(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】回転電機、回転電動機駆動システム、並びに電動車両
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230322BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2022023248
(22)【出願日】2022-02-17
(62)【分割の表示】P 2018083622の分割
【原出願日】2018-04-25
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 愼治
(72)【発明者】
【氏名】民谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 昂歳
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-083188(JP,A)
【文献】特開2010-011640(JP,A)
【文献】特開2013-236419(JP,A)
【文献】特開2009-213235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
前記固定子と対向する回転子コアを備える回転子と、
を備える回転電機において、
前記回転子コアは、V字の磁石挿入孔を有するとともに、前記磁石挿入孔に対して外周側に配置されるd軸コアと、前記磁石挿入孔に対して内周側に配置される内周側コアと、前記d軸コアと周方向に隣接するq軸コアと、を有し、
前記磁石挿入孔には永久磁石が挿入され、
前記d軸コアは、ブリッジ部により、前記内周側コアと連結され、
前記回転子コアは、1極ピッチ角τp分の断面形状を複数種類有
し、
前記d軸コアは、前記磁石挿入孔の両端部の一方に隣接する第1ブリッジ部と前記両端部の他方に隣接する第2ブリッジ部により、前記内周側コアと連結され、
前記d軸コアの前記第1ブリッジ部側の端部と、磁極中心との距離L1が、前記第1ブリッジ部と前記d軸コアとの接続部と、前記磁極中心との距離L2よりも大きく、
前記d軸コアの前記第2ブリッジ部側の端部と、前記磁極中心との距離L3が、前記第2ブリッジ部と前記d軸コアとの接続部と、前記磁極中心との距離L4よりも大きいことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記複数種類の前記断面形状は、前記回転子の周方向または回転軸方向、周方向と回転軸方向の両方向に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記d軸コアは、前記第1ブリッジ部と前記d軸コアとの前記接続部および前記第2ブリッジ部と前記d軸コアとの前記接続部から周方向に張り出す張り出し部を有することを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項
1に記載の回転電機において、
前記複数種類の前記断面形状における、前記d軸コアの前記第1ブリッジ側の前記端部から、前記第2ブリッジ側の前記端部までの周方向開角τdの最大値と最小値の差が、前記固定子のスロットピッチ角τsよりも小さいことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項
1に記載の回転電機において、
前記d軸コアと前記q軸コアとの間には溝部が位置することを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項
5に記載の回転電機において、
前記溝部は略V字状であることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項
1に記載の回転電機において、
前記L1と、前記L2と、前記L3と、前記L4と、
前記d軸コアの前記第1ブリッジ部側の前記端部と、前記q軸コアにおける径方向最外周部との距離L5と、
前記d軸コアの前記第2ブリッジ部側の前記端部と、前記q軸コアにおける径方向最外周部との距離L6と、
前記第1ブリッジ部側の前記q軸コアの前記径方向最外周部の回転軸心からの距離L7と、
前記第2ブリッジ部側の前記q軸コアの前記径方向最外周部の前記回転軸心からの距離L8と、
前記磁極中心上における前記d軸コアの外周面と前記永久磁石の外周面との距離L9と、の内のいずれかが、前記複数種類の前記断面形状において異なることを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項
7に記載の回転電機において、
前記L1ないしL4のいずれかが、前記複数種類の前記断面形状において異なることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項
7に記載の回転電機において、
前記L5ないしL8のいずれかが、前記複数種類の前記断面形状において異なることを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項
7に記載の回転電機において、
前記L9が、前記複数種類の前記断面形状において異なることを特徴とする回転電機。
【請求項11】
請求項
5に記載の回転電機において、
前記d軸コアと前記q軸コアを連結し、前記溝部の開口を塞ぐブリッジ部を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項12】
負荷を駆動する回転電機と、前記回転電機を駆動する電力変換装置と、を備える回転電機駆動システムにおいて、
前記回転電機は、請求項1に記載される回転電機であることを特徴とする回転電機駆動システム。
【請求項13】
回転電機と、バッテリと、前記バッテリの直流電力を交流電力に変換して、前記交流電力を前記回転電機に供給する電力変換装置と、を備え、前記回転電機のトルクが変速機を介して車輪に伝達される電気自動車において、
前記回転電機は、請求項1に記載される回転電機であることを特徴とする電気自動車。
【請求項14】
回転電機と、
ギアを介して前記回転電機によって駆動される車輪と、
を有する台車を備える電気鉄道車両において、
前記回転電機は、請求項1に記載の回転電機であることを特徴とする電気鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機、回転電動機駆動システム、並びに回転電機を備える電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や電気鉄道車両などの電動車両に用いられる回転電機である駆動用モータには大出力が求められるため、磁気エネルギーを保持する永久磁石を組み込んだ永久磁石モータが用いられる。特に駆動用モータには、低速大トルクや高速低トルクなど広範囲な運転範囲が求められるので、これらの特性を満足できる埋込磁石式モータが一般に利用されている。さらに、電動車両の駆動用モータには、これらの特性の他に、振動や騒音の低減が要求される。低振動化や、低騒音化のためには、埋込磁石式モータのトルク脈動低減が課題となる。
【0003】
これに対し、従来、特許文献1に記載の技術が知られている。本技術においては、回転子コアのq軸から周方向にずれた位置に磁気抵抗変化部が設けられる。このような回転子において、磁気抵抗変化部を有する領域と有さない領域とで、発生するトルク脈動の位相がほぼ正反対になる。このため、磁気抵抗変化部を有する領域と有さない領域を交互に配置することで、回転子全体が受けるトルク脈動が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、永久磁石の端部付近のd軸コア部には、永久磁石の漏洩磁束が通る。さらに、このd軸コア部には、モータのq軸電流によるq軸磁束が通る。このため、d軸コア部は磁気飽和する。このd軸コア部が磁気飽和すると、永久磁石の実効的な磁極幅が変化するため、トルク脈動の位相が変化する。d軸コア部において磁気飽和する範囲は、q軸電流量すなわち負荷状態によって異なるため、上記従来技術では、負荷状態によっては、磁気抵抗変化部を有する領域と有さない領域とで必ずしもトルク脈動の位相が正反対にはならず、トルク脈動を十分低減することが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、広い運転範囲でトルク脈動を低減できる回転電機、回転電動機駆動システム、並びに回転電機を備える電動車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による回転電機は、固定子と、固定子と対向する回転子コアを備える回転子と、を備えるものであって、回転子コアは、V字の磁石挿入孔を有するとともに、磁石挿入孔に対して外周側に配置されるd軸コアと、磁石挿入孔に対して内周側に配置される内周側コアと、d軸コアと周方向に隣接するq軸コアと、を有し、磁石挿入孔には永久磁石が挿入され、d軸コアは、ブリッジ部により、内周側コアと連結され、回転子コアは、1極ピッチ角τp分の断面形状を複数種類有し、d軸コアは、磁石挿入孔の両端部の一方に隣接する第1ブリッジ部と両端部の他方に隣接する第2ブリッジ部により、内周側コアと連結され、d軸コアの第1ブリッジ部側の端部と、磁極中心との距離L1が、第1ブリッジ部とd軸コアとの接続部と、磁極中心との距離L2よりも大きく、d軸コアの第2ブリッジ部側の端部と、磁極中心との距離L3が、第2ブリッジ部とd軸コアとの接続部と、磁極中心との距離L4よりも大きい。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による回転電機駆動システムは、負荷を駆動する回転電機と、回転電機を駆動する電力変換装置と、を備えるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機である。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による電気自動車は、回転電機と、バッテリと、バッテリの直流電力を交流電力に変換して、交流電力を回転電機に供給する電力変換装置と、を備え、回転電機のトルクが変速機を介して車輪に伝達されるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機である。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明による電気鉄道車両は、回転電機と、ギアを介して回転電機によって駆動される車輪と、を備えるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広い運転範囲で回転電機のトルク脈動を低減できる。これにより、回転電機駆動システム、電気自動車や電気鉄道車両を含む電動車両において、負荷が変動しても、トルク脈動に起因する騒音や振動を低減できる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】実施例1の変形例である回転電機の回転子の構成を示す。
【
図4】実施例1における回転子の構成を示す斜視図である。
【
図5】一変形例における回転子の構成を示す斜視図である。
【
図6】他の変形例における回転子の構成を示す斜視図である。
【
図7】比較例である回転電機における回転子の構成を示す。
【
図8】比較例と実施例1について、低負荷時において永久磁石の周辺コア部を通る磁束の流れを示す。
【
図9】比較例と実施例1について、高負荷時において永久磁石の周辺コア部を通る磁束の流れを示す。
【
図10】実施例1における固定子と回転子の回転軸に垂直な平面での断面図である。
【
図11】実施例1における回転子コアの断面形状を表すパラメータを示す。
【
図12】実施例2である回転電機駆動システムの概略構成を示す。
【
図13】実施例3である電気自動車の概略構成を示す。
【
図14】実施例4である電気鉄道車両の概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~3により、図面を用いながら説明する。なお、各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1である回転電機の全体構成を示す。本
図1は、回転電機の回転軸に平行な平面での断面図である。なお、本実施例1の回転電機は、埋め込み磁石型の永久磁石同期モータである。
【0016】
図1に示すように、回転電機1は、固定子10と、固定子10の径方向内側に回転可能に支持される回転子30と、回転子30に固定されるシャフト90と、固定子10および回転子30を覆うフレーム5から構成されている。回転子30は、固定子10にギャップ100(空隙)を介して対向する。固定子10は、後述する固定子スロット(
図10中の「22」)に巻装される固定子巻線21を備えている。
【0017】
図2は、
図1における回転子30の構成を示す。本
図2は、回転軸に垂直な平面での断面図である。
【0018】
図2において、回転子30は回転軸心Xを中心に回転する。なお、以下の説明において、断りのない限り、「内周側」および「外周側」という記載は、それぞれ回転軸心Xに対して距離が近い側および遠い側を意味する。また、「径方向」という記載は、回転軸心Xと垂直に交わる直線方向を意味し、「周方向」という記載は、回転軸心Xまわりの回転方向を意味する。
【0019】
図2に示すように、回転子30は、磁性体からなる回転子コア40と、回転子30の回転軸であり、回転子コア40を貫通するシャフト90とから構成される。また、回転子30は、偶数個(
図2では8個)の磁極を有している。各磁極は、少なくとも一つ(
図2では一つ)の磁石挿入孔50を有している。磁石挿入孔50には、磁極を構成するために永久磁石70が収容されている。
【0020】
回転子コア40は、磁石挿入孔50に対して内周側に配置される内周側コア110と、磁石挿入孔50に対して外周側に配置されるd軸コア41を有している。d軸コア41における固定子との対向面は、円弧状である。なお、この円弧は、径方向に回転子に向って凸である。各磁極の内周側コア110とd軸コア41とは、回転子コア40の一部である、磁石挿入孔50の幅方向両端部に隣接する第1ブリッジ部61および第2ブリッジ部62という少なくとも二つのブリッジ部によって、機械的に連結される。第1ブリッジ部61は、磁極中心Cから一方の周方向(
図2では反時計回り)に沿って離れて位置し、磁石挿入孔50の幅方向の一方の端部に隣接する。第2ブリッジ部62は、磁極中心Cから他方の周方向(
図2では時計回り)に沿って離れて位置し、磁石挿入孔50の幅方向の他方の端部に隣接する。磁石挿入孔50は、第1ブリッジ部61、第2ブリッジ部62、内周側コア110およびd軸コア41によって画される空間によって構成される。
【0021】
永久磁石70の磁石材料は、フェライト系、ネオジム系、サマリウムコバルト系などの磁石材料のいずれでもよい。また、本実施例1の永久磁石70は、
図2の断面において矩形形状であるが、これに限らず円弧形状でもよい。さらに、磁石挿入孔50に、ボンド磁石(プラスチック磁石やゴム磁石など)を射出充填してもよい。また、1極当たりの永久磁石70は、径方向や周方向に複数に分割されてもよい。
【0022】
回転子コア40を構成する磁性体として、好ましくは、回転子コア40に発生する渦電流損失を低減するために、電気的絶縁体でラミネーションされる磁性鋼板の積層体が適用される。なお、材料費や加工費を低減するためにソリッド(バルク)磁性体を使用してもよい。また、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成型した構成でもよいし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成してもよい。回転子コア40は、シャフト90に対して接着、溶接、圧入、焼き嵌めなどの手段によって固定される。回転子コア40をソリッド(バルク)磁性体で構成する場合は、回転子コア40とシャフト90を一体成型してもよい。
【0023】
図2では磁石挿入孔50の断面形状を長方形としているが、これに限らず、内周側コア110と各磁極部におけるd軸コア41を径方向に沿って離間する空孔であれば、略V字形状や略円弧形状などの他の形状でもよい。
【0024】
固定子コア20とフレーム5は接着、溶接、圧入、焼き嵌め等の方法を用いて固定される。
【0025】
回転子コア40においては、d軸コア41の周方向両端部に隣接して、q軸コア46が設けられる。すなわち、各q軸コア46は、周方向に沿って隣り合う二つのd軸コア41の間に位置する。q軸コア46の周方向両側には、略V字状の溝部120(空隙)が位置し、溝部120によって、d軸コア41とq軸コア46は、周方向に分離されている。また、溝部120内において、d軸コアの両端部は、第1ブリッジ部61および第2ブリッジ部62の位置から、周方向に、q軸コア46に向って張り出している。本実施例1では、これら張り出し部の長さは、一つのq軸コア46を挟んで隣接する二つのd軸コア41では互いに異なる。
【0026】
なお、本実施例1においては、d軸コア41の最外径とq軸コア46の最外径は略等しい。また、第1および第2ブリッジ部61,62の周方向の厚みは、d軸コア41の周方向張り出し部の先端部の厚みよりも薄い。また、磁極を構成する8個の永久磁石70については、径方向の厚さや、周方向の幅が同等である。さらに、磁石挿入孔50の径方向および周方向の各寸法も同等である。
【0027】
第1ブリッジ部61と第2ブリッジ部62は、磁極中心Cの径方向両側に位置し、互いに離間されている。第1ブリッジ部61とd軸コア41は、周方向で、d軸コア41の一方の張り出し部の先端、すなわちd軸コア41における第1ブリッジ部61側の周方向のd軸コア端部42よりも磁極中心Cの近くに位置する接続部81で接続される。また、第2ブリッジ部62とd軸コア41は、周方向で、d軸コア41の他方の張り出し部の先端、すなわちd軸コア41における第2ブリッジ部62側の周方向のd軸コア端部42よりも磁極中心Cの近くに位置する接続部82で接続される。なお、本実施例1では、各d軸コア端部42とq軸コア46との間の間隔は略一定である。
【0028】
各磁極部において、第1ブリッジ部61側のd軸コア端部42と磁極中心Cとの距離をL1、接続部81と磁極中心Cとの距離をL2とすると、本実施例1では、L1はL2よりも大である(L2<L1)。ここで、ある部位と磁極中心Cとの距離は、ある部位から磁極中心Cを示す仮想中心線(
図2中の一点鎖線)に下ろした垂線の長さ、すなわち、ある部位と仮想中心線を結ぶ最短の線分の長さである(以下に記す「距離」も同様)。さらに、第2ブリッジ部62側のd軸コア端部42と磁極中心Cとの距離をL3、接続部82と磁極中心Cとの距離をL4とすると、L3はL4よりも大である(L4<L3)。なお、本実施例1では、一つのd軸コアにおいて、L1=L3かつL2=L4である。また、一つのq軸コア46の周方向両側に位置し、互いに隣接する二つのd軸コア41において、L1およびL3の大きさについては異なり、L2およびL4の大きさは同じである。
【0029】
図2に示すように、回転子30は、いわば、1極ピッチ(τp)分の略扇形状の断面を有する部分の集合体である。ここで、τpは回転子1周分の360度を極数で割った値である。本実施例1では、極数が8であるから、τp=45度となる。本実施例1では、上述のように、互いに隣接する二つのd軸コア41との間で、d軸コア41の周方向におけるd軸コア端部42と磁極中心Cとの距離(L1)が異なっている。従って、回転子30は、1極ピッチ分の断面形状として、2種類の形状を有し、これら2種類の形状が、周方向に交互に配置される。断面形状の種類数は2種類に限らず、複数種類でも良い。
【0030】
なお、本実施例1においては、2種類の断面形状において、溝部120の形状も異なる。具体的には、q軸コア46の最外周部の略平面部、すなわち、径方向に沿って回転軸心Xから回転子30の外周へ向かう方向を高さ方向とする場合におけるq軸コア46の頂部における略平坦部と、この略平坦部の縁部に連続する溝部120の内壁斜面とがなす角度(
図2では鈍角)の大きさが、互いに接する2種類の断面形状において異なっている。
【0031】
図3は、本実施例1の変形例である回転電機の回転子の構成を示す。本
図3は、
図2と同様に、回転軸に垂直な平面での断面図である。
【0032】
図3に示すように、本変形例においては、d軸コア端部42とq軸コア46の最外周部における略平坦部の周方向のq軸コア端部47とが、ブリッジ部63によって接続されている。なお、ブリッジ部63は、回転軸の方向に沿って、溝部120の開口部を塞いでいる。また、本変形例では、d軸コア41とq軸コア46およびブリッジ部63における、固定子との各対向面が、連続した滑らかな円筒面を構成する。これにより、回転子における固定子との対向面における凹凸部によって回転時に発生する騒音(風切音)や機械損(風損)を低減できる。
【0033】
なお、本変形例において、ブリッジ部63は、d軸コア41およびq軸コア46に連続し、d軸コア41およびq軸コア46と同じ磁性体から構成される。また、ブリッジ部63の径方向の厚みは、d軸コア41の周方向張り出し部の先端部の厚みよりも薄く、例えば、第1および第2ブリッジ部61,62の周方向厚みと同等である。
【0034】
図4は、実施例1における回転子の構成を示す斜視図である。
【0035】
図4に示すように、本実施例1の回転子30は、一つの回転子コアを備えている。回転子30においては、1極ピッチ(τp)分の略扇形状の断面形状として、永久磁石付近のコア形状が互いに異なる、第1の断面形状131および第2の断面形状132、すなわち2種類の断面形状を有する。第1の断面形状131および第2の断面形状132が、回転子30の周方向に交互に配置される。回転子コアは図示の1個のみであるため、回転軸方向に沿った回転子30の断面形状は、回転子30の各部で同一である。
【0036】
なお、本実施例1では、τp=45度であるため、図示のように第1の断面形状131および第2の断面形状132が1個ずつ交互に配置される場合、回転子30は、4個の第1の断面形状131および4個の第2の断面形状132、従ってτpが等しい合計8個の略扇形状の断面形状を有する。
【0037】
図5は、実施例1の一変形例における回転子の構成を示す斜視図である。
【0038】
図5の変形例においては、2個の回転子コアが、同軸に、図示しないシャフト(
図1の「90」)に固定される。従って、回転子30は、いわば、2個の回転子部を備える。一方の回転子部においては、1極ピッチ(τp(=45度))分の略扇形状の断面形状として、第1の断面形状131が周方向に8個配置される。また、他方の回転子部においては、同じ1極ピッチ(τp(=45度))分の略扇形状の断面形状として、第1の断面形状131とは永久磁石付近のコア形状が異なる第2の断面形状132が周方向に8個配置される。さらに、二つの回転子部は、一方の回転子部における第1の断面形状131と、他方の回転子部における第2の断面形状132とが、互いに各断面形状の全面が重なるように、配置される。
【0039】
従って、本変形例の回転子30では、永久磁石付近のコア形状(前述のd軸コアの周方向張り出し部の寸法など)が互いに異なる、第1の断面形状131および第2の断面形状132が、回転子30の回転軸方向に配置される。なお、一周方向では、同一の断面形状(第1の断面形状131および第2の断面形状132のいずれか)が配置される。
【0040】
図6は、実施例1の他の変形例における回転子の構成を示す斜視図である。
【0041】
図6の変形例において、回転子30は、
図5の変形例と同様に、2個の回転子部を備える。一方の回転子部では、1極ピッチ(τp)分の略扇形状の断面形状として、永久磁石付近のコア形状が互いに異なる、第1の断面形状131および第2の断面形状132、すなわち2種類の断面形状を有する。第1の断面形状131および第2の断面形状132が、一方の回転子部の周方向に交互に配置される。また、他方の回転子部では、1極ピッチ(τp)分の略扇形状の断面形状として、永久磁石付近のコア形状が互いに異なる、第3の断面形状133および第4の断面形状134、すなわち2種類の断面形状を有する。第3の断面形状133および第4の断面形状134が、他方の回転子部の周方向に交互に配置される。さらに、二つの回転子部は、一方の回転子部における第1の断面形状131と、他方の回転子部における第3の断面形状133とが、互いに各断面形状の全面が重なるように、かつ一方の回転子部における第2の断面形状132と、他方の回転子部における第4の断面形状134とが、互いに各断面形状の全面が重なるように、配置される。
【0042】
ここで、第1の断面形状は131と第4の断面形状134は同一である。また、第2の断面形状132と第3の断面形状133は同一である。従って、
図6の変形例では、周方向に、2種類の断面形状(131と132という2種類、もしくは133,134という2種類)が配置されるとともに、回転軸方向に、2種類の断面形状(131と133という2種類、もしくは132,134という2種類)が配置される。
【0043】
図4~6に示す回転子のように、1極ピッチ(τp)分の略扇形状の断面形状として、永久磁石付近のコア形状が互いに異なる、複数種類の断面形状が、回転子の周方向および回転軸方向のいずれか、もしくは両方において配置されることにより、これらの方向のいずれかにおいて、断面形状が互いに異なる部分では、磁束分布の状態が異なる。磁束分布の状態が異なれば、トルク脈動の位相が異なる。これにより、断面形状が互いに異なる部分におけるトルク脈動どうしが打ち消し合って、回転電機におけるトルク脈動が低減できる。さらに、本実施例1によれば、後述するように、回転電機の広い運転範囲(負荷範囲)で、トルク脈動を低減することができる。
【0044】
以下、本実施例1の作用・効果について説明する。
【0045】
図7は、本実施例1の比較例である回転電機における回転子の構成を示す。本
図7は、回転子の回転軸に垂直な平面での断面図を示す。
【0046】
図7に示すように、本比較例では、d軸コア端部42の位置と、第1および第2ブリッジ部61,62の位置と、d軸コア端部42と第1および第2ブリッジ部61,62の接続部81,82の位置とが、一致している。すなわち、本比較例においては、d軸コア41が、接続部81,82の位置から周方向に張り出す部分を有していない。
【0047】
図8は、比較例と本実施例1について、低負荷時において永久磁石の周辺コア部を通る磁束の流れを示す。なお、本
図8は、回転子の回転軸に垂直な平面での部分断面図である。
【0048】
図8に示すように、比較例および実施例において、漏洩磁束150がd軸コア端部42を通る。漏洩磁束150は、ブリッジ部61,62もしくはd軸コア端部42のいずれかが磁気飽和して比透磁率がほぼ1になるまで、増大し得る。したがってブリッジ部61,62とd軸コア端部42は、いずれも高磁束密度状態になる。なお、
図8中の領域Aが高磁束密度領域を示す(後述の
図9も同様)。
【0049】
図8に示すように、低負荷状態では、d軸コア端部42が高磁束密度状態になっていても、q軸磁束160の量が少ないため、比較例および実施例において、q軸磁束160はd軸コア端部42を通り抜けることができる。
【0050】
図9は、比較例と本実施例1について、高負荷時において永久磁石の周辺コア部を通る磁束の流れを示す。本
図9は、
図8と同様の部分断面図である。
【0051】
図9に示すように、比較例において、高負荷状態では、d軸コア端部42における漏洩磁束150とq軸磁束160の重畳により、両磁束(150,160)の向きが揃う側のd軸コア端部42が磁気飽和する。このため、一部のq軸磁束160が、d軸コア端部42を通ることができず、高磁束密度領域Aを避けるようにして固定子10へ抜ける。
【0052】
ここで、本発明者が得た知見によれば、各磁極でのトルク脈動の位相は、d軸コア41の一端から他端までの周方向の開角τd(
図10参照)に依存するが、d軸コア端部42が磁気飽和すると、実効的な開角τdが狭まるためにトルク脈動の発生状態が変化することになる。したがって、低負荷時におけるトルク脈動を低減するように開角τdを設定しても、高負荷時には実効的な開角τdが狭まるためにトルク脈動が低減できなくなるおそれがある。つまり、比較例では、ある運転点でのトルク脈動が低減できても、広い運転範囲でトルク脈動を低減することが難しい。
【0053】
これに対して、本発明例1では、d軸コアがその両端部において張り出し部を有するため、
図9に示すように、高負荷状態においても、d軸コア端部42において、ブリッジ部61,62を通る漏洩磁束150が通過しない部分が生じる。すなわち、漏洩磁束150によってブリッジ部61,62が磁気飽和しても、d軸コア端部42の磁束密度は、d軸コア端部42を磁気飽和させるまでには増大しない。このため、低負荷時と同様に、高負荷状態でも、q軸磁束160はd軸コア端部42を通過することができるので、実効的な開角τdは負荷状態によらず、実質一定である。従って、本実施例によれば、低負荷から高負荷までの広い運転範囲でトルク脈動を低減することができる。
【0054】
なお、前述の
図3に示す変形例では、ブリッジ部63を通る漏洩磁束の経路が生じ得る。しかし、ブリッジ部63は、ブリッジ部61,62よりも永久磁石70の端部から周方向に離れており、またブリッジ部63の径方向厚さは、張り出し部の端部の径方向厚さよりも薄く、ブリッジ部61,62の周方向厚さと同程度である。このため、ブリッジ部63を通る漏洩磁束の経路の磁気抵抗は、ブリッジ部61,62を通る漏洩磁束の経路の磁気抵抗よりも大きい。これにより、漏洩磁束(
図8,9における「150」)のほとんどは、ブリッジ部61,62を通る漏洩磁束の経路を通る。従って、磁束の流れの状態は、
図8,9に示す状態と同様であり、変形例3によっても、広い運転範囲でトルク脈動を低減することができる。
【0055】
一方、本実施例1では、ブリッジ部63を有さず、d軸コア41とq軸コア46が、周方向に連結されず、溝部120からなる空隙で周方向に分離されているので、漏洩磁束の経路は、実質、ブリッジ部61,62を通る経路に限られ、他の経路を通る漏洩磁束によってd軸コア端部42の磁束密度が増加することが防止される。従って、本実施例1によれば、広い運転範囲で、確実にトルク脈動を低減することができる。
【0056】
以下、本実施例1の回転子の断面形状について、さらに具体的に説明する。
【0057】
図10は、実施例1の回転電機における固定子と回転子の回転軸に垂直な平面での断面図である。なお、図の簡略化のため、固定子スロット22に巻装されている固定子巻線21(
図1)は図示を省略している。また、
図10に示す、本実施例1の回転電機では、回転子30の極数が8、固定子10のスロット数が48である。なお、極数とスロット数の組み合わせは、本実施例1のような8極48スロットに限らず、適宜設定することができる。
【0058】
各磁極のある瞬間でのトルクは、d軸コア端部42と固定子ティース25との位置関係に依存する。例えば、スロットコンビネーションはトルク脈動成分の次数に影響し、
図10のように8極48スロットの場合では12次成分が主要なトルク脈動成分となる。
【0059】
また、トルク脈動成分の位相は、d軸コア端部42と固定子ティース25との位置関係に依存する。各磁極で、d軸コア端部42と、d軸コア端部42に対向する固定子ティース25との位置関係が同一である場合、各磁極でのトルク脈動の位相はほぼ一致する。例えば、
図10に示すように、固定子10のスロットピッチ角をτsとすると、形状が異なる2種類の断面形状(
図4における131,132)において、d軸コア41の一端から他端までの周方向の開角τdの差が2τsのとき、各磁極でのトルク脈動の位相がほぼ一致する。
【0060】
なお、
図10では、各磁極部において、d軸コア41の第1ブリッジ部61側の周方向におけるd軸コア端部42と磁極中心(
図2における「C」)との距離をL1、d軸コア41の第2ブリッジ部62側の周方向におけるd軸コア端部42と磁極中心との距離をL3とすると、L1=L3である(後述の
図11参照)。これに対し、L1≠L3であるときは、2種類の断面形状におけるτdの差がτsかつd軸コア端部42と固定子ティース25の対面する位置が同一のとき、各磁極でのトルク脈動の位相はほぼ一致する。
【0061】
したがって、形状が異なる複数種類(本実施例1では2種類)の断面形状において、少なくともτdの最大値と最小値の差をτsよりも小さくすることで、各磁極のスロットコンビネーション起因のトルク脈動の位相をずらすことができ、トルク脈動を低減することができる。
【0062】
図11は、本実施例1における回転子コアの断面形状を表すパラメータ(L1~L9)を示す。なお、本
図11は、回転軸に垂直な平面での回転子の部分断面図である。
【0063】
L1は、d軸コア41における第1ブリッジ部61側の周方向のd軸コア端部42と磁極中心Cとの距離である。
【0064】
L2は、接続部81と磁極中心Cとの距離である。
【0065】
L3は、d軸コア41における第2ブリッジ部62側の周方向のd軸コア端部42と磁極中心Cとの距離である。
【0066】
L4は、接続部82と磁極中心Cとの距離である。
【0067】
L5は、第1ブリッジ部61側の溝部120(空隙)の開口の周方向の幅である。すなわち、L5は、第1ブリッジ部61側における、d軸コア41の周方向終端とq軸コア46における径方向最外周部c(平坦部)の縁部との距離である。
【0068】
L6は、第2ブリッジ部62側の溝部120(空隙)の開口の周方向の幅である。すなわち、L6は、第2ブリッジ部62側における、d軸コア41の周方向終端とq軸コア46における径方向最外周部cの縁部との距離である。
【0069】
L7は、第1ブリッジ部61側のq軸コア46の径方向最外周部cの回転軸心Xからの径方向距離である。
【0070】
L8は、第2ブリッジ部62側のq軸コア46の径方向最外周部cの回転軸心Xからの径方向距離である。
【0071】
L9は、磁極中心C上におけるd軸コア41の外周面と永久磁石70の外周面との距離である。
【0072】
本実施例1は、回転子コアがq軸コア46を有するので、マグネットトルクだけでなくリラクタンストルクも発生する。前述のように、d軸コア端部42の一端から他端までの周方向の開角τdは、マグネットトルクによるトルク脈動の位相に関係するパラメータである。τdは、L1~L4に応じて変化する。従って、複数種類(実施例1では2種類)の断面形状において、L1~L4のいずれか、もしくは複数を異ならしめることにより、マグネットトルクによるトルク脈動の位相を異ならしめることができる。なお、本実施例1では、各磁極部においてL1=L3,L2=L4(但し、L1>L2,L3>L4)としながら、2種類の断面形状(
図4における131,141)においてL1およびL3を異ならしめている。
【0073】
L5~L8のいずれか、もしくは複数を変化させると、q軸磁束の分布状態が変化するので、各磁極のリラクタンストルクの位相を異ならせることができる。これにより、リラクタンストルクの脈動を低減することができる。
【0074】
L9を変化させると、永久磁石70の磁束量とq軸インダクタンスの両方が変化するため、マグネットトルクおよびリラクタンストルクの大きさを変化させることができる。このため、各断面形状でL9を異ならしめることで、各磁極のマグネットトルクの脈動成分とリラクタンストルクの脈動成分の割合を調整することができる。したがって、L1~L8によりマグネットトルクおよびリラクタンストルクの各トルク脈動の位相をずらし、L9によりで各トルク脈動の大きさを同等とすることで、両脈動成分が互いに打ち消し合い、回転子全体のトルク脈動を低減することができる。
【0075】
L1~L9は、本実施例1のように回転子の周方向で異ならしめても良いし、
図5および
図6の変形例のように回転軸方向や、周方向および回転軸方向の両方で異ならしめても良い。
【0076】
なお、本実施例1においては、各磁極において、L1=L3,L2=L4であり、かつL1>L2,L3>L4である。すなわち、d軸コアの両端部は、第1ブリッジ部61および第2ブリッジ部62の位置から、周方向に、q軸コア46に向って張り出している。これにより、上述のように(
図8,9)、d軸コア41の周方向におけるd軸コア端部42における磁気飽和が防止される。
【0077】
また、本実施例1においては、2種類の断面形状において、L1,L3が異なり、L2,L4,L5~L9は同等としている。従って、マグネットトルクのトルク脈動が低減される。なお、2種類の断面形状において、極ピッチ角τp(
図2)は同等であるため、L5,L6が同等ではあるが、2種類の断面形状において、溝部120(空隙)の形状が異なる。具体的には、
図11に示すように、隣接する2種類の断面形状において、q軸コア46の最外周部の平坦部cの縁部に連続する溝部120の内壁斜面b1と、ブリッジ部(61,62)の外側壁面a1がなす角度の大きさと、同様の内壁斜面b2および外側壁面a2がなす角度の大きさとが互いに異なる。このため、2種類の断面形状において、q軸磁束の分布状態が異なるため、リラクタンストルクのトルク脈動の位相が異なる。これにより、リラクタンストルクのトルク脈動が低減される。
【0078】
なお、
図11に示すように、永久磁石70の矩形状断面における周方向の短辺と第1,第2ブリッジ部61,62の外側壁面a1,a2とは、径方向において平行に配置される。また、
図11に示すように、溝部120は、断面が略V字状である。このため、a1とb1がなす角度、a2とb2がなす角度は、どちらも鋭角である。これにより、q軸コア46を大きくすることなく、脈動の少ないリラクタンストルクが得られる。
【0079】
また、本実施例1では、d軸コアの両端部は、第1ブリッジ部61および第2ブリッジ部62の位置から、周方向に、q軸コア46に向って張り出しているので、永久磁石70から固定子へ向かう磁束が各磁極において周方向に広がる。従って、d軸コア41の周方向におけるd軸コア端部42における磁束密度の変化が緩和される。さらに、異なる断面形状の磁極どうしで脈動成分を打ち消し合うことにより、コギングトルクが低減されるとともに、無負荷誘導起電力を正弦波化することができる。無負荷誘導起電力が正弦波化されると、スロットコンビネーションなどの回転電機の構造に起因する高調波損失を低減することができ、回転電機の効率が向上する。
【0080】
なお、各断面図においては説明を省略したが、本実施例1においては、永久磁石70の周方向端部と第1,第2ブリッジ部61,62との間には磁気的空隙が設けられる。これによっても、コギングトルクを低減できる。なお、磁気的空隙部は、空間部であっても良いし、樹脂などの非磁性体の充填部でも良い。
【0081】
上述のように、本実施例1の回転電機によれば、低負荷から高負荷までの広い運転範囲において、トルク脈動を低減することができる。
【実施例2】
【0082】
図12は、本発明の実施例2である回転電機駆動システムの概略構成を示す。
【0083】
本実施例2において、
図12における回転電機1として、前述の実施例1の回転電機が適用される。
【0084】
図12の回転電機駆動システム200において、回転電機1を駆動するための電力は、電源210からインバータやコンバータ等から構成される電力変換装置220を介して供給される。この場合、電力変換装置220によって、回転電機1で駆動される負荷230に応じた回転電機1の出力制御が可能である。
【0085】
従来技術による回転電機や前述の比較例(
図8,9)では、ある運転点でトルク脈動を低減できても、他の運転点でトルク脈動が低減できないため、負荷変動があった場合に大きなトルク脈動が発生する懸念がある。トルク脈動が発生する場合、一般的に、トルク制御では、トルク脈動を打ち消すような電流を流す制御が実行される。トルク脈動は高次の脈動成分として発生するため、これに制御を追従させるためには、高応答な電力変換装置220が必要になり、電力変換装置220のコストが増大する。また、トルク脈動を抑えるための高調波電流を注入することになるため、電力変換装置220内のスイッチング損失や、回転電機1内に発生する高調波損失が増大し、システム効率の低下を招く。速度制御でも、回転子の慣性モーメントが小さい場合、トルク脈動は速度変動につながるため、トルク制御時と同様に、高応答な電力変換装置220が必要になるとともに、システム効率が低下する。
【0086】
これに対し、本実施例2では、実施例1の回転電機が適用されるので、回転電機1は広い運転範囲でトルク脈動を低減できるため、負荷変動があった場合にも回転電機1のトルク脈動を抑えることができる。このため、トルク制御および速度制御のいずれの制御方式においても、高応答な電力変換装置220は不要となる。また、電力変換装置220内のスイッチング損失や、回転電機1内に発生する高調波損失を低減することができるため、回転電機駆動システム200のシステム効率が向上する。また、位置制御の場合も、トルク脈動による制御性の低下が起こらず、様々な負荷に対して高精度な位置制御が可能になる。また、トルク脈動に起因する振動や騒音を低減できる。
【実施例3】
【0087】
図13は、本発明の実施例3である電気自動車の概略構成を示す。
【0088】
本実施例3において、
図13における回転電機351,352として、前述の実施例1の回転電機が適用される。
【0089】
図13に示すように、電気自動車300には、エンジン360と回転電機351,352と、バッテリ380とが搭載されている。
【0090】
バッテリ380は、回転電機351,352を駆動する場合、回転電機351,352を駆動するための電力変換装置370(インバータ装置)に直流電力を供給する。電力変換装置370は、バッテリ380からの直流電力を交流電力に変換して、この交流電力を回転電機351,352にそれぞれ供給する。
【0091】
また、回生走行時には、回転電機351,352が車両の運動エネルギーに応じて交流電力を発生して電力変換装置370に供給する。電力変換装置370は、回転電機351,352からの交流電力を直流電力に変換し、この直流電力をバッテリ380に供給する。
【0092】
エンジン360および回転電機351,352による回転トルクは、変速機340、デファレンシャルギア330および車軸320を介して車輪310に伝達される。
【0093】
一般的に、自動車には、坂道発進での低速大トルクや、高速道路での高速低トルク、街乗りでの中速中トルクなど、広い運転範囲が要求される。このような広い運転範囲において、回転電機351,352ではトルク脈動が低減される。このため、広い運転範囲で、回転電機351,352のトルク脈動に起因する騒音や振動を低減することができるので、電気自動車300の乗り心地が向上する。
【0094】
また、回転電機351,352のトルク脈動を低減することにより、変速機340やデファレンシャルギア330に与えられる機械的な衝撃を緩和することができる。このため、電気自動車300の安全性向上や長寿命化が可能になる。また、トルク脈動低減のための高調波電流注入が不要となり、電気自動車300のシステム効率が向上するので、電気自動車300の航続距離を延ばすことが可能になる。
【0095】
なお、エンジン360を備えず、回転電機の動力だけで駆動される電気自動車においても、実施例1の回転電機を適用することにより、本実施例3と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0096】
図14は、本発明の実施例4である電気鉄道車両の概略構成を示す。
【0097】
本実施例4において、
図14における回転電機1として、前述の実施例1の回転電機が適用される。
【0098】
図14に示すように、電気鉄道車両400は、ギア410、車輪420、車軸430および回転電機1を備えた台車440を備えている。回転電機1は、ギア410を介して車軸430に接続された車輪420を駆動する。回転電機1は、図示されない電力変換装置によって駆動される。なお、本実施例4では、台車440は、回転電機1を2基搭載しているが、これに限らず、1基または3基以上搭載しても良い。
【0099】
一般的に鉄道車両は、発進時から最高速運転までの広い速度域でのトルク特性が要求される他、乗車率に応じて広いトルク範囲が要求される。このような広い運転範囲において、回転電機1ではトルク脈動が低減される。このため、乗車率によらず、常に回転電機1のトルク脈動に起因する騒音や振動を低減することができるので、電気鉄道車両400の乗り心地が向上する。また、回転電機1のトルク脈動が低減するので、ギア410に与えられる機械的な衝撃が緩和される。このため、電気鉄道車両400の安全性向上や長寿命化が可能になる。また、トルク脈動低減のための高調波電流注入が不要となり、電気鉄道車両400のシステム効率が向上する。
【0100】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0101】
例えば、電動車両は、上述の電気自動車や電気鉄道車両に限らず、トルク脈動の低減が要求される他の電動車両でもよい。また、電気鉄道車両は、架線から電力を取り込んでも良いし、車両に搭載される蓄電器から電力を取り込んでも良い。
【符号の説明】
【0102】
1 回転電機
5 フレーム
10 固定子
20 固定子コア
21 固定子巻線
22 固定子スロット
25 固定子ティース
30 回転子
40 回転子コア
41 d軸コア
42 d軸コア端部
46 q軸コア
47 q軸コア端部
50 磁石挿入孔
61 第1ブリッジ部
62 第2ブリッジ部
63 ブリッジ部
70 永久磁石
81,82 接続部
90 シャフト
100 ギャップ
110 内周側コア
120 溝部
131,132,133,134 断面形状
150 漏洩磁束
160 q軸磁束
200 回転電機駆動システム
210 電源
220 電力変換装置
230 負荷
300 電気自動車
310 車輪
320 車軸
330 デファレンシャルギア
340 変速機
351,352 回転電機
360 エンジン
370 電力変換装置
380 バッテリ
400 電気鉄道車両
410 ギア
420 車輪
430 車軸
440 台車