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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20230323BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K5/29
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019077161
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020176167
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄大
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119190(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092752(WO,A1)
【文献】特開平05-093056(JP,A)
【文献】特開平05-178812(JP,A)
【文献】特開2001-011151(JP,A)
【文献】特開2013-249456(JP,A)
【文献】特開平09-249801(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119191(WO,A1)
【文献】特開2000-256436(JP,A)
【文献】特開2013-193986(JP,A)
【文献】特開2013-231200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂(A)と、下記一般式(1)で表されるカルボジイミド化合物(B)とを含有するポリエステル系樹脂組成物であって、
前記カルボジイミド化合物(B)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂(A)及び前記カルボジイミド化合物(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部である、ポリエステル系樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R、Rはイソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物の前記官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有する構造である。前記ジイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート及びパラフェニレンジイソシアネートから選ばれる1種以上を含み、前記ジイソシアネート化合物が、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び4、4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物を含み、前記ジイソシアネート化合物の全体を100モル%としたときに、前記2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が30~70モル%であり、前記4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が30~70モル%である。は、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基を表す。前記ジオール化合物は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールから選ばれる1種である。前記ジオール化合物の数平均分子量は、150~10,000である。、Xは前記有機化合物の前記官能基と前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。nは4~20の数を表し、mは1~15の数を表し、n≧mである。
【請求項2】
前記ジイソシアネート化合物の全体を100モル%としたときに、前記2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が50~60モル%であり、前記4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が40~50モル%である、請求項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記イソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物が、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、及びポリヒドロキシアルカン酸から選ばれる1種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、透明性、機械的強度、溶融安定性、耐溶剤性及びリサイクル性に優れていることから、フィルム、シート等に広く利用されており、更に近年では、家電製品やOA機器の筐体等にも使用されている。
しかしながら、ポリエステル樹脂は、従来の汎用樹脂に比べて容易に加水分解される性質を有していることから、耐加水分解性を向上させることを目的として、カルボジイミド化合物を添加する手法が検討されている。
【0003】
カルボジイミド化合物をポリエステル樹脂に配合し、成形することにより、ポリエステル樹脂中のカルボキシ基や、高温で混練した際にエステル基の分解によって発生したカルボキシ基が、配合されたカルボジイミド化合物と反応して、成形物の初期性能(例えば機械的強度)の低下を抑制できる。また、成形物中にカルボジイミド化合物が残存することで、成形物の耐久性も向上する。
【0004】
このようなポリエステル樹脂用の耐加水分解安定剤としては、例えば特定の脂肪族又は芳香族カルボジイミド化合物等を主成分とするものが知られている(特許文献1及び2)。
しかし、このような特定の脂肪族又は芳香族カルボジイミド化合物を添加したポリエステル樹脂組成物は、耐加水分解性は向上するものの、溶融混練及び成形加工時の加熱により、カルボジイミド化合物が分解し、イソシアネートガスが発生し、作業環境を悪化させる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-249801号公報
【文献】特開2015-147838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、耐加水分解性に優れ、溶融混練及び成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が少ないポリエステル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリエステル系樹脂(A)と、特定のカルボジイミド化合物(B)とを含有し、該カルボジイミド化合物(B)の含有量が、ポリエステル系樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部であることにより、耐加水分解性に優れ、溶融混練及び成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が少ないポリエステル系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] ポリエステル系樹脂(A)と、下記一般式(1)で表されるカルボジイミド化合物(B)とを含有するポリエステル系樹脂組成物であって、
前記カルボジイミド化合物(B)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂(A)及び前記カルボジイミド化合物(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部である、ポリエステル系樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R、Rはイソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物の前記官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有する構造である。Rは、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基を表す。X、Xは前記有機化合物の前記官能基と前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。n、mは1~20の数を表す。)
[2] 前記ジイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート及びパラフェニレンジイソシアネートから選ばれる1種以上を含む、上記[1]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[3] 前記ジイソシアネート化合物が、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び4、4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物を含み、
前記ジイソシアネート化合物の全体を100モル%としたときに、前記2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が30~70モル%であり、前記4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が30~70モル%である、上記[2]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[4] 前記ジイソシアネート化合物の全体を100モル%としたときに、前記2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が50~60モル%であり、前記4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの割合が40~50モル%である、上記[3]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[5] 前記イソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物が、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[6] 前記ジオール化合物が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びアルカンジオールから選ばれる1種以上である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[7] 前記ポリエステル系樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、及びポリヒドロキシアルカン酸から選ばれる1種以上である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐加水分解性に優れ、溶融混練及び成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が少ないポリエステル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に従うポリエステル系樹脂組成物の実施形態について、以下で詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂(A)と、下記一般式(1)で表されるカルボジイミド化合物(B)とを含有し、カルボジイミド化合物(B)の含有量が、ポリエステル系樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部であることを特徴とする。
【0012】
【化2】
【0013】
上記一般式(1)中、R、Rはイソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物の前記官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有する構造である。Rは、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基を表す。X、Xは前記有機化合物の前記官能基と前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。n、mは1~20の数を表す。
【0014】
このようなポリエステル系樹脂組成物は、耐加水分解性に優れ、溶融混練及び成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が少ない。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、特定の芳香族カルボジイミドであるカルボジイミド化合物(B)を用いることにより、従来の脂肪族カルボジイミドより反応性が高く、低いカルボジイミド基濃度でも、優れた耐加水分解性を発揮することができると考えられる。
特に、カルボジイミド化合物(B)は、イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、且つ該ベンゼン系芳香環のイソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有するジイソシアネート化合物に由来する2価の残基Rを有するため、溶融混練及び成形加工時の加熱過程においてカルボジイミド化合物(B)が分解しても、分解生成したイソシアネートの反応性が高いため、ポリエステル系樹脂(A)中に取り込まれ易く、イソシアネートガスとして環境中に放出され難いものと考えられる。
【0015】
以下、本発明のポリエステル系樹脂組成物について、構成成分毎に詳しく説明する。
【0016】
<ポリエステル系樹脂(A)>
ポリエステル系樹脂(A)としては、エステル基を有する樹脂であれば特に制限することなく使用することができる。
ポリエステル系樹脂(A)は、例えば二塩基酸若しくはその酸無水物又は二塩基酸エステルと、二価アルコールとの重縮合反応、ヒドロキシカルボン酸又はその環状誘導体の重縮合反応又は開環重合によって得られ、主鎖にエステル結合を持つ樹脂である。
【0017】
上記二塩基酸又はその酸無水物としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、コハク酸無水物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ヘット酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
上記二塩基酸エステルとしては、例えばテレフタル酸ジメチル、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。
【0018】
上記二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA2-ヒドロキシプロピルエーテル、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
他にも、両末端にOH基を有する脂肪族ポリエーテルである、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等のポリアルキレンオキシドグリコールを用いることもできる。
【0019】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。
また、ヒドロキシカルボン酸の環状誘導体としては、例えばラクチドやラクトンが挙げられ、ラクチドとしては、例えば乳酸の環状二量体等が挙げられ、ラクトンとしてはβ-プロピオラクトンやδ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0020】
ポリエステル系樹脂(A)の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう)、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」ともいう)、ポリブチレンサクシネート(以下、「PBS」ともいう)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、「PBSA」ともいう)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、「PBAT」ともいう)、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、エチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、ポリ乳酸(以下、「PLA」ともいう)、及びポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカン酸から選ばれる1種以上を用いることができる。
これらの中でも、経済性、加工性の観点から、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、及びポリヒドロキシアルカン酸から選ばれる1種以上、より好ましくはポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートから選ばれる1種以上である。
【0021】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂(A)と、カルボジイミド化合物(B)とを含み、該カルボジイミド化合物(B)が特定の構造を有することにより、ポリエステル系樹脂(A)との親和性が向上し、より均一にポリエステル系樹脂(A)中に分散させることができる。その結果、組成物内では、ポリエステル系樹脂(A)が局所的に架橋反応することを防止できる。
【0022】
本発明のポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂(A)の含有量は、好ましくは80~99.9質量%、より好ましくは85~99.8質量%、更に好ましくは90~99.7質量%、より更に好ましくは95~99.5質量%である。
【0023】
<カルボジイミド化合物(B)>
本発明に用いるカルボジイミド化合物(B)は、下記一般式(1)で表される。
【0024】
【化3】
【0025】
上記一般式(1)中、R、Rはイソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物の前記官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有する構造である。Rは、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基を表す。X、Xは前記有機化合物の前記官能基と前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。n、mは1~20の数を表す。
【0026】
(R、R
上記一般式(1)中、R、Rはイソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物の前記官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。
【0027】
上記イソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物(以下、単に「有機化合物」ともいう)としては、イソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有すれば特に限定されないが、反応性の観点から、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0028】
中でも、モノイソシアネートは、カルボジイミド化合物(B)中のカルボジイミド基の含有割合を高めることができる点で好ましい。
モノイソシアネートとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、n-、sec-或いはter-ブチルイソシアネート等の低級アルキルイソシアネート;シクロヘキシルイソシアネート等の脂環式イソシアネート;フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート等の芳香族イソシアネート等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、フェニルイソシアネート及びトリルイソシアネートが好ましく、フェニルイソシアネートがより好ましい。一方で、フェニルイソシアネートは特に反応性が高く、自身同士でカルボジイミド化し、モノカルボジイミドとなる傾向があるため、モノカルボジイミドの生成を抑制する観点では、フェニルイソシアネートを除くモノイソシアネートが好ましい。
【0029】
また、モノアルコールは、イソシアネート基との反応性が高く、カルボジイミド化合物(B)を合成し易くなる点、及びカルボジイミド化合物(B)が分解した際にイソシアネートガスが発生することを効果的に抑制できる点で好ましい。
モノアルコールとしては、例えば、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、ポリエーテルモノオール等が挙げられる。このようなモノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、ドデシルアルコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。中でも、得られるカルボジイミド化合物(B)の取り扱い性に優れ、ポリエステル系樹脂(A)との加工性が良好となる観点からは、イソプロピルアルコール、2-エチルヘキサノール、オクタノール及びドデシルアルコールが好ましく、イソプロピルアルコールがより好ましい。
【0030】
また、モノアミンは、イソシアネート基との反応性が高く、カルボジイミド化合物(B)を合成し易くなる点、及びポリエステル系樹脂(A)との相溶性に優れる点で好ましい。
モノアミンとしては、例えば、1級又は2級のアルキルアミン等が挙げられる。このようなモノアミンとしては、例えば、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミンが挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂(A)との加工性を良好とする観点から、ブチルアミン及びシクロヘキシルアミンが好ましい。
【0031】
また、モノカルボン酸及び酸無水物は、イソシアネート基との反応により生成する結合部位(上記一般式(1)中のX、X)の耐熱性が優れる点、及びカルボジイミド化合物(B)が分解した際にイソシアネートガスが発生することを効果的に抑制できる点で好ましい。
モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ラウリン酸、ミルスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸等が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂(A)との加工性を良好とする観点から、酢酸、プロピオン酸及びオクタン酸が好ましい。
酸無水物としては、無水フタル酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸等が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂(A)との加工性を良好とする観点から、無水フタル酸、無水酢酸及び無水コハク酸が好ましい。
【0032】
(R
上記一般式(1)中、Rは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有する構造である。上記ジイソシアネート化合物は、1つ又は2つ以上のベンゼン系芳香環を有しており、上記2つイソシアネート基は、それぞれ、同一の又は異なるベンゼン系芳香環に直接結合している。各イソシアネート基が結合しているベンゼン系芳香環は、該イソシアネート基の結合位置に対するオルト位の両方ともが、置換基を持つことはない。すなわち、各イソシアネート基が結合しているベンゼン系芳香環は、該イソシアネート基の結合位置に対するオルト位の一方のみに置換基を持つか、又は、両方ともに置換基を持たない。
【0033】
このようなRを有するカルボジイミド化合物(B)は、カルボジイミド基(-N=C=N-)が、ベンゼン系芳香環に直接結合しているため、カルボキシ基との反応性が高く、従来の脂肪族ポリカルボジイミドより低いカルボジイミド基濃度でも、ポリエステル系樹脂(A)に対して、優れた耐加水分解性を発揮することができると考えられる。
【0034】
また、本発明に用いるカルボジイミド化合物(B)は、特に、イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環のイソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有するジイソシアネート化合物に由来する2価の残基Rを有しているため、溶融混練及び成形加工時の加熱によりカルボジイミド化合物(B)が分解したとしても、生成するイソシアネートの反応性が高く、ガスとして組成物外に放出されることを効果的に抑制できる。
【0035】
特に、上記所定のRを有するカルボジイミド化合物(B)が分解して生成するイソシアネートは、従来のカルボジイミド化合物(例えば、イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環のイソシアネート基と結合する位置の両オルト位に置換基を有するジイソシアネート化合物に由来する2価の残基をもつカルボジイミド化合物)が分解して生成するイソシアネートに比べて、反応性が高いため、ポリエステル系樹脂(A)中の成分と反応し易く、樹脂中に取り込まれ易いと推察される。
また、特にRの部分の分子量が比較的大きなカルボジイミド化合物(B)の場合には、分解生成するイソシアネートの分子量も比較的大きくなるため、低分量のものに比べてポリエステル系樹脂(A)中にさらに残り易くなるものと推察される。
【0036】
上記ジイソシアネート化合物は、イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環のイソシアネート基と結合する位置の両オルト位には、置換基を持たない又は1つのみ置換基を有する構造をもつものであれば、特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート(トルエンジイソシアネートともいう。また、以下「TDI」と略記する場合がある。)、トリジンジイソシアネート(ジメチルビフェニルジイソシアネートともいう。以下「TODI」と略記する場合がある。)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」と略記する場合がある。)、ナフタレンジイソシアネート(以下「NDI」と略記する場合がある。)及びパラフェニレンジイソシアネート(1,4-フェニレンジイソシアネートともいう。)等が挙げられる。
【0037】
ここで、トリレンジイソシアネートには、2,4-TDI及び2,6-TDIの2種類の異性体が存在する。このようなトリレンジイソシアネートとしては、2,4-TDI及び2,6-TDIの混合物が好ましく、具体的には2,4-TDI(80モル%)及び2,6-TDI(20モル%)の混合物が一般的である。
【0038】
また、ジフェニルメタンジイソシアネートには、2,2’-MDI、2,4’-MDI及び4,4’-MDIの3種類の異性体が存在する。このようなジフェニルメタンジイソシアネートとしては、4,4’-MDIの単体や、2,4’-MDI及び4,4’-MDIの混合物が好ましい。中でも生成するカルボジイミド化合物(B)の溶融粘度の上昇を抑制する観点で、2,4’-MDI及び4,4’-MDIの混合物がより好ましい。このような2,4’-MDI及び4,4’-MDIの混合物としては、2,4’-MDIの割合が30~70モル%であるものが好ましく、40~65モル%であるものがより好ましく、50~60モル%であるものが更に好ましく、ここで4,4’-MDIの割合は混合物の全体(100モル%)から2,4’-MDIの割合を引いた残部である。
【0039】
また、トリジンジイソシアネートとしては、一般的には、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネートである。
また、ナフタレンジイソシアネートとしては、一般的には、1,5-ナフタレンジイソシアネートである。
【0040】
上記ジイソシアネート化合物は、耐加水分解性及びイソシアネートガス発生を効果的に抑制する観点で、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート及びパラフェニレンジイソシアネートから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート及びパラフェニレンジイソシアネートから選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、ジフェニルメタンジイソシアネートを含むことが更に好ましく、2,4’-MDI及び4,4’-MDIの混合物を含むことがより更に好ましい。
【0041】
また、上記ジイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート及びパラフェニレンジイソシアネートからなる群から選択される1種以上を含む場合、ジイソシアネート化合物の全体における、上記群から選択される1種以上の化合物の割合(合計)は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、上記群から選択される1種以上の化合物のみからなってもよい。また、製造管理のし易さ及び生産コストの低減の観点で、上記ジイソシアネート化合物は、上記群から選択される1種であることが好ましい。
【0042】
また、上記ジイソシアネート化合物が、2,4’-MDI及び4,4’-MDIの混合物を含む場合、ジイソシアネート化合物の全体を100モル%としたときに、2,4’-MDIの割合が30~70モル%であり、4,4’-MDIの割合が30~70モル%であることが好ましい。2,4’-MDIの割合が30モル%以上の場合、カルボジイミド化合物(B)がゲル化し難くなり、保存安定性及び溶媒への溶解性を良好にすることができる。また、2,4’-MDIの割合を70モル%以下とすることにより、立体障害が大きくなり過ぎず、カルボジイミド化合物(B)の反応性が良好となり、ポリエステル系樹脂(A)と共に用いた際に所望の性能が得易くなる。このような観点から、上記ジイソシアネート化合物中の、2,4’-MDIの割合は、より好ましくは40~65モル%であり、更に好ましくは50~60モル%であり、4,4’-MDIの割合は、より好ましくは35~60モル%、更に好ましくは40~50モル%である。
【0043】
また、カルボジイミド化合物(B)の合成時にモノカルボジイミドを生成させないようにする観点から、上記ジイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートである場合、上記有機化合物は、フェニルイソシアネートを除くモノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
なお、上記ジイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートであり、上記有機化合物が、フェニルイソシアネートである場合、nは4~20の数であることが好ましい。
【0044】
なお、上記ジイソシアネート化合物が2種以上のジイソシアネート化合物を含む場合、Rは、2種類以上の残基で表される。
【0045】
(R
上記一般式(1)中、Rは、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基を表す。なお、本明細書中、ジオール化合物とは、分子中に水酸基を2個有する化合物を意味する。
【0046】
本発明に用いるカルボジイミド化合物(B)は、カルボジイミド基に隣接して上記ジオール化合物の残基及びウレタン結合を有するため、ポリエステル系樹脂(A)と馴染みがよく、より均一にポリエステル系樹脂(A)中に分散させることができると考えられる。そのため、溶融混練時に組成物内での局所的な架橋反応を起こさず、粘度上昇を抑制できると考えられる。
【0047】
上記ジオール化合物としては、分子中に水酸基を2個有する高分子化合物、低分子化合物が挙げられる。
上記分子中に水酸基を2個有する高分子化合物としては、ポリエーテルポリオール(ポリアルキレンオキシドグリコール)、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、シリコーンジオール、ポリオレフィンポリオール、ポリウレタンポリオール、アルカン(炭素数21~)ジオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度、及び溶液粘度の観点から、好ましくはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びアルカンジオールから選ばれる1種以上、より好ましくはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールから選ばれる1種以上である。更に、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性の観点から、好ましくはポリエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオール、特に好ましくポリエーテルポリオールである。
【0048】
上記分子中に水酸基を2個有する低分子化合物としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、アルカン(炭素数7~20)ジオール等のアルカンジオール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式脂肪族基を有するジオール、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン等のアルケンジオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン、キシレングリコール、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタル酸等の芳香環を有するジオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度、及び溶液粘度の観点から、好ましくはアルカンジオール又は芳香環を有するジオール、より好ましくはアルカンジオール、更に好ましくはエチレングリコールである。
【0049】
上記ジオール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に耐加水分解性の向上及び溶融混練時の溶融粘度を好適に調整する観点からは、低分子のジオール化合物と高分子のジオール化合物とを組み合わせて用いることが好ましい。
また、上記ジオール化合物の数平均分子量としては、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性、溶融粘度、及び溶液粘度の観点から、好ましくは100~40,000、より好ましくは150~10,000、更に好ましくは200~1,000である。なお、数平均分子量は、ゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。ただし、低分子化合物についてはこの限りではない。
【0050】
(X、X
上記一般式(1)中、X、Xは前記有機化合物のイソシアネート基と反応し得る官能基と前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。例えば、上記有機化合物がモノイソシアネートの場合、X、Xは下記式(I)で表される基であり、上記有機化合物がモノアルコールの場合、X、Xは下記式(II)で表される基であり、上記有機化合物がモノアミンの場合、X、Xは下記式(III)で表される基であり、上記有機化合物がモノカルボン酸の場合、X、Xは下記式(IV)で表される基であり、上記有機化合物が酸無水物の場合、X、Xは下記式(V)で表される基である。
【0051】
【化4】
【0052】
【化5】
【0053】
【化6】
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
(n、m)
上記一般式(1)中、n、mは1~20の数を表す。
特に上記一般式(1)中、nは、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性、溶融粘度上昇抑制及びイソシアネートガス発生の抑制の観点から、好ましくは1~15、より好ましくは2~10である。なお、上記ジイソシアネート化合物がトリレンジイソシアネートであり、上記有機化合物が、フェニルイソシアネートである場合、nは、特に4~20の数であることが好ましい。
また、上記一般式(1)中、mは、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性及び溶融粘度上昇抑制の観点から、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~3、より更に好ましくは1である。
なお、上記一般式(1)中、nとmとの関係は、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性の観点から、好ましくはn≧mであり、より好ましくはn>mである。
【0057】
なお、上記一般式(1)中に、構成単位(N):「―N=C=N-R―」と、構成単位(M)「―NH-CO-O-R-O-CO-NH-R―」とが、それぞれ複数ある場合、各構成単位の結合の仕方は、ブロック結合であってもよいし、ランダム結合であってもよい。
すなわち、上記一般式(1)中、n及びmは、カルボジイミド化合物(B)中に含まれる構成単位(N)及び構成単位(M)の数を示しているだけであり、上記一般式(1)に表されるような、構成単位(N)及び構成単位(M)がブロック結合したカルボジイミド化合物に限定されるものではない。
【0058】
(カルボジイミド当量)
カルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド当量(カルボジイミド基1mol当たりの化学式量)は、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性及びイソシアネートガス発生の抑制の観点から、好ましくは200~1,500、より好ましくは200~1,250、更に好ましくは200~1,000であり、より更に好ましくは200~700である。
【0059】
(カルボジイミド化合物(B)の含有量)
上記カルボジイミド化合物(B)の含有量は、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性及びイソシアネートガス発生の抑制の観点から、ポリエステル系樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部であり、好ましくは0.2~7質量部、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0060】
(カルボジイミド化合物(B)の製造方法)
本発明のカルボジイミド化合物(B)は、公知の方法によって製造することができる。
例えば、
(i)ジイソシアネート化合物(a)とジオール化合物(b)とを反応させてウレタン結合を含む両末端イソシアネートの化合物(以下、「(d)成分」ともいう)を生成し、その後、(a)成分、(d)成分、末端封止剤(c)及び触媒の存在下でカルボジイミド化及び末端封止を行う方法、
(ii)ジイソシアネート化合物(a)を触媒の存在下でカルボジイミド化してポリカルボジイミド(以下、「(e)成分」ともいう)を得て、次いで、(e)成分にジオール化合物(b)、及び末端封止剤(c)を添加して、共重合反応及び末端封止反応する方法、
(iii)ジイソシアネート化合物(a)、ジオール化合物(b)、及び末端封止剤(c)を触媒の存在下でウレタン化反応、カルボジイミド化反応、及び末端封止反応を同時に行う方法等が挙げられる。
これらの中でも、生産性の観点から、上記(i)の方法によって製造することが好ましい。
具体的には、ジイソシアネート化合物(a)とジオール化合物(b)とを、ジオール化合物(b)の水酸基に対して、ジイソシアネートのイソシアネート基が過剰量となるように混合してウレタン化反応を行い、次いで、末端封止剤(c)、及びカルボジイミド化触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物等を添加して、無溶媒又は不活性溶媒中で、カルボジイミド化反応を行うことが好ましい。
【0061】
ここで、上記ジイソシアネート化合物(a)及びジオール化合物(b)の具体例としては前述のとおりである。なお、上記ジイソシアネート化合物及びジオール化合物はそれぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記末端封止剤(c)は、前述のイソシアネート基と反応し得る官能基を1つ有する有機化合物であり、具体例は前述のとおりである。なお、上記有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記有機化合物の配合量は、上記一般式(1)中のn、mが上記範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0062】
上記カルボジイミド化反応に用いられる触媒としては、例えば、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、1,3-ジメチル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド及び3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド1-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド等を挙げることができ、これらの中でも、反応性が良く、工業的に入手の容易な3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドが好ましい。これらは、単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
触媒の使用量は、使用する触媒の種類に応じて適宜決定できるが、好ましくはジイソシアネート化合物(a)100質量に対して、0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5.0質量部、更に好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0064】
上記カルボジイミド化反応は、無溶媒でも行うことができ、溶媒中で行うこともできる。使用できる溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、及びジオキソラン等の脂環式エーテル:ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素:クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、パークレン、トリクロロエタン、及びジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、及びシクロヘキサノン等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
また、上記(a)成分と(b)成分とのウレタン化反応の条件は、特に限定はされず、使用する原料等に応じて適宜決定することができる。例えば、反応温度は、生産性の観点から、好ましくは30~200℃、より好ましくは35~120℃、更に好ましくは40~80℃である。
【0066】
また、上記カルボジイミド化反応の条件は、特に限定はされず、使用する原料等に応じて適宜決定することができる。例えば、反応温度は、溶媒を用いない場合、生産性の観点から、好ましくは40~250℃、より好ましくは60~200℃、更に好ましくは80~150℃であり、溶媒中で反応を行う場合は、40℃以上、溶媒の沸点以下であることが好ましい。さらに、反応時間は、生産性の観点から、好ましくは10分~20時間、より好ましくは1時間~10時間、更に好ましくは2時間~4時間である。
【0067】
<その他の成分>
ポリエステル系樹脂組成物には、必要に応じて、顔料、充填剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0068】
<ポリエステル系樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)の合計含有量>
本発明のポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)の合計含有量は、ポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性、機械特性、溶融粘度上昇抑制、加工性及びイソシアネートガス発生の抑制の観点から、好ましくは90~100質量%、より好ましくは92~100質量%、更に好ましくは95~100質量%である。
【0069】
<ポリエステル系樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、例えば、ポリエステル系樹脂(A)に対して、カルボジイミド化合物(B)、及び必要に応じて加えるその他の成分を配合し、溶融混練することにより製造することができる。このような本発明のポリエステル系樹脂組成物は、上記カルボジイミド化合物(B)を用いることにより、溶融混練時にもイソシアネートガスが発生し難いため、作業環境を悪化させることがない。また、上記カルボジイミド化合物(B)を用いることにより、溶融粘度の大幅な上昇を抑えることができ、溶融混練時の作業性を高めることができるため、ポリエステル系樹脂組成物の生産性に優れていると考えられる。
【0070】
溶融混練は加熱手段を備えたミキサーで行うことができる。各材料をミキサーに投入する順序に特に制限はないが、ベースとなるポリエステル系樹脂を先に投入して溶融した後に、カルボジイミド化合物、及び必要に応じて加える添加剤を投入することが好ましい。
【0071】
溶融混練の時間は、スクリューの形状や回転速度等により適宜決定することができ、通常1~30分程度である。また、溶融混練時の温度はベースとなるポリエステル系樹脂の種類により異なるが、通常150~350℃程度である。
【0072】
本発明のポリエステル系樹脂組成物によれば、製造工程において作業環境を悪化させることなく、良質の成形品を得ることができる。
【0073】
本発明のポリエステル系樹脂組成物から成形品を得る場合、上述の溶融混練時に押出し成形、射出成形、ブロー成形等により成形してもよいし、一旦、マスターバッチ等にコンパウンド化して、その後、他の材料と溶融混練して成形を行ってもよい。
【0074】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、いずれの成形方法においても、加熱成形時にイソシアネートガスの発生を効果的に抑制でき、作業環境を悪化させることがなく、また、成形時に溶融粘度が大幅に上昇することがないため、作業性が良好である。また、本発明のポリエステル系樹脂組成物により成形された成形品は、耐加水分解性が良好であることから、強度等の諸性能に優れるものである。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
以下、合成例、実施例及び比較例で用いた各種材料を示す。
<ジイソシアネート化合物>
・2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート54質量%と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート46質量%の混合物(2,4’-MDI(54%)と4,4’-MDI(46%)の混合物):東ソー株式会社製、製品名「モノメリックMDI;ミリオネートNM」
・4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI):東ソー株式会社製、製品名「ミリオネートMT」
・2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%の混合物(2,4-TDI(80%)と2,6-TDI(20%)の混合物):三井化学SKCポリウレタン株式会社製、製品名「コスモネートT-80」
・4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI):住化コベストロウレタン株式会社製、製品名「デスモジュールW」
・2,4,6-トリイソプロピルフェニル-1,3-ジイソシアネート:シンセシア社製、製品名「TRIDI」
【0078】
<ジオール化合物>
・ポリカーボネートポリオール1:宇部興産株式会社製、製品名「エタナコールUH-50」、分子量504
・ポリカーボネートポリオール2:旭化成ケミカルズ株式会社製、製品名「デュラノールT-5650E」、分子量523
・ポリエステルポリオール1:川崎化成工業株式会社製、製品名「マキシモールRFK-505」、分子量442
・ポリエステルポリオール2:川崎化成工業株式会社製、製品名「マキシモールRFK-509」、分子量573
・ポリエステルポリオール3:株式会社クラレ製、製品名「クラレポリオールP-1020」、分子量1000
・ポリエステルポリオール4:株式会社クラレ製、製品名「クラレポリオールP-520」、分子量500
・ポリエーテルポリオール1:日本油脂株式会社製、製品名「ユニオールPB-500」、分子量500
・ポリエーテルポリオール2:三洋化成工業株式会社製、製品名「サンニックスPP-400」、分子量405
【0079】
<末端封止剤>
・フェニルイソシアネート:ランクセス株式会社製
・イソプロピルアルコール:関東化学株式会社製
・1-オクタノール:東京化成工業株式会社製
・ドデシルアルコール:関東化学株式会社製
・シクロヘキシルアミン:東京化成工業株式会社製
・オクタン酸:東京化成工業株式会社製
・無水フタル酸:東京化成工業株式会社製
<カルボジイミド化触媒>
・3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド:四国化成工業株式会社製、製品名「MPO」
【0080】
<ポリエステル系樹脂(A)>
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、製品名「ノバデュラン5010L」
・ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂:帝人化成株式会社製、製品名「TRN-8500FF」
・ポリ乳酸(PLA)樹脂:Natureworks社製、製品名「Ingeo Biopolymer4032D」
【0081】
(合成例1)
表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤とを、表1の割合で、還流管および攪拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下60℃で1時間撹拌した後、カルボジイミド化触媒を表1の割合で添加し、100℃で3時間撹拌した。
その後、赤外吸収(IR)スペクトル測定によって、波長2270cm-1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認して、m=1、n=2のカルボジイミド化合物P1を得た。
【0082】
(合成例2)
合成例2では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=3のカルボジイミド化合物P2を得た。
【0083】
(合成例3)
合成例3では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=3のカルボジイミド化合物P3を得た。なお、表1に示されるように、末端封止剤は、フェニルイソシアネートとイソプロピルアルコールとを併用しているが、これらが混ざり合うとそれぞれの末端封止剤としての機能が消失する場合があるため、先にイソプロピルアルコールを配合後に、十分な時間差を設けてフェニルイソシアネートを配合した。
【0084】
(合成例4)
合成例4では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=5のカルボジイミド化合物P4を得た。
【0085】
(合成例5)
表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物を、還流管および攪拌機付き反応容器に入れ、撹拌しながら表1に示す末端封止剤を添加し、窒素気流下100℃で2時間撹拌した後、カルボジイミド化触媒を添加して100℃で3時間撹拌した。なお、各成分の配合割合は表1に示すとおりとした。
その後、赤外吸収(IR)スペクトル測定によって、波長2270cm-1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認して、m=1、n=5のカルボジイミド化合物P5を得た。
【0086】
(合成例6)
合成例6では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=5のカルボジイミド化合物P6を得た。
【0087】
(合成例7)
合成例7では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合すると共に、窒素気流下での攪拌を60℃で1時間から160℃で2時間に変更した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=5のカルボジイミド化合物P7を得た。
【0088】
(合成例8)
合成例8では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=8のカルボジイミド化合物P8を得た。
【0089】
(合成例9)
合成例9では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合すると共に、カルボジイミド化触媒添加後の100℃での攪拌を3時間から4時間に変更した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=4のカルボジイミド化合物P9を得た。
【0090】
(合成例10)
合成例10では、表1に示すジイソシアネート化合物とカルボジイミド化触媒とを、表1の割合で還流管および攪拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下180℃で4時間撹拌した後、温度を150℃まで下げた。その後ジオール化合物と、末端封止剤とを表1の割合で添加し、150℃で1時間撹拌した。
その後、赤外吸収(IR)スペクトル測定によって、波長2270cm-1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認して、m=1、n=6のカルボジイミド化合物P10を得た。
【0091】
(合成例11)
合成例11では、表1に示すジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、末端封止剤と、カルボジイミド化触媒とを、表1の割合で配合した以外は、合成例1と同様の方法で、m=1、n=6のカルボジイミド化合物P11を得た。
【0092】
【表1】
【0093】
(実施例1)
ポリエステル系樹脂(A)としてPBT樹脂:98質量部を、ラボミキサーを用いて250℃の条件下で溶融させた後、カルボジイミド化合物(B)として合成例1で得られたカルボジイミド化合物P1:2質量部を加え、3分間混合して、ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0094】
(実施例2)
実施例2では、PBT樹脂の配合量を98質量部から95質量部に、カルボジイミド化合物P1の配合量を2質量部から5質量部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0095】
(実施例3~10)
実施例3~10では、合成例1で得られたカルボジイミド化合物P1に替えて、合成例2~9で得られたカルボジイミド化合物P2~9をそれぞれ用いると共に、PBT樹脂及び各カルボジイミド化合物の各配合量を表2に示す割合とした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0096】
(比較例1及び2)
比較例1及び2では、合成例1で得られたカルボジイミド化合物P1に替えて、合成例10及び11で得られたカルボジイミド化合物P10及び11をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0097】
(比較例3)
比較例3では、PBT樹脂の配合量を98質量部から85質量部に、カルボジイミド化合物P1の配合量を2質量部から15質量部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0098】
(実施例11~20及び比較例4~6)
実施例11~20及び比較例4~6では、PBT樹脂に替えてPET樹脂を用いると共に、溶融温度を250℃から280℃に変更した以外は、それぞれ実施例1~10及び比較例1~3と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0099】
(実施例21~30及び比較例7~9)
実施例21~30及び比較例7~9では、PBT樹脂に替えてPLA樹脂を用いると共に、溶融温度を250℃から200℃に変更した以外は、それぞれ実施例1~10及び比較例1~3と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0100】
[評価]
上記実施例及び比較例に係るポリエステル系樹脂組成物について、下記に示す特性評価を行った。結果を表2~4に示す。
【0101】
[1]イソシアネートガス発生
(実施例1~20、並びに比較例1~6)
溶融混練したポリエステル系樹脂組成物を300℃で20分間加熱し、GC-MSにて発生するガスを分析した。
GC-MSは、株式会社島津製作所製、製品名「6890GCシステム」を用いた。
イソシアネートガスの検出量(発生量)は少ないほど好ましく、検出量に応じて、以下の検出レベルで評価した。
<検出レベルとその基準値>
A:イソシアネートガスの検出量が500ppm未満である場合
B:イソシアネートガスの検出量が500ppm以上1000ppm未満である場合
C:イソシアネートガスの検出量が1000ppm以上である場合
【0102】
(実施例21~30及び比較例7~9)
実施例21~30及び比較例7~9では、加熱温度を300℃から200℃に変更した以外は、実施例1等と同様の方法で、ガス分析を行い、イソシアネートガスの検出量の評価を行った。
【0103】
[2]強度保持率(耐加水分解性)
(実施例1~10並びに比較例1~3)
耐加水分解性の評価指標として、以下の方法により、高度加速寿命試験後の強度保持率(%)を求めた。
<高度加速寿命試験>
溶融混練したポリエステル系樹脂組成物を、軟化点以上の温度で平板プレスし、厚み約300μmのシートを作製し、該シートから幅10mm長さ70mmの短冊シートを作製した。
短冊シートを、高度加速寿命試験装置(ESPEC社製 HAST CHAMBER EHS-210M)に入れ、121℃、100%RHの条件下で、72時間及び120時間保持して、高度加速寿命試験を行った。
<引張強度の測定>
上記試験前のサンプルと、上記試験72時間経過後のサンプルと、上記試験120時間経過後のサンプルのそれぞれについて、下記の条件で引張強度の測定を行った。
引張強度の測定は、引張試験機(INSTRON社製、製品名「INSTRON3365」)を用いて、室温(20℃±5℃)にて行った。測定は、各サンプル5点(短冊シート5枚)ずつ行い、その測定値(N=5)の平均値を、そのサンプルの引張強度とした。
<強度保持率の算出>
強度保持率(%)は、上記試験前のサンプルに対する、上記試験72時間経過後又は120時間経過後のサンプルの引張強度の比率として、下記式(I)により算出した。
強度保持率=[試験後の引張強度]/[試験前の引張強度]×100(%)・・・(I)
強度保持率は、値が大きいほど、高度加速寿命試験の前後において引張強度が維持されていることを意味し、ポリエステル系樹脂組成物としての耐加水分解性に優れることを意味している。
【0104】
(実施例11~20及び比較例4~6)
実施例11~20及び比較例4~6では、高度加速寿命試験における保持時間を72時間及び120時間から、24時間及び40時間に変更した以外は、実施例1等と同様の方法で、強度保持率を求めた。
【0105】
(実施例21~30及び比較例7~9)
実施例21~30及び比較例7~9では、高度加速寿命試験において、高度加速寿命試験装置に替えて、恒温恒湿器(ESPEC社製PH-2KT-E)を用いると共に、保持条件を85℃、85%RHの条件下で、24時間及び48時間保持に変更した以外は、実施例1等と同様の方法で、強度保持率を求めた。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
表2~4に示されるように、本発明で特定するカルボジイミド化合物(B)であるカルボジイミド化合物P1~P9を所定の割合で含むポリエステル系樹脂組成物(実施例1~30)は、耐加水分解性に優れ、イソシアネートガスが発生し難いこと(検出レベルA、B)が確認された。
【0110】
これに対し、本発明で特定するカルボジイミド化合物(B)以外のカルボジイミド化合物P10及びP11を含有するポリエステル系樹脂組成物(比較例1、2、4、5、7及び8)及び本発明で特定するカルボジイミド化合物(B)であるカルボジイミド化合物P1を含むがその含有量が多すぎるポリエステル系樹脂組成物(比較例3、6及び9)は、本発明のポリエステル系樹脂組成物(実施例1~30)に比べて、いずれもイソシアネートガスの発生量が多い(検出レベルC)ことが確認された。
【0111】
なお、本発明で特定するカルボジイミド化合物(B)以外のカルボジイミド化合物P10及びP11を含有する場合は、組み合わせるポリエステル系樹脂(A)の種類(例えば、PBT樹脂)との関係によっては、得られるポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性が悪化することが確認された。
また、カルボジイミド化合物の含有量が多すぎる場合は、組み合わせるポリエステル系樹脂(A)の種類によらず、得られるポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性が悪化することが確認された。