(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
F16B 5/08 20060101AFI20230322BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20230322BHJP
B32B 3/28 20060101ALI20230322BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230322BHJP
B62D 25/08 20060101ALN20230322BHJP
【FI】
F16B5/08 Z
F16B11/00 B
B32B3/28 C
B32B27/00 B
B62D25/08 K
(21)【出願番号】P 2019115450
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】黒川 博幸
(72)【発明者】
【氏名】唐木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】木山 公志
(72)【発明者】
【氏名】村松 秀隆
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-207791(JP,A)
【文献】特開2008-128353(JP,A)
【文献】実開平02-014813(JP,U)
【文献】特開2019-166855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/08
F16B 11/00
B32B 3/28
B32B 27/00
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料により形成された第1部材と、
前記第1部材よりも面内方向の線膨張率の大きい材料により形成されると共に、前記第1部材と接合された第2部材と、
前記第1部材の前記第2部材との接合部分に設けられ、前記第2部材とは反対側に前記第1部材の面内方向に沿って延在された頂壁部と前記頂壁部の面内方向両端部側に前記第1部材の面外方向に沿って延在された一対の立壁部を備えると共に、前記第2部材とは反対側へ向けて凸となる断面略ハット状に形成された調整部と、
前記頂壁部と前記一対の立壁部との接続部位に各々設けられ、厚さが前記調整部の他の部分の厚さよりも厚く形成された円弧形状のコーナー部と、
を含んで構成された接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両用部材を構成する金属部材と、金属部材に接合される樹脂部材と、金属部材と樹脂部材との間に設けられて両者を接合する接着剤と、を有する車両用部材の接合構造が開示されている。接着剤は、金属部材及び樹脂部材よりも弾性率が低く、かつ、塗装後の乾燥工程の加熱時における金属部材と樹脂部材との線膨張差と接着剤の厚み及び端面の長さとが所定の関係を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された接合構造では、加熱時に金属部材と樹脂部材との線膨張率の違いに起因する熱変形量の差によって接着剤が反り又は剥がれたりする可能性がある。そこで、このような熱変形量の差を抑制するために、例えば、接着剤により金属部材と樹脂部材とが接合された部分を更にボルトやリベット等により締結することも考えられるが、これらの締結部材により接合構造の重量が増加する。このため、重量増加を抑えた上で部材間の熱変形量の差を抑制可能な接合構造を得ることが望ましい。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、重量増加を抑えた上で部材間の熱変形量の差を抑制可能な接合構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の接合構造は、繊維強化複合材料により形成された第1部材と、前記第1部材よりも面内方向の線膨張率の大きい材料により形成されると共に、前記第1部材と接合された第2部材と、前記第1部材の前記第2部材との接合部分に設けられ、前記第2部材とは反対側に前記第1部材の面内方向に沿って延在された頂壁部と前記頂壁部の面内方向両端部側に前記第1部材の面外方向に沿って延在された一対の立壁部を備えると共に、前記第2部材とは反対側へ向けて凸となる断面略ハット状に形成された調整部と、前記頂壁部と前記一対の立壁部との接続部位に各々設けられ、厚さが前記調整部の他の部分の厚さよりも厚く形成された円弧形状のコーナー部と、を含んで構成されている。
【0007】
請求項1に記載の接合構造によれば、繊維強化複合材料により形成された第1部材と第1部材よりも面内方向の線膨張率の大きい材料により形成された第2部材とが接合されている。ここで、第1部材には、断面略ハット形状の調整部が設けられている。このため、例えば、製造工程において接合構造が加熱された際には、第1部材は、調整部を設けた分だけ面内方向の熱変形量を大きくすることができると共に、第2部材との熱変形量の差を小さくすることができる。これにより、例えば、締結部材を用いることなく第1部材と第2部材を接合することができるため、接合構造の重量増加を抑えた上で第1部材と第2部材の熱変形量の差を抑制することができる。
【0008】
さらに、請求項1に記載の接合構造によれば、第1部材の調整部における頂壁部と一対の立壁部との接続部位には、各々コーナー部が形成されている。円弧形状のコーナー部の厚さ方向の熱変形は、第1部材の面内方向と面外方向の双方の熱変形量を増加させる。さらに、コーナー部は、その厚さが調整部の他の部分の厚さよりも厚く形成されているため、より効果的に第1部材の面内方向の熱変形量を増加させることができる。これにより、接合構造が加熱された際の第1部材と第2部材の熱変形量の差を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る接合構造は、重量増加を抑えた上で部材間の熱変形量の差を抑制できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る接合構造を構成するアッパバックパネルとリインフォースの斜視図である。
【
図2】
図1の2-2線に沿って切断されたアッパバックパネルとリインフォースの接合部分の断面図である。
【
図3】本実施形態に係る調整部の寸法を示す拡大図である。
【
図4】本実施形態に係るコーナー部の寸法を示す拡大図である。
【
図5】本実施形態の変形例に係るコーナー部の寸法を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図5を用いて、本実施形態に係る接合構造の一例について説明する。なお、以下の図において、矢印FRは車両前方側を示し、矢印INは車幅方向内側を示し、矢印UPは車両上方側を示している。また、ここでは、車両前方側を向いた場合の右手方向を「車両右側」、左手方向を「車両左側」と定義する。
【0012】
図1に示されるように、本実施形態に係る接合構造10は、第1部材としてのアッパバックパネル12と第2部材としてのアッパバック用リインフォースメント(以下、「リインフォース」という)14が接合されることにより構成されている。アッパバックパネル12は、繊維強化複合材料により形成されている。ここでは、繊維強化複合材料として炭素繊維強化樹脂(CFRP)が用いられている。また、リインフォース14は、アッパバックパネル12に用いられる繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)よりも面内方向の線膨張率の大きい金属(例えば、鉄)によって形成されている。
【0013】
(アッパパネル)
アッパバックパネル12は、車幅方向を長手方向として車両平面視で略矩形板状に形成されると共に、車室(図示省略)の車両後方側に配置されて車室と荷室(図示省略)とを仕切っている。炭素繊維強化樹脂により構成されたアッパバックパネル12は、強化繊維(炭素繊維)と樹脂により構成されたシート状材料(SMC:Sheet Molding Compound)を積層して成形されている。シート状材料は、ランダムに分散配置された不連続な強化繊維に樹脂が含浸されることにより構成されている。ここでは、樹脂として熱可塑性樹脂が用いられている。なお、以下の説明において、シート状材料の強化繊維には炭素繊維が用いられているとして説明するが、これに限らず、ガラス繊維等他の強化繊維が用いられてもよい。また、以下の説明において、シート状材料の樹脂には熱可塑性樹脂が用いられているとして説明するが、これに限らず、熱硬化性樹脂等他の樹脂が用いられてもよい。
【0014】
アッパバックパネル12の車両後方側部分は、車両側面視で車体下方側へ凸となる略ハット状に形成されている。この略ハット形状部分の前端部と後端部にリインフォース14が接合される。このため、略ハット形状部分の後端部が後側接合部12Aとされ、前端部が前側接合部12Bとされている。
【0015】
アッパバックパネル12の車両後方側部分は、車体上方側から対向配置されたリインフォース14と接合される。リインフォース14は、車両側面視で車両上方側へ凸となる略ハット状に形成され、その後端部がリアフランジ部14Aとされると共に、前端部がフロントフランジ部14Bとされている。リインフォース14は、リアフランジ部14Aがアッパバックパネル12の後側接合部12Aと接着剤ADによって接合される(
図2参照)と共に、フロントフランジ部14Bがアッパバックパネル12の前側接合部12Bと、例えば、スポット溶接等によって接合される。
【0016】
アッパバックパネル12の後部には、アッパバックパネル12とリインフォース14が接合されることにより略矩形閉断面状に形成された部分が車幅方向に延在される。リインフォース14の上端部を構成し、車幅方向に延在された頂壁16は、車両前方側へ向かうにつれて車両上方側へ傾斜されており、頂壁16の後側部分にリアガラスの下端部が接着剤によって接合されている(どちらも図示省略)。
【0017】
アッパバックパネル12は、その面内方向の熱膨張率α1Xと面外方向の熱膨張率α1Zが以下の関係を満たすように構成されている。
1.1×α1X≦α1Z≦1.0×104×α1X
このため、アッパバックパネル12は、面内方向よりも面外方向に熱変形し易く構成されている。また、加熱された際のアッパバックパネル12自体の反りや変形が過大とならないように、アッパバックパネル12の面外方向の熱膨張率α1Zは、面内方向の熱膨張率α1Xの104倍以下とされている。
【0018】
なお、ここでは、アッパバックパネル12の面内方向の熱膨張率α1Xと面外方向の熱膨張率α1Zは、上記の関係を満たすとして説明するが、これに限らず、部材(第1部品)の使用目的や態様に応じて面内方向及び面外方向の熱膨張率の関係が定められてよい。
【0019】
また、アッパバックパネル12は、その面内方向の熱膨張率α1Xとリインフォース14の面内方向の熱膨張率α2Xが以下の関係を満たすように構成されている。
1.1×α1X≦α2X≦1.0×102×α1X
このため、リインフォース14は、アッパバックパネル12よりも面内方向に熱変形し易く構成されている。また、加熱された際のリインフォース14とアッパバックパネル12の面内方向の熱変形量の差が過大とならないように、リインフォース14の面内方向の熱膨張率α2Xは、アッパバックパネル12の面内方向の熱膨張率α1Xの102倍以下とされている。
【0020】
なお、ここでは、アッパバックパネル12とリインフォース14の面内方向の熱膨張率α1X、α2Xは、上記の関係を満たすとして説明するが、これに限らず、部材の使用目的や態様に応じて面内方向の熱膨張率の関係が定められてよい。
【0021】
アッパバックパネル12の車両後方側部分には、リインフォース14と接合される後側接合部12Aから前側接合部12Bに亘って車両前後方向に沿って延在された調整部としてのビード22がアッパバックパネル12と一体で形成されている。ビード22は、アッパバックパネル12の車両後方側部分に車幅方向に並列して複数箇所形成されている。具体的には、車幅方向中央に対して左右対称となるように、車両右側に3箇所、車両左側に3箇所ずつ形成されている。車両右側のビード22は、アッパバックパネル12の車両右側に車幅方向等間隔で形成されている。また、車両左側のビード22は、アッパバックパネル12の車両左側に車幅方向等間隔で形成されている。
【0022】
後側接合部12Aの車幅方向中央部には、金属製(例えば鉄製)の仮保持部材24が図示しないリベットによって締結固定される。仮保持部材24は、車両正面視で車体上方側へ凸となる略ハット型形状部分が車幅方向中央に対して左右対称となるように2箇所形成されている。仮保持部材24は、その略ハット型形状の車両下方側部分を形成するフランジ部分が後側接合部12Aの上面に配置される。車幅方向中央部のフランジ部分には、平面視で略円形状の円形貫通孔24Aが形成され、車幅方向両端部側のフランジ部分には、平面視で略楕円形状の楕円形貫通孔24Bが各々形成されている。仮保持部材24は、後側接合部12Aに貫通形成された貫通孔12A1と円形貫通孔24A及び楕円形貫通孔24Bが重なるように配置され、例えば、リベット等により締結固定される。締結固定された仮保持部材24の上端部の保持材頂壁部24Cには、リインフォース14のリアフランジ部14Aが、例えば、スポット溶接により接合される。これにより、リインフォース14は、アッパバックパネル12に仮保持されている。
【0023】
図2に示されるようにビード22は、アッパバックパネル12から車両下方側へ突出するように形成されている。具体的には、車両正面視で車両下方側(リインフォース14とは反対側)へ向けて凸とされた断面略ハット状に形成されている。断面略ハット形状のビード22の車幅方向中央部は、車両下方側へ向けて突出された突出部26を備えている。また、突出部26の車幅方向両端部に形成され、後側接合部12Aにおいてリインフォース14のリアフランジ部14Aと接合されると共に、前側接合部12Bにおいてフロントフランジ部14B(図示省略)と接合されるフランジ部28を備えている。フランジ部28の厚さ寸法(
図3中のビード厚さBT)は、後側接合部12A及び前側接合部12Bのビード22以外の部分の厚さと略同一とされている。
【0024】
突出部26は、その下端部においてアッパバックパネル12の面内方向としての車幅方向に沿って延在された頂壁部26Aと、頂壁部26Aの車幅方向両端部側からフランジ部28にかけて各々延伸された一対の立壁部26Bと、を備えている。また、頂壁部26Aと一対の立壁部26Bの接続部位には、円弧形状を有するコーナー部26Cが各々形成されている。ここでは、
図3に示されるように、頂壁部26Aの車幅方向の寸法をビード幅BB、頂壁部26Aの下面とフランジ部28の下面の間の車両上下方向の寸法をビード高さBHと称する。頂壁部26A及び一対の立壁部26Bの厚さ寸法(ビード厚さBT)は、後側接合部12A及び前側接合部12Bのビード22以外の部分の厚さと略同一とされている。
【0025】
アッパバックパネル12に形成されたビード22の頂壁部26Aのビード幅BBは、5mmよりも長くかつ100mmよりも短く形成されている。頂壁部26Aのビード幅BBを5mmよりも長く形成することにより、アッパバックパネル12の面内方向の熱変形量を効果的に増加させることができると共に、アッパバックパネル12の剛性(曲げ剛性やせん断剛性)を大きくすることができる。また、頂壁部26Aのビード幅BBを100mmよりも短く形成することにより、アッパバックパネル12の面内方向の熱変形量が必要以上に大きくなることを抑制すると共に、アッパバックパネル12及びビード22の成形を容易にすることができる。なお、ここでは、アッパバックパネル12(第1部材)のビード幅BBは、上記範囲内の寸法であるとして説明するが、これに限らず、第1部材の使用目的や態様に応じてその寸法が設定されてよい。
【0026】
図4に示されるように、コーナー部26Cの厚さは、ビード22のコーナー部26C以外の部分の厚さBTよりも厚く形成されている。具体的には、コーナー部26Cの外側(外径側)の曲率半径と内側(内径側)の曲率半径を、それぞれコーナー外径R1とコーナー内径R2とすると、R1-R2>BTとなるようにコーナー部26Cが形成されている。また、
図3に示されるように、コーナー部26Cは、その中心角(コーナー角θ)が、頂壁部26Aと立壁部26Bが成す角度と略同一となるように形成されている。
【0027】
図4に示されるように、コーナー部26Cのコーナー内径R2は、1mmよりも長くかつ10mmよりも短く形成されている。このため、ビード22は、アッパバックパネル12に発生する熱ひずみを適切に抑制又は防止できかつアッパバックパネル12に容易に成形できるように構成されている。コーナー内径R2を1mmよりも長く形成することにより、アッパバックパネル12の面内方向の熱変形量を効果的に増加させることができると共に、アッパバックパネル12の剛性(曲げ剛性やせん断剛性)を大きくすることができる。また、コーナー内径R2を10mmよりも短く形成することにより、アッパバックパネル12の面内方向の熱変形量が必要以上に大きくなることを抑制することができる。なお、ここでは、アッパバックパネル12(第1部材)のコーナー内径R2は、上記範囲内の寸法であるとして説明するが、これに限らず、第1部品の使用目的や態様に応じて面内方向の熱膨張率の関係が定められてよい。
【0028】
(接合方法)
本実施形態に係る接合構造10を構成するアッパバックパネル12とリインフォース14の接合方法について説明する。
【0029】
接合方法は、仮組立工程、一体化工程及び冷却工程の3つの工程を含んで構成されている。はじめに、仮組立工程では、室温下でアッパバックパネル12をリインフォース14の上面に配置して接合構造10を仮組みする。
【0030】
仮組立工程では、最初に、仮保持部材24が後側接合部12Aにリベット等により締結固定される。また、後側接合部12Aにおいてフランジ部28に相当する部分、すなわち、リインフォース14と接合される部分(
図1中の接着面AS)には、接着剤ADが塗布される。接着剤ADには、所定の耐熱性と接着強度を確保することができるエポキシ系接着剤が用いられている。なお、ここでは、接着剤ADとして、エポキシ系接着剤が用いられているとして説明したが、これに限らず、例えば、同等の耐熱性と接着強度を確保することができるアクリル系接着剤等他の材質の接着剤が用いられてもよい。
【0031】
仮保持部材24が締結固定されると共に後側接合部12Aに接着剤ADが塗布されたアッパバックパネル12には、その車両上方側からリインフォース14が配置される。リインフォース14の車幅方向中央部は、後側接合部12Aに締結固定された仮保持部材24の保持材頂壁部24Cに、スポット溶接等により接合される。また、フロントフランジ部14Bが前側接合部12Bとスポット溶接等により接合される。これにより、リインフォース14は、アッパバックパネル12に仮保持される。これにより、接着剤ADが硬化するまでの間に、リインフォース14に対してアッパバックパネル12がずれたり、剥がれたりする(動く)のを抑制又は防止することができる。
【0032】
次いで、一体化工程において、仮保持されたアッパバックパネル12とリインフォース14は、高温雰囲気炉内に配置されて加熱される。これにより、接着剤ADが硬化し、アッパバックパネル12とリインフォース14が接合される。最後に、冷却工程において、アッパバックパネル12とリインフォース14が高温雰囲気炉から取り出され、室温下で冷却される。これにより、接合構造10が構成される。
【0033】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0034】
本実施形態に係る接合構造10によれば、炭素繊維強化樹脂により構成されたアッパバックパネル12とアッパバックパネル12よりも面内方向の線膨張率の大きい金属製のリインフォース14が重ねて接合されている。ここで、アッパバックパネル12には、断面略ハット形状のビード22が設けられている。このように構成されたアッパバックパネル12が加熱されてその温度がΔT度上昇した際のアッパバックパネル12の面内方向の変形量ΔXは以下の式で表される。
ΔX=2×[(r1-r2)×α1Z×ΔT×sinθ-{0.5×(r1+r2)×α1X×ΔT×cosθ}+BH×α1X×ΔT÷tanθ]+BB×α1X×ΔT
ここで、上式の左辺第1項及び第2項は、頂壁部26Aの車幅方向両端部に2箇所形成されたコーナー部26Cの熱変形量を表す。具体的には、左辺第1項は、コーナー部26Cの厚さ方向の熱変形によるアッパバックパネル12の面内方向(成分)の熱変形量を表す。左辺第2項は、コーナー部26Cの面内方向の熱変形によるアッパバックパネル12の面内方向の熱変形量を表す。また、左辺第3項は、一対の立壁部26Bの厚さ方向の熱変形によるアッパバックパネル12の面内方向(成分)の熱変形量を表し、左辺第4項は、頂壁部26Aの面内方向の熱変形によるアッパバックパネル12の面内方向の熱変形量を表す。
【0035】
本実施形態に係る接合構造10によれば、例えば、製造工程において加熱されたアッパバックパネル12は、ビード22を設けた分だけ面内方向の熱変形量を大きくできると共に、リインフォース14との面内方向の熱変形量の差を小さくできる。また、アッパバックパネル12とリインフォース14は、仮保持部材24をアッパバックパネル12に締結する部分以外は、締結部材を用いることなく接着剤AD及び溶接等により安定して接合することができる。このため、締結部材の使用を抑制することにより重量増加を抑制することができる。これにより、接合構造10の重量増加を抑えることができる上にアッパバックパネル12とリインフォース14の面内方向の熱変形量の差を抑制することができる。
【0036】
さらに、本実施形態に係る接合構造10によれば、アッパバックパネル12のビード22には、頂壁部26Aの面内方向(車幅方向)両端部と一対の立壁部26Bとの接続部位には、各々コーナー部26Cが形成されている。このため、円弧形状のコーナー部26Cの厚さ方向の熱変形により、アッパバックパネル12の面内方向と面外方向の双方の熱変形量を増加させることができる。さらに、コーナー部26Cは、その厚さがビード22の他の部分の厚さBTよりも厚く形成されているため、より効果的にアッパバックパネル12の面内方向の熱変形量を増加させることができる。これにより、接合構造10が加熱された際のアッパバックパネル12とリインフォース14の熱変形量の差を効果的に抑制することができ、これらの接合状態を安定させることができる。
【0037】
ここで、アッパバックパネル12は、面外方向の熱膨張率α1Zが面内方向の熱膨張率α1Xよりも大きくなるように構成されている。このため、例えば、ビード22の頂壁部26Aのビード幅BBのような面内方向の寸法を増加させるよりも、コーナー部26Cの厚さ寸法を厚く形成することでアッパバックパネル12の熱変形による面内方向の変形量をより効果的に増加させることができる。これにより、アッパバックパネル12自体の重量増加を抑制した上で面内方向の変形量をより効果的に増加させることができる。また、コーナー部26Cの厚さを増加させることにより、ビード22の剛性(曲げ剛性やせん断剛性)を、コーナー部26Cの厚さをビード22の厚さBTと同一にする場合に比べて大きくすることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る接合構造10によれば、ビード22は、アッパバックパネル12の車両後方側部分に車幅方向に並列して複数箇所形成されている。さらに、車両右側に3箇所形成されたビード22は、車幅方向等間隔で形成されると共に、車両左側に3箇所形成されたビード22は、車幅方向等間隔で形成されている。このため、アッパバックパネル12とリインフォース14の熱変形量の差を車幅方向に均一に抑制することができ、接合状態を安定させることができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る接合構造10は、その重量の増加を抑えた上でアッパバックパネル12とリインフォース14の熱変形量の差を抑制することができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る接合構造10によれば、アッパバックパネル12は、ランダムに分散配置された不連続な強化繊維と樹脂により構成されたシート状材料を積層して成形されている。このため、例えば、強化繊維の配向が統一された複合材料を用いる場合と比較して成形を容易にすることができる。これにより、アッパバックパネル12にビード22を容易に成形することができる。
【0041】
(変形例)
次に、
図5を用いて、本実施形態の変形例について説明する。なお、前述した本実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0042】
図5に示されるように、変形例に係るコーナー部26Eの厚さは、ビード22のコーナー部26E以外の部分の厚さBTよりも厚く形成されている。具体的には、コーナー部26Eは、その内側(内径側)部分を厚く形成することにより頂壁部26A及び立壁部26Bの厚さBTよりも厚く形成されている。これにより、アッパバックパネル12自体の重量増加を抑制した上で面内方向の変形量をより効果的に増加させることができる。また、コーナー部26Eの厚さを増加させることにより、ビード22の剛性(曲げ剛性やせん断剛性)を、コーナー部26Eの厚さをビード22の厚さBTと同一にする場合に比べて大きくすることができる。
【0043】
なお、ここでは、アッパバックパネル12とリインフォース14は、後側部分12A、14Aが接着剤ADにより接合され、前側部分12B、14Bがスポット溶接により接合されると説明したが、これに限らず、接着剤、溶接及び融着などのいかなる方法により接合されてもよい。
【0044】
また、ここでは、アッパバックパネル12とリインフォース14は、後側部分12A、14Aが接着剤ADにより接合されるとして説明したが、これに限らず、アッパバックパネル又はリインフォースの後端部がヘミング加工されることにより接合されてもよい。
【0045】
なお、ここでは、接合構造10は、アッパバックパネル12とリインフォース14の接合に適用されているとして説明したが、これに限らず、車両を構成する他の部材同士の接合に適用されてもよい。
【0046】
また、ここでは、接合構造10は、車両を構成する部材であるアッパバックパネル12とリインフォース14の接合に適用されているとして説明したが、これに限らず、車両以外で部材同士の接合に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 接合構造
12 アッパバックパネル(第1部材)
14 リインフォース(第2部材)
22 ビード(調整部)
26A 頂壁部
26B 立壁部
26C コーナー部
26E コーナー部