(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ルテニウム錯体触媒を使用してニトリルゴムを製造するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C08C 19/08 20060101AFI20230322BHJP
C08C 19/02 20060101ALI20230322BHJP
C08F 4/80 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C08C19/08
C08C19/02
C08F4/80
(21)【出願番号】P 2020529315
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2018083643
(87)【国際公開番号】W WO2019110658
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-03
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー・オブレヒト
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ダーヴィト
(72)【発明者】
【氏名】ヒヤム・サレム
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-224303(JP,A)
【文献】特開2009-106929(JP,A)
【文献】国際公開第2016/058062(WO,A1)
【文献】特開2009-057555(JP,A)
【文献】特表2013-532667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/08
C08C 19/02
C08F 4/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセスであって、前記ニトリルゴムを
、共オレフィンの存在下
又は非存在下で、一般式(IA)
【化1】
[式中、
X
1及びX
2は、同一であっても異なっていてもよい、
ハロゲンから選択されるアニオン性配位
子を表し、
R
1は、直鎖状又は分岐状の脂肪族のC
1~C
20-アルキル、C
3~C
20-シクロアルキル、C
5~C
20-アリール、
又はCHCH
3-CO-CH
3
を表し、
R
2は、水素、ハロゲン、C
1~C
6-アルキル、又はC
1~C
6-アルケニルを表し、
R
3は
、-F、-Cl、-Br、-I、-NO、-NO
2、-CF
3、-OCF
3、-CN、-SCN、-NCO、-CNO、-COCH
3、-COCF
3、-CO-C
2F
5、-SO
3、-SO
2-N(CH
3)
2、アリールスルホニル、アリールスルフィニル、アリールカルボニル、アルキルカルボニル、アリールオキシカルボニル、
及び-NR
4-CO-R
5
からなる群から選択される電子吸引性基を表すが、ここでR
4及びR
5は、同一であっても異なっていてもよく、そしてそれぞれ独立して、以下のものであってよく:H、C
1~C
6-アルキル、ペルハロゲン化C
1~C
6-アルキル、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、ニトリル
、置換された
又は非置換のアリール、ピリジニウム-アルキル、ピリジニウム-ペルハロアルキル、又
はシクロヘキシル、C
nH
2nY若しくはC
nF
2nY基(n=1~6)、そしてYは、次式(EWG1)、(EWG2)又は(EWG3)のうち1つのイオン性の基又はラジカルを表し、
【化2】
(式中、
R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は、独立して、H、C
1~C
6-アルキル、C
1~C
6-ペルハロアルキル、又はC
5~C
6-アリールを表すが、R
9、R
10、R
11が、複素環を形成してもよく、
X
3は、アニオン、ハロゲン、テトラフルオロボレート([BF
4]
-)、[テトラキス-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート]([BARF]
-)、ヘキサフルオロホスフェート([PF
6]
-)、ヘキサフルオロアンチモネート([SbF
6]
-)、ヘキサフルオロアルセネート([AsF
6]
-)、
又はトリフルオロメチルスルホネート([(CF
3)
2N]
-)を表す);
R
4及びR
5は、それらが結合されているN及びCと合体して、次式の(EWG4)又は(EWG5)の複素環を形成してもよく、
【化3】
(式中、
halは、ハロゲンであり、そして
R
12は、水素、C
1~C
6-アルキル、C
5~C
6-シクロアルキル、又はC
5~C
6-アリールである)、
Lは、一般式(L1)又は(L2)のNHC配位子を表し、
【化4】
(式中、
R
13は、水素、C
1~C
6-アルキル、C
3~C
30-シクロアルキル、又はC
5~C
30-アリールであり、
R
14及びR
15は、同一であっても異なっていてもよく、そして
0から3個までのヘテロ原子を含む、直鎖状又は分岐状のC
3~C
30-アルキル、C
3~C
30-シクロアルキル、C
5~C
30-アリール、C
5~C
30-アルクアリール、
及びC
5~C
30-アラルキル
からなる群から選択される基である。)]
のルテニウム錯体触媒と接触させ、反応させることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
Lが、式L1a、L2a、L1b、L2b、L1c、L2c、L1d、L2d、L1e、及びL2e
【化5】
【化6】
のNHC配位子に相当することを特徴とする、請求項1に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項3】
前記NHC配位子が、式L1a、L2a、L1b、L2b、L1c、又はL2
cに合致することを特徴とする、請求項1又は2に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項4】
前記電子吸引性基のR
3が、-F、-Cl、-Br、-I、-NO、-NO
2、-CF
3、-OCF
3、-CN、-SCN、-NCO、-CNO、-COCH
3、-COCF
3、-CO-C
2F
5、-SO
3、-SO
2N(CH
3)
2、-NHCO-H、-NH-CO-CH
3、-NH-CO-CF
3、-NHCO-OEt、-NHCO-OiBu、-NH-CO-COOEt、-CO-NR
2、-NH-CO-C
6F
5、又は-NH(CO-CF
3)
2であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項5】
前記電子吸引性基のR
3が、-Cl、-Br、-NO
2、-NH-CO-CF
3、-NH-CO-OiBu、又は-NH-CO-COOE
tであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項6】
X
1
及びX
2
は、同一であっても異なっていてもよく、F、Cl、Br、及びIから選択されるアニオン性配位子を表し、かつ
R
1
は、直鎖状又は分岐状の脂肪族のC
1
~C
20
-アルキル、C
3
~C
20
-シクロアルキル、C
5
~C
20
-アリール、CHCH
3
-CO-CH
3
、シクロヘキシル、又はフェニル、あるいはメチル、エチル、イソプロピル、イソアミル、及びt-ブチルからなる群から選択される直鎖状又は分岐状の脂肪族のC
1
~C
20
-アルキルを表す、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ルテニウム錯体触媒が、次式:
【化7】
のうち1つに合致することを特徴とする、請求項1~
6のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項8】
前記ルテニウム錯体触媒が、M71 SIPr、M73 SIPr、又はM74 SIP
rであることを特徴とする、請求項
7に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項9】
使用される前記触媒の量が、使用される前記ニトリルゴムを基準にして、5~1000pp
mの貴金属
となる量である、請求項
1~8のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項10】
エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレン、1-ドデセン、1-ヘキセン、及び1-オクテン
からなる群から選択される共オレフィンの存在下に実施される、請求項
1~9のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項11】
前記反応混合物中の前記ニトリルゴムの濃度が、前記反応混合物全体を基準にして、1重量%~30重量%の範
囲である、請求項
1~10のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項12】
10℃~150℃の範
囲の温度で実施される、請求項
1~11のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項13】
1種又は複数のさらなる共重合性モノマ
ーが使用され、共重合性モノマーがα,β-不飽和モノ-若しくはジカルボン酸又はそのエステル又はそのイミド
から選択される、請求項
1~12のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項14】
前記ニトリルゴムのメタセシス反応に続けて、前記ニトリルゴムの中の不飽和C=C二重結合の水素化反応が実施される、請求項
1~13のいずれか
一項に記載のニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセス。
【請求項15】
請求項1において定義した一般式(IA)のルテニウム錯体触媒の使用であって、ニトリルゴムのメタセシスのためのメタセシス反応におけ
る使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にN-ヘテロサイクリックカルベン配位子、そして特には少なくとも1種の電子吸引性基を有する橋架けされたカルベン配位子を有する特定のルテニウム錯体触媒の存在下に第1のニトリルゴムをメタセシス反応させて、低減された分子量を有するニトリルゴムを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
メタセシス反応は、化学合成の文脈においては、たとえば、閉環メタセシス(RCM)、交叉メタセシス(CM)、開環メタセシス(ROM)、開環メタセシス重合(ROMP)、環状ジエンメタセシス重合(ADMET)、自己メタセシス反応、アルケンとアルキンとの反応(エン-イン反応)、アルキンの重合、及びカルボニルのオレフィン化反応の形態で、積極的に使用されている。メタセシス反応は、たとえば、オレフィンの合成のため、ノルボルネン誘導体の開環重合のため、不飽和ポリマーの解重合のため、及びテレケリックの合成のために採用される。
【0003】
これらの反応の触媒作用のためには、チタン、タングステン、モリブデン、ルテニウム、及びオスミウムをベースとする各種の触媒の広範な変種が利用可能であり、それらは、たとえば、以下の文献に記載されている:Katz(非特許文献1)、Bassett(非特許文献2)、Schrock((非特許文献3);(非特許文献4);(非特許文献5))、Grubbs((特許文献1);(特許文献2);(特許文献3))、Herrmann(非特許文献6)、Hoveyda(特許文献4)、Hill-Fuerstner((非特許文献7);(非特許文献8))、Fogg(非特許文献9)、Buchmeiser-Nuyken((非特許文献10);(非特許文献11))、Nolan(特許文献5)、Dixneuf(特許文献6)、Mol(非特許文献12)、Wagener(非特許文献13)、Piers(特許文献7)、Grela(特許文献8)、Barbasiewicz(非特許文献14)、Mauduit(特許文献9)、Arlt(特許文献10)、Berke(特許文献11)、Zahn((特許文献12)、(特許文献13))、並びにCiba Special Chemicals((特許文献14);(特許文献15))、及びBoehringer Ingelheim((非特許文献15);(非特許文献16))。
【0004】
記載されている触媒は、各種の前述のメタセシス反応に対する適性が種々異なっている。上述の触媒は、極性基、特にニトリル基を有する基質のメタセシス反応の触媒作用には必ずしも適していないが、その理由は、極性基に耐えられるメタセシス触媒がほとんど存在しないからである。ニトリルゴムのメタセシスにおいては、次の点で適切な触媒の選択がさらに制限される、すなわち、工業的規模で乳化重合により調製されたニトリルゴムには、ニトリル基だけではなく、さらに、プロセス特有の不純物、たとえば開始剤、レドックス系、連鎖移動剤、脂肪酸、又は抗酸化剤などが含まれており、それらが、触媒毒として働くからである。さらなる困難或いは危険性は、ニトリルゴムが容易にゲル化して、ポリマーを不溶化してしまうことで、それにより、使用分野がさらに制限される。さらに、そのポリマーはもはや、十分に混合することが不可能となり、その結果、最終製品に欠陥が生じる。
【0005】
ニトリルゴムのメタセシスに原理的に適していて、上述の基準を各種のレベルで満たす触媒が、たとえば以下の特許に記載されている:(特許文献16)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献17)、(特許文献18)、及び(特許文献19)、並びに(特許文献20)。
【0006】
(特許文献16)には、ニトリルゴムのメタセシスのための、次の一般構造(I)を有するGrubbs-Hoveyda IIタイプの遷移金属-カルベン錯体触媒が記載されている:
【化1】
[式中、
Mは、ルテニウム又はオスミウムであり、
Yは、酸素(O)、硫黄(S)、N-R
1基若しくはP-R
1基(ここで、R
1は以下に述べる定義を有する)であり、
X
1及びX
2は、同一であっても異なっていてもよい配位子を表し、
R
1は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル基を表すが、それらはすべて、それぞれ任意選択により場合によっては、1個又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって置換されていてもよく、
R
2、R
3、R
4及びR
5は、同一であっても異なっていてもよく、水素又は有機若しくは無機の基を表し、
R
6は、水素又はアルキル、アルケニル、アルキニル若しくはアリール基であり、そして
Lは、配位子である。]
【0007】
一般式(I)の触媒において、Lは、配位子、典型的には、電子供与体機能を有する配位子である。Lは、P(R7)3基を表すことができるが、ここでR7は、独立して、C1~C6-アルキル、C3~C8-シクロアルキル、若しくはアリール、又はそうでなければ、任意選択により場合によっては置換されたイミダゾリジン基(「Im」)である。
【0008】
イミダゾリジン基(Im)は、典型的には、一般式(IIa)又は(IIb)の構造を有している。
【化2】
[式中、
R
8、R
9、R
10、R
11は、同一であっても異なっていてもよく、以下のものである:水素、直鎖状若しくは分岐状のC
1~C
30-アルキル、好ましくはC
1~C
20-アルキル、C
3~C
20-シクロアルキル、好ましくはC
3~C
10-シクロアルキル、C
2~C
20-アルケニル、好ましくはC
2~C
10-アルケニル、C
2~C
20-アルキニル、好ましくはC
2~C
10-アルキニル、C
6~C
24-アリール、好ましくはC
6~C
14-アリール、C
1~C
20-カルボキシレート、好ましくはC
1~C
10-カルボキシレート、C
1~C
20-アルコキシ、好ましくはC
1~C
10-アルコキシ、C
2~C
20-アルケニルオキシ、好ましくはC
2~C
10-アルケニルオキシ、C
2~C
20-アルキニルオキシ、好ましくはC
2~C
10-アルキニルオキシ、C
6~C
20-アリールオキシ、好ましくはC
6~C
14-アリールオキシ、C
2~C
20-アルコキシカルボニル、好ましくはC
2~C
10-アルコキシカルボニル、C
1~C
20-アルキルチオ、好ましくはC
1~C
10-アルキルチオ、C
6~C
20-アリールチオ、好ましくはC
6~C
14-アリールチオ、C
1~C
20-アルキルスルホニル、好ましくはC
1~C
10-アルキルスルホニル、C
1~C
20-アルキルスルホネート、好ましくはC
1~C
10-アルキルスルホネート、C
6~C
20-アリールスルホネート、好ましくはC
6~C
14-アリールスルホネート、及びC
1~C
20-アルキルスルフィニル、好ましくはC
1~C
10-アルキルスルフィニル。
【0009】
特に好適なイミダゾリジン基(Im)は、次の構造(IIIa~IIIf)を有するが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6-トリメチルフェニル基である:
【化3】
【0010】
明確に記載されている触媒は、次の構造のものであるが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6-トリメチルフェニルである:
【化4】
【0011】
Hoveydaタイプの触媒によって、ニトリルゴムを基準にして8.6ppm~161ppmの範囲のRu投入量(Ru inputs)で、1-オレフィンの存在下にニトリルゴムの交叉メタセシスが可能となる。8.6~23.8ppmのRu投入量範囲では、Hoveyda触媒及びGrela触媒は、Grubbs II触媒(G II)よりも、同一のRu使用量では、高い活性を有している。(特許文献16)の教示では、ニトリルゴムのメタセシスにおける効率をさらに改良できるようにするためには、触媒がどのような構造特性を持たねばならないかが、明らかにされていない。より詳しくは、NHC置換基及び芳香族カルベン配位子に関する設計についての詳細が欠けている。
【0012】
(特許文献17)には、次の一般的構造特性を有する触媒が記載されている:
【化5】
明示されているのは次の触媒である:
【化6】
【0013】
同等のRu使用量であれば、これらの触媒は、Grubbs II触媒よりも高い活性を有している。
【0014】
ニトリルゴムのメタセシスの場合の、(特許文献17)に記載されている触媒の欠点は、商業的に使用するには、その触媒活性が低すぎることである。
【0015】
(特許文献11)には、次の構造特性を有する遷移金属-カルベン錯体触媒が記載されており:
【化7】
明示されているのは次のフルオレニリデン錯体触媒である:
【化8】
【0016】
フルオレニリデン錯体は、幅広い使用スペクトルを有していて、ニトリルゴムの分解も含めて各種のメタセシス反応の広い変法で使用することができる。しかしながら、それらの活性は、ニトリルゴムのメタセシスには不十分である。
【0017】
(特許文献10)に記載のArlt触媒が、(特許文献18)において、ニトリルゴムのメタセシスのために使用されている。
【化9】
【0018】
(特許文献18)及び(特許文献19)において、Arlt触媒が、0.003phr、0.007phr、及び0.15phrの3種の使用量で、Grubbs II触媒と比較されている。6回の実験で、ニトリルゴムの分解が、4phrの1-ヘキセンの存在下における交叉メタセシスとして実施されている。Grubbs II触媒と比較すると、Arlt触媒は、Grubbs II触媒よりも低いモル質量(Mw及びMn)を与える。(特許文献18)では、Arlt触媒の活性とGrubbs-Hoveyda II触媒(GH II)の活性との比較をしていないが、(特許文献16)から、Grubbs-Hoveyda II触媒(GH II)は、Grubbs II触媒よりも高い活性を有していることが知られている。さらに、(特許文献18)の教示では、ニトリルゴムのメタセシスにおいてGrubbs-Hoveyda触媒よりも高い活性を有するためには、メタセシス触媒の化学構造をどのように変化させるべきかについて明らかにしていない。
【0019】
(特許文献20)には、単座N-含有配位子及び二座N-含有配位子並びにO-含有配位子系を有する数多くの触媒が記載されているが、それらの配位子は、それぞれの場合において、炭素カルベンに対して、芳香族系のo位置において結合されている。これらの触媒の利用として、RCM及びROMPの実施が挙げられているが、公知の触媒との比較がされておらず、そのため、触媒活性の相対的評価がまったく不可能である。さらには、二重結合含有ゴムたとえば、ニトリルゴム(NBR)、スチレン/ブタジエンゴム(SPR及びSBS)、及びブチルゴム(IIR)のメタセシス及び水素化が記述されているが、メタセシスと水素化とを、順次に実施することも、同時に実施することも可能である。市販のニトリルゴムのメタセシス、並びに同時のメタセシス及び水素化についての実施例が開示されている。30℃~100℃の範囲内の温度で、クロロホルム又はクロロベンゼン中、0.04重量%、0.07重量%、及び0.1重量%の触媒4aaを使用し、1-オレフィンは使用せずに、そのメタセシスを実施している。触媒4abを使用し、同じ触媒量を用いて、メタセシスと水素化の同時実施をしている。
【化10】
【0020】
(特許文献20)の詳細に基づいたとしても、メタセシス反応、より具体的にはニトリルゴムのメタセシスに関しての、配位子系の最適化についての予測をすることは不可能である。
【0021】
上述の特許明細書の中でメタセシスに関連して記述されている触媒は、ニトリルゴム、及びそのニトリルゴムの中に存在している不純物には耐えることができる。しかしながら、それらの触媒の活性は、コスト的な観点からは不十分である。
【0022】
(特許文献9)には、以下の構造特性を有する、Grubbs-Hoveyda IIタイプの置換された触媒が記載されている(以後、「Mauduit触媒」と呼ぶ):
【化11】
[式中、
Lは、電荷を持たない配位子であり、
X及びX’は、アニオン性配位子を表し、
R
1及びR
2は、独立して、以下のものであり:H、C
1~C
6-アルキル、ペルハロゲン化C
1~C
6-アルキル、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、ニトリル、任意選択により場合によっては置換されたアリール、ピリジニウム-アルキル、ピリジニウム-ペルハロアルキル、又は任意選択により場合によっては置換されたC
5~C
6シクロヘキシル、C
nH
2nY若しくはC
nF
2nY基(n=1~6、そしてYは、次式のうち1つのイオン性の基又はラジカルを表す)
【化12】
R
3は、C
1~C
6-アルキル、又はC
5~C
6-シクロアルキル、又はC
5~C
6-アリールであり、
R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は、独立して、H、C
1~C
6-アルキル、C
1~C
6-ペルハロアルキル、又はC
5~C
6-アリールであり、
R
9、R
10、R
11は、複素環を形成してもよく、
X
1は、アニオン、ハロゲン、テトラフルオロボレート([BF
4]
-)、[テトラキス-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート]([BARF]
-)、ヘキサフルオロホスフェート([PF
6]
-)、ヘキサフルオロアンチモネート([SbF
6]
-)、ヘキサフルオロアルセネート([AsF
6]
-)、トリフルオロメチルスルホネート([(CF
3)
2N]
-)であり;
R
1及びR
2は、それらが結合されているN及びCと共に、次式の複素環を形成してもよく、
【化13】
(式中、
halは、ハロゲンであり、そしてR
12は、水素、C
1~C
6-アルキル、C
5~C
6-シクロアルキル、又はC
5~C
6-アリールである。)]
【0023】
一つの好ましい実施態様においては、Lが、P(R13)3であるが、ここでR13は、C1~C6-アルキル、C5~C6-アリール、又はC5~C6-シクロアルキルである。
【0024】
それに代わる好ましい実施態様においては、Lが、式7a、7b、7c、7d、又は7eの配位子である:
【化14】
式中、n
1=0、1、2、3であり;
R
14、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26、R
27、R
28は、独立して、C
1~C
6-アルキル、C
3~C
20-シクロアルキル、C
2~C
20-アルケニル、ナフチル、アントラセン、又はフェニルであるが、ここで、そのフェニルは、任意選択により場合によっては、C
1~C
6-アルキル、C
1~C
6-アルコキシ、及びハロゲンを含む群から選択される最大5個の基によって置換されていてもよく、
R
16とR
17、並びにR
26とR
27は、3、4、5、6、又は7個の結合を有する環を形成してもよく、
R
28は、独立して、6個の結合を有する芳香族環を形成してもよい。
【0025】
選択されたMauduit触媒は、たとえば、以下のものである:
【化15】
【0026】
Mauduit触媒は、リサイクルが容易であるという特徴を有していて、そのために、低い貴金属含量で、メタセシス反応生成物を調製することが可能となる。最も好ましい場合においては、Mauduit触媒によって、10ppm~20ppm未満のルテニウム含量しか有さない反応生成物を調製することが可能となる。
【0027】
(特許文献9)においては、それに記載されている触媒は、多くのメタセシス反応に適してはいるものの、ニトリルゴムのメタセシスについての言及はない。さらに、(特許文献9)では、ニトリルゴムのメタセシスにおける触媒の量を低下させるための、触媒構造、特にNHC配位子の構造の最適化についての指針が欠けている。(特許文献9)には、同様に、添加物の添加によって、ニトリルゴムのメタセシス反応を加速させることが可能かどうかについての指針も含まれない。
【0028】
さらに、特許文献には、それを用いると、特にニトリルゴムのメタセシスのためのメタセシス触媒の活性を向上させることが可能な、多くの添加物が記載されている((特許文献21)、(特許文献22)、(特許文献23)、(特許文献17)、(特許文献24)、(特許文献25)、(特許文献26))。
【0029】
これらの特許明細書では、活性を向上させるための、以下のものの使用が記載されている:塩たとえば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなど、並びに化合物たとえば、ホウ酸エステル、三フッ化ホウ素-エーテルのアダクト、遷移金属のエステルたとえば、テトラアルコキシチタネートなど。しかしながら、これらの特許明細書からは、ニトリルゴムのメタセシスにおいて特に高い活性を有するようにするためには、ルテニウム含有又はオスミウム含有遷移金属錯体がどのような構造特性を有していなければならないかについて推測することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【文献】国際公開第A00/71554号パンフレット
【文献】国際公開第A2007/08198号パンフレット
【文献】国際公開第A03/011455号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第A2002/0107138号明細書
【文献】国際公開第A00/15339号パンフレット
【文献】国際公開第1999/28330号パンフレット
【文献】国際公開第A2005/121158号パンフレット
【文献】国際公開第A2004/035596号パンフレット
【文献】国際公開第A2008/065187号パンフレット
【文献】国際公開第A2008/034552号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第A2027920号明細書
【文献】米国特許出願公開第A2007/0043180号明細書
【文献】国際公開第A2011/079439号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第A0993465号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A0839821号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A1826220号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2028194号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2289622号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2289623号明細書
【文献】国際公開第A2011/079799号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第A1760093号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A1894946号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2027919号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2030988号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2143489号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2147721号明細書
【非特許文献】
【0031】
【文献】Katz:Tetrahedron Lett.,47,4247~4250(1976)
【文献】Bassett:Angew.Chem.Int.Ed.,31,628~631(1992)
【文献】Schrock:J.Am.Chem.Soc.,108,2271~2273(1986)
【文献】Schrock:Catal.,46,243~253(1988)
【文献】Schrock:Organometallics,9,2262~2275(1990)
【文献】Herrmann:Angew.Chem.Int.Ed.,37,2490~2493(1998)
【文献】Hill-Fuerstner:J.Chem.Soc.Dalton Trans.,1999,285~291
【文献】Hill-Fuerstner:Chem.Eur.J.,2001,7,No.22,4811~4820
【文献】Fogg:Organometallics,2003,22,3634
【文献】Buchmeiser-Nuyken:Macromol.Symp.,2004,217,179~190
【文献】Buchmeiser-Nuyken:Chem.Eur.J.,2004,10,777~784
【文献】Mol:J.C.Adv.Synth.Catal.,2002,344,671~677
【文献】Wagener:Macromolecules,2003,36,8231,8239
【文献】Barbasiewicz:Organometallics,2012,31,3171~3177
【文献】Boehringer Ingelheim:Org.Process Res.Dev.,2005,9、513
【文献】Boehringer Ingelheim:J.Org.Chem.,2006,71,7133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
したがって、本発明が取り組もうとしている課題は、公知の触媒、特にGrubbs II、Grubbs III、又はGrubbs-Hoveyda IIのタイプの触媒よりも高い活性を有し、そして極めて実質的にゲルを生成させることなく且つPDIを増大させることなく、分子量の低下を可能とする触媒をベースとする、ニトリルゴム、特に市販のニトリルゴムのメタセシスのためのプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
驚くべきことには、少なくとも1種の電子吸引性基(EWG)を有する橋架けされたカルベン配位子を含むルテニウム錯体触媒が、これらのルテニウム錯体触媒が、o位及びo’位に、立体的に制約のある(sterically demanding)置換基をそれぞれ有する二つのフェニル環によって置換されたNHC配位子をさらに含む場合には、所望の要求性能を満たすということが見出された。
【0034】
したがって、本発明が取り組もうとしている課題は、ニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセスによって、解決することが可能であり、ここで、メタセシス反応において、ニトリルゴムを、一般式(IA)のルテニウム錯体触媒と接触させる:
【化16】
[式中、
X
1及びX
2は、同一であっても異なっていてもよく、アニオン性配位子、好ましくはハロゲン、より好ましくはF、Cl、Br、I、特に好ましくはClを表し、
R
1は、直鎖状又は分岐状の脂肪族のC
1~C
20-アルキル、C
3~C
20-シクロアルキル、C
5~C
20-アリール、CHCH
3-CO-CH
3、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、イソアミル、t-ブチル、CHCH
3-CO-CH
3、シクロヘキシル、又はフェニルを表し、
R
2は、水素、ハロゲン、C
1~C
6-アルキル、又はC
1~C
6-アルケニルを表し、
R
3は、電子吸引性基、好ましくは-F、-Cl、-Br、-I、-NO、NO
2、-CF
3、-OCF
3、-CN、-SCN、-NCO、-CNO、-COCH
3、-COCF
3、-CO-C
2F
5、-SO
3、-SO
2-N(CH
3)
2、アリールスルホニル、アリールスルフィニル、アリールカルボニル、アルキルカルボニル、アリールオキシカルボニル、又は-NR
4-CO-R
5を表すが、ここでR
4及びR
5は、同一であっても異なっていてもよく、そしてそれぞれ独立して、以下のものであってよく:H、C
1~C
6-アルキル、ペルハロゲン化C
1~C
6-アルキル、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、ニトリル、任意選択により場合によっては置換されたアリール、ピリジニウム-アルキル、ピリジニウム-ペルハロアルキル、又は任意選択により場合によっては置換されたC
5~C
6シクロヘキシル、C
nH
2nY若しくはC
nF
2nY基(n=1~6)、そしてYは、次式(EWG1)、(EWG2)又は(EWG3)の一つのイオン性の基又はラジカルを表し、
【化17】
(式中、
R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は、独立して、H、C
1~C
6-アルキル、C
1~C
6-ペルハロアルキル、又はC
5~C
6-アリールを表すが、R
9、R
10、R
11が、複素環を形成してもよく、
X
3は、アニオン、ハロゲン、テトラフルオロボレート([BF
4]
-)、[テトラキス-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート]([BARF]
-)、ヘキサフルオロホスフェート([PF
6]
-)、ヘキサフルオロアンチモネート([SbF
6]
-)、ヘキサフルオロアルセネート([AsF
6]
-)、又はトリフルオロメチルスルホネート([(CF
3)
2N]
-)を表す);
R
4及びR
5は、それらが結合されているN及びCと合体して、次式の(EWG4)又は(EWG5)の複素環を形成してもよく、
【化18】
(式中、
halは、ハロゲンであり、そして
R
12は、水素、C
1~C
6-アルキル、C
5~C
6-シクロアルキル、又はC
5~C
6-アリールである)、
Lは、一般式(L1)又は(L2)のNHC配位子を表す、
【化19】
(式中、
R
13は、水素、C
1~C
6-アルキル、C
3~C
30-シクロアルキル、又はC
5~C
30-アリールであり、
R
14及びR
15は、同一であっても異なっていてもよく、そして直鎖状又は分岐状のC
3~C
30-アルキル、C
3~C
30-シクロアルキル、C
5~C
30-アリール、C
5~C
30-アルクアリール、C
5~C
30-アラルキル、任意選択により場合によっては3個までのヘテロ原子を含み、好ましくはイソプロピル、i-ブチル、tert-ブチル、シクロヘキシル、又はフェニルである。)]
【0035】
この時点で注目すべきは、本発明の文脈においては、これまで及びこれ以降で、一般的な用語、又は、好ましい、より好ましい、特に好ましい、及び最も好ましい領域として示される、基の定義及びパラメーターは、相互に、各種所望の組合せで包含されるということである。
【0036】
好ましいNHC配位子は、L1a、L2a、L1b、L2b、L1c、L2c、L1d、L2d、L1e、及びL2eである。
【化20】
【化21】
【0037】
より好ましいNHC配位子は、L1a、L2a、L1b、L2b、L1c、又はL2cである。
【0038】
特に好ましいNHC配位子は、L1a又はL2aである。
【0039】
R3は、好ましくは、以下のものである:-F、-Cl、-Br、-I、-NO、-NO2、-CF3、-OCF3、-CN、-SCN、-NCO、-CNO、-COCH3、-COCF3、-CO-C2F5、-SO3、-SO2N(CH3)2、-NHCO-H、-NH-CO-CH3、-NH-CO-CF3、-NHCO-OEt、-NHCO-OiBu、-NH-CO-COOEt、-CO-NR2、-NH-CO-C6F5、-NH(CO-CF3)2。
【0040】
R3は、より好ましくは、-Cl、-Br、-NO2、-NH-CO-CF3、-NH-CO-OiBu、-NH-CO-COOEtである。
【0041】
R3は、特に好ましくは-NH-CO-CF3、-NH-CO-OiBu、NH-CO-COOEtである。
【0042】
好ましいルテニウム錯体触媒は、以下のものである。
【化22】
【0043】
より好ましいルテニウム錯体触媒は、M71 SIPr、M73 SIPr、及びM74 SIPrである。
【0044】
特に好ましいルテニウム錯体触媒は、M73 SIPrである。
【0045】
本発明における分子量低減において、使用されるニトリルゴムを基準にした、使用される一般式(IA)又は(IB)のルテニウム錯体触媒の量は、その特定のルテニウム錯体触媒の性質及び触媒活性に依存する。使用されるルテニウム錯体触媒の量は、使用されるニトリルゴムを基準にして、典型的には1ppm~1000ppm、好ましくは2ppm~500ppm、特には5ppm~250ppmの貴金属である。
【0046】
NBRのメタセシスは、共オレフィンの非存在下、又はそうでなければ存在下に実施することができる。その共オレフィンは好ましくは、直鎖状又は分岐状のC2~C16オレフィンである。適切な例は、エチレン、プロピレン、イソブテン、スチレン、1-ドデセン、1-ヘキセン、又は1-オクテンである。1-ヘキセン又は1-オクテンを使用するのが好ましい。その共オレフィンが(たとえば1-ヘキセンのように)液体である場合には、その共オレフィンの量は、使用されるニトリルゴムを基準にして、好ましくは0.2重量%~20重量%の範囲内である。その共オレフィンが、たとえばエチレンのように、気体である場合には、その共オレフィンの量は、その反応容器中、室温で、1×105Pa~1×107Paの範囲の圧力、好ましくは5.2×105Pa~4×106Paの範囲の圧力が得られるように選択される。
【0047】
メタセシス反応は、使用される触媒を失活させず、さらにはいかなる点でもその反応に悪影響を与えることがない、適切な溶媒の中で実施することができる。好適な溶媒としては、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、シクロヘキサン、及びモノクロロベンゼンなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。特に好適な溶媒はモノクロロベンゼンである。いくつかの場合においては、たとえば1-ヘキセンの場合のように、その共オレフィン自体が溶媒として機能できるような場合には、さらなる追加の溶媒の添加無しで済ますことも可能である。
【0048】
メタセシスのための反応混合物中で使用されるニトリルゴムの濃度には厳しい制限はないが、ただし、その反応混合物の粘度があまりにも高すぎて、混合の問題が伴うようなことがあれば、その反応に悪影響が及ぶであろうことには、注意するべきである。反応混合物中のNBRの濃度は、反応混合物全体を基準にして、好ましくは1重量%~30重量%の範囲、より好ましくは5重量%~25重量%の範囲である。
【0049】
メタセシス分解は、典型的には10℃~150℃の範囲の温度、好ましくは20℃~100℃の範囲の温度で実施される。
【0050】
その反応時間はいくつかの因子に依存するが、そのような因子としてはたとえば、NBRのタイプ、触媒のタイプ、使用される触媒濃度、及び反応温度などが挙げられる。典型的には、その反応は、通常の条件下では、5時間以内に終了する。メタセシスの進行状況は、たとえばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準的な分析法によるか、又は粘度を測定することによってモニターすることができる。
【0051】
本発明におけるプロセスにおいて使用されるニトリルゴム(「NBR」)は、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β-不飽和ニトリル、及び場合によっては、1種又は複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含む、二元、三元、又は四元ポリマーであってよい。
【0052】
各種の共役ジエンを使用することができる。共役(C4~C6)ジエンを使用するのが好ましい。1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、ピペリレン、又はそれらの混合物が特に好ましい。特に好ましいのは、1,3-ブタジエン及びイソプレン又はそれらの混合物である。極めて特に好ましいのは1,3-ブタジエンである。
【0053】
使用されるα,β-不飽和ニトリルは、各種公知のα,β-不飽和ニトリルであってよいが、(C3~C5)-α,β-不飽和ニトリル、たとえば、アクリロニトリル(ACN)、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル又はそれらの混合物が好ましい。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0054】
したがって、特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンとのコポリマーである。
【0055】
共役ジエン及びα,β-不飽和ニトリルと同様に、1種又は複数のさらなる当業者公知の共重合性モノマー、たとえば、α,β-不飽和モノカルボン酸若しくはジカルボン酸、又はそれらのエステル若しくはアミドを使用することも可能である。
【0056】
ここにおいて好ましいα,β-不飽和モノ-若しくはジ-カルボン酸は、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、及びメタクリル酸である。
【0057】
使用されるα,β-不飽和カルボン酸のエステルとしては、以下のものが挙げられる:
・ (メタ)アクリル酸アルキル、特には(メタ)アクリル酸C1~C18-アルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、又は(メタ)アクリル酸n-ヘキシル;
・ (メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C1~C18-アルコキシアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C4~C12-アルコキシアルキル;
・ (メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C1~C18-ヒドロキシアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C4~C12-ヒドロキシアルキル;
・ (メタ)アクリル酸シクロアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C5~C18-シクロアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C6~C12-シクロアルキル、より好ましくは(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル;
・ (メタ)アクリル酸アルキルシクロアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C6~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C7~C10-アルキルシクロアルキル、より好ましくは(メタ)アクリル酸メチルシクロペンチル、及び(メタ)アクリル酸エチルシクロヘキシル;
・ アリールモノエステル、特には、C6~C14-アリールモノエステル、好ましくは(メタ)アクリル酸フェニル又は(メタ)アクリル酸ベンジル;
・ アミノ含有α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル、たとえばアクリル酸ジメチルアミノメチル又はアクリル酸ジエチルアミノエチル;
・ α,β-エチレン性不飽和モノアルキルのジカルボキシレート、好ましくは、
・ アルキルモノエステル、特にC4~C18-アルキルモノエステル、好ましくはn-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル又はn-ヘキシルモノエステル、より好ましくは、マレイン酸モノ-n-ブチル、フマル酸モノ-n-ブチル、シトラコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-ブチル、最も好ましくは、マレイン酸モノ-n-ブチル;
・ アルコキシアルキルモノエステル、特にC4~C18-アルコキシアルキルモノエステル、好ましくはC4~C12-アルコキシアルキルモノエステル、
・ ヒドロキシアルキルモノエステル、特にC4~C18-ヒドロキシアルキルモノエステル、好ましくはC4~C12-ヒドロキシアルキルモノエステル、
・ シクロアルキルモノエステル、特にC5~C18-シクロアルキルモノエステル、好ましくはC6~C12-シクロアルキルモノエステル、より好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチル、シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチル、イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、及びイタコン酸モノシクロヘプチル、
・ アルキルシクロアルキルモノエステル、特にC6~C12-アルキルシクロアルキルモノエステル、好ましくはC7~C10-アルキルシクロアルキルモノエステル、より好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル及びマレイン酸モノエチルシクロヘキシル、フマル酸モノメチルシクロペンチル及びフマル酸モノエチルシクロヘキシル、シトラコン酸モノメチルシクロペンチル及びシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル及びイタコン酸モノエチルシクロヘキシル、
・ アリールモノエステル、特にC6~C14-アリールモノエステル、好ましくはマレイン酸モノアリール、フマル酸モノアリール、シトラコン酸モノアリール、又はイタコン酸モノアリール、より好ましくはマレイン酸モノフェニル若しくはマレイン酸モノベンジル、フマル酸モノフェニル若しくはフマル酸モノベンジル、シトラコン酸モノフェニル若しくはシトラコン酸モノベンジル、イタコン酸モノフェニル若しくはイタコン酸モノベンジル、
・ 不飽和ポリアルキルポリカルボン酸、たとえばマレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、又はイタコン酸ジエチル。
【0058】
前述のエステルの混合物もまた、使用することができる。
【0059】
使用されるα,β-不飽和カルボン酸のエステルは、好ましくは、それらのアルキルエステル及びアルコキシアルキルエステルである。特に好ましい、α,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸オクチルである。特に好ましい、α,β-不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸エトキシエチルである。使用するのに好ましいα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルはさらに、一般式(I)
【化23】
[式中、
Rは、非分岐状又は分岐状のC
1~C
20-アルキル、好ましくはC
2~C
20-アルキル、より好ましくはエチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは、2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~5、最も好ましくは2又は3であり、そして
R
1は、水素又はCH
3-である]
から誘導されるPEGアクリレートである。
【0060】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本発明の文脈においては、「アクリレート」及び「メタクリレート」を表している。一般式(I)の中のR1基が、CH3-である場合には、その分子はメタクリレートである。
【0061】
「ポリエチレングリコール」又は略して「PEG」という用語は、本発明の文脈においては、2個の繰り返しエチレングリコール単位(PEG-2;n=2)から12個の繰り返しエチレングリコール単位(PEG-2~PEG-12;n=2~12)までのエチレングリコール部分を表している。
【0062】
「PEGアクリレート」という用語もまた、略してPEG-X-(M)Aとされるが、ここで「X」は、エチレングリコールの繰り返し単位の数であり、「MA」はメタクリレートであり、そして「A」は、アクリレートである。
【0063】
一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるアクリレート単位は、本発明の文脈においては、「PEGアクリレート単位」と呼ばれる。
【0064】
好ましいPEGアクリレート単位は、次式のno.1~no.8を有するPEGアクリレートから誘導されるが、ここで、nは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12、好ましくは2、3、4、5、6、7、又は8、より好ましくは2、3、4、又は5、最も好ましくは2又は3である。
【0065】
【0066】
エトキシポリエチレングリコールアクリレート(式no.1)に対して一般的に使用されているその他の呼び方は、たとえばポリ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、エトキシPEGアクリレート、エトキシポリ(エチレングリコール)モノアクリレート、又はポリ(エチレングリコール)モノエチルエーテルモノアクリレートなどである。
【0067】
これらのPEGアクリレートは、市場で購入することが可能で、たとえばArkemaからSartomer(登録商標)の商品名として、EvonikからVisiomer(登録商標)の商品名として、或いはSigma Aldrichから販売されている。
【0068】
一つの好ましい実施態様においては、ニトリルゴム中のPEGアクリレート単位の量は、全部のモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、0重量%~65重量%、好ましくは20重量%~60重量%、より好ましくは20重量%~55重量%である。
【0069】
また別な実施態様においては、ニトリルゴム中のPEGアクリレートの量が、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を規準にして、20重量%~60重量%であり、そしてPEGアクリレートとは異なるα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位の量が、0重量%~40重量%であるが、ただしカルボン酸エステル単位の合計量が60重量%を超えることはない。
【0070】
別の実施態様においては、そのニトリルゴムには、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及び一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位だけではなく、不飽和カルボン酸エステル単位として、モノアルキルジカルボキシレート単位、好ましくはマレイン酸モノブチルも含まれる。
【0071】
一つの好ましいニトリルゴムにおいては、そのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位が、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、より好ましくはアクリロニトリルから誘導され、その共役ジエン単位が、イソプレン又は1,3-ブタジエンから、より好ましくは1,3-ブタジエンから誘導され、そしてそのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位がもっぱら、nが、2~8である一般式(I)のPEGアクリレートから、より好ましくはnが2又は3である一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位であり、ここで、さらなるカルボン酸エステル単位は、まったく存在しない。
【0072】
さらなる好ましいニトリルゴムにおいては、そのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位が、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、より好ましくはアクリロニトリルから誘導され、その共役ジエン単位が、イソプレン又は1,3-ブタジエンから、より好ましくは1,3-ブタジエンから誘導され、そしてそのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位が、nが2~12である一般式(I)の第1のPEGアクリレートから、より好ましくはnが2又は3である一般式(I)のPEGアクリレート、及びPEGアクリレート単位以外のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位から誘導される。
【0073】
それに加えて、そのニトリルゴムには、1種又は複数のさらなる共重合性モノマーを、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を規準にして、0重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%の量で含んでいてもよい。その場合においては、他のモノマー単位の量をそれなりに減らし、すべてのモノマー単位を合計したものが常に100重量%になるようにする。そのニトリルゴムには、さらなる共重合性モノマーとして、以下のものからの1種又は複数が含まれていてもよい:
・ 芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン、及びビニルピリジン、
・ フッ素含有ビニルモノマー、好ましくはフルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-フルオロメチルスチレン、ビニルペンタフルオロベンゾエート、ジフルオロエチレン、及びテトラフルオロエチレンなど、
・ α-オレフィン、好ましくはC2~C12オレフィン、たとえばエチレン、1-ブテン、4-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、又は1-オクテン、
・ 非共役ジエン、好ましくはC4~C12ジエン、たとえば1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、4-シアノシクロヘキセン、4-ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなど、
・ アルキン、たとえば1-ブチン又は2-ブチン、
・ α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、又はケイ皮酸、
・ α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、
・ 共重合性抗酸化剤、たとえばN-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリン、又は
・ 架橋性モノマー、たとえばジビニル成分、たとえばジビニルベンゼン。
【0074】
また別の実施態様においては、そのニトリルゴムに、PEGアクリレート単位として、2~12個の繰り返しエチレングリコール単位を含むエトキシ、ブトキシ、又はエチルヘキシルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、より好ましくは、2~5個の繰り返しエチレングリコール単位を含むエトキシ又はブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、そして最も好ましくは、2個又は3個の繰り返しエチレングリコール単位を含むエトキシ又はブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが含まれる。
【0075】
さらにまた別な、ニトリルゴムの実施態様においては、nが2又は3であり、Rがエチル又はブチルであり、そしてR1が水素又はメチルであるが、好ましくはnが2であり、Rがブチルであり、そしてR1がメチルである。
【0076】
さらにまた別な実施態様においては、そのニトリルゴムに、8重量%~18重量%のアクリロニトリル単位、27重量%~65重量%の1,3-ブタジエン単位、及び27重量%~55重量%のPEG-2アクリレート単位又はPEG-3アクリレート単位が含まれる。
【0077】
さらに別な実施態様においては、そのニトリルゴムに、以下のものが含まれる:
・ 13重量%~17重量%のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、好ましくはアクリロニトリル、
・ 36重量%~44重量%の共役ジエン単位、好ましくは1,3-ブタジエン、及び
・ 43重量%~47重量%の、一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されたPEGアクリレート、好ましくはブトキシジエチレングリコールメタクリレート。
【0078】
使用されるNBRポリマーの中での共役ジエンとα,β-不飽和ニトリルとの比率は、広い範囲で変化させることができる。共役ジエンの比率、又はそれらを総合計したものの比率は、ポリマー全体を基準にして、典型的には40重量%~90重量%の範囲、好ましくは55重量%~85重量%の範囲である。α,β-不飽和ニトリルの比率、又はそれらを総合計したものの比率は、ポリマー全体を基準にして、典型的には10重量%~60重量%、好ましくは15重量%~45重量%の範囲である。いずれの場合においても、モノマーの比率を合計したものが100重量%となる。追加のモノマーは、ポリマー全体を基準にして、0重量%~40重量%、好ましくは0.1重量%~65重量%、より好ましくは1重量%~30重量%の量で存在させてもよい。この場合、共役ジエン及び/又はα,β-不飽和ニトリルの相当する比率を、追加のモノマーの比率で置き換えるが、それぞれの場合において、全部のモノマーの比率を合計して100重量%とする。
【0079】
前述のモノマーを重合させることによるニトリルゴムの調製は、当業者には十分に公知であり、文献(たとえば、W.Hofmann,Rubber Chem.Technol.,36(1963))に詳しく記載されている。
【0080】
本発明の方法で使用することが可能なニトリルゴムは、市販の、たとえばARLANXEO Deutschland GmbHからのPerbunan(登録商標)及びKrynac(登録商標)ブランドの製品シリーズからの製品である。
【0081】
メタセシスのために使用されるニトリルゴムは、30~100、好ましくは30~50の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有している。これは、150,000g/mol~500,000g/molの範囲、好ましくは180,000g/mol~400,000g/molの範囲の重量平均分子量Mwに相当する。使用されるニトリルゴムはさらに、2.0~8.0の範囲、好ましくは2.0~6.0の範囲の多分散性、PDI=Mw/Mn(ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)を有している。
【0082】
ムーニー粘度は、ここでは、ASTM標準D 1646に従って求める。
【0083】
本発明におけるメタセシスプロセスによって得られるニトリルゴムは、5~35の範囲、好ましくは5~25の範囲のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有している。これは、10,000g/mol~150,000g/molの範囲、好ましくは10,000g/mol~100,000g/molの範囲の重量平均分子量Mwに相当する。得られたニトリルゴムはさらに、1.4~4.0の範囲、好ましくは1.5~3.0の範囲の多分散性、PDI=Mw/Mn(ここでMnは数平均分子量である)を有している。
【0084】
本発明はさらに、ニトリルゴムのメタセシスのためのメタセシス反応におけるルテニウム錯体触媒の使用も提供する。それらのメタセシス反応は、たとえば、閉環メタセシス(RCM)、交叉メタセシス(CM)、又はそうでなければ開環メタセシス(ROMP)であってよい。典型的には、この目的のためには、ニトリルゴムを、ルテニウム錯体触媒と接触させ、反応させる。
【0085】
本発明における使用は、ニトリルゴムをルテニウム錯体触媒と接触させることによる、ニトリルゴムの分子量を低減させるためのプロセスである。この反応は交叉メタセシスである。
【0086】
本発明による触媒系の存在下におけるメタセシス分解に続けて、そうして得られた分解されたニトリルゴムを水素化させてもよい。これは、当業者には公知の方法で実施することができる。
【0087】
均一系又は不均一系の水素化触媒を使用して、水素化を実施することが可能である。それは、水素化反応をインサイチューで、すなわち、前もってメタセシス分解を実施したのと同一の反応混合物の中で、分子量を低下させたニトリルゴムを単離する必要もなく、実施することも可能である。その水素化触媒は、反応容器の中に単に添加する。
【0088】
使用される触媒は、典型的には、ロジウム、ルテニウム又はチタンをベースとするものであるが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、又は銅を金属としてか、又はそうでなければ好ましくは金属化合物の形態として使用することも可能である(たとえば、米国特許第A-3,700,637号明細書、独国特許出願公開第A-25 39 132号明細書、欧州特許出願公開第A-0 134 023号明細書、独国特許出願公開第A-35 41 689号明細書、独国特許出願公開第A-35 40 918号明細書、欧州特許出願公開第A-0 298 386号明細書、独国特許出願公開第A-35 29 252号明細書、独国特許出願公開第A-34 33 392号明細書、米国特許第A-4,464,515号明細書、及び米国特許第A-4,503,196号明細書を参照されたい)。
【0089】
均一相における水素化のために好適な触媒及び溶媒は、以下において記述するし、独国特許出願公開第A-2539132号明細書及び欧州特許出願公開第A-0471250号明細書からも公知である。
【0090】
選択的水素化は、たとえば、ロジウム触媒又はルテニウム触媒の存在下で達成することができる。たとえば次の一般式の触媒を使用することが可能である。
(R1
mB)lMXn
式中、Mはルテニウム又はロジウムであり、R1は、同一であっても異なっていてもよく、C1~C8アルキル基、C4~C8シクロアルキル基、C6~C15アリール基又はC7~C15アラルキル基であり、Bは、リン、ヒ素、硫黄又はスルホキシド基S=Oであり、Xは、水素又はアニオン、好ましくはハロゲン、より好ましくは塩素又は臭素であり、lは2、3又は4であり、mは、2又は3であり、そしてnは、1、2又は3、好ましくは1又は3である。好適な触媒は、塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)、及び塩化トリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)、さらにはテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウム水素化物、式((C6H5)3P)4RhH、及びそれに対応するトリフェニルホスフィンが全面的又は部分的にトリシクロヘキシルホスフィンによって置換された化合物である。触媒の使用量は少量でよい。ポリマーの重量を基準にして、0.01重量%~1重量%の範囲、好ましくは0.03重量%~0.5重量%の範囲、より好ましくは0.05重量%~0.3重量%の範囲の量が好ましい。
【0091】
典型的には、その触媒を助触媒と共に使用することが推奨されるが、その助触媒は、式R1mBの配位子であり、ここでR1、m及びBはそれぞれ、上で触媒について定義されたものである。好ましくは、mが3であり、Bがリンであり、R1基は同一であっても異なっていてもよい。その助触媒が、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリールモノアルキル、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアルキルモノシクロアルキル、ジシクロアルキルモノアリール、又はジシクロアルキルモノアリール基を有しているのが好ましい。
【0092】
助触媒の例は、たとえば、米国特許第A4631315号明細書に見出すことができる。好適な助触媒はトリフェニルホスフィンである。添加においては、ロジウム触媒対助触媒の重量比を、好ましくは(1:1)から(1:55)までの範囲、より好ましくは(1:3)から(1:30)までの範囲とする。水素化させるニトリルゴムの100重量部を基準にして、好適な方法では、0.1~33重量部の助触媒、好ましくは0.2重量部~20重量部、さらにより好ましくは0.5重量部~5重量部、特には0.9重量部より多く且つ5重量部未満の助触媒を、水素化させるニトリルゴムの100重量部を基準にして使用する。
【0093】
この水素化の実務的な遂行は、米国特許第A-6,683,136号明細書からも当業者には十分に公知である。それは、典型的には、水素化させるニトリルゴムを水素と、溶媒たとえば、トルエン又はモノクロロベンゼンの中、100℃~150℃の範囲の温度、そして5MPa~15MPaの範囲の圧力下で、2時間~10時間かけて接触させることによって、実施される。
【0094】
本発明の文脈においては、水素化とは、出発ニトリルゴムの中に存在している二重結合を、少なくとも50%、好ましくは70%~100%、より好ましくは80%~100%の割合で転化させることを意味していると理解されたい。さらに、HNBR中の二重結合の残存含量が0%~8%であるのが特に好ましい。
【0095】
不均一系触媒を使用する場合には、典型的には、それらは、たとえば、チャーコール、シリカ、炭酸カルシウム又は硫酸バリウムの上に支持されたパラジウムをベースとする担持触媒である。
【0096】
水素化が完了すると、水素化されたニトリルゴムが得られるが、それは、ASTM標準D1646で測定して、1~50の範囲のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有している。これは、重量平均分子量Mwが2000~400,000g/molの範囲にあることにほぼ相当する。ムーニー粘度(ML1+4@100℃)が5~40の範囲にあれば好ましい。これは、重量平均分子量Mwが20,000~200,000g/molの範囲にあることにほぼ相当する。さらに、そのようにして得られた水素化ニトリルゴムは、1~5の範囲、好ましくは1.5~3の範囲の多分散性、PDI=Mw/Mn(ここでMwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である)を有している。
【実施例】
【0097】
I.分析方法の説明
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の手順:
分子量Mn及びMwは、以下の装置を使用して求め、Waters Empower 2 Data Base Softwareの手段により計算する:島津 LC-20AT高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプ、SFD S5200オートサンプラー、3本のPLgel 10μm Mixed-Bカラム(300×7.5mmID)、Shodex RI-71検出器、ERCカラムオーブン。GPC実験は、40℃で、溶離液としてのテトラヒドロフラン(THF)流量1mL/分を用いて実施した。GPCカラムは、標準ポリスチレン(PS)サンプルを用いて較正した。
【0098】
残存二重結合(「RDB」)含量の測定:
RDB(単位、%)は、下記のFT-IR法の手段により求める:水素化反応の前、途中、及び後に、ニトリルゴムのスペクトルを、AVATAR 360タイプのThermo Nicolet FT-IR分光計の手段により、記録する。NBRのモノクロロベンゼン中溶液を、NaCl板の上に塗布して、分析のための膜を作製した。水素化速度は、ASTM標準D5670-95記載のFT-IR分析の手段により求める。
【0099】
ムーニー粘度の測定:
ムーニー粘度の測定は、ASTM標準D1646の方法により求める。ムーニー粘度(ML1+4@100℃)は、100℃で、予備加熱時間1分、測定時間4分で測定したものである。
【0100】
ブルックフィールド粘度の測定:
ポリマーのMCB中溶液の溶液粘度は、Brookfield LV DV II+回転粘度計を用いて測定する。その測定は、ポリマー溶液250mLを充填した400mLのビーカーの中で、23±0.1℃の温度で、62番の標準スピンドルを用いて実施した。
【0101】
II.使用原料
表1に、以後に記載の実施例において使用される本発明ではない触媒をまとめた(Grubbs II、Grubbs-Hoveyda II、Zhan 1B、M71 SIMes、及びM73 SIMes)。
【0102】
表2に、以後に記載の実施例において使用される本発明の触媒をまとめた(M71 SIPr、M73 SIPr、M74 SIPr)。
【0103】
【0104】
【0105】
記号の説明:
Phは、それぞれの場合において、フェニル基を表す。
Dippは、それぞれの場合において、ジイソプロピルフェニル基を表す。
Mesは、それぞれの場合において、2,4,6-トリメチルフェニル基を表す。
【化24】
【0106】
使用したニトリルゴム
以後に記載の実施例は、ARLANXEO Deutschland GmbHからの、各種のNBR及びHNBRを使用して実施した。それらのニトリルゴムは、表3に示した特性値を有していた。
【0107】
【0108】
【0109】
III.メタセシス反応:
表5に、本発明実施例及び相当する本発明ではない参考例の概要を示すが、本発明実施例には、「*」印をつけた。
【0110】
例1a~8b*及び12*~17*において、そのニトリルゴム分解は、1-ヘキセンの添加物を使用して、交叉メタセシスの形態で実施した。本発明実施例及びそれに相当する参考例において、触媒は、それぞれの場合において、ルテニウムの投入量が9ppm及び18ppmになるように使用した。
【0111】
例9、10*、及び11においては、ニトリルゴム分解を、1-ヘキセンの添加物無しで、自己メタセシスの形態で実施した。これらの例は、67ppmのルテニウム投入量で実施した。
【0112】
例17*及び18においては、部分水素化ニトリルゴムのメタセシスを実施した。そのメタセシスは、1-オレフィンの添加物無しで(自己メタセシス)、151ppmのルテニウム投入量及び100℃で実施した。
【0113】
【0114】
【0115】
メタセシス反応のための手順:
メタセシス反応はすべて、モノクロロベンゼン(Aldrich製、以後MCBで示す)を使用した溶液で、実施した。MCBは、使用前に蒸留し、室温でその中に窒素を通過させて不活性化させた。以下の表に示されるニトリルゴムの量を、MCB中に、室温で12時間撹拌して溶解させた。表に示される添加物(オレフィン)を、そのゴム含有溶液に添加し、2時間撹拌して均質化させた。添加物を用いた実験では、この時点でその添加物を添加し、そのゴム含有溶液をさらに1時間撹拌した。触媒を添加する前に、モノクロロベンゼン中のゴム溶液を、表に記載の温度にまで加熱した。反応混合物1~11は、触媒添加後のゴム濃度が15重量%になるようにし、反応混合物12及び13は、触媒添加後のゴム濃度が10重量%になるようにした。
【0116】
メタセシス触媒(表1参照)はそれぞれ、1mL(0.0066mmolの触媒)又は2mL(0.013mMの触媒)のMCBの中に溶解させ、直ちにニトリルゴム溶液に添加した。触媒の添加によりメタセシス反応が開始され、それは、一定時間間隔(1時間、3時間、24時間)で、ゲル浸透クロマトグラフィーの手段によって平均分子量を測定することにより、モニターした。分子量を測定するために採取したサンプル(それぞれのタイミングで5mL)に直ちに0.8mLのエチルビニルエーテルを添加することにより、反応を停止させた。最終サンプル(24時間の反応時間後)の粘度も、ブルックフィールド粘度計(測定温度:21℃)を用い、溶液中で測定した。
【0117】
本発明実施例及び比較例
例1a及びb:Grubbs II触媒を用いたNBRの反応
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
例2a及びb:Grubbs-Hoveyda II触媒を用いたNBRの反応
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
例3a及びb:Zhan 1B触媒を用いたNBRの反応
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
例4a及びb:M71 SIMes触媒を用いたNBRの反応
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
例5a
*
及びb
*
:M71 SIPr触媒を用いたNBRの反応
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
例6a及びb:M73 SIMes触媒を用いたNBRの反応
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
例7a
*
及びb
*
:M73 SIPr触媒を用いたNBRの反応
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
例8a
*
及びb
*
:M74 SIPr触媒を用いたNBRの反応
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
実施例9:オレフィン無しでのM73 SIMes触媒を用いたNBRの反応
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
例10
*
:オレフィン無しでのM73 SIPr触媒を用いたNBRの反応
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
実施例11:オレフィン無しでのGrubbs-Hoveyda II触媒を用いたNBRの反応
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
例12
*
~16
*
:オレフィン存在下での、M71 SIPr又はM73 SIPr触媒及び添加物を用いたNBRの反応
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
例17
*
:オレフィン無しでのM73 SIPr触媒を用いたHNBRの反応
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
例18:オレフィン無しでのGrubbs-Hoveyda II触媒を用いたHNBRの反応
【0172】
【0173】
【0174】
本発明実施例5a*、5b*、7a*、7b*、8a*、及び8b*は、1-ヘキセンを用いたニトリルゴムの交叉メタセシスにおいて、触媒のM71 SIPr、M73 SIPr、及びM74 SIPrを使用すると、24時間の反応時間の後では、Grubbs-II、Grubbs-Hoveyda、Zhan 1B、M71 SIMes、及びM73 SIMes触媒を使用した、本発明ではない例1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、6a及び6bよりも、低いモル質量(Mw及びMn)を与えるということを示している。その、より低いモル質量は、9ppmのRu及び18ppmのRuの触媒投入量のいずれにおいても、達成された。
【0175】
それに加えて、ニトリルゴムの最終的なモル質量を等しくするためには、触媒M71 SIPr、M73 SIPr、及びM74 SIPrを使用した本発明の場合においては、触媒Grubbs-II、Grubbs-Hoveyda、Zhan 1B、M71 SIMes、及びM73SIMesを使用した場合と比較して、ルテニウムの使用量を減らすことが可能であるということも示されている。高価な貴金属の量を減らすことによって、ニトリルゴムの交叉メタセシスの、コスト的な実行可能性を、より高めることができる。
【0176】
例9、10*、及び11は、67ppmという同一のルテニウム投入量を用いた場合、ニトリルゴムの自己メタセシス(共オレフィンとしての1-オレフィンの添加無し)のための本発明のM73 SIPrの使用(例10*)では、24時間の反応時間の後のニトリルゴムのモル質量(Mw及びMn)が、M73 SIMes(例9)及びGrubbs-Hoveyda II(例11)を使用した場合よりも、低くなるということを示している。例10*は、本発明の触媒M73 SIPrの使用によって、ニトリルゴムのメタセシスのために現在使用されている触媒よりも、ルテニウムを、より経済的に使用することが可能となるということを示している。
【0177】
例17*は、部分水素化ニトリルゴムの自己メタセシスにおいて、本発明触媒のM73 SIPrを使用すると、Grubbs-Hoveyda II触媒を用いた場合(例18)に比較して、24時間後には、より低いモル質量(Mw及びMn)が得られるということを示している。本発明の触媒M73 SIPrを使用することによって、高価な貴金属のルテニウムの、経済的な使用が可能となる。
【0178】
IV.水素化
それに続く水素化は、ARLANXEO Deutschland GmbH製の、表2に示した特性を有するNBR-8を使用して実施した。
【0179】
水素化の手順
脱水モノクロロベンゼン(MCB)はVWRから購入し、そのまま使用した。水素化実験の結果を表7にまとめた。
【0180】
水素化1~4*は、10Lの高圧反応器の中で、以下の条件下で実施した:
溶媒:モノクロロベンゼン
基材:NBR-8
固形分含量:MCB(518g)中12重量%のNBR-8
反応器温度:137℃~140℃
反応時間:4時間
触媒使用量:0.2027g(0.04phr)
水素圧(p H2):8.4MPa
攪拌機速度:600rpm
【0181】
NBR-8を含むポリマー溶液を、激しい撹拌下に、H2(23℃、2.0MPa)を用い3回脱気させる。反応器の温度を上げて100℃とし、H2圧を60barとした。50gの、触媒(0.2027g)のモノクロロベンゼン溶液を添加し、圧力を上げて8.4MPaとし、その間反応器温度は、138℃になるように調節した。反応の間ずっと、両方のパラメーターは一定に維持した。反応の進行は、IR分光光度法の手段によるニトリルゴムの残存二重結合含量(RDB)を測定する手段によってモニターした。4時間後に、水素圧力を放出することにより、その反応を終了させた。
【0182】
【0183】
上に示した例では、本発明の触媒M73 SIPr及びM71 SIPrでの水素化では、同等の実験条件下で触媒M73SIMes及びM71 SIMeを用いた場合と比較して、少なくとも同等に良好か又は明らかに早い進行を示している。