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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】テンショナ及びエンジン構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20230322BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020510926
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012897
(87)【国際公開番号】W WO2019189202
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2018063852
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 和人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敬一
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-090449(JP,A)
【文献】実開昭51-143073(JP,U)
【文献】特開平05-215982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周回移動する無端状部材にテンションを付与するテンショナであって、
本体部と、
本体部に設けられたフランジと、
前記フランジの縁部に前記フランジの中心を挟んで対向して設けられ、ボルトが挿通される2つの貫通孔と、
前記フランジに設けられ、2つの前記貫通孔の中心を結ぶ仮想線に対して交差する方向の縁部が、前記貫通孔が設けられた前記縁部及び前記仮想線の中心部を含む位置よりも前記ボルトの挿入方向側となるように曲げられた接触部と、
を有し、
前記フランジにおける前記仮想線の中心部が2つの前記貫通孔に対して前記ボルトの挿入方向側に突出しない構成とされているテンショナ。
【請求項2】
前記フランジには、前記貫通孔の周りの前記ボルトの挿入方向と反対側の面に、前記ボルトの挿入方向側に窪んだ湾曲部が形成されている請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記貫通孔を含んだ前記湾曲部の外径は、前記ボルトの頭部の外径以上とされている請求項2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記フランジの少なくとも前記縁部の厚さが、6mmより薄い請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のテンショナ。
【請求項5】
周回移動する無端状部材を備えたエンジンと、
前記貫通孔に挿通されたボルトで前記フランジが前記エンジンの取付面に固定され、前記無端状部材にテンションを付与する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のテンショナと、
を有するエンジン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テンショナ及びエンジン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特表2012-518140号公報)には、テンショナがベースプレートを備えており、ベースプレートが複数の締結具によりエンジンブロックに取り付けられた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2012-518140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1(特表2012-518140号公報)に記載のテンショナでは、ベースプレートの厚さについては記載されていない。例えば、材料コストの削減等のためにベースプレートを薄板とした場合、ボルトの締結時にベースプレートが撓み、ボルトの締結位置から離れた位置でベースプレートがエンジンブロックから浮き上がる可能性がある。このため、ボルトの締結位置では、ベースプレートのエンジンブロックに対する密着圧力が高いが、ボルトの締結位置から離れた位置では、ベースプレートのエンジンブロックに対する密着圧力が低くなる可能性がある。
【0005】
本開示は上記事実を考慮し、フランジをボルトで取付面に固定したときに、ボルトの締結位置から離れた位置で取付面に対するフランジの密着圧力が低くなることを抑制するテンショナ及びエンジン構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係るテンショナは、周回移動する無端状部材にテンションを付与するテンショナであって、本体部と、本体部に設けられたフランジと、前記フランジの縁部に対向して設けられ、ボルトが挿通される2つの貫通孔と、前記フランジに設けられ、2つの前記貫通孔の中心を結ぶ仮想線に対して交差する方向の縁部が、前記貫通孔が設けられた前記縁部よりも前記ボルトの挿入方向側となるように曲げられた接触部と、を有する。
【0007】
第1態様に係るテンショナでは、ボルトが挿通される2つの貫通孔がフランジの縁部に対向して設けられている。フランジには、2つの貫通孔の中心を結ぶ仮想線に対して交差する方向の縁部が、貫通孔が設けられた縁部よりもボルトの挿入方向側となるように曲げられた接触部が設けられている。フランジを固定するための取付面にフランジの接触部を接触させると、貫通孔が設けられた縁部が取付面から浮いた状態となり、ばね性を有する。そして、フランジの2つの貫通孔にボルトをそれぞれ挿通して締め付けると、ボルトの挿入方向側となるように曲げられた接触部は、取付面への密着圧力が高くなる。すなわち、ボルトの締め付けが完了する前から接触部が取付面に接触し、さらにボルトを締め付けることによって、接触部の取付面への高い密着圧力が得られる。このため、ボルトの締結位置から離れた位置でフランジの取付面に対する密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【0008】
第2態様に係るテンショナは、第1態様に係るテンショナにおいて、前記フランジには、前記貫通孔の周りの前記ボルトの挿入方向と反対側の面に、前記ボルトの挿入方向側に窪んだ湾曲部が形成されている。
【0009】
第2態様に係るテンショナでは、フランジには、貫通孔の周りのボルトの挿入方向と反対側の面に、ボルトの挿入方向側に窪んだ湾曲部が形成されているので、ボルトを貫通孔に挿通して締め付けると、ボルトの頭部は外周から先に湾曲部に接触する。これにより、締付トルクによって発生する摩擦トルクが大きく、ボルトに発生する軸力が小さくなる。このため、フランジの貫通孔の周りの縁部は潰れが軽減され、周囲へのはみ出しが少なくなり、接触部の浮き上がりが抑制される。この結果、接触部が取付面を押し付ける密着圧力が低くなることを抑制できる。
【0010】
第3態様に係るテンショナは、第2態様に係るテンショナにおいて、前記貫通孔を含んだ前記湾曲部の外径は、前記ボルトの頭部の外径以上とされている。
【0011】
第3態様に係るテンショナでは、フランジの貫通孔を含んだ湾曲部の外径は、ボルトの頭部の外径以上とされており、ボルトを貫通孔に挿通して締め付けるときに、ボルトの頭部は外周から先に湾曲部により確実に接触する。このため、フランジの貫通孔の周りの縁部は潰れが軽減され、周囲へのはみ出しがより確実に少なくなり、接触部の浮き上がりがより確実に抑制される。
【0012】
第4態様に係るテンショナは、第1態様から第3態様までのいずれか1つの態様に記載のテンショナにおいて、前記フランジの少なくとも前記縁部の厚さが、6mmより薄い。
【0013】
第4態様に係るテンショナでは、フランジの少なくとも縁部の厚さが6mmより薄く、ボルトの締結時にフランジが撓みやすい構成であるが、この場合でも、ボルトの締結位置から離れた位置で取付面に対するフランジの密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【0014】
第5態様に係るエンジン構造は、周回移動する無端状部材を備えたエンジンと、前記貫通孔に挿通されたボルトで前記フランジが前記エンジンの取付面に固定され、前記無端状部材にテンションを付与する第1態様から第4態様までのいずれか1つの態様に記載のテンショナと、を有する。
【0015】
第5態様に係るエンジン構造では、第1態様から第4態様までのいずれか1つの態様に記載のテンショナを備えており、フランジの2つの貫通孔にそれぞれボルトが挿通され、ボルトが締め付けられることで、フランジがエンジンの取付面に固定されている。このため、ボルトの締結位置から離れた位置でエンジンの取付面に対するフランジの密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、フランジをボルトで取付面に固定したときに、ボルトの締結位置から離れた位置で取付面に対するフランジの密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係るテンショナをエンジンに配置した状態を示す概略図である。
図2】第1実施形態に係るテンショナをシリンダブロックに取り付けたフランジ取付構造を示す概略断面図である。
図3A】第1実施形態に係るテンショナに用いられるフランジを示す正面図である。
図3B】第1実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの長手方向と直交する方向から見た側面図である。
図3C】第1実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの長手方向から見た側面図である。
図4】第1実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの貫通孔の周りの湾曲部を示す斜視図である。
図5A】第1実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの貫通孔の周りの湾曲部を示す、図3A中の5A-5A線に沿った断面図である。
図5B】第1実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの貫通孔の周りの湾曲部をフランジの側方から見た状態で示す断面図である。
図6】第1実施形態に係るテンショナにおいて、フランジの貫通孔にボルトを挿通してシリンダブロックに締め付ける過程を示す断面図である。
図7】第1実施形態に係るテンショナにおいて、フランジの貫通孔にボルトを挿通してシリンダブロックに締め付けた状態を示す断面図である。
図8A】第2実施形態に係るテンショナに用いられるフランジを示す斜視図である。
図8B】第2実施形態に係るテンショナに用いられるフランジを、フランジの貫通孔にボルトを挿通してシリンダブロックに締め付ける過程を示す断面図である。
図9A】第2実施形態に係るテンショナに用いられるフランジを示す正面図である。
図9B】第2実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの長手方向と直交する方向から見た側面図である。
図9C】第2実施形態に係るテンショナに用いられるフランジの長手方向から見た側面図である。
図10A】第1比較例に係るテンショナに用いられるフランジを示す正面図である。
図10B】第1比較例に係るテンショナに用いられるフランジの長手方向と直交する方向から見た側面図である。
図10C】第1比較例に係るテンショナに用いられるフランジの長手方向から見た側面図である。
図11A】第1比較例に係るテンショナに用いられるフランジの貫通孔にボルトを挿通してシリンダブロックに締め付ける過程を示す断面図である。
図11B】第1比較例に係るテンショナに用いられるフランジの貫通孔にボルトを挿通してシリンダブロックに締め付けた状態を示す断面図である。
図12A】第1実施例に係るフランジをボルトで取付面に締め付けたときの面圧を示す模式的な図である。
図12B】第2実施例に係るフランジをボルトで取付面に締め付けたときの面圧を示す模式的な図である。
図12C】第1比較例に係るフランジをボルトで取付面に締め付けたときの面圧を示す模式的な図である。
図13】第1比較例のテンショナに用いられるフランジの貫通孔にボルトを挿通して取付面に締め付ける状態を説明する斜視図および面圧を示す模式的な図である。
図14】第2実施例のフランジとシリンダブロックとの間にガスケットを介在させた取付構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1図7を用いて、第1実施形態に係るテンショナについて説明する。
【0020】
<テンショナ及びエンジンの構成>
図1には、第1実施形態に係るテンショナ100を備えたエンジン120の一例が示されている。図1に示されるように、テンショナ100は、エンジン120の取付面としてのシリンダブロック122に、フランジ10を介して固定される本体部102を備えている。すなわち、テンショナ100は、本体部102と、本体部102に設けられたフランジ10と、を備えている。本体部102は、フランジ10が取り付けられたベース部材104と、ベース部材104に沿って移動することが可能とされた推進部材106と、を備えている。図示を省略するが、テンショナ100は、推進部材106を無端状部材124の側に付勢する本体部としてのコイルバネなどを備えている。
【0021】
エンジン120は、無端状部材124が巻き掛けられる複数の回転体126、128と、無端状部材124をガイドすると共に軸部130Aを中心に揺動可能に支持されたガイド部130と、を備えている。無端状部材124は、例えば、タイミングチェーン又はタイミングベルトなどで構成されている。回転体126、128は、例えば、スプロケット又はプーリーなどで構成されている。上記のテンショナ100では、推進部材106が、ガイド部130の軸部130Aと反対側の部位を無端状部材124に向けて押すことで、周回移動する無端状部材124にテンションを付与するようになっている。
【0022】
図2には、第1実施形態に係るテンショナ100がシリンダブロック122に取り付けられたフランジ取付構造S32が示されている。フランジ取付構造S32は、エンジン構造の一例である。図2に示されるように、フランジ10は、後述するフランジ本体12に、ボルト30が挿通される2つの貫通孔14を備えている。ボルト30は、軸部30Aと頭部30Bとを備えており、軸部30Aにねじ部が形成されている。また、シリンダブロック122には、ボルト30の軸部30Aが螺合される2つのねじ孔132が設けられている。さらに、シリンダブロック122には、2つのねじ孔132の間に、テンショナ100の本体部102が挿入される穴部123が設けられている。
【0023】
フランジ本体12には、後述する突出部16が形成されている。図示を省略するが、突出部16と逆側のかしめ部にベース部材104がかしめられることで、ベース部材104にフランジ10が取り付けられている。フランジ取付構造S32では、フランジ本体12の2つの貫通孔14にボルト30がそれぞれ挿通され、ボルト30がシリンダブロック122のねじ孔132に締め付けられることで、フランジ10がシリンダブロック122に固定されている。すなわち、テンショナ100が、フランジ10を介してシリンダブロック122に固定されている。
【0024】
<フランジの構成>
図3A図3Cに示されるように、フランジ10は、板状のフランジ本体12を備えている。フランジ本体12は、例えば、図3Aに示す平面視にて略菱形形状の部材の角部を曲面状にカットした形状とされている。本実施形態では、図3Aに示す平面視にてフランジ本体12は、外径が最も大きい長径部12Aと、長径部12Aに対して直交する方向であって外径が最も小さい短径部12Bと、を備えている。すなわち、フランジ本体12は、長径部12Aに沿った方向が長手方向となり、短径部12Bに沿った方向が長手方向と直交する方向とされている。フランジ10は、フランジ本体12の中心部を含む位置に面方向に対して一方側に突出する突出部16を備えている。突出部16は、フランジ本体12の平面視にて略円形状に形成されている。突出部16の頂部は、略平面状とされており、フランジ本体12の中心部(本実施形態では突出部16の中心部)に略円形状の貫通孔18が形成されている。
【0025】
図3Aに示されるように、フランジ本体12の縁部12Cの対向する位置に、2つの貫通孔14が形成されている。本実施形態では、2つの貫通孔14は、フランジ本体12の長径部12A側の縁部12C(すなわち、突出部16より半径方向外側の略平面状の部位)に設けられている。言い換えると、2つの貫通孔14は、フランジ本体12の周方向の180°の位置に設けられている。貫通孔14は、フランジ本体12の平面視にて略円形状に形成されている。
【0026】
図3Cに示されるように、フランジ本体12には、2つの貫通孔14の間の縁部12Dが、貫通孔14が設けられた縁部12Cよりもボルト30の挿入方向側(図2参照)、すなわちシリンダブロック122(図5B参照)の側となるように曲げられた接触部20が設けられている。これにより、フランジ本体12をシリンダブロック122に接触させると、ボルト30の締結前の状態で接触部20がシリンダブロック122に接触するようになっている(図5B参照)。本実施形態では、接触部20は、フランジ本体12の2つの貫通孔14の中心を結ぶ仮想線(すなわち、長径部12A)に対して交差する方向(本実施形態では直交する方向)の縁部12Dに、2つの接触部20が設けられている。言い換えると、接触部20は、フランジ本体12の突出部16より半径方向外側の部位であって、2つの貫通孔14の間における短径部12B側の縁部12Dに設けられている。
【0027】
本実施形態では、フランジ本体12は、図3Cに示すフランジ本体12の短径部12Bと直交する方向(すなわち、長径部12Aの方向)から見て、フランジ本体12の中間部(すなわち、長径部12Aの側の縁部12C)に対して接触部20が距離Dだけ反った形状とされている。これにより、フランジ本体12の短径部12Bの両側の接触部20がシリンダブロック122に接触した状態で、フランジ本体12にばね性を持たせるようになっている。すなわち、フランジ10は、ボルト30を締結した後のフランジ本体12の撓みを見越し、あらかじめ2つの接触部20の間の貫通孔14の縁部12Cにばね性を持たせたものである。
【0028】
また、フランジ本体12の少なくとも縁部12C、12Dの厚さは、6.0mmより薄い。図3Bに示されるように、フランジ本体12の板厚tは、2.0mmより厚く、6.0mmより薄いことが好ましく、2.2mmより厚く、4.6mmより薄いことがより好ましい。本実施形態では、フランジ本体12の板厚tは、例えば、2.3mmとされている。フランジ本体12の板厚tが2.0mm以下であると、フランジ本体12とシリンダブロック122との密着圧力(すなわち面圧)が確保されない可能性がある。また、フランジ本体12の板厚tが6.0mm以上であると、コストが上昇すると共に、軽量化が難しくなる。
【0029】
図4には、フランジ本体12における貫通孔14の周りが斜視図にて示されている。また、図5Aは、図3A中の5A-5A線に沿った断面図であり、図5Bは、フランジ本体12の貫通孔14を側方(すなわち、短径部12Bと直交する方向)から見た状態で示す断面図である。図4図5A及び図5Bに示されるように、フランジ本体12の縁部12Cには、貫通孔14の周りのボルト30の挿入方向(図2参照)と反対側の面13に、ボルト30の挿入方向側、すなわちシリンダブロック122(図5B参照)の側に窪んだ湾曲部22が形成されている。フランジ本体12の貫通孔14の周りのボルト30の挿入方向(図2参照)と反対側の面13は、縁部12Cの突出部16側の面である。湾曲部22は、フランジ本体12の縁部12Cの面13の平面状の部位に対して、シリンダブロック122(図5B参照)の側に窪んでいる。湾曲部22は、フランジ本体12における貫通孔14の全周に連続して形成されている。湾曲部22は、フランジ本体12における貫通孔14の周りを加工することによって形成されている。なお、図3A図3Bでは、フランジ10の構成を分かりやすくするため、湾曲部22の図示を省略している。
【0030】
本実施形態では、図5A図5Bに示されるように、フランジ本体12の短径部12B(図3A参照)と直交する方向から見て、フランジ本体12の縁部12Cにおける貫通孔14の周りのボルト30の挿入方向側(図2参照)の面15、すなわちシリンダブロック122(図5B参照)側の面15は、略平面状に形成されている。すなわち、フランジ本体12の縁部12Cにおける貫通孔14の周りのシリンダブロック122(図5B参照)側の面15は、シリンダブロック122側に突出していない。なお、本実施形態では、フランジ本体12の縁部12Cにおける貫通孔14の周りの面15は、平面状とされているが、平面状に限定されず、例えば、ボルト30の挿入方向側(図2参照)に突出していてもよい。
【0031】
貫通孔14を含んだ湾曲部22の外径は、ボルト30(図2参照)の頭部30Bの外径以上とされている。本実施形態では、貫通孔14を含んだ湾曲部22の外径は、ボルト30の頭部30Bの外径より僅かに大きい。貫通孔14を含んだ湾曲部22の外径は、ボルト30の頭部30Bの外径に対して、例えば、0.1~1.0mm程度大きい構成としてよい。
【0032】
フランジ10は、例えば、鋼板材にプレス加工が施されることによって形成されている。
【0033】
<第1比較例のテンショナに用いられるフランジ>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する前に、第1比較例のテンショナに用いられるフランジについて説明する。
【0034】
図10A図10Cには、第1比較例のテンショナに用いられるフランジ150が示されている。
【0035】
図10A図10Cに示されるように、フランジ150は、板状のフランジ本体152を備えている。フランジ本体152の中心部を含む部位には、突出部16が設けられている。フランジ本体152の突出部16より半径方向外側には、長径部側の縁部152Cに2つの貫通孔14が設けられている。フランジ本体152における突出部16の周囲の縁部152C及び短径部側の縁部152Dは、略平面状とされている。すなわち、フランジ本体152の突出部16の周囲の縁部152Cには、ボルト30の挿入方向側(図2参照)、すなわちシリンダブロック122(図2参照)の側に曲げられた部位は設けられていない。また、フランジ本体152の縁部152Cにおける貫通孔14の周囲には、ボルト30の挿入方向側(図2参照)、すなわちシリンダブロック122(図2参照)の側に窪んだ湾曲部は設けられていない。フランジ本体152の板厚t1は、例えば、2.3mmとされている。貫通孔14の径は、φD1とされている(図11A参照)。
【0036】
図11Aに示されるように、ボルト30をフランジ150の貫通孔14に挿入して締め付けると、ボルト30の頭部30Bとフランジ150の縁部152Cが平面同士で接触する。ボルト30を締付トルクTで締め付けると、頭部30Bが貫通孔14の径φD1の内周側の部位30D付近で縁部152Cと接触する。このとき、図11Bに示されるように、ボルト30の頭部30Bとフランジ150の縁部152Cの接触で発生する摩擦トルクTm1は小さいため、ボルト30に発生する軸力F1は大きくなる。
【0037】
これにより、図11Bに示されるように、フランジ150の縁部152Cの貫通孔14周辺の部分は板厚方向に潰れされ、板厚がt1からt2となり、締付前の貫通孔14の径がφD1からφD2に拡径する。このため、フランジ150の縁部152Cは、貫通孔14の外側に押し出され、2つの貫通孔14の間に位置する部位がせり上がり、縁部152D(すなわち、2つの貫通孔14の間の縁部152D)がシリンダブロック122から浮いて密着圧力が低くなる(図12C参照)。
【0038】
<本実施形態の作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0039】
本実施形態のテンショナ100に設けられたフランジ10では、フランジ本体12の縁部12Cに対向して、ボルト30が挿通され2つの貫通孔14が設けられている。フランジ本体12には、2つの貫通孔14の中心を結ぶ仮想線に対して交差する方向(本実施形態では直交する方向)の縁部12Dが、貫通孔14が設けられた縁部12Cよりもボルト30の挿入方向側(図2参照)、すなわちシリンダブロック122の側となるように曲げられた接触部20が設けられている。フランジ10をシリンダブロック122に取り付ける際には、フランジ本体12の接触部20をシリンダブロック122に接触させる。このとき、フランジ本体12における貫通孔14が設けられた縁部12Cが、シリンダブロック122から浮いた状態となり、ばね性を有する(図5B参照)。
【0040】
これにより、2つの貫通孔14にボルト30の軸部30Aをそれぞれ挿通し、ボルト30の軸部30Aをシリンダブロック122のねじ孔132に締め付けると、フランジ本体12におけるボルト30の挿入方向側となるように曲げられた接触部20は、シリンダブロック122への密着圧力が高くなる。すなわち、ボルト30の締め付けが完了する前から接触部20がシリンダブロック122に接触し、さらにボルト30を締め付けることによって、接触部20のシリンダブロック122への高い密着圧力が得られる。このため、上記のフランジ10では、ボルト30の締結位置から離れた位置で、フランジ10のシリンダブロック122に対する密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【0041】
また、上記のフランジ10では、フランジ本体12の縁部12Cにおける貫通孔14の周りのボルト30の挿入方向(図2参照)と反対側の面13に、ボルト30の挿入方向側、すなわちシリンダブロック122(図5B参照)の側に窪んだ湾曲部22が形成されている。これにより、図6に示されるように、ボルト30を貫通孔14に挿通して締め付けると、ボルト30の頭部30Bは外周から先に接触径φD3で湾曲部22に接触する。これにより、図7に示されるように、締付トルクTによって発生する摩擦トルクTm2が大きく、ボルト30に発生する軸力F2が小さくなる。このため、フランジ本体12の貫通孔14の周りの縁部12Cは潰れが軽減され、周囲へのはみ出しが少なくなり、接触部20のシリンダブロック122からの浮き上がりが抑制される。この結果、接触部20がシリンダブロック122を押し付ける密着圧力が低くなることが抑制される。
【0042】
また、上記のフランジ10では、貫通孔14を含んだ湾曲部22の外径は、ボルト30の頭部30Bの外径以上とされている。本実施形態では、貫通孔14を含んだ湾曲部22の外径は、ボルト30の頭部30Bの外径より僅かに大きい。これにより、ボルト30の軸部30Aを貫通孔14に挿通してシリンダブロック122のねじ孔132に締め付けるときに、ボルト30の頭部30Bが外周から先に湾曲部22により確実に接触する。このため、フランジ10の貫通孔14の周りの縁部12Cは潰れが軽減され、周囲へのはみ出しがより確実に少なくする。したがって、接触部20のシリンダブロック122からの浮き上がりをより確実に抑制することができる。
【0043】
また、上記のフランジ10では、フランジ本体12の少なくとも縁部12C、12Dの厚さが、6mmより薄い。このフランジ10では、ボルト30の締結時にフランジ本体12が撓みやすいが、この場合でも、ボルト30の締結位置から離れた位置でフランジ10のシリンダブロック122に対する密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【0044】
〔第2実施形態〕
図8A図9Cを用いて、第2実施形態に係るテンショナについて説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0045】
図8A図8B及び図9A図9Cに示されるように、本実施形態のテンショナ100に設けられるフランジ40は、板状のフランジ本体42を備えている。フランジ本体42には、突出部16より半径方向外側の縁部12Cに対向して2つの貫通孔14が形成されている(図9A参照)。本実施形態では、フランジ本体42の長径部12A側の縁部12Cに2つの貫通孔14が形成されている(図9A参照)。フランジ本体42には、2つの貫通孔14の中心を結ぶ仮想線に対して交差する方向(本実施形態では直交する方向)の縁部12Dが、貫通孔14が設けられた縁部12Cよりもボルト30の挿入方向側(図8B参照)、すなわちシリンダブロック122の側となるように曲げられた接触部20が設けられている。すなわち、接触部20は、フランジ本体42の突出部16より半径方向外側の部位であって、2つの貫通孔14の間における短径部12B側の縁部12Dに設けられている。本実施形態では、フランジ本体42の板厚tは、例えば、2.3mmとされている。
【0046】
図8A図8Bに示されるように、フランジ40には、フランジ本体42における貫通孔14の周りは略平板状とされている。すなわち、本実施形態のフランジ40には、貫通孔14の周りのボルト30の挿入方向(図8B参照)と反対側の面13に、ボルト30の挿入方向側、すなわちシリンダブロック122の側に窪んだ湾曲部は設けられていない。
【0047】
上記のフランジ40では、フランジ本体42の接触部20をシリンダブロック122に接触させると、フランジ本体42における貫通孔14が設けられた縁部12Cが、シリンダブロック122から浮いた状態となり、ばね性を有する(図8B及び図9C参照)。
【0048】
これにより、2つの貫通孔14にボルト30の軸部30Aをそれぞれ挿通し、ボルト30の軸部30Aをシリンダブロック122のねじ孔132に締め付けると、フランジ本体42におけるボルト30の挿入方向側となるように曲げられた接触部20は、シリンダブロック122への密着圧力が高くなる。すなわち、ボルト30の締め付けが完了する前から接触部20がシリンダブロック122に接触し(図8B参照)、さらにボルト30を締め付けることによって、シリンダブロック122への接触部20の高い密着圧力が得られる。このため、上記のフランジ40では、ボルト30の締結位置から離れた位置で、フランジ40のシリンダブロック122に対する密着圧力が低くなることを抑制することができる。
【0049】
〔実施例〕
第1実施例としてのフランジ10、第2実施例としてのフランジ40、第1比較例としてのフランジ150を用い、ボルト30で取付面に固定したときの面圧を図12A図12Cに示す。
【0050】
図12Aには、第1実施例のフランジ10を用い、フランジ10をボルト30で取付面のねじ孔に固定したときの面圧の測定結果が模式的に示されている。また、図12Bには、第2実施例のフランジ40を用い、フランジ40をボルト30で取付面のねじ孔に固定したときの面圧の測定結果が模式的に示されている。さらに、図11Cには、第1比較例のフランジ150を用い、フランジ150をボルト30で取付面のねじ孔に固定したときの面圧の測定結果が模式的に示されている。ここで、取付面は、実験用の治具であり、シリンダブロック122の取付部分(図2参照)とほぼ同じ構成とされている。また、図12A図12Cでは、フランジの縁部のドットが密になるほど面圧が高いことを表している。
【0051】
図12Cに示されるように、第1比較例のフランジ150では、ボルト30の締結位置の間、すなわち2つの貫通孔の間の縁部で、面圧の低い箇所が発生していることが分かる。図11Aに示されるように、第1比較例のフランジ150では、シリンダブロック122に取り付ける際に、ボルト30の軸部30Aを貫通孔14に挿通し、シリンダブロック122のねじ孔132に締め付ける。これにより、図11Bに示されるように、ボルト30の締付けトルクが上昇するにつれて、フランジ本体152における貫通孔14の周囲がシリンダブロック122に対して浮き上がる。図13に示されるように、フランジ本体152におけるボルト30の周囲が矢印Aの方向に反り上がることで、フランジ本体152における貫通孔14から離れた縁部152Dが矢印Bの方向(すなわち、シリンダブロック122から離れる方向)に浮き上がる。このため、ボルト30の締結時にフランジ150に撓みが発生し、ボルト30の締結位置から離れた位置で面圧の低い箇所が発生している。なお、ここでいう「浮き上がる」は、図12Cに示されるように面圧が発生する(すなわち、シリンダブロックとフランジが接している)状態を維持しているが、さらに浮き上がると面圧はゼロになる状態である。
【0052】
これに対し、図12Aに示されるように、第1実施例のフランジ10では、図12Cに示す第1比較例のフランジ150と比較して、ボルト30の締結位置の間、すなわち2つの貫通孔の間の縁部の面圧と、貫通孔の周囲の面圧との差が少なく、面圧の低い箇所が少ないことがわかる。また、図12Bに示されるように、第2実施例のフランジ40では、図12Cに示す第1比較例のフランジ150と比較して、ボルト30の締結位置の間、すなわち2つの貫通孔の間の縁部の面圧と、貫通孔の周囲の面圧との差が少なく、面圧の低い箇所が少ないことがわかる。第1実施例のフランジ10と第2実施例のフランジ40を比較すると、貫通孔14の周りに湾曲部22を設けることで(図4等参照)、面圧の低い箇所がより少なくなることが分かる。
【0053】
図14には、第2実施例のフランジ40の取付構造S170の一例が示されている。図14に示されるように、第2実施例のフランジ40の取付構造S170では、フランジ40とシリンダブロック122との間にガスケット172が設けられている。ガスケット172は、略平板状とされており、縁部172Aにボルト30が挿通される貫通孔174が設けられている。ガスケット172の中央部には、開口部178が形成されている。
【0054】
第2実施例のフランジ40の取付構造S170では、フランジ40とシリンダブロック122との間にガスケット172を介在させても、上記フランジ40の構成によりフランジ40の2つの貫通孔14の間の縁部12Dの面圧を高めることができる。
【0055】
また、図示を省略するが、第1実施例のフランジ10とシリンダブロック122との間にガスケット172を介在させた場合にも、上記フランジ10の構成によりフランジ40の2つの貫通孔14の間の縁部12Dの面圧を高めることができる。
【0056】
なお、第1及び第2実施形態において、平面視でのフランジ10、40の外形形状は変更が可能である。また、フランジ10、40に突出部16が設けられていたが、突出部16を設けない構成でもよい。
【0057】
フランジを貫通孔を結ぶ仮想線で屈曲した形状としたが、これに限らず、仮想線から離れた位置で屈曲してもよい。例えば、図3Cにて上面に平坦部を設けた台形形状にしてもよい。
【0058】
また、第1及び第2実施形態では、フランジ10、40にボルト30が挿通される2つの貫通孔14が設けられ、2つの貫通孔14の中心を結ぶ仮想線に対して直交する方向に2つの接触部20が設けられていたが、貫通孔の位置及び接触部の位置は、変更可能である。例えば、フランジ本体の縁部に対向して(すなわち、周方向の180°の位置でなくてもよい)、2つの貫通孔を備え、2つの貫通孔の中心を結ぶ仮想線に対して交差する方向に2つの接触部が設けられている構成でもよい。
【0059】
また、第1及び第2実施形態では、フランジ10、40をボルト30でシリンダブロック122のねじ孔132に締め付ける構成であるが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、テンショナに設けられたフランジをエンジンの取付面にボルトとナットを用いて固定する構成でもよい。
【0060】
また、第1及び第2実施形態では、テンショナに設けられたフランジをエンジンの取付面に固定する構成であるが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、テンショナに設けられたフランジをエンジン以外の他の部品の取付面に固定する場合に本開示を適用してもよい。
【0061】
なお、本開示を特定の実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【0062】
日本出願2018-063852の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14