IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ コーニング コーポレーションの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】高周波減衰シリコーンゲル
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20230322BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20230322BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20230322BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20230322BHJP
   G02B 7/08 20210101ALI20230322BHJP
   G02B 7/28 20210101ALI20230322BHJP
【FI】
C08G75/045
C08L83/07
C08L83/08
G02B7/04 E
G02B7/04 D
G02B7/08 A
G02B7/28 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022545961
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 US2021012469
(87)【国際公開番号】W WO2021158327
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】62/969,705
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イ、ギュヨン
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、ミンヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ユンジン
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171189(JP,A)
【文献】特開平09-183908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00- 75/32
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)45~60重量パーセントの、末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、
(b)0より大きく同時に10以下であるSiO 4/2 シロキサンユニットに対するR SiO 1/2 シロキサンユニットの平均モル比においてRSiO1/2シロキサンユニット及びSiO4/2シロキサンユニットを含む、39重量パーセント~50重量パーセント未満のアルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂であって、Rは、各出現において、1~10個の炭素原子を含むアルキル基からなる群から独立して選択される、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂と、
(c)0.5~15重量パーセントのメルカプト官能性直鎖状ポリオルガノシロキサン架橋剤と、
(d)0.01~0.1重量パーセントのラジカル安定剤と、
(e)0.01~3重量パーセントのチオール-エン光重合開始剤と、
(f)0~10重量パーセントのヒュームドシリカと、
(g)0~5重量パーセントのポリジメチルシロキサンと、を含む、組成物であって、
重量パーセントの値は組成物の重量に対するものであり、前記組成物は、0.3より大きく同時に0.8未満であるSH/ビニル官能基のモル比を有し、前記組成物は、アルケニル官能性ポリオルガノシロキサン樹脂を含まず、アルコキシシリル含有成分を含まず、RSHSiO3/2シロキサンユニットを含むポリシロキサンを含まず、RSHはメルカプト基含有ヒドロカルビルである、組成物。
【請求項2】
前記組成物は、環状ヒンダードアミンを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記メルカプト官能性直鎖状ポリオルガノシロキサン架橋剤は、以下のシロキサンユニット:(RSiO1/2)、(RSiO2/2)、及び(RR’SiO2/2)を含み、各出現におけるRは、水素及びヒドロカルビルから選択され、R’は末端チオール基を有するアルキルである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
各Rはメチルであり、R’は-CHCHCHSHである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、(RSiO3/2)シロキサンユニットを有するポリシロキサンを含まず、Rは、アルケニル及び/又はチオール官能基を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、アルコキシ官能性ポリシロキサンを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(a)請求項1に記載の組成物を基材に塗布することと、
(b)前記組成物を露光して、チオール-エン反応による硬化を開始させることと、を含む、プロセス。
【請求項8】
前記基材は、レンズアセンブリ又はカメラアセンブリの他の部分の構成要素である、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物の未硬化体又は硬化体を基材上に含む物品。
【請求項10】
前記基材は、レンズアセンブリ又はカメラの構成要素である、請求項9に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化してゲルを形成することのできるポリシロキサン組成物であって、当該ゲルが高周波減衰ゲルとして機能し得るポリシロキサン組成物に関する。
【0002】
序論
現在、携帯電話のカメラでは、レンズのフォーカシングにボイスコイルモーター(VCM:voice coil motor)デバイスを使用する傾向にある。VCMデバイスを有するカメラは、一般的に、VCMを動作させるためのVCMドライバーも有する。VCMとVCMドライバーの組合せは、フォーカスを変える際にレンズから発生する音を最小限に抑えるために望ましい。VCMには、レンズが伸長されるときに伸びるばねが含まれているが、ばねの動きによって機械的なリンギング(ringing)も発生し、カメラモジュールとの共振周波数において問題となることがある。カメラモジュールの共振周波数は、一般には50ヘルツ(Hz)~150Hzの範囲にある。レンズからのリンギングを減衰させるため、VCMドライバーは、共振周波数の発生を最小限に抑えるように最適な電流ランプを生成するよう設計されている。
【0003】
減衰ゲルは、VCMドライバーを使用する代わりとして望ましく、VCMドライバーに置き換わることによってカメラユニットのサイズを縮小できると考えられる。しかしながら、減衰ゲルの課題は、必要な特性を有するゲルを見つけることであり、必要な特性として、(i)70Hzにおけるタンデルタ(TanDelta)値が1.0~5.0の範囲内であること、(ii)アプリケーションにおいて長寿命であるように、1~70Hzの周波数範囲にわたりタンデルタの測定時に裂けないこと、が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゲルによる振動の減衰は一般的に知られているが、低周波の減衰が対象である。VCMデバイスに関連付けられる高周波数(70Hz帯)の減衰は新しく、この高周波数帯における減衰能力及び耐久性(割れや裂けに対する耐性)を兼ね備えたゲルを見つけることが課題である。
【0005】
本発明は、硬化して減衰ゲルを形成する組成物であって、減衰ゲルが、(i)70Hzにおいて1.0~5.0の範囲内のタンデルタ値を有し、(ii)1~70Hzの周波数範囲にわたってタンデルタを測定する際に裂けない、組成物を提供する。
【0006】
驚くべきことに、39~50重量パーセント未満のアルケニル非含有シリコーン樹脂(70Hzのタンデルタのため)を含み、ケイ素原子対ビニル比が0.3超(裂けを防止するため)を使用する特定の反応組成物から調製されるチオール-エン硬化シリコーンゲルは、これらの特性を有する減衰ゲルであることが発見された。
【0007】
驚くべきことに、そして予想外に、本発明の硬化組成物は、高周波(70Hz)振動を減衰させるためにVCMデバイスを有するカメラ付き携帯電話などの物品に使用することができる。
【0008】
第1の態様において、本発明は、(a)末端ビニル官能基を有する45~65重量パーセントの直鎖状ポリオルガノシロキサンと、(b)0より大きく同時に10以下の平均モル比においてRSiO1/2及びSiO4/2シロキサンユニットを含む、39重量パーセント~50重量パーセント未満のアルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂であって、Rが、各出現において、1~10個の炭素原子を含むアルキル基からなる群から独立して選択される、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂と、(c)0.5~15重量パーセントのメルカプト官能性直鎖状ポリオルガノシロキサン架橋剤と、(d)0.01~0.1重量パーセントのラジカル安定剤と、(e)0.01~3重量パーセントのチオール-エン光重合開始剤と、(f)0~10重量パーセントのヒュームドシリカと、(g)0~5重量パーセントのポリジメチルシロキサンと、を含む、組成物であって、重量パーセントの値は組成物の重量に対するものであり、組成物は、0.3より大きく同時に0.8未満であるSiH/ビニル官能基のモル比を有し、組成物は、アルケニル官能性ポリオルガノシロキサン樹脂を含まず、アルコキシシリル含有成分を含まず、RSHSiO3/2シロキサンユニットを含むポリシロキサンを含まず、RSHはメルカプト基含有ヒドロカルビルである、組成物である。
【0009】
第2の態様において、本発明は、(a)第1の態様の組成物を基材に塗布することと、(b)組成物を露光して、チオール-エン反応による硬化を開始させることと、を含む、プロセスである。
【0010】
第3の態様において、本発明は、第1の態様の組成物の未硬化体又は硬化体を基材上に含む物品である。
【0011】
本発明の組成物は、70Hzにおけるタンデルタ値が1.0~5.0の範囲内であり、かつ1~70Hzの周波数範囲にわたりタンデルタを測定する際に裂けない減衰ゲルに硬化させるのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
試験方法は、日付が試験方法の番号と共に示されていない場合、本文書の優先日に直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含む。本明細書では、以下の試験方法の略語及び識別子が適用される。ASTMは、ASTMインターナショナル(ASTM International)を指し、ENは、欧州規格(European Norm)を指し、DINは、ドイツ規格協会(Deutsches Institut fuer Normung)を指し、ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)を指す。
【0013】
「複数の」とは、2つ以上を意味する。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、端点を含む。商品名で識別される製品は、本明細書に別途記載のない限り、本文書の優先日において、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0014】
「ポリシロキサン」は、複数のシロキサン結合を含むポリマーを指す。ポリシロキサンは、当該技術分野において、SiO4/2(「Q」型)、RSiO3/2(「T」型)、RSiO2/2(「D」型)、及びRSiO1/2(「M」型)として知られているものから選択されるシロキサンユニットを含む。R基の下付き文字は、ケイ素原子に結合しているR基の数を示す。酸素の下付き文字は、別のケイ素にも結合している、ケイ素に結合している酸素の数を示し(すなわち、ケイ素原子がどのようにシロキサン結合、「Si-O-Si」結合に参加しているか)、酸素は別のケイ素原子と共有されているため、各酸素の半分だけが各ケイ素原子に結合していると考えられるので2で割った数である。したがって、D型ユニットは、2つのR基に結合したケイ素原子を含み、2つの酸素を別のケイ素原子と共有しているため、2つの半分の酸素原子を含むことになる。一般に、R基は、-OSi(すなわち、ケイ素へのシロキサン結合)以外の任意の置換基であり得る。一般に、R基は、水素、又は炭素-ケイ素結合を介してケイ素原子に結合したヒドロカルビルである。しかしながら、本明細書で最も広い範囲におけるR基は、水素又は炭素以外の原子、例えば硫黄又は酸素でケイ素原子に結合した基であることもできる。例えば、R基は、ヒドロキシル基又はアルコキシル基から選択することができ、これらはまとめて「OZ」基と称される。29Si核磁気共鳴分光法(29Si NMR:nuclear magnetic resonance spectroscopy)を使用して、ポリシロキサンの組成を決定する。Varian XL-400分光計を使用して、試料の29Si NMRを実施する。29Si NMRの情報を13C NMR及びH NMRで補い、R基の特性を明らかにする。
【0015】
「ポリシロキサン樹脂」とは、ポリシロキサン中のシロキサンユニットの総モル数に対して、T型及びQ型シロキサンユニットの合計が10モル%以上であるポリシロキサンを意味する。ポリオルガノシロキサン樹脂は、ポリシロキサン中のシロキサンユニットの総モル数に対して、T型及びQ型シロキサンユニットの組合せを20モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、更には90モル%以上含むことができる。
【0016】
「直鎖状ポリシロキサン」とは、M型シロキサンユニットで終端するD型シロキサンユニットを含み、かつT型及びQ型シロキサンユニットの合計を、ポリシロキサン中の全シロキサンユニットに対して3モル%以下、好ましくは2モル%以下、より好ましくは1モル%以下含むか、又は0モル%含むことができる、ポリシロキサンを指す。
【0017】
「ポリオルガノシロキサン」とは、有機基であるR基を含むT型、D型、及び/又はM型シロキサンユニットを有するポリシロキサンを意味する。
【0018】
「ヒドロカルビル」は、置換炭化水素又は非置換炭化水素から誘導される1価のラジカルである。置換炭化水素は、別の原子又は置換基で置換された1個又は2個以上の水素原子又は炭素原子を有する。ここで、各出現におけるヒドロカルビルは、置換又は非置換のいずれでもよく、それぞれ置換炭化水素又は非置換炭化水素のいずれかから誘導されるヒドロカルビルに対応する。
【0019】
本発明の組成物は、末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンを含む。望ましくは、直鎖状ポリオルガノシロキサンは、一連のD型シロキサンユニットの両端における2つのビニル官能性M型シロキサンユニットからなる。直鎖状ポリオルガノシロキサンは、式(I):
【化1】
[式中、Viはビニル基を指し、Rは、各出現において、1~10個の炭素を有するヒドロカルビル基から独立して選択され、好ましくはRは、各出現において、1~10個の炭素を有するアルキル基及びアルケニル基からなる群から選択され、より好ましくはRは、各出現において、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、及びヘプチル基からなる群から選択される]の組成物を有することができる。下付き文字dは、ポリオルガノシロキサン中の[RSiO2/2]シロキサンユニットの1分子あたりの平均数を指し、一般には10以上、20以上、30以上、40以上、又は50以上であり、100以上、110以上、120以上、130以上、140以上、150以上、200以上、250以上、275以上、280以上、更には290以上であってもよく、同時に、一般には500以下、450以下、400以下、350以下、325以下、300以下、更には290以下である。末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンは、各出現におけるRがメチルであり、dが40~290の範囲である式1の組成物から選択することができる。
【0020】
末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンは、一般には、組成物中に、組成物重量に対して、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上の濃度で存在し、60重量%以上であってもよく、同時に、一般に65重量%以下、60重量%以下であり、55重量%以下、更には50重量%以下であってもよい。
【0021】
本発明の組成物は、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂を含む。アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、M型(RSiO1/2)及びQ型(SiO4/2)シロキサンユニットを含み、Rは、各出現において、1~10個の炭素原子を含むアルキル基からなる群から独立して選択され、好ましくは各R基はメチルである。Q型シロキサンユニットに対するM型シロキサンユニットの平均モル比は、0より大きく、好ましくは0.8以上、0.9以上、最も好ましくは1以上であり、同時に望ましくは1.2以下、好ましくは1.1以下、最も好ましくは1.0以下である。アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、シロキサンユニットの総モル数に対して15モル%以下、好ましくは12モル%以下、10モル%以下、8モル%以下、6モル%以下、4モル%以下、2モル%以下の量のT型ユニット、特にTOHユニット((HO)SiO3/2)を含むことができる。望ましくは、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、M型シロキサンユニット、Q型シロキサンユニット、及び任意選択でT型シロキサンユニットからなる。アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、アルケニル官能基を有さない。
【0022】
アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、望ましくは19,500ダルトン(Da)以上の数平均分子量を有し、20,000Da以上、21,000Da以上、22,000Da以上、更には23,000Da以上であることができ、同時に一般には24,000Da以下、23,500Da以下、23,000Da以下である。シールウォッシュ、デガッサ、及びWaters 2414屈折率検出器を備えたWaters 2695分離モジュールを使用して、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC:gel permeation chromatography)により、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂の数平均分子量を決定する。カラムとして、3本の(7.8×300ミリ)Styragel HRカラム(分子量分離範囲100~4,000,000)、及びトルエンを用いるStyragelガードカラム(4.6×30ミリ)を使用する。試料は、HPLCグレードのテトラヒドロフランにおける0.5重量%溶液として調製し、0.45マイクロメートルのポリテトラフルオロエチレンシリンジフィルターで濾過する。流量は毎分1ミリリットル、検出器及びカラムの温度45℃、注入体積100マイクロリットル、ランタイム60分を使用する。
【0023】
アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、組成物重量に対して39重量%以上、40.3重量%以上、更には45重量%以上の濃度で存在し、同時に、50重量%以下、45重量%以下、又は40.3重量%以下である。
【0024】
本発明の組成物は、メルカプト官能性直鎖状ポリオルガノシロキサン架橋剤(「架橋剤」)を含む。この架橋剤は、末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンとは異なる別の材料である。架橋剤は、M型及びD型シロキサンユニットを含む、又はM型及びD型シロキサンユニットからなるポリシロキサンであり、M及び/又はDシロキサンユニットの少なくとも1つのR基は、ヒドロカルビル基、好ましくはアルキル基がシロキサンユニットのケイ素原子に結合するアルキル鎖の反対側の末端に好ましくはメルカプト官能基(これはチオール官能基:-SHとしても知られている)(すなわち「末端チオール基」)を含むアルキル基である。望ましくは、架橋剤は、MユニットのR基がアルキル基であり、一部又は全てのDユニットのR基がメルカプト官能性アルキル基であり、好ましくはそれぞれが末端チオール基を有し、Dユニットの残りのR基がアルキル基であるM型及びD型シロキサンユニットを含むか、又はそれらからなる。架橋は、以下のシロキサンユニット(RSiO1/2)、(RSiO2/2)、及び(RR’SiO2/2)を含むか、又はそれらからなることができ、各出現におけるRは、ヒドロカルビル、好ましくはアルキル(最も好ましくはメチル基)から選択され、R’は末端チオール基を有するアルキルである。架橋剤は、メルカプト基含有ヒドロカルビルを含むT型シロキサンユニット(RSHSiO3/2シロキサンユニット、但し、RSHはメルカプト基含有ヒドロカルビルである)を含有しない。好適なメルカプト官能性ヒドロカルビル基の例としては、-CHSH、-CHCHSH、-CHCHCHSH、及び-CHCHCHCHSHから選択される任意の1つ、又は2つ以上の組合せが挙げられる。
【0025】
好適な架橋剤の例としては、次の式:
【化2】
[式中、各R及びR’は、架橋剤について先に定義したとおりであり、下付き文字d’及びd’’は、分子あたりの関連するシロキサンユニットの平均数を示す]を有するものから選択される任意の1つ、又は2つ以上の任意の組合せが挙げられる。下付き文字d’は、一般には1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、更には10以上の値を有し、同時に一般には100以下、75以下、50以下の値を有し、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、10以下、更には8以下、6以下、又は5以下であってもよい。下付き文字d’’は、一般には0以上、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、更には10以上の値であり、同時に一般には100以下、75以下、50以下の値を有し、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、10以下、更には8以下、6以下、又は5以下であってもよい。望ましくは、R基はアルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0026】
架橋剤は、一般には、組成物の重量に対して0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、更には5重量%以上の濃度で存在し、同時に一般には15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、更には2重量%以下である。同時に、末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンに対する架橋剤の相対濃度は、SiHとビニル官能基のモル比(SiH/ビニル官能基)が0.3より大きく、好ましくは0.4以上、0.5以上、更には0.6以上であり、同時に0.8未満であり、0.7以下、0.6以下、0.5以下、更に0.4以下であってもよい。SiHとビニル官能基のモル比が0.3以下であるときには、得られる硬化組成物は、70Hz範囲の振動周波数にさらされたときの裂けに抵抗する十分な架橋を有さない。SiHとビニル官能基のモル比が0.8以上であるときには、70Hz範囲におけるタンデルタが、1~5の所望の範囲から外れる。
【0027】
本発明の組成物は、ラジカル安定剤(「抗酸化剤」、「阻害剤」、又は「スカベンジャー」)を更に含む。好適な安定剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(「BHT」)、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-t-ブチル-4-エチルフェノールなどのモノフェノール、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)などのビスフェノール、並びに1,1,3-トリス(t-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)(ブタン、1,3,5,-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼイン、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス(4’-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)ブチル酸グリコールエステル、及びトコフェロール]などの高分子フェノ-ルからなる群から選択される任意の1つの成分、又は2つ以上の成分の組合せが挙げられる。
【0028】
ラジカル安定剤は、組成物重量に対して、一般には0.01重量%以上、0.03重量%以上、0.05重量%以上、更には0.08重量%以上、同時に一般には0.10重量%以下、0.8重量%以下、0.05重量%以下、更には0.03重量%以下の濃度で存在する。
【0029】
本発明の組成物は、チオール-エン光重合開始剤(「開始剤」)を更に含む。開始剤は、光に露光されたときにフリーラジカルを発生させる。望ましくは、開始剤は、可視光開始剤、紫外光開始剤、又はこれらの組合せである。最も好ましくは、開始剤は、紫外光光開始剤である。好適な可視光開始剤の例としては、カンファーキノンパーオキシエステル開始剤(camphoquinone peroxyester initiator)、非フルオレンカルボン酸パーオキシエステル開始剤、イソプロピルチオキサントンなどのアルキルチオキサントンからなる群から選択される任意の1つ、又は複数の化合物の任意の組合せが挙げられる。好適な紫外光開始剤の例としては、ベンゾフェノン、置換ベンゾフェノン、アセトフェノン、置換アセトフェノン、ベンゾイン及びそのアルキルエステル、キサントン、及び置換キサントンからなる群から選択される任意の1つ、又は複数の化合物の任意の組合せが挙げられる。特に望ましい紫外光開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン(DEAP:diethoxyacetophenone)、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジエトキシキサントン、クロロチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、N-メチルジエタノールアミンベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0030】
開始剤は、一般には組成物重量に対して0.01重量%以上、0.05重量%以上、0.10重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、更には2重量%以上の濃度で存在し、同時に一般には3重量%以下、2重量%以下、更には1重量%以下の濃度で存在する。
【0031】
本発明の組成物は、組成物の重量に対して10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、更には1重量%以下の濃度でヒュームドシリカを更に含むことができる。組成物は、ヒュームドシリカを含まなくてもよい。
【0032】
本発明の組成物は、ポリジメチルシロキサン(PDMS:polydimethyl siloxane)を更に含むことができる。PDMSは、粘度調整剤として、特に組成物の粘度を低下させるために所望され得る。一般には、PDMSは、組成物の重量に対して5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、更には1重量%以下の濃度で組成物中に存在する。組成物は、PDMSを含まなくてもよい。
【0033】
本発明の組成物は、アルコキシシリル含有成分、アルケニル官能性ポリオルガノシロキサン樹脂、及びRSHSiO3/2シロキサンユニット(RSHはメルカプト基含有ヒドロカルビル)を含むポリシロキサンのいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組合せを必要とせず、これらを含まないことができる。
【0034】
更に、本組成物は、環状ヒンダードアミン、中空ガラスフィラー、ガラス中空ガラスフィラー以外の中空フィラー、(RSiO3/2)シロキサンユニット(Rはアルケニル官能基を含む)、及びアルコキシ官能性ポリシロキサンのいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組合せを含まなくてもよい。
【0035】
本発明の組成物は、減衰特性を有するゲルに硬化させるのに有用である。一般に、本発明の組成物を硬化させるには、本組成物を基材に塗布し、組成物を露光してチオール-エン反応による硬化を開始させる。一般には、この方法は、最初に基材に塗布し、次に光に当てて硬化させるという順序で行われる。硬化に使用される光は、通常では紫外線である。基材は任意の基材とすることができるが、本発明の組成物は、カメラアセンブリに使用するための高周波減衰材料に硬化させるために特に有用であるため、基材は望ましくはレンズアセンブリ又はカメラアセンブリの他の部分の構成要素である。例えば、本発明の組成物をレンズアセンブリの1つ又は複数のばねに塗布し、ばね上の組成物を光に当てることによって硬化させて、ばねに接触している減衰材を形成することができる。この点において、本発明は、特に基材がレンズアセンブリ又はカメラの構成要素であるとき、基材上に本発明の組成物の未硬化体又は硬化体を含む物品を更に含む。
【実施例
【0036】
表1は、試料の成分を列挙しており、その組成は表2及び表3にあり、各成分の値は、組成物の重量に対する重量%で記載されている。表2及び表3には、試料組成物の特性、及び硬化後の試料組成物の特性も示している。
【0037】
試料の調製
3つのステップのプロセスで試料を調製する。最初に、末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂をガラスフラスコに一緒に入れることによって、樹脂/ポリマーマスターバッチを調製する。フラスコを攪拌し、振ってよく混ぜ合わせる。有機溶媒をRoto-vapで除去する。次に、安定剤とチオール-エン光重合開始剤を小さなカップ又は容器に一緒に入れることによって、安定剤/開始剤マスターバッチを調製する。成分が均質になるまで混合し、紫外線への暴露を避ける。次に、樹脂/ポリマーマスターバッチ、安定剤開始剤マスターバッチ、架橋剤、シリカ(使用時)、及びPDMS(使用時)をカップ又は容器に一緒に入れる。成分が均質になるまで混合し、紫外線への暴露を避ける。
【0038】
試料の硬化
30ミリリットルのポリエチレンカップに5~10グラムの試料を入れる。カップ内の試料を遠心分離して、水平にする。試料に395ナノメートルの光を0.5~1分間、1平方センチメートルあたり1ワットの光量で照射する。
【0039】
試料の特性評価
貫入値及び貫入深さ。硬化後、RIGO RPM-201ペネトロメーターを使用して、1/4スケールプランジャー(8.241g)を用いて貫入値を測定する。貫入試験では、最初に、25℃±1℃でカップの中の材料を水平にする。カップの中、試料の上に1/4スケールプランジャーを10秒間落下させ、試料に穴を形成する。測定器がこの穴の貫入値及び貫入深さを記録する。この方法は、ASTM D-1403に基づいている。
【0040】
タンデルタ。Parallel Plate 25と固定プレート固定具(stationary plat fixtures)との間に、直径約25ミリ、厚さ約1ミリの円形となるように数グラムの試料材料を配置する。試料を紫外線照射器に封入し、完全に硬化させる。試料の蓄積変調度(storage modulate)が飽和レベルに達した時点で、周波数掃引をかけ、1Hzから100Hzまでのタンデルタ値を測定する。温度を25℃に維持し、振幅/ひずみを3%に固定し、1Hz~100Hzの周波数範囲を適用する。分析器が、硬化した試料にねじり振動を与えながら、所定の振幅及び周波数設定でゆっくりと移動させる。Anton Paar社のMCR 502モデル装置を使用する。この試験方法は、ASTM D4473及びASTM D330に基づいている。
【0041】
【表1】
【表2】
【表3】
【0042】
試料1は、末端ビニル官能基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサン、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂、架橋剤、安定剤、及び開始剤のみを有する本発明の組成物を示している。70Hzにおけるタンデルタ値は、所望の1.0~5.0の範囲内である。
【0043】
試料2及び試料3は、ヒュームドシリカの含有量を変えた以外は、試料1と同様の組成物を示している。70Hzにおけるタンデルタ値は、1.0~5.0の範囲内である。
【0044】
試料4~6は、末端ビニル官能基を有しSiH/Viモル比が0.4~0.6の範囲である異なる直鎖状ポリオルガノシロキサンを用いた以外は試料1と同様の組成物を示している。70Hzにおけるタンデルタ値は、所望の1.0~5.0の範囲内である。
【0045】
試料7は、PDMSを添加した、試料1と同様の組成物を示している。70Hzにおけるタンデルタ値は、所望の1.0~5.0の範囲内である。
【0046】
試料8は、末端ビニル官能基を有する異なる直鎖状ポリオルガノシロキサンを使用した以外は、試料1と同様の組成物を示している。70Hzでのタンデルタ値は、所望の1.0~5.0の範囲内である。
【0047】
試料9は、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂を除いた以外は、試料8と同様の組成物を示している。70Hzにおけるタンデルタ値は、1.0~5.0の望ましい範囲を下回っており、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂の必要性を示している。
【0048】
試料10及び試料11は、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂の代わりにビニル官能性ポリオルガノシロキサン樹脂を使用した以外は、試料1と同様である。70Hzにおけるタンデルタ値は、1.0~5.0の望ましい範囲を下回っており、樹脂がアルケニル非含有である必要性を示している。
【0049】
試料12は、試料8と似ているが、SiH/Viのモル比が0.3である。70Hzにおけるタンデルタ値は、試験中に試料が裂けたため測定不能であった。この試料は70Hzで使用するには十分な耐久性がなく、SiH/Viのモル比が0.3より大きい必要があることを示している。
【0050】
試料13は、試料1と似ているが、SiH/Viのモル比が0.8である。70Hzにおけるタンデルタ値は、望ましい1.0~5.0を下回っており、SiH/Viのモル比が0.8未満である必要があることを示している。
【0051】
試料14~18は、アルケニル非含有ポリオルガノシロキサン樹脂が、組成物の39~50重量%未満の範囲の濃度で存在する必要性を示している。39重量%未満の場合、タンデルタ値は1.0~5.0を下回る。50%の場合、試料はゲルではないためタンデルタは測定不能である。