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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】滑走艇航行支援装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/15 20200101AFI20230322BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20230322BHJP
   B63B 1/18 20060101ALI20230322BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
B63B79/15
B63B79/40
B63B1/18 Z
B63B49/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022524269
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047270
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徳子
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0079112(US,A1)
【文献】特開2020-189606(JP,A)
【文献】特開2005-306188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 79/15
B63B 79/40
B63B 1/18
B63B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑走艇に搭載され、前記滑走艇から波浪をセンシングするセンサと、
前記センサで取得されたデータに基づいて前記滑走艇の周囲の波浪に関連する波浪データを生成して、前記滑走艇の航行を支援するように前記波浪データに応じて波浪に関連する情報を表示する波浪表示装置、および前記滑走艇の航行を支援するように前記波浪データに応じて前記滑走艇が備える推進装置を制御する制御装置の少なくとも一方に対して前記波浪データを出力するデータ処理装置と、
を含む滑走艇航行支援装置であって、
前記センサは、
前記センサの斜め下方の水面に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、前記センサの斜め下方の水面からの自然可視光または赤外線をグローバルシャッター方式で取得するイメージセンサであり、
前記データ処理装置は、
前記センサで取得された前記センサの斜め下方の水面からの自然可視光または赤外線に関連するセンサ取得データを、波浪の相互干渉で波浪が消える状態および波浪が増幅される状態の少なくとも一方を観測できるように10FPS以上100FPS以下のフレームレートで取得し、取得された複数の前記センサ取得データに基づいて、前記センサの斜め下方の波浪の高さとこの波浪が前記滑走艇に到達するまでの到達時間とに少なくとも関連する前記波浪データを1秒間に少なくとも1回生成し、生成された前記波浪データを前記波浪表示装置および前記制御装置の少なくとも一方に出力するように構成されたプロセッサを含むことを特徴とする滑走艇航行支援装置。
【請求項2】
前記センサは、前記滑走艇の滑走状態において水平から45°以内の斜め下方を指向するように前記滑走艇に搭載されていることを特徴とする請求項1に記載の滑走艇航行支援装置。
【請求項3】
前記センサは、ステレオカメラであることを特徴とする請求項1または2に記載の滑走艇航行支援装置。
【請求項4】
前記データ処理装置の前記プロセッサは、前記センサの斜め下方の波浪の高さと、この波浪が前記滑走艇に到達するまでの前記到達時間と、前記滑走艇に対するこの波浪の方向とに少なくとも関連する前記波浪データを、前記波浪表示装置および前記制御装置の少なくとも一方に出力するように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の滑走艇航行支援装置。
【請求項5】
前記データ処理装置の前記プロセッサは、生成された前記波浪データに基づいて、生成された前記波浪データを前記波浪表示装置および前記制御装置の少なくとも一方に出力するか否かを判断することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の滑走艇航行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑走艇の航行を支援する滑走艇航行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に搭載されたセンサで取得されたデータに基づいて波浪に関連する波浪データを生成して船舶の航行を支援する技術がある。例えば、特許文献1および特許文献2の技術は、船舶に搭載されたカメラで取得されたデータに基づいて生成された波浪データを、波浪表示装置に表示することで、船舶の航行を支援する。また、特許文献3の技術は、センサで取得されたデータに基づいて船体が受ける波浪を予測し、船舶の操舵を制御することで船舶の航行を支援する。また、特許文献4の技術は、レーダーで取得されたデータに基づいて船体が受ける波浪を予測し、警報を発令したり、回避に適した操縦方法を表示したりすることで、船舶の航行を支援する。
【0003】
ここで、非特許文献1に示すように、船は、その航走状態によって、排水量型、半滑走型、滑走型に分類される。排水量型の船は、航行中において、揚力の作用はなく静的浮力のみによって航行する。中大型の船は、排水量型である。なお、船舶は狭義には中大型の船を意味する。滑走型の船は、船体を支えるために浮力よりもはるかに大きな揚力が作用して航行する。半滑走型の船は、船体の重量の何割かを揚力で支えて航行する。本明細書では、半滑走型の船と滑走型の船を総称して滑走艇と称する。滑走艇は小型の船であり、船の長さは約10~20mである。滑走艇は、排水量型の小型の船よりも船速が速い。また、滑走艇は、中大型の船(排水量型の船)と比較して、速力と船の長さの平方根との比である速長比が大きい。つまり、滑走艇は、船の長さに対して相対的に船速が速い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-232860号公報
【文献】特開昭61-254813号公報
【文献】特開昭59-220497号公報
【文献】特開2004-338580号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】ヤマハ発動機株式会社,“走行特性・船底形状”,[online],ヤマハ発動機株式会社,[令和3年12月15日検索],インターネット<URL:https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/life/start/boat/characteristic.html>
【文献】ヤマハ発動機株式会社,“天候予測と天候が急変した時の対応”,[online],平成10年4月1日,特許学会,[令和3年12月15日検索],インターネット<URL:https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/life/technique/drive/weather.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような滑走艇は、非特許文献2に示すように、向かい波に合わせて加減速の制御が行われる。具体的には、滑走艇は、例えば、波の頂点に達する時に減速して、波の谷に船首が到達した時に加速するように制御される。滑走艇は、小型で且つ船の長さに対する相対的な船速が速いため、小さい波浪(つまり、高さの低い波浪)に対しても加減速の制御が必要となる。つまり、滑走艇は、中大型の船が対処する波浪よりも小さい波浪にも対処が必要となる。小さい波浪の近傍には、速度が若干異なる小さい波浪が生じやすい。そのため、小さい波浪は、相互に干渉することで消えたり増幅したりしやすい。つまり、小さい波浪は、短時間で不規則に変化しやすい。したがって、滑走艇は、中大型の船とは異なり、短時間に不規則に変化する小さい波浪に対処する必要がある。
【0007】
センサで取得されたデータに基づいて波浪に関連する波浪データを生成して船舶の航行を支援する技術を滑走艇に適用する場合、短時間に不規則に変化する小さい波浪であっても波浪の観測の精度を確保することが求められる。
また、センサで取得されたデータに基づいて波浪に関連する波浪データを生成するデータ処理装置は、ハードウェアリソースの設計自由度が高いことが望ましい。
【0008】
本発明は、短時間に不規則に変化する小さい波浪であっても波浪の観測の精度を確保することができ、且つ、ハードウェアリソースの設計自由度の低下を抑制することができる滑走艇航行支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記の目的を達成するため、特許文献1~4の技術の詳細について検討した。特許文献1~4には、滑走艇が対処するような短時間に不規則に変化する小さい波浪に関連する波浪データを生成して、波浪表示装置または制御装置に出力することは検討されていない。特許文献1~3の技術はいずれも1つの波浪を経時的に観測することで波向を算出しており、短時間に不規則に変化する小さい波浪を観測の対象としていない。仮に短時間に不規則に変化する小さい波浪を、特許文献1~3において経時的に観測する波浪に含めると、観測対象となる波浪が多くなる。そして、これらの多くの波浪の波向を算出するために、短時間で大量の観測データを取得することになる。そのため、処理性能の高いプロセッサや大容量のメモリが必要となり、ハードウェアリソースの設計自由度が低下する。また、特許文献4では、波浪を観測するセンサとして、ミリ波またはマイクロ波を照射するレーダーが使用されている。一般的に、レーダーは、ビームを走査させて、しかも、ビームの照射から反射波の受波との間にタイムラグが生じる。そのため、レーダーで得られたデータから、短時間で不規則に変化する小さい波浪を精度よく観測することは困難である。仮に、レーダーで得られたデータから、短時間に不規則に変化する小さい波浪を精度良く観測しようとすると、多くの信号を取得して、信号の複雑な処理が必要となる。そのため、処理性能の高いプロセッサが必要となり、ハードウェアリソースの設計自由度が低下する。
【0010】
(1)本発明の一実施形態の滑走艇航行支援装置は、以下の構成を有する。
滑走艇に搭載され、前記滑走艇から波浪をセンシングするセンサと、前記センサで取得されたデータに基づいて前記滑走艇の周囲の波浪に関連する波浪データを生成して、前記滑走艇の航行を支援するように前記波浪データに応じて波浪に関連する情報を表示する波浪表示装置、および前記滑走艇の航行を支援するように前記波浪データに応じて前記滑走艇が備える推進装置を制御する制御装置の少なくとも一方に対して前記波浪データを出力するデータ処理装置と、を含む滑走艇航行支援装置であって、前記センサは、前記センサの斜め下方の水面に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、前記センサの斜め下方の水面からの自然可視光または赤外線をグローバルシャッター方式で取得するイメージセンサであり、前記データ処理装置は、前記センサで取得された前記センサの斜め下方の水面からの自然可視光または赤外線に関連するセンサ取得データを、波浪の相互干渉で波浪が消える状態および波浪が増幅される状態の少なくとも一方を観測できるように10FPS以上100FPS以下のフレームレートで取得し、取得された複数の前記センサ取得データに基づいて、前記センサの斜め下方の波浪の高さとこの波浪が前記滑走艇に到達するまでの到達時間とに少なくとも関連する前記波浪データを1秒間に少なくとも1回生成し、生成された前記波浪データを前記波浪表示装置および前記制御装置の少なくとも一方に出力するように構成されたプロセッサを含む。
【0011】
上述したように、滑走艇は、中大型の船とは異なり、短時間に不規則に変化する小さい波浪に対処する。短時間に不規則に変化する小さい波浪は、波浪の相互干渉で消えたり増幅したりする場合がある。この構成によると、データ処理装置は、センサ取得データを10FPS以上のフレームレートで取得する。そのため、波浪の相互干渉で波浪が消える状態および波浪が増幅される状態の少なくとも一方を観測することができる。したがって、データ処理装置がセンサ取得データを10FPS以上のフレームレートで取得することにより、波浪を精度良く観測できる。また、この構成によると、データ処理装置は、センサ取得データを100FPS以下のフレームレートで取得する。データ処理装置がセンサ取得データを100FPSのフレームレートで取得する場合、波浪の観測の精度が十分に高い。そのため、たとえフレームレートを100FPSから増加させても、波浪の観測の精度はほとんど高められない。したがって、データ処理装置がセンサ取得データを取得するフレームレートとして、10FPS以上100FPS以下という範囲は、データ処理装置のハードウェアリソースの設計自由度の低下を抑制しつつ、波浪を精度よく観測できる最適な範囲である。
また、この構成によると、波浪をセンシングするセンサは、センサの斜め下方の水面に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、センサの斜め下方の水面からの自然可視光または赤外線をグローバルシャッター方式で取得するイメージセンサである。そのため、センサが、水面に対して照射されたレーザー光の反射光を取得するセンサである場合、または、ローリングシャッター方式のイメージセンサである場合に比べて、短時間で不規則に変化する小さい波浪を精度よく観測することができる。
このように滑走艇航行支援装置は、短時間に不規則に変化する小さい波浪であっても波浪の観測の精度を確保することができ、且つ、データ処理装置のハードウェアリソースの設計自由度の低下を抑制することができる。
【0012】
(2)本発明の一実施形態の滑走艇航行支援装置は、上記(1)の構成に加えて、以下の構成を有してもよい。
前記センサは、前記滑走艇の滑走状態において水平から45°以内の斜め下方を指向するように前記滑走艇に搭載されている。
【0013】
この構成によると、センサが、滑走艇の滑走状態において水平から45°より大きい角度の斜め下方を指向するように滑走艇に搭載されている場合に比べて、短期間に不規則に変化する小さい波浪をより精度良く観測することができる。
【0014】
(3)本発明の一実施形態の滑走艇航行支援装置は、上記(1)または(2)の構成に加えて、以下の構成を有してもよい。
前記センサは、ステレオカメラである。
【0015】
この構成によると、センサが単眼カメラである場合に比べて、短期間に不規則に変化する小さい波浪をより精度良く観測することができる。
【0016】
(4)本発明の一実施形態の滑走艇航行支援装置は、上記(1)~(3)のいずれかの構成に加えて、以下の構成を有してもよい。
前記データ処理装置の前記プロセッサは、前記センサの斜め下方の波浪の高さと、この波浪が前記滑走艇に到達するまでの前記到達時間と、前記滑走艇に対するこの波浪の方向とに少なくとも関連する前記波浪データを、前記波浪表示装置および前記制御装置の少なくとも一方に出力するように構成されている。
【0017】
(5)本発明の一実施形態の滑走艇航行支援装置は、上記(1)~(4)のいずれかの構成に加えて、以下の構成を有してもよい。
前記データ処理装置の前記プロセッサは、生成された前記波浪データに基づいて、生成された前記波浪データを前記波浪表示装置および前記制御装置の少なくとも一方に出力するか否かを判断する。
【0018】
この構成によると、滑走艇の航行の支援を行うという機能を確保しつつ、データ処理装置の処理の負荷を低減できる。したがって、データ処理装置のハードウェアリソースの設計自由度の低下を抑制できる。
【0019】
本発明および実施の形態において、プロセッサは、マイクロコントローラ、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マルチプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラム可能な論理回路(PLC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)および本明細書に記載する処理を実行することができる任意の他の回路が含まれる。
【0020】
本発明および実施の形態において、波浪とは、風、天気、水内の潮により形成される波浪だけでなく、滑走艇自身または他の船等の伴流における波浪を含む。本発明および実施の形態において、波浪は、1つの波の山を意味する。本発明および実施の形態において、波浪の高さは、この波浪の頂点と、この波浪(波の山)に連続する波の谷との高さの差である。本発明および実施の形態において、波浪データは、センサの斜め下方の波浪の高さとこの波浪が滑走艇に到達するまでの到達時間とに少なくとも関連するデータである。ここでの波浪の高さとは、この波浪と、この波浪よりも滑走艇に近い波の谷との高さの差である。また、ここでのセンサの斜め下方の波浪は、滑走艇の進行方向とは逆方向に進む波浪を含む。ここでのセンサの斜め下方の波浪は、滑走艇よりも遅い速度で滑走艇の進行方向と同じ方向に進む波浪を含んでもよい。波浪の高さとこの波浪が滑走艇に到達するまでの到達時間とに関連する波浪データとは、例えば、波浪の高さを具体的に示すデータを含まず、所定の高さ以上の高さの波浪が滑走艇に到達するまでの到達時間に関連する波浪データでもよい。波浪が滑走艇に到達するまでの到達時間に関連する波浪データとは、例えば、到達時間を示すデータを含む波浪データでもよく、滑走艇の速度に対する波浪の相対速度と波浪と滑走艇との間の距離とを示すデータを含む波浪データでもよい。到達時間は、相対速度と距離から算出できる。波浪が滑走艇に到達するまでの到達時間とは、波浪のある位置が、滑走艇のある位置に到達するまでの時間である。波浪が滑走艇に到達するまでの到達時間は、例えば、波浪の頂点が滑走艇の重心に到達するまでの時間でもよい。本発明および実施の形態において、複数のセンサ取得データに基づいて波浪データを1秒間に少なくとも1回生成するとは、波浪データが1秒間に少なくとも1回生成され、且つ、各波浪データが複数のセンサ取得データに基づいて生成されることを意味する。1つの波浪データは、1つの波浪にのみ関連するデータでもよく、複数の波浪に関連するデータでもよい。波浪データが波浪ごとに生成される場合、同時に複数の波浪データが生成される場合がある。
【0021】
本発明および実施の形態において、波浪表示装置が、滑走艇の航行を支援するように波浪データに応じて波浪に関連する情報を表示するとは、例えば、波浪表示装置に表示された情報に応じて、操船者が滑走艇を操縦できるように、波浪表示装置が波浪データに応じて波浪に関連する情報を表示することでもよい。別の例を挙げると、波浪表示装置に表示された情報に応じて、操船者以外の乗員が、滑走艇の波浪を乗り越える動きに備えることができるように、波浪表示装置が波浪データに応じて波浪に関連する情報を表示することでもよい。本発明および実施の形態において、制御装置が、滑走艇の航行を支援するように波浪データに応じて滑走艇が備える推進装置を制御するとは、例えば、操船者が操縦しているときに操船者の操縦を支援するように、制御装置が波浪データに応じて推進装置を制御することでもよい。別の例を挙げると、制御装置が波浪データに応じて推進装置を自動的に制御することでもよい。滑走艇は無人自動操縦船でもよい。本発明および実施の形態において、航行とは、単に船が進むことを意味し、航路に沿って船が進むという意味ではない。
【0022】
本発明および実施の形態において、自然可視光とは、例えば、太陽光に含まれる可視光である。本発明および実施の形態において、センサの斜め下方の水面に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、センサの斜め下方の水面からの自然可視光を取得するとは、例えば、センサの斜め下方の水面で反射した太陽光を取得することである。本発明および実施の形態において、センサの斜め下方の水面に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、センサの斜め下方の水面からの赤外線光を取得するとは、例えば、センサの斜め下方の水面に対して照射された赤外線のレーザー光の反射光ではなく、センサの斜め下方の水の温度に応じて水面から放射される赤外線を取得することである。なお、レーザー光は、指向性の高い光のことであり、滑走艇に搭載される照明またはカメラで撮影するためのフラッシュはレーザー光に該当しない。本発明および実施の形態において、センサが、滑走艇の滑走状態において水平から45°以内の斜め下方を指向するとは、滑走艇の滑走状態において、センサの撮影範囲の中心であるセンサの指向方向が、斜め下向きであり、且つ、水平に対して鉛直方向に45°以内の角度であることを意味する。
【0023】
本発明および本明細書において、複数の選択肢のうちの少なくとも1つ(一方)とは、複数の選択肢から考えられる全ての組み合わせを含む。複数の選択肢のうちの少なくとも1つ(一方)とは、複数の選択肢のいずれか1つでもよく、複数の選択肢の全てでもよい。例えば、AとBとCの少なくとも1つとは、Aのみでもよく、Bのみでもよく、Cのみでもよく、AとBでもよく、AとCでもよく、BとCでもよく、AとBとCでもよい。本明細書において、Aおよび/またはBとは、AおよびBの両方でもよく、Aでもよく、Bでもよいことを意味する。
【0024】
他に定義されない限り、本明細書および請求範囲で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0025】
なお、本明細書において「好ましい」という用語は非排他的なものである。「好ましい」は、「好ましいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。なお、本明細書において、「してもよい」という用語は非排他的なものである。「してもよい」は、「してもよいがこれに限定されるものではない」という意味である。本明細書において、「してもよい」は、「しない」場合があることを暗黙的に含む。
【0026】
本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されたまたは図面に図示された構成要素の構成および配置の詳細に制限されないことが理解されるべきである。本発明は、後述する実施形態以外の実施形態でも可能である。本発明は、後述する実施形態に様々な変更を加えた実施形態でも可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の滑走艇航行支援装置は、短時間に不規則に変化する小さい波浪であっても波浪の観測の精度を確保することができ、且つ、ハードウェアリソースの設計自由度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は本発明の第1実施形態の滑走艇航行支援装置を説明する模式図である。
図2図2は本発明の第2実施形態の滑走艇航行支援装置を説明する模式図である。
図3図3は本発明の第3実施形態の滑走艇航行支援装置のデータ処理装置の処理手順を示すフローチャートである。
図4図4は本発明の第4実施形態の滑走艇航行支援装置のデータ処理装置の処理を説明するための図である。
図5図5は本発明の第5実施形態の滑走艇航行支援装置のデータ処理装置から波浪データを取得する波浪表示装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1実施形態の滑走艇航行支援装置1について図1を用いて説明する。滑走艇航行支援装置1は、滑走艇20に搭載される。滑走艇20は、半滑走型の船または滑走型の船である。滑走艇航行支援装置1は、センサ2と、データ処理装置3とを含む。データ処理装置3は、プロセッサ3aを有する。センサ2は、滑走艇20に搭載される。センサ2は、滑走艇20から水面30をセンシングする。それにより、センサ2は、滑走艇20から波浪31をセンシングする。データ処理装置3は、図示しない記憶部も有する。データ処理装置3のプロセッサ3aは、センサ2で取得されたセンサ取得データDsに基づいて滑走艇20の周囲の波浪31に関連する波浪データDwを生成する。データ処理装置3のプロセッサ3aは、波浪表示装置4および制御装置5の少なくとも一方に対して、生成された波浪データDwを出力する。図1では、波浪表示装置4および制御装置5は、滑走艇航行支援装置1に含まれていないが、波浪表示装置4および制御装置5は、滑走艇航行支援装置1に含まれていてもよい。また、図1では、波浪データDwは、波浪表示装置4および制御装置5の両方に出力されているが、波浪表示装置4または制御装置5にのみ出力されてもよい。波浪表示装置4は、滑走艇20の航行を支援するように波浪データDwに応じて波浪31に関連する情報を表示する。制御装置5は、滑走艇20の航行を支援するように波浪データDwに応じて滑走艇20が備える推進装置10を制御する。センサ2は、センサ2の斜め下方の水面30に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、センサ2の斜め下方の水面30からの自然可視光または赤外線をグローバルシャッター方式で取得するイメージセンサである。つまり、センサ2で取得されるセンサ取得データDsは、センサ2の斜め下方の水面30からの自然可視光または赤外線に関連する。データ処理装置3のプロセッサ3aは、センサ2で取得されたセンサ取得データDsを、波浪31の相互干渉で波浪31が消える状態および波浪31が増幅される状態の少なくとも一方を観測できるように10FPS以上100FPS以下のフレームレートで取得する。データ処理装置3のプロセッサ3aは、センサ2で取得されたセンサ取得データDsを、波浪31の相互干渉で波浪31が消える状態および波浪31が増幅される状態の両方を観測できるように10FPS以上100FPS以下のフレームレートで取得してもよい。データ処理装置3のプロセッサ3aは、取得された複数のセンサ取得データDsに基づいて、センサ2の斜め下方の波浪31の高さとこの波浪31が滑走艇20に到達するまでの到達時間とに少なくとも関連する波浪データDwを生成する。波浪データDwは、1秒間に少なくとも1回生成される。データ処理装置3のプロセッサ3aは、生成された波浪データDwを、波浪表示装置4および制御装置5の少なくとも一方に出力する。
【0030】
第1実施形態の滑走艇航行支援装置1は、短時間に不規則に変化する小さい波浪31であっても波浪31の観測の精度を確保することができ、且つ、データ処理装置3のハードウェアリソースの設計自由度の低下を抑制することができる。また、波浪データDwは、センサ2の斜め下方の波浪31の高さとこの波浪31が滑走艇20に到達するまでの到達時間とに関連する。そのため、波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援に活かしやすい。
【0031】
なお、データ処理装置3のプロセッサ3aが行う上述の処理は、ある状況においてデータ処理装置3のプロセッサ3aが行う処理に過ぎない。水面30に波浪31がほとんど生じていない場合には、データ処理装置3のプロセッサ3aはたとえセンサ取得データDsを取得しても、波浪データDwを生成しない場合がある。また、水面30の状態によっては、データ処理装置3のプロセッサ3aはたとえ波浪データDwを生成していても、波浪データDwを出力しない場合がある。
【0032】
次に、本発明の第2実施形態の滑走艇航行支援装置1について図2を用いて説明する。第2実施形態の滑走艇航行支援装置1は、第1実施形態の構成を有する。図2中の矢印Csは、センサ2の指向方向を示す。センサ2の指向方向Csは、センサ2の撮影可能範囲の中心である。図2中の角度θは、センサ2の指向方向Csと、滑走艇20の滑走状態における水平方向となす角度の一例を示す。角度θは45°より小さい。但し、角度θは図2に示す角度に限定されない。このように、センサ2は、滑走艇20の滑走状態において水平から45°以内の斜め下方を指向するように滑走艇20に搭載されている。この構成によると、センサ取得データDsから小さい波浪31を精度良く検出することができる。したがって、短期間に不規則に変化する小さい波浪31を精度良く観測することができる。
【0033】
センサ2の水平画角および垂直画角α(図2参照)は、滑走艇20から約50m離れた小さい波浪31を精度良く検出できるような値に設定されることが好ましい。画角が大きくなるほど、滑走艇20から遠い波浪31の検出の精度は低下する。なお、水平画角は、センサ2の撮影可能範囲の上端から下端までの角度であり、垂直画角αは、撮影可能範囲の左端から右端までの角度である。なお、垂直画角αは、図2に示す角度に限定されない。
【0034】
センサ2は、ステレオカメラでもよく、単眼カメラでもよい。センサ2がステレオカメラの場合、データ処理装置3のプロセッサ3aは、2つのカメラで撮影された2つの画像の視差を利用して、センサ2から波浪31までの距離を算出できる。センサ2が単眼カメラの場合、データ処理装置3のプロセッサ3aは、例えば、レンズの収差等を利用して、センサ2から波浪31までの距離を算出できる。センサ2がステレオカメラの場合、センサ2が単眼カメラである場合に比べて、センサ取得データDsから小さい波浪31をより精度良く検出することができる。したがって、短期間に不規則に変化する小さい波浪31をより精度良く観察しやすい。
【0035】
次に、本発明の第3実施形態の滑走艇航行支援装置1について図3を用いて説明する。第3実施形態の滑走艇航行支援装置1は、第1実施形態または第2実施形態の構成を有する。本実施形態のデータ処理装置3のプロセッサ3aは、制御装置5に波浪データDwを出力する。図3は、本実施形態のデータ処理装置3のプロセッサ3aが行う処理の手順を示すフローチャートである。
【0036】
プロセッサ3aは、センサ2からセンサ取得データDsを取得する(ステップS1)。図3のフローチャートは処理手順を理解しやすいように簡略的に表現したものである。後述するステップS6等の終了を待たずにステップS1は行われてよい。プロセッサ3aは10FPS以上100FPS以下のフレームレートでセンサ取得データDsをセンサ2から取得する。プロセッサ3aはセンサ取得データDsを例えば10FPS以上40FPS以下で取得してもよい。プロセッサ3aはセンサ取得データDsを例えば10FPS以上30FPS以下で取得してもよい。プロセッサ3aはセンサ取得データDsを例えば10FPS以上15FPS以下で取得してもよい。プロセッサ3aはセンサ取得データDsを例えば15FPS以上100FPS以下で取得してもよい。
【0037】
プロセッサ3aは、取得されたセンサ取得データDsに基づいて、センサ2の斜め下方にある、所定の高さ以上の高さの波浪31を検出する(ステップS2)。滑走艇20は、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する。そのため、ステップS2で検出される波浪31の最低高さである所定の高さは40cm程度が好ましい。所定の高さ以上の高さの波浪31が検出されなかった場合(ステップS3:No)、処理はステップS1に戻る。
【0038】
所定の高さ以上の高さの波浪31が検出された場合(ステップS3:Yes)、プロセッサ3aは、取得された複数のセンサ取得データDsに基づいて、波浪データDwを生成する(ステップS4)。具体的には、プロセッサ3aは、所定の高さ以上の高さの波浪31が滑走艇20に到達するまでの到達時間と、この波浪31の高さを算出して、波浪データDwを生成する。
【0039】
ステップS4において、プロセッサ3aは、例えば、センサ2が異なるタイミングで取得した2つのセンサ取得データDsに基づいて、波浪31の到達時間を算出する。センサ2が異なるタイミングで取得した2つのセンサ取得データDsから、滑走艇20の速度に対する波浪31の相対速度がわかる。また、1つのセンサ取得データDsから、波浪31と滑走艇20との間の距離がわかる。そのため、センサ2が異なるタイミングで取得した2つのセンサ取得データDsから、波浪31の到達時間を予測することができる。波浪31の到達時間の算出は、ステップS2で検出された全ての波浪31に対して行われてもよい。波浪31の到達時間の算出は、ステップS2で検出された波浪31の一部にのみ行われてもよい。具体的には、例えば、プロセッサ3aは、滑走艇20までの距離が所定の距離よりも短い波浪31の到達時間だけを算出してもよい。また、例えば、プロセッサ3aは、滑走艇20に近い波浪31から順に到達時間を算出し、閾値以下の到達時間が算出されると、この到達時間を有する波浪31よりも滑走艇20から離れた位置の波浪31の到達時間を算出しなくてもよい。閾値は例えば2秒でもよい。閾値は例えば3秒でもよい。3秒という数値は、約40km/hの速度で進む滑走艇20から約50m程度離れた位置に約17km/hの速度で滑走艇20に向かって進む波浪31がある場合に、この波浪31が滑走艇20に到達するまでの到達時間に相当する。なお、40km/hという速度は、滑走艇20が滑走状態で航行するときの一般的な速度である。17km/hという速度は、滑走艇20が滑走状態で航行する環境における波浪31の一般的な速度である。ステップS4において、波浪31の高さの算出は、到達時間が算出された波浪31だけに対して行われてもよい。波浪31の高さの算出は、ステップS2で検出された全ての波浪31に対して行われてもよい。ステップS4において生成される波浪データDwは、少なくとも、波浪31の到達時間を示すデータと、この到達時間を有する波浪31の高さを示すデータを含む。ステップS4において生成される波浪データDwは、波浪31の到達時間を示すデータと、この到達時間を有する波浪31の高さを示すデータと、滑走艇20に対する波浪31の方向を示すデータを含んでいてもよい。つまり、波浪データDwは、波浪31の高さ、波浪31の到達時間、および、滑走艇20に対する波浪31の方向に関連していてもよい。
【0040】
次に、プロセッサ3aは、第1閾値T1以上第2閾値T2以下の到達時間が算出されたかどうか判断する(ステップS5)。第1閾値T1以上第2閾値T2以下の到達時間が算出された場合(ステップS5:Yes)、プロセッサ3aは、第1閾値T1以上第2閾値T2以下の到達時間を有する波浪31に関連する波浪データDwを、制御装置5に出力する(ステップS6)。プロセッサ3aは、第2閾値T2より短い到達時間を有する波浪31に関連する波浪データDw、および、第1閾値T1より長い到達時間を有する波浪31に関連する波浪データDwは、制御装置5に出力しない。第1閾値T1は、センサ2でほとんど検出できないほど滑走艇20に近い位置の向かい波が、一般的な速度で滑走状態で航行している滑走艇20に到達するまでの到達時間に相当する値に設定される。第1閾値T1は例えば1秒でもよい。第2閾値T2は例えば2秒でもよい。第2閾値T2は、ステップS4で到達時間の算出の切り分けに使用した閾値と同じでもよく、それより小さくてもよい。第1閾値T1以上第2閾値T2以下の到達時間が算出されなかった場合(ステップS5:No)、処理はステップS1に戻る。以上の処理をデータ処理装置3のプロセッサ3aは行う。
【0041】
プロセッサ3aの処理手順はステップS5およびステップS6を含む。そのため、本実施形態のプロセッサ3aは、生成された波浪データDwに基づいて、生成された波浪データDwを制御装置5に出力するか否かを判断している。滑走艇20は、ステップS2で検出された波浪31と必ず接触するとは限らない。接触する前に波浪31が消失する場合がある。本実施形態では、接触する可能性の高い波浪31に関連する波浪データDwだけが制御装置5に出力されるため、滑走艇20の航行の支援を行うという機能を確保しつつ、データ処理装置3および制御装置5の処理の負荷を低減できる。
【0042】
制御装置5は、取得された波浪データDwに応じて、推進装置10を制御する。制御装置5は、取得された波浪データDwに含まれる波浪31の到達時間を示すデータと波浪31の高さを示すデータに応じて、滑走艇20の加減速を制御するように推進装置10を制御する。推進装置10は、エンジンユニットと、エンジンユニットに連結されたドライブユニットを含んでいてもよい。エンジンユニットは、エンジンの燃焼室に供給される空気量を調整するスロットル弁を含む。推進装置10がこのような構成である場合、制御装置5は、例えば、スロットル弁の開度を変更するタイミングと、スロットル弁の開度を制御することで、滑走艇20の加減速を制御する。このように、制御装置5に出力された波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援に活かすことができる。制御装置5に出力された波浪データDwが滑走艇20に対する波浪31の方向にも関連している場合、制御装置5は、波浪データDwに応じて、滑走艇20の加減速と操舵を制御してもよい。制御装置5に出力された波浪データDwが、波浪31の高さ、波浪31の到達時間、および滑走艇20に対する波浪31の方向に関連している場合、制御装置5に出力された波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援により活かしやすい。
【0043】
なお、第3実施形態において、波浪31の高さの算出は、ステップS4の代わりにステップS2で行われてもよい。第3実施形態において、プロセッサ3aは波浪31の高さを算出しなくてもよい。つまり、生成される波浪データDwは、波浪31の高さを示すデータを含んでいなくてもよい。この場合でも、波浪データDwは、所定の高さよりも高い波浪31の到達時間に関連するため、波浪31の高さと到達時間に関連している。但し、波浪データDwが波浪31の高さを示すデータを含んでいる方が、制御装置5に出力された波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援により活かしやすい。
【0044】
次に、本発明の第4実施形態の滑走艇航行支援装置1について図4を用いて説明する。第4実施形態の滑走艇航行支援装置1は、第1実施形態または第2実施形態の構成を有する。本実施形態のデータ処理装置3のプロセッサ3aは、第3実施形態と同じく、制御装置5に波浪データDwを出力する。
【0045】
第3実施形態と同様に、プロセッサ3aは、センサ2から取得したセンサ取得データDsに基づいて、センサ2の斜め下方にある、所定の高さ以上の高さの波浪31を検出する。所定の高さ以上の高さの波浪31が検出された場合、プロセッサ3aは、取得した複数のセンサ取得データDsに基づいて、所定の高さ以上の高さの波浪31をトラッキングするとともに、波浪データDwを生成する。具体的には、プロセッサ3aは、複数のセンサ取得データDsから検出された波浪31が同じであるか否かを判定し、同じ波浪31である場合は、滑走艇20に対する波浪31の方向および滑走艇20に対する波浪31の相対的な移動方向などを互いに関連付けることによって、波浪31をトラッキングする。水面30の状況によっては、プロセッサ3aは、複数の波浪31を並行してトラッキングする。プロセッサ3aは、トラッキングされた波浪31が滑走艇20に到達するまでの到達時間と、この波浪31の高さを算出して、波浪データDwを生成する。生成される波浪データDwは、波浪31の到達時間を示すデータと、この到達時間を有する波浪31の高さを示すデータと、滑走艇20に対する波浪31の方向および滑走艇20に対する波浪31の相対的な移動方向を示すデータを含む。つまり、第4実施形態で生成される波浪データDwは、波浪31の高さ、波浪31の到達時間、滑走艇20に対する波浪31の方向、および滑走艇20に対する波浪31の相対的な移動方向に関連している。トラッキングは、到達時間が第3閾値T3以下の波浪31に対してのみ行われてもよい。第3閾値T3は例えば3秒である。第3閾値T3は後述する第2閾値T2より大きい。図4は、ある瞬間にトラッキングされている複数の波浪31の位置と到達時間との関係を示す図である。
【0046】
プロセッサ3aは、トラッキングしている波浪31の到達時間が第1閾値T1以上第2閾値T2以下の場合に、この波浪31に関連する波浪データDwを、制御装置5に出力する。トラッキングを開始した時点での波浪31の到達時間が第2閾値T2よりも長い場合、プロセッサ3aは、この波浪31の到達時間が第2閾値T2以下まで短くなったときに、この波浪31に関連する波浪データDwの出力を開始する。そして、この波浪31の到達時間が第1閾値T1以下になるまで、この波浪31に関連する波浪データDwの出力を継続する。但し、波浪31は、到達時間が第2閾値T2以下まで短くなる前、または、到達時間が第1閾値T1より短くなる前に、消える場合がある。第1閾値T1は、第3実施形態の第1閾値T1と同じく、センサ2でほとんど検出できないほど滑走艇20に近い位置の向かい波が、一般的な速度で滑走状態で航行している滑走艇20に到達するまでの到達時間に相当する値に設定される。第1閾値T1は例えば1秒でもよい。第2閾値T2は例えば2秒でもよい。
【0047】
第3実施形態と同様に、本実施形態のプロセッサ3aは、生成された波浪データDwに基づいて、生成された波浪データDwを制御装置5に出力するか否かを判断している。そのため、滑走艇20の航行の支援を行うという機能を確保しつつ、データ処理装置3および制御装置5の処理の負荷を低減できる。また、本実施形態の波浪データDwは、波浪31の高さ、波浪31の到達時間、滑走艇20に対する波浪31の方向および滑走艇20に対する波浪31の相対的な移動方向に関連しているため、制御装置5に出力された波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援により活かしやすい。
【0048】
次に、本発明の第5実施形態の滑走艇航行支援装置1について図5を用いて説明する。第5実施形態の滑走艇航行支援装置1は、第1~第4実施形態の少なくとも1つの構成を有する。本実施形態のデータ処理装置3のプロセッサ3aは、波浪表示装置4に波浪データDwを出力する。
【0049】
第3実施形態および第4実施形態と同様に、プロセッサ3aは、センサ2から取得したセンサ取得データDsに基づいて、センサ2の斜め下方にある、所定の高さ以上の高さの波浪31を検出する。所定の高さ以上の高さの波浪31が検出された場合、プロセッサ3aは、第4実施形態と同様に、取得した複数のセンサ取得データDsに基づいて、所定の高さ以上の高さの波浪31をトラッキングするとともに、波浪データDwを生成する。但し、第5実施形態で生成される波浪データDwは、波浪31の高さを示すデータを含まなくてよい。第5実施形態で生成される波浪データDwは、所定の高さ以上の高さの波浪31の到達時間を示すデータと、滑走艇20に対する波浪31の方向を示すデータを少なくとも含む。したがって、第5実施形態で生成される波浪データDwは、波浪31の高さ、波浪31の到達時間、および、滑走艇20に対する波浪31の方向に少なくとも関連している。第4実施形態と同様に、トラッキングは、到達時間が第3閾値T3以下の波浪31に対してのみ行われてもよい。第3閾値T3は例えば3秒である。第3閾値T3は、第3実施形態および第4実施形態の第3閾値T3と同じでよい。
【0050】
プロセッサ3aは、トラッキングしている波浪31の到達時間が第2閾値T2よりも大きい値から第2閾値T2以下の値に変化したときに、この波浪31に関連する波浪データDwを、波浪表示装置4に出力する。第2閾値T2は例えば2秒でもよい。第2閾値T2は、第3実施形態および第4実施形態の第2閾値T2と同じでよい。本実施形態のプロセッサ3aは、生成された波浪データDwに基づいて、生成された波浪データDwを制御装置5に出力するか否かを判断している。そのため、滑走艇20の航行の支援を行うという機能を確保しつつ、データ処理装置3および波浪表示装置4の処理の負荷を低減できる。
【0051】
波浪表示装置4は、取得された波浪データDwに応じて情報を表示する。波浪表示装置4は操船者および/または操船者以外の乗員が見やすいように滑走艇20に少なくとも1台設置される。波浪表示装置4が波浪データDwに応じた情報を表示することで、波浪表示装置4に出力された波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援に活かすことができる。
【0052】
図5は波浪表示装置4の一例を示す。以下、図5の波浪表示装置4の表示について説明する。波浪表示装置4は、10個のライト41a~41e、42a~42eを有する。ライト41a~41eは、ライト42a~42eよりも滑走艇20への到達時間が長い波浪31を表す。ライト41a~41eは、滑走艇20に対する波浪31の方向が互いに異なる波浪31を表す。ライト42a~42eも同じである。ライト41a、42aは、イメージセンサ2の撮影可能範囲の右端近傍の波浪31を表す。ライト41e、42eは、イメージセンサ2の撮影可能範囲の左端近傍の波浪31を表す。
【0053】
波浪表示装置4は波浪データDwを取得すると、滑走艇20に対する波浪31の方向に応じて、ライト41a~41eのうちいずれか1つを所定時間点灯させる。図5は、ライト41bが点灯している状態を示す。ライト41a~41eの点灯時間は、一定時間(例えば1秒)でもよく、波浪データDwに応じて設定されてもよい。波浪表示装置4は、ライト41a~41eのいずれかの1つを所定時間点灯させた後、ライト42a~42eのうち、滑走艇20に対する方向が同じライトを所定時間点滅させる。例えばライト41bが点灯した後は、ライト42bが点滅する。ライト42a~42eの点滅時間は、例えば、ライト42a~42eの点滅を開始してから滑走艇20が波浪31と接触するまでの時間でもよい。この時間は波浪データDwに含まれる到達時間から算出される。
【0054】
波浪31の情報をライト41a~41e、42a~42eで表すことにより、波浪31の情報を数字や動きのある絵で表した場合に比べて、揺れている環境でも使用者(操船者または操船者以外の乗員)が即座に理解しやすい。波浪表示装置4は、複数の波浪31に対応する複数のライトを同時に点灯(点滅を含む)させない。それにより、揺れている環境でも使用者が即座に理解しやすい。ライト41a~41eは連続点灯し、ライト42a~42eは点滅するため、連続点灯と点滅の違いから、揺れている環境でも使用者が即座に理解しやすい。ライト41a~41eは、ライト42a~42eと異なる色でもよい。ライトの色の違いから、揺れている環境でも使用者が即座に理解しやすい。この場合、ライト41a~41eとライト42a~42eはどちらも連続点灯またはどちらも点滅でもよい。
【0055】
次に、本発明の第6実施形態の滑走艇航行支援装置1について用いて説明する。第6実施形態の滑走艇航行支援装置1は、第1~第4実施形態の少なくとも1つの構成を有する。本実施形態のデータ処理装置3のプロセッサ3aは、波浪表示装置4に波浪データDwを出力する。
【0056】
第3~第5実施形態と同様に、プロセッサ3aは、センサ2から取得したセンサ取得データDsに基づいて、センサ2の斜め下方にある、所定の高さ以上の高さの波浪31を検出する。所定の高さ以上の高さの波浪31が検出された場合、プロセッサ3aは、取得した複数のセンサ取得データDsに基づいて、波浪データDwを生成する。本実施形態では、第3実施形態と同様に、波浪31のトラッキングは行われない。第6実施形態で生成される波浪データDwは、波浪31の高さを示すデータを含まなくてよい。第6実施形態で生成される波浪データDwは、滑走艇20に対する波浪31の方向を示すデータを含むことが好ましいが、含まなくてもよい。第6実施形態で生成される波浪データDwは、所定の高さ以上の高さの波浪31の到達時間を示すデータを少なくとも含む。したがって、第6実施形態で生成される波浪データDwは、波浪31の高さおよび波浪31の到達時間に少なくとも関連している。
【0057】
プロセッサ3aは、第1閾値T1以上第2閾値T2以下の到達時間を有する波浪31に関連する波浪データDwを、波浪表示装置4に出力する。もしくは、プロセッサ3aは、第2閾値T2の近傍の到達時間を有する波浪31に関連する波浪データDwを、波浪表示装置4に出力する。プロセッサ3aが第2閾値T2より長い到達時間を算出して波浪データを生成している場合、この構成によると、プロセッサ3aは、生成された波浪データDwに基づいて、生成された波浪データDwを制御装置5に出力するか否かを判断していることになる。そのため、滑走艇20の航行の支援を行うという機能を確保しつつ、データ処理装置3および波浪表示装置4の処理の負荷を低減できる。第1閾値T1は例えば1秒でもよい。第1閾値T1は、第3実施形態および第4実施形態の第2閾値T2と同じでよい。第2閾値T2は例えば2秒でもよい。第2閾値T2は、第3~第5実施形態の第2閾値T2と同じでよい。
【0058】
波浪表示装置4は、取得された波浪データDwに応じて情報を表示する。波浪表示装置4が波浪データDwに応じた情報を表示することで、波浪表示装置4に出力された波浪データDwを、短時間に不規則に変化する小さい波浪31に対処する滑走艇20の航行の支援に活かすことができる。波浪表示装置4は、図5に示すライト41a~41e、42a~42eを有する波浪表示装置4でもよく、これ以外の表示手段を有する波浪表示装置4でもよい。例えば、波浪表示装置4は、図4に示すように波浪31の位置と到達時間との関係を表示するように構成されていてもよい。この場合、プロセッサ3aは、生成された波浪データDwを全て波浪表示装置4に出力してもよい。もしくは、プロセッサ3aは、第1閾値T1以上第3閾値T3以下の到達時間を有する波浪31に関連する波浪データDwを、波浪表示装置4に出力してもよい。第3閾値T3は例えば3秒である。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0060】
なお、本発明のデータ処理装置のプロセッサは、本発明の波浪データを出力すると共に、少なくとも1つのセンサ取得データに基づいて生成された波浪に関連するデータであって本発明の波浪データに相当しないデータを出力してもよい。つまり、プロセッサは、波浪の高さおよび波浪の到達時間の少なくとも一方に関連しないデータを、波浪表示装置および制御装置の少なくとも一方に出力してもよい。波浪の高さおよび波浪の到達時間の少なくとも一方に関連しないデータとは、例えば、所定の高さ以上の高さを有する波浪が検出されたことだけを示すデータでもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 滑走艇航行支援装置
2 センサ
3 データ処理装置
3a プロセッサ
4 波浪表示装置
5 制御装置
10 推進装置
20 滑走艇
30 水面
31 波浪
Cs 指向方向
Ds センサ取得データ
Dw 波浪データ
【要約】
滑走艇航行支援装置(planing boat sailing assisting device)(1)は、滑走艇(20)に搭載されるセンサ(2)とデータ処理装置(3)を有する。センサは、水面(30)に対して照射されたレーザー光の反射光ではなく、センサの斜め下方の水面からの自然可視光または赤外線をグローバルシャッター方式で取得する。データ処理装置は、センサで取得されたセンサ取得データを10FPS以上100FPS以下のフレームレートで取得し、取得された複数のセンサ取得データに基づいて、波浪の高さとこの波浪の到達時間に少なくとも関連する波浪データを、1秒間に少なくとも1回生成する。データ処理装置は、生成された波浪データを波浪表示装置および制御装置の少なくとも一方に出力する。
図1
図2
図3
図4
図5