(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】炭化水素組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20230322BHJP
C10G 3/00 20060101ALI20230322BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20230322BHJP
C10G 45/58 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C10L1/04
C10G3/00 Z
C10G2/00
C10G45/58
(21)【出願番号】P 2022520926
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2020082461
(87)【国際公開番号】W WO2021099343
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-04-08
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンドベルグ、カチ
(72)【発明者】
【氏名】シッポラ、ブェイノ
(72)【発明者】
【氏名】スップラ、ヤンネ
(72)【発明者】
【氏名】ビルヤ、イェッセ
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第4863772(JP,B2)
【文献】欧州特許出願公開第02141217(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00
C10G 3/00
C10G 45/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異性化されたパラフィンを含む炭化水素組成物であって、
前記炭化水素組成物は、185~205℃であるT10(℃)カットオフ温度、270~295℃であるT90(℃)カットオフ温度、および275~300℃である最終沸点(℃)を有し、および
前記炭化水素組成物の密度は、ASTM D4052規格を用いて測定されて、768.0~772.0kg/m
3であり、および
前記炭化水素組成物中の炭化水素の平均炭素数は、14.3~15.1である
炭化水素組成物を含むジェット燃料またはジェット燃料成分。
【請求項2】
前記炭化水素組成物の炭化水素の平均炭素数が、14.5~15.
1である請求項1記載の
ジェット燃料またはジェット燃料成分。
【請求項3】
前記炭化水素組成物の密度が、770.0~772.0kg/m
3
である請求項1または2記載の
ジェット燃料またはジェット燃料成分。
【請求項4】
前記炭化水素の少なくとも60wt-%が、14~17の炭素数を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の
ジェット燃料またはジェット燃料成分。
【請求項5】
前記
炭化水素組成物が、-40℃より低
い凝固点を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の
ジェット燃料またはジェット燃料成分。
【請求項6】
前記
ジェット燃料または
ジェット燃料成分が、50vol%までの請求項1~5のいずれか1項に記載の
ジェット燃料を含
み、かつ、残りは石油ベースのジェット燃料である請求項
1~5のいずれか1項に記載の
ジェット燃料または
ジェット燃料成分。
【請求項7】
前記
ジェット燃料または
ジェット燃料成分が、3vol%~50vol
%の請求項1~5のいずれか1項に記載の
ジェット燃料を含
み、かつ、残りは石油ベースのジェット燃料である請求項
1~6のいずれか1項に記載の
ジェット燃料または
ジェット燃料成分。
【請求項8】
異性化されたパラフィンを含む炭化水素組成物であって、
前記炭化水素組成物は、185~205℃であるT10(℃)カットオフ温度、270~295℃であるT90(℃)カットオフ温度、および275~300℃である最終沸点(℃)を有し、および
前記炭化水素組成物の密度は、ASTM D4052規格を用いて測定されて、768.0~772.0kg/m
3
であり、および
前記炭化水素組成物中の炭化水素の平均炭素数は、14.3~15.1である炭化水素組成物を製造するための方法であって、以下の工程:
脂肪酸を含む再生可能なフィードストックを提供する工程、
パラフィンを製造するために前記フィードストックを脱酸素化する工程、
異性化されたパラフィンを製造するために、製造された前記パラフィンを異性化工程に付す工程、および
前記炭化水素組成物を得るために、製造された前記異性化されたパラフィンを分画する工程
を含む方法。
【請求項9】
前記分画が、さらに
前記炭化水素組成物が、前記異性化されたパラフィンの総計の含有量を基に算出されて、少なくとも20wt-%の収率で
、単一の画分として得られるように、製造された前記異性化されたパラフィンを分画する工程
を含む請求項
8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に異性化されたパラフィンを含む炭化水素組成物に関し、そして特には、良好な凝固点を有し、かつ、航空燃料中の成分としてまたは航空燃料として有用である炭化水素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェット燃料または航空燃料は、ガス-タービンエンジンによって動く航空機における使用が意図される燃料である。最も一般的に使用されている航空燃料Jet-AおよびJet-A1は、標準化された国際規格に沿って製造される。ジェット燃料は、種々の炭化水素の混合物である。それらのサイズ、分子量または炭素数は、製品の規格によって必要とされる物理的特性、例えば引火点、凝固点、沸点範囲などを結果として生じる。ケロシン型のジェット燃料(Jet-AおよびJet-A1を含む)は、典型的には、分子当たり約8~16個のあいだの炭素原子である炭素数分布を有している。
【0003】
化石燃料または石油ベースの燃料は、生物起源または他の再生可能な供給源起源の燃料によって少なくとも部分的に置き換えられ得る。再生可能な航空燃料への要求は、GFG、CO2などの排出を減少させる世界的な構想に起因して将来にわたって高まっている。ある可能な重要な解決方法は、航空燃料中における再生可能な燃料の使用を増やすことである。生物起源の燃料は、例えば脂肪および/またはオイルなどの再生可能なフィードストックを含み得る。いくつかのタイプの燃料がこれらのトリアシルグリセロール含有フィードストックから得られ得る。脂質フィードストックから得られ得る製品の一例は、触媒存在下での高温および高圧での水素化脱酸素反応による、脂肪またはオイルから製造される燃料である。
【0004】
トリアシルグリセロール含有フィードストックの水素化脱酸素反応から形成される炭化水素は、典型的には、組成物が燃料規格を満たす前に異性化される必要がある。炭化水素の異性化は、炭化水素の融点を低下させ、およびこれによって、組成物の低温流動性を向上させる。炭化水素の異性化は、水素化分解の形であり、および、厳しい反応条件にあり、炭化水素の炭素数を低下させてしまうリスクがある。
【0005】
再生可能な供給源から炭化水素航空燃料を製造するための他の方法は、異性化あり、または無しの水素化分解を含む。再生可能な供給源から製造された炭化水素の分画が良好な凝固点を有する航空燃料を製造するために必要であるかもしれない。
【0006】
特許文献1は、石油ベースのジェット燃料成分および再生可能ジェット燃料成分を含多目的の燃料組成物を記載しており、ここで、燃料組成物は-40℃の凝固点を有している。再生可能なジェット燃料組成物は、異性化されたノルマルパラフィンを含み、これは、植物オイルまたは動物性脂肪を起源としている。
【0007】
特許文献2は、ノルマルおよびイソ-パラフィンを含む、石油ベースのケロシン燃料およびフィッシャー・トロプシュ由来のケロシン燃料を含む燃料組成物を記載している。当該文献中に記載されているフィッシャー・トロプシュ由来のケロシン成分は、典型的には、730~770kg/m3の密度を有する。
【0008】
航空燃料の低温特性は、航空機の適切かつ信頼性のおけるシステム操作を確実なものにするために極めて重要である。航空燃料の凝固点は、全ての条件における燃料のポンパビリティーを保証するための重要な特性である。
【0009】
航空燃料特性を満たす成分の収率もまた、特に成分が生物起源または再生可能な供給源から製造される場合に重要である。燃料成分の密度は、流量計算、燃料装荷、燃料タンクデザイン、計量装置などにおいて使用される重要な特性である。燃料密度の変化は、航空機の載荷重および達成できる範囲の決定において重要なインパクトをもち得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2018/224730号
【文献】国際公開第2005/026297号
【発明の概要】
【0011】
したがって本発明の目的は、向上された収率および密度、卓越した凝固点を、組成物が航空燃料としてまたは航空燃料中の成分として使用されることを可能にする組成物特性と共に有する炭化水素組成物を提供することである。
【0012】
本発明の一形態において、異性化されたパラフィンを含む炭化水素組成物が提供され、ここで、
該炭化水素組成物は、185~205℃であるT10(℃)カットオフ温度、270~295℃であるT90(℃)カットオフ温度、および275~300℃である最終沸点(℃)を有し、および
該炭化水素組成物の密度は、768.0~772.0kg/m3であり、および
該炭化水素組成物中の炭化水素の平均炭素数は、14.3~15.1である。
【0013】
本発明の別の一形態において、本発明の炭化水素組成物を含む燃料または燃料成分が適用される。
【0014】
本発明の別の一形態において、本発明の炭化水素組成物を製造するための方法が提供される。
【0015】
本発明の実施態様は、従属クレームおよび以下の詳細の説明において規定される。
【0016】
本発明の炭化水素組成物の優位点は、組成物が、卓越した凝固点と組み合わされた高い密度を有していることである。この組み合わせは、組成物を石油ベースの航空燃料とブレンドする際の柔軟性を可能にする。航空燃料成分の卓越した凝固点はまた、長距離のフライトにおいて、とりわけ高い高度において優位である。卓越した凝固点を有する航空燃料はまた、異常気象においても使用され得、および全ての条件における使用の安全性を提供し得、これは例えば軍用などにおいても有益であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ジェット燃料または航空燃料は、ガスタービンエンジンによって動かされる航空機における使用を目的とする燃料である。ジェット燃料は、ジェット燃料として分類されるために特定の物理的特性を満たしている必要がある。ジェット燃料の定義のための規格は、少なくともDEF STAN 91-091(2018)、ASTM D1655-19(Jet-A1)およびASTM D7566-19を含む。
【0018】
ジェット燃料に関して最も重要な特性の一つは、凝固点である。凝固点とは、視認できる粒子が形成される温度まで冷却されていた組成物を温めていった場合に視認できる固体燃料ワックス粒子がなくなる温度の計測値である。Jet-A(ASTM D1655-19)規格のジェット燃料の凝固点は、少なくとも-40℃でなければならず、Jet-A1のためには少なくとも-47℃でなければならない。密度は、任意の燃料にとって、とりわけジェット燃料にとって重要なもう一つの特性である。
【0019】
炭化水素組成物の低い凝固点は、典型的には、より小さな炭素数を有する炭化水素と関連している。より小さい炭化水素数を有する炭化水素はまた、より小さな密度を有する。したがって、短い鎖長のパラフィンは、より長い鎖長をもつパラフィンと比較してより小さい密度を有する。しかしながら、凝固点は短鎖パラフィンの方がより低い。
【0020】
驚くべきことに、ジェット燃料規格を満たす高い密度および低い凝固点を有する炭化水素組成物がここに達成された。これは、炭化水素組成物の蒸留曲線において特定のカットオフポイントを設けることで達成される。
【0021】
本発明の一実施態様は、したがって、蒸留曲線における特定のカットオフポイントと高い密度とを有する異性化されたパラフィンを含む炭化水素組成物である。炭化水素組成物の凝固点は、-40℃以下というジェット燃料規格を満たしている。
【0022】
ここで、炭化水素組成物とは、炭化水素、すなわち、炭素原子および水素原子しか含まない有機分子を主に含む組成物を意味する。炭化水素組成物は、少量の、例えば硫黄などのヘテロ原子を含む分子を含み得る。本発明による炭化水素組成物は、燃料成分として、特にはジェット燃料成分として有用である。
【0023】
本発明による炭化水素組成物は、異性化されたパラフィン(または、i-パラフィンあるいはiso-パラフィン)を含む。ここで、異性化されたパラフィンとは、一またはそれ以上の側鎖を有するパラフィンを意味する。側鎖は典型的には、メチル、エチル、およびプロピル置換基の形であり、パラフィン鎖のいずれの場所にも配置され得る。異性化されたパラフィンは、ノルマルパラフィン(n-パラフィン)の異性化によって製造され得る。異性化されたパラフィンは任意の供給源由来であり得る。異性化されたパラフィンの供給源の非制限的な例としては、脂肪酸の水素化脱酸素によって製造される炭化水素またはフィッシャー・トロプシプロセスで製造される炭化水素である。
【0024】
本発明は、炭化水素組成物であって、185~205℃であるT10(℃)カットオフ温度を有する。組成物のT90(℃)カットオフ温度は、270~295℃であり、および、最終沸点(℃)は、275~300℃である。集められた画分の蒸留条件および特性は、異性化されたパラフィンを製造するためのプロセスおよび使用される再生可能な供給源によって変わる。当業者であれば様々な蒸留および分画プロセスに精通しており、本発明の炭化水素組成物を得るために必要とされる表見を最適化できるであろう。
【0025】
本発明の炭化水素組成物は、768.0~772.0kg/m3である密度を有する。本発明の別の一実施態様において、炭化水素組成物の密度は、770.0~772.0kg/m3であり、さらに別の実施態様において、771.0~772.0kg/m3である。密度の範囲は、範囲の端点と等しい密度を含むと理解されるべきである。炭化水素組成物の密度における僅かな増加ですら重要であることが留意されるべきである。組成物のより大きな密度は、容積当たりより大きなエネルギーおよびより高い熱量(カロリー値)があることを意味している。これは、燃料タンクの容量がいつも限られていることから、特に燃料への応用において重要である。加えて、より大きな密度はまた、炭化水素組成物が他の成分とブレンドされる場合に有益である。例えば、ジェット燃料のための最小の密度は、775kg/m3であり(ASTM D7566)、および、再生可能な成分の密度が大きければ、石油ベースのジェット燃料成分の密度における柔軟性が生まれる。
【0026】
炭化水素組成物の密度は、例えばASTM D4052など、炭化水素燃料組成物の密度を測定するための任意の標準化された方法を用いて計測され得る。
【0027】
本発明の一実施態様において、炭化水素組成物は、14.3~15.1の平均炭素数を有する炭化水素を含む。別の実施態様において、組成物中の炭化水素の平均炭素数は、14.5~15.1であり、および、別の実施態様において、14.7~15.0である。炭素数範囲は、範囲の端点と等しい炭素数である炭化水素を含むものとして理解されるべきである。
【0028】
炭化水素組成物中の炭化水素の平均炭素数は、ガスクロマトグラフィー(GC)方法を用いて測定される。GC方法の条件が以下の表1に示されている。
【0029】
【0030】
驚くべきことに、大きな炭素数および大きな密度を有する炭化水素組成物が炭化水素組成物の凝固点を犠牲にすることなしに達成され得ることが発見された。より大きな炭素数は典型的には、より低い凝固点を意味する。
【0031】
本発明の実施態様において、14~17の炭素数を有する炭化水素組成物における炭化水素の量は、全体の炭化水素含有量の少なくとも60wt-%である。
【0032】
本発明の実施態様において、炭化水素組成物は、炭化水素組成物の総計のパラフィン含有量から算出されて、90wt-%より多い、好ましくは92wt-%より多い、および最も好ましくは95wt-%より多い異性化されたパラフィンを含む。異性化されたパラフィンは、主に、モノ-、ジ-、またはトリ-異性化されているが、いくつかのパラフィンはさらにより多くの側鎖を有し得る。異性化されたパラフィンは、メチル、エチル、またはプロピル置換され得る。本発明の炭化水素組成物は、様々な異性化されたパラフィンの混合物である。炭素数は異性化の程度または側鎖のタイプによって変化しないことが留意されるべきである。パラフィン中の炭素の数は、同一に維持されている。
【0033】
高い程度の異性化は、本発明の炭化水素組成物の特異的な特性を可能にする。典型的には、より高い程度の異性化は、より低い凝固点を意味する。しかしながら、異性化の程度自体は、低い凝固点および本発明の炭化水素組成物の大きな密度を十分に説明するものではない。
【0034】
本発明の一形態において、炭化水素組成物は、-40℃、または、好ましくは-43℃もしくはそれより低い凝固点を有する。典型的には、最も低い凝固点は、-60℃であり得る。測定可能な最も低い凝固点は、-80℃である。ジェット燃料として使用される組成物の凝固点は-40℃以下である必要がある。航空燃料の凝固点は、IP529規格にしたがって測定される。航空機のガスタービンが完全に機能的であることを確実とするために、全ての可能な条件においてジェット燃料がポンプ移送可能であることが明らかに重要である。特に、ジェット燃料またはジェット燃料成分が生物起源または再生可能な供給源から製造される場合、必要とされる低い凝固点に到達することが困難である場合がある。これは、全体の収率が重要であるパラフィン系の再生可能な燃料成分において特に困難である。
【0035】
本発明の一形態において、炭化水素組成物は、再生可能な供給源(再生可能な原料)から製造される。本明細書において、用語「再生可能な供給源」または「再生可能な原料」は、石油粗油(化石ベースのオイルまたは石油ベースのオイル)から得られる材料以外のフィードストックを含むことを意味している。本発明において使用され得る再生可能な供給源は、これらに限定される訳ではないが、例えば、植物および/または動物および/または魚および/または昆虫から、および、例えば海藻、バクテリア、酵母およびカビなどの微生物を利用するプロセスから、のバイオオイルおよび脂肪が挙げられ、そして、適切なものとしてはまた、当該脂肪およびオイル由来の化合物およびそれらの混合物である。バイオオイルまたは脂肪を産生する種は、天然のものでもよく、また遺伝子組み換えのものであってもよい。バイオオイルおよび脂肪は、新鮮なオイルおよび脂肪であってもよく、または、リサイクルされた脂肪またはオイルであってもよい。
【0036】
脂肪酸および/または脂肪酸エステルおよび/または脂肪酸誘導体を含む適切なバイオオイルとしては、例えば菜種油(rapeseed oil)、菜種油(colza oil)、キャノーラ油、トール油、ジャトロファ種子油、ひまわり油、大豆油、麻実油、オリーブ油、亜麻仁油、マスタードオイル、パーム油、ピーナッツオイル、ひまし油、ココナッツオイルなどの木材ベースおよび他の植物ベース(plant-based)および植物ベース(vegetable-based)の脂肪およびオイル、ならびに、遺伝子操作の手段で栽培された植物中に含まれる脂肪、例えばラード、獣脂、鯨油などの動物ベースの脂肪、および、ミルクに含まれる脂肪、ならびに、食品産業からのリサイクルされた脂肪、ならびに上記物の混合物、ならびに、例えば海藻、バクテリア、酵母およびカビなどの微生物を利用するプロセスからの脂肪およびオイルなどが挙げられる。
【0037】
再生可能な供給源はまた、リサイクル可能な廃棄物オイルおよび脂肪、または、リサイクル可能な廃棄物オイルおよび脂肪の残渣を含む。
【0038】
新鮮なフィードとして適切なバイオオイルおよび脂肪は、C12~C24の脂肪酸、それらの誘導体、例えば脂肪酸の無水物またはエステルなど、および脂肪酸のトリグリセリドおよびジグリセリド、またはそれらの組み合わせを含む。脂肪酸または脂肪酸誘導体、例えばエステルなどは、バイオオイルの加水分解を介して、または、それらの分画化もしくはトリグリセリドのエステル交換反応もしくは微生物を利用した微生物的プロセスによって製造されてもよい。
【0039】
本発明の炭化水素組成物の異性化されたパラフィンは、任意の適切な方法によって製造され得る。一実施態様において、パラフィンは、ヘテロ原子の除去、主に再生可能なオイルからの酸素の除去のための脱酸素化プロセスに付される、例えば植物オイルまたは動物性脂肪などの再生可能なオイルから製造される。
【0040】
好ましい実施態様において、再生可能な原料が付される脱酸素化処理は、水素化処理である。好ましくは、再生可能な原料は、好ましくはHDO触媒を使用する水素化脱酸素(HDO)に付される。接触HDOは、酸素を除去するための最も良く用いられる方法であり、広く研究され、そして最適化されている。しかしながら、本発明は、それらに限定される訳ではない。HDO触媒としては、担体上に担持された水素化金属を含むHDO触媒が使用され得る。例えば、Pd、Pt、Ni、Co、Mo、Ru、Rh、Wまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される水素化金属を含むHDO触媒が挙げられる。それらのうち、アルミナまたはシリカが担体として適切である。水素化脱酸素ステップは、例えば、100~150℃の温度、および10~150bar(絶対圧力)の圧力で行われ得る。
【0041】
一実施態様において、異性化されたパラフィン成分は、バイオマスのガス化から始まるフィッシャー・トロプシプロセスを介して製造される。この合成ルートは、一般的にBTL、またはバイオマスガスからの液体燃料製造(biomass to liquid)とも称される。例えばリグノセルロース系材料などのバイオマスが、高温で酸素または空気を用いて、水素および一酸化炭素のガス混合物(シンガス、syngas)を生成するためにガス化され得ることは文献において広く確立されている。ガスの精製の後、それは、フィッシャー・トロプシ合成経路のためのフィードストックとして使用され得る。フィッシャー・トロプシ合成において、パラフィンは、シンガスから製造される。フィッシャー・トロプシパラフィンは、ガス状成分からワックス状パラフィンまでにわたり、そして、中間蒸留物の沸点範囲のパラフィンが生成物の蒸留により得られ得る。
【0042】
再生可能なオイルの水素化処理を通じて、または、フィッシャー・トロプシ方法を通じて形成されるn-パラフィンは、さらなる異性化処理に付される必要がある。異性化処理は、水素化処理された原料の炭化水素鎖の分岐、すなわち異性化を引き起こす。炭化水素鎖の分岐は、低温特性を向上され、すなわち、異性化処理によって形成された異性化組成物は、水素化処理された原料と比較してより良好な低温特性をもつ。より良好な低温特性とは、凝固するポイントの温度の値がより低いことを意味している。異性化処理によって形成される、異性化炭化水素または異性化されたパラフィンは、一またはそれ以上の側鎖または分岐を有し得る。
【0043】
異性化ステップは、異性化触媒の存在下で、任意には異性化プロセスに添加される水素の存在下で、行われ得る。適切な異性化触媒は、モレキュラーシーブおよび/または周期表の第VIII族から選択される金属、および任意には担体を含む。好ましくは、異性化触媒は、SAPO-11、またはSAPO-41、またはZSM-22、またはZSM-23、またはフェルネライト(fernerite)およびPt、PdまたはNiおよびAl2O3またはSiO2を含む。典型的な異性化触媒は、例えば、Pt/SAPO-11/Al2O3、Pt/ZSM-22/Al2O3、PT/ZSM-23/Al2O3、およびPT/SAPO-11/SiO2である。触媒は、単独で使用されてもよいし、または組み合わせて使用されてもよい。添加された水素の存在は、触媒の不活性化を低減するため、特に好ましい。
【0044】
好ましい実施態様において、異性化触媒は、例えばPt-SAPOおよび/またはPt-ZSM触媒などの、水素と組み合わせて使用される貴金属二元機能触媒である。異性化ステップは、例えば、200~500℃、好ましくは280~400℃の温度で、および、5~150bar、好ましくは10~130bar、より好ましくは30~100bar(絶対圧力)の圧力で、行われ得る。異性化ステップは、さらに、精製ステップおよび分画ステップなどの中間ステップを含んでいてもよい。異性化は、例えば、300℃~350℃などで行われ得る。
【0045】
本発明の一実施態様において、異性化プロセスにおいて形成される異性化されたパラフィンは、本発明の炭化水素組成物を得るために分画される必要がある。異性化されたパラフィンの分画は、形成された異性化されたパラフィンが本発明の炭化水素組成物に必要な要件を満たしている場合には必要ではない。分画は、任意の適切な方法を使用して行われ得、および、蒸留に限定されている訳ではない。蒸留は炭化水素組成物からの様々な画分を分離するための最も広く使用されている方法であり、ここでも適切なものである。
【0046】
別の一形態において、本発明はまた、本発明の炭化水素組成物を含む燃料または燃料成分に関する。本発明の別の一形態において、燃料または燃料成分はジェット燃料またはジェット燃料成分である。
【0047】
一形態において、本発明は、本発明の炭化水素組成物を、ジェット燃料の50vol%までの含有量で含むジェット燃料に関し、ここで残りは石油ベースのジェット燃料である。好ましくは、ジェット燃料は、本発明の炭化水素組成物を3vol%~50vol%、より好ましくは5vol%~45vol%、およびさらにより好ましくは10vol%~30vol%の濃度で含む。本発明のジェット燃料における残りは、石油ベースのジェット燃料である。用語「石油ベースのジェット燃料(petroleum-based jet fuel)」とは、ジェット燃料としての少なくとも一つの規格を満たしている石油または粗油から製造される、任意の従来のジェット燃料または航空燃料を意味する。ジェット燃料または航空燃料のための規格としては、これらに限定される訳ではないが、Jet A、Jet A-1(DEF STAN 91-91、ASTM D1655)および様々な軍用規格(JP-1、JP-8)が挙げられる。
【0048】
別の一形態において、本発明はまた、本発明の炭化水素組成物を製造するための方法に関する。炭化水素組成物を製造するための方法は、以下の方法ステップ:
脂肪酸を含む再生可能なフィードストックを提供する工程、
パラフィンを製造するために、フィードストックを脱酸素化する工程、
異性化されたパラフィンを製造するために製造されたパラフィンを異性化工程に付す工程、および
本発明の炭化水素組成物を得るために、製造された異性化されたパラフィンを分画する工程
を含む。
【0049】
一実施態様において、分画は、少なくとも20wt-%の収率で、好ましくは少なくとも30wt-%の収率で、最も好ましくは少なくとも40wt-%の収率で、単一の画分として、本発明の製造された異性化されたパラフィンを分画することを含む。
【実施例】
【0050】
例1(比較例)
再生可能なパラフィン系生成物が、植物および動物性脂肪起源の混合物のフィードストックの重度の加熱分解による水素化脱酸素および異性化により製造された。この生成物は様々な分析方法を用いて分析された(表2)。
【0051】
【0052】
表2に分析された生成物は、ジェット燃料凝固点規格を満たしたが、凝固点は顕著には低くない。
【0053】
例2(比較例)
再生可能なパラフィン系生成物が、植物および動物性脂肪起源の混合物のフィードストックの水素化脱酸素および異性化により製造された。この生成物は様々な分析方法を用いて分析された(表3)。
【0054】
【0055】
表3に分析された生成物は、ジェット燃料凝固点規格を満たしたが、凝固点は顕著には低くない。
【0056】
例3
例2において植物および動物性脂肪起源の混合物のフィードストックの水素化脱酸素および異性化により製造された再生可能なパラフィン系生成物が、さらに、分画ユニットへと導かれた。分画ユニットにおいて、再生可能なパラフィン系生成物は、2つの画分に分離された。80wt-%の元の再生可能なパラフィン系生成物を含む軽質の画分が、様々な分析方法を用いて再分析された(表4)。
【0057】
【0058】
この分析された生成物は、高品質な再生可能な航空燃料の全ての要件を満たしている。分析結果から、パラフィン系生成物の密度が772kg/m3(測定値は771.6kg/m3)より小さい場合、比較例2の生成物と比較して、凝固点が-49.1℃まで顕著に降下していることが理解される。
【0059】
例4
植物および動物性脂肪起源の混合物の別のフィードストックの水素化脱酸素および異性化により製造された別の再生可能なパラフィン系生成物が、さらに、分画ユニットへと導かれた。分画ユニットにおいて、再生可能なパラフィン系生成物は、2つの画分に分離された。80wt-%の元の再生可能なパラフィン系生成物を含む軽質の画分が、様々な分析方法を用いて再分析された(表5)。
【0060】
【0061】
この生成物もまた、高品質な再生可能な航空燃料の全ての要件を満たしている。分析結果から、パラフィン系組成物の密度が768kg/m3(測定値は770.1kg/m3)より大きいにも関わらず、比較例1の生成物の凝固点と比較して、凝固点(測定値は-50.9℃)は顕著に低いことが理解される。
【0062】
当業者であれば、技術の進歩に伴い、本発明の概念が様々な方法で実施され得ることが明らかであろう。本発明およびその実施態様は、上述された例に限定されず、特許請求の範囲内で変化され得るであろう。