(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】化学蓄熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/16 20060101AFI20230323BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C09K5/16
F28D20/00 G
(21)【出願番号】P 2020500433
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2019004259
(87)【国際公開番号】W WO2019159791
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018025571
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】北垣 昌規
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】塘 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】劉 醇一
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 諒
(72)【発明者】
【氏名】丸山 愛矢
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-186119(JP,A)
【文献】特開2007-309561(JP,A)
【文献】特開2017-002220(JP,A)
【文献】特開2013-216763(JP,A)
【文献】特開2017-218492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F28D 20/00- 20/02
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、リチウムの水酸化物、及び、リチウムの塩化物を
含み、
前記リチウムの水酸化物及び前記リチウムの塩化物の総量が、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~50モル%であり、
前記リチウムの水酸化物と前記リチウムの塩化物のモル比率が、0.1~9の範囲である、化学蓄熱材。
【請求項2】
リチウムの水酸化物とリチウムの塩化物のモル比率が、0.25~4の範囲である、請求項
1に記載の化学蓄熱材。
【請求項3】
さらに、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、鉄及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属の化合物を含み、
前記金属の量は、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~40モル%である、請求項1
又は2に記載の化学蓄熱材。
【請求項4】
化学蓄熱材の製造方法であって、
カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、リチウムの水酸化物、及び、リチウムの塩化物を混合する工程を
含み、
前記リチウムの水酸化物及び前記リチウムの塩化物の総量が、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~50モル%であり、
前記リチウムの水酸化物と前記リチウムの塩化物のモル比率が、0.1~9の範囲である、製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、さらに、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、鉄及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属の化合物を混合し、
前記金属の量は、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~40モル%である、請求項
4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出規制によって化石燃料の使用削減が求められており、各プロセスの省エネルギー化に加え、排熱の利用を進める必要がある。排熱の利用の手段としては、水を利用した100℃以下の温水蓄熱が知られている。しかし、温水蓄熱には、(1)放熱損失があるため長時間の蓄熱が不可能である、(2)顕熱量が小さいため大量の水が必要であり、蓄熱設備のコンパクト化が困難である、(3)出力温度が利用量に応じて非定常で、次第に降下する、等の問題がある。したがって、このような排熱の民生利用を進めるためには、より効率の高い蓄熱技術を開発する必要がある。
【0003】
効率の高い蓄熱技術として化学蓄熱法が挙げられる。化学蓄熱法は、物質の吸着、水和等の化学変化を伴うため、材料自体(水、溶融塩等)の潜熱や顕熱による蓄熱法に比べて単位質量当たりの蓄熱量が高くなる。化学蓄熱法としては、大気中の水蒸気の吸脱着による水蒸気吸脱着法、金属塩へのアンモニア吸収(アンミン錯体生成反応)、アルコール等の有機物の吸脱着による反応等が提案されている。環境への負荷や装置の簡便性を考慮すると、水蒸気吸脱着法が最も有利である。水蒸気吸脱着法に用いられる化学蓄熱材として、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムが知られている。
【0004】
しかし、水酸化カルシウムは100~400℃、水酸化マグネシウムは100~300℃の低温域では有効な脱水反応を起こさないため、実用的な蓄熱材として機能しないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、特許文献1では、マグネシウムと、ニッケル、コバルト、銅、及びアルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属成分との複合水酸化物を利用することで、100~300℃程度で蓄熱可能な化学蓄熱材が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献2では、特許文献1に記載の化学蓄熱材の蓄熱量を改善することを目的に、マグネシウム又はカルシウムの水酸化物に、塩化リチウム等の吸湿性金属塩を添加してなる化学蓄熱材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-309561号公報
【文献】特開2009-186119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に開示された技術によれば、蓄熱動作温度をある程度低温化することができるものの、例えば工場廃熱を蓄熱しようとした時などには、工場廃熱の温度域が200~250℃又はより低温度域であることから、その蓄熱動作温度は十分に低いものではなく、工場廃熱を効率よく利用することが困難で、動作温度のより一層の低温化を図ることが求められている。蓄熱効率の改良や、蓄熱システムの適用温度域の拡張などの側面からも、化学蓄熱材の動作温度の改良は依然として重要な課題である。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物の脱水反応を利用した蓄熱を行なう化学蓄熱材において、より高い反応率を示し、より低温での蓄熱を実現できる化学蓄熱材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らが種々検討を重ねたところ、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物を含む化学蓄熱材において、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に、リチウムの水酸化物とリチウムの塩化物を共添加してなる組成物が、化学蓄熱材としてより低温での蓄熱を実現できることを見出し、本発明に至った。さらに、本発明者らは鋭意検討を行ったところ、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に添加する、リチウムの水酸化物とリチウムの塩化物の添加比率の範囲を特定することにより、反応温度の低温化により効果が高いことを見出した。
【0011】
すなわち第一の本発明は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、リチウムの水酸化物、及び、リチウムの塩化物を含む化学蓄熱材に関する。前記化学蓄熱材において、リチウムの水酸化物及びリチウムの塩化物の総量は、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~50モル%であることが好ましい。また、リチウムの水酸化物とリチウムの塩化物のモル比率は、0.1~9の範囲であることが好ましく、0.25~4の範囲にあるのがより好ましく、0.5~2.0の範囲であることがさらに好ましい。
前記化学蓄熱材は、さらに、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、鉄及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属の化合物を含んでもよく、前記金属の量は、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~40モル%であることが好ましい。
第二の本発明は、化学蓄熱材の製造方法であって、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、リチウムの水酸化物、及び、リチウムの塩化物を混合する工程を含む、製造方法に関する。前記製造方法において、リチウムの水酸化物とリチウムの塩化物の総量は、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~50モル%であることが好ましい。また、前記リチウムの水酸化物とリチウムの塩化物のモル比率は、0.1~9の範囲であることが好ましく、0.25~4の範囲にあるのがより好ましく、0.5~2.0の範囲であることがさらに好ましい。
前記混合工程において、さらに、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、鉄及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属の化合物を混合してもよく、前記金属の量は、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に対して0.1~40モル%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物の脱水反応を利用した蓄熱を行なう化学蓄熱材において、より高い反応率を示し、より低温での蓄熱を実現できる化学蓄熱材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1から4と比較例1から3で示された反応率の経時変化を示すグラフ(横軸は昇温後200℃到達時点からの経過時間(秒)、縦軸は反応率(%))
【
図2】実施例5と比較例4から6で示された反応率の経時変化を示すグラフ(横軸は昇温後200℃到達時点からの経過時間(秒)、縦軸は反応率(%))
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明で製造する化学蓄熱材は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び酸化物による以下の反応式で表される可逆反応を利用したものである。
CaO+H2O⇔Ca(OH)2 △H=-109.2kJ/モル
MgO+H2O⇔Mg(OH)2 △H=-81.2kJ/モル
【0015】
各式中、右方向への反応は酸化カルシウム又は酸化マグネシウムの水和発熱反応である。反対に、左方向への反応は水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの脱水吸熱反応である。すなわち本発明の化学蓄熱材は、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの脱水反応が進行することによって蓄熱することができ、また、蓄えられた熱エネルギーを、酸化カルシウム又は酸化マグネシウムの水和反応が進行することによって供給することができる。
【0016】
本発明における化学蓄熱材は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物、カルシウム及び/又はマグネシウムの酸化物いずれかを含むものであればよく、双方を含むものであってもよい。また、カルシウムとマグネシウムのいずれか1種を含むものであればよく、双方を含むものであってもよい。
【0017】
本発明の化学蓄熱材は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物に、リチウムの化合物を含むものであって、当該リチウムの化合物として、リチウムの水酸化物及び塩化物を含む化学蓄熱材に関する。リチウムの化合物として、リチウムの水酸化物及び塩化物の両方を配合することで、化学蓄熱材の反応率を高めて、より低温での蓄熱を実現することができる。
【0018】
前記リチウムの化合物の使用量に関しては、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物の量を100モル%としたときに、両化合物の合計量が、0.1~50モル%であることが好ましい。この範囲より両化合物の合計量が少なくなると、これら化合物の共添加による反応率向上または蓄熱温度の低温化を達成することが困難になる。また、両化合物の合計量が前記範囲より多くなると、母材となるカルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物への影響が大きく、化学蓄熱材による単位体積又は単位質量あたりの蓄熱量が低下する恐れがある。前記両化合物の合計量は、0.1~20モル%が好ましく、0.3~15モル%がより好ましく、0.5~10モル%がさらに好ましく、0.8~8モル%がよりさらに好ましく、1~6モル%が特に好ましい。
【0019】
さらに、前記リチウムの化合物の含有比率に関しては、モル基準で、前記水酸化リチウムの含有量/前記塩化リチウムの含有量が、0.1~9の範囲にあることが好ましい。この範囲より前記水酸化リチウムと前記塩化リチウムの含有比率が小さくなったり大きくなったりすると、両化合物の共添加による反応率向上または蓄熱温度の低温化を達成することが困難になる。前記含有比率は、0.25~4の範囲にあるのがより好ましく、0.5~2の範囲にあることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の化学蓄熱材は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、水酸化リチウム、塩化リチウムに加えて、さらに特定の金属の化合物を含んでも良い。前記特定の金属の化合物をさらに含めることで、化学蓄熱材の反応率をより高めることができる。この時、前記特定の金属の化合物は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と化学的に複合化していることが好ましい。
【0021】
前記特定の金属は、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、鉄及び亜鉛からなる群より選択され、これらを1種のみ含むものであってもよく、2種以上を組み合わせて含むものであっても良い。このうち、ニッケル、コバルト及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ニッケル及び/又はコバルトがより好ましい。
【0022】
前記特定の金属の化合物としては特に限定されないが、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と複合化するものであることが好ましく、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、水酸化物、酸化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、又は硫酸塩などが挙げられる。これらを単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。より具体的には、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、ニッケルとコバルトの複合水酸化物、酸化ニッケル、酸化コバルト、及び/又はニッケルとコバルトの複合酸化物が好ましい。
【0023】
前記特定の金属の化合物の使用量としては、前記カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物の量を100モル%としたときに前記特定の金属の量が0.1~40モル%となる量であることが好ましい。これより前記特定の金属の量が少なくなると、前記特定の金属の化合物の使用による反応率向上または蓄熱温度の低温化を達成することが困難となる。また、前記特定の金属の量が前記範囲より多くなると、化学蓄熱材による単位体積又は単位質量あたりの蓄熱量が低下する恐れがある。前記特定の金属の量は、3~40モル%が好ましく、5~30モル%がより好ましく、10~25モル%がさらに好ましい。当該特定の金属の化合物の使用量を調節することで、化学蓄熱材の脱水吸熱温度を制御することができる。
【0024】
本発明における化学蓄熱材は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物及び/又は酸化物と、水酸化リチウムと、塩化リチウムと、場合により特定の金属の化合物とが、単に物理的に混合又は分散されているものであってもよいが、これに限定されない。各構成成分の一部又は全部が互いと化学的に複合化したものであってよいし、また、各構成成分の一部又は全部が互いと化学的に反応して第三成分を生じているものであってもよい。
【0025】
本発明の化学蓄熱材は、カルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物による吸熱脱水反応とカルシウム及び/又はマグネシウムの酸化物の水和発熱反応を利用した化学蓄熱材である。その範囲において、本発明の化学蓄熱材には、他の成分が含まれていても良く、以上で説明した構成成分以外の化学蓄熱成分や、化学蓄熱作用を示さない成分(例えばバインダー)が含まれていても良い。
【0026】
本発明の化学蓄熱材の形状は特に限定されず、化学蓄熱材としての性状を実施可能な程度に損なわない限りにおいては、需要者の実施形態に応じた任意の形状を選択することが可能である。具体的には、本発明の化学蓄熱材は、粉末や、造粒体、成形体などの形状のものであってよい。
【0027】
次に、本発明における化学蓄熱材を製造する方法について説明する。
本発明における化学蓄熱材を製造する方法は特に限定されないが、次に一例を説明する。まず、イオン交換水にカルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物の粉末を加えて攪拌混合する。次いでリチウムの化合物であるリチウムの水酸化物及びリチウムの塩化物を、またはリチウムの化合物と特定の金属の化合物を、同時に又は順次投入してさらに攪拌混合を行う。得られたスラリーを乾燥させ、乾燥粉末として化学蓄熱材を製造することができる。攪拌混合の方法は特に限定されず、溶媒であるイオン交換水とカルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物の粉末等が十分に混合されればよい。
【0028】
各成分を加える順序は変更してもよい。この場合、例えば、最初にリチウムの化合物、または、リチウムの化合物と特定の金属の化合物をイオン交換水に溶解して、これにカルシウム及び/又はマグネシウムの水酸化物の粉末を加えてスラリーを作製し、必要に応じて金属の酸塩を添加した後に、乾燥させて化学蓄熱材を製造することができる。
【0029】
形状が粉末、造粒体、又は成形体の化学蓄熱材を製造するにあたっては、既知の手法を適用することが可能である。例えば、粉末の化学蓄熱材を製造する際には篩別、解砕、粉砕工程を適用することが可能である。また、造粒体の化学蓄熱材を製造する際には押出造粒、転動造粒、流動層造粒、スプレードライ等の造粒工程を適用することができる。成形体の化学蓄熱材を製造する際には、プレス成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、押出成形による成形工程を適用することができる。
【0030】
本発明の化学蓄熱材は、100~300℃程度の熱源、例えば工場排熱等からの未利用熱を吸熱して脱水することにより蓄熱することができる。脱水された化学蓄熱材は、乾燥状態に保つことにより容易に蓄熱状態を維持することができ、またその蓄熱状態を維持しながら所望の場所へ持ち運ぶことができる。放熱する場合には、水、好ましくは水蒸気と接触させることにより水和反応熱(場合により、水蒸気収着熱)を熱エネルギーとして取り出すことができる。また、気密封鎖空間内の一方で水蒸気収着を行わせると共に、他方では水を蒸発させることにより冷熱を発生させることもできる。
【0031】
また、本発明の化学蓄熱材は、エンジンや燃料電池等から排出される排気ガスの熱を有効利用するのにも適している。例えば、排気ガスの熱は、自動車の暖機運転の短縮、搭乗者のアメニティーの向上、燃費の改善、排気ガス触媒の活性向上による排気ガスの低害化等に活用することができる。特に、エンジンでは運転による負荷が一定でなく排気出力も不安定であることから、エンジンからの排気熱の直接利用は必然的に非効率であり、不便を伴う。本発明の化学蓄熱材を利用すると、エンジンからの排気熱を一旦化学的に蓄熱し、熱需要に応じて熱出力することで、より理想的な排気熱利用が可能となる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
(評価方法)
各実施例及び比較例で得られた化学蓄熱材について、熱重量/示差熱分析測定装置(アドバンス理工製、TGD9600)を用いて熱評価を行った。具体的には、試料である化学蓄熱材を電子天秤で計量し、熱天秤内の白金製セルに20mg載せた。次いで、反応器内の試料に対して不活性なパージガス(アルゴン)を100mL/分で流しながら、120℃で試料の物理吸着水を乾燥除去した。その後、マグネシウム系化学蓄熱材の試料は昇温速度20℃/分で270℃まで加熱し、1時間維持し、脱水反応を行った。カルシウム系化学蓄熱材の試料は昇温速度20℃/分で350℃まで加熱し、6時間維持し、脱水反応を行った。
【0034】
化学蓄熱材の反応率の算出は、揮発成分等の影響を除外するため、200℃に昇温した時点での化学蓄熱材の重量を開始重量として反応率0%に設定し、マグネシウム又はカルシウムの水酸化物が全て酸化物に変化したと仮定した場合の重量減少値を反応率100%と定めて行った。
【0035】
マグネシウム系化学蓄熱材の性能評価は、特に、200℃到達時点から1,200秒が経過した時点での重量減少値から算出された反応率に基づいて行なった。すなわち、本評価方法は、水酸化マグネシウムの熱分解が実質的に進行しない温度である270℃で化学蓄熱材を所定時間保持した時点での反応率を比較するものである。当該反応率が高いほど、吸熱脱水反応が早く進行しており、蓄熱量が大きく、かつ、より低温の熱によって蓄熱できることを示している。なお、表中の相対反応率の数字は、絶対値ではなく、比較例1における反応率を基準の1とした時の相対値を示すものである。
【0036】
カルシウム系化学蓄熱材の性能評価は、特に、200℃到達時点から3,600秒が経過した時点での重量減少値から算出された反応率に基づいて行なった。すなわち、本評価方法は、水酸化カルシウムの熱分解が実質的に進行しない温度である350℃で化学蓄熱材を所定時間保持した時点での反応率を比較するものである。当該反応率が高いほど、吸熱脱水反応が早く進行しており、蓄熱量が大きく、かつ、より低温の熱によって蓄熱できることを示している。なお、表中の相対反応率の数字は、絶対値ではなく、比較例4における反応率を基準の1とした時の相対値を示すものである。
【0037】
(実施例1)
水酸化マグネシウム(和光純薬工業製、純度99.9%)を2g秤量した。つづいて塩化リチウム一水和物(和光純薬工業製、純度99.9%)を0.207g秤量し、さらに水酸化リチウム一水和物(和光純薬工業製、純度99.9%)を0.144g秤量した。この時の試料組成(モル比)は、水酸化マグネシウム:塩化リチウム:水酸化リチウム=100:10:10である。イオン交換水50mLに、上記で秤量した塩化リチウム及び水酸化リチウムを投入し、水溶液を調製した。次いで、この水溶液に水酸化マグネシウムを投入し、ロータリーエバポレーターを用いて攪拌してスラリーを作製した。該スラリーをさらに加熱し水分を蒸発させた後、乾燥機(アドバンテック東洋 DRA330DA)にて空気中120℃で12時間以上乾燥させて水分を除去することで、化学蓄熱材を製造した。得られた化学蓄熱材について、上記評価方法で脱水反応挙動を確認し、反応率を算出した。
【0038】
(実施例2)
水酸化マグネシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:20:20になるように試薬を秤量し、実施例1と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0039】
(実施例3)
水酸化マグネシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:5:5になるように試薬を秤量し、実施例1と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0040】
(実施例4)
水酸化マグネシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:6:12になるように試薬を秤量し、実施例1と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0041】
(比較例1)
実施例1で用いた水酸化マグネシウムに対してリチウム化合物を添加していないものを試料とし、評価を行った。
【0042】
(比較例2)
水酸化マグネシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:20:0になるように試薬を秤量し、実施例1と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0043】
(比較例3)
水酸化マグネシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:0:20になるように試薬を秤量し、実施例1と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0044】
(実施例5)
水酸化カルシウム(和光純薬工業製、純度99.9%)を2g秤量した。つづいて塩化リチウム一水和物(和光純薬工業製、純度99.9%)を0.082g秤量し、さらに水酸化リチウム一水和物(和光純薬工業製、純度99.9%)を0.057g秤量した。この時の試料組成(モル比)は、水酸化カルシウム:塩化リチウム:水酸化リチウム=100:5:5である。イオン交換水50mLに、上記で秤量した塩化リチウム及び水酸化リチウムを投入し、水溶液を調製した。次いで、この水溶液に水酸化カルシウムを投入し、ロータリーエバポレーターを用いて攪拌してスラリーを作製した。該スラリーをさらに加熱し水分を蒸発させた後、乾燥機(アドバンテック東洋 DRA330DA)にて空気中120℃で12時間以上乾燥させて水分を除去することで、化学蓄熱材を製造した。得られた化学蓄熱材について、上記評価方法で脱水反応挙動を確認し、反応率を算出した。
【0045】
(比較例4)
実施例5で用いた水酸化カルシウムに対してリチウム化合物を添加していないものを試料とし、評価を行った。
【0046】
(比較例5)
水酸化カルシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:10:0になるように試薬を秤量し、実施例5と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0047】
(比較例6)
水酸化カルシウム、塩化リチウム、水酸化リチウムのモル比を100:0:10になるように試薬を秤量し、実施例5と同様の操作で試料調製と評価を行った。
【0048】
【0049】
【0050】
表1では、比較例1で得られた水酸化マグネシウム単体の反応率(脱水反応転化率)を基準とし、実施例1~4、比較例2~3で得られた反応率を相対反応率に換算して得られた数字を示した。
【0051】
図1は、実施例1~4、比較例1~3で示された反応率の経時変化を示すグラフである。なお、表1で示した相対反応率は、
図1におけるグラフの1,200秒時点での反応率に基づいて算出した相対値である。
【0052】
比較例1の水酸化マグネシウム単体は、ここで用いている評価条件下では脱水反応転化率が低く、吸熱脱水反応がほとんど進行しなかった。表1及び
図1より、水酸化リチウムと塩化リチウムを所定の比率で共添加して製造した実施例1から4の化学蓄熱材は、比較例1と同じ評価条件下において、比較例1と比較して反応率が大幅に高く、吸熱脱水反応が迅速に進行していることが確認できる。これより、実施例1から4の化学蓄熱材は、比較例1の水酸化マグネシウム単体と比較して、蓄熱量が大きく、また、より低温の熱でも蓄熱できることが分かる。
【0053】
さらに、実施例1から4の水酸化リチウムと塩化リチウムを所定の比率で共添加した化学蓄熱材は、比較例2及び3の水酸化リチウム又は塩化リチウムを単体で添加した化学蓄熱材と比較しても、蓄熱量が大きく、また、より低温の熱でも蓄熱できることが分かる。
【0054】
表2では、比較例4で得られた水酸化カルシウム単体の反応率(脱水反応転化率)を基準とし、実施例5、比較例5及び6で得られた反応率を相対反応率に変換して得られた数字を示した。
【0055】
図2は、実施例5、比較例4~6で示された反応率の経時変化を示すグラフである。なお、表2で示した相対反応率は、
図2におけるグラフの3,600秒時点での反応率に基づいて算出した相対値である。
【0056】
比較例4の水酸化カルシウム単体は、ここで用いている評価条件下では脱水反応転化率が低く、吸熱脱水反応がほとんど進行しなかった。表2及び
図2より、水酸化リチウムと塩化リチウムを所定の比率で共添加して製造した実施例5の化学蓄熱材は、比較例4と同じ評価条件下において、比較例4と比較して反応率が大幅に高く、吸熱脱水反応が迅速に進行していることが確認できる。これより、実施例5の化学蓄熱材は、比較例4の水酸化カルシウム単体と比較して、蓄熱量が大きく、また、より低温の熱でも蓄熱できることが分かる。
【0057】
さらに、実施例5の水酸化リチウムと塩化リチウムを所定の比率で共添加した化学蓄熱材は、比較例5及び6の水酸化リチウム又は塩化リチウムを単体で添加した化学蓄熱材と比較しても、蓄熱量が大きく、また、より低温の熱でも蓄熱できることが分かる。