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  • 特許-フィルム成形装置 図1
  • 特許-フィルム成形装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】フィルム成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20230323BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230323BHJP
   B29C 48/10 20190101ALI20230323BHJP
   B65H 23/188 20060101ALI20230323BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/08
B29C48/10
B65H23/188
B29L23:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019065822
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163668
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】八若 佐知
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-028972(JP,A)
【文献】特開2012-162026(JP,A)
【文献】特開平03-048105(JP,A)
【文献】特開2006-027234(JP,A)
【文献】特開2016-036918(JP,A)
【文献】特開2001-030339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 - 48/96
B29C 55/00 - 55/30
B65H 23/18 - 23/198
B65H 26/00 - 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイから溶融樹脂を押し出し、それを固化させてフィルムを成形し、成形されたフィルムを巻き取ってフィルムロール体を形成するフィルム成形装置であって、
フィルムの厚みを計測する計測部と、
前記計測部により計測されたフィルムの厚みに基づいてフィルムロール体の半径を推定する推定部と、
を備え、
前記推定部は、フィルムどうしの間の空隙を考慮してフィルムロール体の半径を推定し、フィルムがn周巻かれたフィルムロール体の凹部と当該フィルムロール体に巻かれる(n+1)周目のフィルムとの間の空隙は、当該フィルムロール体の凸部と当該(n+1)周目のフィルムとの間の空隙よりも大きいものとして半径を推定することを特徴とするフィルム成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイから溶融樹脂を押し出し、それを固化させてフィルムを成形し、フィルムを巻き取ってフィルムロール体を形成するフィルム成形装置が知られている。従来では、ダイのリップ幅を調節することにより、フィルムの厚みを目標範囲内に収める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/090694号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムを巻き取ってフィルムロール体を形成するときに、フィルムの比較的厚い部分同士がまたは比較的薄い部分同士が積み重なると、フィルムロール体の外周に凹凸が形成される。凹凸は、フィルムのひずみの原因となる。凹凸の位置と大きさが精度良く分かれば、すなわちフィルムロール体の外形が精度良く分かれば、凹凸を無くすあるいは小さくするための的確な対応を取ることができる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、フィルムロール体の外形をより精度良く推定できるフィルム成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のフィルム成形装置は、ダイから溶融樹脂を押し出し、それを固化させてフィルムを成形し、成形されたフィルムを巻き取ってフィルムロール体を形成するフィルム成形装置であって、フィルムの厚みを計測する計測部と、計測部により計測されたフィルムの厚みに基づいてフィルムロール体の半径を推定する推定部と、を備える。推定部は、フィルムどうしの間の空隙を考慮してフィルムロール体の半径を推定する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルムロール体の外形をより精度良く推定できるフィルム成形装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係るフィルム成形装置の概略構成を示す図である。
図2図1のフィルムロール体の断面図である。
図3図1の制御装置の機能および構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、第1の実施の形態に係るフィルム成形装置1の概略構成を示す。フィルム成形装置1は、ダイ2と、冷却装置3と、一対の安定板4と、引取機5と、厚み計測部6と、制御装置7と、を備える。
【0012】
押出機(不図示)から供給される溶融した樹脂が、ダイ2に形成されたリング状の吐出口2aから押し出される。その際、ダイ2の中心部に形成されたエア噴出口2bから、押し出された樹脂の内側にエアが噴出され、チューブ状に膨らんだフィルム(以下、「バブル」とも呼ぶ)が成形される。
【0013】
ダイ2は、不図示の調節機構により、周方向の各位置の吐出口2aの幅(以下、リップ幅という)を調節可能に構成されている。リップ幅を調節することで、対応する位置のフィルムの厚みを調節できる。
【0014】
冷却装置3は、ダイ2の上方に配置される。冷却装置3は、バブルに冷却風を吹き付けて冷却する。
【0015】
一対の安定板4は、冷却装置3の上方に配置され、バブルを引取機5に案内する。引取機5は、安定板4の上方に配置される。引取機5は、一対のピンチロール38を含む。一対のピンチロール38は、不図示のモータに駆動されて回転し、案内されたバブルを引っ張り上げながら扁平に折りたたむ。以下、扁平に折りたたまれた2枚重ねのフィルムを「扁平フィルム」とも呼ぶ。巻取機20は、扁平フィルムを巻き取り、フィルムロール体11を形成する。
【0016】
厚み計測部6は、冷却装置3と安定板4との間に配置される。厚み計測部6は、バブルの周りを回りながら、バブルの周方向の各位置の厚みを計測する。厚み計測部6により計測された厚みデータは制御装置7に送信される。
【0017】
制御装置7は、フィルム成形装置1を統合的に制御する装置である。
【0018】
図2は、軸を含むフィルムロール体11の断面図である。図2には、扁平フィルムが(n+1)周巻かれた(n+1)巻きフィルムロール体の断面、言い換えると、扁平フィルムがn周巻かれたn巻きフィルムロール体に(n+1)周目の扁平フィルムが巻かれた状態を示す断面が示されている。なお、nは自然数である。図2では、理解を容易にするため、フィルムロール体の外周に形成された凹凸を誇張して描いている。
【0019】
n巻きフィルムロール体の外周に凸部が形成された部分では、そこに巻かれる扁平フィルムに巻き取りによるテンションがかかるので、n巻きフィルムロール体と(n+1)周目の扁平フィルムとの間には、空隙がないか、微少な空隙しか含まれない。一方、外周に凹部が形成された部分では、そこに巻かれる扁平フィルムに巻き取りによるテンションがあまりかからないため、扁平フィルムがn巻きフィルムロール体の外形に倣わず、n巻きフィルムロール体と(n+1)周目の扁平フィルムとの間には凸部が形成された部分に比べて大きい空隙が含まれる。図2では表示を省略したが、n周目の扁平フィルムと(n-1)巻きフィルムロール体との間、(n-1)周目の扁平フィルムと(n-2)巻きフィルムロール体との間、・・・・、2周目の扁平フィルムと1巻きフィルムロール体との間にも、それぞれ空隙が含まれている。つまり、フィルムロール体11では、扁平フィルムどうしの間に空隙が含まれている。
【0020】
図3は、制御装置7の機能および構成を模式的に示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0021】
制御装置7は、種々の通信プロトコルにしたがって厚み計測部6との通信処理を実行する通信部40と、ユーザによる操作入力を受け付け、また各種画面を表示部に表示させるU/I部42と、通信部40およびU/I部42から取得されたデータをもとにして各種のデータ処理を実行するデータ処理部46と、データ処理部46により参照、更新されるデータを記憶する記憶部48と、を含む。
【0022】
記憶部48は、厚み記憶部64と、巻き姿記憶部66と、を含む。厚み記憶部64は、バブルの周方向の各位置と、厚み計測部6により計測された周方向の各位置でのバブルの厚みと、を対応づけて記憶する。
【0023】
巻き姿記憶部66は、フィルムロール体11の軸方向(幅方向)の各位置と、推定部(後述)により推定された、軸方向の各位置でのフィルムロール体11の半径であって、扁平フィルムがn(nは自然数)周巻かれた、現在のフィルムロール体11の半径と、を対応づけて記憶する。
【0024】
データ処理部46は、受信部50と、推定部52と、動作制御部54と、を含む。
【0025】
受信部50は、厚み計測部6から厚みデータを受信する。受信部50は、受信した厚みデータを厚み記憶部64に記憶させる。
【0026】
推定部52は、フィルムロール体11の巻き数が増えるたびに、巻き姿記憶部66に記憶されるフィルムロール体11の半径を更新する。
【0027】
推定部52は、まず、n巻きフィルムロール体に巻かれる、(n+1)周目の扁平フィルムの幅方向の各位置での厚みを、厚み記憶部64に記憶されるバブルの厚みに基づいて算出(推定)する。
【0028】
続いて、推定部52は、算出した(n+1)周目の扁平フィルムの厚みと、巻き姿記憶部66に記憶されるn巻きフィルムロール体の半径とに基づいて、(n+1)巻きフィルムロール体の半径を推定する。
【0029】
ここで、上述したように、n巻きフィルムロール体と(n+1)周目の扁平フィルムと
との間には空隙が含まれる。したがって、巻き姿記憶部66に記憶されるn巻きフィルムロール体の半径に、算出した扁平フィルムの厚みを単純に足し合わせ、それを(n+1)巻きフィルムロール体の半径とすると、空隙が考慮されていない分、実際よりも小さい半径が推定されてしまう。
【0030】
そこで推定部52は、扁平フィルムどうしの間の空隙を考慮してフィルムロール体11の半径を推定する。つまり、推定部52は、n巻きフィルムロール体と(n+1)周目の扁平フィルムとの間の空隙を考慮して、(n+1)巻きフィルムロール体の半径を推定する。
【0031】
本実施の形態では、推定部52は、(n+1)巻きフィルムロール体の軸方向位置iにおける半径(Rn+1(i))を、軸方向位置iにおけるn巻きフィルムロール体の半径(R(i))と、(n+1)周目の扁平フィルムの軸方向位置iにおける厚み(X(i))に基づいて、以下の式(1)により推定する。
n+1(i)=R(i)+K・X(i) ・・・(1)
ここで、
:係数
である。
【0032】
つまり、空隙も扁平フィルムの一部とみなして、詳しくは、(n+1)巻き目の扁平フィルムを、n巻きフィルムロール体と(n+1)周目の扁平フィルムとの間の空隙部分の厚みも含む分厚い扁平フィルムとみなして、(n+1)巻き目の扁平フィルムの厚み(X(i))を補正する。
【0033】
この場合、推定部52は、まず、巻き姿記憶部66に記憶される軸方向の各位置でのフィルムロール体11の半径に基づいて、フィルムロール体11の外周に形成された凹凸を特定する。凹凸の特定方法は特に限定されず、公知の技術を用いて実行すればよいが、例えば、半径の軸方向における変化の極大値、極小値を特定することにより凹凸を特定してもよい。
【0034】
続いて、推定部52は、軸方向の各位置での係数Kを決定する。ここで、凸部が形成された軸方向位置では、上述のようにn巻きフィルムロール体と(n+1)巻き目の扁平フィルムとの間の空隙は比較的小さいか空隙がなく、凸のピーク値に近いほど係数Kは1か1に近い値に近づく。凹部が形成された軸方向位置では、上述のようにn巻きフィルムロール体と(n+1)巻き目の扁平フィルムとの間の空隙は比較的大きいため、凸部よりも、係数Kは大きい値になる。また、n巻きフィルムロール体に形成された凸部のピーク高さが高いほど、その凸部の周囲にできる空隙は大きくなる。また、使用される樹脂の粘度や、フィルムの厚みによって、フィルムが凹部に倣って大きく凹むか否かが異なり、凹部にできる空隙の大きさが異なる。係数Kは、このように様々な条件の影響を受ける。例えば、あらかじめ実験を行い、最も近い凸部までの距離、最も近い凹部までの距離、最も近い凸部と最も近い凹部との高低差、使用する樹脂、およびバブルの厚みと、係数Kとの関係性を特定しておき、その関係性に基づいて推定部52が係数Kを決定してもよい。
【0035】
推定部52は、係数Kが決定したら、上記の式(1)により、(n+1)巻きフィルムロール体の各軸方向位置における半径を推定する。推定部52は、推定した(n+1)巻きフィルムロール体の厚みを巻き姿記憶部66に記憶させる。
【0036】
動作制御部60は、フィルム成形装置1の動作を制御する。例えば、動作制御部60は、巻き姿記憶部66に記憶される軸方向の各位置でのフィルムロール体11の半径を参照して、半径の軸方向における変化が比較的小さくなるように、言い換えるとフィルムロール体11の外形が凹凸の比較的少ない外形となるように、周方向の各位置のリップ幅、冷却装置3の風量、風温などを調節する。
【0037】
以上が、フィルム成形装置1の構成である。続いてその動作について説明する。
【0038】
厚み計測部6は、成形中に、バブルの周方向の各位置の厚みを計測し、計測した厚みを制御装置7に送信する。
【0039】
制御装置7は、周方向の各位置のバブルの厚みより、軸方向(幅方向)の各位置の扁平フィルムの厚みを推定する。そして制御装置7は、巻き姿記憶部66に記憶されるn巻きフィルムロール体の軸方向の各位置の半径と、軸方向の各位置の扁平フィルムの厚みに基づいて、それらの間に含まれる空隙も考慮して、(n+1)巻きフィルムロール体の軸方向の各位置の半径を推定する。制御装置7は、推定した、フィルムロール体11の軸方向の各位置の半径を巻き姿記憶部66に記憶させる。
【0040】
制御装置7は、巻き姿記憶部66に記憶される、フィルムロール体11の軸方向の各位置の半径を参照して、適宜、リップ幅、冷却装置3の風量、風温を調節する。
【0041】
以上説明した本実施の形態によれば、扁平フィルムどうしの間の空隙を考慮してフィルムロール体11の半径が推定されるため、空隙を考慮しない場合に比べて、より正確にフィルムロール体11の半径を推定できる。より正確にフィルムロール体11の半径を推定できれば、フィルムロール体11の外形が凹凸の比較的少ない外形となるように、より的確にフィルム成形装置1の動作を制御できる。
【0042】
以上、実施の形態に係るフィルム成形装置の構成と動作について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0043】
(変形例1)
実施の形態では、ダイ2の吐出口2aが環状であるいわゆる丸ダイである場合について説明したが、これに限られない。実施の形態の技術思想の少なくとも一部は、吐出口が直線状であるいわゆるTダイにも適用できる。
【0044】
(変形例2)
制御装置7はさらに、厚み記憶部64に記憶されるバブルの厚みに基づいて算出した扁平フィルムの厚みを単純積算して、フィルムロール体11の軸方向の各位置での半径(以下、「単純積算半径」とも呼ぶ)を算出してもよい。そして制御装置7は、実施の形態のようにして推定するフィルムロール体11の半径(以下、「推定半径」とも呼ぶ)と、単純積算半径とを比較して、フィルムロール体11にどの程度の空隙が含まれているかを推定してもよい。空隙率は、例えば以下の式(1)により算出(推定)される。
空隙率(%)={(推定半径-単純積算半径)/推定半径}×100 ・・・(1)
【0045】
制御装置7は、フィルムロール体11の軸方向(幅方向)の各位置での空隙率を算出してもよく、フィルムロール体11の平均の空隙率を算出してもよい。後者の場合、推定半径の軸方向の平均値と、単純積算半径の軸方向平均値とを用いて空隙率を算出すればよい。つまり、推定半径の軸方向の平均値を式(1)の推定半径に代入し、単純積算半径の軸方向平均値を式(1)の単純積算半径に代入すればよい。
【0046】
空隙率は、成形されたフィルムの品質指標とすることができる。空隙率が高いことは凹凸が多いすなわち品質が比較的悪いことを示し、空隙率が低いことは凹凸が少ないすなわち品質が比較的良いことを示す。
【0047】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0048】
1 フィルム成形装置、 2 ダイ、 6 厚み計測部、 7 制御装置、 52 推定部。
図1
図2
図3