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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20230322BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230322BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230322BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/66 A
H01M4/139
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021053376
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150672
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮島 桃香
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 壮吉
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-149862(JP,A)
【文献】特開2020-113481(JP,A)
【文献】特開2001-351616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる帯状の集電部材と、前記集電部材の表面上に形成された活物質層と、を有する電極シートの製造方法であって、
前記集電部材を前記長手方向に沿った搬送方向に搬送する第1搬送装置と、
前記第1搬送装置によって搬送される前記集電部材の前記表面の下方に第1間隙を空けて配置され、活物質粒子の表面にバインダ粒子が結合した複数の複合粒子を前記第1間隙に向けて搬送する第2搬送装置と、を用いて、
前記第1搬送装置と前記第2搬送装置との間に直流電圧を印加して、前記第1間隙において、前記第2搬送装置によって搬送されていた複数の前記複合粒子を、前記第1搬送装置によって搬送されている前記集電部材のうち前記表面を下方に向けて搬送されている第1部位との間に働く静電気力によって、前記第1部位の前記表面に向けて空中移動させて、前記第1部位の前記表面上に付着させて、複数の前記複合粒子からなる複合粒子層を前記集電部材の前記表面上に形成する成膜工程と、
前記集電部材の前記表面上に複合粒子層が形成された成膜シートを、熱プレスして、前記電極シートを作製する熱プレス工程と、を備える
電極シートの製造方法において、
前記集電部材は、集電箔と、前記集電箔の表面に塗工された電気絶縁性のバインダ膜と、からなり、
前記第1搬送装置は、前記第1間隙を形成する位置において、前記集電部材の前記表面を構成する前記バインダ膜の表面を下方に向けつつ前記集電部材を搬送し、
前記第2搬送装置によって搬送される複数の前記複合粒子には、粒径が100μm未満の複合粒子が含まれ、
前記成膜工程は、
前記第1間隙において、前記第2搬送装置によって搬送されていた前記複合粒子を、前記静電気力によって、前記集電部材の前記第1部位に含まれる前記バインダ膜の前記表面に向けて空中移動させて、前記第1部位に含まれる前記バインダ膜の前記表面上に付着させて、前記複合粒子層を前記集電部材の前記バインダ膜の前記表面上に形成する
電極シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極シートの製造方法であって、
前記複合粒子は、粒径が100μm未満である
電極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長手方向に延びる帯状の集電部材(集電箔)と、集電部材の表面上に形成された活物質層と、を有する電極シートの製造方法が開示されている。具体的には、集電部材を長手方向に沿った搬送方向に搬送する第1搬送装置(バックアップロール)と、第1搬送装置によって搬送される集電部材の表面の下方に第1間隙を空けて配置され、活物質粒子の表面にバインダ粒子が結合した複数の複合粒子を第1間隙に向けて搬送する第2搬送装置(マグネットロール)とを用いて、複数の複合粒子からなる複合粒子層を集電部材の表面上に形成する成膜工程と、集電部材の表面上に複合粒子層が形成された成膜シートを、熱プレス(熱ロールプレス)して、電極シートを作製する熱プレス工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-149862号公報
【0004】
成膜工程では、第1搬送装置と第2搬送装置との間に直流電圧を印加して、第1間隙において、第2搬送装置によって搬送されていた複数の複合粒子を、第1搬送装置によって搬送されている集電箔(集電部材)のうち表面を下方に向けて搬送されている第1部位との間に働く静電気力によって、第1部位の表面に向けて空中移動させて、第1部位の表面上に付着させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、集電箔は導電性であるため、複合粒子が、集電箔からなる集電部材の第1部位の表面上に付着したとき、当該複合粒子の電荷(静電気)が集電箔に漏れ出てしまい、当該複合粒子と集電部材との間に働く静電気力が低下または消失することがある。これによって、集電部材との間に働く静電気力が重力よりも小さくなった複合粒子が、集電部材の表面上から落下(脱落)することがあった。このために、集電部材への複合粒子の付着率が小さくなることがあった。ここで、「集電部材への複合粒子の付着率」とは、第2搬送装置によって第1間隙に搬送された複合粒子の質量に対する、集電部材の表面上から落下(脱落)することなく集電部材の表面上に付着して複合粒子層を形成する複合粒子の質量の割合(wt%)である。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、集電部材への複合粒子の付着率を向上させることができる電極シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、長手方向に延びる帯状の集電部材と、前記集電部材の表面上に形成された活物質層と、を有する電極シートの製造方法であって、前記集電部材を前記長手方向に沿った搬送方向に搬送する第1搬送装置と、前記第1搬送装置によって搬送される前記集電部材の前記表面の下方に第1間隙を空けて配置され、活物質粒子の表面にバインダ粒子が結合した複数の複合粒子を前記第1間隙に向けて搬送する第2搬送装置と、を用いて、前記第1搬送装置と前記第2搬送装置との間に直流電圧を印加して、前記第1間隙において、前記第2搬送装置によって搬送されていた複数の前記複合粒子を、前記第1搬送装置によって搬送されている前記集電部材のうち前記表面を下方に向けて搬送されている第1部位との間に働く静電気力によって、前記第1部位の前記表面に向けて空中移動させて、前記第1部位の前記表面上に付着させて、複数の前記複合粒子からなる複合粒子層を前記集電部材の前記表面上に形成する成膜工程と、前記集電部材の前記表面上に複合粒子層が形成された成膜シートを、熱プレスして、前記電極シートを作製する熱プレス工程と、を備える電極シートの製造方法において、前記集電部材は、集電箔と、前記集電箔の表面に塗工された電気絶縁性のバインダ膜と、からなり、前記第1搬送装置は、前記第1間隙を形成する位置において、前記集電部材の前記表面を構成する前記バインダ膜の表面を下方に向けつつ前記集電部材を搬送し、前記第2搬送装置によって搬送される複数の前記複合粒子には、粒径が100μm未満の複合粒子が含まれ、前記成膜工程は、前記第1間隙において、前記第2搬送装置によって搬送されていた前記複合粒子を、前記静電気力によって、前記集電部材の前記第1部位に含まれる前記バインダ膜の前記表面に向けて空中移動させて、前記第1部位に含まれる前記バインダ膜の前記表面上に付着させて、前記複合粒子層を前記集電部材の前記バインダ膜の前記表面上に形成する電極シートの製造方法である。
【0008】
上述の製造方法では、集電部材として、集電箔と、集電箔の表面上に形成された電気絶縁性のバインダ膜と、からなる集電部材を用いる。そして、第1搬送装置は、第1間隙を形成する位置において、集電部材の表面を構成するバインダ膜の表面を下方(第2搬送装置が位置する側)に向けつつ集電部材を搬送する。また、第2搬送装置によって搬送される複数の複合粒子(複合粒子の粉粒体)には、粒径が100μm未満の複合粒子が含まれる。すなわち、成膜工程において、集電部材の第1部位の表面上に付着させる複合粒子(複合粒子の粉粒体)には、粒径が100μm未満の複合粒子が含まれる。なお、集電部材の第1部位は、集電部材のうち第2搬送装置との第1間隙を形成する部位である。
【0009】
さらに、上述の製造方法の成膜工程では、第1間隙において、第2搬送装置によって搬送されていた複合粒子(複合粒子の粉粒体)を、当該複合粒子と第1搬送装置によって搬送されている集電部材のうち表面を下方に向けて(下向きにして)搬送されている第1部位との間に働く静電気力によって、集電部材の第1部位に含まれるバインダ膜の表面に向けて空中移動させて、第1部位に含まれるバインダ膜の表面上に付着させて、複数の複合粒子からなる複合粒子層を集電部材のバインダ膜の表面上に形成する。
【0010】
このとき、集電箔と複合粒子との間は、バインダ膜によって電気絶縁されているので、複合粒子の電荷(静電気)が、集電箔に漏れることを防止できる。これにより、複合粒子がバインダ膜に接触した後も、静電気力によって複合粒子が集電部材(集電箔)に引きつけられるので、バインダ膜が無いために複合粒子の電荷が集電箔に漏れ出てしまう(これによって静電気力が重力よりも小さくなった複合粒子が落下する)従来の製法に比して、複合粒子が集電部材から落下することが抑制される。従って、上述の製造方法によれば、集電部材への複合粒子の付着率を向上させることができる。
【0011】
その後、熱プレス工程において、集電部材の表面上に複合粒子層が形成された成膜シートを熱プレスすることで、複合粒子層が圧密化されて活物質層となり、電極シートが作製される。このとき、複合粒子層を構成する複合粒子のうち集電箔側に位置する複合粒子(これを構成する活物質粒子など)が、軟化または溶融したバインダ膜内に入り込んでバインダ膜を貫通し、集電箔の表面に接触する。これにより、集電箔と活物質層との間の導電パスが形成されるので、電極シートとして適切に使用することができる。
【0012】
なお、「第2搬送装置によって搬送される複数の複合粒子には、粒径が100μm未満の複合粒子が含まれる」場合とは、全ての複合粒子が粒径100μm未満である場合、または、一部の複合粒子が粒径100μm未満である(粒径が100μm未満の複合粒子と粒径が100μm以上の複合粒子とが混在する)場合である。
【0013】
さらに、前記の電極シートの製造方法であって、前記複合粒子は、粒径が100μm未満である電極シートの製造方法とすると良い。
【0014】
上述の製造方法では、複合粒子として、粒径が100μm未満である複合粒子を用いる。すなわち、第2搬送装置によって搬送される複合粒子の全てが、粒径100μm未満である。これにより、集電部材への複合粒子の付着率をより一層向上させることができる。その理由は、粒径が100μm未満である複合粒子は、粒径が100μmより大きい複合粒子に比べて軽量であるので、集電部材の第1部位に含まれるバインダ膜の表面上に付着した後、落下し難くなる(重力が静電気力を上回り難い)からである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態にかかる電極シート製造装置の側面視概略図である。
図2図1のB部拡大図である。
図3】マグネットロールの説明図である。
図4図1のC部拡大図である。
図5】集電部材上に複合粒子層が形成された成膜シートの断面図である。
図6】集電部材上に活物質層が形成された電極シートの断面図である。
図7】複合粒子の粒径と集電部材への付着率との関係を示す図である。
図8】集電部材への複合粒子の付着率を測定する試験を説明する図である。
図9】集電部材への複合粒子の付着率を測定する試験を説明する他の図である。
図10】集電部材への複合粒子の付着率を測定する試験を説明する他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、本実施形態にかかる電極シート製造装置100について説明する。電極シート製造装置100は、長手方向DLに延びる帯状の集電部材2と、集電部材2の第1表面2b上に形成された活物質層5と、を有する電極シート1(図6参照)を製造する。この電極シート製造装置100は、成膜装置103とロールプレス装置105とを備える(図1参照)。
【0017】
成膜装置103は、帯状の集電部材2の第1表面2b上に、複数の複合粒子15からなる複合粒子層7を形成して、集電部材2と複合粒子層7とからなる成膜シート9(図5参照)を作製する。なお、複合粒子15は、溶媒を含むことなく、活物質粒子11と、活物質粒子11の表面に結合した複数のバインダ粒子13とからなる。また、集電部材2は、集電箔3と、集電箔3の表面に塗工(形成)された電気絶縁性のバインダ膜4とからなる(図5参照)。従って、バインダ膜4の表面4bが、集電部材2の第1表面2bになる。本実施形態では、集電箔3として銅箔を用い、バインダ膜4を形成するバインダとしてPVDFを用いている。
【0018】
成膜装置103は、粒子供給部110と粒子混合部120とバックアップロール130とマグネットロール140と直流電源150とを備える(図1参照)。なお、バックアップロール130が第1搬送装置であり、マグネットロール140が第2搬送装置である。このうち、粒子供給部110は、粒子混合部120の上方に配置されており、複数の複合粒子15(複合粒子15の粉粒体)を収容する収容部111と、この収容部111内に設けられた攪拌翼113及び送りロール115とを有する。この粒子供給部110は、複合粒子15を一時的に収容すると共に、複合粒子15を粒子混合部120へ供給する(図1参照)。なお、粒子供給部110から粒子混合部120へ供給される複数の複合粒子15(複合粒子15の粉粒体)には、粒径が100μm未満の複合粒子15が含まれている。
【0019】
また、粒子混合部120は、複合粒子15と磁性キャリア粒子200とを混合して、磁性キャリア粒子200の表面に複合粒子15が付着した複合キャリア粒子205を作製する。この粒子混合部120は、粒子供給部110及びマグネットロール140の下方に配置されており、複合粒子15及び磁性キャリア粒子200を収容する収容部121bと、この収容部121b内に設けられた3つの攪拌翼(第1攪拌翼123、第2攪拌翼124、及び第3攪拌翼125)とを有する(図1参照)。なお、収容部121bは、箱体121の一部である。箱体121は、収容部121bと、収容部121bの第1側壁部121dの上端から上方に延びる上方側壁部121cとを有する。また、磁性キャリア粒子200は、フェライト粒子と、その表面を被覆するシリコーン樹脂膜と、からなる粒子である。この磁性キャリア粒子200は、粒子混合部120の収容部121b内に一定量収容される。
【0020】
粒子混合部120のうち、図1において最も左側に位置する第1攪拌翼123は、図1において反時計回りに回転し、粒子供給部110から粒子混合部120の収容部121b内に供給された複合粒子15と、予め収容部121b内に収容されている磁性キャリア粒子200とを混合しつつ、複合粒子15及び磁性キャリア粒子200を、図1において中央に位置する第2攪拌翼124に送る。
【0021】
第1攪拌翼123と第3攪拌翼125との間に位置する第2攪拌翼124は、図1において反時計回りに回転し、第3攪拌翼125は、図1において時計回りに回転する。これにより、複合粒子15と磁性キャリア粒子200とを更に混合して、磁性キャリア粒子200の表面に複合粒子15が付着した複合キャリア粒子205を作製しつつ、第2攪拌翼124と第3攪拌翼125との中間部分において、複合キャリア粒子205を上方のマグネットロール140に向けて送る。なお、磁性キャリア粒子200と複合粒子15は、両者間に働く静電気力やファンデルワールス力によって結合して、複合キャリア粒子205を形成する。
【0022】
バックアップロール130(第1搬送装置)は、マグネットロール140の上方に配置されている。また、バックアップロール130の近傍には、バックアップロール130と平行に搬送ロール135が配置されている。バックアップロール130及び搬送ロール135は、集電部材2を、その長手方向DLに沿った搬送方向DMに搬送する(図1参照)。具体的には、搬送ロール135は、集電部材2の第1表面2bに接触して、集電部材2をバックアップロール130に向けて搬送する。
【0023】
また、バックアップロール130には、バックアップロール130を回転駆動させるモータ(不図示)が連結されている。これにより、バックアップロール130は、図1において時計回りに回転し、当該バックアップロール130の外周面130mに集電部材2の第2表面2cが接触する態様(すなわち、集電部材2の第1表面2bであるバインダ膜4の表面4bを外側に向ける態様)で、搬送ロール135から送られてきた集電部材2を外周面130mに巻き付けるようにして、集電部材2をロールプレス装置105に向けて搬送する。このバックアップロール130は、第1間隙K1を形成する位置において、集電部材2の第1表面2bを構成するバインダ膜4の表面4bを下方(マグネットロール140が位置する側)に向けつつ、集電部材2を周方向に搬送する(図1及び図4参照)。
【0024】
マグネットロール140(第2搬送装置)は、バックアップロール130の外周面130mに沿って周方向に搬送される集電部材2の下方に第1間隙K1を空けて、バックアップロール130に平行に配置されると共に、粒子混合部120の上方に配置されている(図1参照)。なお、マグネットロール140は、バックアップロール130の下方に第3間隙K3を空けて配置されている。本実施形態では、第3間隙K3の最小寸法は4.0mmであり、第1間隙K1の最小寸法は、第3間隙K3の最小寸法よりも集電部材2の厚み分だけ小さい。
【0025】
マグネットロール140は、外周面140mに生じた磁力Fgによって、複合キャリア粒子205を外周面140mに吸着可能に構成されている。このマグネットロール140は、粒子混合部120に存在する複合キャリア粒子205を、当該マグネットロール140の外周面140mに磁気吸着しつつ、第1間隙K1に向けて当該マグネットロール140の周方向に搬送する(図2参照)。これにより、複数の複合粒子15(複合粒子15の粉粒体)が第1間隙K1に向けて搬送される。なお、マグネットロール140によって搬送される複数の複合粒子15(複合粒子15の粉粒体)には、粒径が100μm未満の複合粒子15が含まれている。また、マグネットロール140の外周面140mに生じる磁力Fgの大きさは、マグネットロール140の周方向位置によって異なっており、外周面140mのうち、第1間隙K1を形成する第1間隙形成部140mp(第1磁石143N1が径方向内側に存在する部位、図3参照)において最も強い。
【0026】
具体的には、マグネットロール140は、図3に示すように、アルミニウムからなる円筒状の金属筒141と、この金属筒141の内部に金属筒141と同軸に配置された、5極構造を有する円柱状のマグネット部143とを有する。金属筒141の外周面141mは、マグネットロール140の外周面140mをなす。この金属筒141には、金属筒141を回転駆動させるモータ(不図示)が連結されており、これにより、金属筒141は、図1において反時計回りに回転する。
【0027】
一方、マグネット部143は、固定されており回転しない。マグネット部143は、マグネットロール140のロール軸に直交する断面が、それぞれ扇状の5つのフェライト磁石からなる磁石(第1磁石143N1、第2磁石143S1、第3磁石143S2、第4磁石143N2、及び第5磁石143S3)により構成されている。第1磁石143N1及び第4磁石143N2は、それぞれ、径方向外側にN極を有する磁石であり、第2磁石143S1、第3磁石143S2、及び第5磁石143S3は、それぞれ、径方向外側にS極を有する磁石である(図1及び図3参照)。このうち第1磁石143N1は、上方に配置されており、金属筒141、及び、バックアップロール130で搬送される集電部材2を介して、バックアップロール130に対向する。図1において、この第1磁石143N1から反時計回りに、第2磁石143S1、第3磁石143S2、第4磁石143N2、第5磁石143S3が配置されている。
【0028】
直流電源150は、バックアップロール130とマグネットロール140との間に直流電圧Vdを印加して、第1間隙K1において、マグネットロール140によって搬送されていた複数の複合粒子15(複合キャリア粒子205に含まれていた複合粒子15)を、バックアップロール130によって搬送されている集電部材2のうち第1表面2bを下方に向けて(下向きにして)搬送されている第1部位2dとの間に働く静電気力Fsによって、第1部位2dの表面である第1表面2bに向けて空中移動(飛翔)させて、第1部位2dの表面である第1表面2b(すなわち、バインダ膜4の表面4b)上に付着させる。これにより、複数の複合粒子15(複合粒子15の粉粒体)からなる複合粒子層7が、集電部材2の第1表面2b(すなわち、バインダ膜4の表面4b)上に形成されて、成膜シート9が作製される(図1図4図5参照)。なお、集電部材2の第1部位2dとは、集電部材2のうち第1間隙K1を形成する部位(側面視円弧状の部位)である。
【0029】
具体的には、直流電源150は、その負極がマグネットロール140に、正極がバックアップロール130に電気的に接続されている。なお、バックアップロール130は接地されている。本実施形態では、この直流電源150により、マグネットロール140の電位が-600V、バックアップロール130の電位が0Vとなるため、マグネットロール140とバックアップロール130との間に直流電圧Vd=-600Vが掛けられる。
【0030】
これにより、バックアップロール130に巻きつけられて搬送される集電部材2とマグネットロール140との第1間隙K1において、静電気力Fsが生じる。本実施形態では、マグネットロール140によって搬送されていた複数の複合粒子15(複合キャリア粒子205に含まれていた複合粒子15)が、第1間隙K1において、集電部材2のうち第1表面2bを下方に向けて搬送されている第1部位2dとの間に働く静電気力Fsによって、第1部位2dの表面である第1表面2bに向かって空中移動(飛翔)して、第1部位2dの表面である第1表面2b上に付着する(図1及び図4参照)。なお、図1では、磁性キャリア粒子200及び複合粒子15の図示を一部省略している。
【0031】
また、ロールプレス装置105は、第1加熱加圧ロール171と、この第1加熱加圧ロール171の下方に第4間隙K4を空けて第1加熱加圧ロール171に平行に配置された第2加熱加圧ロール173とを有する(図1参照)。第1加熱加圧ロール171及び第2加熱加圧ロール173には、それぞれ、これらを回転駆動させるモータ(不図示)が連結されている。また、第1加熱加圧ロール171及び第2加熱加圧ロール173には、それぞれヒータ(不図示)が内蔵されている。このロールプレス装置105は、成膜装置103によって作製されて搬送される成膜シート9(集電部材2の第1表面2b上に複合粒子層7が形成されたシート)を、第1加熱加圧ロール171と第2加熱加圧ロール173との間で、ホットロールプレス(熱プレス)して、電極シート1を作製する。
【0032】
次に、本実施形態の電極シート1の製造方法について説明する。まず、成膜工程において、複数の複合粒子15からなる複合粒子層7を、集電部材2の第1表面2b(すなわちバインダ膜4の表面4b)上に形成して、成膜シート9(図5参照)を作製する。具体的には、まず、粒子混合部120において、複合粒子15と磁性キャリア粒子200とを混合して、磁性キャリア粒子200の表面に複合粒子15が付着した複合キャリア粒子205を作製する(図1参照)。
【0033】
続いて、粒子混合部120において作製された複合キャリア粒子205を、マグネットロール140の下側において、マグネットロール140の外周面140mに吸着させる。具体的には、粒子混合部120の第2攪拌翼124と第3攪拌翼125によって上方のマグネットロール140に向けて送られた複合キャリア粒子205が、マグネットロール140の外周面140mに生じている磁力Fgによって、マグネットロール140の外周面140mに吸着する。これにより、マグネットロール140の外周面140mに、複数の複合キャリア粒子205からなる複合キャリア粒子層210が形成される(図2参照)。
【0034】
この複合キャリア粒子層210は、マグネットロール140の回転に伴って上方に移動し、スキージ127によって均される(図2参照)。なお、スキージ127は、粒子混合部120の上方において、マグネットロール140の外周面140mに対して第2間隙K2を空けてマグネットロール140の側方に配置されている。このため、複合キャリア粒子層210の厚みは、スキージ127によって第2間隙K2の寸法に調整される。その後、この複合キャリア粒子層210は、マグネットロール140の回転に伴って、第1間隙K1まで移動する。また、バックアップロール130によって、集電部材2が長手方向DLに沿った搬送方向DM搬送される。
【0035】
ところで、マグネットロール140の外周面140mに生じる磁力Fgの大きさは、第1間隙K1を形成する第1間隙形成部140mp(図3参照)において最も強くなる。このため、マグネットロール140によって搬送されて第1間隙K1に達した複合キャリア粒子205(複合キャリア粒子層210を形成していた複合キャリア粒子205)は、複数の複合キャリア粒子205が線状に連なった磁気穂220を形成する(図4参照)。そして、第1間隙K1において、磁気穂220が形成されるときに複合キャリア粒子205に加わる振動や、磁気穂220の揺動(振動)などによって、複合キャリア粒子205に含まれる複合粒子15が、磁性キャリア粒子200の表面から脱離して、第1間隙K1に放出されて空中移動(飛翔)する。
【0036】
そして、この複合粒子15は、集電部材2の第1部位2dとの間に働く静電気力Fsによって集電部材2の第1表面2bに引き寄せられて、集電部材2の第1表面2b(すなわち、バインダ膜4の表面4b)に付着(吸着)する(図1及び図4参照)。これにより、集電部材2の第1表面2b上には、複合粒子15が堆積した複合粒子層7が連続して形成される。なお、マグネットロール140の外周面140mに磁気吸着している磁性キャリア粒子200は、そのまま外周面140m上に残る。
【0037】
このとき、集電箔3と複合粒子15との間は、バインダ膜4によって電気絶縁されているので、複合粒子15の電荷(静電気)が、集電箔3に漏出することを防止できる。これにより、複合粒子15がバインダ膜4に接触した後も、静電気力Fsによって複合粒子15が集電箔3(集電部材2)に引きつけられるので、バインダ膜4が無いために複合粒子15の電荷が集電箔3に漏れ出てしまう(これによって静電気力が重力よりも小さくなった複合粒子15が落下する)従来の製法に比して、複合粒子15が集電部材2から落下することが抑制される。従って、本実施形態の製造方法によれば、集電部材2への複合粒子15の付着率を向上させることができる。
【0038】
その後、マグネットロール140の外周面140mに吸着したまま残った磁性キャリア粒子200は、マグネットロール140の回転に伴って反時計回りに下方に移動する。そして、S極同士が隣り合う第2磁石143S1と第3磁石143S2との境界部140mq(図3参照)で、外周面140mから剥がれ落ち、粒子混合部120の収容部121b内に戻る。その後、この磁性キャリア粒子200は、粒子混合部120において複合粒子15と混合され、新たな複合粒子15が付着して複合キャリア粒子205を形成する。このようにして、帯状の集電部材2と、集電部材2の第1表面2b上に形成された複合粒子層7と、を備える成膜シート9(図5参照)が作製される。
【0039】
続いて、熱プレス工程に進み、成膜装置103によって作製されて搬送される成膜シート9を、ロールプレス装置105によってホットロールプレス(熱プレス)する。これにより、複合粒子層7が厚み方向DTに圧縮(圧密化)されて活物質層5となり、電極シート1(図6参照)が作製される。このとき、複合粒子層7を構成する複合粒子15のうち集電箔3側に位置する複合粒子15(これを構成する活物質粒子11)が、軟化または溶融したバインダ膜4内に入り込んでバインダ膜4を貫通し、集電箔3の表面に接触する。これにより、集電箔3と活物質層5との間の導電パスが形成されるので、電極シート1として適切に使用することができる。なお、バインダ膜4の厚みは、複合粒子15の平均粒径(好ましくは最小粒径)よりも小さくすると良い。熱プレス工程において、複合粒子15がバインダ膜4を貫通して集電箔3の表面に接触し易くなるからである。
【0040】
この電極シート1は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極シート(負極シートまたは正極シート)として用いることができる。また、本実施形態では、集電部材2の第1表面2bのみに活物質層5を形成したが、第2表面2cにも活物質層5を形成するようにしても良い。この場合、集電部材として、集電箔3の両面にバインダ膜4が塗工された集電部材(すなわち、集電部材2の第1表面2bと第2表面2cとがバインダ膜4の表面4bである集電部材)を用いると良い。
【0041】
<複合粒子付着率の測定試験>
集電部材2の第1表面2bへ付着させる複合粒子15の粒径範囲を種種異ならせて、各々の粒径範囲について、集電部材2への複合粒子15の付着率を測定する試験を行った。具体的には、複数の活物質粒子11と複数のバインダ粒子13とを混合して複合粒子15の粉粒体Aを作製した。さらに、粉粒体Aを分級して、複合粒子15の粒径範囲が異なる5種類の複合粒子15の粉粒体(粉粒体B,C,D,E,F)を用意した。そして、粉粒体A~Fについて、集電部材2への付着率を測定した。
【0042】
なお、粉粒体Bは、粒径が5μm以上53μm未満の範囲内である複合粒子15の粉粒体である。また、粉粒体Cは、粒径が53μm以上100μm未満の範囲内である複合粒子15の粉粒体である。また、粉粒体Dは、粒径が100μm以上212μm未満の範囲内である複合粒子15の粉粒体である。また、粉粒体Eは、粒径が212μm以上425μm未満の範囲内である複合粒子15の粉粒体である。また、粉粒体Fは、粒径が425μm以上の複合粒子15の粉粒体である。粉粒体Aは、未分級の複合粒子15の粉粒体であり、粉粒体B~Fの全種類の複合粒子15を含む(従って、粒径が100μm未満の複合粒子15を含む)粉粒体である。
【0043】
また、本試験では、簡略化した方法によって、集電部材2への複合粒子15の付着率を測定している。具体的には、図8に示すように、4.0mm(第1間隙K1の最小寸法と同等寸法)の間隙を空けて上下に対向する第1金属板10(バックアップロール130に対応する部材)と第2金属板20(マグネットロール140に対応する部材)とを用意する。そして、まず、下方に位置する第2金属板20の上面に一定量の粉粒体Aを載置し、上方に位置する第1金属板10の下面に集電部材2の第2面cを接触させた状態にした。すなわち、集電部材2の第1表面2b(すなわち、バインダ膜4の表面4b)を下方(第2金属板20)に向けて、第1金属板10の下面に集電部材2の第2面cを接触させた状態にした。
【0044】
その後、図9に示すように、第1金属板10と第2金属板20との間に直流電圧(2kV)を30秒間印加した。これにより、第2金属板20の上面に載置した粉粒体A(複合粒子15)を、第1金属板10の下面に接触している集電部材2との間に働く静電気力Fsによって、集電部材2の第1表面2b(すなわち、バインダ膜4の表面4b)に向かって空中移動(飛翔)させて、集電部材2の第1表面2b(バインダ膜4の表面4b)上に付着させるようにした。これにより、図10に示すように、第2金属板20の上面に載置した粉粒体A(複合粒子15)の一部が、集電部材2の第1表面2b上から落下することなく、集電部材2の第1表面2b上に付着した。
【0045】
その後、集電部材2の第1表面2b(バインダ膜4の表面4b)上に付着している粉粒体A(複合粒子15)の質量を測定し、下記演算式(1)によって、集電部材2への複合粒子15の付着率(%)を算出した。なお、「第2金属板20の上面に載置した複合粒子15の質量」が、「第2搬送装置によって第1間隙に搬送された複合粒子の質量」に相当し、「集電部材2の第1表面2b上に付着している複合粒子15の質量」が、「集電部材の表面上から落下(脱落)することなく集電部材の表面上に付着して複合粒子層を形成する複合粒子の質量」に相当する。
付着率(%)={(集電部材2の第1表面2b上に付着している複合粒子15の質量)/(第2金属板20の上面に載置した複合粒子15の質量)}×100・・・(1)
【0046】
これと同様にして、粉粒体B~Fについても、集電部材2への複合粒子15の付着率(%)を測定した。これらの結果を図7に示す。なお、図7では、これらの結果を、「バインダ膜有り」と表示している。また、バインダ膜4を有しない集電部材(すなわち、集電箔3のみからなる集電部材)を用いて、粉粒体A~Fについて同様な測定を行った。これらの結果も図7に示す。なお、図7では、これらの結果を、「バインダ膜無し」と表示している。
【0047】
図7に示すように、粉粒体D,E,Fでは、「バインダ膜有り」の付着率と「バインダ膜無し」の付着率とがほぼ同等であった。なお、粉粒体D,E,Fは、粒径が100μm以上の複合粒子15のみを含む粉粒体である。一方、粉粒体A,B,Cでは、「バインダ膜有り」の付着率が、「バインダ膜無し」の付着率に比べて、大幅に向上した。粉粒体A,B,Cは、粒径が100μm未満の複合粒子15を含む粉粒体である。
【0048】
この結果より、バインダ膜4を有する集電部材2を用いて、静電気力によって、粒径が100μm未満の複合粒子15を含む粉粒体をバインダ膜4に向けて空中移動させて、バインダ膜4の表面4b上に付着させるようにすることで、集電部材2への複合粒子15の付着率を向上させることができるといえる。従って、実施形態の製造方法によれば、集電部材2への複合粒子15の付着率を向上させることができるといえる。
【0049】
詳細には、複合粒子15として、粒径が100μm未満である複合粒子15を用いることで、集電部材2への複合粒子15の付着率を向上させることができるといえる。特に、複合粒子15として、粒径が53μm以上100μm未満の範囲内である複合粒子15を用いることで、集電部材2への複合粒子15の付着率をより一層向上させることができるといえる。なお、粒径が53μm未満の複合粒子15の粉粒体Bは、粒径が53μm以上100μm未満の複合粒子15の粉粒体Cに比べて凝集し易いため、静電気力によって第2金属板20の上面から集電部材に向かって空中移動(飛翔)し難くなる。このために、粉粒体Bの付着率が粉粒体Cの付着率よりも低くなる。
【0050】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。例えば、実施形態では、複合粒子として、活物質粒子11と、活物質粒子11の表面に結合したバインダ粒子13と、からなる複合粒子15を用いたが、活物質粒子と、活物質粒子の表面に結合したバインダ粒子及び導電粒子と、からなる複合粒子を用いるようにしても良い。また、実施形態では、第1搬送装置としてバックアップロール130を用い、第2搬送装置としてマグネットロール140を用いて、電極シート1を製造するようにしたが、第1搬送装置及び第2搬送装置は、これらに限定されるものではない。例えば、第2搬送装置として、複合粒子15をベルトの上に載置して搬送するベルトコンベアを用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 電極シート
2 集電部材
2d 第1部位
3 集電箔
4 バインダ膜
5 活物質層
7 複合粒子層
9 成膜シート
11 活物質粒子
13 バインダ粒子
15 複合粒子
100 電極シート製造装置
103 成膜装置
120 粒子混合部
130 バックアップロール(第1搬送装置)
140 マグネットロール(第2搬送装置)
150 直流電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10