駆動装置10内には、電力線23a、23bの寄生インダクタンスと平滑コンデンサ26a、26bとで構成されるLC回路(以下、「第1LC回路」と記載)が存在する。第1LC回路は、所定の共振周波数(以下、「第1共振周波数」と記載)を有する。第1共振周波数は、主に、電力線の寄生インダクタンスの値と平滑コンデンサの静電容量によって決まる。
【0026】
また、電源40もインダクタンスを有する。このため、モータ駆動装置10内には、電源40のインダクタンスと平滑コンデンサ26a、26bとで構成されるLC回路(以下、「第2LC回路」と記載)が存在する。第2LC回路は、所定の共振周波数(以下、「第2共振周波数」と記載)を有する。第2共振周波数は、主に、電源40のインダクタンスの値と平滑コンデンサの静電容量によって決まる。第2共振周波数は、上記の第1共振周波数と異なる。
【0027】
上記の第2LC回路は、例えば、1個の交流モータと1個のインバータを備えるモータ駆動装置でも存在する。しかし、第1LC回路は、本実施例のように、2個の交流モータと2個のインバータを備えるモータ駆動装置で存在するが、1個の各装置のみを備えるモータ駆動装置には、存在しない。即ち、第1共振周波数は、本実施例のような2個以上の各装置を備えるモータ駆動装置でのみ存在する共振周波数である。
【0028】
平滑コンデンサ26aには、インバータ24aで発生したリプル電流Ia(即ちスイッチングノイズ)が伝達する。リプル電流Iaの周波数(即ちノイズの周波数)が、第1共振周波数又は第2共振周波数に近づくと、リプル電流Iaの振幅が増幅する。また、平滑コンデンサ26aには、リプル電流Iaだけでなく、電力線23a、23bを介して、インバータ24bで発生したリプル電流Ibも伝達する。リプル電流Ibの周波数が、第1共振周波数又は第2共振周波数に近づくと、リプル電流Ibの振幅も増幅する。例えば、リプル電流Iaの周波数とリプル電流Ibの周波数が第1共振周波数に近づき、リプル電流Ia、Ibが同位相で重畳すると、平滑コンデンサ26aを流れるリプル電流Ic(=Ia+Ib)の振幅は、大幅に増幅することなる。リプル電流Icの振幅が大幅に増幅すると、平滑コンデンサ26aが大きく発熱し、平滑コンデンサ26aの許容耐熱を超えるおそれがある。この問題に対処するために、平滑コンデンサ26aの許容耐熱を向上させればよいが、平滑コンデンサ26aが大型化する。
【0029】
ここで、リプル電流Iaとリプル電流Ibが逆位相となるように調整可能であれば、リプル電流Ia、Ibが重畳するものの、リプル電流Iaとリプル電流Ibの振幅が相殺されて、リプル電流Icの振幅が増大することを抑制することが可能となる。以下では、第1LC回路の電流伝達特性(図2)と、第2LC回路の電流伝達特性(図3)について説明し、リプル電流Icの振幅が増大することを抑制するための具体的な処理(図4)について説明する。
【0030】
(第1LC回路の電流伝達特性;図2
図2の上段のグラフG1は、第1LC回路のゲイン特性を示し、下段のグラフG2は、第1LC回路の位相特性を示す。グラフG1において、縦軸は電流ゲインを示し、グラフG2において、縦軸は位相を示す。グラフG1、G2の横軸は、周波数を示す。グラフG1、G2において、破線がインバータ24aから平滑コンデンサ26aに流れる電流の伝達特性を示し、実線がインバータ24bから平滑コンデンサ26aに流れる電流の伝達特性を示す。インバータ24aから平滑コンデンサ26aまでの電流経路と、インバータ24bから平滑コンデンサ26aまでの電流経路が大きく異なるため、両方の電流伝達特性で位相特性が大きく異なる。
【0031】
グラフG1に示すように、第1LC回路は第1共振周波数fr1を有する。なお、第1LC回路は、第2LC回路と一部を共有するので、グラフG1には、第2LC回路の第2共振周波数fr2が表れている。即ち、第1LC回路は、第1共振周波数fr1と第2共振周波数fr2を有する。ここで、インバータ24aから第1LC回路に入力される電流(即ちリプル電流)の周波数が第1共振周波数fr1である場合に、入力電流(即ちインバータ24aのリプル電流)と出力電流(即ち平滑コンデンサ26aを流れる電流)との間の位相差は、グラフG2に示すように、約+90度となる。一方、インバータ24bから第1LC回路に入力される電流(即ちリプル電流)の周波数が第1共振周波数fr1である場合に、入力電流(即ちインバータ24bのリプル電流)と出力電流(即ち平滑コンデンサ26aを流れる電流)との間の位相差は、グラフG2に示すように約-90度となる。即ち、インバータ24aから平滑コンデンサ26aまでの電流伝達特性の第1共振周波数fr1における位相と、インバータ24bから平滑コンデンサ26bまでの電流伝達特性の第1共振周波数fr1における位相との差(以下では、「第1LC位相差」と記載)は約180度となる。このため、例えば、インバータ24aのリプル電流とインバータ24bのリプル電流との間の位相差を、0度から90度の間に調整することができれば、第1共振周波数fr1近傍の周波数においてインバータ24aが発するリプル電流とインバータ24bが発するリプル電流は、平滑コンデンサ26aに達したときに概ね逆位相(すなわち位相差180度)となる。その結果、両リプル電流が重畳するものの、両リプル電流の振幅が相殺されて、大きな振幅となることを抑制することができる。
【0032】
(第2LC回路の電流伝達特性;図3
各グラフG3、G4は、図2と同様に、第2LC回路のゲイン特性と、第2LC回路の位相特性を示す。グラフG3に示すように、第2LC回路は第2共振周波数fr2を有する。なお、第2LC回路は、第1LC回路と一部を共有するので、グラフG3には、第1LC回路の第1共振周波数fr1が表れている。即ち、第2LC回路は、第1共振周波数fr1と第2共振周波数fr2を有する。ここで、インバータ24aから第2LC回路に入力される電流(即ちリプル電流)の周波数が第2共振周波数fr2である場合に、入力電流(即ちインバータ24aのリプル電流)と出力電流(即ち平滑コンデンサ26aを流れる電流)との間の位相差は、グラフG4に示すように、約90度となる。一方、インバータ24bから第2LC回路に入力される電流(即ちリプル電流)の周波数が第2共振周波数fr2である場合に、入力電流(即ちインバータ24bのリプル電流)と出力電流(即ち平滑コンデンサ26aを流れる電流)との間の位相差は、グラフG4に示すように約90度となる。即ち、インバータ24aから平滑コンデンサ26aまでの電流伝達特性の第2共振周波数fr2における位相と、インバータ24bから平滑コンデンサ26bまでの電流伝達特性の第2共振周波数fr2における位相との差(以下では、「第2LC位相差」と記載)は0度となる。このため、例えば、インバータ24aのリプル電流とインバータ24bのリプル電流との間の位相差を、90度から270度との間に調整することができれば、第2共振周波数fr2近傍の周波数においてインバータ24aが発するリプル電流とインバータ24bが発するリプル電流は、平滑コンデンサ26aに達したときに概ね逆位相(すなわち位相差180度)となる。その結果、両リプル電流が重畳するものの、両リプル電流の振幅が相殺されて、大きな振幅となることを抑制することができる。
【0033】
(位相調整処理;図4
図2図3に示す第1LC位相差と第2LC位相差に応じて、両リプル電流の位相差を調整するための位相調整処理について説明する。位相調整処理は、コントローラ28が起動することをトリガとして開始される。コントローラ28は、例えば、電気自動車100のイグニションスイッチがONされることによって起動する。
【0034】
S10では、コントローラ28は、インバータ24aのリプル電流の周波数とインバータ24bのリプル電流の周波数を特定する。一般に、リプル電流の周波数は、スイッチング周波数とインバータの出力交流の周波数とに基づいて決まる。よって、コントローラ28は、各インバータ24a、24bのスイッチング周波数と各インバータ24a、24bの出力交流の周波数とから、各インバータ24a、24bの各リプル電流の周波数を特定する。本実施例では、各インバータ24a、24bのスイッチング周波数は同じであり、各インバータ24a、24bの出力交流の周波数は同じである。このため、各インバータ24a、24bのリプル電流の周波数は同じである。なお、本明細書では、例えば、ジッタ分の揺らぎ等によってスイッチング周波数が厳密に一致しない場合でも、スイッチング周波数が同じであると表記する。
【0035】
S12では、コントローラ28は、電源40の温度が所定の閾値温度よりも低いのか否かを判断する。電源40の温度は、例えば、電源40に取り付けられている温度センサ(図示省略)によって計測される。コントローラ28は、電源40の温度が所定の閾値温度よりも低いと判断する場合(S12でYES)に、S14に進み、電源40の温度が所定の閾値温度以上であると判断する場合(S12でNO)に、S20に進む。
【0036】
S20では、コントローラ28は、リプル電流の周波数が所定の閾値周波数fthよりも大きいのか否かを判断する。ここで、閾値周波数fthは、第1共振周波数fr1と第2共振周波数fr2との間の値に設定される。本実施例では、図2に示すように、第1LC回路において、インバータ24aの位相特性とインバータ24bの位相特性の間の位相差が90度となる際の周波数として設定される。コントローラ28は、リプル電流の周波数が閾値周波数fthよりも大きいと判断する場合(S20でYES)に、即ち、リプル電流の周波数が閾値周波数fthよりも第1共振周波数fr1側の場合に、S22に進む。一方、コントローラ28は、リプル電流の周波数が閾値周波数fth以下であると判断する場合(S20でNO)に、即ち、リプル電流の周波数が閾値周波数fthよりも第2共振周波数fr2側の場合に、S24に進む。
【0037】
S22では、コントローラ28は、インバータ24aに供給するPWM信号の位相とインバータ24bに供給するPWM信号の位相との間の位相差(以下では、「スイッチング位相差」)をゼロから90度の間に調整する。例えば、インバータ24aのスイッチング素子に供給するPWM信号を生成するときに用いるキャリア信号の位相に対してインバータ24bのスイッチング素子に供給するPWM信号を生成するときに用いるキャリア信号の位相を遅らせてもいいし、逆に進めてもいい。一般に、リプル電流の位相は、PWM信号の位相に対応している。このため、スイッチング位相差をゼロから90度の間に調整することによって、両リプル電流の位相差をゼロから90度の間に調整することができる。この結果、リプル電流の周波数が第1共振周波数fr1に近い状況において、インバータ24aが発するリプル電流とインバータ24bが発するリプル電流が平滑コンデンサ26aにて逆位相で重なる。それゆえ、両リプル電流の振幅が相殺されて、大きな振幅となることを抑制することができる。
【0038】
S24では、コントローラ28は、スイッチング位相差を90度から270度の間に調整する。これにより、両リプル電流の位相差を90度から270度の間に調整することができる。この結果、リプル電流の周波数が第2共振周波数fr2に近い状況において、インバータ24aが発するリプル電流とインバータ24bが発するリプル電流が平滑コンデンサ26aにて逆位相で重なる。それゆえ、両リプル電流の振幅が相殺されて、大きな振幅となることを抑制することができる。S22、S24が終了すると、S10に戻る。
【0039】
一方、S14では、コントローラ28は、スイッチング位相差をゼロに調整する。別言すれば、コントローラ28は、リプル電流の周波数が第1共振周波数fr1又は第2共振周波数fr2に近い状況であるにも関わらず、S22、S24のようにスイッチング位相差を調整しない。S14が終了すると、S10に戻る。
【0040】
(本実施例の効果)
図4の処理を実行することによって、リプル電流の周波数が第1共振周波数fr1に近い状況においては、第1LC位相差に応じて両リプル電流の振幅を相殺することができ(S22)、リプル電流の周波数が第2共振周波数fr2に近い状況においては、第2LC位相差に応じて両リプル電流の振幅を相殺することができる(S24)。即ち、スイッチング周波数を変えることなく、LC位相差に応じてスイッチング位相差を調整することによって、リプル電流の振幅が増幅することを抑制することができる。これにより、平滑コンデンサ26aが大型化することを抑制することができる。
【0041】
また、一般に、直流電源の内部抵抗は、直流電源が低温であるほど増加する傾向にある。上記の構成によれば、コントローラ28は、電源40の温度が所定の閾値温度よりも低い場合(S12でYES)に、S22、S24の処理を実行しない。即ち、コントローラ28は、両リプル電流を相殺するようなスイッチング位相差の調整を実行することなく、スイッチング位相差をゼロに調整する(S14)。これにより、相殺されずに重畳したリプル電流が電源40に伝達する。この結果、電源40が発熱し、電源40の温度が上昇する。電源40の温度が上昇して、内部抵抗を低減することができる。
【0042】
なお、上述の説明は、平滑コンデンサ26aについて説明したが、平滑コンデンサ26bについても、同様に、平滑コンデンサ26bを流れるリプル電流の振幅が増幅することを抑制することができる。これにより、平滑コンデンサ26aだけでなく、平滑コンデンサ26bが大型化することを抑制することができる。
【0043】
(対応関係)
電源40、モータ12a、モータ12b、インバータ24a、インバータ24b、平滑コンデンサ26a、コントローラ28が、それぞれ、「直流電源」、「第1交流モータ」、「第2交流モータ」、「第1インバータ」、「第2インバータ」、「平滑コンデンサ」、「コントローラ」の一例である。第1LC回路、第1共振周波数fr1が、それぞれ、「LC回路」、「共振周波数(及び第1共振周波数)」の一例である。第2共振周波数fr2、閾値周波数fthが、それぞれ、「第2共振周波数」、「所定の閾値周波数」の一例である。リプル電流の周波数が、「ノイズ周波数」の一例である。PWM信号が、「駆動信号」の一例である。
【0044】
以下、実施例で示した技術に関する留意点を述べる。本実施例の技術は、2個のインバータと2個の交流モータとを備えるモータ駆動装置に限らず、3個以上のインバータと3個以上の交流モータとを備えるモータ駆動装置にも採用可能である。例えば、3個のインバータと3個の交流モータとを備えるモータ駆動装置において、3個インバータのそれぞれの直流端に平滑コンデンサが接続されていてもよい。また、3個のインバータと3個の交流モータとを備えるモータ駆動装置において、2個の平滑コンデンサが備えられてもよい。この構成では、3個インバータのうちの1個のインバータの直流端に1個の平滑コンデンサが接続され、3個インバータのうちの残りの2個のインバータの直流端に共通して残りの1個の平滑コンデンサが接続されてもよい。また、上記の3個の交流モータにおいて、例えば、2個の交流モータが走行用のモータであり、残りの1個の交流モータが空調圧縮機のモータであってもよい。
【0045】
図4のS12、S14の処理は実行されなくてもよい。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
10 :モータ駆動装置
12a :モータ
12b :モータ
20 :電力変換装置
23a :電力線
23b :電力線
24a :インバータ
24b :インバータ
26a :平滑コンデンサ
26b :平滑コンデンサ
28 :コントローラ
40 :直流電源
100 :電気自動車
G1~G4 :グラフ
Ia :リプル電流
Ib :リプル電流
Ic :リプル電流
fr1 :第1共振周波数
fr2 :第2共振周波数
fth :閾値周波数
図1
図2
図3
図4