(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】経皮的心臓弁置換のための複数の支持アームを有する心臓弁プロテーゼ及び方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
A61F2/24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021037282
(22)【出願日】2021-03-09
(62)【分割の表示】P 2018539292の分割
【原出願日】2017-01-30
【審査請求日】2021-03-18
(32)【優先日】2016-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507020152
【氏名又は名称】メドトロニック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(72)【発明者】
【氏名】クイル ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】サヴェージ パドレイグ
(72)【発明者】
【氏名】ドワーク ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ガルデ クシティジャ
(72)【発明者】
【氏名】アルバーグ サラ
(72)【発明者】
【氏名】コヴァルスキー イゴール
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0257467(US,A1)
【文献】特表2019-506937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0351904(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮送達構成と、心臓内の展開のための拡張展開構成とを有する、弁プロテーゼであって、
フレームを有し、このフレームは、内部に人工弁構成部品を保持するための管状部分であって、第1の端部及び第2の端部を有する、管状部分を備えており、この管状部分は、半径方向に圧縮されることが可能である格子を提供するように幾何学的に配置された複数のストラットを備えており、
前記フレームは、前記弁プロテーゼが前記拡張構成にあるときに、前記管状部分の前記第1の端部から半径方向に延在する流入部分を備えており、
前記フレームは、第1の長さを有する、前記管状部分の前記第2の端部から延在する主支持アームを備えており、この主支持アームが、第1の取設点及び第2の取設点で前記管状部分の前記第2の端部に連結された第1のアームセグメントを備えており、この第1のアームセグメントが、前記第1の取設点と前記第2の取設点との間に第1のループを画定し、この第1のループの先端と前記第1及び第2の取設点との間に前記第1の長さが画定されており、
前記フレームは、前記管状部分の前記第2の端部から延在する補助支持アームの第1の組を備えており、前記補助支持アームの第1の組の各々が、第2の長さを有すると共に、第3の取設点及び第4の取設点で前記管状部分の前記第2の端部に連結された第2のアームセグメントを備えており、この第2のアームセグメントが、前記第3の取設点と前記第4の取設点との間に第2のループを画定し、この第2のループの先端と前記第3及び第4の取設点との間に前記第2の長さが画定されており、
前記フレームは、前記管状部分の前記第2の端部から延在する補助支持アームの第2の組を備えており、前記補助支持アームの第2の組の各々が、第5の取設点及び第6の取設点で前記管状部分の前記第2の端部に連結された第3のアームセグメントを備えており、この第3のアームセグメントが、前記第5の取設点と前記第6の取設点との間に前記第3のループを画定し、前記補助支持アームの第2の組の各々が、前記第2の長さ未満である第3の長さを有し、前記第3のループの先端と前記第5及び第6の取設点との間に前記第3の長さが画定されており、
前記主支持アームの前記第1の長さが、前記補助支持アームの第1及び第2の組の前記補助支持アームのそれぞれの前記第2及び第3の長さよりも長
く、
前記第1~第6の取設点のそれぞれは、互いに異なることを特徴とする、弁プロテーゼ。
【請求項2】
前記主支持アーム、前記補助支持アームの第1の組、及び前記補助支持アームの第2の組が、前記フレームの前記管状部分の前記第2の端部の円周の周囲で離間している、請求項1に記載の弁プロテーゼ。
【請求項3】
前記補助支持アームの第2の組のうちの少なくとも1つが、前記主支持アームと正反対になるように位置付けられている、請求項2に記載の弁プロテーゼ。
【請求項4】
前記補助支持アームの第1の組のうちの1つが、前記主支持アームの各側に円周方向に位置付けられている、請求項3に記載の弁プロテーゼ。
【請求項5】
前記拡張構成において、前記主支持アーム、前記補助支持アームの第1の組、及び前記補助支持アームの第2の組が、前記フレームの前記管状部分の前記第1の端部に向かって屈曲する、請求項1に記載の弁プロテーゼ。
【請求項6】
前記拡張構成において、前記補助支持アームの第1及び第2の組の前記補助支持アームの各端部分が、前記フレームの前記管状部分に対して実質的に同じ長手方向の位置又は高さで配置される、請求項5に記載の弁プロテーゼ。
【請求項7】
前記拡張構成において、前記補助支持アームの第1及び第2の組の前記補助支持アームの各端部分が、それらの間に前記心臓の組織を挟むように前記流入部分と接触する、請求項6に記載の弁プロテーゼ。
【請求項8】
前記拡張構成において、
第1の角度が、前記主支持アームと前記フレームの前記管状部分との間に画定され、
第2の角度が、前記補助支持アームの第1の組の各補助支持アームと前記フレームの前記管状部分との間に画定され、
第3の角度が、前記補助支持アームの第2の組の各補助支持アームと前記フレームの前記管状部分との間に画定され、
前記第1、第2、及び第3の角度が等しくない、請求項5に記載の弁プロテーゼ。
【請求項9】
前記第1の角度が前記第2の角度よりも大きく、前記第2の角度が前記第3の角度よりも大きい、請求項8に記載の弁プロテーゼ。
【請求項10】
前記フレームの前記管状部分内に固定された人工弁と、
前記管状部分、前記流入部分、及び少なくとも前記主支持アームの端部分、並びに前記補助支持アームの第1及び第2の組の前記補助支持アームの各々の端部分の部分のうちの1つ以上を被覆するために、前記フレームに固定された密封材料と、を更に備える、請求項1に記載の弁プロテーゼ。
【請求項11】
前記弁プロテーゼが前記拡張構成にあるときに、前記補助支持アームの第1及び第2の組の前記補助支持アームの各々の湾曲部分間で被覆及び延在するために、前記フレームの前記第2の端部の外周の一部分の周囲に配置された、緩衝ストリップを更に備える、請求項10に記載の弁プロテーゼ。
【請求項12】
前記主支持アームの前記第1のアームセグメントは、内側アームセグメントであり、前記主支持アームは、さらに、前記管状部分のダイヤモンド形状の幾何学的形状によって画定されたストラットの間の第7の取設部及び第8の取設部に連結された外側アームセグメントを備えており、この外側アームセグメントは、前記第7の取設部と前記第8の取設部との間で第4のループを画定しており、前記外側アームセグメントの前記第4のループは、前記内側アームセグメントの前記第1のループの形状に概ね従う、請求項1に記載の弁プロテーゼ。
【請求項13】
前記外側アームセグメントの前記第4のループは、前記内側アームセグメントの前記第1のループに接続されている、請求項
12に記載の弁プロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、心臓弁プロテーゼ及び関連方法に関する。具体的には、いくつかの実施形態は、僧帽弁などの天然心臓弁の経皮置換のための複数の支持アームを有する経カテーテル心臓弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の心臓は、心周期中に身体を通って血液循環を提供する4つの室のある筋肉性器官である。4つの主要な室としては、肺循環を供給する右心房及び右心室、並びに肺から受け取った酸素化血液を身体の他の部位に供給する左心房及び左心室が挙げられる。心臓を通って確実に一方向に血液が流れるようにするために、心房と心室との接合部間に房室弁(三尖弁及び僧帽弁)が存在し、半月弁(肺動脈弁及び大動脈弁)が、肺及び他の身体の他の部位に繋がる心室の出口を管理する。これらの弁は、心室の収縮及び弛緩によって引き起こされる血圧の変化に応答して開閉する弁尖を含む。弁尖は互いに離れて移動して開き、血液を弁の下流に流すことができ、接合して閉鎖し、上流様式でバックフロー又は逆流を防止する。
【0003】
損傷又は欠陥によって引き起こされるものなどの心臓弁に関連する疾患としては、狭窄及び弁の不全又は逆流を挙げることができる。例えば、弁狭窄は、弁の狭小及び硬化を引き起こし、下流の心室への血流が適切な流量で生じることを妨げる場合があり、心臓がより激しく働いて、罹患弁を通る血液の圧送を引き起こす場合がある。弁が完全に閉まらないときに弁閉鎖不全又は逆流が生じ、血液が逆行して流れることになり、これにより心臓の効率の低下を引き起こす。先天性、加齢性、薬物誘発性、又は場合によっては感染症によって引き起こされる可能性のある罹患又は損傷した弁は、弾力性及び効率を失い、拡大し、肥厚した心臓となり得る。心臓弁疾患のいくつかの症状としては、衰弱、息切れ、めまい、失神、動悸、貧血及び浮腫、並びに血栓を挙げることができ、これらは、脳卒中又は肺塞栓症の可能性を高め得る。症状は、多くの場合、衰弱させ、かつ/又は生命を脅かすのに十分なほど深刻な場合がある。
【0004】
人工心臓弁が、罹患及び/又は損傷した心臓弁の修復及び置換に向けて開発されている。このような弁は、カテーテルベースのシステムを通して罹患した心臓弁の部位に経皮的に送達され、展開され得る。このような人工心臓弁は、人工弁が送達カテーテルのシース構成部品内に収容され、患者の血管系を通って前進することができるように、薄型又は圧縮/収縮配置の状態にある間に送達され得る。いったん治療部位に位置付けられると、人工弁は、拡張されて、罹患心臓弁領域において組織と係合し、例えば人工弁を所定の位置に維持することができる。これらの人工弁は、心臓弁の修復及び/又は置換を行うための低侵襲方法となるが、埋め込まれた人工弁と周辺組織との間の漏れ(弁傍漏れ)を防止し、かつ心周期中に起こり得る人工弁の動き及び/又は移動を防止するための人工弁を提供するにあたっての課題は、依然として存在している。例えば、僧帽弁は、人工弁の離脱、又は腱索及び残りの弁尖が存在し、弁の衝突に至ることによる不適切な配置など、多数の問題を呈する。更なる課題としては、天然解剖学的構造によって付与された歪み力に供されたとき及び心周期中に生じ得る様々な構成部品の早期破損に抵抗する人工弁を提供することを挙げることができる。僧帽弁の治療に関連する更なる解剖学的課題としては、輪の腎臓の形状に適合するような人工弁を提供することが挙げられる。更に、輪は、弁の外壁に沿ってのみ筋肉を有し、僧帽弁と大動脈弁とを分離する薄い血管壁のみを有する。この解剖学的筋肉の分布は、左心室収縮で経験する高圧と共に、僧帽弁プロテーゼにとって問題となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書の実施形態は、複数の支持アームを有する心臓弁プロテーゼ及びその経皮埋め込み方法に関する。心臓弁プロテーゼは、圧縮送達構成と、天然心臓弁又は先に埋め込まれた人工心臓弁内の展開のための拡張展開構成とを有する。弁プロテーゼは、内部に人工弁構成部品を保持するための管状部分を有するフレームを含み、管状部分は、第1の端部と、第2の端部とを有する。フレームの流入部分は、弁プロテーゼが拡張構成にあるときに、管状又は円錐状部分の第1の端部から半径方向に延在する。フレームの主支持アームは、管状部分の第2の端部から延在し、第1の長さを有する。フレームの補助支持アームの第1の組はまた、管状部分の第2の端部から延在し、補助支持アームの第1の組の各々は、第2の長さを有する。フレームの補助支持アームの第2の組はまた、管状部分の第2の端部から延在し、補助支持アームの第2の組の各々は、第2の長さ未満である第3の長さを有する。本明細書の実施形態では、主支持アームの第1の長さは、補助支持アームの第1及び第2の組における補助支持アームのそれぞれ第2の及び第3の長さよりも長い。
【0006】
別の実施形態では、心臓弁プロテーゼは、圧縮送達構成と、心臓内の展開のための拡張展開構成とを有する。弁プロテーゼは、第1の端部と、第2の端部とを有する弁支持体を画定し、弁プロテーゼが拡張構成にあるときに、弁支持体の第1の端部から半径方向に延在する流入部分を画定する、フレームを有する。フレームは更に、弁支持体の第2の端部から延在する主支持アーム、弁支持体の第2の端部から延在する複数の長い補助支持アーム、及び弁支持体の第2の端部から延在する複数の短い補助支持アームを画定し、かつ/又は含み、主支持アームは、複数の長い補助支持アーム及び短い補助支持アームよりも長い。本明細書の実施形態では、弁プロテーゼが拡張構成にあるときに、主支持アーム、複数の長い補助支持アーム、及び複数の短い補助支持アームは、弁支持体の第1の端部に向かって屈曲し、複数の長い補助支持アームの各々及び複数の短い補助支持アームの各々は、実質的に同じ展開高さを有する。
【0007】
本発明の更なる態様は、治療部位への送達のための圧縮構成と、心臓内の展開のための拡張構成とを有する、弁プロテーゼを展開する方法に関する。一実施形態では、方法は、心臓の左心房への経心房アクセスを提供することと、経心房アクセスを介して、内部に圧縮構成で弁プロテーゼを有する送達カテーテルの遠位部分を、左心房内へと前進させることとを含むことができる。弁プロテーゼは、主支持アームと、複数の補助支持アームとを有するフレームを含むことができる。方法はまた、主支持アーム及び複数の補助支持アームの各々が、送達カテーテルの遠位部分から延在するにつれて屈曲展開状態をとるように、弁プロテーゼの主支持アーム及び複数の補助支持アームを左心房内で展開することを含むことができる。方法は、屈曲展開状態の主支持アーム及び複数の補助支持アームが弁輪を通して心臓の左心室内へと押されるまで、送達カテーテルの遠位部分を心臓の天然僧帽弁の弁輪に向かって前進させることを更に含むことができる。方法はまた、主支持アーム及び複数の補助支持アームの各々が天然僧帽弁の前尖、後尖及び/又は天然輪の少なくとも一部分と係合するまで、送達カテーテルを近位に後退させるか、又は引くことと、天然僧帽弁を置換するために、弁プロテーゼの残りの部分を送達カテーテルから展開することとを更に含むことができる。
【0008】
本発明の前述及び他の特徴及び態様は、以下の実施形態の説明及び添付の図面に例解されるように、よりよく理解することができる。添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を形成し、本発明の原理を例解する役割を更に果たす。図面内の構成部品は、必ずしも原寸に比例していない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】天然弁構造体を有する哺乳類の心臓の概略断面図である。
【
図2A】解剖学的構造及び天然僧帽弁を示す哺乳類の心臓の左心室の概略断面図である。
【
図2B】弁尖が十分に接合せず、かつ本発明による人工心臓弁の様々な実施形態との置換に好適である、逸脱僧帽弁を有する心臓の左心室の概略断面図である。
【
図3A】周囲の心臓構造から隔離された僧帽弁の上面概略図であり、弁輪及び天然弁尖を示す。
【
図3B】僧帽弁、大動脈僧帽弁線維性連続、及び周囲の心臓構造から隔離された大動脈弁の上面図の概略図であり、天然僧帽弁尖の領域を示す。
【
図4A】本発明の一実施形態による、展開又は拡張された構成(例えば、展開状態)での心臓弁プロテーゼの側面図である。
【
図4B】本発明の一実施形態による、拡張構成での
図4Aの心臓弁プロテーゼのフレームの斜視図である。
【
図4C】本発明の一実施形態による、拡張構成での
図4Aの心臓弁プロテーゼの上面図である。
【
図4D】本発明の一実施形態による、拡張構成での
図4A及び
図4Bの心臓弁プロテーゼの底面図である。
【
図5】本発明の一実施形態による、左室から見た心臓内の天然僧帽弁の底面図又は下面図下を示し、かつ天然僧帽弁に埋め込まれた
図4A~
図4Dの心臓弁プロテーゼを示す概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態による、天然僧帽弁に埋め込まれた心臓弁プロテーゼの部分側面図を示す心臓の切り欠き図を例示する。
【
図7】本発明の一実施形態による、
図4Aの心臓弁プロテーゼの切断パターンを示す。
【
図8A】本発明の更なる実施形態による、弁支持体の長手方向軸に対して様々な角度における、弁支持体に連結され、かつそこから延在する主支持アーム(
図8A)及び様々な補助支持アーム(
図8B及び8C)を有する心臓弁プロテーゼの拡大部分側面である。
【
図8B】本発明の更なる実施形態による、弁支持体の長手方向軸に対して様々な角度における、弁支持体に連結され、かつそこから延在する主支持アーム(
図8A)及び様々な補助支持アーム(
図8B及び8C)を有する心臓弁プロテーゼの拡大部分側面である。
【
図8C】本発明の更なる実施形態による、弁支持体の長手方向軸に対して様々な角度における、弁支持体に連結され、かつそこから延在する主支持アーム(
図8A)及び様々な補助支持アーム(
図8B及び8C)を有する心臓弁プロテーゼの拡大部分側面である。
【
図9】本発明の一実施形態による、送達構成(例えば、薄型又は半径方向に圧縮された状態)で示された
図4A~
図4Dの心臓弁プロテーゼの拡大断面図である。
【
図10A】本発明の別の実施形態による、順行性又は経中隔的アプローチを使用して心臓弁プロテーゼを埋め込む方法のステップを例示する心臓の断面図である。
【
図10B】本発明の別の実施形態による、順行性又は経中隔的アプローチを使用して心臓弁プロテーゼを埋め込む方法のステップを例示する心臓の断面図である。
【
図10C】本発明の別の実施形態による、順行性又は経中隔的アプローチを使用して心臓弁プロテーゼを埋め込む方法のステップを例示する心臓の断面図である。
【
図10D】本発明の別の実施形態による、順行性又は経中隔的アプローチを使用して心臓弁プロテーゼを埋め込む方法のステップを例示する心臓の断面図である。
【
図11】本発明の実施形態による、患者の心臓弁を修復又は置換するための方法を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特定の実施形態が、図面を参照して本明細書に記載され、同様の参照番号は、同一又は機能的に類似の要素を示す。用語「遠位」及び「近位」は、治療医師に対して又は人工心臓弁装置に関する位置又は配向に関して、以下の説明で使用される。例えば、「遠位」又は「遠位に」は、送達手技に言及するとき、又は血管系に関連して、臨床医から離れているか、又は臨床医から離れる方向に離れた位置である。同様に、「近位」及び「近位に」は臨床医に近い、又は臨床医に向かう方向である。人工心臓弁装置に関して、用語「近位」及び「遠位」は、血流の方向に対する装置の部分の位置の場所を指すことができる。例えば、「近位」は、上流位置又は血液流入位置を指し、「遠位」は、下流位置又は血液流出位置を指すことができる。
【0011】
以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示であり、本発明又は本発明の用途及び使用を限定することを意図するものではない。本明細書の実施形態の説明は、心臓弁、特に僧帽弁の治療の文脈にあるが、本発明は、有用であると考えられる任意の他の身体通路においても使用され得る。更に、先行技術分野、背景、簡単な要約、又は以下の詳細な説明に提示された明示又は暗示された理論に拘束されることを意図するものではない。
【0012】
本明細書に記載の本発明の実施形態は、多くの方法で組み合わせて、僧帽弁又は三尖弁などの心臓弁を含む身体の多くの弁のうちの1つ以上を治療することができる。本発明の実施形態は、多くの既知の外科手術及び手技と治療上組み合わせることができ、例えば、そのような実施形態は、経中隔的又は経心房アプローチ及びそれらの組み合わせなどの順行性アプローチを用いて、僧帽弁などの心臓弁にアクセスする既知の方法と組み合わせることができる。
【0013】
図1は、4つの心室(右心房RA、右心室RV、左心房LA、左心室LV)及び天然弁構造体(三尖弁TV、僧帽弁MV、肺動脈弁PV、大動脈弁AV)を描写する哺乳類の心臓10の概略断面図である。
図2Aは、解剖学的構造及び天然僧帽弁MVを示す哺乳類の心臓10の左心室LVの概略断面図である。
図1及び
図2Aを併せて参照すると、心臓10は、肺静脈を介して肺から酸素化血液を受け取る左心房LAを含む。左心房LAは、心室拡張期中に、酸素化血液を、僧帽弁MVを通して、左心室LVに圧送する。左心室LVは収縮期に収縮し、血液は大動脈弁AVを通って大動脈及び身体の残り部分に外向きに流れる。
【0014】
健常な心臓では、僧帽弁MVの弁尖LFは自由縁で均一に合わさるか、又は「接合」して閉じて、左心室LVの収縮の間に血液の逆流を防止する(
図2A)。
図2Aを参照すると、弁尖LFは、弁尖組織LF並びに心臓壁の隣接している筋組織の両方とは異なる、弁輪ANと呼ばれる結合組織の緻密な線維輪を介して、周囲の心臓構造を取設する。一般に、弁輪ANにおける結合組織は、弁尖組織より繊維性、頑丈及び強力である。僧帽弁尖LFの可撓性弁尖組織は、乳頭筋PMに接続されており、これは、脊髄腱CTと呼ばれる分岐腱を介して、左心室LVの下部壁及び心室中隔IVSから上方に延在している。弁尖LFが十分に接合しない又は合わさらない逸脱僧帽弁MVを有する心臓10では、
図2Bに示すように、左心房LAから左心室LVへの漏れが生じる。腱索CTの破裂、乳頭筋PMの障害(例えば、虚血性心疾患による)、並びに心臓及び/又は僧帽弁輪ANの肥大(例えば、心筋症)を含むいくつかの構造的欠陥は、僧帽弁尖LFの逸脱を引き起こし、逆流を生じさせる可能性がある。
【0015】
図3は、周囲の心臓構造から隔離されている僧帽弁MVの上面図であり、弁尖AL、PL及び弁輪ANの形状及び相対的サイズを更に例示している。
図3Bは、僧帽弁MV、大動脈僧帽弁線維性連続、及び周囲の心臓構造から隔離された大動脈弁AVの上面図の概略図であり、天然僧帽弁尖AL、PLの領域を示す。
図3A及び
図3Bを併せて参照すると、僧帽弁MVは、閉鎖時に接合線C(
図3B)において後尖PLのそれぞれのセグメント又は波形部P1、P2、及びP3と接触し、それらに対向する、セグメント又は波形部A1、A2及びA3を有する前尖ALを含む。
図3A及び
図3Bは共に、僧帽弁の尖AL、PLの形状及び相対的サイズを更に例示する。示されるように、僧帽弁MVは一般に、「D」字又は腎臓のような形状を有し、接合線Cは、湾曲しているか又はC字形状であり、それにより、比較的大きい前尖AL及び実質的により小さい後尖PLを画定する。両方の弁尖は一般に、上側又は心房側から三日月形状に見え、前尖ALは、そのP2セグメントにおける後尖よりも、そのA2セグメントにおいて弁の中央が実質的により広い(例えば、
図3BのセグメントA2及びP2を比較すると)。
図3A及び
図3Bに例示されるように、接合線Cの対向端部において、弁尖は、前外側交連AC及び後内側交連PCとそれぞれ呼ばれる角部で結合する。前尖AL及び後尖PLが接触しない場合(
図3A)、弁尖ALとPLとの間の、又は弁尖間の角部における交連AC、PCにおける逆流が生じる可能性がある。
【0016】
図3A及び
図3Bを参照すると、僧帽弁輪ANは、前方部及び後方部からなる線維輪である。大動脈僧帽弁線維性連続(
図3B)は、前方僧帽弁輪ANを大動脈弁輪と接続する(左及び非冠動脈弁葉又は洞のレベルにおいて)、線維構造である。僧帽弁輪ANの後方部は、心臓の他の構造によって補強されず、むしろ不連続である(それを膨張し易くする)。弁尖AL、PL、及び弁輪ANは、様々な強度、強靭性、線維性及び柔軟性を有する異なる種類の心臓組織からなる。更に、僧帽弁MVはまた、各弁尖を弁輪ANに相互接続する組織領域を含んでもよい(
図3A中、破線で示される)。
【0017】
当業者は、患者の寸法及び生理機能が患者間で異なり得ること、並びに一部の患者が異なる生理機能を含み得るが、本明細書に記載の教示が、僧帽弁の様々な条件、寸法及び形状を有する多くの患者による使用に適合され得ることを認識するであろう。例えば、実施形態に関連する研究は、患者が、明確に画定された山及び谷部分を有する、又は有さない弁輪にわたった長い寸法及び弁輪にわたった短い寸法を有し得ること、並びに本明細書に記載の方法及び装置がそれに応じて構成され得ることを示唆する。
【0018】
本発明による人工心臓弁装置及び関連方法の実施形態を、
図4A~
図11を参照して本項に記載する。本明細書に、かつ
図4A~
図11を参照して記載される実施形態の特定の要素、部分構造、使用、利点及び/又は他の態様が、本発明の追加の実施形態に従って、互いに好適に置き換えられるか、置換されるか、又は他の方法で構成され得ることが理解されるであろう。
【0019】
患者の心臓内の人工心臓弁の経皮送達及び埋め込みに好適なシステム、装置及び方法が本明細書に提供され、人工心臓弁は、経カテーテル弁プロテーゼと称されてもよい。いくつかの実施形態では、人工(artificial)又は人工(prosthetic)心臓弁の低侵襲性埋め込みによる弁疾患の治療のための方法及び装置が提示される。例えば、本明細書に記載された実施形態による人工心臓弁装置は、患者において(
図2Aに例解する逸脱僧帽弁を患う患者において、など)、罹患若しくは損傷した天然僧帽弁又は先に埋め込まれた人工僧帽弁を置換するために埋め込むことができる。更なる実施形態では、本装置は、他の罹患若しくは損傷した心臓弁、又は先に埋め込まれた人工心臓弁(三尖弁、肺動脈弁、及び心臓大動脈弁など)の埋め込み及び置換に好適である。本発明の実施形態による経カテーテル弁プロテーゼは、血管系内の送達カテーテルを介した送達のための圧縮構成と、心臓内の展開のための拡張構成とを有する。
【0020】
図4Aは、本発明の一実施形態による、半径方向拡張構成(例えば、展開状態)の心臓弁プロテーゼ又は人工心臓弁装置100の側面図である。
図4Bは、本発明の一実施形態による、拡張構成での
図4Aの心臓弁プロテーゼ100のフレーム又はステント様支持構造体110の斜視図である。
図4C及び
図4Dは、本発明の一実施形態による、拡張構成での
図4Aの心臓弁プロテーゼ100の頂部又は上部側面図及び底部又は下部側面図のそれぞれである。
図4A~
図4Dを併せて参照すると、心臓弁プロテーゼ100は、内部に人工弁構成部品130(
図4C及び4D)を保持、維持、及び/又は固定するための内腔121を画定する、管状部分又は構造的弁支持体120を含む、フレーム又はステント様支持構造体110を有する。弁支持体120は、弁支持体120の長手方向軸L
A(
図4A)に対して、上流又は第1の端部125と、下流又は第2の端部127とを有する略円筒形状であってもよい。フレーム110は、弁支持体120から半径方向に外向きに、かつ弁支持体120の下流端部127から略上流方向に延在する(例えば、僧帽弁の天然尖の後方に到達するために、かつ/又は左心室内の弁輪下領域内の心臓組織と係合するために)、複数の支持アームを更に含む。具体的に、複数の支持アームは、主支持アーム142と、心周期中に心臓弁プロテーゼ100に及ぼされる力と関連する負荷を分配する様式で、かつプロテーゼ100の移動を防止する様式で、弁尖及び/又は弁輪心臓組織と係合するように構成された、可変特徴(例えば、長さ、幅、弁支持体120からの反射角、形状など)を有する、複数又は多重の補助支持アーム144を含むことができる。このように、複数の支持アームは、プロテーゼ100と天然組織との間の弁傍漏れを防止し利点、並びに天然組織の損傷を防止する利点を提供する。
【0021】
支持アームのうちの少なくとも1つは、弁支持体120の外周から延在するようにサイズ決めされ、かつ位置付けられた主支持アーム142であり、このため、主支持アーム142は、左心室流出路(LVOT、
図1)を実質的に遮ることなく、僧帽弁MVの前尖ALの中央セグメントA2(
図3B)と係合するように構成及び配向される。
図4A~
図4Dに示されるように、心臓弁プロテーゼ100は、心臓弁プロテーゼ100の弁支持体120の円周の周囲で複数の補助支持アーム144を更に組み込み、いくつかの実施形態では、プロテーゼ100は、組又は群での複数の補助支持アーム144、例えば、前尖及び後尖のそれぞれと係合するための第1及び第2の組又は群を含んでもよい。加えて、補助支持アーム144は、
図4A、
図4B、及び
図4Dに示されるように、主支持アーム142及び/又は他の補助支持アーム144を含む他の構成部品から独立して、弁支持体120から延在してもよい。
【0022】
図4Dに示されるように、心臓弁プロテーゼ100の補助支持アーム144は、前尖AL(
図3B)と整列するように構成されるために、主支持アーム142の両側に、かつ心臓弁プロテーゼ100の前側に分配された、補助支持アームの第1の組146(個々に146a、146b、146c、及び146dと称される)を含む。心臓弁プロテーゼ100の補助支持アーム144は、後尖PL(
図3B)と整合するように構成されるために、心臓弁プロテーゼ100の周囲又はその後側に分配された、補助支持アームの第2の組148(個々に148a、148b、及び148cと称される)を更に含む。補助支持アームの第1及び第2の組146、148は、人工弁構成部品130が収縮期中に閉鎖したときに、心臓弁プロテーゼ100が弁輪ANによって支持されるように、少なくとも部分的に弁輪下組織と係合するように構成されている。本明細書の実施形態によれば、補助支持アーム146a~146dの各々は、長い又はより長い補助支持アームと称されてもよく、補助支持アーム148a~148cの各々は、短い又はより短い補助支持アームと称されてもよく、「長い」又は「より長い」及び「短い」又は「より短い」は、補助支持アーム148a~148cの長さに対する補助支持アーム146a~146dの長さを指す。また、補助支持アーム144又は複数の補助支持アーム144という用語のいずれかが本明細書で(又は図面内で)使用される場合、その用語が、補助支持アームの第1及び第2の組146及び148のうちの一方又は両方の補助支持アーム又は複数の補助支持アームを指すことを目的とすることが理解されるべきである。
【0023】
図5は、本発明の一実施形態による、左心室LVから見た心臓10における天然僧帽弁MVの底部又は下部図を示し、かつ天然僧帽弁MVに埋め込まれた
図4A~
図4Dの心臓弁プロテーゼ100を示す、概略図である。この図に示されるように、主支持アーム142は、大動脈僧帽弁線維性連続並びに左及び非冠動脈弁葉(
図3B)に近接したA2セグメントにおいて、前尖ALを受容及び捕捉するように配向される。プロテーゼが埋め込まれたときに、補助支持アーム144は、前尖AL及び/又は後尖PL(図示せず)の周囲に、かつ僧帽弁MVの腱索CTの間に延在する。
図5において最良に見られるように、プロテーゼ100の前方に配向された側の主支持アーム142が、天然前尖ALの中央付近の腱索CT内の間隙を通って延在するように構成され得る一方で、補助支持アーム144は、それぞれ弁尖AL、PLの後方の腱索CTを通って弁輪に延在するようにサイズ決めされる。
【0024】
いくつかの実施形態では、また、
図4A及び
図4Bの半径方向拡張構成で示されるように、フレーム110は、弁支持体120の上流端部125を少なくとも部分的に包囲し、そこから延在する、半径方向に延在するセグメント150などの流入部分150を更に含む。半径方向に延在するセグメント150は、心臓弁プロテーゼ100を拡張構成に展開させたときに半径方向に拡張するように構成されている、複数の自己拡張型ストラット152を含むことができる。いくつかの配置では、半径方向に延在するセグメント150は、天然僧帽弁腔内に埋め込む場合、弁輪上又は弁輪上方で組織と係合し得る。本実施形態では、半径方向に延在するセグメント150は、天然弁領域内の所望の位置(例えば、天然の弁尖と僧帽弁の弁輪との間)で弁支持体120を保持し得る。
図4A、
図4C、及び
図4Dを参照すると、半径方向に延在するセグメント150、弁支持体120、及び/又は複数の支持アーム142、144の1つ以上の部分は、埋め込まれた心臓弁プロテーゼ100と天然心臓組織との間の血液の漏れ(例えば、弁傍漏れ)を防止するための密封材料160を含むことができる。例えば、密封材料160は、半径方向に延在するセグメント150の上部表面若しくは上流表面154又は下部表面若しくは下流表面155(
図4A)の周囲に、かつ/又は弁支持体120の内壁若しくは内部表面122又は外壁若しくは外部表面123の周囲に延在することができる(
図4Cに示す)。
【0025】
図4Cを参照すると、半径方向に延在するセグメント150及び弁支持体120は、略円形の断面形状を有するように示されており、半径方向に延在するセグメント150は、弁支持体120の断面寸法D
2よりも大きい断面寸法D
1を有する。いくつかの実施形態では、半径方向に延在するセグメント150、弁支持体120、又はその両方は、他の断面形状を有し得、D形状又は腎臓の形状の僧帽弁に適合するようになる。例えば、半径方向に延在するセグメント150及び/又は弁支持体120は、僧帽弁に適合するために、又は別の弁の形状に対応するために不規則な、非円筒形の、又は楕円の形状構成に拡張し得る。更に、天然弁(例えば、僧帽弁、大動脈弁)は、独自にサイズ決めされ得、かつ/又は患者間で変化する他の独自の解剖学的形状及び特徴部を有することができ、こうした弁の置換又は修復のためのプロテーゼ100は、こうした天然弁のサイズ、幾何学的形状、及び他の解剖学的特徴部に適合するために好適であり得る。例えば、半径方向に延在するセグメント150は、天然心臓弁領域内で拡張することができ、同時に、可撓性であり、これにより半径方向に延在するセグメント150によって係合されている領域に一致させ得る。一実施形態では、半径方向に延在するセグメント150は、天然弁輪の輪郭に調和するように製造加工中に予め設定されたサドル形状を有してもよい。
【0026】
図4A~
図4Cは、弁支持体120の第1の端部125において外壁123から外向きに延在する複数のストラット152を有する、半径方向に延在するセグメント150を示す。一実施形態では、ストラット152は、弁支持体120の円周の周りに比較的均一に配置され、個々のストラット152は、クラウン156において隣接するストラット152に接合させる。一実施形態では、クラウン156は、展開中及び全心周期にわたって心臓組織への損傷を防止する非外傷的先端157を有する。好適な半径方向に延在するセグメント150の例は、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許公開第2015/0119982号に記載されている。
【0027】
図4C及び
図4Dを参照すると、人工弁構成部品130は、弁支持体120の内壁122に連結されて、心臓弁プロテーゼ100を通る血流を支配してもよい。例えば、人工弁構成部品130は、接合して、心臓弁プロテーゼ100を通る下流方向へ(例えば、第1の又は上流端部125から第2の又は下流端部127へ)の血流を可能にし、かつ上流又は逆行方向へ(例えば、第2の端部127から第1の端部125へ)の血流を阻止するように構成されている、複数の弁尖132(個々に132a~cとして示される)を含んでもよい。人工弁構成部品130が三尖弁の配置を有するように示されている場合、人工弁構成部品130が、接合して人工弁構成部品130を閉鎖する、2つの弁尖132(図示していない二尖弁の配置)又は4つ以上の弁尖132を有することができると理解される。一実施形態では、弁尖132は、ウシ心膜又は他の天然材料(例えば、ヒト又は動物の心臓弁、大動脈根、大動脈壁、大動脈弁尖、心膜パッチなどの心膜組織、バイパス移植片、血管、腸粘膜下組織、臍帯組織などから得られる)から形成されてもよく、これらは、弁支持体120の内壁122に取り付けられる。別の実施形態では、弁尖132として使用するために好適な合成材料としては、DACRON(登録商標)ポリエステル(Invista North America S.A.R.L.(Wilmington、DE)から市販)、他の布材料、ナイロンブレンド、ポリマー材料、及び真空蒸着ニチノール製造材料が挙げられる。更に別の実施形態では、弁尖132は、Royal DSM(Netherlands)から商品名DYNEEMAで市販されている超高分子量ポリエチレン材料で製造されてもよい。特定の弁尖材料では、弁尖の片面又は両面を、過成長を防止又は最小限に抑える材料で被覆することが望ましい場合がある。弁尖材料に耐久性があり、また、弁尖材料が伸張、変形、又は疲労を受けないことが更に望ましい場合もある。
【0028】
図6は、本発明の実施形態による、天然僧帽弁MVに埋め込まれた心臓弁プロテーゼ100の部分側面図を示す心臓10の切り欠き図を例示する。プロテーゼ100は、単に例示目的で、主支持アーム142と、1つの正反対の補助支持アーム148bとのみを有するように
図6に示されている。一般に、埋め込まれたときに、弁支持体120の上流端部125は、第1の心室、例えば、僧帽弁MV置換のための左心房LA、大動脈弁置換のための左心室などからの血液流入を受容するように配向され、下流端部127は、第2の心室又は構造、例えば、僧帽弁MV置換のための左心室LV、大動脈弁置換のための大動脈への血液流出を放出するように配向される。
【0029】
図4A、
図4B、
図4D、
図5、及び
図6を併せて参照すると、複数の支持アーム142、144は、弁支持体120の下流端部127から延在し、弁支持体120の外壁123の円周の周囲に離間されている(
図4D)。
図4Dに示されるように、支持アーム142、144は、展開時に僧帽弁の前尖及び後尖と概ね整列するように構成される位置で、一緒により近くに、かつ/又は更に離れてグループ化され、弁支持体120から延在し得る。例えば、主支持アーム142は、前尖ALの中央セグメント又は波形部A2(
図3B及び
図5)と概ね整列するように構成されている。補助支持アームの第1の組146は、主支持アーム142の側面に位置し、このため、それらは、交連に近接したA1及びA3セグメントにおいて前尖ALと相互作用する。例えば、補助支持アームの第1の組146の補助支持アーム146a及び146bが、前外側交連AC付近で前尖の後方に到達する(例えば、心室側又は外向き表面と相互作用する)ように構成されている一方で、補助支持アームの第1の組146の残りの補助支持アーム146c及び146dは、後内側交連PC付近で前尖の後方に到達する(例えば、心室側又は外向き表面と相互作用する)ように構成されている。同様に、
図4Dに示されるように、補助支持アームの第2の組148a、148b、148cは、弁支持体120の外壁123の円周の残りの部分の周囲に配置され、このため、それらは、P1、P2、及びP3セグメントのそれぞれにおいて後尖PLと相互作用する。この例では、補助支持アームの第2の組148の補助支持アーム148bは、主支持アーム142と正反対にある。しかしながら、他の配置では、補助支持アームの第2の組148の別の補助支持アーム(例えば、148a又は148c)は、主支持アーム142と正反対になるように配向されてもよく、かつ/又は後尖PLのP2セグメントと相互作用するように構成されてもよい。一般に、図示されていない配置を含むが、複数の支持アームは、円周の周囲に概ね均一に離間されること、不均一に離間されること、グループ化されること、不規則に離間されることなどが可能である。
【0030】
図4Dに示される実施形態は、1つの主支持アーム142及び7つの補助支持アーム144を含む、弁支持体120の円周の周囲に離間されている8つの支持アームを有する。7つの補助支持アーム144のうち4つは、前尖の後方部分に、かつ/又は前外側交連及び後内側交連AC、PC付近に延在するように構成された補助支持アームの第1の組146の中にある。加えて、補助支持アーム144のうち3つは、後尖の後方部分に延在するように構成された補助支持アームの第2の組148の中にある。代替的な配置では、プロテーゼ100は、8つを超える若しくは8つ未満の支持アーム、並びに/又は主支持アーム142及び補助支持アーム144の他の組み合わせ、例えば、制限ではなく例示目的で、2つの主支持アーム、2~6つの補助支持アーム、7つを超える補助支持アーム、9つの補助支持アームなどを含むことができる。
【0031】
図4A、
図4B、及び
図6を併せて参照すると、複数の支持アームの各々は、下流又は第2の端部127において又はその付近で、弁支持体120から延在してもよく、弁支持体120の外壁123に沿って、又はそれと平行に上流又は第1の端部分125に概ね向かって延在していると説明することができる。別の言い方をすれば、プロテーゼが拡張又は展開構成で埋め込まれたときに、複数の支持アームの各々は、弁支持体120から離れて広がって天然交連と係合すると考えられ得る。プロテーゼが拡張又は展開状態であるときに、
図4Aに示されるように、複数の支持アームは、弁支持体120の高さH
1に対して可変の高さまで上流方向に、長手方向に延在するように構成されてもよい。
図4Aに示される実施形態では、展開又は拡張された主支持アーム142の高さ又は展開高さH
2は、展開又は拡張された複数の補助支持アーム144の高さ又は展開高さH
3未満である。他の配置では、高さH
2及び高さH
3は、実質的に同じであってもよい。以下により詳細に記載される本明細書の実施形態では、補助支持アーム144のみを参照する場合、しわ、真っ直ぐ、又は送達構成の補助支持アームの第1及び第2の組146及び148に対する高さは異なるが、いったん展開構成になると、それらの高さは同じになるように構成される。本明細書の実施形態では、より長いアーム(アーム146a~146d)がより広い角度で並べられ、したがって、一実施形態において弁筐体とほぼ平行に展開し得るより短いアーム(アーム148a~148c)と比較して、展開時により低い全高を有するため、展開高さは実質的に同じである。いったん展開されると同じ高さを有する全ての補助アーム(より長い及びより短い補助アーム)を有する目的は、各々が次いで、より平面的であるか又はあまり平面的ではない弁輪の心室側と接触することである。本明細書の実施形態では、弁支持体120の第2の端部127に対する高さH
2、H
3が測定される。主支持アーム142によって達成される高さH
2(例えば、補助支持アーム144の高さH
3以下であろうとなかろうと)は、主支持アーム142が大動脈弁AV(
図3B及び
図6)の弁尖に衝突することを阻止するように構成されている。僧帽弁MVの中前方部分、弁輪ANに沿った心臓組織を防止することによって、主支持アーム142は、LVOTを左心室LV内から実質的に閉塞することなく、前尖組織を捕捉することができる(
図6)。
【0032】
一般に、補助支持アームの第1及び第2の組の146及び148は、弁支持体120の第2の端部127に対して実質的又は本質的に展開高さH
3まで延在するように構成され、各補助支持アームは、円形、湾曲、又は別様に非外傷的先端又は端部分145で終端する。一実施形態では、展開高さH
3は、弁支持体120の長手方向軸L
Aに対して実質的に同じ長手方向位置に、補助支持アームの第1及び第2の組146、148の補助支持アームの各端部分145を配置するか又は位置付ける。端部分145は、本明細書に更に記載されるように、弁輪下組織における又はその付近の組織と非外傷的に係合して、浸透、組織侵食による組織損傷を阻止し、かつ/又は心室収縮期中の上流方向の心臓弁プロテーゼ100の動きに抵抗するように構成されている。
図4A及び
図4Bに示される実施形態では、補助支持アームの第1及び第2の組146、148の高さH
3はまた、補助支持アームが、弁輪下表面の線維性結合組織と係合するためにそれぞれの弁尖AL、PLの周囲及び後方に、かつ/又は左心室LVの壁と関連する筋組織に近接して延在することを可能にするように構成されている(例えば、
図6の補助支持アーム148bを参照されたい)。補助支持アームの第1及び第2の組146、148の展開高さH
3は、拡張状態にあるときに、それぞれの端部分145が半径方向に延在するセグメント150と接触して、かつそれに対して(例えば、それと反対に)作用することを可能にするのに十分である。天然僧帽弁MV内で使用するために位置付けられたときに、心臓弁プロテーゼ100は、半径方向に延在するセグメント150と補助支持アーム144の端部分145との間で弁輪組織を捕捉し、続いて挟む様式で展開されるように構成されている(
図6)。別の実施形態では、拡張状態にあるときに、半径方向に延在するセグメント150のストラットの頂点又は複数の頂点153(例えば、下部表面)は、間隙(図示せず)によって補助支持アーム144の端部分145から長手方向に分離され得る。埋め込まれたときに、間隙は、内部に弁輪組織を受容するようにサイズ決めされ得る。
【0033】
一実施形態では、流入部分150のストラット152の頂点又は複数の頂点153は、埋め込まれたときにそれらの間の接触した弁輪の組織に作用する圧縮力Fc
1及びF
C2(
図4A)を提供する様式で、それぞれの補助支持アーム144のそれぞれの上流に配向された端部分145に対向する。したがって、圧縮力Fc
1及びFc
2は、互いに対して整列及び/又は対向して、半径方向に延在するセグメント150と補助支持アーム144(補助支持アームの第1及び第2の組146、148)との間に弁輪組織が捕捉されるようにし得る(
図6)。いくつかの例では、プロテーゼ100が完全に拡張(例えば、付勢解除)され、間隙が提供されないときに、それぞれの頂点153及び対応する又は対向する端部分145は、接触するか(例えば、ストラット152が補助支持アーム144の端部分145と円周方向及び半径方向に整列して、圧縮力Fc
1及びFc
2が直接対向して、それらの間に弁輪ANを効果的に挟むようにしたときに)、又は別様に重なり合う(例えば、ストラット152が
図4A及び
図4Bに示されるように端部分145からずれているときに)。そのような実施形態では、弁輪組織は、補助支持アーム144(例えば、下流方向に)及び/又は半径方向に延在するセグメント150の1つ以上のストラット152(例えば、上流方向に)のうちの1つ以上に付勢をかけるか、又はそれらを偏向させる様式で、補助支持アーム144の端部分145と半径方向に延在するセグメント150の下部表面との間で捕捉され得る。間隙を提供する配置において、又は間隙が提供されない本明細書の配置において、円周の周囲に配置された複数の支持アーム142、144の間の負荷分配は、経時的な心臓弁プロテーゼ100の移動を阻止すること、天然弁尖組織及び/若しくは腱索CTに対する負荷を最小限に抑えること(例えば、経時的な伸張及び/若しくは変形による損傷を防止するために)、並びに/又は天然僧帽弁MVの弁輪組織に対してプロテーゼ100の円周の周囲にガスケット状の密封効果を提供することが可能である。それに応じて、端部分145が、天然弁輪表面のより広い領域にわたって負荷を分配させるために天然弁輪に沿って離間されるように、補助支持アーム144は、円周方向に広げられる。
【0034】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、初期の圧縮構成(例えば、図示していない送達状態)と展開構成(
図4A~
図6)との間で変形又は自己拡張するために、フレーム110は、展開又は拡張構成に戻るための機械的記憶を有する、ニッケルチタン合金(例えば、ニチノール)などの弾性又は形状記憶材料から形成されている。一実施形態では、フレーム110は、プロテーゼ100の流入部分の半径方向に延在するセグメント150、弁支持体120、及び複数の支持アーム142、144を画定している一体構造であってよく、このように説明されるフレーム110は、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金若しくはニチノールなどの擬似弾性金属、又はニッケル、コバルト、クロム、若しくは他の金属の卑金属を有し得る、いわゆる超合金から作製されてもよい。いくつかの実施形態では、かつ
図7に示されるように、フレーム110は、例えば、レーザ切断された、開窓ニチノール又は他の金属管から一体構造として形成され得る。機械的記憶は、熱処理によってフレーム110を形成している構造体に対して付与され、例えば、ステンレス鋼においてばねのある調質度を達成するか、又は、ニチノールなど感受性の高い金属合金に形状記憶を設定することができる。フレーム110はまた、ポリマー、又は金属、ポリマー、若しくは他の材料の組み合わせを含み得る。一実施形態では、弁支持体120は、バルーン拡張可能な管状金属ステントであってもよく、フレーム110の半径方向に延在するセグメント150及び支持アーム142、144は、上述のように自己拡張するような材料から、及び方法によって形成されてもよい。
【0035】
図7は、本発明の一実施形態による、
図4Aの心臓弁プロテーゼ100のフレーム110の切断パターンを示す。
図7に示されるように、フレーム110は、弁支持体120と、弁支持体120の第1の端部125から概ね延在している半径方向に延在するセグメント150と、弁支持体120の第2の端部127から延在している複数の支持アーム142、144とを含む、一体切断構造を含むことができる。他の実施形態では、フレーム110は、別途製造された構成部品を含むことができ、これらの構成部品は、互いに連結、連接、溶接、又は他の方法で互いに機械的に取設され、フレーム110を形成している。
【0036】
図4B及び
図7を参照すると、フレーム110は、標的天然弁部位への送達のために半径方向に圧縮されることが可能であり(例えば、図示していない送達状態)、かつ標的天然弁部位(
図5及び
図6)における展開及び埋め込みのために半径方向に拡張することが可能である(例えば、
図4A及び
図4Bに示される半径方向に拡張された構成に)格子を提供するように幾何学的に配置された、複数のリブ及び/又はストラット(例えば、ストラット128、152)を有する、可撓性金属フレーム又は支持構造であってもよい。
図4A及び
図4Bに示される弁支持体120を参照すると、リブ及びストラット128は、内部に収容された人工弁構成部品130の完全性を維持するために、十分な弾性及び強度を提供しながら、膨張又は屈曲及び収縮することができる複数の幾何学的パターンで配置され得る。例えば、ストラット128は、長手方向軸LAの周りに周方向パターンで配置することができ、周方向パターンとしては、一連のダイヤモンド、ジグザグ、正弦波、又は他の幾何学的形状が挙げられる。
【0037】
半径方向に延在するセグメント150は、弁支持体120の上流部分124に連結され得るか、又はそこから延在し得る(例えば、弁支持体120のダイヤモンド形状の幾何学的形状によって画定されたストラット128の間の取設点129aにおいて)。同様に、複数の支持アーム142、144は、弁支持体120の下流部分126に連結され得るか、又はそこから延在し得る(例えば、
図4B及び7の弁支持体120の隣接ストラット128の間の一番端のピーク又はクラウン上の取設点129bにおいて)。主支持アーム142及び/又は補助支持アーム144、並びに半径方向に延在するセグメント150のうちの1つ以上を弁支持体120に連結するための他の配置及び取設点が企図される。特定の実施形態では、
図4B及び
図7に示されるように、補助支持アーム148bなどの各補助支持アーム144は、第1の取設点129b
1及び第2の取設点129b
2において弁支持体120に連結されるフレーム110のアームセグメント410を含むことができ、アームセグメント410は、それらの間にループを画定する。一実施形態では、アームセグメント410は、フレーム110と一体であってもよく、このため、アームセグメント410は、1つ以上のストラット128と共通のシート又は管から切断又は形成される。別の実施形態では、アームセグメント410及び弁支持体120は、当該技術分野で既知の様々な方法、例えば、はんだ付け、溶接、接着、リベット、若しくは他の締結具、機械的インターロック、又はこれらの任意の組み合わせによって連結され得る。
【0038】
同様に、主支持アーム142は、主支持アーム142と弁支持体120の外壁123との間で弁尖組織と係合し、それを捕捉するために、主支持アーム142に更なる弾力性を一緒に提供するように構成された、内側及び外側アームセグメント420、421を含むことができる(
図4B及び
図7)。
図4B及び
図7に示されるように、内側アームセグメント420は、補助支持アーム144のアームセグメント410と同様の様式で、第1及び第2の取設点129b
1、129b
2において弁支持体120の一番端のピーク又はクラウンに連結され、それにより、それらの間にループを形成することができる。外側アームセグメント421は、弁支持部120のダイヤモンド形状の幾何学的形状によって画定されたストラット128の間の取設点129c
1及び129c
2に連結され得、内側アームセグメント420の形状に概ね従うループをそれらの間に形成することができる。いくつかの実施形態では、内側及び外側アームセグメント420、421は、内側及び外側アームセグメント420、421の長さに沿った任意の点において、例えば、先端部分143(
図4B及び
図7に示されるような)において接続(例えば、互いに接着、溶接、又は別の方法で取設)されてもよい。
【0039】
図4Bに示されるように、取設点129c
1及び129c
2は、取設点129b
1及び129b
2よりも更に離れて設定され、それにより、少なくとも補助支持アーム144の底部部分412よりも広い全体的な底部部分442を、主支持アーム142に与える。補助支持アーム144の底部部分412及び上部部分414の両方が、展開中に腱索CTの間に嵌合し、かつ/又はそれと最小限に相互作用するように構成された最大幅W
1を有する。
図4Bにおいて最良に見られるように、補助支持アーム144の各々1つの最大幅W
1は、主支持アーム142の底部部分442の幅W
2又は上部部分424の幅W
3よりも小さい。したがって、主支持アーム142は、弁尖捕捉アームとして機能するように構成され、前尖ALのより大きいA2セグメント又は波形部を捕捉及び保持するようにサイズ決め及び配分され、一方で、補助支持アーム144は、前尖及び後尖AL、PLの後方に到達して、弁輪下領域内の緻密な結合組織と接触及び係合すると同時に、展開中に腱索CTと最小限に相互作用するように構成されている。
【0040】
図7を再び参照すると、複数の支持アーム142、144には、可変長が提供される。例えば、主支持アーム142には、第1の長さL
1が提供され、補助支持アームの第1の組146a~dには、第1の長さL
1よりも小さい第2の長さL
2が提供され、補助支持アームの第2の組148a~cには、第1及び第2の長さL
1、L
2の両方よりも小さい第3の長さL
3が提供される。代替的な配置では、支持アームの群142、146、148には、他の支持アームの長さよりも大きい又は小さい長さが提供され得る。可変長L
1、L
2、及びL
3は、それぞれの支持アーム142、146、148が天然僧帽弁における展開時に意図する標的心臓組織と相互作用するために延在しなければならない全体的な距離(例えば、所望の高さH
2及びH
3)に適応するように提供され得る。更に、長さL
1、L
2、及びL
3は、互いに対して変化し、標的組織の解剖学的構造に基づき選択され得る。
【0041】
図8A~
図8Cは、本発明の更なる実施形態による、弁支持体820の長手方向軸L
Aに対して様々な反射角における、弁支持体820に連結され、かつそこから延在する主支持アーム842(
図8A)及び様々な補助支持アーム846、848(
図8B及び
図8C)を有する、別の実施形態による心臓弁プロテーゼのためのフレーム810の拡大部分側面である。
図8Aに示されるように、主支持アーム842は、湾曲領域812によって弁支持体120から半径方向にずれ、湾曲した非外傷的主アーム先端又は端部分814で終端する、アーム本体810を含む。アーム本体810は、アーム本体長さL
4を有し、主支持アーム842を弁支持体820から半径方向に外向きに、かつ上流方向に延在させる湾曲領域812と一体である。第1の反射角A
R1又はテーパ角は、弁支持体820の外壁823とアーム本体810との間に形成される。アーム本体810が外向きの前尖組織と十分に係合することができるように、主支持アーム842が位置付け可能であるように、第1の反射角A
R1が選択され、主アーム先端814は、天然前尖ALの後方で大動脈弁尖又は心室壁と相互作用しない。一実施形態では、第1の反射角A
R1は、約-10°~約45°であってもよく、0度は、主支持アーム842の垂直配置を表し、負の角度は、弁支持体820に向かう方向にあり、正の角度は、弁支持体820から離れる方向にある。他の実施形態では、第1の反射角A
R1は、主支持アーム842の先端814が、弁支持体820と接触する角度からであってもよく、又は逆に、長手方向軸L
Aに対して90°ほど大きくてもよい。
【0042】
図8Aを参照すると、アーム本体810は、主支持アーム842の近位端に位置する湾曲領域812から延在する。湾曲領域812は、主支持アーム842のアーム本体810を、それらの間に前尖組織を収容するのに十分な距離で、弁支持体820の外壁823から半径方向に外向きに延在させるために選択又は最適化され得る、延在長L
5を有することができる。主支持アーム142に関して
図7に同様に示されるように、アーム本体810の長さL
4及び湾曲領域812の長さL
5は合わせて、主支持アーム842の全長又は切断長L
1を構成する。図示されるように、弁支持体820は、中央長手方向軸L
Aに沿って配向され、主支持アーム842もまた、反射角A
R1によって長手方向軸L
Aに対して外向きに広がっていると説明することができる。主支持アーム842が(直線状ではなく)湾曲領域812からアーム先端814へと外向きに概ね湾曲している実施形態では、反射角A
R1は、アーム本体810の長さL
4に沿って連続的に変化することができる(例えば、
図4Aを参照されたい)。
図8Aに示される実施形態では、反射角A
R1は、アーム本体810の長さL
4に沿って一貫している。
【0043】
図8Aに示される拡張状態では、主支持アーム842は、湾曲領域812から主支持アーム142の最遠位点へと延在する主アーム高さH
2を有し、その最遠位点は、弁支持体820の長手方向軸L
Aに平行な軸に沿ったアーム先端814(
図8Aに示される)であってもよい。上述のように、プロテーゼが天然僧帽弁に対して所望の長手方向位置にあるとき(例えば、補助支持アームが弁輪下組織と係合しているとき、及び半径方向に延在するセグメントが弁輪上組織と係合しているときなど)、アーム先端814が弁輪下の解剖学的構造中の所望の位置と係合するように、拡張状態の主支持アーム842の主アーム高さH
2が選択又は最適化され得る。拡張状態では、主アーム高さH
2は、主支持アーム842の切断長L
1、アーム本体810の長さL
4、及び第1の反射角A
R1の関数であり、主アーム高さH
2が弁支持体820の全高H
1よりも十分に小さくなるように、かつ前尖ALのA2セグメントの後方の弁輪下組織の望ましくない疑問を防止するために選択され得る。
【0044】
図8B及び
図8Cは、別の実施形態による、第1及び第2の補助支持アーム846、848を示す。
図8Bは、弁支持体820に連結され、かつ/又はそこから延在する、補助支持アームの第1の組からの補助支持アーム846を示す、心臓弁プロテーゼの部分側面図である。補助支持アーム846は、湾曲領域822によって弁支持体820からずれ、補助支持アーム先端又は端部分824で終端する、補助支持アーム本体825を含んでもよい。アーム本体825は、アーム本体長さL
6を有し、第1の補助支持アーム846を弁支持体820から半径方向に外向きに、かつ上流方向に延在させる湾曲領域822と一体である。第2の反射角A
R2は、弁支持体820の外壁823と補助支持アーム本体825との間に形成される。図示されるように、補助支持アームの第1の組846はまた、反射角A
R2によって弁支持体820の長手方向軸L
Aに対して外向きに広がっていると説明することができる。この実施形態では、拡張状態で、補助支持アーム848の第1の組846のアーム先端824が、A1又はA3セグメントにおいて(例えば、前外側交連及び後内側交連AC、PCに近接して)、天然前尖ALの後方の少なくとも弁輪下組織又は心室壁と係合するように位置付け可能であるように、第2の反射角A
R2及び補助支持アーム本体長さL
6の両方が選択される。
【0045】
弁支持体820に連結され、かつ/又はそこから延在する、補助支持アームの第2の組の補助支持アーム848を示す心臓弁プロテーゼの部分側面図が、
図8Cに示される。補助支持アーム846と同様に、補助支持アームの848は、湾曲領域832によって弁支持体120からずれ、補助支持アーム先端又は端部分834で終端する、補助支持アーム本体830を含む。補助支持アーム本体830は、アーム本体長さL
7を有し、補助支持アーム848を弁支持体820から半径方向に外向きに、かつ上流方向に延在させる湾曲領域832と一体である。第3の反射角A
R3は、弁支持体820の外壁823と補助支持アーム本体830との間に形成される。図示されるように、補助支持アームの第2の組848はまた、反射角A
R3によって弁支持体820の長手方向軸L
Aに対して外向きに広がっていると説明することができる。この実施形態では、拡張状態で、補助支持アームの第2の組のアーム先端834が、P1、P2、又はP3セグメントにおいて、天然後尖PLの後方の少なくとも弁輪下組織又は心室壁と係合するように位置付け可能であるように、第3の反射角A
R3及び補助支持アーム本体長さL
7の両方が選択される。
【0046】
図8B及び
図8Cを併せて参照すると、拡張状態で、補助支持アームの第1の組846の各々及び補助支持アームの第2の組848の各々は、弁支持体820の長手方向軸L
A(
図8B及び
図8Cに示される)と平行の軸に沿って、湾曲領域822、832のそれぞれからその最遠位点(例えば、アーム先端824、834のそれぞれ)まで測定されるように、実質的又は本質的に同じ又同等の補助支持アーム高さH
3を有する。
図4Aに関して上述したように、プロテーゼが展開されたときに、第1及び第2の補助支持アーム先端824、834の各々が、弁輪ANの上に展開された半径方向に延在するセグメント150と反対の圧縮力を提供して、それらの間に弁輪組織を挟む様式で、弁輪ANと係合するように、補助アーム高さH
3が選択又は最適化され得る。
【0047】
図8Bに示される補助支持アームの第1の組846の各々の補助支持アーム高さH
3は、補助支持アーム146に関して
図7に同様に示されるように、補助支持アームの第1の組846の全長又は切断長L
2、アーム本体820の長さL
6、及び第2の反射角A
R2の関数であり、展開高さH
3が弁支持体820の全体的な展開高さH
1(
図8B)よりも小さくなるように選択され得る。同様に、
図8Cに示される補助支持アームの第2の組848の各々の補助支持アーム高さH
3は、補助支持アーム148に関して
図7に同様に示されるように、補助支持アームの第2の組848の全長又は切断長L
3、アーム本体830の長さL
7、及び第3の反射角A
R3の関数である。
図8B及び
図8Cを併せて参照すると、補助支持アームの第1の組846が、補助支持アームの第2の組848の全長又は切断長L
3よりも大きい全長又は切断長L
2を有し、補助支持アームの第2の組848のアーム本体長さL
7よりも大きいアーム本体長さL
6を有する一方で、補助支持アームの第1の組846の第2の反射角A
R2が、補助支持アームの第2の組848の第3の反射角A
R3よりも大きいため、補助支持アームの第1及び第2の組846、848の両方が、拡張又は自然状態で同じ展開高さH
3を有する。本明細書の実施形態では、第2の反射角A
R2及び第3の反射角A
R3は、約0°~約45°であってもよく、0度は、それぞれの補助支持アームの垂直配置を表し、正の角度は、弁支持体820から離れる方向にある。他の実施形態では、第2の反射角A
R2及び第3の反射角A
R3は、それぞれの補助支持アーム846、848の先端824、834が、弁支持体820に触れるような角度であってもよく、又は逆に、長手方向軸L
Aに対して90°ほど大きくてもよい。上述の実施形態の各々では、より長い補助支持アーム846の第2反射角A
R2は、より短い補助支持アーム848の第3の反射角A
R3よりも大きい。他の反射角が企図され、当業者は、補助支持アーム144、146、148、846、848が、補助支持アームの特定の組内にあるか、又は別々に構成されているかにかかわらず、そのようなアームが独立して可変反射角を有することができることを認識するであろう。
【0048】
プロテーゼの拡張又は展開状態において、
図8A~
図8Cを参照すると、支持アームの842、846、848のそれぞれの端部分又は先端814、824、834は、それらのそれぞれのアーム長さL
4、L
6、L
7、及び反斜角A
R1、A
R2、A
R3により、弁支持体820に対して異なる半径方向位置を有する。特に、主支持アーム842の端部分814は、弁支持体820の外壁823からの半径方向距離R
1であり、補助支持アームの第1の組846の各端部分824は実質的又は本質的に、弁支持体820外壁823からの半径方向距離R
2であり、補助支持アームの第21の組848の各端部分834は実質的又は本質的に、弁支持体820外壁823からの半径方向距離R
3である。本明細書に従った実施形態では、半径方向距離R
1、R
2、及びR
3は、本明細書に記載されるように、支持アーム842、846、848の各々が、展開時に天然心臓の解剖学的構造の所望のそれぞれの部分と相互作用するように選択され得る。本明細書に従った実施形態では、半径方向距離R
1は、半径方向距離R
2、R
3の各々よりも大きくてもよい。本明細書に従った実施形態では、半径方向距離R
2は、半径方向距離R
3よりも大きくてもよい。
【0049】
図3B、
図4D、及び
図8A~
図8Cを併せて参照すると、心臓弁プロテーゼ100は、僧帽弁輪ANのD字形状の輪郭の周囲で一貫して弁輪下係合を提供するために、可変特徴(例えば、長さ、アーム本体長さ、及び反射角)を有する複数の支持アームを有して構成されている。例えば、更に延在する(例えば、より長い)補助支持アームの第1の組146、846は、前外側交連ACから後内側交連PCに及ぶD字形状の輪郭の主軸にわたって弁輪係合を提供する。同様に、補助支持アームの第2の組148、848はより短く、後尖PLの後方で、かつ弁支持体120、820により近位の位置で弁輪下組織と接触し(例えば、より小さい反斜角を有する)、それにより、弁輪ANのD字形状の輪郭の外側湾曲部分の周囲に耐荷重分配を提供する(例えば、
図3B及び
図4Dを参照されたい)。有利に、第1及び第2の補助支持アーム146、148、846、848は、D字形状の弁輪ANの周囲により均一分配された耐荷重性を提供する一方で、展開中及び展開後の腱索CTの最小限の相互作用又は妨害を可能にする。
【0050】
図4A~
図6を併せて参照すると、プロテーゼ100のいくつかの特徴は、半径方向に拡張された構成で埋め込まれたときに、プロテーゼ100の動きに対する抵抗を提供し、組織の内部成長を促進し、弁傍漏れを最小限に抑えるか若しくは防止し、かつ/又は天然組織侵食を最小限に抑える。例えば、半径方向に延在するセグメント150は、僧帽弁の上方の心房空間内で拡張し、心房空間内の心臓組織と係合するように位置付けられ得る。特に、セグメント150が半径方向に延在する弓状又はS字形状ストラット152の少なくとも下部表面又は頂点153は、例えば、弁傍漏れに対する密封を提供するために、かつ天然弁輪に対するプロテーゼ100の下流への移動を阻止するために、弁輪上組織と接触するための組織係合領域を提供することができる(
図4A)。
【0051】
いくつかの実施形態では、各々が立ち上がりそれぞれのクラウン156において隣接又は近接するストラット152の近接する上向き配向部分158と結合する、ストラット152の上向き配向部分158は、天然弁輪に対するプロテーゼ100の下流の動きを更に阻止し、かつ心周期中の天然弁内でのプロテーゼ100の揺動又は左右への回転を阻止し、それにより、弁傍漏れを阻止し、天然弁輪内の人工弁構成部品130を確実に整列させ得る、更なる組織接触ゾーンを提供することができる(
図4A及び
図6)。他の実施形態では、半径方向に延在するセグメント150は、フランジ、鍔、リング、指状突出部又は心房空間への他の突出部であってもよく、これにより、弁輪上領域で又はその上方で組織を少なくとも一部分係合させるようにする。
【0052】
図4A、
図4B、及び
図4D、
図5、並びに
図6を併せて参照すると、支持アーム142、144は、心室空間内の天然弁尖(存在する場合)及び/又は僧帽弁MVの弁輪下領域の両方と係合するように構成されている。一実施形態では、少なくとも主支持アーム142は、前尖ALの外面(例えば、心室に面する側)と係合するように構成されており、これにより、弁尖が主支持アーム142と弁支持体120の外壁123との間に捕捉されるようになる。そのような一実施形態では、主支持アーム142は、弁支持体120の外壁123に向かって付勢され得、これにより、圧縮力は、主支持アーム142と弁支持体120の外壁123との間で弁尖を狭持、把持、圧着、又は別様に拘束する様式で、前尖ALを外壁123に対して押し付けるようになる(
図6)。天然弁の弁輪ANに対するプロテーゼ100の上流移動を更に阻止するために、補助支持アームの第1及び第2の組146、148は、非外傷的先端部分145を介して弁輪下領域(例えば、前尖及び後尖AL、PLのそれぞれの後方)と係合するように構成されている。
【0053】
いくつかの実施形態では、プロテーゼ100の一部分、つまり、半径方向に延在するセグメント150及び弁支持体120の上流、下流、及び/若しくは内部表面、並びに/又は複数の支持アームの各々の上流及び/若しくは下流表面は、密封材料160によって完全に又は少なくとも部分的に被覆され得る(
図4A)。
図4Aに示される実施形態では、密封材料160は、半径方向に延在するセグメント150の少なくとも下流表面155の周囲、弁支持体120の内壁122の周囲、及び複数の支持アームの各々の少なくとも一部分の周囲に延在する。
【0054】
図4Dにおいて最良に示される別の実施形態では、密封材料160又は他の材料(発泡体、柔らかい布地、ベロアなど)のテント状の緩衝ストリップ160aは、補助支持アーム146a~d、148a~cの湾曲領域422、432(例えば、
図8B及び
図8Cの補助支持アーム846、848の湾曲領域822、832を参照されたい)にわたって、かつそれらの間に延在してもよく、それにより、複数の補助支持アームに及ぶテント状の構造を提供する。複数の補助支持アーム146a~d、148a~cの湾曲領域422、432にわたって、かつそれらの間に及ぶテント状の緩衝ストリップ160aは、腱索CTの損傷を防止し、かつ/又は腱索CTが補助支持アーム及び弁支持体120の金属部分と相互作用することを防止し得る。
図4Dに示されるように、緩衝ストリップ160aは、複数の補助支持アーム146a~d、148a~cの湾曲領域422、432の上流表面にわたって延在する。
【0055】
密封材料160は、弁傍漏れを防止することができ、加えて埋め込み後の組織内殖のための媒体をもたらすことができ、天然心臓弁領域内の所望の展開場所においてプロテーゼ100の生体力学的保持を更に提供することができる。いくつかの実施形態では、密封材料160、緩衝ストリップ160a、又はその一部分は、ポリエステル、DACRON(登録商標)ポリエステルなどの低多孔性の織布、又はポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)であってもよく、これらは、フレーム110に取設されたときに一方向流体通路を形成する。一実施形態では、密封材料160、緩衝ストリップ160a、又はその一部分は、ポリエステル又はPTFEニットなど、より緩みのあるニット又は織布であってもよく、これらは、組織の内部成長のための媒体及び織布が曲面に適合するように伸張する能力を提供することが望ましい場合に利用され得る。別の実施形態では、一方の側に組織の内部成長のための媒体、他方の側に滑らかな表面を提供することが望ましい場合などに、ポリエステルベロア織布は、密封材料160、緩衝ストリップ160a、又はその一部分の少なくとも一部分のために代替として使用され得る。これら及び他の適切な心臓血管織布は、例えば、Bard Peripheral Vascular、Inc.(Tempe,AZ)から市販されている。別の実施形態では、密封材料160又はその一部は、心膜又は他の膜組織などの天然移植材料であってもよい。
人工心臓弁装置の送達及び埋め込みのための選択されたシステム及び方法
【0056】
いくつかの好適な送達及び展開方法が本明細書及び更に以下で考察される。しかしながら、当業者は、プロテーゼ100を標的天然弁領域に送達するのに好適な複数の方法(例えば、順行性アプローチ又は逆行性アプローチを使用した経皮、経カテーテル送達)を認識するであろう。加えて、当業者は、プロテーゼ100を送達のための圧縮構成から
図4Aに示される拡張構成に展開するのに好適な複数の方法を認識するであろう。
【0057】
図9は、圧縮された送達構成(例えば、薄型又は半径方向に圧縮された状態)で示され、かつ本発明の一実施形態による、
図4A~
図4Dの心臓弁プロテーゼ100の拡大断面図である。動作中、心臓弁プロテーゼ100は、半径方向に圧縮された構成で、かつ送達カテーテル(図示せず)内にある間に、僧帽弁MVの付近などの心臓10の所望の天然弁領域まで血管内送達され得る。
図9に示されるように、プロテーゼ100は、半径方向に圧縮された状態での送達カテーテルシース901内での送達のために構成され得る。より具体的には、半径方向に圧縮された状態において、標的天然心臓弁への経皮送達のために、半径方向に延在するセグメント150が、弁支持体120の流入端部125から実質的に真っ直ぐな状態で長手方向に延在するように伸長され得るか、折り畳まれ得るか、又は別様に配置され得る一方で、複数の支持アーム142、144は、弁支持体120の流出端部127から実質的に真っ直ぐな状態で長手方向に延在するように伸長され得るか、折り畳まれ得るか、又は別様に配置され得る。
図9を参照すると、複数の支持アーム142、148は、その湾曲領域(例えば、812、822、824(
図8A~
図8C))が長手方向軸線L
Aにと略直線及び略平行になるように、弁支持体120の第2の端部127から、かつそれを越えて延在することができる。シース901によって提供される半径方向の拘束が解除されると、半径方向に延在するセグメント150がその半径方向に拡張した構成(
図4A及び4B)に自己拡張することができる一方で、複数の支持アーム142、144は、送達カテーテルシース901がそれぞれを被覆している状態から引き出されると、それらの湾曲状態(
図4A及び4B)に戻ることができる。更に、埋め込み後に心臓弁プロテーゼ100の再配置、除去、及び/又は置換を必要とする場合には、半径方向に延在するセグメント150及び弁支持体120は、カテーテル装置又は他の横方向に保持するシースを使用して、半径方向に拡張された構成(例えば、展開状態)(
図4A)から移行して、半径方向に後退した構成(
図9)に戻ることができる。
【0058】
僧帽弁又は他の房室弁へのアクセスは、患者の血管系を通して経皮様式で達成することができる。特定の実施形態では、僧帽弁へのアプローチは順行性であり、心房中隔を横切ることによる左心房への進入を介して達成され得る。代替の配置において、僧帽弁へのアプローチは、左心室が大動脈弁を通って又は経心尖穿刺を介して進入される場合に逆行性であってもよい。いったん経皮的アクセスが達成されると、介入性ツール及び支持カテーテル(複数可)は、血管内で心臓まで進めてもよく、様々な様式で標的心臓弁に隣接して位置付けられ得る。例えば、心臓弁プロテーゼ100は、経中隔的アプローチ(
図10A~
図10Dに示される)を介して、天然弁の修復又は置換のために天然僧帽弁領域に送達されてもよい。天然僧帽弁への別の好適な経路は、左心室にアクセスするための心室中隔を通した穿刺を介して、右心房から作製されてもよい。本明細書に記載の心臓弁プロテーゼ100と共に使用するために適合され得る好適な経心房及び/又は経中隔埋め込み手技は、米国出願公開第2011/0208297号(Tuval et al.)、及び米国出願公開第2012/0035722号(Tuval et al.)に開示されており、これらの両方は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0059】
当該技術分野において既知のように、ガイドワイヤ(図示せず)は、あらゆる技術を使用して、例えば、下大静脈又は上大静脈(
図1)を通って、心房中隔(図示せず)内に開けられた貫通穴を通って右心房RA内へと、かつ左心房LA(
図1)内へと、血管内を前進してもよい。ガイドカテーテルは、ガイドワイヤに沿って、かつ右心房RA内へと、心房中隔内の貫通穴を通って、かつ左心房LA内へと前進してもよい。ガイドカテーテルは、それが送達カテーテル(図示せず)を僧帽弁MVに方向付けるように、ガイドカテーテルを形状決定又は操作するための、予め形成された又は操作可能な遠位端を有してもよい。
【0060】
あるいは、僧帽弁はまた、例えば、左心房LA内の切開部を通して直接など、経心房アプローチを介してアクセスされてもよい。心臓へのアクセスは、肋骨を除去することなく胸部の肋間切開部を通して得られ得、ガイドカテーテルは、財布紐縫合糸で密封された心房切開部を通して左心房LA内に配置されてもよい。次いで、送達カテーテルがガイドカテーテルを通って僧帽弁に前進してもよい。あるいは、送達カテーテルは、ガイドカテーテルを使用することなく、心房切開部を通して直接配置されてもよい。
【0061】
図10A~
図10Dは、本発明の別の実施形態による、人工心臓弁装置100を送達及び展開するための経中隔的又は順行性アプローチを示す、心臓の概略断面側面図である。
図10A~
図10Dを併せて参照すると、送達カテーテル1012の遠位端1010は、僧帽弁MVに略近接して左心房内へと前進してもよい。任意に、かつ
図10Aに示されるように、送達カテーテル1012がその上方にわたって摺動可能に前進し得るガイドワイヤ(図示せず)が使用されてもよい。半径方向に圧縮された送達構成(
図9)でプロテーゼ100を収容する送達カテーテル1012の送達シース1014は、複数の支持アーム142、144が半径方向に外側に出現及び延在し、上流方向に向かって後方に反射することを可能にする、遠位ノーズコーン1016に対して少なくとも部分的に後退する(
図10A)。この展開段階において、
図9に示される真っ直ぐな状態から
図4A、
図4Bに示される拡張又は弛緩状態への複数の支持アーム142、144の外向き-上流の動きは、支持アーム142、144の形状記憶付勢によって促進され、複数の支持アームのうちの1つ以上のそのような動きは、それぞれの支持アームにおける屈曲が生じる場所に応じて、同時又は連続的に生じ得る。
【0062】
臨床医の標的天然弁領域におけるプロテーゼ100の位置決め及び操作を補助するために、画像誘導、例えば、心腔内心エコー法(intracardiac echocardiography、ICE)、蛍光透視法、コンピュータ断層撮影法(computed tomography、CT)、血管内超音波(intravascular ultrasound、IVUS)、光干渉断層撮影法(optical coherence tomography、OCT)、若しくは別の好適な誘導方式、又はそれらの組み合わせが使用されてもよい。例えば、いったん複数の支持アーム142、144が左心房LA内で展開され、プロテーゼ100の実質的に残りの部分が依然として、送達シース1014内で送達構成で圧縮されていると、主支持アーム142が前尖と整列し、補助支持アームの第1の組146が交連において又はそれに近接して前尖ALと整列し、補助支持アームの第2の組148が僧帽弁MVの後尖PLと整列するように、プロテーゼ100を左心房LA内に配向するために、そのような画像誘導技術が使用され得る。いくつかの実施形態では、画像誘導コンポーネント(例えば、IVUS、OCT)は、送達カテーテル1012の遠位部分、ガイドカテーテル、又は両方と連結されて、標的心臓弁領域に近接した範囲の三次元画像を提供して、心臓弁領域内のプロテーゼ100の位置決め、配向、及び/又は展開を促進することができる。
【0063】
いったん複数の支持アーム142、144が左心房内で展開及びに配向されると、
図10Bに示されるように、複数の支持アーム142、144が天然前尖ALと後尖PLとの間で僧帽弁の弁輪ANを通して押されるまで、送達カテーテル1012は再び、僧帽弁の弁輪ANに向かって前進してもよい。この送達ステップにおいて、支持アームが送達カテーテル1012に向かって圧縮又は屈曲してもよい一方で、送達カテーテルは、それぞれの支持アームの元の形状設定位置に戻る(例えば、その所望の反射角に戻る)前に、僧帽弁の弁輪ANを通って前進する。いったん送達カテーテル1012が弁輪ANを通して、かつ左心室LV内へと、その非外傷的端部分143、145を左心室LV内に置くための好適な距離、複数の支持アーム142、144を前進させると、送達カテーテル1012は、主支持アーム142が前尖ALを捕捉し、補助支持アーム144の端部分145が弁輪下組織と接触及び係合するように、逆行方向に近位に動き得るか、又は後退し得る。
【0064】
図10Cを参照すると、送達シース1014は、更に近位に後退し、弁支持体120が弁尖AL、PLを外向きに押して、僧帽弁の弁輪ANの真下及び弁支持体120と複数の支持アーム142、144との間で折り畳めるように、プロテーゼ100が拡張することを可能にする。送達シース1014は完全に除去され、半径方向に延在するセグメント150は、左心房LA内で拡張される(
図10D)。
図10C及び
図10Dに示される送達ステップ中、送達システムは、補助支持アーム144が連続して弁輪下組織との係合を維持するように、後退張力を維持することができる。送達シース1014が除去され、プロテーゼ100が拡張された後、送達システムは依然としてテザー(図示せず)を介してプロテーゼ100に接続され得、これにより、操作者は、プロテーゼ100が拡張構成に向かって拡張するにつれて、その配置を更に制御することができるようになる。いったんプロテーゼ100が標的部位に位置付けられると、テザー(図示せず)は、近位方向に後退して、展開構成のプロテーゼ100を送達カテーテル1012から分離し得る。次いで、
図6に示されるように、送達カテーテル1012は除去され得、プロテーゼは展開される。あるいは、プロテーゼ100は、テザーを介して送達システムに接続されなくてもよく、これにより、プロテーゼ100は展開し、送達システムから完全に解放されるようになる。
【0065】
図11は、
図4A~
図10Dを参照して上述される、かつ本発明の一実施形態による、心臓弁プロテーゼ100を用いて患者の心臓弁を修復又は置換するための方法1100を例示するブロック図である。
図11を参照すると(かつ
図4A~
図10Dを更に参照すると)、方法1100は、心臓の左心房への経心房アクセスを提供することを含むことができる(ブロック1102)。方法1100はまた、内部に圧縮構成の心臓弁プロテーゼ100を有する送達カテーテル1012の遠位部分を、経心房アクセスを介して左心房LA内へと前進させることも含むことができる(ブロック1104)。プロテーゼ100は、主支持アーム142と複数の補助支持アーム144とを有するフレーム110を含む。方法1100はまた、左心房LA内で、プロテーゼ100の主支持アーム142及び複数の補助支持アーム144を展開することも含むことができる(ブロック1106)。主支持アーム142及び複数の補助支持アーム144の各々は、このステップ中、送達カテーテル1012の遠位部分から延在するにつれて、屈曲し、かつ上流に延在する展開状態をとる。
【0066】
ブロック1108において、方法1100は、屈曲及び上流に延在する展開状態の主支持アーム142及び複数の補助支持アーム144が弁輪を通して心臓の左心室内へと押されるまで、送達カテーテル1012の遠位部分を心臓の天然僧帽弁MVの弁輪ANに向かって前進させることを更に含むことができる。方法1100は、ブロック1110において、主支持アーム142及び複数の補助支持アーム144の各々が天然僧帽弁MVの前尖及び後尖AL、PLの少なくとも一部分と係合し、複数の補助支持アームの先端が僧帽弁輪付近で左心室の心内膜面と係合するまで、送達カテーテルを近位に後退させることを続ける。したがって、本明細書に従った弁プロテーゼの一次固定機構は、補助支持アーム先端と弁輪の筋肉部分との間に生じ、これにより、本明細書の僧帽弁プロテーゼは、既知の人工僧帽弁設計と対比して、固定のための弁尖の捕捉への依存ははるかに少ない。方法1100は、送達カテーテル1012からプロテーゼ100の残りの部分を展開して、天然僧帽弁MVを修復又は置換することを更に含む(ブロック1112)。
【0067】
追加の実施形態
上述の、かつ
図4A~
図10Dに例示される心臓弁プロテーゼ及び送達システム構成部品の特徴は、本発明に従って構成された追加の実施形態を形成するように修正され得る。例えば、単一の主支持アーム又は弁尖捕捉アームのみを示す、上述の、かつ
図4A~
図8Cに例示される心臓弁プロテーゼはまた、例えば、後尖組織を捕捉するために、かつ/又は埋め込み後のプロテーゼの移動に更に抵抗するために、弁支持体から延在する追加の弁尖捕捉アームを含むことができる。患者の心臓弁を修復又は置換するための心臓弁プロテーゼの送達及び展開のための上述の様々な方法ステップはまた、本発明の追加の実施形態を形成するように置き換えることができる。例えば、上述の方法ステップは所与の順序で提示されるが、代替の実施形態は異なる順序でステップを実施してもよい。本明細書に記載の様々な実施形態はまた、更なる実施形態を提供するために組み合わされてもよい。
【0068】
様々な実施形態を上述したが、これらは本発明を限定するものではなく、例解及び例示として提示されたものであることを理解されたい。当業者には、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形式及び詳細の様々な変更が可能であることは明らかであろう。したがって、本発明の広さ及び範囲は、上述の実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲及びそれらの同等物に従ってのみ定義されるべきである。本明細書で論じられた各実施形態の各特徴部及び本明細書で引用された各参考文献は、他の実施形態の特徴部と組み合わせて使用し得ることも理解されたい。本明細書で論じる全ての特許及び刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。