IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浙江大学の特許一覧

特許7248990低温焼結による二層緻密金属防食被覆層、その製造方法及び使用
<>
  • 特許-低温焼結による二層緻密金属防食被覆層、その製造方法及び使用 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】低温焼結による二層緻密金属防食被覆層、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20230323BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230323BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230323BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230323BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230323BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20230323BHJP
   C09D 1/02 20060101ALI20230323BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20230323BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C23C26/00 C
B05D3/02 Z
B05D5/00 Z
B05D7/14 N
B05D7/24 301A
B05D7/24 302A
B05D7/24 302B
B05D7/24 303A
B05D7/24 303B
C09D1/00
C09D1/02
C09D5/03
C09D5/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020563965
(86)(22)【出願日】2019-05-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 CN2019086508
(87)【国際公開番号】W WO2019218950
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】201810451921.8
(32)【優先日】2018-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】▲イェン▼ 東明
(72)【発明者】
【氏名】劉 毅
(72)【発明者】
【氏名】黄 之昊
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104193288(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1730570(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105585883(CN,A)
【文献】特開2012-122056(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
C09D 1/00
C09D 1/02
C09D 5/03
C09D 5/08
B05D 3/02
B05D 5/00
B05D 7/24
B05D 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる二層構造被覆層であって、
前記二層構造中において、無機セラミック被覆層が外層であり、基材酸化物被覆層が内層であり、前記無機セラミック被覆層の成分は、珪酸化合物50~60質量%、熱膨張係数調整剤20~35質量%、バインダー3~7質量%、接着力調整剤5~10質量%、及び触媒1~4質量%を含み、
前記接着力調整剤は、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、及びケイ酸ナトリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記基材酸化物被覆層の成分は、基材金属と酸素とからなる基材金属酸化物100質量%であり、
前記珪酸化合物は、珪砂、珪藻土、石英、トリジマイト、及びクリストバライトから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記熱膨張係数調整剤は、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、及び四ホウ酸ルビジウムから選ばれる少なくとも1種、並びに酸化亜鉛、酸化カドミウム、及び酸化銅から選ばれる少なくとも1種の組み合わせであり、
前記バインダーは、一酸化マンガン、二酸化マンガン、一酸化ニッケル、三酸化二ニッケル、一酸化コバルト、及び三酸化二コバルトから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記触媒は、塩酸、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記内層は基材金属と接し、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比は(4~6):1であることを特徴とする二層緻密金属防食被覆層を備える防食金属材料。
【請求項2】
低温焼結による二層緻密金属防食被覆層の製造方法であって、
混合物が珪酸化合物50~60質量%、熱膨張係数調整剤20~35質量%、バインダ ー3~7質量%、接着力調整剤5~10質量%、触媒1~4質量%、及び水を含み、
1)酸化合物、熱膨張係数調整剤及びバインダー粉砕して粉末にする1回目の粉砕工程と、
2)前記1)で得られた原料に接着力調整剤触媒び水を添加して混合撹拌して前記混合物を得る混合物の調製工程と、
3)前記2)で得られた混合物を乾燥させる乾燥工程と、
4)前記3)で得られた混合物を再度粉砕して粉末にする2回目の粉砕工程と、
5)前記4)で得られた粉末を基材金属に被覆する被覆工程と、
6)前記5)で得られた粉末を被覆した基材金属を焼結して、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を得るとともに、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を有する金属製品を得る焼結工程と、を含み、
前記5)の被覆方法は、静電塗装方法であり、静電電圧は30~40キロボルト、電流は20~25マイクロアンペア、吐出量は5~8リットル/分、塗装距離は20~50センチメートルであり、
前記6)の焼結時の温度は500~540℃、焼結時間は10~20分、昇温速度は5~10℃/分であり、
前記珪酸化合物は、珪砂、珪藻土、石英、トリジマイト、クリストバライト、及び粉末石英から選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記接着力調整剤は、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、ケイ酸ナトリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記熱膨張係数調整剤は、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、及び四ホウ酸ルビジウムから選ばれる少なくとも1種、並びに酸化亜鉛、酸化カドミウム、及び酸化銅から選ばれる少なくとも1種の組み合わせであり、
前記バインダーは、一酸化マンガン、二酸化マンガン、一酸化ニッケル、三酸化二ニッケル、一酸化コバルト、及び三酸化二コバルトから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記触媒は、塩酸、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種である、ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料技術に属し、特に低温焼結による二層緻密金属防食被覆層、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属が周辺環境中の媒体と接触して化学反応を起すのは、最もよく見られる金属の電気化学的腐食現象である。金属表面が周辺の媒体(例えば、多湿空気、電解質溶液など)と接触すると、接触界面で金属のアノード溶解反応が発生し、対応するカソード還元反応が同時に起こるので、自発的な腐食電池を構成し、金属のアノード溶解反応が進行して、金属の腐食を引き起こす。調査によると、世界の金属の腐食による経済的損失が1年間でGDP総額の約4%を占め、金属の腐食による年間損失が水害、火災、風害、地震による損失の合計をはるかに上回っている。腐食は、経済的損失をもたらすだけでなく、安全に脅威を及ぼすことも多く、国内外で多くの腐食による重大事故が発生したことがある。特に海洋環境下では、金属の腐食がなおさら深刻である。船舶、石油プラットフォーム等の金属構造の海洋施設は、長年にわたって海洋環境下で使用されるため、様々な腐食媒体による侵食を受けて、異なる程度の腐食が発生する。
【0003】
そして、金属被覆層(被覆層)に関しては、被覆層と基材金属との結合能力である接着力(adhesion)が重要な指標の一つである。接着力が大きいほど、被覆層と基材金属とを密着させることができ、被覆層の完全性が向上することで、被覆層の基材金属に対する保護効果が最も高くなる。従来の無機防食被覆層の接着力は5MPaとなっており、接着力が12MPaを超える無機防食被覆層は未だ得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の欠点や不足を克服するために、低温焼結による二層緻密金属防食被覆層、特に塩類土壌地域、地中管路、海上プラットフォーム等の腐食環境下での金属防食分野に適用する、接着力が12MPaを超える金属防食被覆層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は次の技術的手段により達成される。
【0006】
本発明の第1の目的は、
無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる二層構造被覆層であり、
前記二層構造中において、無機セラミック被覆層が外層であり、基材酸化物被覆層が内層であり、前記無機セラミック被覆層の成分が、珪酸化合物50~60重量部、熱膨張係数調整剤20~35重量部、バインダー3~7重量部、接着力調整剤5~10重量部、触媒1~4重量部を含み、
【0007】
前記接着力調整剤が、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、ケイ酸ナトリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種であり、
前記基材酸化物被覆は、焼結により基材金属の表面に生成したものであり、前記基材酸化物被覆の成分は、基材金属と酸素とからなる基材金属酸化物100重量部であり、
【0008】
前記内層が基材金属と接し、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比は(4~6):1であることを特徴とする低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を提供することにある。
【0009】
さらに、前記珪酸化合物が、珪砂、珪藻土、石英、トリジマイト、クリストバライト、粉末石英から選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0010】
さらに、前記珪酸化合物は、超微粉であり、超微粉の粒径が1000~2000メッシュ、好ましくは1100~1400メッシュである。
【0011】
さらに、前記熱膨張係数調整剤は、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ルビジウム、酸化亜鉛、酸化カドミウム、及び酸化銅から選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0012】
さらに、前記バインダーは、一酸化マンガン、二酸化マンガン、一酸化ニッケル、三酸化二ニッケル、一酸化コバルト、三酸化二コバルトから選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0013】
さらに、前記触媒は、酸性触媒、塩基性触媒から選ばれるいずれか1種又は2種である。
【0014】
さらに、前記酸性触媒は、塩酸、酢酸、シュウ酸から選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0015】
さらに、前記塩基性触媒は、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0016】
さらに、前記焼結温度は500~540℃である。
【0017】
さらに、前記基材金属は鋼材であり、前記二層緻密金属防食被覆層の極限引張強さは1400~2200マイクロストレインである。
【0018】
さらに、前記二層緻密金属防食被覆層の接着力は13MPa~17MPaに達する。
【0019】
本発明の第2の目的は、次の工程を含む低温焼結による二層緻密金属防食被覆層及び前記金属防食被覆層を有する金属製品の製造方法を提供することにある。
【0020】
1)1回目の粉砕:原料の珪酸化合物50~60重量部、熱膨張係数調整剤20~35重量部、バインダー3~7重量部を粉砕して粉末にする工程、
【0021】
2)混合物の調製:前記原料に接着力調整剤5~10重量部、触媒1~4重量部及び水を添加して混合撹拌して混合物を得る工程、
3)乾燥:工程2)で得られた混合物を乾燥させる工程、
【0022】
4)2回目の粉砕:工程3)で得られた混合物を再度粉砕して粉末にする工程、
5)被覆:工程4)で得られた粉末を基材金属に被覆する工程、
【0023】
6)焼結:工程5)で得られた粉末で被覆した基材金属を焼結して、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を得るとともに、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を有する金属製品を得る工程。
【0024】
前記低温焼結による二層緻密金属防食被覆層は、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる二層構造被覆層であり、
【0025】
前記二層構造中において、無機セラミック被覆層が外層であり、基材酸化物被覆層が内層であり、前記無機セラミック被覆層の成分は、珪酸化合物50~60重量部、熱膨張係数調整剤20~35重量部、バインダー3~7重量部、接着力調整剤5~10重量部、及び触媒1~4重量部を含む。
【0026】
本発明において、触媒存在下で接着剤調整剤の加水分解及び重縮合反応を行うとともに、珪酸化合物、熱膨張係数調整剤、バインダーと複雑な物理的変化及び化学的反応を起こすことにより、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる二層緻密金属防食被覆層を形成する。二層構造が存在するとともに無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比が(4~6):1であるため、本発明の低温焼結による二層緻密金属防食被覆層の接着力は13~17MPaに達し、被覆の耐食性が10倍以上向上し、ひずみが高い場合でも建築用鉄筋と同様に変形可能である。
【0027】
前記接着力調整剤は、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、ケイ酸ナトリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種である。接着力調整剤は、酸性触媒及び塩基性触媒の作用下、2段階で反応する。接着力調整剤が加水分解されてゾルを生成した後、ゾルが重縮合されて、官能基を含有するヒドロゲルが生成する。ヒドロゲルが被覆層の焼結前に珪酸化合物の表面に吸着し、官能基が被覆層の基材の核形成材となる。焼結時に、珪酸化合物中のケイ素-酸素結合と緊密に結合し、一緒に閉鎖した三次元網目構造を形成する。これにより、被覆層の焼結温度が低下し、焼結温度を約500℃~540℃にすることができる。そして、酸化ケイ素ゲルが優れた保温断熱機能を有し、被覆層の高温焼結時に被覆層の温度の均一性を確保して、被覆層を被覆した鉄筋全体の性能を均一にすることができる。また、酸化ケイ素ゲル中のケイ素と主原料の珪酸化合物中のケイ素とが相互に拡散融合することにより、酸化ケイ素ゲルがバインダーとしてうまく機能し、被覆層がより均一で緻密になり、耐食性を向上させることができる。複数の酸性触媒及び塩基性触媒により接着力調整剤の加水分解反応及び重縮合反応をそれぞれ促進することができる。さらに、加水分解及び重縮合反応を促進した後に、生成した酸化ケイ素ゲルを珪酸化合物の表面により強く吸着させることができ、被覆層の緻密度及び耐食性を向上させることができる。
【0028】
前記基材酸化物被覆層は、焼結後に基材金属の表面に(自動的に)生成したものであり、前記基材酸化物被覆層の成分は、基材金属と酸素とからなる基材金属酸化物100重量部である。例えば、基材金属が鉄板、鋼板、鉄筋である場合には、基材金属酸化物は鉄酸化物であり、基材金属が銅板である場合には、基材金属酸化物は銅酸化物であり、基材金属酸化物がアルミニウム板である場合には、基材金属酸化物はアルミニウム酸化物である。
【0029】
前記内層(基材酸化物被覆層)は基材金属と接し、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比は(4~6):1である。
【0030】
さらに、工程5)の被覆方法としては、静電塗装方法を用いることができる。静電電圧は30~40キロボルト、電流は20~25マイクロアンペア、吐出量は5~8リットル/分、塗装距離は20~50センチメートルである。
【0031】
さらに、工程6)の焼結パラメータは、温度が500~540℃、焼結時間が10~20分、昇温速度が5~10℃/分である。
【0032】
さらに、前記珪酸化合物は珪砂、珪藻土、石英、トリジマイト、クリストバライト、粉末石英から選ばれるいずれか1種又は複数種である。触媒された酸化ケイ素ゲルが珪酸化合物の表面に強く吸着され、反応及び焼結を経て三次元網目構造を形成し、被覆層の緻密度及び耐食性を大幅に向上させる。
【0033】
さらに、前記珪酸化合物は、超微粉であり、超微粉の粒径が1000~2000メッシュ、好ましくは1100~1400メッシュである。
【0034】
さらに、前記熱膨張係数調整剤が、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ルビジウム、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化銅から選ばれるいずれか1種又は複数種である。四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ルビジウムは、水に溶解すると塩基性を示す。四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ルビジウムは焼結時に被覆層のCTE(熱膨張係数)を増大させるので、被覆層の昇温時における応力ムラによる膨張クラックの発生を防止する。酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化銅は焼結時に被覆層のCTE(熱膨張係数)を低下させるので、被覆層の降温による収縮クラックの発生を防止する。両方の組み合わせにより、昇温時においても降温時においても、被覆層の完全性を確保することができる。
【0035】
さらに、前記バインダーは、一酸化マンガン、二酸化マンガン、一酸化ニッケル、三酸化二ニッケル、一酸化コバルト、三酸化二コバルトから選ばれるいずれか1種又は複数種である。例えば、被覆層の高温焼結時に、バインダーがマンガン酸化物である場合、酸化物中の酸素が被覆層中のケイ素と結合してケイ素-酸素結合を形成し、マンガンが金属表面の酸化層と結合してマンガン-酸素結合を形成する。これにより、被覆層と鉄筋との間に強い化学結合を形成し、被覆層と鉄筋との密着を確保することができる。
【0036】
さらに、前記触媒は、酸性触媒、塩基性触媒から選ばれるいずれか1種又は2種である。複数の酸性触媒及び塩基性触媒が、シリカエアロゲル前駆体の加水分解反応及び重縮合反応をそれぞれ促進する。さらに、加水分解及び重縮合反応を促進した後に、生成したシリカエアロゲルを珪酸化合物の表面により強く吸着させることができ、被覆層の緻密度及び耐食性を向上させることができる。
【0037】
さらに、前記酸性触媒は、塩酸、酢酸、シュウ酸から選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0038】
さらに、前記塩基性触媒は、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれるいずれか1種又は複数種である。
【0039】
本発明の第3の目的は、上記のいずれかの形態の低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を含む金属製品を提供することにある。
【0040】
さらに、前記金属製品の基材金属は、鉄板、鋼板、鉄筋、銅板、アルミニウム板から選ばれる。
【0041】
本発明の第4の目的は、上記のいずれかの形態の低温焼結による二層緻密金属防食被覆層及び前記金属製品の、民間建築物、管路(パイプライン)、共同溝、石油プラットフォーム、塩類土壌地域のインフラ施設、再生可能エネルギーによる発電などの分野における使用を提供することにある。
【0042】
本発明は、従来技術に比べて、以下の有益な効果を有する。
1)本発明では、珪酸化合物、熱膨張係数調整剤、バインダー、接着力調整剤、触媒を添加することにより、被覆層が、外層の無機セラミック被覆層と内層の基材酸化物被覆層とからなり、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比が(4~6):1である二層構造が形成される。これにより、被覆層の接着力が著しく向上し、13MPa~17MPaに達する。この値は、通常の被覆層の2~4倍である。
【0043】
2)接着力の向上により、被覆層の耐食性が向上し、本発明の被覆層は、模擬海水浸漬環境下で鉄筋の耐食性を10倍以上向上させることができる。
3)接着力の向上により、被覆層の伸びが向上し、鉄筋に使用した場合、本発明の被覆層の極限引張強さが1400~2200マイクロストレインであり、建築用鉄筋と同様に変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】実施例1の一部の電子顕微鏡写真(スケールバー:200μm)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。さらに、本発明の内容を読んだ後に、当業者は本発明に対して様々な変更や修正を加えることがるが、これらの等価の形態は同様に本発明の特許請求の範囲で規定される技術的範囲に含まれることを理解されたい。
【実施例1】
【0046】
低温焼結による二層緻密金属防食被覆層の製造方法であって、原料は、珪砂60重量部、四ホウ酸カリウム24重量部、酸化亜鉛3重量部、一酸化ニッケル7重量部、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)5重量部、塩酸1重量部を含む。
【0047】
1)1回目の粉砕:珪砂60重量部、四ホウ酸カリウム24重量部、酸化亜鉛3重量部、一酸化ニッケル7重量部を粉砕して粉末にする。
2)混合物の調製:前記原料にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)5重量部、塩酸1重量部及び水を添加して混合撹拌して混合物を得る。
【0048】
3)乾燥:工程2)で得られた混合物を乾燥させる。
4)2回目の粉砕:工程3)で得られた混合物を再度粉砕して粉末にする。
5)被覆:工程4)で得られた粉末を基材金属に被覆する。この時の静電電圧は35キロボルト、電流は23マイクロアンペア、吐出量は6リットル/分、塗装距離は30センチメートルである。
【0049】
6)焼結:工程5)で得られた粉末を被覆した基材金属を520℃で焼結する。焼結時間は15分、昇温速度は7.5℃/分であり、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を得るとともに、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層とからなる低温焼結による二層緻密金属防食被覆層を有する金属製品を得る。
【0050】
実施例1~3及び比較例1~3の具体的な工程は実施例1と同様であり、具体的な配合比(重量比)を表1に示す。
【0051】
表1 実施例1~3及び比較例1~3の成分配合比(重量比)と製造パラメータ
【0052】
走査型電子顕微鏡(SEM)により本発明の被覆層における無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比を算出することができる。
【0053】
珪酸化合物、熱膨張係数調整剤、バインダー、接着力調整剤、触媒が所定の配合比で、規定する製造パラメータを満たさないと、本発明に係る二層緻密金属防食被覆層を製造することができない。また、上記配合比と製造パラメータでは無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層との厚さの比が(4~6):1を満たすことが分かる。
【0054】
本発明の鉄筋防食用被覆層及びその被覆方法の効果を検証するために、次の試験を行った。
【0055】
1)接着力試験
実施例1~3及び比較例1~3の被覆鋼板を4群選択し、各群に3つの複製試験片を用意した。GB/T5210規格に準拠して、アドヒージョンテスターで接着力測定を行い、アドヒージョンテスターの数値を読み取った。
【0056】
表2 被覆接着力試験
接着力試験の結果によれば、実施例1~3の接着力の範囲は13~17MPaであり、通常の有機被覆層よりも明らかに優れている。比較例1~3の接着力の範囲は約5~6MPaであり、実施例1~3の1/3程度であることがわかる。
【0057】
2)引張試験
実施例1~3及び比較例1~3の被覆鉄筋を4群選択し、各群に3つの複製試験片を用意し、各被覆鉄筋に3つの電気抵抗ひずみゲージを貼り付けた。試験開始時に鉄筋を引張試験機にセットし、ひずみの荷重による変化を測定し、電気抵抗ひずみゲージをひずみ測定器に接続して被覆鉄筋のひずみの変化を測定した。
【0058】
表3 鉄筋引張試験
上記表3の試験結果によれば、実施例1~3の被覆鉄筋では、鉄筋を引っ張りクラックが発生した際の平均ひずみ値の範囲は1600~1900マイクロストレインである。比較例1~3の被覆鉄筋の平均ひずみ値の範囲は750~1000マイクロストレインである。実施例1~3の被覆層は建築用鉄筋とともに引っ張ることができ、比較例1~3の被覆層は建築用鉄筋とともに変形できない。実施例1~3が比較例1~3よりも極めて高い伸びを有する。
【0059】
3)鉄筋腐食試験
それぞれ実施例1~3及び比較例1~3の被覆鉄筋を4群選択した。対照群は被覆を施していない鉄筋であり、試験用鉄筋の数が合計で21である。これらを3.5%の塩化ナトリウム溶液に入れ、通電後、腐食促進試験を行った。
【0060】
表4 鉄筋腐食促進試験
表4によれば、実施例1、2、3の被覆鉄筋では、腐食までに要する時間が、被覆を施していない鉄筋の9~10倍である。比較例1、2、3の被覆鉄筋では、腐食までに要する時間が、被覆を施していない鉄筋の5倍であり、実施例1、2、3の1/2程度であることがわかる。
【0061】
4)鋼板腐食試験
それぞれ実施例1~3及び比較例1~3を用意した。対照群は被覆を施していない鋼板であり、試験用鋼板の数が合計で21である。これらを3.5%の塩化ナトリウム溶液に入れ、通電後、腐食促進試験を行った。
【0062】
表5 鋼板腐食促進試験
表5によれば、実施例1、2、3の被覆鋼板の腐食に要する時間は、被覆を施していない鋼板の10~11倍である。比較例1、2、3の被覆鋼板の腐食に要する時間は、被覆を施していない鋼板の6倍であり、実施例1、2、3の被覆鋼板の1/2程度であることがわかる。
【0063】
5)被覆の横断面電子顕微鏡写真
図1は実施例1の電子顕微鏡写真である。実施例2、3と同様なので、実施例1を代表とする。図から明らかなように、被覆層はとても緻密であり、閉気孔は極めて少ない。そして、被覆層は基材酸化物被覆層及び無機セラミック被覆層からなる二層構造であることがわかる。基材酸化物被覆層により被覆層と鉄筋とを密着させて、被覆層の耐食性を効果的に向上させることができる。基材酸化物被覆層の厚さは35.6μmであり、無機セラミック被覆層の厚さが160.5μmであり、無機セラミック被覆層と基材酸化物被覆層の厚さの比は4.5:1である。
図1