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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】カートリッジ型のメカニカルシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20230323BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
F16J15/34 K
F04D29/12 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019140239
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021021471
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(74)【代理人】
【識別番号】100213883
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 直人
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇人
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-075209(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042085(WO,A1)
【文献】特開2014-059039(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119270(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F04D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールケース及びこれに取り付けられた静止側メカニカルシール構成部材からなる静止側密封要素と回転軸に取外し可能に固定されたスリーブ及びこれに取り付けられた回転側メカニカルシール構成部材からなる回転側密封要素とを、連結手段により、両密封要素で構成されるメカニカルシール装置の使用形態と同一形態で一時的に連結しておくように構成されたカートリッジ型のメカニカルシール装置において、
前記連結手段が、シールケース外においてスリーブに設けた回転側連結リング体と、当該リング体の外周面に回転軸と同心をなして形成された円環状の回転側凹溝と、当該リング体の外周面に対向する状態でシールケースに設けた複数個の静止側連結体と、各静止側連結体に前記回転側凹溝と対向する状態で形成された静止側凹溝と、前記回転側凹溝及び各静止側凹溝に係合する状態で当該両凹溝間に形成される連結空間に抜き差し可能な連結棒とを具備して、当該連結空間にこの連結棒を差し込むことによりシールケースとスリーブとを相対運動不能に連結するように構成されていることを特徴とするカートリッジ型のメカニカルシール装置。
【請求項2】
前記回転側凹溝及び各静止側凹溝が、方形状の断面形状をなすものであることを特徴とする、請求項1に記載するカートリッジ型のメカニカルシール装置。
【請求項3】
前記各静止側連結体に形成された静止側凹溝が、前記回転側凹溝と同心をなす円弧形状のものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載するカートリッジ型のメカニカルシール装置。
【請求項4】
前記連結棒が、可撓性を有するプラスチック材からなる真直状の円柱体であり、回転側凹溝及び静止側凹溝に沿って湾曲変形した状態で前記連結空間に差し込まれるものであることを特徴とする、請求項3に記載するカートリッジ型のメカニカルシール装置
【請求項5】
スリーブが、これに取り付けられたスリーブ固定用リング体を介して回転軸に取外し可能に固定されたものであり、前記回転側連結リング体が当該スリーブ固定用リング体で兼用構成されていることを特徴とする、請求項1~4の何れかに記載するカートリッジ型のメカニカルシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスポンプ、ブロワ、圧縮機、タービンや攪拌機等の回転機器に軸封手段として装着されるメカニカルシール装置であって、回転機器への組み込み及び回転機器からの取り外しを容易に行うことができるカートリッジ型のメカニカルシール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシール装置は多くのメカニカルシール構成部材で構成されているため、回転機器への組み込み作業及び回転機器からの取り外しや再組み込みを必要とするメンテナンス作業が極めて困難なものである。
【0003】
そこで、従来からも、例えば特許文献1~3に開示される如く、シールケース及びこれに取り付けられた静止側メカニカルシール構成部材からなる静止側密封要素と回転軸に取外し可能に固定されたスリーブ及びこれに取り付けられた回転側メカニカルシール構成部材からなる回転側密封要素とを、適宜の連結手段により、両密封要素で構成されるメカニカルシール装置の使用形態と同一形態(組み立て形態)に一時的に連結して、組み立て形態のままで回転機器への組み込み、取外しを行いうるように構成されたカートリッジ型のメカニカルシール装置が提案されている。
【0004】
すなわち、特許文献1に開示されたメカニカルシール装置(以下「第1従来シール装置」という)の連結手段は、複数個の連結体を夫々シールケースとスリーブとに取り付けることにより、両密封要素を連結するように構成されており、特許文献2に開示されたメカニカルシール装置(以下「第2従来シール装置」という)の連結手段は、シールケースに環状の係合突起を設け、この係合突起にスリーブに取り付けた複数個の連結体を夫々係合させることにより、両密封要素を連結するように構成されており、特許文献3に開示されたメカニカルシール装置(以下「第3従来シール装置」という)の連結手段は、シールケースに取り付けた複数個の連結体を夫々スリーブに形成した環状溝に係合させることにより、両密封要素を連結するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-4528号公報
【文献】特開2006-70942号公報
【文献】特開2013-7477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、第1~第3従来シール装置の連結手段は、何れも、複数個の連結体を夫々シールケース及び/又はスリーブにボルト等のネジ具で取り付けることにより両密封要素を連結するものであるから、メカニカルシール装置の組み込み時や取外し時において、更にメカニカルシール装置の組み込み後や取外し後において、多くのネジ具をレンチ、ドライバー等の工具により締め付け、取り外して連結体をシールケース等に着脱させる必要がある。したがって、メカニカルシール装置の組込み作業やメンテナンス作業が極めて面倒であり、これらの作業を効率よく行うことができず、労働負担も大きい。また、連結体はシールケース等に正確に取り付ける必要があるが、複数個の連結体をすべて正確に取り付けるには相当の熟練度が必要となり、作業者が未熟練者である場合には両密封要素を適正な組み立て形態に連結しておくことが困難である。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、静止側密封要素と回転側密封環要素とを容易に連結、連結解除することができ、回転機器への組み込み作業やメンテナンス作業を効率よく容易に行いうるカートリッジ型のメカニカルシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決した本発明は、シールケース及びこれに取り付けられた静止側メカニカルシール構成部材からなる静止側密封要素と回転軸に取外し可能に固定されたスリーブ及びこれに取り付けられた回転側メカニカルシール構成部材からなる回転側密封要素とを、連結手段により、両密封要素で構成されるメカニカルシール装置の使用形態と同一形態で一時的に連結しておくように構成されたカートリッジ型のメカニカルシール装置であって、前記連結手段が、シールケース外においてスリーブに設けた回転側連結リング体と、当該リング体の外周面に回転軸と同心をなして形成された円環状の回転側凹溝と、当該リング体の外周面に対向する状態でシールケースに設けた複数個の静止側連結体と、各静止側連結体に前記回転側凹溝と対向する状態で形成された静止側凹溝と、前記回転側凹溝及び各静止側凹溝に係合する状態で当該両凹溝間に形成される連結空間に抜き差し可能な連結棒とを具備して、当該連結空間に連結体を差し込むことによりシールケースとスリーブとを相対運動不能に連結するように構成されていることを特徴とするカートリッジ型のメカニカルシール装置を提案する。
【0009】
かかるカートリッジ型のメカニカルシールにあっては、前記回転側凹溝及び各静止側凹溝が、方形状の断面形状をなすものであることが好ましい。また、前記各静止側連結体に形成された静止側凹溝が、前記回転側凹溝と同心をなす円弧形状のものであることが好ましい。さらに、前記連結棒が、可撓性を有するプラスチック材からなる真直状の円柱体であり、回転側凹溝及び静止側凹溝に沿って湾曲変形した状態で前記連結空間に差し込まれるものであることが好ましい。また、スリーブが、これに取り付けられたスリーブ固定用リング体を介して回転軸に取外し可能に固定されたものであり、前記回転側連結リング体が当該スリーブ固定用リング体で兼用構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカートリッジ型のメカニカルシール装置にあっては、両密封要素を連結する連結手段が、回転側凹溝及び各静止側凹溝に係合する状態で当該両凹溝間に形成される連結空間に抜き差しすることにより、シールケースとスリーブとを相対運動不能に連結でき、またその連結を解除できるように構成されているから、冒頭で述べた第1~第3シール装置の連結手段のように多くのボルト等のネジ具を締め付け、取り外すようにする場合に比して、レンチ等の工具を必要とせず、両密封要素の連結及び連結解除を極めて効率よく簡便に行うことができる。したがって、本発明によれば、回転機器への組み込み作業やメンテナンス作業を効率よく容易に行いうるカートリッジ型のメカニカルシール装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明に係るカートリッジ型のメカニカルシール装置の一例を示す断面図(断面は図3のI-I線に沿う)である。
図2図2図1の要部拡大図である。
図3図3図1のIII -III 線に沿う断面図である。
図4図4図3と異なる作用状態を示す図3対応の要部拡大図である。
図5図5図3及び図4と異なる作用状態を示す図3対応の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るカートリッジ型のメカニカルシール装置の構成を図面に基づいて具体的に説明する。
【0013】
図1は本発明に係るカートリッジ型のメカニカルシール装置の一例を示す断面図(断面は図3のI-I線に沿う)であり、図2図1の要部拡大図であり、
図3図1のIII -III 線に沿う断面図であり、図4図3と異なる作用状態を示す図3対応の要部拡大図であり、図5図3及び図4と異なる作用状態を示す図3対応の要部拡大図である。
【0014】
図1に示すカートリッジ型のメカニカルシール装置Mは、1個のメカニカルシールで構成されたシングルシールである。このメカニカルシール(メカニカルシール装置)Mは、回転機器(プロセスポンプ、ブロワ、圧縮機、タービン、攪拌機等)の軸封部ハウジング1に取り付けられた円筒状のシールケース2と、シールケース2の内周部にOリング31を介して嵌合された状態で軸方向移動可能に保持された静止密封環3と、当該回転機器の回転軸4に固定されたスリーブ5と、スリーブ5に静止密封環3に直対向した状態で固定された回転密封環6と、静止密封環3を回転密封環6へと押圧附勢するスプリング7とを具備して、両密封環3,6の対向端面である密封端面32,61が接触状態で相対回転することにより、当該接触部分32,61の外周側領域である機内領域Aとその内周側領域である大気領域Bとを区画して機内領域Aの流体(被密封流体)をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールである。なお、以下の説明において、前後とは図1における左右を意味するものとする。
【0015】
シールケース2は、図1に示す如く、ケース本体21と、その基端内周部(前端内周部)に取り付けられたスプリングリテーナ22と、ケース本体21の先端外周部(後端外周部)に一体形成されたフランジ23とを具備する円筒構造体である。シールケース2は、フランジ23をこれに押え板24を当接させると共にフランジ23と軸封部ハウジング1との間に当該フランジ23と同一厚さの座金25を介在させた状態で、軸封部ケーシング1に設けた寸切ボルトであって座金25及び押え板24を貫通させた複数個(1個のみ図示)の取付ボルト26に螺合させた各ナット27を締め付けることにより、軸封部ケーシング1に取り付けられている。すなわち、シールケース2は、各ナット27を締め付けることにより軸封部ケーシング1に取り付けられるものであり、各ナット27を連結ボルト26から外すことにより軸封部ケーシング1から取り外すことができるものである。なお、スプリング7はスプリングリテーナ22に保持されていて、静止密封環3を回転密封環6へと押圧附勢している。
【0016】
また、スリーブ5は、図1に示す如く、軸封部ケーシング1内からシールケース2を貫通してシールケース2外に突出する状態で回転軸4に嵌合された円筒体であり、シールケース2外に突出する基端部分(前端部分)51を、これに設けたスリーブ固定用リング体52を介して固定スクリュー53,54により回転軸4に固定してある。すなわち、スリーブ5の基端部分51に嵌合させたスリーブ固定用リング52を、これに螺合させた第1固定スクリュー53をスリーブ5に形成した係合孔55に係合させることにより、スリーブ5に固定すると共に、当該スリーブ固定用リング体52を、これに螺合させた第2固定スクリュー54をスリーブ5に形成した貫通孔56を介して回転軸4に締め付けることにより、回転軸4に固定することによって、スリーブ5を回転軸4に取外し可能に固定している。
【0017】
而して、上記のメカニカルシール装置Mは、シールケース2及びこれに取り付けられた静止側メカニカルシール構成部材(静止密封環3及びスプリング7等)からなる静止側密封要素Maと、スリーブ5及びこれに取り付けられた回転側メカニカルシール構成部材(固定密封環6等)からなる回転側密封要素Mbとを、以下のような連結手段8により当該メカニカルシール装置Mの使用形態と同一形態(組み立て形態)に連結しておくことによって、かかる形態のまま回転機器に組み込み或いは回転機器から取り外すことができるように構成されている。
【0018】
すなわち、連結手段8は、図1図5に示す如く、シールケース2外においてスリーブ5に設けた回転側連結リング体81と、回転側連結リング体81の外周面82に回転軸4と同心をなして形成された円環状の回転側凹溝83と、回転側連結リング体81の外周面82に対向する状態でシールケース2に設けられた複数個の静止側連結体84と、各静止側連結体84に回転側凹溝83と対向する状態で形成された静止側凹溝85と、回転側凹溝83及び各静止側凹溝85に係合する状態で当該両凹溝83,85間に形成される連結空間86に抜き差し可能な連結棒87とを具備する。
【0019】
回転側連結リング体81は、シールケース2外に突出するスリーブ5の基端部分51に設けられており、この例では、図1に示す如く、前記スリーブ固定用リング体52で兼用構成されている。
【0020】
回転側連結リング体81の外周面82に形成された回転側凹溝83は、図2に示す如く、溝深さH1及び溝幅W1を夫々一定とする断面方形状のものである。
【0021】
複数個の静止側連結体84は、図3に示す如く、シールケース2のケース本体21の基端面部(前端面部)に、その円周方向に等間隔を隔てて一体形成された円弧形状体である。各静止側連結体84の内周面(回転側連結リング体81の外周面82に対向する面)88は、回転軸4と同心をなす円弧面であり、回転側連結リング体81の外周面82に一定間隔H0を隔てて対向している。この例では、ケース本体21に2個の静止側連結体84,84が一体形成されている。
【0022】
各静止側凹溝85は、図2及び図3に示す如く、各静止連結体84の内周面88に回転側凹溝83に対向して円弧状に延びる円弧状の凹溝である。各静止側凹溝85は、回転軸4の軸方向において回転側凹溝83と一致する位置に形成されており、当該回転側凹溝83と同一の断面形状(方形状)をなすものである。すなわち、各静止側凹溝85の溝深さH2及び溝幅W2は、夫々、回転側凹溝83の溝深さH1及び溝幅W1と同一とされている。したがって、回転側凹溝83と各静止側凹溝85との間には、図3に示す如く、回転側連結リング体81と各静止側連結体84との対向周面82,88に沿って円弧状に延びる連結空間86が形成される。この連結空間86は、図2に示す如く、高さH(=H0+H1+H2)、幅W1,W2(W1=W2)の断面方形状をなす空間であって、その中間部分(前記両体81,84の対向周面82,88間の部分(高さH0の部分))は軸方向に開放されている。
【0023】
連結棒87は、図3図5に示す如く、連結空間86に抜き差し可能な円柱体(丸棒体)であり、その径(断面径)Dは、図2に示す如く、凹溝83,85の溝幅W1,W2及び両体81,84の対向周面間隔H0より大きく、且つ連結空間86の高さHと同一又は当該高さHより若干小さくなるように設定されている。この例では、連結棒87の径Dは、連結空間86の高さHより若干小さく設定されており、図2に示す如く、連結棒87が、これを連結空間86に差し込んだ場合において、回転側凹溝83の両縁部(当該凹溝83の両側面と回転側連結リング体81の外周面82との連結部)83a,83b及び静止側凹溝85の両縁部(当該凹溝85の両側面と静止側連結体84の内周面88との連結部)85a,85bに接触する状態で両凹溝83,85に係合するように設定してある。したがって、連結棒87を連結空間86に差し込むことによって、回転側連結リング体81と各静止側連結体84とをその相対運動(軸方向及び径方向への相対運動)を阻止した状態で連結することができる。なお、各静止側連結体84の円周方向長さLは、図3に示す如く、静止側連結体84の両端側において連結空間86に連結棒87を抜き差しできるような大きさの出入り口空間が形成されることを条件として、適宜に設定される。また、このような連結空間86の出入り口空間が形成される範囲において、両体81,84の対向周面82,88の間隔H0は適宜に設定しておくことができ、この例では、図2に示す如く、当該間隔H0を凹溝83,85の溝深さH1,H2と略同一に設定してある。
【0024】
而して、連結棒87は、図3図5に示す如き撓み変形を可能する可撓性を有し且つ図2に示す状態(連結棒87を連結空間86に差し込んだ状態)において回転側連結リング体81と静止側連結体84とを相対運動不能に強固に連結しうる強度を有するプラスチック材で構成されている。
【0025】
すなわち、連結棒87は、図4に示す如く、真直状態で前記出入り口空間から連結空間86に差し込んだ上、連結空間86内へと差し込んでいくと、図5に示す如く、連結空間86に差し込まれた連結棒87部分が連結空間86に沿って(凹溝83,85に沿って)円弧状に変形して、連結空間86を貫通する状態まで差し込まれると、図3に示す如く、凹溝83,85に沿った円弧状に撓み変形する。したがって、連結棒87は、各静止側凹溝85及びこれに対向する回転側凹溝83部分に全面的且つ密に係合することになる。逆に、図3の状態から連結棒87を連結空間86から引き抜いていくと、図5に示す如く、連結空間86から引き抜かれた連結棒87部分は真直形状に変形復帰し、連結棒87は、連結空間86から完全に引き抜かれると、図4に示す如く、真直状態に戻る。また、連結棒87はこれを連結空間86に差し込んでいくことにより、僅かに弾性変形しつつ、回転側連結リング体81の回転側凹溝83の両縁部83a,83b及び静止側連結体86の静止側凹溝85の両縁部85a,85bに強く接触することになる。連結棒87は、このような弾性変形を可能とする可撓性を有するプラスチック材で構成される。そして、連結棒87を構成するプラスチック材としては、このような可撓性に加えて、連結棒87が、図2に示す如く、凹溝83,85に密に係合された状態(回転側凹溝83の両縁部83a,83b及び静止側凹溝85の両縁部86a,86bに密接する状態)では回転側連結リング体81と静止側連結体84との相対運動(軸線方向及び径方向の相対運動)を確実に阻止しうる程度の強度を有するものが使用される。
【0026】
連結棒87は、このような可撓性及び強度を有するプラスチック材で構成されており、具体的には、ナイロン系樹脂、フッソ素系径樹脂、ポリプロピレン等で構成しておくことが好ましい。この例では、連結棒87をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成してある。
【0027】
以上のように構成されたカートリッジ型のメカニカルシール装置Mにあっては、回転側連結リング体81の回転側凹溝83と各静止側連結体84の静止側凹溝85との間に形成された各連結空間86に、図3に示す如く、各々連結棒87を差し込んで、回転側連結リング体81と複数個(2個)の静止側連結体84とを相対運動不能に連結することにより、静止側密封要素Maと回転側密封要素Mbとを当該メカニカルシール装置Mの使用形態と同一形態(組み立て形態)に連結しておくことができる。特に、各連結空間86に差し込まれた連結棒87は、図3に示す如く、円弧状に変形して各静止側凹溝85及びこれに対向する回転側凹溝83部分に全面的且つ密に係合するため、回転側連結リング体81と静止側連結体84,84とが強固に連結され、両密封要素Ma,Mbが適正且つ確実に連結される。
【0028】
このように、回転側連結リング体81と各静止側連結体84との間に形成される複数個(2個)の連結空間86に連結棒87を人為的に差し込むことによって両密封要素Ma,Mbを適正な組み立て形態に連結することができるから、第1~第3従来シール装置の連結手段のようにレンチ等の工具を使用して複数個のネジ具を締め付ける場合に比して、当該メカニカルシール装置Mの回転機器への組み込み時或いは回転機器からの取外し時における両密封要素Ma,Mbの連結作業を極めて容易且つ効率よく行うことができる。
【0029】
しかも、各連結空間86に連結棒87を差し込むだけの極めて簡単な作業により、両密封要素Ma,Mbを適正な組み立て形態に連結することができるから、第1~第3従来シール装置の連結手段による連結作業を行う場合のような熟練度は必要とされず、熟練者は勿論、未熟練者でも、両密封要素Ma,Mbの適正な連結を簡単且つ正確に行うことができる。
【0030】
また、メカニカルシール装置Mを回転機器に組み込んだ後に当該回転機器の運転を開始する場合や、メカニカルシール装置Mを回転機器から取り外してメンテナンス作業を行う場合には、両密封要素Ma,Mbの連結を解除するが、このような連結解除も各連結空間86から連結棒87を人為的に引き抜くだけて行うことできる。したがって、第1~第3従来メカニカルシール装置の連結手段のように複数個のネジ具をレンチ等の工具を使用して各別に取り外すといった面倒で手間のかかる作業を必要とせず、両密封要素Ma,Mbの連結解除を容易且つ迅速に行うことができる。
【0031】
したがって、上記したメカニカルシール装置Mによれば、回転機器への組み込み作業及び再組み込みを含むメンテナンス作業を、作業者に必要以上の労働負担を強いることなく、また高度の熟練度を必要とすることなく、極めて容易且つ効率よく行うことができる。
【0032】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良、変更することができる。
【0033】
例えば、上記した実施の形態では、回転側凹溝83及び各静止側凹溝85を溝幅W1,W2及び溝深さH1,H2を夫々同一とする断面方形状のものとしたが、回転側凹溝83の溝幅W1及び/溝深さH1と各静止側凹溝85の溝幅W2及び/溝深さH2とは異なる寸法とすることも可能である。また、各凹溝83,85の断面形状も方形の他、半円形、台形等、任意に設定することができる。また、連結棒87の断面形状も、円形に限定されず、各凹溝83,85の断面形状に応じて、当該凹溝83,85に適正に係合することを条件として、方形、台形等、任意に設定することができる。
【0034】
また、上記した実施の形態では、静止側凹溝85を回転側凹溝83の円周方向に沿って延びる円弧状とすると共に、連結棒87を可撓性プラスチック製の真直棒で構成して、連結棒87が凹溝83,85に沿って円弧状に変形した状態で当該凹溝83,85に係合するように構成したが、連結棒87は真直形状ではなく凹溝83,85に沿う円弧形状に成形されたものでもよい。この場合、連結棒87の連結空間86への抜き差しを容易に行うために、各静止側凹溝85とこれに隣接する静止側凹溝85との間隔は連結棒87の長さと同程度又はこれより大きく設定しておくことが好ましい。また、このように連結棒87を円弧形状に成形しておく場合、連結棒87の構成材として前記した可撓性を有するプラスチックの他、可撓性を有しない硬質プラスチックや金属を使用することも可能である。
【0035】
また、上記した実施の形態では、各静止側連結体84の内周面88及び静止側凹溝85を回転側連結リング体81の外周面82及び回転側凹溝83に沿う円弧形状としたが、各静止側連結体84の内周面88及び静止側凹溝85は回転側連結リング体81の外周面82の接線方向に平行する直線形状とすることも可能である。
【0036】
また、上記した実施の形態では、1個のメカニカルシールMで構成されるメカニカルシール装置(シングルシール)に本発明を適用したが、本発明は、例えば第3従来シール装置のように複数個のメカニカルシールを軸方向に縦列配置してなるメカニカルシール装置(ダブルシール、タンデムシール等)にも適用することができ、静止側密封要素と回転側密封要素との連結及び連結解除を上記実施の形態と同様に効率よく簡便に行うことができる。
【符号の説明】
【0037】
2 シールケース
4 回転軸
5 スリーブ
8 連結手段
52 スリーブ固定リング体(回転側連結リング体)
81 回転側連結リング体
82 回転側連結リング体の外周面
83 回転側凹溝
84 静止側連結体
85 静止側凹溝
86 連結空間
87 連結棒
M メカニカルシール装置
Ma 静止側密封要素
Mb 回転側密封要素
図1
図2
図3
図4
図5