(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】表面処理金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23D 19/06 20060101AFI20230323BHJP
B23D 19/00 20060101ALI20230323BHJP
B23D 79/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B23D19/06 A
B23D19/00 A
B23D79/00 A
(21)【出願番号】P 2019067592
(22)【出願日】2019-03-29
(62)【分割の表示】P 2019008861の分割
【原出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 教昌
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-034183(JP,A)
【文献】特開2018-075600(JP,A)
【文献】特開平09-277113(JP,A)
【文献】実開昭57-197415(JP,U)
【文献】特開昭58-186514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 19/06
C23C 2/06
B23D 19/00
B23D 79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面がめっき金属で被覆された表面処理金属板を素材とする表面処理金属部材を製造する方法であって、
前記表面処理金属板を一対の円盤状の回転刃の間に通してせん断力により切断する第1工程と、
前記第1工程で切断した前記表面処理金属板に加工を加えて表面処理金属部材を製造する第2工程と、
を備え、
前記
一対の回転刃は、
回転軸方向について互いに対向する側の面及び外周面を備え、
前記対向する側の面は、前記表面処理金属板
を切断する切断面側の
面であって、
前記外周面に向かって下記式(1)で定義される勾配を有する勾配面を備え
、
勾配(%)=tanθ×100=(a-b)/L×100 式(1)
(ここで、前記式(1)におけるθ、a、b及びLの各符号は、以下を意味する。
θ:前記回転刃の前記勾配面が形成されていない面と前記勾配面とのなす角度、a:前記回転刃の前記勾配面が形成されていない部分の板厚、b:先端部の板厚、L:前記勾配面が設けられた径方向の長さ)
前記勾配は、5%以上36%以下であり、
前記外周面は、前記式(1)の前記bの板厚を持つ断面形状を有する、
表面処理金属部材の製造方法。
【請求項2】
前記一対の回転刃は、回転軸方向について、前記勾配面と前
記外周面により構成される角部間の距離が、前記表面処理金属板の板厚の0%以上10%以下となるように配置される請求項
1に記載の表面処理金属部材の製造方法。
【請求項3】
前記勾配面と前
記外周面により構成される角部の曲率半径が0.5mm以下である請求項1
または2のいずれかに記載の表面処理金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面がめっき金属で被覆された表面処理金属板を素材として成形された部材の製造方法およびその部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、L型の軽山形鋼,C型の軽溝形鋼や溶接軽量H形鋼は、住宅用構造部材や太陽光発電の架台に代表されるように、厳しい屋外腐食環境での使用検討が進んでいる。このような環境で形鋼を使用するに際しては、非めっき鋼材を用いて成形された形鋼を溶融めっき処理して耐食性を確保する方法がある。しかしながら、めっき時の熱による形状変化や外注加工コストの問題があり、例えば下記特許文献に開示されているような、めっき鋼帯を成形した形鋼が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属板の表面がめっき金属により被覆された表面処理金属板を素材としてL型の軽山形鋼やC型の軽溝形鋼といった部材に成形した場合、部材の平面部や加工部は表面にめっき金属が存在するため良好な耐食性を有するが、部材の端面にはめっき金属が存在しない。
【0005】
また、溶接軽量H形鋼においても、幅の広い鋼帯から切断されたフランジ材の端面はめっき金属により被覆されていないため、腐食による錆の発生を招き、見栄えの悪さや寿命の短縮等、製品の品質上に大きな問題となる。そのため、用途環境に適した防食処理を施すことが必要であり、例えば、上記の特許文献1で開示されているような、フランジ材の端面にめっき塗料の吹き付け塗装が行われることがある。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で開示されている吹き付け塗装は、めっき金属を塗布する設備の新設もしくは増設が必要となるだけでなく、塗布後においては乾燥する設備が必要となる。また、形鋼に成形する前に吹き付け塗装をすると、成形時の金型やロールと端面が接触するなどして塗装が剥れ、更には剥れた塗装が設備や形鋼の端面以外の箇所に付着するなどの問題がある。
【0007】
従って、本発明は、表面がめっき金属で被覆された表面処理金属板の端面にめっき金属を回り込ませる切断方法を採用することにより、切断端面に吹き付け塗装等の防錆処理を行わなくても、表面処理金属部材の端面に腐食による錆が発生しない表面処理金属部材の製造方法および表面処理金属部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面処理金属部材の製造方法は、表面及び裏面がめっき金属で被覆された表面処理金属板を一対の円盤状の回転刃の間に通してせん断力により切断する工程と、切断された表面処理金属板に加工を加えて表面処理金属部材を製造する工程を備え、前記回転刃は、前記表面処理板の切断面側の一面の外周近傍に、所定の勾配を有する勾配面を備えていることを特徴とする表面処理金属部材の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明の表面処理金属部材は、表面及び裏面がめっき金属で被覆された表面処理金属板を素材とする表面処理金属部材であって、表面処理金属板の端面において、前記表面処理鋼板の板厚方向について、前記外周面同士の距離が、前記表面処理鋼板の板厚の70%以上にわたってめっき金属が回り込んでいる表面処理金属部材に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理金属部材の製造方法によれば、表面がめっき金属で被覆された表面処理金属板の端面にめっき金属を回り込ませる切断方法を採用し、その表面処理金属板に加工を加えて表面処理金属部材を製造することにより、表面処理金属部材の端面に腐食による錆が発生しない表面処理金属部材の製造方法およびその表面処理金属部材の提供が可能となる。
具体的には、表面にめっき金属が被覆された表面処理鋼板を素材とし、この素材から本発明の製造方法によりL型の軽山形鋼,C型の軽溝形鋼や溶接軽量H形鋼といった形鋼を製造することによって、形鋼の端面には、その板厚の70%以上にわたってめっき金属が回り込んだ形鋼が得られ、その形鋼は端面に吹き付け塗装等の工程を行わなくても、腐食による赤錆が発生しない形鋼である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の切断方法において、表面処理鋼板の切断前の状態を説明するための図である。
【
図2】本発明の切断方法において、表面処理鋼板の切断途中の状態を説明するための図である。
【
図3】本発明の切断方法において、表面処理鋼板の切断後の状態を説明するための図である。
【
図4】本発明の切断方法で用いられる回転刃の形状を説明するための模式断面図である。
【
図5】回転刃の外周近傍に設けられた勾配を説明するための部分拡大図である。
【
図6】本発明の切断方法における一対の回転刃の他の配置例を示す。
【
図7】(A)は本発明の切断方法で切断された表面処理鋼板の端面の模式図であり、(B)は比較例の切断方法で切断された表面処理鋼板の端面の模式図である。
【
図8】(A)は実施例1の軽溝形鋼の模式図であり、(B)は実施例2の溶接軽量H形鋼の模式図である。
【
図9】(A)~(C)は、本発明の適用が可能な各種の溶接形鋼の断面形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の表面処理金属部材の製造方法について好ましい実施形態について図面を参照しながら説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
また、以下においては、表面処理金属板の一例として表面にめっき金属が被覆された表面処理鋼板を取り上げ、また表面処理金属部材の一例として形鋼を取り上げて説明する。
【0013】
まず、本発明の対象となる表面処理鋼板について説明する。表面処理鋼板の一例としては、素地鋼板の表面にアルミニウムとマグネシウムを含有した亜鉛合金をめっき金属として被覆したZn-Al-Mg系めっき鋼板を挙げることができる。
【0014】
Zn-Al-Mg系めっき鋼板を一般的な方法でせん断加工により切断した場合、めっき金属が端面の一部に回り込んで被覆される。この被覆されためっき金属から、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムが溶出して、めっき金属が被覆されない部分に保護皮膜が形成される。このように、Zn-Al-Mg系めっき鋼板は、他の亜鉛系めっき鋼板に比べて、耐食性に優れるという特長がある。
このZn‐Al‐Mg系めっき鋼板の素地鋼板は、特に限定されず、例えば低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼及び合金鋼等を素地鋼板として使用することが可能である。また、Zn‐Al‐Mg系めっき鋼板をプレス成形して使用する場合には、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼等の絞り加工性に優れる素地鋼板を用いることが好ましい。
本発明の対象となる表面処理金属板は、素地が鋼板でありめっき金属にZnを含む場合にはZnの鋼板に対する犠牲防食作用が働き、めっき金属により表面処理鋼板の切断端面に対して防錆性や耐食性が発揮される。
【0015】
本発明の切断方法の被加工対象となる表面処理鋼板は、先に挙げたZn-Al-Mg系めっき鋼板以外にも、表面にめっき金属を被覆した鋼板であれば、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、アルミニウムを5質量%含有する亜鉛合金による溶融5%Al-Znめっき鋼板、溶融55%Al-Znめっき鋼板、溶融アルミニウムめっき鋼板を用いることができる。また、電気銅めっき鋼板を用いてもよい。
【0016】
本発明の切断方法の流れについて
図1~
図3を参照して簡単に説明する。ここでは、説明を簡単にするため、一対の回転刃について説明するが、実際には、1つの回転軸に複数対の回転刃が配置されて行われる。
【0017】
図1~
図3(a)は、一対の回転刃1により表面処理鋼板100(以下、鋼板100とも記載する)が連続的に切断される様子を回転軸2方向から見た図である。
図1(a)のX-Xの位置における鋼板100は、回転刃1で押圧されていない切断前の状態である。X-X断面を
図1(b)に示す。
【0018】
鋼板100が
図2(a)に示すY-Yの位置まで進むと、鋼板100が回転刃1で表面及び裏面から押圧されて、切断が開始された状態となる。Y-Y断面を
図2(b)に示す。
図2(b)に示すように、鋼板100は、上方に配置された回転刃1により下方に押圧され、下方に配置された回転刃1により上方に押圧されてせん断応力が加えられ、曲げられた状態となる。
【0019】
図3(a)に示すZ-Zの位置は、鋼板100の板厚方向について、一対の回転刃1同士の間隔が最も小さくなる位置である。Z-Z断面を
図3(b)に示す。鋼板100は、Z-Zの位置に進むまでに、更にせん断応力が加えられてクラックが生じ、
図3(b)に示すように、クラックが進展して切断された状態となる。
【0020】
次に、本発明の表面処理鋼板100の切断方法で用いられる回転刃1の好ましい形状及び配置について、
図4~
図6を参照して詳細に説明する。
図4は、回転軸2を含む断面で切った場合の、一対の回転刃1の模式断面図を示す。
図5は、
図4で示した回転刃1の先端部を拡大した図である。
図6は、その他の1対の回転刃1の配置例を示す。
【0021】
回転刃1は、
図4に示すように、円盤形状に構成され、回転軸2方向について互いに対向する側の面、即ち、鋼板100が切断される側の一面の外周近傍に、所定の勾配の勾配面10を有する。
【0022】
回転刃1の先端部は、前述の切断面側に、勾配面10と回転刃1の外周面20とで構成される角部30を備えている。
【0023】
回転刃1が有する勾配面10の勾配は、
図5に示すように、回転刃1の勾配面10が形成されていない面と勾配面10とのなす角度をθとし、回転刃1の勾配面10が形成されていない部分の板厚をa、先端部の板厚をb、勾配面10が設けられた径方向の長さをlとすると、勾配(%)=tanθ×100=(a-b)/l×100で表すことができる。
【0024】
本実施形態では、めっき金属の回り込みを促進するため、所定の勾配を有する勾配面10を設けた回転刃で表面処理鋼板を切断することで、表面のめっき金属が端面の3分の2以上の領域まで覆われた端面が得られる。
勾配の角度θは、3度以上20度以下の場合、即ち、勾配が5%以上36%以下の場合に、めっき金属110の回り込み量の増加が得られる。角度θが20度を超えてもめっき金属110の回り込み量の増加が得られるが、切断された鋼板100の表裏で幅の寸法差が大きくなる。また、角度θが大きくなると、切断に要する設備の負荷が大きくなるだけでなく、回転刃と接触する箇所が板厚方向に潰されながら切断されるため、切断箇所が長手方向に大きく伸びる。その結果、ねじれや反りが発生してしまう。また、角度θが3度未満の場合、めっき金属110の回り込み量が少ないだけでなく、回り込んだめっきの厚みも薄くなる。よって、めっき金属110の回り込み量を増加させ、かつ鋼板100の端面の形状が良好であるためには、角度θが3度以上20度以下(勾配が5%以上36%以下)である場合が好ましく、更に、切断された鋼板100の表裏で幅の寸法差を小さくするためには角度θが5度以上10度以下(勾配が9%以上18%以下)である場合がより好ましい。
【0025】
回転刃1の配置例について、
図4、
図6を参照して説明する。回転刃1による鋼板100の切断加工は、板厚方向に押込まれた回転刃1の先端部から発生するクラックによって行われる。以下に、好ましいクラックが発生するための条件として、一対の回転刃1間の距離(クリアランスC)や、回転刃1の押込み量が適切となるようなギャップGについて説明する。
【0026】
一対の回転刃1は、回転軸2方向について所定のクリアランスCを空けて配置され、また、鋼板100の板厚方向について、所定のギャップGを空けて配置される(
図4参照)。
【0027】
クリアランスCは、回転軸2方向について、一対の回転刃1の角部30同士の距離を表す。クリアランスCは、鋼板100の板厚の20%を超えると鋼板が切断できずに異形断面になってしまう。また、クリアランスCが板厚の-10%よりも狭い場合においても、同様である。ここで、クリアランスCの値が負になる場合とは、
図6(a)に示すように、ギャップGが0となった場合に、回転刃1の外周面20同士が当接するような配置である。本発明の切断方法では、クリアランスCの値が負になるような場合であっても、切断加工が可能である。しかしながら、例えば、回転刃1を用いて帯状の鋼板100を連続して切断するためには、クラックが連続的に発生し、鋼板100の表面側と裏面側に接触した回転刃1の角部30近傍から発生するクラックが繋がる必要がある。このような観点から、クリアランスCの値は、鋼板100の板厚の0%以上10%以下とすることが望ましい。更に、クリアランスCは狭い方が切断された鋼板の端面へのめっき金属110のめっき回り込み量の増加が得られることから、クリアランスCの値は、鋼板100の板厚の0%以上5%以下とすることが望ましい。
【0028】
ギャップGは、鋼板100の板厚方向について、一対の回転刃1の外周面20同士の距離を表す。このギャップGは、鋼板100の板厚の50%未満とすることが望ましい。板厚の50%以上の大きさでは、クリアランスCが大きい場合と同様に、回転刃1の角部30からクラックが発生せず異形断面となり、切断不可となる可能性があるためである。また、勾配の角度θとクリアランスCの値によっては、
図6(b)に示すように、ギャップGを0%以下の値にすることも可能である。具体的には、回転刃1同士が接触して、角部30が破損もしくは変形し、切断加工不良とならないように、最小のギャップGは回転刃1の勾配面10同士が接触するまでとなる。勾配面10同士が接触するギャップG(min)は、製造現場での調整の他、板厚に依存するクリアランスCと、回転刃1の勾配の角度θを用いて、最小ギャップG(min)=C/tanθで求められる。
【0029】
回転刃1の角部30は、曲率が大きいほど、鋼板100の表面のめっき金属が多く巻き込まれて、
図7Bに示すように、端面がめっき金属で被覆される。しかしながら、角部30が大きくなると、角部から遠いところでクラックが生じることにより大きなカエリが発生する。そのカエリの大きさは、角部30の曲率半径Rの2分の1以上となることもある。
【0030】
以上、説明したように、角部30に大きな曲率半径を持たせる切断方法では、端面に多くのめっき金属を回り込ませることができる反面、大きなカエリが生じることが問題となる。そのため、角部30の曲率は発生したカエリが形鋼の成形不良および形状不良にならない範囲で設けなければならないことから、曲率半径で0.5mm以下が望ましい。
【0031】
以上説明した本発明の表面処理鋼板100の切断方法によれば、以下の効果を奏する。
【0032】
(1)本発明の表面処理鋼板100の切断方法は、一対の円盤状の回転刃1の間に、表面及び裏面がめっき金属で被覆された表面処理鋼板100を通して、せん断力により表面処理鋼板100を切断するものである。このとき、回転刃1は、表面処理鋼板100の切断面側の一面の外周近傍に所定の勾配を有する勾配面10を備えている。これにより、防錆性及び耐食性を発揮するのに十分な量のめっき金属を端面に回り込ませつつ、表面処理鋼板100を切断することができる。
(2)回転刃1の所定の勾配は、5%以上36%以下とすることが好ましい。これにより、端面に回りこむめっき金属の量を増加させることができる。
(3)また、回転刃1は、回転軸方向について、前記勾配面と前記回転刃の外周面により構成される角部間の距離が、前記表面処理金属鋼板の板厚の0%以上10%以下とすることが好ましい。これにより、表面処理鋼板100の表面側と裏面側に接触した回転刃1の角部30近傍から発生するクラックが繋がりやすくなり、クラックが連続的に発生するので、帯状の表面処理鋼板100を連続して切断するのに適した切断方法となる。
【実施例1】
【0033】
以下に、本発明の切断方法を適用して形鋼を製造した実施例について説明する。
(表面処理鋼板)
表面処理鋼板100として板厚が2.3mm、3.2mm、4.5mmで、表面処理鋼板の切断面側のめっき付着量が90g/m2、190g/m2、350g/m2であるZn-6質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板を用いた。回転刃1として、直径が最も大きい箇所でφ160mmである上下の回転刃を用い、幅250mm長さ3000mmの表面処理鋼板を、幅190mmへ切断加工した。
【0034】
(めっき金属の回り込み率の評価)
端面に回り込んだめっき金属評価は、断面観察により、せん断面にめっき金属が回り込んだ領域とダレの領域を測定し、切断された鋼板の厚みに対するめっき金属の回り込み長さとダレの長さを合計した比率を、めっき金属の回り込み率(%)=(ダレの領域の長さ+せん断面にめっき金属が回りこんだ領域の長さ)/板厚×100として評価した。
(端面のカエリの評価)
また、端面のカエリは、切断した表面処理鋼板の一部を切り出してエポキシ樹脂に埋め込み、埋め込んだ表面処理鋼板の断面を観察してカエリの長さを求めた。
【0035】
これらの評価状況を表面処理鋼板100の板厚やめっき付着量、回転刃1の形状毎に整理した。その結果を表1に示す。発明例1~10は勾配の角度θが5度の回転刃を用いて切断加工を行った。比較例1~4は、勾配面を設けない回転刃を用いて切断加工を行った。
【0036】
【0037】
(めっき金属の回り込み率)
発明例1~10における切断端面のめっき金属の回り込み率は、回転刃1の勾配の角度θが5度、クリアランスCが1.6%または5.0%において、いずれも70%以上となることが確認できた。
【0038】
それに対して、比較例1~4では、めっき金属の回り込み率はいずれも約65%以下となった。
【0039】
(形鋼の製造)
次に、表1に示した発明例1~10と比較例1~4の表面処理鋼板を素材として、全20段のロール成形機により断面がC型である軽溝形鋼を製造した。具体的には、
図8(A)に示す、高さH1が50mm、幅W1が100mmのC型の軽溝形鋼とした。
【0040】
製造した形鋼の端面における防錆性の効果を評価するため、暴露試験を実施した。暴露は海岸から500mほど離れた3階建ての建物の屋上で1ヶ月間実施し、評価は試験体より3m離れて目視にて行った。評価は赤錆が明確に判断できれば×、赤錆が判断できない場合は○とした。
【0041】
(形鋼の端面における防錆性の評価)
軽溝形鋼の端面の錆の発生を評価した結果は表1に合わせて示しており、めっき金属の回り込み率に応じた結果となった。めっき金属の回り込み率が約65%以下の比較例1~4では、赤錆が確認された。しかし、めっき金属の回り込み率が約70%以上の発明例1~10では、赤錆は確認されなかった。
【0042】
また、めっき付着量の差によるめっき金属の回り込み率を比較したところ、付着量90g/m2と190g/m2と350g/m2との間で、めっき金属の回り込み率に差異はみられなかった。
【0043】
角部30の曲率半径が0.3mmである発明例1~6、9~10の鋼帯には0.2mm以下のカエリが存在したが、形鋼に成形後の触診検査で、成形機内でカエリが潰されていることが確認された。
【0044】
なお、実施例1では、
図8(A)に図示した溝形鋼を製造したが、本発明の表面処理金属部材の製造方法は、溝形鋼に限るものではない。例えば、JIS G 3192に規定される形状である各種の山形鋼や溝形鋼、H形鋼、T形鋼等にも適用可能できる。
【実施例2】
【0045】
次に、実施例1と同様に切断加工した表面処理鋼板を素材として、溶接軽量H形鋼を製造した実施例について説明する。
素材として用いた表面処理鋼板は、表1の発明例No.5の表面処理鋼板と同じものを用いた。即ち、板厚が3.2mm、表面処理鋼板の切断面側のめっき付着量が190g/m2であるZn-6質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板である。
【0046】
製造した溶接軽量H形鋼の形状を
図8(B)に示す。溶接軽量H形鋼はフランジ102とウェブ103で構成されている。フランジ102とウェブ103は高周波溶接にて溶接するため、端面に防錆性が必要となるのはフランジ102となる。そこで、ウェブ103に用いる鋼帯は、本発明の切断方法とは異なる公知の切断加工方法で幅147mmに切断加工した。
【0047】
一方、フランジ102に用いる鋼帯は、本発明による切断加工方法と、本発明の切断加工方法とは異なる公知の切断加工方法の2通りの方法により、それぞれ幅150mmから幅100mmへ切断加工した。このとき用いた回転刃1は、直径が最も大きい箇所でφ300mmの上下の回転刃であり、回転刃の形状は表2に示したとおりである。表2の発明例No.11は本発明による切断加工方法により準備したフランジ材である。比較例5は、本発明の切断加工方法とは異なる公知の切断加工方法により準備したフランジ材である。
具体的には、一般的な角部が直角の、つまり、勾配を有さない回転刃により切断加工方法により行ったものである。
【0048】
切断加工後のフランジ材は、実施例1と同様の方法により、端面におけるめっき金属の回り込み率とカエリの評価を行った。その結果も、表2に合わせて示している。
【0049】
【0050】
幅100mmのフランジ用鋼帯と、幅147mmのウェブ用鋼帯を、レーザ溶接を用いて公知の溶接軽量形鋼の製造方法にて成形し、実施例1と同様に暴露試験を実施した。暴露試験後の評価方法も実施例1と同一とした。
【0051】
暴露試験後の評価結果も表2に示している。発明例11におけるめっき金属の回り込み率は、回転刃1の勾配の角度θが5度、クリアランスCが1.6%において、80%となることを確認できた。それに対して、比較例5では、めっき金属の回り込み率は33%となった。
【0052】
また、屋外暴露試験の結果は、めっき金属の回り込み率に応じた結果となった。めっき金属の回り込み率が33%の比較例5では、フランジ材の端面に赤錆が確認された。しかし、本発明の切断加工方法を行った発明例11のフランジ材では赤錆は確認されなかった。
【0053】
角部30の曲率半径が0.3mmである発明例11のフランジ材には高さ0.15mmのカエリが存在したが、形鋼に成形後の触診検査で、成形機内でカエリが潰されていることが確認された。
【0054】
なお、実施例2では、フランジ材とウェブ材を接合するにあたり高周波溶接を用いて溶接軽量形鋼を製造したが、フランジ材とウェブ材の接合は高周波溶接以外の方法によって行ってもよい。例えば、電気抵抗溶接により接合する溶接形鋼、アーク溶接により接合するビルド溶接形鋼や、特開2009-119485号公報に開示されているレーザ溶接により接合する溶接形鋼に適用することもできる。また、
図8(B)のように2枚のフランジ材の幅W2は同一でなくても構わず、例えば、
図9(A)~(C)に図示したような断面形状がH形でなかったり、非対称な形状の形鋼であっても構わない。
図9(A)~(C)の中で符号1a、1b、2a、2bとして示した端面には、本発明の溶接形鋼の製造方法が適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 回転刃
2 回転軸
10 勾配面
20 外周面
30 角部
100 表面処理鋼板
101 表面処理鋼帯
102 フランジ
103 ウェブ