(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20230322BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20230322BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20230322BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01M10/12 K
H01M50/46
(21)【出願番号】P 2022559780
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2021048800
(87)【国際公開番号】W WO2022149543
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021000882
(32)【優先日】2021-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】322003570
【氏名又は名称】エンテックアジア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100118094
【氏名又は名称】殿元 基城
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】景山 大輝
(72)【発明者】
【氏名】蔀 貴史
(72)【発明者】
【氏名】大西 正輝
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517713(JP,A)
【文献】特開2005-197145(JP,A)
【文献】特開2001-210302(JP,A)
【文献】特開2006-228637(JP,A)
【文献】特表2013-508917(JP,A)
【文献】特開2016-184710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-497
H01M 10/06-22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液式鉛蓄電池に用いられる鉛蓄電池用セパレータであって、多孔質バックウェブ及び前記バックウェブの両面それぞれから延びている複数のリブとから成り、正極極板に接触する側の面にあるリブが破断リブであって、該形状が、2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブ、または1か所以上の変曲点を有する曲線状の破断リブで
あり、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブ間の隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において最も近くに配置されている、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブ間の隙間が、セパレータの上下方向(MD方向)から見た場合に重なり合うことのないことを特徴とする鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記破断リブが、屈曲角度が互いに異なるもの、または線分の長さが互いに異なるものが含まれることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記破断リブが、2回の回転対称性を有することを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
前記破断リブが、両端に位置する線分どうしが互いに略平行な直線状の破断リブであることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
前記破断リブが、すべての屈曲点における屈曲角度が90度以上、180度より小さい形状を有する直線状の破断リブであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項6】
前記破断リブが、屈曲点を2つ有する直線状の破断リブであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項7】
前記破断リブが、変曲点における接線と隣接する変曲点における接線がなす内角の角度、もしくは変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上、180度より小さい形状を有する曲線状の破断リブであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項8】
前記破断リブが、変曲点を1つ有し、変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上、180度より小さい形状を有する曲線状の破断リブであることを特徴とする請求項7記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項9】
複数の前記破断リブが、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに略水平に配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項10】
複数の前記破断リブが、前記破断リブと、セパレータの上下方向(MD方向)において該破断リブと隣接する他の前記破断リブとが、セパレータの上下方向(MD方向)において完全に重りあうことのないように配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項11】
複数の前記破断リブが、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の前記破断リブと前記破断リブとの間に形成される隙間が、セパレータの上下方向(MD方向)に隣接して配置される、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する他の1組の前記破断リブと前記破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)に
おいて重りあうことのないように配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項12】
複数の前記破断リブが、前記破断リブとセパレータの水平方向(CD方向)に対して右側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間が、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して右側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において重りあうことのないように配置されているか、または、前記破断リブとセパレータの水平方向(CD方向)に対して左側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間が、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して左側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において重りあうことのないように配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のセパレータを使用したことを特徴とする鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔を存して複数のリブを設けた、リブ付き微多孔質フィルムからなる鉛蓄電池用セパレータと該セパレータを用いた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、自動車メーカーは限られた資源の有効活用と温暖化防止の為、燃料消費量の低減および温室効果ガス排出抑制に努めており、その一形態としてガソリンによる駆動とブレーキ時のエネルギー回生やアイドリングストップの再始動をモーターで行うマイクロハイブリッド方式がある。
【0003】
マイクロハイブリッド方式では、ブレーキ回生によるエネルギー回収およびアイドリングストップにより過剰なエネルギー消費を抑えることができ、燃料消費効率を改善することができる。
【0004】
マイクロハイブリッド方式は、完全電気自動車(フルEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などの大容量の充電池が不要であることから、安価に燃料消費効率の改善が可能であるため、現在軽自動車を中心に多くの車に搭載されている。
【0005】
しかしながら、マイクロハイブリッド方式では、アイドリングストップ動作により車両の停止中に空調やオーディオ、各種の表示灯に使用される電力をすべて蓄電池からの電気で賄わなければならず、従来のガソリン車に比べて蓄電池への負担が大きくなっている。
【0006】
自動車用に用いられる鉛蓄電池では、充電時に生じた硫酸は電池底部に沈降し、電池の頂部では放電時に発生した水が、それぞれの比重差により分離し、層をなすことが知られており、この現象を成層化と呼んでいる。モーターとのハイブリッドでない従来のガソリン車では、鉛蓄電池は充電時に過度な充電状態となることで、過剰に供給された電力によって水の電気分解によりガスを生じ、ガスの上昇により上記、成層化を解消することができた。
【0007】
しかし、マイクロハイブリッド方式等の充電制御車ではアイドリングストップ動作によって過度な充電は抑制され、水の電気分解で生じるガスの量は極小化されるので、成層化された電池はガスによる攪拌作用を受けないため、部分充電によって生じた成層化は解消されにくくなっている。
【0008】
鉛蓄電池の出力電圧、並びに充電電気量は電解液の濃度に依存することが知られており、充電量や電池の劣化度合いのモニターは電解液濃度を参考に行われている。しかし、成層化によって鉛蓄電池の頂部、底部の電解液濃度に差が生じることで、充電量や電池の劣化度合いを正常に判定できなくなり、電池制御の信頼性低下や電池そのものの短命化を引き起こしている。
【0009】
液式鉛蓄電池では、現在広く用いられているポリエチレンセパレータの形状により成層化の抑制・解消を行う試みがなされており(例えば、特許文献1、および特許文献2参照)、セパレータに対する期待が大きくなっている。
【0010】
鉛蓄電池の電池信頼性(アイドリングストップ動作時での長寿命化、充電量検知の安定性)が求められている。このため、電解液の成層化を抑制するために、電槽内部における電解液の動きを制御するために様々なリブ形状のセパレータが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2018-530126号公報
【文献】特開平2-94253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、電解液の成層化を抑制し、鉛蓄電池の電池信頼性(アイドリングストップ動作時での長寿命化、充電量検知の安定性)を向上できる鉛蓄電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、本発明の鉛蓄電池用セパレータは以下の特徴を有する鉛蓄電池用セパレータである。
(1)液式鉛蓄電池に用いられる鉛蓄電池用セパレータであって、多孔質バックウェブ及び前記バックウェブの両面それぞれから延びている複数のリブとから成り、正極極板に接触する側の面にあるリブが破断リブであって、該形状が、2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブ、または1か所以上の変曲点を有する曲線状の破断リブであることを特徴とする鉛蓄電池用セパレータ。
(2)前記破断リブが、屈曲角度が互いに異なるもの、または線分の長さが互いに異なるものが含まれることを特徴とする上記(1)記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(3)前記破断リブが、2回の回転対称性を有することを特徴とする上記(1)記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(4)前記破断リブが、両端に位置する線分どうしが互いに略平行な直線状の破断リブであることを特徴とする上記(1)記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(5)前記破断リブが、すべての屈曲点における屈曲角度が90度以上、180度より小さい形状を有する直線状の破断リブであることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(6)前記破断リブが、屈曲点を2つ有する直線状の破断リブであることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(7)前記破断リブが、変曲点における接線と隣接する変曲点における接線がなす内角の角度、もしくは変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上、180度より小さい形状を有する曲線状の破断リブであることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(8)前記破断リブが、変曲点を1つ有し、変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上、180度より小さい形状を有する曲線状の破断リブであることを特徴とする上記(7)記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(9)複数の前記破断リブが、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに略水平に配置されていることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(10)複数の前記破断リブが、前記破断リブと、セパレータの上下方向(MD方向)において該破断リブと隣接する他の前記破断リブとが、セパレータの上下方向(MD方向)において完全に重りあうことのないように配置されていることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(11)複数の前記破断リブが、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の前記破断リブと前記破断リブとの間に形成される隙間が、セパレータの上下方向(MD方向)に隣接して配置される、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する他の1組の前記破断リブと前記破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において完全に重りあうことのないように配置されていることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(12)複数の前記破断リブが、前記破断リブとセパレータの水平方向(CD方向)に対して右側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間が、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して右側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において重りあうことのないように配置されているか、または、前記破断リブとセパレータの水平方向(CD方向)に対して左側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間が、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して左側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接する前記破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において重りあうことのないように配置されていることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれかに記載の鉛蓄電池用セパレータ。
(13)上記(1)~(12)のいずれかに記載のセパレータを使用したことを特徴とする鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、電槽内部における電解液の動きを制御するために有効な形状の破断リブを有し、該破断リブを電槽内部における電解液の動きを有効に制御できるように配置しているので、電解液の成層化を抑制することができ、電解液の成層化に伴う電池制御の信頼性低下や電池寿命の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブの一例である。
【
図2】セパレータの正極極板に接触する側の面に配置された破断リブの配置例である。
【
図3】セパレータの正極極板に接触する側の面に配置された破断リブの配置例である。
【
図4】セパレータの正極極板に接触する側の面に配置された破断リブの配置例である。
【
図5】セパレータの正極極板に接触する側の面に配置された破断リブの配置例である。
【
図6】セパレータの正極極板に接触する側の面に配置された破断リブの配置例である。
【
図7】セパレータの正極極板に接触する側の面に配置された破断リブの配置例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、多孔質バックウェブ及び前記バックウェブの両面それぞれから延びている複数のリブとから成り、正極極板に接触する側の面にあるリブが、2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブ、または1か所以上の変曲点を有する曲線状の破断リブであるものとする。こうすることで、充電時に生じる高比重の電解液(硫酸)の電池底部(下方)への移動を阻害して、電解液の成層化を抑制することができる。
【0017】
図1は、本発明の鉛蓄電池用セパレータに用いられる、前記2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブの一例である。
図1に示す直線状の破断リブは、屈曲点を2か所有しており、この場合の、(a)、(b)、(c)は、それぞれ直線状の破断リブの線分を表す。
前記2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブとしては、2回の回転対称性を有するもの、例えば線分(a)と線分(b)がなす内角の角度(屈曲角度)と、線分(b)と線分(c)がなす内角の角度(屈曲角度)が同じであって、線分(a)と線分(c)の長さが同じであるもの、が好ましく用いられるが、線分(a)と線分(b)がなす内角の角度(屈曲角度)と、線分(b)と線分(c)がなす内角の角度(屈曲角度)が異なるもの、または線分(a)と線分(c)の長さが異なるものであってもよい。
【0018】
本発明において、前記2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブとしては、両端に位置する線分、例えば線分(a)と線分(c)が互いに略平行、すなわち線分(a)と線分(b)がなす内角の角度(屈曲角度)と、線分(b)と線分(c)がなす内角の角度(屈曲角度)の差が10度以内であるものが好ましく、5度以内であるものがより好ましい。
【0019】
本発明において、前記2か所以上の屈曲点を有し、連続する2つの屈曲点でそれぞれ逆側に屈曲する直線状の破断リブとしては、すべての屈曲点における屈曲角度(内角の角度)が90度以上であって180度より小さいものが好ましく、120度以上であって150度以下であるものがより好ましい。
また、偶数の屈曲点を有するものが好ましく、屈曲点を2つ有するものがより好ましい。
【0020】
本発明の鉛蓄電池用セパレータに用いられる、前記1か所以上の変曲点を有する曲線状の破断リブにおける線分とは、曲線状の破断リブにおける隣接する極値点と極値点との間、および破断リブ末端と隣接する極値点との間を意味する。
前記1か所以上の変曲点を有する曲線状の破断リブとしては、2回の回転対称性を有するもの、例えば変曲点を1つ有する曲線状の破断リブの場合、隣接する2つの極値点における曲率半径が同じであって、2つの破断リブ末端と隣接する極値点との間に位置する2つの線分の長さが同じであるもの、が好ましく用いられるが、隣接する2つの極値点における曲率半径が異なるもの、または2つの破断リブ末端と隣接する極値点との間に位置する2つの線分の長さが異なるものであってもよい。
【0021】
本発明において、前記1か所以上の変曲点を有する曲線状の破断リブとしては、変曲点における接線と隣接する変曲点における接線がなす内角の角度、もしくは変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上であって180度より小さいものが好ましく、120度以上であって150度以下であるものがより好ましい。
また、奇数の変曲点を有することが好ましく、変曲点を1つ有することがより好ましく、変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上であって180度より小さいものが好ましく、120度以上であって150度以下であるものがより好ましい。
【0022】
本発明の鉛蓄電池用セパレータに用いられる破断リブは、全長(例えば、
図1に示す直線状の破断リブにおいては、線分(a)、線分(b)、および線分(c)の長さの総和)は5~40mm、高さは0.05~1.20mm、幅は0.5~2.0mm(好ましくは0.5mm~1.0mm)であることが好ましい。また、破断リブの垂直な断面形状は、四角形状、台形状、半円形状、頂面がドーム形状の長方形状、頂面がドーム形状の台形状、高さ方向の辺が曲線的な台形状、頂面の角が面取りされた四角形状、二等辺三角形状であることが好ましい。
【0023】
自動車用に用いられる鉛蓄電池では、充電時に正極極板で生じる高比重の硫酸はその比重差によって電池底部(下方)に沈降し、電解液の成層化を発生させる。
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、特定の形状を有する破断リブを正極極板に接触する側の面に配置することによって、充電時に生じる高比重の硫酸の電池底部(下方)への移動を阻害して、電解液の成層化を抑制することができるものである。
【0024】
正極極板で生じる高比重の硫酸は、セパレータの正極極板に接触する側の面を伝って電池底部(下方)に沈降する。このとき、正極極板に接触する側の面に配置された、前記特定の形状を有する破断リブによって、硫酸の電池底部(下方)への移動が阻害される。
【0025】
本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、さらに、この硫酸の電池底部(下方)への移動に際して、電池上部から電池底部へ直線的に下方移動することが阻害され、ジグザグに下方移動するように、前記特定の形状を有する破断リブを配置している。
すなわち、
図2~5に示される破断リブの配置例のように、本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに略水平に破断リブを配置することによって、硫酸の電池底部(下方)への移動が阻害される。
例えば、
図1に示される直線状の破断リブの場合、線分(b)、もしくは線分(a)および/または線分(c)がセパレータの水平方向(CD方向)に対して90度以内の傾きで配置されていることが好ましく、60度以内の傾きで配置されていることがより好ましい。
また、例えば、変曲点を1つ有する曲線状の破断リブの場合、変曲点における接線がセパレータの水平方向(CD方向)に対して45度以内の傾きで配置されていることが好ましく、30度以内の傾きで配置されていることがより好ましく、10度以内の傾きで配置されていることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、充電時に生じた硫酸が配置された破断リブに直線的な下方移動を阻害され、ジグザグに下方移動するように、セパレータの上下方向(MD方向)で隣接する破断リブどうしがセパレータの上下方向(MD方向)から見て完全に重りあうことのないように配置されていることが好ましい。
【0027】
本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、充電時に生じた硫酸が、破断リブと、該破断リブとセパレータの水平方向(CD方向)で隣接する別の破断リブとの間(隙間)をすり抜けて、電池上部から電池底部へ直線的に(セパレータの上下方向に対して平行に)下方移動することがないように、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)に隣接して配置される、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する他の1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりが50%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、0%であることがさらに好ましい。
この場合の、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間とは、
図3~5の破断リブの配置例に示されるような、セパレータの水平方向(CD方向)
に対して略平行に配置されている1組の隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間をいう。
例えば、
図4の破断リブの配置例において最上部左側に配置されている1組の隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において下に隣接して配置されている、上から2列目左側に配置されている1組の隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間とは、セパレータの上下方向(MD方向)から見て、重なりは見られない(重なり0%)。
図3および
図5に示される破断リブの配置例においても同様である。
また、
図2に示される破断リブの配置例の場合では、例えば、左から3番目の列の上から1番目に配置されている破断リブと、左から2列目の上から1番目に配置されている破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において下に隣接して配置されている隙間である、左から2列目の上から1番目に配置されている破断リブと、左から3番目の列の上から2番目に配置されている破断リブとの間に形成される隙間とは、セパレータの上下方向(MD方向)から見て、重なりは見られない(重なり0%)。
本発明の鉛蓄電池用セパレータにおいて、上記の関係(1組の隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において下に隣接して配置されている、別の1組の隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なり具合)を維持しながら配置されている破断リブが、セパレータの正極極板に接触する側の面に配置されている破断リブ全体で、50%以上であることが好ましい。
【0028】
また、セパレータの最上部もしくは最下部に配置されている場合を除き、破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間と、該破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりが50%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、0%であることがさらに好ましい。
この場合において、破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間とは、例えば、
図2の破断リブの配置例において、左から2番目の列の上から2番目に配置されている破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブ、すなわち、左から3列目の上から3番目に配置されている破断リブとの間に形成される隙間(該破断リブの端部と隣接する別の破断リブとの間の最短距離)を意味する。
また、該破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間とは、例えば、
図2の破断リブの配置例において、左から2番目の列の上から2番目に配置されている破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブ、すなわち、左から3列目の上から2番目に配置されている破断リブとの間に形成される隙間(該破断リブと隣接する別の破断リブの端部との間の最短距離)を意味する。
そして、
図2の破断リブの配置例においては、この2つの隙間は、セパレータの上下方向(MD方向)から見た場合に、重なりは見られない(重なり0%)。
同様に、セパレータの最上部もしくは最下部に配置されている場合を除き、破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって左側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間と、該破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって左側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりが50%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、0%であることがさらに好ましい。
この場合において、破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって左側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間とは、例えば、
図2の破断リブの配置例において、右から2番目の列の上から3番目に配置されている破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって左側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブ、すなわち、右から3列目の上から2番目に配置されている破断リブとの間に形成される隙間(該破断リブと隣接する別の破断リブの端部との間の最短距離)を意味する。
また、該破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって左側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間とは、例えば、
図2の破断リブの配置例において、右から2番目の列の上から3番目に配置されている破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって左側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブ、すなわち、右から3列目の上から3番目に配置されている破断リブとの間に形成される隙間(該破断リブの端部と隣接する別の破断リブとの間の最短距離)を意味する。
そして、
図2の破断リブの配置例においては、この2つの隙間は、セパレータの上下方向(MD方向)から見た場合に、重なりは見られない(重なり0%)。
【0029】
図2の破断リブの配置例で示される破断リブは、屈曲点を2つ有する直線状の破断リブであり、両端に位置する線分どうしが互いに略平行であって、すべての屈曲点における屈曲角度が90度以上で、180度より小さい形状を有している。
そして、破断リブの線分(b)(
図1参照)が、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに略水平になるように配置されている。さらに、セパレータの最上部もしくは最下部に配置されている場合を除いて、破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと最も近くに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間と、該破断リブと、該破断リブのセパレータの水平方向(CD方向)に対して向かって右側に位置し、該破断リブと2番目の近さに隣接して配置されている別の破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりがないよう(重なり0%)に配置されている。
このような配置とすることによって、正極極板で生じた硫酸は、セパレータの正極極板に接触する側の面を伝って電池底部(下方)に沈降するとき、配置されている破断リブによって直線的な下方移動が阻害され、破断リブの形状に沿うように移動する。そして、破断リブの形状に沿うように移動した硫酸は、破断リブのセパレータの上下方向(MD方向)における下端の端部(隣接する一組の破断リブの間に形成される隙間)より、電池底部(下方)に沈降することとなるが、セパレータの上下方向(MD方向)に対して下方に隣接して配置されている別の破断リブによって直線的な下方移動が阻害され、該破断リブの形状に沿うように移動する。このように、正極極板で生じた硫酸は、電池上部から電池底部へ直線的に下方移動することが阻害され、配置されている破断リブとその形状によってジグザグに下方移動するため、電解液の成層化を発生させにくくすることができるものと考えられる。
【0030】
図3の破断リブの配置例で示される破断リブは、屈曲点を2つ有する直線状の破断リブであり、両端に位置する線分どうしが互いに平行であって、すべての屈曲点における屈曲角度が90度以上で、180度より小さい形状を有している。
そして、破断リブの線分(a)および線分(c)(
図1参照)が、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに水平になるように配置されている。さらに、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)に隣接して配置される、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する他の1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりがないよう(重なり0%)に配置されている。
このような配置とすることによって、
図2に示される配置例と同様に、正極極板で生じた硫酸は、電池上部から電池底部へ直線的に下方移動することが阻害され、配置されている破断リブとその形状によってジグザグに下方移動するため、電解液の成層化を発生させにくくすることができるものと考えられる。
【0031】
図4の破断リブの配置例で示される破断リブは、屈曲点を2つ有する直線状の破断リブであり、両端に位置する線分どうしが互いに平行であって、すべての屈曲点における屈曲角度が90度である形状を有している。
そして、破断リブの線分(b)(
図1参照)が、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに水平になるように配置されている。さらに、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)に隣接して配置される、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する他の1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりがないよう(重なり0%)に配置されている。
このような配置とすることによって、
図2に示される配置例と同様に、正極極板で生じた硫酸は、電池上部から電池底部へ直線的に下方移動することが阻害され、配置されている破断リブとその形状によってジグザグに下方移動するため、電解液の成層化を発生させにくくすることができるものと考えられる。
【0032】
図5の破断リブの配置例で示される破断リブは、変曲点を1つ有する曲線状の破断リブであり、変曲点における接線とリブ先端部分における接線がなす内角の角度が90度以上で、180度より小さい形状を有している。
そして、破断リブの変曲点における接線が、セパレータの水平方向(CD方向)に対して、互いに略水平になるように配置されている。さらに、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)に隣接して配置される、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する他の1組の破断リブと破断リブとの間に形成される隙間との、セパレータの上下方向(MD方向)から見た重なりがないよう(重なり0%)に配置されている。
このような配置とすることによって、
図2に示される配置例と同様に、正極極板で生じた硫酸は、電池上部から電池底部へ直線的に下方移動することが阻害され、配置されている破断リブとその形状によってジグザグに下方移動するため、電解液の成層化を発生させにくくすることができるものと考えられる。
【0033】
本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、セパレータの大きさを115mm×120mmとした場合、破断リブの数は、セパレータの水平方向(CD方向)で4~20個、セパレータの上下方向(MD方向)で10~20個配置されることが好ましく、セパレータの水平方向(CD方向)で5~10個、セパレータの上下方向(MD方向)で10~15個配置されることがより好ましい。
【0034】
本発明の鉛蓄電池用セパレータにおいて、セパレータの厚さは、前記リブの高さを除いたベース厚さが0.1~0.3mmであることが好ましく、0.15mm以上、0.25mm以下であることがより好ましい。ベース厚さが厚くなりすぎると、鉛蓄電池の内部抵抗が高くなり、アイドリングストップ車用鉛蓄電池として望ましくない。一方、0.15mmを下回るとセパレータの強度が低下し、振動時にセパレータ破れが発生する可能性があり好ましくない。
また、前記セパレータの前記両面のリブを含む総厚が1.4mm以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の鉛蓄電池用セパレータにおいて、セパレータの空隙率(水銀圧入法)は、50~90体積%であることが好ましい。50体積%以上であることで、セパレータとして内部抵抗(電気抵抗)を低く抑えることができ、鉛蓄電池の高性能化に寄与する。よって、セパレータの空隙率(水銀圧入法)は、60~90体積%、さらには70~90体積%であることがより好ましい。
【0036】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、前記破断リブが、前記セパレータの平板部であるセパレータ基部と同材質であり、該基部とともに一体成形されているものであることが好ましい。
このようにした場合は、生産性、製造コスト面でも有利なセパレータとすることができる。
【0037】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、構成材料、製造方法等については、特に限定するものではないが、例えば、熱可塑性樹脂、無機粉体、可塑剤をそれぞれ適量配合した原料組成物を二軸押出機などにより加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、所定のリブ形状を付与するように予め所定の溝を刻設された一対の成形ロール間を通して所定厚さ・所定形状のシートに成形後、前記可塑剤と相溶性を有する適当な溶媒中に浸漬して前記可塑剤の所定量を抽出除去し、乾燥することによって得られるものであればよい。
【0038】
本発明の鉛蓄電池用セパレータに用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)などのポリビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体などのポリオレフィン樹脂などが例示される。
本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、ポリオレフィン樹脂が好ましく用いられ、より好ましくはポリエチレン樹脂、高分子量ポリエチレン樹脂がさらに好ましい。高分子量ポリエチレン樹脂は、少なくとも60万の分子量を有することが好ましく、分子量が500万の超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)がより好ましい。
【0039】
本発明の鉛蓄電池用セパレータに用いられる無機粉体としては、沈降シリカ、ヒュームドシリカなどのシリカ、雲母、モンモリロナイト、カオリナイト、タルク、ケイソウ土、バーミキュライト、天然及び合成ゼオライト、ケイ酸カルシウム、クレー、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、アルミニウムポリシリケート、アルミナシリカゲル、ガラス粒子、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維、黒鉛、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化鉛、タングステン、酸化アンチモン、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、二硫化モリブデン、硫化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが例示される。
本発明の鉛蓄電池用セパレータでは、沈降シリカ、ヒュームドシリカなどのシリカが好ましく用いられる。
【0040】
本発明の鉛蓄電池用セパレータに用いられる可塑剤としては、ポリオレフィン系樹脂の可塑剤となり得る材料を選択することが好ましく、ポリオレフィン系樹脂と相溶性を有し各種溶剤などで容易に抽出できる各種有機液状体が使用できる。具体的には、可塑剤には、飽和炭化水素(パラフィン)からなる工業用潤滑油などの鉱物オイル、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、フタル酸ジオクチルなどのエステル系可塑剤などが使用できる。中でも、再利用がしやすい点で、鉱物オイルが好ましい。
可塑剤は、原料組成物中に、30~70重量%配合されることが好ましい。
【0041】
可塑剤を抽出除去するために用いる溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの飽和炭化水素系の有機溶剤を使用することができる。
【0042】
原料組成物または製膜後のセパレータには、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、抗菌剤、防黴剤、顔料、染料、着色剤、防曇剤、艶消し剤などの添加剤を、本発明の目的および効果を損なわない範囲で添加(配合)または含有させてもよい。
【0043】
次に、本発明の鉛蓄電池用セパレータを用いた鉛蓄電池の実施形態を説明するが、本発明の鉛蓄電池は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0044】
[電解液]
電解液は、水溶液に硫酸を含む。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、鉛蓄電池に利用される添加剤を含むことができる。
化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上であって、1.35g/cm3以下である。
【0045】
[正極板]
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0046】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0047】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金やPb-Sb系合金を用いることが好ましい。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛または硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0048】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0049】
[負極板]
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させやすいため好ましい。
【0050】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金の何れであってもよい。これらの鉛または鉛合金は、さらに、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0051】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛または硫酸鉛)を含んでおり、防縮剤、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0052】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0053】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成することができる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製することができる。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0054】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【実施例】
【0055】
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[微多孔質フィルムセパレータの作製](実施例1)
熱可塑性樹脂として重量平均分子量500万の超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)粉末30質量部と、無機粉体として平均粒径15μmのシリカ微粉末70質量部と、可塑剤として鉱物オイルの1種であるパラフィン系オイルと、をミキサで混合した。得られた混合物を、2軸押出機にて加熱溶融混練したものをTダイからシート状に押し出し、シート両面にリブパターンに応じた溝を有するロールからなる一対の成形ロール間に通して加圧成形した。これにより、シートの一方の面に所定形状の正極板当接用の主リブが、その反対側の面に押し出し成型の流れ方向(Machine Direction:MD方向)に平行な直線連続的な形状の負極当接用のミニリブが、一体に成形加工された無孔質フィルムを作製した。
次いで、連続した無孔質フィルムを、有機溶剤を入れた液槽中に浸漬状態となるように通過させ、パラフィン系オイルを、一部を残して抽出除去した。このフィルムを、乾燥炉内を通過させることによって、総厚0.70mm、ベース部厚さ0.20mmの微多孔質フィルムセパレータを作製した。
なお、正極当接用の破断リブは、
図1に示すような2か所の屈曲点を有する直線状の破断リブ形状を有しており、個々の破断リブの各辺、線分(a)、線分(b)、線分(c)の長さと角度は、線分(a)と線分(c)の長さは4.5mm、線分(b)の長さは10mmであり、線分(a)と線分(c)のそれぞれが線分(b)と成す角度は135度であって、線分(b)がセパレータの水平方向(CD方向)に対して平行である。複数の各破断リブは
図2に示すように、略水平に複数配置し、セパレータの水平方向(CD方向)で隣接する破断リブ同士はセパレータの上下方向(MD方向)に平行な軸に対して鏡像対称のような関係となっている。また、これらのセパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブ間の隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において最も近くに配置されている、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブ間の隙間(例えば、
図2において、最も左側の列の上から2番目に配置されている破断リブと、左から2列目の上から2番目に配置されている破断リブとの間の隙間と、最も左側の列の上から2番目に配置されている破断リブと、左から2列目の上から1番目に配置されている破断リブとの間の隙間)は、セパレータの上下方向(MD方向)から見た場合に互いに全く重なり合っておらず、それらの隙間はいずれも3mmである。
また、正極当接用の破断リブは、リブの長手方向に対して垂直な断面形状を台形状とし、リブの高さは0.40mm、リブの台形状断面の下辺幅は0.80mm、上辺幅は0.40mmである。
一方、負極当接用のミニリブは、ミニリブの長手方向に対して垂直な断面形状が長方形である。ミニリブの高さは0.10mmであり、ミニリブ間距離は0.55mmであって、ミニリブの幅は0.10mmである。
【0057】
(実施例2)
正極当接用の破断リブの線分(b)の長さを7mmとした以外、実施例1と同様の微多孔質フィルムセパレータを作製した。
【0058】
(比較例1)
正極当接用のリブを、セパレータの上下方向(MD方向)に直線連続的なリブとし、各リブ間の幅を10mmした以外、実施例1と同様の微多孔質フィルムセパレータを作製した。
【0059】
(比較例2)
図6に示す、正極当接用のリブが屈曲点を有さない長さ12mmの直線状の破断リブから成り、セパレータの水平方向(CD方向)に対して75度の傾きを有し、セパレータの水平方向(CD方向)に12mmの等間隔で配列したものが2組、セパレータの上下方向(MD方向)に並んだ配列(配列1)、および、セパレータの水平方向(CD方向)に対して105度の傾きを有し、セパレータの水平方向(CD方向)に12mmの等間隔で配列したものが2組、セパレータの上下方向(MD方向)に並んだ配列(配列2)が、配列1と配列2がセパレータの上下方向(MD方向)に対して隙間なく交互に配列した以外、実施例1と同様の微多孔質フィルムセパレータを作製した。
【0060】
(比較例3)
図7に示す、正極当接用のリブが屈曲点を有さない長さが25mmの2種類の直線状の破断リブ(破断リブA、および破断リブB)から成り、破断リブAはセパレータの水平方向(CD方向)に対して45度の傾きを有し、セパレータの水平方向(CD方向)および上下方向(MD方向)にそれぞれ30mmの等間隔で配列し、破断リブBはセパレータの水平方向(CD方向)に対して135度の傾きを有し、セパレータの水平方向(CD方向)および上下方向(MD方向)にそれぞれ30mmの等間隔で配列し、破断リブBの中点が、該中心点に最も近接して配置されている1組の破断リブAの端点と端点を結ぶ線上の中点に重なるように配置されていること以外、実施例1と同様の微多孔質フィルムセパレータを作製した。
【0061】
(比較例4)
セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブ間の隙間と、セパレータの上下方向(MD方向)において最も近くに配置されている、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブ間の隙間が、セパレータの上下方向(MD方向)から見た場合に完全に重なっており(狭い方の隙間が広い方の隙間の範囲内に完全に重なっている)、それらの隙間は狭いもので3mm、広いもので6mmであること以外、実施例1と同様の微多孔質フィルムセパレータを作製した。
【0062】
[試験および評価方法]
幅125mm、高さ120mm、厚さ15mmのアクリル板2枚を対向させ、実施例1~2、比較例1~4で作製した微多孔質フィルムセパレータを幅115mm、長さ105mmに切断したものを挟み、アクリル板と微多孔質フィルムセパレータの上端の高さが一致するように配置した。アクリル板2枚にはそれぞれ左右両端に厚さ方向に貫通する穴を開けて、ボルトとナットを用いてアクリル板2枚を固定した。以下アクリル板2枚で微多孔質フィルムセパレータを挟んだものをセルと称する。セルのアクリル板間のギャップは0.65mmとなるようボルトの締め付けを調整した。高さ115mmまで水で満たした水槽の中に作製したセルを入れた。
【0063】
電解液の沈降抑制効果、および水平方向への拡散のしやすさについて評価するにあたり、操作性の観点から、電解液として用いられる比重1.28(36.9%)の硫酸に代え、黒色の水性顔料を用いて着色した比重1.20の着色塩化ナトリウム水溶液を作製して使用した。
セルのセパレータとアクリル板の間を水で満たした。セル上面から、着色塩化ナトリウム水溶液2mlをセパレータの正極当接面とアクリル板との間の水平方向の中央部へ10秒間かけて滴下した。着色塩化ナトリウム水溶液の沈降する様子を目視で観察し、滴下した着色塩化ナトリウム水溶液がセパレータ上端から下端までに、初めに一滴でも到達するために要する時間(沈降時間)と、着色塩化ナトリウム水溶液がセパレータの水平方向(CD方向)に広がる範囲について計測し、正極当接用のリブ形状の違いによる電解液の沈降抑制効果とセパレータの水平方向(CD方向)への拡散のしやすさ(拡散範囲)について評価した。
【0064】
[評価結果]
評価結果を表1にまとめて示した。
【表1】
【0065】
比較例1では、正極当接用のリブが、セパレータの上下方向(MD方向)に直線連続的に配置しており、正極とセパレータの間の空間が、セパレータの上下方向(MD方向)に対して長い区画で区切られているため、セパレータの水平方向(CD方向)に相当する区画間の電解液は行き来しにくくなっている。そのため、滴下した着色塩化ナトリウム水溶液はリブによって縦に区切られた領域を、セパレータの上下方向(MD方向)に沈降していき7秒後にはセパレータの下端に到達した。着色塩化ナトリウム水溶液のセパレータの水平方向(CD方向)への拡散は、正極当接用のリブによって区切られた幅10mmの範囲のみにとどまった。
比較例1のリブ形状では、比重の重い電解液が発生した時、セパレータの水平方向(CD方向)への拡散効果は低く、セパレータの上下方向(MD方向)に配置された正極当接用のリブに沿った下方移動が速いため、電解液の成層化が起こりやすい形状となっている。
【0066】
これに比べて、比較例2の正極当接用のリブはセパレータの上下方向(MD方向)に配列した直線状の破断リブであり、セパレータの上下方向(MD方向)に対して長い区画で区切られてはいない。
滴下した着色塩化ナトリウム水溶液は、傾斜した破断リブによってセパレータの水平方向(CD方向)に45mm広がったが、5秒後にはセパレータの下端に到達した。破断リブ間を広がり、セパレータの水平方向(CD方向)への拡散効果があるものの、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間がセパレータの上下方向(MD方向)で重なっているため、セパレータの上下方向(MD方向)に直線的に着色塩化ナトリウム水溶液が沈降しており、比較的電解液の成層化が起こりやすい形状となっている。
【0067】
比較例3では、実施例1、および実施例2に比べ、着色塩化ナトリウム水溶液の沈降に要する時間は短くなっている。これは破断リブの形状が屈曲点を有しない直線形状であるため、破断リブ上での滞留が生じないことに起因している。そのため、電解液の成層化を抑制する効果が実施例1、および実施例2に比べて小さい。
【0068】
比較例4では、実施例1、および実施例2に比べ、着色塩化ナトリウム水溶液の沈降に要する時間は短くなっている。比較例4の破断リブの形状は屈曲点を有する直線形状であるが、セパレータの水平方向(CD方向)において互いに隣接する破断リブと破断リブとの間に形成される隙間がセパレータの上下方向(MD方向)において完全に重なっているため、電解液の成層化を抑制する効果が実施例1、および実施例2に比べて小さい。
【0069】
実施例1、および実施例2では、滴下した着色塩化ナトリウム水溶液はセパレータの水平方向(CD方向)へ十分に広がりながらセパレータの上下方向(MD方向)に沈降していき、セパレータの下端に到達するまでにそれぞれ16秒、および17秒の時間を要した。各比較例に対して液のセパレータの水平方向(CD方向)への広がる範囲(拡散範囲)が広く、セパレータの上下方向(MD方向)への沈降時間も長くなっており、電解液成層化を抑制する効果が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、電槽内部における電解液の動きを制御するために有効な破断リブの形状を有し、該破断リブを電槽内部における電解液の動きを有効に制御できるように配置しているので、電解液の成層化を抑制することができ、電解液の成層化に伴う電池制御の信頼性低下や電池寿命の低下を抑制することができる最適なセパレータを提供することができた。
【符号の説明】
【0071】
(a) 破断リブ末端と隣接する屈曲点の間にある線分
(b) 屈曲点と隣接する屈曲点の間にある線分
(c) 屈曲点と隣接する破断リブ末端の間にある線分
X セパレータの水平方向(CD方向)
Y セパレータの上下方向(MD方向)