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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20230323BHJP
   F16J 15/38 20060101ALI20230323BHJP
   F01K 25/10 20060101ALI20230323BHJP
   F01D 11/04 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
F16J15/10 D
F16J15/10 C
F16J15/38
F01K25/10
F01D11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019165709
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021042817
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(74)【代理人】
【識別番号】100213883
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 徹
(72)【発明者】
【氏名】劉 雲鵬
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-165651(JP,U)
【文献】米国特許第05303933(US,A)
【文献】特開昭60-081574(JP,A)
【文献】特開2014-199025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
F16J 15/38
F01K 25/10
F01D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールケースと回転軸との間に配設した一個又は複数個のメカニカルシールにより、機内領域と機外領域との間を区画して機内領域の被密封流体をシールするように構成されており、回転軸の停止時において機内領域を負圧に保持した状態で被密封流体を機内領域外に吸引排出させるようにした軸封装置において、
固定リング体を機外領域に配して回転軸に取り付け、
可動リング体を固定リング体とシールケースとの間に配して第一環状シール部材を介したシール状態で回転軸に軸方向移動自在に嵌合し、
可動リング体とシールケースとの対向端面の一方に、当該対向端面間をシールする第二環状シール部材を回転軸を囲繞する状態で保持し、
前記両リング体間に、可動リング体を前記対向端面が接触又は近接して第二環状シール部材によるシール機能が発揮されるシール位置と当該対向端面が離間して第二環状シール部材によるシール機能が発揮されない非シール位置とに亘って軸方向移動させる可動リング体移動手段を配設して、可動リング体移動手段により、可動リング体を、回転軸の回転時においては前記非シール位置に保持させると共に被密封流体が吸引排出される回転軸の停止時においては前記シール位置に保持させるように構成しており、
前記回転軸が軸本体にスリーブを嵌合させてなり、このスリーブがスリーブ固定体を介して軸本体に取外し可能に固定されており、前記固定リング体が当該スリーブ固定体で兼用構成されていることを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
シールケースと回転軸との間に配設した一個又は複数個のメカニカルシールにより、機内領域と機外領域との間を区画して機内領域の被密封流体をシールするように構成されており、回転軸の停止時において機内領域を負圧に保持した状態で被密封流体を機内領域外に吸引排出させるようにした軸封装置において、
固定リング体を機外領域に配して回転軸に取り付け、
可動リング体を固定リング体とシールケースとの間に配して第一環状シール部材を介したシール状態で回転軸に軸方向移動自在に嵌合し、
可動リング体とシールケースとの対向端面の一方に、当該対向端面間をシールする第二環状シール部材を回転軸を囲繞する状態で保持し、
前記両リング体間に、可動リング体を前記対向端面が接触又は近接して第二環状シール部材によるシール機能が発揮されるシール位置と当該対向端面が離間して第二環状シール部材によるシール機能が発揮されない非シール位置とに亘って軸方向移動させる可動リング体移動手段を配設して、可動リング体移動手段により、可動リング体を、回転軸の回転時においては前記非シール位置に保持させると共に被密封流体が吸引排出される回転軸の停止時においては前記シール位置に保持させるように構成しており
前記可動リング体移動手段が、前記両リング体間に装填されて、可動リング体を前記非シール位置から前記シール位置へと軸方向移動させるべく附勢するスプリングと、可動リング体に螺合された状態で固定リング体に回転自在且つ軸方向移動自在に保持されて、可動リング体を前記スプリングに抗して前記シール位置から前記非シール位置へと軸方向移動させるネジ部材とで構成されていることを特徴とする軸封装置。
【請求項3】
バイナリー発電システムのタービンに装備されるものであり、前記被密封流体が当該タービンの駆動媒体である低沸点流体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載する軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器に装備される軸封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、バイナリー発電システムのタービンに装備される軸封装置としては、特許文献1に開示される如く、タービンのハウジングに取り付けたシールケースと回転軸(タービン軸)との間に配設した二個のメカニカルシールにより、機内領域と機外領域との間を区画して機内領域の被密封流体であるタービンの駆動媒体(例えば、アンモニア、ブタン、ペンタン等の低沸点流体)をシールするように構成されたものが公知である。
【0003】
ところで、上記タービンにおいては、機内領域の被密封流体の純度を保つために被密封流体を交換する必要が生じる場合があり、かかる場合には、まず、回転軸を一旦停止(運転を停止)した上で、機内領域を負圧に保持して被密封流体(低沸点流体)を気化させた状態で被密封流体を回転機器外(タービン外)に吸引排出させることが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-199025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の軸封装置にあっては、回転軸が停止されているためメカニカルシールによるシール機能が適正に発揮されず、しかもシールケースと回転軸との間にはメカニカルシールでシールされる以外に機外領域の大気の侵入を確実に阻止する手段が設けられていないため、被密封流体の吸引排出が開始されると、当該大気がシールケース内に吸い込まれて、機内領域に侵入することになる。
【0006】
したがって、機内領域を適正な負圧状態に保持することが困難となり、被密封流体の吸引排出を良好に行うことができないといった問題があった。
【0007】
なお、このような被密封流体の吸引排出は、バイナリー発電システムのタービン以外の回転機器においても被密封流体の純度保持や回転機器のメンテナンスを行う必要がある等の場合に行われることがあるが、かかる場合にも、当該回転機器に装備されるシングルシール、タンデムシールやダブルシール等の軸封装置において上記同様の問題が生じる。
【0008】
本発明は、被密封流体を機内領域から吸引排出させる必要がある回転機器に装備される軸封装置において、上記した問題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シールケースと回転軸との間に配設した一個又は複数個のメカニカルシールにより、機内領域と機外領域との間を区画して機内領域の被密封流体をシールするように構成されており、回転軸の停止時において機内領域を負圧に保持した状態で被密封流体を機内領域外に吸引排出させるようにした軸封装置において、上記の目的を達成すべく、特に、固定リング体を機外領域に配して回転軸に取り付け、可動リング体を固定リング体とシールケースとの間に配して第一環状シール部材を介したシール状態で回転軸に軸方向移動自在に嵌合し、可動リング体とシールケースとの対向端面の一方に、当該対向端面間をシールする第二環状シール部材を回転軸を囲繞する状態で保持し、前記両リング体間に、可動リング体を前記対向端面が接触又は近接して第二環状シール部材によるシール機能が発揮されるシール位置と当該対向端面が離間して第二環状シール部材によるシール機能が発揮されない非シール位置とに亘って軸方向移動させる可動リング体移動手段を配設して、可動リング体移動手段により、可動リング体を、回転軸の回転時においては前記非シール位置に保持させると共に被密封流体が吸引排出される回転軸の停止時においては前記シール位置に保持させるように構成しておくことを提案するものである
【0010】
かかる軸封装置の好ましい実施の形態にあって、前記軸封装置はバイナリー発電システムのタービンに装備されるものであり、前記被密封流体が当該タービンの駆動媒体である低沸点流体である。
【0011】
また、前記軸封装置にあっては、前記回転軸が軸本体にスリーブを嵌合させてなり、スリーブがスリーブ固定体を介して軸本体に取外し可能に固定されており、前記固定リング体が当該スリーブ固定体で兼用構成されていることが好ましい。また、前記可動リング体移動手段は、前記両リング体間に装填されて、可動リング体を前記非シール位置から前記シール位置へと軸方向移動させるべく附勢するスプリングと、可動リング体に螺合された状態で固定リング体に回転自在且つ軸方向移動自在に保持されて、可動リング体を前記スプリングに抗して前記シール位置から前記非シール位置へと軸方向移動させるネジ部材とで構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の軸封装置にあっては、回転軸の停止時にシールケース内を負圧に保持した状態で被密封流体を回転機器外に吸引排出する場合において、可動リング体をシール位置に保持させておくことにより回転軸とシールケースとの間を可動リング体と第一及び第二環状シール部材とによりシールして、機外領域の大気のシールケース内及び機内領域への侵入を確実に阻止することができる。したがって、回転軸の停止時に機内領域を適正な負圧状態に保持させておくことができ、被密封流体の機内領域外への吸引排出を良好且つ効果的に行うことができる。また、回転軸の駆動時には、可動リング体を非シール位置に保持させておくことにより、可動リング体と回転軸及び/又はシールケースとの間で第一環状シール部材及び/又は第二環状シール部材を介しての相対回転運動が生じず、当該相対回転運動によって生じる摩擦熱により第一環状シール部材及び/又は第二環状シール部材が劣化、損傷することがなく、爾後の被密封流体の吸引排出も良好に行うことができる。
【0013】
さらに、可動リング体移動手段により可動リング体をシール位置又は非シール位置へ軸方向移動させるだけの容易で簡単な操作を行うに過ぎないから、作業者には過度の労働負担や熟練度が必要とされず、被密封流体の吸引排出作業を容易且つ効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明に係る軸封装置の一例を示す断面図である。
図2図2図1の要部を拡大して示す詳細図である。
図3図3図2と異なる作用状態を示す図2対応の断面図である。
図4】本発明に係る軸封装置の変形例を示したもので、図4(A)は図2相当の断面図であり、同図(B)は図3相当の断面図である。
図5】本発明に係る軸封装置の他の変形例を示したもので、図5(A)は図2相当の断面図であり、同図(B)は図3相当の断面図である。
図6】本発明に係る軸封装置の更に他の変形例を示したもので、図6(A)は図2相当の断面図であり、同図(B)は図3相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0016】
図1は本発明に係る軸封装置の一例を示す断面図であり、図2図1の要部を拡大して示す詳細図であり、図3図2と異なる作用状態を示す図2対応の断面図である。
【0017】
図1に示す軸封装置は、回転機器(例えば、バイナリー発電システムのタービン等)のハウジング(以下「機器ハウジング」という)1に取り付けられた円筒状のシールケース2とこれを同心状に貫通する回転軸3との間に軸方向に縦列状に配設した第一及び第二メカニカルシール4a,4bにより被密封流体領域である機内領域Aと大気領域である機外領域Bとの間を区画して機内領域Aの被密封流体Fをシールするように構成されたタンデムシールである。被密封流体Fは、例えばバイナリー発電システムのタービンの駆動媒体(アンモニア、ブタン、ペンタン等)等の低沸点流体である。
【0018】
各メカニカルシール4a,4bは、図1に示す如く、機器ハウジング1に取り付けられたシールケース2の内周部にOリング41a,41bを介して軸方向移動可能に保持された静止密封環42a,42bと、回転軸3の外周部に固定された回転密封環43a,43bと、静止密封環42a,42bを回転密封環43a,43bに押圧接触させるべく附勢するスプリング44a,44bとを具備して、両密封環42a,43a、42b,43bが接触状態で相対回転することによりシール機能を発揮するように構成された端面接触形メカニカルシールである。第一メカニカルシール4aの両密封環42a,43aと第二メカニカルシール4bの両密封環42b,43bとは軸方向位置関係を同一とするタンデム配置されている。両メカニカルシール4a,4b間に形成されるシールケース2内の領域は、シールケース2に形成されたエクスターナル流体給排路21,22により機内領域Aの圧力より低圧のエクスターナル流体(バッファ流体)Eが循環供給されるエクスターナル流体領域Cとされており、第一メカニカルシール4aにより機内領域Aとエクスターナル流体領域Cとが区画されて被密封流体Fがシールされ、第二メカニカルシール4bによりエクスターナル流体領域Cと機外領域Bとが区画されてエクスターナル流体Eの機外領域Bへの漏洩が阻止されている。なお、エクスターナル流体Eとしてはタービンオイル等が使用されている。
【0019】
また、この例では、軸封装置を、これを組み立てた形態のまま回転機器に組み込み或いは当該回転機器から取り外すことができるカートリッジタイプに構成してある。
【0020】
すなわち、図1に示す如く、回転軸3は、回転機器の駆動軸(タービン軸等)である軸本体31に機器ハウジング1内からシールケース2外へと延びる円筒体であるスリーブ32を嵌合させて構成されており、スリーブ32は、これに嵌合する円環状体であるスリーブ固定体33を介して軸本体31に着脱可能に固定されている。この例では、スリーブ32は、図1及び図2に示す如く、スリーブ固定体33をこれに螺合させた第一スクリュー34をスリーブ32のシールケース2外に露出する一定肉厚の基端部32aに締め付けることによりスリーブ32に固定させた状態で、スリーブ固定体33に螺合させた第二スクリュー35をスリーブ32の基端部32aに形成した貫通孔32bを介して軸本体31に締め付けることにより、軸本体31に固定されていて、第二スクリュー35を操作することにより軸本体31に着脱できるようになっている。
【0021】
そして、図1に鎖線図示する如く、シールケース2の機外領域Bに面する端面である基端面2aに複数個のセット爪5を取り付けると共に、セット爪5をスリーブ32の基端部32aの外周部に形成した環状凹溝32cに係合させることにより、シールケース2及びこれに設けられた静止密封環42a,42bやスプリング44a,44b等からなる静止側軸封装置部材とスリーブ32及びこれに設けられた回転密封環43a,43b等からなる回転側軸封装置部材とを当該軸封装置の組み立て形態に連結一体化させることができるようになっている。
【0022】
このように構成されたカートリッジタイプの軸封装置は、静止側軸封装置部材と回転側軸封装置部材とを係合爪5により当該軸封装置の組み立て形態に一体連結したままで、スリーブ固定体33を軸本体31に着脱させることにより、回転機器への組み込み作業やメンテナンス作業等の当該回転機器から取り外し作業を容易且つ効率良く行いうる。
【0023】
ところで、バイナリー発電のタービン等にあっては、冒頭で述べた如く、回転軸3を停止させた状態(回転機器の運転を停止させた状態)で、機内領域Aの被密封流体(低沸点流体)Fの純度を維持する等のため被密封流体Fを吸引排出することがある。すなわち、回転軸3を停止させた状態で、エクスターナル領域Cからエクスターナル流体Eを排除した上で、被密封流体Fを、バキュームポンプ等により、機内領域A(及びシールケース2内)を負圧保持して低沸点流体Fを気化させた状態で機器ハウジング1に形成した吸引排出路1aから機内領域A外(回転機器外)に吸引排出するのである。
【0024】
而して、上記のように構成された軸封装置にあっては、このような被密封流体Fの吸引排出時においてシールケース2内への機外領域Bの大気の侵入を阻止するために、次のような大気侵入阻止装置6が設けられている。
【0025】
すなわち、大気侵入阻止装置6は、図1図3に示す如く、機外領域Bに配してシールケース2と回転軸3との間に設けられており、回転軸3に固定リング体61を取り付けると共に、固定リング体61とシールケース2との間に配した可動リング体62を弾性材製の第一環状シール部材63を介して軸方向移動自在に嵌合し、可動リング体62とシールケース2との対向端面2a,62aの一方に、当該対向端面2a,62a間をシールする弾性材製の第二環状シール部材64を保持し、固定リング体61と可動リング体62との間に、可動リング体62を上記対向端面2a,62aが接触又は近接して第二環状シール部材64によるシール機能が発揮されるシール位置(図3に示す位置)と当該対向端面2a,62aが離間して第二環状シール部材64によるシール機能が発揮されない非シール位置(図2に示す位置)とに亘って軸方向移動させる可動リング体移動手段65を配設してなる。
【0026】
固定リング体61は円環状体であり、この例では、スリーブ32を軸本体31に固定するための前記スリーブ固定体33で兼用構成されている。このように固定リング体61をカートリッジタイプの軸封装置の構成部材であるスリーブ固定体33で兼用することにより、大気侵入阻止装置6の構成を簡略化することができ、また大気侵入阻止装置6を設けることにより当該軸封装置の構造複雑化及び製作コスト高騰を可及的に回避できる。
【0027】
また、可動リング体62は、固定リング体61(スリーブ固定体33)と略同一形状をなす円環状体であって、その内周部に形成した円環状の凹溝62bに第一環状シール部材63を装着、保持させた状態で、固定リング体61とシールケース2との間に配してスリーブ32の基端部32aに嵌合されている。この例では、第一環状シール部材63としてOリングが使用されており、可動リング体62は、スリーブ32との間が第一環状シール部材である第一Oリング63でシールされた状態で、シールケース2側の端面である先端面62aがシールケース2の基端面2aに当接、係止される位置(図3参照)と固定リング体61側の端面である基端面62cが固定リング体61のシールケース2側の端面である先端面61aに当接、係止される位置(図2参照)とに亘って軸方向移動自在にスリーブ32に嵌合されている。また、この例では、第二環状シール部材64として第一環状シール部材63と同様にOリングが使用されており、第二環状シール部材である第二Oリング64は、内径を回転軸3の外径つまりスリーブ32の外径より大きくしたもので、回転軸3と同心をなして当該回転軸3を囲繞する状態で、シールケース2と可動リング体62との対向端面2a,62aの一方に保持されている。この例では、第二Oリング64がシールケース2の基端面2aに形成した円環状の凹溝2bに装着、保持されている。図2に示す如く、第二Oリング64は、可動リング体62が前記非シール位置に位置された状態において、シールケース2の基端面2aから若干突出した状態で前記凹溝2bに保持されており、当該凹溝2bは、第二Oリング64のシールケース2からの脱落を防止するためにアリ溝形状に構成されている。シールケース2の基端面2aからの第二Oリング64の突出量は、可動密封環62の先端面62aがシールケース2の基端面2aに近接又は接触することにより第二Oリング64による両端面2a,62a間のシール機能が適正にシールされるように設定されており、この例では、両端面2a,62aが接触した状態において第二Oリング64による適正なシール機能が発揮されるように設定されている。すなわち、前記シール位置が、図3に示す如く、可動リング体62の先端面62aがシールケース2の基端面2aに接触した状態における当該可動リング体62の軸方向位置、つまり可動リング体62の先端面62aがシールケース2の基端面2aに係止されたときの当該可動リング体62の軸方向位置に設定されている。また、前記非シール位置は、可動リング体62がこれとシールケース2との対向端面2a,62aが第二Oリング64によるシール機能が発揮されない状態に離間する軸方向位置であり、可動リング体62の軸方向移動可能範囲における前記シール位置を除く任意の軸方向位置を選定することができるが、この例では、図2に示す如く、可動リング体62の基端面62cが第2Oリング64に接触することなく固定リング体61の基端面61aに係止されたときにおける当該可動リング体62の軸方向位置に設定されている。
【0028】
而して、可動リング体移動手段65は、図1図3に示す如く、両リング体61,62間に装填されて、可動リング体62を前記シール位置へと軸方向移動させるべく附勢するスプリング66と、可動リング体62に螺合された状態で固定リング体61に回転自在且つ軸方向移動自在に保持されて、一定方向に回転操作(以下「正転操作」という)することにより可動リング体62を前記スプリング66に抗して前記シール位置から非シール位置へと軸方向移動させると共に上記正転操作と逆方向に回転操作(以下「逆転操作」という)することにより前記スプリング66による前記非シール位置から前記シール位置への軸方向移動を許容するネジ部材(以下「第一ネジ部材」という)67と、で構成されている。
【0029】
すなわち、スプリング66は、固定リング体61の先端面61aを押圧する状態で、可動リング体62にその基端面62cに開口する状態で形成された凹部62dに保持されていて、可動リング体62を前記非シール位置から前記シール位置へと附勢移動させる。スプリング66(及び凹部62d)は複数個設けられていて、回転軸3と同心をなす円環状領域においてその周方向に等間隔を隔てて位置する複数個所に配置されている。スプリング66の附勢力(スプリング力)は、可動リング体62を前記非シール位置から前記シール位置へと軸方向移動させることができ且つシールケース2と当該シール位置に配置された可動リング体62との対向端面2a,62a間に第二Oリング64が適正なシール機能を発揮する状態で挟圧されるように設定されている。
【0030】
第一ネジ部材67は、基端部に頭部67aを有すると共に少なくとも先端部分にネジ部67bを形成した頭付ボルト(図示の例では六角ボルト)で構成されており、図1図3に示す如く、固定リング体61に形成した第一ネジ部材67の頭部67a以外の部分(ネジ部67bを含むボルト胴部)より大径の軸方向貫通孔(通称、バカ穴)67cに、頭部67aが固定リング体61の先端面61aと反対側の端面である基端面61bに当接する状態で回転自在且つ軸方向移動自在に挿通、保持されている。
【0031】
而して、第一ネジ部材67は、そのネジ部67bが可動リング62にその基端面62cのみに開口する状態で形成されたネジ孔67dに螺合されていて、正転操作することにより可動リング62をスプリング66に抗してシール位置(図3位置)から非シール位置(図2位置)へと軸方向移動させるものである。第一ネジ部材67(及び前記孔67b,67d)は、この例では、複数個設けられていて、回転軸3と同心をなす円環状領域においてその周方向に等間隔を隔てて位置する複数個所に配置されている。
【0032】
また、第一ネジ部材67は、これを逆転操作することにより、スプリング66による可動リング体62の非シール位置からシール位置への軸方向移動を許容するものである。すなわち、可動リング体62が非シール位置に位置された状態において第一ネジ部材67を逆転操作すると、これに伴ってスプリング66が伸長していき、可動リング体62がスプリング66によりシール位置へと軸方向移動されるのであり、第一ネジ部材67の逆転操作によりスプリング66によるシール位置への軸方向移動が許容されるのである。なお、可動リング体62がシール位置に位置された後も第一ネジ部材67の逆転操作が継続された場合、可動リング体62の第一ネジ部材67による軸方向移動は行われず、第一ネジ部材67がその頭部67aが固定リング体61の基端面61bから離れる方向に軸方向貫通孔67d内を移動するにすぎない。
【0033】
以上のように構成された軸封装置にあっては、回転軸3を停止させた状態で、エクスターナル領域Cからエクスターナル流体Eを排除した上で、被密封流体Fを、バキュームポンプ等により、機内領域A(及びシールケース2内)を負圧保持して低沸点流体(被密封流体)Fを気化させた状態で機器ハウジング1に形成した吸引排出路1aから回転機器外に吸引排出する場合において、当該被密封流体Fの吸引排出を良好に行うことができる。
【0034】
すなわち、被密封流体Fの吸引排出は、第一ネジ部材67を正転操作して、可動密封環62をスプリング66に抗して非シール位置からシール位置へと軸方向移動させることにより、可動リング体62をスプリング66によりシール位置に保持させた状態で行われる。
【0035】
この状態においては、可動リング体62とこれが嵌合する回転軸3(スリーブ32)との対向周面間が第一Oリング63によりシールされ、可動リング体62とシールケース2との対向端面2a,62a間が、回転軸3より大径で当該回転軸3を同心状に囲繞する第二Oリング64によりシールされる。すなわち、大気侵入阻止装置6により、シールケース2内と機外領域Bとの間が両Oリング63,64により遮断シールされ、機外領域Bからシールケース2内への大気侵入が阻止される。
【0036】
ところで、シールケース2の基端部(機外領域B側の端部)と回転軸3との対向周面間には、シールケース2内と機外領域Bとを連通する隙間がある。また、当該対向周面間に、図1に示す如く、ブッシュシール7が設けられることがあるが、かかるブッシュシール7が設けられる場合にも、ブッシュシール7と回転軸3との対向周面間には微小ながらもシールケース2内と機外領域Bとを連通する隙間が生じる。したがって、被密封流体Fの吸引排出が開始されると、当該隙間から機外領域Bの大気がシールケース2内に吸い込まれて、機内領域Aに侵入し、機内領域Aを適正な負圧状態に保持し得なくなり、被密封流体Fの吸引排出を良好に行うことができない。
【0037】
しかし、本発明の軸封装置にあっては、上記した如く、大気侵入阻止装置6の可動リング体62と第一及び第二Oリング63,64とにより、機外領域Bとシールケース2内との間が遮蔽シールされることから、機外領域Bからシールケース2内及び機内領域Aへの大気侵入が確実に阻止されて、上記した問題を生じず、機内領域A(及びシールケース2内)を適正な負圧状態に保持させておくことができる。したがって、被密封流体Fの機内領域Aから回転機器外への吸引排出を良好且つ効果的に行うことができる。
【0038】
また、上記したように、第一ネジ部材67の逆転操作が可動リング体62がシール位置に位置された後も行われた場合にも、可動密封環62がスプリング66によりシール位置に保持されるが、複数個のスプリング66が回転軸3と同心をなす円環状領域に等間隔を隔てて設けられていることから、可動リング体62とシールケース2との対向端面2a,62a間における第二Oリング64の挟圧力(シール力)がその全周に亘ってムラなく均等となり、当該対向端面2a,62a間の第二Oリング64によるシールが極めて良好に行われる。したがって、機外領域Bからシールケース2内及び機内領域Aへの大気侵入を確実且つ良好に行うことができる。
【0039】
また、大気侵入阻止装置6は、固定リング体61、可動リング体62、第一Oリング63、第二Oリング64、スプリング66及び第一ネジ部材67で構成された極めて構造簡単にして小型のものであるから、軸封装置の構造、製作コストが大気侵入阻止装置6を設けることにより必要以上に複雑化、高騰化することがない。特に、上記したように、固定リング体61を当該軸封装置の構成部材であるスプリング固定体33で兼用した場合には、軸封装置構造の複雑化及び軸封装置製作コストの高騰化を更に可及的に防止することができる。
【0040】
ところで、本発明の構成は上記した実施の形態に限定されず、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良、変更することができる。
【0041】
例えば、上記した実施の形態にあっては、本発明を低沸点流体を扱うバイナリー発電システムのタービン等に装備されるタンデムシールである軸封装置に適用したが、本発明は、定期的に又は必要に応じて、回転軸3を停止させた状態で機内領域Aから被密封流体を吸引排出させる回転機器に装備される軸封装置であれば、低沸点流体以外の流体を扱う回転機器に装備される軸封装置、端面接触形メカニカルシール4a,4bで構成されるタンデムシール以外の軸封装置(例えば、一個の端面接触形メカニカルシール又は非接触形メカニカルシールで構成されるシングルシールや二個以上の端面接触形メカニカルシール及び/又は非接触形メカニカルシールで構成されるダブルシール等)やカートリッジタイプでない軸封装置等にも適用することができ、上記同様の作用効果を発揮させることができる。
【0042】
また、上記した実施の形態にあっては、大気侵入阻止装置6において、可動リング体62のシール位置を、図3に示す如く、当該可動リング体62とシールケース2との対向端面2a,62aが接触する位置としたが、シールケース2の基端面2aに形成した凹溝2bに係合させた第二Oリング64の当該基端面2aからの突出量を多くする等により、当該対向端面2a,62aが近接する状態において第二Oリング64の適正なシール機能が発揮されるようにすることもでき、当該対向端面2a,62aが近接する状態となる可動リング体62の軸方向位置をシール位置に設定しておくことも可能である。また、前記非シール位置も、可動リング体62が固定リング体61に係止される位置(図2位置)に限定されるものではなく、可動リング体62の先端面62aがシールケース2の基端面2aに保持された第二環状シール部材(第二Oリング64)に接触しない位置(後述する如く、第二環状シール部材64を可動リング体62の先端面62aに形成した凹溝に保持させた場合には、当該第二環状シール部材64がシールケース2の基端面2aに接触しない位置)であればよく、任意に設定することができる。しかし、第一ネジ部材67の正転操作による可動リング体62が非シール位置に位置されたどうかを作業者が容易に確認できる点からすれば、非シール位置を図2に示す位置に設定しておくことが好ましい。
【0043】
また、上記した実施の形態にあっては、第一及び第二環状シール部材63,64をOリングとしたが、Oリングに限定されず、例えば、第二環状シール部材63を厚み方向に弾力を有するガスケット(第二Oリング64と同様に、回転軸3を同心状に囲繞する円環状をなすもの)で構成することもできる。また、Oリング等の第一環状シール部材63は、回転軸3の外周部つまりスリーブ32の外周部に円環状の凹溝を形成して、これに保持させておくことも可能であり、Oリング等の第二環状シール部材64は、可動リング体62の先端面に円環状の凹溝(アリ溝形状をなすものであることが好ましい)を形成して、これに保持させておくことも可能である。
【0044】
また、上記した実施の形態にあっては、可動リング体移動手段65をスプリング66と頭付ボルトで構成される第一ネジ部材67とで構成したが、可動リング体移動手段65の構成は、これに限定されず、可動リング体62をシール位置と非シール位置との間で軸方向移動させることができ且つ当該両位置に選択的に保持させることができるものであればよい。
【0045】
例えば、図4に示す可動リング体移動手段165における如く、前記第一ネジ部材67に代えて、頭部を有しない寸切ボルト(長ネジとも称せられる)167aとこれに螺合するナット167bとで構成された第二ネジ部材167を使用することもできる。すなわち、ボルト167aは、固定リング体61に形成された軸方向貫通孔167cに回転自在且つ軸方向移動自在に保持されており、固定リング61の基端面61bから突出する寸切ボルト167aの基端部にナット167bを螺合させると共に、ボルト167aの先端部を可動リング体62の基端面62cに溶着等により固着してある。
【0046】
而して、当該可動リング体移動手段165によれば、第二ネジ部材167のナット167bを正転操作することにより、可動リング体62をスプリング66に抗してシール位置(図4(B)位置)から非シール位置(同図(A)位置)へと軸方向移動させることができる。また、ナット167bを逆転操作することにより、第一ネジ部材67と同様に、スプリング66による可動リング体62のシール位置方向への軸方向移動を許容し、可動リング体62をスプリング66によりシール位置に保持させることができる。なお、第二ネジ部材167は、第一ネジ部材67と同様に、回転軸3と同心をなす複数個所に等間隔を隔てて設けておくことが好ましい。
【0047】
また、可動リング体移動手段は、図5又は図6に示す如く、前記可動リング体移動手段65,165のようにスプリング66を使用せず、ネジ部材のみで構成しておくことも可能である。
【0048】
すなわち、図5に示す可動リング移動手段265は、二種類のネジ部材で構成されており、寸切ボルト267a及びこれに螺合させたナッ267bで構成される第三ネジ部材267と、頭部268aを有する全ネジの頭付ボルトで構成される第四ネジ部材268とで構成されている。第三ネジ部材267は、前記第二ネジ部材167と同様構造、機能のもので、寸切ボルト267aを可動リング体62に固着した状態で固定リング体61の軸方向貫通孔267cに回転自在且つ軸方向移動自在に保持し、ナット267bを正転操作することにより可動リング体62をシール位置(図5(B)位置)から非シール位置(同図(A)位置)へと軸方向移動させるものである。また、第四ネジ部材268は、その先端部を可動リング体62の基端面62cに当接させた状態で固定リング体61に形成した軸方向ネジ孔268bに螺合されていて、正転操作することにより可動リング体62を前記非シール位置から前記シール位置へと軸方向移動させるものである。両ネジ部材267,268のうち、少なくとも第四ネジ部材268は、可動リング体62をシール位置に位置させたときにおいて第二環状シール部材64が当該可動リング体62とシールケース2との対向端面2a,62a間にその円周方向に均等に挟圧されるように、第一及び第二ネジ部材67,167と同様に回転軸3と同心をなす複数個所に等間隔を隔てて設けておくことが好ましい。なお、第三ネジ部材267により可動リング体62を前記シール位置から前記非シール位置へと軸方向移動させる場合には、予め、第四ネジ部材268をその先端部が固定リング体61の先端面61aから突出しない位置(例えば、図5(A)に示す位置)に逆転操作しておく。また、第四ネジ部材268により可動リング体62を前記非シール位置から前記シール位置へと軸方向移動させる場合には、予め、第三ネジ部材268を可動リング体62の第四ネジ部材268による前記非シール位置から前記シール位置への軸方向移動を妨げない状態に操作しておく。すなわち、ナット267bを逆転操作して、第三ネジ部材267を、当該ナット267bと寸切ボルト267との軸方向位置関係が例えば可動体62を前記シール位置に位置させたときの軸方向位置関係(図5(B)に示す軸位置関係)となる状態に操作しておく。
【0049】
また、図6に示す可動リング移動手段365は、1種類のネジ部材で構成されており、頭付ボルト367aを、固定リング体61に形成した軸方向貫通孔367bに固定リング体61の基端面61bに当接させた頭部367cと当該ボルト367aの胴部に取り付けたスナップリング367dとにより軸方向移動不能且つ回転自在な状態で保持させると共に、可動リング体62にその基端面62cに開口する軸方向ネジ孔367eに螺合させて構成された第五ネジ部材367で構成されている。第五ネジ部材367は、前記第一、第二及び第四ネジ部材67,167,268と同様に、回転軸3と同心をなす複数個所に等間隔を隔てて設けておくことが好ましい。
【0050】
而して、当該可動リング移動手段365によれば、可動リング体62を、頭付ボルト367aを正転操作することにより、固定リング体61に当接する非シール位置(図6(A)位置)から当該可動リング体61とシールケース2の対向端面2a,62aが接触して当該対向端面2a,62a間が第二Oリング64でシールされるシール位置(同図(B)位置)へと軸方向移動させることができ、頭付ボルト367aを逆転操作することにより、可動リング体61を当該シール位置から非シール位置へと軸方向移動させることができる。
【0051】
なお、図4図6に示す各可動リング体移動手段165,265,365等の構成は、上記した点を除いて、図1図3に示すものと同一であるから、これと同一構成部材については、図4図6において図1図3と同一符号を付することによりその詳細は省略する。
【符号の説明】
【0052】
2 シールケース
3 回転軸
4a 第一メカニカルシール
4b 第二メカニカルシール
34 スリーブ固定体(固定リング体)
61 固定リング体
62 可動リング体
63 第一環状シール部材(第一Oリング)
64 第二環状シール部材(第二Oリング)
65 可動リング体移動手段
66 スプリング
67 ネジ部材(第一ネジ部材)
165 可動リング体移動手段
265 可動リング体移動手段
365 可動リング体移動手段
A 機内領域
B 機外領域(大気領域)
F 被密封流体(低沸点流体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6