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特許7248507原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20230322BHJP
   D01F 1/04 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
D01F6/90 331
D01F1/04
D01F6/90 301
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019102637
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196967
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹山 直彦
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520808(JP,A)
【文献】特開昭53-126313(JP,A)
【文献】特開2005-344262(JP,A)
【文献】特開2020-070500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/90
D01F 1/04
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の有機顔料から構成される着色剤を、繊維質量に対し0.1~2.5質量%含有する、原料着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中に含有される塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体が1ppm以下であることを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
2種類以上の有機顔料から構成される着色剤であって、該着色剤中に含有される塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の合計含有量が500ppm以下となる着色剤を、メタ型全芳香族ポリアミド紡糸用ドープへ添加した後、紡糸することを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
有機顔料をメタ型全芳香族ポリアミド紡糸用ドープへ添加する前に、160℃以上で15分以上加熱処理する請求項2記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、2種類以上の有機顔料により着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の含有量が1ppm以下である原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性及び難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸等の方法により繊維となし得ることもよく知られている。
【0003】
これら全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(「メタアラミド」と称されることもある)繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品等の産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣等の防災安全衣料用途等に用いられている。
【0004】
特にメタ型全芳香族ポリアミド繊維が防護衣等に使用される場合、視認性や識別性が必要と成り、さらに意匠性やデザインも製品として重要な要素となっており、多彩な色相が要求される。そしてこれら要求を満たすため、メタ型全芳香族ポリアミド繊維への着色方法は、繊維化後、染料を用いて染色する後染色法、或いは紡糸原液に顔料を添加して繊維化する原料着色(原着)法が知られている。
【0005】
これらの着色を行う際に使用する顔料又は染料の中には残留する事が望ましくない化合物が含まれることが有り、製造工程内にて、残留する事が望ましくない化合物を十分に取り除くことができなかった場合、最終製品のアラミド繊維中に、残留する事が望ましくない化合物が残留不純物として含まれる可能性がある。残留不純物がアラミド繊維に含まれていると、アラミド繊維を含む衣類を着た人間の健康を害する可能性がある。この為、アラミド繊維からこれら残留不純物をほぼ完全に取り除くことが望まれている。
【0006】
アラミド繊維から残留不純物を取り除くプロセスとして、特許文献1では、アラミド繊維を、染料を添加しないキャリア染色法で染色することにより、残留不純物を取り除くことが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、多数の工程を必要とし、且つ、工程内にて、使用する溶液のpHを調整する為に、酸やアルカリを使用し、また、塩や担持成分として環境への負荷が高いベンジルアルコールを含む抽出溶液の使用が必要となっている。このことから、製造コストが高く産業上の利用価値が低く、環境への負荷が高いという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2015-520808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術における問題点を解消し、2種類以上の有機顔料により所望の濃度に着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の含有量が1ppm以下である原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、原料着色の際に使用する有機顔料中に含有される塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の種類と含有量とを巧みに制御するとき、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明によれば、
1.2種類以上の有機顔料から構成される着色剤を、繊維質量に対し0.1~2.5質量%含有する、原料着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中に含有される塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体が1ppm以下であることを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維、及び、
2.2種類以上の有機顔料から構成される着色剤であって、該着色剤中に含有される塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の合計含有量が500ppm以下となる着色剤を、メタ型全芳香族ポリアミド紡糸用ドープへ添加した後、紡糸することを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の濃度に着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の含有量が1ppm以下である原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維が得られるので、近年規制が強化されている塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体などの残留不純物が可及的に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明におけるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとを原料として、例えば溶液重合や界面重合させることにより製造されるポリアミドであるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばパラ型等の他の共重合成分を共重合したものであってもよい。
【0014】
上記メタ型芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフエニルスルホン等及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼン等を使用することができる。なかでも、メタフェニレンジアミン又はメタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する上記の混合ジアミンが好ましい。
【0015】
また、上記メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライドを使用することができる。なかでも、イソフタル酸クロライド又はイソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する上記の混合カルボン酸ハライドが好ましい。
【0016】
上記のジアミンとジカルボン酸ハライド以外で使用し得る共重合成分としては、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、一方、芳香族ジカルボン酸ハライドとして、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
【0017】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいので、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下が好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、全繰返し単位の80モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位からなるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
【0018】
かようなメタ型全芳香族ポリアミドの重合度は、30℃において97%濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)が1.3~3.0の範囲が適当である。
【0019】
次にここで得られたメタ型全芳香族ポリアミドを溶解する溶媒に溶解して紡糸ドープを調整するが、重合後メタ型全芳香族ポリアミドを単離せずそのまま紡糸ドープとすることも可能である。ここで用いる溶媒としてアミド系溶媒を一般的に用いることができ、主なアミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0020】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0021】
本発明においては、この紡糸ドープに、2種類以上の有機顔料から構成される着色剤であって、該着色剤中に含有される塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の合計含有量が500ppm以下となる着色剤を、ポリマー成分の質量に対し、0.1~2.5質量%となるように添加する。ここで、塩素化ベンゼン類とは、ベンゼン環に塩素が付加されたものであり、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,3,4-テトラクロロベンゼン、1,2,3,5-テトラクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼンなどが挙げられる。
【0022】
該着色剤中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の合計含有量は、少ないほど良好であることから300ppm以下が好ましく、より好ましくは、200ppm以下である。
【0023】
ここで用いられる有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系等の有機顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これら着色剤中の有機顔料はポリマー成分の質量に対し、0.1~2.5質量%となるように添加するが、添加量が2.5質量%より多くなると、繊維の強度を著しく低下させ不適切である。一方、0.1質量%以下の場合十分に繊維を着色することが困難となる。
【0024】
該着色剤として2種類以上の有機顔料を組み合わせるのは、目標とする色相に調整するために必要であり、さらに色を調整するために無機顔料を組み合わせることも可能である。
【0025】
尚、上記の有機顔料は、メタ型全芳香族ポリアミド紡糸用ドープへ添加する前に、160℃以上で15分以上加熱処理することが好ましく、より好ましくは、180℃以上の加熱処理であり、さらに好ましくは、200℃以上の加熱処理である。この加熱処理によって、有機顔料製造時に残留した溶剤や不純物を低減することが可能である。一方、160℃以下での処理の場合では、溶剤や不純物の残留が多くなる傾向があり、塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の合計含有量が300ppmを超えてしまう場合がある。
【0026】
次に、前述の通り調製された紡糸ドープを凝固浴中へ紡出し凝固させる。紡糸装置は特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置が使用できる。また、安定して紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等には特に限定はなく、例えば、孔数が500~3000個、孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金を用いても良い。
【0027】
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸ドープの温度は、10~90℃の範囲が適当である。
凝固浴の例としては、無機塩を含まないアミド系溶媒の、濃度45~60質量%の水溶液を浴液の温度10~35℃の範囲で用いる。ここで、アミド系溶媒の濃度が45質量%未満の場合は繊維のスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、得られた繊維に溶媒が残存する上に、塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体も多く残留することとなる。一方、アミド系溶媒濃度が60質量%を越える場合は、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、繊維成形時に単糸が切断する、などの不具合が多く発生する。尚、凝固浴中への繊維の浸漬時間は0.1~30秒の範囲が適当である。
【0028】
次に、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸する。可塑延伸浴としては特に限定されるものではなく、従来公知の浴液を採用することができる。本発明の繊維を得るためには、可塑延伸浴中での延伸倍率を3.5~5.0倍の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは3.7~4.5倍の範囲である。
【0029】
本発明の繊維の製造においては、可塑延伸浴中で特定倍率の可塑延伸を行うことにより、凝固糸中からの脱溶媒を促進することができる。この脱溶媒とともに着色剤中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体も同時に繊維中より除去されると考えられる。可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、凝固浴中からの脱溶媒が不十分となり、破断強度が低くなったり、紡績工程等の加工工程における取扱いが困難となったりし、また繊維中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の含有量が1ppm以上となる場合がある。一方、可塑延伸浴中での延伸倍率が5.0倍を越える場合は、単糸切れが発生するため、工程安定性が悪くなる。
【0030】
可塑延伸浴の温度は10~90℃の範囲が好ましい。さらに好ましくは20~90℃である。
可塑延伸に続き、繊維中に残留している溶媒を洗浄する。この工程においては、可塑延伸浴中で延伸された繊維を十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に洗浄工程における洗浄浴の温度及び洗浄浴液のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態及び洗浄浴からの水の繊維中への侵入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とするためにも、洗浄工程を多段とし、温度条件や濃度条件を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0031】
尚、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
【0032】
繊維中に溶媒が残っている場合、繊維が黄色く変色する上に、該繊維を用いた製品の加工や使用に際しての環境安全性も好ましくないので、本発明の繊維に含まれる溶媒量は0.2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.15質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0033】
次いで、洗浄工程を経た繊維を乾燥、熱処理する。乾燥、熱処理の方法は特に限定されないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法などが挙げられる。
【0034】
本発明の繊維を得るためには、熱処理温度を260~350℃の範囲とすることが好ましく、270~340℃の範囲とすることがさらに好ましい。該熱処理温度が260℃未満の場合には、繊維の結晶化が不十分となり、繊維の収縮が大きくなる場合がある。一方、熱処理温度が350℃を越える場合は、繊維の結晶化が進みすぎるため、繊維の破断伸度が著しく低下する場合がある。熱処理温度を270~340℃の範囲とした場合には、繊維の破断強度の向上に寄与できる。
【0035】
熱処理が施された繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を加えても良い。さらに捲縮加工後、適当な繊維長に切断し、短繊維として使用しても良いし、マルチフィラメントとして巻き取っても良い。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
なお、実施例中の「部」および「%」は特に断らない限りすべて質量基準に基づくものであり、量比は特に断らない限り質量比を示す。実施例および比較例における各物性値は下記の方法で測定した。
【0037】
<固有粘度(I.V.)>
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0038】
<繊度>
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0039】
<破断強度、破断伸度>
JIS L1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した値を繊維の破断強度、破断伸度とした。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0040】
<目標色相との色差ΔE>
分光色彩計 SD7000(日本電色工業製)を用いて、先ず目標となる色相に着色された原綿の明度L1値、色度a1値・b1値を求める。
次に、目標となる色相と同様の色相に着色しようとする実施例又は比較例により得られた原綿の明度L2値、色度a2値・b2値を求め、次式により目標となる色相との色差ΔEを求める。
ΔE=((L1-L2)+(a1-a2)+(b1-b2)1/2
即ち、実施例1と同様の色相に着色しようとする比較例1及び実施例2においては、このΔEの値が小さいほど、実施例1に近い色相に着色されていると言える。
同様に、比較例2は実施例3と、比較例3は実施例4と、また比較例4は実施例5と、それぞれ同様の色相に着色しようとする例であり、それら目標となる色相との色差をΔEで示した。
【0041】
<塩素化ベンゼン類含有量>
上述の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の一種であるジクロロベンゼンについてエコテックス規格100に準じた測定をエコテックス認証機関にて実施した。
【0042】
[実施例1]
(ポリマーの製造)
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。
【0043】
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌して、透明なポリマー溶液を得た。
【0044】
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.65であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、17%であった。
【0045】
(ドープの製造)
得られたポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を25質量%、Pigment Red64を75質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し2.14質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした。
【0046】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red64が140ppmであり、着色剤中には、280ppm含有されるものであった。
【0047】
(紡糸)
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0048】
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0049】
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
【0050】
洗浄後の繊維について、表面温度280℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態でサンプリングし破断強度、破断伸度の測定を行った。
【0051】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。
【0052】
得られた原綿をよく開繊し、繊維方向を揃えて測定用のセルへ入れ、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて明度・色度の測定を実施した。また、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、0.73ppmと1ppm以下に抑えることができた。原綿物性は、繊度1.73dtex、強度3.24cN/dtex、伸度23.5%であった。これらの結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を27質量%、Pigment Red254を73質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し2.20質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0054】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red254が2300ppmであり、着色剤中には、1868ppm含有されるものであった。
【0055】
得られた原綿と実施例1の原綿との色差ΔEは、0.49と実施例1と近い色相となったが、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、4.21ppmと1ppmよりもはるかに大きな値となった。
【0056】
原綿物性は、繊度1.68dtex、強度3.02cN/dtex、伸度24.6%であった。これらの結果を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を27質量%、比較例1で使用したPigment Red254を160℃で30分加熱処理を行った後のものを73質量%の割合で混合した粉末を、ポリマー成分の質量に対し2.20質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0058】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、加熱処理後のPigment Red254が400ppmであり、着色剤中には、481ppm含有されるものであった。
【0059】
得られた原綿と実施例1の原綿との色差ΔEは、0.70と実施例1と近い色相となり、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、0.85ppmと1ppm以下に抑えることができた。原綿物性は、繊度1.71dtex、強度3.35cN/dtex、伸度24.7%であった。これらの結果を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を34質量%、Pigment Red64を19質量%、Pigment Blue15を47質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し1.35質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0061】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red64が140ppm、Pigment Blue15が240ppmであり、着色剤中には、377ppm含有されるものであった。
【0062】
得られた原綿の明度・色度の測定を分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて実施した。また、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、0.24ppmと1ppm以下に抑えることができた。原綿物性は、繊度1.77dtex、強度3.45cN/dtex、伸度32.2%であった。これらの結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を36質量%、Pigment Red254を23質量%、Pigment Blue15を41質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し1.37質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0064】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red254が2300ppm、Pigment Blue15が240ppmであり、着色剤中には、879ppm含有されるものであった。
【0065】
得られた原綿と実施例3の原綿との色差ΔEは、0.79と実施例3と近い色相となったが、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、1.23ppmと1ppmより大きな値となった。原綿物性は、繊度1.74dtex、強度3.52cN/dtex、伸度33.8%であった。これらの結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を4質量%、Pigment Red254を11質量%、Pigment Blue15を85質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し0.53質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0067】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red254が2300ppm、Pigment Blue15が240ppmであり、着色剤中には、485ppm含有されるものであった。
【0068】
得られた原綿の明度・色度の測定を分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて実施した。また、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、0.52ppmと1ppm以下に抑えることができた。原綿物性は、繊度1.74dtex、強度3.56cN/dtex、伸度34.3%であった。これらの結果を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を5質量%、Pigment Red64を18質量%、Pigment Blue15を77質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し0.58質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0070】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red64が140ppm、Pigment Blue15が240ppmであり、着色剤中には、245ppm含有されるものであった。
【0071】
得られた原綿と実施例4の原綿との色差ΔEは、0.50と実施例4と近い色相となったが、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、2.01ppmと1ppmよりもはるかに大きな値となった。
【0072】
原綿物性は、繊度1.70dtex、強度3.34cN/dtex、伸度30.6%であった。これらの結果を表1に示す。
【0073】
[実施例5]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を13質量%、Pigment Red64を35質量%、Pigment Red254を9質量%、Pigment Blue15を43質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し0.30質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0074】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red64が140ppm、Pigment Red254が2300ppm、Pigment Blue15が240ppmであり、着色剤中には、450ppm含有されるものであった。
【0075】
得られた原綿の明度・色度の測定を分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて実施した。また、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、0.18ppmと1ppm以下に抑えることができた。原綿物性は、繊度1.76dtex、強度3.70cN/dtex、伸度35.0%であった。これらの結果を表1に示す。
【0076】
[比較例4]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を14質量%、Pigment Red254を39質量%、Pigment Blue15を47質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し0.32質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0077】
ここで着色剤に用いた顔料中のジクロロベンゼンの含有量は、Pigment Yellow12が700ppm、Pigment Red254が2300ppm、Pigment Blue15が240ppmであり、着色剤中には、1108ppm含有されるものであった。
【0078】
得られた原綿と実施例4の原綿との色差ΔEは、0.80と実施例4と近い色相となったが、この原綿における繊維中のジクロロベンゼン含有量は、1.67ppmと1ppmよりもはるかに大きな値となった。
【0079】
原綿物性は、繊度1.73dtex、強度3.68cN/dtex、伸度31.7%であった。これらの結果を表1に示す。
【0080】
[比較例5]
実施例1で製造したポリマー溶液に、着色剤としてPigment Yellow12を25質量%、Pigment Red64を75質量%の割合で混合した粉末をポリマー成分の質量に対し2.75質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0081】
得られた原綿は、繊維中への着色剤添加量が多いため、繊度1.76dtex、強度2.36cN/dtex、伸度21.7%と非常に弱いものとなった。これらの結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、所望の濃度に着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中の塩素化ベンゼン類および/またはその誘導体の含有量が1ppm以下である原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維が得られるので、特に防護衣料等の使用に適した繊維素材を得ることができ、特にエコテックスなどの認証機関において安全性が認証された衣料用素材を提供することができる。