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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】低脂肪発酵食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20230323BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A23C9/123
A23C9/13
C12N1/20 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019065917
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162478
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-08
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11320
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02930
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】中森 真依子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-090604(JP,A)
【文献】特開2017-079638(JP,A)
【文献】特開2001-045968(JP,A)
【文献】七訂食品成分表,2016年,p.186
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00-9/137
C12N 1/20
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルと、ビフィドバクテリウム属細菌を含有する低脂肪発酵乳であって、
原料由来の飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを除いた、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルの含有量が、遊離脂肪酸換算で0.0006~0.6質量%である、
ことを特徴とする低脂肪発酵
【請求項2】
飽和脂肪酸が、長鎖飽和脂肪酸である請求項1に記載の低脂肪発酵
【請求項3】
長鎖飽和脂肪酸が、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項2に記載の低脂肪発酵
【請求項4】
原料由来の飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを除いた、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルの含有量が、遊離脂肪酸換算で0.00~0.質量%である請求項1~3の何れか1項に記載の低脂肪発酵
【請求項5】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーベおよび/またはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムである請求項1~4の何れか1項に記載の低脂肪発酵
【請求項6】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272(FERM BP-11320)および/またはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057(NITE -02930)である請求項1~4の何れか1項に記載の低脂肪発酵
【請求項7】
脂肪分が、1.5質量%以下である請求項1~6の何れか1項に記載の低脂肪発酵
【請求項8】
飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルと、ビフィドバクテリウム属細菌を混合することを特徴とする低脂肪発酵の製造方法。
【請求項9】
ビフィドバクテリウム属細菌を、脂肪分が2.5質量%以下である培地に接種し、これを培養して得られる発酵液と、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを混合することを特徴とする低脂肪発酵の製造方法。
【請求項10】
飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを、培養前の培地または培養中、培養後の発酵液に添加するものである請求項9記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項11】
飽和脂肪酸が、長鎖飽和脂肪酸である請求項8~10の何れか1項記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項12】
長鎖飽和脂肪酸が、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項11に記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項13】
培養前の培地または培養中、培養後の発酵液に添加される飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルの量が、遊離脂肪酸換算で0.001~1質量%である請求項9~12の何れか1項に記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項14】
製造される低脂肪発酵の飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルの含有量が、遊離脂肪酸換算で0.0006~0.6質量%である請求項8~13の何れか1項に記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項15】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーベおよび/またはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムであることを特徴とする請求項8~14の何れか1項に記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項16】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272(FERM BP-11320)および/またはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057(NITE -02930)である請求項8~14の何れか1項に記載の低脂肪発酵の製造方法。
【請求項17】
飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを有効成分とすることを特徴とする低脂肪発酵乳中のビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善剤(ただし、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルを有効成分とするものは除く)
【請求項18】
ビフィドバクテリウム属細菌を含有する低脂肪発酵に、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを含有させることを特徴とする低脂肪発酵中のビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中の生残性の改善された低脂肪発酵食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から生菌含有タイプのヨーグルト等の発酵食品は、整腸作用、免疫賦活作用等の生理効果を有する健康食品として、広く飲食されている。これらの生理効果を高く維持するためには、乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌等の有用細菌の菌数を生きた状態でより多く維持することや、菌の活性(酸産生能)を高く保つことが重要となる。
【0003】
近年、健康維持の観点から低脂肪(低カロリー)の商品が好まれており、ヨーグルト等の発酵食品についても例外ではない。例えば、ヨーグルトについて脂肪分を低下させるために脱脂粉乳等が原料として用いられるが、脱脂粉乳等を用いて低脂肪ヨーグルトを製造すると、製造直後や保存後に、製品中の乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌等の生菌数が少なくなる現象がしばしば認められており、生菌含有タイプのヨーグルトが本来有する整腸作用、免疫賦活作用等の生理効果が不十分となる場合もあった。
【0004】
このような低脂肪の商品におけるビフィドバクテリウム属細菌の生残性の問題点を改善する技術として、ビフィドバクテリウム属細菌とラクトバチルス・ラクチスとの共培養をする技術(特許文献1)や、甜茶等の植物抽出エキスを培養助剤として利用する技術(特許文献2)が報告されている。
【0005】
しかしながら、これらの技術は、工程の煩雑化やコスト増等の別の課題を伴う場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3068484号公報
【文献】特開2016-174589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、発酵食品の低脂肪化に伴って損なわれる生残性を回復する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、低脂肪化により除去された脂肪酸のうち、一部の脂肪酸を追加すれば、除去された全ての脂肪酸トリグリセリドを添加した場合と同等以上の生残性になり、更に遊離やショ糖エステルのような(菌が利用し易い)形態でそれらの脂肪酸を添加することでより顕著な効果が認められることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルと、ビフィドバクテリウム属細菌を含有することを特徴とする低脂肪発酵食品である。
【0010】
また、本発明は、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルと、ビフィドバクテリウム属細菌を混合することを特徴とする低脂肪発酵食品の製造方法である。
【0011】
更に、本発明は、ビフィドバクテリウム属細菌を、脂肪分が2.5質量%以下である培地に接種し、これを培養して得られる発酵液と、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを混合することを特徴とする低脂肪発酵食品の製造方法である。
【0012】
また更に、本発明は、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを有効成分とすることを特徴とするビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善剤である。
【0013】
更にまた、本発明は、ビフィドバクテリウム属細菌を含有する低脂肪発酵食品に、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステルを含有させることを特徴とする低脂肪発酵食品中のビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低脂肪発酵食品は、保存後でも生菌数を高く維持できるため、ビフィドバクテリウム属細菌の有する整腸作用、免疫賦活作用等の生理効果を十分に得ることができる。
【0015】
また、本発明の低脂肪発酵食品の製造方法は、飽和脂肪酸と、ビフィドバクテリウム属細菌を混合するだけなので、特に必要な機械等もない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の低脂肪発酵食品(以下、「本発明食品」という)は、飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステル(以下、「飽和脂肪酸等」ということもある)と、ビフィドバクテリウム属細菌を含有するものである。なお、本明細書において、低脂肪発酵食品とは、発酵食品中に脂肪分を1.5質量%(以下、単に「%」という)以下で含有するものをいう。
【0017】
本発明食品に用いられる飽和脂肪酸またはその塩若しくはそのエステル(以下、「飽和脂肪酸等」ということもある)は、例えば、酪酸、カプロン酸等の短鎖(炭素数2~4)飽和脂肪酸、カプリル酸、カプリン酸等の中鎖(炭素数5~11)飽和脂肪酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の長鎖(炭素数12以上)飽和脂肪酸等の飽和脂肪酸、これら飽和脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩等の塩、これら飽和脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、ショ糖エステル、ポリグリセリンエステル、ペンタグリセリンエステル等のエステル等が挙げられる。また、これら飽和脂肪酸等は、これらを含有する天然物であってもよい。これら飽和脂肪酸等は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
これら飽和脂肪酸等の中でも、風味に影響を与えないことから、飽和脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸のものが好ましく、長鎖飽和脂肪酸の中でもミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸がより好ましい。飽和脂肪酸等の中でも、特に、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、これらのモノグリセリド、ジグリセリド、これらのショ糖エステル、ポリグリセリンエステル、ペンタグリセリンエステルが好ましく、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸のポリグリセリンエステルが特に好ましい。これらも1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明食品における飽和脂肪酸等の含有量は特に限定されないが、例えば、遊離脂肪酸換算で0.0006~0.6%、好ましくは0.002~0.2%、特に好ましくは0.006~0.1%である。この飽和脂肪酸等の含有量は、天然の発酵基材等、原料由来の飽和脂肪酸等を除いた、添加する飽和脂肪酸の含有量である。
【0020】
本発明食品に用いられるビフィドバクテリウム属細菌は、特に限定されず、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アングラータム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・ガリカム(Bifidobacterium gallicum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等を挙げることができる。これらビフィドバクテリウム属細菌は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらビフィドバクテリウム属細菌の中でもビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベが好ましく、ビフィドバクテリウム・ブレーベまたはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムがより好ましく、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272またはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057が特に好ましい。
【0021】
上記したビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272は、寄託番号FERM BP11320として平成22年2月16日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 120号室)に寄託されている。また、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057も、寄託番号NITE -02930として2019年3月25日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 122号室)に寄託されている。

【0022】
本発明食品におけるビフィドバクテリウム属細菌の含有量は特に限定されないが、例えば製造直後に1×10CFU/ml以上である。
【0023】
本発明食品に含有される脂肪分は、特に限定されず、動物性や植物性の脂肪分を含有する原料を用い、その脂肪分をそのままあるいは適宜濃度を調整したものが挙げられる。
【0024】
具体的に、動物性や植物性の脂肪分を含有する原料としては、動物性の牛乳、ヤギ乳等や、植物性の豆乳等の乳、あるいはこれら乳を乾燥させた全粉乳、あるいはこれら乳から公知の方法で脱脂した脱脂乳や、更にそれらを乾燥させた脱脂粉乳等が挙げられる。これら原料は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの原料の中でも脱脂粉乳、脱脂乳が好ましい。
【0025】
本発明食品には、上記必須成分の他に、糖質、糖アルコール、高甘味度甘味料、増粘(安定)剤、乳化剤、酸味料、ビタミン類、ミネラル分、フレーバー類、アミノ酸、ペプチド、酵母エキス、植物抽出エキス、果汁等の食品素材を含有させてもよい。
【0026】
具体的な食品素材としては、ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の各種増粘(安定)剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等の各種ビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル系、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類、アラニン、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸、乳ペプチド、大豆ペプチド等のペプチド、酵母エキス等の微生物発酵エキス、緑茶エキス、甘草エキス、竹エキス等の植物抽出エキス、ブドウ、リンゴ、グレープフルーツ、モモ、イチゴ、洋梨、ブルーベリー、マンゴー、バナナ等の果汁等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明食品には、ビフィドバクテリウム属細菌と共に乳酸菌を含有させてもよい。乳酸菌はビフィドバクテリウム属細菌と共培養してもよいし、別途培養したものを用いてもよい。
【0028】
乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クレモリス(Lactobacillus cremoris)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ユーグルティ(Lactobacillus yoghurti)、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.デルブルッキィー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属細菌、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌等が挙げられる。これら乳酸菌は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明食品は、飽和脂肪酸等、ビフィドバクテリウム属細菌、更に必要により食品素材や乳酸菌を混合することにより製造することができる。
【0030】
本発明食品の製造においては、各成分の混合の方法や順序は特に限定されないが、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌を、脂肪分が2.5%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは0.15%以下である培地に接種し、これを培養して得られる発酵液と、飽和脂肪酸等を混合することが好ましい。なお、本発明食品の製造に用いられる培地は、脂肪分が上記の含有量となるものであれば特に制限されず、例えば、乳を含有する乳培地、脱脂粉乳を含有する脱脂粉乳培地、豆乳を含有する豆乳培地、脱脂豆乳を含有する脱脂豆乳培地、アーモンドミルクを含有するアーモンドミルク培地、ライスミルクを含有するライスミルク培地、果汁を含有する果汁培地等、更にはこれらを含まず、単にビフィドバクテリウム属細菌の増殖に必要な炭素源となる糖類および窒素源となる酵母エキス等のみを含む培地でもよい。なお、果汁培地とする場合の果汁の種類は特に限定されないが、例えば、温州みかん、グレープフルーツ、洋梨等の果汁が好ましい。
【0031】
培養の条件は、特に限定されないが、例えば、上記培地に、ビフィドバクテリウム属細菌(必要により乳酸菌)を初発菌数が1×10~1×10CFU/ml程度となるよう接種し、30~42℃程度で、12~72時間培養する条件等が挙げられる。
【0032】
本発明食品の製造において飽和脂肪酸等は、培養前の培地または培養中、培養後の発酵液に添加することが好ましく、培養前の培地または培養後の発酵液に添加することがより好ましく、培養前の培地に添加することが特に好ましい。飽和脂肪酸等の培地や発酵液への添加量は特に限定されないが、例えば、遊離脂肪酸換算で0.001~1%、好ましくは0.003~0.3%、特に好ましくは0.01~0.2%である。
【0033】
なお、培地には、必要により、上記した糖質、アミノ酸、ペプチド、酵母エキス、植物抽出エキス、果汁等を添加してもよい。
【0034】
上記培養後は、発酵液に適宜均質化、スムージング等を行い、必要に応じて、上記した糖質、増粘(安定)剤、フレーバ類等を含有するシロップと混合する等して、本発明の低脂肪発酵食品とすればよい。そしてこれを最終的に容器に充填すればよい。なお、容器に充填する際には、ヘッドスペースをなくす、窒素等の不活性な気体を充填する等して保存時に容器内が嫌気になるようにしておくことにより、保存後の生菌数が高くなることが好ましい。
【0035】
本発明食品の形態は、特に限定されないが、例えば、乳等省令により定められている発酵乳、乳製品乳酸菌飲料等の飲料、乳酸菌豆乳発酵飲料、乳酸菌発酵果汁飲料等の清涼飲料水、ハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、プレーンヨーグルト、ケフィア、チーズ等が挙げられる。これらの中でも発酵乳が好ましい。
【0036】
斯くして得られる本発明食品は、保存後でも生菌数を高く維持できる。例えば、製造直後時にビフィドバクテリウム属細菌を1×10CFU/ml以上含有する本発明食品を、10℃で21日間保存した際に、以下の式で求められる生残率が、飽和脂肪酸等を添加した際に3.5%以上、好ましくは7.0%以上、より好ましくは8.0~25.0%である。なお、保存の際には、嫌気条件下の方が好ましい。
【0037】
【数1】
【0038】
なお、上記飽和脂肪酸等は、低脂肪発酵食品等の脂肪分を含有する発酵食品におけるビフィドバクテリウム属細菌の生残性、特に、低脂肪発酵食品におけるビフィドバクテリウム属細菌の生残性を改善することができるため、これを有効成分とすることにより、ビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善剤とすることもできる。この生残性改善剤は、生残性を改善したい対象物に、例えば、遊離脂肪酸換算で0.0006~0.6%、好ましくは0.002~0.2%、特に好ましくは0.006~0.1%添加すればよい。また、生残性改善剤の添加時期は特に限定されない。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、本実施例において、単に脂肪酸の名称を記載している時には、遊離のものを指す。また、脂肪酸の濃度は、遊離脂肪酸換算の濃度を指す。
【0040】
参 考 例 1
脂肪分濃度の影響:
表1に記載の乳原料を用いた脂肪分濃度の異なる培地をプレート式殺菌機で135℃で3秒間殺菌後に、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272(以下、「B菌」ともいう)およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198(JCM1028)を初発菌数がそれぞれ1×10CFU/mlおよび3×10CFU/ml程度となるように接種し、32℃でpHが5.3~5.4となるまで大気雰囲気下で培養して発酵液を得た。この発酵液588質量部を15MPaの圧力で均質化処理した後、別途調製した24%のパラチノースと10%(ストレート濃度換算)のにんじんジュースを含むシロップ(プレート式殺菌機で121℃で3秒間殺菌したもの)412質量部と混合して、発酵食品を得た。これをガラス製の100ml三角フラスコに入れ(ヘッドスペースあり)、通気性のあるシリコ栓をして保存した。製造直後の菌数と、10℃で21日間保存した際の菌数から上記式により生残率を求めた。また、発酵食品の保存前後の風味について、5名のパネラーを用い以下の評価基準で評価した。これらの結果を表1に示した。
【0041】
<風味評価基準>
(評価)(内容)
〇 : 雑味や異臭がない
△ : 雑味や異臭がややある
× : 雑味や異臭がある
【0042】
【表1】
【0043】
このようにビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品において、脂肪分濃度が1.5%以下となると生残率が下がり、0.1%以下では顕著に下がることが明らかとなった。
【0044】
実 施 例 1
脂肪酸の種類:
表2に記載の脂肪酸を、脂肪分0.15%を含む14.5%の脱脂粉乳培地に0.051%(発酵食品中の濃度は0.03%)で含有させた後、ホモジナイザーで均質化した。この培地に、参考例1と同様にしてビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198を接種し、培養等して発酵食品を得た。この発酵食品におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。また、発酵食品の保存前後の風味を参考例1と同様にして評価した。これらの結果を表2に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
このように飽和脂肪酸を培地に添加することにより、ビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品において、生残率を改善できることが分かった。特に飽和脂肪酸が長鎖のものは風味が良好で、かつ、生残性も高い傾向があることが分かった。その一方で、長鎖不飽和脂肪酸は風味は良好であるものの、生残性は何も添加しないものよりも低いこと(効果が下がる)が分かった。
【0047】
実 施 例 2
飽和脂肪酸の組合せ:
表3に記載の飽和脂肪酸を、脂肪分0.15%を含む14.5%の脱脂粉乳培地に表3に記載の量で含有させた後、ホモジナイザーで均一化した。この培地に、参考例1と同様にしてビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198を接種し、培養等して発酵食品を得た。この発酵食品におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。また、発酵食品の保存前後の風味を参考例1と同様にして評価した。これらの結果を表3に示した。
【0048】
【表3】
【0049】
このように飽和脂肪酸は組み合わせて用いることおよび添加量を多くすることにより、ビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品において、風味が良好で、かつ、生菌数や生残率を改善できることが分かった。
【0050】
実 施 例 3
飽和脂肪酸の量:
ミリスチン酸を、脂肪分0.15%を含む14.5%脱脂粉乳培地に表4に記載の量で含有させた後、ホモジナイザーで均一化した。この培地に、参考例1と同様にしてビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198を接種し、培養等して発酵食品を得た。この発酵食品におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。また、発酵食品の保存前後の風味を参考例1と同様にして評価した。これらの結果を表4に示した。
【0051】
【表4】
【0052】
このようにミリスチン酸はどの添加量でもビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品において、風味が良好で、かつ、生残性を改善したが、特に0.01~0.3%で風味が良好で生残性の改善効果が高いことが分かった。
【0053】
実 施 例 4
飽和脂肪酸の種類:
表5に記載のミリスチン酸類を、脂肪分0.15%を含む14.5%の脱脂粉乳培地に遊離ミリスチン酸換算で0.051%(発酵食品中の濃度は0.03%)で含有させた後、ホモジナイザーで均一化した。この培地に、参考例1と同様にしてビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198を接種し、培養等して発酵食品を得た。この発酵食品におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。また、発酵食品の保存前後の風味を参考例1と同様にして評価した。これらの結果を表5に示した。
【0054】
【表5】
【0055】
このようにミリスチン酸はどのような形態で添加してもビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品において、風味が良好で、かつ、生残性を改善することが分かった。
【0056】
実 施 例 5
嫌気条件下での保存:
ミリスチン酸を、脂肪分0.15%を含む14.5%脱脂粉乳培地に表6に記載の量で含有させた後、ホモジナイザーで均一化した。この培地に、参考例1と同様にしてビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198を接種し、培養等して発酵食品を得た。この発酵食品を容器に入れ(ヘッドスペースなし)、通気性のないブチルゴム栓をして保存した。この発酵食品におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。また、発酵食品の保存前後の風味を参考例1と同様にして評価した。これらの結果を表6に示した。
【0057】
【表6】
【0058】
このようにミリスチン酸は、ビフィドバクテリウム属細菌を培養して得られる発酵食品を嫌気条件下で保存した場合についても、風味が良好で、かつ、生残性を改善することが分かった。また、ヘッドスペースがない場合(嫌気条件下)の方がミリスチン酸の添加に関わらず保存後の生菌数が、ヘッドスペースがある場合よりも高くなることも分かった。
【0059】
実 施 例 6
飽和脂肪酸の添加時期:
脂肪分0.15%を含む14.5%脱脂粉乳培地に、参考例1と同様にしてビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272およびラクトバチルス・アシドフィルス YIT0198を接種し、培養等して発酵液を得た。この発酵液588質量部を15MPaの圧力で均質化処理した後、別途調製した24%のパラチノースと10%(ストレート濃度換算)のにんじんジュースと0.18%のショ糖ミリスチン酸エステルとを含むシロップ(プレート式殺菌機で121℃で3秒間殺菌したもの)412質量部と混合して、発酵食品を得た。これをガラス製の100ml三角フラスコに入れ(ヘッドスペースあり)、通気性のあるシリコ栓をして保存した。この発酵食品におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。また、発酵食品の保存前後の風味を参考例1と同様にして評価した。これらの結果を表7に示した。
【0060】
【表7】
【0061】
このようにミリスチン酸はどのような時期に添加してもビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品において、風味が良好で、かつ、生残性を改善することが分かった。
【0062】
実 施 例 7
低脂肪豆乳培地での効果:
グルコース2%を添加した低脂肪豆乳(「美味投入(登録商標)」不二精油(株)製:脂肪分0.5%)をオートクレーブで121℃、15分間殺菌した培地に、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272を初発菌数が1×10CFU/ml程度となるように接種し、37℃でpHが4.4~4.5となるまで大気雰囲気下で培養して、発酵液1を得た。殺菌前の培地に、ポリグリセリンミリスチン酸エステル(太陽化学(株)製)0.1%を添加する以外は同様にして、発酵液2を得た。この発酵液におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272の生残率を参考例1と同様にして求めた。これらの結果を表8に示した。
【0063】
【表8】
【0064】
このようにミリスチン酸は、牛乳由来の低脂肪培地を用いた場合のみならず、植物原料である低脂肪豆乳を用いた低脂肪豆乳培地に添加した場合においても、風味が良好で、かつ、生残性を改善することが分かった。
【0065】
実 施 例 8
他菌種での効果:
実施例7と同様にして調製した培地に、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057を初発菌数が4×10CFU/ml程度となるように接種し、37℃でpHが4.5~4.6となるまで大気雰囲気下で培養して、発酵液3および4を得た。この発酵液を10℃で10日間保存した後のビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057の生菌数を測定した。
【0066】
その結果、ポリグリセリンミリスチン酸エステル添加なし(発酵液3)の場合、保存10日目のB菌数が1.7×10CFU/mlとなり、ポリグリセリンミリスチン酸エステル0.1%を添加した(発酵液4)場合、保存10日目のB菌数が2.4×10CFU/mlとなった。
【0067】
このようにミリスチン酸は、菌種の異なるビフィドバクテリウム属細菌に対しても、保存後の生菌数を高く維持する効果を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、低脂肪ヨーグルト等の低脂肪発酵食品の製造に利用できる。
以 上