(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】工具交換装置
(51)【国際特許分類】
B25J 15/04 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
B25J15/04 A
(21)【出願番号】P 2019215371
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 良介
(72)【発明者】
【氏名】菊地 博己
【審査官】松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-36286(JP,A)
【文献】特開2012-250327(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187979(WO,A1)
【文献】特開平5-192886(JP,A)
【文献】特開2018-118333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の本体側と工具側のいずれか一方に取り付けられ、第1の連結面を有する第1の連結部材と、
前記本体側と前記工具側の他方に取り付けられ、前記第1の連結面に接触可能な第2の連結面を有する第2の連結部材と
を備える工具交換装置であって、
前記第1の連結部材は、前記第1の連結面に、
第1のピンと、
第2のピンと、
補助突起と
を有し、
前記第2の連結部材は、前記第2の連結面に、
前記第1のピンが出入可能な第1の穴と、
前記第2のピンが出入可能な第2の穴と、
前記補助突起が出入可能な補助穴と
を有し、
前記第1のピンと前記第1の穴の間、及び、前記第2のピンと前記第2の穴の間に、前記第2の連結面に平行な方向の第1の隙間がそれぞれ設けられており、
前記補助突起と前記補助穴の間に、前記第2の連結面に平行な方向の第2の隙間が設けられており、
前記第2の隙間は、前記第1の隙間より大きい
工具交換装置。
【請求項2】
前記第1の連結面から前記補助突起の先端までの長さが、前記第1の連結面から前記第1のピンの先端までの長さ、及び前記第1の連結面から前記第2のピンの先端までの長さより短い、請求項1に記載の工具交換装置。
【請求項3】
前記第1のピンと前記第2のピンの間の距離が、前記補助突起と前記第1のピンの間の距離よりも長く、かつ、前記補助突起と前記第2のピンの間の距離よりも長い、請求項1又は2に記載の工具交換装置。
【請求項4】
前記第1のピン、前記第2のピン、及び前記補助突起は、先端に向かって直径が細くなるテーパー部を有するテーパーピンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の工具交換装置。
【請求項5】
前記第2の隙間は、
前記第1のピンと前記第1の穴、及び、前記第2のピンと前記第2の穴がそれぞれ接触した位置において、前記補助突起と前記補助穴の間に第3の隙間を形成可能であり、
前記第1の連結面及び前記第2の連結面に交差する軸を中心とする回転方向の前記第1の連結部材及び前記第2の連結部材の弾性変形によって前記補助突起と前記補助穴が接触可能な大きさである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の工具交換装置。
【請求項6】
前記第1のピンと、前記第2のピンと、前記補助突起とは、前記第1の連結面の中心を通り前記第1の連結面に平行な直線に対し非線対称となる位置に設けられている、請求項1~5のいずれか1項に記載の工具交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具交換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種機器、例えば産業用ロボットに適用される工具交換装置として、ロボット本体側に取り付けられる第1の連結部材と、工具側に取り付けられる第2の連結部材とを備える装置が開示されている(例えば、特許文献1)。この工具交換装置は、第1の連結部材の連結面に設けた突起部が第2の連結部材の連結面に設けられた連結穴に挿入され、互いの連結面同士が接触した状態で、突起部のカムが連結穴の内面の係合部品に係合することにより、第1の連結部材と第2の連結部材が連結する。またカムと係合部品の係合を解除することにより、第1の連結部材と第2の連結部材は分離し得る。このようにして工具交換装置は、産業用ロボットに取り付ける工具を交換することができる。産業用ロボットは、あらかじめ動作を記録するティーチングをして作成されたプログラムに基づき、上記動作を再生することによって、所望の作業を行う。
【0003】
ロボットの使用目的や工具の種類に応じて、ロボット本体に設けた制御装置などの回路と工具に内蔵された回路との間で制御用の信号等をそれら回路間で送受信する必要がある。工具交換装置を用いた場合に、ロボット本体と工具とが連結・分離されるから、これに応じて回路間の信号線の接続、切断を行う必要がある。このような信号線の接続、切断を行なう信号中継装置が知られている。信号中継装置は、第1の連結部材と第2の連結部材にそれぞれ取り付けた信号モジュールから構成されている。各信号モジュールは、第1の連結部材と第2の連結部材との連結によって、互いの端子同士を接触させて電気的に接続状態になり、第1の連結部材と第2の連結部材との分離によって、端子同士の接触を解除するコネクタを備えている。
【0004】
上記特許文献1の工具交換装置は、第1の連結部材の連結面に設けた2つのテーパーピンを、第2の連結部材の連結面に設けた2つの穴に挿入することによって、第1の連結部材と第2の連結部材の位置決めをする。
【0005】
特許文献2には、第1の連結部材の連結面に設けられた3つのテーパーピンと、第2の連結部材の連結面に設けられた3つの穴とを備える工具交換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-101796号公報
【文献】特開2010-36286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
産業用ロボットの動作、工具の重量及び重心位置に応じて、工具交換装置には、連結面に交差する軸を中心とする回転方向の負荷(ねじりトルク)が発生する。上記特許文献1の工具交換装置は、第1の連結部材の連結面に設けた2つのテーパーピンを、第2の連結部材の連結面に設けた2つの穴に挿入することによって、第1の連結部材と第2の連結部材の位置決めをすると共に、上記ねじりトルクによって生じる回転方向の位置ずれを防止する構造となっている。ロボット本体と工具をスムーズに連結及び分離するため、2つのテーパーピンと2つの穴の間には、それぞれ隙間が設けられている。
【0008】
産業用ロボットの動作中に、工具交換装置に対しねじりトルクが印加されると、テーパーピンと穴の間の隙間の分だけ、第1の連結部材と第2の連結部材の連結面間に回転方向の位置ずれが生じる。さらにねじりトルクが大きくなると、第1の連結部材と第2の連結部材が弾性変形し、回転方向の位置ずれがより大きくなる。回転方向の位置ずれが生じる前後の第1の連結部材に対する第2の連結部材の中心角の変位である相対変位角が大きくなり過ぎると、コネクタにおける端子同士の位置ずれも大きくなり、通信異常が発生するという問題がある。
【0009】
工具の重量が大きくなれば上記ねじりトルクも増大し、相対変位角も大きくなるので、工具交換装置のねじりトルクに対する耐性(耐ねじりトルク性)は、ロボットの可搬重量に応じて設定する必要がある。特許文献2に記載の工具交換装置のように、テーパーピンを従来の2本から3本とし、各テーパーピンに作用する応力を低減することによって、耐ねじりトルク性を向上することができる。
【0010】
しかしながら、テーパーピンを3本とした場合、2本の場合に比べ、位置合わせする箇所が増える。したがって、第1の連結部材と第2の連結部材の連結動作に伴って、テーパーピンを穴に挿入させる際、第1の連結部材と第2の連結部材の相対的な位置をより精密に制御する必要があるため、ティーチングが困難になり作業性が低下してしまう、という問題がある。
【0011】
本発明は、ティーチングの作業性の低下を抑制しながら、耐ねじりトルク性を向上することができる工具交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る工具交換装置は、機器の本体側と工具側のいずれか一方に取り付けられ、第1の連結面を有する第1の連結部材と、前記本体側と前記工具側の他方に取り付けられ、前記第1の連結面に接触可能な第2の連結面を有する第2の連結部材とを備える工具交換装置であって、前記第1の連結部材は、前記第1の連結面に、第1のピンと、第2のピンと、補助突起とを有し、前記第2の連結部材は、前記第2の連結面に、前記第1のピンが出入可能な第1の穴と、前記第2のピンが出入可能な第2の穴と、前記補助突起が出入可能な補助穴とを有し、前記第1のピンと前記第1の穴の間、及び、前記第2のピンと前記第2の穴の間に、前記第2の連結面に平行な方向の第1の隙間がそれぞれ設けられており、前記補助突起と前記補助穴の間に、前記第2の連結面に平行な方向の第2の隙間が設けられており、前記第2の隙間は、前記第1の隙間より大きい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、補助突起を備えていることによって耐ねじりトルク性を向上することができる。さらに補助突起を備えているものの、第2の隙間が第1の隙間より大きいので、補助突起がティーチングの作業に影響を与えないため、ティーチングの作業性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る工具交換装置を適用した産業用ロボットを示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る工具交換装置を示す斜視図であり、
図2のaは第1の連結部材、
図2のbは第2の連結部材である。
【
図3】第1実施形態に係る第1のピン(第2のピン及び補助ピン)を示す斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る第1の連結部材を示す正面図である。
【
図5】
図5のcは第1のピン(第2のピン)と第1の穴(第2の穴)との関係を模式的に示す部分断面図、
図5のdは補助ピンと補助穴との関係を模式的に示す部分断面図である。
【
図6】第1のピンと第1の穴、第2のピンと第2の穴、及び補助ピンと補助穴の位置関係を示す模式図であり、
図6のeは回転前、
図6のfは回転後である。
【
図7】第2実施形態に係る第1の連結部材を示す斜視図である。
【
図8】変形例(1)に係る工具交換装置を示す斜視図であり、
図8のgは第1の連結部材、
図8のhは第2の連結部材である。
【
図9】変形例(2)に係る第1の連結部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
1.第1実施形態
(全体構成)
図1に示す工具交換装置10は、機器としての産業用ロボット1の、本体としてのアーム12の先端に固定される第1の連結部材14Aと、工具16に固定される第2の連結部材18Aとを備える。第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aは、アルミニウムなどの金属で形成された、所定の厚さを有する板状の本体13,15を有する。第1の連結部材14Aの本体13は第1の連結面20を、第2の連結部材18Aの本体15は第2の連結面24を有する。
図1の工具交換装置10は、第1の連結部材14Aの第1の連結面20と、第2の連結部材18Aの第2の連結面24とが接触した状態で連結されている姿勢を示している。
図1において工具交換装置10は、x-y平面に平行な基台8上に据え付けられており、第1の連結面20及び第2の連結面24に交差する軸Aがz軸に平行となる向きに工具16を保持している。本図の場合、軸Aは、工具交換装置10の中心を通り、第1の連結面20及び第2の連結面24に直交する。
【0017】
第1の連結部材14Aは、第1の連結面20と背中合わせの第1の固定面17においてアーム12と図示しないボルトによって、着脱自在に締結される。第2の連結部材18Aは、第2の連結面24と背中合わせの第2の固定面19において、工具16と図示しないボルトによって、着脱自在に締結される。本図においては、工具16としてスポット溶接ガンが図示されているが、第2の連結部材18Aを取り付けた状態の異なる工具16が図示しない置台に複数用意されている。アーム12と工具16は、工具交換装置10を介して連結されると共に分離可能であり、アーム12に対し工具16が交換自在である。
【0018】
図2のaは第1の連結部材14Aを示す斜視図である。第1の連結部材14Aは、本体13の中央に第1の連結面20から突出した突起部22が設けられている。突起部22は、カムを含む係合機構を有する。第1の連結部材14Aは、突起部22の周囲に、第1のピン28と、第2のピン30と、補助突起としての補助ピン32Aとが配置されている。第1のピン28と、第2のピン30と、補助ピン32Aとは、第1の連結面20から突出している。
【0019】
第1の連結部材14Aは、アーム12の先端に固定するためのボルト(図示しない)を挿入する複数(
図2のaの場合6個)の貫通穴43が設けられている。第1の連結部材14Aは、本体13の第1の連結面20と第1の固定面17の間に配置される側面に、第1の信号モジュール21が設けられている。第1の信号モジュール21は、第1の連結面20に端子25が露出した第1のコネクタ23を備える。
【0020】
第1実施形態に係る、第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、形状および長さが同じであり、高強度の金属、例えば鋼で形成されている。
図3を用いて、代表して第1のピン28について説明する。
図3に示すように、第1のピン28は、円柱状の円柱部39と、基端が円柱部39の先端に一体に設けられ、先端に向かって直径が細くなる円錐台形状のテーパー部41とを有するテーパーピンである。円柱部39の外径とテーパー部41の基端の外径は同じである。円柱部39の基端に雌ねじ40が形成されている。補助ピン32Aの円柱部39の直径は、第1のピン28及び第2のピン30の円柱部39の直径より小さい。
【0021】
第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、第1の連結部材14Aの本体13に設けられた穴(図示しない)に円柱部39を第1の連結面20側から挿入し、第1の固定面17から雌ねじ40にボルト(図示しない)をねじ込むことによって本体13に固定される。第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、テーパー部41、及び円柱部39の先端側の一部が第1の連結面20から突出した状態で本体13に固定される(
図2のa)。
【0022】
図4に示すように、第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、軸A方向からみて第1の連結面20上の三角形の頂点となる位置に配置されている。第1のピン28と第2のピン30の間の距離L1が第1の連結部材14Aにおいてとり得る最大距離となるように、第1のピン28と第2のピン30は配置されている。
【0023】
第1の連結面20は、突起部22、貫通穴43及び第1のコネクタ23が設けられている。突起部22、貫通穴43及び第1のコネクタ23と干渉しない範囲で距離L1が最大となるように、第1のピン28及び第2のピン30が第1の連結面20に配置される。第1のピン28と第2のピン30の間の距離L1は、補助ピン32Aと第1のピン28の間の距離L2より長く、かつ、補助ピン32Aと第2のピン30の間の距離L3よりも長い。距離L2と距離L3はどちらの方が長くてもよい。
図4の場合、距離L3の方が距離L2より長い場合が示されている。第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、第1の連結面20の中心を通り第1の連結面20に平行な直線、すなわち軸Aに直交する直線に対し非線対称となる位置に設けられている。
【0024】
図2のbは第2の連結部材18Aを示す斜視図である。第2の連結部材18Aは、本体15の中央に第2の連結面24から第2の固定面19へ貫通する連結穴26を有する。連結穴26は、突起部22が出入可能であり、係合機構のカムが係合する係合部品が内面に設けられている。連結穴26の周囲の第2連結面24に、第1のピン28が出入可能な第1の穴34と、第2のピン30が出入可能な第2の穴36と、補助ピン32Aが出入可能な補助穴38Aとが設けられている。
【0025】
第1の穴34、第2の穴36、及び補助穴38Aは、それぞれ、第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aに対応した位置に設けられている。すなわち、第1の穴34、第2の穴36、及び補助穴38Aは、軸A方向からみて第2の連結面24上の三角形の頂点となる位置に配置されている。
【0026】
第2の連結部材18Aは、工具16に固定するためのボルト(図示しない)を挿入する複数(
図2のbの場合6個)の貫通穴47が設けられている。第2の連結部材18Aは、本体15の第2の連結面24と第2の固定面19の間に配置される側面に、第2の信号モジュール31が設けられている。第2の信号モジュール31は、第2の連結面24に端子35が露出した第2のコネクタ33を備える。
【0027】
第2の連結面24は、連結穴26、貫通穴47及び第2のコネクタ33が設けられている。第1の穴34、第2の穴36、及び補助穴38Aは、第2の連結面24に設けられた連結穴26、貫通穴47及び第2のコネクタ33と干渉しないように配置される。第1の穴34と第2の穴36の間の距離L1は、補助穴38Aと第1の穴34の間の距離L2よりも長く、かつ、補助穴38Aと第2の穴36の間の距離L3よりも長い。第1の穴34、第2の穴36、及び補助穴38Aは、軸Aに直交する直線に対し非線対称となる位置に配置されている。
【0028】
図5のcに示すように、第1のピン28と第1の穴34の間、及び、第2のピン30と第2の穴36の間に、第2の連結面24に平行な方向の第1の隙間D1がそれぞれ設けられている。第1の隙間D1は、第1のピン28及び第2のピン30の円柱部39のそれぞれの直径をφ1、第1の穴34及び第2の穴36のそれぞれの直径をφ2とすると、(φ2-φ1)/2で表される。
【0029】
図5のdに示すように、補助ピン32Aと補助穴38Aの間に、第2の連結面24に平行な方向の第2の隙間D2が設けられている。第2の隙間D2は、補助ピン32Aの円柱部39の直径をφ3、補助穴38Aの直径をφ2とすると、(φ2-φ3)/2で表される。
【0030】
実際の工具交換装置10における第1の隙間D1及び第2の隙間D2は、軸と穴の直径の差に加え、距離L1、距離L2、及び距離L3の影響を受ける。本明細書では、説明の便宜上、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aにおいて、距離L1、距離L2、及び距離L3の誤差がないものと仮定して説明する。
【0031】
本実施形態の場合、補助ピン32Aの円柱部39の直径φ3が、第1のピン28及び第2のピン30の円柱部39の直径φ1よりも小さく形成されているので、第2の隙間D2は第1の隙間D1より大きい。
【0032】
図6のeは、第1の穴34、第2の穴36、及び補助穴38Aと、それぞれ第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aの位置関係を、
図4に対応して示した模式図である。第2の隙間D2は、第1の隙間D1より大きいので、第1の隙間D1分だけ、第1の連結部材14A及び第2の連結部材18Aの位置が第1の連結面20に平行な方向にずれたとしても、補助ピン32Aと補助穴38Aが干渉しない。例えば、
図6のfに示すように、第1の連結部材14Aが第2の連結部材18Aに対し、軸Aを中心として
図6の紙面において相対的に右回転した場合、第1のピン28と第1の穴34が図面の上部側において、第2のピン30と第2の穴36が図面の下部側において、それぞれ接触する。
【0033】
第1のピン28と第1の穴34、及び、第2のピン30と第2の穴36が、それぞれ接触した回転位置において、補助ピン32Aと補助穴38Aは、
図6のfの紙面における左側で最も近づく。この補助ピン32Aと補助穴38Aの間の隙間を第3の隙間D3とする。すなわち、第3の隙間D3は、第1のピン28と第1の穴34、及び、第2のピン30と第2の穴36が、それぞれ接触した回転位置における、補助ピン32Aと補助穴38Aの間の最小の隙間である。第2の隙間D2は、第1のピン28と第1の穴34、及び、第2のピン30と第2の穴36が、それぞれ接触した位置において、補助ピン32Aと補助穴38Aの間に、少なくとも第3の隙間D3を形成する大きさである。回転方向の位置ずれが生じる前後の第2の連結部材18Aに対する第1の連結部材14Aの中心角の変位を相対変位角θ(
図6のf)と呼ぶ。
【0034】
図6のfに示す状態からさらに軸Aを中心とし、第1の連結部材14A及び第2の連結部材18Aに対し、相対的に右回転する方向にねじりトルクが印加され、第1の連結部材14A及び前記第2の連結部材18Aが弾性変形した場合、補助ピン32Aと補助穴38Aが接触する。工具交換装置10は、第1の連結部材14A及び前記第2の連結部材18Aの上記弾性変形を補助ピン32Aによって抑制するべく、上記弾性変形開始後すぐに補助ピン32Aと補助穴38Aが接触するように形成されるのが好ましい。したがって、第3の隙間D3は0より大きく、小さいほど好ましい。
【0035】
(作用及び効果)
次に上記構成の作用及び効果について説明する。まず、産業用ロボット1のプログラムを作成するためにティーチングを行う。図示しない置台に設置されている工具16に締結された第2の連結部材18Aに対し、アーム12を移動して、第1の連結部材14Aを位置合わせする。軸Aがz軸に平行になるように、第2の連結部材18Aが置台に配置されている場合について説明する。アーム12を移動させ第1の連結部材14Aを第2の連結部材18Aのz軸上方に配置する。次いで、アーム12をx軸及びy軸を中心に回転させ、第1の連結部材14Aの第1の連結面20が、第2の連結部材18Aの第2の連結面24に対し平行になるよう姿勢を調整する。
【0036】
次いで、アーム12をx方向及びy方向に移動すると共に、z軸を中心に回転させることによって、第1のピン28と第1の穴34、及び第2のピン30と第2の穴36の位置を合わせる。第1のピン28と第1の穴34の位置、及び第2のピン30と第2の穴36の位置は、第1の隙間D1の分だけ位置ずれが許容される。
【0037】
本実施形態の場合、補助ピン32Aと補助穴38Aの間の第2の隙間D2は、第1の隙間D1より大きいので、第1のピン28と第1の穴34、及び第2のピン30と第2の穴36の位置ずれが第1の隙間D1の範囲内であれば、自ずと補助ピン32Aと補助穴38Aは互いに干渉しない位置に配置される。したがって、補助ピン32Aが第1の連結部材14Aに設けられているが、工具交換装置10において、補助ピン32Aを有しない場合と同様に位置合わせを行うことができる。すなわち、工具交換装置10において、補助ピン32Aを有しない場合と位置合わせの困難性はほとんど変わらない。
【0038】
次いで、アーム12をz軸方向に移動させることによって、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aを連結、分離する動作をティーチングする。工具16をアーム12に連結する場合には、アーム12を第2の連結部材18Aへ近づく方向へ移動させ、第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aを、それぞれ、第1の穴34、第2の穴36、及び補助穴38Aに挿入する。
【0039】
さらにアーム12を第1の連結面20と第2の連結面24とが接触するまで移動させ、かつ突起部22を連結穴26に挿入した状態で、係合機構を作動させることで第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aとを連結する。一方、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aを分離するには、係合機構による連結を解除してから、アーム12を、第1の連結部材14Aが第2の連結部材18Aから離れる方向へ移動させる。上記のようにして、アーム12に対し工具16を連結及び分離することができる。
【0040】
工具交換装置10は、補助ピン32Aを備えているものの、第2の隙間D2が第1の隙間D1より大きいので、補助ピン32Aがティーチングの作業に影響を与えない。したがって、工具交換装置10は、ティーチングの作業性の低下を抑制することができる。
【0041】
工具交換装置10は、上記のようにして、ティーチング作業が行われたことによって、プログラムが作成され、当該プログラムに基づき、動作を行う。すなわち、工具交換装置10は、アーム12に対し工具16を連結及び分離することによって、必要な工具16を用いて所望の作業を行う。第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aとの連結によって、第1のコネクタ23及び第2のコネクタ33は、互いの端子25,35同士を接触させて電気的に接続状態になり、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aとの分離によって、端子25,35同士の接触を解除する。
【0042】
産業用ロボットの動作、工具16の重量、及び工具16の重心位置に応じて、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aの間には、軸Aを中心とする回転方向のねじりトルクが発生する。当該ねじりトルクによって、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aは第1の隙間D1分だけ相対的に回転し、第1のピン28が第1の穴34に、第2のピン30が第2の穴36にそれぞれ接触する(
図6のf)。第2の隙間D2が第1の隙間D1より大きいので、第1のピン28が第1の穴34に、第2のピン30が第2の穴36にそれぞれ接触した段階では、補助ピン32Aと補助穴38Aは第3の隙間D3分だけ離れており、まだ接触していない。ねじりトルクによって第1の穴34及び第2の穴36にそれぞれ接触することによって、第1のピン28及び第2のピン30に応力が作用するが、補助ピン32Aは補助穴38Aに接触していないので、応力がまだ作用していない。
【0043】
上記ねじりトルクがさらに大きくなり、第1のピン28と第1の穴34、及び第2のピン30と第2の穴36の間に印加される力が増大すると、第1の連結部材14A及び第2の連結部材18Aが弾性変形し始め、相対変位角θが大きくなる。相対変位角θが大きくなると、やがて補助ピン32Aと補助穴38Aが接触する。補助ピン32Aと補助穴38Aが接触すると、それまでねじりトルクによる応力が作用していなかった補助ピン32Aにも応力が作用することによって、工具交換装置10は、耐ねじりトルク性が向上する。耐ねじりトルク性が向上することによって、第1の連結部材14A及び第2の連結部材18Aの弾性変形、及び相対変位角θの増加が抑制される。したがって、工具交換装置10は、第1のコネクタ23及び第2のコネクタ33における端子25,35同士の位置ずれを抑制でき、通信異常を防止することができる。
【0044】
実際に、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aに対しねじりトルクを加えたときの相対変位角θの大きさを調べたところ、補助ピン32Aを設けなかった場合に比べ、補助ピン32Aを設けた方が、相対変位角θが約40%小さくなることが確認された。したがって、工具交換装置10は、補助ピン32Aを設けることによって、耐ねじりトルク性を向上することができる。
【0045】
工具交換装置10は、補助ピン32Aを備えることによって耐ねじりトルク性を向上できると共に、第2の隙間D2を、第1の隙間D1より大きくしたことによって、位置合わせの困難性を、補助ピン32Aを設けない場合と同程度にすることができる。
【0046】
第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、軸Aに直交する直線に対し非線対称となる位置に設けたことによって、軸Aを中心とする回転方向の位置を間違えて第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aが連結されることを防止できる。
【0047】
距離L1が最大距離となるように第1のピン28と第2のピン30が配置されている。すなわち工具交換装置10は、第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aを軸Aから等距離及び等間隔に配置する場合に比べ、第1のピン28と第2のピン30の間の距離L1が長い。距離L1が長い分だけ、第1の連結部材14Aと第2の連結部材18Aの相対的な回転によって第1のピン28及び第2のピン30に印加される力を小さくすることができるので、工具交換装置10は、耐ねじりトルク性をより向上することができる。
【0048】
距離L1が最大距離となるように第1のピン28と第2のピン30が配置されていることによって、工具交換装置10は、距離L1が短い場合に比べ、第1の隙間D1によって生じる相対変位角θを小さくすることができる。
【0049】
第1のピン28、第2のピン30、及び補助ピン32Aは、先端に向かって直径が細くなるテーパーピンであるので、第1の穴34、第2の穴36、補助穴38Aに対する出入の際に、軸が穴に接触し出入の途中で穴に対し軸が固定してしまう、いわゆる「こじり」を、円柱状のピンの場合に比べ生じにくくすることができる。
【0050】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る第1の連結部材について
図7を参照して説明する。第2実施形態に係る第1の連結部材14Bは、補助ピン32Bが第1実施形態と異なる。第2実施形態に係る補助ピン32Bは、基端から先端までの長さが、第1のピン28及び第2のピン30よりも短い。
図7に示す補助ピン32Bは、テーパー部51の長さが第1実施形態の補助ピン32Aに比べ短い。補助ピン32Bは、テーパー部51、及び円柱部39の先端側の一部が第1の連結面20から突出した状態で本体13に固定される。第1の連結部材14Bにおいて、第1の連結面20から補助ピン32Bの先端までの長さが、第1の連結面20から第1のピン28の先端までの長さ、及び第1の連結面20から第2のピン30の先端までの長さより短い。
【0051】
補助ピン32Bの円柱部39の直径φ3は、第1実施形態と同様、第1のピン28及び第2のピン30の円柱部39の直径φ1より小さい。第1の連結部材14Bを適用した工具交換装置において、第2の隙間D2は、第1の隙間D1より大きい。
【0052】
第1の連結部材14Bを備えた工具交換装置は、補助ピン32Bを備えると共に、補助ピン32Bと補助穴38Aの間に第2の隙間D2が形成されることによって、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、補助ピン32Bの長さが短いことによって、第1のピン28及び第2のピン30の先端が第1の穴34及び第2の穴36に進入し始めた段階では、まだ補助ピン32Bの先端は補助穴38Aに到達しない。したがってティーチングの際、補助ピン32Bの影響を受けずに第1のピン28及び第2のピン30だけを位置決めすればよいので、ティーチングの作業性の低下をより確実に抑制することができる。
【0053】
仮に、第1のピン28及び第2のピン30と、第1の穴34及び第2の穴36の位置が第1の隙間D1を超えてずれた状態で、第1のピン28及び第2のピン30を第1の穴34及び第2の穴36にそれぞれ挿入しようとした場合であっても、工具交換装置は、補助ピン32Bと補助穴38Aが干渉することをより確実に防ぐことができる。
【0054】
3.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0055】
図8に示す第1の連結部材14Cのように、補助突起は、平行キー32Cを用いてもよい。平行キー32Cは、先端面及び基端面が長円形状である柱状の部材である。平行キー32Cの先端面は、第1の連結面20から突出している。平行キー32Cの基端面には、図示しないが雌ねじが形成されている。平行キー32Cは、第1の連結部材14Cの本体13に設けられた穴(図示しない)に第1の連結面20側から挿入し、第1の固定面からボルト(図示しない)を基端面の雌ねじにねじ込むことによって固定される。
【0056】
第1の連結面20から平行キー32Cの先端面までの長さが、第1の連結面20から第1のピン28の先端までの長さ、及び第1の連結面20から第2のピン30の先端までの長さより短い。第2の連結部材18Bの第2の連結面24には、平行キー32Cが出入可能な補助穴38Bが設けられている。補助穴38Bは、平行キー32Cに合わせた長円形状であって、平行キー32Cの先端面の外形に対し第2の連結面24に平行な方向の第2の隙間D2を形成可能な大きさを有する。
【0057】
第1の連結部材14Cを備える工具交換装置は、平行キー32Cを備えると共に、平行キー32Cと補助穴38Bの間には第2の隙間D2が形成されることによって、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。第1の連結部材14Cは、第1の連結面20から平行キー32Cの先端までの長さが、第1の連結面20から第1のピン28の先端までの長さ、及び第1の連結面20から第2のピン30の先端面までの長さより短いので、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0058】
図9に示す第1の連結部材14Dのように、補助突起は、ダイヤピン32Dを用いてもよい。ダイヤピン32Dは、円柱部(図示しない)と、円柱部の先端に一体に設けられた、ダイヤ形状部45とを有する。ダイヤ形状部45は、中心軸からみてダイヤ形状となるように軸方向に延びる溝が形成されている。円柱部の直径と、ダイヤ形状部45の最外径とは、同じφ3である。ダイヤ形状部45の最外径φ3は、第1実施形態と同様、第1のピン28及び第2のピン30の円柱部39の直径φ1より小さい。
【0059】
第2の連結部材は、上記第1実施形態の第2の連結部材18Aを適用することができる。したがってダイヤピン32Dと補助穴38Aの間に形成される第2の隙間D2は、第1の隙間D1より大きい。第1の連結面20からダイヤピン32Dの先端までの長さは、第1の連結面20から第1のピン28の先端までの長さ、及び第1の連結面20から第2のピン30の先端までの長さより短い。
【0060】
第1の連結部材14Dを備える工具交換装置は、ダイヤピン32Dを備えると共に、ダイヤピン32Dの最外径と補助穴38Aの間には第2の隙間D2が形成されることによって、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。第1の連結部材14Dは、第1の連結面20からダイヤピン32Dの先端までの長さが、第1の連結面20から第1のピン28の先端までの長さ、及び第1の連結面20から第2のピン30の先端までの長さより短いので、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。ダイヤピン32Dは、ダイヤ形状部45において補助穴38A内面と接する表面積が小さいため、「こじり」を、円柱状のピンの場合に比べ生じにくくすることができる。
【0061】
第1及び第2実施形態の場合、補助突起は、1個の場合について説明したが、本発明はこれに限らず、2個以上であってもよい。
【0062】
第1及び第2実施形態の場合、補助突起の直径を小さくすることによって第2の隙間D2を設けることとしたが、本発明はこれに限らない。補助突起の直径を第1のピン28及び第2のピン30と同じとし補助穴を大きくすることによって、第2の隙間D2を形成してもよい。
【0063】
第1実施形態及び第2実施形態の場合、第1の連結部材に突起部、第2連結部材に連結穴を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、第1の連結部材に連結穴、第2の連結部材に突起部を設けてもよい。
【0064】
第1実施形態及び第2実施形態の場合、第1の連結部材がアーム12に、第2の連結部材が工具16に固定される場合について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明に係る工具交換装置は、第1の連結部材が工具16に、第2の連結部材がアーム12に固定される実施形態に適用してもよい。
【0065】
第1実施形態及び第2実施形態の場合、第1のピン28と第1の穴34の間の隙間、及び、第2のピン30と第2の穴36の間の隙間は、第1の隙間D1である場合について説明したが、両者の隙間は完全に一致している場合に限らず、若干ずれている場合を含む。
【0066】
第1実施形態及び第2実施形態の場合、第1のピン28と第2のピン30は、テーパーピンである場合について説明したが、本発明はこれに限らず、円柱状及び多角柱状のピンに適用してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 産業用ロボット(機器)
10 工具交換装置
12 アーム(本体)
14A,14B,14C,14D 第1の連結部材
16 工具
18A,18B 第2の連結部材
20 第1の連結面
24 第2の連結面
28 第1のピン
30 第2のピン
32A,32B 補助ピン(補助突起)
32C 平行キー(補助突起)
32D ダイヤピン(補助突起)
34 第1の穴
36 第2の穴
38A,38B 補助穴
A 軸
D1 第1の隙間
D2 第2の隙間