(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】流量測定装置内の容積測定方法および流量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 17/00 20060101AFI20230323BHJP
G01F 25/10 20220101ALI20230323BHJP
【FI】
G01F17/00 C
G01F25/10 Z
(21)【出願番号】P 2019139503
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】滝本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-045246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 17/00
G01F 22/00-22/02
G01F 25/10-25/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側開閉弁と、下流側開閉弁と、前記上流側開閉弁と前記下流側開閉弁との間の圧力を測定する圧力センサとを備えた流量測定装置において前記上流側開閉弁と前記下流側開閉弁との間の容積を測定する容積測定方法であって、
前記流量測定装置を、出口側開閉弁を介してガス供給源の下流側に接続するステップ(a)であって、前記出口側開閉弁と前記上流側開閉弁との間には、圧力および温度を測定する流路内圧力センサおよび流路内温度センサが接続されているステップ(a)と、
前記出口側開閉弁、前記上流側開閉弁および前記下流側開閉弁を開放した状態で前記ガス供給源から前記流量測定装置の下流側にガスを流すステップ(b)と、
前記ステップ(b)の状態から前記上流側開閉弁を閉鎖し、所定時間経過後に前記出口側開閉弁を閉鎖し、前記上流側開閉弁と前記出口側開閉弁とを閉鎖したまま前記上流側開閉弁と前記出口側開閉弁との間の流路内の第1圧力P1を測定するステップ(c)と、
前記ステップ(c)の状態から前記下流側開閉弁を閉鎖し、さらに前記上流側開閉弁を開放した後、前記出口側開閉弁と前記下流側開閉弁とを閉鎖したまま前記出口側開閉弁と前記下流側開閉弁との間の流路内の第2圧力P2を測定するステップ(d)と、
前記流量測定装置の前記上流側開閉弁から前記下流側開閉弁までの流路の容積をV2とし、前記出口側開閉弁から前記上流側開閉弁までの流路の容積をV1としたとき、予め求めておいた既知の容積V1を用いて、容積V2を、V1、P1、P2に基づいて求めるステップ(e)と
を含み、
前記容積V2として、複数の環境温度に対応付けられた複数の容積V2が求められる、流量測定装置内の容積測定方法。
【請求項2】
前記ステップ(e)は、前記容積V2を、
V2=V1(P1-P2)/P2、または、
V2=V1(P1・T2-P2・T1)/P2・T1
のいずれかに従って求めるステップを含み、ここで、T1は前記ステップ(c)において前記第1圧力P1とともに測定される第1温度T1であり、T2は前記ステップ(d)において前記第2圧力P2とともに測定される第2温度T2である、請求項1に記載の流量測定装置内の容積測定方法。
【請求項3】
前記容積V2として、3つ以上の環境温度に対応付けられた3つ以上の容積V2が求められる、請求項1または2に記載の流量測定装置内の容積測定方法。
【請求項4】
前記流量測定装置を恒温槽内に設置するステップをさらに含み、前記恒温槽の温度を調整することによって設定された複数の環境温度に対応付けて、複数の容積V2が求められる、請求項1から3のいずれかに記載の流量測定装置内の容積測定方法。
【請求項5】
流量制御器と接続される上流側開閉弁と、前記上流側開閉弁の下流側に設けられた圧力センサおよび温度センサと、前記圧力センサおよび温度センサの下流側に設けられた下流側開閉弁とを有する流量測定装置であって、
請求項1から4のいずれかに記載の容積測定方法によって求められた、複数の環境温度に対応付けられた複数の容積値が記憶された記憶部と、
前記圧力センサ及び温度センサによって計測した値と、前記記憶部に記憶された容積値とに基づいて、前記流量制御器の流量を測定する演算制御部と
を備える流量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造設備、薬品製造装置又は化学プラント等に用いるガス供給装置に使用される流量制御機器の流量を測定するための流量測定装置の内部の容積を測定する方法および内部容積が測定された流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造設備又は化学プラント等においては、プロセスチャンバなどにガスを適切な流量で供給することが要求される。ガス流量の制御装置としては、マスフローコントローラ(熱式質量流量制御器)や圧力式流量制御器が知られている。
【0003】
これらの流量制御器において、流量は高精度で管理する必要があり、随時、流量精度の確認や流量制御器の校正を行うことが好ましい。流量測定の方法としては、一般的にビルドアップ法による流量測定が用いられている。ビルドアップ法は、既知容量(ビルドアップ容量)の内部に流れ込む流体の圧力の変化を検出することによって流量を測定する方法である。
【0004】
ビルドアップ法は、流量制御器の下流に設けられた既知容積(V)の配管内又はタンク内にガスを流し、そのときの圧力上昇率(ΔP/Δt)と温度(T)とを測定することによって、気体定数をRとしたとき、例えば、Q=22.4×(ΔP/Δt)×V/RTから流量Qを求めるようにしている。
【0005】
特許文献1には、ビルドアップ法を用いた流量測定の一例が開示され、特許文献2には、ビルドアップ法を用いた流量制御器の校正方法に関する流量計算方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-337346号公報
【文献】特開2012-32983号公報
【文献】国際公開第2018/147354号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビルドアップ法による流量測定を行う場合、前提条件として、流量測定装置内の容積を正確に知る必要がある。そして、この容積は、流量制御器が使用される環境温度を考慮すると複数点の温度で計測することが好ましい。
【0008】
しかし、従来の流量測定装置内の容量は、装置内形状から演算によって求め、温度変化には係数を乗じることで求めるようにしていたため、流量測定装置の器差を十分に吸収することができず、流量制御器の流量を正確に測定できていないという問題があった。
【0009】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、流量測定装置内の容積を正確に測定する方法および正確に容積が計測された流量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態による流量測定装置の容積測定方法は、上流側開閉弁と、下流側開閉弁と、前記上流側開閉弁と前記下流側開閉弁との間の圧力を測定する圧力センサとを備えた流量測定装置において前記上流側開閉弁と前記下流側開閉弁との間の容積を測定する容積測定方法であって、前記流量測定装置を、出口側開閉弁を介してガス供給源の下流側に接続するステップ(a)であって、前記出口側開閉弁と前記上流側開閉弁との間には、圧力および温度を測定する流路内圧力センサおよび流路内温度センサが接続されている、ステップ(a)と、前記出口側開閉弁、前記上流側開閉弁および前記下流側開閉弁を開放した状態で前記ガス供給源から前記流量測定装置の下流側にガスを流すステップ(b)と、前記ステップ(b)の状態から前記上流側開閉弁を閉鎖し、所定時間経過後に前記出口側開閉弁を閉鎖し、前記上流側開閉弁と前記出口側開閉弁とを閉鎖したまま前記上流側開閉弁と前記出口側開閉弁との間の流路内の第1圧力P1を測定するステップ(c)と、前記ステップ(c)の状態から前記下流側開閉弁を閉鎖し、さらに前記上流側開閉弁を開放した後、前記出口側開閉弁と前記下流側開閉弁とを閉鎖したまま前記出口側開閉弁と前記下流側開閉弁との間の流路内の第2圧力P2を測定するステップ(d)と、前記流量測定装置の前記上流側開閉弁から前記下流側開閉弁までの流路の容積をV2とし、前記出口側開閉弁から前記上流側開閉弁までの流路の容積をV1としたとき、予め求めておいた既知の容積V1を用いて、容積V2を、V1、P1、P2に基づいて求めるステップ(e)とを含み、前記容積V2として、複数の環境温度に対応付けられた複数の容積V2が求められる。
【0011】
ある実施形態において、前記ステップ(e)は、前記容積V2を、V2=V1(P1-P2)/P2、または、V2=V1(P1・T2-P2・T1)/P2・T1のいずれかに従って求めるステップを含み、ここで、T1は前記ステップ(c)において前記第1圧力P1とともに測定される第1温度T1であり、T2は前記ステップ(d)において前記第2圧力P2とともに測定される第2温度T2である。
【0012】
ある実施形態において、前記容積V2として、3つ以上の環境温度に対応付けられた3つ以上の容積V2が求められる。
【0013】
ある実施形態において、少なくとも前記流量測定装置を恒温槽内に設置するステップをさらに有し、前記恒温槽の温度を調整することによって設定された複数の環境温度に対応付けて、複数の容積V2が求められる。
【0014】
本発明の実施形態による流量測定装置は、流量制御器と接続される上流側開閉弁と、前記上流側開閉弁の下流側に設けられた圧力センサおよび温度センサと、前記圧力センサおよび温度センサの下流側に設けられた下流側開閉弁とを有し、上記のいずれかの容積測定方法によって求められた、複数の環境温度に対応付けられた複数の容積値が記憶された記憶部と、前記圧力センサ及び温度センサによって計測した値と、前記記憶部に記憶された容積値とに基づいて、前記流量制御器の流量を測定する演算制御部と備える。
【0015】
ある実施形態において、環境温度を測定するための環境温度センサをさらに備え、前記演算制御部は、前記環境温度センサが測定した環境温度に基づいて前記容積V2を決定するように構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態では、流量測定装置の内部容積を環境温度に対応付けて求めておくことによって、流量測定装置を用いた流量測定を向上した精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態にかかる流量測定装置を有する流体システムを示す図である。
【
図2】流量測定装置の内部容積を測定するための測定システムを示す図である。
【
図3】内部容積を測定する方法を説明するための図である。
【
図4】内部容積を測定する方法を説明するための図である。
【
図5】内部容積を測定する手順を示すフローチャートである。
【
図6】環境温度が27℃、35℃、40℃のときの流量測定装置の内部容積と、ビルドアップ圧力との関係を示すグラフである。
【
図7】流量制御器の一例(圧力式流量制御器)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態にかかる流量測定装置10が組み込まれた流体システム1を示す。流体システム1は、ガス供給源2からのガスを流量制御器3を介して半導体製造装置のプロセスチャンバ7に供給するように構成されている。また、流量測定装置10は、必要に応じて流体システム1に接続され、流量制御器3によって流量制御されたガスの実際の流量の測定を行うとともに、流量制御器3を校正するために用いられる。
【0020】
より詳細には、流体システム1は、それぞれ別のガス供給源2に接続された複数のガスラインL1と、各ガスラインL1が合流する共通ガスラインL2とを含み、各ガスラインL1には、流量制御器3および第1バルブ4が設けられている。流量測定装置10は、第1バルブ4の下流側に接続されており、任意のガスラインL1を流れるガスの流量を測定することができる。流量測定装置10は、他の態様において、共通ガスラインL2の途中に設けられていてもよい。
【0021】
流量測定装置10の下流側には、真空ポンプ11が接続されており、流量測定装置10の内部およびその上流側の流路を排気することができる。ただし、これに限られず、流量測定装置10の下流側をプロセスチャンバ7に設けられた真空ポンプ8に接続し、これを真空ポンプ11の代わりに用いてもよい。
【0022】
流量測定装置10は、上流側開閉弁12と、下流側開閉弁14と、上流側開閉弁12と下流側開閉弁14との間の流路の圧力および温度を測定する圧力センサ16および温度センサ18と、圧力センサ16および温度センサ18に接続された演算制御部20とを備えている。圧力センサ16としては、
図2に示すように、圧力センサ16a及び圧力センサ16bの2基が設けられていても良く、この場合、一方が高圧用、他方が低圧用として機能する他、同レンジの圧力計を取り付け、ダブルチェック用に使用することもできる。圧力センサ16の数は任意であってよい。圧力センサ16としては、例えばキャパシタンスマノメータが用いられ、温度センサ18としては例えば測温抵抗体が用いられる。
【0023】
流量測定装置10に設けられた演算制御部20は、典型的には、CPU、ROMやRAMなどのメモリ(記憶部)M、A/Dコンバータ等を内蔵しており、後述する流量測定動作を実行するように構成されたコンピュータプログラムを含んでいてよく、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現され得る。演算制御部20は、本実施形態では流量測定装置10に内蔵されているが、外部装置として設けられていてもよい。
【0024】
本実施形態において、プロセスチャンバ7に通じる共通ガスラインL2には第2バルブ5が設けられ、流量測定装置10に通じるガスラインには第3バルブ6が設けられている。第1バルブ4、第2バルブ5、第3バルブ6並びに流量測定装置10の上流側開閉弁12および下流側開閉弁14としては、好適にはオンオフ弁または遮断弁が用いられ、例えばAOV(Air Operated Valve)などの流体動作弁や、電磁弁、電動弁などの電気的動作弁が用いられる。第1バルブ4は、流量制御器3に内蔵されていてもよく、そうでない場合にも流量制御器3と近接して配置されていることが好ましい。
【0025】
以上に説明した流体システム1において、流量測定装置10は、流量制御器3によって流量制御されたガスの実際の流量を測定するために用いられる。具体的には、ビルドアップ法に従い、
図1において太線で示す流路をビルドアップ容量として用いて、このビルドアップ容量に流れ込んだガスによる圧力の上昇率(ΔP/Δt)を流量測定装置10内の圧力センサ16を用いて測定することによって、流量を測定することができる。
【0026】
なお、厳密には、流量制御器3と第1バルブ4との間の流路の容積も上記のビルドアップ容量に含まれるが、第1バルブ4として流量制御器3内のオリフィス内蔵弁を用いる場合は上記の容積をゼロと見なしてよい。また、第1バルブ4は流量制御器3に近接して配置されており、上記の容積は十分に小さいので、容積値として所定値を用いてよい。
【0027】
流量測定装置10を用いた流量測定では、上記のビルドアップ容量に、流量測定装置10の内部の容積V2(以下、内部容積V2と称することがある)も含まれている。したがって、流量測定を行うときには、内部容積V2が予め知られていることが望まれる。内部容積V2が知られていれば、流量測定装置10を組み込んだ後に第1バルブ4と流量測定装置10との間の流路の容積V0(流体システム1の構成によって様々な値を取り得る)を求めるときにも、内部容積V2に基づいてより正確な容積V0を求め得る。
【0028】
以上のことから、通常、流量測定装置10が流体システム1に組み込まれる前の段階、例えば流量測定装置10の出荷時等に、流量測定装置10の内部容積を測定する工程が行われている。この工程において、本実施形態では、従来とは異なり、周囲の環境温度に対応付けられた複数の内部容積が求められる。そして、流量測定装置10を流体システム1に組み込んだ後は、測定した環境温度に基づいて決定された内部容積を用いて流量測定を行う。以下、流量測定装置10の内部容積測定方法の具体例を説明する。
【0029】
図2は、流量測定装置10の内部容積を測定するための測定システム30を示す。測定システム30において、流量測定装置10は、出口側開閉弁32を介して不活性ガス供給源31の下流側に接続される。また、出口側開閉弁32と流量測定装置10との間の流路には、流路内圧力センサ34および流路内温度センサ35が接続されている。
【0030】
本実施形態では、不活性ガスとして窒素ガスが用いられ、出口側開閉弁32の上流側に設けられたレギュレータRGによって流れが制御される。不活性ガス供給源31からのガスの供給は遮断弁39aによって制御される。また、流量測定装置10の下流側は、2つの遮断弁39b、39cを介して真空ポンプ38に接続されており、真空ポンプ38を用いて流路内を減圧することができる。
【0031】
また、測定システム30は、恒温槽36を備え、流量測定装置10は恒温槽36の内部に配置される。この構成において、恒温槽36の温度を調整することによって、複数の環境温度下で、流量測定装置10の内部容積の測定を行うことができる。設定温度は特に限定するものではないが、本実施形態では、恒温槽36を例えば20℃、30℃、40℃の3つの温度に設定し、それぞれの温度について、流量測定装置10の内部容積の測定が行われる。
【0032】
測定システム30では、まず、恒温槽36の温度設定が行われ、真空引き(例えば5時間)を行った後、出口側開閉弁32(V32と記載することがある)と流量測定装置10内の上流側開閉弁12(V12と記載することがある)との間の流路の容積V1(基準容積V1と記載することがある)を求める工程が行われる。
図3は、基準容積V1を求めるためのバルブ(V32およびV12)の動作シーケンスおよび圧力の時間変化を示す。
【0033】
まず、時刻t1において出口側開閉弁32および上流側開閉弁12が開かれ、不活性ガス供給源31からのガスが所定の流量で流される。なお、内部容積を測定する工程において、流量測定装置10内の下流側開閉弁14(V14と記載することがある)およびその他の流路に設けられた開閉弁は、常時、開状態に維持されている。このとき、測定システム30には、正確な流量Qを示すことが可能な流量基準器が接続されており、既知の正確な流量Qでガスが流される。流量基準器としては、例えば、モルブロック(molbloc:DH Instruments社製)や、実際流量に基づいて流量校正が厳格に行われたマスフローメータなどの流量センサまたは流量制御機器を用いることができる。
【0034】
次に、時刻t2において、出口側開閉弁32と上流側開閉弁12とは同時に閉じられ封止状態が形成される。また、このときの圧力PBおよび温度TBが、流路内圧力センサ34および流路内温度センサ35によって測定される。このときに測定される圧力および温度は、所定流量でシステムをガスが定常的に流れているときのガスの物質量に対応するものと考えることができる。
【0035】
その後、時刻t3に両方の弁が開放され、再び、所定流量でガスが流れる。その後、時刻t4に上流側開閉弁12が閉じられ、一方で、出口側開閉弁32は開状態に維持される。上流側開閉弁12が閉じられた後は、時間の経過と共に圧力が線形的に増加する。
【0036】
また、所定時間経過後または所定圧力値まで達した時刻t5に、出口側開閉弁32が閉じられ封止状態が形成される。また、このときの圧力PAおよび温度TAが、流路内圧力センサ34および流路内温度センサ35によって測定される。時刻t4から時刻t5までの時間は、ガス流入時間Δtとして求められる。ガス流入時間Δtは、上記の所定時間として予め設定されたものであってよい。ただし、目標となる圧力PAが設定されている場合には、ガス流入時間Δtは、圧力PAに達するまでの時間としてカウントされる。
【0037】
なお、出口側開閉弁32を閉じた直後では、断熱圧縮の影響により温度が一時的に上昇している可能性があるので、圧力PAおよび温度TAはガスの流入が収まった状態で測定することが望ましいことがある。このため、出口側開閉弁32を閉じた時刻t5から所定時間経過後のガス安定状態において上記の圧力PAおよび温度TAを測定するようにしてもよい。
【0038】
このようにして測定された、バルブ同時閉鎖後の圧力PBおよび温度TBと、流体流入後の圧力PAおよび温度TAと、ガス流入時間Δtとに基づいて、基準容積V1を求めることができる。具体的には、例えば流量制御機器である流量基準器が示す流量をQとし、気体定数をR(窒素ガスの場合、0.082)として、例えば、以下の式に従って求めることができる。
V1=760・Q・R・Δt/22.4(PA/TA-PB/TB)
ここで、単位は、V1[ml]、Q[sccm]、Δt[min]、P[Torr]、T[K]である。
【0039】
上記の式は、Δtの期間に基準容積V1に流入したガスの物質量はnA-nB=PA・V1/R・TA-PB・V1/R・TBであり、流量はQ=(nA-nB)/Δtであることに基づいて導出される。同時バルブ封止による封止圧力を用いて圧力上昇を補正して流量をより正確に求める技術が、本願出願人による特許文献3(WO2018/147354号)に開示されている。本実施形態における容積V1を求める工程も、流量Qを求めるのではなく既知の流量Qから容積V1を求めることを除いては、特許文献3に記載の方法と同様の手順で行うことができる。
【0040】
なお、上記には、同時封鎖時の圧力PB、温度TBを測定する工程の後に、ガス流入後の圧力PA、温度TAを測定する態様を説明したが、これに限られない。圧力PA、温度TAの測定の後に、圧力PB、温度TBを測定するようにしてもよい。
【0041】
このようにして出口側開閉弁32から流量測定装置10までの基準容積V1を求める工程が行われた後、時刻t6に両バルブが開かれて定常流でガスが流れる状態となる。
【0042】
次に、
図4に示すようにして、流量測定装置10の内部容積V2(上流側開閉弁12と下流側開閉弁14との間の容積)の測定が行われる。恒温槽36の温度は、最初に設定した温度のまま維持されている。
【0043】
図4に示すように、流量測定装置10の内部容積V2を測定する工程では、まず、出口側開閉弁32(V34)、上流側開閉弁12(V12)および下流側開閉弁14(V14)を開放した状態で不活性ガス供給源31から流量測定装置10の下流側まで定常流でガスが流される。
【0044】
次に、時刻t7において、上流側開閉弁12(V12)が閉じられる。これによって、出口側開閉弁32と上流側開閉弁12との間の流路のガス圧力が上昇し、この流路におけるガスの物質量が時間と共に増加する。一方で、下流側開閉弁14は開かれたままであるので、上流側開閉弁12の下流側は真空ポンプ38によって真空引きまたは排気される。その結果、上流側開閉弁12と下流側開閉弁14との間のガスの圧力および物質量はゼロに近づく。
【0045】
その後、時刻t8において、上流側開閉弁12を閉じたままの状態で出口側開閉弁32が閉じられる。これによって、出口側開閉弁32と上流側開閉弁12との間の流路(上記の基準容積V1)には、一定の物質量または圧力のガスが封止される。封止後のガスの圧力は、時刻t7から時刻t8までの時間を変更することによって、任意に設定することができる。
【0046】
その後、安定状態において、圧力(第1圧力)P1および温度(第1温度)T1を、流路内圧力センサ34および流路内温度センサ35を用いて測定する。測定した第1圧力P1および第1温度T1に基づいて、既知の基準容積V1に溜まったガスの物質量を求めることが可能である。
【0047】
次に、時刻t9において、下流側開閉弁14を閉じる。このとき、真空引きが続けられていた上流側開閉弁12と下流側開閉弁14との間の空間のガスの物質量は、ゼロと見なすことができる。
【0048】
その後、時刻t10において、出口側開閉弁32および下流側開閉弁14を閉状態に維持したまま、上流側開閉弁12を開放する。これにより、上流側開閉弁12を介して下流側開閉弁14にまでガスが流れ込む。そして、安定状態において、このときの圧力(第2圧力)P2および温度(第2温度)T2が測定される。圧力P2および温度T2の測定は、典型的には、流路内圧力センサ34および流路内温度センサ35によって行われるが、流量測定装置10内の圧力センサや温度センサを用いることもできる。
【0049】
上記の2状態におけるガスの物質量は同じであり、ボイル・シャルルの法則に基づけば、下記の関係式が成り立つ。
P1V1/T1=P2(V1+V2)/T2
【0050】
そして、上記式においてT1=T2と仮定すると、下記の式が得られる。
V2=V1(P1-P2)/P2
【0051】
以上のことから、基準容積V1、第1圧力P1、第2圧力P2に基づいて、流量測定装置10の内部容積V2を求めることができる。求められた内部容積V2は、環境温度(恒温槽36の設定温度)と対応付けて、流量測定装置10内のメモリに格納される。
【0052】
なお、上記にはT1=T2と仮定してV2を求める式を記載したが、流路内温度センサ35が設けられている場合、温度の項も含めてV2を求めてもよい。この場合、V2=V1(P1・T2-P2・T1)/P2・T1に基づいてV2を求めることができる。
【0053】
以上のような方法で、測定システム30を用いて流量測定装置10の内部容積V2を求めることができるが、上記と同様の手順を、恒温槽36の設定温度を変更して、他の温度についても行う。これにより、複数の環境温度に対応付けられた複数の内部容積V2が求められ、これらは全て流量測定装置10内のメモリに格納される。
【0054】
なお、複数の流量測定装置10について内部容積V2の測定を行う場合、基準容積V1は、必ずしも流量測定装置10ごとに求める必要はなく、一度求めてしまえば測定システム30における既知の基準容積V1として利用することができる。この場合、他の流量測定装置10の内部容積V2を測定するときには基準容積V1を測定する工程を省略することができる。
【0055】
また、上記には一例として3つの環境温度20℃、30℃、40℃のそれぞれについて内部容積V2を求めておく態様を説明したが、本発明の実施形態はこれに限られるものではない。2つ以上の任意の数の任意の環境温度に関連付けられた複数の内部容積を測定し、複数の内部容積を用いることによって、環境温度に依存して発生する流量測定の誤差を低減し得る。また、2つの温度T1、T2について内部容積V21、V22がそれぞれ設定されていると仮定したとき、測定した環境温度がT1とT2の間であった場合には、座標(T1、V21)と座標(T2、V22)とを結ぶ直線式に、測定温度を代入することによって、適切な内部容積を得ることができる。
【0056】
このように、温度状況の変化によって変動する流量測定器内の容積を複数、特に3点以上で測定することで、温度変化に伴う容積をより正確に測定することが可能である。通常、温度変化による容積の変化は2点計測でグラフを描けば足りると考えられるが、本発明者の実験により、器差の影響によって3点計測した場合に3点が直線で結ばれないことがあることがわかった。このため、20℃、30℃、40℃などの3点あるいはそれ以上の点で容積計測しておき、例えば25℃での容積は20℃と30℃の計測データから演算するようにし、35℃での容積は30℃と40℃の計測データから演算するようにすれば、より正確な内部容積を算出することが可能である。
【0057】
上記の環境温度ごとに流量測定装置10の内部容積V2を求めてメモリに格納する工程はコンピュータを用いて自動化プロセスにより実行することができる。
【0058】
図5は、内部容積測定の例示的なフローチャートを示す。
図5に示すように、まず、ステップS1において、測定システム30内の流路の真空引きするとともに、恒温槽を第1設定温度(ここでは20℃)に設定する。真空引きは、例えば、5時間にわたって行われる。次に、ステップS2において真空下で流路内圧力センサ34のゼロ点補正が行われる。
【0059】
次に、ステップS3において、
図3に示した手順に従って基準容積V1が測定され、その後、ステップS4において、
図4に示した手順に従って流量測定装置10の内部容積V2が測定される。基準容積V1および内部容積V2の測定は、ステップS5において、測定回数が3回に達するまで行われる。
【0060】
次に、ステップS6において、3回の測定結果を平均することにより内部容積V2が決定され、ステップS7において、流量測定装置10に備えられたメモリに、温度と関連付けられた内部容積V2が記録される。
【0061】
これらの工程は、ステップS8において、予め設定された温度(例えば、20℃、30℃、40℃の第1~第3の3つの設定温度)の全てについて行われたことが確認されるまで、恒温槽の温度を他の設定温度に変更して繰り返される。その結果、流量測定装置10に備えられたメモリには、複数の温度に関連づけられた複数の内部容積V2が記録され、測定フローは終了する。
【0062】
図6は、環境温度が27℃、35℃、40℃のときの流量測定装置10の内部容積の測定値とビルドアップ圧力(封止圧力)との関係を示すグラフである。
図6からわかるように、温度によって容積値は異なり、高温であるほど、流量測定装置の内部容積も大きくなる傾向があることが分かる。本実施形態では、実際の環境温度に適合する内部容積を用いて流量測定を行うので、精度を向上させることができる。
【0063】
また、
図6に示されるように、封止圧力(ビルドアップ圧力)が大きくなるほど、流量測定装置の内部容積が大きくなる。これは、ビルドアップ圧力が大きいほど、圧力センサのダイアフラムの変形量が大きくなり、結果として、内部容積が拡張されるためであると考えられる。ビルドアップ圧力に基づいて内部容積を補正する技術が、本出願人によるPCT/JP2019/27880号に開示されている。したがって、測定した環境温度に基づいて適切な内部容積を決定するとともに、ビルドアップ圧力に基づいて内部容積を補正するようにすれば、より正確に流量を測定するための内部容積V2を決定することが可能である。
【0064】
以下、再び
図1を参照して、流量測定装置10を用いた流量測定方法の一例を説明する。流量制御器3は、流体システム1に組み込まれた後、流量制御特性が変化したり、また、長年の使用によって絞り部の形状が変化して上流圧力と流量との関係性が変化する場合があるが、流量測定装置10を用いてビルドアップ法により任意のタイミングで流量を精度よく測定できるので、流量制御器3の精度を保証することができる。
【0065】
まず、ビルドアップ容量Vを求めるために、流量測定装置10の上流側の流路の容積V0が求められる。容積V0は、今度は内部容積V2を既知の基準容積として用いることによって、上記の測定システム30において内部容積V2を求めたときと同様の方法によって求めることができる。すなわち、ガスの2つの封止状態(第1バルブ4から上流側開閉弁12までの空間に封止された状態と、その後、下流側開閉弁14を閉じる共に上流側開閉弁12を開くことにより第1バルブ4から下流側開閉弁14までの空間に封止された状態)における、ガス圧力およびガス温度の測定により、ボイル・シャルルの法則から、既知の内部容積V2に基づいて容積V0を演算により求めることができる。なお、容積V0は、他の態様において、既知の正確な流量Qで流量制御器3を介して流量測定装置10の下流までガスを流している状態から、下流側開閉弁14を閉じてビルドアップを行い、そのときの圧力上昇率等の測定結果に基づいて求められてもよい。
【0066】
このとき、図示しない環境温度センサによって流体システム1の環境温度が測定され、環境温度に応じた内部容積V2がメモリから読み出される。したがって、リアルタイムな環境温度に対応したビルドアップ容量V(=V0+V2)が計算される。
【0067】
ビルドアップ容量Vが求められた後は、公知の種々のビルドアップ法を利用して、流量測定を行うことが可能である。例えば、特許文献3に記載のように、測定対象の流量制御器3によって制御されたガスが流れている定常流状態から、第1バルブ4および下流側開閉弁14を同時に閉鎖したときの圧力PBおよび温度TBと、同じ定常流状態から下流側開閉弁14だけを閉鎖し、ビルドアップ時間(ガス流入時間)Δtだけガスを流入させた後の圧力(ビルドアップ圧力)PAおよび温度TAとから、下記の式に従って流量Q[sccm]を求めることができる。
Q=22.4・(V0+V2)・(PA/TA-PB/TB)/(R・Δt)
【0068】
上記のようにして流量測定を行う際にも、環境温度に適合する内部容積V2(およびビルドアップ容量V)が用いられているので、向上した精度で流量測定を行うことができる。流量測定装置10によって求めた流量は、流量制御器3を校正するために用いられる。
【0069】
校正の対象となる流量制御器3は、特に限定するものではないが、本実施形態では、
図7に示す周知の圧力式の流量制御器3が用いられる。この流量制御器3は、微細開口(オリフィス)を有する絞り部41と、絞り部41の上流側に設けられたコントロールバルブ44と、絞り部41とコントロールバルブ44との間に設けられた圧力センサ42及び温度センサ43とを備えている。絞り部41としては、オリフィスプレート、臨界ノズルまたは音速ノズルなどを用いることもできる。オリフィスまたはノズルの口径は、例えば10μm~500μmである。コントロールバルブ44としては、ピエゾ素子駆動型バルブが用いられる。圧力センサ42及び温度センサ43は、ADコンバータを介して制御回路45に接続されている。制御回路45は、コントロールバルブ44にも接続されており、圧力センサ42及び温度センサ43の出力などに基づいてコントロールバルブ44の動作を制御する。
【0070】
流量制御器3では、臨界膨張条件PU/PD≧約2(ただし、PU:絞り部上流側のガス圧力(上流圧力)、PD:絞り部下流側のガス圧力(下流圧力)であり、約2は窒素ガスの場合)を満たすとき、流量Qは下流圧力PDによらず上流圧力PUによって決まるという原理を利用して流量制御が行われる。臨界膨張条件を満たすとき、絞り部下流側の流量Qは、Q=K1・PU(K1は流体の種類と流体温度に依存する定数)によって与えられる。また、下流圧力センサを備える場合、臨界膨張条件を満足しない場合であっても、測定された上流圧力PUおよび下流圧力PDに基づいて、Q=K2・PD
m(PU-PD)n(ここでK2は流体の種類と流体温度に依存する定数、m、nは実際の流量を元に導出される指数)から流量Qを算出することができる。
【0071】
流量制御を行うために、設定流量が制御回路45に入力され、制御回路45は、圧力センサ42の出力などに基づいて、上記の式に従って流量Qを演算により求め、この流量が入力された設定流量に近づくようにコントロールバルブ44をフィードバック制御する。演算により求められた流量は、流量出力値として外部のモニタに表示されてもよい。
【0072】
圧力式の流量制御器3は、長期間の使用により、絞り部41に詰まりが生じたりすることなどが原因で、圧力と流量との関係性(定数K1など)が変化することがある。これに対して、本実施形態の測定精度が向上した流量測定装置10を用いて実際の流量を測定し、この測定結果に基づいて流量制御器3を校正することによって、流量制御器3を組み込んだまま、流量制御を継続的に適切に実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の実施形態にかかる流量測定装置内の容積測定方法は、例えば、流体システムに組み込まれてビルドアップ方法を用いて流量測定を行う装置において必要となる、装置内部の容積の測定のために好適に利用される。
【符号の説明】
【0074】
1 流体システム
2 ガス供給源
3 流量制御器
4 第1バルブ
5 第2バルブ
6 第3バルブ
7 プロセスチャンバ
8 真空ポンプ
10 流量測定装置
11 真空ポンプ
12 上流側開閉弁
14 下流側開閉弁
16 圧力センサ
18 温度センサ
20 演算制御部
30 測定システム
31 不活性ガス供給源
32 出口側開閉弁
34 流路内圧力センサ
35 流路内温度センサ
36 恒温槽
38 真空ポンプ
V1 基準容積
V2 内部容積