(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ウナギ目魚類仔魚を飼育する方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20230322BHJP
【FI】
A01K61/10
(21)【出願番号】P 2019566983
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000466
(87)【国際公開番号】W WO2019146410
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018011279
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393030626
【氏名又は名称】株式会社新日本科学
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】永田 良一
(72)【発明者】
【氏名】川上 優
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521570(JP,A)
【文献】特開昭51-018695(JP,A)
【文献】Akihiro Okamura et al.,Growth and survival of eel leptocephali (Anguilla japonica) in low-salinity water,Aquaculture,2009年11月,296巻,p.367-372
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 - 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分濃度が10‰以上38‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を飼育する方法であって,
ウナギ目魚類仔魚が孵化してから前記ウナギ目魚類仔魚が開口するまでを第1期とし,
第1期の後前記ウナギ目魚類仔魚の全長が10mmとなるまでを第2期とした場合に,
第1期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が34‰以上36‰以下の環境で前記ウナギ目魚類仔魚を育成し,
第2期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が10‰以上28‰以下の環境で前記ウナギ目魚類仔魚を育成する,
方法
であって,第2期の後前記ウナギ目魚類仔魚の全長が20mmとなるまでを第3期としたときに,
第3期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が21‰以上36‰以下の環境で前記ウナギ目魚類仔魚を育成する,
方法。
【請求項2】
請求項1に記載のウナギ目魚類仔魚を飼育する方法であって,
第2期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が16‰以上25‰以下の環境で前記ウナギ目魚類仔魚を育成する,
方法。
【請求項3】
請求項1に記載のウナギ目魚類仔魚を飼育する方法であって,第1期の末日又は2日前から第2期の初日又は2日目にかけて塩分濃度を逓減させる方法。
【請求項4】
請求項1に記載のウナギ目魚類仔魚を飼育する方法であって,
第3期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が23‰以上25‰以下の環境で前記ウナギ目魚類仔魚を育成する,
方法。
【請求項5】
請求項1に記載のウナギ目魚類仔魚を飼育する方法であって, 第2期の末日又は2日前から第3期の初日又は2日目にかけて塩分濃度を徐々に変化させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ウナギ目魚類仔魚を飼育する方法に関する。より詳しく説明すると,培養系の成分濃度を効果的に変化させるウナギ目魚類仔魚を飼育する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-236598号公報には,飼育水の溶存酸素の濃度を調整するウナギ目魚類の飼育方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方,ウナギ目魚類は,孵化してから仔魚まで成長させることが極めて難しく,培養系の溶存酸素濃度(DO)を調整するのみでは,効果的にウナギ目魚類仔魚を飼育できない。このため,生存率が高いウナギ目魚類仔魚の飼育方法(ウナギ目魚類仔魚又はウナギ目魚類の製造方法)が望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は,基本的には,ウナギ目魚類仔魚が開口した後に培養系の塩分濃度を低い状態とすることで,効果的にウナギ目魚類仔魚を飼育できるという実施例による知見に基づく。
【0006】
本発明は,ウナギ目魚類仔魚を飼育する方法に関する。この方法は,基本的には,塩分濃度が10‰以上38‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を飼育する方法である。
ウナギ目魚類仔魚が孵化してからウナギ目魚類仔魚が開口するまでを第1期とする。そして, 第1期の後から,ウナギ目魚類仔魚の全長が10mmとなるまでを第2期とする。
その場合,第1期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が34‰以上36‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成する。そして,第2期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が10‰以上28‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成する。
【0007】
この方法は,第2期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が16‰以上25‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成するものが好ましい。
【0008】
この方法は,第1期の末日又は2日前から第2期の初日又は2日目にかけて塩分濃度を逓減させることが好ましい。
【0009】
次に,第2期の後からウナギ目魚類仔魚の全長が20mmとなるまでを第3期とする。
この場合,第3期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が21‰以上36‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成することが好ましい。第3期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が23‰以上25‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成するものがより好ましい。さらに,第2期の末日又は2日前から第3期の初日又は2日目にかけて塩分濃度を徐々に変化させるものが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
実施例により実証された通り,本発明によれば,効果的にウナギ目魚類仔魚を飼育できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は,30‰および35‰に調整した人工海水を用いて孵化後のウナギ目魚類を飼育した後の5日齢仔魚の正常個体の出現率を示す図面に替わるグラフである。
【
図2】
図2は,通常濃度区(33-35‰)と低濃度区(16-18‰)で飼育したニホンウナギ目魚類仔魚の全長と体高を示す図面に替わるグラフである。
【
図3】
図3は,通常濃度区(33-35‰)と低濃度区(16-18‰)で飼育したニホンウナギ目魚類仔魚生残率の推移を示す図面に替わるグラフである。
【
図4】
図4は,低中濃度を併用した飼育法によって得られた124日齢仔魚の全長を示す図面に替わるグラフである。
【
図5】
図5は,通常濃度区(33-35‰)と中濃度区(23-25‰)で飼育したニホンウナギ目魚類仔魚の全長と体高を示す図面に替わるグラフである。
【
図6】
図6は,通常濃度区(33-35‰)と中濃度区(23-25‰)で飼育したニホンウナギ目魚類仔魚生残率の推移を示す図面に替わるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は,ウナギ目魚類仔魚を飼育する方法に関する。この方法は,基本的には,塩分濃度が10‰以上38‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を飼育する方法である。
【0013】
ウナギ目魚類仔魚の生育期区分
本明細書では,ウナギ目魚類仔魚の生育期区分を以下の通り定義する。
ウナギ目魚類仔魚が孵化してからウナギ目魚類仔魚が開口するまで(給餌を行う前まで)を第1期とする。そして,第1期の後から,ウナギ目魚類仔魚の全長が10mmとなるまでを第2期とする。第2期の後からウナギ目魚類仔魚の全長が20mmとなるまでを第3期とする。
なお,ウナギ目魚類仔魚が複数の場合は,第1期は,その半数が開口するまでの期間とすればよい。第2期及び第3期も同様である。例えば,第2期はウナギ目魚類仔魚の半数の全長が10mm以上となるときまでとすればよいし,第3期はウナギ目魚類仔魚の半数の全長が20mm以上となるときまでとすればよい。
【0014】
第1期は,通常,孵化してから5~8日齢までである。
第2期は,通常,約40日齢(例えば,20~50日齢,環境によって35~45日齢)までである。
第3期は,通常,約100日齢(例えば,50~120日齢,環境によって90~110日齢)までである。
【0015】
ウナギ目魚類
ウナギ目魚類の例は,ウナギ,アナゴ,ハモ及びウツボである。これらの中ではウナギが好ましい。ウナギの例は,ニホンウナギ(Anguilla japonica),ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla),オオウナギ(Anguilla marmorata),及びアメリカウナギ(Anguilla rostrata)である。なお,ウナギ目魚類は,レプトケファルス幼生を経て成長するため,以下ではウナギを中心に説明するものの,他のウナギ目魚類についても同様に育成させることができる。ウナギ目魚類の仔魚は,レプトケファルス幼生とよばれる。自然界では,例えば,ニホンウナギ(Anguilla japonica)が孵化してからシラスウナギまでに要する日数は,160-180日程度と考えられている。天然で採捕されるシラスウナギの全長が60mm程度であることから,最大伸長期に達する,つまり変態可能な体サイズは全長60mm以上と考えられる。一方,人工的に生産されたレプトケファルス幼生においては,変態可能なサイズは全長50~60mmとされ,その体サイズにまで成長させるには,サメ卵飼料を用いて通常200日以上もの長期飼育が必要であり,400日以上要する個体もある。そうした種苗生産期間の長期化は生残率の低下や生産コストの上昇につながっていると懸念されている。
【0016】
ウナギ目魚類の飼育系
ウナギ目魚類を飼育するためには,ウナギ目魚類を飼育するために用いられている通常の容器(例えばアクリル製の容器)を用いればよい。ウナギ目魚類の飼育系については,公知の文献を適宜参照すればよい。本発明において,公知の飼料を適宜用いてもよい。
【0017】
飼育水には,甲状腺ホルモンや,ビタミン類及びその誘導体を加えても良い。ビタミン類の例は,ビタミンA,レチノイン酸及びビタミンCである。特にレチノイン酸は甲状腺ホルモンとヘテロ2量体を形成するので有効であった。実際にこれらを投与したところ,ウナギ目魚類仔魚(特にウナギ仔魚)の育成が高まった。
【0018】
本発明の方法は,止水状態や流水下環境で行うことができる。水温は20℃から28℃の範囲で使用することが望ましい。さらに,22℃から26℃の範囲で使用することが望ましい。誘導中は,酸素などエアレーションを施しながら飼育をすることが望ましい。
【0019】
本発明の方法に用いる飼育水に含まれる水は,特に限定されない。水道水や地下水,温泉水,天然海水や,蒸留水や脱イオン水などを用いても良いし,上記水を基にした市販の人工海水を使用しても良い。
【0020】
ウナギ目魚類の飼育は,暗室内にて行うことが好ましい。以下,孵化後の飼育計画について説明する。
【0021】
第1期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が34‰以上36‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成する。塩分濃度は,34‰以上35‰以下でもよいし,35‰以上36‰以下でもよいし,34.5‰以上35.5‰以下でもよい。「少なくとも半分の期間」は,全体でもよいし,50%以上95%以下でも,60%以上90%以下でも,70%以上85%以下でもよい。なお,第1期中(特に第1期の初めから3日又は4日まで)の塩分濃度の変動(平均からのずれ)は,20%以下(又は10%以下)であることが好ましい。第1期の末日又は2日前から,塩分濃度を徐々に減らしてもよい。
【0022】
第2期は,第1期よりも塩分濃度を低くするものが好ましい。第2期の始め(例えば,初日まで,又は2日目まで)は,徐々に塩分濃度を低くしてもよい。第2期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が10‰以上28‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成する。第2期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が16‰以上25‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成するものが好ましい。塩分濃度は,16‰以上23‰以下でも,17‰以上23‰以下でも,17‰以上20‰以下でも,20‰以上25‰以下でも,20‰以上23‰以下でもよい。「少なくとも半分の期間」は,全体でもよいし,50%以上95%以下でも,60%以上90%以下でも,70%以上85%以下でもよい。第2期中(第2期の3日目以降末日の3日前までの期間)の塩分濃度の変動(平均からのずれ)は,20%以下(又は10%以下)であることが好ましい。
【0023】
過渡期
第1期の末日又は2日前から第2期の初日又は2日目にかけて塩分濃度を逓減させることが好ましい。
【0024】
第3期の塩分濃度は,第2期の塩分濃度より高いものが好ましい。第3期の始め(例えば,初日まで,又は2日目まで)は,徐々に塩分濃度を低くしてもよい。第3期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が21‰以上36‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成することが好ましい。第3期のうち少なくとも半分の期間を,塩分濃度が23‰以上25‰以下の環境でウナギ目魚類仔魚を育成するものがより好ましい。塩分濃度は,23‰以上24‰以下でもよいし,24‰以上25‰以下でもよいし,23。5‰以上24.5‰以下でもよい。「少なくとも半分の期間」は,全体でもよいし,50%以上95%以下でも,60%以上90%以下でも,70%以上85%以下でもよい。第3期中(第3期の3日目以降末日の3日前までの期間)の塩分濃度の変動(平均からのずれ)は,20%以下(又は10%以下)であることが好ましい。さらに,第2期の末日又は2日前から第3期の初日又は2日目にかけて塩分濃度を徐々に変化させるものが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下,実施例を用いて本発明を具体的に説明する。本発明は,以下の実施例から当業者が適宜変更を行ったものや公知技術を組み合わせたものも含む。
【0026】
(孵化仔魚の準備)
人為催熟によって得られたニホンウナギの卵と精子を人工授精した。受精後,卵割が認められた卵を受精卵とした。受精卵を,25℃,塩分濃度34~35‰の人工海水を用いて,100L(リットル)パンライト水槽内で飼育した。約1.5日後に,複数のウナギが孵化した。このようにしてウナギ仔魚を得た。
【0027】
(試験方法:第1期の最適化)
30‰および35‰に調整した人工海水を2種類の500mLビーカーに準備し,そこへウナギ仔魚を各50尾収容し,25℃インキュベーター内で飼育した。
【0028】
(種苗評価)
5日齢仔魚の正常個体と奇形個体計測した。
1)尾部が折れている,
2)下顎が閉じていない,又は
3)頭部欠損した仔魚を奇形仔魚と判定した。
【0029】
結果
図1に,30‰および35‰に調整した人工海水を用いて孵化後のウナギを飼育した後の5日齢仔魚の正常個体の出現率を示す。
図1に示される通り,30‰の人工海水で飼育した仔魚は,正常率が8.0%だったのに対し,35‰人工海水で飼育した仔魚は,正常率が96.0%と高い結果を示した。このことから,孵化仔魚から摂餌開始までの仔魚飼育は,35‰程度の高濃度海水を用いることが適していると考えられた。
【0030】
(孵化仔魚の準備)
人為催熟によって得られたニホンウナギの卵と精子を人工授精した。受精後,卵割が認められた卵を受精卵として,25℃,塩分濃度34-35‰の人工海水を用いて,100Lパンライト水槽内で受精卵を飼育した。約1.5日後に,孵化した仔魚を得た。
【0031】
(摂餌開始仔魚の準備)
孵化したウナギ仔魚を,20Lクライゼル水槽に移し替え,25℃,塩分濃度34-35‰人工海水で飼育を行った。孵化後6日齢となった正常な仔魚を,5Lボール型水槽に200尾移送した。
【0032】
(試験方法:第1期を最適化した後の第2期の最適化)
水槽に人工海水を注水し,容積を5Lとした。塩分濃度が33-35‰である通常濃度区と,塩分濃度が16-18‰である低濃度区の2つの試験区を準備した。ニホンウナギレプトケファルス幼生を2つの水槽に馴致させた。その後,アブラツノザメ卵を基本とした飼料3mL相当の飼料をピペットで水槽底面に投与し給餌を開始した。給餌期間中は,15分間止水した。15分経過後,1分間に0.4から0.5Lの流量で底面に残った餌を洗い流した。上記の作業を2時間おきに計5回繰り返した。給餌時間は,7時,9時,11時,13時,及び15時とした。5回給餌後は,同型の水槽にニホンウナギレプトケファルス幼生を移し替えた。給餌以外の時間帯は,1分間に0.4から0.5Lの流量で注水し続けた。給餌期間中はすべて25℃の人工海水を循環濾過しながら飼育を継続した。
【0033】
(種苗評価)
30日間給餌飼育を行い,その間の死亡数を計測し,35日齢時点での全長と体高を実体顕微鏡下で測定した。なお,通常濃度区については,実験を3度行った。
【0034】
結果:
図2に,通常濃度区(33-35‰)と低濃度区(16-18‰)で飼育したニホンウナギ仔魚の全長と体高を示す。グラフは,平均±標準偏差をもって示している。図中,イニシャルは,給餌開始時を示し,nは個体数を示す。
図3に,通常濃度区(33-35‰)と低濃度区(16-18‰)で飼育したニホンウナギ仔魚生残率の推移を示す。通常濃度区については,3回行ったそれぞれの実験の結果を示す。
図2に示されるように,30日飼育終了時の,全長および体高は,通常濃度区(33-35‰)と低濃度区(16-18‰)との間に有意な差は認められなかった。一方,
図3に示されるように,低濃度区は常に通常濃度区よりも減耗率が低く,試験終了時は,通常濃度区の生存率が22-29%であったのに対し,低濃度区の生存率は約69%であった。このため,給餌後の所定期間は,培養系の塩分濃度を著しく下げることにより,生存率が飛躍的に高まることが分かった。
【0035】
(仔魚の準備)
上記の低濃度区(16-18‰)で飼育した個体を用いて,次の生育期における最適条件を模索した。
【0036】
(試験方法:第1期及び第2期を最適化した後の第3期の最適化)
35日齢のウナギ仔魚約50尾を5L型ボール型水槽で飼育を行った。アブラツノザメ卵を基本とした飼料3mL相当の飼料をピペットで水槽底面に投与し給餌を開始した。給餌期間中は15分間止水した。15分経過後,1分間に0.4から0.5Lの流量で底面に残った餌を洗い流した。上記の作業を2時間おきに計5回繰り返した。給餌時間は,7時,9時,11時,13時,及び15時とした。5回給餌後は,同型の水槽にニホンウナギレプトケファルス幼生を移し替えた。給餌以外の時間帯は,1分間に0.4から0.5Lの流量で注水し続けた。給餌期間中はすべて25℃低濃度人工海水(16-18‰)を循環濾過しながら飼育を継続した。80日齢に到達した時点で,低濃度(16-18‰)から,人工海水濃度を約25‰になるように1週間かけて濃度を移行させた。その後,上記と同じ給餌環境を用いて飼育を継続した。その間の人工海水は25℃であり,23-25‰濃度(中濃度人工海水)で推移させた。
【0037】
結果:
低濃度人工海水(16-18‰)は,50-60日齢から,並行飼育していた通常濃度の仔魚よりも相対的に見て明らかに成長遅延が認められた。このため,低濃度人工海水から中濃度人工海水(23-25‰)へ培養系を変化させた。その後の成長は回復傾向を示し,124日齢時点で,全長36.2mmを最大個体としたレプトケファルス幼生が生産された。
図4に,低中濃度を併用した飼育法によって得られた124日齢仔魚の全長を示す。
図4に示される通り低中濃度を併用した飼育法により,ウナギ仔魚の平均全長が30mm程度に成長した。
【0038】
(孵化仔魚の準備)
人為催熟によって得られたニホンウナギの卵と精子を人工授精した。受精後,卵割が認められた卵を受精卵とした。25℃,塩分濃度34~35‰の人工海水を用いて,100Lパンライト水槽内で,受精卵を飼育した。約1.5日後に,孵化した仔魚を得た。
【0039】
(摂餌開始仔魚の準備)
孵化した仔魚を,20Lクライゼル水槽に移し替え,25℃,塩分濃度34~35‰の人工海水で飼育した。孵化後6日齢となり,奇形仔魚の出現頻度が少ないか,又は奇形仔魚がいないことを確認した。その後,5Lボール型水槽に200尾のウナギ仔魚を移送した。
【0040】
(試験方法:第1期を最適化した後の第2期の最適化)
クライゼル型水槽に人工海水を注水し,容積を5Lとした。塩分濃度が33~35‰である通常濃度区と,塩分濃度が23~25‰である中濃度区の2種類の試験区を準備した。なお,中濃度区については2つ同様の実験を行った。ニホンウナギレプトケファルス幼生を2つの水槽に馴致させた。その後,アブラツノザメ卵を基本とした飼料3mL相当の飼料をピペットで水槽底面に投与し給餌を開始した。給餌期間中は15分間止水した。15分経過後,1分間に0.6から0.8Lの流量で底面に残った餌を洗い流した。上記の作業を2時間おきに計5回繰り返した。給餌時間は,7時,9時,11時,13時,及び15時とした。5回給餌後は,同型の水槽にニホンウナギレプトケファルス幼生を移し替えた。給餌以外の時間帯は,1分間に0.6から0.8Lの流量で注水し続けた。給餌期間中はすべて25℃の人工海水を循環濾過しながら飼育を継続した。
【0041】
(種苗評価)
30日間給餌飼育を行い,その間の死亡数を計測し,35日齢時点での全長と体高を実体顕微鏡下で測定した。
【0042】
結果:
図5に,通常濃度区(33-35‰)と中濃度区(23-25‰)で飼育したニホンウナギ仔魚の全長と体高を示す。グラフは,平均値±標準偏差値である。
図6に,通常濃度区(33-35‰)と中濃度区(23-25‰)で飼育したニホンウナギ仔魚生残率の推移を示す。
図5に示される通り,30日飼育終了時の全長および体高は,通常濃度区(33-35‰)と中濃度区(23~25‰)との間に有意な差は認められなかった。
図6に示される通り,中濃度区は常に通常濃度区よりも減耗率が低く,試験終了時は,通常濃度区の生存率が1.5%であったのに対して,中濃度区の生存率は27%,及び39%であった。このように中濃度区による飼育では,通常濃度区よりも高い生残率が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は水産業において利用されうる。