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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】係留チェーンおよび船舶
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230323BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230323BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20230323BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D8/06 B
C21D9/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019115129
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001366
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 和幸
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-260043(JP,A)
【文献】特開昭59-159970(JP,A)
【文献】特開2012-177168(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102817(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104294153(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/06
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に碇が取り付けられる係留チェーンであって、
前記係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
C:0.06~0.45%、
Si:0.6%以下、
Mn:0.3~2.5%、
P:0.1%以下、
S:0.05%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、
Cr:0.1%を超えて7.0%以下、
Sn:0~0.5%、
Sb:0~0.5%、
Cu:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
Mo:0~1.0%、
W:0~1.0%、
V:0~1.0%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
Nb:0~0.1%、
Ti:0~0.1%、
B:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
C:0.06~0.45%、
Si:0.6%以下、
Mn:0.3~2.5%、
P:0.1%以下、
S:0.05%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、
Cr:0.1%以下、
Cu:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
Sn:0~0.5%、
Sb:0~0.5%、
Mo:0~1.0%、
W:0~1.0%、
V:0~1.0%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
Nb:0~0.1%、
Ti:0~0.1%、
B:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
かつ前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、下記(i)式を満足する、係留チェーン。
0.01≦Cu+Ni+Sn+Sb+Mo+W ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成が、
下記(ii)式を満足する、
請求項1に記載の係留チェーン。
(1-2.13Cr){1+0.35(C-0.30)}≦0.80・・・(ii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項3】
前記係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成が、
下記(iii)および(iv)式を満足する、
請求項1に記載の係留チェーン。
0.01≦Sn+Sb ・・・(iii)
1-1.31Cr-3.54Sn-3.03Sb≦0.80 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項4】
前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
Cu:0.01~1.0%、
Ni:0.01~5.0%、を含有し、
下記(v)および(vi)式を満足する、
請求項1に記載の係留チェーン。
(1-1.35Cu)(1-0.37Ni)+0.25Cr≦0.80・・・(v)
Cu/Ni≦5.0・・・(vi)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項5】
前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
Sn:0.01~0.5%、
Cu:0~0.1%、を含有し、
下記(vii)および(viii)式を満足する、
請求項1に記載の係留チェーン。
1-3.26Sn+0.25Cr≦0.80・・・(vii)
Sn/Cu≧1.0・・・(viii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項6】
前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
Mo:0.01~1.0%、を含有し、
下記(ix)式を満足する、
請求項1に記載の係留チェーン。
1-2.17Mo+0.25Cr≦0.80・・・(ix)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項7】
前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
W:0.01~1.0%、を含有し、
下記(x)式を満足する、
請求項1に記載の係留チェーン。
1-4.32W+0.25Cr≦0.80・・・(x)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項8】
請求項1~7に記載の係留チェーンを用いた、船舶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係留チェーンおよび船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
舶用係留チェーンは、海水環境に曝されるため腐食が激しく、長期間使用の際には腐食が問題となる場合がある。ドックでの点検時に係留チェーンの径が計測されるが、元の径に対して12%以上減少している場合には、新たなチェーンに切り替えをしなければならないという基準が船級規則により定められている。
【0003】
一般的には、船舶の寿命が20年程度であるのに対して、係留チェーンの寿命は15年程度である。このため、現状、船を廃船にするまでに、係留チェーンの交換を少なくとも一度は行なう必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-210153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船舶の係留チェーンには、従来、JIS G 3105:2004に規定されているSBC300、SBC490、SBC690といった産業用鋼材が用いられている。また、これら鋼材に加え、例えば、希土類等を任意元素として添加することで、材料特性を向上させた鋼材についても用いられる場合がある(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、これら鋼材を用いた係留チェーンは、上述のように船舶の寿命に対して耐久年数が短く、所望する耐食性が十分得られていないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、耐食性に優れた係留チェーンおよび船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の係留チェーンおよび船舶を要旨とする。
【0009】
(1)一端に碇が取り付けられる係留チェーンであって、
前記係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
C:0.06~0.45%、
Si:0.6%以下、
Mn:0.3~2.5%、
P:0.1%以下、
S:0.05%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、
Cr:0.1%を超えて7.0%以下、
Sn:0~0.5%、
Sb:0~0.5%、
Cu:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
Mo:0~1.0%、
W:0~1.0%、
V:0~1.0%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
Nb:0~0.1%、
Ti:0~0.1%、
B:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
C:0.06~0.45%、
Si:0.6%以下、
Mn:0.3~2.5%、
P:0.1%以下、
S:0.05%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、
Cr:0.1%以下、
Cu:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
Sn:0~0.5%、
Sb:0~0.5%、
Mo:0~1.0%、
W:0~1.0%、
V:0~1.0%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
Nb:0~0.1%、
Ti:0~0.1%、
B:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
かつ前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、下記(i)式を満足する、係留チェーン。
0.01≦Cu+Ni+Sn+Sb+Mo+W ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0010】
(2)前記係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成が、
下記(ii)式を満足する、
上記(1)に記載の係留チェーン。
(1-2.13Cr){1+0.35(C-0.30)}≦0.80・・・(ii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0011】
(3)前記係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成が、
下記(iii)および(iv)式を満足する、
上記(1)に記載の係留チェーン。
0.01≦Sn+Sb ・・・(iii)
1-1.31Cr-3.54Sn-3.03Sb≦0.80 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0012】
(4)前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
Cu:0.01~1.0%、
Ni:0.01~5.0%、を含有し、
下記(v)および(vi)式を満足する、
上記(1)に記載の係留チェーン。
(1-1.35Cu)(1-0.37Ni)+0.25Cr≦0.80・・・(v)
Cu/Ni≦5.0・・・(vi)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0013】
(5)前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
Sn:0.01~0.5%、
Cu:0~0.1%、を含有し、
下記(vii)および(viii)式を満足する、
上記(1)に記載の係留チェーン。
1-3.26Sn+0.25Cr≦0.80・・・(vii)
Sn/Cu≧1.0・・・(viii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0014】
(6)前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
Mo:0.01~1.0%、を含有し、
下記(ix)式を満足する、
上記(1)に記載の係留チェーン。
1-2.17Mo+0.25Cr≦0.80・・・(ix)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0015】
(7)前記係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成が、質量%で、
W:0.01~1.0%、を含有し、
下記(x)式を満足する、
上記(1)に記載の係留チェーン。
1-4.32W+0.25Cr≦0.80・・・(x)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0016】
(8)上記(1)~(7)に記載の係留チェーンを用いた、船舶。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐食性に優れた係留チェーンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、係留チェーンの耐久年数が船舶寿命に比べて短く、所望する耐食性を得られていない要因について、検討を行なった。そして、係留チェーンの使用環境について調査をした。
【0019】
係留チェーンは、港湾沖で船舶の係留に使用される。このため、係留チェーンの長さは、装備される船舶の大きさによっても異なるが、例えば、全長が数百mに及ぶ場合もある。そして、係留チェーンは、船舶の航行時には、引き上げられ、船舶内で保管される。この際、係留チェーンの一部は、デッキ上に据え置かれ、その他の大部分はチェーンロッカーと呼ばれる格納庫に保管される。
【0020】
デッキ上は、屋外であることから、大気環境下で風雨に曝され、かつ海水飛沫が頻繁にかかる環境である。このような環境においては、係留チェーンの表面は、塩分を含む海水飛沫により濡れ、その後、乾燥するという過程を頻繁に繰り返す。その結果、腐食が進行する。一方、チェーンロッカー内は、相対湿度が50%RH程度を下回ることがなく、デッキ上と比較しても湿度が高い環境である。このような環境では、海水中の塩化マグネシウム等により、チェーン表面において潮解が生じ、腐食が進行する。
【0021】
通常、係留チェーンは、その全長にわたり、同一の鋼材を用いて製造されるが、上述したように、デッキ上と、チェーンロッカー内とでは、腐食環境が大きく異なる。このため、一つの係留チェーンにおいて、デッキ上に保管される部分と、チェーンロッカー内に保管される部分とで、同一の鋼材を用いても、チェーンロッカー内、またはデッキ上のいずれかの腐食環境に適応できないと考えられる。したがって、一つの係留チェーンにおいて、デッキ上で据え置かれる部分と、チェーンロッカー内に保管される部分とで、各々の腐食環境に適した、異なる鋼材を用いることが有効である。
【0022】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0023】
1.係留チェーンの構成
係留チェーンは、環状のリンクが複数連結された状態で構成される。一つのリンクは、鋼材に曲げ加工を施し、フラッシュバット溶接等を施すことで、環状に成形され、作製される。なお、リンクの中央にスタッドを取り付けてもよい。上記リンクは、前後のリンクに対し、90°回転した位置で連結される。このようにリンクを連結させ作製された係留チェーンは、その一端に碇が取り付けられる。
【0024】
本発明に係る係留チェーンは、一端に碇が取り付けられる。また、本発明に係る係留チェーンは、碇が取り付けられる側、つまり一端側に用いる鋼材と、他端側に用いる鋼材とを、異なる鋼材とする。なお、係留チェーンが使用される船舶の大きさにもよるが、通常、一つの係留チェーンにおいて、一端側は係留チェーンの全長のおよそ3~30%に相当し、他端側は、係留チェーンの全長のおよそ70~97%に相当する。
【0025】
一つの係留チェーンであるにも関わらず、異なる鋼材を用いる理由は、係留チェーンの部分、位置等により、腐食環境が異なるからである。具体的には、上述の一端側は、デッキ上で保管される。一方、係留チェーンにおいて、碇が取り付けられない、つまり他端側は、チェーンロッカーに保管される。このため、腐食環境ごとに、適した鋼材を選択することで、所望する耐食性を具備させることができる。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0026】
2.係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成
上述したように、係留チェーンの碇が取り付けられる側、つまり一端側は、航行中はデッキ上に据え置かれた状態になる。デッキ上は、大気環境下でかつ、海水が飛散する環境である。このため、係留チェーンの一端側では、塩分を含む海水で濡れ、その後、乾燥をするという過程を繰り返す腐食環境にある。そこで、係留チェーンの一端側に用いられる鋼材は、上記腐食環境に適した鋼材とし、化学組成を以下に記載の範囲とする。なお、以下の説明において、具体的に含有する元素の限定理由を記載するが、含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0027】
C:0.06~0.45%
Cは、強度を確保するために必要な元素である。係留チェーンとしての強度を確保するために、C含有量は0.06%以上とする。しかしながら、C含有量が0.45%を超えると、母材および溶接熱影響部の靭性が著しく低下する。このため、C含有量は、0.45%以下とする。C含有量は0.07%以上であるのが好ましく、0.08%以上であるのがより好ましい。また、C含有量は0.42%以下とするのが好ましく、0.40%以下とするのがより好ましい。
【0028】
Si:0.6%以下
Siは、脱酸のために必要な元素であるが、0.6%を超えて含有させると、係留チェーンの溶接熱影響部の靭性が低下する。このため、Si含有量は0.6%以下とする。なお、靭性の観点からSi含有量はより低いほうが望ましい。この場合、Si含有量は0.55%以下とするのが好ましく、0.50%以下とするのがより好ましい。一方、Si含有量を過度に低減すると、脱酸の効果が十分に得られなくなるため、Si含有量は0.01%以上とするのが好ましい。
【0029】
Mn:0.3~2.5%
Mnは、強度を確保するために必要な元素である。強度を確保するために、Mn含有量は0.3%以上とする。しかしながら、Mnを、2.5%を超えて含有させると、靭性が著しく低下する。このため、Mn含有量は2.5%以下とする。Mn含有量は0.35%以上とするのが好ましく、0.4%以上とするのがより好ましい。また、Mn含有量は2.4%以下とするのが好ましく、2.3%以下とするのがより好ましい。
【0030】
P:0.1%以下
Pは不純物として粒界に偏析し、靭性を低下させる元素である。そして、P含有量が0.1%を超えると靭性が著しく低下する。このため、P含有量は0.1%以下とする。P含有量は少なければ少ないほど好ましい。P含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。
【0031】
S:0.05%以下
Sは不純物として鋼中に存在し、MnSを形成する。このMnSは腐食の起点となり、耐食性を低下させる。このため、S含有量は0.05%以下とする。S含有量は少なければ少ないほど好ましい。S含有量は0.045%以下とするのが好ましく、0.04%以下とするのがより好ましい。
【0032】
Al:0.1%以下
Alは脱酸剤として必要な元素であり、含有させることで脱酸効果が得られる。また、AlはNと結合し、AlNを形成することで、結晶粒を微細化させる。しかしながら、Alを、0.1%を超えて含有させると靭性の低下を招く。このため、Al含有量は0.1%以下とする。なお、Al含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.06%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を安定して得るために、Al含有量は0.005%以上とするのが好ましい。
【0033】
N:0.01%以下
Nは、Alと結合しAlNを形成することにより結晶粒を微細化させる効果がある。しかしながら、N含有量が0.01%を超えると靭性が低下する。このため、N含有量は0.01%以下とする。N含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、N含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0034】
Cr:0.1%を超えて7.0%以下
Crは、鋼材のコスト上昇を抑えつつ強度を高める作用を有する。また、Crは海水飛沫または降雨などによる濡れ環境において、鋼の溶出を著しく抑制する効果を有する。このため、Cr含有量は0.1%超とする。しかしながら、Cr含有量が7.0%を超えると靭性が著しく低下するとともに溶接性も低下する。このため、Cr含有量は7.0%以下とする。Cr含有量は0.2%以上とするのが好ましく、0.3%以上とするのがより好ましい。また、Cr含有量は6.5%以下とするのが好ましく、6.0%以下とするのがより好ましい。
【0035】
なお、上記一端側に用いる鋼材の化学組成においては、耐食性を担保する上で、CrおよびCの含有量を併せて制御するのが好ましい。したがって、上述の元素の相互作用も鑑み、下記(ii)式を満足するのが好ましい。下記(ii)式は本発明の鋼の耐食性能を表すものであり、下記(ii)式を満足する場合、係留チェーン用鋼として十分な耐食性を確保しやすくなるためである。
(1-2.13Cr){1+0.35(C-0.30)}≦0.80・・・(ii)
但し、上記(ii)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0036】
Sn:0~0.5%
Sb:0~0.5%
SnおよびSbは、薄膜水の形成により塩化物が濃化し腐食界面のpHが低下する環境で、イオンとして溶出し、インヒビター作用により鋼の溶解反応を著しく抑制する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、SnおよびSbを過剰に含有させると、鋼材の靭性が低下する。このためSnおよびSbの含有量は、それぞれ0.5%以下とする。また、Sn含有量は0.4%以下とするのが好ましい。Sb含有量は0.4%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。
【0037】
一方、上記効果を得るためには、下記(iii)式を満足し、SnおよびSbの合計含有量は0.01%以上とするのが好ましい。また、SnおよびSn含有量と併せ、デッキ上において、特に有効に耐食性に寄与するCr含有量を制御するのが好ましい。つまり、下記の(iii)式および(iv)式を満足するのが好ましい。
【0038】
下記(iv)式は本発明の鋼の耐食性能を表すものであり、(iv)式を満足する場合、係留チェーン用鋼として十分な耐食性を確保しやすくなる。(iv)式の左辺値は0.5以下とするのがより好ましく、0以下とするのがさらに好ましい。
0.01≦Sn+Sb ・・・(iii)
1-1.31Cr-3.54Sn-3.03Sb≦0.80 ・・・(iv)
但し、上記(iii)および(iv)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0039】
Cu:0~1.0%
Cuは、鋼の溶出を抑制し、耐食性を向上させる効果を有する。また、腐食により生成した腐食生成物の保護性が高いため、長期にわたり高い耐食性を保持する効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が1.0%を超えると効果が飽和するばかりでなく靭性が低下する。このため、Cu含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.6%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0040】
Ni:0~5.0%
Niは薄膜水形成環境での鋼の溶出を著しく抑制し耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が5.0%を超えると効果が飽和するばかりでなく、鋼材のコストが上昇する。このため、Ni含有量は5.0%以下とする。Ni含有量は4.5%以下であるのが好ましく、4.0%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましく、0.1%以上であるのがさらに好ましい。
【0041】
Mo:0~1.0%
Moは、強度を高める作用を有する。また、Moは腐食環境において溶出したMoがモリブデン酸イオンを形成し、インヒビター作用により鋼の溶出を抑制する作用を有する。この結果、Moは耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。
【0042】
しかしながら、Mo含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が著しく低下する。このため、Mo含有量は1.0%以下とする。Mo含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0043】
W:0~1.0%
WもMoと同様の作用を有する。腐食環境において溶出したWがタングステン酸イオンを形成することで鋼の溶出を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、W含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。このため、W含有量は1.0%以下とする。W含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0044】
V:0~1.0%
Vは腐食環境において溶出したVがバナジン酸イオンを形成することにより鋼の溶出を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、V含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。このため、V含有量は1.0%以下とする。V含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0045】
Ca:0~0.01%
Caは、イオンとして溶出し、pHの低下が生じた腐食界面においてpHを上昇させる。この結果、腐食が抑制されるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ca含有量が0.01%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。このため、Ca含有量は0.01%以下とする。Ca含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0046】
Mg:0~0.01%
Mgは、Caと同様、腐食界面のpHを上昇させることで腐食を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mg含有量が0.01%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性も低下する。このため、Mg含有量は0.01%以下とする。Mg含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0047】
REM:0~0.01%
REMは、CaおよびMgと同様、腐食界面のpHを上昇させることで腐食を抑制する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REM含有量が0.01%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性も低下する。このため、REM含有量は0.01%以下とする。REM含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。
【0048】
一方、上記効果を得るためには、REM含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0049】
ここで、本発明において、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
【0050】
Nb:0~0.1%
Nbは、強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nb含有量が0.1%を超えると靭性が低下する。このため、Nb含有量は0.1%以下とする。Nb含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は0.001%以上とするのが好ましく、0.003%以上とするのがより好ましく、0.005%以上とするのがさらに好ましい。
【0051】
Ti:0~0.1%
Tiは、Nと結合してTiNを形成することにより溶接熱影響部の靭性を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ti含有量が0.1%を超えると効果が飽和する。このため、Ti含有量は0.1%以下とする。Ti含有量は0.08%以下であるのが好ましく、0.05%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は0.001%以上とするのが好ましく、0.005%以上とするのがより好ましく、0.01%以上とするのがさらに好ましい。
【0052】
B:0~0.01%
Bは、強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、B含有量が0.01%を超えると靭性が低下する。このため、B含有量は0.01%以下とする。B含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0053】
係留チェーンの一端側に用いられる鋼材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、上記鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0054】
3.係留チェーンの他端側に用いられる鋼材の化学組成
上述したように、係留チェーンの碇が取り付けられない側、つまり他端側は、航行中はチェーンロッカー内に保管された状態になる。チェーンロッカー内は、相対湿度が50%RH程度を下回ることがなく、デッキ上と比較しても湿度が高い環境である。ここで、相対湿度が30%RH程度以上であれば、海水中に含まれる塩化マグネシウム等の塩化物が大気中の水分を取り込む、いわゆる潮解と呼ばれる現象が生じると考えられる。
【0055】
この潮解により、係留チェーンに付着した塩化マグネシウム等が、大気中の水分を取り込むことで、その表面では、わずかに湿った状態が維持され、常時、薄い水膜(以下の説明において、「薄膜水」ともいう。)が形成される。そして、表面に形成した薄膜水内では、海水中に含まれる塩化物が濃化する。このように、塩化物が濃化した環境において鋼材が腐食すると、腐食により鉄が溶出した箇所で、鉄イオンの加水分解反応が生じる。その結果、鋼材表面のpHが低下し、腐食がさらに進行する。
【0056】
そこで、係留チェーンの他端側に用いられる鋼材は、上記腐食環境に適した鋼材とし、化学組成を以下に記載の範囲とする。なお、以下の説明において、含有する元素の限定理由を記載するが、上述した一端側に用いられる鋼材と同様に、含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0057】
C:0.06~0.45%
Cは、強度を確保するために必要な元素である。係留チェーンとしての強度を確保するために、C含有量は0.06%以上とする。しかしながら、C含有量が0.45%を超えると、母材および溶接熱影響部の靭性が著しく低下する。このため、C含有量は0.45%以下とする。C含有量は、0.15%以上であるのが好ましく、0.17%以上であるのがより好ましく、0.20%以上であるのがさらに好ましい。また、C含有量は0.42%以下であるのが好ましく、0.40%以下であるのがより好ましい。
【0058】
Si:0.6%以下
Siは、脱酸のために必要な元素であるが、0.6%を超えて含有させると溶接熱影響部の靭性が低下する。このため、Si含有量は0.6%以下とする。なお、靭性の観点からSi含有量はより低いほうが望ましい。この場合、Si含有量は0.55%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、Si含有量を過度に低減すると、脱酸の効果が十分に得られなくなるため、Si含有量は0.01%以上とするのが好ましい。
【0059】
Mn:0.3~2.5%
Mnは、強度を確保するために必要な元素である。強度を確保するために、Mn含有量は0.3%以上とする。しかしながら、Mnを、2.5%を超えて含有させると、靭性が著しく低下する。このため、Mn含有量は2.5%以下とする。Mn含有量は、1.0%以上とするのが好ましく、1.2%以上とするのがより好ましく、1.3%以上とするのがさらに好ましい。また、Mn含有量は2.4%以下とするのが好ましく、2.3%以下とするのがより好ましい。
【0060】
P:0.1%以下
Pは不純物として粒界に偏析し、靭性を低下させる元素である。そして、P含有量が0.1%を超えると靭性が著しく低下する。このため、P含有量は0.1%以下とする。P含有量は少なければ少ないほど好ましい。P含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。
【0061】
S:0.05%以下
Sは不純物として鋼中に存在し、MnSを形成する。このMnSは腐食の起点となり、耐食性を低下させる。このため、S含有量は0.05%以下とする。S含有量は少なければ少ないほど好ましい。S含有量は0.045%以下とするのが好ましく、0.04%以下とするのがより好ましい。
【0062】
Al:0.1%以下
Alは脱酸剤として必要な元素であり、含有させることで脱酸効果が得られる。また、AlはNと結合し、AlNを形成することで、結晶粒を微細化させる。しかしながら、Alを、0.1%を超えて含有させると靭性の低下を招く。このため、Al含有量は0.1%以下とする。なお、Al含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.06%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を安定して得るために、Al含有量は0.005%以上とするのが好ましい。
【0063】
N:0.01%以下
Nは、Alと結合しAlNを形成することにより、結晶粒を微細化させる効果がある。しかしながら、N含有量が0.01%を超えると靭性が低下する。このため、N含有量は0.01%以下とする。N含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、N含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0064】
Cr:0.1%以下
Crは、鋼材のコスト上昇を抑えつつ強度を高める作用を有するが、塩化物が濃化する薄膜水形成環境において耐食性を著しく低下させる。このため、Cr含有量は0.1%以下とする。Cr含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.06%以下とするのがより好ましい。
【0065】
Cu:0~1.0%
Cuは、表面が濡れた状態における鋼の溶出を抑制する。さらに、Cuは薄膜水が形成し、塩化物が濃化する状態においても、鋼の溶出を著しく抑制する。この結果、Cuは耐食性を向上させる。また、腐食により生成した腐食生成物の保護性が高いため、長期にわたり高い耐食性を保持する効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。
【0066】
しかしながら、Cu含有量が1.0%を超えると、効果が飽和するばかりでなく靭性が低下する。このため、Cu含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.6%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は0.01%以上とするのが好ましい。Cu含有量は0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%超とするのがさらに好ましく、0.1%以上とするのが一層好ましい。
【0067】
Ni:0~5.0%
Niは薄膜水形成環境での鋼の溶出を著しく抑制し耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が5.0%を超えると効果が飽和するばかりでなく、鋼材のコストが上昇する。このため、Ni含有量は5.0%以下とする。Ni含有量は4.5%以下とするのが好ましく、4.0%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのがより好ましく、0.1%以上とするのがさらに好ましい。
【0068】
Sn:0~0.5%
Snは、薄膜水が形成し、腐食界面のpHが低下する環境において、イオンとして溶出し、インヒビター作用により鋼の溶解反応を著しく抑制する。この結果、Snは耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。
【0069】
しかしながら、Snは0.5%を超えて含有させると靭性が著しく低下する。このため、Sn含有量は0.5%以下とする。また、Sn含有量は0.4%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0070】
Sb:0~0.5%
SbはSnと同様、薄膜水形成環境において鋼の溶出を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbを、0.5%を超えて含有させると靭性が著しく低下する。このため、Sb含有量は0.5%以下とする。Sb含有量は0.4%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上ととするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0071】
Mo:0~1.0%
Moは、強度を高める作用を有する。また、Moは腐食環境において溶出したMoがモリブデン酸イオンを形成し、インヒビター作用により鋼の溶出を抑制する作用を有する。この結果、Moは耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。
【0072】
しかしながら、Mo含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が著しく低下する。このため、Mo含有量は1.0%以下とする。Mo含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0073】
W:0~1.0%
WもMoと同様の作用を有する。腐食環境において溶出したWがタングステン酸イオンを形成することで鋼の溶出を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。
【0074】
しかしながら、W含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。このため、W含有量は1.0%以下とする。W含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0075】
また、良好な耐食性を具備させるため、他端側に用いられる鋼材の化学組成において、上記Cu、Ni、Sn、Sb、MoおよびWの合計含有量は下記の(i)式を満足する。Cu、Ni、Sn、Sb、MoおよびWの合計含有量である(i)式右辺値が0.01未満であると良好な耐食性が得られないからである。
0.01≦Cu+Ni+Sn+Sb+Mo+W ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0076】
CuとNiとを、ともに含有させる場合、具体的にはCu含有量を0.01~1.0%とし、Ni含有量を0.01~5.0%含有させる場合、より良好な耐食性を確保する、製造性等の観点から、化学組成は下記の(v)および(vi)式を満足するのが好ましい。
【0077】
下記の(v)式は本発明の鋼の耐食性能を表すものであり、(v)式を満足する場合、係留チェーン用鋼として十分な耐食性を確保しやすくなる。また、下記(vi)式は、鋼の製造性を表すものであり、(vi)式を満足しない場合は、鋳造または圧延時に脆化により表面割れなどが生じるおそれがあることから、(vi)式を満足するのが好ましい。
【0078】
(1-1.35Cu)(1-0.37Ni)+0.25Cr≦0.80・・・(v)
Cu/Ni≦5.0・・・(vi)
但し、上記(v)および(vi)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0079】
SnとCuとを、ともに含有させる場合、具体的にはSn含有量を0.01~0.5%とし、Cu含有量を0~0.1%、含有させるのが好ましい。加えて、より良好な耐食性を確保する、製造性等の観点から、化学組成は下記の(vii)および(viii)式を満足するのが好ましい。
【0080】
下記の(vii)式は本発明の鋼の耐食性能を表すものであり、(vii)式を満足する場合、係留チェーン用鋼として十分な耐食性を確保しやすくなる。また、下記(viii)式は、鋼の製造性を表すものであり、(viii)式を満足しない場合、鋳造または圧延時に脆化により表面割れなどが生じるおそれがあることから、(viii)式を満足するのが好ましい。
1-3.26Sn+0.25Cr≦0.80・・・(vii)
Sn/Cu≧1.0・・・(viii)
但し、上記(vii)および(viii)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0081】
Moを含有させる場合、具体的にはMo含有量が0.01~1.0%の場合には、より良好な耐食性を確保する観点から、下記の(ix)式を満足するのが好ましい。下記の(ix)式は本発明の鋼の耐食性能を表すものであり、(ix)式を満足する場合、係留チェーン用鋼として十分な耐食性を確保しやすくなるためである。
1-2.17Mo+0.25Cr≦0.80・・・(ix)
但し、上記(ix)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0082】
Wを含有させる場合、具体的にはW含有量が0.01~1.0%の場合には、より良好な耐食性を確保する観点から、下記の(x)式を満足するのが好ましい。下記の(x)式は本発明の鋼の耐食性能を表すものであり、(x)式を満足する場合、係留チェーン用鋼として十分な耐食性を確保しやすくなるためである。
1-4.32W+0.25Cr≦0.80・・・(x)
但し、上記(x)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0083】
V:0~1.0%
VもMoと同様の作用を有する。腐食環境において溶出したVがバナジン酸イオンを形成することにより鋼の溶出を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。
【0084】
しかしながら、V含有量が1.0%を超えると、効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。このため、V含有量は1.0%以下とする。V含有量は0.8%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましく、0.05%以上とするのがさらに好ましい。
【0085】
Ca:0~0.01%
Caは、イオンとして溶出し、pHの低下が生じた腐食界面においてpHを上昇させる。この結果、腐食が抑制されるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ca含有量が0.01%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。このため、Ca含有量は0.01%以下とする。Ca含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0086】
Mg:0~0.01%
Mgは、Caと同様、腐食界面のpHを上昇させることで腐食を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mg含有量が0.01%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性も低下する。このため、Mg含有量は0.01%以下とする。Mg含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0087】
REM:0~0.01%
REMは、CaおよびMgと同様、腐食界面のpHを上昇させることで腐食を抑制する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REM含有量が0.01%を超えると、効果が飽和するだけでなく靭性も低下する。このため、REM含有量は0.01%以下とする。REM含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.006%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。なお、本発明におけるREMの定義は、上述したとおりである。
【0088】
Nb:0~0.1%
Nbは、強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nb含有量が0.1%を超えると靭性が低下する。このため、Nb含有量は0.1%以下とする。Nb含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は0.001%以上とするのが好ましく、0.003%以上とするのがより好ましく、0.005%以上とするのがさらに好ましい。
【0089】
Ti:0~0.1%
Tiは、Nと結合してTiNを形成することにより、溶接熱影響部の靭性を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ti含有量が0.1%を超えると効果が飽和する。このため、Ti含有量は0.1%以下とする。Ti含有量は0.08%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は0.001%以上とするのが好ましく、0.005%以上とするのがより好ましく、0.01%以上とするのがさらに好ましい。
【0090】
B:0~0.01%
Bは、強度を高める作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、B含有量が0.01%を超えると靭性が低下する。このため、B含有量は0.01%以下とする。B含有量は0.008%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上とするのが好ましく、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0091】
他端側に用いられる鋼材において、化学組成において、残部はFeおよび不純物である。「不純物」の定義は上述したとおりである。
【0092】
4.製造方法
4-1.鋼材の製造
以下、係留チェーンの一端側および他端側に用いられる鋼材の製造方法について、説明する。上記の一端側および他端側に用いられる化学組成を有する鋼塊を連続鋳造法により製造する。鋼塊は、造塊法によりインゴットにしてもよい(JIS G 0203:2009参照。)。
【0093】
続いて、得られた鋼塊を800~1250℃の範囲で均熱、熱間圧延(熱間棒鋼圧延)を施し、棒鋼とする。本発明では棒鋼の径は特に限定されないが、例えば、50~120mmの範囲とする。また、熱間圧延のうちの仕上げ圧延は、800℃以上で行なう。続いて、得られた棒鋼を室温まで、空冷または放冷により冷却する。なお、本発明では、上記の冷却後、熱処理を行なってもよい。さらに、熱処理後、ショットブラスト等の表面処理を施してもよい。
【0094】
4-2.加工および溶接
上記のようにして製造した棒鋼を素材として、600~1100℃で加熱後に曲げ加工し、フラッシュバット溶接にて接合し接合部のバリ取りを行い、リンクを製造する。この工程を繰り返し、所定の長さのチェーンとする。なお、必要に応じスタッドを溶接により取り付けることができる。
【0095】
4-3.熱処理
その後、焼入れ、焼戻しを行なう。焼入れ処理の温度は800~1100℃、時間は10分以上とし、その後水冷により冷却する。焼戻し処理の温度は450~750℃、時間は10分以上とし、その後水冷により冷却する。これらの工程によって所望の形状を有する係留チェーンを製造する。
【0096】
4-4.表面処理
なお、本発明では、鋼を係留チェーンの形状に成形した後、表面に防食被覆(皮膜)を施してもよい。すなわち、係留チェーンの表面に防食被覆層が形成することになる。防食被覆層としては、その種類は限定されず、一般的なものを用いればよい。具体的には、Znめっき、Alめっき、Zn-Alめっき等に例示される防食めっき皮膜、Zn溶射、Al溶射等に例示される金属溶射皮膜、ビニルブチラール系、エポキシ系、ウレタン系、フタル酸系、ふっ素系、油性塗料、瀝青質系等に例示される一般の防食塗装皮膜等が挙げられる。
【0097】
5.評価方法
本発明に係る係留チェーンでは、係留チェーンの他端側に用いる鋼材については、チェーンロッカー内の使用環境を模擬した腐食試験1を実施する。一方、係留チェーンの一端側に用いる鋼材については、デッキ上での使用環境を模擬した腐食試験2を実施する。腐食試験1および2では、海水浸漬工程と乾燥湿潤工程とからなる処理を1サイクルとして、8サイクル(約8週間)実施する。海水浸漬工程では、試験片を1週間(7日)に1度、35℃の人工海水に15分浸漬させる。試験に用いた人工海水の組成は、NaCl:2.45%、MgCl:1.11%、NaSO:0.41%、CaCl:0.15%、KCl:0.07%、NaHCO:0.02%、KBr:0.01%であった。なお、上記の人工海水の組成の%は、質量%を示している。続いて、乾燥湿潤工程では、湿度の低い状態である乾燥工程と湿度の高い状態である湿潤工程との二つの工程を実施する。
【0098】
そして、腐食試験1では、乾燥工程では温度が60℃、相対湿度が65%RHの環境で4時間保持し、湿潤工程では、温度が60℃、相対湿度が90%RHの環境で4時間保持する。
【0099】
また、腐食試験2では、乾燥工程では温度が60℃、相対湿度が25%RHの環境で4時間保持し、湿潤工程では温度が60℃、相対湿度が100%RHの環境で4時間保持する。
【0100】
腐食試験1および2の両方で、海水浸漬工程の後、次の海水浸漬工程に至るまでの間、乾燥工程と湿潤工程とを行なう処理を繰り返す。この場合、乾燥工程と湿潤工程とを行なう工程を1回とすると、1日の間で上記処理が3回行なわれることとなる。その後、腐食試験1および2における径の減少量を測定し、鋼材ごとに耐食性を評価する。
【0101】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0102】
係留チェーンの一端側に用いる鋼材を想定し、表1に示す化学組成の鋼材を製造した。具体的には、表1に示す化学組成を有する鋼を溶製後、連続鋳造して得た鋼塊を分塊圧延して鋼片とした。次いで、その鋼片を熱間圧延(熱間棒鋼圧延)に供した。熱間圧延においては、鋼片の均熱温度を1250℃とし、素材を直径25mmまで1050℃以上で圧延し、室温まで空冷した。
【0103】
続いて、得られた棒鋼に熱処理を実施した。熱処理では、900℃、15分の焼入れ処理、および水冷を行ない、その後638℃、20分の焼戻し処理、および水冷を行なった。前述の熱処理後、直径20mm×100mmの試験片を採取し、試験片の表面にショットブラストを施した。
【0104】
その後、試験片を下記に記載の腐食試験2に供した。具体的には、腐食試験2では、海水浸漬工程と乾燥湿潤工程とからなる処理を1サイクルとして、8サイクル(約8週間)実施した。
【0105】
海水浸漬工程では、試験片を1週間(7日)に1度、35℃の人工海水に15分浸漬させた。試験に用いた人工海水の組成は、NaCl:2.45%、MgCl:1.11%、NaSO:0.41%、CaCl:0.15%、KCl:0.07%、NaHCO:0.02%、KBr:0.01%であった。なお、上記の人工海水の組成の%は、質量%を示している。
【0106】
また、乾燥湿潤工程では、大気で表面が乾燥する状態を模擬した乾燥工程と、海水飛沫で濡れた状態を模擬した湿潤工程との二つの工程を実施した。乾燥工程では、温度が60℃、相対湿度が25%RHの環境で4時間保持し、湿潤工程では、温度が60℃、相対湿度が100%RHの環境で4時間保持した。
【0107】
海水浸漬工程の後、次の海水浸漬工程に至るまでの間、乾燥工程と湿潤工程とを交互に繰り返す処理を行なった。この場合、乾燥工程と湿潤工程とを行なう工程を1回とすると、1日の間で上記処理が3回行なわれることとなる。
【0108】
上記の腐食試験2の後、ノギスで試験片の径の減少量を測定した。試験片の測定は、上端および下端から30mmの位置と、中央部すなわち上端から50mmの位置で測定を行なった。加えて、上述の位置それぞれにおいて、その位置から直交する位置の径の大きさについても同様に測定を行なった。つまり、一つの試料において6箇所の位置で径の大きさを測定し、その平均値から腐食試験後に径の大きさを算出した。続いて、元の径の大きさと腐食試験後の径の大きさとの差を径の減少量(mm)とした。
【0109】
上記の試験結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例1の試験No.1~17は、本発明で規定する範囲および好ましい範囲を満足し、良好な耐食性を示した。試験No.18は、本発明例ではあるが、(ii)式の規定を満足しないため、試験No.1~17と比較し、耐食性は低下した。試験No.19は本発明で規定する組成範囲を満足しないため、径の減少量が最も大きく、耐食性が不良であった。
【実施例2】
【0112】
係留チェーンの一端側に用いる鋼材を想定し、表2に示す化学組成の鋼材を製造した。具体的な製造条件は、実施例1と同じ条件とした。その後、実施例1と同様の方法により、腐食試験2を行い、腐食試験後の径の減少量を測定した。
【0113】
上記の試験結果を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
実施例2の試験No.1~20は、本発明で規定する範囲および好ましい範囲を満足し、良好な耐食性を示した。試験No.21は、本発明例ではあるが、(iv)式の規定を満足しないため、試験No.1~20と比較し、耐食性は低下した。上記試験No.22および23は本発明で規定する組成範囲を満足しないため、径の減少量が本発明例と比較し、大きくなり、耐食性が不良であった。
【実施例3】
【0116】
係留チェーンの他端側に用いる鋼材を想定し、表3に示す鋼材を製造した。具体的な製造条件は、実施例1と同じ条件とした。その後、実施例1と同様に直径20mm×100mmの試験片を採取し、試験片の表面にショットブラストを施した。
【0117】
上記の試験片について、まず、表面の観察を目視で行い、表面割れの有無を評価し、その後、腐食試験1に供した。具体的には、腐食試験では、海水浸漬工程と乾燥湿潤工程とからなる処理を1サイクルとして、8サイクル(約8週間)実施した。海水浸漬工程では、試験片を1週間(7日)に1度、35℃の人工海水に15分浸漬させた。試験に用いた人工海水の組成は、実施例1で用いた組成と同様の組成とした。
【0118】
また、乾燥湿潤工程では、チェーンロッカー内において、比較的湿度の低い状態を模擬した乾燥工程と比較的湿度の高い状態を模擬した湿潤工程との二つの工程を実施した。乾燥工程では、温度が60℃、相対湿度が65%RHの環境で4時間保持し、湿潤工程では、温度が60℃、相対湿度が90%RHの環境で4時間保持した。
【0119】
海水浸漬工程の後、次の海水浸漬工程に至るまでの間、乾燥工程と湿潤工程とを行なう処理を繰り返した。この場合、乾燥工程と湿潤工程とを行なう工程を1回とすると、1日の間で上記処理が3回行なわれることとなる。上記の腐食試験1の後、実施例1と同様の手法で、鋼材の径の減少量を測定した。
【0120】
上記の試験結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
実施例3の試験No.1~18は、本発明で規定する範囲および好ましい範囲を満足し、良好な耐食性を示した。試験No.19も本発明例であるが、(vi)式を満足せず、表面割れが生じたため、係留チェーンの製造時に割れが生じるおそれがある。試験No.20は、本発明例ではあるが、(v)式の規定を満足しないため、試験No.1~18と比較し、耐食性は低下した。試験No.21は本発明で規定する組成範囲を満足しないため、径の減少量が本発明例と比較し、大きくなり、耐食性が不良であった。
【実施例4】
【0123】
係留チェーンの他端側に用いる鋼材を想定し、表4に示す化学組成の鋼材を製造した。具体的な製造条件は、実施例1と同じ条件とした。その後、実施例3と同様の方法により、表面の割れの観察、腐食試験1、および腐食試験後の径の減少量の測定を行った。
【0124】
上記の試験結果を表4に示す。
【0125】
【表4】
【0126】
実施例4の試験No.1~18は、本発明で規定する範囲および好ましい範囲を満足し、良好な耐食性を示した。また、試験No.19は本発明例であるが、(viii)式を満足せず、表面割れが生じたため、係留チェーンの製造時に割れが生じるおそれがある。試験No.20は、本発明例ではあるが、(vii)式の規定を満足しないため、試験No.1~18と比較し、耐食性は低下した。試験No.21は本発明で規定する組成範囲を満足しないため、径の減少量が本発明例と比較し、大きくなり、耐食性が不良であった。
【実施例5】
【0127】
係留チェーンの他端側に用いる鋼材を想定し、表5に示す化学組成の鋼材を製造した。具体的な製造条件は、実施例1と同じ条件とした。その後、実施例3と同様の方法により、腐食試験1、および腐食試験後の径の減少量の測定を行った。
【0128】
上記の試験結果を表5に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
実施例5の試験No.1~15は、本発明で規定する範囲および好ましい範囲を満足し、良好な耐食性を示した。試験No.16は、本発明例ではあるが、(ix)式の規定を満足しないため、試験No.1~15と比較し、耐食性は低下した。試験No.17は本発明で規定する組成範囲を満足しないため、径の減少量が本発明例と比較し、大きくなり、耐食性が不良であった。
【実施例6】
【0131】
係留チェーンの他端側に用いる鋼材を想定し、表6に示す鋼材を製造した。具体的な製造条件は、実施例1と同じ条件とした。その後、実施例3と同様の方法により、腐食試験1、および腐食試験後の径の減少量の測定を行った。
【0132】
上記の試験結果を表6に示す。
【0133】
【表6】
【0134】
実施例6の試験No.1~17は、本発明で規定する範囲および好ましい範囲を満足し、良好な耐食性を示した。試験No.18は、本発明例ではあるが、(x)式の規定を満足しないため、試験No.1~17と比較し、耐食性は低下した。試験No.19は本発明で規定する組成範囲を満足しないため、径の減少量が本発明例と比較し、大きくなり、耐食性が不良であった。