(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】GPCRの機能的立体構造状態を安定化するタンパク質結合ドメインおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20230322BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230322BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230322BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230322BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20230322BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230322BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/53 D
C12Q1/06
C40B40/10
C12N15/09 Z
C12N15/13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020177138
(22)【出願日】2020-10-22
(62)【分割の表示】P 2017152195の分割
【原出願日】2011-07-18
【審査請求日】2020-11-19
(32)【優先日】2010-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2010-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509333933
【氏名又は名称】フエー・イー・ベー・フエー・ゼツト・ウエー
(73)【特許権者】
【識別番号】509333922
【氏名又は名称】フリエ・ウニベルシテイト・ブリユツセル
(73)【特許権者】
【識別番号】513012026
【氏名又は名称】ザ・ボード・オブ・トラステイーズ・オブ・ザ・リーランド・スタンフオード・ジユニア・ユニバーシテイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ステヤエルト
(72)【発明者】
【氏名】エルス・パルドン
(72)【発明者】
【氏名】セーレン・ラスムセン
(72)【発明者】
【氏名】ジユアン・フアング
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・コビルカ
(72)【発明者】
【氏名】トーン・レーレマンス
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/138519(WO,A1)
【文献】特表平04-501665(JP,A)
【文献】J Biol Chem.,2006年12月04日,Vol.282, No.8,p.5116-5124, Supplementary Material
【文献】Nature, 2008, Vol.455, No.7212, pp.497-502
【文献】Science, 2007, Vol.318, No.5854, pp.1258-1265
【文献】Cosmo Bio News, 2004, Vol.47, pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的立体構造状態にあるGPCRに結合することができる化合物の同定方法であって、
a)
(i)ナノボディをGPCR及びGPCRのアゴニストと接触させるステップと、ここで、前記ナノボディは、GPCRの細胞内エピトープに対するナノボディである、(ii)ナノボディ非存在下におけるGPCRと比較した、ナノボディ存在下におけるアゴニストへのGPCRのアフィニティーの増強を検出するステップとを含むスクリーニング方法を実施して、GPCRと、活性立体構造状態にあるGPCRに特異的に結合し安定化し得るナノボディとを用意するステップと、
b)前記ナノボディと前記GPCRとを含む複合体を形成するステップと、ここで、前記GPCRは、機能的立体構造状態にあり、
c)試験化合物を用意するステップと、
d)前記試験化合物が、機能的立体構造状態にある前記GPCRに結合するかどうか評価するステップと、
e)機能的立体構造状態にある前記GPCRに結合する化合物を選択するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ナノボディが、結合したときGPCRの機能的立体構造状態の安定性を増加することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノボディが、結合したときGPCRの機能的立体構造状態を誘導することができる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ナノボディが、結合したときGPCRの活性立体構造状態の安定性を増加することができる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ナノボディが、アゴニストに結合したGPCRに特異的に結合することができる、及び/又は、アゴニストに対するGPCRの親和性を高めることができる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ナノボディが、GPCRの適切な細胞内領域、
細胞内ドメイン、
細胞内ループ又は細胞内立体構造エピトープに対するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ナノボディが、GPCRのGタンパク質結合部位に含まれる、GPCRのGタンパク質結合部位に位置する、又は、GPCRのGタンパク質結合部位と重複する立体構造エピトープに特異的に結合することができる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
化合物が、GPCRのオルソステリックリガンド又はアロステリックリガンドである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ナノボディ及び/又は複合体が、固体支持体に固定化される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPCR構造生物学およびシグナル伝達の分野に関する。特に、本発明は、機能的立体構造状態のGタンパク質共役受容体(GPCR)に対して作製されたまたはそれと特異的に結合することができるタンパク質結合ドメインに関する。より具体的には、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRの安定性を増大させる、特に、その活性立体構造状態にあるGPCRの安定性を増大させることができるタンパク質結合ドメインを提供する。本発明のタンパク質結合ドメインは、様々な天然および合成リガンドと結合しているGタンパク質共役受容体の構造的および機能的特徴付けならびにGPCRを標的としたスクリーニングおよび創薬努力のためのツールとして用いられ得る。さらに、本発明は、GPCR関連疾患に対するこれらのタンパク質結合ドメインの診断、予後診断および治療上の有用性も網羅する。
【背景技術】
【0002】
Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、ヒトゲノムにおける最大のファミリーの膜タンパク質である。これは、生体アミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、プロスタノイド、リン脂質、脂肪酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、Ca2+イオン、匂い分子、苦味および甘味物質、フェロモンならびにプロトン等のリガンドの多様なセットに対する生理応答において重要な役割を果たす(Heilkerら、2009)。GPCRは、広範な疾患の治療標的である。GPCRは、細胞外アミノ末端および細胞内カルボキシル末端を有する7個の膜貫通ドメインによって特徴付けられ、7回膜貫通または7ヘリックス(heptahelical)受容体とも称される(Rosenbaumら、2009)。効率的な光検出に高度に特化したGPCRであるロドプシンは、その生化学的安定性およびウシ網膜における豊富な天然の存在量のため、GPCRシグナル伝達および構造生物学のパラダイムである(Hofmannら、2009)。対照的に、多くのGPCRは、複数のGタンパク質アイソフォームの活性を調節することおよびGタンパク質非依存的シグナル伝達経路(例えば、β-アレスチン)により、複雑な機能的挙動を呈示する。一部の事例において、GPCRは、リガンド不在下であっても、特異的シグナル伝達経路に対して基礎活性を呈示し得る。GPCRに作用するオルソステリックリガンドは、下流のシグナル伝達経路における多種多様な効果を有し得る。完全アゴニストは、受容体を最大限に活性化する。部分アゴニストは、飽和濃度であっても最大下の刺激を誘発する。インバースアゴニストは基礎活性を阻害し、一方、ニュートラルアンタゴニストは基礎活性に効果がないが、他のリガンドの結合を競合的に遮断する。
【0003】
ホルモンおよび神経伝達物質に対するGPCRの複雑な挙動は、その構造的柔軟性に起因し得る(Kobilka and Deupi、2007)。機能的および生物物理学的研究から得られた証拠は、GPCRが、複数の機能的に異なる立体構造状態で存在し得ることを示す(Kobilka and Deupi、2007)。この構造的柔軟性および動的挙動は、正常機能に必須であるが、その生化学的不安定性をもたらし、高分解能結晶構造を得るのが困難となる。現在のところ、ヒトβ2AR(Rasmussenら、2007;Rosenbaumら、2007;Cherezovら、2007;Hansonら、2008)、トリβ1AR(Warneら、2008)およびヒトA2アデノシン受容体(Jaakolaら、2008)の結晶構造が報告されている。ロドプシンは、天然の組織から単離された無修飾のタンパク質から結晶化され得るが、これら他のGPCRは、組換え系における発現、インバースアゴニストによる不活性状態の安定化および受容体タンパク質を安定化するための生化学的修飾を必要とした。β2ARの最初の結晶構造は、選択的Fabにより安定化された(Rasmussenら、2007)。その次のβ2ARおよびA2アデノシン受容体の構造は、タンパク質工学を活用して得られ、元来β2ARに関して記載された通り、T4リゾチームを第3の細胞内ループへと挿入した(Rosenbaumら、2007)。最後に、トリβ1ARの結晶は、アミノ末端およびカルボキシル末端の切断、第3の細胞内ループの欠失ならびに精製タンパク質の熱安定性を増強する6アミノ酸置換により操作されたタンパク質から成長した(Warneら、2008)。
【0004】
GPCRの活性状態は相対的に不安定であるため、この状態の構造を得るのはより困難である。蛍光寿命研究は、β2ARが、飽和濃度の完全アゴニストの存在下で構造的に不均一であることを示す(Ghanouniら、2001)。この構造的不均一性は、結晶の形成と適合しない。β2ARの活性状態の安定化は、アデニリルシクラーゼの刺激タンパク質であるその同種Gタンパク質Gsの存在を必要とする(Yaoら、2009)。現在のところ、GPCRの唯一の活性状態構造は、ロドプシンのリガンドなし型(ligand free form)であるオプシンのものである(Parkら、2008)。この結晶は酸性pH(5.5)で成長し、このpHにおいて、オプシンは、生理的pHにおける光活性化されたロドプシン(メタロドプシンII)と構造的に類似していることがFTIR分光測定により示された。β2ARも低いpHでより高い基礎活性を呈示するが、生化学的に不安定である(Ghanouniら、2000)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Heilker et al 2009. Drug Discovery Today 14:231-240
【文献】Rosenbaum D. M., S. G. Rasmussen, and B. K. Kobilka, Nature 459 (7245), 356 (2009)
【文献】Hofmann K. P., P. Scheerer, P. W. Hildebrand et al., Trends Biochem Sci 34 (11), 540 (2009)
【文献】Kobilka B. K. and X. Deupi, Trends in Pharmacological Sciences 28 (8), 397 (2007)
【文献】Rasmussen S.G., Choi H.J., Rosenbaum D.M., Kobilka T.S., Thian F.S., Edwards P.C., Burghammer M., Ratnala V.R., Sanishvili R. and Fischetti R.F. et al., Crystal Structure of the human beta2 adrenergic G-protein-coupled receptor, Nature 450 (2007), pp. 383-387
【文献】Rosenbaum D. M., V. Cherezov, M. A. Hanson et al., Science 318 (5854), 1266 (2007)
【文献】Cherezov, V. et al. Highーresolution crystal structure of an engineered human beta2-adrenergic G protein-coupled receptor. Science 318, 1258-1265, doi:1150577 [pii] 10.1126/science.1150577 (2007)
【文献】Hanson, M. A. et al. A specific cholesterol binding site is established by the 2.8 angstrom structure of the human beta(2)-adrenergic receptor. Structure 16, 897-905 (2008)
【文献】Warne, T. et al. Structure of a beta1-adrenergic G-protein-coupled receptor. Nature 454, 486-491, doi:nature07101 [pii] 10.1038/nature07101 (2008)
【文献】Jaakola, V. P. et al. The 2.6 Angstrom Crystal Structure of a Human A2A Adenosine Receptor Bound to an Antagonist. Science (2008)
【文献】Ghanouni, P. et al. Functionally different agonists induce distinct conformations in the G protein coupling domain of the beta 2 adrenergic receptor. J Biol Chem 276, 24433-24436. (2001)
【文献】Yao, X. J. et al. The effect of ligand efficacy on the formation and stability of a GPCR-G protein complex. Proc Natl Acad Sci U S A 106, 9501-9506, doi:0811437106 [pii] 10.1073/pnas.0811437106 (2009)
【文献】Park, J. H., Scheerer, P., Hofmann, K. P., Choe, H. W. & Ernst, O. P. Crystal Structure of the ligand-free G-protein-coupled receptor opsin. Nature 454, 183-U133 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
様々な天然および合成リガンドならびにタンパク質と複合体を形成したGPCRの様々な機能的立体構造状態の構造の解明は、GPCRシグナル伝達の機序の理解および構造に基づく創薬努力の両方に有用である。したがって、GPCRの個々の配座異性体の高分解能構造解析のための新しい直接的なツールの開発が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明の第1の態様は、機能的立体構造状態のGPCRと特異的に結合することができるタンパク質結合ドメインに関する。
【0008】
好ましい一実施形態によると、タンパク質結合ドメインは、結合によりGPCRの機能的立体構造状態を安定化することができる。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、結合によりGPCRにおける機能的立体構造状態を誘導することができる。
【0009】
別の好ましい一実施形態によると、GPCRの機能的立体構造状態は、基礎立体構造状態または活性立体構造状態または不活性立体構造状態からなる群から選択される。好ましくは、GPCRの機能的立体構造状態は、活性立体構造状態である。
【0010】
別の好ましい一実施形態によると、タンパク質結合ドメインは、アゴニスト結合GPCRと特異的に結合することができるおよび/またはアゴニストに対するGPCRの親和性を増強する。
【0011】
別の好ましい一実施形態によると、タンパク質結合ドメインは、結合により機能的立体構造状態のGPCRの熱安定性を増大させることができる。
【0012】
特定の一実施形態において、タンパク質結合ドメインは、機能的立体構造状態のGPCRの立体構造エピトープと特異的に結合することができる。好ましくは、立体構造エピトープは、細胞内エピトープである。より好ましくは、立体構造エピトープは、下流のシグナル伝達タンパク質の結合部位に含まれる。最も好ましくは、立体構造エピトープは、Gタンパク質結合部位に含まれる。
【0013】
好ましくは、本発明のタンパク質結合ドメインは、4個のフレームワーク領域および3個の相補性決定領域を含むアミノ酸配列またはその任意の適切な断片を含む。より好ましくは、タンパク質結合ドメインは、ラクダ科動物抗体に由来する。最も好ましくは、タンパク質結合ドメインは、ナノボディ配列またはその任意の適切な断片を含む。例えば、ナノボディは、配列番号1-29からなる群から選択される配列またはそれらの任意の適切な断片を含む。
【0014】
別の好ましい一実施形態によると、GPCRは、哺乳動物タンパク質または植物タンパク質または微生物タンパク質またはウイルスタンパク質または昆虫タンパク質である。哺乳動物タンパク質は、ヒトタンパク質であり得る。特に、GPCRは、GPCRグルタミン酸ファミリーのGPCR、GPCRロドプシンファミリーのGPCR、GPCR接着ファミリーのGPCR、GPCR Frizzled/Taste2ファミリーのGPCRおよびGPCRセクレチンファミリーのGPCRを含む群から選ばれる。より具体的には、GPCRは、αアドレナリン受容体もしくはβ-アドレナリン受容体等のアドレナリン受容体である、またはGPCRは、M1ムスカリン受容体もしくはM2ムスカリン受容体もしくはM3ムスカリン受容体もしくはM4ムスカリン受容体もしくはM5ムスカリン受容体等のムスカリン受容体である、またはGPCRは、1型アンジオテンシンII受容体もしくは2型アンジオテンシンII受容体等のアンジオテンシン受容体である。
【0015】
本発明の第2の態様は、(i)本発明によるタンパク質結合ドメイン、(ii)機能的立体構造状態のGPCRおよび(iii)場合によって受容体リガンドを含む複合体に関する。受容体リガンドは、小分子、タンパク質、ペプチド、タンパク質スキャフォールド、核酸、イオン、炭水化物もしくは抗体またはそれらの任意の適切な断片を含む群から選ばれ得る。複合体は、可溶化形態であり得または固体支持体に固定化され得る。特に、複合体は、結晶である。本発明は、本発明によるタンパク質結合ドメインの使用により得られる、(i)タンパク質結合ドメイン、(ii)機能的立体構造状態のGPCRおよび(iii)場合によって受容体リガンドを含む複合体の結晶形をさらに網羅する。
【0016】
本発明の第3の態様は、本発明によるタンパク質結合ドメインおよび/または本発明による複合体を含む細胞組成物に関する。好ましくは、細胞組成物に含まれるタンパク質結合ドメインは、タンパク質結合ドメインの結合によりGPCRの機能的立体構造状態を安定化および/または誘導することができる。
【0017】
本発明の第4の態様は、GPCRの機能的立体構造状態を安定化および/または誘導するための、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは本発明による複合体または本発明による細胞組成物の使用に関する。
【0018】
好ましい一実施形態によると、タンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物は、機能的立体構造状態のGPCRの構造を結晶化および/または機能的立体構造状態のGPCRの構造を解明するために用いられ得る。
【0019】
本発明は、機能的立体構造状態のGPCRの結晶構造を決定する方法であって、
(i)本発明によるタンパク質結合ドメイン、標的GPCRおよび場合によって受容体リガンドを用意するステップ、
(ii)タンパク質結合ドメイン、GPCRおよび場合によって受容体リガンドの複合体を形成するステップならびに
(iii)ステップ(ii)の複合体を結晶化して、結晶を形成するステップ
を含み、結晶構造が機能的立体構造状態のGPCRにおいて決定される方法も網羅する。
【0020】
GPCRの結晶構造を決定する上記方法は、結晶から原子座標を得るステップをさらに含むことができる。
【0021】
別の好ましい一実施形態によると、タンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物は、場合によって受容体リガンドまたは1つもしくは複数の下流のシグナル伝達タンパク質と共に、機能的立体構造状態のGPCRを捕捉するために用いられ得る。
【0022】
よって、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRを捕捉する方法であって、
(i)本発明によるタンパク質結合ドメインおよび標的GPCRを用意するステップならびに
(ii)タンパク質結合ドメインおよびGPCRの複合体を形成するステップ
を含み、GPCRは機能的立体構造状態で捕捉される方法も網羅する。
【0023】
さらに、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRを捕捉する方法であって、
(i)複数の立体構造状態のGPCRを含有する溶液を、本発明によるタンパク質結合ドメインを固定化した固体支持体に適用するステップ、
(ii)タンパク質結合ドメインおよびGPCRの複合体を形成するステップならびに
(iii)弱く結合した分子または結合していない分子を除去するステップ
を含み、GPCRは機能的立体構造状態で捕捉される方法も網羅する。
【0024】
機能的立体構造状態のGPCRを捕捉する上記方法は、複合体を精製するステップを含むことができる。
【0025】
別の好ましい一実施形態によると、本発明は、また、GPCRの立体構造特異的(薬)化合物またはリガンドのスクリーニングおよび/または同定プログラムにおける、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物の使用に関する。
【0026】
よって、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRと結合することができる化合物を同定する方法であって、
(i)GPCRおよび本発明によるタンパク質結合ドメインを用意するステップ、
(ii)試験化合物を用意するステップ、
(iii)試験化合物が、機能的立体構造状態のGPCRと結合するか評価するステップならびに
(iv)機能的立体構造状態のGPCRと結合する化合物を選択するステップ
を含む方法も網羅する。
【0027】
好ましくは、化合物を同定するための上述の方法は、本発明によるタンパク質結合ドメインおよび機能的立体構造状態のGPCRを含む複合体を形成するステップをさらに含む。複合体は、小分子、タンパク質、ペプチド、タンパク質スキャフォールド、核酸、イオン、炭水化物もしくは抗体またはそれらの任意の適切な断片を含む群から選ばれ得る受容体リガンドをさらに含むことができる。好ましくは、受容体リガンドは、完全アゴニストまたは部分アゴニストまたはインバースアゴニストまたはアンタゴニストである。好ましくは、タンパク質結合ドメインおよび/または複合体は、基本的に精製された形態で提供される。あるいは、タンパク質結合ドメインおよび/または複合体は、可溶化形態で提供される。あるいは、タンパク質結合ドメインおよび/または複合体は、固体支持体に固定化されている。あるいは、タンパク質結合ドメインおよび/または複合体は、細胞組成物中に提供される。
【0028】
別の好ましい一実施形態によると、化合物を同定するための上述の方法において用いられる試験化合物は、ポリペプチド、ペプチド、小分子、天然物、ペプチド模倣物、核酸、脂質、リポペプチド、炭水化物、抗体またはそれに由来する任意の断片(Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(dsFv)およびVLまたはVHドメインのいずれかを含む断片等、重鎖抗体(hcAb)、単一ドメイン抗体(sdAb)、ミニボディ(minibody)、ラクダ科動物重鎖抗体に由来する可変ドメイン(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体に由来する新規抗原受容体(new antigen receptor)の可変ドメイン(VNAR)、アルファボディ(alphabody)を包含するタンパク質スキャフォールド、プロテインA、プロテインG、設計アンキリンリピートドメイン(DARPin)、フィブロネクチンIII型リピート、アンチカリン(anticalin)、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体(nanoantibodies))を含む群から選択される。
【0029】
好ましくは、試験化合物は標識されている。さらに、試験化合物のライブラリーが用いられてもよい。さらに、化合物を同定するための上述の方法は、ハイスループットスクリーニング方法でよい。
【0030】
別の特定の一実施形態によると、すべて本発明によるタンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物は、癌、自己免疫疾患、感染症、神経疾患、心血管疾患等のGPCR関連疾患の診断または予後診断のために用いられ得る。
【0031】
本発明の第5の態様は、治療上有効量の本発明によるタンパク質結合ドメインおよび薬学的に許容される担体、アジュバントまたは希釈液のうち少なくとも1つを含む医薬組成物に関する。
【0032】
本発明の第6の態様は、GPCRシグナル伝達活性を調節するため、より具体的には、Gタンパク質媒介性シグナル伝達を遮断するための、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは本発明による医薬組成物の使用に関する。
【0033】
本発明によるタンパク質結合ドメインまたは医薬組成物は、癌、自己免疫疾患、感染症、神経疾患、心血管疾患等のGPCR関連疾患の治療においても用いられ得る。
【0034】
本発明の第7の態様は、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは本発明による複合体または本発明による細胞組成物を含むキットに関する。
【0035】
本発明のアミノ酸配列およびポリペプチドの他の適用および用途は、当業者であれば、本明細書におけるさらなる開示から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1aはβ
2AR特異的ナノボディが、活性状態の受容体と結合および安定化することを示す図である。Nb80の分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)の代表的なトレースを示す図である。アゴニストと結合している精製β
2AR(20μM)(β
2AR-アゴニスト)を、FPLCによる解析の前に40μM Nb80ありおよびなし(それぞれ黒および青)で2時間室温にてインキュベートした。Nb80の存在下において、β
2AR-アゴニスト溶出ピークは、UV吸光度(280nm)が増加し、β
2AR-アゴニスト単独よりも早い時点の容量で溶出し、これと同時にNb80溶出ピーク(緑)が減少した。この結果は、β
2AR-アゴニスト-Nb80複合体の形成を示唆する。インバースアゴニストと結合しているβ
2AR(20μM)とNb80とのインキュベーション(赤)は、β
2AR-アゴニスト-Nb80複合体と比較して、UV吸光度のシフトがより小さく、増加がより小さかった。
図1bはβ
2AR特異的ナノボディが、活性状態の受容体と結合および安定化することを示す図である。β
2ARを発現するSf9昆虫細胞膜における用量反応競合結合実験を示す図である。SECによるβ
2ARを結合した7種のナノボディをそれぞれ、β
2ARを発現する膜と共に90分間室温にてインキュベートした。7種のナノボディはすべて、(-)-イソプロテレノールに対するβ
2ARの親和性を増加した(表3)。リードナノボディとしてNb80(青)を選択した。データは、3回複製して行われた独立した2実験の平均±s.e.を表す。
図1cはβ
2AR特異的ナノボディが、活性状態の受容体と結合および安定化することを示す図である。モノブロモビマン(mBBr)標識された精製受容体を用いた蛍光に基づく機能アッセイは、1μM Nb80(青)が、Nb80不在下の受容体(黒)と比較して、β
2AR(完全アゴニスト(-)-イソプロテレノールと結合している)のより高い活性状態を安定化することを示す。活性状態は、mBBr蛍光の消光およびmBBr蛍光における赤色移動によって特徴付けられる(Yaoら、2009)。
【
図2】
図2aはβ
2ARの三次構造に対するナノボディの特異性を示す代表的なドットブロットの図である。アゴニストと結合している等量の未変性もしくはSDS変性した精製β
2AR(それぞれ上および中)またはインバースアゴニストと結合している未変性β
2AR(下)を、ニトロセルロース膜片上に3回複製してスポット状に滴下した。膜片を0.05%Tween-20含有PBS(pH7.4)に溶解した5%脱脂粉乳でブロッキングし、次にブロッキングバッファーに希釈した1mg/mlの表示のナノボディと共にインキュベートした。抗ヒスチジン(a-6His)一次マウス抗体により、続いてヤギ抗マウスIR-800標識二次抗体とのインキュベーションによりナノボディの結合を検出した。直鎖状FLAGエピトープを認識するM1抗体をAlexa-688で標識し、β
2ARを直接的に検出した。Odyssey Infrared Imaging System(Li-cor Biosciences)を用いてドットブロットをスキャンし、画像処理した。2種の異なるチャネル(それぞれ800nm対700nm)が画像処理に用いられるため、ナノボディを検出するブロットは、M1によりβ
2ARを検出するブロットと別々に処理した。したがって、ブロットは、直接的に比較および定量化できない(即ち、ナノボディの結合対M1結合の比較は、本来的に定性的でしかない)。
図2bはβ
2ARの三次構造に対するナノボディの特異性を示す代表的なドットブロットの図である。天然に折り畳まれたβ
2ARに対する結合が低下したナノボディを示す代表的なドットブロットの図である。
【
図3-1】活性状態の受容体に対するナノボディの選択的結合を示す図である。アゴニストと結合している精製β
2AR(20μM)を、分子ふるいクロマトグラフィーによる解析の前に40μMナノボディありおよびなし(それぞれ黒および青)で2時間室温にてインキュベートした。ナノボディの存在下でインバースアゴニストと結合しているβ
2AR(20μM)の試料(赤)も解析した。数種のナノボディ(Nb72、Nb65、Nb71、Nb69、Nb67およびNb84)の存在下で、β
2AR-アゴニスト溶出ピークは、UV吸光度(280nm)が増加し、β
2AR-アゴニスト単独(青)よりも早い時点の容量(黒線)で溶出し、これと同時にNb80溶出ピーク(緑)が減少した。この結果は、β
2AR-アゴニスト-Nb80複合体の形成を示唆する。β
2AR-インバースアゴニスト-Nb80複合体の形成は観察されない(赤線)。
【
図3-2】活性状態の受容体に対するナノボディの選択的結合を示す図である。アゴニストと結合している精製β
2AR(20μM)を、分子ふるいクロマトグラフィーによる解析の前に40μMナノボディありおよびなし(それぞれ黒および青)で2時間室温にてインキュベートした。ナノボディの存在下でインバースアゴニストと結合しているβ
2AR(20μM)の試料(赤)も解析した。数種のナノボディ(Nb72、Nb65、Nb71、Nb69、Nb67およびNb84)の存在下で、β
2AR-アゴニスト溶出ピークは、UV吸光度(280nm)が増加し、β
2AR-アゴニスト単独(青)よりも早い時点の容量(黒線)で溶出し、これと同時にNb80溶出ピーク(緑)が減少した。この結果は、β
2AR-アゴニスト-Nb80複合体の形成を示唆する。β
2AR-インバースアゴニスト-Nb80複合体の形成は観察されない(赤線)。
【
図4】活性状態の受容体に対するナノボディの選択的結合を示す図である。アゴニストと結合している精製β
2AR(20μM)を、分子ふるいクロマトグラフィーによる解析の前に40μMナノボディありおよびなし(それぞれ黒および青)で2時間室温にてインキュベートした。
【
図5-1】ナノボディがモノブロモビマン標識β
2ARの立体構造変化を誘導したことを示す蛍光放射スペクトルの図である。β
2ARに対するアゴニスト結合親和性を増加するナノボディは、受容体の活性状態を安定化する。モノブロモビマン(mBBr)標識した精製受容体を用いた蛍光に基づく機能アッセイは、1μMのナノボディ65、67、69、71、72および84(赤)が、ナノボディ不在下の受容体(黒)と比較して、β
2AR(完全アゴニストイソプロテレノールと結合している)のより高い活性状態を安定化することを示す。この活性状態は、mBBr蛍光の消光およびmBBr蛍光における赤色移動によって特徴付けられる(Yaoら、2009)。
【
図5-2】ナノボディがモノブロモビマン標識β
2ARの立体構造変化を誘導したことを示す蛍光放射スペクトルの図である。β
2ARに対するアゴニスト結合親和性を増加するナノボディは、受容体の活性状態を安定化する。モノブロモビマン(mBBr)標識した精製受容体を用いた蛍光に基づく機能アッセイは、1μMのナノボディ65、67、69、71、72および84(赤)が、ナノボディ不在下の受容体(黒)と比較して、β
2AR(完全アゴニストイソプロテレノールと結合している)のより高い活性状態を安定化することを示す。この活性状態は、mBBr蛍光の消光およびmBBr蛍光における赤色移動によって特徴付けられる(Yaoら、2009)。
【
図5-3】ナノボディがモノブロモビマン標識β
2ARの立体構造変化を誘導したことを示す蛍光放射スペクトルの図である。β
2ARに対するアゴニスト結合親和性を増加するナノボディは、受容体の活性状態を安定化する。モノブロモビマン(mBBr)標識した精製受容体を用いた蛍光に基づく機能アッセイは、1μMのナノボディ65、67、69、71、72および84(赤)が、ナノボディ不在下の受容体(黒)と比較して、β
2AR(完全アゴニストイソプロテレノールと結合している)のより高い活性状態を安定化することを示す。この活性状態は、mBBr蛍光の消光およびmBBr蛍光における赤色移動によって特徴付けられる(Yaoら、2009)。
【
図6】
図6aはβ
2AR構造および機能におけるNb80の効果を示す図である。イラストは、
図6b-cにおいて観察される蛍光の減少を生じる受容体活性化における、TM6の細胞質末端におけるCys265
6.27に付着した環境感受性ビマンプローブの、より埋没した疎水性環境からより極性の溶媒に曝露した位置への移動を説明する。
図6bはβ
2AR構造および機能におけるNb80の効果を示す図である。添加物不在下(黒の実線)における、または完全アゴニストイソプロテレノール(ISO、緑の幅広の破線)、インバースアゴニストICI-118,551(ICI、黒の破線)、G
sヘテロ三量体(赤の実線)、ナノボディ-80(Nb80、青の実線)ならびにG
sとISO(赤の幅広の破線)、Nb80とISO(青の幅広の破線)およびNb80とICI(青の破線)の組み合わせの存在下における、高密度リポタンパク質粒子へと再構成されたモノブロモビマン標識β
2AR(mBB-β
2AR/HDL)のリガンドにより誘導された立体構造変化を示す蛍光放射スペクトルの図である。
図6cはβ
2AR構造および機能におけるNb80の効果を示す図である。添加物不在下(黒の実線)における、または完全アゴニストイソプロテレノール(ISO、緑の幅広の破線)、インバースアゴニストICI-118,551(ICI、黒の破線)、G
sヘテロ三量体(赤の実線)、ナノボディ-80(Nb80、青の実線)ならびにG
sとISO(赤の幅広の破線)、Nb80とISO(青の幅広の破線)およびNb80とICI(青の破線)の組み合わせの存在下における、高密度リポタンパク質粒子へと再構成されたモノブロモビマン標識β
2AR(mBB-β
2AR/HDL)のリガンドにより誘導された立体構造変化を示す蛍光放射スペクトルの図である。
図6dはβ
2AR構造および機能におけるNb80の効果を示す図である。GTPγSの不在下または存在下でG
sヘテロ三量体により再構成されたβ
2AR/HDLに対する、[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するISOのリガンド結合曲線を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。
図6eはβ
2AR構造および機能におけるNb80の効果を示す図である。Nb80の不在下および存在下のβ
2AR/HDLに対する、[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するISOのリガンド結合曲線を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。
図6fはβ
2AR構造および機能におけるNb80の効果を示す図である。Nb80の不在下および存在下のβ
2AR-T4L/HDLに対する、[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するISOのリガンド結合曲線を示す図である。エラーバーは標準誤差を表す。
【
図7】脂質立方相に形成された結晶におけるアゴニスト-β
2AR-T4L-Nb80複合体のパッキングを示す図である。3つの異なる観点の構造のβ
2ARをオレンジ色、Nb80を青色、アゴニストを緑色で表示する。T4リゾチーム(T4L)は、電子密度が低いためモデル化できなかった。その位置候補は、TM5およびTM6の細胞内末端に連結された水色黒破線の丸で表示されており、これは、β
2AR-T4L構築物においてそれが融合されている位置である。全図の作成にPyMOL(http://www.pymol.org)を用いた。
【
図8】
図8aはインバースアゴニストおよびアゴニスト-Nb80により安定化されたβ
2AR結晶構造の比較の図である。インバースアゴニストカラゾロールが結合したβ
2AR-T4L(β
2AR-Cz)の構造は青色、カラゾロールは黄色で示す。アゴニストが結合し、Nb80により安定化されたβ
2AR-T4L(β
2AR-Nb80)の構造はオレンジ色で、アゴニストは緑で示す。Pymol整列機能を用いてこれら2種の構造を整列した。受容体の細胞内およびGタンパク質に面する部分における有意な構造的変化を示す重ね合わせた構造の側面図である。
図8bはインバースアゴニストおよびアゴニスト-Nb80により安定化されたβ
2AR結晶構造の比較の図である。インバースアゴニストカラゾロールが結合したβ
2AR-T4L(β
2AR-Cz)の構造は青色、カラゾロールは黄色で示す。アゴニストが結合し、Nb80により安定化されたβ
2AR-T4L(β
2AR-Nb80)の構造はオレンジ色で、アゴニストは緑で示す。Pymol整列機能を用いてこれら2種の構造を整列した。垂直軸で90度回転した後の側面図である。
図8cはインバースアゴニストおよびアゴニスト-Nb80により安定化されたβ
2AR結晶構造の比較の図である。インバースアゴニストカラゾロールが結合したβ
2AR-T4L(β
2AR-Cz)の構造は青色、カラゾロールは黄色で示す。アゴニストが結合し、Nb80により安定化されたβ
2AR-T4L(β
2AR-Nb80)の構造はオレンジ色で、アゴニストは緑で示す。Pymol整列機能を用いてこれら2種の構造を整列した。僅かな構造的変化を示す細胞外リガンド結合ドメインの比較を示す図である。
【
図9】
図9aは不活性β
2ARおよびオプシン構造と比較した、Nb80により安定化された細胞内ドメインを示す図である。受容体と相互作用するNb80のCDRを水色(CDR1)および青色(CDR3)で表したβ
2AR(オレンジ色)の側面図である。
図9bは不活性β
2ARおよびオプシン構造と比較した、Nb80により安定化された細胞内ドメインを示す図である。β
2ARに進入するCDR1および3に着目した拡大図である。CDRの4Å以内にあるTM3、5、6および7における側鎖を示す。より大型のCDR3は、受容体に13Å貫入する。
図9cは不活性β
2ARおよびオプシン構造と比較した、Nb80により安定化された細胞内ドメインを示す図である。細胞の内側から見たCDR1およびCDR3の相互作用を示す図である。
図9dは不活性β
2ARおよびオプシン構造と比較した、Nb80により安定化された細胞内ドメインを示す図である。アゴニストが結合し、Nb80により安定化されたβ
2AR-T4L(β
2AR-Nb80)を、カラゾロールが結合したβ
2AR-T4Lの不活性構造(β
2AR-Cz)と重ね合わせた図である。TM3におけるDRYモチーフのAsp3.49およびArg3.50の間のイオンロック(ionic lock)相互作用は、β
2AR-Nb80構造において損なわれている。TM6の細胞内末端は、外向きに移動し、受容体コアから離れる。矢印は、β
2AR-Czおよびβ
2AR-Nb80の構造におけるGlu6.30のα炭素間の距離11.4Åの変化を表示する。TM3およびTM7の細胞内末端は、コアに向かってそれぞれ4および2.5Å移動し、一方、TM5は外向きに6Å移動する。
図9eは不活性β
2ARおよびオプシン構造と比較した、Nb80により安定化された細胞内ドメインを示す図である。G
t(トランスデューシン)のC末端ペプチドにより結晶化したオプシンの構造と重ね合わせたβ
2AR-Nb80構造を示す図である。
【
図10】
図10aはオプシン構造と比較した、Nb80により安定化されたβ
2ARの細胞内ドメインを示す図である。β
2ARおよびNb80の間の相互作用を示す図である。
図10bはオプシン構造と比較した、Nb80により安定化されたβ
2ARの細胞内ドメインを示す図である。オプシンおよびトランスデューシンのカルボキシル末端ペプチドの間の相互作用を示す図である。
【
図11】
図11aはアゴニスト結合による膜貫通セグメントパッキング相互作用の再編成を示す図である。TM5におけるPro211、TM3におけるIle121、TM6におけるPhe282およびTM5におけるAsn316の間で、不活性状態を安定化するパッキング相互作用が観察される。
図11bはアゴニスト結合による膜貫通セグメントパッキング相互作用の再編成を示す図である。アゴニスト結合によるTM5の内向きの移動は、Ile121およびPro211のパッキングを破壊し、Ile121およびPhe282間の相互作用の再編成をもたらす。これらの変化は、TM6の回転および外向きの移動ならびにTM7の内向きの移動に寄与する。
【
図12】β
2ARに対して産生された様々なナノボディのアミノ酸配列を示す図である。配列は、標準ソフトウェアツールを用いて整列され、CDRは、IMGTナンバリングに従って定義されている(Lefrancら、2003)。
【
図13】β
2AR受容体の熱安定性におけるNb80の効果を示す図である。Nb80の存在下および不在下における、界面活性剤で可溶化した(DDM)アゴニスト結合(イソプロテレノール)β
2ARの融解曲線の比較を示す図である。Nb80なしのβ
2ARの見かけ上の融解温度は、12.0℃である。Nb80ありのβ
2ARの見かけ上の融解温度は、24℃である。
【
図14-1】
図14Aは温度によって誘導されたβ
2AR受容体の凝集におけるNb80の効果を示す図である。界面活性剤で可溶化した(DDM)β
2ARを、Nb80またはイソプロテレノールの存在下で10分間50℃にて加熱し、SECにより受容体の凝集を解析した。
【
図14-2】
図14Bは温度によって誘導されたβ
2AR受容体の凝集におけるNb80の効果を示す図である。Nb80の不在下におけるイソプロテレノール結合受容体の温度依存性を示す図である。
【
図15】
図15aはNb80が、インバースアゴニストICI-118,551と結合するβ
2ARにおける効果がほとんどないことを示す図である。β
2ARまたはβ
2AR-T4LをHDL粒子へと再構成し、Nb80の不在下または存在下でアゴニスト競合結合実験を行った。Nb80の不在下および存在下におけるβ
2AR/HDLに対する、[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([3H]-DHA)と競合するインバースアゴニストICI-118551のリガンド結合曲線を示す図である。
図15bはNb80が、インバースアゴニストICI-118,551と結合するβ
2ARにおける効果がほとんどないことを示す図である。β
2ARまたはβ
2AR-T4LをHDL粒子へと再構成し、Nb80の不在下または存在下でアゴニスト競合結合実験を行った。Nb80の不在下および存在下におけるβ
2AR-T4L/HDLに対する、[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([3H]-DHA)と競合するインバースアゴニストICI-118551のリガンド結合曲線を示す図である。
【
図16-1】Nb80が、アゴニストに対するβ
2AR親和性を増加させるが、アンタゴニストに対しては増加させないことを示す図である。全長β
2ARを含有する市販の昆虫細胞に由来する膜において、Nb80の不在下または存在下で競合的リガンド結合実験を行った。Nb80および無関連ナノボディ(Irr Nb)の存在下における、代表的なアゴニスト2種(イソプロテレノール、プロカテロール)および代表的なアンタゴニスト2種(ICI-118,551およびカルベジロール)の用量依存的比率-リガンド置換曲線を示す図である。
【
図16-2】Nb80が、アゴニストに対するβ
2AR親和性を増加させるが、アンタゴニストに対しては増加させないことを示す図である。全長β
2ARを含有する市販の昆虫細胞に由来する膜において、Nb80の不在下または存在下で競合的リガンド結合実験を行った。Nb80および無関連ナノボディ(Irr Nb)の存在下における、代表的なアゴニスト2種(イソプロテレノール、プロカテロール)および代表的なアンタゴニスト2種(ICI-118,551およびカルベジロール)の用量依存的比率-リガンド置換曲線を示す図である。
【
図16-3】Nb80が、アゴニストに対するβ
2AR親和性を増加させるが、アンタゴニストに対しては増加させないことを示す図である。全長β
2ARを含有する市販の昆虫細胞に由来する膜において、Nb80の不在下または存在下で競合的リガンド結合実験を行った。Nb80および無関連ナノボディ(Irr Nb)の存在下における、代表的なアゴニスト2種(イソプロテレノール、プロカテロール)および代表的なアンタゴニスト2種(ICI-118,551およびカルベジロール)の用量依存的比率-リガンド置換曲線を示す図である。
【
図17】ヒトβ1ARおよびヒトβ
2ARの配列アライメントを示す図である。 β
2AR-Nb80接合部においてNb80と相互作用するβ2-アドレナリン受容体のアミノ酸に下線を引く。
【
図18-1】
図18AはNb80が、ヒトβ
1AR受容体の活性立体構造と選択的に結合することを示す図である。[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するアゴニストおよびインバースアゴニストのリガンド結合曲線を示す図である。Nb80の存在下および不在下でβ
2ARと結合するアゴニストイソプロテレノール(ISO)を示す図である。
図18BはNb80が、ヒトβ
1AR受容体の活性立体構造と選択的に結合することを示す図である。[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するアゴニストおよびインバースアゴニストのリガンド結合曲線を示す図である。Nb80の存在下および不在下でβ
2ARと結合するインバースアゴニストICI-118,551(ICI)を示す図である。
【
図18-2】
図18CはNb80が、ヒトβ
1AR受容体の活性立体構造と選択的に結合することを示す図である。[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するアゴニストおよびインバースアゴニストのリガンド結合曲線を示す図である。Nb80の存在下および不在下でβ
1ARと結合するアゴニストイソプロテレノール(ISO)を示す図である。
図18DはNb80が、ヒトβ
1AR受容体の活性立体構造と選択的に結合することを示す図である。[
3H]-ジヒドロアルプレノロール([
3H]-DHA)と競合するアゴニストおよびインバースアゴニストのリガンド結合曲線を示す図である。Nb80の存在下および不在下でβ
1ARと結合するインバースアゴニストCGP20712A(CPG)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義
特定の実施形態に関して、特定の図面を参照しつつ本発明を説明するが、本発明は、これらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。特許請求の範囲におけるいかなる引用符号も、範囲を限定するものとして解釈するべきではない。記載されている図面は模式的なものでしかなく、非限定的である。図面において、ある要素のサイズは誇張されている可能性があり、例証目的のスケールで描かれてはいない。本明細書および特許請求の範囲において、用語「含む」が用いられている場合、この用語は、他の要素またはステップを除外しない。単数名詞について言及する際に不定冠詞または定冠詞(例えば、「a」または「an」、「the」)が用いられている場合、特に他の事柄の記載がない限り、これは該名詞の複数を包含する。その上、本明細書および特許請求の範囲における、第1、第2、第3等の用語は、類似の要素間を区別するために用いられており、必ずしも連続的または経時的な順を説明するために用いられていない。このように用いられる用語は、適切な状況下において互換的であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書において記載または説明されている以外の順序で実施できることを理解されたい。
【0038】
本明細書において他に定義がなされていなければ、本発明に関連して用いられている科学および技術用語および語句は、当業者によって一般に理解されている意味を持つ。一般に、本明細書に記載されている、分子および細胞生物学、遺伝学、タンパク質、核酸化学およびハイブリダイゼーションに関連して用いられている命名法ならびにその技法は、本技術分野において周知のものであり、一般に用いられている。本発明の方法および技法は、一般に、他に断りがなければ、本技術分野において周知の、本明細書を通じて引用、記述されている様々な一般的な参考文献およびより具体的な参考文献に記載されている従来の方法に従って実施される。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates(1992、および2002の別冊号)を参照されたい。
【0039】
用語「タンパク質結合ドメイン」は、特異的分子間相互作用を用いてタンパク質またはペプチドと結合することができる、任意の非天然起源の分子またはその部分を一般に意味する。タンパク質性分子(タンパク質、ペプチド、タンパク質様またはタンパク質含有)、核酸分子(核酸、核酸様、核酸含有)および炭水化物分子(炭水化物、炭水化物様、炭水化物含有)等が挙げられるが、これらに限定されない様々な分子が、タンパク質結合ドメインとして機能し得る。本明細書においてより詳細な説明をさらに見出すことができる。
【0040】
本明細書において、用語「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」は、本明細書において互換的に用いられており、コードされたおよびコードされていないアミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸および修飾ペプチド骨格を有するポリペプチドを包含し得る、任意の長さのアミノ酸のポリマー型を意味する。
【0041】
本明細書において、用語「多タンパク質複合体」または「タンパク質複合体」または単に「複合体」は、2以上の会合したポリペプチド鎖の群を意味する。タンパク質複合体におけるタンパク質は、非共有結合性タンパク質-タンパク質相互作用により連結されている。「四次構造」は、タンパク質複合体における会合し折り畳まれたタンパク質の構造的配置である。「マルチマー型複合体」は、非タンパク質性分子をさらに含み得る、本明細書において定義されているタンパク質複合体を意味する。
【0042】
本明細書において、用語「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」、「ポリ核酸」、「核酸」は、互換的に用いられ、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれかまたはそれらのアナログである、任意の長さのヌクレオチドのポリマー型を意味する。ポリヌクレオチドは、いかなる三次元構造であってもよく、公知または未知のいかなる機能を果たし得る。ポリヌクレオチドの非限定的な例として、遺伝子、遺伝子断片、エクソン、イントロン、伝令RNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、調節領域、任意の配列の単離RNA、核酸プローブおよびプライマーが挙げられる。核酸分子は、直鎖状であっても環状であってもよい。
【0043】
本明細書において、用語「リガンド」または「受容体リガンド」は、細胞内または細胞外のいずれかにおいてGPCRと特異的に結合する分子を指す。リガンドは、タンパク質、(ポリ)ペプチド、脂質、小分子、タンパク質スキャフォールド、核酸、イオン、炭水化物、抗体またはナノボディ等の抗体断片(すべて本明細書において定義されている)でよいが、これらに制限する目的はない。リガンドは、合成であっても天然起源であってもよい。リガンドは、自然のGPCRに対する内在性の天然リガンドである、「自然のリガンド」も包含する。「修飾因子」は、細胞において発現されたGPCRと接触、例えば、結合したときに、GPCRのシグナル伝達活性を増加または減少させる(即ち、細胞内応答により)リガンドである。この用語は、アゴニスト、完全アゴニスト、部分アゴニスト、インバースアゴニストおよびアンタゴニストを包含するが、これらは、本明細書においてより詳細な説明をさらに見出すことができる。
【0044】
タンパク質の用語「立体構造」または「立体構造状態」は、タンパク質が、任意の瞬間において形をとり得る構造の範囲を一般に意味する。当業者であれば、立体構造または立体構造状態の決定因子が、タンパク質のアミノ酸配列(修飾アミノ酸を包含する)に反映されるタンパク質の一次構造およびタンパク質を取り巻く環境を包含することを認識する。タンパク質の立体構造または立体構造状態は、タンパク質二次構造(例えば、とりわけα-ヘリックス、β-シート)、三次構造(例えば、ポリペプチド鎖の三次元フォールディング)および四次構造(例えば、ポリペプチド鎖と他のタンパク質サブユニットとの相互作用)等の構造的特色にも関する。とりわけリガンド結合、リン酸化、硫酸化、糖鎖付加または疎水性基の付着等、ポリペプチド鎖に対する翻訳後および他の修飾は、タンパク質の立体構造に影響し得る。その上、とりわけ周囲の溶液のpH、塩濃度、イオン強度および浸透圧ならびに他のタンパク質および補助因子との相互作用等の環境要因が、タンパク質立体構造に影響を及ぼし得る。タンパク質の立体構造状態は、活性もしくは別の分子との結合の機能アッセイまたは他の方法の中でもX線結晶構造解析、NMRもしくはスピン標識等の物理的方法のいずれかによって決定され得る。タンパク質立体構造および立体構造状態の総合的な考察のため、Cantor and Schimmel、Biophysical Chemistry、第I部:The Conformation of Biological.Macromolecules、W.H.Freeman and Company、1980およびCreighton、Proteins:Structures and Molecular Properties、W.H.Freeman and Company、1993を参照されたい。「特異的立体構造状態」は、タンパク質が形をとり得る立体構造または立体構造状態の範囲の任意のサブセットである。
【0045】
本明細書における「機能的立体構造」または「機能的立体構造状態」は、タンパク質が、ダイナミックレンジ、特に活性なしから最大活性にわたる活性を有する様々な立体構造状態を保有するとの事実を意味する。「機能的立体構造状態」は、活性なしを含めた任意の活性を有するGPCRの任意の立体構造状態を網羅することを企図しており、タンパク質の変性状態を網羅することは企図していないことは明らかであるはずである。
【0046】
本明細書において、抗体の文脈における用語「相補性決定領域」または「CDR」は、H(重)またはL(軽)鎖(それぞれVHおよびVLとも略される)いずれかの可変領域を意味し、抗原標的と特異的に結合することができるアミノ酸配列を含有する。これらのCDR領域は、抗体の特定の抗原決定基構造に対する基礎特異性の原因となる。このような領域は、「高頻度可変領域」とも称される。CDRは、可変領域内のアミノ酸の非近接なストレッチを表すが、生物種にかかわらず、可変重および軽鎖領域内のこれらの重大な意味を持つアミノ酸配列の位置的配置は、可変鎖のアミノ酸配列内において同様の配置を有することが判明した。あらゆる標準的抗体の可変重および軽鎖はそれぞれ、個々の軽(L)および重(H)鎖毎に、それぞれ互いに非近接である3個のCDR領域(L1、L2、L3、H1、H2、H3と称する)を有する。特に、ナノボディは、4個の「フレームワーク配列または領域」即ちFRおよび3個の「相補性決定領域」即ちCDRを含むと考えられる単一のアミノ酸鎖を一般に含む。ナノボディは、それぞれ互いに非近接である3個のCDR領域(CDR1、CDR2、CDR3と称する)を有する。FRおよびCDR配列の描写は、V-ドメインおよびV様ドメインのIMGT独自の番号方式に基づく(Lefrancら、2003)。
【0047】
本明細書における「エピトープ」は、ポリペプチドの抗原決定基を意味する。エピトープは、該エピトープ独特の空間的立体構造における3個のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも4、5、6、7個のこのようなアミノ酸からなり、さらに通常は、少なくとも8、9、10個のこのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の空間的立体構造を決定する方法は、本技術分野において公知のものであり、例えば、X線結晶構造解析および二次元核磁気共鳴を包含する。
【0048】
本明細書における「立体構造エピトープ」は、ポリペプチドの折り畳まれた三次元立体構造に独特である、空間的な立体構造におけるアミノ酸を含むエピトープを意味する。一般に、立体構造エピトープは、タンパク質の折り畳まれた構造において一体となる、直鎖状配列において非連続的なアミノ酸からなる。しかし、立体構造エピトープはまた、ポリペプチドの折り畳まれた三次元立体構造に独特の立体構造の形をとる(変性状態には存在しない)アミノ酸の直鎖状配列からなる。多タンパク質複合体において、立体構造エピトープは、異なる折り畳まれたポリペプチドのフォールディングおよび独自の四次構造におけるそれらの会合により一体となる、1つまたは複数のポリペプチドの直鎖状配列における非連続的なアミノ酸からなる。ここで同様に、立体構造エピトープはまた、一体となって四次構造に独特の立体構造の形をとる、1つまたは複数のポリペプチドのアミノ酸の直鎖状配列からなる可能性がある。
【0049】
本明細書における用語「特異性」は、タンパク質結合ドメイン、特に免疫グロブリンまたはナノボディ等の免疫グロブリン断片の、他の抗原と比べてある抗原と優先的に結合する能力を意味し、必ずしも高親和性を暗示しない。
【0050】
本明細書における用語「親和性」は、抗原およびタンパク質結合ドメインの平衡状態をその結合によって形成される複合体の存在に向かってシフトさせるような、タンパク質結合ドメイン、特に抗体等の免疫グロブリンまたはナノボディ等の免疫グロブリン断片が抗原と結合する程度を意味する。よって、例えば、相対的に等濃度の抗原および抗体(断片)が組み合わされる場合、高親和性の抗体(断片)は、利用できる抗原と結合して、その結果生じる高濃度の複合体に向けて平衡状態をシフトさせる。解離定数は、タンパク質結合ドメインおよび抗原標的の間の親和性を説明するよう一般に用いられる。通例、解離定数は、10-5Mよりも低い。好ましくは、解離定数は、10-6Mよりも低く、より好ましくは、10-7Mよりも低い。最も好ましくは、解離定数は、10-8Mよりも低い。
【0051】
本明細書における用語「特異的に結合」および「特異的結合」は、タンパク質結合ドメイン、特に、抗体等の免疫グロブリンまたはナノボディ等の免疫グロブリン断片の、異なる抗原の均一な混合物に存在する特定の抗原と優先的に結合する能力を一般に意味する。ある特定の実施形態において、特異的結合相互作用は、試料における望ましいおよび望ましくない抗原の間を識別し、一部の実施形態において、約10倍超から100倍以上(例えば、約1000または10,000倍超)で識別する。GPCRの多種多様な立体構造状態の文脈において、この用語は、特に、タンパク質結合ドメイン(本明細書において定義されている)の、別の立体構造状態と比較してGPCRの特定の立体構造状態を優先的に認識および/または結合する能力を意味する。例えば、活性状態選択的タンパク質結合ドメインは、活性立体構造状態のGPCRと優先的に結合し、不活性立体構造状態のGPCRと結合しないまたはより弱い程度で結合し、よって、活性立体構造状態に対してより高い親和性を有する。用語「特異的に結合」、「選択的に結合」、「優先的に結合」およびそれらの文法的な均等語は、本明細書において互換的に用いられる。用語「立体構造特異的」または「立体構造選択的」も、本明細書において互換的に用いられる。
【0052】
本明細書における「抗原」は、動物における免疫応答を誘発できる分子を指す。GPCRの多種多様な立体構造状態の文脈において、分子は、GPCRの別の立体構造状態において形成されないまたはより接近しにくい特定の立体構造状態のGPCRの立体構造エピトープを含む。
【0053】
「欠失」は、それぞれ1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチド残基が、親ポリペプチドまたは核酸のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して存在しない、アミノ酸またはヌクレオチド配列のいずれかにおける変化として本明細書において定義されている。タンパク質の文脈において、欠失は、約2、約5、約10、最大約20、最大約30または最大約50以上のアミノ酸の欠失に関与し得る。タンパク質またはその断片は、2以上の欠失を含有し得る。GPCRの文脈において、欠失は、ループ欠失であっても、Nおよび/またはC末端欠失であってもよい。
【0054】
「挿入」または「付加」は、親タンパク質のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較した、それぞれ1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチド残基の付加をもたらした、アミノ酸またはヌクレオチド配列における変化である。「挿入」は、ポリペプチドのアミノ酸配列内部への1つまたは複数のアミノ酸残基への付加を一般に意味するが、一方、「付加」は、挿入となることができる、またはNもしくはC末端または両末端に付加されたアミノ酸残基を意味し得る。タンパク質またはその断片の文脈において、挿入または付加は、通常、約1、約3、約5、約10、最大約20、最大約30または最大約50以上のアミノ酸の挿入または付加である。タンパク質またはその断片は、2以上の挿入を含有し得る。
【0055】
本明細書における「置換」は、親タンパク質またはその断片のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較した、それぞれ異なるアミノ酸またはヌクレオチドによる1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチドの置き換えに起因する。タンパク質またはその断片が、タンパク質の活性における効果が実質的にない保存的アミノ酸置換を有し得ることが理解される。保存的置換は、gly、ala;val、ile、leu、met;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;cys、met;およびphe、tyr、trp等、所望の組み合わせによるものである。
【0056】
本明細書における「結晶」または「結晶構造」は、その構成原子、分子またはイオンが3つの空間的次元すべてに広がって整然と反復したパターンに配置された固体材料を意味する。液体または液体に溶解された材料から結晶構造を形成するプロセスは、多くの場合、「結晶化」または「結晶生成」と称される。タンパク質結晶は、殆どの場合、溶液において成長する。最も一般的なアプローチは、その構成分子の溶解性を徐々に低くすることである。溶液における結晶成長は、2ステップによって特徴付けられる。即ち、顕微鏡レベルの結晶子(恐らく100分子しかない)の核形成と、続く、該結晶子の理想的には回折品質の結晶への成長。
【0057】
本明細書における「X線結晶構造解析」は、X線ビームを結晶に当て、多くの特異的な方向に回折させる、結晶内の原子の配置を決定する方法である。この回折したビームの角度および強度から、結晶学者は、結晶内電子の密度の三次元像を作成することができる。この電子密度から、結晶における原子の平均的な位置ならびにその化学結合、その無秩序(disorder)および様々な他の情報が決定され得る。
【0058】
本明細書における用語「原子座標」は、分子構造内の原子の三次元座標のセットを意味する。一実施形態において、原子座標は、生物物理学分野の当業者にとって周知の方法に従ったX線結晶構造解析を用いて得られる。簡単に説明すると、X線回折パターンは、結晶からのX線を回折することによって得ることができる。回折データは、結晶を含む単位格子の電子密度マップの計算に用いられる。マップは、単位格子内の原子の位置(即ち、原子座標)の確立に用いられる。当業者であれば、X線結晶構造解析によって決定された構造座標のセットが、標準誤差を含有することを理解する。他の実施形態において、原子座標は、電子回折(電子結晶構造解析としても知られる)および核磁気共鳴(NMR)方法を包含し得る他の実験生物物理学的構造決定方法を用いて得ることができる。さらに他の実施形態において、原子座標は、アブイニシオなタンパク質フォールディングアルゴリズム、エネルギー最小化および相同性に基づくモデリングのうち1つまたは複数に基づき得られる分子モデリングツールを用いて得ることができる。これらの技法は、生物物理学および生物情報学分野における当業者にとって周知のものである。
【0059】
本明細書における「構造を解明すること」は、タンパク質の原子の配置または原子座標の決定を意味し、多くの場合、X線結晶構造解析等の生物物理学的方法によってなされる。
【0060】
本明細書における用語「化合物」または「試験化合物」または「候補化合物」または「薬物候補化合物」は、スクリーニングアッセイまたは創薬アッセイ等、アッセイにおいて検査される天然起源または合成いずれかの任意の分子を説明する。そのようなものとして、これらの化合物は、有機または無機化合物を含む。化合物は、低分子量によって特徴付けられたポリヌクレオチド、脂質またはホルモンアナログを包含する。他のバイオポリマー有機試験化合物は、抗体、抗体断片または抗体コンジュゲート等、約2から約40アミノ酸を含む小分子ペプチドまたはペプチド様分子(ペプチド模倣物)および約40から約500アミノ酸を含むより高分子のポリペプチドを包含する。試験化合物は、タンパク質スキャフォールドでもよい。ハイスループットな目的のため、十分な範囲の多様性をもたらすコンビナトリアルまたはランダム化ライブラリー等の試験化合物ライブラリーを用いることができる。例として、天然化合物ライブラリー、アロステリック化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体断片ライブラリー、合成化合物ライブラリー、断片ベースのライブラリー、ファージディスプレイライブラリー等が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書においてより詳細な説明をさらに見出すことができる。
【0061】
本明細書において、用語「決定する」、「測定する」、「評価する」、「モニターする」および「アッセイする」は、互換的に用いられ、定量的および定性的決定の両方を包含する。
【0062】
GPCRに関して用語「生物活性のある」は、天然起源のGPCRの生化学的機能(例えば、結合機能、シグナル伝達機能またはリガンド結合の結果立体構造を変化させる能力)を有するGPCRを意味する。
【0063】
本明細書における用語「治療上有効量」、「治療上有効用量」および「有効量」は、所望の結果(単数または複数)の達成に必要とされる量を指す。
【0064】
本明細書における用語「薬学的に許容される」は、生物学その他の観点から望ましくないことのない材料を指し、即ち、材料が、望ましくない生物学的効果を決して生じないまたはそれを含有する医薬組成物の他の成分のいずれとも有害な様式で相互作用しない化合物と共に個体に投与され得ることを指す。
【0065】
詳細な説明
GPCRに関する構造情報は、受容体から細胞内相互作用タンパク質(Gタンパク質、β-アレスチン等)へのシグナルの伝達に関与する構造的、機能的および生化学的変化に関する見識をもたらし、これらの薬理学的に関連性のある相互作用に干渉する仕方を描写する。したがって、GPCRを得て結晶化する試みは、非常に重要である。しかし、これは、GPCRを扱う際の生化学的課題および界面活性剤溶液におけるこれらの複合体の固有の不安定性のために、特に困難な努力である。また、成長する回折品質の結晶は、安定的で立体構造的に均質なタンパク質を必要とするため、GPCR固有の立体構造の柔軟性は、GPCR単独の高分解能構造解析を複雑化する(Kobilkaら、2007)。本発明は、高分解能構造解析およびそれから派生する多くの応用等、GPCRの構造的および機能的解析を可能にする、対象のGPCRの機能的立体構造状態、特に、その活性立体構造状態を捕捉または「凍結」するための新規の実験的および分析的ツールを提供する。
【0066】
本発明の第1の態様は、機能的立体構造状態のGPCRと特異的に結合することができるタンパク質結合ドメインに関する。
【0067】
本発明のタンパク質結合ドメインは、機能的立体構造状態の標的GPCRと特異的に結合することができる任意の非天然起源の分子またはその部分(上文に定義されている)であり得る。好ましい一実施形態において、本明細書に記載されているタンパク質結合ドメインは、タンパク質スキャフォールドである。用語「タンパク質スキャフォールド」は、別の分子、例えばタンパク質との結合のためのフレームワークを含む構造、特にタンパク質またはペプチド構造を形成するフォールディング単位を一般に意味する(概説として、例えば、Skerra、J.2000を参照されたい)。タンパク質結合ドメインは、天然起源の分子、例えば、自然または獲得免疫系の成分に由来し得るまたは全く人工的に設計され得る。タンパク質結合ドメインは、免疫グロブリンに基づいてもよくまたは微生物タンパク質、プロテアーゼ阻害剤、毒素、フィブロネクチン、リポカリン、単鎖アンチパラレルコイルド大腸菌タンパク質(single chain antiparallel coiled coil proteins)もしくは反復モチーフタンパク質等が挙げられるが、これらに限定されないタンパク質に存在するドメインに基づいてもよい。本技術分野における公知のタンパク質結合ドメインの例として、抗体、重鎖抗体(hcAb)、単一ドメイン抗体(sdAb)、ミニボディ、ラクダ科動物重鎖抗体に由来する可変領域(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体に由来する新規抗原受容体の可変領域(VNAR)、アルファボディ、プロテインA、プロテインG、設計アンキリンリピートドメイン(DARPins)、フィブロネクチンIII型リピート、アンチカリン、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)、ペプチドおよびタンパク質、リポペプチド(例えば、ペプデューシン(pepducin))、DNAならびにRNA(例えば、Gebauer&Skerra、2009;Skerra、2000;Starovasnikら、1997;Binzら、2004;Koideら、1998;Dimitrov、2009;Nygrenら、2008;WO2010066740を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。多くの場合、選択方法を用いて特定の種類のタンパク質結合ドメインを作製する際、ランダム化された相互作用残基候補を含有するコンセンサスまたはフレームワーク配列を含むコンビナトリアルライブラリーが、タンパク質等の対象の分子への結合に関するスクリーニングに用いられる。
【0068】
本明細書における「Gタンパク質共役受容体」または「GPCR」は、それぞれ膜を貫通する7個のアルファヘリックスを形成する、22から24個の間の疎水性アミノ酸の7領域を備える共通構造的モチーフを共有するポリペプチドである。各貫通領域は、番号により同定され、即ち、膜貫通-1(TM1)、膜貫通-2(TM2)等とする。膜貫通ヘリックスは、それぞれ「細胞外」領域1、2および3(EC1、EC2およびEC3)と称される、細胞膜の外部または「細胞外」側における膜貫通-2と膜貫通-3との間、膜貫通-4と膜貫通-5との間および膜貫通-6と膜貫通-7との間のアミノ酸の領域によって連結されている。膜貫通ヘリックスは、それぞれ「細胞内」領域1、2および3(IC1、IC2およびIC3)と称される、細胞膜の内部または「細胞内」側における膜貫通-1と膜貫通-2との間、膜貫通-3と膜貫通-4との間および膜貫通-5と膜貫通-6との間のアミノ酸の領域によっても連結されている。受容体の「カルボキシ」(「C」)末端は、細胞の内側にある細胞内空間に位置し、受容体の「アミノ」(「N」)末端は、細胞の外側にある細胞外空間に位置する。これらの領域のいずれも、GPCRの一次アミノ酸配列の解析により容易に同定可能である。
【0069】
GPCR構造および分類は、一般に本技術分野において周知のものであり、GPCRに関するさらなる考察は、Probstら、1992;Marcheseら、1994;Lagerstrom&Schioth、2008;Rosenbaumら、2009ならびに次の書籍、Jurgen Wess(編)Structure-Function Analysis of G Protein-Coupled Receptors、Wiley-Liss発行(第1版;1999年10月15日);Kevin R.Lynch(編)Identification and Expression of G Protein-Coupled Receptors、John Wiley&Sons発行(1998年3月);Tatsuya Haga(編)、G Protein-Coupled Receptors、CRC Press発行(1999年9月24日)およびSteve Watson(編)G-Protein Linked Receptor Factsbook、Academic Press発行(第1版;1994年)に見出すことができる。
【0070】
GPCRは、配列相同性に基づいて、数種の別々のファミリーにグループ分けすることができる。あらゆるGPCRは、7個の膜貫通α-ヘリックスの類似の構造を有するが、この受容体クラス内の異なるファミリーは、互いに配列相同性を示さず、よって、これらの膜貫通ドメイン構造の類似性が、共通の機能的要件を定義し得ることを示唆する。ヒトゲノムの最初のドラフト配列が利用できるようになったとき、GPCRレパートリーの包括的見解が可能となった。Fredrikssonおよび同僚らは、系統発生学的判断基準に基づいて802種のヒトGPCRをファミリー分けした。その結果は、ヒトGPCRの多くが、グルタミン酸、ロドプシン、接着、Frizzled/Taste2およびセクレチンと称される5種の主要ファミリーに存在することを示した(Fredrikssonら、2003)。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態において、タンパク質結合ドメインは、GPCRの機能的立体構造状態に対して作製されまたはそれと特異的に結合することができ、GPCRは、GPCRグルタミン酸ファミリーのGPCR、GPCRロドプシンファミリーのGPCR、GPCR接着ファミリーのGPCR、GPCR Frizzled/Taste2ファミリーのGPCRおよびGPCRセクレチンファミリーのGPCRを含む群から選ばれる。好ましくは、GPCRは、哺乳動物タンパク質または植物タンパク質または微生物タンパク質またはウイルスタンパク質または昆虫タンパク質である。さらにより好ましくは、GPCRは、ヒトタンパク質である。
【0072】
ロドプシンファミリー(クラスA(Kolakowski、1994)またはクラス1(Foordら、(2005)、古い分類システムにおける)に相当)のメンバーは、小型の細胞外ループしか持たず、リガンドの相互作用は、膜貫通間隙内の残基との間で行われる。これは、圧倒的最大の群(GPCRの>90%)であり、匂い分子、カテコールアミンおよびアミン等の小分子、(神経)ペプチドおよび糖タンパク質ホルモンの受容体を含有する。このファミリーの代表であるロドプシンは、構造が解明された最初のGPCRである(Palczewskiら、2000)。構造が解明された拡散性リガンドと相互作用する最初の受容体であるβ2AR(Rosenbaumら、2007)も、このファミリーに属す。系統発生解析に基づき、クラスB GPCRまたはクラス2(Foordら、2005)受容体は、近年、接着およびセクレチン(Fredrikssonら、2003)の2ファミリーに細分化された。接着およびセクレチン受容体は、リガンド結合に関与する相対的に長いアミノ末端細胞外ドメインによって特徴付けられる。膜貫通ドメインの配向性に関して殆ど分かっていないが、恐らく、ロドプシンの配向性とは全く異なる。これらのGPCRのリガンドは、グルカゴン、セクレチン、性腺刺激ホルモン放出ホルモンおよび副甲状腺ホルモン等のホルモンである。グルタミン酸ファミリー受容体(クラスCまたはクラス3受容体)も大型の細胞外ドメインを有し、このドメインは、内側に結合したアゴニストにより開閉できることから「ハエジゴク(Venus fly trap)」の様に機能する。ファミリーメンバーは、代謝型グルタミン酸、Ca2+感知およびγ-アミノ酪酸(GABA)-B受容体である。
【0073】
GPCRは、セロトニン嗅覚受容体、糖タンパク質ホルモン受容体、ケモカイン受容体、アデノシン受容体、生体アミン受容体、メラノコルチン受容体、神経ペプチド受容体、走化性受容体、ソマトスタチン受容体、オピオイド受容体、メラトニン受容体、カルシトニン受容体、PTH/PTHrP受容体、グルカゴン受容体、セクレチン受容体、ラトロトキシン受容体、代謝型グルタミン酸受容体、カルシウム受容体、GABA-B受容体、フェロモン受容体、プロテアーゼ活性化型受容体、ロドプシンおよび他のGタンパク質共役型7回膜貫通セグメント受容体を限定することなく包含する。GPCRは、ホモマーもしくはヘテロマーのダイマーまたはより高次のオリゴマーとして互いに会合したGPCR受容体も包含する。GPCRのアミノ酸配列(およびこれをコードするcDNAのヌクレオチド配列)は、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez)を参照することにより容易に入手できる。
【0074】
好ましい一実施形態によると、GPCRは、すべて本技術分野において周知のものである、アドレナリン受容体、好ましくは、α1アドレナリン受容体およびα2アドレナリン受容体等のαアドレナリン受容体ならびにβ1アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体およびβ3アドレナリン受容体等のβアドレナリン受容体を含む群;またはムスカリン受容体、好ましくは、M1ムスカリン受容体、M2ムスカリン受容体、M3ムスカリン受容体、M4ムスカリン受容体およびM5ムスカリン受容体を含む群;またはアンジオテンシン受容体、好ましくは、1型アンジオテンシンII受容体、2型アンジオテンシンII受容体および他の異型アンジオテンシンII受容体の群から選ばれる。
【0075】
本明細書におけるGPCRは、いかなる天然起源または非天然起源の(即ち、人為的に変化された)ポリペプチドであってもよい。GPCRに関する用語「天然起源」は、天然に生成された(例えば、限定的でないが、とりわけ哺乳動物、より具体的には、ヒトによりまたはウイルスによりまたは植物によりまたは昆虫により生成された)GPCRを指す。このようなGPCRは、天然に存在する。GPCRに関する用語「非天然起源」は、天然起源でないGPCRを指す。変異導入により構成的に活性化された野生型GPCRおよび天然起源のGPCRの変種は、非天然起源のGPCRの例である。非天然起源のGPCRは、天然起源のGPCRに対して少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有し得る。β2-アドレナリン受容体を本発明の範囲内におけるGPCRの特定の非限定的な例とすると、上の記述から、ヒトβ2アドレナリン受容体(例えば、Genbank受託番号NP_000015に記載の配列)に加えて、マウスβ2アドレナリン受容体(例えば、Genbank受託番号NM007420に記載)または他の哺乳動物β2アドレナリン受容体を用いてよいことは明らかである。さらに、この用語は、特定の生物種のβ2アドレナリン受容体の野生型多型変種および特定の他の活性変種を網羅することを目的とする。例えば、「ヒトβ2アドレナリン受容体」は、Genbank受託番号NP_000015の天然起源の「ヒトβ2アドレナリン受容体」に対して少なくとも95%同一(例えば、少なくとも95%または少なくとも98%同一)のアミノ酸配列を有する。さらに、本発明が、ループ欠失またはNおよび/またはC末端欠失またはそのアミノ酸もしくはヌクレオチド配列に関連した置換もしくは挿入もしくは付加またはそれらの任意の組み合わせを有するGPCRも想定することが認識される(上文に定義されている、また、実施例の節も参照されたい)。本発明によるタンパク質結合ドメインが、一般に、GPCRのあらゆる天然起源または合成のアナログ、変種、変異体、対立遺伝子と結合することができるとさらに期待される。
【0076】
例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴法、ファージディスプレイ等を含めた様々な方法が、タンパク質結合ドメインおよび標的GPCRの間の特異的結合の決定に用いることができ、これらの方法は、本技術分野において慣行的であり、例えば、Sambrookら(2001)、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーに記されている。この目的のため、多くの場合、本明細書にさらに記載されているペプチド標識、核酸標識、化学標識、蛍光標識または高周波タグ等の独特の標識またはタグが用いられることが認識される。
【0077】
GPCRが、天然および合成リガンドに応じて幅広い機能的挙動を示す立体構造的に複雑な体膜タンパク質であることは明らかである。アゴニスト結合からタンパク質活性化への経路を定義するには、活性化経路に沿ったスナップショットを提供するであろう様々な天然または合成リガンドと複合した、研究中の受容体の様々な立体構造状態の結晶構造(活性アゴニスト結合状態およびGPCR-Gタンパク質複合体の構造を含む)の組み合わせを必要とする。
【0078】
よって、好ましい一実施形態において、タンパク質結合ドメインは、安定化することができる、あるいはGPCRの特定の機能的立体構造状態の安定性を増大させることができる。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、GPCR結合によりGPCRにおける機能的立体構造状態の形成を誘導することができる。GPCRの機能的立体構造状態は、基礎立体構造状態または活性立体構造状態または不活性立体構造状態であり得る。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、結合によりGPCRをその活性立体構造状態に安定化することができるおよび/またはGPCRにその活性立体構造状態の形を取らせることができる。
【0079】
GPCRの機能的立体構造状態(本明細書において定義されている)に関する表現「誘導する」または「(強制的に)させる」または「ロックする」または「トラップする」または「固定する」または「凍結する」は、本明細書において、GPCRと本発明によるタンパク質結合ドメインとの相互作用の効果のため、他に仮定され得る可能な立体構造のサブセットにおけるGPCRの保持または維持を意味する。したがって、「立体構造的にトラップされた」または「立体構造的に固定された」または「立体構造的にロックされた」または「立体構造的に凍結された」タンパク質は、本明細書において、GPCRと本発明によるタンパク質結合ドメインとの相互作用の効果のため、他に仮定され得る可能な立体構造のサブセットにおいて維持されたタンパク質である。この文脈において、タンパク質の特異的立体構造または立体構造状態と特異的または選択的に結合するタンパク質結合ドメインは、タンパク質に仮定し得る他の立体構造または立体構造状態よりも高い親和性で、立体構造または立体構造状態のサブセットにおけるタンパク質と結合するタンパク質結合ドメインを意味する。当業者であれば、タンパク質の特異的立体構造または立体構造状態と特異的または選択的に結合するタンパク質結合ドメインが、この特異的立体構造または立体構造状態を安定化することを認識する。
【0080】
本明細書における用語「機能的立体構造状態」は、タンパク質、特にGPCR等の膜タンパク質が、ダイナミックレンジの活性、特に活性なしから最大活性にわたる活性を有する多くの異なる立体構造状態を保有するとの事実を意味する(Kobilka and Deupi、2007において概説)。「機能的立体構造状態」が、タンパク質の変性状態を網羅することを目的としないことは明らかであるはずである。GPCRの機能的多用途性は、このような多種多様な立体構造を生じるこれらのタンパク質の柔軟性と本質的に結びつく。立体構造エネルギー景観は、結合したリガンド(エフェクター分子、アゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト…)の存在、脂質環境または相互作用タンパク質の結合等の要因と内因的に結びつく。例えば、「基礎立体構造状態」は、リガンド(上文に定義されている、例えば、エフェクター分子、アゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト)不在下の受容体の低エネルギー状態として定義され得る。タンパク質が別の立体構造状態へと移行を行う確率は、2状態間のエネルギー差および2状態間のエネルギー障壁の高さの関数である。GPCR等の受容体タンパク質の場合、リガンド結合のエネルギーは、2状態間のエネルギー障壁の変化もしくは2状態間の相対エネルギーレベルの変化のいずれかまたはその両方に用いられ得る。エネルギー障壁の変化は、2状態間の移行速度における効果を有し、一方、エネルギーレベルの変化は、2状態における受容体の平衡分布における効果を有する。アゴニストまたは部分アゴニストの結合は、エネルギー障壁を低めるおよび/または不活性立体構造状態に対してより活性の高い立体構造状態のエネルギーを低下させる。インバースアゴニストは、エネルギー障壁を高めるおよび/または「活性立体構造」に対して「不活性状態立体構造」のエネルギーを低下させる。受容体とそのGタンパク質とのカップリングは、エネルギー景観をさらに変化させ得る。GPCR等の膜内在性タンパク質の活性は、膜においてそれを取り巻く脂質分子の構造によっても影響される。膜タンパク質は、強固な実体ではなく、周囲の脂質二重層との優れた疎水性調和を確実にするために変形する。重要なパラメータの一つは、脂質脂肪酸アシル鎖の長さによって画定される脂質二重層の疎水部の厚さである。また、脂質頭部領域の構造は、脂質頭部領域に位置する膜タンパク質のこの部分の構造の画定に重要である可能性がある。他の脂質の中で、パルミトイル化およびコレステロールとGPCRの結合は、モノマー受容体内側における構造的役割も果たし、受容体オリゴマーの形成/安定化に寄与し得る(Lee 2004;Chini and Parenti 2009)。
【0081】
上文に定義されている「受容体リガンド」または単に「リガンド」は、受容体の活性部位と結合し、その有効性または即ち、特異的経路を通した受容体シグナル伝達におけるその効果に従ってさらに分類されることを指す「オルソステリック」リガンド(天然および合成の両方)でよい。本明細書において、「アゴニスト」は、受容体と結合することにより、受容体のシグナル伝達活性を増加させるリガンドを意味する。完全アゴニストは、最大受容体刺激ができる。部分アゴニストは、飽和濃度であっても完全活性を誘発できない。部分アゴニストは、より強いアゴニストの結合を抑制することにより、「遮断薬」としても機能し得る。「アンタゴニスト」は、いかなる活性も刺激することなく受容体と結合するリガンドを意味する。「アンタゴニスト」は、他のリガンドの結合を抑制するその能力、したがって遮断アゴニスト誘導活性のため、「遮断薬」としても知られる。さらに、「インバースアゴニスト」は、アゴニスト効果の遮断に加えて、受容体の基礎または構成的活性をリガンド非結合の受容体の活性よりも低下させるアンタゴニストを意味する。
【0082】
GPCRが細胞生理を調節する仕方についての標準的見解は、リガンド(ホルモン、神経伝達物質または感覚刺激等)の結合が、受容体の活性立体構造状態を安定化し、これによりヘテロ三量体Gタンパク質との相互作用を可能にすることである。Gタンパク質との相互作用に加えて、アゴニスト結合GPCRは、GPCRキナーゼ(GRK)と会合し、受容体リン酸化を生じる。GRKによるGPCRリン酸化の一般的な結果は、Gタンパク質とのGPCR相互作用の減少およびアレスチンとのGPCR相互作用の増加であり、アレスチンは、さらなるGタンパク質シグナル伝達を立体的に阻害して、受容体脱感作をもたらす。β-アレスチンは、Gタンパク質シグナルを打ち消すため、MAPK経路等、第2の平行セットのシグナルカスケードを同時に惹起することができる。GPCRは、一般的なGPCR相互作用タンパク質(Gタンパク質、GRK、アレスチンおよび他の受容体)ファミリー外の様々なタンパク質とも会合する。これらのGPCR選択的パートナーは、GPCRシグナル伝達を媒介し、Gタンパク質によるGPCRシグナル伝達を組織化し、GPCR輸送を導き、GPCRを特に細胞内区画に繋留しおよび/またはGPCR薬理学に影響を与えることができる(Ritter and Hall、2009)。この点において、本明細書におけるリガンドは、受容体のシグナル伝達活性のサブセットを選択的に刺激、例えば、Gタンパク質またはβ-アレスチン機能を選択的に活性化する能力を有する「バイアスをかけたリガンド(biased ligand)」でもよい。このようなリガンドは、「バイアスをかけたリガンド」、「バイアスをかけたアゴニスト」または「機能的に選択的なアゴニスト」として公知のものである。より具体的には、リガンドバイアスは、異なるシグナルに対して異なる相対有効性を有する複数の受容体活性のリガンド刺激によって特徴付けられる不完全なバイアスであり得(非絶対的選択性)または別の公知の受容体活性の刺激なしで1種の受容体活性のリガンド刺激によって特徴付けられる完全バイアスであり得る。
【0083】
GPCRのシグナル伝達活性(したがって、その立体構造挙動)は、アロステリック調節因子として公知の別種のリガンドの結合によっても影響され得る。「アロステリック調節因子」あるいは「アロステリック修飾因子」、「アロステリックリガンド」または「エフェクター分子」は、GPCRのアロステリック部位(即ち、物理的にタンパク質の活性部位と異なる調節性部位)において結合する。オルソステリックリガンドと対照的に、アロステリック修飾因子は、内在性リガンドも結合しているとしても、異なる部位で受容体と結合して受容体機能を修飾するため、非競合的である。このため、アロステリック修飾因子は、多くの薬物がそうであるように、単に受容体をオンにしたりオフにしたりすることに限定されない。その代わりに、これは、むしろ減光スイッチのように作用し、本体に受容体活性化の惹起に関するその天然の制御を保持させつつ、活性化または非活性化の強度に関する制御をもたらす。タンパク質の活性を増強するアロステリック調節因子は、本明細書において、「アロステリック活性化因子」または「正のアロステリック修飾因子」と称され、一方、タンパク質の活性を減少させるアロステリック調節因子は、本明細書において、「アロステリック阻害剤」あるいは「負のアロステリック修飾因子」と称される。
【0084】
好ましくは、本発明のタンパク質結合ドメインは、アゴニスト結合GPCRと特異的に結合することができるおよび/またはアゴニストに対するGPCRの親和性を増強する。EC50、IC50、Kdまたは当業者にとって公知である任意の他の親和性もしくは効力測定値の減少によって測定された通り、タンパク質結合ドメインが、受容体との結合によりアゴニストに対する親和性を少なくとも2倍、少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍増加できることが好ましい。
【0085】
GPCRの構造および/または特定の生物活性に関する安定性の増大も、熱、界面活性剤、カオトロピック剤および極端なpHを含めた他の変性剤または変性条件の安定性の指針となり得ることが認識される。したがって、さらに別の一実施形態において、本発明によるタンパク質結合ドメインは、希釈、濃縮、バッファー組成物、加熱、冷却、凍結、界面活性剤、カオトロピック剤、pHにより誘導された非生理的条件下におけるGPCRの機能的立体構造状態の安定性を増大させることができる。水溶性タンパク質と対照的に、膜タンパク質フォールディングおよび安定性の熱力学的研究は極めて難しく、可逆的フォールディングのための条件を見出すことが困難であるため複雑化されていることが判明した。熱および化学的アプローチ等、多くの方法によって誘導されたヘリックス膜タンパク質のアンフォールディングは、Stanley and Fleming(2008)によって概説された通り、不可逆的である。したがって、本明細書における用語「熱安定化」、「熱安定化する」、「の熱安定性を増大させる」は、GPCRの熱力学的特性よりもむしろ機能的特性を意味し、加熱、冷却、凍結、化学的変性剤、pH、界面活性剤、塩、添加剤、プロテアーゼもしくは温度等が挙げられるが、これらに限定されない熱および/または化学的アプローチによって誘導された不可逆的変性に対するタンパク質の抵抗性を意味する。不可逆的変性は、タンパク質の機能的立体構造の不可逆的アンフォールディング、生物活性の損失および変性タンパク質の凝集をもたらす。本明細書における用語「(熱)安定化」、「(熱)安定化する」、「の(熱)安定性を増大させる」は、脂質粒子または脂質層(例えば、脂質単層、脂質二重層等)に包埋されたGPCRおよび界面活性剤に可溶化されたGPCRに適用する。
【0086】
好ましくは、本発明によるタンパク質結合ドメインは、GPCRの機能的立体構造状態、好ましくは、GPCRの活性立体構造状態の熱安定性を増大させることができる。熱に対する安定性の増大との関連で、これは、リガンド結合を測定することまたは上昇温度におけるアンフォールディングに対して感受性である蛍光、CDもしくは光散乱等、分光測定方法を用いることによって容易に決定され得る(実施例の節も参照)。タンパク質結合ドメインが、少なくとも2℃、少なくとも5℃、少なくとも8℃、より好ましくは少なくとも10℃または15℃または20℃による機能的立体構造状態のGPCRの熱安定性の増大によって測定された安定性を増大できることが好ましい。別の好ましい一実施形態によると、タンパク質結合ドメインは、アゴニスト、インバースアゴニスト、アンタゴニストおよび/またはGPCRもしくはGPCR依存性シグナル伝達経路の修飾因子もしくは阻害剤等が挙げられるが、これらに制限されないリガンドと複合したGPCRの機能的立体構造の熱安定性を増大させることができる。別の好ましい一実施形態によると、本発明によるタンパク質結合ドメインは、界面活性剤またはカオトロープの存在下で、GPCRの機能的立体構造状態の安定性を増大させることができる。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、熱または化学的アプローチによって誘導された変性に対して、GPCRの活性立体構造状態の安定性を増大させることができる。熱、界面活性剤またはカオトロープに対する安定性増大との関連で、通例、GPCRは、検査界面活性剤または検査カオトロピック剤の存在下で規定の時間インキュベートされ、例えば、リガンド結合または分光測定方法を用いて、場合によって、上に記す通り上昇温度における安定性が決定される。さらに別の好ましい一実施形態によると、本発明によるタンパク質結合ドメインは、極端なpHに対してGPCRの機能的立体構造状態の安定性を増大させることができる。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、極端なpHに対してGPCRの活性立体構造状態の安定性を増大させることができる。極端なpH値のとの関連において、通常の検査pHは、例えば、6から8の範囲、5.5から8.5の範囲、5から9の範囲、4.5から9.5の範囲において、より具体的には、4.5から5.5(低pH)の範囲または8.5から9.5(高pH)の範囲において選ばれる。
【0087】
本発明によるタンパク質結合ドメインは、一般に、任意の所望のGPCRに対して作製され、特に、任意のGPCRの任意の立体構造エピトープ、好ましくは、任意のGPCRの機能的立体構造状態、より好ましくは、GPCRの活性立体構造状態(すべて上文に定義されている)に対して作製され得る。より具体的には、立体構造エピトープは、任意の所望のGPCRの細胞内もしくは細胞外領域または膜内領域またはドメインもしくはループ構造の一部であり得る。特定の実施形態によると、タンパク質結合ドメインは、GPCRの任意の適切な細胞外領域、ドメイン、ループまたは他の細胞外立体構造エピトープに対して作製され得るが、好ましくは、膜貫通ドメインの細胞外部分の一つに対してまたはより好ましくは、膜貫通ドメインを連結する細胞外ループの一つに対して作製される。あるいは、タンパク質結合ドメインは、GPCRの任意の適切な細胞内領域、ドメイン、ループまたは他の細胞内立体構造エピトープに対して作製され得るが、好ましくは、膜貫通ドメインの細胞内部分の一つに対してまたはより好ましくは膜貫通ドメインを連結する細胞内ループの一つに対して作製される。「三次元」エピトープまたは「立体構造」エピトープと特異的に結合するタンパク質結合ドメインは、折り畳まれたタンパク質の三次(即ち、三次元)構造と特異的に結合し、より低い(即ち、少なくとも2、5、10、50または100倍低い)親和性で直鎖状(即ち、折り畳まれていない、変性した)形態のタンパク質と結合する。本発明のタンパク質結合ドメインが、一般に、GPCRのあらゆる天然起源または合成アナログ、変種、変異体、対立遺伝子と結合することがさらに期待される。
【0088】
特定の一実施形態において、本発明によるタンパク質結合ドメインは、GPCRの細胞内立体構造エピトープと特異的に結合することができる。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、GPCRのGタンパク質結合部位に含まれる、そこに位置するまたはそれと重複する立体構造エピトープと特異的に結合することができる。より好ましくは、タンパク質結合ドメインは、GPCRの機能的立体構造状態、より好ましくは、GPCRの活性立体構造状態のGタンパク質結合部位を占拠することができる。最も好ましくは、タンパク質結合ドメインは、Gタンパク質様の挙動を示す。本明細書における用語「Gタンパク質様挙動」は、例えばインバースアゴニスト結合受容体に対し、アゴニスト結合受容体と優先的に結合するタンパク質結合ドメインの特性を意味する。Gタンパク質様挙動を示すタンパク質結合ドメインは、アゴニスト占拠受容体およびGタンパク質間の協同的相互作用に起因するアゴニストに対する受容体の親和性も増強する(実施例の節も参照)。
【0089】
好ましい一実施形態において、タンパク質結合ドメインは、自然または獲得免疫系に由来する。好ましくは、タンパク質結合ドメインは、免疫グロブリンに由来する。好ましくは、本発明によるタンパク質結合ドメインは、抗体またはその誘導体である。用語「抗体」(Ab)は、抗原を特異的に結合および認識する、免疫グロブリン遺伝子によってコードされたポリペプチドまたはその機能的断片を一般に意味し、当業者にとって公知のものである。従来の免疫グロブリン(抗体)構造的単位は、テトラマーを含む。各テトラマーは、各対が1本の「軽」(約25kDa)および1本の「重」鎖(約50-70kDa)を有する同一の2対のポリペプチド鎖によって構成されている。各鎖のN末端は、主として抗原認識に関与する約100から110以上のアミノ酸の可変領域を画定する。用語、可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)はそれぞれ、これらの軽および重鎖を意味する。用語「抗体」は、単鎖全抗体および抗原結合断片を含めた全抗体を包含するよう企図されている。一部の実施形態において、抗原結合断片は、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(dsFv)およびVLまたはVHドメインのいずれかを含むまたはそれからなる断片ならびに標的抗原と結合することができる免疫グロブリンペプチドのこれらまたは任意の他の機能的部分の任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない抗原結合抗体断片でよい。用語「抗体」は、本明細書においてさらに定義されている単一ドメイン抗体、より具体的にはナノボディ等、重鎖抗体またはその機能的断片も包含するよう企図されている。
【0090】
好ましくは、タンパク質結合ドメインは、4個のフレームワーク領域および3個の相補性決定領域、好ましくは配列FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4またはその任意の適切な断片(よって通常、相補性決定領域のうち少なくとも1個を形成するアミノ酸残基の少なくとも一部を含有する)を含むアミノ酸配列を含む。4個のFRおよび3個のCDRを含むタンパク質結合ドメインは、当業者にとって公知のものであり、非限定的な例として、Wesolowskiら(2009)に記載されている。
【0091】
好ましくは、本発明によるタンパク質結合ドメインは、ラクダ科動物抗体に由来する。より好ましくは、本発明によるタンパク質結合ドメインは、ナノボディまたはその任意の適切な断片のアミノ酸配列を含む。より具体的には、タンパク質結合ドメインは、ナノボディまたはその任意の適切な断片である。本明細書における「ナノボディ」(Nb)は、天然起源の重鎖抗体に由来する最小の抗原結合断片または単一可変ドメイン(「VHH」)を意味し、当業者にとって公知のものである。これは、ラクダ科動物に見られる重鎖のみの抗体に由来する(Hamers-Castermanら、1993;Desmyterら、1996)。「ラクダ科動物」のファミリーにおいて、軽ポリペプチド鎖を欠く免疫グロブリンが見いだされる。「ラクダ科動物」は、旧世界ラクダ科動物(カメルス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)およびカメルス・ドロメダリウス(Camelus dromedarius))ならびに新世界ラクダ科動物(例えば、ラマ・パコス(Lama paccos)、ラマ・グラマ(Lama glama)、ラマ・グアニコエ(Lama guanicoe)およびラマ・ビクニャ(Lama vicugna))を含む。単一可変ドメイン重鎖抗体は、本明細書において、ナノボディまたはVHH抗体と命名される。Nanobody(ナノボディ)(商標)、Nanobodies(商標)およびNanoclone(商標)は、Ablynx NV(ベルギー)の商標である。Nbの小サイズおよび独特の生物物理学的特性は、稀少なまたは隠れたエピトープの認識およびタンパク質標的の空洞または活性部位への結合に関して従来の抗体断片よりも優れている。さらに、Nbは、二重特異性および二価抗体として設計され得るまたはレポーター分子と付着され得る(Conrathら、2001)。Nbは、容易に製造されて胃腸管系に残存し得る安定的で強固な単一ドメインタンパク質である。したがって、Nbは、創薬および治療等、多くの用途において用いられ得る(Saerensら、2008)が、タンパク質の精製、機能研究および結晶化のための多用途および有用なツールとしても用いられ得る(Conrathら、2009)。
【0092】
本発明によるナノボディは、4個の「フレームワーク配列」即ちFRおよび3個の「相補性決定領域」即ちCDR(上文に定義されている)を含むと考慮され得る単一のアミノ酸鎖を一般に含む。本発明のナノボディの非限定的な例は、本明細書においてより詳細にさらに説明されている。ナノボディのフレームワーク領域も、その抗原の結合に寄与し得ることは明らかである(Desmyterら、2002;Korotkovら、2009)。
【0093】
本発明によるナノボディの非限定的な例として、配列番号1-29(
図12、表1を参照)によって定義されているナノボディが挙げられるが、これらに限定されない。CDR配列の描写は、V-ドメインおよびV様ドメインに関するIMGT独自の番号方式に基づく(Lefrancら、2003)。特定の一実施形態において、上記のナノボディは、配列番号30-70(
図12、表2を参照)から選択されたアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)のうち少なくとも1個を含むことができる。より具体的には、上記のナノボディは、配列番号1-29またはその機能的断片を含む群から選択され得る。本明細書における「機能的断片」または「適切な断片」は、例えば、CDRループのうち1個を含むことができる。好ましくは、機能的断片は、CDR3を含む。より具体的には、ナノボディは、配列番号1-29のうちいずれかからなり、ナノボディの機能的断片は、配列番号30-70のうちいずれかからなる。さらに別の一実施形態において、上記のナノボディまたは機能的断片のうちいずれかをコードする核酸配列もまた、本発明の一部である。さらに、本発明は、上記のナノボディまたはその機能的断片のうちいずれかをコードする核酸配列を含む発現ベクターおよびこのような発現ベクターを発現する宿主細胞も想定する。適切な発現系は、細菌もしくは酵母における構成的および誘導性発現系、バキュロウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびレンチウイルス等のウイルス発現系または昆虫もしくは哺乳動物細胞における一過性トランスフェクションを包含する。適切な宿主細胞は、E.コリ(E.coli)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等を包含する。適切な動物宿主細胞は、HEK293、COS、S2、CHO、NSO、DT40等を包含する。ナノボディのクローニング、発現および/または精製は、当業者にとって公知の技法に従って行われ得る。
【0094】
本明細書におけるナノボディという用語は、その最も広い意義において、特定の生物学的ソースまたは特定の調製方法に限定されないことに留意されたい。例えば、本発明のナノボディは、一般に、(1)天然起源の重鎖抗体のVHHドメインを単離することにより、(2)天然起源のVHHドメインをコードするヌクレオチド配列の発現により、(3)天然起源のVHHドメインの「ヒト化」によりまたはこのようなヒト化VHHドメインをコードする核酸の発現により、(4)任意の動物種、特にヒト等の哺乳動物種から得られた天然起源のVHドメインの「ラクダ化(camelization)」によりまたはこのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現により、(5)本技術分野において説明されている「ドメイン抗体」または「Dab」の「ラクダ化」によりまたはこのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現により、(6)それ自体は公知のタンパク質、ポリペプチドまたは他のアミノ酸配列を調製するための合成または半合成技法を用いることにより、(7)それ自体は公知の核酸合成技法を用いてナノボディをコードする核酸を調製し、次に、このようにして得られた核酸を発現することにより、および/または(8)前述の1つまたは複数の任意の組み合わせにより得ることができる。
【0095】
ナノボディの好ましい1クラスは、機能的立体構造状態のGPCRに対して作製された天然起源の重鎖抗体のVHHドメインに相当する。ナノボディのナイーブまたは合成ライブラリー(このようなライブラリーの例は、WO9937681、WO0043507、WO0190190、WO03025020およびWO03035694を参照されたい)は、機能的立体構造状態のGPCRに対する立体構造結合剤を含有し得るが、本発明の好ましい一実施形態は、場合によって受容体リガンドと結合している機能的立体構造状態のGPCRによりラクダ科を免疫化して、GPCR(例えば、その活性立体構造状態のGPCRに対して作製された抗体を産生できるよう、アゴニスト結合GPCR)独特の立体構造エピトープに、この動物の免疫系を曝露することを包含する。よって、さらに本明細書に記載されている通り、このようなVHH配列は、好ましくはGPCR、好ましくは機能的立体構造状態のGPCR、より好ましくは活性立体構造状態によりラクダ科動物種を適切に免疫化し(即ち、GPCRに対して作製された免疫応答および/または重鎖抗体を産生できるよう)、ラクダ科動物から適切な生物試料(血液試料または任意のB細胞試料等)を得て、試料から出発してGPCRに対するVHH配列を産生することにより、産生または得ることができる。このような技法は、当業者であれば明らかである。所望のVHH配列を得るためのさらに別の技法は、重鎖抗体を発現することのできるトランスジェニック哺乳動物を適切に免疫化し(即ち、機能的立体構造状態のGPCRに対して作製された免疫応答および/または重鎖抗体を産生できるよう)、トランスジェニック哺乳動物から適切な生物試料(血液試料または任意のB細胞試料等)を得て、次に、それ自体は公知の任意の適切な技法を用いて試料から出発してGPCRに対して作製されたVHH配列を産生することに関与する。例えば、この目的のため、WO02085945およびWO04049794に記載されている重鎖抗体発現マウスならびにさらなる方法および技法を用いることができる。
【0096】
したがって、本発明は、本発明によるタンパク質結合ドメインを産生する方法を網羅する。非限定的な例として、GPCRの機能的立体構造状態の立体構造エピトープと特異的に結合するナノボディを産生する方法であって、
(i)GPCRにより動物を免疫化するステップおよび
(ii)GPCRの機能的立体構造状態の立体構造エピトープと特異的に結合するナノボディをスクリーニングするステップ
を含む方法が提供される。
【0097】
好ましくは、動物の免疫化は、受容体リガンド存在下のGPCRによりなされ、リガンドは、GPCRの特定の機能的立体構造状態を誘導する。例えば、GPCRの活性立体構造状態の形成を誘導するアゴニスト存在下のGPCRにより動物を免疫化することにより、GPCRの活性立体構造状態の立体構造エピトープと特異的に結合するナノボディが産生され得る(実施例の節も参照)。
【0098】
GPCRによる動物の免疫化のため、GPCRは、宿主細胞における組換え型GPCRの発現ならびにアフィニティークロマトグラフィーおよび/または抗体に基づく方法を用いたGPCRの精製を利用できる従来の方法を用いて産生および精製され得る。特定の実施形態において、他の発現系(例えば、細菌、酵母または哺乳動物細胞系)を用いてもよいが、バキュロウイルス/Sf-9系が発現に利用され得る。GCPRを発現および精製するための例示的な方法は、その他多数の中でも、例えば、Kobilka(1995)、Erogluら(2002)、Chelikaniら(2006)および書籍「Identification and Expression of G Protein-Coupled Receptors」(Kevin R.Lynch(編)、1998)に記載されている。GPCRは、リン脂質小胞において再構成されてもよい。同様に、リン脂質小胞において活性GPCRを再構成するための方法は公知のものであり、とりわけLucaら(2003)、Mansoorら(2006)、Niuら(2005)、Shimadaら(2002)およびErogluら(2003)に記載されている。特定の事例において、GPCRおよびリン脂質は、高密度(例えば、リン脂質1mg当たり1mgの受容体)で再構成され得る。特定の実施形態において、リン脂質小胞は、GPCRが活性を有することを確認するために検査され得る。多くの場合、GPCRは、リン脂質小胞において両方の配向性で(正常な配向性および細胞内ループが小胞の外側にある「上下逆の」配向性で)存在し得る。GPCRを用いた他の免疫化方法として、とりわけGPCRを発現する完全細胞の使用、GPCRをコードする核酸配列によるワクチン接種(例えば、DNAワクチン接種)、GPCRを発現するウイルスまたはウイルス様粒子による免疫化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
任意の適切な動物、例えば、温血動物、特に、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシ、サメもしくはブタ等の哺乳動物またはニワトリもしくはシチメンチョウ等のトリが、免疫応答の産生に適した本技術分野において周知の技法のいずれかを用いて免疫化され得る。
【0100】
非限定的な例として、GPCRの機能的立体構造状態の立体構造エピトープと特異的に結合するナノボディのスクリーニングは、例えば、その表面上に重鎖抗体を発現する細胞(例えば、適切に免疫化されたラクダ科動物から得られたB細胞)またはその表面にgenIIIおよびナノボディの融合体を提示するバクテリオファージのセット、コレクションもしくはライブラリーをスクリーニングすることにより、VHH配列もしくはナノボディ配列の(ナイーブもしくは免疫)ライブラリーをスクリーニングすることによりまたはVHH配列もしくはナノボディ配列をコードする核酸配列の(ナイーブもしくは免疫)ライブラリーをスクリーニングすることにより行われてよく、これらはすべてそれ自体は公知の様式で行われてよく、これらの方法は、場合によって、例えば、これらに限定することなく、親和性成熟のステップ、所望のアミノ酸配列を発現するステップ、所望の抗原(この場合、GPCR)に対する結合および/または活性に関しスクリーニングするステップ、所望のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を決定するステップ、1つまたは複数のヒト化置換を導入するステップ、適切な多価および/または多選択性フォーマットをフォーマットするステップ、所望の生物学的および/または生理学的特性に関しスクリーニングするステップ(即ち、本技術分野において公知の適切なアッセイを用いて)および/またはこのようなステップの1つまたは複数の適切な順序での任意の組み合わせ等の1つまたは複数の他の適切なステップをさらに含み得る。
【0101】
本発明のタンパク質結合ドメインの特に好ましいクラスは、天然起源のVHHドメインのアミノ酸配列に相当するが、「ヒト化」された、即ち、天然起源のVHH配列のアミノ酸配列(特に、フレームワーク配列)における1つまたは複数のアミノ酸残基を、ヒト由来の従来の4鎖抗体から得られたVHドメインにおける対応する位置(複数可)に存在するアミノ酸残基の1つまたは複数に置き換えることにより「ヒト化」されたアミノ酸配列を有するナノボディを含む。これは、当業者であれば本明細書におけるさらなる説明およびヒト化に関する先行技術に基づき明らかとなる、それ自体は公知の様式で行われ得る。一方、本発明のこのようなヒト化ナノボディが、それ自体は公知の任意の適切な様式で(即ち、上記のポイント(1)-(8)に表示)得られ、よって、出発材料として天然起源のVHHドメインを含むポリペプチドを用いて得られたポリペプチドに厳密に限定されないことに留意されたい。ヒト化ナノボディは、対応する天然起源のVHHドメインと比較した免疫原性の低下等、いくつかの利点を有し得る。このようなヒト化では、一般に、天然起源のVHHの配列における1つまたは複数のアミノ酸残基を、ヒトVH3ドメイン等のヒトVHドメインにおける同一位置に存在するアミノ酸残基に置き換える。ヒト化置換は、得られたヒト化ナノボディが、本明細書において定義されているナノボディの有利な特性を保持し続けるように選ばれるべきである。当業者であれば、一方ではヒト化置換によってもたらされる有利な特性と、他方では天然起源のVHHドメインの有利な特性との間の所望のまたは適切なバランスを最適化または達成するヒト化置換またはヒト化置換の適切な組み合わせを選択することができる。
【0102】
本発明のタンパク質結合ドメインの別の特に好ましいクラスは、天然起源のVHドメインのアミノ酸配列に相当するが、「ラクダ化」された、即ち、従来の4鎖抗体から得られた天然起源のVHドメインのアミノ酸配列における1つまたは複数のアミノ酸残基を、重鎖抗体のVHHドメインにおける対応する位置(複数可)に存在するアミノ酸残基の1つまたは複数に置き換えることにより「ラクダ化」されたアミノ酸配列を有するナノボディを含む。本明細書において定義されている通り、このような「ラクダ化」置換は、好ましくは、VH-VLの連結部を形成するおよび/またはそこに存在するアミノ酸位置におよび/またはいわゆるラクダ科に特徴的な残基に挿入される(例えば、WO9404678を参照)。好ましくは、ラクダ化ナノボディを産生または設計するための出発材料または出発点として用いられるVH配列は、好ましくは、哺乳動物由来のVH配列、より好ましくは、VH3配列等のヒトのVH配列である。しかし、本発明のこのようなラクダ化ナノボディが、それ自体は公知の任意の適切な様式(即ち、上記のポイント(1)-(8)に表示)で得られ、よって、出発材料として天然起源のVHドメインを含むポリペプチドを用いて得られたポリペプチドに厳密に限定されないことに留意されたい。
【0103】
例えば、「ヒト化」および「ラクダ化」は両者ともに、それぞれ天然起源のVHHドメインまたはVHドメインをコードするヌクレオチド配列を用意し、次に、新たなヌクレオチド配列が、それぞれ本発明の「ヒト化」または「ラクダ化」ナノボディをコードするような仕方で、ヌクレオチド配列における1つまたは複数のコドンをそれ自体は公知の様式で変化させることによって行われ得る。次に、この核酸は、本発明の所望のナノボディを生じるようそれ自体は公知の様式で発現され得る。あるいは、それぞれ天然起源のVHHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列に基づき、それぞれ本発明の所望のヒト化またはラクダ化ナノボディのアミノ酸配列が設計され、続いてそれ自体は公知のペプチド合成のための技法を用いて新規合成され得る。また、それぞれ天然起源のVHHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に基づき、それぞれ本発明の所望のヒト化またはラクダ化ナノボディをコードするヌクレオチド配列が設計され、続いてそれ自体は公知の核酸合成のための技法を用いて新規合成され、その後、このようにして得られた核酸が、本発明の所望のナノボディを生じるようそれ自体は公知の様式で発現され得る。天然起源のVH配列または好ましくはVHH配列から出発して、本発明のナノボディおよび/またはこれをコードする核酸を得るための他の適切な方法および技法は、当業者にとって明らかであり、例えば、1つまたは複数の天然起源のVH配列のうち1つまたは複数の部分(1つまたは複数のFR配列および/またはCDR配列等)、1つまたは複数の天然起源のVHH配列のうち1つまたは複数の部分(1つまたは複数のFR配列またはCDR配列等)および/または1つまたは複数の合成または半合成配列を、本発明のナノボディまたはこれをコードするヌクレオチド配列もしくは核酸を生じるよう適切な様式で組み合わせるステップを含むことができる。
【0104】
本発明によるタンパク質結合ドメイン、好ましくはナノボディの天然または合成のアナログ、変異体、変種、対立遺伝子、ホモログおよびオルソログ(本明細書においてまとめて「アナログ」と称される)、特に、配列番号1-29(表1、
図12を参照)のナノボディのアナログを使用することは、本発明の範囲内に収まるものである。よって、本発明の一実施形態によると、その最も広い意義における用語「本発明のナノボディ」もこのようなアナログを網羅する。一般に、このようなアナログにおいて、1つまたは複数のアミノ酸残基は、本明細書において定義されている本発明のナノボディと比較して置換、欠失および/または付加されていてよい。このような置換、挿入、欠失または付加は、フレームワーク領域のうち1つもしくは複数および/またはCDRの1つもしくは複数において、特に、配列番号1-29のナノボディのCDR(配列番号30-70(表2、
図12を参照)に相当する)のアナログにおいてなされ得る。本明細書におけるアナログは、各フレームワーク領域またはいずれかのフレームワーク領域および各相補性決定領域またはいずれかの相補性決定領域が、BLASTpアライメントにおける測定により、参照配列における対応する領域(即ち、FR1_アナログ対FR1_参照、CDR1_アナログ対CDR1_参照、FR2_アナログ対FR2_参照、CDR2_アナログ対CDR2_参照、FR3_アナログ対FR3_参照、CDR3_アナログ対CDR3_参照、FR4_アナログ対FR4_参照)と少なくとも80%同一性、好ましくは少なくとも85%同一性、より好ましくは90%同一性、さらにより好ましくは95%同一性を示す配列である(Altschulら、1987;FRおよびCDRの定義は、V-ドメインおよびV様ドメインのIMGT独自の番号方式による(Lefrancら、2003))。
【0105】
非限定的な例によると、置換は、例えば、保存的置換(本明細書に記載されている)であり得るおよび/またはアミノ酸残基は、別のVHHドメインにおける同一位置における天然起源の別のアミノ酸残基に置き換えることができる。よって、本発明のナノボディの特性を改善するまたは本発明のナノボディの所望の特性もしくはバランスもしくは所望の特性の組み合わせを少なくとも過度に損なう(即ち、ナノボディがもはや目的の用途に適さなくなる程度まで)ことのない任意の1つまたは複数の置換、欠失もしくは挿入またはそれらの任意の組み合わせは、本発明の範囲内に包含されている。当業者は、一般に、本明細書における開示に基づき、場合によって、例えば限られた数の可能な置換を導入し、このようにして得られたナノボディの特性におけるその影響の決定に関与し得る限られた程度のルーチン実験後に、適切な置換、欠失、挿入、付加またはそれらの適切な組み合わせを決定および選択することができる。
【0106】
例えば、また、本発明のタンパク質結合ドメイン、好ましくはナノボディの発現に用いた宿主生物に応じて、このような欠失および/または置換は、当業者の能力の範囲内にある、1つまたは複数の翻訳後修飾のための部位(1つまたは複数の糖鎖付加部位等)が除去されるような仕方で設計され得る。あるいは、置換または挿入は、官能基(本明細書に記載されている)付着のための1つまたは複数の部位を導入するよう、例えば、部位特異的ペグ化を可能にするよう設計され得る。
【0107】
修飾と、修飾され得る(即ち、タンパク質骨格か、好ましくは側鎖のいずれかにおける)タンパク質結合ドメイン配列、好ましくはナノボディ配列内におけるアミノ酸残基、このような修飾の導入に用いられ得る方法および技法ならびにこのような修飾の潜在的な用途および利点の例は、当業者にとって明らかである。例えば、このような修飾は、本発明のナノボディへの1つまたは複数の官能基、残基または部分、特に、本発明のナノボディに1つまたは複数の所望の特性または官能性を付与する1つまたは複数の官能基、残基または部分の導入(例えば、共有結合または別の適切な様式による)に関与し得る。このような官能基およびこれを導入するための技法の例は、当業者にとって明らかであり、上文に引用する一般的な背景技術において言及されているあらゆる官能基および技法ならびに医薬品タンパク質の修飾のため、特に抗体または抗体断片(ScFvおよび単一ドメイン抗体等)の修飾のためのそれ自体は公知の官能基および技法を一般に含むことができ、これに関し、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Mack Publishing Co.、ペンシルベニア州イーストン(1980)について記す。同様に当業者にとって明らかな通り、このような官能基は、例えば、本発明のナノボディに直接的に(例えば共有結合により)連結されても、場合によって、適切なリンカーまたはスペーサーを介して連結されてもよい。半減期を増加および/または医薬品タンパク質の免疫原性を低下させるために最も広く用いられている技法の一法は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)またはその誘導体(メトキシポリ(エチレングリコール)もしくはmPEG等)等、適切な薬理学的に許容されるポリマーの付着を含む。一般に、本技術分野において抗体および抗体断片((単一)ドメイン抗体およびScFv等が挙げられるが、これらに限定されない)に用いられるペグ化等、任意の適切な形態のペグ化が用いられ得る。例えば、Chapman、Nat.Biotechnol.、54、531-545(2002);Veronese and Harris著、Adv.Drug Deliv.Rev.54、453-456(2003)、Harris and Chess著、Nat.Rev.Drug.Discov.、2、(2003)およびWO04060965について記す。タンパク質のペグ化のための様々な試薬は、例えば、Nektar Therapeutics、米国から市販もされている。好ましくは、特にシステイン残基を介した部位特異的ペグ化が用いられる(例えば、Yangら、Protein Engineering、16、10、761-770(2003)を参照)。例えば、この目的のため、PEGが、本発明のナノボディにおける天然起源のシステイン残基に付着されていても、本発明のナノボディが、PEGの付着のための1つもしくは複数のシステイン残基を適切に導入するよう修飾されていてもまたはPEGの付着のための1つもしくは複数のシステイン残基を含むアミノ酸配列が、本発明のナノボディのNおよび/またはC末端と融合されていてもよく、これらはすべて当業者にとってそれ自体は公知のタンパク質工学の技法を用いる。好ましくは、本発明のナノボディおよびタンパク質のため、分子量が10,000を超える等、5000を超え、100,000未満等、200,000未満である、例えば、20,000-80,000範囲のPEGが用いられる。また、通常、より好ましくない修飾として、通常、同時翻訳および/または翻訳後修飾の一部としての、本発明のナノボディまたはポリペプチドの発現に用いた宿主細胞に応じたN結合型またはO結合型糖鎖付加が挙げられる。ナノボディの半減期を増加させるための別の技法は、二官能性ナノボディ(例えば、一方のナノボディは標的GPCRに対し、もう一方はアルブミン等の血清タンパク質に対する)またはペプチド(例えば、アルブミン等の血清タンパク質に対するペプチド)とナノボディの融合体への操作を含み得る。
【0108】
さらに別の修飾は、標識タンパク質結合ドメイン、特にナノボディの目的の用途に応じて、1つもしくは複数の検出可能な標識または他のシグナル発生基もしくは部分の導入を含み得る。適切な標識ならびにこれを付着、使用および検出するための技法は、当業者にとって明らかであり、例えば、インビボ、インビトロまたはインサイチュ診断および画像処理における使用に特に適した蛍光標識(フルオレセイン、イソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒドおよびフルオレサミンならびにEuまたはランタニド系列由来の他の金属等の蛍光金属等)、リン光標識、化学発光標識または生物発光標識(ルミノール、イソルミノール、セロマティックアクリジニウムエステル(theromatic acridinium ester)、イミダゾール、アクリジニウム塩、シュウ酸エステル、ジオキセタンまたはGFPおよびそのアナログ等)、放射性同位元素、金属、金属キレートもしくは金属陽イオンまたは他の金属もしくは金属陽イオンならびに発色団および酵素(リンゴ酸脱水素酵素、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ-V-ステロイド異性化酵素、酵母アルコール脱水素酵素、アルファ-グリセロリン酸脱水素酵素、トリオースリン酸異性化酵素、ビオチンアビジンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコース酸化酵素、ベータ-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-VI-リン酸脱水素酵素、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼ等)が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な標識は、当業者にとって明らかであり、例えば、NMRまたはESR分光測定を用いて検出され得る部分を包含する。このような本発明の標識ナノボディおよびポリペプチドは、例えば、特異的標識の選択に応じて、インビトロ、インビボまたはインサイチュアッセイ(ELISA、RIA、EIAおよび他の「サンドイッチアッセイ」等、それ自体は公知のイムノアッセイ等)ならびにインビボ診断および画像処理目的に用いられ得る。当業者にとって明らかな通り、例えば、上に記す金属または金属陽イオンの1つをキレート化するための別の修飾が、キレート化基の導入に関与し得る。適切なキレート化基として、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が限定されることなく挙げられる。さらに別の修飾は、ビオチン-(ストレプト)アビジン結合ペア等、特異的結合ペアの一部分である官能基の導入を含み得る。このような官能基は、結合ペアのもう半分と結合している別のタンパク質、ポリペプチドまたは化学物質と本発明のナノボディとの、即ち結合ペアの形成による連結に用いられ得る。例えば、本発明のナノボディは、ビオチンとコンジュゲートされて、アビジンまたはストレプトアビジンとコンジュゲートした別のタンパク質、ポリペプチド、化合物または担体と連結され得る。例えば、このようなコンジュゲートされたナノボディは、例えば、検出可能シグナル発生薬剤が、アビジンまたはストレプトアビジンとコンジュゲートされた診断システムにおけるレポーターとして用いられ得る。このような結合ペアは、例えば、本発明のナノボディと製薬目的に適した担体等の担体との結合にも用いられ得る。非限定的な一例は、Cao and Suresh、Journal of Drug Targetting、8、4、257(2000)によって記載されたリポソーム製剤である。このような結合ペアは、治療上有効な薬剤と本発明のナノボディとの連結に用いることもできる。
【0109】
特定の一実施形態において、本発明のナノボディは、二価であり、2個の重鎖一価単一ドメインを一緒にする化学結合または組換えDNA技法により形成される。別の特定の一実施形態において、本発明のナノボディは、二重特異性であり、それぞれ異なる特異性を有する2個の重鎖可変ドメインを一緒に結合することにより形成される。同様に、多価または多選択性ナノボディを含むポリペプチドは、本明細書における非限定的な例として挙げられる。好ましくは、本発明の一価ナノボディは、GPCRの機能的立体構造状態、より好ましくは、GPCRの活性立体構造状態の細胞外部分、領域、ドメイン、ループまたは他の細胞外エピトープと、500nM未満、好ましくは200nM未満、より好ましくは500pM未満等、10nM未満の親和性で結合するものである。あるいは、本発明の一価ナノボディは、GPCRの機能的立体構造状態、より好ましくは、GPCRの活性立体構造状態の細胞内部分、領域、ドメイン、ループまたは他の細胞内エピトープと、500nM未満、好ましくは200nM未満、より好ましくは500pM未満等、10nM未満の親和性で結合するものである。また、この態様によると、本発明の任意の多価または多選択性(本明細書において定義されている)ナノボディは、同一抗原における2以上の異なる細胞外もしくは細胞内部分、領域、ドメイン、ループまたは他の細胞外もしくは細胞内エピトープに対して、例えば、2種の異なる細胞外もしくは細胞内ループに対してまたは膜貫通ドメインの2種の異なる細胞外もしくは細胞内部分に対して適切に作製されてもよい。本発明のこのような多価または多選択性ナノボディは、このような多価または多選択性ナノボディの使用により得られる所望のGPCRおよび/または任意の他の所望の特性または所望の特性の組み合わせに対する結合力増加および/または選択性改善も有し(または操作および/または選択され)得る。特定の一実施形態において、本発明のこのような多価または多選択性ナノボディは、GPCRのシグナル伝達活性の調節における有効性改善も有し(または操作されおよび/または選択され)得る(さらに本明細書も参照)。本発明による多価または多選択性ナノボディが、GPCRまたは1つもしくは複数の下流のシグナル伝達タンパク質とのリガンド相互作用等が挙げられるが、これらに限定されない異なる抗原に対して追加的に適切に作製され得ることが認識される。
【0110】
本発明の第2の態様は、(i)本発明によるタンパク質結合ドメイン、(ii)機能的立体構造状態のGPCRおよび場合によって(iii)受容体リガンドを含む複合体に関する。本明細書において定義されている「受容体リガンド」または「リガンド」は、小分子化合物、タンパク質、ペプチド、タンパク質スキャフォールド、核酸、イオン、炭水化物もしくは抗体またはそれらに由来する任意の適切な断片等でよい。優先的に、リガンドは、アゴニストクラスに由来し、受容体は、活性立体構造状態である。リガンドは、インバースアゴニスト、アンタゴニストまたはバイアスをかけたリガンドでもよい。リガンドは、オルソステリックまたはアロステリックでよい。リガンドは、アロステリック修飾因子、増強物質、賦活薬、負のアロステリック修飾因子および阻害剤も包含する。これは、それ自体が生物活性も有し得るまたはこれは、別のリガンドの存在下でのみ活性を調節し得る。Neubigら(2003)は、リガンドのクラスの多くについて記載する。
【0111】
好ましくは、本発明は、タンパク質結合ドメインがGPCRと結合している、より好ましくは、タンパク質結合ドメインがGPCRと結合しており、GPCRが受容体リガンドと結合している複合体を提供する。これをさらに説明するためであって、これらに制限する目的はないが、ナノボディ、GPCRおよびアゴニストを含有する安定的な三元複合体は、アフィニティークロマトグラフィーまたはゲル濾過により、(1)該GPCRの活性立体構造に特異的なナノボディ、(2)界面活性剤で可溶化した受容体および(3)アゴニストを含有する混合物から精製され得る。
【0112】
別の好ましい一実施形態において、複合体は結晶である。よって、より詳細に後述するが、複合体の結晶と共に、結晶を作製する方法も提供される。好ましくは、(i)本発明によるタンパク質結合ドメイン、(ii)機能的立体構造状態、より好ましくは活性立体構造状態のGPCR、および場合によって(iii)受容体リガンドを含む複合体の結晶形が想定され、結晶形は、本発明によるタンパク質結合ドメインの使用により得られる。
【0113】
さらに別の好ましい一実施形態において、本発明による複合体は、例えば、界面活性剤で水可溶化した後に可溶化形態となる。代替的な好ましい一実施形態において、本発明による複合体は、固体支持体に固定化される。固体支持体ならびに固定化のための方法および技法の非限定的な例は、詳細な説明においてさらに記載されている。さらに別の一実施形態において、本発明による複合体は、生物、組織、細胞、細胞株および生物、組織、細胞または細胞株に由来する膜組成物等の「細胞組成物」に存在する。膜組成物は、天然もしくは合成脂質またはそれらの組み合わせを含み得る任意のリポソーム組成物を包含することも企図されている。膜またはリポソーム組成物の例として、細胞小器官、膜標本、ウイルス様脂質粒子、脂質層(二重層および単層)、脂質小胞、高密度脂質粒子(例えばナノディスク(nanodisk))等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞組成物または膜様もしくはリポソーム組成物が、天然または合成脂質を含み得ることが認識される。
【0114】
したがって、本発明の第3の態様は、本発明によるタンパク質結合ドメインおよび/または複合体を含む、膜またはそれに由来するリポソーム組成物(すべて上文に定義されている)を包含する細胞組成物に関する。好ましくは、タンパク質結合ドメインを提供および/または発現する細胞組成物は、タンパク質結合ドメインの結合によりGPCRの機能的立体構造状態を安定化および/または誘導することができる。個々のタンパク質の十分な機能性を保持することが重要であることが理解され、そのための方法および技法が利用でき、当業者にとって公知のものである。細胞組成物が、標的GPCRを内因的または外因的に提供および/または発現できることが認識される。
【0115】
膜断片または膜-界面活性剤抽出物から生成されたGPCRの調製は、参照により本明細書に組み込むCooper(2004)において詳細に総説されている。可溶化受容体調製の非限定的な例は、実施例の節にさらに提供されている。
【0116】
標的細胞(例えば、哺乳動物細胞)のトランスフェクションは、Sambrook and Russel(Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第3版、3巻、第16章、第16.1-16.54節)によって概要を述べられた原理に従って行われ得る。さらに、ウイルス形質導入は、アデノウイルスベクター等の試薬を用いても行われ得る。適切なウイルスベクター系、調節領域および宿主細胞の選択は、当業者の技能範囲レベル内の周知の知識である。得られたトランスフェクト細胞は、一般慣例に従って培養において維持されるまたは後に用いるために凍結される。好ましくは、細胞は、対象のGPCRを発現する真核細胞、例えば酵母細胞または培養細胞株、例えば哺乳動物細胞株、好ましくはヒト細胞株である。タンパク質結合ドメインおよび/またはGPCRを機能的に発現する好ましい細胞株は、昆虫細胞(例えば、SF-9)、ヒト細胞株(例えば、HEK293)、齧歯類細胞株(例えば、CHO-K1)、ラクダ科動物細胞株(Dubca)を包含する。
【0117】
上文に記載されているタンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物は、下でさらに詳細に説明されることになる種々の文脈および適用において使用することができる。
【0118】
GPCRの結晶化およびこの構造の解明
GPCRを含む膜タンパク質の結晶化は依然として手強い課題である。ミリグラム量の生成を可能にする発現および精製法が現れてきているが、これらの分子の安定性を達成するのはおそらく克服するのが最も困難な障害物である。精製には、タンパク質の疎水性表面が界面活性剤モノマーで被膜されてタンパク質-界面活性剤複合体(PDC)を形成するプロセスである界面活性剤可溶化による脂質二重層からのGPCRの放出が必要である。しかし、周囲の脂質によりタンパク質にかかる側圧の多くが失われるために、タンパク質の周りに形成された界面活性剤ベルトは脂質二重層の代替物としては不十分である。したがって、膜タンパク質の可溶化は、不安定化、アンフォールディングおよびそれに続く凝集をもたらすことが多い。ロドプシン以外のGPCRは典型的には界面活性剤中で安定性に乏しく、凝集およびタンパク質分解を起こしやすい。GPCRを結晶化する努力は膜内在性タンパク質の他の固有の特徴によりくじかれてきた。GPCRの7つの疎水性膜貫通へリックスは結晶接触に対して不十分な表面しか作らず、細胞外および細胞内ドメインは相対的に短いおよび/または構造化が不十分であることが多い。ロドプシン(天然存在比および安定性に関して非定型のGPCR)を除いて、GPCRの最初の結晶は、TM5および6を連結する第3の細胞内ループのアミノおよびカルボキシル末端から構成されるエピトープを認識するFab断片に結合しているβ2ARから得られた(Rasmussen、2007)。第2のアプローチにおいて、第3の細胞内ループがT4リゾチームにより置き換えられた(β2AR-T4L、Rosenbaum、2007)。最終的に、シグナル伝達分子としてのGPCRの並外れた多用途性はこの柔軟で動的な三次元構造に起因すると考えることができる。不運にも、そのような動的挙動は高分解能構造解析には特に困難である。回折特質の結晶を成長させるには、安定していて立体構造的に均質なタンパク質が必要である。したがって、天然で非結合GPCRの回折特質の結晶を得るのは困難であり、この目標が達成された時でも、結晶構造はその多くの天然の立体構造のうちの1つを表しているだけである。これらの問題の多くは、高分解能構造解析のために特定の立体構造状態のGPCRを安定化し精製し結晶化するためのツールとしてタンパク質結合ドメイン、特にナノボディを使用することにより本発明において解決することが可能である。
【0119】
したがって、タンパク質結合ドメインを、GPCRタンパク質を安定化させるためのツールとして使用し、これらのタンパク質結合ドメインをGPCRのための共結晶化補助としてさらに使用する、または言い換えると、好ましくは機能的立体構造状態でのGPCRの結晶生成を促進することが本発明の目的の1つである。
【0120】
したがって、本発明の第4の態様は、GPCRを機能的立体構造状態で、特に活性立体構造状態で安定化するためのおよび/または特定の機能的(好ましくは、活性のある)立体構造状態の形成をGPCR内に誘導するための、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは特定の実施形態において、タンパク質結合ドメインを含む複合体もしくはタンパク質結合ドメインを提供する細胞組成物の使用に関する。そのようなタンパク質結合ドメインは、GPCRを機能的立体構造状態で、特にこの活性立体構造状態で精製する、結晶化するおよび/またはこの構造を解明するための非常に有用なツールであることが認識される。上文で明瞭に概要を述べたように、GPCRを精製する、安定化する、結晶化するおよび/またはこの構造を解明するために使用されることになる本発明によるタンパク質結合ドメインは、任意の所望のGPCRに対して作製でき、任意の所望のGPCRの機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態の立体構造エピトープと特異的に結合できまたはこれを認識できることは明らかであるはずである。特に、立体構造エピトープは、いかなる所望のGPCRの細胞内もしくは細胞外領域または膜内領域またはドメインもしくはループ構造の一部であることが可能である。
【0121】
第一に、本発明によるタンパク質結合ドメインは、特定の立体構造状態で安定化している界面活性剤で可溶化した受容体の熱安定性を増大させ、この受容体をタンパク質分解および/または凝集から保護し、正しく折り畳まれた受容体の均一な試料の精製および濃縮を促進することができる。当業者であれば、そのような試料は回折結晶の生成のための好まれる出発点であることを認識する。
【0122】
精製された受容体の結晶化は、X線結晶学による巨大分子構造決定のプロセスにおけるもう1つの大きな障害である。結晶化の成功には、核の形成およびこれに続く適切な大きさの結晶へのその成長が必要である。結晶成長は一般に、同種の核形成の結果として過飽和溶液中で自然に起こる。タンパク質は典型的な低密度マトリックススクリーニング実験において結晶化することができ、この実験において沈殿剤、添加剤およびタンパク質濃度が広範にサンプリングされ、核形成と結晶成長に適した過飽和条件を特定のタンパク質について同定することが可能である。例えば、タンパク質に結合するリガンドを添加することによりまたは優先的に標的タンパク質の表面残基において異なる変異体を作製することによりまたは標的タンパク質の異なる種のオルソログの結晶化を試みることにより、タンパク質それ自体において構造変異を生み出すことは低密度マトリックススクリーニングアプローチに関係している(Chang 1998)。本発明の1つの思いがけない発見は、GPCRに特異的に結合して、GPCRの全体的フォールドは保存しつつ結合にある程度の構造変異を導入する、ナノボディ等のタンパク質結合ドメインの有用性である。ナノボディが異なれば生じる四次構造も異なり、結晶格子形成のために新しい異なる界面を提供し、GPCRの全体的フォールドは保存しつつ複数の結晶形態が生じる。
【0123】
結晶化は、結晶格子に組み立てられる分子における立体構造エントロピーの好ましくない喪失を伴うために、まだ溶液のまま標的の立体構造エントロピーを減少させる方法は、格子形成の正味のエントロピーペナルティを低下させることにより結晶化の尤度を増強するはずである。「表面エントロピー減少」アプローチは極めて効果的であることが判明している(Derewenda 2004)。同様に、イオン、小分子リガンドおよびペプチド等の結合パートナーは、タンパク質の立体構造状態のサブセットに結合して安定化させることにより立体構造不均一性を減少させることができる。そのような結合パートナーは効果的ではあるが、すべてのタンパク質が既知の結合パートナーを有しているわけではなく、結合パートナーが既知の場合でも、その親和性、溶解性および化学的安定性は結晶化の試みと両立しないこともある。したがって、驚くべきことに、本発明のタンパク質結合ドメイン、特にナノボディは、受容体の特定の立体構造に結合することにより標的GPCRにおける立体構造不均一性を最小限に抑えることによって秩序だった結晶を得る可能性を増加させるツールとして使用することが可能であることが見出された。
【0124】
高分解能構造研究のためのGPCRの結晶化は、これらの膜タンパク質の両親媒性表面のせいで特に困難である。膜二重層に埋め込まれているので、リン脂質のアシル鎖とのタンパク質の接触部位は疎水性であり、極曲面は脂質の極性頭部および水相に曝露されている。秩序だった三次元結晶、つまり高分解能でのX線構造解析の必要条件を得るために、GPCRは界面活性剤の助けを借りて可溶化され、タンパク質-界面活性剤複合体として精製される。界面活性剤ミセルは膜タンパク質の疎水性表面を帯状の様式で覆う(Hunte and Michel 2002;Ostermeierら、1995)。GPCR-界面活性剤複合体は、隣接するタンパク質分子間の接触が界面活性剤ミセルから突出しているタンパク質の極曲面により作られる三次元結晶を形成する(Dayら、2007)。明らかに、界面活性剤ミセルには結晶格子における空間が必要である。ミセル間の引力相互作用は結晶パッキングを安定化する可能性はあるが(Rasmussenら、2007;Dunnら、1997)、これらの相互作用は強固な結晶接触をもたらさない。GPCRを含む多くの膜タンパク質が比較的小さなまたは高度に柔軟な親水性ドメインを含有しているので、秩序だった結晶を得る可能性を増加させるための戦略は、タンパク質の極曲面を拡大するおよび/またはその柔軟性を減少させることである。したがって、本発明のナノボディを使用すれば、タンパク質の極曲面を拡大し、結晶格子中の分子間の一次接触を促進することができるタンパク質表面の量を補うことが可能である。本発明のナノボディは、その細胞外領域の柔軟性を減少させて秩序だった結晶を成長させることも可能である。ナノボディは、単一の強固な球状ドメインで構成されており、従来の抗体またはFab’等の断片由来とは違って柔軟なリンカー領域を欠くために、この目的には特に適している。
【0125】
本発明の追加の実施形態において、本発明によるタンパク質結合ドメインと機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態の標的GPCRを含む複合体は、膜タンパク質のための種々の特殊化した結晶化法のいずれを使用して結晶化してもよく、方法の多くはCaffrey(2003)に概説されている。一般的には、方法は結晶化に先立って脂質をGPCR-ナノボディ複合体に添加することを含む脂質ベースの方法である。そのような方法は、他の膜タンパク質を結晶化するために既に使用されてきた。脂質立方相結晶化法およびバイセル(bicelle)結晶化法を含む、これらの方法の多くが脂質と界面活性剤の自然な自己組織化特性を小胞(小胞融合法)、円盤状ミセル(バイセル法)および液体結晶または中間相(中間または立方相法)として利用する。脂質立方相結晶化法は、例えば、Landauら、1996;Gouaux 1998;Rummelら、1998;Nollertら、2004に記載されており、これら出版物はそれらの方法の開示について参照により組み込まれる。バイセル結晶化法は、例えば、Fahamら、2005;Fahamら、2002に記載されており、これら出版物はそれらの方法の開示について参照により組み込まれる。
【0126】
別の実施形態によると、本発明は、GPCRの構造を解明するために上文に記載されているタンパク質結合ドメインの使用をさらに網羅する。タンパク質、特にGPCRの構造は、タンパク質の一次、二次、三次および適用可能であれば四次構造を含む。本明細書で使用される「構造を解明する」とは、タンパク質の原子の配置または原子座標を決定することであり、X線結晶学等の生物物理学的方法により行われることが多い。
【0127】
X線結晶学において、正しく組み立てられた場合の回折データは、単位胞における分子の電子密度の3Dフーリエ変換の振幅を与える。位相が分かっている場合、電子密度はフーリエ合成により簡単に得ることができる。タンパク質複合体において、構造が既知のタンパク質(探索モデル)の割合が低い(アミノ酸含有量の50%未満)場合および/または結晶が限定された回折特質を示す場合には、分子置換(MR)のみから位相情報を導き出すことが成功するかは疑わしい。多重同形置換(MIR)とMR位相合わせを組み合わせるとタンパク質複合体では首尾よくいくことが判明しているが(例えば、Ostermeierら、1995;Liら、1997;Hunteら、2000)、良好な重原子誘導体を作製する必要があることがほとんどの場合に問題となる。この10年にわたり、古典的MIRアプローチは一般には、主にセレノメチオニン(SeMet)取り込みを使用する異常分散データの使用(MADまたはSAD)に取って代わられた(Hendrickson 1991)。実際、Seエッジエネルギーを使用する異常実験データは一般に、MIRまたはモデルベースのMR位相合わせデータと比べて優れたバイアスの少ない位相情報を提供する。本発明の一実施形態は、MRまたはMADによるGPCR-ナノボディ複合体の位相合わせのためのナノボディの使用に関する。ナノボディは一般に、強固に発現し、SeMet取り込みに適している。すべてのSeMet部位をナノボディのみに導入することによるGPCR-ナノボディ複合体の位相合わせにより、GPCRにSeMet部位を取り込む必要性が回避される。
【0128】
多くの場合に、回折特質結晶を得ることは、この原子分解能構造を解明することに対する主要な障害となっている。したがって、特定の実施形態に従って、上文に記載されているタンパク質結合ドメイン、特にナノボディを使用すれば、GPCRタンパク質結晶構造を解明することができるように結晶の回折特質を改善することが可能である。
【0129】
GPCR創薬を先導するのに役立つ構造情報には大きな関心がある。構造が今や解明されているGPCRにおいて、これらのモデル化努力は、インシリコ薬デザイナーにより要求されるレベルでは不正確であることが明らかにされている。β2AR、β1ARおよびA2A受容体の不活性状態の構造において、薬剤師は今やいくつかの活性のある治療標的のためのリガンドの開発を導く実験データを有している。しかし、インシリコスクリーニングのためのこれらの高分解能構造の価値は限られていることがある。鋳型としてβ2AR結晶構造を使用する最近の分子ドッキング研究は、9nMから4μMの範囲にわたる親和性で結合した6個の新しいβ2ARリガンドを同定したが、すべての化合物がインバースアゴニスト活性を示した。より多くのGPCRの結晶化以外に、アゴニスト、アンタゴニスト、アロステリック調節因子および/またはGタンパク質を含む異なる種類のリガンドに結合している受容体の構造を得るための方法を開発しなければならない。例えば、アゴニスト結合受容体結晶はGPCRの活性状態の三次元画像を提供し得る。これらの構造は、リガンド結合とGタンパク質相互作用部位を連結する立体構造変化を明らかにし、より正確な機構的仮説および最終的には新しい治療学をもたらすのに役立つ。リガンド活性化されたGPCRに固有の立体構造的柔軟性およびアゴニスト結合受容体により示されるより大きな不均一性を考慮すると、そのような状態を安定化させるのは容易ではない。そのような努力は、受容体の活性立体構造状態に特異的なタンパク質結合ドメインの添加によりアゴニスト結合受容体立体構造が安定化されると利益を得ることができる。本発明において提供されるように、アゴニスト結合に関してGタンパク質様の挙動を示し協調的特性を示すナノボディが特に適している(実施例の節を参照)。
【0130】
したがって、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRの結晶構造を決定する方法であって、
(i)本発明によるタンパク質結合ドメイン、標的GPCRおよび場合によって受容体リガンドを用意するステップならびに
(ii)タンパク質結合ドメイン、GPCRおよび場合によって受容体リガンドの複合体を形成するステップならびに
(iii)ステップ(ii)の複合体を結晶化して、結晶を形成するステップ
を含み、結晶構造が機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態のGPCRにおいて決定される方法も提供する。
【0131】
結晶構造の決定はX線結晶学等の生物物理学的方法により行うことができる。方法は、結晶の原子座標(上文に定義されている)を得るステップをさらに含むことができる。
【0132】
機能的立体構造状態のGPCRの捕捉および/または精製
さらに別の実施形態において、本発明は、上記のタンパク質結合ドメインまたはそのようなタンパク質結合ドメインを含む複合体もしくは細胞組成物のいずれでも使用することにより、機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態のGPCRを捕捉するおよび/または精製するための方法を提供する。本発明に従って、機能的な立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態のGPCRを捕捉するおよび/または精製すれば、とりわけ、それに続く結晶化、リガンド特徴付けおよび化合物スクリーニング、免疫化が可能になる。実際には、そのような方法および技法には、制限なく、とりわけ、親和性クロマトグラフィー、親和性精製等の親和性ベースの方法、免疫沈降、タンパク質検出、免疫化学、表面ディスプレイが含まれ、すべてが当業者には周知である。
【0133】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRを捕捉するため、好ましくはその活性立体構造状態のGPCRを捕捉するための、上文に記載される本発明によるタンパク質結合ドメインまたはこれを含む複合体もしくは細胞組成物の使用に関する。場合によって、必ずではないが、上記のその機能的立体構造状態のGPCRを捕捉することは、受容体リガンドまたは1つもしくは複数の下流相互作用タンパク質と複合した機能的立体構造状態のGPCRを捕捉することを含むことができる。
【0134】
したがって、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRを捕捉する方法であって、
(i)本発明によるタンパク質結合ドメインおよび標的GPCRを用意するステップならびに
(ii)タンパク質結合ドメインおよびGPCRの複合体を形成するステップ
を含み、GPCRは機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態で捕捉される方法も提供する。
【0135】
さらに具体的には、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRを捕捉する方法であって、
(i)複数の立体構造状態のGPCRを含有する溶液を、本発明によるタンパク質結合ドメインを固定化した固体支持体に適用するステップならびに
(ii)タンパク質結合ドメインおよびGPCRの複合体を形成するステップならびに
(iii)弱く結合した分子または結合していない分子を除去するステップ
を含み、GPCRは機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態で捕捉される方法も想定する。
【0136】
上記の方法のいずれでもタンパク質結合ドメインとその機能的立体構造状態のGPCRの複合体を精製するステップをさらに含むことができることが認識される。
【0137】
治療および診断適用
製薬会社はこれらを手掛ける歴史的理由があるという理由だけではなく、さらに重要なことであるが、膜貫通間隙内にリガンド結合部位を有するファミリー1GPCRの構造的制約のせいで、伝統的に、GPCRに対する薬物の開発のためには小分子が使用される(Nat Rev Drug Discov.(2004)The state of GPCR research in 2004年.Nature Reviews Drug Discovery GPCR Questionnaire Participants 3(7):575、577-626頁)。この理由のために、この標的クラスに対するモノクローナル抗体を作製するのは困難であるまたは不可能であることが判明した。本発明のタンパク質結合ドメイン、特にナノボディは、空洞に延長されたCDRループを介して結合するこの内因性特性によりこの特定の問題を解決することが可能である。
【0138】
したがって、本発明の第5の態様は、治療上有効量の本発明によるタンパク質結合ドメインおよび少なくとも1つの薬学的に許容される担体、アジュバントまたは希釈液を含む医薬組成物に関する。
【0139】
「担体」または「アジュバント」、特に「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容されるアジュバント」は、それだけでは組成物を受ける個人に有害な抗体の産生を誘導しないし抗体が保護を誘発することもない任意の適切な賦形剤、希釈液、担体および/またはアジュバントである。したがって、薬学的に許容される担体は本質的に非毒性で非治療的であり、当業者には公知である。適切な担体またはアジュバントは典型的には、以下の非網羅的なリスト:タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性ウイルス粒子等の大きなゆっくり代謝される巨大分子に含まれる1つまたは複数の化合物を含む。担体またはアジュバントは、非限定的例として、リンゲル液、ブドウ糖溶液またはハンクス液でもよい。不揮発性油およびオレイン酸エチル等の非水溶液を使用してもよい。好ましい賦形剤は生理食塩水中5%ブドウ糖である。賦形剤は、バッファーおよび保存剤等の、等張性および化学的安定性を増強する物質等の少量の添加剤を含有していてもよい。
【0140】
本発明によるタンパク質結合ドメインまたはこの医薬組成物の投与は、経口、吸入または非経口投与によるものであり得る。特定の実施形態において、タンパク質結合ドメインはくも膜下腔内または脳室内投与により送達される。活性化合物は単独で投与されてもまたは好ましくは医薬組成物として処方されてもよい。タンパク質結合ドメインにより認識される抗原を発現するある種の疾患または障害を治療するのに有効な量は、治療されている障害の性質および重症度ならびに哺乳動物の体重等の通常の要因に依存する。しかし、単位用量は通常は、タンパク質結合ドメインまたはこの医薬組成物の0.1mgから1g、例えば、0.1から500mg、例えば、0.1から50mgまたは0.1から2mgの範囲である。単位用量は通常は、1月に1度、1週に1度、隔週で、1日に1度または1度よりも多く、例えば、1日に2、3または4回、さらに通常は1日に1から3回投与される。タンパク質結合ドメインまたはこの医薬組成物は、単位用量経口、非経口または吸入組成物等の単位用量組成物の形態で投与されるのが非常に好ましい。そのような組成物は混合により調製され、経口、吸入または非経口投与のために適切に適合され、したがって錠剤、カプセル、経口液体調製物、粉末、顆粒、トローチ、再構成可能粉末、注射可能なおよび注入可能な溶液または懸濁液または坐薬またはエアロゾルの形態でもよい。経口投与のための錠剤およびカプセルは通常、単位用量で提示され、結合剤、充填剤、希釈剤、成形剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、香味料および湿潤剤等の従来の賦形剤を含有する。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従って被膜されてもよい。使用に適した充填剤には、セルロース、マンニトール、ラクトースおよび他の類似の薬剤が含まれる。適切な崩壊剤には、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプングリコール酸ナトリウム等のデンプン誘導体が含まれる。適切な潤滑剤には、例えば、ステアリン酸マグネシウムが含まれる。適切な薬学的に許容される湿潤剤にはラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。これらの固形経口組成物は、調合、充填、成形等の従来の方法により調製することができる。繰り返される調合操作を使用して、活性薬剤を大量の充填剤を用いてそれらの組成物全体に分配してもよい。当然のことながら、そのような操作は当技術分野では慣習的である。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳濁液、シロップまたはエリキシルの形態でもよく、または使用前に水もしくは他の適切な溶媒で再構成するために乾燥製品として提示してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルまたは水素化された食用脂、乳化剤、例えば、レシチン、ソルビタンモノオレイン酸またはアカシア;非水性媒体(食用油を含むこともある)、例えば、アーモンドオイル、ヤシ油、グリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのエステル等の油性エステル;保存剤、例えば、メチルもしくはプロピルp-ヒドロキシベンゾアートまたはソルビン酸および必要ならば従来の香味剤または着色剤等の従来の添加剤を含有してもよい。経口製剤には、腸溶コーティングを有する錠剤または顆粒等の従来の徐放製剤も含まれる。好ましくは、吸入のための組成物は、ネブライザーのためのスナッフもしくはエアロゾルもしくは溶液としてまたは吹送のための超微粒粉末として、単独でまたはラクトース等の不活性担体と組み合わせて気道に投与するために提示される。そのような場合、活性化合物の粒子は、50ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、例えば、2から5ミクロンまで等の1から5ミクロンまでの径を適切に有する。好まれる吸入用量は、0.05から2mg、例えば、0.05から0.5mg、0.1から1mgまたは0.5から2mgの範囲である。非経口投与では、本発明の化合物および無菌溶媒を含有する液体単位用量剤形が調製される。活性化合物は、溶媒と濃度に応じて、懸濁されることも溶解されることも可能である。非経口溶液は通常、化合物を溶媒に溶解し、適切なバイアルまたはアンプルに充填して密封する前にフィルター殺菌することにより調製される。有利には、局部麻酔薬、保存剤および緩衝剤等のアジュバントも溶媒に溶解される。安定性を増強するために、組成物はバイアルに充填した後に凍結され、真空下で水を取り除くことができる。非経口懸濁液は、化合物が溶解される代わりに溶媒に懸濁され、無菌溶媒に懸濁する前にエチレンオキサイドに曝露することにより殺菌されることを除いて実質的に同じ様式で調製される。有利には、界面活性剤または湿潤剤が組成物に含まれて、活性化合物の均一な分配を促進する。適切な場合には、少量の気管支拡張剤、例えばイソプレナリン、イソエタリン、サルブタモール、フェニレフリンおよびエフェドリン等の交感神経刺激アミン;テオフィリンおよびアミノフィリン等のキサンチン誘導体およびプレドニゾロン等の副腎皮質ステロイド、ACTH等の副腎刺激剤を含んでいてもよい。慣行であるように、組成物には通常、関係する医学的処置において使用するための文書のまたは印刷された説明書が添付される。
【0141】
タンパク質結合ドメイン、特にナノボディの細胞への送達は、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質では記載される通りに実施することができる。抗原が細胞外または細胞外ドメインである場合、タンパク質結合ドメインは、細胞内送達の必要なしにこのドメインに結合することによりその機能を発揮することができる。本明細書に記載される本発明のタンパク質結合ドメインは、対象のGPCRの細胞内立体構造エピトープを標的にすることができる。細胞内でこれらのタンパク質結合ドメインを効果的で安全な治療薬として使用するためには、細胞内送達は当技術分野で公知のタンパク質形質導入または送達システムにより増強することができる。タンパク質形質導入ドメイン(PTD)は、生体膜を横切って転位することができるその能力のために薬物送達分野においてかなりの関心を集めてきた。PTDは、それがコンジュゲートされる、複合体化されるまたは融合されるタンパク質および他の巨大分子カーゴにこの明らかな転位活性を与える比較的短い(1-35アミノ酸)配列である(Sawant and Torchilin 2010)。例えば、HIV誘導TATペプチド(YGRKKRRQRRR)は、小分子からタンパク質、ペプチド、医薬ナノ担体および造影剤の領域までの範囲にわたる様々な薬剤の細胞内送達のために広く使用されてきた。代わりに、受容体媒介性エンドサイトーシス機構も細胞内薬剤送達のために使用することが可能である。例えば、トランスフェリン受容体媒介性内部移行経路は、薬剤およびタンパク質の部位特異的送達のために利用されてきた効率的な細胞内取り込み経路である(Qianら、2002)。これは、トランスフェリンと治療薬剤もしくはタンパク質のコンジュゲーションにより化学的にまたは治療ペプチドもしくはタンパク質のトランスフェリンの構造内への注入により遺伝的に達成される。天然に存在するタンパク質(例えば、鉄結合タンパク質トランスフェリン)は、これらのタンパク質が生分解性、非毒性および非免疫原性であるために、薬剤ターゲティングのこの領域では非常に有用である。さらに、タンパク質は、大量のその受容体が細胞表面上に存在しているせいで部位特異的ターゲティングを達成することができる。さらに他の送達システムには、限定するためではなく、ポリマーおよびリポソームベースの送達システムが含まれる。
【0142】
本発明のタンパク質結合ドメインおよびこれを含む組成物の有効性は、関与する特定の疾患または障害に応じて、任意の適切なインビトロアッセイ、細胞ベースのアッセイ、インビボアッセイおよび/もしくはそれ自体が公知の動物モデルまたはこれらの任意の組み合わせを使用して試験することが可能である。
【0143】
本発明の第6の態様は、GPCRシグナル伝達活性を調節するための、上文に記載されるタンパク質結合ドメインまたは医薬組成物の使用に関する。
【0144】
本明細書に記載される本発明のタンパク質結合ドメインは、受容体シグナル伝達を活性化するもしくは増加させるように、または代わりに受容体シグナル伝達を減少するもしくは阻害するようにGPCRに結合することができる。本発明のタンパク質結合ドメインは、ドメインがGPCRの構成的活性を遮断するようにGPCRに結合することもできる。本発明のタンパク質結合ドメインは、ドメインがアロステリック調節を媒介するようにGPCRに結合する(例えば、GPCRにアロステリック部位で結合する)こともできる。このように、本発明のタンパク質結合ドメインは、受容体の異なる領域に(例えば、アロステリック部位に)結合することにより受容体機能を調節することができる。例えば、Georgeら、(2002)、Kenakin(2002)およびRiosら、(2001)を参照されたい。本発明のタンパク質結合ドメインは、ドメインがGPCR媒介性シグナル伝達の持続時間を延長するまたはドメインが受容体-リガンド親和性を増加させることにより受容体シグナル伝達を増強するようにGPCRに結合することもできる。さらに、本発明のタンパク質結合ドメインは、ドメインがGPCR機能的ホモマーまたはヘテロマーの組立てを阻害するまたは増強するようにGPCRに結合することもできる。
【0145】
特定の一実施形態において、上文に記載されるタンパク質結合ドメインまたは医薬組成物はGタンパク質媒介性シグナル伝達を遮断する。
【0146】
別の実施形態において、本発明は、癌、自己免疫疾患、感染症、神経系疾患、心血管疾患等のGPCR関連疾患の治療における使用のための上文に記載されるタンパク質結合ドメインまたは医薬組成物も想定している。
【0147】
ある種の上記タンパク質結合ドメインは治療的有用性を有し得、病状について対象を治療するために病状を有する対象に投与することができる。タンパク質結合ドメインの治療的有用性は、そのGPCRを介するシグナル伝達が病状に関連しているという点で、タンパク質結合ドメインが結合するGPCRにより決定し得る。ある種の場合には、GPCRはリガンドに結合することにより病状において活性化され得る。他の実施形態において、GPCRを、例えば、構成的に活性にするよう変異させることができる。対象のタンパク質結合ドメインは、統合失調症、片頭痛、逆流、喘息、気管支痙攣、前立腺肥大、潰瘍、癲癇、アンギナ、アレルギー、鼻炎、癌、例えば、前立腺癌、緑内障および脳卒中等のGPCR媒介病状の治療のために用いることができる。On-line Mendelian Inheritance in Manデータベースにおける追加の例となるGPCR関連病状はNCBIのワールドワイドウェブサイトに見出される。したがって、本発明の特定の実施形態は、GPCR関連疾患または障害の治療のためのタンパク質結合ドメインのまたは医薬組成物の使用も想定している。
【0148】
さらに具体的な実施形態において、タンパク質結合ドメインはβ2-アドレナリン受容体に結合することができ、その場合、子宮または血管系の平滑筋の弛緩を必要とする病状の治療においてドメインを用い得る。したがって、そのようなタンパク質結合ドメインは、その病状がβ2-アドレナリン受容体に関連していた、妊娠における早期分娩痛の予防または軽減のためにまたは慢性もしくは急性喘息、蕁麻疹、乾癬、鼻炎、アレルギー性結膜炎、アクチニティス、枯草熱もしくは肥満細胞症の治療において使用することができる。これらの実施形態において、タンパク質結合ドメインは、特に上文で述べられた疾患等の閉塞性または炎症性気道疾患の治療において、抗炎症性、気管支拡張性または抗ヒスタミン原薬等の他の原薬と組み合わせて使用するための共治療薬として、例えば、そのような薬剤の治療活性の増強剤としてまたは必要な投薬もしくはそのような薬剤の潜在的副作用を減少させる手段として用いてもよい。対象のタンパク質結合ドメインは、一定の医薬組成物においてその他の原薬と混合してもよいしまたはドメインはその他の原薬とは別々に、この前に、これと同時にもしくはこの後で投与してもよい。一般的には、これらのプロトコールは、GPCR関連疾患または障害に罹っている個人に、GPCRを調節する有効量の結合タンパク質ドメインを投与して、宿主におけるGPCRを調節し障害について個人を治療することを含む。
【0149】
いくつかの実施形態において、ある種のGPCRの活性の減少が望まれる場合は、GPCRの活性を減少させる1つまたは複数の化合物を投与してもよく、ある種のGPCRの活性の増加が望まれる場合は、GPCRの活性を増加させる1つまたは複数の化合物を投与してもよい。
【0150】
種々の個体を対象の方法に従って治療可能である。一般的に、そのような個体は哺乳動物または哺乳類であり、これらの用語は、肉食動物目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモットおよびラット)、および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジーおよびサル)を含む哺乳動物綱内にいる生物を記載するために広く使用されている。多くの実施形態において、個体はヒトである。対象の治療法は典型的には、そのような障害を持つ個人にまたはそのような障害を回避したい気持ちを持つ個人に実施される。
【0151】
さらに別の実施形態によると、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは複合体は、癌、自己免疫疾患、感染症、神経系疾患、心血管疾患等のGPCR関連疾患の診断または予後診断にも有用になり得る。
【0152】
機能的立体構造状態のGPCRを選択的に標的にする化合物の同定
化合物スクリーニング、リード最適化および創薬の過程において、様々な化合物特徴および様々な細胞経路に対するそれらの効果(すなわち、有効性、特異性、毒性および薬剤代謝)に関する同時情報を提供するより迅速でより効果的で経費が少なく特に情報が豊富なスクリーニングアッセイの必要性が存在する。したがって、潜在的な新しい薬剤候補であり得る対象のGPCRの新しい特異的リガンド、好ましくは立体構造特異的リガンドを同定するために多数の化合物を迅速に安価にスクーニングする必要性が存在する。本発明は、その後種々の状況においてスクリーニングするための免疫原または選択試薬として使用することができる、機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態のGPCRを安定化するおよび/または固定するタンパク質結合ドメインを提供することにより、この問題を解決する。本発明によるタンパク質結合ドメインの大きな利点は、GPCRを安定化された機能的立体構造、好ましくは活性状態の立体構造に保つことができる点である。例えば、受容体のこの活性立体構造に選択的に結合するライブラリー化合物は、GPCRの活性立体構造のオルソステリックまたはアロステリック安定化が生物学的応答を誘発するために、アゴニストとして振る舞うより高い傾向を有する。別の利点は、タンパク質結合ドメインがGPCRの活性立体構造の熱安定性を増大させ、したがって、安定性が増大する変異GPCRに頼る必要なしで、化合物スクリーニングおよび創薬に使用される非自然条件により誘導される不可逆的または熱変性に対してGPCRを保護する点である。本発明による立体構造選択性タンパク質結合ドメインの別の大きな利点は、ドメインが受容体アゴニスト、インバースアゴニスト、アンタゴニストおよび/またはモジュレーターならびにGPCRおよびGPCR依存性経路の阻害剤について迅速に確実にスクリーニングし区別することを可能にし、したがって望ましい薬理特性のあるリガンドを同定する尤度を増加する点である。
【0153】
このことをさらに説明すると、大半のGPCRがGタンパク質と複合体化されると、さらに高いアゴニスト結合親和性を示すことは確立した概念である。これは、アゴニスト占有受容体とGタンパク質間の協調的相互作用に起因すると考えられる(Deleanら、1980)。本発明のタンパク質結合ドメイン、特にナノボディは、活性立体構造状態のGPCRを安定化して(したがって、Gタンパク質様の挙動を示す)、不活性立体構造状態を不安定化し、したがって、アゴニストに対するGPCRの親和性を増加させインバースアゴニストまたはアンタゴニストに対する親和性を減少させることができる。したがって、活性のある機能的立体構造のGPCRを認識する本発明によるナノボディ等のタンパク質結合ドメインは、ドメインがインバースアゴニストまたはアンタゴニストと比べてアゴニストに対する受容体の親和性を増加させるために、アゴニストについてスクリーニングするハイスループットスクリーニングアッセイにおいて効率的に使用することができるということになる。相互的に、不活性状態立体構造のGPCRを安定化するタンパク質結合ドメイン、特にナノボディは、インバースアゴニストまたはアンタゴニストに対する親和性を増加させアゴニストに対する親和性を減少させる。そのようなタンパク質結合ドメインは、例えば、インバースアゴニストについてスクリーニングするのに使用し得る。したがって、特定の機能的立体構造状態を認識し、したがってアゴニストおよびインバースアゴニストに対する親和性を相互的な形態で調節するタンパク質結合ドメイン、特にナノボディも本発明の一部を形成する。
【0154】
したがって、好ましい実施形態によると、本発明は、最終的に潜在的な新しい薬剤候補をもたらす可能性のある、GPCRの立体構造特異的結合パートナーについてのスクリーニングおよび/または同定計画において、すべてが上文に記載されているタンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物の使用を網羅する。
【0155】
一実施形態に従って、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRと選択的に結合することができる化合物を同定する方法であって、
(i)GPCRおよび本発明による機能的立体構造状態のGPCRと特異的に結合することができるタンパク質結合ドメインを用意するステップ、
(ii)試験化合物を用意するステップ、
(iii)試験化合物が機能的立体構造状態のGPCRと結合するかどうかを評価するステップならびに
(iv)機能的立体構造状態のGPCRと選択的に結合する化合物を選択するステップ
を含む方法を想定している。
【0156】
好ましくは、上記方法は、タンパク質結合ドメインおよび機能的立体構造状態の、さらに好ましくは活性立体構造状態のGPCRを含む複合体を形成するステップをさらに含む。
【0157】
したがって、本発明は、機能的立体構造状態のGPCRに選択的に結合することができる化合物を同定する方法であって、
(i)本発明によるタンパク質結合ドメインおよび機能的立体構造状態のGPCRを含む複合体を用意するステップ、
(ii)試験化合物を用意するステップおよび
(iii)試験化合物が機能的立体構造状態のGPCRと結合するかどうかを評価するステップならびに
(iv)機能的立体構造状態のGPCRに結合する化合物を選択するステップ
を含む方法も想定している。
【0158】
好ましくは、上記方法のいずれにおいても使用されるタンパク質結合ドメインは、結合するとGPCRの機能的立体構造状態を安定化および/または誘導することができる。好ましくは、GPCRの機能的立体構造状態は、基礎立体構造状態または活性立体構造状態または不活性立体構造状態(上文に定義されている)からなる群から選択される。最も好ましくは、GPCRの機能的立体構造状態は活性立体構造状態である。
【0159】
他の好ましい一実施形態において、上記スクリーニング法のいずれにおいても使用されるタンパク質結合ドメインは、4個のフレームワーク領域および3個の相補性決定領域またはこれらの任意の適切な断片を含むアミノ酸配列を含む。好ましくは、タンパク質結合ドメインはラクダ科抗体由来である。さらに好ましくは、タンパク質結合ドメインはナノボディ配列またはこの任意の適切な断片を含む。特にナノボディは配列番号1-29またはこれらの任意の適切な断片からなる群から選択される配列を含む。
【0160】
タンパク質結合ドメインおよび/または複合体に対する他の優先度は、本発明の第1および第2の態様に関して上に定義されている通りである。
【0161】
好ましい実施形態において、上記スクリーニング法のいずれにおいても使用される、タンパク質結合ドメイン、GPCRまたはタンパク質結合ドメインとGPCRを含む複合体は、それぞれのタンパク質の十分な機能性が保持されるように、ホールセルまたは膜抽出物もしくはこれらの画分等の細胞(オルガネラ)抽出物として提供され、または脂質層もしくは脂質小胞(天然および/または合成脂質を含む)、高密度リポ粒子、またはナノディスク等の任意のナノ粒子に取り込まれてもよく、またはVLPとして提供される。膜断片または膜-界面活性剤抽出物から形成されるGPCRの調製物はCooper(2004)に詳細に概説されており、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。代わりに、GPCRおよび/または複合体は界面活性剤に可溶化されてもよい。可溶化された受容体調製物の非限定的例は実施例の節においてさらに提供される。
【0162】
立体構造特異的結合パートナーについてのGPCR標的のハイスループットスクリーニングが好まれる場合が多い。これは、本発明によるタンパク質結合ドメイン、機能的立体構造状態のGPCRまたはこれらを含む複合体を、整列させるまたは他の方法で多重化することができる適切な固体表面または支持体上に固定化することにより促進される。適切な固体支持体の非限定的例には、ビーズ、カラム、スライド、チップまたはプレートが含まれる。
【0163】
さらに具体的には、固体支持体は粒状(例えば、一般に抽出カラムにおいて使用されるビーズまたは顆粒)でも、平坦、ひだ状または中空繊維もしくはチューブでも可能であるシート形態(例えば、膜またはフィルター、ガラスまたはプラスチックスライド、マイクロタイターアッセイプレート、ディップスティック、キャピラリーフィルデバイス等)でもよい。以下のマトリックスは例として与えられ、これらに限定されるものではなく、そのような例はシリカ(多孔質アモルファスシリカ)すなわち、Biotage(Dyax Corp.の一部門)により供給される60A不定形シリカ(32-63μmまたは35-70μm)を含有するFLASHシリーズのカートリッジ、アガロースまたはポリアクリルアミド支持体、例えば、Amersham Phamacia Biotechにより供給されるSepharoseレンジの製品もしくはBio-Radにより供給されるAffi-Gel支持体を含むことが可能である。さらに、Bio-Radより供給される圧力安定性Affi-Prep支持体等のマクロ多孔質ポリマーがある。利用することが可能な他の支持体には、デキストラン、コラーゲン、ポリスチレン、メタクリラート、アルギン酸カルシウム、コントロールドポアガラス、アルミニウム、チタニウムおよび多孔質セラミックスが含まれる。代わりに、固体表面は質量依存センサーの一部、例えば、表面プラズモン共鳴検出器を含み得る。市販されている支持体の追加の例は、例えば、Protein Immobilisation、R.F.Taylor編、Marcel Dekker、Inc.New York(1991)において考察されている。
【0164】
固定化は非共有結合的でも共有結合的でもよい。特に、本発明によるタンパク質結合ドメイン、GPCRまたはタンパク質結合ドメインとGPCRを含む複合体の固体表面上への非共有結合的固定化または吸着は、当業者には公知の標準技法に従ってタンパク質結合ドメインまたはGPCRに付着された分子タグ(例えば、ビオチンタグ、ヒスチジンタグ等)を認識する抗体またはストレプトアビジンもしくはアビジンまたは金属イオンのいずれかを用いた表面被膜を介して起こり得る。
【0165】
特に、本発明によるタンパク質結合ドメイン、GPCRまたはタンパク質結合ドメインとGPCRを含む複合体は、従来のカップリング化学を使用して共有架橋結合により固体表面に結合させ得る。固体表面は共有結合に適している架橋結合可能な残基を天然に含んでいてもよいし、または固体表面は当技術分野で周知の方法に従って被膜するもしくは誘導体化して適切な架橋結合可能な基を導入してもよい。特定の一実施形態において、化学的スペーサーアームを含有しない反応性部分を介した所望のマトリックスへの直接共有結合カップリングに続いて、固定化されたタンパク質の十分な機能性は保持される。固体支持体上への抗体(断片)の固定化法に関する追加の例およびさらに詳細な情報は、Jungら、(2008)において考察されており、同様に、膜受容体固定化法はCooper(2004)において概説されている。これらの両文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0166】
特に部位特異的変異誘発を通じた、分子生物学の進歩のおかげで、タンパク質配列中の特定のアミノ酸残基の変異が可能である。特定のアミノ酸(構造が既知のまたは推測されるタンパク質の)をリシンまたはシステイン(または他の所望のアミノ酸)に変異すれば、例えば、共有結合カップリングに特異的部位を提供することができる。特定のタンパク質を再設計して化学カップリングに関与する表面で利用可能なアミノ酸の分布を変更し(Kallwassら、1993)、事実上結合されたタンパク質の配向を制御することも可能である。類似のアプローチは、本発明によるタンパク質結合ドメインにならびに、複合体中に含まれても含まれなくても、立体構造的に安定化されたGPCRに適用し、したがって、天然のまたは非天然のアミノ酸を含有する他のペプチドテールまたはドメインを付加することなく志向性固定化の手段を提供することができる。ナノボディ等の抗体または抗体断片の場合には、フレームワーク領域への変異の導入が好まれ、抗体(断片)の抗原結合活性の破壊を最小限に抑える。
【0167】
都合のいいことには、固定化されたタンパク質は、本発明による固定化されたタンパク質を本技術分野では慣習的な標準法に従って試験試料に接触させることによる、免疫アッセイ、例えば、ELISA等の免疫吸着過程または免疫親和性精製過程において使用することができる。代わりに、および特にハイスループット目的で、固定化されたタンパク質は整列させるまたは他の方法で多重化することが可能である。好ましくは、本発明による固定化されたタンパク質は、機能的立体構造状態のGPCR、特に活性立体構造状態のGPCRに特異的に結合する化合物をスクリーニングし選別するために使用される。
【0168】
タンパク質結合ドメインまたは機能的立体構造状態のGPCRまたはタンパク質結合ドメインとGPCRを含む複合体のいずれかは、行われる必要がある適用の種類またはスクリーニングの種類に応じて固定化し得ることが認識される。その上、GPCR安定化するタンパク質結合ドメイン(GPCRの特定の立体構造エピトープを標的にする)の選択はGPCRの配向、したがって、化合物同定の所望の結果、例えば、立体構造的に安定化されたGPCRの細胞外部分、膜内部分または細胞内部分に特異的に結合する化合物を決定する。別の実施形態において、試験化合物(または試験化合物のライブラリー)は、チップ表面等の固体表面に固定化してもよいが、タンパク質結合ドメイン、GPCRまたはその複合体が、例えば、界面活性剤溶液にまたは膜様調製物に提供される。
【0169】
最も好ましくは、タンパク質結合ドメインもGPCRも試験化合物も、例えば、溶液中でのファージディスプレイ選択プロトコールまたは放射性リガンド結合アッセイでは固定化されない。
【0170】
例えば、当技術分野、例えば、Sambrookら、(2001)、Molecular Cloning、A Laboratory Manual.Third Edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYでは一般的である、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、表面プラズモン共鳴アッセイ、チップベースのアッセイ、免疫細胞蛍光法、酵母ツーハイブリッド技術およびファージディスプレイを含む様々な方法を使用して、安定化されたGPCRと試験化合物間の結合を決定してもよい。試験化合物とGPCR間の結合を検出する他の方法には、イオンスプレー質量分析/HPLC法を用いる限外濾過または他の(生物)物理学的および分析的方法が含まれる。例えば、当業者には周知である蛍光エネルギー共鳴転移(FRET)法も使用し得る。結合している試験化合物は、本明細書においてさらに記載されているように、ペプチド標識、核酸標識、化学的標識、蛍光標識または高周波タグ等の、化合物に会合している独自の標識またはタグを使用して検出することが可能であることが認識される。
【0171】
機能的立体構造状態のGPCRに結合することを立証することに加えて、GPCRに対する化合物の機能的な効果を決定することも望ましい。特に、本明細書に記載されるタンパク質結合ドメインまたは複合体または細胞組成物を使用して、GPCRの生物活性を調節する(増加するまたは減少する)化合物についてスクリーニングすることが可能である。生物活性の所望の調節は、一般的に好まれるGPCRに依存している。試験される化合物は、どんな小さな化学化合物でも、タンパク質、糖、核酸または脂質等のマクロ分子でも可能である。典型的には、試験化合物は小さな化学化合物、ペプチド、抗体またはこれらの断片である。いくつかの例において、試験化合物のハイスループットスクリーニングが好まれ、上記の方法は当業者には周知である用語「ライブラリースクリーニング」法として使用し得ることが認識される。したがって、試験化合物は試験化合物のライブラリーでもよい。特に、アゴニスト、アンタゴニストもしくはインバースアゴニストおよび/またはモジュレーター等の治療化合物についてのハイスループットスクリーニングアッセイは本発明の一部を形成する。ハイスループット目的で、アロステリック化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体ライブラリー、断片ベースのライブラリー、合成化合物ライブラリー、天然化合物ライブラリー、ファージディスプレイライブラリー等の化合物ライブラリーを使用し得る。そのようなライブラリーを調製しスクリーニングするための方法論は当技術分野において公知である。
【0172】
好ましい一実施形態において、ハイスループットスクリーニング法は、多数の潜在的治療リガンドを含有するコンビナトリアル化学的またはペプチドライブラリーを提供することを含む。次に、そのような「コンビナトリアルライブラリー」または「化合物ライブラリー」は、本明細書に記載されるように1つまたは複数のアッセイにおいてスクリーニングされて、所望の特徴的活性を示すライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定する。「化合物ライブラリー」は、通常は最終的にハイスループットスクリーニングにおいて使用される保存された化学物質のコレクションである。「コンビナトリアルライブラリー」は、試薬等のいくつかの化学的「構成要素」を組み合わせることによって、化学的合成または生物学的合成により生み出される多様な化学化合物のコレクションである。コンビナトリアルライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者には周知である。このようにして同定された化合物は従来の「リード化合物」としての役割を果たすことができる、またはそれ自体が潜在的なもしくは実際の治療薬として使用することができる。したがって、一追加の実施形態において、本明細書に上で記載されるスクリーニング法は、機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態のGPCRに結合することが明らかにされている試験化合物を改変し、改変された試験化合物が特定の立体構造に属するときにGPCRに結合するかどうかを決定することをさらに含む。
【0173】
特定の実施形態において、試験化合物は生体試料として提供される。特に、試料は個人から採取された任意の適切な試料でも可能である。例えば、試料は、血液、血清、血漿、髄液等の体液試料でもよい。代わりに、試料は組織または細胞抽出物である。
【0174】
化合物は標的GPCRに結合し、GPCRの生物学的機能、特に下流受容体シグナル伝達を調節(活性化または阻害)し得る。GPCRシグナル伝達のこの調節はオルソステリックにまたはアロステリックに起こすことができる。化合物は、受容体シグナル伝達を活性化するもしくは増加するように、または代わりに受容体シグナル伝達を減少させるもしくは阻害するように標的GPCRに結合し得る。化合物はGPCRの構成的活性を遮断するようにも標的GPCRに結合し得る。化合物はアロステリック調節(例えば、アロステリック部位でGPCRに結合する)を媒介するように標的複合体にも結合し得る。このように、化合物は、GPCRにおける異なる領域(例えば、アロステリック部位)に結合することにより受容体機能を調節し得る。例えば、Georgeら、(2002)、Kenakin(2002)およびRiosら(2001)を参照されたい。本発明の化合物は、GPCR媒介性シグナル伝達の期間を延長するまたは受容体-リガンド親和性を増加することにより受容体シグナル伝達を増強するようにも標的GPCRに結合し得る。さらに、化合物は、GPCR機能的ホモマーまたはヘテロマーの組立てを阻害するまたは増強するように標的複合体にも結合し得る。
【0175】
一実施形態において、化合物が受容体リガンド(上で定義される)へのGPCRの結合を変化させるかどうかが決定される。GPCRのこのリガンドへの結合は、本明細書に記載される当技術分野で公知の標準リガンド結合法を使用してアッセイすることが可能である。例えば、リガンドは放射標識されても蛍光的に標識されてもよい。アッセイは、ホールセルでまたは細胞もしくは界面活性剤を用いて水性の可溶化された受容体から得られた膜で実施し得る。化合物は、標識されたリガンドの結合を変化させるその能力により特徴付けられる(実施例の節も参照)。化合物は、例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍の倍数で、GPCRとそのリガンド間の結合を減少させ得るし、またはGPCRとそのリガンド間の結合を増加させ得る。
【0176】
したがって、さらに具体的な実施形態によると、上記スクリーニング法のいずれでも使用される複合体は、受容体リガンドをさらに含む。好ましくは、受容体リガンドは、小分子、ポリペプチド、抗体またはこれらに由来する任意の断片、天然物等を含む群から選択される。さらに好ましくは、受容体リガンドは、上文に記載されるように、完全アゴニストまたは部分アゴニストまたはインバースアゴニストまたはアンタゴニストである。
【0177】
特定の実施形態によると、本発明のタンパク質結合ドメイン、特にナノボディは、リード同定およびペプチド模倣物の設計にも有用であることが可能である。リード同定のための出発点として生物学的に関連するペプチドまたはタンパク質構造を使用することは、現代の創薬において最も強力なアプローチの1つを表す。ペプチド模倣物は、その不可欠の要素(ファルマコフォア)が3D空間で天然のペプチドまたはタンパク質を模倣し、生物学的標的と相互作用して同じ生物学的効果を生み出す能力を保持している化合物である。ペプチド模倣物は、天然のペプチドに伴う問題のいくつか、例えば、タンパク質分解(活性の持続時間)に対する安定性および乏しいバイオアベイラビリティのいくつかを回避するように設計されている。受容体選択性または効力等のある種の他の特性は、実質的に改良できることが多い。非限定的例によると、本発明のナノボディは、長いCDRループで受容体のコア中深く結合して生物学的効果を発揮し得る。ナノボディ-GPCR複合体におけるこれらのペプチドおよびこれらに付随する構造はリード同定およびペプチド模倣物の設計のための出発点としての役割を果たすことが可能である。
【0178】
したがって、本発明のタンパク質結合ドメイン、特にナノボディはスクリーニングアッセイにおいて有用であることが可能である。創薬のためのスクリーニングアッセイは、固相または液相アッセイ、例えば、放射性リガンド結合アッセイ等の、結合アッセイであることが可能である。ハイスループットアッセイにおいて、1日に96-、384-または1536ウェルフォーマットで最大数千の異なるモジュレーターまたはリガンドをスクリーニングすることが可能である。例えば、マイクロタイタープレートの各ウェルを使用して選択された潜在的モジュレーターに対して個別のアッセイを実行することができる、または濃度もしくはインキュベーション時間効果を観察するためには、5-10ウェルごとに1つのモジュレーターを試験することができる。したがって、1つの標準マイクロタイタープレートは約96個のモジュレーターをアッセイすることが可能である。1日当たり多くのプレートをアッセイすることが可能であり、現在では最大約6000、20000、50000またはそれよも多い異なる化合物についてのアッセイスクリーニングが可能である。
【0179】
さらに、本発明のナノボディ等のタンパク質結合ドメインは、細胞ベースのアッセイにおいても有用であることが可能である。細胞ベースのアッセイは、新しい生物学的標的の作用機構および化学化合物の生物学的活性を評価するためにも極めて重要である。GPCRのための現在の細胞ベースのアッセイには、経路活性化の基準(Ca2+放出、cAMP生成または転写活性);GPCRおよび下流エレメントにGFPのタグを付けることによるタンパク質輸送の測定;ならびにフォルスター共鳴エネルギー転移(FRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)または酵母ツーハイブリッドアプローチを使用するタンパク質間の相互作用の直接基準が含まれる。当技術分野で周知であり一般的に使用されている任意の手段により、本発明のタンパク質結合ドメイン、特にナノボディを細胞内部の関連する細胞の区画に(細胞内にまたは細胞外に)導入すれば、新しいまたは改良された細胞ベースのアッセイがもたらされ得る。
【0180】
特に、天然の活性化リガンドが同定されていないGPCRを「脱オーファン化する」必要性が存在する。本発明によるタンパク質結合ドメインを使用して機能的立体構造状態のGPCRを安定化すれば、天然のリガンドが未知である「オーファン」GPCRのリガンドを同定するのに使用し得るスクリーニングアプローチが可能になる。オーファンGPCRのリガンドは、血液もしくは組織抽出物等の生体試料からまたはリガンドのライブラリーから同定し得る。例えば、既知のリガンドのファミリーに対するアレイスクリーニングを含む、「脱オーファン化」への種々のアプローチが採用されてきた。
【0181】
化合物および/またはこれを含む組成物の有効性は、関与する特定の疾患または障害に応じて、任意の適切なインビトロアッセイ、細胞ベースのアッセイ、インビボアッセイおよび/もしくはそれ自体が公知の動物モデルまたはこれらの任意の組み合わせを使用して試験することが可能である。
【0182】
したがって、特定の一実施形態において、本発明によるタンパク質結合ドメインならびに/または本発明によるタンパク質結合ドメインおよび機能的立体構造状態のGPCRを含む複合体を固定化する固体支持体が上記スクリーニング法のいずれかで使用するために提供される。
【0183】
一実施形態において、上記スクリーニング法のいずれかで使用される試験化合物は、上文で定義される、ポリペプチド、ペプチド、小分子、天然物、ペプチド模倣物、核酸、脂質、リポペプチド、炭水化物、抗体またはそれに由来する任意の断片(Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(dsFv)およびVLまたはVHドメインのいずれかを含む断片等、重鎖抗体(hcAb)、単一ドメイン抗体(sdAb)、ミニボディ、ラクダ科動物重鎖抗体に由来する可変ドメイン(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体に由来する新規抗原受容体の可変ドメイン(VNAR)、アルファボディを包含するタンパク質スキャフォールド、プロテインA、プロテインG、設計アンキリンリピートドメイン(DARPin)、フィブロネクチンIII型リピート、アンチカリン、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)を含む群から選択される。
【0184】
試験化合物は、場合によって、検出可能な標識に共有結合的にまたは非共有結合的に連結してもよい。適切な検出可能標識およびこれを付着させる、使用する、検出するための技法は当業者には明白であり、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段により検出可能ないかなる組成物も含むが、これらに限定されない。有用な標識には、磁気ビーズ(例えば、ダイナビーズ)、蛍光色素(例えば、すべてのAlexa Fluor色素、フルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質等)、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14Cまたは32P)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)、およびコロイド金または色ガラスまたはプラスティック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)ビーズ等の比色標識が含まれる。そのような標識を検出する手段は当業者には周知である。したがって、例えば、放射性標識は写真フィルムまたはシンチレーション計数器を使用して検出することができ、蛍光マーカーは放射されたイルミネーションを検出する光検知器を使用して検出し得る。酵素標識は典型的には、酵素に基質を与え酵素の基質に対する作用により生じる反応生成物を検出することにより検出され、比色標識は着色標識を視覚化するだけで検出される。他の適切な検出可能標識は、タンパク質結合ドメインに関する本発明の第1の態様の文脈内で前に記載された。
【0185】
好ましい実施形態において、試験化合物は、抗体またはナノボディを含む上記のそれに由来する任意の断片である。例えば、限定する目的ではなく、試験化合物は、本発明によるタンパク質結合ドメインおよび機能的立体構造状態の、好ましくは活性立体構造状態のGPCR(上文に記載されているバリアントを含む)を含む複合体に対して産生された抗体(本明細書ではその最も広い意味で定義されている)でもよい。抗体をインビボで産生するための方法は当技術分野において公知である。好ましくは、動物の免疫化は、機能的立体構造状態安定化タンパク質結合ドメイン、さらに好ましくは活性状態安定化タンパク質結合ドメインの存在下でGPCRを用いて本明細書において前に記載される(受容体リガンドの存在下でGPCRを用いた免疫化;実施例の節も参照)類似する方法で行われる。本発明は、細菌、酵母、繊維状ファージ、リボソームもしくはリボソームサブユニットまたはGPCRとGPCRの機能的立体構造状態を安定化するタンパク質結合ドメインを含有する複合体上の他のディスプレイシステムで発現される、発現ライブラリーコード免疫グロブリン遺伝子またはこの部分のスクリーニングを含む、機能的立体構造状態、好ましくは活性立体構造状態のGPCRに特異的な抗体を選択するための方法にも関する。
【0186】
本発明の第7の態様は、本発明によるタンパク質結合ドメインまたは本発明による複合体または本発明による細胞組成物を含むキットに関する。キットは、バッファー、分子タグ、ベクター構築物、基準試料物質等の試薬の組み合わせならびに適切な固体支持体等をさらに含み得る。そのようなキットは、本明細書に記載される本発明の適用のいずれにおいても有用であり得る。例えば、キットは、化合物スクリーニング適用に有用な試験化合物(のライブラリー)を含んでいてもよい。
【0187】
最後に、本発明の最後の態様は、機能的立体構造状態のGPCR、特に活性立体構造状態のGPCRの立体構造エピトープへの特異的結合に関与するアミノ酸配列を単離し、アミノ酸配列に基づいて人為的なタンパク質結合ドメインを構築するための本発明による任意のタンパク質結合ドメインの使用である。本発明によるタンパク質結合ドメインにおいて、フレームワーク領域および相補性決定領域は公知であり、機能的立体構造状態のGPCR、特に活性立体構造状態のGPCRの同じ立体構造エピトープに結合する、タンパク質結合ドメインの誘導体の研究により、立体構造エピトープへの結合に関与する不可欠なアミノ酸を推定することが可能であることが認識される。この知識を使用して最小タンパク質結合ドメインを構築し、この誘導体を作製することができ、これは当業者に公知の技法により日常的に行うことが可能である。
【0188】
以下の実施例は本発明のさらなる理解を促進することが意図されている。本発明は説明される実施形態を参照して本明細書に記載されているが、本発明は本文書に限定されないことは理解されるべきである。当業者および本明細書の教示を利用することができる者は、その範囲内で追加の修正および実施形態を認識する。したがって、本発明は本明細書に添付される特許請求の範囲のみに限定される。
【実施例】
【0189】
機能的立体構造状態のヒトβ
2
ARを安定化するタンパク質結合ドメイン
[実施例1]
免疫化、ライブラリー構築および最初のスクリーニング
β2ARに対するインビボ成熟ナノボディを得るために、ラマ(ラマ・グラマ(Llama glama))はカルボキシル末端への免疫応答を排除するためにGly365(β2AR-365)で切断された組換えβ2ARで免疫された。β2AR-365は昆虫細胞において発現され、抗原は以載された通りに再構成された(Dayら、2007)。再構成された切断型アゴニスト結合受容体の6週間投与後、リンパ球は免疫されたラマの血液から単離され、ファージライブラリーは実施例の材料および方法に記載される通りに調製されスクリーニングされた(さらに参照)。2つのスクリーニングにより、天然のβ2ARを認識するが変性された受容体は認識しない立体構造ナノボディが同定された。
【0190】
[実施例2]
ELISAによる立体構造特異的ナノボディの選択
最初のスクリーニングにおいて、ELISAにおける天然と熱変性されたβ2AR抗原上へのナノボディの結合を比較した。ナノボディごとに、1つのウェルがアゴニスト結合β2AR-365を含有するリン脂質小胞で被膜された(0.1μgタンパク質/ウェル)。次に、このプレートは80℃で2時間インキュベートされた。次に、同じプレートの別のウェルが、加熱せずにアゴニスト結合β2AR-365を含有するリン脂質小胞で被膜された(0.1μgタンパク質/ウェル)。ナノボディはすべて天然の受容体に選択的に結合することができたが、熱不活化された受容体には結合せず、16個のバインダーが立体構造エピトープを認識することを示していた。
【0191】
[
実施例3]
ドットブロットによる立体構造特異的ナノボディの選択
次のスクリーニングにおいて、ドットブロット解析により、天然のアゴニスト結合β
2AR受容体対天然のインバースアゴニスト結合受容体対SDS変性された受容体に対するナノボディの特異性を比較した。スクリーニングにより、天然のアゴニスト結合β
2AR-365を認識するがインバースアゴニストも熱変性された受容体も認識しない16個の異なる立体構造ナノボディが同定された(
図2(ドットブロット))。
【0192】
[実施例4]
Gタンパク質様挙動をするナノボディの選択
最初のスクリーニングでは、天然のアゴニスト結合β2ARを認識するが熱変性された受容体は認識しない16個のクローンが同定された。我々の次の目標は、Gタンパク質様挙動を有するナノボディを同定することであった。β2ARはGsに優先的に共役し、アゴニスト結合はGタンパク質相互作用を増強する。さらに、Gsの存在下において、β2ARはさらに高い親和性でアゴニストに結合する。したがって、(1)サイズ排除クロマトグラフィーを使用してβ2ARへのナノボディ結合に対するアゴニストの効果、(2)膜におけるβ2ARアゴニスト結合親和性に対するナノボディの効果および(3)環境的に感受性のモノブロモビマン(mBBr)フルオロフォアによりモニターされるβ2AR立体構造変化に対するナノボディの効果を調べた。
【0193】
[
実施例5]
Gタンパク質様挙動するナノボディは精製されたアゴニスト結合受容体に特異的に結合する
精製されたナノボディは、不活性立体構造を安定化するアゴニストまたはインバースアゴニストの存在下で、精製された、界面活性剤で可溶化したβ
2AR受容体と一緒にインキュベートされた。次に、混合物はサイズに基づいてタンパク質を分離するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により解析された。7個のナノボディが精製されたβ
2ARに結合し、アゴニストの存在下でのみSECで複合体として移動し、インバースアゴニストでは移動しなかった(例は
図1A、
図3および
図4において示されている)。残りのナノボディは、SECでのβ
2ARの移動性を変化させるのに十分な高親和性では結合しなかった。
【0194】
[
実施例6]
Gタンパク質様挙動するナノボディはアゴニストに対するβ
2
ARの親和性を増強する
多くのGPCRが、Gタンパク質と複合体を形成するとより高いアゴニスト結合親和性を示す。これは、アゴニスト占有受容体とGタンパク質間の協調的相互作用に起因すると考えられる。我々のSEC実験により、7個のナノボディがアゴニスト占有β
2ARに優先的に結合し、したがって、Gタンパク質Gsに類似する様式で活性状態を安定化し得るという証拠が与えられる。アゴニスト競合結合実験は、これら7個のナノボディの存在下および非存在下で実施された。アゴニスト(イソプロテレノール)に対するβ
2ARの親和性は、ナノボディ65、67、69、71、72、80および84の存在下で2-30倍増強された(
図1Bおよび表1)。これとは対照的に、Nb80は、インバースアゴニストICI-118,551(ICI)に対するβ
2ARまたはβ
2AR-T4Lの親和性を増加させない(
図15)。
【0195】
[
実施例7]
Nb80およびGタンパク質はTM6の細胞質ドメインで類似する立体構造変化を誘導する
オプシンの最近の結晶構造ならびにロドプシン(Parkら、2008)およびβ
2AR(Yaoら、2009)に関する生物物理学的研究によると、膜貫通セグメント6(TM6)の細胞質末端はアゴニストが結合するとGタンパク質共役に必要な立体構造変化を受けることが明らかにされている。TM6の細胞質ドメインの運動に対するナノボディの効果を調べるために、精製されたβ
2ARをC265でモノブロモビマンを用いて標識した(mBB-β
2AR)。アゴニスト結合もGタンパク質共役もmBB-β
2ARの蛍光の変化を誘導し、オプシン結晶構造において観察される(Parkら、2008)TM6の外側への動きと適合している(Yaoら、2008)ことを我々は以前明らかにした。mBB-β
2ARにおいて、Gタンパク質と一緒にアゴニストを添加すると、アゴニストまたはGタンパク質単独よりも大きな蛍光変化を生じる。これは、アゴニスト競合結合アッセイにおいて観察された協調的相互作用(Yaoら、2009)と適合する。同様に、アゴニストであるイソプロテレノール単独またはNb80単独の添加によりmBB-β
2ARにおいて蛍光の相対的に小さな変化が観察されたが、アゴニストとナノボディの両方を一緒に添加するとより大きな変化が観察された(
図1C)。匹敵する結果はナノボディ65、67、69、71、72および84で観察された(
図5)。
【0196】
[
実施例8]
ナノボディ安定化されたβ
2
AR活性状態の特徴付け
次に、β
2AR構造とアゴニスト結合親和性に対するNb80とGsの効果を比較した。β
2ARはTM6の細胞質末端のC265でモノブロモビマンを用いて標識され、HDL粒子に再構成された。TM6はアゴニスト活性化によりTM3およびTM5に比べて移動し(
図6A)、C265に共有結合されたビマン周囲の環境はアゴニスト結合でもGタンパク質共役でも変化し、ビマン強度が減少してλ
maxが赤色移動する(Yaoら、2009)ことを以前我々は明らかにした。ビマン蛍光の変化は、DEER分光法によるロドプシンにおいておよび低pHオプシンの構造において観察された動きに類似するTM6の動きに適合する。
図6Bに示されるように、カテコラミンアゴニストであるイソプロテレノールとGsの両方が活性様立体構造を安定化するが、Gsの効果はイソプロテレノールの存在下のほうが大きく、β
2AR構造上のアゴニストとGsの協調的相互作用と一致している。Nb80単独でビマン蛍光およびリガンド非結合β
2ARのλ
maxに対する効果を有し、これはGsの効果に類似している(
図6C)。この効果はインバースアゴニストICI-118,551に結合しているβ
2ARでは観察されなかった。Nb80の効果は10μMのイソプロテレノールの存在下において増加した。これらの結果により、Nb80は不活性立体構造のβ
2ARを認識しないが、アゴニスト占有β
2ARには効率的に結合し、Gsおよびイソプロテレノールの存在下で観察される変化と識別不能なビマン蛍光の変化を生じることが示されている。
【0197】
図6Dおよび6Eは、β
2ARに対するアゴニスト親和性へのGsおよびNb80の効果を示している。β
2ARはHDL粒子に再構成され、アゴニスト競合結合実験はNb80とGsの非存在または存在下で実施された。どちらのタンパク質も非存在下において、イソプロテレノールは107nMの阻害定数(Ki)を有している。Gsの存在下において、β
2ARのすべてがGsと共役しているわけではないために2つの親和性状態が観察される。Gs共役状態において、イソプロテレノールの親和性は100倍増加する(Ki=1.07nM)(
図6Dおよび表4)。同様に、Nb80の存在下において、イソプロテレノールの親和性は95倍増加する(Ki=1.13nM)(
図6Eおよび表4)。これらの結合データにより、Nb80はGsにより安定化される立体構造に非常に類似しているWT β
2ARにおける立体構造を安定化させ、したがってアゴニストとGs結合のエネルギーカップリングはNb80により忠実に模倣されることが示唆される。
【0198】
β
2ARの不活性状態の高分解能構造は、β
2AR-T4L融合タンパク質を用いて得られた。β
2AR-T4Lはイソプロテレノールに対してWT β
2ARよりも高い親和性を有することを以前明らかにした(Rosenbaumら、2007)。にもかかわらず、Nb80の存在下において、親和性は60倍増加し、Nb80に結合しているWT β
2ARの親和性に匹敵する親和性(Ki=0.56nM)が得られた(
図6Fおよび表4)。T4Lによる立体障害のせいでβ
2AR-T4LにおけるGタンパク質共役を研究することはできないが、その結果はT4LがNb80の結合を妨げないことを示しており、Nb80の存在下での野生型β
2ARおよびβ
2AR-T4Lへのアゴニスト結合についてのほぼ同一のKi値は、Nb80がこれら2つのタンパク質における類似する立体構造を安定化していることを示唆している。
【0199】
[実施例9]
ナノボディはアゴニスト結合β
2
ARの結晶化を促進する
β2ARは、2つの異なるアプローチを使用して最初はインバースアゴニストであるカラゾロールに結合した状態で結晶化された。第1の結晶は、TM5と6を連結する第3の細胞内ループのアミノおよびカルボキシル末端から構成されたエピトープを認識するFab断片に結合しているβ2ARから得られた(Rasmussenら、2007)。第2のアプローチにおいて、第3の細胞内ループはT4リゾチームで置き換えられた(β2AR-T4L)(Rosenbaumら、2007)。異なるアゴニストに結合しているβ2AR-Fab複合体およびβ2AR-T4Lを結晶化する努力は、構造決定のために十分な品質の結晶を生成できなかった。
【0200】
したがって、Nb80と複合したアゴニスト結合β2ARおよびβ2AR-T4Lを結晶化することを試みた。両複合体の結晶が脂質バイセルおよび脂質立法相(LCP)で得られたが、高分解能回折はLCPで成長したβ2AR-T4L-Nb80の結晶から得られた。これらの結晶は、39-44%PEG400、100mM Tris、4%DMSOおよび1%1,2,3-ヘプタントリオール中pH8.0で成長した。
【0201】
[実施例10]
Nb80はβ
2
ARの結晶格子へのパッキングに寄与する
高分解能回折はLCPで成長したβ2AR-T4L-Nb80の結晶から得られた。これらの結晶は、39-44%PEG400、100mM Tris、4%DMSOおよび1%1,2,3-ヘプタントリオール中pH8.0で成長した。
【0202】
3.5Åに設定された混合データは23個の結晶から得られた(表5)。構造は、カラゾロール結合β
2ARの構造および探索モデルとしてナノボディを使用する分子置換により解明された。
図7は、β
2AR-T4L-Nb80複合体の結晶格子へのパッキングを示している。Nb80は、第3の相補性決定領域(CDR)ループが受容体の核中に突き出ているβ
2ARの細胞質末端に結合する。β
2AR-ナノボディ複合体は、脂質二重層が結晶のbc平面にほぼ平行になって配置されている。二回転対称関連ナノボディ分子はa軸に沿って相互作用して、この方向に緊密に詰め込まれた格子を生成する。二重層内において、受容体分子が、逆平行の配置で、隣接する分子のTM4および5に対して詰まっている1つのβ
2AR分子のTM1、2、3および4と相互作用する。へリックス8と平行な格子隣接物のTM5間でb軸に沿って、およびTM1の細胞外部分と第3の逆平行隣接物のTM6の細胞質末端間でも接触が起こる。パッキングはc軸に沿って最も弱く、これは一部にはT4Lと隣接する受容体および/またはナノボディ分子との非特異的相互作用のせいであり得る。T4Lでは解釈可能な電子密度は存在しないが、TM5およびTM6の目に見える末端があるとすれば、T4Lの位置は高度に制約されている。おそらく、T4Lは受容体と比べていくつかの配向および多分そのヒンジ運動に起因して(Zhangら、1995)、平均してその密度になる一定範囲の内部立体構造をとる。にもかかわらず、これらの条件下において天然のβ
2AR-ナノボディ複合体の結晶を生成することができなかったために、T4Lはおそらく結晶の構造に寄与しているが、天然の受容体においてTM5とTM6を連結している柔軟なループが格子形成を妨げている可能性がある。
【0203】
[
実施例11]
β
2
ARのナノボディ安定化された活性状態の構造
図8は、不活性β
2AR構造(カラゾロール結合β
2AR-T4L構造由来)とβ
2ARの活性状態を比較している。最大の差異は受容体の細胞質面で見出され、不活性構造と比べてβ
2AR-T4L-Nb80複合体においてはTM5およびTM6が外側に変位し、TM7およびTM3が内側に移動していた(
図8A、B)。細胞外表面には相対的に小さな変化が存在する(
図8C)。TM3とTM4間の第2の細胞内ループ(ICL2)はシチメンチョウβ
1AR構造において観察されるヘリックスに類似する2回転アルファへリックスをとる(Warneら、2008)。不活性β
2AR構造にこのヘリックスがないことはICL2を含む結晶格子接触を反映している可能性がある。
【0204】
図9A-Cは、Nb80とβ
2ARの細胞質側との相互作用をさらに詳細に示している。8アミノ酸配列のCDR3が、TMセグメント3、5、6および7由来のアミノ酸により形成される疎水性ポケットに入り込んでいる。4アミノ酸配列のCDR1は、TMセグメント5および6の細胞質末端とのさらに安定化に寄与する相互作用を提供している。
図9Dは、β
2ARの活性および不活性立体構造の細胞質表面を比較している。CDR3がオプシンにおけるトランスデューシンのカルボキシル末端ペプチドに類似する位置を占有している(Scheererら、2008)(
図10)。Nb80とβ
2AR間の相互作用の大部分は疎水性接触により媒介されている。
【0205】
活性構造と不活性構造を比較すると、最大の変化はTM6において観察され、Glu268
6.30(イオンロックの一部)でヘリックスが11.4Å移動している(この形式の上付き数字は、保存されたGPCR残基についてのバレステロス-ワンスタイン番号付を示している)(Ballesteros and Weinstein 1995)(
図9D)。この大きな変化は、ヘリックスを外側に振っている、プロリンでの妨げられた骨格水素結合およびPhe282
6.44のリパッキングにより可能になっている(下参照)保存されたPro288
6.50に先行する転換点におけるTM6のわずかの時計回りの回転によりもたらされる。
【0206】
不活性カラゾロール結合β
2AR-T4Lと比べた活性β
2AR-T4L-Nb80の変化は、ロドプシンとオプシン間で観察される変化に著しく類似している(Scheereら、2008;Parkら、2008)(
図9E、
図10)。高度に保存されたArg131
3.50とAsp/Glu130
3.49間のイオンロックにおける塩架橋は切れている。オプシンでは、TM5およびトランスデューシンペプチドの骨格カルボニルにおいてArg135
3.50はTyr223
5.58と相互作用している。β
2ARのArg131
3.50は同様にNb80のCDR3の骨格カルボニルと相互作用している。しかし、Nb80は、チロシンがオプシンおよびβ
2AR-T4L-Nb80の活性立体構造において類似する位置を占有しているけれども、Arg131
3.50とTyr219
5.58間の相互作用を妨げている。オプシンの場合のように、高度に保存されたNPxxY配列のTyr326
7.53は、不活性状態においてTM6に占有されている空間に移動する。不活性カラゾロール結合β
2AR-T4Lでは、TM1、2、6および7において高度に保存されたアミノ酸を含む水素結合相互作用のネットワークならびにいくつかの水分子を観察した(Rosenbaumら、2007)。β
2AR-T4L-Nb80の分解能は水を検出するには不十分であるが、我々が観察する構造変化がこのネットワークを実質的に変化させていることは明らかである。
【0207】
β2AR-T4L-Nb80の細胞質ドメインにおいて観察される相対的に大きな変化とは対照的に、アゴニスト結合ポケットにおける変化はかなり微妙である。Trp6.48はファミリーA GPCRにおいて高度に保存されており、その回転異性体状態はGPCR活性化に関与している(回転異性体トグルスイッチ)ことが提唱されてきた(Shiら、2002)。リガンド結合ポケットの基底近くにあるTM6においてTrp2866.48の側鎖回転異性体には変化は観察されていないが、その位置は近くの残基Ile1213.40とPhe2826.44の再配置のせいでわずかに移動している。ロドプシンの活性化によるTrp6.48の環境の変化に対する分光学的証拠が存在する(Ahujaら、2009)が、回転異性体変化はロドプシンおよび低pHオプシンの結晶構造では観察されていない。さらに、ヒスタミン受容体での最近の変異誘発実験において、Trp6.48はセロトニンによる5HT4受容体の活性化に必要ではないことが実証されている(Pellissierら、2009)。
【0208】
アゴニスト結合ポケット周辺の小変化がNb80とGsの結合を促進するTM5、6および7の細胞質領域のはるかに大きな構造変化とどのように共役しているのかを推測するのは興味深い。潜在的立体構造連結は
図11に示されている。アゴニスト相互作用は、不活性構造と比べて207
5.46位でのTM5の2.1Å内側移動および保存されたPro211
5.50の1.4Å内側移動を含む活性な受容体立体構造を安定化し得る。不活性状態において、TM5、TM3、TM6およびTM7の相対位置は、Pro211
5.50、Ile121
3.40、Phe282
6.44およびAsn318
7.45間の相互作用により安定化されている。活性状態で観察されるPro211
5.50の位置は相互作用のこのネットワークと適合せず、Ile121
3.40とPhe282
6.44は再配置されており、Phe282
6.44周囲のTM6の回転がTM6の細胞質末端の外側への移動をもたらしている。
【0209】
β2AR-T4L-Nb80複合体の細胞質ドメインにおいて観察される構造変化の一部はNb80との特異的相互作用から生じているが、蛍光分光法によりおよびアゴニスト結合親和性により決定される場合、Nb80とGsがβ2ARにおける類似の構造変化を誘導するまたは安定化するという事実は、Nb80とGsが類似するアゴニスト安定化された立体構造を認識することを示唆している。ロドプシンおよびβ2ARの細胞質ドメインが活性化により類似する構造変化を受けるという所見は、アゴニスト結合β2AR-T4L-Nb80が活性立体構造を表し、Gタンパク質活性化の保存された機構と一致するという追加の支持を提供する。
【0210】
しかし、アゴニストがこれらの立体構造変化を誘導するまたは安定化する機構は、おそらく、リガンドが異なればおよびGPCRが異なれば異なる。ロドプシンはGタンパク質が非存在では完全な活性立体構造をとることができるが、β2ARはそれができないという事実により示されるように、ロドプシンとβ2ARの立体構造平衡は異なる。したがって、活性化のエネルギー論および立体構造サンプリングは異なるGPCRによって異なる可能性があり、このためにおそらくこれらの受容体により示されるリガンド有効性の多様性が生じる。構成的受容体活性はGPCRの異なる領域由来のアミノ酸の単一変異から生じることがあるので、アゴニストは不活性状態を安定化するのに必要な1つの重要な分子内相互作用を乱すだけでよい(Parnotら、2002)。したがって、アゴニストまたは変異のどちらかによりこれらの安定化に寄与する相互作用を乱してやれば、不活性と活性状態を分けているエネルギー障壁を下げて受容体がGタンパク質と相互作用することができる可能性が増加する。
【0211】
結論として、これらの上記の結果により、GPCRのアゴニスト結合状態を認識し安定化させるナノボディを生成する能力が実証されている。β2ARの場合には、このナノボディ安定化された状態は、Gタンパク質Gsにより安定化されている状態に機能的に類似している。最後に、ナノボディは回折特質の結晶の形成を促進した。このアプローチは現在では他のGPCRおよび他の膜タンパク質に適用されている。
【0212】
[
実施例12]
Nb80はアドレナリン受容体ファミリーのメンバーの活性化状態立体構造を安定化する
関連する受容体に交差反応性である活性化状態安定化ナノボディは、それらの関連する受容体の立体構造状態を安定化するツールとして使用することが可能である。この方針を実証するために、Nb80がヒトβ
1AR受容体の活性立体構造に選択的に結合するかどうかを解析した。β
1ARおよびβ
2ARは密接に関連するアドレナリン受容体である。PISAサーバーを使用し(Krissinel&Henrick、2007)Nb80-β
2AR複合体の結晶構造に基づいて、30のβ
2AR AA残基は、β
2AR-Nb80界面においてNb80と相互作用することが確認された。アミノ酸配列アラインメント(
図17)により、Nb80相互作用に関与するこれら30の残基のうち28がβ
1ARとβ
2AR間で保存されていることが示される。残りの界面残基はβ
2ARにおけるリシンであり保存された置換に対応してβ
1ARにおいてはアルギニンで置換されている(
図17における灰色ボックスに示されている)。したがって、両受容体がNb80に対する非常に類似する結合部位を共有していると思われる。この解析に基づいて、アゴニストであるイソプロテレノールおよびインバースアゴニストであるCGP20712Aに対するβ
1ARの親和性へのNb80の効果も測定した(
図18)。β
2ARに関しては、Nb80はβ
1ARに対するイソプロテレノールの親和性の増加も誘導した(
図18、パネルAおよびC)。Nb80はアンタゴニストであるCGP20712Aに対する親和性を変化させることはなく(
図18、パネルD)、Nb80によるβ
1ARの活性状態立体構造の選択的安定化を実証している。ドーパミンD1受容体のような無関係な受容体に対するNb80のそのような効果は観察されなかった(データは示されず)。
【0213】
[実施例13]
β
2
AR活性状態安定化ナノボディはアゴニストスクリーニングの改良のための優れたツールである
多くのGPCRが、Gタンパク質と複合体を形成するとより高いアゴニスト結合親和性を示す。これは、アゴニスト占有された受容体とGタンパク質間の協調的相互作用に起因すると考えられる。Gタンパク質様挙動をするナノボディはおそらく、アゴニストに対するβ2ARの親和性を増強する(実施例6参照)。この挙動は、新しいアゴニストの発見において重要な意味を有し得る。例えば、Gタンパク質様挙動をするNbは、アンタゴニストと比べて、アゴニストに対するGPCRの見かけ上の親和性を増加させ得る。そのようなGPCR-Nb複合体に対して化合物ライブラリーがスクリーニングされる場合、これがヒット間にアゴニストへのバイアスを引き起こし得る。このアプローチの適用性を評価するために、競合放射性リガンド結合実験においていくつかの周知のβ2ARリガンドとβ2ARの相互作用に対するβ2AR活性状態安定化ナノボディNb80の効果を解析した(材料および方法参照)。10個のアゴニストおよび5個のアンタゴニスト;すなわち(-)イソプロテレノールHCl(アゴニスト)、(-)-アルプレノロール(アンタゴニスト)、サルブタモール(部分アゴニスト)、ICI118551(インバースアゴニスト)、カルベジロール(アンタゴニスト)、CGP12177A(アンタゴニスト)、サルメテロールキシナホ酸塩(完全アゴニスト)、テルブタリンヘミ硫酸塩(部分アゴニスト)、ドブタミン塩酸塩(部分アゴニスト)、メタプロテレノールヘミ硫酸塩(アゴニスト)、プロカテロール塩酸塩(アゴニスト)、リトドリン塩酸塩(アゴニスト)、フェノテロール臭化水素酸塩(完全アゴニスト)、ホルモテロールフマル酸塩二水和物(アゴニスト)およびチモロールマレイン酸塩(アンタゴニスト)が試験され、すべてSigma Aldrich経由で購入された。
【0214】
リガンド競合結合実験は、完全長ヒトβ
2ARを含有する市販の膜上で500nMのNb80の存在および非存在下で実施された。
3H-ジヒドロアルプレノロール(DHA)が競合する放射性リガンドとして使用された。リガンド競合結合実験の代表例は
図16に示されている。すべての化合物において、過剰なNb80の存在下でIC50値が得られ、無関係なナノボディ(負の対照)の存在下で得られたIC50と比較された(表6)。実施例6、8および12と一致して、β
2ARがNb80の複合している場合は、すべてのアゴニストの効力の増加が観察される。そのような効果はアンタゴニストにもインバースアゴニストにも観察されない。
【0215】
[実施例14]
β
2
AR活性状態安定化ナノボディを使用する化合物ライブラリースクリーニング
GPCRを特定の立体構造に固定するのは、その特定の立体構造、いわゆる「新薬開発につながる」標的立体構造に対する化合物を同定する目的を持つスクリーニングアッセイにおいては、立体構造的に安定化していない標的(立体構造のレパートリーを表す)を使用するよりも利点がある。立体構造選択性Nb80は、野生型受容体の使用を可能にし、したがって、部位特異的変異誘発の結果としての人為的立体構造変化という潜在的リスクを最小限に抑える。
【0216】
Nb80がその活性立体構造のβ2ARに選択的に結合するリガンドの同定を促進するかどうかを実証するために、競合放射性リガンド結合アッセイを使用して、約1500個の異なる低分子量化合物(<300Da)からなる断片ライブラリーがアゴニストについてスクリーニングされる。このアッセイにおいて、完全長β2ARを含有する膜がNb80または無関係なNb(負の対照)と一緒にプレインキュベートされ、ライブラリー化合物および2nMの3H-ジヒドロアルプレノロール(DHA)放射性リガンドを含有する96ウェルプレートに添加される(材料および方法参照)。無関係なナノボディを含有する試料と比べて、Nb80と複合しているβ2ARを含有する試料において放射性リガンドに著しく取って代わるライブラリー化合物は、受容体の活性立体構造に優先的に結合する化合物である。受容体の活性立体構造に選択的に結合するライブラリー化合物は、GPCRの活性立体構造のオルソステリックまたはアロステリック安定化が生物学的応答を誘発するために、アゴニストとして振る舞う高い傾向を有する。選択されたライブラリー化合物は、例えばGタンパク質共役により下流シグナル伝達事象または生理学的アウトプットを測定することにより、アゴニズムについてさらにスクリーニングを受けなければならない。
【0217】
[実施例15]
ナノボディを用いたβ
2
AR受容体の熱安定化
膜内在性タンパク質に関する構造的および機能的研究は、界面活性剤中でのその不安定性により長い間妨げられてきた。ミリグラム量の生成を可能にする発現および精製方法が出現しているが、これらの分子での安定性を達成するのはおそらく克服するのが最も困難なハードルである。精製には、タンパク質の疎水性表面が界面活性剤モノマーで被膜されてタンパク質-界面活性剤複合体を形成する過程である界面活性剤可溶化による脂質二重層からの膜タンパク質の放出が必要である。しかし、タンパク質の周りに形成された界面活性剤ベルトは脂質二重層の代替物としては不十分である。したがって、膜タンパク質の可溶化は、不安定化、アンフォールディングおよびそれに続く凝集をもたらすことが多い。膜タンパク質の熱安定化は部位特異的変異誘発を通じて達成することが可能である(Zhou&Bowie、2000;Magniniら、2008)。立体構造選択性ナノボディの結合が、界面活性剤で可溶化したGPCRの熱安定化のための画期的代替法を表すことをここで我々は明らかにする。
【0218】
β
2AR受容体の熱安定性およびその後の凝集に対する立体構造選択性ナノボディの効果は、蛍光熱安定性アッセイ(
図13)およびサイズ排除クロマトグラフィー(
図14)を使用して解析された。これらの実験において、組換えβ
2ARはSf9昆虫細胞において発現され、1%ドデシルマルトシド、100mM NaCl、20mMヘペス pH7.5およびプロテアーゼ阻害剤に可溶化され、M1 FLAG親和性クロマトグラフィーにより精製された(実施例の材料および方法参照)。
【0219】
蛍光熱安定性アッセイは、チオール特異的蛍光色素のN-[4-(7-ジエチルアミノ-4-メチル-3-クマリニル)フェニル]マレイミド(CPM)を使用して、膜タンパク質のフォルダー状態の全体的完全性を表すセンサーとしてタンパク質内部に包埋されている天然のシステインの化学反応性を測定する(Alexandrovら、2008)。蛍光熱安定性アッセイにおいて、界面活性剤で可溶化した受容体(0.1%ドデシルマルトシド、100mM NaClおよび20mMヘペス pH7.5中)は、室温で1時間、2対1のモル過剰なNb80の存在または非存在下でイソプロテレノール(10μM)と一緒にプレインキュベートされた。次に、試料はCPM蛍光色素と混合され、10℃から94℃の範囲にわたる温度で2分間インキュベートされ、蛍光放射が収集された。実験は3通りに実施され、GPCR APJについて得られる安定性プロファイルに似た融解曲線が得られた(Alexandrovら、2008)。アンフォールディング移行は、天然(折り畳まれた)および変性状態を含み、融解曲線の下プラトーおよび上プラトーを表す簡単な二状態モデルにより記載することができた。アゴニスト結合受容体の融解曲線とNb80と複合したアゴニスト結合受容体の融解曲線の比較により、ナノボディが、アゴニスト結合受容体の融解温度(Tm)を12℃増加させることによりβ2ARの活性立体構造を安定化することが示される。
【0220】
アゴニスト結合受容体の熱アンフォールディングおよび凝集に対するNb80の効果もサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により解析した。この実験において、ドデシルマルトシド可溶化された受容体は、室温で45分間、2対1のモル過剰なNb80の存在または非存在下でイソプロテレノール(10μM)と一緒にプレインキュベートされた。次に、試料は増加する温度で10分間インキュベートされ、続いてSECにより解析された(
図14)。異なるクロマトグラムの比較により、Nb80は温度に誘導される凝集に対してアゴニスト結合受容体を保護することが示されている。
【0221】
ラット1a型アンジオテンシンII受容体(AT1aR)の機能的立体構造状態を安定化するタンパク質結合ドメイン
【0222】
[実施例16]
免疫化、ライブラリー構築および最初のスクリーニング
ラットAT1aRに対するインビボ成熟ナノボディを得るために、2頭のラマ(ラマ・グラマ)はカルボキシル末端への免疫応答を排除するためにLys318後で切断された組換えAT1aR-T4リゾチーム(T4L)融合物で免疫された。AT1aRは昆虫細胞において発現され(Shlukaら、2006)、抗原は以載された通りに脂質小胞に再構成された(Dayら、2007)。1頭のラマは、アンジオテンシン(バイアスをかけていないアゴニスト)結合受容体で免疫され、1頭のラマは、受容体に結合された、β-アレスチンでバイアスをかけたリガンドTRV023(Violinら、2010)で免疫された。再構成された切断型アゴニスト結合受容体の6週間投与後、リンパ球は免疫されたラマの血液から単離され、ファージライブラリーは実施例の材料および方法に記載される通りに調製されスクリーニングされた。固相ELISAにより、AT1a受容体を認識するナノボディが同定された。
【0223】
[実施例17]
ELISAによる立体構造特異的ナノボディの選択
最初のスクリーニングにおいて、ELISAにおいて天然および熱変性されたラットAT1aR抗原上への精製されたナノボディの結合を比較する。ナノボディごとに、1ウェルが受容体で被膜される。次に、このプレートは80℃で2時間インキュベートされる。次に、同じプレートの別の空のウェルは加熱しない受容体で被膜される。天然の受容体には選択的に結合することができるが熱不活化された受容体には結合しないナノボディは立体構造エピトープを認識する。
【0224】
[実施例18]
ドットブロットによる立体構造状態特異的ナノボディの選択
次のスクリーニングにおいて、立体構造エピトープに結合するナノボディのアゴニスト結合AT1aR受容体対アンタゴニスト結合受容体への結合をドットブロット解析により比較する。このスクリーニングにより、アゴニスト結合(活性状態)対アンタゴニスト結合(不活性状態)受容体の立体構造を選択的に認識するナノボディが同定される。
【0225】
[実施例19]
受容体の活性立体構造を選択的に安定化するAT1aRナノボディについてのスクリーニング
AT1aR特異性についての結合アッセイ(ELISA)に加えて、精製されたナノボディは、実施例6、12および13に記載される放射性リガンドアッセイに類似する放射性リガンド競合実験において評価される。アゴニストに対するAT1aRの親和性を増加させるナノボディは受容体の活性立体構造を安定化させると見なされる。
【0226】
ラットM3ムスカリン受容体の機能的立体構造状態を安定化するタンパク質結合ドメイン
【0227】
[実施例20]
免疫化、ライブラリー構築および最初のスクリーニング
ラットM3Rに対するインビボ成熟ナノボディを得るために、ラマ(ラマ・グラマ)は末端への免疫応答を排除するためにNとC末端部位の両方で切断された組換えM3R-T4リゾチーム(M3R-T4L)融合物で免疫された。M3R-T4Lにおいて、3番目の細胞内ループがT4リゾチームで置き換えられた。M3R-T4Lは昆虫細胞において発現され、抗原は以載された通りに再構成された(Dayら、2007)。再構成されたアンタゴニスト(チオトロピウム)結合受容体の6週間投与後、リンパ球は免疫されたラマの血液から単離され、ファージライブラリーは実施例の材料および方法に記載される通りに調製されスクリーニングされた。
【0228】
[実施例21]
ELISAによる立体構造特異的ナノボディの選択
最初のスクリーニングにおいて、ELISAにおいて天然および熱変性されたラットM3R抗原上への精製されたナノボディの結合を比較する。ナノボディごとに、1ウェルが受容体で被膜される。次に、このプレートは80℃で2時間インキュベートされる。次に、同じプレートの別の空のウェルは加熱しない受容体で被膜される。天然の受容体には選択的に結合することができるが熱不活化された受容体には結合しないナノボディは立体構造エピトープを認識する。
【0229】
[実施例22]
ドットブロットによる立体構造状態特異的ナノボディの選択
次のスクリーニングにおいて、立体構造エピトープに結合するナノボディのアゴニスト結合M3受容体対アンタゴニスト結合受容体への結合をドットブロット解析により比較する。このスクリーニングにより、アゴニスト結合(活性状態)対アンタゴニスト結合(不活性状態)受容体の立体構造を選択的に認識するナノボディが同定される。
【0230】
[実施例23]
受容体の活性立体構造を選択的に安定化するM3Rナノボディについてのスクリーニング
M3R特異性についての結合アッセイ(ELISA)に加えて、精製されたナノボディは、実施例6、12および13に記載される放射性リガンドアッセイに類似する放射性リガンド競合実験において評価される。アゴニストに対するM3Rの親和性を増加させるナノボディは受容体の活性立体構造を安定化させると見なされる。
【0231】
実施例の材料および方法
β2AR調製
アミノ酸365後で切断されアミノ末端Flagエピトープタグを有するβ2AR(β2AR-365)は、以載された通りにSf9昆虫細胞において発現され連続M1抗体およびアルプレノロール親和性クロマトグラフィーにより精製された(Kobilka 1995)。精製されたβ2AR-365はFlagカラム(Sigma)上に固定化され、1%(w/v)オクチルグルコシド(Anatrace)中5mg/ml DOPC(Avanti Polar Lipids)および0.5mg/ml Lipid A(Sigma)、100mM NaCl、20mMヘペス pH7.5、2mM CaCl2ならびに1μMアゴニスト(例えば、イソプロテレノール)の混合物の10カラム容量を用いて平衡化された。次に、β2ARはEDTAを含有する同一バッファー中に溶出された。溶出されたβ2ARの濃度は5mg/mlに調整された。これは通常、タンパク質を同一バッファーで希釈することを含むが、タンパク質をAmicon限外濾過細胞(100kDaポア)を用いて2倍まで濃縮する必要がある場合もあった。次に、タンパク質は4℃で1μMアゴニストを含有するリン酸緩衝食塩水に対して透析され界面活性剤を取り除いた。再構成されたタンパク質は免疫化のための使用に先立って-80℃で保存された。
【0232】
AT1aR調製
第3ループにおけるT4リゾチームとのAT1aR融合物は、アミノ酸318後で切断された(AT1aR-318)。この構築物は、アミノ末端Flagエピトープタグおよび10ヒスチジンのC末端タグを有する。AT1aR-318はTni昆虫細胞において発現され、20mMヘペス、pH7.4、1M NaClおよび0.5%MNGにおいて室温で2時間可溶化された。受容体は連続Ni-NTAおよびFLAG-M1抗体親和性クロマトグラフィーにより精製された。精製されたAT1aRは1%(w/v)オクチルグルコシド(Anatrace)中5mg/ml DOPC(Avanti Polar Lipids)および0.5mg/ml Lipid A(Sigma)、100mM NaCl、20mMヘペス pH7.5および100μMアゴニスト(例えば、アンジオテンシンII)の混合物中で再構成された。溶出されたAT1aRの濃度は1-2mg/mlに調整された。次に、タンパク質は4℃で100μMアゴニストを含有するリン酸緩衝食塩水に対して透析され界面活性剤を取り除いた。再構成されたタンパク質は免疫化のための使用に先立って-80℃で保存された。
【0233】
M3受容体調製
アミノ末端FLAGエピトープタグおよびカルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグを有するM3ムスカリン受容体は、1μMアトロピンの存在下でSf9昆虫細胞において発現された(Vasudevanら、1995)。受容体は、細胞内ループ3が欠失している(M3RΔi3)またはT4リゾチームで置換されていた(M3R-T4L)。細胞は遠心分離され、次に浸透圧ショックにより溶解され、タンパク質は1%ドデシルマルトシド、0.1%コレステロールヘミスクシナート、750mM塩化ナトリウム、20mMヘペス pH7.5中に可溶化された。次に、可溶化された受容体はニッケル親和性クロマトグラフィー、続いてFLAG親和性クロマトグラフィーにより精製された。次に、精製されたタンパク質はサイズ排除クロマトグラフィーにより分離されてモノマー受容体を選択し、この受容体は記載される通りに再構成された(Dayら、2007)。
【0234】
β2ARに対するナノボディ選択
1頭のラマは再構成された切断型β2ARの6週間投与を受けた。リンパ球は免疫されたラマの血液から単離され、全RNAはこれらの細胞から調製された。ナノボディレパートリーのコード配列はRT-PCRにより増幅されファージディスプレイベクターpMES4(ジェンバンク GQ907248)にクローニングされた(Conrathら、2001)。β2AR特異的ファージは、再構成されたβ2AR-365受容体で被膜されたMaxisorp(Nunc)96ウェルプレート上でインビトロ選択により濃縮された。抗原結合ファージは、トリエチルアミン pH11を用いて抗原被膜されたウェルから回収されTris-HCl pH7で中和される、または新たに増殖されたTG1E.コリ細胞の添加により回収された。2ラウンドのバイオパニングの後、96の個々のコロニーは無作為に選択され、ナノボディはTG1細胞の周辺質において可溶性HISタグ付きタンパク質として産生された。固相ELISAにより、天然のアゴニスト結合β2AR-365を認識するが、熱変性受容体は認識しない16個の異なる立体構造ナノボディが同定された。
【0235】
AT1aRに対するナノボディ選択
1頭のラマは、そのアゴニストであるアンジオテンシンに結合された再構成されたAT1aR-318の6週間投与を受けた。別の1頭のラマは、バイアスをかけたアゴニストTRV023に結合されたAT1aR-318の6週間投与を受けた。免疫化後、それぞれのラマ由来のリンパ球は血液から別々に単離された。全RNAはこれらの細胞から調製された。それぞれの試料から、ナノボディレパートリーのコード配列はRT-PCRにより増幅されファージディスプレイベクターpMESy4-ベクターに別々にクローニングされ(Conrathら、2001)て、2つの個々のライブラリーを作製した。pMESy4は、C末端His6tagに続いてアミノ酸EPEAを担持する、pMES4(ジェンバンク GQ907248)の誘導体である(De Genstら、2010年 J.Mol.Biol.402:326-343頁)。
【0236】
AT1aR特異的ファージは、それぞれアンジオテンシンにまたはTRV023に結合された再構成された切断型AT1aR受容体(T4L挿入のない組換え受容体のバリアント)で被膜されたMaxisorp(Nunc)96ウェルプレート上でインビトロ選択により濃縮された。抗原結合ファージは、トリプシン消化により抗原被膜ウェルから回収された。2ラウンドのバイオパニングの後、96の個々のコロニーは(46個がAT1aR-アンジオテンシン上で46個がAT1aR-TRV023上で)無作為に選択され、ナノボディはTG1細胞の周辺質において可溶性HisIS-EPEA-タグ付きタンパク質として産生された。
【0237】
M3Rに対するナノボディ選択
1頭のラマは、そのアゴニストチオトロピウムに結合された再構成された切断型M3R-T4Lの6週間投与を受けた。免疫化後、このラマ由来のリンパ球は血液から単離され、全RNAはこれらの細胞から調製された。ナノボディレパートリーのコード配列はRT-PCRにより増幅されファージディスプレイベクターpMESy4-ベクターにクローニングされた(Conrathら、2001)。
【0238】
M3R特異的ファージを濃縮するため、アゴニストであるカルバコールまたはアンタゴニストであるキヌクリジニルベンジラート(QNB)の存在下で抗原の異なるフォーマットを使用して異なるインビトロ選択戦略に従った。抗原フォーマットには、ラットM3RΔi3受容体(すなわち、第3細胞内ループにおいて欠失のあるM3受容体)を担持するウイルス様粒子(VLP)、M3Rを含有するヒトCHO細胞の膜(Perkin Elmer)、組換え再構成されたM3T-T4Lまたは組換え再構成されたM3RΔi3が含まれる。場合によって、ラットM3RΔi3受容体またはヒトM3R膜を担持するVLPは、Maxisorp(Nunc)96ウェルプレート上に被膜された小麦胚芽凝集素により捕捉された。抗原結合ファージは、トリプシン消化により抗原被膜ウェルから回収された。代わりに、アゴニスト結合抗原上で選択されたファージは過剰なアンタゴニストを使用して溶出されるまたは逆も同じである。
【0239】
2ラウンドのバイオパニングの後、180個のコロニーは無作為に選択され、ナノボディはTG1細胞の周辺質において可溶性His-EPEA-タグ付きタンパク質として産生された。M3R-T4L受容体対AT1aR-T4L受容体上での比較固相ELISAにより、66個のM3R特異的ナノボディが得られた。
【0240】
生化学的特徴付けのためのナノボディ精製
HIS-タグ付きまたはHIS-EPEA-タグ付きナノボディはWK6E.コリ細胞において発現された。周辺質抽出物は、硫酸ニッケル(II)ファーストフローセファロース上で固定化された金属親和性クロマトグラフィー(GE Healthcare)に供された。IMACタンパク質画分は、100mM MES pH6.5、100mM NaClバッファー中で一晩透析された。透析されたナノボディは陽イオン交換クロマトグラフィー(Mono S 10/100GLカラム付きのAKTA FPLC)によりさらに精製された。
【0241】
サイズ排除クロマトグラフィー
アゴニスト選択性ナノボディは、40μMのナノボディの非存在または存在下、室温で1時間の20μMのアゴニストまたはインバースアゴニスト(カラゾロール)結合β2AR-365Nのインキュベーションに続いて、サイズ排除クロマトグラフィーにより同定された。クロマトグラフィーは、Superdex 200 10/300GLカラム付きのAKTA FPLCを使用して、1μMのそれぞれのリガンドの存在下、0.1%DDM、20mMヘペス pH7.5、100mM NaCl中で実施された。
【0242】
昆虫細胞由来の膜調製物における切断型β2AR受容体上でのリガンド結合
競合結合実験は、0.5nM[3H]-ジヒドロアルプレノロールおよび(-)-イソプロテレノールを10-11Mから10-4Mの範囲にわたる濃度で含有する結合バッファー(75mM Tris pH7.5、12.5mM MgCl2、1mM EDTA、0.05%BSAおよび10μM GTPγS)中、室温で90分間、1μMナノボディの非存在または存在下、Sf9昆虫細胞膜において発現されたβ2AR-365で実施された。結合した放射性リガンドは、Brandelハーベスターを使用してWhatman GF/Bフィルター上で非結合から分離された。データは、3通りに実施された2つの個別の実験の平均±S.E.である。
【0243】
ビマン蛍光
精製されたβ2ARは、100mM NaCl、20mMヘペス pH7.5、0.1%ドデシルマルトシド中で1対1当量のモノブロモビマン(mBBr、Invitrogen)と反応させ、暗所において氷上で一晩インキュベートされた。フルオロフォア標識受容体は、同一バッファーで平衡化された脱塩カラム上ゲル濾過により使用直前に精製された。蛍光分光実験は、4nmの励起および放射バンドパスを使用することにより、光子計測モードでSpex FluoroMax-3分光蛍光光度計(Jobin Yvon Inc.NJ)上で実施された。すべての実験が25℃で実施された。放射スキャンでは、励起は370nmに設定され、放射は1s/nmの積分時間で430-530nmで測定された。ナノボディおよびリガンドの効果を決定するために、3つの個別の標識タンパク質試料は、1μMナノボディまたは10μMのイソプロテレノールまたは両方と一緒にインキュベートされた。試料の放射スペクトルは1時間のインキュベーション後に採取された。蛍光強度はすべての実験においてバッファーおよびリガンドからのバックグラウンド蛍光について補正された。データは、3通りに実施された2つの個別の実験の平均±S.E.である。
【0244】
結晶構造解析のためのβ2AR-T4Lおよびナノボディ-80の調製
β2AR-T4Lは、β2AR-T4LバキュロウイルスでインフェクトされたSf9昆虫細胞培養物において発現され、以載された方法に従って可溶化された(Kobilka 1995)。機能的タンパク質は、アルプレノロール-セファロースクロマトグラフィーに先立っておよびこれに続いてM1 FLAG親和性クロマトグラフィー(Sigma)により得られた(Kobilka 1995)。第2のM1クロマトグラフィーステップにおいて、増加した受容体安定性のために、受容体結合アルプレノロールは高親和性アゴニストと交換され、ドデシルマルトシドはMNG-3両親媒性物質と交換された(Chae and Gellman、未公表)。アゴニスト結合および界面活性剤交換されたβ2AR-T4Lは10nMヘペス pH7.5、100mM NaCl、0.02%MNG-3および10μMアゴニスト中に溶出され、続いてPNGaseF(NEB)での処置によりN連結グリコシル化を除去した。タンパク質は、100kDa分子量切断Vivaspin濃縮器(Vivascience)を用いて約50mg/mlまで濃縮された。
【0245】
C末端His6タグを帯びるナノボディ-80(Nb80)は、IPGTを用いた誘導に続いてE.コリ株WK6の周辺質において発現された。0.6Lの培養物は、0.1%グルコース、2mM MgCl2および50μg/mlアンピシリンを含有するTB培養液中37℃でOD600=0.7まで増殖された。誘導された培養物は28℃で一晩増殖された。細胞は遠心分離により収穫され、氷冷バッファー(50mM Tris pH8.0、12.5mM EDTAおよび0.125Mショ糖)中で溶解されて、次に遠心分離されて細胞片を取り除いた。Nb80はニッケル親和性クロマトグラフィーにより精製され、バッファー(10mMヘペス pH7.5、100mM NaCl)に対して透析され、約120mg/mlまでスピン濃縮された。
【0246】
結晶化
アゴニスト結合β2AR-T4Lおよびナノボディ(例えば、Nb80)は1対1.2のモル比で混合され、室温で2時間インキュベートされ、その後Martin Caffrey(Caffrey and Cherezov 2009)により開発されたツインシリンジ混合法を使用して1対1.5のタンパク質対脂質比(w/w)で10%コレステロール(C8667、Sigma)を含有する液化性モノオレイン(M7765、Sigma)と混合した。最初の結晶化リードはインハウススクリーンを使用して同定され、手動で送達される50nLタンパク質対脂質液滴を使用して24ウェルガラスサンドイッチプレートにおいて最適化され、それぞれのウェルにおいて0.8μlの沈殿溶液で覆われ、ガラスカバースリップで密封された。データ収集のための結晶は、Milli-Q水に2から4倍希釈された0.8μlの貯蔵溶液(36から44%PEG400、100mM Tris pH8.0、4%DMSO、1%1,2,3-ヘプタントリオール)を使用するハンギングドロップ蒸気拡散により20℃で成長させた。結晶は7から10日以内に最大サイズまで成長した。結晶は瞬間凍結され、凍結保護物質として貯蔵溶液と一緒に液体窒素中で保存された。
【0247】
マイクロ結晶学データ収集および処理
回折データは、10μm径ビームを使用して、Advanced Photon Sourceのビームライン23-IDで測定された。低線量1.0゜回転像を使用してデータ収集のために結晶を位置付け中心に置いた。データは、5×減衰ビームを用いた典型的には5-10秒の照射時間で1.0゜フレームにおいて測定された。著しい放射線損傷が起きる前に5-10゜のデータのみを測定することができた。データはHKL2000パッケージを用いて積分されスケール変更された(Otwinowski 1997)。
【0248】
構造解明および精密化
分子置換位相はプログラムPhaser(McCoy 2007)を用いて得られた。探索モデルは、高分解能カラゾロール結合β2AR構造(PDB id 2RH1、ただしT4Lならびにすべての水、リガンドおよび脂質分子は除かれている)および探索モデルとしてのナノボディ(PDB id 3DWT、水分子は取り除かれている)であった。回転および並進関数Zスコアーは、β2ARモデルを置いた後は8.7および9.0であり、それに続いて置かれたナノボディは3.5および11.5の回転および並進関数Zスコアーを有していた。モデルは、1つのBが主鎖用で1つのBが側鎖原子用のグループB因子モデルを使用して、Phenix(Afonine 2005)およびBuster(Blanc 2004)において精密化された。精密化統計は表5に与えられている。強い異方性にもかかわらず(表5)、電子密度は側鎖の配置では明確であった。
【0249】
HDL粒子に再構成された切断型β2AR受容体上へのリガンド結合
アゴニストに対する受容体親和性へのNb80およびGsの効果が、競合結合実験において比較された。以載された通りに(Rosenbaumら、2007;Rasmussenら、2007)精製されたβ2ARおよびβ2AR-T4L(両方とも365位で切断されている)は、高密度リポタンパク質(HDL)粒子に再構成され、続いて以前公表された方法(Whortonら、2007)に従ってβ2ARを含有するHDL粒子にGsは再構成された。0.6nMの[3H]-ジヒドロアルプレノロール(3H-DHA)は放射性リガンドとして使用され、10-12から10-4Mの範囲にわたる濃度の(-)-イソプロテレノール(ISO)は競合物として使用された。Nb80は1μMで使用された。GTPγSは10μMで使用された。0.1%BSAを含有するTBS(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl)は結合バッファーとして使用された。結合した3H-DHAは、Whatman GF/Bフィルター(0.3%ポリエチレンイミンを有するTBS中で予浸される)を通すことによりBrandelハーベスター上で非結合から分離され、冷TBS中で洗浄された。放射性リガンド結合は、Beckman LS6000シンチレーションカウンターにおいて測定された。DHAのリガンド結合親和性(Kd)は、GraphPad Prismソフトウェアを使用する飽和結合曲線から決定された。ISOの結合親和性(Ki値、表4に表示されている)は、式Ki=IC50/(1+[L]/Kd)を使用してIC50値から決定された。
【0250】
改善されたアゴニスト同定のための昆虫細胞由来膜抽出物における完全長β2AR受容体上でのリガンド結合
膜抽出物での競合放射性リガンド結合実験は、基本的にSeifertと共同研究者らにより記載された通りに実施された(Seifertら、1998年、Eur.J.Biochem.255:369-382頁)。ヒトβ2AR(Perkin Elmer、カタログ番号6110106400UA)を含有する昆虫細胞由来の10μgのホモジナイズされた膜抽出物は、24ウェルプレート(Corning Costar)においてインキュベーションバッファー(75mM Tris-HCl、12.5mM MgCl2、1mM EDTAおよび0.2%w/v BSA)中37℃で1時間、Nb80または無関係ナノボディ(負の対照;Irr Nb)と一緒にインキュベートされた。ナノボディは、3000倍の過剰なナノボディ対アドレナリン受容体に対応して最終濃度500nMで適用された。引き続いて、調査中のリガンドの適切な希釈系列が、2nMの3H-DHA放射性リガンド(Perkin Elmer、カタログ番号NET720001MC;比放射能104.4 Ci/mmol)と一緒に、ナノボディ結合膜抽出物に添加された。ウェルあたりの全容量はインキュベーションバッファーを用いて500μlに調整され、反応混合物は水浴中37℃でもう1時間さらにインキュベートされた。細胞ハーベスター(Inotech)を用いて膜抽出物をガラス繊維フィルター(Whatmann GF/B濾紙)上に収穫した後、フィルターは氷冷洗浄バッファー(50mM Tris-HCl pH7.4)で洗浄され、風乾フィルター部分は、3.5mlのOptiphase ‘Hisafe 2’シンチレーション液(Perkin Elmer)を含有するシンチレーションチューブに移された。放射能は、室温での1時間インキュベーション後LKB Wallaceシンチレーションカウンターおいて測定された。
【0251】
化合物ライブラリースクリーニング
化合物ライブラリーは、競合放射性リガンド結合アッセイを使用してアゴニストについてスクリーニングされた。この目的のために、ヒトβ2ARを発現しているHEK293T細胞(約10pmol/mg膜タンパク質の発現レベル)由来の10μgのインハウス調製された膜抽出物は、インキュベーションバッファー(50mMヘペス pH7.4、1mM CaCl2、5mM MgCl2、100mM NaClおよび0.5%w/v BSA)中30℃で1時間、Nb80または無関係ナノボディ(負の対照)と一緒にプレインキュベートされる。ナノボディは、3000倍の過剰なナノボディ対β2ARにおよそ対応して最終濃度500nMで適用される。引き続いて、ナノボディ負荷された膜が、ライブラリー化合物と2nMの3H-ジヒドロアルプレノロール(DHA)放射性リガンドを含有する96ウェルプレートに添加される。ウェルあたりの全容量はインキュベーションバッファーを用いて100μlに調整され、反応混合物は30℃でもう1時間さらにインキュベートされる。引き続いて、膜結合放射性リガンドは、0.3%のポリエチレンイミン中で予浸されたGF/Bガラス繊維96ウェルフィルタープレート(Perkin Elmer)を使用して収穫される。フィルタープレートは氷冷洗浄バッファー(50mM Tris-HCl pH7.4)で洗浄され、50℃で30分間乾燥される。25μlのシンチレーション液(MicroScint(商標)-O、Perkin Elmer)を添加した後、放射能(cpm)はWallac MicroBeta TriLuxシンチレーションカウンターおいて測定される。
【0252】
HDL粒子に再構成されたβ2AR上でのビマン蛍光分光測定
GsおよびNb80結合の受容体立体構造に対する効果を比較するために、精製されたβ2ARは、TM6の細胞質末端に位置するシステイン265において環境的感受性の蛍光プローブモノブロモビマン(Invitrogen)で標識され、HDL粒子に再構成された(mBB-β2AR/HDL)。蛍光放射スペクトルを得ることに先立って、10nMのmBB-β2AR/HDLは、10μM ISO、1μMのインバースアゴニストICI-118,551(ICI)、300nMのGsヘテロトリマーもしくは300nMのNB80の非存在もしくは存在下で、またはISOとGs、ISOとNb80およびICIとNb80の組み合わせにおいて、バッファー(20mMヘペス pH7.5、100mM NaCl)中室温で30分間インキュベートされた。蛍光分光測定は、5nmの励起および放射バンドパスを使用して、光子計測モードでSpex FluoroMax-3分光蛍光光度計(Jobin Yvon Inc.)上で実施された。励起は370nmに設定され、放射は0.3s/nmの積分時間を用いて、1nmインクレメントで415から535nmまで収集された。蛍光強度はバッファーおよびリガンドからのバックグラウンド蛍光について補正された。
【0253】
【0254】
【0255】
【0256】
【0257】
【0258】
【0259】
【配列表】