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特許7248764非水系二次電池、セルパック、及び、ハイブリッドシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】非水系二次電池、セルパック、及び、ハイブリッドシステム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230322BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230322BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230322BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230322BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230322BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230322BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20230322BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20230322BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230322BHJP
   H01M 50/211 20210101ALI20230322BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/38 Z
H01M4/42
H01M4/46
H01M10/0569
H01M50/211
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021180264
(22)【出願日】2021-11-04
(62)【分割の表示】P 2019506280の分割
【原出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2022017483
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2017052260
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052398
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052399
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052400
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052259
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052088
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052086
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052085
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052258
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052397
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052396
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052256
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052255
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052254
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052257
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】加味根 丈主
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真生
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一行
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021596(WO,A1)
【文献】特表2015-531738(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054795(WO,A1)
【文献】特開2017-054822(JP,A)
【文献】特開2004-259681(JP,A)
【文献】特開2014-007052(JP,A)
【文献】特開2008-305771(JP,A)
【文献】特開2015-090859(JP,A)
【文献】特開2005-050585(JP,A)
【文献】特開2011-154987(JP,A)
【文献】特開2016-178125(JP,A)
【文献】特開2015-133255(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102324562(CN,A)
【文献】国際公開第2016/159108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 11/00-11/86
H01M 6/00-6/22
H01M 4/00-4/62
H01M 50/20-50/298
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を具備する非水系二次電池において、
前記非水系電解液はアセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物と、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートとを含有し、
更に前記リチウム塩としてのLiPFが解離したPFアニオンを含有し、
前記非水系電解液及び正極表面に、-N=、-NH、-N=O、-NH-NH-、及び(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する窒素含有化合物が含まれ、
前記非水系二次電池は、初回充電時、3.5V以下でエージングし、
前記非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率は、70%以上であることを特徴とする非水系二次電池。
【請求項2】
前記非水系二次電池のエージング温度が35℃以上60℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
前記窒素含有化合物が、XPS分析の窒素元素に基づく394eV~408eVの範囲において、光電子スペクトルのピーク分割を行った場合の窒素濃度が、0.5~20atomic%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
前記リチウム塩はイミド塩を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項5】
前記アセトニトリルに対するPFアニオンの混合モル比が、0.01以上0.08未満であることを特徴とする請求項4に記載の非水系二次電池。
【請求項6】
前記-N=の官能基を有する窒素含有化合物は、窒素含有環状化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水系二次電池。
【請求項7】
前記非水系二次電池に有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれ、
前記有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項8】
前記非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後における、0℃での前記非水系電解液のイオン伝導度が、10mS/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項9】
前記非水系二次電池に有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれ、
前記有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含み、
前記非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後における、0℃での前記非水系電解液のイオン伝導度が、10mS/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項10】
正極活物質がLizMO(MはNiを含み、且つ、Mn、Co、Al、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含み、さらに、Niの元素含有比は50%より多い。また、zは0.9超1.2未満の数を示す。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項11】
前記非水系電解液の注液前後における負極電位差が0.3V以上であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項12】
60℃での200時間貯蔵試験におけるガス発生量が1mAhあたり0.008ml以下であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項13】
60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率が400%以下であることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の非水系二次電池。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれかに記載の非水系二次電池を備えたセルパックであって、
前記正極活物質層にFeが含まれるリチウム含有化合物を含有し、
前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有し、
前記非水系電解液には、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有し、前記飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記非水系二次電池が4セル直列接続されたモジュールを1モジュール、あるいは2モジュール以上並列接続して構成され、または、前記非水系二次電池が2セル以上並列接続されたモジュールを4モジュール直列接続して構成されており、
1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vであり、
前記モジュールにはBMSが搭載されている、ことを特徴とするセルパック。
【請求項15】
請求項14に記載のセルパックと、リチウムイオン電池以外の二次電池から構成されるモジュールまたはセルパックと、を組み合わせてなることを特徴とするハイブリッドシステム。
【請求項16】
請求項1から請求項13のいずれかに記載の非水系二次電池を備えたセルパックであって、
前記正極活物質層にFeが含まれるリチウム含有化合物を含有し、
前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有し、
前記非水系電解液には、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有し、前記飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であり、
式(2)及び式(3)に基づいて、前記非水系二次電池のセル数及びモジュール数を規定した前記セルパックを1個、或いは2個以上並列接続して構成され、または、前記非水系二次電池が2セル以上並列接続したモジュールが式(2)及び式(3)に基づいて接続されて前記セルパックを構成しており、
1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vであり、前記モジュールにはBMSが搭載されている、ことを特徴とするセルパック。
式(2)
1モジュールあたりのセル直列接続数X:X=2,4,8、16
式(3)
セルパックあたりのモジュール直列接続数Y:Y=16/X
【請求項17】
請求項16に記載のセルパックと、リチウムイオン電池以外の二次電池から構成されるモジュールまたはセルパックと、を組み合わせてなることを特徴とするハイブリッドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池、セルパック、及び、ハイブリッドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)をはじめとする非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、各種携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。近年では、電動工具等のパワーツールに代表される産業用;電気自動車、電動式自転車等における車載用としても広がりを見せている。更には、住宅用蓄電システム等の電力貯蔵分野においても注目されている。
【0003】
特許文献1に記載の発明には、リチウムイオン電池等の非水系二次電池に適用される非水系電解質に関する発明が開示されている。特許文献1では、ビスマレイミドとその他の添加剤を加えて調製した非水系電解質について開示されている。
【0004】
特許文献2によれば、十分に低いOCV(開回路電圧)を示すことができ且つ優れた寿命特性を示すことができる非水電解質電池を提供することができる、としている。
【0005】
特許文献3に記載の発明には、リチウムイオン電池の電解液に関する発明が記載されている。特許文献3では、高温サイクル試験等により、所定サイクル後の容量を測定して耐久性に関する評価を行っている。
【0006】
特許文献4によれば、既存のカーボネート系の電解液に比べて高温での保存特性及びスウェリング特性を向上させることができ、この電解液を用いたリチウムイオン電池は、容量、効率、低温、寿命などの特性において従来のものと同等以上の性能を実現することができる、としている。
【0007】
特許文献5に記載の発明には、リチウムイオン電池用電解液の溶媒及び添加剤として有用なビニレンカーボネートに関する発明が開示されている。
【0008】
特許文献6に記載の発明には、リチウム塩と、非水系溶媒とを含有した電解液を備える非水系二次電池に関する発明が開示されている。
【0009】
特許文献7に記載の発明には、非水系電解液中に、フッ酸又は有機酸を添加した非水電解液二次電池に関する発明が開示されている。
【0010】
特許文献8によれば、充放電、サイクル特性を向上できる、としている。
【0011】
特許文献9に記載の発明には、非水性有機溶媒、リチウム塩、及び、遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含むリチウムイオン電池用電解質に関する発明が開示されている。特許文献9によれば、過充電特性といった電池の安全性に優れたリチウムイオン電池を提供できるとしている。
【0012】
特許文献10に記載の発明には、酸化防止剤による高温環境下での電池特性劣化を抑制できる非水電解質に関する発明が開示されている。
【0013】
特許文献11に記載の発明には、常温及び低温での初期容量及び出力特性を向上させることができるリチウムイオン電池用の非水電解液に関する発明が開示されている。特許文献11では、非水電解液に、有機溶媒と、リチウム塩と、リン系化合物とを含むことが開示されている。
【0014】
特許文献12に記載の発明には、二次電池用正極材料を改良して、長寿命化、及びレート特性等を向上させた電池に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2016-143536号公報
【文献】特開2016-35901号公報
【文献】特開2014-194930号公報
【文献】特開2005-72003号公報
【文献】特開2012-25764号公報
【文献】国際公開第2013/062056号
【文献】特開2000-12079号公報
【文献】特開2009-218056号公報
【文献】特開2006-245001号公報
【文献】特開2011-154987号公報
【文献】特表2016-531388号公報
【文献】特開平10-208742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、アセトニトリルをベースとした電解液は、負極表面に還元電解を抑制するための被膜形成が必要であり、従来から用いられている被膜形成剤では不十分であることが分かっている。
【0017】
これまでの検討からアセトニトリル電解液に耐えうる被膜が十分に形成されていないと、初期充電時や高温環境下における各試験時に還元分解が進行し、ガス発生または容量低下などを引き起こすことが分かっている。
【0018】
その一方で、耐久性の強い被膜を形成してしまうと、負極へのリチウムイオンの挿入、脱離が阻害されてしまうため、アセトニトリルの特徴である高イオン伝導性を発揮することができなくなってしまう。
【0019】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、アセトニトリル電解液において、所望の電池性能を向上させることが可能な非水系二次電池、セルパック、及び、ハイブリッドシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の非水系二次電池では、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を具備する非水系二次電池において、前記非水系電解液はアセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物と、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートとを含有し、更に前記リチウム塩としてのLiPFが解離したPFアニオンを含有し、前記非水系電解液及び正極表面に、-N=、-NH、-N=O、-NH-NH-、及び(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する窒素含有化合物が含まれ、前記非水系二次電池は、初回充電時、3.5V以下でエージングし、前記非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率は、70%以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明では、前記非水系二次電池のエージング温度が35℃以上60℃以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明では、前記窒素含有化合物が、XPS分析の窒素元素に基づく394eV~408eVの範囲において、光電子スペクトルのピーク分割を行った場合の窒素濃度が、0.5~20atomic%であることを特徴とする。
【0023】
本発明では、前記リチウム塩はイミド塩を含有することを特徴とする。
【0024】
本発明では、前記アセトニトリルに対するPFアニオンの混合モル比が、0.01以上0.08未満であることを特徴とする。
【0025】
本発明では、前記-N=の官能基を有する窒素含有化合物は、窒素含有環状化合物であることを特徴とする。
【0026】
本発明では、前記非水系二次電池に有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれ、前記有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする
【0027】
本発明では、前記非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後における、0℃での前記非水系電解液のイオン伝導度が、10mS/cm以上であることを特徴とする。
【0028】
本発明では、前記非水系二次電池に有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれ、前記有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含み、前記非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後における、0℃での前記非水系電解液のイオン伝導度が、10mS/cm以上であることを特徴とする。
【0029】
本発明では、正極活物質がLizMO(MはNiを含み、且つ、Mn、Co、Al、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含み、さらに、Niの元素含有比は50%より多い。また、zは0.9超1.2未満の数を示す。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物であることを特徴とする。
【0030】
本発明では、前記非水系電解液の注液前後における負極電位差が0.3V以上であることを特徴とする。
【0031】
本発明では、60℃での200時間貯蔵試験におけるガス発生量が1mAhあたり0.008ml以下であることを特徴とする。
【0032】
本発明では、60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率が400%以下であることを特徴とする。
【0033】
本発明は、上記に記載の非水系二次電池を備えたセルパックであって、前記正極活物質層にFeが含まれるリチウム含有化合物を含有し、前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有し、前記非水系電解液には、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有し、前記飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記非水系二次電池が4セル直列接続されたモジュールを1モジュール、あるいは2モジュール以上並列接続して構成され、または、前記非水系二次電池が2セル以上並列接続されたモジュールを4モジュール直列接続して構成されており、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vであり、前記モジュールにはBMSが搭載されている、ことを特徴とする。
【0034】
本発明のハイブリッドシステムは、上記に記載のセルパックと、リチウムイオン電池以外の二次電池から構成されるモジュールまたはセルパックと、を組み合わせてなることを特徴とする。
【0035】
本発明は、上記に記載の非水系二次電池を備えたセルパックであって、前記正極活物質層にFeが含まれるリチウム含有化合物を含有し、前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有し、前記非水系電解液には、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有し、前記飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であり、式(2)及び式(3)に基づいて、前記非水系二次電池のセル数及びモジュール数を規定した前記セルパックを1個、或いは2個以上並列接続して構成され、または、前記非水系二次電池が2セル以上並列接続したモジュールが式(2)及び式(3)に基づいて接続されて前記セルパックを構成しており、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vであり、前記モジュールにはBMSが搭載されている、ことを特徴とする。
式(2)
1モジュールあたりのセル直列接続数X:X=2,4,8、16
式(3)
セルパックあたりのモジュール直列接続数Y:Y=16/X
【0036】
本発明のハイブリッドシステムは、上記に記載のセルパックと、リチウムイオン電池以外の二次電池から構成されるモジュールまたはセルパックと、を組み合わせてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明の非水系二次電池によれば、高温作動時及び過充電時のガスの発生を遅延できたり、負極SEIを強化できたり、良好な低温特性や出力特性、更には高温特性を得ることができる。
【0038】
以上により、本発明の非水系電解液及び、それを用いた非水系二次電池によれば、アセトニトリル電解液において、所望の電池性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本実施形態の非水系二次電池の一例を概略的に示す平面図である。
図2図1の非水系二次電池のA-A線断面図である。
図3】第43実施形態のセルパックの概略説明図である。
図4】第44実施形態のハイブリッドシステムの概略説明図である。
図5】第45実施形態のセルパックの概略説明図である。
図6】第46実施形態のハイブリッドシステムの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0041】
<第1実施形態:非水系電解液>
第1実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物と、を含むことを特徴とする。
【0042】
第1実施形態では、アセトニトリルに、リチウム塩と環状酸無水物とを含有し、アセトニトリルの還元分解前に、環状酸無水物からなる負極SEI(Solid Electrolyte Interface)を強化して形成することができる。これにより、効果的に、熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0043】
第1実施形態における非水系電解液を用いた非水系二次電池は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより安定化する。このとき、環状酸無水物はもともと電解液中での含有量が少ないうえ、負極SEIに取り込まれる等して、初回充電後は、成分検出が困難な場合がある。
【0044】
このため、アセトニトリル電解液を用いた非水系二次電池においては、初回充電が施された状態において、下記に記載したような特性を有していれば、本実施形態の非水系電解液の構成成分を有するものと推測することが可能である。
【0045】
また、第1実施形態では、上記電解液を、0.4V vs. Li/Liより卑な電位でリチウムイオンを挿入・脱離する負極からなる非水系二次電池に適用することが好ましい。第1実施形態における非水系電解液を用いた非水系二次電池は1.0V~0.4Vで分解する環状酸無水物の反応が促進されるため、還元分解に弱いアセトニトリルを含んでいても負極SEIの強化に有利に作用する。
【0046】
このとき、負極は、負極活物質として、リチウムイオンを、0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵する材料を含有することが好適である。
【0047】
一方、正極及び、セパレータ、及び電池外装については特に限定されるものではない。
【0048】
例えば、第1実施形態では、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率により判別することができる。具体的には、容量維持率は、70%以上であることが好ましい。
【0049】
<第2実施形態:非水系電解液>
第2実施形態では、第1実施形態の非水系電解液において、PFアニオンを含有することが好ましい。PFアニオンは、リチウム塩のLiPFが電解液中で解離したものであってもよい。
【0050】
このように、PFアニオンを含有することで、アセトニトリルのα位置から水素が抜けてHFの発生を促進し負極SEIの構成要素であるLiFが効果的に形成される。また、適量の水分が環状酸無水物の負極SEIの形成反応をより効果的に促進する。したがって、PFアニオンを含むことで、負極SEIの有機/無機複合化が効率良く進行する。第2実施形態の具体的組成及び用途は、例えば、第1実施形態と同じである。
【0051】
<第3実施形態:非水系電解液>
第3実施形態では、第2実施形態の非水系電解液において、非水系電解液が、PFアニオンを含有し、PFアニオンは、リチウム塩のLiPFが電解液中で解離したものであることが好ましい。
【0052】
このように、PFアニオンを含有することで、アセトニトリルのα位置から水素が抜けてHFの発生を促進し負極SEIの構成要素であるLiFが効果的に形成される。したがって、PFアニオンを含むことで、負極SEIの有機/無機複合化が効率良く進行する。第3実施形態の具体的組成及び用途は、例えば、第1実施形態と同じである。
【0053】
<第4実施形態:非水系電解液>
第4実施形態では、第1実施形態から第3実施形態のいずれかの非水系電解液において、環状酸無水物は、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0054】
これら環状酸無水物の一種のみ含んでも複数種含んでもよい。或いは、これらの環状酸無水物以外の環状酸無水物を含んでいてもよい。
【0055】
また、環状酸無水物の含有量は、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。また、環状酸無水物の含有量は、非水系電解液に対し、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含む非水系電解液によれば、負極に強固なSEIを形成でき、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。特に少なくとも、無水コハク酸を含むことが好ましい。これにより、より効果的に、負極に強固なSEIを形成できる。
【0057】
<第5実施形態:非水系電解液>
第5実施形態では、第1実施形態から第4実施形態のいずれかの非水系電解液において、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0058】
環状酸無水物の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
これにより、より効果的に、負極SEIの強化を促進できる。
【0060】
第5実施形態の具体的組成及び用途は、例えば、第1実施形態と同様である。
【0061】
<非水系溶媒>
ここで、非水系溶媒について説明する。本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、電解液中からリチウム塩及び添加剤を除いた要素をいう。
【0062】
本実施形態では、アセトニトリルを必須成分として含むが、アセトニトリル以外に別の非水系溶媒を含んでいてもよい。アセトニトリル以外の非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0063】
上記非水系溶媒のうち、非プロトン性溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、及びビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される環状カーボネート;4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイトに代表される硫黄化合物;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサンに代表される環状エーテル;エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、及びメチルトリフルオロエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート;トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、及びトリフルオロエチルメチルカーボネートに代表される鎖状フッ素化カーボネート;プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリルに代表されるモノニトリル;メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリルに代表されるアルコキシ基置換ニトリル;マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリルに代表されるジニトリル;ベンゾニトリルに代表される環状ニトリル;プロピオン酸メチルに代表される鎖状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライムに代表される鎖状エーテル;Rf-OR(Rfはフッ素原子を含有するアルキル基、Rはフッ素原子を含有してもよい有機基)に代表されるフッ素化エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンに代表されるケトン類等の他、これらのフッ素化物に代表されるハロゲン化物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0064】
また、これらその他の非水系溶媒の中でも、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上を使用することがより好ましい。ここで、環状カーボネート及び鎖状カーボネートとして前記に例示したもののうちの1種のみを選択して使用してもよく、2種以上(例えば、前記例示の環状カーボネートのうちの2種以上、前記例示の鎖状カーボネートのうちの2種以上、又は前記例示の環状カーボネートのうちの1種以上及び前記例示の鎖状カーボネートのうちの1種以上からなる2種以上)を使用してもよい。これらの中でも、環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、又はフルオロエチレンカーボネートがより好ましく、鎖状カーボネートとしてはエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、又はジエチルカーボネートがより好ましい。
【0065】
アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、これを、別の溶媒と混合すること、及び、電極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤を添加すること、のうちの少なくとも1つを行うことが好ましい。
【0066】
非水系二次電池の充放電に寄与するリチウム塩の電離度を高めるために、非水系溶媒は、環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0067】
以下、非水系溶媒についての好ましい形態について具体的に説明する。
【0068】
<第6実施形態:非水系電解液>
第6実施形態では、第1実施形態から第5実施形態のいずれかの非水系電解液において、更に、上記に記載の鎖状カーボネートを含有することが好ましい。
【0069】
アセトニトリルと鎖状カーボネートとを併用することで、アセトニトリルとLiPFとの会合抑制に有利に作用する。
【0070】
第6実施形態では、例えば、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、リチウム塩と、無水コハク酸(SAH)と、を含む構成とすることができる。
【0071】
このとき、負極は、負極活物質として、リチウムイオンを、0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵する材料を含有することが好適である。
【0072】
一方、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0073】
以上の構成により、非水系二次電池の高温耐久性に顕著な効果が現れ、高温環境下でも長寿命を得ることが可能である。
【0074】
<第7実施形態:非水系電解液>
第7実施形態では、第6実施形態の非水系電解液において、例えば、鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0075】
第7実施形態の具体的な組成としては、LiPF、アセトニトリル(AcN)、及び、ジエチルカーボネート(DEC)を含む非水系電解液である。更に、リチウム塩として、LiPF、LiN(SOF)(LiFSI)、LiN(SOCF(LiTFSI)及び、LiB(C(LiBOB)を含んでいてもよい。更に、環状酸無水物として、無水コハク酸(SAH)、無水マレイン酸(MAH)、及び無水フタル酸(PAH)を含むことが好ましい。
【0076】
第7実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、寒冷地用に用いることができる。
【0077】
<第8実施形態:非水系電解液>
第8実施形態では、第6実施形態又は第7実施形態の非水系電解液において、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比が、0.15以上2以下であることが好ましい。
【0078】
アセトニトリルと鎖状カーボネートとを併用することで、アセトニトリルとLiPFとの会合抑制に有利に作用する。ただし、鎖状カーボネートは極性が低い。そこで、鎖状カーボネートを含有しても、低温域でのイオン伝導度の低下を適切に抑制するために、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比率を調節することとした。
【0079】
すなわち、第8実施形態では、主に、溶解性に影響を与えるアセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比率を特定範囲に調節する。アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比率は、アセトニトリルのモル数Aと鎖状カーボネートのモル数Cとすると、C/Aで示される。
【0080】
すなわち、第8実施形態では、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比率(C/A)を、0.15以上2以下に調整した。
【0081】
本実施形態では、(1)LiPFと非水系溶媒を含有し、非水系溶媒としてアセトニトリルと鎖状カーボネートを含むこと、(2)LiPF含有量が非水系溶媒1Lに対して1.5mol以下であること、(3)アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比が0.08以上0.16以下であること、(4)アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比が0.15以上2以下であること、の全てを満たすことがより好ましい。
【0082】
これにより、より効果的に、LiPFの会合防止と、イオン伝導度の低下抑制とのトレードオフ問題を解消できる。
【0083】
第8実施形態の具体的組成及び用途は、例えば、第7実施形態と同じである。
【0084】
<第9実施形態:非水系電解液>
第9実施形態では、第6実施形態又は第7実施形態の非水系電解液において、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比が、0.25以上2以下であることが好ましい。
【0085】
第9実施形態は、第8実施形態をより限定したものである。これにより、鎖状カーボネートを含有しても、より効果的に、低温域でのイオン伝導度の低下を適切に抑制することができる。
【0086】
<第10実施形態:非水系電解液>
第10実施形態では、第6実施形態又は第7実施形態の非水系電解液において、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比が、0.4以上2以下であることが好ましい。
【0087】
第10実施形態は、第9実施形態をより限定したものである。これにより、鎖状カーボネートを含有しても、更により効果的に、低温域でのイオン伝導度の低下を適切に抑制することができる。具体的には、会合体としての白色沈殿の析出が見られず、且つ、-30℃で3mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができる。本実施形態によれば、好ましくは、会合体によるイオン伝導阻害がなく、且つ-30℃で3.5mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができ、より好ましくは、会合体によるイオン伝導阻害がなく、且つ4mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができ、更に好ましくは、会合体の形成がなく、且つ4.5mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができる。
【0088】
<第11実施形態:非水系電解液>
第11実施形態では、第1実施形態から第10実施形態のいずれかの非水系電解液において、水を含有することが好ましい。微量の水を添加することで、環状酸無水物の負極SEIの形成反応を促進でき、過充電時のガスの発生を従来に比べて遅延させることが可能である。
【0089】
上記したように、環状酸無水物は、負極SEI(Solid Electrolyte Interface)の形成に寄与する。また、水により環状酸無水物の負極SEI形成反応が促進され、過充電時の膨れガスの発生を遅延させることができる。
【0090】
第11実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、集電体の片面または両面に正極活物質層を有する正極と、集電体の片面または両面に負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を有し、2C過充電試験による60℃への到達時間が、20分以上である構成とすることができる。
【0091】
また、第11実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、特に限定されるものではないが、パウチ型セルに好ましく適用できる。なお、ラミネート型とも呼ばれる。すなわち、本実施形態の非水系二次電池は、パウチ型セルにおいて、過充電時の膨れを抑制でき、従来に比べて安全性を向上させることが可能である。
【0092】
第11実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、特に限定されるものでないが、満充電が行われる、スマートフォンやモバイルIT機器用のパウチ型セル電池に好ましく適用できる。
【0093】
以上の構成により、非水系二次電池の過充電時における膨れを抑制でき、優れた安全性を得ることが可能である。
【0094】
<第12実施形態:非水系電解液>
第12実施形態では、第11実施形態の非水系電解液において、水の含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上200ppm以下であることが好ましい。
【0095】
第11実施形態及び第12実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。アセトニトリルをベースとした電解液では、既存のカーボネート電解液に比べて、過充電時に早く膨れてしまう。これは、アセトニトリル電解液では、過充電時にガスが発生しやすいことに起因する。そこで、本発明者らは、アセトニトリル電解液への添加剤を適宜選択し、更には、添加剤の含有量を適宜調節して、従来に比べて、過充電時のガスの発生を遅延させることが可能な非水系電解液及びそれを用いた非水系二次電池を開発するに至った。
【0096】
すなわち、本実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、リチウム塩と、を含有し、更に、1ppm以上200ppm以下の水と、環状酸無水物と、を含むことが好ましい。
【0097】
このように、本実施形態では、アセトニトリルと、リチウム塩の他に、1ppm以上200ppm以下の水と、環状酸無水物とを、含む。水は、1ppm以上150ppm以下であることが好ましく、10ppm以上100ppm以下であることがより好ましい。
【0098】
環状酸無水物は、負極SEIの形成に寄与する。本実施形態では、微量の水を添加することで、環状酸無水物の負極SEIの形成反応を促進でき、過充電時のガスの発生を従来に比べて遅延させることが可能である。なお、水は、SEI形成反応で消費されることが好ましい。水の添加量が多すぎる場合、SEI形成反応以降も電解液中に水が残留することになり、過充電でない通常使用時の段階で電気分解する恐れがある。
【0099】
本実施形態では、2C過充電試験による60℃への到達時間により評価した。本実施形態のように、1ppm以上200ppm以下の水と、環状酸無水物と、を含むことで、水及び環状酸無水物の少なくとも一方を含まない非水系電解液に比べて、60℃への到達時間を遅らせることができ、ガスの発生が比較例に比べて抑制されていることを理解できた。
【0100】
また、本実施形態では、特に限定するものではないが、2C過充電試験による60℃への到達時間を、20分以上にでき、好ましくは22分以上にできる。
【0101】
第12実施形態の非水系電解液の具体的組成は、例えば、アセトニトリル(AcN)と、リチウム塩と、1ppm~200ppmの水と、環状酸無水物としての無水コハク酸(SAH)と、を含む構成とすることができる。
【0102】
<第13実施形態:非水系電解液>
第13実施形態では、第1実施形態から第12実施形態のいずれかの非水家電解液において、イミド塩を含有することが好ましい。
【0103】
第13実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。既知電解液では、イオン伝導度及び電池のサイクル特性を高めることなどを目的として、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩が用いられている。ここで、イミド塩とは、LiN(SO2m+1〔mは0~8の整数〕で表されるリチウム塩である。しかしながら、イミド塩を含む非水電解液では、充放電により、リチウムイオン電池の正極集電体として用いられるアルミニウムと可溶性錯体を形成するため腐食が進行し、電解液中に溶出させてしまうという問題がある。そこで、本発明者らは、イミド塩を含んでいても、充放電によりアルミニウムが溶出しにくい電解液を提供することを目指して本発明を開発するに至った。
【0104】
第13実施形態では、アセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物と、を含有し、リチウム塩がイミド塩を含有することを特徴とする。
【0105】
ここで、第13実施形態では、第2実施形態のPFアニオンを含むことが好適である。PFアニオンは、水と反応してフッ化水素(以下、HFと記載する)とPFを発生させる。HF由来の遊離のフッ素イオンは、正極集電体であるアルミニウムと反応し、表面に不働態被膜を作る。これにより、アルミニウムを含む正極の腐食が抑えられ、電解液中へのアルミニウムが溶出するのが抑制される。
【0106】
また、アセトニトリルはPFの存在下で熱せられると、α位から水素が抜け、PFアニオンからのHF発生を促進する。これにより、アルミニウムの腐食が進行する高温環境下であっても不働態被膜の修復が促進され、アルミニウムの溶出がいっそう抑制される。すなわち、充放電してもアルミニウムの溶出を抑制することができる。
【0107】
また、第13実施形態では、非水系電解液は、水を1ppm以上200ppm以下含有することが好ましく、1ppm以上30ppm以下が特に好ましい。非水系電解液において、適量の水がアルミニウムの不働態化に寄与するからである。
【0108】
第13実施形態の具体的な組成としては、非水系溶媒としてアセトニトリル(AcN)、リチウム塩としてLiPF及びLiN(SOF)(LiFSI)やLiN(SOCF(LiTFSI)などのイミド塩、並びに、水を含む非水系電解液である。さらに、環状酸無水物として、無水マレイン酸、無水コハク酸又は無水フタル酸を含んでいてもよい。
【0109】
このとき、負極は、特に限定されない。一方、正極も限定されるものではないが、正極活物質としては、層状岩塩型の結晶を有するリチウム含有化合物であることが好適である。また、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0110】
<第14実施形態:非水系電解液>
第14実施形態では、第13実施形態の非水系電解液において、イミド塩が、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことが好適である。これらイミド塩の一方のみ含んでも両方含んでもよい。或いは、これらのイミド塩以外のイミド塩を含んでいてもよい。
【0111】
第14実施形態においても、第13実施形態と同様に、アセトニトリルのα位置から水素が抜けることでPFアニオンからのHF発生を促進し、イミド塩を用いた場合でも、アルミニウム不働態の形成を促進することができる。
【0112】
なお、第14実施形態では、LiPF系アセトニトリル電解液に、LiPOと、環状酸無水物と、イミド塩とを添加することが好ましい。これにより、高温加熱時の抵抗増加抑制と低温特性を両立することができる。
【0113】
また、第14実施形態では、LiPF系アセトニトリル電解液に対し、0.01~1質量%のLiPOと、0.01~1質量%の環状酸無水物と、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を添加することが好ましい。これにより、LiPOと環状酸無水物が、負極SEIを強化し、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。また、イミド塩により優れた低温特性を発揮する。
【0114】
また、第14実施形態では、アセトニトリル電解液に対し0.1~0.5質量%のLiPOと、電解液に対し0.01~0.5質量%の環状酸無水物を添加することが好ましい。また、イミド塩(特にLiFSI)の含有量は、非水系溶媒1Lに対して、0.5~3molであることが好ましい。これにより、LIPOと環状酸無水物が負極SEIを強化し、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。
【0115】
<第15実施形態:非水系電解液>
第15実施形態では、第1実施形態から第14実施形態のいずれかの非水系電解液において、更に、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有することが好ましい。
【0116】
第15実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。例えば、既存のアセトニトリル電解液を用いた電池では、50℃~60℃(50℃以上60℃以下を意味する)で使用又は放置すると、電池性能が著しく低下し、動作限界を迎える場合がある。これは、アセトニトリルがPFの存在下で熱せられると、α位から水素が抜け、HFの発生を促進させ、電池性能を急激に低下させるからである。そこで、本発明者らは、50℃~60℃でのHFの発生量を低減することを目指して本発明を開発するに至った。すなわち、第15実施形態では、飽和第二級炭素を有する非水系溶媒を含有しないことした。
【0117】
本発明者らは、非水系溶媒に飽和第二級炭素が含まれていると、プロトンが抜けやすいため、50℃~60℃でのHFの発生を促進する傾向にあることを見出した。すなわち、本実施形態に係る非水系電解液において、飽和第二級炭素を有する非水系溶媒を含有しないことにより、50℃~60℃でのHFの発生量を低減できることが見いだされた。
【0118】
ここで、「飽和第二級炭素」とは、炭素原子に結合する隣の炭素原子の数が2つのものをいう。また、飽和とは、二重結合、三重結合を持たないことを意味する。
【0119】
飽和第二級炭素を有する非水系溶媒の具体例は、例えば、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-カプロラクトン、2-メチルテトラヒドロフラン、メチルイソプロピルカーボネートであるが、特に限定されない。
【0120】
また、非水系溶媒として、飽和第二級炭素を有さないカーボネート溶媒を用いることにより、50℃~60℃でのHFの発生を抑制できることが見出された。
【0121】
また、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、アセトニトリル以上の体積比率で含有されていることにより、アセトニトリルによる、50℃~60℃でのHFの発生促進をいっそう抑えられることが見出された。
【0122】
第15実施の形態の非水系電解液の他の態様は、アセトニトリルを含有する非水系溶媒と、LiPFとを含有する非水系電解液であって、60℃でのフッ化水素の発生量の、25℃でのフッ化水素の発生量に対する増加率が、165%以下であることを特徴とする。このように、60℃でのフッ化水素の発生量を、25℃でのフッ化水素の発生量に対して増加する比率を低減できることにより、夏季の屋外及び熱帯地(後述)において使用又は放置しても電池性能が著しく低下することなく、夏季の屋外用、熱帯地用に適した非水系二次電池を得ることができる。
【0123】
第15実施形態では、LiPF系アセトニトリル電解液が、飽和第三級炭素を持たない非水系溶媒で希釈されていることが好ましい。飽和第二級炭素を持つカーボネート(例えば、プロピレンカーボネート)はプロトンが抜けやすいため、50~60℃でのHF発生を促進する傾向にあるが、飽和第三級炭素を持たない非水系溶媒で希釈するとHF発生を効果的に抑制することができる。
【0124】
第15実施形態のより具体的な組成としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、アセトニトリル(AcN)、エチレンカーボネート(EC)及び/又はビニレンカーボネート(VC)、並びに、ジエチルカーボネート(DEC)を含む非水系電解液である。更に、リチウム塩として、LiN(SOF)(LiFSI)、LiN(SOCF(LiTFSI)、及び、LiB(C(LiBOB)を含んでいてもよい。
【0125】
このとき、負極は、特に限定されない。一方、正極も限定されるものではないが、正極活物質としては、層状岩塩型の結晶を有するリチウム含有化合物であることが好適である。
【0126】
また、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0127】
以上のように、第15実施形態の非水系電解液によれば、50℃~60℃でのHFの発生を抑制することができる。
【0128】
第15実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、汎用品や自動車等に適用可能であるが、いずれも夏季の屋外用、熱帯、乾燥帯等で用いる、いわゆる熱帯地用として適している。例えば、本実施形態では、電池外装に従来と同様の構成を適用できる。すなわち、電池外装を従来と同様の構成としても、夏季の屋外用、熱帯地用に適した非水系二次電池を得ることができる。よって、製造プロセスが煩雑化せず、製造費の上昇を適切に抑制することができる。
【0129】
<第16実施形態:非水系電解液>
第16実施形態では、第15実施形態の非水系電解液において、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。
【0130】
これらのうち、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0131】
第16実施形態の具体的組成及び用途は、第15実施形態と同じである。
【0132】
<第17実施形態:非水系電解液>
第17実施形態では、第16実施形態の非水系電解液において、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、ビニレンカーボネートであって、ビニレンカーボネートの量が非水系電解液中、0.5体積%以上4体積%以下であることが好ましい。
【0133】
添加剤は負極表面でのアセトニトリルの還元分解反応を抑制するため、必須であり、不足すると電池性能が急激に低下する。一方で、過剰な被膜形成は低温性能の低下を招く。
【0134】
そこで、第17実施形態では、添加剤としてのビニレンカーボネートの添加量を上記の範囲内に調整することで、界面(被膜)抵抗を低く抑えることができ、低温時のサイクル劣化を抑制することができる。
【0135】
また、第17実施形態では、ビニレンカーボネートの量が3体積%未満であることが好ましい。これにより、低温耐久性をより効果的に向上させることができ、低温性能に優れた二次電池を提供することが可能になる。
【0136】
第17実施形態のより具体的な組成としては、アセトニトリル、LiPF、LiN(SOF)(LiFSI)やLiN(SOCF(LiTFSI)などのイミド塩、ビニレンカーボネート及び無水コハク酸(SAH)を含み、ビニレンカーボネートは、非水系電解液中、0.1体積%以上4体積%以下、好ましくは、0.2体積%以上3体積%未満、更に好ましくは、0.5体積%以上2.5体積%未満含み、無水コハク酸は、非水系電解液中、1質量%未満含む非水系電解液である。
【0137】
<第18実施形態:非水系電解液>
第18実施形態では、第15実施形態から第17実施形態のいずれかの非水系電解液において、更に、環状カーボネートの塩素付加体である有機塩素化合物を含有することが好ましい。
【0138】
ここで、環状カーボネートは、限定されるものではないが、本実施形態では、ビニレンカーボネート(VC)を用いることが好ましい。以下の実施形態では、ビニレンカーボネートの塩素付加体を具体的に示した。
【0139】
第18実施形態では、アセトニトリル電解液に、有機塩素化合物(VC原料由来の塩化物)と環状酸無水物を添加することが好ましい。これにより、負極SEIを強化することができる。
【0140】
また、第18実施形態では、アセトニトリル電解液に対し0.1~500ppmの有機塩素化合物と、電解液に対し0.01~1質量%の環状酸無水物を添加することが好ましい。負極SEIを強化することによって、アセトニトリル電解液を用いた電池の高温耐久性能を向上させることができる。
【0141】
また、第18実施形態では、アセトニトリル電解液に対し、0.5~10ppmの有機塩素化合物と、電解液に対し0.01~0.5質量%の環状酸無水物を添加することが好ましい。低電位で分解する有機塩素化合物が、環状酸無水物の負極SEI形成反応を促進し、SEIを強化することができる。これにより、アセトニトリル電解液を用いた電池の高温耐久性能を向上させることができる。
【0142】
本実施形態では、有機塩素化合物が、下記式(4)~(7)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0143】
【化1】
【0144】
【化2】
【0145】
【化3】
【0146】
【化4】
【0147】
式(4)から式(7)に示す有機塩素化合物を、単独で用いても、種類の異なる2以上の有機塩素化合物を複合して用いてもよい。
【0148】
非水系溶媒の中でも還元されやすい部類に属するビニレンカーボネート由来の塩素付加体を用いることで、確実にアセトニトリルの還元分解前にSEIの形成反応が進行するため、負極SEIの更なる強化を図ることができ、非水系二次電池の高温耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0149】
また、これらその他の非水系溶媒の中でも、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上を使用することがより好ましい。ここで、環状カーボネート及び鎖状カーボネートとして前記に例示したもののうちの1種のみを選択して使用してもよく、2種以上(例えば、前記例示の環状カーボネートのうちの2種以上、前記例示の鎖状カーボネートのうちの2種以上、又は前記例示の環状カーボネートのうちの1種以上及び前記例示の鎖状カーボネートのうちの1種以上からなる2種以上)を使用してもよい。これらの中でも、環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、又はフルオロエチレンカーボネートがより好ましく、鎖状カーボネートとしてはエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、又はジエチルカーボネートがより好ましい。
【0150】
第18実施形態は、その前提として、アセトニトリルと、リチウム塩と、含有し、更に、有機塩素化合物と、環状酸無水物を含む非水系電解液に適用される。
【0151】
このように、第18実施形態では、アセトニトリルと、リチウム塩の他に、有機塩素化合物と、環状酸無水物を含むことが好ましい。有機塩素化合物は、例えば、ビニレンカーボネート(VC)原料由来の塩化物である。有機塩素化合物と、環状酸無水物を含有することで、負極SEIを強化できる。有機塩素化合物は、塩素の電子吸引性効果に起因してLUMO(最低空軌道)エネルギーが低い。LUMOに電子が入る反応が還元反応であることから、LUMOエネルギーは添加剤の還元性と相関関係があり、LUMOエネルギーが低いほど還元電位が高く、すなわち還元されやすいことを意味する。本実施形態における有機塩素化合物は、アセトニトリルよりも十分に還元されやすい化合物であり、アセトニトリルの還元分解よりも先に電気化学的反応が進行することを示唆している。しかしながら、有機塩素化合物を単独で用いた場合には有効なSEIとして寄与するものではない。これに対し、有機塩素化合物と環状酸無水物を同時に用いると、負極SEIの形成に有効であるばかりでなく、還元性が高すぎることによる非電気化学的な副反応が相乗効果によって抑制され、充放電サイクルを繰り返した際の内部抵抗増加を抑制することができる。このように、負極SEIを強化できるので、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池によれば、高温耐久性を向上させることができる。
【0152】
本実施形態では、高温耐久性を50℃でのサイクル試験(100サイクル)の容量維持率で評価した。このとき、容量維持率が高いほど充放電サイクルを繰り返した際の内部抵抗増加が抑制されているため、負極SEIが強化されて高温耐久性が向上していると結論付けることができる。
【0153】
そして、第18実施形態では、上記に記載した有機塩素化合物が、環状カーボネートの塩素付加体であることが好ましい。
【0154】
有機塩素化合物の含有量は、非水系電解液に対し0.1ppm以上500ppm以下であることが好ましい。有機塩素化合物の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計重量に対する質量ppmにて算出される。有機塩素化合物の含有量は、非水系電解液に対し0.1ppm以上300ppm以下であることがより好ましい。
【0155】
また、第18実施形態では、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。環状酸無水物の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0156】
これにより、より負極SEIの強化を図ることができ、アセトニトリル電解液を用いた非水系二次電池の高温耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0157】
また、本実施形態では、有機塩素化合物の含有量が、非水系電解液に対し0.5ppm以上10ppm以下であることが更に好ましい。また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.3質量%以下であることが更により好ましい。このように、含有量を規定することで、低電位で分解する有機塩素化合物が、環状酸無水物の負極SEI形成反応を促進し、負極SEIの更なる強化を図ることが可能である。これにより、アセトニトリル電解液を用いた非水系二次電池の高温耐久性能をより確実に向上させることができる。
【0158】
本実施形態では、特に限定するものではないが、50℃におけるサイクル試験を100サイクル行ったときの容量維持率を、60%以上にでき、好ましくは70%以上にでき、更に好ましくは80%以上にできる。
【0159】
50℃のサイクル試験方法については後で詳述するが、100サイクルの充放電を行い、1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量により、容量維持率を求めた。
【0160】
<第19実施形態:非水系電解液>
第19実施形態では、第13実施形態及び第14実施形態のいずれかの非水系電解液において、-30℃でのイオン伝導度が、3mS/cm以上であることが好ましい。
【0161】
第19実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。例えば、既存電解液を用いた電池では、-20℃程度で動作限界を迎える。これは、既存電解液では、-20℃でのイオン伝導度が小さくなりすぎ動作に必要な出力が得られないためである。そこで、本発明者らは、-20℃よりも低温(具体的には-30℃)においても、少なくとも、既存電解液の-20℃相当のイオン伝導度が得られることを目指して本発明を開発するに至った。
【0162】
第19実施形態の非水系電解液は、非水系溶媒とLiPF(リチウム塩)とを含有することが好ましい。そして、-30℃におけるイオン伝導度が3mS/cm以上であることを特徴とする。
【0163】
環状カーボネートと鎖状カーボネートとLiPFとを含有する既存電解液の-20℃でのイオン伝導度が、約2.7mS/cmであった。したがって、第19実施形態の非水系電解液のイオン伝導度は、-30℃で既存電解液の-20℃相当のイオン伝導度程度、或いは、それよりも高いイオン伝導度を有する。これにより、第19実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池を、-30℃の低温にて使用した場合でも、既存電解液を用いた電池を-20℃の環境下で使用した際と同程度以上の出力を得ることが可能である。なお、-20℃は、既存LIBの動作範囲の下限界である。よって、動作限界を従来よりも、より低温域にシフトさせることが可能である。
【0164】
また、本実施形態では、-30℃でのイオン伝導度が3.5以上であることが好ましい。-30℃でのイオン伝導度が4.0以上であることがより好ましい。また、-30℃でのイオン伝導度が4.5以上であることが更に好ましい。これにより、動作限界を従来よりも、更により低温域にシフトさせることができ、より安定した低温特性を得ることができる。
【0165】
また、第19実施形態では、非水系溶媒として、アセトニトリルを含有することが好ましい。すなわち、非水系溶媒としては、アセトニトリルを必須成分として含み、アセトニトリル単独で、或いは、アセトニトリル以外の非水系溶媒を含んでいてもよい。
【0166】
ところで、アセトニトリルとLiPFとを含む非水系溶媒にあっては、アセトニトリルとLiPFとの会合防止と、イオン伝導度の低下抑制とがトレードオフの関係にある。すなわち、アセトニトリルとLiPFとの会合防止を促進すれば、イオン伝導度が低下し、一方、イオン伝導度の低下抑制を促進すれば、会合体が形成されやすくなる。
【0167】
そこで、第19実施形態では、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率を調節することとした。アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率は、アセトニトリルのモル数Aと、LiPFのモル数BとするとB/Aで示される。
【0168】
アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率は、主に会合体量に影響を与える。第18実施形態では、LiPF含有量は、非水系溶媒1Lに対して1.5mol以下であると共に、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率が、0.08以上0.16以下であることが好ましい。これにより、高いイオン伝導度を実現することができる。
【0169】
非水系溶媒としてアセトニトリルとともに、鎖状カーボネートを含めることが好ましい。すなわち、非水系電解液として、LiPFと、非水系溶媒として、アセトニトリル、及び鎖状カーボネートとを含む。鎖状カーボネートの種類を限定するものではないが、例えば、鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等を選択することができる。
【0170】
第19実施形態の具体的組成としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、アセトニトリル(AcN)、並びに、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレンカーボネート(EC)及びビニレンカーボネート(VC)のうちの1種以上をを含む非水系電解液である。更に、リチウム塩として、LiN(SOF)(LiFSI)、LiN(SOCF(LiTFSI)及び、LiB(C(LiBOB)を含んでいてもよい。
【0171】
第19実施形態では、LiPFと非水系溶媒を含有し、LiPF含有量が非水系溶媒1Lに対して1.5mol以下であり、非水系溶媒がアセトニトリルと鎖状カーボネートを含有し、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比が0.08以上0.4以下であり、かつ、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比が0.3以上2以下であることが好ましい。このような組成範囲では、アセトニトリルとLiPFとの会合防止(鎖状カーボネートを増やす)と低温領域におけるイオン伝導度の低下抑制(アセトニトリルを増やす)というトレードオフ問題を解消することができる。
【0172】
第19実施形態の非水系電解液によれば、低温域でのイオン伝導度を従来に比べて向上させることができる。具体的には、-30℃で既存電解液の-20℃相当のイオン伝導度、或いは、それよりも高いイオン伝導度を有する。第19実施形態では、アセトニトリル電解液において、-10℃以下で出現する2つ以上のLiが配位したPFアニオン会合体量を特定の量以下にすることができる。
【0173】
第19実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、汎用品や自動車等に適用可能であるが、いずれも寒冷地用として適している。例えば、本実施形態では、電池外装に従来と同様の構成を適用できる。すなわち、電池外装を従来と同様の構成としても、寒冷地用に適した非水系二次電池を得ることができる。よって、製造プロセスが煩雑化せず、製造費の上昇を適切に抑制することができる。
【0174】
<第20実施形態:非水系電解液>
第20実施形態では、第1実施形態から第18実施形態のいずれかの非水系電解液において、-10℃におけるイオン伝導度が、10mS/cm以上であることが好ましい。
【0175】
第20実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。溶媒としてアセトニトリルと環状カーボネートが用いられ、リチウム塩としてLiPFが含まれる電解液では、環状カーボネートによりアセトニトリルとLiPFとの会合が抑制されてLiPFのイオン解離が維持される。これにより、この電解液は常温で高いイオン伝導度を示す。しかしながら、環状カーボネートは高粘度であるため、低温でLiイオンの拡散が阻害されてイオン伝導度が低下する問題があった。本発明者らは、-10℃付近で電解液のイオン伝導度が急激に低下し、これにより電解液を用いた電池の出力低下が生じることを発見した。そこで、本発明者らは、-10℃においても常温相当のイオン伝導度が得られることを目指して本発明を開発するに至った。
【0176】
環状カーボネートと鎖状カーボネートとLiPFとを含有する既存電解液の25℃でのイオン伝導度が、8mS/cm以上、9mS/cm以下であった。したがって、本実施形態の非水系電解液のイオン伝導度は、-10℃で既存電解液の25℃相当のイオン伝導度程度、或いは、それよりも高いイオン伝導度を有する。これにより、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池を、-10℃の低温にて使用した場合でも、既存電解液を用いた電池を25℃の環境下で使用した際と同程度以上の出力を得ることが可能である。よって、動作限界を従来よりも、より低温域にシフトさせることが可能である。
【0177】
また、本実施形態では、-10℃でのイオン伝導度が10.5mS/cm以上であることが好ましい。-10℃でのイオン伝導度が11.0mS/cm以上であることがより好ましい。また、-10℃でのイオン伝導度が11.5mS/cm以上であることが更に好ましい。また、-10℃でのイオン伝導度が12.0mS/cm以上であることが更により好ましい。これにより、動作限界を従来よりも、更により低温域にシフトさせることができ、より安定した低温特性を得ることができる。
【0178】
また、本実施形態では、非水系溶媒として特に限定するものではないが、アセトニトリルを含有することが好ましい。すなわち、非水系溶媒としては、アセトニトリルを必須成分として含み、アセトニトリル単独で、或いは、アセトニトリル以外の非水系溶媒を含んでいてもよい。
【0179】
第19実施形態にも記載したように、アセトニトリルとLiPFとを含む非水系溶媒にあっては、アセトニトリルとLiPFとの会合防止と、イオン伝導度の低下抑制とがトレードオフの関係にある。すなわち、会合防止を促進すれば、低温でイオン伝導度が低下し、一方、低温でのイオン伝導度の低下抑制を促進すれば、会合体が形成されやすくなる。
【0180】
そこで、第20実施形態においても、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率を調節することとした。アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率は、アセトニトリルのモル数Aと、LiPFのモル数BとするとB/Aで示される。
【0181】
アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率は、主に会合体量に影響を与える。第20実施形態では、LiPF含有量は、非水系溶媒1Lに対して1.5mol以下であると共に、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率が、0.01以上0.08未満であることが好ましい。これにより、会合体の形成を効果的に抑制することができる。
【0182】
また、非水系溶媒としてアセトニトリルとともに、環状カーボネートを含めることが好ましい。すなわち、非水系電解液として、LiPFと、非水系溶媒として、アセトニトリル、及び環状カーボネートとを含む。例えば、環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等を選択することができる。
【0183】
アセトニトリルと環状カーボネートとを併用することで、アセトニトリルとLiPFとの会合抑制に有利に作用する。ただし、環状カーボネートは、低温おいてLiイオンの拡散を阻害する。このため、環状カーボネートを含む電解液においては-10℃付近でイオン伝導度が急激に低下した。そこで、電解液において、環状カーボネートを含有しても、-10℃でのイオン伝導度の低下を適切に抑制するために、アセトニトリルに対する環状カーボネートの混合モル比率を調節することとした。
【0184】
すなわち、主に会合体量に影響を与えるアセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率と、主に、溶解性に影響を与えるアセトニトリルに対する環状カーボネートの混合モル比率とを特定範囲に調節する。アセトニトリルに対する環状カーボネートの混合モル比率は、アセトニトリルのモル数Aと環状カーボネートのモル数Cとすると、C/Aで示される。
【0185】
具体的には、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比率(B/A)が、0より大きく0.13以下であり、アセトニトリルに対する環状カーボネートの混合モル比率(C/A)が、0.05以上3.1以下であることが好ましい。これにより、アセトニトリルを含む電解液において、-10℃以下で出現する2つ以上のLiが配位したPFアニオン会合体量を特定量以下にできる。特定量以下とは、電解液中に白色沈殿の析出が見られないことを意味する。
【0186】
また、(1)LiPFと非水系溶媒を含有し、非水系溶媒としてアセトニトリルと環状カーボネートを含むこと、(2)LiPF含有量が非水系溶媒1Lに対して1.5mol以下であること、(3)アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比が0.01以上0.08未満であること、(4)アセトニトリルに対する環状カーボネートの混合モル比が0.05以上3以下であること、の全てを満たすことがより好ましい。
【0187】
これにより、低温に不利とされている環状カーボネートを含む電解液であっても、低温領域で高いイオン伝導度を発揮することができるとともに、アセトニトリルとLiPFとの会合を防止できる。具体的には、会合体としての白色沈殿の析出が見られず、且つ、-10℃で10mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができる。本実施形態によれば、好ましくは、イオン伝導阻害がなく、且つ-10℃で10.5mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができ、より好ましくは、イオン伝導阻害がなく、且つ11.0mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができ、更に好ましくは、イオン伝導阻害がなく、且つ11.5mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができ、更により好ましくは、イオン伝導阻害がなく、且つ12.0mS/cm以上のイオン伝導度を得ることができる。
【0188】
第20実施形態の非水系電解液によれば、低温域でのイオン伝導度を従来に比べて向上させることができる。具体的には、-10℃で既存電解液の25℃相当のイオン伝導度、或いは、それよりも高いイオン伝導度を有する。
【0189】
第20実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、汎用品や自動車等に適用可能であるが、いずれも寒冷地用として適している。例えば、本実施形態では、電池外装に従来と同様の構成を適用できる。すなわち、電池外装を従来と同様の構成としても、寒冷地用に適した非水系二次電池を得ることができる。よって、製造プロセスが煩雑化せず、製造費の上昇を適切に抑制することができる。
【0190】
第20実施形態の非水系電解液の具体的組成は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、アセトニトリル(AcN)、並びに、エチレンカーボネート(EC)及びビニレンカーボネート(VC)のうちの1種以上を含む非水系電解液である。更に、リチウム塩として、LiN(SOF)(LiFSI)、LiN(SOCF(LiTFSI)、及び、LiB(C(LiBOB)を含んでいてもよい。
【0191】
<第21実施形態:非水系電解液>
第21実施形態では、1実施形態から第18実施形態のいずれかの非水系電解液において、20℃におけるイオン伝導度が、15mS/cm以上であることが好ましい。
【0192】
体積エネルギー密度の高い電極活物質層を設計した場合においても、高出力性能を発揮できる。また、20℃におけるイオン伝導度は、20mS/cm以上であることがより好ましく、25mS/cm以上であることがさらに好ましい。電解液の20℃におけるイオン伝導度が15mS/cm以上であると、電極活物質層内でのリチウムイオン伝導が充分に行われるため、大電流での充放電が可能となる。また、20℃におけるイオン伝導度の上限は特に限定されないが、各種電池部材の溶出劣化や剥離劣化等、予期せぬ電池劣化を抑制する観点から、イオン伝導度は50mS/cm以下であることが好ましく、49mS/cm以下であることが好ましく、48mS/cm以下であることがさらに好ましい。ここで、電解液のイオン伝導度は、例えば、非水系溶媒の粘度及び/又は極性を調整することにより、制御することができ、より具体的には、低粘度の非水系溶媒と高極性の非水系溶媒とを混合することにより、電解液のイオン伝導度を高く制御することができる。また、低粘度で、かつ高極性を有する非水系溶媒を用いることによって、電解液のイオン伝導度を高く制御することも可能である。
【0193】
<第22実施形態:非水系電解液>
第22実施形態では、第1実施形態から第21実施形態の非水系電解液において、更に、酢酸を含有することが好ましい。酢酸は過充電時に素早く反応する。
【0194】
<第23実施形態:非水系電解液>
第23実施形態では、第22実施形態の非水系電解液において、更に、プロピオニトリルを含有することが好ましい。
【0195】
第22実施形態及び第23実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。アセトニトリルをベースとした電解液では、過充電による燃焼(以下、過充電燃焼時と言う)に伴い、有害性のHFガスを発生してしまう。このため、本発明者らは、アセトニトリル電解液への添加剤を適宜選択し、更には、添加剤の含有量を適宜調節して、過充電燃焼時のHFガスの発生を抑制することが可能な非水系電解液及びそれを用いた非水系二次電池を開発するに至った。
【0196】
第23実施形態の非水系電解液では、酢酸、及び、プロピオニトリルの双方を含む。
【0197】
酢酸は、過充電時に素早く反応し、プロピオニトリルのα水素引き抜きに寄与する。これにより、電池セルが燃焼する前に膨れて破裂させることができる。この結果、過充電燃焼時のHFガスの発生量を従来に比べて減少させることができる。なお、燃焼前に発生したガスは、主としてCOとHであった。
【0198】
本実施形態では、過充電燃焼時のガス分析を行い、HFガスの発生量が、酢酸、及びプロピオニトリルの少なくとも一方を含まない非水系電解液に比べて、少ないことを確認できた。
【0199】
また、酢酸の含有量が、非水系電解液に対し、0.1ppm以上10ppm以下であることが好ましい。また、酢酸の含有量は、非水系電解液に対し、0.1ppm以上7pm以下であることがより好ましい。
【0200】
また、プロピオニトリルの含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上300ppm以下であることが好ましい。また、プロピオニトリルの含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上250ppm以下であることがより好ましい。
【0201】
このように、酢酸とプロピオニトリルの含有量を調節することで、通常の電圧範囲における電池性能を損なうことなく過充電燃焼時のHFガスの発生量を従来に比べて効果的に減少させることができる。
【0202】
また、酢酸の含有量が、非水系電解液に対し、0.1ppm以上5ppm以下であることが更に好ましい。
【0203】
また、プロピオニトリルの含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上200ppm以下であることが更に好ましい。
【0204】
このように、酢酸とプロピオニトリルの含有量を調節することで、通常の電圧範囲における電池性能を損なうことなく過充電燃焼時のHFガスの発生量を従来に比べてより効果的に減少させることができる。
【0205】
第22実施形態及び第23実施形態では、特に限定するものではないが、過充電試験時のHFガス発生量を1Ahあたり0.5mg以下にでき、好ましく、0.1mg以下にでき、より好ましくは、0.05mg以下にできる。
【0206】
また、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、特に限定されるものではないが、パウチ型セルに好ましく適用できる。なお、ラミネート型とも呼ばれる。すなわち、本実施形態の非水系二次電池は、パウチ型セルにおいて、電池セルが燃焼する前に膨れて破裂させることができ、したがって、過充電燃焼時のHFガス発生量を抑制でき、従来に比べて安全性を向上させることが可能である。
【0207】
また、本実施形態の非水系二次電池は、安全弁を備えていることが好ましい。安全弁を備えていることで、発火前に安全弁を適切に作動させて、過充電状態に生じたガスを安全弁から外部に放出させることができ、燃焼時のHFガスの発生量を確実に減少させることが可能である。安全弁を備えていれば円筒型セルや角型セルであってもよいが、このとき、パウチ型セルであれば、安全弁からガスを放出することで熱暴走前に破裂に至ることを抑制することができる。
【0208】
また、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、特に限定されるものでないが、車載用や汎用品用の充電池に適用可能である。特に、車載用充電池では、発火時の有害性のHFガスの発生を抑制できるため、車両内での人体の安全性を確保することができる。
【0209】
また、本実施形態では、上記したように、パウチ型セルや、安全弁を備えた非水系二次電池に好ましく適用でき、例えば、モバイルIT機器用のパウチ型セル電池に適用可能である。
【0210】
第22実施形態及び第23実施形態の非水系電解液の具体的組成は、例えば、非水系電解液は、アセトニトリル(AcN)と、リチウム塩と、酢酸(AA)と、プロピオニトリル(PrN)と、環状酸無水物と、を含む構成とすることができる。例えば、リチウム塩には、LiPF、LiN(SOF)(LiFSI)及びLiN(SOCF(LiTFSI)を添加することができる。
【0211】
このとき、負極、正極、セパレータ、及び電池外装については、特に限定されるものではない。ただし、電池外装については、パウチ型セルであることが好ましく、また安全弁を具備することが好ましい。
【0212】
以上の構成により、非水系二次電池の過充電燃焼時のHFガスの発生量を効果的に抑制することができ、優れた安全性を得ることが可能である。
【0213】
<第24実施形態:非水系電解液>
第24実施形態では、第1実施形態から第23実施形態のいずれかの非水系電解液において、更に、アセトアルデヒドを含有することが好ましい。
【0214】
このように、第24実施形態では、アセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物と、更に、アセトアルデヒドと、を含有する。これにより、アセトアルデヒドが、環状酸無水物による負極へのSEI形成反応を促進でき、過充電前のガスの発生を抑制できる。
【0215】
また、本実施形態では、更に、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するニトリル錯体を含むことが好ましい。
【0216】
このように、本実施形態では、アセトニトリルと、リチウム塩、環状酸無水物の他に、アセトアルデヒドと、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するニトリル錯体と、を含む。ここで、ニトリル錯体は、カチオンの状態を含む。過充電時には、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するニトリル錯体が、アセトニトリルのα水素脱離を促進するため、電池セルが燃焼する前に膨れて破裂させることができる。この結果、過充電燃焼時のCOガスの発生量を従来に比べて減少させることができる。なお、燃焼前に発生したガスは、主としてCOとHであった。
【0217】
本実施形態では、過充電燃焼時のCOガスの発生量が、アセトアルデヒド、環状酸無水物、及びNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するニトリル錯体の少なくともいずれか一つを含まない比較例の非水系電解液に比べて、少ないことを確認できた。
【0218】
上記の第24実施形態では、アセトアルデヒドの含有量を特に限定するものではないが、アセトアルデヒドの含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上3000ppm以下であることが好ましい。また、アセトアルデヒドの含有量は、非水系電解液に対し、10ppm以上2500pm以下であることがより好ましい。アセトアルデヒドの含有量は、非水系電解液に対し、30ppm以上2000pm以下であることがより好ましい。
【0219】
このように、アセトアルデヒドの含有量を調節することで、より効果的に、環状酸無水物による負極へのSEI形成反応を促進でき、過充電前のガスの発生を抑制できる。
【0220】
また、第24実施形態では、環状酸無水物の含有量を特に限定するものではないが、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0221】
また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.1質量%以上1質量%以下であることが更に好ましい。
【0222】
このように、環状酸無水物の含有量を調節することで、環状酸無水物の負極SEIの形成反応をより効果的に促進でき、過充電前のガスの発生を効果的に抑制できる。
【0223】
また、本実施形態では、ニトリル錯体が、非水系電解液と、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質との接触によって得られるニトリル錯体であることが好ましい。
【0224】
正極活物質に含まれる遷移金属元素を前記ニトリル錯体の構成要素とした場合には、過充電前に正極側で酸化劣化することなく電池内で安定して存在させることができる。したがって、過充電対策に適した電解液を確実に作製することが可能である。
【0225】
また、ニトリル錯体の含有量が、非水系電解液に対し、遷移金属として0.01ppm以上500ppm以下であることが好ましい。ニトリル錯体の含有量は、非水系電解液に対し、遷移金属として100ppm以上500ppm以下であることがより好ましい。また、ニトリル錯体の含有量が、非水系電解液に対し、遷移金属として200ppm以上500ppm以下であることが好ましい。
【0226】
第24実施形態では、以下のように含有量を規定することが好ましい。すなわち、(1) アセトアルデヒドの含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上3000ppm以下であること、(2) 環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であること、(3) ニトリル錯体の含有量が、非水系電解液に対し、遷移金属として0.01ppm以上500ppm以下であること。
【0227】
上記の(1)から(3)を満たすことで、より効果的に、アセトアルデヒドによる環状酸無水物の負極SEIの形成反応を促進させ、及び過充電時におけるニトリル錯体のアセトニトリルのα水素脱離の促進をさせることができ、過充電燃焼時のCOガスの発生量を確実に減少させることが可能である。
【0228】
本実施形態では、特に限定するものではないが、過充電試験時のCOガス発生量を、1Ahあたり1g以下にでき、好ましくは0.7g以下にできる。
【0229】
第24実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、特に限定されるものではないが、パウチ型セルに好ましく適用できる。なお、ラミネート型とも呼ばれる。すなわち、本実施形態の非水系二次電池は、パウチ型セルにおいて、電池セルが燃焼する前に膨れて破裂させることができ、したがって、過充電燃焼時のCOガス発生量を抑制でき、従来に比べて安全性を向上させることが可能である。
【0230】
また、本実施形態の非水系二次電池は、安全弁を備えていることが好ましい。安全弁を備えていることで、発火前に安全弁を適切に作動させて、過充電状態に生じたガスを安全弁から外部に放出させることができ、燃焼時のCOガスの発生量を確実に減少させることが可能である。安全弁を備えていれば円筒型セルや角型セルであってもよいが、このとき、パウチ型セルであれば、安全弁からガスを放出することで熱暴走前に破裂に至ることを抑制することができる。
【0231】
第24実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、特に限定されるものでないが、車載用や汎用品用の充電池に適用可能である。特に、車載用充電池では、発火時の有毒性のCOガスの発生を抑制できるため、車両内での人体の安全性を確保することができる。
【0232】
また、第24実施形態では、上記したように、パウチ型セルや、安全弁を備えた非水系二次電池に好ましく適用でき、例えば、モバイルIT機器用のパウチ型セル電池に適用可能である。
【0233】
第24実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、リチウム塩と、を含有し、更に、アセトアルデヒドと、環状酸無水物と、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するニトリル錯体と、を含む構成とすることができる。また、環状酸無水物には、無水コハク酸(SAH)を添加することができる。
【0234】
このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。ただし、電池外装については、パウチ型セルであることが好ましく、また安全弁を具備することが好ましい。
【0235】
以上の構成により、過充電燃焼時のCOガスの発生量を効果的に抑制することができ、優れた安全性を得ることが可能である。
【0236】
<第25実施形態:非水系電解液>
第25実施形態では、第1実施形態から第24実施形態のいずれかの非水系電解液において、更に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを含有することが好ましい。
【0237】
本発明者らが、本発明を開発するに至った技術の推移について説明する。アセトニトリルをベースとした電解液では、負極SEIの耐久性に劣り、充放電の繰り返しによる内部抵抗の増加が問題となったが、これを適切に解決する手段が確立されていなかった。そこで、本発明者らは、アセトニトリル電解液への添加剤を適宜選択し、更には、添加剤の含有量を適宜調節して、従来に比べて、内部抵抗の増加を抑制し、サイクル性能を向上させることが可能な非水系電解液及びそれを用いた非水系二次電池を開発するに至った。すなわち、本実施形態は、以下の特徴的部分を備えている。
【0238】
第25実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルを含有し、更に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールと、環状酸無水物と、リチウム塩と、を含むことを特徴とする。
【0239】
このように、第25実施形態では、アセトニトリルの他に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールと、リチウム塩と、環状酸無水物を含む。2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールは、以下の式(8)により表される。
【0240】
【化5】
【0241】
第25実施形態では、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールと、環状酸無水物を含むことで、負極SEIを強化でき、内部抵抗の増加を抑制できる。一般に、SEIは添加剤が負極で還元分解することによって形成されるが、SEIとして機能しない負極上の堆積物、すなわち抵抗成分も同時に発生してしまう。特に、環状酸無水物を添加剤として用いた場合には、アセトニトリルの高い溶解性に耐えうる負極SEIが得られる一方で、他の有機化合物との反応性が高いことに起因して余計な堆積物を過剰に発生させる要因にもなる。ところが、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを共存させると、有効なSEIの形成を阻害せずに、余計な堆積物の発生を抑制することができるのである。このように内部抵抗の増加を抑制でき、したがって、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池のサイクル性能を効果的に向上させることができる。
【0242】
第25実施形態では、25℃でのサイクル試験と、交流インピーダンス試験により評価した。第25実施形態の非水系電解液の成分を備えることで、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、及び環状酸無水物の少なくとも一方を含まない非水系電解液に比べて、充放電サイクル試験での容量維持率を高く、且つ交流インピーダンスの増加を抑制でき、優れたサイクル性能を得ることができる。
【0243】
第25実施形態では、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、及び環状酸無水物の各含有量を特に限定するものではないが、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量は、非水系電解液に対し、0.1ppm以上100ppm以下であることが好ましい。2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量が、非水系電解液に対し、0.1ppm以上50ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることが更に好ましい。
【0244】
また、第25実施形態において、環状酸無水物の含有量は、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。環状酸無水物の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.05質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましい。
【0245】
これにより、負極SEI形成剤の高分子量化を抑制することができ、さらに、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール自身の分解反応による内部抵抗の増大を抑制することができる。これによって、アセトニトリル電解液を用いた電池の内部抵抗の増加を抑制でき、サイクル性能を効果的に向上させることができる。
【0246】
また、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量が、非水系電解液に対し、0.5ppm以上10ppm以下であることが、更に好ましい。また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0247】
このように、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール及び環状酸無水物の含有量を更に限定することで、より効果的に、負極SEI形成剤としての例えば、ビニレンカーボネート(VC)を添加した場合に、ビニレンカーボネートの単独重合を抑制できると共に、環状酸無水物が負極SEI形成反応を促進し、負極SEIを強化できる。これにより、アセトニトリル電解液を用いた電池の内部抵抗の増加をより確実に抑制でき、サイクル性能をより一層向上させることができる。
【0248】
また、第25実施形態では、第4実施形態で説明したように、環状酸無水物は、無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。これら環状酸無水物のうち単体で含んでもよいし2種以上を混合しても良い。
【0249】
無水コハク酸、無水マレイン酸及び、無水フタル酸のうち少なくとも1種を含む非水系電解液によれば、負極SEIをより強固に形成でき、25℃サイクル試験に示すように、高い容量維持率を得ることができる。
【0250】
第25実施形態では、特に限定するものではないが、25℃におけるサイクル試験を100サイクル行ったときの容量維持率を、80%以上にでき、好ましくは85%より大きくできる。
【0251】
25℃のサイクル試験方法については、100サイクルの充放電を行い、1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量により、容量維持率を求めた。
【0252】
また、第25実施形態では、特に限定するものではないが、交流インピーダンス試験において、50サイクル時の1kHzにおける交流インピーダンスを4Ω以下、100サイクル時の1kHzにおける交流インピーダンスを5Ω以下に抑制できる。好ましくは、50サイクル時の1kHzにおける交流インピーダンスを3.4Ωより小さく、100サイクル時の1kHzにおける交流インピーダンスを3.8Ω以下に抑制できる。
【0253】
第25実施形態における非水系電解液を用いた非水系二次電池は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより安定化する。このとき、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールや、環状酸無水物はもともと電解液中での含有量が少ないうえ、負極SEIに取り込まれる等して、初回充電後は、成分検出が困難な場合がある。
【0254】
このため、アセトニトリル電解液を用いた非水系二次電池においては、初回充電が施された状態において、上記した特性を有していれば、本実施形態の非水系電解液の構成成分を有するものと推測することが可能である。
【0255】
本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、集電体の片面または両面に正極活物質層を有する正極と、集電体の片面または両面に負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を有し、非水系電解液としては、上記した第25実施形態の非水系電解液を用いた構成とすることができる。
【0256】
このとき、負極は、負極活物質として、リチウムイオンを、0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵する材料を含有することが好ましい。このように、負極活物質として0.4Vより卑な金属を用いることで、電池電圧を高めることができ、負極SEIの強化に有利に作用する。
【0257】
或いは、本実施形態の非水系二次電池は、集電体の片面または両面に正極活物質層を有する正極と、集電体の片面または両面に負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を有し、25℃におけるサイクル試験を100サイクル行ったときの容量維持率が、80%以上である構成とすることができる。
【0258】
第25実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、サイクル特性に優れ、電池の劣化を抑制することができる。本実施形態の非水系二次電池は、汎用品や自動車等に適用でき、例えば、夏場の屋外用途等に好ましく適用できる。
【0259】
第25実施形態の非水系電解液の具体的組成は、アセトニトリル(AcN)と、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールと、無水コハク酸(SAH)とを含む構成とすることができる。また、ビニレンカーボネート(VC)を含んでいてもよい。
【0260】
このとき、負極は、負極活物質として、リチウムイオンを、0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵する材料を含有することが好適である。
【0261】
一方、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0262】
以上の構成により、非水系二次電池のサイクル特性に顕著な効果が現れ、電池の劣化を抑制でき長寿命を得ることが可能である。
【0263】
<第26実施形態:非水系電解液>
第26実施形態では、第1実施形態から第25実施形態のいずれかの非水系電解液において、以下の式(1)を有する化合物を含有することが好ましい。
【化6】
【0264】
第26実施形態に示す式(1)は、次の第27実施形態に示す窒素含有環状化合物の最小単位に相当する。また、第26実施形態は、例えば、上記の第25実施形態と合わせて用いることができ、これにより、電池劣化をより効果的に抑制することができる。
【0265】
<第27実施形態:非水系電解液>
第27実施形態では、第26実施形態の非水系電解液において、式(1)を有する化合物は、窒素含有環状化合物であることが好ましい。窒素含有環状化合物は、2環性窒素含有環状化合物であることが好ましい。
【0266】
具体的には、窒素含有環状化合物は、非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物であることが好ましい。窒素含有環状化合物の具体例としては、例えば、下記式(9):
【化7】
{式(9)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基、アリル基、プロパギル基、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、アミノ基、ピロリジルメチル基、トリメチルシリル基、ニトリル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロメチル基、メトキシメチル基、イソシアノメチル基、メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、アジ化スルホニル基、ピリジルスルホニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニロキシ基、ビス(N,N’-アルキル)アミノメチル基、又はビス(N,N’-アルキル)アミノエチル基であり、Rは、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、又はハロゲン原子であり、そして、kは0~4の整数である。}で表される窒素含有環状化合物を含有してもよい。
【0267】
前記式(9)で表される窒素含有有機化合物は、R=CH、k=0であることが特に好ましい。
【0268】
第27実施形態における電解液中の窒素含有環状化合物の含有量については、特に制限はないが、電解液の全量を基準として、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく、0.03~3質量%であることが更に好ましい。本実施形態において、窒素含有環状化合物は、シュウ酸基を有する有機リチウム塩と共に使用することによって強固なSEIを形成する。
【0269】
第26実施形態及び第27実施形態においては、具体的組成として1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を含む。第26実施形態及び第27実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池の用途は、第25実施形態と同様である。
【0270】
<第28実施形態:非水系電解液>
第28実施形態では、第13実施形態又は第14実施形態の非水系電解液において、リチウム塩の主成分が、イミド塩であり、或いは、前記イミド塩と、前記イミド塩以外の前記リチウム塩とが主成分として同量含まれることが好ましい。
【0271】
ここで「主成分」とは、電解液に最も多く含まれるリチウム塩であり、電解液に含まれるリチウム塩の総モル量に対するイミド塩のモル量の百分率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0272】
イミド塩は、リチウム塩のうち、単独で最も多く含まれるか、或いは、最も多く含まれるリチウム塩がイミド塩の他に存在していてもよい。
【0273】
本実施形態の非水系電解液では、リチウム塩として、LiPF、LiN(SOF)(LiFSI)及びLiN(SOCF(LiTFSI)を用いることができる。
【0274】
本実施形態の非水系電解液によれば、充放電によるアルミニウムの溶出が少ない。また、イミド塩を含むため、イオン伝導度及び電池のサイクル特性を向上することができる。
【0275】
したがって、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、汎用品や自動車等に適用可能であり、充放電による電圧低下が少ないという利点がある。
【0276】
<第29実施形態:非水系電解液>
第29実施形態では、第13実施形態、第14実施形態、第28実施形態のいずれかの非水系電解液において、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することが好ましい。
【0277】
第29実施形態では、リチウム塩が、LiPOを含有し、LiPOの含有量が、非水系電解液に対し0.001質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.01質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。そして、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することが好ましい。ここで、LiPOの含有量、及び、環状酸無水物の含有量は、アセトニトリル、LiPF、LiPO、環状酸無水物、及びイミド塩を含め非水系電解液を構成する全ての成分の和を100質量%としたときの、質量比率で示される。また、LiPF及び、イミド塩のモル濃度は、非水系溶媒1Lに対して測定される。
【0278】
第29実施形態では、上記のように含有量及びモル濃度を規定することで、負極に、LiPOと環状酸無水物が強固なSEIを形成する。このように負極にSEIと呼ばれる不動態被膜が形成され、効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。
【0279】
また、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することで、低温でのイオン伝導率の減少を抑制し、優れた低温特性を得ることができる。
【0280】
また、本実施形態では、LiPOの含有量が、非水系電解液に対し0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。更に、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることが好ましい。このように、含有量を限定することで、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制すると共に、より優れた低温特性を得ることが可能である。
【0281】
第29実施形態では、イミド塩を限定するものではないが、第14実施形態のように、イミド塩は、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことが好適である。これらイミド塩の一方のみ含んでも両方含んでもよい。或いは、これらのイミド塩以外のイミド塩を含んでいてもよい。このとき、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含むことが好ましい。また、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることが好ましい。
【0282】
LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含む非水系電解液によれば、-10℃や-30℃の低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。
【0283】
第29実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、LiPOと、イミド塩として、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種と、環状酸無水物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種と、を含む構成とすることができる。環状酸無水物として、無水コハク酸(SAH)を含むことが好ましい。
【0284】
このとき、負極は、特に限定されない。一方、正極も限定されるものではないが、正極活物質としては、層状岩塩型の結晶を有するリチウム含有化合物であることが好適である。
【0285】
また、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0286】
以上の構成により、高温加熱時の抵抗増加の抑制と、低温特性の双方を両立させる顕著な効果を有する。
【0287】
第29実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、夏場の屋外用途に用いることができる。
【0288】
<第30実施形態:非水系電解液>
第30実施形態では、第13実施形態、第14実施形態、第28実施形態、第29実施形態のいずれかの非水系電解液において、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることが好ましい。
【0289】
第30実施形態では、リチウム塩が、LiPOを含有し、LiPOの含有量が、非水系電解液に対し0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。そして、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることが好ましい。
【0290】
第30実施形態では、イミド塩を限定するものではないが、第14実施形態のように、イミド塩は、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことが好適である。これらイミド塩の一方のみ含んでも両方含んでもよい。或いは、これらのイミド塩以外のイミド塩を含んでいてもよい。このとき、第29実施形態に示すように、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含むことが好ましい。また、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることが好ましい。
【0291】
LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含む非水系電解液によれば、-10℃や-30℃の低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。
【0292】
第30実施形態では、リチウム塩として、LiPF及びLiFSIを用いると共に、環状酸無水物として、無水コハク酸(SAH)を含む構成を提示することができる。
【0293】
第30実施形態では、高温加熱時の抵抗増加抑制と低温特性を両立させることができる。
【0294】
第29実施形態及び第30実施形態では、60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率を400%以下に抑制することができる。また、好ましくは、抵抗増加率を、300%以下に抑制することができる。より好ましくは、抵抗増加率を、250%以下に抑制することができる。
【0295】
抵抗増加率の測定では、60℃での満充電保存前の抵抗値と、60℃での満充電保存試験後の抵抗値とを求めて、抵抗増加率を算出した。
【0296】
また、本実施形態では、-10℃でのイオン伝導度が、10mS/cm以上であることが好ましい。より好ましくは、-10℃でのイオン伝導度が、12mS/cm以上であり、更に好ましくは、-10℃でのイオン伝導度が、12.5mS/cm以上である。
【0297】
第30実施形態の具体的組成及び用途は、例えば、第29実施形態と同じである。
【0298】
<第31実施形態:非水系電解液>
第31実施形態では、第13実施形態、第14実施形態、第28実施形態から第30実施形態のいずれかの非水系電解液において、アセトニトリルに対するPFアニオンの混合モル比が、0.01以上0.08未満であることが好ましい。
【0299】
これにより、不溶成分を発生させることなく、より効果的に負極SEIの形成反応を促進でき、より一層、過充電時のガスの発生を効果的に遅延させることが可能である。すなわち、第31実施形態では、水により環状酸無水物の反応が促進され過充電時の膨れガスの発生を遅延することができる。
【0300】
第31実施形態の具体的組成及び用途は、例えば、第1実施形態と同じである。
【0301】
<第32実施形態:非水系電解液>
第32実施形態では、第1実施形態から第31実施形態のいずれかの非水系電解液において、リチウム塩が、POアニオンを含有することが好ましい。POアニオンは、LiPOが電解液中で解離したものである。
【0302】
<第33実施形態:非水系電解液>
第33実施形態では、第32実施形態の非水系電解液において、POアニオンの含有量が、非水系電解液に対し0.001質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0303】
第32実施形態及び第33実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。LiPF系アセトニトリル電解液では、高温加熱時における内部抵抗の増大と、低温特性の低下が解題としてあり、これらを同時に解決した従来技術は存在しない。そこで、本発明者らは、LiPF系アセトニトリル電解液において、添加する添加剤の種類、更には含有量を適宜調節して、高温時と低温時に現れる各問題点を同時に解決することを目指して本発明を開発するに至った。
【0304】
第32実施形態及び第33実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、LiPOと、環状酸無水物と、イミド塩と、を含有することが好ましい。このうち、LiPOと、環状酸無水物は、高温加熱時に内部抵抗が増大するのを抑制するのに寄与している。また、イミド塩は、低温特性の改善に寄与する。ここで、イミド塩とは、LiN(SO2m+1〔mは0~8の整数〕で表されるリチウム塩である。
【0305】
本実施形態における非水系電解液の構成成分により、高温加熱時における内部抵抗の増大を抑制できると共に、良好な低温特性を得ることができる。
【0306】
なお、低温特性に関しては、低温時(具体的には、-10℃や-30℃)でのイオン伝導度により判別することができる。
【0307】
第33実施形態では、POアニオン(LiPO)の含有量が、非水系電解液に対し0.001質量%以上1質量%以下の範囲である。加えて、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.01質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。更に、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することが好ましい。ここで、LiPOの含有量、及び、環状酸無水物の含有量は、アセトニトリル、LiPF、LiPO、環状酸無水物、及びイミド塩を含め非水系電解液を構成する全ての成分の和を100質量%としたときの、質量比率で示される。また、LiPF及び、イミド塩のモル濃度は、非水系溶媒1Lに対して測定される。
【0308】
上記のように含有量及びモル濃度を規定することで、負極に、LiPOと環状酸無水物が強固なSEIを形成する。このように負極にSEIと呼ばれる不動態被膜が形成され、効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。
【0309】
また、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することで、低温でのイオン伝導率の減少を抑制し、優れた低温特性を得ることができる。
【0310】
また、LiPOの含有量が、非水系電解液に対し0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。また、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0311】
更に、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることが好ましい。
【0312】
これにより、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制すると共に、より優れた低温特性を得ることが可能である。
【0313】
本実施形態では、第14実施形態に記載したように、イミド塩として、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことで、-10℃や-30℃の低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。
【0314】
また、本実施形態では、第4実施形態に記載したように、環状酸無水物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことで、負極に強固なSEIを形成でき、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。
【0315】
本実施形態では、特に限定するものではないが、60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率を400%以下に抑制することができる。また、好ましくは、抵抗増加率を、300%以下に抑制することができる。より好ましくは、抵抗増加率を、250%以下に抑制することができる。
【0316】
また、本実施形態では、特に限定するものではないが、-10℃でのイオン伝導度が、10mS/cm以上であることが好ましい。より好ましくは、-10℃でのイオン伝導度が、12mS/cm以上であり、更に好ましくは、-10℃でのイオン伝導度が、12.5mS/cm以上である。
【0317】
また、本実施形態では、特に限定するものではないが、-30℃でのイオン伝導度が、3mS/cm以上であることが好ましく、5mS/cm以上であることがより好ましい。更に好ましくは、-30℃でのイオン伝導度が、6mS/cm以上であり、更により好ましくは、-30℃でのイオン伝導度が、6.5mS/cm以上である。
【0318】
本実施形態における非水系電解液を用いた非水系二次電池は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより安定化する。このとき、LiPOや、環状酸無水物はもともと電解液中での含有量が少ないうえ、SEIに取り込まれる等して、初回充電後は、成分検出が困難な場合がある。
【0319】
このため、LiPF系アセトニトリル電解液を用いた非水系二次電池においては、初回充電が施された状態において、上記した特性を有していれば、本実施形態の非水系電解液の構成成分を有するものと推測することが可能である。
【0320】
第32実施形態及び第33実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、正極と、負極と、非水系電解液と、を有し、60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率が400%以下であり、且つ、-10℃でのイオン伝導度が、10mS/cm以上である構成とすることができる。
【0321】
第32実施形態及び第33実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、高温加熱時の抵抗増加率を抑制し且つ優れた低温特性を両立することができる。
【0322】
このため、本実施形態の非水系二次電池は、約60℃から-30℃までの幅広い温度領域に適用でき、例えば、夏場の屋外用途から寒冷地用としても適用が可能である。
【0323】
第32実施形態及び第33実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、LiPOと、イミド塩として、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種と、環状酸無水物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種と、を含む構成とすることができる。
【0324】
このとき、負極は、特に限定されない。一方、正極も限定されるものではないが、正極活物質としては、層状岩塩型の結晶を有するリチウム含有化合物であることが好適である。
【0325】
また、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0326】
以上の構成により、高温加熱時の抵抗増加の抑制と、低温特性の双方を両立させる顕著な効果を有する。
【0327】
<第34実施形態:非水系電解液>
第34実施形態では、第13実施形態、第14実施形態、第28実施形態、第30実施形態、第31実施形態のいずれかの非水系電解液において、イオン伝導における活性化エネルギーが、-20~0℃において、15kJ/mol以下であることが好ましい。
【0328】
第34実施形態を開発するに至った技術の推移について説明する。溶媒としてアセトニトリルが用いられ、例えば、リチウム塩としてLiPFが含まれる電解液では、常温で高いイオン伝導度を示す。しかしながら、0℃以下の低温領域において、電解液のイオン伝導度に不連続変化が生じ、この電解液を用いる電池の出力が低下する問題があった。このような現象は高イオン伝導性を有する非水系電解液特有の課題であり、そのような課題があること自体これまで認識されていなかった。そこで、本発明者らは、リチウム塩の種類と、電解液におけるリチウム塩の含有量を調製し、低温においてもイオン伝導度を安定させることを目指して本発明を開発するに至った。
【0329】
本実施形態の非水系電解液は、0℃以下、より好ましくは-10℃以下の低温領域において、LiPFとカーボネート溶媒からなる既存電解液と同等、或いは、それよりも低い活性化エネルギーを有する。これにより、0℃以下の低温領域において、電解液のイオン伝導度の不連続変化を抑制し、イオン伝導度を安定させる。このため、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池を、0℃以下、より好ましくは-10℃以下の低温にて使用した場合でも、既存電解液を用いた電池を常温で使用した際と同程度以上の出力を得ることが可能である。よって、動作限界を従来よりも、より低温域にシフトさせることが可能である。
【0330】
また、本実施形態では、イオン伝導における活性化エネルギーが-20~0℃において14.5kJ/mol以下であることが好ましい。-20~0℃において14.0kJ/mol以下であることがより好ましい。これにより、動作限界を従来よりも、より低温域にシフトさせることができ、より安定した低温特性を得ることができる。
【0331】
また、別の実施形態としては、イオン伝導の活性化エネルギーが、0~20℃において、15kJ/mol以下であることが好ましい。これにより、0℃以下の低温領域において電解液の活性化エネルギーを低下させるとともに、0℃より大きい領域においても、既存電解液と同等、或いは、それよりも低い活性化エネルギーを維持できる。よって、低温から常温の領域にわたって、電解液のイオン伝導度の不連続変化を抑制して、イオン伝導度を安定させる。このため、本実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、低温において使用される場合でも、常温の領域において使用される場合でも同程度の出力を得ることが可能であり、温度条件の影響を受けずに使用され得る。
【0332】
また、本実施形態では、イオン伝導における活性化エネルギーが、0~20℃において、14.5kJ/mol以下であることが好ましい。0~20℃において14.0kJ/mol以下であることがより好ましい。これにより、動作限界を従来よりも、広い温度領域にシフトさせることができる。
【0333】
第34実施形態では、溶媒としてアセトニトリルが用いられ、リチウム塩としてLiPFが含まれる電解液において効果的である。
【0334】
第34実施形態では、リチウム塩として、LiPOとイミド塩(LiFSI、LiTFSI)を含むことが好ましい。本実施形態のより具体的な組成としては、アセトニトリル(AcN)、及び、LiN(SOF)(LiFSI)やLiN(SOCF(LiTFSI)を含む非水系電解液である。更に、リチウム塩として、LiPFを含んでいてもよい。
【0335】
また、第34実施形態では、イオン伝導度の活性化エネルギーが-20~0℃において、15kJ/mol以下であり、かつ、0~20℃において、15kJ/mol以下であることが好ましい。イミド塩を低温領域で機能させ、LiPOにより電極の着色を抑制することができる。
【0336】
第34実施形態の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、寒冷地用途に用いることができる。
【0337】
<非水系二次電池の全体構成>
本実施形態の非水系電解液は、非水系二次電池に用いることができる。本実施形態の非水系二次電池としては、負極、正極、セパレータ、及び電池外装に対し、特に制限を与えるものではない。
【0338】
また、限定するものではないが、本実施形態の非水系二次電池としては、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極材料を含有する正極と、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極材料、並びに金属リチウムからなる群より選ばれる1種以上の負極材料を含有する負極と、を備えるリチウムイオン電池が挙げられる。
【0339】
本実施形態の非水系二次電池としては、具体的には、図1及び2に図示される非水系二次電池であってもよい。ここで、図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、図2図1のA-A線断面図である。
【0340】
図1図2に示す非水系二次電池100は、パウチ型セルで構成される。非水系二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成した電池外装110の空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。
【0341】
電池外装110を構成しているアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
【0342】
正極150は、非水系二次電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、非水系二次電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺と共に熱融着されている。
【0343】
図1及び2に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してもよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
【0344】
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
【0345】
これらの各部材としては、特に限定するものでなく、従来のリチウムイオン電池に備えられる材料を用いることができる。以下、非水系二次電池の各部材について詳細に説明する。
【0346】
<非水系電解液>
非水系電解液については、上記した各実施形態に示した特徴的部分を具備していれば、従来のリチウムイオン電池の非水系電解液に用いられる材料を適用することができる。
【0347】
本実施形態における「非水系電解液」とは、非水系電解液に対し、水が1%以下の電解液を指す。好ましくは、水の割合は、300ppm以下であり、更に好ましくは、第12実施形態に示した200ppm以下である。
【0348】
「非水系溶媒」については、上記で説明したので、そちらを参照されたい。
【0349】
<リチウム塩>
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩について、各実施形態で限定していない限り、特に限定するものではない。例えば、本実施形態では、リチウム塩として、LiPFやイミド塩を含む。
【0350】
イミド塩とは、LiN(SO2m+1〔mは0~8の整数〕で表されるリチウム塩であり、具体的には、第14実施形態に記載したように、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0351】
また、LiPF以外のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよく、LiBF、LiAsF、LiSiF、LiSbF、Li1212-b〔bは0~3の整数〕、等のフッ素含有無機リチウム塩が挙げられる。「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含むリチウム塩をいう。フッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体である金属箔の表面に不働態被膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する点で優れている。これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。代表的なフッ素含有無機リチウム塩は、溶解してPFアニオンを放出するLiPFである。
【0352】
本実施形態の非水系電解液におけるフッ素含有無機リチウム塩の含有量については、特に制限はないが、非水系溶媒1Lに対して0.1mol以上であることが好ましく、0.2mol以上であることがより好ましく、0.25mol以上であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できる傾向にある。
【0353】
本実施形態の非水系電解液は、更に、有機リチウム塩を含んでいてもよい。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含むリチウム塩をいう。
【0354】
有機リチウム塩としては、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を挙げることができる。シュウ酸基を有する有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiB(C、LiBF(C)、LiPF(C)、及びLiPF(Cのそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、中でもLiB(C及びLiBF(C)で表されるリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましい。また、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することがより好ましい。
【0355】
前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.02モル以上であることがより好ましく、0.05モル以上であることが更に好ましい。ただし、前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量で、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0356】
前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、極性の低い有機溶媒、特に鎖状カーボネートに対して難溶性であることが知られている。シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、微量のシュウ酸リチウムを含有している場合があり、さらに、非水系電解液として混合する際にも、他の原料に含まれる微量の水分と反応して、シュウ酸リチウムの白色沈殿を新たに発生させる場合がある。したがって、本実施形態の非水系電解液におけるシュウ酸リチウムの含有量は、特に限定するものでないが、0~500ppmであることが好ましい。
【0357】
本実施形態におけるリチウム塩として、上記以外に、一般に非水系二次電池用に用いられているリチウム塩を補助的に添加してもよい。その他のリチウム塩の具体例としては、例えば、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiB10Cl10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li等の有機リチウム塩;LiPF(CF)等のLiPF(C2p+16-n〔nは1~5の整数、pは1~8の整数〕で表される有機リチウム塩;LiBF(CF)等のLiBF(C2s+14-q〔qは1~3の整数、sは1~8の整数〕で表される有機リチウム塩;多価アニオンと結合されたリチウム塩;下記式(10a)、(10b)、及び(10c);
LiC(SO)(SO)(SO) (10a)
LiN(SOOR)(SOOR10) (10b)
LiN(SO11)(SOOR12) (10c)
{式中、R、R、R、R、R10、R11、及びR12は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、LiPFと共に使用することができる。
【0358】
(その他の任意的添加剤)
本実施形態においては、非水系電解液に、例えば、無水酸、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(CO)(P=O)-CH(C=O)OC、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CFCHO)P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(CO)P=O:(CH=CHCHO)P=O、リン酸トリアリル等〕等、及びこれらの化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。特に前記のリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
【0359】
更に、本実施形態の非水系電解液には、第27実施形態に示した、非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物を含むことができる。
【0360】
<正極>
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。正極150は、非水系二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。
【0361】
正極活物質層は、正極活物質を含有し、場合により導電助剤及びバインダーを更に含有する。
【0362】
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。正極活物質層は、正極活物質とともに、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
正極活物質としては、例えば、下記の式(11a)及び(11b):
LiMO (11a)
Li (11b)
{式中、Mは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の金属元素を示し、xは0~1.1の数、yは0~2の数を示す。}のそれぞれで表されるリチウム含有化合物、及びその他のリチウム含有化合物が挙げられる。
【0363】
式(11a)及び(11b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物としては、例えば、LiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO、LiMn、及びLiMnに代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物;LiMO(MはNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgからなる群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
【0364】
式(11a)及び(11b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物以外のリチウム含有化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物(例えばLiSiO、Mは式(11a)と同義であり、tは0~1の数、uは0~2の数を示す。)が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含む複合酸化物、及びリン酸金属化合物が好ましい。
【0365】
リチウム含有化合物としてより具体的には、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物又はリチウムと遷移金属元素とを含む金属カルコゲン化物、及びリチウムを有するリン酸金属化合物がより好ましく、例えば、それぞれ以下の式(12a)及び(12b):
Li (12a)
LiIIPO (12b)
{式中、Dは酸素又はカルコゲン元素を示し、M及びMIIはそれぞれ1種以上の遷移金属元素を示し、v及びwの値は、電池の充放電状態により決まり、vは0.05~1.10、wは0.05~1.10の数を示す。}のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0366】
上述の式(12a)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の式(12b)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0367】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物のみを用いてもよいし、該リチウム含有化合物とともにその他の正極活物質を併用してもよい。
【0368】
このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO、FeO、FeS、V、V13、TiO、TiS、MoS、及びNbSeに代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0369】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、前記正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0370】
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0371】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0372】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0373】
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0374】
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0375】
<負極>
負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。
【0376】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。負極活物質層は、負極活物質とともに、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
【0377】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料の他、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。
【0378】
負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0379】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0380】
バインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0381】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0382】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0383】
<セパレータ>
本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、限定されるものではないが、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0384】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、或いは、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0385】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0386】
<電池外装>
本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール又はアルミニウムからなる金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成からなるラミネートフィルムを用いることができる。
【0387】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0388】
<非水電解液の製造方法>
本実施形態の非水電解液は、非水系溶媒としてのアセトニトリルに、リチウム塩と、環状酸無水物と、更に、各実施形態に示す添加剤を、任意の手段で混合して製造することができる。なお、各添加剤の含有量は、各実施形態に示した通りである。
【0389】
<電池の製造方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、公知の方法により作製される。
【0390】
先ず、正極150及び負極160、並びに必要に応じてセパレータ170からなる積層体を形成する。例えば、長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;等が可能である。
【0391】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。
【0392】
或いは、電解液を高分子材料からなる基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0393】
本実施形態における非水系二次電池100の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形等に適用できるが、本実施形態では、特に、ラミネート型に好ましく適用することができる。
【0394】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、PPテープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0395】
本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電が、途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。設計容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、SEIが電極表面に形成され、正極150を含めた内部抵抗の増加を抑制する効果があることの他、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0396】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続したセルパックとして使用することもできる。セルパックの充放電状態を管理する観点から、非水系二次電池1個あたりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【0397】
次に、非水系二次電池の好ましい実施形態について説明する。
【0398】
<第35実施形態:非水系二次電池>
第35実施形態では、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を具備する非水系二次電池において、非水系二次電池に、-N=、-NH、-N=O、-NH-NH-、及び(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物が含まれる。そして、非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率は、70%以上であることを特徴とする。
【0399】
第35実施形態では、上記したように、非水系二次電池に、-N=、-NH、-N=O、-NH-NH-、及び(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を含む。これにより、内部抵抗の増加を抑制することができる。具体的には、非水系二次電池は、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率が、70%以上である。このように、第35実施形態の非水系二次電池では、良好なレート特性を得ることができる。
【0400】
また、第35実施形態では、非水系電解液に、N含有化合物を含有し、初回充電時、3.5V以下でエージングすることが好ましい。正極活物質由来である遷移金属のイオン化が発生する前に-N=、-NH、-N=O、及び-NH-NH-、(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物が正極表面を保護する。これにより、熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0401】
また、第35実施形態では、上記エージング温度が、35℃以上60℃以下であることが好ましい。60℃未満の熱履歴を与えることで、保護被膜が正極表面の活性点を初期に不活性化し、高温条件下での内部抵抗の上昇を抑えることができる。
【0402】
第35実施形態における非水系二次電池は、集電体の片面または両面に正極活物質層を有する正極と、集電体の片面または両面に負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を有して構成される。
【0403】
非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)と、を含むことが好ましい。また、第35実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではないが、負極の負極活物質層は、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。これにより、電池電圧を高めることができ、負極SEIの強化に有利に作用する。
【0404】
第35実施形態では、高機能化による高出力化で高いレート特性が求められるパワーツールに好ましく適用することができる。
【0405】
<第36実施形態:非水系二次電池>
第36実施形態では、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を具備する非水系二次電池において、非水系二次電池に、有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれる。このとき、有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含む。そして、非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率は、70%以上であることを特徴とする。
【0406】
非水系二次電池を、高機能化による高出力化で高いレート特性が求められるパワーツールに適用すると、電解液の熱履歴が避けられない用途であるため、使用するにつれてレート特性が低下する問題が生じる。このような従来の問題点に鑑み、第36実施形態の発明に至った。
【0407】
第36実施形態では、初回充電時のエージング条件を制御することにより、内部抵抗の増加を抑制でき、熱履歴に強くすることができる。
【0408】
また、第36実施形態では、非水系電解液に環状酸無水物を含有し、初回充電時、3.5V以下でエージングすることが好ましい。第36条実施形態では、負極SEI被膜に有機酸(酢酸、シュウ酸、ギ酸)およびその塩、無水酸、およびLiOから選択される少なくとも一種の化合物が含まれることにより、熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0409】
また、第36実施形態では、上記エージング温度が、35℃以上60℃以下であることが好ましい。これにより、60℃以上で生じるLiPFの熱分解を適切に抑えることができる。
【0410】
第36実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、無水フタル酸と、を含有することが好ましい。また、第36実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではないが、負極の負極活物質層は、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。これにより、電池電圧を高めることができ、負極SEIの強化に有利に作用する。
【0411】
第36実施形態では、高機能化による高出力化で高いレート特性が求められるパワーツールに好ましく適用することができる。
【0412】
<第37実施形態:非水系二次電池>
第37実施形態では、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を具備する非水系二次電池において、非水系二次電池に、-N=、-NH、-N=O、-NH-NH-、及び(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物が含まれる。
【0413】
そして、非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後における、0℃でのイオン伝導度が、10mS/cm以上であることを特徴とする。
【0414】
このように、第37実施形態の非水系二次電池では、4.2V充電状態で85℃の熱に曝した後、0℃まで温度を下げたときの0℃でのイオン伝導度を従来に比べて高くすることができる。このように、熱履歴に強くできる。したがって、高温の環境下から低温環境下に移したときでも、高いイオン伝導度を保つことができる。よって、熱履歴の大きい用途で使用した場合でも、優れた低温特性を得ることができ、本実施形態によれば、既存電解液を用いた場合の動作範囲の限界温度より低い温度でも動作させることができる。
【0415】
第37実施形態では、非水系電解液を混ぜる順番を定めることによって、窒素含有化合物の分解物を抑制でき、正極保護膜の形成剤として効果的に作用する。
【0416】
また、第37実施形態では、アセトニトリルと窒素含有化合物を入れた非水系電解液を用いており、これにより、正極保護被膜を適切に形成することができ、内部抵抗の増加要因となるHFの発生を抑制することができる。
【0417】
また、第37実施形態では、窒素含有化合物投入時の温度上昇を、50℃以下に抑えることが好ましい。これにより、60℃以上で生じる窒素含有化合物の熱分解を適切に抑えることができる。
【0418】
第37実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)と、を含むことが好ましい。また、第37実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0419】
第37実施形態の非水系二次電池は、例えば、車載用の寒冷地対応蓄電池として用いることに適している。
【0420】
<第38実施形態:非水系二次電池>
第38実施形態では、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と、非水系電解液と、を具備する非水系二次電池において、非水系二次電池に有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれる。また、有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含む。そして、非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後における、0℃でのイオン伝導度が、10mS/cm以上であることを特徴とする。
【0421】
非水系二次電池は、非水系電解液の熱履歴が避けられない用途での使用につれて低温特性が低下する問題があった。
【0422】
第38実施形態では、非水系電解液を混ぜる順番を定めることが好ましく、これにより、LiPF分解物を抑制でき、熱履歴に強くすることができる。第38実施形態では、アセトニトリルと環状酸無水物を入れてから、LiPFを投入して非水系電解液を得ることが好ましい。これにより、LiPF投入時の急激な温度上昇を抑えられると共に、環状酸無水物が犠牲的に反応することで、内部抵抗の増加要因となるHFの発生を抑制することができる。
【0423】
また、第38実施形態では、LiPF投入時の温度上昇を、50℃以下に抑えることが好ましい。これにより、60℃以上で生じるLiPFの熱分解を抑えることができる。
【0424】
第38実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、LiPFと、無水フタル酸と、を含有することが好ましい。また、第38実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0425】
第38実施形態の非水系二次電池は、車載用途に好ましく適用することができる。
【0426】
<第39実施形態:非水系二次電池>
第39実施形態では、第35実施形態から第38実施形態の非水系二次電池において、正極活物質がLizMO(MはNiを含み、且つ、Mn、Co、Al、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含み、さらに、Niの元素含有比は50%より多い。また、zは0.9超1.2未満の数を示す。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物であることが、非水系二次電池のエネルギー密度を高める観点から好ましい。
【0427】
<第40実施形態:非水系二次電池>
第40実施形態では、第35実施形態から第39実施形態の非水系二次電池において、非水系電解液の注液前後における負極電位差が0.3V以上であることが好ましい。
【0428】
第40実施形態は、電解液の注液後に充放電試験を行わず、電池を長時間保存すると、標準電極電位の高い金属が溶出し安全性が低下することに鑑みて発明に至った。ここで、標準電極電位とは、標準水素電極の電位を基準(0V)として表した電位である。
【0429】
第40実施形態では、非水系電解液として、アセトニトリルおよびリチウム塩を含有する非水系電解液を用いる。第40実施形態では、注液後電池の負極電位を、2.6V vs.Li/Li近くまで低下させることができる。この結果、銅集電体が溶出する電位を回避できる。従来公知の非水系二次電池では、通電しない限り電位差が発生することはないが、本実施形態における非水系二次電池は、通電前であっても注液後に電位差が発生するという極めて特異的な特徴を有する。この電位差は高イオン伝導性に起因する負極への自発的なLiイオンの挿入反応と推測され、緻密なSEI形成にも寄与することが期待される。
【0430】
第40実施形態では、負極電極において、標準電極電位が0V以上の金属を少なくとも1種以上含有していることが好ましい。既存のカーボネート電解液を用いた負極は、注液後に3.1V vs.Li/Liに近い電位を有しているため、長時間保存することで標準電極電位が高い金属元素の溶出が徐々に進行する。一方で、アセトニトリルを用いた電解液は、注液後に長時間保存しても溶出が起きないため、含侵時間を含めた製造管理の期限を長くすることができる。
【0431】
第40実施形態では、負極集電体が銅であることが好ましい。これにより、充放電の履歴を与えずに銅の溶出を抑制することができる。
【0432】
また、第40実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。
【0433】
<第41実施形態:非水系二次電池>
第41実施形態では、第35実施形態から第40実施形態のいずれかの非水系二次電池において、60℃での200時間貯蔵試験におけるガス発生量が1mAhあたり0.008ml以下であることが好ましい。
【0434】
アセトニトリルと、LiPFとを含む非水系電解液においては、高温で、アセトニトリルとLiPFが反応して激しく分解し、内部抵抗の抵抗増加率が著しく上昇する問題があった。第41実施形態では、アセトニトリルと酢酸および環状酸無水物を含有することが好ましく、これにより、酢酸及び環状酸無水物が耐還元性に作用することで、アセトニトリルが還元分解し、ガスの発生を抑制することができる。
【0435】
第41実施形態では、アセトニトリルと酢酸および環状酸無水物を含有するパウチ型の非水系二次電池であることが好ましい。酢酸及び環状酸無水物により、負極の表面にSEIが形成されて、高温においてアセトニトリルの還元が促進されることを適切に抑制することができる。
【0436】
また、第41実施形態では、酢酸の含有量を、非水系電解液に対し0.1ppm以上5ppm以下とすることが好ましい。これにより、60℃での200時間貯蔵試験におけるガス発生量を、より効果的に、1mAhあたり0.008ml以下とすることができる。
【0437】
第41実施形態の非水系電解液は、アセトニトリルと、無水フタル酸と、を含有することが好ましい。また、第41実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0438】
<第42実施形態:非水系二次電池>
第42実施形態では、第35実施形態から第41実施形態の非水系二次電池において、60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率が400%以下であることが好ましい。
【0439】
第42実施形態は、アセトニトリルと、LiPFとを含む非水系電解液においては、高温で、アセトニトリルとLiPFが反応して激しく分解し、内部抵抗の抵抗増加率が著しく上昇する問題に鑑みて発明に至った。
【0440】
第42実施形態は、アセトニトリルを含有する非水系二次電池を用いた寒冷地対応蓄電池に適している。第42実施形態によれば、高温加熱時における内部抵抗の増大を抑制できると共に、良好な低温特性を得ることができる。
【0441】
また、第42実施形態では、LiPF≦イミド塩となるモル濃度にて、イミド塩を含有することが好ましい。ここで、LiPOと、環状酸無水物は、高温加熱時に内部抵抗が増大するのを抑制するのに寄与している。また、イミド塩は、低温特性の改善に寄与する。第42実施形態によれば、低温でのイオン伝導率の減少を抑制し、優れた低温特性を得ることができる。
【0442】
また、第42実施形態によれば、アセトニトリルと無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含有する非水系電解液を用いることが好ましい。これにより、高温加熱時における内部抵抗の増大の抑制と、良好な低温特性とを両立することができる。
【0443】
第42実施形態の非水系電解液は、アセトニトリル、LiPF、無水コハク酸を含有することが好ましい。また、第42実施形態の非水系二次電池には、第1実施形態から第34実施形態のいずれかの非水系電解液を用いることが好ましい。このとき、負極、正極、セパレータ及び電池外装は、特に限定されるものではない。
【0444】
<第43実施形態:セルパック>
第43実施形態のセルパックは、第35実施形態から第42実施形態のいずれかに記載の非水系二次電池を備える。
【0445】
第35実施形態から第42施形態のいずれかに記載の非水系二次電池の正極活物質層には、Feが含まれるリチウム含有化合物を含有する。また、負極活物質層には、黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有する。
【0446】
また、非水系電解液には、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有し、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0447】
また、第43実施形態では、非水系二次電池が4セル直列接続されたモジュールを1モジュール、あるいは2モジュール以上並列接続して構成され、または、前記非水系二次電池が2セル以上並列接続されたモジュールを4モジュール直列接続して構成されている。更に、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vである。そして、モジュールには電池の充電状態や健康状態を診断するためのバッテリーマネジメントシステム(BMS)が搭載されている、ことを特徴とする。ここで、モジュールとはセルを複数個接続したものであり、セルパックはモジュールを複数個接続したものであるが、セルパックはモジュールを包含する用語である。また、平均作動電圧とは、電気容量に対して充電している電気量を比率で表した百分率(State of charge:SOC)が50%のときの電圧である。
【0448】
アセトニトリルを主溶媒とした電解液をリチウムイオン電池として用いる場合、黒鉛負極電位では還元分解が進行するため、0.4V(vs.Li/Li)以上で吸蔵可能な負極が用いられてきたが、第43実施形態では、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートを含む電解液と、リン酸鉄リチウム(LiFePO:LFP)正極/黒鉛負極を用いることによって、高温時のサイクル寿命を向上させることができる。LFPはコバルト酸リチウム(LiCoO:LCO)や三元系正極(Li(Ni/Co/Mn)O:NCM)等の正極材料と比べて高温特性が優れている。また、アセトニトリルを主溶媒とした電解液をリチウムイオン電池として用いる場合、黒鉛負極電位では還元分解が進行するため、0.4V(vs Li/Li)以上で吸蔵可能な負極が用いられている。そして、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートは黒鉛負極上で還元分解することで、高温耐久性に優れた被膜を形成する。
【0449】
第43実施形態では、1セルあたりの作動電圧範囲を、1.8V-3.7Vの範囲内とすることで、4直列で、既存12V鉛蓄電池へ代用が可能となる。電装系の仕様は鉛蓄電池の作動電圧範囲を基準に定められているため、1セルあたりの作動電圧範囲を定めることは極めて重要である。そのため、電圧を適正に管理するためのBMSを搭載していることが好ましい。
【0450】
また、第43実施形態では、上記セルには、-30℃におけるイオン伝導度が3mS/cm以上である非水系電解液を含有することが好ましい。これにより、高温耐久性と低温性能を両立させることができる。
【0451】
第43実施形態のセルパックは、移動体用途や据置用途に適している。移動体用途としては、HEV、フォークリフト、ゴルフカート、e-バイク、無人搬送車(AGV)、鉄道、船舶等が該当する。また、据置用途としては、無停電電源装置(UPS)、非常用電源装置、電力貯蔵装置が該当する。
【0452】
<第44実施形態:ハイブリッドシステム>
第44実施形態のハイブリッドシステムは、第43実施形態に記載のセルパックと、リチウムイオン電池以外の二次電池から構成されるモジュールまたはセルパックと、を組み合わせてなることを特徴とする。
【0453】
モジュールと第2の二次電池を並列接続して電源システムを構成し、車輌減速等の制動による充電時に、大電流を受け入れることができない電池に流れる電流を、大電流を受入可能なLIBで補うことにより、走行車輌の制動時におけるエネルギーを、回生エネルギーとして効率よく利用することができる。
【0454】
第2の二次電池としては、例えば、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、Ni-Cd電池、電気二重層キャパシタ(EDLC)、リチウムイオンキャパシタ(LIC)等が挙げられる。また、全固体電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウムイオンやカルシウムイオン等の多価イオン電池、等の次世代電池や革新電池もあげられる。なお、本実施形態におけるリチウムイオン電池以外の二次電池はこれらに限定されるものではない。
【0455】
燃料電池や太陽電池等の発電型エネルギーデバイスと組合せた電源システムであってもよい。
【0456】
第44実施形態では、第43実施形態に記載のLIBモジュールと、鉛蓄電池以外の二次電池とを併用で組み合わせたハイブリッドシステムであることが好ましい。ここで、モジュールとはセルを複数個接続したものであり、セルパックはモジュールを複数個接続したものであるが、セルパックはモジュールを包含する用語である。従来のLIBは電解液に有機溶媒を使っていることにより、低温では電解液の粘度が増加し、内部抵抗が大きく上昇する。その結果、LIBは、鉛蓄電池に比べて低温での出力が低下する。一方で、鉛蓄電池は、25℃での出力は低く、-10℃での出力は優れる。
【0457】
そこで、第44実施形態では、LIBモジュールを鉛蓄電池以外の二次電池と並列接続して12Vの車輌用電源システムを構成し、車輌減速等の制動による充電時に、大電流を受入可能な第43実施形態に記載のLIBモジュールで補う。これにより、自動車等の走行車輌の制動時におけるエネルギーを、回生エネルギーとして効率よく利用することができる。
【0458】
また、第44実施形態では、LIBは正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO)、負極活物質は黒鉛を用い、電解液は20℃におけるイオン伝導度が18mS/cm以上であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、NCMやLCOと比較して電子伝導性が低いため、充放電に課題が見られる。そのため、LIB以外の二次電池と併用した際のメリットが低下しやすい。そこで、イオン伝導度の高い電解液を用いることで、大電流の充放電を低温から常温まで幅広くカバーすることができ、寿命を長くすることが可能になる。
【0459】
<第45実施形態:セルパック>
第45実施形態のセルパックは、第35実施形態から第42実施形態のいずれかに記載の非水系二次電池を備える。
【0460】
第35実施形態から第42実施形態のいずれかに記載の非水系二次電池の正極活物質層には、Feが含まれるリチウム含有化合物を含有する。また、負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有する。
【0461】
非水系電解液には、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートを含有し、前記飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0462】
また、以下の式(2)及び式(3)に基づいて、前記非水系二次電池のセル数及びモジュール数を規定した前記セルパックを1個、或いは2個以上並列接続して構成され、または、前記非水系二次電池が2セル以上並列接続したモジュールが式(2)及び式(3)に基づいて接続されて前記セルパックを構成している。
式(2)
1モジュールあたりのセル直列接続数X:X=2,4,8、16
式(3)
セルパックあたりのモジュール直列接続数Y:Y=16/X
【0463】
そして、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vであり、前記モジュールにはBMSが搭載されている、ことを特徴とする。ここで、平均作動電圧とは、電気容量に対して充電している電気量を比率で表した百分率(State of charge:SOC)が50%のときの電圧である。
【0464】
LFPは、NCMやLCOと比較して電子伝導が乏しく、大電流の放出、受入れ性能が低い。一方で、車載用途では大電流が要求される電子機器が設置されているため、導入が難しいといった問題があったが、第45実施形態では、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートを含む電解液と、LFP正極/黒鉛負極を用いることによって、高温時のサイクル寿命を向上させることができる。LFPはNCM、LCOなどの正極材料と比べて高温特性が優れている。また、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートは黒鉛負極上で還元分解することで、高温耐久性に優れた被膜を形成する。
【0465】
本実施形態では、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内であり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vであり、モジュールまたはシステムにBMSを搭載し直列接続されたモジュールを、1モジュールまたは1モジュール以上並列接続することで構成されるセルパックであることが好ましい。又は、第35実施形態から第42実施形態のいずれかに記載の非水系二次電池を、2セル以上並列接続したモジュールを14~16モジュール直列接続することで構成されるセルパックであることが好ましい。このように、1セルあたりの作動電圧範囲を1.8V-3.7Vの範囲内とすることで、16直列で48V電源規格LV148(2011年策定)に対応する電装機器に接続して使用することができる。
【0466】
また、第45実施形態では、セルには、溶媒にアセトニトリルを用いた電解液と、高空隙率のセパレータと、正極の活物質粒子にカーボンで表面コートされた部材と、導電助剤が5質量%以上含有した正極合剤層と、正極集電箔の表面にカーボンをコートした部材と、を用いることが好ましい。このように、イオン伝導部には、電解液に高いイオン伝導度であるアセトニトリルを添加し、空隙率の高い不織布を用い、電子移動部は、集電箔から粒子間までの導電経路を各部材で向上させることで、高い出力性能を達成することができる。
【0467】
第45実施形態のセルパックは、移動体用途や据置用途に適している。移動体用途としては、HEV、フォークリフト、ゴルフカート、e-バイク、無人搬送車(AGV)、鉄道、船舶等が該当する。また、据置用途としては、無停電電源装置(UPS)、非常用電源装置、電力貯蔵装置が該当する。
【0468】
<第46実施形態:ハイブリッドシステム>
第46実施形態のハイブリッドシステムは、第45実施形態に記載のセルパックと、リチウムイオン電池以外の二次電池から構成されるモジュールまたはセルパックと、を組み合わせてなることを特徴とする。
【0469】
これにより、48Vと12Vの電源システムを併設するため、一方の電源システムがダウンしても、もう一方がそれを補うことができる。例えば、48Vは、ヨーロッパ用電池の規格であり、12Vは、世界共通規格である。
【0470】
第46実施形態では、第45実施形態に記載のLIBモジュールと、鉛蓄電池とを併用で組み合わせたシステムであることが好ましい。これにより、48Vの電源システムは、LIB、12V電源システムは、LIB以外とすることで、エネルギー密度とシステムコストのバランスが優れた電源システムとすることができる。
【0471】
また、第46実施形態では、LIBは、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO)、負極活物質は、黒鉛を用い、電解液は、20℃におけるイオン伝導度が15mS/cm以上であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、NCMやLCOと比較して電子伝導性が低いため、充放電に課題が見られ、鉛蓄電池と併用した際のメリットが低下する。そこで、イオン伝導度の高い電解液を用いることで、鉛蓄電池の常温付近での大電流の充放電をカバーでき、電池交換までの寿命を長くすることができる。
【0472】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例
【0473】
なお、本実施例及び本比較例の実施に当たり、アセトニトリルは、キシダ化学(株)製のリチウムバッテリーグレードを使用した。
【0474】
まず、第1実施形態から第10実施形態の実施例について以下説明する。
【0475】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が12.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0476】
(1-2) 負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が5.3mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0477】
(1-3)コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からポリエチレン微多孔膜を直径19mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を100μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0478】
[コイン型非水系二次電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、実施例および比較例に記載されているそれぞれの手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-1)、(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0479】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0480】
(2-1)コイン型非水系二次電池の85℃満充電保存試験
初回充放電処理(初回放電のエージング処理については各実施例や比較例の欄に記載)を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、この非水系二次電池を85℃の恒温槽に4時間保存した。その後、電池の周囲温度を25℃に戻した。
【0481】
(2-2)コイン型非水系二次電池の出力試験
上記(2-1)に記載の方法で85℃満充電保存試験を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、1Cに相当する3mAの電流値で3.0Vまで放電した。次に、定電流放電時の電流値を5Cに相当する15mAに変更した以外は、上記と同様の充放電を行い、下記の容量維持率を算出した。
容量維持率=(5C放電時の容量/1C放電時の容量)×100[%]
【0482】
[実施例1]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:35:16:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(環状酸無水物)を電解液として最終的に0.15質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.3molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加し、実施例1の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して2.8Vまで充電した後、2.8Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を55℃に設定し、6時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)、(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0483】
[実施例2]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:35:16:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(環状酸無水物)を電解液として最終的に0.3質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例2の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して2.8Vまで充電した後、2.8Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を45℃に設定し、72時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0484】
[実施例3]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が35:40:21:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水マレイン酸(環状酸無水物)を電解液として最終的に0.15質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり1.2molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例3の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して3.0Vまで充電した後、3.0Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を55℃に設定し、6時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0485】
[実施例4]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が57:14:22:7となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水フタル酸(環状酸無水物)を電解液として最終的に0.5質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり0.6molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.6molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を添加し、実施例4の電解液を得た。 得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して3.0Vまで充電した後、3.0Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を60℃に設定し、6時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0486】
[比較例1]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:42:11となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加して、比較例1の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。比較例1では、初回充電のエージング処理を行っていない。
【0487】
[比較例2]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:49:4となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.0molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加して、比較例2の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して2.8Vまで充電した後、2.8Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を25℃のままとし、72時間保存した後、電池の周囲温度をそのまま25℃に設定し、3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0488】
[比較例3]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:49:4となるよう混合し混合溶媒を得た。その後、混合溶媒1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.0molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を添加し、比較例3の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を85℃とし、24時間保存した後、電池の周囲温度をそのまま25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0489】
以下の表1に実施例1から実施例4、及び比較例1から比較例3の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0490】
【表1】
【0491】
また、以下の表2では、実施例1から実施例4、及び比較例1から比較例3のエージング条件を示す。
【0492】
【表2】
【0493】
また、以下の表3には、実施例1から実施例4、及び比較例1から比較例3における、85℃4時間保存後の容量維持率を示す。容量維持率は、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる。
【0494】
【表3】
【0495】
上記の表3に示すように、実施例1から実施例4では、いずれも容量維持率が70%以上であることがわかった。また、実施例1から実施例4では、74%以上の容量維持率を得ることができる。
【0496】
以上により、実施例1から実施例4の非水系電解液のように、アセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物とを含有することが好ましいことがわかった。また、表2に示すように、実施例1から実施例4では、いずれもエージング電圧を3.0V以下に設定した熱処理を行った。一方、比較例1では、エージング処理を行っておらず、比較例2では熱処理を行っていない。また、比較例3では、エージング電圧が3Vを上回った。
【0497】
また、実施例1から実施例4及び比較例に基づいて、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であるように調節することが好ましいとした。また、実施例1から実施例4に基づいて、環状酸無水物の含有量を、非水系電解液に対し、0.1質量%以上1質量%以下であることがより好ましいとした。
【0498】
また、実施例1から実施例4に基づいて、熱処理温度(エージング温度)を、35℃以上60℃以下に調節することが好ましいとした。
【0499】
また、実施例1から実施例4より、リチウム塩が、PFアニオンを含有することが好ましいとした。
【0500】
ここで、PFアニオンは、LiPFが解離したものである。
【0501】
また、実施例に基づいて、環状酸無水物が、無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。
【0502】
また、実施例に基づいて、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましいとした。
【0503】
また、本実施例に基づいて、更に、鎖状カーボネートを含有することが好ましいとした。
【0504】
また、本実施例に基づいて、鎖状カーボネートが、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましいとした。
【0505】
また、本実施例に基づいて、アセトニトリルに対する前記鎖状カーボネートの混合モル比が、0.15以上2以下であることが好ましいとした。
【0506】
また、本実施例に基づいて、アセトニトリルに対する前記鎖状カーボネートの混合モル比が、0.25以上2以下であることが好ましいとした。
【0507】
また、本実施例2から実施例4に基づいて、アセトニトリルに対する前記鎖状カーボネートの混合モル比が、0.4以上2以下であることが好ましいとした。
【0508】
第11実施形態から第12実施形態の実施例について以下説明する。
【0509】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、86:8:6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。この正極合剤含有スラリーを、正極集電体となるアルミニウム箔両面に、片面あたりの目付量が11.5mg/cmになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで合材層の密度が2.8mg/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0510】
次に、この正極を、塗工部の面積が150mm×150mmとなるように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0511】
(1-2) 負極の作製
負極活物質であるグラファイトと、導電助剤であるアセチレンブラックと、バインダーであるPVDFとを86:7:7の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。この負極合剤含有スラリーを、銅箔の両面に、片面あたりの目付量が6.9mg/cmになるように調節しながら塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで合材層の密度が1.3mg/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0512】
次に、この負極を、塗工部の面積が152mm×152mmとなるように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0513】
(1-3)積層ラミネート電池の組み立て
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製樹脂フィルムを介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体をアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5h真空乾燥を行った。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、積層ラミネート型非水系二次電池(パウチ型セル電池。以下、単に「積層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。
【0514】
この積層ラミネート電池は、設計容量値が約10Ah、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0515】
[積層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた積層ラミネート電池について、以下の手順に従って初回充放電処理を行った。次に容量を測定し、続いて2C過充電試験を実施して、60℃になるまでの時間(分)を測定した。
【0516】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を、定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で2.7Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0517】
(2-1) 積層ラミネート電池の初回充放電処理
積層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した。その後、露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて、電池の封止部を開口しガス抜きを行った。ガス抜き後、同じ環境下において真空シールを行った。
【0518】
(2-2) 容量測定
上記初回充放電処理後の積層ラミネート電池について、25℃において、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行い、その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した。これらの操作を計3回行い、その後0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った充電後の積層ラミネート電池を、25℃で24時間保存した。
【0519】
24時間保存後0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した後、25℃において、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行い、その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電し、容量を測定した。
【0520】
(2-3) 2C過充電試験
上記容量測定後の積層ラミネート電池について、25℃において0.2Cの電流値で4.2Vになるまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。この充電後の積層ラミネート電池を、電極端子には電流負荷線と電圧計測線を取り付け、電池表面に熱電対を取り付けた状態で約350mm角の金属製試験容器に設置した。容器内はアルゴンガス雰囲気に置換して試験を行った。
【0521】
試験は、充電後の積層ラミネート電池を2Cの電流値で定電流充電を行い、徐々に温度が上昇していく過程で60℃に到達するまでの時間(分)を測定した。
【0522】
[実施例5]
下記の表4に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、エチレンカーボネート(EC)と、ビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:38:11:4となるように加えて混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.1molのLiN(SOF)(LiFSI)を添加した。また、水を50ppm及び、環状酸無水物として無水コハク酸(SAH)を0.2質量%添加して、実施例5の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0523】
[実施例6]
下記の表4に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、エチレンカーボネート(EC)と、ビニレンカーボネート(VC)の体積比が39:35:21:5となるように加えて混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加した。また、水を100ppm及び、環状酸無水物として無水マレイン酸(MAH)を0.15質量%添加して、実施例6の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0524】
[実施例7]
下記の表4に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチレンカーボネート(EC)と、ビニレンカーボネート(VC)の体積比が65:8:22:5となるように加えて混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.6molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.05molのリチウムビスオキサレートボレート(LiB(C)(LiBOB)と0.6molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))(LiFSI)を添加した。また、水を75ppm及び、環状酸無水物として無水フタル酸(PAH)を、0.5質量%添加して、実施例7の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0525】
[比較例4]
下記の表4に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンサルファイト(ES)の体積比が47:38:11:4となるように加えて混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.05molのリチウムビスオキサレートボレート(LiB(C)(LiBOB)を添加した。また、環状酸無水物として無水コハク酸(SAH)を、0.05質量%添加して、比較例4の電解液を得た。なお、比較例4では、水を加えていない。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0526】
[比較例5]
下記の表4に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:42:11となるように加えて混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加すると共に、水を200ppm添加して、比較例5の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0527】
以下に実施例5から実施例7、及び比較例4から比較例5の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0528】
【表4】
【0529】
また、以下の表5に、実施例5から実施例7、及び比較例4から比較例5の非水系電解液を用いた電池の、2C過充電試験による60℃への到達時間を示す。
【0530】
【表5】
【0531】
上記表5に示すように、実施例5から実施例7では、いずれも60℃到達時間が20分以上であることがわかった。また、実施例5及び実施例7では、60℃到達時間を22分以上とすることができるとわかった。このように、実施例は、比較例よりも60℃到達時間が長い。これは、実施例の方が比較例に比べて過充電時の電解液分解反応を抑制できているためであり、ひいては60℃以降で急激に起こるパウチ型セル電池における過充電時の膨れを抑制することが可能になる。
【0532】
以上により、実施例5から実施例7の非水系電解液のように、アセトニトリルと、リチウム塩と、含有し、更に、1ppm以上200ppm以下の水と、環状酸無水物を含むことが好ましいとわかった。一方、比較例4及び比較例5では、水及び、環状酸無水物のどちらか一方を含んでいない。
【0533】
また、環状酸無水物の含有量は、実施例5から実施例7を含み、比較例5を含まないように、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下が好ましいとした。
【0534】
また、実施例5から実施例7に示すように、非水系電解液は、PFアニオンを含有することが好ましいとした。
【0535】
また、実施例5、及び実施例7に示すように、アセトニトリルに対するPFアニオンの混合モル比は、0.01以上0.08未満であることが好ましいとした。
【0536】
また、実施例及び比較例の実験結果に基づいて、PFアニオンとアセトニトリルと環状酸無水物と水分を含む電解液であり、水分が1~200ppm存在することにより、強固な負極SEIを形成できることがわかった。
【0537】
また、実施例6、及び実施例7の実験結果により、上記電解液と、0.4V vs. Li/Liより卑な電位でリチウムイオンを挿入・脱離する負極からなる非水系二次電池であることが好ましいとわかった。負極電位が0.4V vs. Li/Liより卑な電位であることにより、1.0~0.4Vで分解する環状酸無水物の反応を促進することができる。
【0538】
また実施例に基づいて、環状酸無水物成分として、無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。
【0539】
第13実施形態から第14実施形態の実施例について以下説明する。
[電解液の調製]
不活性雰囲気下、1Lのアセトニトリルに対して、各種イミド塩を、表6に示す含有量(モル量)で溶解させた。次に、得られた混合液のアセトニトリル、及び、その他の溶媒を、表6に示す組成で混合した。さらに得られた混合液に、表6に示す含有量でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、水(HO)、及び各種環状酸無水物を添加、溶解させ、実施例8から実施例11及び比較例6から比較例8の電解液を得た。なお、表6おいて「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0540】
LiPFの含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。水の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計重量に対する質量ppmにて算出される。環状酸無水物の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の和を100質量%としたときの、質量比率で示される。
【0541】
得られた電解液について、以下のようにして、アセトニトリルに対するPFアニオンの混合モル比(PF/AcN(モル比))を、次のように求めた。
PF/AcN(モル比)=LiPFのモル量/AcNのモル量
【0542】
【表6】
【0543】
[評価]
実施例8から実施例11、比較例6から比較例8の電解液について、以下に記載の方法で電池作製した後、以下に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。結果を表7、表8に示す。
【0544】
(1)電池作製
(1-1)正極の作製
(A)正極活物質として、数平均粒子径11μmのリチウムと、ニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として、(B)数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び(C)数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、(D)バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)と、を、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0545】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が24.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.90g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0546】
(1-2)負極の作製
(a)負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び(b)数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、(c)バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、(d)ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0547】
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が10.6mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.50g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0548】
(1-3)コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製ガラス繊維濾紙 GA-100)を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0549】
(2)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(2-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0550】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0551】
(2-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。この結果を、表7に示す。
【0552】
(2-2)コイン型非水系二次電池の出力試験
上記(2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、1Cに相当する6mAの電流値で3.0Vまで放電した。次に、定電流放電時の電流値を5Cに相当する30mAに変更した以外は同様の充放電を行った。出力試験後、5Cに相当する30mAの電流値の放電曲線について確認を行った。放電曲線は、横軸に時間、縦軸に電池電圧をプロットした。
【0553】
放電曲線の縦軸にプロットされた電池電圧の推移に異常が見られなかった場合を「○(Al箔腐食無)」、電池電圧の推移に上下に乱れるような異常が見られた場合を「×(Al箔腐食有)」と判定した。この結果を、表7に示す。
【0554】
【表7】
【0555】
(2-3)60℃保存試験
上述のようにして得られた評価用電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、60℃で100時間保存し、電解液中へのアルミニウム(Al)溶出量(単位:ppm)を測定した。
【0556】
アルミニウム溶出量は、ICP/MS測定によって算出した。この結果を、表8に示す。
【0557】
【表8】
【0558】
表7に示すように、比較の出力試験は、「×(Al箔腐食有)」の評価結果となった。
【0559】
これに対して、実施例では、いずれも、出力試験では、「○(Al箔腐食なし)」の評価結果となった。
【0560】
また、表8に示すように、比較例では、いずれも60℃保存後のアルミニウム溶出量が、10ppmをはるかに超えた。
【0561】
これに対して、実施例では、いずれも、60℃保存後のアルミニウム溶出量が、10ppm以下となった。
【0562】
これらの結果から、イミド塩を添加していても、アセトニトリルと、リチウム塩と、水と、PFアニオンと、を含有していることにより、アルミニウム箔の腐食を防止し、アルミニウム溶出を10ppm以下に抑制できることがわかった。すなわち、アセトニトリルのα位置から水素が抜けることで、PFからのHF発生を促進し、イミド塩を用いた場合でもアルミニウム不働態の形成を促進することができる。
【0563】
また実施例及び比較例の実験結果に基づいて、アセトニトリルのα位置から水素が抜けることで、PFからのHF発生を促進し、適量の水分がアルミニウム不働態の形成に寄与することがわかった。
【0564】
また、実施例の実験結果に基づいて、充放電してもアルミニウムが溶出しない構成とすることが可能である。
【0565】
次に、第15実施形態から第16実施形態の実施例について以下説明する。
[電解液の調製]
各種溶媒及び電解質を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表9に示した。なお、表9において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「PC」は、プロピレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸をそれぞれ示す。
【0566】
電解質を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0567】
【表9】
【0568】
[電解液の加熱NMR測定]
アルゴンボックス内で、実施例及び比較例の電解液をNMRチューブ内管(直径3mm)に採取し、蓋をした後、パラフィルムを用いて封をした。アルゴンボックスからNMRチューブ内管を取り出し、Cを添加したDMSO-d6溶液の入った外管に挿し込み、二重管法によるNMR測定を行った。NMR測定装置は、JEOL RESONANCE社製ECS400を用いた。測定条件は、パルス幅45℃、積算回数256回、昇温時の待ち時間は25℃が5秒、60℃が7秒、85℃が10秒で行った。試験結果を表9に示す。
【0569】
表9に示すように、比較例ではいずれもHFの発生量が、25℃と比較して、60℃及び85℃において著しく増加した。
【0570】
これに対して、実施例では、HFの発生量が、25℃と比較して、60℃及び85℃においてそれほど変化せず、比較例に比べて少ないことがわかった。
【0571】
60℃でフッ化水素の発生量の、25℃でのフッ化水素の発生量に対する増加率(以下、HF発生量増加率と記載する)を求めたところ、実施例12が150%、実施例13が140%であった。これに対し、比較例9が771%、比較例10が979%、比較例11が728%であった。
【0572】
これらの結果から、飽和第二級炭素を有するプロピレンカーボネートを含まない実施例12から実施例13の電解液において、50℃~60℃でのHFの発生量を減らせることが確認された。
【0573】
また、実施例12の電解液は、実施例13の電解液に比べ、60℃及び85℃でのHFの発生量を低減できた。この結果から、飽和第二級炭素を有さない環状カーボネートが、アセトニトリル以上の体積比率で含有されている場合、50℃~60℃でのHFの発生抑制効果が高いことが確認された。
【0574】
また、実施例及び比較例の実験結果に基づいて、LiPF系アセトニトリル電解液が、飽和第三級炭素を持たない非水系溶媒で希釈されていることが好ましい。飽和第二級炭素を持つカーボネート(例えば、プロピレンカーボネート)はプロトンが抜けやすいため、50~60℃でのHF発生を促進する傾向にあるが、飽和第三級炭素を持たない非水系溶媒で希釈するとHF発生を効果的に抑制することができる。
【0575】
次に、第17実施形態の実施例について以下に説明する。
【0576】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表10に示した。なお、表10において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸をそれぞれ示す。
【0577】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0578】
【表10】
【0579】
〔電池作製〕
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.74g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0580】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0581】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースと、同じくバインダーであるスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約61.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.20g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0582】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0583】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0584】
[単層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(1-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(1-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0585】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で2.5Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0586】
(1-1)単層ラミネート電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する2.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する6.9mAの定電流で2.5Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0587】
(1-2)単層ラミネート電池の-10℃充放電サイクル試験
上記(1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、サイクル試験を実施した。なお、サイクル試験は電池の周囲温度を-10℃に設定した3時間後に開始した。まず、0.2Cに相当する4.6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、4.6mAの定電流で2.5Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、20サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの20サイクル目の放電容量を容量維持率とした。
【0588】
[交流インピーダンス測定]
上記(1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、交流インピーダンス測定を実施した。交流インピーダンス測定は、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1400(商品名)とソーラトロン社製ポテンショ-ガルバノスタット1470E(商品名)を用いた。1000kHz~0.01Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧・電流の応答信号からインピーダンスを測定し、複素インピーダンス平面プロット(cole-coleプロット)の横軸と交差した値をバルク抵抗、高周波数側の円弧の横幅を界面抵抗として求めた。また、抵抗値はいずれも実数部(横軸)の値を使用した。印可する交流電圧の振幅は±5mVとした。また、交流インピーダンスを測定する際の電池の周囲温度は25℃で実施し、測定は各温度設定の1時間30分後に開始した。また、これらの結果から下記の値を算出した。
【0589】
実験では、25℃の交流インピーダンス測定を行った。その実験結果が以下の表11に示されている。また、以下の表11では、実施例14から実施例16及び比較例12から比較例14の、-10℃での充放電サイクル試験(20サイクル後)における容量維持率を示す。
【0590】
【表11】
【0591】
上記表11に示すように、実施例14から実施例16では、いずれも容量維持率が90%以上であることがわかった。一方、比較例12から比較例14ではいずれも容量維持率が80%以下となっていることが分かった。
【0592】
以上により、実施例14から実施例16の非水系電解液のように、ビニレンカーボネート(VC)は0.5体積%以上4体積%以下の量を含むことが好ましいとわかった。
【0593】
次に、第18実施形態の実施例について以下説明する。
【0594】
[電池作製]
(1-1)正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が12.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0595】
(1-2)負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が5.3mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0596】
(1-3)コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製ガラス繊維濾紙 GA-100)を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0597】
[コイン型非水系二次電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(2-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0598】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0599】
(2-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0600】
(2-2)コイン型非水系二次電池の50℃充放電サイクル試験
上記(2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を50℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、3mAの定電流で3Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量を容量維持率とした。
【0601】
[実施例17]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が60:25:11:4となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.35molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.8molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させると共に、下記の式(4)に示す有機塩素化合物を5ppmと、環状酸無水物として無水コハク酸を0.2質量%加え混合し、実施例17の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、塩化物および環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0602】
【化8】
【0603】
[実施例18]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が38:18:18:20:6となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり1.2molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.3molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させると共に、下記の式(5)に示す有機塩素化合物を0.5ppmと、環状酸無水物として無水マレイン酸を0.15質量%加え混合し、実施例18の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、塩化物および環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0604】
【化9】
【0605】
[実施例19]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が38:18:18:20:6となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり1.2molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を溶解させると共に、下記の式(5)に示す有機塩素化合物を25ppmと、環状酸無水物として無水コハク酸を0.15質量%加え混合し、実施例19の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、塩化物および環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0606】
【化10】
【0607】
[実施例20]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が30:11:52:7となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.6molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.6molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を溶解させると共に、下記の式(6)に示す有機塩素化合物を300ppmと、環状酸無水物として無水マレイン酸を0.5質量%加え混合し、実施例20の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、塩化物および環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0608】
【化11】
【0609】
[実施例21]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が65:4:20:11となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.5molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.0molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させると共に、下記の式(7)に示す有機塩素化合物を4ppmと、環状酸無水物として無水フタル酸を0.8質量%加え混合し、実施例21の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、塩化物および環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0610】
【化12】
【0611】
[比較例15]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:49:4となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.2molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.0molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させると共に、環状酸無水物として無水コハク酸を0.05質量%加え混合し、比較例15の電解液を得た。なお、比較例15では、有機塩素化合物を添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩、環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0612】
[比較例16]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が60:25:11:4となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.35molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.8molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させると共に、下記の式(5)に示す有機塩素化合物を5ppm加え混合し、比較例16の電解液を得た。なお、比較例16では、環状酸無水物を添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩、塩化物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で測定を行った。
【0613】
【化13】
【0614】
以下に実施例17から実施例21、及び比較例15から比較例16の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0615】
【表12】
【0616】
また、以下の表13では、実施例17から実施例21、及び比較例15から比較例16の、50℃での充放電サイクル試験における容量維持率を示す。
【0617】
【表13】
【0618】
上記表13に示すように、比較例15及び比較例16では、いずれも容量維持率が60%未満であることがわかった。一方、実施例17から実施例21では、70%以上の容量維持率を得ることが可能であり、更に、実施例17及び実施例18では、80%以上の容量維持率が得られることがわかった。
【0619】
以上により、実施例17から実施例21の非水系電解液のように、アセトニトリルと、リチウム塩と、含有し、更に、有機塩素化合物と、環状酸無水物を含むことが好ましいとわかった。一方、比較例15及び比較例16では、有機塩素化合物及び、環状酸無水物のどちらか一方を含んでいない。有機塩素化合物は、VC原料由来の塩化物であることが好ましい。
【0620】
また、本実施例17から実施例21では、いずれも有機塩素化合物が、環状カーボネートの塩素付加体であり、また、環状カーボネートの塩素付加体は、下記の式(4)~(7)で表される化合物からなる群より選ばれることが好ましいとわかった。
【0621】
【化14】
【0622】
【化15】
【0623】
【化16】
【0624】
【化17】
【0625】
また、有機塩素化合物の含有量は、比較例15を含まないように、非水系電解液に対し0.1ppm以上500ppm以下とした。また、環状酸無水物の含有量は、比較例16を含まないように、非水系電解液に対し0.01質量%以上1質量%以下とした。
【0626】
また、実施例17から実施例18に基づいて、有機塩素化合物の含有量が、非水系電解液に対し0.5ppm以上10ppm以下、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下である範囲を好ましい範囲に設定した。これにより、80%以上の容量維持率が得られることがわかった。
【0627】
また実施例に基づいて、環状酸無水物成分として、無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタルのうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。
【0628】
次に、第19実施形態の実施例について以下説明する。
[電解液の調整]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調整した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表14に示した。なお、表14において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「DMC」は、ジメチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「VC」は、ビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiBOB」はリチウムビスオキサレートボレート(LiB(C)、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0629】
リチウム塩を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調整した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0630】
【表14】
【0631】
[交流インピーダンス測定]
上記の調製した電解液を東陽テクニカ製の密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線した。
【0632】
更に、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0633】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。恒温槽の温度は-30℃に設定し、測定は温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0634】
[イオン伝導度]
得られたデータは、インピーダンスの実数成分(Z´)と虚数成分(Z´´)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z´´=0におけるZ´値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは、電極間距離(0.35cm)、Sは、電極面積(4.522cm)である。
【0635】
表14に示した組成で電解液を25℃で調製し、上記の方法でセルを組み立てて交流インピーダンス測定を実施した。得られたデータからナイキスト線図を作成してZ´値を読み取り、上記の式から、実施例22から実施例25、及び比較例17から比較例20のイオン伝導度を計算した。結果を以下の表15に示す。
【0636】
【表15】
【0637】
表15に示すように、比較例ではいずれも-30℃でのイオン伝導度が3.0mS/cmを大きく下回ることがわかった。また、比較例17では恒温槽に入れる前の段階で白色沈殿物が析出してしまったため、イオン伝導度測定を中止せざるを得なかった。
【0638】
これに対して、実施例では、いずれも、-30℃でのイオン伝導度が3.0mS/cm以上であることがわかった。
【0639】
実施例22から実施例25では、非水系溶媒1Lに対して、LiPF含有量が、1.5mol以下であった。また、LiPF/AcNの混合モル比が、0.08以上0.4以下であることがわかった。
【0640】
また、比較例17から比較例20の結果を含まない範囲として、鎖状カーボネート/AcNの混合モル比が、0.25以上4.0以下の範囲を規定した。
【0641】
また、実施例22から実施例25では、鎖状カーボネート/AcNの混合モル比が、0.3以上2.0以下であることがわかった。
【0642】
本実施例の実験結果に基づいて、LiPFと非水系溶媒を含有し、LiPF含有量が非水系溶媒1lに対して1.5mol以下であり、非水系溶媒がアセトニトリルと鎖状カーボネートを含有し、アセトニトリルに対するLiPFの混合モル比が、0.08以上0.4以下であり、かつ、アセトニトリルに対する鎖状カーボネートの混合モル比が0.3以上2以下であることが好ましい。
【0643】
第20実施形態の実施例について以下説明する。
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表16に示した。なお、表16において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「(LiN(SOF))」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0644】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0645】
【表16】
【0646】
(イオン伝導度測定)
電解液を東陽テクニカ製の密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線した。更に、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0647】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。恒温槽の温度は-10℃に設定し、測定は温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0648】
得られたデータは、インピーダンスの実数成分(Z´)と虚数成分(Z´´)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z´´=0におけるZ´値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは、電極間距離(0.35cm)、Sは、電極面積(4.522cm)である。
【0649】
その実験結果が以下の表17に示されている。
【0650】
【表17】
【0651】
実施例では、-10℃でのイオン伝導度が10mS/cmであることが分かった。また、比較例ではいずれも-10℃でのイオン伝導度が10mS/cmを大きく下回ることがわかった。
次に、第21実施形態の実施例について以下説明する。
【0652】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表18に示した。なお、表18において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸をそれぞれ示す。
【0653】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0654】
【表18】
【0655】
〔電池作製〕
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.74g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0656】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0657】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースと、同じくバインダーであるスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約61.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.20g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0658】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0659】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0660】
[単層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(1-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(1-2)および(1-3)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0661】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で2.5Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0662】
(1-1)単層ラミネート電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する2.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する6.9mAの定電流で2.5Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0663】
(1-2)単層ラミネート電池の交流インピーダンス測定
上記(1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、交流インピーダンス測定を実施した。交流インピーダンス測定は、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1400(商品名)とソーラトロン社製ポテンショ-ガルバノスタット1470E(商品名)を用いた。1000kHz~0.01Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧・電流の応答信号からインピーダンスを測定し、複素インピーダンス平面プロット(cole-coleプロット)の横軸と交差した値をバルク抵抗、横軸と交差する円弧の直線長さ高周波数側の円弧の横幅にバルク抵抗値を足した値を界面抵抗として求めた。また、抵抗値はいずれも実数部(横軸)の値を使用した。印可する交流電圧の振幅は±5mVとした。また、交流インピーダンスを測定する際の電池の周囲温度は25℃とした。また、これらの結果から下記の表19に示す値を算出した。
【0664】
(1-3)単層ラミネート電池の-10℃での充放電サイクル試験
上記(1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、サイクル試験を実施した。まず、電池の周囲温度を-10℃に設定し、0.2Cに相当する4.6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、4.6mAの定電流で2.5Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、20サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの20サイクル目の放電容量を容量維持率とした。
【0665】
実験では、-10℃での充放電サイクル試験前の電池について、交流インピーダンス測定を行った。その実験結果が以下の表19に示されている。また、以下の表19では、実施例27から実施例29及び比較例23から比較例24の、-10℃での充放電サイクル試験(20サイクル後)における容量維持率を示す。
【0666】
【表19】
【0667】
(イオン伝導度測定)
電解液を東陽テクニカ製の密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線した。更に、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0668】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。恒温槽の温度は20℃に設定し、測定は温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0669】
得られたデータは、インピーダンスの実数成分(Z´)と虚数成分(Z´´)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z´´=0におけるZ´値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは、電極間距離(0.35cm)、Sは、電極面積(4.522cm)である。
【0670】
その実験結果が以下の表20に示されている。
【0671】
【表20】
【0672】
表19に示すように、実施例では、界面(被膜)抵抗を低く抑えることができることがわかった。これにより、低温時のサイクル劣化及び低温時のイオン伝導度の低下を抑制することができることがわかった。
【0673】
表20に示すように、実施例では、20℃におけるイオン伝導度が、15mS/cm以上であることがわかった。好ましくは、20℃におけるイオン伝導度を、20mS/cm以上にすることができる。
【0674】
第22実施形態の実施例について以下説明する。
【0675】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表21に示した。なお、表21において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiBOB」はリチウムビスオキサレートボレート、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0676】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0677】
【表21】
【0678】
〔電池作製〕
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.50g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0679】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0680】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースと、同じくバインダーであるスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約61.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.35g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0681】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0682】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0683】
〔単層ラミネート電池の評価〕
上述のようにして得られた単層ラミネート電池について、以下の手順に従って初回充放電処理を行った。続いて60℃における4.2V貯蔵特性を評価した。充放電は、アスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-73S(商品名)を用いて行った。
【0684】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を、定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0685】
〔単層ラミネート電池の初回充放電処理〕
単層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.05Cに相当する1.15mAの定電流で充電して電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で充電を継続し、3時間の充電を行った。その後、0.3Cに相当する6.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。
【0686】
〔60℃における貯蔵特性〕
上記初回充放電処理後の単層ラミネート電池について、25℃において、0.3Cの電流値で4.2Vになるまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。そして、この充電後の単層ラミネート電池を60℃の恒温槽内で貯蔵した。200時間経過後、単層ラミネート電池を恒温槽から取り出して室温に戻した後に、各ラミネートセルのガス発生量と電圧を測定する手法により、単層ラミネート電池の4.2V貯蔵特性を評価した。ガス発生量は、超純水の入った容器に単層ラミネート電池を投入し、その前後での重量変化から単層ラミネート電池の体積を測定するというアルキメデス法を用いた。重量変化から体積を測定する装置としてはアルファーミラージュ社製の比重計MDS-300を用いた。
【0687】
〔実施例、比較例〕
実施例、比較例とも表21に示した組成で電解液を作製し、上記の方法で正極及び負極を作製し、単層ラミネート電池を組み立ててその評価を行った。結果を表22に示す。
【0688】
【表22】
【0689】
60℃で200時間貯蔵した後のラミネートセルにおけるガス発生量は、比較例25においては1mAhあたり0.0165mlであった。比較例26では24時間後にガス発生量が1.56mlとなり、ガス発生量が極めて多かったため評価停止とした。実施例30から実施例32においては、1mAhあたり0.008ml以下であった。このように、比較例25,26と比較して、実施例30から実施例32においては、ガス発生量が少なかった。実施例30から実施例32においては、非水系電解液に、アセトニトリルが含有され、さらに酢酸と環状酸無水物とが含有されていることがわかった。一方、比較例では、酢酸及び環状酸無水物のいずれかを含んでいなかった。
【0690】
これらの結果から、アセトニトリルを含む非水系電解液において、酢酸及び環状酸無水物が耐還元性に作用していることがわかった。すなわち、酢酸及び環状酸無水物により負極の表面にSEIが形成されていることがわかる。このため、高温においてアセトニトリルの還元が促進されることが抑制され、アセトニトリルが還元分解してガスが発生することを抑制している。
【0691】
したがって、酢酸の下限値としては、実施例30に基づいて0.1ppm以上とし、また上限値としては、実施例32に基づいて10ppm以下に設定した。また、環状酸無水物の下限値としては、実施例31及び比較例25に基づいて0.01質量%以上とし、上限値は、実施例32に基づいて1質量%以下とした。酢酸と環状酸無水物の含有量を調節することで、SEIがより強化されている。
【0692】
また、実施例に基づいて、酢酸の含有量を、非水系電解液に対し0.1ppm以上5ppm以下に規定した。また、環状酸無水物の下限値としては、比較例25が外れるように0.11質量%以上とし、環状酸無水物の含有量を、非水系電解液に対し0.11質量%以上0.5質量%以下に規定した。酢酸と環状酸無水物の含有量を更に調節することで、SEIが更に強化される。
【0693】
また実施例に基づいて、環状酸無水物成分として、無水コハク酸(SAH)、無水マレイン酸(MAH)、及び無水フタル酸(PAH)のうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。これにより、SEIが適切に形成されている。
【0694】
次に、第23実施形態の実施例について以下説明する。
[非水系電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、86:8:6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。この正極合剤含有スラリーを、正極集電体となるアルミニウム箔両面に、片面あたりの目付量が11.5mg/cmになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで合材層の密度が2.8mg/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0695】
次に、この正極を、塗工部の面積が150mm×150mmとなるように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0696】
(1-2) 負極の作製
負極活物質であるグラファイトと、導電助剤であるアセチレンブラックと、バインダーであるPVDFとを86:7:7の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。この負極合剤含有スラリーを、銅箔の両面に、片面あたりの目付量が6.9mg/cmになるように調節しながら塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで合材層の密度が1.3mg/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0697】
次に、この負極を、塗工部の面積が152mm×152mmとなるように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0698】
(1-3) 積層ラミネート電池の組み立て
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製樹脂フィルムを介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体をアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5h真空乾燥を行った。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、積層ラミネート型非水系二次電池(パウチ型セル電池。以下、単に「積層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。正極端子と負極端子の無い融着辺に、安全弁機構となる穴を形成した。穴の周囲を同心円形状にて熱融着した。
【0699】
この積層ラミネート電池は、設計容量値が約10Ah、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0700】
[積層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた積層ラミネート電池について、以下の手順に従って初回充放電処理を行った。続いて2C過充電試験を実施した。ここで、1Cとは満充電状態の電池を、定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0701】
(2-1) 積層ラミネート電池の初回充放電処理
充電装置は菊水電子工業製バッテリテスタPFX2011を使用した。積層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した。その後、露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて、電池の封止部を開口しガス抜きを行った。ガス抜き後、同じ環境下において真空シールを行った。
【0702】
(2-2) 過充電試験
上記の初回充放電処理後の積層ラミネート電池を、25℃において、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電し、その後4.2Vで1時間、定電圧充電した。満充電状態にまで充電した電池に対して、下記の如く過充電試験を行った。電源は菊水電子工業製直流電源PAT60-133Tを使用し、室温(25±5℃)、2C相当の定電流、60Vの定電圧とした。試験中の電流、電圧、各部位及び雰囲気の温度は日置電機製メモリハイロガーLR8400によって100ms毎に記録した。同時に、電池外観もビデオによって観察・記録した。
【0703】
過充電によって電池が発火し、放出されるHFガス量を測定するため、過充電試験は金属製の試験容器内(縦横高さ約350mm)に電池を設置して、Ar雰囲気下で行った。電池が発火したら、通電を停止し、容器内に容器体積量の3倍のArガスを注入し、発生したガスをガスバッグに回収した。回収したガスに対して、液体捕集IC法によって、発生したHFを定量分析した。具体的には、NaHCO(1.7mM)+NaCO(1.8mM)吸収液に回収ガスを導入してHF成分を溶解し、溶解液のF濃度をイオンクロマトグラフィーによって定量し、HF発生量へ換算した。
【0704】
[実施例33]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を1.0mol添加した。また、非水系電解液に、無水コハク酸(SAH)を1質量%、プロピオニトリル(PrN)を11ppm(質量比)、酢酸(AA)を0.2ppm(質量比)添加して、実施例33の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0705】
[実施例34]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を1.0mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を1質量%、プロピオニトリル(PrN)を125ppm(質量比)、酢酸(AA)を1.0ppm(質量比)添加して、実施例34の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0706】
[実施例35]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を1質量%、プロピオニトリル(PrN)を10ppm(質量比)、酢酸(AA)を0.4ppm(質量比)添加して、実施例35の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0707】
[実施例36]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を1質量%、プロピオニトリル(PrN)を90ppm(質量比)、酢酸(AA)を2.5ppm(質量比)添加して、実施例36の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0708】
[比較例27]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を1質量%添加して、比較例27の電解液を得た。なお、比較例27には、酢酸及びプロピオニトリルを添加していない。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0709】
[比較例28]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を1.0mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を1質量%、プロピオニトリルを105ppm添加して、比較例28の電解液を得た。なお、比較例28には、酢酸を添加していない。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0710】
[比較例29]
下記の表23に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を1質量%、プロピオニトリル(PrN)を500ppm(質量比)、酢酸(AA)を100ppm(質量比)添加して、比較例29の電解液を得た。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0711】
【表23】
【0712】
実験では実施例33から実施例36、及び比較例27から比較例29に対し、ガス発生によって発火前に安全弁が作動したかどうかについて調べ、更に、HF発生量を測定した。その実験結果については上記の表23に示される。
【0713】
表23に示すように、ガス発生によって発火前に安全弁が作動した場合は、〇、安全弁が作動しなかった場合は×とした。
【0714】
すなわち、発火に至るまでの電池外観を観察したところ、実施例33から実施例36の電池は、発火直前にセル膨張が急激に生じ、安全弁が作動して、内部のガスがリリースされた。発火はガスのリリース後に生じた。これに対し、比較例27から比較例29の電池では、安全弁からガスがリリースされる前に発火が生じた。
【0715】
比較例29では、プロピオニトリルと酢酸を過剰量添加した結果、満充電状態に充電した段階で大きく膨れ、過充電試験前に安全弁が作動してしまった。通常電圧範囲において正常状態でなくなってしまったため、以後の過充電試験は中止した。
【0716】
以上により、実施例33から実施例36の非水系電解液のように、電解液中に、アセトニトリルと、リチウム塩と、含有し、更に、プロピオニトリルと酢酸を存在することが好ましいとわかった。これにより、電池セルが燃焼する前にガスが発生して安全弁を作動させ、燃焼によるHFガスの生成量を減少させる機能を適切に作動させることが可能になる。一方、比較例のように、プロピオニトリルと酢酸の両成分が揃わない場合には、ガス発生量が少ないため、安全弁が作動せず、セル中にHF源となるフッ素化合物が残存し、その結果、発火によってHFが高濃度に発生してしまう。
【0717】
また、実施例33から実施例36及び比較例27から比較例29の実験結果に基づいて、酢酸の含有量を、非水系電解液に対し、0.1ppm以上10ppm以下とし、プロピオニトリルの含有量を、非水系電解液に対し、1ppm以上300ppm以下とすることが好ましいとした。
【0718】
更に、実施例33から実施例36の実験結果に基づいて、酢酸の含有量を、非水系電解液に対し、0.1ppm以上5ppm以下とし、プロピオニトリルの含有量を、非水系電解液に対し、1ppm以上200ppm以下とすることがより好ましいとした。
【0719】
また、実施例33から実施例36に基づいて、過充電試験によるHFガスの発生量は、1Ahあたり0.5mg以下であることが好ましいとした。好ましくは、0.1mg以下であり、より好ましくは、0.05mg以下である。なお、この実験での積層ラミネート電池の設計容量値は約10Ahであるので、表23に示すHFガスの発生量を10で割った値が、1AhあたりのHFガスの発生量となる。
【0720】
次に、第24実施形態の実施例について以下説明する。
【0721】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、86:8:6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。この正極合剤含有スラリーを、正極集電体となるアルミニウム箔両面に、片面あたりの目付量が11.5mg/cmになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで合材層の密度が2.8mg/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0722】
次に、この正極を、塗工部の面積が150mm×150mmとなるように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0723】
(1-2) 負極の作製
負極活物質であるグラファイトと、導電助剤であるアセチレンブラックと、バインダーであるPVDFとを86:7:7の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。この負極合剤含有スラリーを、銅箔の両面に、片面あたりの目付量が6.9mg/cmになるように調節しながら塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで合材層の密度が1.3mg/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0724】
次に、この負極を、塗工部の面積が152mm×152mmとなるように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0725】
(1-3) 積層ラミネート電池の組み立て
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製樹脂フィルムを介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体をアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5h真空乾燥を行った。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、積層ラミネート型非水系二次電池(パウチ型セル電池。以下、単に「積層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。正極端子と負極端子の無い融着辺に、安全弁機構となる穴を形成した。穴の周囲を同心円形状にて熱融着した。
【0726】
この積層ラミネート電池は、設計容量値が約10Ah、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0727】
[積層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた積層ラミネート電池について、以下の手順に従って初回充放電処理を行った。続いて2C過充電試験を実施した。ここで、1Cとは満充電状態の電池を、定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0728】
(2-1) 積層ラミネート電池の初回充放電処理
充電装置は菊水電子工業製バッテリテスタPFX2011を使用した。積層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した。その後、露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて、電池の封止部を開口しガス抜きを行った。ガス抜き後、同じ環境下において真空シールを行った。
【0729】
(2-2) 過充電試験
上記の初回充放電処理後の積層ラミネート電池を、25℃において、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電し、その後4.2Vで1時間、定電圧充電した。満充電状態にまで充電した電池に対して、下記の如く過充電試験を行った。電源は菊水電子工業製直流電源PAT60-133Tを使用し、室温(25±5℃)、2C相当の定電流、60Vの定電圧とした。試験中の電流、電圧、各部位及び雰囲気の温度は日置電機製メモリハイロガーLR8400によって100ms毎に記録した。同時に、電池外観もビデオによって観察・記録した。
【0730】
過充電によって発生するCO量を測定するため、過充電試験は金属製の試験容器内(縦横高さ約350mm)に電池を設置して、Ar雰囲気下で行った。発火後、容器内に容器体積量の3倍のArガスを注入し、発生したガスをガスバッグに回収した。回収したガスに対して、GC-TCD法によってCOを定量分析した。
【0731】
[実施例37]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を、1.0mol添加した。また、非水系電解液に、無水コハク酸(SAH)を、0.7質量%、アセトアルデヒド(AcA)を52ppm、及び遷移金属ニトリル錯体(MC)を、4008ppm添加した。このように、添加剤としてのアセトアルデヒドと、遷移金属のニトリル錯体の添加量は、電解質を溶解した電解液に対する重量割合(ppm)で示した。
【0732】
添加する遷移金属ニトリル錯体は次のようにして作製した。すなわち、アルミラミネート袋を2.7cm×6cmに加工し、前述の手法で作製した正極を23mm×17mmに打ち抜き、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)1.3mol/Lのアセトニトリル溶液を注入して、電極を浸漬した。注液後シールし、アルミラミネート袋を縦に立て掛けた状態で60℃に保ち、10日間保存した。保存後アルミラミネート袋を開封し、内部に生成したゲル状の遷移金属ニトリル錯体を回収し、乾燥した。乾燥固体中には、Niが5.6質量%、Coが5.5質量%、Mnが0.48質量%含有されており、金属含有割合は11.6質量%であった。それ以外の成分はアセトニトリル、水分およびPFアニオンである。なお、この遷移金属ニトリル錯体を、実施例38から実施例40、及び比較例34においても用いた。
【0733】
このようにして得た実施例37の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0734】
[実施例38]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を、1.0mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を0.7質量%、アセトアルデヒド(AcA)を1595ppm、及び遷移金属ニトリル錯体(MC)を、2190ppm添加した。このようにして得た実施例38の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0735】
[実施例39]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を0.7質量%、アセトアルデヒド(AcA)を93ppm、及び遷移金属ニトリル錯体(MC)を、2922ppm添加した。このようにして得た実施例39の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0736】
[実施例40]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に対し、無水コハク酸(SAH)を0.7質量%、アセトアルデヒド(AcA)を1610ppm、及び遷移金属ニトリル錯体(MC)を、1822ppm添加した。このようにして得た実施例40の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0737】
[比較例30]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を0.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を、1.0mol添加した。比較例30では、無水コハク酸(SAH)、アセトアルデヒド(AcA)及び、遷移金属ニトリル錯体(MC)を添加していない。このようにして得た比較例30の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0738】
[比較例31]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を、1.0mol添加した。また、非水系電解液に、無水コハク酸(SAH)を、0.7質量%添加した。比較例31では、アセトアルデヒド(AcA)及び、遷移金属ニトリル錯体(MC)を添加していない。このようにして得た比較例31の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0739】
[比較例32]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を、1.0mol添加した。また、非水系電解液に、無水コハク酸(SAH)を、0.7質量%添加した。比較例32では、アセトアルデヒド(AcA)を添加していない。このようにして得た比較例32の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0740】
[比較例33]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に、無水コハク酸(SAH)を、0.7質量%、アセトアルデヒド(AcA)を75ppm添加した。比較例33では、遷移金属ニトリル錯体(MC)を添加していない。このようにして得た比較例33の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0741】
[比較例34]
下記の表24に示す各種溶媒及び添加剤を所定量混ぜることで電解液を調製した。すなわち、アセトニトリル(AcN)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)と、エチレンカーボネート(EC)と、の体積比が47:28:4:21となるように加えて混合した。さらにこの混合液における非水系溶媒1Lあたりヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.3mol添加した。また、非水系電解液に、アセトアルデヒド(AcA)を82ppm、及び遷移金属ニトリル錯体(MC)を、3003ppm添加した。比較例34では、無水コハク酸(SAH)を添加していない。このようにして得た比較例34の電解液を備えた積層ラミネート電池について、上記(2-1)~(2-2)に記載の手順で、積層ラミネート電池の評価を行った。
【0742】
【表24】
【0743】
表24に示すように、各実施例及び比較例において、ガス発生によって、発火前に安全弁が作動したかどうかを調べ、発火前に作動したら〇、作動しなかったら×を付した。また、過充電によるCO発生量を表24に示す。
【0744】
実施例37から実施例40に示す非水系二次電池は、発火前にガス発生によって電池セルが膨張し、安全弁が作動して、内部のガスが放出された。発火は、ガスの放出後に生じた。これに対し、比較例31から比較例33に示す非水系二次電池では、安全弁からガスが放出される前に発火が生じた。
【0745】
この事実から、電解液中に、アセトアルデヒド、環状酸無水物及び、遷移金属ニトリル錯体の各成分を存在させることにより、電池セルが燃焼する前に、ガスを発生させて安全弁を作動させ、燃焼によるCO生成量を減少させることができるとわかった。
【0746】
一方、比較例のように、アセトアルデヒド、環状酸無水物及び、遷移金属ニトリル錯体の各成分の全てが揃わない場合には、発火前のガス発生量が少ないため、安全弁が作動しない。このため、電池セル中にCO源となる化合物が残存し、その結果、発火によってCOガスが高濃度に発生することがわかった。なお、比較例30及び比較例34の電池は、初回充放電処理の段階で激しく劣化が進行し膨れてしまったため、過充電試験を実施することができなかった。
【0747】
また、実施例37から実施例40、及び比較例30から比較例34に基づいて、アセトアルデヒドの含有量が、非水系電解液に対し、1ppm以上3000ppm以下であることが好ましいとした。また、アセトアルデヒドの含有量は、非水系電解液に対し、10ppm以上2500ppm以下であることがより好ましく、30ppm以上2000ppm以下であることが更に好ましいとした。
【0748】
また、実施例37から実施例40、及び比較例30から比較例34に基づいて、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましいとした。また、環状酸無水物の含有量は、非水系電解液に対し、0.1質量%以上1質量%以下であることがより好ましいとした。
【0749】
また、電解液中のニトリル錯体は、非水系電解液と、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質との接触によって得られるニトリル錯体であることがわかった。
【0750】
また、実施例37から実施例40、及び比較例30から比較例34に基づいて、ニトリル錯体の含有量が、非水系電解液に対し、遷移金属として0.01ppm以上500ppm以下であることが好ましいとした。また、実施例37から実施例40に基づいて、ニトリル錯体の含有量が、非水系電解液に対し、遷移金属として100ppm以上500ppm以下であることがより好ましく、200ppm以上500ppm以下であることが更に好ましいとした。
【0751】
また、実施例37から実施例40に基づいて、過充電試験によるCOガスの発生量は、1Ahあたり1g以下であることが好ましいとした。COガスの発生量は、0.7g以下であることがより好ましい。なお、この実験での積層ラミネート電池の設計容量値は約10Ahであるので、表24に示すCOガスの発生量を10で割った値が、1AhあたりのCOガスの発生量となる。
【0752】
次に、第25実施形態の実施例について以下説明する。
【0753】
[電池作製]
(1-1)正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が12.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0754】
(1-2)負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が5.3mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0755】
(1-3)コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製ガラス繊維濾紙 GA-100)を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0756】
[コイン型非水系二次電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(2-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0757】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0758】
(2-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計15時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0759】
(2-2)コイン型非水系二次電池の充放電サイクル試験
上記(2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、サイクル試験を実施した。まず、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、3mAの定電流で3Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量を容量維持率とした。
【0760】
(2-3)交流インピーダンス測定
交流インピーダンス測定は、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1400(商品名)とソーラトロン社製ポテンショ-ガルバノスタット1470E(商品名)を用いた。1000kHz~0.01Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧・電流の応答信号からインピーダンスを測定し、1kHzにおける交流インピーダンス値を求めた。印可する交流電圧の振幅は±5mVとした。また、交流インピーダンスを測定する際の電池の周囲温度は25℃とした。また、これらの結果から下記の値を算出した。
【0761】
測定する非水系二次電池としては、上記(2-2)に記載の方法によって充放電サイクル測定を行った際の、1サイクル目、50サイクル目、及び100サイクル目の充電まで行った時点のコイン型非水系二次電池を用いた。各所定回目のサイクルにおける充電後に測定を行った後、充放電サイクル測定を継続し、次回の測定に供した。
【0762】
[実施例41]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)と、エチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が44:25:26:5となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.25molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.25molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させ、さらに2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)を4ppm、環状酸無水物としての無水コハク酸を0.2質量%加えて混合し、実施例41の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、BHTおよび環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で測定を行った。
【0763】
[実施例42]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)と、エチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が35:40:21:4となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.6molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.6molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させ、さらに2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)を1ppm、環状酸無水物としての無水マレイン酸を0.15質量%加えて混合し、実施例42の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、BHTおよび環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で測定を行った。
【0764】
[実施例43]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)と、エチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:13:25:17となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり0.5molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.5molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を溶解させ、さらに2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)を15ppm、環状酸無水物としての無水フタル酸を0.5質量%加えて混合し、実施例43の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩、BHTおよび環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で測定を行った。
【0765】
[比較例35]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とプロピレンカーボネート(PC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が60:32:8となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり1.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.1molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させ、さらに環状酸無水物としての無水マレイン酸を0.07質量%加えて混合し、比較例35の電解液を得た。この電解液にはBHTを添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩及び環状酸無水物が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で測定を行った。
【0766】
[比較例36]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が85:11:4となるよう混合した。更に、この混合液1Lあたり1.1molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を溶解させ、さらに2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)を5ppm加えて混合し、比較例36の電解液を得た。なお、この電解液には環状酸無水物を添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩及びBHTが全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で測定を行った。
【0767】
以下に実施例41から実施例43、及び比較例35から比較例36の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0768】
【表25】
【0769】
また、以下の表26では、実施例41から実施例43、及び比較例35から比較例36の、25℃サイクル試験を100サイクル行ったときの容量維持率、及び交流インピーダンスの値を示す。
【0770】
【表26】
【0771】
上記表26に示すように、実施例41から実施例43では、いずれも25℃におけるサイクル試験を100サイクル行ったときの容量維持率が80%以上であることがわかった。また、実施例41及び実施例42では、85%よりも大きい容量維持率が得られることがわかった。
【0772】
以上により、実施例41から実施例43の非水系電解液のように、アセトニトリルを含有し、更に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールと、環状酸無水物を含むことが好ましいとわかった。一方、比較例35及び比較例36では、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール及び、環状酸無水物のどちらか一方を含んでいない。
【0773】
また、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量は、実施例41から実施例43を含み且つ、比較例35を含まないように、非水系電解液に対し0.1ppm以上100ppm以下とした。また、環状酸無水物の含有量は、実施例41から実施例43を含み且つ、比較例36を含まないように、非水系電解液に対し0.01質量%以上1質量%以下とした。
【0774】
また、実施例41から実施例42に基づいて、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量が、非水系電解液に対し0.5ppm以上10ppm以下、環状酸無水物の含有量が、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下である範囲を好ましい範囲に設定した。これにより、25℃におけるサイクル試験を100サイクル行ったときの容量維持率を85%よりも大きく、且つ交流インピーダンス試験において、50サイクル時の交流インピーダンスを3.4Ωより小さく、100サイクル時の交流インピーダンスを3.8Ω以下に抑制できることがわかった。
【0775】
また実施例に基づいて、環状酸無水物成分として、無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタルのうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。
【0776】
次に、第26実施形態から第27実施形態の実施例について以下説明する。
【0777】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表27に示した。なお、表27において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「MBTA」は、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、「SAH」は無水コハク酸をそれぞれ示す。
【0778】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0779】
【表27】
【0780】
〔電池作製〕
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.50g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0781】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0782】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースと、同じくバインダーであるスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約61.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.35g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0783】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0784】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0785】
[単層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(1-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(1-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0786】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0787】
(1-1)単層ラミネート電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する2.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する6.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0788】
(1-2)単層ラミネート電池の50℃充放電サイクル試験
上記(1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、サイクル試験を実施した。なお、サイクル試験は電池の周囲温度を50℃に設定た3時間後に開始した。まず、2Cに相当する46mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、46mAの定電流で3.0Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量を容量維持率とした。
【0789】
(2)遷移金属溶出量の測定
遷移金属溶出量を測定するためXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析を行った。XPS分析装置はアルバックファイ Versa probeIIを用いた。分析条件に関して、励起源はmono.AlKα 15kV×3.3mAとし、分析サイズは約200μmφとし、光電子取出角は45°とした。また、測定試料は試験前の電池を解体して、取り出した負極をアセトニトリルに約1分間浸漬して試料に付着している電解液を洗浄した。その後、12時間風乾した。乾燥した試料はそれぞれ3mm四方の小片に切り出し、XPS分析用試料とした。なお、試料作製に関する一連の作業は露点-60℃以下に制御されたアルゴングローブボックス内で実施した。試料のXPS装置への搬送は専用治具を用いて大気非暴露で行った。得られた各ピーク(C1S、O1s、F1s、P2p、N1s、S2p、Li1s、Mn3p、Ni3p、Co3p)の面積強度と装置付属の相対感度係数を用いて各元素の相対元素濃度を求めた。ここでは約40~80eVに観測された、Ni3p、Co3p、Mn3pスペクトルについてピーク分割を行って面積強度を導出して、Ni濃度、Co濃度、Mn濃度を求めた。
【0790】
【表28】
【0791】
実施例44から実施例45に示すように、75%以上の容量維持率を得ることができた。また、実施例では、Mn、Ni及びCoの遷移金属溶出量を比較例よりも低く抑えることができた。
【0792】
次に、第28実施形態から第31実施形態の実施例について以下説明する。
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0793】
得られた正極合剤に溶剤として、N-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。
【0794】
正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が24.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.90g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0795】
(1-2) 負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0796】
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。
【0797】
負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が10.6mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.50g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0798】
(1-3) コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製ガラス繊維濾紙 GA-100)を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0799】
[コイン型非水系二次電池の高温特性評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(2-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0800】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0801】
(2-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計15時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0802】
(2-2)コイン型非水系二次電池の60℃満充電保存試験
上記(2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、この非水系二次電池を60℃の恒温槽に720時間保存した。その後、電池の周囲温度を25℃に戻した。
【0803】
(2-3)交流インピーダンス測定
交流インピーダンス測定は、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1400(商品名)とソーラトロン社製ポテンショ-ガルバノスタット1470E(商品名)を用いた。1000kHz~0.01Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧・電流の応答信号からインピーダンスを測定し、1kHzにおける交流インピーダンス値を求めた。印可する交流電圧の振幅は±5mVとした。また、交流インピーダンスを測定する際の電池の周囲温度は25℃とした。
【0804】
測定する非水系二次電池としては、上記(2-2)に記載の方法によって60℃満充電保存試験を行う前、60℃満充電保存試験を行った後のコイン型非水系二次電池を用いた。
【0805】
また、これらの結果から下記の抵抗増加率の値を算出した。
抵抗増加率=(60℃満充電保存試験後の抵抗値/60℃満充電保存試験前の抵抗値)×100[%]
【0806】
[非水系電解液の低温特性評価]
(3-1)セル組み立て、及び交流インピーダンス測定
上記の調製した電解液を東陽テクニカ製密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0807】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。温度は-30℃、-10℃、0℃、20℃の4点で実施し、測定は各温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0808】
(3-2)イオン伝導度
得られたデータはインピーダンスの実数成分(Z’)と虚数成分(Z’’)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z’’=0におけるZ’値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは電極間距離(0.35cm)、Sは電極面積(4.522cm)である。
【0809】
[実施例46]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネ―ト(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:35:16:4となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.3molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加するとともに、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を0.1質量%(1000ppm)、無水コハク酸(SAH)を0.5質量%溶解させ、実施例46の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0810】
[実施例47]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が50:35:10:5となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と2.7molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加するとともに、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を0.8質量%(8000ppm)、無水マレイン酸(MAH)を0.2質量%溶解させ、実施例47の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0811】
[実施例48]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が65:6:22:7となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.6molとなるようヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.6molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を添加するとともに、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を0.005質量%(50ppm)、無水フタル酸(PAH)を0.5質量%溶解させ、実施例48の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0812】
[比較例39]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:42:11となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.3molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加するとともに、無水マレイン酸(MAH)を0.05質量%溶解させ、比較例39の電解液を得た。比較例39では、LiPOを添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0813】
[比較例40]
不活性雰囲気下、1アセトニトリル(AcN)とジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が20:42:21:17となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり0.5molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.5molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加するとともに、LiPOを5ppm溶解させ、比較例40の電解液を得た。比較例40では、環状酸無水物を添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0814】
[比較例41]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が42:30:15:13となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.2molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加するとともに、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を0.5質量%(5000ppm)、無水マレイン酸(MAH)を0.4質量%溶解させ、比較例41の電解液を得た。比較例41では、イミド塩を添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0815】
[比較例42]
不活性雰囲気下、1Lのアセトニトリル(AcN)に対して4.2molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を溶解させて、比較例42の電解液を得た。比較例42では、LiPF、LiPO、及び環状酸無水物をいずれも添加していない。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行い、(3-1)(3-2)に記載の手順で各温度のイオン伝導度を算出した。
【0816】
以下に実施例46から実施例48、及び比較例39から比較例42の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0817】
【表29】
【0818】
また、以下の表30では、実施例46から実施例48、及び比較例39から比較例42の、60℃での満充電保存試験における抵抗増加率を示す。
【0819】
【表30】
【0820】
また、以下の表31には、実施例46から実施例48、及び比較例39から比較例42の、イオン伝導度を示す。
【0821】
【表31】
【0822】
上記の表30に示すように、実施例46から実施例48、及び比較例41では、いずれも抵抗増加率が400%を下回っていることがわかった。また、実施例46から実施例48、及び比較例41では、いずれも抵抗増加率が300%を下回っていることがわかった。更に、実施例46から実施例48、及び比較例41では、いずれも抵抗増加率が250%を下回っていることがわかった。
【0823】
また、上記の表31に示すように、実施例46から実施例48、及び比較例40では、-10℃でのイオン伝導度が10mS/cm以上であることがわかった。また、実施例46から実施例48では、-10℃でのイオン伝導度が、12mS/cm以上であることがわかった。また、実施例46及び実施例47では、-10℃でのイオン伝導度が、12.5mS/cm以上であることがわかった。
【0824】
また、上記の表31に示すように、実施例46から実施例48、及び比較例40では、-30℃でのイオン伝導度が、5mS/cm以上であることがわかった。また、実施例46から実施例48では、-30℃でのイオン伝導度が、6mS/cm以上であることがわかった。また、実施例46及び実施例47では、-30℃でのイオン伝導度が、6.5mS/cm以上であることがわかった。
【0825】
以上により、実施例46から実施例48の非水系電解液のように、アセトニトリルと、LiPFと、LiPOと、環状酸無水物と、イミド塩と、を有することが好ましいとわかった。一方、比較例では、LiPF、LiPO、環状酸無水物、及びイミド塩のいずれかを含んでいない。
【0826】
また、LiPOは高温加熱時の抵抗増加率の低減に寄与するものである。したがって、LiPOの下限値としては、比較例40を含まないように、0.001質量%以上とし、また上限値としては実施例47に基づいて1質量%以下に設定した。
【0827】
また、環状酸無水物は、高温加熱時の抵抗増加率の低減に寄与するものである。したがって、環状酸無水物の下限値としては、比較例39を含まないように、0.01質量%以上とし、上限値は、実施例46及び実施例48に基づいて1質量%以下とした。
【0828】
実施例46から実施例48の電解液においては、電解液に含まれるリチウム塩の総モル量に対するイミド塩のモル量の百分率が50%以上となることがわかった。すなわち、実施例46から実施例48の電解液のリチウム塩おける主成分はイミド塩であることがわかった。
【0829】
また、実施例46から実施例48では、いずれもLiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することがわかった。
【0830】
また、実施例に基づいて、イミド塩の含有量は、非水系溶媒1Lに対して、0.5mol以上3.0mol以下であることが好ましいとした。
【0831】
また、実施例に基づいて、アセトニトリルに対するPFアニオンの混合モル比が、0.01以上0.08未満であることが好ましいとした。
【0832】
また、実施例に基づいて、LiPOの含有量を、非水系電解液に対し0.05質量%以上1.0質量%以下に規定した。
【0833】
また、実施例に基づいて、環状酸無水物の含有量を、非水系電解液に対し0.1質量%以上0.5質量%以下に規定した。
【0834】
また、実施例に基づいて、イミド塩成分として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)のうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。
【0835】
また実施例に基づいて、環状酸無水物成分として、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましいとした。
【0836】
第32実施形態から第34実施形態の実施例について以下説明する。
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表32に示した。なお、表32において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「LiPO」はジフルオロリン酸リチウム、「SAH」は無水コハク酸をそれぞれ示す。
【0837】
リチウム塩を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0838】
【表32】
【0839】
[交流インピーダンス測定]
【0840】
上記の調製した電解液を東陽テクニカ製の密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線した。更に、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0841】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。恒温槽の温度は-20℃、-10℃、0℃、10℃、20℃の5点に設定し、測定は各温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0842】
[イオン伝導度]
得られたデータは、インピーダンスの実数成分(Z´)と虚数成分(Z´´)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z´´=0におけるZ´値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは、電極間距離(0.35cm)、Sは、電極面積(4.522cm)である。
【0843】
<イオン伝導度のアレニウスプロット>
上記の式より得られた各温度におけるLiイオン伝導度を用い、アレニウスの式:σ=Aexp(-Ea/kT)(σ:イオン伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)より、-20~0℃と0~20℃のアレニウスプロットの傾きを求めた。
【0844】
表32に示した組成で電解液を25℃で調製し、上記の方法でセルを組み立てて交流インピーダンス測定を実施した。得られたデータからナイキスト線図を作成してZ´値を読み取り、上記の式から、実施例49から実施例50、及び比較例43のイオン伝導度を計算した。計算したイオン伝導度を用いて-20~0℃と0~20℃のアレニウスプロットの傾きを求め、アレニウスプロットの傾きから活性化エネルギー(Ea)を求めた。結果を以下の表33に示す。
【0845】
【表33】
【0846】
表33に示すように、比較例では-20~0℃、0~20℃での活性化エネルギーEa、Eaが15kJ/molを大きく上回ることがわかった。これに対して、実施例ではいずれも、-20~0℃での活性化エネルギーEaが15kJ/mol以下であることがわかった。また、実施例では0~20℃での活性化エネルギーEaも15kJ/mol以下であることがわかった。また、-20~0℃での活性化エネルギーEaに対する0~20℃での活性化エネルギーEaの値(Ea/Ea)において、比較例は実施例に比べて、1を大きく下回っていた。すなわち、比較例は、EaとEaが大きく異なっていた。これにより、比較例は実施例に比べて、エネルギー的に安定しておらず、イオン伝導度に不連続変化が生じていることがわかった。これに対し、実施例は、Ea/Eaが1に近くエネルギー的に安定しており、0℃以下の低温領域においてもイオン伝導度が安定していることがわかった。
【0847】
実施例49では、電解液にアセトニトリル並びに、リチウム塩としてLiPO及びLiFSI(イミド塩)が含まれていた。また、実施例50では、電解液にアセトニトリル並びに、リチウム塩としてLiPO及びLiTFSI(イミド塩)が含まれていた。
【0848】
実施例49から実施例50のLiPOの含有量は、電解液に対して0.01質量%以上1質量%以下であった。また、実施例49~50の電解液においては、電解液に含まれるリチウム塩の総モル量に対するイミド塩のモル量の百分率が50%以上となることがわかった。すなわち、実施例49から実施例50の電解液のリチウム塩おける主成分はイミド塩であることがわかった。
【0849】
第35実施形態の実施例について以下説明する。
【0850】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が12.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0851】
(1-2) 負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が5.3mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0852】
(1-3)コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からポリエチレン微多孔膜を直径19mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を100μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0853】
[コイン型非水系二次電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、実施例および比較例に記載されているそれぞれの手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-1)、(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0854】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0855】
(2-1)コイン型非水系二次電池の85℃満充電保存試験
初回充放電処理(初回放電のエージング処理については各実施例や比較例の欄に記載)を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、この非水系二次電池を85℃の恒温槽に4時間保存した。その後、電池の周囲温度を25℃に戻した。
【0856】
(2-2)コイン型非水系二次電池の出力試験
上記(2-1)に記載の方法で85℃満充電保存試験を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、1Cに相当する3mAの電流値で3.0Vまで放電した。次に、定電流放電時の電流値を5Cに相当する15mAに変更した以外は、上記と同様の充放電を行い、下記の容量維持率を算出した。
容量維持率=(5C放電時の容量/1C放電時の容量)×100[%]
【0857】
[実施例100]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:35:16:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.15質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.3molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加し、実施例100の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して2.8Vまで充電した後、2.8Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を55℃に設定し、6時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)、(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0858】
[実施例101]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:35:16:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.3質量%となるよう溶解させた。更に、この混合溶媒に1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を電解液として最終的に0.2質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例101の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して2.8Vまで充電した後、2.8Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を45℃に設定し、72時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0859】
[実施例102]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が35:40:21:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水マレイン酸(MAH)を電解液として最終的に0.15質量%となるよう溶解させた。更に、この混合溶媒に1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を電解液として最終的に0.1質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり1.2molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例102の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して3.0Vまで充電した後、3.0Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を55℃に設定し、6時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0860】
[実施例103]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が65:6:22:7となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.2質量%となるよう溶解させた。さらに、この混合溶媒にメチルスクシノニトリルを電解液として最終的に0.2質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり0.6molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.6molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を添加し、実施例103の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して3.0Vまで充電した後、3.0Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を60℃に設定し、6時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0861】
[実施例104]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:30:23:2となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.2質量%となるよう溶解させた。更に、この混合溶媒に1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を電解液として最終的に0.3質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり1.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例104の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して3.3Vまで充電した後、3.3Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を55℃に設定し、24時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0862】
[実施例105]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が50:30:18:2となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.2質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.0molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加し、実施例105の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して3.2Vまで充電した後、3.2Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を50℃に設定し、48時間保存した後、再び電池の周囲温度を25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0863】
[比較例100]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:42:11となるよう混合した。この混合溶媒に無水マレイン酸(環状酸無水物)を電解液として最終的に0.14質量%となるよう溶解させた。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.01molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を添加して、比較例100の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。比較例100では、初回充電のエージング処理を行っていない。
【0864】
[比較例101]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:49:4となるよう混合した。さらにこの混合液1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.05molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を添加するとともに、無水コハク酸(SAH)を0.05質量%溶解させ、比較例101の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して2.8Vまで充電した後、2.8Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、周囲温度を25℃のままとし、72時間保存した後、電池の周囲温度をそのまま25℃に設定し、3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0865】
[比較例102]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が47:49:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらにこの混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.05質量%となるよう溶解させた。更に、この混合溶媒に1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を電解液として最終的に2.5質量%となるよう溶解させた。その後、混合溶媒1Lあたり0.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を添加し、比較例102の電解液を得た。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液を用いて上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、初回充放電処理を行った。電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、周囲温度を85℃とし、24時間保存した後、電池の周囲温度をそのまま25℃に設定し、冷却のため3時間静置した。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1時間半充電を行った。その後、0.3Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。その後、上記(2-1)(2-2)に記載の手順でコイン型非水系二次電池の評価を行った。
【0866】
以下の表34に実施例100から実施例105、及び比較例100から比較例102の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0867】
【表34】
【0868】
また、以下の表35では、実施例100から実施例105、及び比較例100から比較例102のエージング条件を示す。
【0869】
【表35】
【0870】
また、以下の表36には、実施例100から実施例105、及び比較例100から比較例102における、85℃4時間保存後の容量維持率を示す。容量維持率は、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる。
【0871】
【表36】
【0872】
上記の表36に示すように、実施例100から実施105では、いずれも容量維持率が70%以上であることがわかった。また、実施例100から実施例105では、74%以上の容量維持率を得ることができる。
【0873】
なお、本実施例では、電池内の正極表面部のXPS分析を行った。XPS分析の装置としてアルバックファイ Versa probe IIを用いた。分析条件に関して、励起源はmono.AlKα 15kV×3.3mAとし、分析サイズは約200μmφとし、光電子取出角は45°±20°とした。また、測定試料は試験前の電池を解体して、取り出した電極をアセトニトリルで3回浸漬して試料に付着している電解液を洗浄した。その後、12時間風乾した。乾燥した試料はそれぞれ3mm四方の小片に切り出し、XPS分析用試料とした。なお、試料作製に関する一連の作業はアルゴングローブボックス(露点-60℃以下)内で実施した。ここではXPS分析の結果に従って、窒素元素に基づく394eV~408eVの範囲において、光電子スペクトルのピーク分割を行った場合の窒素濃度が0.5~20atomic%含むことが好ましい。これは、実施例100から実施例105及び比較例100から比較例102の85℃4h保存試験後出力試験の結果に基づく。また、前記ピーク範囲において、399eV~400eVに観測されるピークは-NH、及び-NH-NH-、(NO)-結合を有し、402eV付近に観測されるピークは-N=O結合を有する。表36に示す「atomic%」は、光電子スペクトルのピーク分割を行った場合の窒素濃度を原子%で示したものである。
【0874】
以上により、実施例100から実施例105の非水系電解液のように、-N=、-NH、-N=O、-NH-NH-、及び(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物が含まれることが好ましいとわかった。そして、非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率は、70%以上である初期特性評価を有することができる。
【0875】
また、実施例及び比較例より、N含有化合物を含有し、初回充電時、3.5V以下でエージングすることが好ましいとした。これにより、正極活物質由来である遷移金属のイオン化が発生する前に、-N=、-NH、-N=O、及び-NH-NH-、(NO)-からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物が正極表面を保護する。これにより、熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0876】
また、実施例101から実施例105により、上記エージング温度が、35℃以上60℃以下であることが好ましいとした。このように、60℃以下の熱履歴を与えることで、保護被膜が正極表面の活性点を初期に不活性化し、高温条件下での内部抵抗の上昇を抑えることができる。
【0877】
第36実施形態の実施例について以下説明する。
【0878】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表37に示した。なお、表37において「AcN」はアセトニ
トリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「DM
C」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「MBTA」は、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0879】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0880】
【表37】
【0881】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が12.0mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0882】
(1-2) 負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が5.3mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0883】
(1-3)コイン型非水系二次電池の作製
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からポリエチレン微多孔膜を直径19mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、電解液を100μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらにスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0884】
[コイン型非水系二次電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、実施例および比較例に記載されているそれぞれの手順に従って初回充電処理を行った。次に(2-1)、(2-2)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【0885】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0886】
(2-1)コイン型非水系二次電池の85℃満充電保存試験
初回充放電処理(初回放電のエージング処理については各実施例や比較例の欄に記載)を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、この非水系二次電池を85℃の恒温槽に4時間保存した。その後、電池の周囲温度を25℃に戻した。
【0887】
(2-2)コイン型非水系二次電池の出力試験
上記(2-1)に記載の方法で85℃満充電保存試験を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、1Cに相当する3mAの電流値で3.0Vまで放電した。次に、定電流放電時の電流値を5Cに相当する15mAに変更した以外は、上記と同様の充放電を行い、下記の容量維持率を算出した。
容量維持率=(5C放電時の容量/1C放電時の容量)×100[%]
【0888】
また、以下の表38では、実施例106から実施例111、及び比較例103から比較例105のエージング条件を示す。
【0889】
【表38】
【0890】
また、以下の表39には、実施例106から実施例111、及び比較例103から比較例105における、85℃4時間保存後の容量維持率を示す。容量維持率は、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる。
【0891】
【表39】
【0892】
実験結果により、非水系二次電池に有機酸およびその塩、無水酸、並びにLiOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が含まれ、有機酸は、酢酸、シュウ酸またはギ酸のうち少なくとも1種を含み、非水系二次電池は、85℃での4時間保存試験後にて、5C放電容量を1C放電容量で除して算出してなる容量維持率は、70%以上である初期特性評価を有することが可能である。
【0893】
なお、本実施例では、電池内の負極表面部のXPS分析を行った。XPS分析の装置としてアルバックファイ Versa probeIIを用いた。分析条件に関して、励起源はmono.AlKα 15kV×3.3mAとし、分析サイズは約200μmφとし、光電子取出角は45°±20°とした。また、測定試料は試験前の電池を解体して、取り出した電極をアセトニトリルで3回浸漬して試料に付着している電解液を洗浄した。その後、12時間風乾した。乾燥した試料はそれぞれ3mm四方の小片に切り出し、XPS分析用試料とした。試料作製に関する一連の作業はアルゴングローブボックス(露点-60℃以下)内で実施した。ここではXPS分析の結果に従って、酸素元素に基づく524eV~540eVの範囲において、光電子スペクトルのピーク分割を行った場合の酸素濃度が10~30atomic%含むことが好ましい。これは実施例106から実施例111及び比較例103から比較例105の85℃4h保存試験後出力試験の結果に基づく。また、前記ピーク範囲において、527eV付近に観測されるピークはLiOを有し、530eV~535eVに観測されるピークは有機物またはその塩を有する。表39に示す「atomic%」は、光電子スペクトルのピーク分割を行った場合の酸素濃度を原子%で示したものである。
【0894】
また、実施例及び比較例に基づいて、環状酸無水物を含有し、初回充電時、3.5V以下でエージングすることが好ましいとした。負極SEIに有機酸(酢酸、シュウ酸、ギ酸)およびその塩、無水酸、およびLiOから選択される少なくとも一種の化合物が含まれることにより、熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0895】
また、実施例106から実施例111に基づいて、上記エージング温度が、35℃以上60℃以下であることが好ましいとした。60℃以上で生じるLiPFの熱分解を抑えることができる。
【0896】
第37実施形態の実施例について以下説明する。
【0897】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。この正極合剤含有スラリーを、正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の両面に、片面あたりの目付量が11.5mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0898】
次に、この正極を、塗工部の面積が150mm×150mmとなるように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0899】
(1-2) 負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。この負極合剤含有スラリーを、負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の両面に、片面あたりの目付量が6.9mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0900】
次に、この負極を、塗工部の面積が152mm×152mmとなるように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0901】
(1-3) 積層ラミネート型非水系二次電池の作製
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製樹脂フィルムを介して重ね合わせて積層電極体とした。
【0902】
この積層電極体をアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5h真空乾燥を行った。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、積層ラミネート型非水系二次電池(パウチ型セル電池。以下、単に「積層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。
【0903】
この積層ラミネート電池は、設計容量値が約10Ah、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0904】
[積層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた積層ラミネート電池について、(2-1)の手順に従って初回充放電処理を行った。続いて(2-2)及び(2-3)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。また、(2-4)の手順に従って電解液を評価した。
【0905】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で2.7Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0906】
(2-1)積層ラミネート電池の初回充放電処理
充電装置は菊水電子工業製バッテリテスタPFX2011を使用した。積層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した。その後、露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて、電池の封止部を開口しガス抜きを行った。ガス抜き後、同じ環境下において真空シールを行った。
【0907】
(2-2)積層ラミネート電池の85℃満充電保存試験
上記(2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、この非水系二次電池を85℃の恒温槽に4時間保存した。その後、電池の周囲温度を25℃に戻した。
【0908】
(2-3)イオン伝導度測定
電解液を東陽テクニカ製の密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線した。更に、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0909】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。恒温槽の温度は20℃と0℃にそれぞれ設定し、測定は温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0910】
得られたデータは、インピーダンスの実数成分(Z´)と虚数成分(Z´´)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z´´=0におけるZ´値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは、電極間距離(0.35cm)、Sは、電極面積(4.522cm)である。
【0911】
イオン伝導度は、電解液の初期イオン伝導度と、85℃保存試験後に露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて採取した電解液のイオン伝導度の双方を、夫々、20℃と0℃とで求めた。
【0912】
[実施例112]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:36:16:3となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.18質量%となるよう溶解させた。更に、この混合溶媒に1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を電解液として最終的に0.1質量%となるよう溶解させた。このとき、混合液の温度は30℃であった。その後、混合溶媒1Lあたり0.5molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と1.0molのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))を順番に添加し、実施例112の電解液を得た。このとき、電解液の温度は40℃であり、50℃以下の熱履歴のみを受けて生成された。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で評価を行い、最終的に、各温度のイオン伝導度を算出した。
【0913】
[実施例113]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が55:25:16:4となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水コハク酸(SAH)を電解液として最終的に0.12質量%となるよう溶解させた。更に、この混合溶媒に1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を電解液として最終的に0.25質量%となるよう溶解させた。このとき、混合液の温度は30℃であった。その後、混合溶媒1Lあたり1.1molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例113の電解液を得た。このとき、電解液の温度は43℃であり、50℃以下の熱履歴のみを受けて生成された。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で評価を行い、最終的に、各温度のイオン伝導度を算出した。
【0914】
[実施例114]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が31:45:21:3となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水マレイン酸(MAH)を電解液として最終的に0.1質量%となるよう溶解させた。さらに、この混合溶媒にアジポニトリルを電解液として最終的に0.1質量%となるよう溶解させた。このとき、混合液の温度は31℃であった。その後、混合溶媒1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、実施例114の電解液を得た。このとき、電解液の温度は42℃であり、50℃以下の熱履歴のみを受けて生成された。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で評価を行い、最終的に、各温度のイオン伝導度を算出した。
【0915】
[実施例115]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が65:10:22:3となるよう混合し混合溶媒を得た。さらに、この混合溶媒に無水フタル酸(PAH)を電解液として最終的に0.45質量%となるよう溶解させた。さらに、この混合溶媒にアジポニトリルを電解液として最終的に0.4質量%となるよう溶解させた。このとき、混合液の温度は29℃であった。その後、混合溶媒1Lあたり0.6molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と0.6molのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)を順番に添加し、実施例115の電解液を得た。このとき、電解液の温度は41℃であり、50℃以下の熱履歴のみを受けて生成された。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で評価を行い、最終的に、各温度のイオン伝導度を算出した。
【0916】
[比較例106]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が45:35:17:3となるよう混合し混合溶媒を得た。このとき、混合溶媒の温度は30℃であった。次に、この混合溶媒1Lあたり1.3molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を容器に入れ、その上から混合溶媒を流し込むとともに、無水コハク酸(SAH)を0.02質量%、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(MBTA)を0.02質量%溶解させ、比較例106の電解液を得た。このとき、電解液の温度は63℃であり、50℃以上の熱履歴を受けて生成された。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で評価を行い、最終的に、各温度のイオン伝導度を算出した。
【0917】
[比較例107]
不活性雰囲気下、アセトニトリル(AcN)とジエチルカーボネート(DEC)とビニレンカーボネート(VC)の体積比が41:48:11となるよう混合し混合溶媒を得た。更に、この混合溶媒にアジポニトリルを電解液として最終的に2質量%となるよう溶解させた。このとき、混合溶媒の温度は30℃であった。次に、この混合溶媒1Lあたり2.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を容器に入れ、その上から混合溶媒を流し込み、比較例107の電解液を得た。このとき、電解液の温度は68℃であり、50℃以上の熱履歴を受けて生成された。得られた電解液について、目視でリチウム塩が全て溶解していることを確認した。なお、比較例107では、環状酸無水物を添加していない。この電解液について上記(1-3)に記載の方法で電池作製した後、上記(2-1)~(2-3)に記載の手順で評価を行い、最終的に、各温度のイオン伝導度を算出した。
【0918】
以下に実施例112から実施例115、及び比較例106から比較例107の各非水系電解液の構成成分を示す。
【0919】
【表40】
【0920】
また、以下の表41では、実施例112から実施例115、及び比較例106から比較例107の、イオン伝導度を示す。
【0921】
【表41】
【0922】
上記の表41に示すように、実施例112から実施例115、及び比較例106、比較例107の初期イオン伝導度は、20℃から0℃に温度変化しても、変化量は大差なく、実施例及び比較例ともに、0℃でのイオン伝導度が約15mS/cm以上であることがわかった。
【0923】
一方、85℃での4時間保存試験後におけるイオン伝導度では、実施例112から実施例115と、比較例106及び比較例107との間に、大きな差が見られた。すなわち、実施例では、85℃での4時間保存試験後における0℃のイオン伝導度は、10mS/cm以上であった。一方、比較例では、85℃での4時間保存試験後における0℃のイオン伝導度は、10mS/cmを下回った。実施例では、85℃での4時間保存試験後における0℃のイオン伝導度を、好ましくは、12mS/cm以上、より好ましくは、13mS/cm以上、更に好ましくは、13.5mS/cm以上とすることができる。
【0924】
表40に示すように、実施例112から実施例115に示す非水系電解液は、アセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物とを含有し、かつ、50℃以下の熱履歴で生成されている。
【0925】
また、実施例及び比較例の実験結果に基づいて、アセトニトリルとN含有化合物を入れた電解液を用いることが好ましいとした。正極保護被膜を形成することができ、内部抵抗の増加要因となるHFの発生を抑制することができる。
【0926】
また、実施例112から実施例115に基づいて、N含有化合物投入時の温度上昇を50℃以下に抑えることが好ましいとした。これにより、60℃以上で生じるLiPFの熱分解を抑えることができる。
【0927】
第38実施形態の実施例について以下説明する。
【0928】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表42に示した。なお、表42において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「MBTA」は、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0929】
実施例では、アセトニトリルと環状酸無水物を入れてからLiPFを投入した。
【0930】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0931】
実施例では、アセトニトリルと環状酸無水物を入れてからLiPFを投入した。
【0932】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0933】
【表42】
【0934】
[非水系二次電池の作製]
(1-1) 正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムとニッケル、マンガン及びコバルトとの複合酸化物(Ni/Mn/Co=1/1/1(元素比);密度4.70g/cm)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。この正極合剤含有スラリーを、正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の両面に、片面あたりの目付量が11.5mg/cmになるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで実電極密度が2.80g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体からなる正極を得た。
【0935】
次に、この正極を、塗工部の面積が150mm×150mmとなるように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0936】
(1-2) 負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。この負極合剤含有スラリーを、負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の両面に、片面あたりの目付量が6.9mg/cmになるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで実電極密度が1.30g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体からなる負極を得た。
【0937】
次に、この負極を、塗工部の面積が152mm×152mmとなるように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12h真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0938】
(1-3) 積層ラミネート型非水系二次電池の作製
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製樹脂フィルムを介して重ね合わせて積層電極体とした。
【0939】
この積層電極体をアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5h真空乾燥を行った。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、積層ラミネート型非水系二次電池(パウチ型セル電池。以下、単に「積層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。
【0940】
この積層ラミネート電池は、設計容量値が約10Ah、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0941】
[積層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた積層ラミネート電池について、(2-1)の手順に従って初回充放電処理を行った。続いて(2-2)及び(2-3)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。また、(2-4)の手順に従って電解液を評価した。
【0942】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で2.7Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0943】
(2-1)積層ラミネート電池の初回充放電処理
充電装置は菊水電子工業製バッテリテスタPFX2011を使用した。積層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで1時間の定電圧充電を行った。その後、0.2Cに相当する定電流で2.7Vになるまで放電した。その後、露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて、電池の封止部を開口しガス抜きを行った。ガス抜き後、同じ環境下において真空シールを行った。
【0944】
(2-2)積層ラミネート電池の85℃満充電保存試験
上記(2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、この非水系二次電池を85℃の恒温槽に4時間保存した。その後、電池の周囲温度を25℃に戻した。
【0945】
(2-3)イオン伝導度測定
電解液を東陽テクニカ製の密閉セル(セルサイズ:24mmφ×0.35mmt)に入れて封入し、ホルダー(SH1-Z)にはめ込んで結線した。更に、恒温槽に入れて交流インピーダンス測定を行った。電極には金を使用した。電解液の採取から密閉セルへの充填、封入まではArグローブBOX内で行った。
【0946】
交流インピーダンス測定にはSolartron社製のFRA1255を使用した。振幅電圧5mV、周波数を10kHzから1MHzまで振って測定した。恒温槽の温度は20℃と0℃にそれぞれ設定し、測定は温度設定の1時間30分後に開始した。測定データは、5分ごとに繰り返し測定したデータの変動が0.1%未満になった時点のデータを採用した。
【0947】
得られたデータは、インピーダンスの実数成分(Z´)と虚数成分(Z´´)からなるナイキスト線図で表した。そして、Z´´=0におけるZ´値(R)を読み取って、以下の式によりLiイオン伝導度を求めた。
Liイオン伝導度(mS/cm)=d/(R・S)
ここで、dは、電極間距離(0.35cm)、Sは、電極面積(4.522cm)である。
【0948】
イオン伝導度は、電解液の初期イオン伝導度と、85℃保存試験後に露点-60℃以下に制御されたグローブボックス内にて採取した電解液のイオン伝導度の双方を、夫々、20℃と0℃とで求めた。
【0949】
また、以下の表43では、実施例116から実施例119、及び比較例108及び比較例109の、イオン伝導度を示す。
【0950】
【表43】
【0951】
上記の表43に示すように、実施例116から実施例119、及び比較例108及び比較例109の初期イオン伝導度は、20℃から0℃に温度変化しても、変化量は大差なく、実施例及び比較例ともに、0℃でのイオン伝導度が約14mS/cm以上であることがわかった。
【0952】
一方、85℃での4時間保存試験後におけるイオン伝導度では、実施例116から実施例119と、比較例108及び比較例109との間に、大きな差が見られた。すなわち、実施例では、85℃での4時間保存試験後における0℃のイオン伝導度は、10mS/cm以上であった。一方、比較例では、85℃での4時間保存試験後における0℃のイオン伝導度は、10mS/cmを下回った。実施例では、85℃での4時間保存試験後における0℃のイオン伝導度を、好ましくは、12mS/cm以上、より好ましくは、13mS/cm以上、更に好ましくは、13.5mS/cm以上とすることができる。
【0953】
表42に示すように、実施例116から実施例119に示す非水系電解液は、アセトニトリルと、リチウム塩と、環状酸無水物とを含有し、かつ、50℃以下の熱履歴で生成されている。
【0954】
また、実施例及び比較例の実験結果に基づいて、アセトニトリルと環状酸無水物を入れてからLiPFを投入して得られる電解液を用いることが好ましいとした。LiPF投入時の急激な温度上昇を抑えられると共に、環状酸無水物が犠牲的に反応することで、内部抵抗の増加要因となるHFの発生を抑制することができる。
【0955】
また、実施例116から実施例119の実験結果に基づいて、LiPF投入時の温度上昇を、50℃以下に抑えることが好ましいとした。これにより、60℃以上で生じるLiPFの熱分解を抑えることができる。
【0956】
次に、第39実施形態の実施例について以下説明する。
【0957】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表44に示した。なお、表44において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「MBTA」は、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、「SAH」は無水コハク酸をそれぞれ示す。
【0958】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0959】
表44に示す正極活物質、負極活物質及び、電解液を用いた非水系二次電池を作製した。
【0960】
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:4.3:4.3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約180g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.80g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0961】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が14mm×20mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0962】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:2.2:5.4の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約110.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.5g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0963】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が15mm×21mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0964】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が7.5mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0965】
【表44】
【0966】
[単層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、下記の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。
【0967】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で2.5Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0968】
[単層ラミネート電池の4.2Vサイクル試験]
電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する7.5mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、7.5mAの定電流で2.7Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量を容量維持率とした。
【0969】
[単層ラミネート電池の4.3Vサイクル試験]
電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する7.5mAの定電流で充電して4.3Vに到達した後、7.5mAの定電流で2.7Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の放電容量を容量維持率とした。その実験結果が、表45に示されている。
【0970】
【表45】
【0971】
実施例では、100サイクル目の容量維持率が70%以上であり、高い容量維持率を維持することがわかった。
【0972】
本実施例及び比較例の実験結果に基づいて、上記正極活物質のNiの元素含有比は50%より多いことが好ましい。4.3V充電を伴うサイクル試験において、100サイクル後の容量維持率を効果的に75%以上とすることができる。
【0973】
また、実施例120から実施例122により、正極活物質にハイニッケル正極を用いた非水系二次電池において、充電電圧が4.3V以上とすることによって単位体積あたりの設計容量を、150Ah/L以上とすることができる。
【0974】
次に、第40実施形態の実施例について以下説明する。
【0975】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表46に示した。なお、表46において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸をそれぞれ示す。
【0976】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。表46に示す正極活物質、負極活物質、セパレータ及び、電解液を用いた非水系二次電池を作製した。
【0977】
【表46】
【0978】
実験では、注液してから1時間後の電池電圧を測定した。その実験結果が、以下の表47に示されている。
【0979】
【表47】
【0980】
表47に示されるように、実施例では、いずれも、非水系電解液の注液前後における負極電位差が、0.3V以上であった。
【0981】
また、実験により、負極電極において、標準電極電位が0V以上の金属を少なくとも1種以上含有していることが好ましいとした。既存のカーボネート電解液を用いた非水系二次電池の負極は、注液後に3.1V vs.Li/Li近い電位を持っているため、長時間保存することで標準電極電位が高い金属元素の溶出が徐々に進行する。一方で、アセトニトリルを用いた電解液は、注液後に長時間保存しても溶出が起きないため、含侵時間を含めた製造管理の期限を長くとることができる。
【0982】
また、実施例123から実施例126の実験結果に基づいて、負極集電体が銅であることが好ましいとした。充放電の履歴を与えずに銅の溶出を抑制できる。
【0983】
次に、第41実施形態の実施例について以下説明する。
【0984】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表48に示した。なお、表48において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiBOB」はリチウムビスオキサレートボレート、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【0985】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【0986】
【表48】
【0987】
〔電池作製〕
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.74g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0988】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【0989】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースと、同じくバインダーであるスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約61.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.20g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0990】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【0991】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0992】
実験では、単層ラミネート電池について、25℃において、0.05Cの電流値で4.2Vになるまで定電流充電を行った後、4.2Vで1.5時間の定電圧充電を行った。そして、この充電後の単層ラミネート電池を60℃の恒温槽内で貯蔵した。200時間経過後、単層ラミネート電池を恒温槽から取り出して室温に戻した後に、各ラミネートセルのガス発生量と電圧を測定する手法により、単層ラミネート電池の4.2V貯蔵特性を評価した。ガス発生量は、超純水の入った容器に単層ラミネート電池を投入し、その前後での重量変化から単層ラミネート電池の体積を測定するというアルキメデス法を用いた。重量変化から体積を測定する装置としてはアルファーミラージュ社製の比重計MDS-300を用いた。
【0993】
【表49】
【0994】
表49に示すように、実施例では、60℃での200時間貯蔵試験におけるガス発生量が、1mAhあたり0.008ml以下であることがわかった。好ましくは、ガス発生量が、1mAhあたり0.007ml以下である。
【0995】
本実施例では、アセトニトリルと酢酸および環状酸無水物を含有する。また、LiPF配合時は、50℃以下になるように設定することが好ましい。酢酸及び環状酸無水物が耐還元性に作用して、アセトニトリルが還元分解してガスが発生することを抑制することができる。
【0996】
また、本実施例では、アセトニトリルと酢酸および環状酸無水物を含有するパウチ型の非水系二次電池に適用することができる。酢酸及び環状酸無水物により負極の表面にSEIが形成されて、高温においてアセトニトリルの還元が促進されることが抑制することができる。
【0997】
また、実施例127から実施例129の実験結果に基づいて、酢酸の含有量を、非水系電解液に対し0.1ppm以上5ppm以下とすることが好ましい。60℃での200時間貯蔵試験におけるガス発生量を、より効果的に、1mAhあたり0.008ml以下とすることができる。
【0998】
次に、第42実施形態の実施例について以下説明する。
【0999】
[電解液の調製]
各種溶媒及び添加剤を所定の体積比になるように混ぜることで電解液を調製した。実施例及び比較例で用いた各電解液の組成は表50に示した。なお、表50において「AcN」はアセトニトリル、「DEC」はジエチルカーボネート、「EMC」はエチルメチルカーボネート、「DMC」はジメチルカーボネート、「EC」はエチレンカーボネート、「VC」はビニレンカーボネート、「LiPF」はヘキサフルオロリン酸リチウム、「LiN(SOF)」はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、「LiN(SOCF」はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、「SAH」は無水コハク酸、「MAH」は無水マレイン酸、「PAH」は無水フタル酸をそれぞれ示す。
【1000】
リチウム塩及び添加剤を除く各成分は非水系溶媒であり、各非水系溶媒を合わせて1Lとなるように調製した。リチウム塩含有量は、非水系溶媒1Lに対するモル量である。
【1001】
【表50】
【1002】
〔電池作製〕
〔正極の作製〕
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/mになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.74g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【1003】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極を得た。
【1004】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースと、同じくバインダーであるスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に、目付量が約61.0g/mになるように調節しながら一定厚みで塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.20g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【1005】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極を得た。
【1006】
〔単層ラミネート電池の組み立て〕
リード付き正極とリード付き負極とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した各電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう。)を作製した。この単層ラミネート電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【1007】
[単層ラミネート電池の評価]
上述のようにして得られた評価用電池について、まず、下記(1-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に(1-2)(1-3)の手順に従ってそれぞれの電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM-63S(商品名)を用いて行った。
【1008】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【1009】
(1-1)単層ラミネート電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する2.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する6.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【1010】
(1-2)単層ラミネート電池の60℃満充電保存試験
実験では、単層ラミネート電池について、25℃において、0.05Cの電流値で4.2Vになるまで定電流充電を行った後、4.2Vで1.5時間の定電圧充電を行った。そして、この充電後の単層ラミネート電池を60℃の恒温槽内で貯蔵した。720時間経過後、単層ラミネート電池を恒温槽から取り出して室温に戻した。
【1011】
(1-3)交流インピーダンス測定
交流インピーダンス測定は、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1400(商品名)とソーラトロン社製ポテンショ-ガルバノスタット1470E(商品名)を用いた。1000kHz~0.01Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧・電流の応答信号からインピーダンスを測定し、1kHzにおける交流インピーダンス値を求め抵抗値とした。印可する交流電圧の振幅は±5mVとした。また、交流インピーダンスを測定する際の電池の周囲温度は25℃とした。また、これらの結果から下記の値を算出した。
抵抗増加率=(60℃満充電保存試験後の抵抗値/60℃満充電保存試験前の抵抗値)×100[%]
【1012】
測定する非水系二次電池としては、上記(1-2)に記載の方法によって60℃満充電保存試験を行う前、60℃満充電保存試験を行った後の積層ラミネート電池を用いた。
【1013】
実験では、60℃で720時間、貯蔵した前後の交流インピーダンス測定を行った。その実験結果が以下の表51に示されている。
【1014】
【表51】
【1015】
表51に示すように、実施例では、60℃での720時間満充電保存試験における抵抗増加率が400%以下であることがわかった。好ましくは、抵抗増加率が350%以下、より好ましくは、抵抗増加率が300%以下、更に好ましくは、抵抗増加率が250%以下である。
【1016】
また、実施例及び比較例の実験結果に基づいて、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することで、低温でのイオン伝導率の減少を抑制でき、優れた低温特性が得られることがわかった。
【1017】
また、実施例130から実施例132の実験結果に基づいて、アセトニトリルと無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含有する電解液を用いることが好ましいとした。これにより、高温加熱時における内部抵抗の増大の抑制と、良好な低温特性とを両立することができる。したがって、アセトニトリルを含有する非水系二次電池を用いた寒冷地対応蓄電池に適している。
【1018】
第43実施形態の具体的構成の一例について以下説明する。図3は、第43実施形態のセルパックの概要説明図である。
【1019】
図3(a)の本実施例に係るセルパック(並列無し)の符号1は、非水系二次電池(LIB)、符号2は、電圧監視回路(BMS)、符号3aは、セルパック(並列無し)である。このセルパック3aは、充放電の繰り返しが可能なものであり、複数個のセルパック3aが並列接続されていてもよい。
【1020】
詳しくは、図3(a)に示すように、このセルパック3aは、4セル直列接続された非水系二次電池(LIB)1と、これら複数の非水系二次電池1毎の端子電圧を個別に監視する電圧監視回路(BMS)2とを有している。
【1021】
図3(b)の本実施例に係るセルパック(並列有り)の符号1は、非水系二次電池(LIB)、符号2は、電圧監視回路(BMS)、符号3bは、セルパック(並列有り)である。このセルパック3bは、充放電の繰り返しが可能なものであり、複数個のセルパック3bが並列接続されていてもよい。
【1022】
詳しくは、図3(b)に示すように、このセルパック3bは、複数セル並列接続された非水系二次電池(LIB)1が4直列と、これら複数の非水系二次電池1毎の端子電圧を個別に監視する電圧監視回路(BMS)2とを有している。
【1023】
ここで、図3(a)及び図3(b)において、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と非水系電解液と、を具備することを特徴とする非水系二次電池(LIB)1において、正極活物質層にFeが含まれるリン酸鉄リチウム(LiFePO)を含有し、前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、Bからなる群からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有すると、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内となり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vとなり、12V級セルパックが構成される。これにより、既存12V鉛蓄電池の代用が可能となる。電装系の仕様は鉛蓄電池の作動電圧範囲を基準に定められているため、1セルあたりの作動電圧範囲を定めることは極めて重要である。そのため、電圧を適正に管理するためのBMS2を搭載している。
【1024】
アセトニトリルを主溶媒とした電解液をリチウムイオン電池として用いる場合、黒鉛負極電位では還元分解が進行するため、0.4V(vs.Li/Li)以上で吸蔵可能な負極が用いられてきたが、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートを含む電解液と、リン酸鉄リチウム(LiFePO:LFP)正極/黒鉛負極を用いることによって、高温時のサイクル寿命を向上させた12V級セルパックを得ることができる。この12V級セルパックは幅広い温度領域で高入出力特性を有する。
【1025】
第44実施形態の具体的構成の一例について以下説明する。図4は、本発明に係るハイブリッドシステムの概要説明図である。ここで、符号1は、非水系二次電池(LIB)、符号2は、電圧監視回路(BMS)、符号4aは、キャパシタ(LIB以外の二次電池)、符号5は、小型ハイブリッドシステムである。この小型ハイブリッドシステム5は、充放電の繰り返しが可能なものである。
【1026】
詳しくは、図4に示すように、この小型ハイブリッドシステム5は、4セル直列接続された非水系二次電池(LIB)1と、これら複数の非水系二次電池1毎の端子電圧を個別に監視する電圧監視回路(BMS)2とを有している。そして、これに並列接続されたキャパシタ4a(LIB以外の二次電池)とから構成されている。キャパシタは電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタが好適である。
【1027】
ここで、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と非水系電解液と、を具備することを特徴とする非水系二次電池(LIB)1において、正極活物質層にFeが含まれるリン酸鉄リチウム(LiFePO)を含有し、前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、Bからなる群からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有すると、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内となり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vとなり、12V級ハイブリッドシステムが構成される。これにより、既存12V鉛蓄電池の代用が可能となる。電装系の仕様は鉛蓄電池の作動電圧範囲を基準に定められているため、1セルあたりの作動電圧範囲を定めることは極めて重要である。そのため、電圧を適正に管理するためのBMSを搭載している。
【1028】
アセトニトリルを主溶媒とした電解液をリチウムイオン電池として用いる場合、黒鉛負極電位では還元分解が進行するため、0.4V(vs.Li/Li)以上で吸蔵可能な負極が用いられてきたが、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートを含む電解液と、リン酸鉄リチウム(LiFePO:LFP)正極/黒鉛負極を用いることによって、高温時のサイクル寿命を向上させた12V級ハイブリッドシステムを得ることができる。この12V級ハイブリッドシステムは幅広い温度領域で高入出力特性を有する。
【1029】
第44実施形態では、第43実施形態に記載のLIBモジュールと、鉛蓄電池以外の二次電池とを併用で組み合わせたハイブリッドシステムであることが特に好ましい。ここで、モジュールとはセルを複数個接続したものであり、セルパックはモジュールを複数個接続したものであるが、セルパックはモジュールを包含する用語である。従来のLIBは電解液に有機溶媒を使っていることにより、低温では電解液の粘度が増加し、内部抵抗が大きく上昇する。その結果、LIBは、鉛蓄電池に比べて低温での出力が低下する。一方で、鉛蓄電池は、25℃での出力は低く、-10℃での出力は優れる。
【1030】
そこで、第44実施形態では、第43実施形態に記載のLIBモジュールを鉛蓄電池以外の二次電池と並列接続して12Vの車輌用電源システムを構成し、車輌減速等の制動による充電時に、大電流を受入可能な第43実施形態に記載のLIBモジュールで補う。これにより、自動車等の走行車輌の制動時におけるエネルギーを、回生エネルギーとして効率よく利用することができる。
【1031】
また、第44実施形態では、LIBは正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO)、負極活物質は黒鉛を用い、電解液は20℃におけるイオン伝導度が18mS/cm以上であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、NCMやLCOと比較して電子伝導性が低いため、充放電に課題が見られる。そのため、LIB以外の二次電池と併用した際のメリットが低下しやすい。そこで、イオン伝導度の高い電解液を用いることで、大電流の充放電を低温から常温まで幅広くカバーすることができ、寿命を長くすることが可能になる。
【1032】
第45実施形態の具体的構成の一例について以下説明する。図5は、第45実施形態に係るセルパックの概要説明図である。ここで、符号1は、非水系二次電池(LIB)、符号2は、電圧監視回路(BMS)、符号6は、モジュール、符号7は、セルパックである。このセルパック7は、充放電の繰り返しが可能なものであり、複数個のセルパック7が並列接続されていてもよい。
【1033】
また、このセルパック7は、以下の式(2)に基づいて、前記非水系二次電池(LIB)1のセル数を規定したセルパックを1個、或いは2個以上並列接続して構成されたモジュール6が、式(3)に基づいて直列接続されて構成している。なお、非水系二次電池1は各々2セル以上並列接続されていてもよい。
式(2)
1モジュールあたりのセル直列接続数X:X=2,4,8、16
式(3)
セルパックあたりのモジュール直列接続数Y:Y=16/X
【1034】
そして、接続された非水系二次電池(LIB)1と、これら複数の非水系二次電池1毎の端子電圧を個別に監視する電圧監視回路(BMS)2とを有している。
【1035】
ここで、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と非水系電解液と、を具備することを特徴とする非水系二次電池(LIB)1において、正極活物質層にFeが含まれるリン酸鉄リチウム(LiFePO)を含有し、前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、Bからなる群からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有すると、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vの範囲内となり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vとなり、48V級セルパックが構成される。
【1036】
アセトニトリルを主溶媒とした電解液をリチウムイオン電池として用いる場合、黒鉛負極電位では還元分解が進行するため、0.4V(vs.Li/Li)以上で吸蔵可能な負極が用いられてきたが、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートを含む電解液と、リン酸鉄リチウム(LiFePO:LFP)正極/黒鉛負極を用いることによって、高温時のサイクル寿命を向上させた48V級セルパックを得ることができる。この48V級セルパックは幅広い温度領域で高入出力特性を有する。
【1037】
第46実施形態の具体的構成の一例について以下説明する。図6は、第46実施形態に係るハイブリッドシステムの概要説明図である。ここで、符号1は、非水系二次電池(LIB)、符号2は、電圧監視回路(BMS)、符号4bは、鉛蓄電池(LIB以外の二次電池)、符号6は、モジュール、符号7は、セルパック、符号8は、大型ハイブリッドシステムである。この大型ハイブリッドシステム8は、充放電の繰り返しが可能なものである。また、このセルパック7は、複数個のセルパック7が並列接続されていてもよい。
また、このセルパック7は、以下の式(2)に基づいて、前記非水系二次電池(LIB)1のセル数を規定したセルパックを1個、或いは2個以上並列接続して構成されたモジュール6が、式(3)に基づいて直列接続されて構成している。なお、非水系二次電池1は各々2セル以上並列接続されていてもよい。
式(2)
1モジュールあたりのセル直列接続数X:X=2,4,8、16
式(3)
セルパックあたりのモジュール直列接続数Y:Y=16/X
【1038】
そして、接続された非水系二次電池(LIB)1と、これら複数の非水系二次電池1毎の端子電圧を個別に監視する電圧監視回路(BMS)2とを有している。
【1039】
この大型ハイブリッドシステム8は、セルパック7にDC/DCコンバーターを介して接続された鉛蓄電池4b(LIB以外の二次電池)とから構成されている。
【1040】
また、第46実施形態では、LIBは、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO)、負極活物質は、黒鉛を用い、電解液は、20℃におけるイオン伝導度が15mS/cm以上であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、NCMやLCOと比較して電子伝導性が低いため、充放電に課題が見られ、鉛蓄電池と併用した際のメリットが低下する。そこで、イオン伝導度の高い電解液を用いることで、鉛蓄電池の常温付近での大電流の充放電をカバーでき、電池交換までの寿命を長くすることができる。
【1041】
ここで、集電体の片面又は両面に、正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、負極活物質層を有する負極と非水系電解液と、を具備することを特徴とする非水系二次電池(LIB)1において、正極活物質層にFeが含まれるリン酸鉄リチウム(LiFePO)を含有し、前記負極活物質層に黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、Bからなる群からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含有すると、1セルあたりの作動電圧範囲が1.8V-3.7Vとなり、且つ平均作動電圧が2.5V-3.5Vとなり、48V級ハイブリッドシステムが構成される。これにより、既存12V鉛蓄電池との併用が容易になる。電装系の仕様は鉛蓄電池の作動電圧範囲を基準に定められているため、1セルあたりの作動電圧範囲を定めることは極めて重要である。そのため、電圧を適正に管理するためのBMS2を搭載している。
【1042】
アセトニトリルを主溶媒とした電解液をリチウムイオン電池として用いる場合、黒鉛負極電位では還元分解が進行するため、0.4V(vs.Li/Li)以上で吸蔵可能な負極が用いられてきたが、エチレンカーボネートまたはビニレンカーボネートを含む電解液と、リン酸鉄リチウム(LiFePO:LFP)正極/黒鉛負極を用いることによって、高温時のサイクル寿命を向上させた48V級ハイブリッドシステムを得ることができる。この48V級ハイブリッドシステムは幅広い温度領域で高入出力特性を有する。
【1043】
本発明の非水系二次電池は、特に限定するものではないが、例えば、携帯電話機、携帯オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、IC(Integrated Circuit)タグ等の携帯機器;ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用充電池;住宅用蓄電システム、IT機器等 に適用することができる。例えば、パウチ型セル構造の非水系二次電池に好ましく適用できる。また、車載用充電池に適用した際、従来よりも安全性を向上させることが可能である。
【1044】
また、本発明の非水系二次電池は、寒冷地用の用途や、夏場の屋外用途等にも適用することができる。
【1045】
本出願は、2017年3月17日出願の特願2017-052257、特願2017-052086、特願2017-052398、特願2017-052256、特願2017-052254、特願2017-052396、特願2017-052258、特願2017-052085、特願2017-052088、特願2017-052397、特願2017-052399、特願2017-052259、特願2017-052260、特願2017-052400、特願2017-052255に基づく。この内容は全てここに含めておく。
図1
図2
図3
図4
図5
図6