(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】通信制御装置および通信制御方法
(51)【国際特許分類】
H04L 1/00 20060101AFI20230323BHJP
H03M 13/45 20060101ALI20230323BHJP
H03M 13/29 20060101ALI20230323BHJP
H04B 1/707 20110101ALI20230323BHJP
【FI】
H04L1/00 E
H03M13/45
H03M13/29
H04B1/707
H04L1/00 B
(21)【出願番号】P 2019074135
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒人
(72)【発明者】
【氏名】國立 忠秀
(72)【発明者】
【氏名】金森 勝美
(72)【発明者】
【氏名】松井 研輔
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】イット ワンシット
(72)【発明者】
【氏名】細川 元気
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】李 還幇
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-171960(JP,A)
【文献】特開2018-074515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 1/00
H03M 13/45
H03M 13/29
H04B 1/707
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した高周波信号から目的のPPM信号を取り出す受信RF部と、
取り出した
前記PPM信号
のシンボルごとにPPMスロット単位で拡散符号系列との相関値を計算するPPM復調部と、
前記相関値を用いて、前記PPMスロット単位で信号の有無についての対数尤度比を計算し、対数尤度比の分布パターンを求める環境推定部と、
前記対数尤度比の分布パターンに基づいて
無線通信の送信処理における
通信データの方式パラメータを設定するパラメータ設定部と、
外部から入力される所定の通信データをターボ符号化するターボ符号化部と、
前記パラメータ設定部で設定された前記方式パラメータに基づいて、ターボ符号化された前記所定の通信データをPPM変調するPPM変調部と、
PPM変調された通信データを高周波信号に変換して送信する送信RF部と、
を備えることを特徴とする通信制御装置。
【請求項2】
前記方式パラメータは、変
調多値数、スロット時間長、ガード時間長、拡散符号系列長、誤り訂正符号の符号化率の何れか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の通信制御装置。
【請求項3】
前記通信データの送受信に適用される通信フレームは、同期用ヘッダであるSHRと、物理層ヘッダであるPHRおよびペイロードから構成され、
前記PHRおよび前記ペイロードを構成する256シンボルの各シンボル(PPMシンボル)を8個のタイムスロットおよびガード時間(GT)で構成することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の通信制御装置。
【請求項4】
前記パラメータ設定部は、
前記環境推定部で求めた
前記対数尤度比の分布パターンの形状と、予め取得した判定用の分布パターンの形状とを照合し、その照合結果に応じて
前記方式パラメータを設定することを特徴とする請求項
1から請求項
3の何れか1項に記載の通信制御装置。
【請求項5】
前記パラメータ設定部は、
前記環境推定部で求めた
前記対数尤度比の分布パターンの形状が、ピークが2つ有る2峰性を呈する場合には、電波環境は良好であると判定して当該電波環境に対応する
前記方式パラメータを設定し、
前記環境推定部で求めた
前記対数尤度比の分布パターンの形状が、ピークが1つ有る単峰性またはピークが3つ以上有る多峰性を呈する場合には、電波環境は悪化と判定して当該電波環境に対応する
前記方式パラメータを設定することを特徴とする請求項
4に記載の通信制御装置。
【請求項6】
受信した高周波信号から目的のPPM信号を取り出す受信過程と、
取り出した
前記PPM信号
のシンボルごとにPPMスロット単位で拡散符号系列との相関値を計算するPPM復調過程と、
前記相関値を用いて、前記PPMスロット単位で信号の有無についての対数尤度比を計算し、対数尤度比の分布パターンを求める環境推定過程と、
前記対数尤度比の分布パターンに基づいて
無線通信の送信処理における
通信データの方式パラメータを設定するパラメータ設定過程と、
外部から入力される所定の通信データをターボ符号化するターボ符号化過程と、
前記方式パラメータに基づいて、ターボ符号化された前記所定の通信データをPPM変調するPPM変調過程と、
PPM変調された通信データを高周波信号に変換して送信する送信過程と、
を有することを特徴とする通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御装置および通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両が搭載する各種機器の制御をケーブル等を介した有線方式に代えて、無線通信方式で行うことが提案されている。これにより、車内における配線の手間やコスト等を削減することができる。
【0003】
ところが、従来の車両内に搭載される無線通信方式の通信装置では、車種や乗車人数等によって通信データの伝搬特性が大きく変化し、通信の信頼性等に影響を及ぼす。
このような車内の電波伝搬特性に適応し得る通信技術が種々提案されている(例えば、特許文献1等)。
特許文献1等で提案される通信技術によれば、上述のような環境下において通信データの信頼性向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の技術では、電波伝搬特性を推定する際にリファレンス信号等を用いるためオーバーヘッドを生じ、通信データの遅延を生じるという不都合がある。
特に、車両において通信データの遅延が発生すると、制御対象としての各種機器の動作遅延等の原因となり、利便性や安全性に影響を与えるという問題がある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、無線通信における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することができる通信制御装置および通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の通信制御装置は、拡散符号系列を送るタイミングで変調され、受信側で当該符号系列を相関検出する無線システムの通信制御装置であって、受信側において、通信データのターボ復号前にPPMスロット毎の対数尤度比の分布パターンを算出し、当該分布パターンに基づいて、PPMにおける方式パラメータを調整することを要旨とする。
これにより、無線通信における通信データの信頼性を維持するとともに、遅延を抑制することができる。
【0008】
請求項2に記載の通信制御装置は、請求項1に係る発明において、受信した高周波信号から目的のPPM信号を取り出す受信RF部と、取り出したPPM信号からターボ符号語ビット単位の尤度を計算するPPM復調部と、前記ターボ符号語ビット単位の尤度のターボ復号前に、前記PPMスロット毎の尤度を計算し、対数尤度比の分布パターンを求める環境推定部と、前記対数尤度比の分布パターンに基づいてPPMにおける方式パラメータを設定するパラメータ設定部と、前記ターボ符号語ビット単位の尤度所定の信号波をターボ復号して元の通信データを取得するターボ復号部とを備えることを要旨とする。
これにより、受信状況に応じて最適な通信パラメータの制御が可能となる。
【0009】
請求項3に記載の通信制御装置は、請求項2に係る発明において、外部から入力される所定の通信データをターボ符号化するターボ符号化部と、前記パラメータ設定部で設定された方式パラメータに基づいて、ターボ符号化された前記所定の通信データをPPM変調するPPM変調部と、PPM変調された通信データを高周波信号に変換して送信する送信RF部とを備えることを要旨とする。
これにより、指定された通信パラメータでデータ送信することによって通信信頼性向上や通信遅延抑制が可能となる。
【0010】
請求項4に記載の通信制御装置は、請求項1から請求項3の何れか1項に係る発明において、前記方式パラメータは、変換多値数、スロット時間長、ガード時間長、拡散符号系列長、誤り訂正符号の符号化率の何れか一つを含むことを要旨とする。
これにより、無線通信における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することを実現できる。
【0011】
請求項5に記載の通信制御装置は、請求項1から請求項4の何れか1項に係る発明において、通信データの送受信に適用される通信フレームは、同期用ヘッダであるSHRと、物理層ヘッダであるPHRおよびペイロードから構成され、前記PHRおよび前記ペイロードを構成する256シンボルの各シンボル(PPMシンボル)を8個のタイムスロットおよびガード時間(GT)で構成することを要旨とする。
これにより、無線通信における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することを実現できる。
【0012】
請求項6に記載の通信制御装置は、請求項2から請求項4の何れか1項に係る発明において、前記パラメータ設定部は、前記環境推定部で求めた対数尤度比の分布パターンの形状と、予め取得した判定用の分布パターンの形状とを照合し、その照合結果に応じてPPMにおける方式パラメータを設定することを要旨とする。
これにより、無線通信における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することを比較的容易に実現できる。
【0013】
請求項7に記載の通信制御装置は、請求項6に係る発明において、前記パラメータ設定部は、前記環境推定部で求めた対数尤度比の分布パターンの形状が、ピークが2つ有る二峰性を呈する場合には、電波環境は良好であると判定して当該電波環境に対応する方式パラメータを設定し、前記環境推定部で求めた対数尤度比の分布パターンの形状が、ピークが1つ有る単峰性またはピークが3つ以上有る多峰性を呈する場合には、電波環境は悪化と判定して当該電波環境に対応する方式パラメータを設定することを要旨とする。
これにより、無線通信における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することを比較的容易に実現できる。
【0014】
請求項8に記載の通信制御方法は、受信電波から目的のPPM信号を取り出す受信過程と、取り出したPPM信号を所定の信号波に復元するPPM復調過程と、前記所定の信号波のターボ復号前に、前記PPMスロット毎の尤度を計算し、対数尤度比の分布パターンを求める環境推定過程と、前記対数尤度比の分布パターンに基づいてPPMにおける方式パラメータを設定するパラメータ設定過程と、前記所定の信号波をターボ復号して元の通信データを取得するターボ復号過程とを有することを要旨とする。
これにより、無線通信の送信処理における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することができる。
【0015】
請求項9に記載の通信制御方法は、請求項8に係る発明において、外部から入力される所定の通信データをターボ符号化するターボ符号化過程と、前記パラメータ設定部で設定された方式パラメータに基づいて、ターボ符号化された前記所定の通信データをPPM変調するPPM変調過程と、PPM変調された通信データを送信する送信過程とを有することを要旨とする。
これにより、無線通信の送信処理における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無線通信における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することができる通信制御装置および通信制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る通信制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る通信制御装置に適用される通信データの通信フレーム構成例を示す説明図である。
【
図3】PPMシンボルの構成例を示す説明図である。
【
図5】二峰性を呈する尤度分布の例を示すグラフ(a)~(c)である。
【
図6】二峰性以外を呈する尤度分布の例を示すグラフ(a)~(c)である。
【
図7】8値パルス位置変調における方式パラメータ最適化の例を示す説明図(a)、(b)である。
【
図8】実施形態に係る通信制御装置で実行される方式パラメータ設定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図9】ペイロードの系列長を変更した例を示す説明図(a)~(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態に係る通信制御装置M1について
図1~
図5を参照して説明する。
(通信制御装置の構成例)
図1を参照して、実施形態に係る通信制御装置M1の構成例について説明する。
図1は、実施形態に係る通信制御装置M1の概略構成を示すブロック図である。
【0019】
本実施形態に係る通信制御装置M1は、一例として、超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band))を利用したターボ符号化パルス位置変調(PPM:Pulse Position Modulation))方式の通信制御装置(無線機)であり、受信側において、通信データのターボ復号前にPPMスロット毎の対数尤度比の分布パターンを算出し、この分布パターンに基づいて、PPMにおける方式パラメータを調整するようになっている。
【0020】
より具体的には、
図1のブロック図に示すように、通信制御装置M1は、受信した高周波信号から目的のPPM信号を取り出す受信RF部100と、取り出したPPM信号からターボ符号語ビット単位の尤度を計算するPPM復調部101と、ターボ符号語ビット単位の尤のターボ復号前に、PPMスロット毎の尤度を計算し、対数尤度比の分布パターンを求める環境推定部103と、対数尤度比の分布パターンおよびヘッダ情報D1に基づいてPPMにおける方式パラメータD2を設定するパラメータ設定部104と、ターボ符号語ビット単位の尤度をターボ復号して元の通信データを取得するターボ復号部102とを備える。
なお、環境推定部103、パラメータ設定部104等は、マイクロコンピュータ等で構成される。
【0021】
通信制御装置M1は、さらに、外部から入力される所定の通信データをターボ符号化するターボ符号化部105と、パラメータ設定部104で設定された方式パラメータD2に基づいて、ターボ符号化された所定の通信データをPPM変調するPPM変調部106と、PPM変調された通信データを送信する送信RF部107とを備える。
なお、
図1において符号200は、送受信に兼用されるアンテナである。
ここで、本実施形態に係る通信制御装置M1の動作概要について説明する
まず、アンテナ200および受信RF部100を介して受信された高周波信号は、PPM復調部101で復調できる信号に変換される。
【0022】
PPM復調部101では、通信データのPHR+ペイロード区間(後出の
図2等参照)において、シンボルごとにPPMスロット単位で拡散符号系列との相関値を計算し、その相関値をもとにターボ復号部102へ渡す軟値を計算する。
なお、PHRは、ペイロード(Payroad)の方式通知などの制御情報伝送用の信号である。
また、後出の
図2等に示すように、通信データのヘッダ部には、PHRの前に、フレーム同期用のSHR(Short Header)が格納されている。
ターボ復号部102では、この軟値をもとに復号処理を行い、復号結果はCRCによる誤り検出を行ってデータ受信の成功または失敗を確認する。
【0023】
次いで、環境推定部103では、PPM復調部101で計算された時間スロットごとの相関値を用いて、PPMスロット単位で信号の有無についての対数尤度比を計算し、通信データのPHR及びペイロード全体で得られた対数尤度比から対数尤度比の分布を求める。
続いて、この分布の形状に基づいて電波伝搬環境の推定を行う。
【0024】
次いで、データ受信の成功、失敗に対応するACK/NACKと併せて、環境推定部102から電波伝搬環境推定値または適切な方式パラメータをパラメータ設定部104で設定して、PPM変調部106等の送信側へ送る。もしくは、物理層ヘッダの方式パラメータは固定として、物理層方式ヘッダの送信データとして設定された方式パラメータをPPM変調部106等の送信側へ送る。
【0025】
そして、電波伝搬環境推定値が送られた場合には、PPM変調部106等の送信側はその推定値に基づいて方式パラメータD2を変更(調整)して次データの送信処理または再送処理を行う。
ここで、受信側で尤度比によって制御する通信パラメータが決まった場合に、その通信パラメータを相手方に通知する必要がある。そこで、本実施形態に係る通信制御装置M1では、ACKもしくはNACKなどの応答情報に、制御する通信パラメータ情報を入れて相手側に送信し、情報を共有することにより信頼性が高く、低遅延の通信を実現している。
【0026】
調整可能な方式パラメータD2としては、変換多値数、スロット時間長、ガード時間長、拡散符号系列長、誤り訂正符号の符号化率等の何れか一つを含むようにできる。なお、方式パラメータD2の例示については後述する。
これにより、無線通信における通信データの信頼性を維持するとともに、遅延を抑制することができる。
【0027】
(通信フレーム構成等について)
次に、
図2~
図4を参照して、通信制御装置M1の通信に適用される通信データの通信フレーム構成等の一例について説明する。
ここで、
図2は、実施形態に係る通信制御装置M1に適用される通信データの通信フレーム構成を示す説明図、
図3は、PPMシンボルの構成例を示す説明図、
図4は、実際の信号波形例を示す波形図である。
【0028】
図2等に示すように、通信制御装置M1に適用される通信データの通信フレームは、同期用ヘッダであるSHR(Short Header)と物理層ヘッダであるPHR(PHY Header:ペイロードの方式通知などの制御情報伝送用のヘッダ)およびデータ伝送用のペイロード(Payload)から構成される。
SHRは、例えば4.06μ秒とされ、同期を取りや易くするために127chipsを4回繰り返す構成になっている。
【0029】
また、PHR+ペイロードは、例えば585μ秒とされ、256シンボルと符号語テイル4シンボルから構成され、1シンボルは8PPMに対応すべく1スロットが31chipsで構成される8つのタイムスロットとガードタイム(GT)で構成されている(
図3参照)。
なお、通信制御装置M1に適用される通信データの通信フレーム構成では、通信環境推定用の信号区間は無いので、従来のように電波伝搬特性を推定する際にリファレンス信号等を用いる場合に比して、信号長を短縮できる。これにより、通信データの遅延を抑制することができる。
図3に示すPPMシンボルの構成例は、8値パルス位置変調(8PPM)の例である。
この構成例では、1シンボルで3ビットを送信する。1シンボルは、8つのスロットと1つのガード時間(GT)で構成される。
そして、送信する3ビットに応じて、スロットを選択する。
図3では、スロットT1が選択された場合を示す。
これにより、選択されたスロットで拡散符号系列が送信される。
【0030】
(相関値に基づく尤度計算について)
実施形態に係る通信制御装置M1は、環境推定部103において、相関値に基づく尤度計算を行う。
具体的には、数1の式により、8値パルス位置変調(8PPM)のスロット単位の対数尤度比L(Ti)を算出する。
【0031】
【数1】
数1で得られたスロット単位の対数尤度比は、数2の式により、ビット単位の対数尤度比L(bk)に変換して、ターボ復号部102に入力される。
そして、算出したスロット単位の対数尤度比L(Ti)の分布を観測することで方式パラメータを調整する。
【0032】
具体的には、パラメータ設定部104は、環境推定部103で求めた対数尤度比L(Ti)の分布パターンの形状と、予め取得した判定用の分布パターンの形状とを照合し、その照合結果に応じてPPMにおける方式パラメータを設定する。
【0033】
より具体的には、パラメータ設定部104は、環境推定部103で求めた対数尤度比の分布パターンの形状が、ピークが2つ有る二峰性を呈する場合には、電波環境は良好であると判定して、この電波環境に対応する方式パラメータを設定する。
【0034】
即ち、対数尤度比の分布について、明確な二峰性を呈する場合には、良好なSNRが得られる拡散符号系列および遅延広がりに適したガード時間を使用し、ガード時間や拡散符号系列の短縮によってフレーム長の短縮を図ることができ、通信データの低遅延化を実現することができる。
【0035】
また、環境推定部103で求めた対数尤度比の分布パターンの形状が、ピークが1つ有る単峰性またはピークが3つ以上有る多峰性を呈する場合には、電波環境は悪化と判定して、この電波環境に対応する方式パラメータを設定する。
【0036】
即ち、対数尤度比の分布パターンの形状が単峰性の場合には、SNRが低いことから拡散符号系列を長いものに変更する、或いは誤り訂正符号の符号化率や変調多値数を下げる等により高信頼化を図る。
【0037】
また、対数尤度比の分布パターンの形状が多峰性の場合には、外来する干渉波またはシンボル間干渉の影響があることから、ガード時間を長くする、或いは拡散符号系列を長くする(例えばタイムホッピング系列を併用するなど)等により高信頼化を図る。
【0038】
対数尤度比の分布パターンの形状を分類する規範としては、固定のテーブルを持つ方法や、機械学習(決定木等)によって車種ごとに分類規範を作るようにしてもよい。この場合、巡回冗長検査(CRC)符号を付与して学習データを収集するようにしてもよい。
(尤度分布の例)
ここで、
図5および
図6に、対数尤度比の分布パターンの例を示す。
図5(a)~(c)は、二峰性を呈する尤度分布の例を示すグラフである。
【0039】
図5(a)は、SNR=6dBの場合の対数尤度比の分布パターンの例であり、2つの混合ガウス分布で、分散が比較的小さく、図示するような二峰性を呈している。
図5(b)は、SNR=3dBの場合の対数尤度比の分布パターンの例であり、
図5(a)ほど明瞭では無いが、確認可能な二峰性を呈している。
【0040】
図5(c)は、SNR=0dBの場合の対数尤度比の分布パターンの例であり、2つの混合ガウス分布で、分散が比較的大きく、
図5(a)および
図5(b)と比較すると、非常に弱い二峰性を呈している。
このうち、
図5(a)および
図5(b)に示すような二峰性を呈する対数尤度比の分布パターンは、本発明者等の研究により、通信環境が比較的良好な場合と良く一致することが確認されている。
【0041】
そこで、
図5(a)および
図5(b)に示すような二峰性を呈する対数尤度比の分布パターンが取得された場合には、例えば、
図7(a)および
図7(b)に示すように、拡散符号系列長を短く(例えば、31chipsから15chipsなどに変更)するなどして、方式パラメータの最適化を行うことにより、通信時間の短縮(低遅延化)を図ることができる。
一方、
図6(a)~(c)は、二峰性以外を呈する尤度分布の例を示すグラフである。
【0042】
図6(a)は、SNR=6dBで電波干渉が有る場合の対数尤度比の分布パターンの例であり、多数の混合ガウス分布で、分散が比較的小さく、図示するように3つ以上のピークが有る多峰性を呈している。
【0043】
図6(b)は、SNR=3dBで電波干渉が有る場合の対数尤度比の分布パターンの例であり、図示するように1つのピークが有る低尖度の単峰性を呈している。
【0044】
図6(c)は、SNR=0dBで電波干渉が有る場合の対数尤度比の分布パターンの例であり、多数の混合ガウス分布で、分散が比較的大きく、図示するように1つのピークが有る低尖度の単峰性を呈している。
【0045】
これらのうち、単峰性を呈する対数尤度比の分布パターンは、本発明者等の研究により、通信環境が比較的不良な場合と良く一致することが確認されている。
【0046】
そこで、このような単峰性を呈する対数尤度比の分布パターンが取得された場合には、例えば、拡散符号系列長を長くする(例えば、31chipsから127chipsなど)などして、通信失敗を減らすようにする。多峰性を呈する対数尤度比の分布パターンが取得された場合には、拡散符号系列長を長くするなどして、通信失敗をより減らすようにすることもできる。
このように、対数尤度比の分布パターンに応じて方式パラメータを調整して、無線通信の送信処理における通信データの信頼性を維持すると共に、遅延を抑制することができる。
【0047】
(方式パラメータの例)
以下に、電波環境に応じて変更し得る方式パラメータを例示する。
イ)変調多値数
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、多値数を増やして(伝送量が増える)、通信時間を短縮(低遅延化)する。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、多値数を減らし(伝送量が減る)、通信し易くする。
【0048】
ロ)ガード時間長(GT)
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、GTを短くして、通信時間を短縮する。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、GTを長くして、反射波などの干渉影響を軽減して、通信し易くする。
ハ)拡散符号系列長
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、拡散符号系列長を短くして(例えば、31chipsから15chipsなどにして)、通信時間を短くする(低遅延化)。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、拡散符号系列長を長くして(例えば、31chipsから127chipsなどにして)、通信失敗を減らす。
【0049】
ニ)誤り訂正符号の符号化率等
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、符号化率を上げて(誤り訂正用の冗長ビットが減る)、通信時間を短くする(低遅延化)。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、符号化率を下げて(誤り訂正用の冗長ビットが増える)、通信失敗を減らす。
ホ)送信電力を変える。
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、送信電力を下げて、消費電力を抑える。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、送信電力を電波法の範囲内で上げて、通信失敗を減らす。
ヘ)時間ホッピング系列長を変える。
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、ホッピング系列長を短くして、フレーム時間長を短くする。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、ホッピング系列長を長くして、通信失敗を減らす。
【0050】
ト)ショートヘッダ(SHR)の長さを変える
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、SHRを短くして(例えば127chipsを4回から2回に減らすなど)低遅延化する。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、SHRを長くして(例えば、127chipsを4回から8回に増やすなど)同期をとり易くする。
チ)伝送速度を変える。
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、伝送速度を上げて、通信時間を短くする(低遅延化)。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、伝送速度を下げて、反射波などの干渉影響などを軽減して、通信失敗を減らす。
リ)ペイロード長を変える。
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、ペイロードを長くして、より多くのデータを送る。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、ペイロードを短くして、干渉波などの衝突確率を下げて、通信失敗を減らす。
【0051】
ヌ)周波数を変える。
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、通信する周波数は変えず、そのまま通信する。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、周波数を切り替えて(電波環境を変えて)、通信し易くする。
ル)アンテナ指向性やアンテナヌル点を変える
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、何もしないか、またはアンテナビームを無指向性にする。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、無指向性から指向性にビーム制御して、主ビーム方向以外の干渉影響を軽減する。或いは、強い干渉波の到来方向が推定できる場合は、その干渉到来方向にヌル点を合わせて、干渉影響を軽減する
【0052】
ヲ)マルチキャリア伝送(OFDM)における伝送キャリアを変える。
電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、すべてのキャリアでマルチキャリア伝送する。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、環境が悪いキャリアを除外してマルチキャリア伝送する。
ワ)同時伝送するキャリア(周波数)の帯域や数を変える(キャリアアグリゲーション)。 電波環境が良い(尤度情報が二峰性を呈する)場合には、同時伝送可能なすべてのキャリアで通信する。
電波環境が悪い(尤度情報が単峰性もしくは多峰性を呈する)場合には、電波環境の悪いキャリアを除外して、電波環境の良いキャリアで同時伝送する。
【0053】
(方式パラメータ設定処理)
拡散符号系列長を変化させる一例として、
図8のフローチャートおよび
図9の説明図を参照して、本実施の形態に係る通信制御装置M1で実行される方式パラメータ設定処理の処理手順について説明する。
【0054】
この処理が開始されると、まずステップS10で、受信PPM信号の方式パラメータである拡散符号系列長を知るための物理層ヘッダ情報および尤度サンプル集合の統計量M2(例えば尤度の2次モーメント)を入力してステップS11に移行する。
ステップS11では、物理層ヘッダ情報である拡散符号系列長をもとにM2の判断基準をS12、S14、S16の何れにするかの判定が行われる。拡散符号系列長が8の場合にはS12、16の場合にはS14、32の場合にはS16が選択される。
【0055】
そして、S12で、M2が~1.5と判定された場合には、ステップS13に移行して、系列長を8(即ち、
図9(a)に示すようにペイロードを系列長8とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
【0056】
また、M2が1.5~と判定された場合には、ステップS15に移行して、系列長を16(即ち、
図9(b)に示すようにペイロードを系列長16とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
【0057】
一方、ステップS14で、M2が2.0~3.0と判定された場合には、ステップS15に移行して、系列長を16(即ち、
図9(b)に示すようにペイロードを系列長16とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
【0058】
また、M2が3.0~と判定された場合には、ステップS17に移行して、系列長を32(即ち、
図9(c)に示すようにペイロードを系列長32とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
さらに、M2が~2.0の場合には、ステップS13に移行して、系列長を8(即ち、
図9(a)に示すようにペイロードを系列長8とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
【0059】
さらに、ステップS16で、M2が~4.0と判定された場合には、ステップS15に移行して、系列長を16(即ち、
図9(b)に示すようにペイロードを系列長16とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
【0060】
また、M2が4.0~と判定された場合には、ステップS17に移行して、系列長を32(即ち、
図9(c)に示すようにペイロードを系列長32とした通信フレーム)に設定してからステップS10に戻る。
なお、
図8に示す方式パラメータの設定処理では、系列長を変更する場合を例示したが、移動平均や差分などの統計量M2の履歴を用いるようにしてもよい。
また、系列長だけでなく、スロット時間長やガード時間長等を変更するようにしてもよい。
【0061】
以上述べたように、本実施の形態に係る通信制御装置M1によれば、物理層ヘッダおよびペイロード信号における対数尤度比のみに基づいて電波伝搬環境を推定することができるため、従来技術のようにリファレンス信号等の通信路推定用信号を別途挿入する必要がなく、伝送効率を向上させると共にハードウェアやソフトウェアの複雑さを抑制することができる。
【0062】
また、プリアンブル系列(
図2等におけるSHRに相当)を利用した通信路推定方法も考えられるが、インパルス信号間の干渉の場合に、SHRのような短時間の観測では検出できない場合が多い。そのため、SHRを長くするとスループットの低下を招くことになるのに対して、本実施の形態で示した方式は、時間長が長いデータ信号部分を活用することからこのような課題を生じないというメリットがある。
【0063】
また、電波伝搬環境推定の結果、方式パラメータを制御するので、チャネル利用効率向上や信頼性の高い無線通信が可能になる。即ち、遅延広がりが短い場合にはフレーム時間の短縮が可能になることから、チャネル利用効率の向上に寄与する。
また、遅延広がりが長い場合や伝搬損失が大きい場合においても、高い信頼性を持つ無線通信を実現することができる。
【0064】
以上、本発明の通信制御装置等を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【符号の説明】
【0065】
M1…通信制御装置
100…受信RF部
101…PPM復調部
102…ターボ復号部
103…環境推定部
104…パラメータ設定部
105…ターボ符号化部
106…PPM変調部
107…送信RF部
200…アンテナ
D1…ヘッダ情報
D2…方式パラメータ