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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】塗料組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20230323BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230323BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230323BHJP
   C09D 7/47 20180101ALI20230323BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230323BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230323BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230323BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230323BHJP
   H01B 3/24 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D7/65
C09D5/02
C09D7/47
C09D7/61
B32B15/08 J
B32B27/30 D
H01B5/14 B
H01B3/24 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022079886
(22)【出願日】2022-05-16
(65)【公開番号】P2022181180
(43)【公開日】2022-12-07
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2021087945
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】上田 有希
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】左右田 義浩
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070081(JP,A)
【文献】特開2020-158720(JP,A)
【文献】特開2014-223799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B32B 15/08
B32B 27/30
H01B 5/14
H01B 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のフッ素樹脂を含有する塗料組成物であって
少なくとも1種類のフッ素樹脂は、官能基数が主鎖炭素数10個当たり30~1000であるフッ素樹脂(I)であり、
更に、無機フィラー、界面活性剤、液状媒体及び非フッ素樹脂を含有する
ことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂(I)に含まれる官能基は、カルボニル基含有基である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
カルボニル基含有基は、カルボニルアミド基、カルボキシ基、アシルフロライド基、及び、メトキシカルボニル基からなる群より選択される少なくとも1の基である請求項2記載の塗料組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂(I)は、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)又はテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
フッ素樹脂(I)に含まれる官能基は、ポリマー主鎖の末端にあることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
さらに、他のフッ素樹脂として、官能基数が主鎖炭素数10個当たり30個未満であるフッ素樹脂(II)を含む請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項7】
フッ素樹脂(II)は、ショア―硬さ(Dスケール)がD60以下である請求項6に記載の塗料組成物。
【請求項8】
フッ素樹脂の合計配合量と無機フィラーの配合量との比は、フッ素樹脂の合計量:無機フィラー=20:80~80:20(質量比)である請求項7に記載の塗料組成物。
【請求項9】
フッ素樹脂の合計配合量と無機フィラーの配合量との比は、フッ素樹脂の合計量:無機フィラー=50:50~60:40(質量比)である請求項8に記載の塗料組成物。
【請求項10】
フッ素樹脂の平均粒子径が0.3μm未満である請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項11】
フッ素樹脂は、少なくとも1種類がPTFEである請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項12】
非フッ素樹脂は、非水溶性樹脂である請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項13】
非フッ素樹脂は、ウレタン結合を有する樹脂である請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項14】
無機フィラーは、シリカ粒子である請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項15】
シリカ粒子は、比表面積が6.5m/g未満である請求項14に記載の塗料組成物。
【請求項16】
界面活性剤は、非フッ素系界面活性剤である請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項17】
液状媒体は、水を含む請求項1~3に記載の塗料組成物。
【請求項18】
基材上に請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物を塗装することによって形成された塗膜層を有することを特徴とする積層体。
【請求項19】
基材は、金属素材である請求項18記載の積層体。
【請求項20】
プリント基板用、基板用誘電材料又は積層回路基板である請求項18記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂を含有する塗料組成物の用途の一つとして、電子材料分野が知られている。特に高周帯域の周波数に対応するプリント基板材料についても検討されている(特許文献1~3)。
【0003】
特許文献4は、密着性や線膨張係数を改善するため、フッ素樹脂としてカルボニル基含有官能基を特定の割合で有し、シリカを有するフッ素樹脂組成物を開示している。
特許文献5は、フッ素樹脂粒子分散液に対して、アクリル系ポリマーを添加することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-183005
【文献】国際公開2018/016644
【文献】国際公開2019/031071
【文献】国際公開2020/145133
【文献】国際公開2020/071382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、特に電子材料分野において好適に使用することができる塗料組成物及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、2種類以上のフッ素樹脂を含有する塗料組成物であって
少なくとも1種類のフッ素樹脂は、官能基数が主鎖炭素数10個当たり30~1000個であるフッ素樹脂(I)であり、
更に、無機フィラー、界面活性剤、液状媒体及び非フッ素樹脂を含有することを特徴とする塗料組成物に関する。
【0007】
上記フッ素樹脂(I)に含まれる官能基は、カルボニル基含有基であることが好ましい。
上記カルボニル基含有基は、カルボニルアミド基、カルボキシ基、アシルフロライド基、及び、メトキシカルボニル基からなる群より選択される少なくとも1の基であることが好ましい。
上記フッ素樹脂(I)は、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)又はテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であることが好ましい。
上記フッ素樹脂(I)に含まれる官能基は、ポリマー主鎖の末端にあることが好ましい。
【0008】
さらに、他のフッ素樹脂として、官能基数が主鎖炭素数10個当たり30個未満であるフッ素樹脂(II)を含むことが好ましい。
上記フッ素樹脂(II)は、ショア―硬さ(Dスケール)がD60以下であることが好ましい。
上記塗料組成物において、フッ素樹脂の合計配合量と無機フィラーの配合量との比は、フッ素樹脂の合計量:無機フィラー=20:80~80:20(質量比)であることが好ましい。
さらに、フッ素樹脂の合計配合量と無機フィラーの配合量との比は、フッ素樹脂の合計量:無機フィラー=50:50~60:40(質量比)であることが好ましい。
上記フッ素樹脂の平均粒子径が0.3μm未満であることが好ましい。
上記フッ素樹脂は、少なくとも1種類がPTFEであることが好ましい。
上記非フッ素樹脂は、非水溶性樹脂であることが好ましい。
上記非フッ素樹脂は、ウレタン結合を有する樹脂であることが好ましい。
上記無機フィラーは、シリカ粒子であることが好ましい。
上記シリカ粒子は、比表面積が6.5m/g未満であることが好ましい。
上記界面活性剤は、非フッ素系界面活性剤であることが好ましい。
上記液状媒体は、水を含むことが好ましい。
【0009】
本開示は、基材上に上述の塗料組成物を塗装することによって形成された塗膜層を有することを特徴とする積層体でもある。
上記基材は、金属素材であることが好ましい。
上記積層体は、プリント基板、基板用誘電材料又は積層回路基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、電気物性と表面物性に優れ、かつ、良好な接着性を有するフッ素樹脂塗膜層を形成できる塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
フッ素樹脂は、その優れた耐熱性,耐候性,耐油性,耐溶剤性、耐薬品性及び非粘着性を利用し、種々の用途と、パウダー、フィルム等の種々の使用形態とが知られている。
また、数十ギガヘルツレベルの高周波領域の用途で用いられるプリント配線基板にも、誘電特性や吸湿性の観点から、フッ素樹脂の絶縁層を形成した積層体が主に用いられている。
【0012】
しかしながら、フッ素樹脂は高い非粘着性を示すため、フッ素樹脂による塗膜層と基材との接着性が不充分な場合があった。特に、銅箔等の金属基材と充分に接着できるよう、接着性を高めたフッ素樹脂塗料組成物の開発が要求されてきた。近年では、性能向上のために表面粗度が小さい平滑な銅箔の使用が検討されているため、接着性をさらに改善することが求められつつある。
【0013】
また、プリント配線基板は加工の過程ではんだ加工のため高温加熱することが必要である。このため、樹脂の耐熱性に優れたものであることが必要となる。したがって、耐熱性、成膜性、接着性という性能をすべて有するものとする必要がある。
【0014】
本開示は、上記に鑑み、塗料組成物に2種類以上のフッ素樹脂を配合し、かつ、少なくとも1種類のフッ素樹脂の官能基数を主鎖炭素数10個当たり30~1000個とすることで、良好な接着性を付与でき、かつ、耐熱性においても良好な性能が得られることを見出したものである。
【0015】
また、フッ素樹脂含有塗膜を厚膜化した場合、フッ素樹脂や無機フィラーの凝集によりクラックが発生するという問題があった。本開示は、非フッ素樹脂を含有することで、フッ素樹脂の凝集によるクラックの発生を抑制し、優れた塗膜表面を得ることができるものである。
以下、本開示を詳細に説明する。
【0016】
本開示の塗料組成物は、2種類以上のフッ素樹脂を含み、少なくとも1種類のフッ素樹脂は官能基を有するものである。さらに、上記官能基を有するフッ素樹脂において、主鎖炭素数10個当たり官能基数が30~1000個であることを必須とするものである(以下、フッ素樹脂(I)とする)。なお、ここでの官能基とは、被接着物表面との間に相互作用を生じ、接着性向上に寄与するような官能基を意味する。具体的には、下記表1に示した官能基であることが好ましい。
本開示の塗料組成物は、上記フッ素樹脂(I)と、他のフッ素樹脂(以下、これをフッ素樹脂(II)と記す)とを併用して含有するものである。
上記フッ素樹脂(II)としては特に限定されず、官能基数が主鎖炭素数10個当たり30個未満であることが好ましい。すなわち、官能基数という点で上記フッ素樹脂(I)と相違するものであることが好ましい。
【0017】
上記官能基数は、下限50個がより好ましく、100個が更に好ましい。また、上記官能基数の上限は、700個がより好ましく、500が更に好ましい。
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
上記官能基数は、フッ素樹脂単独の水性分散液から分析を実施することもできるが、目的とするフッ素樹脂を塗料中から単離して分析を実施することもできる。
【0018】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、上記フッ素樹脂パウダーとKBrを用いて錠剤を作製し。この錠剤をフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記フッ素樹脂の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記フッ素樹脂における主鎖炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0019】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0020】
【表1】
【0021】
なお、-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
したがって、たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0022】
上記官能基は、フッ素樹脂(I)の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。本開示において、上記官能基はポリマー主鎖の末端にあることが好ましい。ポリマー末端に官能基があることで効率よく、接着性を向上させることができる。
上記官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0023】
本開示において、上記官能基は、カルボニル基含有基であることが好ましく、なかでも、カルボニルアミド基、カルボキシ基アシルフロライド基、及び、メトキシカルボニル基からなる群より選択される少なくとも1の基であることがより好ましい。接着性付与の観点から、カルボキシ基、カルボニルアミド基が特に好ましい。
【0024】
上記官能基は、たとえば、フッ素樹脂を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、フッ素樹脂に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、フッ素樹子の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体(例えば、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ハイミック酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸の酸無水物)を重合することによって、上記官能基がフッ素樹脂に導入されたものであってもよい。
【0025】
上記官能基は、フッ素樹脂を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、フッ素樹脂末端に導入されたものであることが好ましい。このような構造としたほうが、より接着性が良好なものとなる点で好ましい。
【0026】
上記官能基は、フッ素樹脂を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、フッ素樹脂末端に導入されたものに対して、更に反応を行うことで、その他の構造に変換するものであってもよい。また、フッ素樹脂のパウダーにコロナ処理を施し、主鎖末端に官能基を生成させる方法がある。
【0027】
上記フッ素樹脂(I)は、融点が190~350℃であることが好ましい。上記融点としては、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは280℃以上であり、より好ましくは330℃以下である。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0028】
上記フッ素樹脂(I)としては、溶融時に流動性を持ち、溶融加工可能なフッ素樹脂が好ましい。また、優れた電気特性が得られることから、テトラフルオロエチレン単位(TFE単位)とフルオロアルキルアリルエーテルまたは(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位(PAVE単位)とを含有する共重合体(以下、TFE/フルオロアルキルアリルエーテルまたはPAVE共重合体(または、PFA)という)、および、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位(HFP単位)とを含有する共重合体(以下、TFE/HFP共重合体(または、FEP)という)からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体がより好ましい。なかでも、より優れた接着性を付与できる点から、TFE/HFP共重合体(FEP)を含むことが特に好ましい。
上記フッ素樹脂(I)としては、2種以上のフッ素樹脂を併用することもできる。
【0029】
(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)は、フルオロアルキルビニルエーテルであっても、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)であってもよい。本開示において、「パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)」とは、C-H結合を含まないアルキルビニルエーテルである。
上記PAVE単位を構成するPAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-R (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0030】
なかでも、上記PAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PPVEがさらに好ましい。
【0031】
上記TFE/PAVE共重合体におけるPAVE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.5質量%以上であり、特に好ましくは4.0質量%以上であり、最も好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以下であり、さらに好ましくは7.0質量%以下であり、特に好ましくは6.5質量%以下であり、最も好ましくは6.0質量%以下である。なお、上記PAVE単位の量は、19F-NMR法により測定する。上記TFE/PAVE共重合体は、TFE単位およびPAVE単位のみからなる共重合体であってよい。
【0032】
上記フッ素重合体(I)がTFE/PAVE共重合体である場合、融点は好ましくは280~322℃であり、より好ましくは290℃以上であり、より好ましくは315℃以下である。
【0033】
上記フッ素重合体(I)がTFE/PAVE共重合体である場合、ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70~110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定して得られる値である。
【0034】
上記TFE/HFP共重合体は、TFE単位およびHFP単位を含有する。上記TFE/HFP共重合体におけるTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、好ましくは99.8質量%以下であり、より好ましくは99質量%以下であり、さらに好ましくは98質量%以下である。
【0035】
上記TFE/HFP共重合体は、TFE単位とHFP単位との質量比(TFE/HFP)が70~99/1~30(質量%)であることが好ましい。上記質量比(TFE/HFP)は、85~95/5~15(質量%)がより好ましい。
【0036】
上記TFE/HFP共重合体は、さらに、(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)単位を含有することができる。上記TFE/HFP共重合体に含まれるPAVE単位としては、上述したPAVE単位と同様のものを挙げることができる。上述したTFE/PAVE共重合体は、HFP単位を含まないので、その点で、TFE/HFP/PAVE共重合体とは異なる。
【0037】
上記TFE/HFP共重合体が、TFE単位、HFP単位、および、PAVE単位を含む共重合体である場合(以下、「TFE/HFP/PAVE共重合体」ともいう)、質量比(TFE/HFP/PAVE)が70~99.8/0.1~25/0.1~25(質量%)であることが好ましい。上記質量比(TFE/HFP/PAVE)は、75~98/1.0~15/1.0~10(質量%)であることがより好ましい。上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、全単量体単位に対して、HFP単位およびPAVE単位を合計で1質量%以上含むことが好ましい。
【0038】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、HFP単位が全単量体単位の25質量%以下であることが好ましい。HFP単位の含有量は、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは18質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以下である。また、HFP単位の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、特に好ましくは2質量%以上である。なお、HFP単位の含有量は、19F-NMR法により測定することができる。
【0039】
PAVE単位の含有量は、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり。特に好ましくは3質量%以下である。また、PAVE単位の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。なお、PAVE単位の含有量は、19F-NMR法により測定することができる。
【0040】
上記TFE/PAVE共重合体及び上記TFE/HFP共重合体は、さらに、他のエチレン性単量体(α)単位を含んでいてもよい。他のエチレン性単量体(α)単位としては、TFE、HFPおよびPAVEと共重合可能な単量体単位であれば特に限定されず、例えば、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等の含フッ素エチレン性単量体や、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル等の非フッ素化エチレン性単量体等が挙げられる。他のエチレン性単量体(α)単位の含有量は、好ましくは0~25質量%であり、より好ましくは0.1~25質量%である。
【0041】
上記共重合体がTFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α)共重合体である場合、質量比(TFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α))は、70~98/0.1~25/0.1~25/0.1~25(質量%)であることが好ましい。上記TFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α)共重合体は、TFE単位以外の単量体単位を合計で1質量%以上含むことが好ましい。
【0042】
上記TFE/HFP共重合体の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは200℃超であり、さらに好ましくは220℃以上であり、より好ましくは300℃以下であり、さらに好ましくは280℃以下である。
【0043】
上記TFE/HFP共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60~110℃であり、より好ましくは65℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定して得られる値である。
【0044】
上記フッ素樹脂(I)は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。なかでも、乳化重合によって得られたものであることがより好ましい。
【0045】
上記フッ素樹脂(I)は、372℃5kg荷重で測定したMFRの値が0.5~100の範囲内であることが好ましい。このような範囲とすることで、上述したような官能基量を末端官能基によって得ることが容易となる点で好ましい。
【0046】
本開示の塗料組成物は、上記フッ素樹脂(I)と、他のフッ素樹脂(II)とを併用して含有するものである。
上記フッ素樹脂(II)としては特に限定されず、官能基数が主鎖炭素数10個当たり30個未満であることが好ましい。すなわち、官能基数という点で上記フッ素樹脂(I)と相違するものであることが好ましい。
官能基数が多いフッ素樹脂は、密着性という点で優れた性能を示すが、反面、電気特性、耐熱性が不充分となりやすい。このため、フッ素樹脂(II)として、電気特性、耐熱性に優れたフッ素樹脂を組み合わせて使用することが好ましい。これによって、電気特性、耐熱性等の塗膜物性にも優れた塗膜層を形成することができる。
【0047】
上記フッ素樹脂(II)は、フッ素含有樹脂であれば特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、PFA、FEP等を挙げることができる。これらのなかでも特に、PTFEが特に好ましい。さらにPTFEは、TFEのホモポリマーが粒子が柔らかく張り付きやすいためにクラックが発生しにくいため好ましい。柔らかさの指標は特に限定されないが、ショア―硬さ(Dスケール)が好ましくはD65以下、より好ましくはD60以下、特に好ましくはD55以下である。PFA及びFEPについては、上述したフッ素樹脂(I)と同様の樹脂組成であって、フッ素樹脂(I)と官能基数が相違するものを使用することが好ましい。
【0048】
上記フッ素樹脂(II)の重合方法としては特に制限されず、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合において、温度、圧力等の各条件、重合開始剤やその他の添加剤は、所望のフッ素樹脂の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0049】
上記フッ素樹脂(II)は、フッ素化処理することによって、上記範囲内の官能基数を有する上記フッ素樹脂としたものであってもよい。
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。
【0050】
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(例えばIF、ClF)等が挙げられる。
【0051】
上記Fガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、取り扱い性の面から不活性ガスと混合し5~50質量%に希釈して使用することが好ましく、15~30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0052】
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、フッ素樹脂の融点以下、好ましくは20~220℃、より好ましくは100~200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~25時間行う。上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0053】
上記フッ素樹脂(I)と上記フッ素樹脂(II)との混合比(質量比)は、フッ素樹脂(I):フッ素樹脂(II)=90:10~10:90であることが好ましい。80:20~20:80がより好ましく、70:30~30:70が更に好ましい。上記フッ素樹脂(I)の配合量が少ないと、接着性が不充分となるおそれがある。また、上記フッ素樹脂(II)の配合量が少ないと、電気特性および耐熱性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0054】
本開示の塗料組成物中のフッ素樹脂は、粒子の状態で塗料組成物中に存在していることが好ましい。この場合、上記フッ素樹脂粒子の平均粒子径は、0.3μm未満であることが好ましい。ここで、上記平均粒子径は、フッ素樹脂(I)又はフッ素樹脂(II)に限定したものではなく、塗料組成物に含まれるフッ素樹脂粒子から無作為に選択した粒子から計測し、算出した値である。
具体的には、塗料組成物を水で1000倍に希釈し、希釈した液をアルミ箔上に1滴置いて自然乾燥させたものをSEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影し、SEM用画像解析ソフトウェアを用いて、無作為に選択した粒子50個の画像データより粒径を計測し、平均を算出した値である。
上記平均粒子径は、下限が0.05μmであることが好ましく、0.07μmであることがより好ましく、0.1μmであることが更に好ましい。
【0055】
本開示の塗料組成物は、非フッ素樹脂を含有することで、クラック等の不良を抑制することができるものである。具体的には、皮膜乾燥時に、上記非フッ素樹脂がフッ素樹脂同士をゆるやかに接着させることで、乾燥後の塗膜クラックを抑制することができる。また、上記非フッ素樹脂は、焼成時に成分のほとんどが揮発して塗膜中に残留が少ないため、電気特性に悪影響を与えにくい点からも好ましいものである。
【0056】
上記非フッ素樹脂は、非水溶性樹脂であることが好ましい。非水溶性であるため、フッ素樹脂や無機フィラーの分散性を悪化させない点で好ましい。ここで、「非水溶性」であるとは、25℃の水に対する溶解度が1質量%以下であることを意味する。
上記非フッ素樹脂は、例えば、上記液状媒体に分散したディスパージョンとして添加することができる。
【0057】
上記非フッ素樹脂としては特に限定されず、たとえばポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリオレフィン、塩化ビニル系、ポリカーボネート、スチレン系、ポリウレタン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体〔ABS〕、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルポリエーテルケトン〔PEEK〕、ポリエーテルサルホン〔PES〕、ポリスルホン、ポリエーテルフェニルオキサイド〔PPO〕、ポリアラミド、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル、セロハン等が挙げられる。
【0058】
なかでも、ウレタン結合を有する樹脂が好ましく、ウレタン結合を有する樹脂の吸水率が0.01から2.0%であることが好ましく、さらにウレタン結合を有する樹脂の最大伸び率は50から1000%であることが特に好ましい。
ウレタンディスパージョンとしては宇部興産製 ETERNACOLL UWシリーズ、三洋化成工業製 UAシリーズ、ダイセル・オルネクス製 DAOTAN、大成ファインケミカル製 WBRシリーズなどが挙げられる。
【0059】
非フッ素樹脂の物性として、密度が1.05から1.55であることで好ましく、さらに60Hzの比誘電率が3.0から7.0であることが特に好ましい。
【0060】
上記非フッ素樹脂の配合量は、塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは10~0.1質量%、より好ましくは5~0.5質量%、さらに好ましくは3~0.5質量%である。非フッ素樹脂の添加量が少なすぎると、クラック抑制効果が不充分となるおそれがある。一方、非フッ素樹脂の添加量が多すぎると、銅箔との接着強度および電気特性が低下する。
非フッ素樹脂は、N下、10℃/minの条件で測定した400℃での重量減少が30%以上であることか好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらにより好ましい。
【0061】
本開示の塗料組成物は、さらに、電気特性、強度、耐熱性等の向上のために無機フィラーを含有するものである。無機フィラーとしては特に限定されず、例えば、シリカ(より具体的には結晶性シリカ、溶融シリカ、球状溶融シリカ等)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、窒化珪素、炭化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、窒化アルミニウム、酸化インジウム、アルミナ、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの無機化合物が挙げられる。また、モンモリロナイト、タルク、マイカ、ベーマイト、カオリン、スメクタイト、ゾノライト、バーキュライト、セリサイトなどの鉱物が挙げられる。その他のフィラーとしては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物;ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーンなどの各種ガラスなどを挙げることができる。
上記無機フィラーとしては、一種又は二種以上の無機フィラーを使用することができる。
また、無機フィラーは粉体をそのまま使用してもよく、樹脂中に分散させたものを用いてもよい。
【0062】
上記無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化ホウ素、タルク等が好ましく、フッ素樹脂と比重が近く低誘電率のシリカが特に好ましい。シリカを含有することで、塗膜の熱膨張係数を低く抑えることができる。また、この作用により、基板の反りを抑制することができるため好ましい。
【0063】
上記無機フィラーは、例えば、BET法による比表面積が、6.5m/g未満であることが好ましく、 6.3m/g未満であるのがより好ましい。また、1m/gより大きいことが好ましい。比表面積が上記範囲内であることにより、膜中の無機フィラーの凝集が少なく塗膜面が平滑であるため好ましい。
【0064】
上記無機フィラーは、平均粒子径が0.1~20μmであることが好ましい。平均粒子径が上記範囲内であると、凝集が少なく、良好な表面粗度を得ることができる。上記平均粒子径の下限は、0.3μmであることがより好ましい。上記平均粒子径の上限は、5μmであることがより好ましく、2μmであることがさらに好ましい。上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定した値である。
【0065】
上記無機フィラーは、最大粒子径が10μm以下であることが好ましい。最大粒子径が10μm以下であると、凝集が少なく、分散状態が良好である。更に、得られた塗膜の表面疎度を小さいものとすることができる。上記最大粒子径は、5μm以下であることがより好ましい。最大粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影し、SEM用画像解析ソフトウェアを用いて、無作為に選択した粒子200個の画像データより求めた。
【0066】
上記無機フィラーの形状は特に限定されないが、球状、柱状、錘状、錘台状、多面体状、中空状等を用いることが出来る。特に球状、立方体、鉢状、円盤状、八面体状、鱗片状、棒状、板状、ロッド状、テトラポッド状、中空状であることが好ましく、球状、立方状、八面体状、板状、中空状であることがより好ましい。
【0067】
上記無機フィラーは、無機フィラー70質量%及び水30質量%で混合した場合に、均一に分散させることができるものが好ましい。均一に分散とは、分散液を静置させ、流動がなくなった状態でも沈殿を生じないことを意味する。分散性が不充分であると、塗料組成物の安定性が低下するおそれがある。
【0068】
上記無機フィラーは、表面処理されたものであってもよく、例えば、シリコーン化合物で表面処理されたものであってもよい。上記シリコーン化合物で表面処理することにより、無機フィラーの誘電率を低下させることができる。
上記シリコーン化合物としては特に限定されず、従来公知のシリコーン化合物を使用することができる。例えば、シランカップリング剤及びオルガノシラザンからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
上記シリコーン化合物の表面処理量は、シリカ粒子表面への表面処理剤の反応量が単位表面積(nm)あたり0.1~10個であることが好ましく、0.3~7個であることがより好ましい。
【0069】
上記無機フィラーとしては、一種、又は、物性の異なるものを二種以上使用することもできる。
また、無機フィラーは粉体をそのまま使用してもよく、樹脂中に分散させたものを用いてもよい。
【0070】
本開示の塗料組成物において、フッ素樹脂の合計量:無機フィラー=10:90~90:10(質量比)であることが好ましい。当該割合でフッ素樹脂と無機フィラーとを配合することによって、反りの防止等の効果を得ることができる。上記配合量は、フッ素樹脂の配合量の下限が、10であることがより好ましく、20であることが更に好ましい。上記配合量は、フッ素樹脂の配合量の上限が、90であることがより好ましく、80であることが更に好ましい。上記配合量は、無機フィラーの配合量の上限が、60であることがより好ましく、50であることが更に好ましい。
【0071】
本開示の塗料組成物は、さらに、界面活性剤を含有するものである。上記界面活性剤としては特に限定されず、公知の界面活性剤を使用することができるが、非フッ素系界面活性剤であることが好ましい。非フッ素系界面活性剤は、フッ素系界面活性剤よりもコスト面で好ましいものである。また、フッ素系界面活性剤を配合すると、上記フッ素樹脂の焼成を行った際に、フッ酸が発生する。このフッ酸がシリカ粒子の劣化を促進するため、含有しないことが好ましい。
【0072】
上記非フッ素系界面活性剤としては、フッ素樹脂を組成物中に安定に分散させ得るものであれば特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用できる。例えば、ナトリウムアルキルサルフェート、ナトリウムアルキルエーテルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルエーテルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート、アンモニウムアルキルエーテルサルフェート、アルキルエーテルリン酸ナトリウム、フルオロアルキルカルボン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;アルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、プロピレングリコール-プロピレンオキシド共重合体、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、2-エチルヘキサノールエチレンオキシド付加物、等の非イオン性界面活性剤;アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミド酢酸ベタイン、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アニオン性及び非イオン性界面活性剤が好ましい。特に好ましい界面活性剤は、熱分解残量の少ないオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤である。
上記非イオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、Genapol X080(製品名、クラリアント社製)、ノイゲンTDS-80(商品名)及びノイゲンTDS-100(商品名)を例とするノイゲンTDSシリーズ(第一工業製薬社製)、レオコールTD-90(商品名)を例とするレオコールTDシリーズ(ライオン社製)、ライオノール(登録商標)TDシリーズ(ライオン社製)、T-Det A138(商品名)を例とするT-Det Aシリーズ(Harcros Chemicals社製)、タージトール(登録商標)15Sシリーズ(ダウ社製)、ディスパノールTOC(商品名、日本油脂社製)等が挙げられる。
【0073】
上記非フッ素系界面活性剤としては、また、炭化水素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール等のアセチレン系界面活性剤等を使用することができる。また、これらの非フッ素系界面活性剤のうち、一種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、ノニルフェノール系界面活性剤は、使用しないことが好ましい。
【0074】
上記非フッ素系界面活性剤の配合量は、上記フッ素樹脂の合計量100質量%に対して、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.2~20質量%である。界面活性剤の添加量が少なすぎるとフッ素樹脂の分散が均一にならず、一部浮上することがある。一方、界面活性剤の添加量が多すぎると焼成による界面活性剤の分解残渣が多くなり着色が生ずるほか、塗膜の耐熱性,非粘着性等が低下する。
【0075】
必要に応じて増粘剤を加えても良い。塗料を増粘させ、塗膜性状に影響を与えないものであれば特に限定されないが、高級脂肪酸のノニオンエマルジョンがフッ素樹脂粒子と三次元網目構造を作り、見かけ粘度が向上し、塗膜のクラックも防止するため好ましい。オレイン酸エマルジョン、オクタン酸エマルジョンが特に好ましい。
【0076】
本開示の塗料組成物は、さらに液状媒体を含有するものである。上記液状媒体としては特に限定されないが、水を含むことが好ましい。
さらに、本開示の塗料組成物は、水と併用して水溶性溶媒を含有することが好ましい。上記水溶性溶媒は、上記フッ素樹脂を濡らす働きを有し、更に高沸点のものは、塗装後の乾燥時に樹脂同士をつなぎ、クラックの発生を防止する乾燥遅延剤として作用する。高沸点溶媒でも、フッ素樹脂の焼成温度では蒸発するので、塗膜に悪影響を及ぼすことはない。
【0077】
上記水溶性溶媒の具体例としては、沸点が100℃までの低沸点有機溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等;沸点が100~150℃の中沸点有機溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等;沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルジカルビトール、ブチルセロソルブ、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。また、これらの水溶性溶剤は、1種または2種以上のものを混合して用いても良い。上記水溶性溶媒としては、高沸点有機溶媒が好ましく、なかでも、グリコール系溶媒が、分散安定性の点でより好ましい。
上記グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、及びブチルカルビトールからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0078】
上記水溶性溶媒の配合量は、好ましくは全水量の0.5~50質量%、より好ましくは1~30質量%である。低沸点有機溶媒の場合、配合量が、少なすぎると泡の抱込みなどが起こりやすくなり、多すぎると組成物全体が引火性となって水性分散組成物の利点が損なわれる。中沸点有機溶媒の場合、配合量が多すぎると焼成後も塗膜中に残留して悪影響を及ぼすことがあり、少なすぎると塗布後の乾燥時にフッ素樹脂が粉末に戻ってしまい焼成できない。高沸点有機溶媒の場合、配合量が多すぎると焼成後も塗膜中に残留して悪影響を及ぼすことがある。上記水溶性溶媒は、揮発しやすい性質のものを選択したり、配合量を調整したり等により、上記フッ素樹脂の焼成後にも塗膜中に残留しないことが好ましい。なお、グリコール系溶媒がフッ素樹脂の焼成後に残留していないことは、焼成後の塗膜を削り取り、TG/DTA測定でグリコール系溶媒の沸点付近での重量減少が無いことによって確認できる。
【0079】
上記塗料組成物には、フッ素樹脂組成物に通常添加される各種添加剤、例えば、安定剤、増粘剤、分解促進剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤等を配合することができる。
【0080】
上記塗料組成物を塗装することによって形成された塗膜層を有することを特徴とする積層体も本開示の一つである。
【0081】
上記塗料組成物は、通常の塗料で用いられる塗装方法により塗装することができ、上記塗装方法としては、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装、バーコーターによる塗工、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイ塗工等が挙げられる。
【0082】
上記塗装の後、乾燥・焼成することにより、本開示の積層体とすることができる。上記乾燥としては、液状媒体を除去することができる方法であれば特に限定されず、例えば、必要に応じて加熱し、室温~130℃で、5~30分間行う方法等が挙げられる。上記焼成は、フッ素樹脂の溶融温度以上で行うものであり、通常、200~400℃の範囲で10~60分間行うことが好ましい。塗工した金属箔の酸化を防ぐために不活性ガス下での乾燥・焼成が好ましい。
【0083】
本開示の塗料組成物を使用して形成される塗膜は、乾燥・焼成後の厚みが2~40μmであることが好ましい。このような範囲内の塗膜とすることで、塗膜状態の問題を生じることのない良好な塗膜を容易に形成することができ、更に、塗膜として要求される物性を充分に発揮することができる。上記下限は、3μmであることがより好ましく、5μmであることがさらに好ましい。上記上限は、35μmであることがより好ましく、30μmであることがさらに好ましい。
【0084】
本開示の積層体における基材としては、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、真鍮等の金属類;ガラス板、ガラス繊維の織布及び不織布等のガラス製品;ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、モディファイドポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の汎用及び耐熱性樹脂の成形品及び被覆物;SBR、ブチルゴム、NBR、EPDM等の汎用ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性ゴムの成形品及び被覆物;天然繊維及び合成繊維の織布及び不織布;またはこれらを組み合わせて形成された積層基材等を使用することができる。
上記基材は、表面加工されたものであってもよい。上記表面加工としては、サンドブラストを用いて所望の粗度まで粗面化するもの、粒子を付着させて粗面化したもの、金属酸化防止処理を施したものが挙げられる。
【0085】
本開示の塗料組成物は、基材との接着性を高めることができるものである。具体的には、本開示の塗料組成物を塗装することによって形成された塗膜層と基材との接着強度は、5N/cm以上とすることができる。
上記接着強度は、塗膜層と基材とからなる積層体を塗膜層が銅箔に密着するよう重ね、真空下加熱温度:320℃、圧力:3MPaで5分間プレスすることにより塗膜層と基材からなる積層体及び銅箔が積層された接合体得た後、接合体を幅10mm×長さ40mm×3セットの短冊状に切断し、試料片を作成し、この試験片について、オートグラフ((株)島津製作所製 AGS-J 5kN)を使用して、JIS C 6481-1996に準拠し、25℃において50mm/分の引張速度で90度剥離試験を行い、剥離モードを観測して測定した値である。
上記接着強度は、7N/cm以上であることがより好ましい。
【0086】
なお、上記接着強度は、使用する塗料組成物が同一であっても基材の種類によって変化するものであるが、本開示の塗料組成物は、通常は剥離強度を得ることが困難であるような基材を使用した場合であっても、上述したような優れた剥離強度を得ることができる点で特に好ましいものである。
【0087】
より具体的には、基材が表面粗さの小さい金属基材であっても、上述の範囲の接着強度を得ることができる。例えば、表面粗さが(Rz)が1.0μm以下の銅箔を基材として使用した場合、従来のフッ素含有塗料組成物では充分な接着性を得ることができなかったが、本開示の塗料組成物からなる塗膜層は、5N/cm以上の接着強度を示すことができる。
【0088】
上記表面粗さ(Rz)は、JIS-B0601に規定される十点平均粗さである。本明細書において、上記Rzは、測定長を4mmとして、表面粗さ計(商品名:サーフコム470A、東京精機社製)を用いて測定した値である。
【0089】
本開示の積層体は、耐熱性、耐溶剤性、潤滑性、非粘着性等が要求される分野で使用でき、フィルム、繊維強化フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属張積層板、プリント基板、基板用誘電材料、積層回路基板等に使用できる。
【0090】
本開示の積層体は、銅箔上に本開示の塗料組成物によって形成された塗膜層を有するものであることが特に好ましい。近年、各種分野において、高周波領域での通信が盛んになっている。高周波領域で用いた際の伝送損失を小さくするために、フルオロポリマーを含有する誘電体層と銅箔とを積層させたものを使用することが行われている。このような用途において、本開示の塗料組成物は、特に好適に使用することができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において%、部とあるのは特に言及がない限り質量%、質量部を意味する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0092】
(FEPの調製)
特許4306072号の実施例1に記載の方法でFEPの水分散体を得た。FEP粒子には開始剤由来のカルボン酸が末端基に含まれており、得られた官能基含有FEP粒子の官能基数を上述の方法により測定したところ、主鎖炭素数10個当たり207個であった。
【0093】
(PTFE水性分散体)
ポリマー固形分濃度が64質量%、非イオン界面活性剤濃度がポリテトラフルオロエチレン固形分に対して2.7質量%、平均一次粒子径312nm、標準比重が1.57、上述の方法により測定した官能基数が、主鎖炭素数106個当たり10個以下のPTFE水性分散体を用いた。
【0094】
(PFA水性分散体の調製)
特許4306072号の実施例4に記載の方法でPFA(TFE/PPVE=96.9/3.4質量比)粒子を20%含むの水分散体を得た。乾燥して取り出したPFAのMFRは22g/10min、融点は315℃であった。界面活性剤の含有量は、PFA固形分重量に対して2.9%であった。得られたPFA粒子の官能基数を上述の方法により測定したところ、主鎖炭素数10個当たり143個であった。
【0095】
実施例1
(塗料化)
得られた末端官能基含有FEP水性分散体とPTFE水性分散体をFEP:PTFEの固形分比が35:65になるように混合し、FEPとPTFEの固形分に対して界面活性剤(ノイゲンTDS-80C)14質量部、シリカ粒子、更に、イオン交換水20質量部を加えた。さらに、UA-200(ウレタン結合含有非フッ素樹脂水分散体、三洋化成工業株式会社製)の固形分がフッ素樹脂とシリカの合計に対して0.5質量部となるように添加して塗料化した。

なお、使用したシリカ粒子は以下の通りである。
B-1:アドマテックス製アドマファインSC2500-SQ 平均粒子径0.5μm、球状、比表面積6.1m/g
UA-200:ウレタン結合含有非フッ素樹脂水分散体、三洋化成工業株式会社製、350℃での重量減少は64.7%であった。
【0096】
得られた塗料組成物に含まれるフッ素樹脂の平均粒子径を上述の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0097】
実施例2~11
各配合成分を表2及び3に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗料化した。
なお、実施例10及び11では、UA-200に代えて以下のポリアクリル酸を使用した。
ポリアクリル酸:富士フィルム和光純薬製 ポリアクリル酸250,000、350℃での重量減少は、35.4%であった。
【0098】
比較例1、2
非フッ素樹脂を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様に塗料化した。
【0099】
以下の方法にしたがって、樹脂塗膜層を得た。
銅箔(福田金属箔粉工業製 CF-V9S-SV-18、表面粗さRz:1.4μm)上にバーコーター(No.30)を用いて塗料を塗工した。塗工後の銅箔を130℃で15分間乾燥させた。さらに窒素ガス雰囲気下350℃15分間焼成し膜厚25μmの塗膜を作製した。
さらに、得られた塗膜について、以下の基準に基づいて評価を行った。
【0100】
(銅箔との接着力)
接着強度は、塗膜層と基材とからなる積層体を塗膜層を銅箔に密着するよう重ね、加熱温度:320℃、圧力:3MPaで5分間プレスすることにより塗膜層と基材からなる積層体及び銅箔が積層された接合体得た後、接合体を幅10mm×長さ40mm×3セットの短冊状に切断し、試料片を作成し、この試験片について、オートグラフ((株)島津製作所製 AGS-J 5kN)を使用して、JIS C 6481-1996に準拠し、25℃において50mm/分の引張速度で剥離試験を行い、剥離モードを観測して測定した。
×:接着強度は、5N/cm未満であった。
△:接着強度は、5N/cm以上であった。
〇:接着強度は、7N/cm以上であった。
【0101】
(塗膜欠陥)
塗工表面を目視で確認し、塗膜の状態を確認した。
××:クラック5個以上あり
×:クラック2個以上あり
△:クラック1個あり
〇:クラックなし
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
実施例より、本開示の塗料組成物により得られる塗膜は、クラック等の塗膜欠陥の発生を低減し、銅箔基材との接着性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示により、金属基材との良好な接着性を有し、電気物性と表面物性に優れた塗膜層を形成し得る塗料組成物を得ることができる。上記塗料組成物は、プリント基板、基板用誘電材料、積層回路基板等の塗装に好適に用いられる。