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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】静電吸着体
(51)【国際特許分類】
   B65H 5/00 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
B65H5/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020534731
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030145
(87)【国際公開番号】W WO2020027246
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018145547
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591012266
【氏名又は名称】株式会社クリエイティブテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 大樹
(72)【発明者】
【氏名】辰己 良昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 信介
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-244148(JP,A)
【文献】特開2005-191515(JP,A)
【文献】国際公開第2005/091356(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090782(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165250(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/001978(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/00
H01L 21/68
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物を静電吸着力で吸着する静電吸着体であって、厚さ20~200μmの絶縁体、厚さ1~20μmの電極層、及び厚さ20~200μmの樹脂フィルムが順次積層された積層シートと、前記電極層に電圧を印加する電源装置とを備えて、少なくとも前記樹脂フィルムの引張弾性率が1MPa以上100MPa未満であると共にその体積抵抗率が1×1010~1013Ω・cmであり、また、前記電極層は正電極及び負電極を有する双極型電極からなり、当該電極層に電圧が印加されて発生する静電吸着力により、前記樹脂フィルムを吸着面として、被吸着物を吸着することを特徴とする静電吸着体。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが、軟質ポリ塩化ビニルからなる請求項1に記載の静電吸着体。
【請求項3】
前記双極型電極からなる電極層が、一対の櫛歯状電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電吸着体。
【請求項4】
前記双極型電極からなる電極層は、一対の櫛歯状電極の櫛歯どうしが互いに一定の間隔を保ちながら同一平面で噛み合って形成されており、各櫛歯の幅が0.5~20mmであって、また、前記櫛歯どうしの間隔が0.5~10mmであることを特徴とする請求項3に記載の静電吸着体。
【請求項5】
少なくとも、被吸着物との吸着面が曲面を有していることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の静電吸着体。
【請求項6】
吸着面の面積が、被吸着物の面積よりも小さいことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の静電吸着体。
【請求項7】
被吸着物が、シート状絶縁物であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の静電吸着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気的吸着力を利用して被吸着物をできる静電吸着体に関するものであり、詳しくは、紙や布などのシート状の絶縁物についても吸着を可能とする静電吸着体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙や布などのシート状の被吸着物を把持・搬送する手段がいくつか報告されており、特に、複数枚積まれた布等から一枚ずつ剥離・把持・搬送する手段が報告されている。例えば、被吸着物の保持部として粘着テープを使用しながらもその吸着面を工夫したものや(特許文献1を参照)、ローラーの表面に複数本の引っ掛け針を有した引っ掛けローラーを用いたものや(特許文献2を参照)、把持部としてこれら粘着テープや針や或いは空気の負圧を利用すると共に、積まれた布等に空気を吹きかけて剥離を工夫した方法(特許文献3を参照)が報告されている。しかしながら、特許文献1のような粘着テープによる方法では粘着力が弱くなるとともに交換が必要となってコスト高となり、また、粘着テープから被吸着物を剥離する際にも工夫が必要となる等の問題がある。また、特許文献2のような針を用いて引っ掛けて把持する方法では、被吸着物を損傷する恐れがあって好ましくなく、さらには、特許文献3の方法のように被吸着物の把持や剥離に負圧又は圧縮の空気を用いた方法では、被吸着物に吸着痕が残るといった問題に加えて、コンプレッサーが必要となって装置が大型化する等の問題を有していた。
【0003】
一方で、上記のような方法とは別に、特に、布等の空気漏れが生じるシート状の搬送物を把持・搬送する方法として、把持部を帯電させてその静電気力を利用する方法が報告されている(特許文献4を参照)。特許文献4によれば、併用する帯電装置(帯電ガン)から電子又はイオンを照射して、把持部(第一把持片17)や被吸着物(搬送物101)を帯電させる方法や、或いは、把持部(第一把持片17)として静電チャック等を利用することが報告されている。
【0004】
ところで、被吸着物を電気的な吸着力によって吸着させるものとして、従来から、静電チャックが使用されている。静電チャックは、半導体基板やガラス基板を処理する際の吸着・保持のために好適に使用されており、通常は、電極を上下方向からそれぞれ誘電体で挟み込む構造を備え、吸着原理に応じて電極に電圧を印加することで、一方の誘電体の表面を吸着面として被吸着物を吸着できるものあり、場合によっては加熱手段を備えたり、或いは、冷媒を流す管路を備えた金属製のベースと一体に接着されたりした構造を有するものである。また、このような半導体基板等を処理する静電チャックのほかにも、本願の発明者らは、静電チャックの電気的な吸着の構造・原理を応用した静電吸着構造体を提案している。
【0005】
例えば、特許文献5には、2つの誘電体の間に電極が挟み込まれた複数のシート部材を積層させ、電極間に電圧を印加することで、部材どうしを吸着固定できると共に、他の吸着面には紙や樹脂シートなどの展示・掲示物等を吸着させることができ、使用後には電圧の印可を切ることで、シート部材どうしや被吸着物を容易に分離できるような、構成変更の利便性の高い静電吸着構造体が提案されている。また、例えば、特許文献6には、2つの絶縁層の間に吸着電極を挟み込んだ静電チャックの表面を着脱手段として、これにフィルム状の太陽電池を取り付けることにより、設置場所の選択性や着脱性が良い発電装置が提案されている。これら特許文献5の静電吸着構造体や特許文献6の発電装置は、静電チャックの吸着原理を使用して着脱性が良く、また、薄くて取り扱い性に工夫されたものであるものの、本願の発明者らの事前の検討によれば、特許文献5に記載された静電吸着構造体や特許文献6に記載された発電装置のようなこれまで報告されてきた静電チャックにおいては、誘電層(絶縁体)として使用されているポリイミドフィルムやポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムの体積抵抗率が1×1017Ω・cm程度と高く、クーロン力で被吸着物を吸着しているとの推測から、特に、絶縁性が高い布に対しては必ずしも強い吸着力を発現できないことを知見した。
なお、本願の出願人は、上記以外の静電チャックに係る発明として、特許文献7や特許文献8に記載された技術も提案している。ここで、特許文献7については、その段落0066(試験例4)及び図26において、体積抵抗率をポリイミドが持つ1×1014Ω・mから1×108Ω・m付近まで減らした場合における時定数及び抵抗の変化を示すグラフが記載されているが、これはあくまで、同文献の段落0041で課題としている静電チャックの時定数の低減(試料吸着面からの試料のはがし取りにくさの解消)を想定した場合における数値シミュレーションであって、実際のポリイミドフィルムがこのような低い体積抵抗率を採り得ることはない。また、一般的にポリイミドは3GPa程度の高い引張弾性率を有するものであって被吸着物への形状追従性に乏しいことから、上記のとおり、被吸着物の吸着面に誘電層(絶縁体)としてのポリイミドフィルムを使用した場合には、絶縁性が高い布等のシート状の吸着物に対して高い吸着力は発現され難い。また、特許文献8については、その段落0028の記載において、ワーク処理装置を構成する材料として弾性率が0.5MPa以上10MPa以下の樹脂材料を用いることが記載されているが、この樹脂材料はあくまで同文献に記載のワーク加熱装置におけるヒーター部材とベース基盤との吸着固定のための作用を期待した「吸着シート」の役割を担うものであって、依然として、絶縁性が高い布等のシート状の吸着物を吸着するために、被吸着物の吸着面の誘電層(絶縁体)としての使用態様を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-244830号公報
【文献】特開平6-178883号公報
【文献】特開平7-68066号公報
【文献】特開2014-30887号公報
【文献】WO2011/001978号公報
【文献】WO2012/128147号公報
【文献】WO2005/091356号公報
【文献】WO2012/090782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の静電チャックでは、特に、布などの絶縁性が高いシート状の被吸着物に対して十分な吸着力の発現が難しいといった状況のもと、本願の発明者らが鋭意検討した結果、少なくとも被吸着物に対する吸着面には、特定の引張弾性率を有すると共に特定の体積抵抗率を有する樹脂フィルムを採用し、これを他の絶縁体とともに電極層を挟み込んで積層した積層シートとし、電極層に電圧を印加できるような電源装置と共に用いた簡便な静電吸着体の構成とすることで、布などの絶縁性が高いシート状の被吸着物に対しても強い吸着力を発現できることを知見して、本発明を完成させた。さらに本願の発明者らは、上記のような静電吸着体の構成とすることに加えて、当該静電吸着体の形状等を工夫することによって、当該シート状の被吸着物を一枚ずつ確実に吸着(剥離)させることができることについても知見した。
【0008】
従って、本発明の目的は電気的吸着力を利用して、特に、布などの絶縁性が高いシート状の被吸着物に対して高い吸着力を発現できる静電吸着体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]被吸着物を静電吸着力で吸着する静電吸着体であって、厚さ20~200μmの絶縁体、厚さ1~20μmの電極層、及び厚さ20~200μmの樹脂フィルムが順次積層された積層シートと、前記電極層に電圧を印加する電源装置とを備えて、少なくとも前記樹脂フィルムの引張弾性率が1MPa以上100MPa未満であると共にその体積抵抗率が1×1010~1013Ω・cmであり、また、前記電極層は正電極及び負電極を有する双極型電極からなり、当該電極層に電圧が印加されて発生する静電吸着力により、前記樹脂フィルムを吸着面として、被吸着物を吸着することを特徴とする静電吸着体。
[2]前記樹脂フィルムが、軟質ポリ塩化ビニルからなる[1]に記載の静電吸着体。
[3]前記双極型電極からなる電極層が、一対の櫛歯状電極であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の静電吸着体。
[4]前記双極型電極からなる電極層は、一対の櫛歯状電極の櫛歯どうしが互いに一定の間隔を保ちながら同一平面で噛み合って形成されており、各櫛歯の幅が0.5~20mmであって、また、前記櫛歯どうしの間隔が0.5~10mmであることを特徴とする[3]に記載の静電吸着体。
[5]少なくとも、被吸着物との吸着面が曲面を有していることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の静電吸着体。
[6]吸着面の面積が、被吸着物の面積よりも小さいことを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の静電吸着体。
[7]被吸着物が、シート状絶縁物であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の静電吸着体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気的吸着力を利用しながら、特に、布などの絶縁性が高いシート状の被吸着物に対して高い吸着力を発現できる静電吸着体を提供することができる。このように電気的吸着力によって吸着・固定させることができるようになることから、粘着テープや針などの物理的な手段を用いることなく、簡便且つ確実に布などのシート状の被吸着物を吸着・把持することが可能となり、コスト性も良い。そして、本発明の技術を利用することにより、例えば、ロボットに搭載することで縫製工場での縫製作業の効率化による衣製品の生産性向上が可能となって、例えば、アパレル等の分野・業界への展開が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1に係る静電吸着体(積層シート)で使用された双極型電極(以下、これを「平板状」と呼ぶ場合がある。)を説明するための模式図であり、(i)は平面図であり、(ii)はX-X断面における断面説明図である〔図中の数値は、各電極幅が30mm、電極の間隔(ピッチ)が2mmであることを示すものである〕。
図2図2は、実施例2に係る静電吸着体(積層シート)で使用された双極型電極(以下、これを「櫛歯状」と呼ぶ場合がある。)を説明するための平面図である〔図中の数値は、各櫛歯の幅(電極幅)が10mm、電極の間隔(ピッチ)が2mmであることを示すものである〕。
図3図3は、実施例で行った静電吸着体の吸着性の評価方法を説明するための説明写真である。図中の白矢印は水平方向を示す。
図4図4は、試験例18~19における吸着性の評価を説明するための模式図であり、(i)は試験例18の吸着状態を示し、(ii)は試験例19の吸着状態を示すものである。
図5図5は、試験例20~21における吸着性の評価を説明するための模式図であり、(i)は試験例20の吸着状態を示し、(ii)は試験例21の吸着状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の静電吸着体は、図1に示されるように、少なくとも、被吸着物に対する吸着面となる樹脂フィルムと、電極層と、絶縁体とが順次積層されて、電極層が、樹脂フィルムと絶縁体とに挟み込まれてなる積層シートを形成し、また、電極層に電圧を印加する電源装置(図示外)とを備える。また、図1及び2に示されるように、電極層として、正電極及び負電極を有する双極型電極を備える。以下、各構成について詳しく説明する。
【0013】
<樹脂フィルム>
本発明の静電吸着体において、被吸着物との吸着面に使用される樹脂フィルムは、その体積抵抗率が1×1010~1013Ω・cmであることが必要である。後述の実施例で示される通り、この吸着面となる樹脂フィルムの体積抵抗率が1×1013Ω・cmを超えると、被吸着物に対する吸着力が低下して、例えば、被吸着物の自重でも落下するようになる。一方で、体積抵抗率が1×1010Ω・cm未満であると、被吸着物に作用する静電吸着力自体は大きくなると推測されるものの、吸着面と被吸着物との間に漏れ電流が生じて紙や布などの繊維(被吸着物)へダメージを与えてしまう可能性があることから、好ましくない。好ましくは、吸着力の発現や安全性の側面から、当該体積抵抗率が1×1010~1012Ω・cmであることがよい。
【0014】
また、吸着面となる当該樹脂フィルムについては、その引張弾性率(ヤング率)を1MPa以上100MPa未満とすることが必要となる。その理由は、詳細な原理は定かではないものの、本願で特に吸着対象とするシート状の絶縁物は比較的薄くて柔らかいものが多いが、そのような被吸着物の形状等に追従して吸着できるようにするため、当該樹脂フィルムについては、少なくとも吸着面となる当該樹脂フィルムの引張弾性率(ヤング率)を上記の範囲とする。また、別の理由としては、後述する通り、本願で特に吸着対象とするシート状の絶縁物を一枚ずつ吸着・剥離させる場合には、本発明の静電吸着体における吸着面が曲面を有するようにロール状の形状等にすることが好適であるが、そのような形状に加工する場合においても当該引張弾性率を有することが好適となるからである。
【0015】
また、前記樹脂フィルムについては、絶縁性、柔軟性、被吸着物に対する吸着の追従性及び吸着力の確保等のため、その厚みを20~200μmとする必要があり、好ましくは、50~100μmとすることがよい。当該厚みが20μm未満である場合には絶縁破壊が起こりやすくなり、それによって樹脂フィルムにピンホールができると静電吸着体として機能しなくなる虞がある。一方で、200μmを超える場合には、被吸着物に対する吸着の追従性や柔軟性に劣るようになることや、被吸着物に対する距離が大きくなることからそれにより吸着力が低下する虞があるため好ましくない。
【0016】
そして、上記のような樹脂フィルムの具体例としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を挙げることができ、又はそれらの導電性を調整するために加工(フィラーを混ぜ込む等)されたもの等を挙げることができるが、体積抵抗率及び引張弾性率を上記の所定の範囲内にするために、ポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニルであることが好ましく、より好ましくは、軟質ポリ塩化ビニルである。
【0017】
<絶縁体>
また、本発明において、被吸着物との吸着面とは反対側に用いられる絶縁体については、前記の樹脂フィルムと同じものを用いてもよく、或いは、異なるものであってもよいが、前記樹脂フィルムを通じて被吸着物との間に流れるべき電流を当該絶縁体側へ流してしまう虞があることから、当該絶縁体については、前記樹脂フィルムの体積抵抗率と同じか、それよりも体積抵抗率が大きいものを採用することが好ましい。また、静電吸着体(積層シート)全体の柔軟性の発現の観点から、当該絶縁体の引張弾性率(ヤング率)は前記樹脂フィルムの引張弾性率(ヤング率)と同程度であることが好ましい。なお、当該絶縁体の厚みについては、20~200μmとする必要があり、好ましくは、50~100μmとすることがよいが、前記樹脂フィルムの場合と同じ理由による。
【0018】
このような絶縁体の具体例としては、限定されるものではないが、前記樹脂フィルムと同じものや、或いは、窒化アルミ、アルミナ等のセラミックスなどを用いることができるが、好ましくは、前記樹脂フィルムと同様にポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を挙げることができ、又はそれらの導電性を調整するために加工(フィラーを混ぜ込む等)されたもの等を挙げることができ、体積抵抗率及び引張弾性率を上記の所定の範囲内にするために、ポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニルであることが好ましく、より好ましくは、軟質ポリ塩化ビニルである。
【0019】
<電極層>
本発明において使用される電極層としては、仮に単極にしようとすると被吸着物の方に電極を配置する必要があるが、特に、被吸着物が布の場合はそのように配置することが不可能であることから、少なくとも、正電極及び負電極を有する双極型電極とする。その材質、形状などについては特に限定されないが、その厚みを1~20μmとする必要がある。厚みが1μm未満の場合には、静電吸着体の変形により電極層の断絶や導電性の低下が起こる虞があり、一方で、厚みが20μmを超える場合には、電極層の硬度が高くなる傾向があることから静電吸着体全体の柔軟性が阻害され、被吸着物に対する追従性に乏しくなる虞がある。材質、製法については、例えば、金属箔をそのまま用いたり、スパッタ法、イオンプレーティング法などにより成膜した金属を所定の形状にエッチングして得たりしたものでもよく、また、金属材料を溶射したり、導電性インクを印刷したりして所定の形状としたものでもよい。
【0020】
ここで、前記双極型電極の形状としては、例えば、平板状、半円状、櫛歯状やメッシュのようなパターン形状など、適宜選定することができるが、好ましくは、一対の櫛歯状電極を用いることが好ましく、より好ましくは、図2に示したように、一対の櫛歯状電極の櫛歯どうしが互いに一定の間隔を保ちながら同一平面で噛み合って形成されたものを用いることがよく、本発明で使用する被吸着物に対して吸着力をより強く発現できるようになるため好ましい。この理由としては、詳細原理は定かではないものの、本発明において特に吸着対象とする紙や布等がシート状絶縁物であることから、被吸着物が導体や半導体である場合に支配的に生ずるクーロン力が少なくなると推測されるが、これに対して、電極層として前記のような一対の櫛歯状電極を使用すると、当該シート状の絶縁物(被吸着物)との間でグラディエント力が発現して、一般的な正電極及び負電極からなる平板状の双極型電極を使用した場合よりも、強い吸着力を発現できることを確認している。
【0021】
そして、本発明の双極型電極について、上記のように、一対の櫛歯状電極の櫛歯どうしが互いに一定の間隔を保ちながら同一平面で噛み合って形成する場合には、好ましくは、各櫛歯の幅(電極幅)が0.5~20mmであって、また、前記櫛歯どうしの間隔(ピッチ)が0.5~10mmであることがよく、より好ましくは、各櫛歯の幅(電極幅)が1~10mmであって、また、前記櫛歯どうしの間隔(ピッチ)が1~2mmとなるようにする。各櫛歯の幅(電極幅)を1mm以上とすることで電極の加工性が向上し、一方で、当該幅を10mm以下とすることにより吸着力の低下を抑えることができるため好ましい。また、櫛歯どうしの間隔(ピッチ)を1mm以上とすることにより電極間での放電を抑制することに寄与し、一方で、当該間隔を2mm以下とすることにより吸着力の低下を抑えることができるため好ましい。すなわち、このような各櫛歯の幅(電極幅)及び櫛歯どうしの間隔(ピッチ)として形成することにより、吸着力、電極の加工性、及び使用時の安全性等を確保できるようになるため好ましい。
【0022】
<積層シート>
そして、このような樹脂フィルム、電極層及び絶縁体を使用して、これらを積層して積層シートとする。電極層が露出しないように樹脂フィルムと絶縁体とに挟み込む必要があり、具体的な方法としては、これら樹脂フィルム、電極層及び絶縁体を順次積層させて、熱と圧力を加えて、融着させる方法が挙げられる。もしくは、必要に応じてボンディングシートや接着剤もしくは粘着剤を介して接着させてもよい。ただし、静電吸着体を変形及び伸縮させたとき、接着層に別の素材が挿入されていると、変形及び伸縮を阻害したり、接着面の剥離が起こったりする虞があるため、フィルムの熱可塑性によって融着させる方法が好ましい。
【0023】
ここで、当該積層シートについては、樹脂フィルム、電極層及び絶縁体を積層した平板状のものをそのまま使用するか、或いは、被吸着物の状態に応じて形状などを適宜変更してもよい。具体的には、本発明で吸着対象とするシート状の絶縁物が複数枚重ねられていて各シート(被吸着物)どうしの密着性が強いような場合には、一枚ずつ剥離することが難しい場合があることから、最表面の一枚目だけを確実に吸着して剥離させることが求められる。このことについて、本願の発明者らが検証した結果、図4の(i)に示したように、本発明の静電吸着体(積層シート)の吸着面が曲面となるようにロールの形状としてこれを被吸着物の表面で転がすことにより、被吸着物を一枚ずつ剥離する(めくり上げる)動作に近付けられることが分かった。一方で、静電吸着体(積層シート)が平板状などであってその吸着面が平坦なままであっても、図5の(ii)に示すように、当該吸着面の面積が被吸着物の面積よりも小さくするようにして、静電吸着体(積層シート)の外周側から二枚目以降の被吸着物に及ぼす吸着力の影響を可及的に排除することが好適であることを知見した。前者については、例えば、静電吸着体(積層シート)の吸着面側の曲率半径Rが25mm程度となるように曲げることが好ましく、このような曲面(曲部)が形成されれば、それ以外の形状は特に限定されない。また、後者については、当該吸着面の面積が、被吸着物の面積の80%程度にすることが好ましい。
【0024】
<電源装置>
前記のように積層シートを形成した後には、電極層に電圧を印加して電気的吸着力を発生させるための電源装置が必要となる。電源装置は前記積層シートの電極層と接続端子およびスイッチ(いずれも図示外)を介して接続させることができて、一般的な静電吸着構造体で使用されるものと同様なものを用いることができ、直流の高電圧を発生できるものであればよい。発生させる電位差は±100~±5000V程度とすることができ、必要に応じて、必要な電圧まで昇圧させることができる昇圧回路(高電圧発生回路)を備えるようにしてもよい。
【0025】
前記のような積層シート及び電源装置を備えるようにして本発明の静電吸着体とする。本発明の静電吸着体は、必要に応じて、センサー等が別途設けられてもよく、また、例えば、電極層のパターンの変更等、本発明の目的の範囲で適宜構成の変更及び追加などが行われてもよい。
【0026】
なお、本発明において吸着対象となる被吸着物としては、導電体はもちろんのこと、特に、グラディエント力を介して吸着することが求められるもののうち、シート状であって絶縁性が高い紙や布や樹脂フィルムを対象とするが、これに限定されるものではない。シート状の絶縁物としては、好ましくは、その各厚みが0.1~0.5mm程度であって、絶縁性を示す体積抵抗率が1012~1014Ω・cm程度のものを特に対象とする。
【実施例
【0027】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
【0028】
[実施例1]
<静電吸着体の作製(平板状電極)>
先ず、電極層となる銅箔(厚み:18μm)の片面側に両面カプトン(登録商標)テープ〔株式会社寺岡製作所、商品名:カプトン(登録商標)両面テープ760H〕を貼付けた。次いで、このうちの銅箔部分のみをカッティングプロッター(グラフテック株式会社、商品名:FC2250―180VC)で、図1に示すように2枚の電極〔各電極幅30mm(長さ60mm)、及び電極の間隔(ピッチ)2mm〕に切り出して電極パターンを形成して電極シートとした後に、当該電極シートの銅箔面とは反対の面にベース基材となる絶縁体(株式会社キヌガワ、商品名:グラフォーム GF-5)を貼り合わせた。不要な部分の銅箔を取り除いた後、銅箔面側に樹脂フィルムである軟質ポリ塩化ビニルフィルム〔体積抵抗率:1×1010Ω・cm(後述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):20~30MPa、厚み100μm〕をラミネーター及びローラーを用いて貼付けて、電極層(銅箔)を前記絶縁体及び樹脂フィルムに挟み込んでなる双極型の積層シートとして得た。
【0029】
このようにして作製した積層シートに対して、電源装置〔高電圧発生装置(±2000V出力)、給電ケーブル及び24V電源からなる電源装置〕を取り付けて実施例1に係る静電吸着体とした。
【0030】
<静電吸着体の吸着性評価>
前記作製した実施例1に係る静電吸着体に±2kVの電圧を印加し、その吸着面(樹脂フィルム側)に、被吸着物として4種類の試験片〔コピー用紙(上質紙、厚み:0.092mm程度)、ポリエステル(PE)100%の布片(厚み0.47mm程度)、綿100%の布片1(以下、これを「綿1」と記載する。手芸用の柄が印刷された固い生地、厚み0.24mm程度)、綿100%の布片2(以下、これを「綿2」と記載する。下着用の柔らかい生地、厚み0.32mm程度)を、それぞれ載せて吸着させた。当該試験片に予め取り付けたループ状の引っ掛け部分(ナイロン製)に対して、プッシュプルゲージ(日本電産シンポ株式会社製商品名:デジタルフォースゲージ FGJN-5)のフックを引っ掛けた後、プッシュプルゲージを水平方向に引っ張って、その測定結果を各試験片に対する吸着力(単位:gf/cm2)とした。その様子を図3に示し、また、結果を以下の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、上記実施例1における軟質ポリ塩化ビニルフィルムの体積抵抗率については、二重リング電極法(IEC60093、ASTM D257、JIS K6911、JIS K6271)により測定し、後述する実施例2~3及び比較例1~2で使用した各樹脂フィルムの体積抵抗率についても同じ方法で測定した。
【0033】
[実施例2]
電極層として、図2に示すような同一面上に一対の櫛歯を噛み合わせてなる櫛歯状電極〔各櫛歯の幅(電極幅)10mm、電極の間隔(ピッチ)2mm〕を用いた以外は、前記実施例1と同様にして実施例2に係る静電吸着体を作製し、また、同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0034】
[実施例3]
電極層として、前記実施例2と同じように櫛歯状電極として、その各櫛歯の幅(電極幅)を10mm、電極の間隔(ピッチ)を5mmにした以外は、前記実施例2と同様にして実施例3に係る静電吸着体を作製し、また、同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0035】
[比較例1]
被吸着物の吸着面となる樹脂フィルムとして、ポリイミドフィルム〔東レ・デュポン株式会社製商品名:カプトン(登録商標)H、体積抵抗率:1×1017Ω・cm(前述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):3×103MPa、厚み50μm〕を用い、また、電極層として、実施例1と同じような平板状の双極型電極〔電極幅60mm(長さ110mm)及び電極の間隔(ピッチ)2mm〕を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例1に係る静電吸着体を作製し、また、同じようにしてその吸着性の評価を行った。結果は表1に示す通りである。
【0036】
[比較例2]
被吸着物の吸着面となる樹脂フィルムとして、ポリイミドフィルム〔東レ・デュポン株式会社製商品名:カプトン(登録商標)H、体積抵抗率:1×1017Ω・cm(前述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):3×103MPa、厚み50μm〕を用い、また、電極層として、実施例2と同じような櫛歯状の双極型電極〔各櫛歯の幅(電極幅)0.7mm、電極の間隔(ピッチ)0.7mm〕を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例2に係る静電吸着体を作製し、また、同じようにしてその吸着性の評価を行った。結果は表1に示す通りである。
【0037】
[試験例1~12(電極幅による吸着力の測定)]
電極層として実施例2のような櫛歯状電極を用いて、その各電極の間隔(ピッチ)を2mmに固定しながら、各櫛歯の幅(電極幅)を各々1mm~30mmに変更した以外は、前記実施例2と同様にして試験例1~12の各々の静電吸着体を作製し、また、同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表2に示した通りである。なお、前記実施例2と同じ電極幅及びピッチを有する電極層を用いて行った試験例10において、その吸着力(gf/cm2)の結果が前記実施例2の場合と異なった理由としては、実験日が異なったために測定した際の温湿度が影響しているものと推察される。
【0038】
【表2】
【0039】
[試験例13~17(電極ピッチによる吸着力の測定)]
電極層として実施例2のような櫛歯状電極を用いて、その各櫛歯の幅(電極幅)を10mmに固定しながら、電極の間隔(ピッチ)を1mm~5mmに変更した以外は、前記実施例2と同様にして試験例13~17の各々の静電吸着体を作製し、また、同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表3に示した通りである。なお、前記実施例2や試験例10と同じ電極幅及びピッチを有する電極層を用いて行った試験例14において、その吸着力(gf/cm2)の結果が前記実施例2や試験例10の場合と異なった理由としては、実験日が異なったために測定する際の温湿度が影響しているものと推察される。
【0040】
【表3】
【0041】
[試験例18~19(静電吸着体の形状による吸着性の比較)]
前記実施例2で作製した静電吸着体を2つ準備し、そのうちの1つを、図4(i)のように吸着面の曲率半径Rが25mm程度の曲面となるように折り曲げ、これを、被吸着物である複数枚積まれたポリエステル(PE)100%の布片(210mm×297mm、厚み0.047mm程度)の最表面を転がるように接触させた際において、最表面の1枚目だけが吸着されて剥離されるか否か、その成功率を確認した(試験例18)。他の一方は、図4(ii)の通り吸着面を折り曲げずにそのまま使用した(試験例19)。印可電圧は±2kVとし、それぞれ20回試行した。
結果は、静電吸着体の吸着面を曲面とした試験例18については、最表面の布片だけが吸着・剥離される確率が80%であったのに対して、吸着面を平面のままで使用した試験例19の場合の成功率は僅か5%に留まった。吸着面を平面のままで使用した試験例19の場合、積まれた布片の2枚目以降にも静電気力が作用してしまって、上記の成功率が極端に低下したものと推測される。
【0042】
[試験例20~21(静電吸着体の吸着面積による吸着性の比較)]
前記実施例2で作製した静電吸着体を2つ準備し、図5(i)のようにその1つはそのまま使用し(吸着面の面積:62370mm2、試験例20)、他の一方については、図5(ii)の通りその吸着面の面積が被吸着物面積の80%となるように切り出し(試験例21)、これらの静電吸着体の吸着面を、それぞれ被吸着物である複数枚積まれたポリエステル(PE)100%の布片(210mm×297mm、厚み0.47mm程度、面積:62370mm2)に吸着させた際において、最表面の1枚目だけが吸着されて剥離されるか否か、その成功率をそれぞれ確認した。印可電圧は±2kVとし、それぞれ20回試行した。
結果は、静電吸着体の吸着面の面積が被吸着物であるポリエステル布片の面積と同じ試験例20では、最表面の布片だけが吸着・剥離される確率が僅か5%であったのに対して、静電吸着体の吸着面の面積が被吸着物であるポリエステル布片の面積よりも小さい試験例21の場合の成功率は100%と優れたものであった。静電吸着体の吸着面の面積が被吸着物よりも大きい場合には、積まれた布片の2枚目以降にも静電気力が作用してしまって、上記の成功率が極端に低下したものと推測される。
【符号の説明】
【0043】
a…電極(正電極又は負電極)、b…樹脂フィルム、b’…絶縁体、c・c’…静電吸着体(積層シート)、d…被吸着物、e…プッシュプルゲージ
図1
図2
図3
図4
図5