(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】タツノオトシゴの陸上養殖装置
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20230323BHJP
A01K 61/20 20170101ALI20230323BHJP
【FI】
A01K61/10
A01K61/20
(21)【出願番号】P 2022026866
(22)【出願日】2022-02-24
【審査請求日】2022-09-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522073113
【氏名又は名称】株式会社ショアース
(73)【特許権者】
【識別番号】594156020
【氏名又は名称】エスペックミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100137947
【氏名又は名称】石井 貴文
(72)【発明者】
【氏名】河西 利紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙治
【審査官】小笠原 かれん
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0105392(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第114009374(CN,A)
【文献】新潟県水産海洋研究所,新潟県陸上養殖研究促進事業報告書 クロウミウマ陸上養殖,日本,2019年03月
【文献】秋山信彦,海馬(タツノオトシゴ類)の完全養殖,産学官連携ジャーナル,Vol.17 No.5,日本,2021年05月15日,Page.21-23
【文献】タツ年明ける,日立市かみね動物園 園長室ブログ,日本,2012年01月05日,https://www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/encho/blog201201.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-61/65
A01K 61/80-63/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
育児嚢に卵または稚魚を有する雄の成魚が稚魚を放出するまで飼育する繁殖用水槽と、
前記稚魚を前記繁殖用水槽から移動させ飼育する稚魚用水槽と、
成魚を飼育する成魚用水槽と、
タツノオトシゴの餌となる水生生物を培養する水生生物培養水槽と、
前記水生生物の餌となる微細藻類を培養する微細藻類培養水槽と、を備え、
前記水生生物培養水槽は、ワムシを培養するワムシ用水槽、及びイサザアミを培養するイサザアミ用水槽を含
み、
前記水生生物培養水槽は第1養殖室に配置され、
前記微細藻類培養水槽は、前記第1養殖室とは仕切られた第2養殖室に配置される、
タツノオトシゴの陸上養殖装置。
【請求項2】
前記稚魚用水槽は複数の小容量水槽からなり、
前記成魚用水槽は、前記小容量水槽よりも大きい容量の水槽からなる、
請求項1に記載のタツノオトシゴの陸上養殖装置。
【請求項3】
前記繁殖用水槽は、前記小容量水槽よりも大きい容量の水槽からなる、
請求項2に記載のタツノオトシゴの陸上養殖装置。
【請求項4】
前記稚魚から成長した幼魚を飼育する幼魚用水槽をさらに備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載のタツノオトシゴの陸上養殖装置。
【請求項5】
前記繁殖用水槽が40cm以上の高さである、
請求項1から4のいずれか1項に記載のタツノオトシゴの陸上養殖装置。
【請求項6】
前記第1養殖室及び前記第2養殖室は、それぞれ海洋輸送用コンテナである、
請求項
1から5のいずれか1項に記載のタツノオトシゴの陸上養殖装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タツノオトシゴを陸上養殖するための陸上養殖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タツノオトシゴは、温帯から熱帯海域に広く生息しているが、近年は漢方薬需要の高まりによる乱獲の影響もあり、自然界での資源数が減少しており、ワシントン条約の規制対象魚類になっている。そのため、タツノオトシゴの陸上養殖技術の研究開発が進められているものの、実用化に至っていないのが現状である。特許文献1及び2には、陸上養殖装置が開示されているが、いずれもタツノオトシゴの陸上養殖装置としては適切とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-068791号公報
【文献】特開2020-074761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タツノオトシゴの陸上養殖を成功させるためには、孵化稚魚や幼魚の生育に適した餌の安定供給が課題のひとつとなっているが、適切な餌が何なのかということ、及び安定的に餌を供給するための方法が判っていなかった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する、タツノオトシゴの陸上養殖装置を提供することを目的のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るタツノオトシゴの陸上養殖装置は、育児嚢に卵または稚魚を有する雄の成魚が稚魚を放出するまで飼育する繁殖用水槽と、稚魚を繁殖用水槽から移動させ飼育する稚魚用水槽と、成魚を飼育する成魚用水槽と、タツノオトシゴの餌となる水生生物を培養する水生生物培養水槽と、水生生物の餌となる微細藻類を培養する微細藻類培養水槽と、を備える。
【0007】
発明者らの研究によれば、タツノオトシゴには、冷凍餌を与えるよりも生きた餌を与えることでよく成長し、産卵量が増加することが判った。上記の陸上養殖装置では、タツノオトシゴの餌となるワムシ及びイサザアミなどの水生生物を培養する水槽と、これらの水生生物の餌となる微細藻類を培養する水槽とを備えることで、タツノオトシゴに生きた餌を安定的に供給することを可能とした。これにより、タツノオトシゴを安定的、かつ効率的に養殖することが可能となる。
【0008】
上記陸上養殖装置において、稚魚用水槽が複数の小容量水槽からなり、成魚用水槽が、小容量水槽よりも大きい容量の水槽からなる構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置によれば、稚魚用水槽の移動及び取り扱いを容易にするとともに、管理しやすい構成にすることができる。
【0009】
上記陸上養殖装置において、繁殖用水槽は、小容量水槽よりも大きい容量の水槽からなる構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置によれば、繁殖用の成魚に適した広い水槽で繁殖を行うことができる。
【0010】
上記陸上養殖装置において、稚魚から成長した幼魚を飼育する幼魚用水槽をさらに備える構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置によれば、タツノオトシゴの成長段階に合わせて稚魚用水槽、幼魚用水槽、及び成魚用水槽を使い分けることで、より効果的な養殖が可能となる。
【0011】
上記陸上養殖装置において、水生生物培養水槽では、ワムシまたはイサザアミが培養されることが好ましい。さらに、水生生物培養水槽では、ワムシを培養するワムシ用水槽、及びイサザアミを培養するイサザアミ用水槽の双方を含む構成とすることが好ましい。
【0012】
発明者らの研究によれば、タツノオトシゴがワムシ及びイサザアミを好んで摂餌することが判った。上記陸上養殖装置では、これらのワムシ及び/またはイサザアミを培養する水槽を備えることで、生きた餌を安定して与えることが可能となり、効率的にタツノオトシゴを養殖することが可能となる。
【0013】
上記陸上養殖装置において、繁殖用水槽が40cm以上の高さであることが好ましい。
【0014】
発明者らの研究によれば、タツノオトシゴの成魚は水槽内で主に上下運動を行うため、一定以上の深さの水を入れた水槽を用いることが養殖するうえで好ましいことが判った。上記陸上養殖装置によれば、40cm以上の適度な深さの水を入れた水槽に雄のタツノオトシゴを入れて繁殖させるため、安定的な養殖が可能となる。
【0015】
上記陸上養殖装置において、互いに仕切られた第1養殖室及び第2養殖室を含み、第1養殖室には水生生物培養水槽が配置され、第2養殖室には微細藻類培養水槽が配置される構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置によれば、水生生物培養水槽からワムシまたはイサザアミなどの水生生物が微細藻類培養水槽に混入することを抑制することができる。
【0016】
上記陸上養殖装置において、第1養殖室及び第2養殖室がそれぞれ海洋輸送用コンテナであることが好ましい。タツノオトシゴの陸上養殖装置では水温を20~25度程度に保つ必要があるが、断熱性と密封性の高い小部屋を利用することで、最低限の空調設備を用いるだけで水温を安定させやすくなる。また、複数の小部屋を機能に応じて使い分けることで、適切な陸上養殖が可能となる。発明者らは、このような機能を有するものとして、海洋輸送用コンテナが適していることを見出した。上記陸上養殖装置では、水温を安定させやすく、機能に応じて小部屋の使い分けを行いやすい構成にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一形態のタツノオトシゴの陸上養殖装置によれば、タツノオトシゴを安定的、かつ効率的に養殖することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係るタツノオトシゴの陸上養殖装置の平面図である。
【
図2】実施形態に係るタツノオトシゴの陸上養殖装置の第2コンテナの一方をA側から見た側面図である。
【
図3】実施形態に係るタツノオトシゴの陸上養殖装置の第2コンテナの他方をA側から見た側面図である。
【
図4】実施形態に係るタツノオトシゴをB側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態のタツノオトシゴの陸上養殖装置は、水槽を用いて、タツノオトシゴを海上ではなく陸上で養殖するための装置である。本実施形態のようなタツノオトシゴの陸上養殖装置はこれまでに実用されたことがなく、新たな装置である。
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。
【0021】
図1は、本実施形態の陸上養殖装置の平面図である。
図1に示されるように、陸上養殖装置1は、第1コンテナ1Aと第2コンテナ1Bとを含む。第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bにはそれぞれ図示しない空調装置が配置される。これらの空調装置は、それぞれ第1コンテナ1A及び第2コンテナ1B内の温度及び湿度を調整する。第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bに配置された水槽の水温は、概ね室温より1~2度低い温度に維持される。本実施形態の陸上養殖装置1では、第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bの室温を20~25度程度に保ち、これによって、各水槽に水温維持装置を設けることなく、水槽の水を適温に保つことができる。
【0022】
発明を限定するものではないが、これらの第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bは、互いに仕切られた部屋であって、隣接した状態で連結して配置されることが好ましい。第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bは、適度なサイズと断熱機能とを有するものを用いることが好ましく、例えば海洋輸送用コンテナを用いることが好ましい。第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bは、適切なサイズ及び断熱機能を有する海洋輸送用コンテナ以外のコンテナまたは設備等を用いてもよい。また、第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bは、ビルまたはマンションのような建物の部屋であっても構わない。また、第1コンテナ1Aと第2コンテナ1Bとに分けず、1つのコンテナまたは部屋内に第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bの各構成を配置したものとすることも可能である。第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bは、それぞれ本発明の「第1養殖室」及び「第2養殖室」に対応する。
【0023】
陸上養殖装置1は、上記の第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bに加え、図示しない機械室コンテナをさらに備える。機械室コンテナには、養殖に用いられる海水を濾過及び殺菌する濾過殺菌装置、及び養殖に用いられる水槽に適宜空気を供給するエアー供給装置が配置される。第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bに配置された水槽には、濾過殺菌装置で濾過及び殺菌された海水が入れられる。エアー供給装置は、複数のチューブを介して、第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bに配置される各水槽に酸素を含む空気を送る。
【0024】
第1コンテナ1Aには、ドア2A及び3A、ならびに流し台4Aが設けられる。第2コンテナ1Bにも同様に、ドア2B及び3B、ならびに流し台4Bが設けられる。ドアの数は1つでも3つ以上でも構わないし、第1コンテナ1Aと第2コンテナ1Bとで異なる数のドアを設けてもよい。流し台は、各コンテナ内で各種作業を行うために設けられることが好ましいが、必須の構成ではない。
【0025】
第1コンテナ1Aにはさらに、1つの繁殖用水槽15、及び2つの微細藻類培養水槽22が配置される。第2コンテナ1Bにはさらに、15個の稚魚用水槽11、2つの幼魚用水槽12、2つの成魚用水槽13、1つの予備水槽14、及び3つの水生生物培養水槽21が配置される。第2コンテナ1Bには、それぞれ中央に設けられた通路を挟んで一方側に棚5Bが、他方側に棚6Bが配置される。なお、
図1に点線で示された幼魚用水槽12、成魚用水槽13、予備水槽14、及び水生生物培養水槽21は、棚5B及び6Bの上段ではなく下段、すなわち床面上に配置される。
【0026】
図2に示されるように、棚5Bは上段と下段との2段になっており、下段に幼魚用水槽12及び水生生物培養水槽21が配置され、上段に稚魚用水槽11が配置される。なお、棚5Bの下段は、第2コンテナ1Bの床面となる。
【0027】
棚5Bには複数のLED照明51Bが配置される。LED照明51Bは、稚魚用水槽11、幼魚用水槽12及び水生生物培養水槽21に光を照射する。LED照明51Bから照射される光は、光合成に有効な450nm付近の波長の光を多く含む光とすることが好ましい。例えば、LED照明51Bから照射される光は、400nm以上700nm以下の波長の光を、他の波長の光と比較して多く含む光とする。
【0028】
図1に示されるように、棚6Bは棚5Bと向かい合うよう、棚5Bが配置された側とは逆側に配置される。
図3に示されるように、棚6Bは上段と下段との2段になっており、下段に成魚用水槽13及び予備水槽14が配置され、上段に稚魚用水槽11が配置される。なお、棚6Bの下段は、第2コンテナ1Bの床面となる。
【0029】
棚6Bには、複数のLED照明61Bが配置される。LED照明61Bは、稚魚用水槽11、成魚用水槽13、及び予備水槽14に光を照射する。LED照明61Bから照射される光は、LED照明51Bと同様に、750nm付近の波長の光を多く含む光とすることが好ましい。例えば、LED照明61Bから照射される光は、600nm以上800nm以下の波長の光を、他の波長の光と比較して多く含む光とする。
【0030】
[各水槽の機能]
次に、各水槽の機能について説明する。
【0031】
稚魚用水槽11は、上述のように、第2コンテナ1Bに15個配置される。稚魚用水槽11は、それぞれ30リットルの水を保持可能な水槽であり、例えば、すり鉢状の樹脂で形成された水槽である。稚魚用水槽11には、後述するように、雄の育児嚢から放出された稚魚が、繁殖用水槽15から移動させられる。稚魚用水槽11は、養殖スペースの効率的な利用などを考慮して棚5B及び6Bの上段に配置されるため、大容量の水槽ではなく、他の水槽と比較して小容量の水槽としている。また、稚魚は成魚と比較して病気に感染しやすく、感染の連鎖により全滅してしまうことを抑止するためにも、小容量の複数の水槽を用いることが好ましい。
【0032】
幼魚用水槽12は、上述のように、第2コンテナ1Bに2つ配置される。幼魚用水槽12は、それぞれ100リットルの水を保持可能な水槽であり、例えば、すり鉢状の樹脂で形成された水槽である。幼魚用水槽12には、稚魚用水槽11で稚魚からある程度成長した幼魚が移動させられる。
【0033】
成魚用水槽13は、上述のように、第2コンテナ1Bに2つ配置される。成魚用水槽13は、それぞれ400リットルの水を保持可能な水槽であり、例えば、樹脂またはガラス等で形成された角形水槽が用いられる。成魚用水槽13のサイズは、例えば、外寸が縦71cm、横151cm、高さ59cmとする。タツノオトシゴの成魚は上下運動、すなわち深さ方向への移動が主な動きとなるため、成魚用水槽13の高さを40cm以上とすることが好ましい。成魚用水槽13には、幼魚用水槽12で成長した成魚が移動させられる。成魚用水槽13でさらに出荷に適したサイズまで成長した成魚は、成魚用水槽13から取り出されて出荷される。成魚用水槽13から取り出された成魚は、第2コンテナ1B内で加工されたのちに出荷されてもよい。
【0034】
成魚用水槽13に入れられた成魚の雌の一部は産卵し、雄の成魚が腹部の育児嚢で卵を保持することとなる。このような育児嚢に卵を抱えた雄の成魚の少なくとも一部は、成魚用水槽13から繁殖用水槽15に移動させられる。
【0035】
予備水槽14は、上述のように、第2コンテナ1Bに1つ配置される。予備水槽14は、240リットルの水を保持可能な水槽であり、例えば、角形のアクリル水槽が用いられる。予備水槽14のサイズは、例えば、外寸が縦90cm、横40cm、高さ60cmとする。予備水槽14は、繁殖用水槽15に移動させられる前の成魚のペアリング、またはその他の実験などのために用いられる水槽であり、成魚を入れられることがあるため、成魚用水槽13と同様に、高さを40cm以上とすることが好ましい。
【0036】
繁殖用水槽15は、上述のように、第1コンテナ1Aに1つ配置される。繁殖用水槽15は、500リットルの水を保持可能であり、例えば、ポリカーボネートで形成されたすり鉢状の水槽が用いられる。繁殖用水槽15のサイズは、底面の直径約100cm、上面の直径約120cm、高さ約80cmとする。繁殖用水槽15には、成魚用水槽13から、育児嚢に卵を抱えた雄の成魚が移動させられる。繁殖用水槽15では、雄の育児嚢で孵化した稚魚が育児嚢から出てくるまで、成魚と稚魚とを飼育する。育児嚢から出てきた稚魚は、稚魚用水槽11に移動させられる。
【0037】
水生生物培養水槽21は、上述のように、第2コンテナ1Bに3つ配置される。水生生物培養水槽21は、幼魚用水槽12と同様に、それぞれ100リットルの水を保持可能な水槽であり、例えば、すり鉢状の樹脂で形成された水槽である。水生生物培養水槽21では、タツノオトシゴの成魚及び幼魚の餌となる水生生物であるワムシ及びイサザアミが、それぞれ別の水槽で培養される。なお、水生生物培養水槽21では、ワムシまたはイサザアミの一方のみが培養されてもよい。
【0038】
微細藻類培養水槽22は、上述のように、第1コンテナ1Aに2つ配置される。微細藻類培養水槽22は、繁殖用水槽15と同様に、それぞれ500リットルの水を保持可能であり、例えば、ポリカーボネートで形成されたすり鉢状の水槽が用いられる。微細藻類培養水槽22のサイズは、底面の直径約100cm、上面の直径約120cm、高さ約80cmとする。微細藻類培養水槽22で培養される微細藻類は、例えば、クロレラまたはナンノクロロプシスなどである。微細藻類培養水槽22で培養された微細藻類は、水生生物培養水槽21で培養される水生生物の餌となる。また、微細藻類は、タツノオトシゴの稚魚及び幼魚の餌にもなる。
【0039】
[タツノオトシゴの養殖の方法]
本実施形態の陸上養殖装置1を利用したタツノオトシゴの養殖は、以下のような手順で行われる。
【0040】
タツノオトシゴは、雄の腹部にある育児嚢に雌が卵を産み付け、この卵に雄が精子を放出することで受精させる。雄はこの受精卵を育児嚢の中で保持し、やがて卵が孵化する。孵化した稚魚は育児嚢の中で卵黄を吸収して成長し、卵黄がなくなると育児嚢から出てくる。
【0041】
陸上養殖装置1では、育児嚢に受精卵を持つ雄のタツノオトシゴを、繁殖用水槽15に入れて飼育する。このような雄のタツノオトシゴは、成魚用水槽13から取り出される。このような雄のタツノオトシゴを成魚用水槽13から取り出すのに代えて、予備水槽14に雄及び雌の成魚を入れてペアリングを行ってもよいし、装置外から持ち込んでもよい。
【0042】
繁殖用水槽15で飼育された雄の育児嚢から出てきた稚魚は、稚魚用水槽11に移動させられて飼育される。稚魚用水槽11の稚魚には、微細藻類培養水槽22で培養された微細藻類が餌として与えられる。
【0043】
稚魚用水槽11である程度成長した幼魚は、幼魚用水槽12に移動させられて飼育される。幼魚用水槽12の幼魚には、微細藻類培養水槽22で培養された微細藻類が餌として与えられる。幼魚には、水生生物培養水槽21で培養された水生生物であるワムシ及びイサザアミを餌として与えてもよい。また、幼魚には、水生生物及び微細藻類の双方を餌として与えてもよい。
【0044】
幼魚用水槽12で成長した成魚は、成魚用水槽13に移動させられて飼育される。成魚用水槽13の成魚には、水生生物培養水槽21で培養された水生生物であるワムシ及びイサザアミが餌として与えられる。成魚用水槽13でさらに成長した成魚は、適切なタイミングで取り出されて出荷される。
【0045】
成魚用水槽13で成長した成魚の一部は、次の世代のタツノオトシゴを養殖するための親となる。この場合、成魚用水槽13で既にペアリングが完了し、育児嚢に卵を持った雄のタツノオトシゴを繁殖用水槽15に移動させる。または、成魚用水槽13で成長した成魚の一部を予備水槽14に移動させ、ペアリングを行ってもよい。
【0046】
上述のように、水生生物培養水槽21のワムシ及びイサザアミには、微細藻類培養水槽22で培養された微細藻類が餌として与えられる。そのため、微細藻類に与える栄養素以外には、装置外から餌を持ち込むことなく、タツノオトシゴを陸上養殖するサイクルを構築することができる。
【0047】
本実施形態の陸上養殖装置1では、第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bの中に、15個の稚魚用水槽11、2つの幼魚用水槽12、2つの成魚用水槽13、1つの予備水槽14、1つの繁殖用水槽15、2つの微細藻類培養水槽22、及び3つの水生生物培養水槽21を有する構成としているが、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。
【0048】
本実施形態で説明した各水槽の大きさ、容量、及び数はあくまで一例であり、実施形態とは異なる大きさまたは容量の水槽を用いてもよい。ただし、稚魚用水槽11は、成魚用水槽13及び繁殖用水槽15よりも小さい容量の水槽を用い、複数の水槽とすることが好ましい。
【0049】
また、各水槽の形状及び素材も一例であり、実施形態とは異なる形状及び素材の水槽を用いても構わない。
【0050】
陸上養殖装置1では、例えば、幼魚用水槽12を設けることなく、稚魚用水槽で成長した幼魚または成魚を、成魚用水槽13に移動させる構成としてもよい。また、予備水槽14を配置しない構成としてもよい。
【0051】
[陸上養殖装置1の特徴]
本実施形態のタツノオトシゴの陸上養殖装置1は、少なくとも、繁殖用水槽15、稚魚用水槽11、成魚用水槽13、水生生物培養水槽21、及び微細藻類培養水槽22を備える構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、タツノオトシゴを安定的、かつ効率的に養殖することが可能となる。
【0052】
また、陸上養殖装置1では、稚魚用水槽11が複数の小容量水槽からなり、成魚用水槽13が、稚魚用水槽11よりも大きい容量の水槽からなる構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、稚魚用水槽11の移動及び取り扱いを容易にするとともに、管理しやすい構成にすることができる。
【0053】
また、陸上養殖装置1では、繁殖用水槽15を、稚魚用水槽11よりも大きい容量の水槽からなる構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、繁殖用の成魚に適した広い水槽で繁殖を行うことができる。
【0054】
また、陸上養殖装置1では、稚魚から成長した幼魚を飼育する幼魚用水槽12をさらに備える構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、タツノオトシゴの成長段階に合わせて稚魚用水槽11、幼魚用水槽12、及び成魚用水槽13を使い分けることで、より効果的な養殖が可能となる。
【0055】
また、陸上養殖装置1において、水生生物培養水槽21では、ワムシまたはイサザアミが培養されることが好ましい。さらに、水生生物培養水槽21では、ワムシを培養するワムシ用水槽、及びイサザアミを培養するイサザアミ用水槽の双方を含む構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、生きた餌を安定して与えることが可能となり、効率的にタツノオトシゴを養殖することが可能となる。
【0056】
また、陸上養殖装置1では、繁殖用水槽15が40cm以上の高さであることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、主に上下運動を行うタツノオトシゴの成魚に適した深さの水槽で繁殖を行うことができるため、安定的な養殖が可能となる。
【0057】
また、陸上養殖装置1では、互いに仕切られた第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bを含み、第1コンテナ1Aには水生生物培養水槽21が配置され、第2コンテナ1Bには微細藻類培養水槽22が配置される構成とすることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、水生生物培養水槽21からワムシまたはイサザアミなどの水生生物が微細藻類培養水槽22に混入することを抑制することができる。
【0058】
また、陸上養殖装置1では、第1コンテナ1A及び第2コンテナ1Bがそれぞれ海洋輸送用コンテナであることが好ましい。このような陸上養殖装置1によれば、断熱性と密封性の高い小部屋を利用することで、最低限の空調設備を用いるだけで水温を20~25度程度の適温で安定させやすくなる。また、複数の小部屋を機能に応じて使い分けることで、適切な陸上養殖が可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1…陸上養殖装置
1A…第1コンテナ
1B…第2コンテナ
5B、6B…棚
11…稚魚用水槽
12…幼魚用水槽
13…成魚用水槽
14…予備水槽
15…繁殖用水槽
21…水生生物培養水槽
22…微細藻類培養水槽
【要約】
【課題】タツノオトシゴを効率的に養殖可能な陸上養殖装置を提供する。
【解決手段】タツノオトシゴの陸上養殖装置は、育児嚢に卵または稚魚を有する雄の成魚が稚魚を放出するまで飼育する繁殖用水槽と、稚魚を繁殖用水槽から移動させ飼育する稚魚用水槽と、成魚を飼育する成魚用水槽と、タツノオトシゴの餌となる水生生物を培養する水生生物培養水槽と、水生生物の餌となる微細藻類を培養する微細藻類培養水槽と、を備える。
【選択図】
図1