(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】乗物用調光ウィンドウ、及び乗物用調光ウィンドウシステム
(51)【国際特許分類】
G03B 21/62 20140101AFI20230323BHJP
B60J 3/04 20060101ALI20230323BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230323BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20230323BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20230323BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20230323BHJP
G02F 1/169 20190101ALI20230323BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G03B21/62
B60J3/04
B32B7/023
G02B27/01
G02F1/13 505
G02F1/15 502
G02F1/169
H04N5/64 501Z
(21)【出願番号】P 2019186744
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504429644
【氏名又は名称】九州ナノテック光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 元貴
(72)【発明者】
【氏名】杁江 正博
(72)【発明者】
【氏名】酒向 慎貴
(72)【発明者】
【氏名】馬場 潤一
【審査官】道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-173416(JP,A)
【文献】特表2010-539525(JP,A)
【文献】特開2017-090617(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163291(WO,A1)
【文献】特開2018-132671(JP,A)
【文献】特開2020-086085(JP,A)
【文献】特開2005-024763(JP,A)
【文献】中国実用新案第208208286(CN,U)
【文献】特開2019-132973(JP,A)
【文献】特開2017-076078(JP,A)
【文献】特表2019-511987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B7/02-023
B60J3/04
G02B5/02
G02B27/01
G03B21/56-625
G03F1/13-169
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用調光ウィンドウであって、
透明板と、
第1導電膜と、
調光層と、
第2導電膜と、
投影用フィルムと、
をこの順に配し
、
更に、前記透明板と、前記第1導電膜と、の間に反射フィルムを配し、
前記投影用フィルムのヘイズ(JIS K7136)は、1%以上20%以下である、乗物用調光ウィンドウ。
【請求項2】
前記反射フィルムの可視光反射率は、10%以上20%以下である、請求項1に記載の乗物用調光ウィンドウ。
【請求項3】
前記第1導電膜は、第1樹脂フィルム上に形成されている、請求項1
又は請求項2に記載の乗物用調光ウィンドウ。
【請求項4】
前記第2導電膜は、第2樹脂フィルム上に形成されている、請求項
1から3のいずれか一項に記載の乗物用調光ウィンドウ。
【請求項5】
前記第2導電膜と、前記投影用フィルムと、は一体化しており、前記投影用フィルム上に前記第2導電膜が形成されている、請求項1から
4のいずれか一項に記載の乗物用調光ウィンドウ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の乗物用調光ウィンドウと、
プロジェクターと、を備えた乗物用調光ウィンドウシステムであって、
前記透明板は室外側に配され、前記投影用フィルムは室内側に配され、
前記プロジェクターによって、前記投影用フィルムに映像を投影する、乗物用調光ウィンドウシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗物用調光ウィンドウ、及び乗物用調光ウィンドウシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物における乗員に見せるための設備として、種々のディスプレイが知られている。例えば、ヘッドアップディスプレイのための複合ペインが知られている(特許文献1参照)。また、乗物のウィンドウに映像を投影することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のウィンドウに投影すると、映像が必ずしも鮮明ではなかった。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、映像を鮮明に投影可能な乗物用調光ウィンドウ、及び乗物用調光ウィンドウシステムを提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕乗物用調光ウィンドウであって、
透明板と、
第1導電膜と、
調光層と、
第2導電膜と、
投影用フィルムと、
をこの順に配した、乗物用調光ウィンドウ。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、映像を鮮明に投影できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の乗物用調光ウィンドウの断面図である。
【
図2】乗物用調光ウィンドウシステムを示す概念図である。
【
図3】第2実施形態の乗物用調光ウィンドウの断面図である。
【
図4】第3実施形態の乗物用調光ウィンドウの断面図である。
【
図5】乗物用調光ウィンドウシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図6】乗物用調光ウィンドウシステムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】乗物用調光ウィンドウが透明とされている状態を示す説明図である。
【
図8】乗物用調光ウィンドウが不透明とされている状態を示す説明図である。
【
図9】不透明な乗物用調光ウィンドウに映像が投影されている様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記第1導電膜は、第1樹脂フィルム上に形成されている、〔1〕に記載の乗物用調光ウィンドウ。
このようにすれば、コスト的に有利な乗物用調光ウィンドウを提供できる。
【0009】
〔3〕前記第2導電膜は、第2樹脂フィルム上に形成されている、〔1〕又は〔2〕に記載の乗物用調光ウィンドウ。
このようにすれば、コスト的に有利な乗物用調光ウィンドウを提供できる。
【0010】
〔4〕前記第2導電膜と、前記投影用フィルムと、は一体化しており、前記投影用フィルム上に前記第2導電膜が形成されている、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の乗物用調光ウィンドウ。
このようにすれば、簡易な構造の乗物用調光ウィンドウを提供できる。
【0011】
〔5〕更に、前記透明板と、前記第1導電膜と、の間に反射フィルムを配した、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の乗物用調光ウィンドウ。
このようにすれば、投影された映像がより鮮明になる。
【0012】
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の乗物用調光ウィンドウと、
プロジェクターと、を備えた乗物用調光ウィンドウシステムであって、
前記透明板は室外側に配され、前記投影用フィルムは室内側に配され、
前記プロジェクターによって、前記投影用フィルムに映像を投影する、乗物用調光ウィンドウシステム。
乗物用調光ウィンドウシステムによれば、映像を鮮明に投影できる。
【0013】
1.乗物用調光ウィンドウ1
乗物用調光ウィンドウ1は、透明板3と、第1導電膜5と、調光層7と、第2導電膜9と、投影用フィルム11と、をこの順に配してなる。
【0014】
1.1 第1実施形態の乗物用調光ウィンドウ1
第1実施形態の乗物用調光ウィンドウ1を説明する(
図1参照)。この乗物用調光ウィンドウ1は、透明板3、粘着フィルム19(任意構成要素)、反射フィルム17(任意構成要素)、第1樹脂フィルム13(任意構成要素)、第1導電膜5、調光層7、第2導電膜9、第2樹脂フィルム15(任意構成要素)、投影用フィルム11をこの順に配してなる。各構成要素を以下に説明する。なお、第1樹脂フィルム13(任意構成要素)、第1導電膜5、調光層7、第2導電膜9、第2樹脂フィルム15(任意構成要素)のユニットは調光フィルム4である。
図2には、乗物用調光ウィンドウ1を乗物に適用した一例の概念図が示されている。
図2では、主要な構成要素について符号が付されている。
図2では、封止材2も示されている。この図では、乗物用調光ウィンドウ1によって、乗物室内(
図2の乗物用調光ウィンドウ1よりも右側)と、乗物室外(
図2の乗物用調光ウィンドウ1よりも左側)とが区画されている。この図では、車室内のプロジェクター6によって、乗物用調光ウィンドウ1の投影用フィルム11に映像が投影されているようすが示されている。なお、映像には、静止画、動画のいずれも含まれる。
【0015】
(1)透明板3
透明板3の材質は、特に限定されない。透明板3の材質として、ポリカーボネート類、ポリスチレン類、ポリメチルメタクリレート類等の透明樹脂ガラス、無機ガラス、これらの単独又は2種以上の積層体を用いることができる。
透明板3の厚さは、特に限定されない。透明板3の厚さは、乗物内から乗物外を見やすくしつつ、乗物用調光ウィンドウ1の強度を確保するという観点から、下限値に関して、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましく、3.0mm以上が更に好ましい。同様の観点から、上限値に関して、20.0mm以下が好ましく、10.0mm以下がより好ましく、7.0mm以下が更に好ましい。よって、透明板3の厚さは、0.5mm以上20.0mm以下が好ましく、1.0mm以上10.0mm以下がより好ましく、3.0mm以上7.0mm以下が更に好ましい。
【0016】
(2)第1導電膜5
第1導電膜5の材質は、Ag、Cu、金属酸化物を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。第1導電膜5は、透明電極として機能する。
金属酸化物として、ITO(In2O3:Sn)、ATO(SnO2:Sb)、FTO(SnO2:F)、AZO(ZnO:Al)、GZO(ZnO:Ga)等が例示される。第1導電膜5には、例えば、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等の有機物も使用できる。ポリチオフェン系の化合物の一例は、PEDOT(Polyethylenedioxythiophene)である。
第1導電膜5の厚さは、特に限定されない。
【0017】
第1導電膜5は、第1樹脂フィルム13上に形成されていることが好ましい。第1樹脂フィルム13としては、乗物内から乗物外を見やすくするという観点から、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム、これらの単独又は2種以上の積層体を用いることができる。
【0018】
ポリエステル系フィルムを構成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフテレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステルの1種以上を好適に例示できる。
【0019】
第1樹脂フィルム13の厚さは、乗物内から乗物外を見やすくしつつ、第1導電膜5を十分に支持するという観点から、下限値に関して、5μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましい。同様の観点から、上限値に関して、200μm以下が好ましく、125μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましい。よって、第1樹脂フィルム13の厚さは、5μm以上200μm以下が好ましく、25μm以上125μm以下がより好ましく、50μm以上100μm以下が更に好ましい。
【0020】
(3)調光層7
調光層7の種類は、特に限定されない。調光層7は、電気の作用により色の濃淡が変化したり、又は着色と透明の間で変化する。調光層7として、(1)EC方式(Electro chromic)を用いた調光層7、(2)SPD方式(Suspended Particle Device)を用いた調光層7、(3)VA(Virtical Alignment)方式、TN(Twisted Nematic)方式、IPS(In-Place-Switching)方式の液晶を用いた調光層7が好適に例示される。具体例として、光を透過させる第1導電膜5と、光を透過させる第2導電膜9の間に位置して、内部に液晶分子が封入された構造を有する調光層7が例示される。調光層7は、例えば、含有する顔料の種類により、黒色と透明との間で調光する場合と、乳白色と透明との間で調光する場合がある。調光層7は、コントラストを考慮すると、黒色と透明との間で調光するものが好ましい。
なお、EC方式を用いた調光層7は、電極間の電位差に応じ、酸化還元反応を利用して調光層7の色が透明と濃紺との間で変化する。
SPD方式を用いた調光層7は、微粒子の配向を利用し、通常濃紺色に着色しているが、電圧をかけると透明に変化し、電圧を切ると元の濃紺色に戻るものであり、電圧によって濃淡を調整できる。
また、PDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal(高分子分散型液晶))方式を用いた調光層7を用いてもよい。PDLC方式を用いた調光層7は、液晶層中に特殊なポリマーによるネットワーク構造体を形成させたもので、ポリマーネットワークの作用により、液晶分子の配列が不規則な状態を誘起して光を散乱させる。そして、電圧を印加することで、液晶分子を電界方向に配列させると、光が散乱されず、透明な状態となる。具体的には、調光層7たる液晶層は、PDLC(高分子分散型液晶)を含むことになる。このような液晶層は、透過(透明)状態と散乱状態とを印加電界の強度により切替えることができる。PDLCは、高分子部と液晶部とを含んでおり、例えば液晶性モノマー等の高分子前駆体と液晶分子との混合物により形成することができる。PDLCを形成するには、混合物を配向膜により配向させた状態で、混合物に紫外線光等のエネルギーを照射して液晶性モノマーを重合させる。すると、液晶性モノマーは、配向を保持したまま重合し、配向規制力を有する高分子部になる。液晶分子は、高分子部から相分離されて液晶部を構成し、高分子部の配向規制力により配向する。液晶層に含まれるPDLCは、ノーマル型、リバース型のいずれであってもよい。ノーマル型の場合には、液晶層は、電圧非印加状態において不透明状態(散乱状態)となり、電圧印加状態において透過状態となる。不透明状態(散乱状態)での不透明度合(散乱度合)は、透明電極としての第1導電膜5、第2導電膜9間に印加する電圧の大きさによって変化し、第1導電膜5、第2導電膜9間へ印加する電圧を小さくするに連れて、不透明度合(散乱度合)が大きくなる。リバース型の場合には、液晶層は、一対の透明電極たる第1導電膜5、第2導電膜9間に電圧が印加されていない電圧非印加状態において透過性を有する透過状態となり、一対の透明電極たる第1導電膜5、第2導電膜9間に電圧が印加されている電圧印加状態において不透明状態(散乱状態)となる。不透明状態(散乱状態)での不透明度合(散乱度合)は、第1導電膜5、第2導電膜9間に印加する電圧の大きさによって変化し、第1導電膜5、第2導電膜9間へ印加する電圧を大きくするに連れて、不透明度合(散乱度合)が大きくなる。
【0021】
(4)第2導電膜9
第2導電膜9の材質は、第1導電膜5の材質と同様のものを使用できる。第2導電膜9は、透明電極として機能する。
第2導電膜9の厚さは、特に限定されない。
【0022】
第2導電膜9は、第2樹脂フィルム15上に形成されていることが好ましい。第2樹脂フィルム15としては、乗物内から乗物外を見やすくするという観点から、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム、これらの単独又は2種以上の積層体を用いることができる。
【0023】
ポリエステル系フィルムを構成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフテレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステルの1種以上を好適に例示できる。
【0024】
第2樹脂フィルム15の厚さは、乗物内から乗物外を見やすくしつつ、第2導電膜9を十分に支持するという観点から、下限値に関して、10μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましい。同様の観点から、上限値に関して、600μm以下が好ましく、125μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましい。よって、第1樹脂フィルム13の厚さは、10μm以上600μm以下が好ましく、25μm以上125μm以下がより好ましく、50μm以上100μm以下が更に好ましい。
【0025】
(5)投影用フィルム11
投影用フィルム11は、プロジェクター6により投影された映像を表示可能な表示面を有するスクリーンとして機能する。
投影用フィルム11のヘイズ(JIS K7136)は、特に限定されない。投影用フィルム11のヘイズは、乗物内から乗物外を見やすくするという観点から、上限値に関して、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、12%以下が更に好ましい。下限値に関して、映像を鮮明に投影するという観点から1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上が更に好ましい。よって、投影用フィルム11のヘイズは、1%以上20%以下が好ましく、2%以上15%以下がより好ましく、5%以上12%以下が更に好ましい。
投影用フィルム11の全光線透過率(JIS K736-1)は、特に限定されない。投影用フィルム11の全光線透過率は、乗物内から乗物外を見やすくするという観点から、下限値に関して、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。上限値に関して、特に限定されないが、通常は、95%以下が好ましく、93%以下がより好ましく、90%以下が更に好ましい。よって、投影用フィルム11の全光線透過率は、70%以上95%以下が好ましく、75%以上93%以下がより好ましく、80%以上90%以下が更に好ましい。
投影用フィルム11としては、例えば、透明フィルムスクリーンである「KALEIDO SCREEN(登録商標)」(株式会社ケイアイシー製)を好適に使用することができる。透明フィルムスクリーンは、例えば、透明樹脂フィルム中に無機物が分散してなる。他の透明フィルムスクリーンとして、例えば、透明樹脂フィルム中にナノダイヤモンドが分散してなるものがある。透明樹脂フィルムには、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルムを用いることができる。
投影用フィルム11の厚さは、特に限定されない。投影用フィルム11の厚さは、例えば、50μm以上110μm以下である。
【0026】
(6)反射フィルム17
乗物用調光ウィンドウ1は、透明板3と、第1導電膜5と、の間に反射フィルム17を備えていてもよい。もちろん、乗物用調光ウィンドウ1は、透明板3と、第1導電膜5と、の間に反射フィルム17を備えなくてもよい。反射フィルム17は、プロジェクター6から出射された映像光Lが調光層7を透過して漏れた場合に、漏れた光を反射してバックライトのような役割を果たし、映像を鮮明にする機能を有する。反射フィルム17は、乗物外部から乗物内部に侵入する外光も反射する。
反射フィルム17は、特に限定されない。
反射フィルム17の可視光線透過率は、60%以上80%以下が好ましく、65%以上75%以下がより好ましい。可視光線透過率は、角度可変透過率計による直線透過率の測定結果である。透明フロートガラス(3mm厚)にフィルムを貼って測定する。測定方法はJIS A 5759:2016に基づく。
反射フィルム17の可視光反射率は、10%以上20%以下が好ましく、14%以上18%以下がより好ましい。可視光反射率は、紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計(例えば、島津製作所 UV-3101PC型)を用い、反射フィルム17に照光して、400~700nmの波長範囲で測定し、積分可視光反射率をJIS A5759に基づき計算する。
反射フィルム17の厚さは、特に限定されない。反射フィルム17の厚さは、例えば、50μm以上150μm以下である。
反射フィルム17として、例えば、スコッチティント(TM) ウインドウフィルムの「LOW-E70(商品名)」(スリーエム ジャパン株式会社製)を好適に使用することができる。
【0027】
(7)粘着フィルム19
透明板3の材質として、透明樹脂ガラスを用いる場合には、透明樹脂ガラスから発生するアウトガスによる膨れ等の問題を解決するために、透明板3に粘着フィルム19を貼り付けてもよい。粘着フィルム19は、ベースフィルムと粘着剤にガス透過性を有する。例えば、「VENTI-LABEL(商品名)」(リンテック株式会社製)を用いることができる。
【0028】
1.2 第2実施形態の乗物用調光ウィンドウ101
第2実施形態の乗物用調光ウィンドウ101を説明する(
図3参照)。第2実施形態の乗物用調光ウィンドウ101では、第1樹脂フィルム13(任意構成要素)、第1導電膜5、調光層7、第2導電膜9、第2樹脂フィルム15(任意構成要素)のユニットからなる調光フィルム4が、2枚重なっている。具体的には、この乗物用調光ウィンドウ101は、透明板3、粘着フィルム19(任意構成要素)、反射フィルム17(任意構成要素)、第1樹脂フィルム13(任意構成要素)、第1導電膜5、調光層7A、第2導電膜9、第2樹脂フィルム15(任意構成要素)、第1樹脂フィルム13(任意構成要素)、第1導電膜5、調光層7B、第2導電膜9、第2樹脂フィルム15(任意構成要素)、投影用フィルム11をこの順に配してなる。
各構成要素については、第1実施形態の乗物用調光ウィンドウ1と同一であり、同じ構成部位には同符号を付けて、構造、作用、及び効果の説明は省略する。
【0029】
第2実施形態の乗物用調光ウィンドウ101では、2つの調光層7A,7Bを同一の構成としてもよいし、異なる構成としてもよい。異なる構成とする場合には、2つの調光層7A,7Bのうちいずれか一方を、黒色と透明との間で変化するものとし、他方を乳白色と透明との間で変化するものとしてもよい。好ましくは、透明板3により近い方(
図3では、左側)の調光層7Aを黒色と透明との間で変化するものとし、透明板3から遠い方(
図3では、右側)の調光層7Bを乳白色と透明との間で変化するものとすることが好ましい。このような構成とすると、投影用フィルム11に投影される映像がより鮮明になるからである。
【0030】
1.3 第3実施形態の乗物用調光ウィンドウ103
第3実施形態の乗物用調光ウィンドウ103を説明する(
図4参照)。第3実施形態の乗物用調光ウィンドウ103は、
図1の第1実施形態の乗物用調光ウィンドウ1に比べて、第2樹脂フィルム15を備えていない点が異なる。第2導電膜9は、投影用フィルム11上に形成されている。その他は、第1実施形態の乗物用調光ウィンドウ1と同一であり、同じ構成部位には同符号を付けて、構造、作用、及び効果の説明は省略する。この第3実施形態の構成にすれば、簡易な構造の乗物用調光ウィンドウ103を提供できる。
【0031】
2.乗物用調光ウィンドウシステム201
乗物用調光ウィンドウシステム201は、乗物用調光ウィンドウ1,101,103と、プロジェクター6と、を備える。透明板3は室外側に配され、投影用フィルム11は室内側に配される(
図2,5参照)。乗物用調光ウィンドウシステム201は、プロジェクター6によって、投影用フィルム11に映像(画像)を投影する。
【0032】
プロジェクター6は、投影用フィルム11に映像を表示することができれば、特に限定されない。プロジェクター6は、映像を投影用フィルム11に拡大投射する照明投射型のプロジェクター、投影用フィルム11に光を走査して映像を形成する走査型のプロジェクターであってもよい。プロジェクターの輝度は、特に限定されない。映像を鮮明に表示するという観点から、プロジェクター6の輝度は、600ルーメン以上が好ましい。
なお、プロジェクター6の設置場所は特に限定されない。例えば、プロジェクター6は、乗物の天井、床、ドアに設置することができる。
【0033】
乗物用調光ウィンドウシステム201は、
図5に示すように制御部21を備えていることが好ましい。
図5に示すように、制御部21は、プロジェクター6へ映像信号を出力する映像信号出力部23と、乗物用調光ウィンドウ1の駆動(ON/OFF)を制御する調光ウィンドウ制御部25とを有している。映像信号出力部23からの映像信号を受けたプロジェクター6は、その映像信号に基づく映像光Lを出射する。制御部21は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ(例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory))等、を備えている。映像光Lによって形成される映像は、特に限定されない。例えば、広告の映像、映画の映像、ゲームの映像、ナビゲーション情報に関する映像、エンターテインメントの情報に関する映像等が挙げられる。
【0034】
制御部21は、映像信号出力部23からプロジェクター6へ映像信号を出力するのに対応させて、調光ウィンドウ制御部25によって乗物用調光ウィンドウ1の駆動を制御するように構成されている。具体的には、制御部21は、映像信号出力部23から映像信号を出力していない状態では、調光ウィンドウ制御部25によって乗物用調光ウィンドウ1を透過状態(透明)とする。他方、制御部21は、映像信号出力部23から映像信号を出力している状態では、調光ウィンドウ制御部25によって乗物用調光ウィンドウ1を不透明状態とする。なお、プロジェクター6が、映像光Lを出射している際に、乗物用調光ウィンドウ1を透明状態にすることで、AR(拡張現実)を実現してもよい。具体的には、乗物用調光ウィンドウ1を通して外部に見える現実の風景と、映像光Lによって形成される映像とを重ね合わせてもよい。
【0035】
調光ウィンドウ制御部25は、乗物用調光ウィンドウ1の不透明度合を、第1導電膜5、第2導電膜9間に印加する電圧の大きさによって変化させる。
なお、不透明度合の程度は、例えば、ヘイズ値で表すことができる。ヘイズ値は、曇りの度合い(全透過光に対する散乱光の割合)を表す値であり、数値が小さい程、透過率が大きい(透明性が高い)ことを意味する。このようなヘイズ値(%)は、Td/Tt×100(Td:拡散透過率、Tt:全光線透過率)で算出することができる。
【0036】
図6は、乗物用調光ウィンドウシステム201の処理手順の一例を示すフローチャートである。この動作プログラムは、制御部21内のROM等に格納されており、CPUによって実行される。処理手順の具体例を示す。映像を投影していない状態では、制御部21の調光ウィンドウ制御部25は、調光層7を透明状態に制御している(
図7参照)。映像を投影する際には、制御部21の調光ウィンドウ制御部25は、調光層7を不透明状態とする(ステップS1、
図8参照)。制御部21の映像信号出力部23は、映像信号をプロジェクター6に出力する(ステップ2)。プロジェクター6は、映像信号に基づく映像光Lを投影用フィルム11に出射し、乗物用調光ウィンドウ1に映像を投影する(ステップ3、
図9参照)。
【0037】
本実施形態の作用効果を説明する。従来、投影用フィルム11に映像光Lを出射した場合は、映像光Lの一部が投影用フィルム11を透過する等の理由により、映像を鮮明に表示できなかった。また、従来、投影用フィルム11が透明の場合には、乗員が映像を見ている間、乗物外からその様子が見えてしまい、プライバシー性の観点から課題があった。
本実施形態の乗物用調光ウィンドウ1では、投影用フィルム11の背後の調光層7を不透明状態として、調光層7の手前に配された投影用フィルム11に映像光Lを出射する。これにより、従来よりも映像を鮮明に表示できる。また、調光層7が不透明状態となるから、乗員が映像を見ている間、乗物外からその様子が見えにくく、プライバシー性の観点から好ましい。
なお、従来の調光ウィンドウは、プライバシー性は高いものの、光源に対して反射するため、映像を投影するには不向きであった。これに対して、本実施形態の乗物用調光ウィンドウ1では、投影用フィルム11に投影するため、光源に対する反射が従来よりも抑制される。
【0038】
従来の広告は、広告内容や表示位置が限定されており、効果的な宣伝ができなかった。本実施形態の乗物用調光ウィンドウ1では、プロジェクター6によって、投影用フィルム11に映像を投影するから、広告内容を訴求する相手(乗員、歩行者(後述する他の実施形態(2)の場合)等)のニーズに応じて容易に変更でき、表示位置も容易に変更できる。よって、本実施形態の乗物用調光ウィンドウ1は宣伝効果が高い。
【0039】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0040】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
<他の実施形態>
(1)乗物としては、車両(自動車)、列車、遊戯用車両、飛行機、ヘリコプター、船舶、潜水艇などを例示できる。
(2)上記実施形態では、調光層7を不透明状態として、投影用フィルム11に映像光Lを出射する態様を示したが、調光層7を透明状態として、投影用フィルム11に映像光Lを出射してもよい。このようにすると、乗物の外部にいる人(例えば、歩行者)にも投影した映像を見せることができる。例えば、広告の映像を投影することで、乗物の外部にいる人に対して、効果的に宣伝することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 …乗物用調光ウィンドウ
2 …封止材
3 …透明板
4 …調光フィルム
5 …第1導電膜
6 …プロジェクター
7 …調光層
7A …調光層
7B …調光層
9 …第2導電膜
11 …投影用フィルム
13 …第1樹脂フィルム
15 …第2樹脂フィルム
17 …反射フィルム
19 …粘着フィルム
21 …制御部
23 …映像信号出力部
25 …調光ウィンドウ制御部
101…乗物用調光ウィンドウ
103…乗物用調光ウィンドウ
201…乗物用調光ウィンドウシステム
L …映像光