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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/148 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
A61M5/148 500
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019516430
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017073723
(87)【国際公開番号】W WO2018060025
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】16190882.7
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・シャーバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ベアーテ・フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアーノ・プラデル
(72)【発明者】
【氏名】イラーリオ・メルツィ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・ヴェルラーク
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ネルソン
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】村上 哲
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-164963(JP,A)
【文献】実表昭58-500003(JP,U)
【文献】特表2012-532719(JP,A)
【文献】米国特許第4741736(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達デバイスであって:
遠位端を有するハウジングと;
患者の注射部位に重なるように構成されたハウジングの遠位端から突出するように構成された針と;
ハウジング内に配置され、可撓壁を有するリザーバと;
ハウジング内に配置された投薬部材と;
該投薬部材を付勢してハウジングに対して弧状経路で動かし、それによりリザーバが薬剤を収容しているとき投薬部材がリザーバの可撓壁をわたって動いてリザーバから薬剤を投薬するように構成された付勢部材と
を含み、
投薬部材はローラを含み、
ハウジングは、回転可能に連結された第1および第2の部分を含み、
第1の部分が第2の部分に対して回転することで、付勢部材を弾性変形させ、それにより付勢部材は、投薬部材を付勢してハウジングに対して弧状経路に沿って動かす、前記薬剤送達デバイス。
【請求項2】
ローラは、第1の回転軸周りでハウジングに対して弧状経路に沿って動くように構成され、第1の回転軸に対して傾斜している第2の回転軸周りで転動するように構成される、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項3】
リザーバは軟質バッグを含む、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項4】
付勢部材はばねを含み、好ましくは、該ばねは渦巻きばねまたはねじりばねである、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項5】
第1および第2の部分のうちの少なくとも1つは、ねじ山を含む、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項6】
針は、ハウジング内に完全に配置される後退位置と、使用の際に患者の皮膚に注射するためにハウジングの遠位端から突出する伸長位置との間を可動である、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項7】
付勢部材が投薬部材をハウジングに対して弧状経路に沿って動かすことが防止されるロック状態と、付勢部材が投薬部材を弧状経路に沿って動かすことが可能であるロック解除状態との間で可動のロックを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項8】
平坦面を含み、リザーバは、投薬部材が弧状経路に沿って動いたとき、投薬部材と平坦面との間で圧縮される、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項9】
ハウジングの遠位端は、使用の際に遠位端を患者の皮膚に取り付けるための粘着剤層を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項10】
リザーバは薬剤を収容する、請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項11】
薬剤送達デバイスは大容量デバイスである、請求項1~10のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の注射による定期的な治療を必要とする様々な疾病が存在し、そのような注射は、注射デバイスを使用することによって実行することができる。薬剤の注射を送達するための様々な注射デバイスが、当技術分野では知られている。支持を集めている別のタイプの注射ポンプは、ボーラス注射デバイスである。いくつかのボーラス注射デバイスは、比較的大きい容量、典型的には少なくとも1ml、場合により数mlの薬剤とともに使用されることが意図される。そのような大容量の薬剤の注射には、数分またはさらには数時間かかる可能性がある。そのような大容量ボーラス注射デバイスを、大容量デバイス(LVD)と呼ぶことができる。通常、そのようなデバイスは患者自身によって操作されるが、医療従事者によって操作されることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、改善された薬剤送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、薬剤送達デバイスであって:遠位端を有するハウジングと;患者の注射部位に重なるように構成されたハウジングの遠位端から突出するように構成された針と;ハウジング内に配置され、可撓壁を有するリザーバと;ハウジング内に配置された投薬部材と;投薬部材を付勢してハウジングに対して弧状経路で動かし、それによりリザーバが薬剤を収容しているとき投薬部材がリザーバの可撓壁をわたって動いてリザーバから薬剤を投薬するように構成された付勢部材とを含む、薬剤送達デバイスが提供される。
【0005】
投薬部材はローラを含むことができる。投薬部材は、リザーバの可撓壁をわたって転動して薬剤を投薬し、それにより投薬部材が可撓壁をわたって引きずられた場合に比べて、投薬部材と可撓壁との間の摩擦が低減される。一実施形態では、ローラは、第1の回転軸周りでハウジングに対して弧状経路に沿って動くように構成され、第1の回転軸に対して傾斜している第2の回転軸周りで転動するように構成される。一実施形態では、第2の回転軸は、第1の回転軸に実質上直交している。
【0006】
一実施形態では、リザーバは軟質バッグを含む。
【0007】
付勢部材はばねを含むことができる。好ましくは、ばねは渦巻きばねまたはねじりばねである。
【0008】
ハウジングは、回転可能に連結された第1および第2の部分を含むことができる。一実施形態では、第1の部分が第2の部分に対して回転することで、付勢部材を弾性変形させ、それにより付勢部材は、投薬部材を付勢してハウジングに対して弧状経路に沿って動かす。したがって、付勢部材は、弛緩状態で収納することができ、第1の部分を第2の部分に対して回転させることによって、使用の直前に準備することができる。これは、付勢部材が準備完了状態で収納されている場合、普通なら付勢部材は時間とともに劣化し、それにより付勢部材によって投薬部材に及ぼされる付勢力が低減されるため、有利である。一実施形態では、第1および第2の部分のうちの少なくとも1つは、ねじ山を含む。
【0009】
一実施形態では、針は、ハウジング内に完全に配置される後退位置と、使用の際に患者の皮膚に注射するためにハウジングの遠位端から突出する伸長位置との間を可動である。したがって、針は、後退位置で収納されているとき、ハウジングによって保護され、患者を傷つけることが防止される。さらに、使用の際、針は患者の注射部位に自動的に入り、それにより薬剤送達プロセスがより容易になる。
【0010】
一実施形態では、薬剤送達デバイスは、付勢部材が投薬部材をハウジングに対して弧状経路に沿って動かすことが防止されるロック状態と、付勢部材が投薬部材を弧状経路に沿って動かすことが可能であるロック解除状態との間で可動のロックを含む。
【0011】
一実施形態では、薬剤送達デバイスは、平坦面を含み、リザーバは、投薬部材が弧状経路に沿って動いたとき、投薬部材と平坦面との間で圧縮される。
【0012】
一実施形態では、ハウジングの遠位端は、使用の際に遠位端を患者の皮膚に取り付けるための粘着剤層を含む。
【0013】
一実施形態では、可撓壁は、投薬部材が可撓壁をわたって動いたとき、遠位端と投薬部材との間に位置する。
【0014】
一実施形態では、ハウジングは中心軸を含み、投薬部材の弧状経路は、少なくとも部分的にハウジングの中心軸の周りに延びる。
【0015】
リザーバは薬剤を収容することができる。
【0016】
一実施形態では、薬剤送達デバイスは大容量デバイスである。
【0017】
本発明によれば、ハウジングと、針と、投薬部材と、ハウジング内に配置された付勢部材と、ハウジング内に配置され、可撓壁を有するリザーバとを有する薬剤送達デバイスから薬剤を投薬する方法であって:ハウジングの遠位端を患者の注射部位に近接して位置決めすることであり、針が遠位端から注射部位内へ突出する、位置決めすることと、付勢部材を解放して投薬部材に力を及ぼし、それによりリザーバの可撓壁をわたって投薬部材をハウジングに対して弧状経路で動かし、リザーバから注射部位へ薬剤を投薬することとを含む方法も提供される。
【0018】
本発明の上記その他の態様は、後述する実施形態から明らかになり、それらを参照することによって解明される。
【0019】
本発明の実施形態について、例示のみを目的として、添付の図面を参照して次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態による薬剤送達デバイスの概略分解斜視図である。
図2】ハウジングの近位部分が初期位置にあり、軟質バッグが空である、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図3】ハウジングの近位部分が初期位置にあり、軟質バッグが薬剤で充填されている、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図4】近位部分が準備完了位置にあり、針が後退位置にある、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図5】針ロック部材がロック解除状態へ動かされた、図1の薬剤送達デバイスの針伸長ロックの拡大概略側断面図である。
図6】針が伸長位置にある、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図7】投薬機構が軟質バッグから薬剤を投薬するように動作した、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
図8】ローラが軟質バッグの第1の端部に位置する、図1の薬剤送達デバイスの遠位部分の概略上面図である。
図9】ローラが軟質バッグの第2の端部に位置する、図1の薬剤送達デバイスの遠位部分の概略上面図である。
図10】針が後退位置にある、図1の薬剤送達デバイスの概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載する薬剤送達デバイスは、患者に薬剤を注射するように構成することができる。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内で行うことができる。そのようなデバイスは、患者または看護師もしくは医師などの医療従事者によって動作させることができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、カートリッジに基づくシステムを含むことができ、封止されたアンプルを使用前に穿孔する必要がある。これらの様々なデバイスによって送達される薬剤の体積は、約0.5ml~約2mlの範囲とすることができる。さらに別のデバイスは、「大」容量の薬剤(典型的には、約2ml~約10ml)を送達するために一定期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分)にわたって患者の皮膚に粘着するように構成された大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができる。
【0022】
特有の薬剤と組み合わせて、前述したデバイスはまた、必要とされる仕様の範囲内で動作するようにカスタマイズすることができる。たとえば、デバイスは、特定の期間(たとえば、自動注射器の場合は約3~約20秒、大容量デバイスの場合は約10分~約60分)の範囲内で薬剤を注射するようにカスタマイズすることができる。他の仕様は、低いもしくは最小の不快レベル、または人的要因、保管寿命、有効期限、生体適合性、環境的考慮などに関係する特定の条件を含むことができる。そのような変動は、たとえば薬物の粘性が約3cP~約50cPの範囲に及ぶことなどの様々な要因により生じることがある。したがって、薬物送達デバイスは、多くの場合、サイズが約25~約31ゲージの中空の針を含む。一般的なサイズは、27および29ゲージである。
【0023】
図1~10は、薬剤送達デバイス10を示し、例示的な実施形態では、本発明の第1の実施形態によるボーラス注射デバイスを含む。薬剤送達デバイス10は、大容量デバイスの形態とすることができる。
【0024】
薬剤送達デバイス10は、ハウジング11、針12、および薬剤送達機構を含み、薬剤送達機構は、針作動機構13および投薬機構14を含む。薬剤送達デバイス10は、ハウジング11に対して可動のアクチュエータ15をさらに含む。
【0025】
ハウジング11は、遠位部分16および近位部分17を含む。「遠位」という用語は、注射部位に比較的近い位置を指し、「近位」という用語は、注射部位から離れて比較的遠い位置を指す。
【0026】
ハウジング11の遠位部分16は、略U字形の断面をともに有する円筒形の外周壁18および端壁19を含む。ハウジング11の遠位部分16は、遠位部分16の円筒形の外周壁18と同心円状に配置された円筒形の内壁16Aをさらに含む。ハウジング11の近位部分17は、略U字形の断面をともに有する円筒形の外周壁20および端壁21を含む。ハウジング11の近位部分17は、近位部分17の円筒形の外周壁20と同心円状に配置された円筒形の内壁17Aを含む。
【0027】
ハウジング11の遠位部分16の外周壁18は、近位部分17の外周壁20内に摺動可能に受け入れられ、それにより遠位部分16の端壁19は、近位部分17の端壁21から隔置され、遠位部分16の端壁19と近位部分17の端壁21との間に凹部22が形成される。ハウジング11の遠位および近位部分16、17は、中心軸(図2および図7の破線A-Aを参照されたい)を有する略円筒形の形状をともに形成する。
【0028】
遠位部分16の端壁19は、外面19Aおよび内面19Bを有し、近位部分17の端壁21は、外面21Aおよび内面21Bを有する。遠位および近位部分16、17の端壁19、21の外面19A、21Aのうちの一方または両方は、実質上平坦とすることができる。
【0029】
遠位部分16の端壁19の外面19Aは、粘着剤層(図示せず)を含み、この粘着剤層は、ラベル(図示せず)によって最初は覆われている。使用の際、ラベルは粘着剤層から取り外され、次いで粘着剤層は、患者の注射部位で患者の皮膚に付着し、それにより遠位部分16の端壁19が注射部位に粘着する。
【0030】
投薬機構14は、薬剤リザーバ23、投薬部材24、投薬付勢部材25、および投薬ロック(図示せず)を含む。
【0031】
薬剤リザーバ23は、軟質バッグ23の形態である。軟質バッグ23は、ハウジング11内の凹部22内に配置され、遠位部分16の端壁19の内面19Bに当接する。
【0032】
軟質バッグ23は、第1の端部23Aおよび第2の端部23Bを有する。軟質バッグ23の壁26は変形可能である。軟質バッグ23は、少なくとも部分的にハウジング11の中心軸A-Aの周りに延びる。軟質バッグ23は、たとえば、C字形またはU字形とすることができる。
【0033】
軟質バッグ23は、遠位部分16の外周壁18内のアパーチャ18Aに流体的に連結される。アパーチャ18Aは、遠位部分16の外周壁18を通って軟質バッグ23を薬剤で充填することを可能にする充填ポート18Aを形成する。軟質バッグ23および/またはアパーチャ18Aは、薬剤がアパーチャ18Aを介して軟質バッグ23から流出するのを防止するように構成された一方向弁(図示せず)を含むことができる。別法または追加として、軟質バッグ23が薬剤で充填された後にアパーチャ18Aを封止するようにアパーチャ18Aに挿入される栓(図示せず)を設けることができる。
【0034】
投薬部材24は、ローラ24の形態である。ローラ24は、円筒形とすることができる。ローラ24は、ハウジング11内の凹部22内に配置され、それにより軟質バッグ23は、ローラ24と遠位部分16の端壁19の内面19Bとの間に位置する。ローラ24は、第1の回転軸周りで弧状経路(図9に矢印「X」によって示す)で軟質バッグ23の第1の端部23Aから第2の端部23Bへ動くように構成される。第1の回転軸は、ハウジング11の中心軸A-Aと共通することができる。
【0035】
ローラ24は、ローラ24が第2の回転軸(図2図7、および図8に破線B-Bによって示す)周りで転動することが可能になるように構成された心棒24Aに回転可能に連結される。第2の回転軸B-Bは、中心軸A-Aに対して傾斜している。ローラ24は、中心軸A-Aに直交している第2の回転軸B-B周りで転動するように構成することができる。
【0036】
一実施形態では、心棒24Aは、ハウジング11に可動に取り付けられる。たとえば、ハウジング11の遠位部分16の外周壁18は、レール(図示せず)を含むことができ、ローラ24が第2の回転軸B-B周りで転動するとき、このレールに心棒24Aの端部を取り付けて、レールに沿って摺動させることができる。別の実施形態(図示せず)では、心棒24Aは、支承部を介して遠位部分16の内壁16Aまたは近位部分17の内壁17Aに連結される。さらに別の実施形態では、心棒24Aは、ハウジング11に取り付けられない。
【0037】
投薬付勢部材25は、投薬ばね25の形態である。本実施形態では、投薬ばね25は渦巻きばね25である。代替実施形態(図示せず)では、投薬部材25は、異なるタイプのばね、たとえばねじりばねを含む。別の実施形態(図示せず)では、投薬付勢部材25は、投薬部材24に付勢力を及ぼすように捩じられた弾性材料の一部分を含む。
【0038】
渦巻きばね25は、ハウジング11内の凹部22内に配置され、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに延びる。渦巻きばね25は、近位部分17の内壁17Aと遠位部分16の外周壁18との間に位置する。
【0039】
渦巻きばね25の第1の端部は、近位部分17の内壁17Aに固定される。渦巻きばね25の第2の端部は、ローラ24の心棒24Aに連結される。本実施形態では、渦巻きばね25の第2の端部は、連結部材27によって、ローラ24の心棒24Aに連結される。しかし、代替実施形態では、連結部材27は省略され、その代わりに渦巻きばね25の第2の端部は、ローラ24の心棒24Aに直接連結される。
【0040】
薬剤送達デバイス10は、ハウジング11の遠位および近位部分16、17間の連結部28をさらに含む。連結部28は、第1および第2のねじ山29、30を含む。第1のねじ山29は、近位部分17の外周壁20の内面に形成される。第2のねじ山30は、遠位部分16の外周壁18の外面に形成される。
【0041】
第1および第2のねじ山29、30は、係合してハウジング11の遠位および近位部分16、17を連結するように構成され、それにより近位部分17をハウジング11の遠位部分16に螺着することができる。したがって、近位部分17は、近位部分17が遠位部分16に連結され、それにより遠位および近位部分16、17の端壁19、21が隔置される初期位置(図2および図3に示す)から、近位部分17が遠位部分16に対して捩じられ、それによりねじ山29、30が係合し、したがって遠位および近位部分16、17の端壁19、21が互いに近づく準備完了位置(図4図6図7、および図10に示す)へ可動である。
【0042】
近位部分17が初期位置にあるとき、渦巻きばね25は自然の状態にあり、それにより渦巻きばね25によってローラ24に付勢力が実質上及ぼされていない。
【0043】
近位部分17が準備完了位置へ動かされたとき、近位部分17の内壁17A、したがって近位部分17の内壁17Aに取り付けられた渦巻きばね25の第1の端部は、遠位部分16に対して回転される。投薬ロック(図示せず)は、最初はロック状態にあり、近位部分17が初期位置から準備完了位置へ動かされるときにローラ24を遠位部分16に対して定位置で保持する。したがって、連結部材27によってローラ24に連結された渦巻きばね25の第2の端部は、投薬ロックによって遠位部分16に対して定位置で保持される。したがって、近位部分17が初期位置から近位位置へ動かされたとき、渦巻きばね25の第1の端部は、渦巻きばね25の第2の端部に対して回転され、それにより渦巻きばね25が巻かれてローラ24に付勢力を及ぼす。付勢力は、ローラ24を付勢して、ハウジング11に対して弧状経路Xに沿って動かす。しかし、投薬ロックは最初、ローラ24が弧状経路Xに沿って動くのを防止する。
【0044】
投薬ロックは、旋回連結部(pivotal coupling)によってハウジング11の遠位部分16に連結された投薬ロック部材(図示せず)を含む。投薬ロック部材は、細長い部材と、細長い部材に一体形成された突出部とを含む。
【0045】
細長い部材は、第1および第2の端部を有する。細長い部材は、細長い部材の第1の端部の方で旋回連結部に取り付けられる。細長い部材の第2の端部は、旋回連結部から隔置され、それにより第2の端部は、旋回連結部の周りで旋回可能になる。旋回連結部は、ロック部材を遠位部分16の内壁16Aに連結する。
【0046】
突出部は、細長い部材から傾斜して延び、細長い部材の第1の端部の近傍に位置する。細長い部材および突出部は、投薬ロック部材が略L字形またはV字形になるように配置することができる。
【0047】
投薬ロック部材は、ロック状態からロック解除状態へ可動である。ロック状態で、投薬ロック部材は、細長い部材がハウジング11の中心軸A-Aから離れる方向に径方向外方へ延びてローラ24に当接するように位置し、それによりローラ24が弧状経路Xに沿って動くことが防止される。さらに、ロック状態で、投薬ロック部材は、突出部が近位部分17の端壁21に向かってハウジング11の中心軸A-Aの方へ傾斜して延びるように位置する。
【0048】
投薬ロック部材は、ロック解除状態へ可動であり、ロック解除状態で投薬ロック部材は、細長い部材の第2の端部および突出部が旋回連結部周りで旋回してハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ動くように回転される。投薬ロック部材がロック解除状態にあるとき、細長い部材の第2の端部は、投薬ロック部材がローラ24に当接しないように、ローラ24から隔置される。したがって、ローラ24が投薬ロック部材によってハウジング11に対して弧状経路Xに沿って動くことが制限されない。
【0049】
アクチュエータ15は、外周壁15Aおよび端壁15Bを有するボタン15の形態である。ボタン15は、ハウジング11の近位部分17内に受け入れられ、それによりボタン15の外周壁15Aは、近位部分17の内壁17Aの内側に位置し、近位部分17の内壁17Aと同心円状に位置合わせされる。ボタン15は、ハウジング11の中心軸A-Aの方向に近位部分17の内壁17A内を摺動可能である。
【0050】
針12は、ハウジング11の遠位部分16に対して後退位置(図2~4および図10に示す)と伸長位置(図6および図7に示す)との間を可動である。針12が後退位置にあるとき、針12は、ハウジング11内の凹部22内に完全に受け入れられ、それにより針12は、針12の損傷を防止し、患者を針12による偶発的な負傷から保護するように遮蔽される。
【0051】
針12が後退位置から伸長位置へ動かされたとき、針12は、ハウジング11の中心軸A-Aの方向に線形に動かされ、それにより針12の端部が、遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cから突出する。したがって、遠位部分16の粘着剤層が患者の注射部位に粘着しているとき、針12は患者の皮膚を穿孔して注射部位内へ延び、注射部位へ薬剤を送達する。
【0052】
薬剤送達デバイス10は、遠位部分16の端壁19の内面19Bに固定されたセプタム31をさらに含む。セプタム31は、遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cを覆うように位置する。針12は、最初は後退位置にあり、セプタム31によって保護されている。より具体的には、セプタム31は、遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cを通って汚染物質が侵入し、滅菌した針12に接触するのを防止する。針12が伸長位置へ動かされたとき、針12はセプタム31を穿孔し、針12の端部がセプタム31を通過して端壁19から突出する。セプタム31は、プラスチック、ゴム、または金属箔などの不浸透性材料から製造することができる。代替実施形態では、セプタム31は、遠位部分16の端壁19の外面19Aに固定され、または端壁19内のアパーチャ19C内に位置する。
【0053】
針作動機構13は、針伸長および後退付勢部材(needle extension and retraction biasing members)32、33、伸長および後退保持要素(extension and retraction holding elements)34、35、針伸長ロック36、ならびに針後退ロック(needle retraction lock)(図示せず)を含む。
【0054】
針伸長付勢部材32は、針伸長ばね32の形態である。針伸長ばね32は、つる巻きばねとすることができる。針伸長ばね32は、ボタン15の外周壁15Aの内側に位置し、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに延びる。針伸長ばね32は、針12のベース12Aと伸長保持要素34との間に配置される。
【0055】
伸長保持要素34は、ハウジング11の遠位部分16に対して固定され、セプタム31に対して針12のベース12Aの反対側に位置する。伸長保持要素34は、針伸長ばね32の近位端が当接する止め具として作用するように構成され、それにより針伸長ばね32の近位端がハウジング11の中心軸A-Aの方向に近位部分17の端壁21の方へ動くことが防止される。針12が初期後退位置にあるとき、針伸長ばね32は、針12のベース12Aと伸長保持要素34との間に圧縮されており、それにより針伸長ばね32は、ハウジング11の中心軸A-Aの方向に伸長保持要素34から離れる方へ針12を付勢し、それにより針12は、伸長位置へ動くように付勢される。
【0056】
針伸長ロック36は、旋回連結部39によってハウジング11の遠位部分16に連結された伸長ロック部材(extension locking member)38を含む。伸長ロック部材38は、細長い部材38Aと、細長い部材38Aに一体形成された第1および第2の突出部40、41とを含む。第1の突出部40は、細長い部材38Aの近位端に位置し、第2の突出部41は、細長い部材38Aの遠位端の方に位置する。
【0057】
細長い部材38Aは、細長い部材38Aの近位および遠位端間の点で旋回連結部39に取り付けられ、それにより第1および第2の突出部40、41は、旋回連結部39周りで旋回可能になる。
【0058】
伸長ロック部材38は、ロック状態からロック解除状態(図5に示す)へ可動である。ロック状態で、伸長ロック部材38は、細長い部材38Aがハウジング11の中心軸A-Aに対して実質上平行に延び、伸長ロック部材38の第1の突出部40が第2の突出部41よりハウジング11の近位部分17の端壁21の近くに位置するように位置する。
【0059】
伸長ロック部材38の第1の突出部40は、伸長ロック部材38がロック状態にあるとき、ハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ延びる。第1の突出部40は、伸長ロック部材38がロック状態にあるときに針12のベース12Aに当接する近位対向面40Aを含み、それにより針12がハウジング11の中心軸A-Aの方向に遠位部分16の端壁19の方へ動くことが防止される。したがって、伸長ロック部材38がロック状態にあるとき、伸長ロック部材38は、針12のベース12Aと伸長保持要素34との間に圧縮状態で保持されている針伸長ばね32の力に逆らって、針12を後退位置で保持する。
【0060】
伸長ロック部材38の第2の突出部41は、伸長ロック部材38がロック状態にあるとき、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ延びる。第2の突出部41は、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて近位部分17の端壁21の方を向いて傾斜している傾斜面41Aを含む。
【0061】
ボタン15は、ハウジング11の中心軸A-Aに向かう方向にボタン15の外周壁15Aの内側から径方向内方へ延びるリップ15Cを含む。リップ15Cは、略環状とすることができる。
【0062】
ボタン15のリップ15Cは、ボタン15がハウジング11内で遠位部分16の端壁19の方へ動かされたとき、伸長ロック部材38の傾斜面41Aに当接するように構成される。これにより、伸長ロック部材38の第2の突出部41が中心軸A-Aに向かって径方向内方へ付勢され、それにより伸長ロック部材38は、ロック状態からロック解除状態へ(図5の矢印「C」の方向に)回転される。ロック解除状態で、第1の突出部40は、径方向外方へ動かされ、それにより針12のベース12Aに当接しなくなり、したがって針12のベース12Aは、針伸長ばね32の力を受けて伸長保持要素34から離れる方へ動くことが可能になる。したがって、伸長ロック部材38がロック解除状態にあるとき、針12は、針伸長ばね32の力を受けて後退位置から伸長位置へ動く。
【0063】
針後退付勢部材33は、針後退ばね33の形態である。針後退ばね33は、つる巻きばねとすることができる。針後退ばね33は、ハウジング11の遠位部分16の内側に位置し、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに延びる。針後退ばね33は、後退保持要素35とセプタム31との間に配置される。セプタム31は、ハウジング11の遠位部分16に対して固定され、したがって針後退ばね33の遠位端が当接する止め具として作用する。別法として、針後退ばね33は、遠位部分16の端壁19に当接することができる。
【0064】
後退保持要素35は、ハウジング11の遠位部分16の内壁16A内に摺動可能に受け入れられる。針後退ばね33は最初、セプタム31と後退保持要素35との間に圧縮されており、それにより針後退ばね33は、後退保持要素35をハウジング11の中心軸A-Aの方向にセプタム31から離れる方へ付勢する。針後退ロック(図示せず)は最初、針後退ばね33の力に逆らって後退保持要素35を定位置で保持し、それにより針後退ばね33は圧縮される。
【0065】
針後退ロックは、旋回連結部(図示せず)によってハウジング11の遠位部分16に連結された後退ロック部材(retraction locking member)(図示せず)を含む。後退ロック部材は、第1および第2の細長い部材と、突出部とを含む。第1および第2の細長い部材は、一方の端部で一体形成される。第1および第2の細長い部材は、互いに対して傾斜して延びる。第1および第2の細長い部材は、互いに実質上直交して延びることができる。
【0066】
第1および第2の細長い部材は、旋回連結部から遠いそれぞれの自由端を含む。突出部は、第2の細長い部材の自由端に位置する。
【0067】
後退ロック部材は、ロック状態からロック解除状態へ旋回可能である。ロック状態で、後退ロック部材は、第1の細長い部材がハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ延び、一実施形態ではハウジング11の中心軸A-Aに実質上直交するように位置する。第1の細長い部材の自由端は、軟質バッグ23の第2の端部23Bまたはその付近に位置する。さらに、ロック状態で、後退ロック部材は、第2の細長い部材が旋回連結部から近位部分17の端壁21の方へ延び、一実施形態ではハウジング11の中心軸A-Aに対して実質上平行になるように位置する。
【0068】
後退ロック部材がロック状態にあるとき、後退ロック部材の突出部は、ハウジング11の中心軸A-Aに向かって径方向内方へ延び、後退保持要素35の近位対向面に当接する。したがって、後退保持要素35は、近位部分17の端壁21の方へ動くことが防止され、したがって針後退ばね33は、セプタム31と後退保持要素35との間に圧縮状態で保持される。
【0069】
ローラ24が弧状経路Xに沿ってハウジング11内を軟質バッグ23の第2の端部23Bへ動くことで、ローラ24は第1の細長い部材の自由端に対して付勢される。したがって、ローラ24が軟質バッグ23の第2の端部23Bへ動いた結果、第1の細長い部材の自由端に力がかかる。この力により、第1の細長い部材の自由端が遠位部分16の端壁19の方へ付勢され、それにより後退ロック部材は、旋回連結部周りでロック状態からロック解除状態へ回転するように付勢される。
【0070】
後退ロック部材がロック解除状態へ回転した後、第2の細長い部材の自由端に位置する突出部は、ハウジング11の中心軸A-Aから離れて径方向外方へ動かされ、それにより突出部が後退保持要素35から隔置される。したがって、突出部は、針後退ばね33の力に逆らって後退保持要素35を定位置で保持しなくなり、後退保持要素35は針後退ばね33によって近位部分17の端壁21の方へ動かされる。
【0071】
針12は、後退保持要素35内のアパーチャ35Aを通って延び、それにより針12が伸長位置にあり、後退ロック部材がロック状態にあるとき、針12のベース12Aは、後退保持要素35に近接して位置する。したがって、後退ロック部材が次にロック解除状態へ動かされたとき、後退保持要素35は解放され、それにより針後退ばね33は、後退保持要素35を針12のベース12Aに対して付勢して、針12を近位部分17の端壁21の方へ後退位置に動かす。
【0072】
後退ロック部材とセプタム31および遠位部分16の端壁19との間に隙間(図示せず)を設けて、ロックおよびロック解除状態間の後退ロック部材の動きを容易にすることができる。別法として、セプタム31は、後退ロック部材の動きを容易にする可撓性材料から製造することができる。
【0073】
薬剤送達デバイス10の例示的な動作について、次に説明する。薬剤送達デバイス10は、典型的には、滅菌した包装(図示せず)内に収納される。患者はまず、滅菌した包装から薬剤送達デバイス10を取り出す。薬剤送達デバイス10が滅菌した包装から取り出されたとき、ハウジング11の近位部分17は初期位置にあり、針12は後退位置にあり、ボタン15は近位部分17内へ後退しており(図2に示す)、それにより患者は、ボタン15を作動させるためにボタン15にアクセスすることができない。たとえば、近位部分17の内壁17Aの内側寸法は、患者がボタン15にアクセスするために内壁17Aに指を挿入することができないように十分に小さくすることができる。したがって、患者は、軟質バッグ23から薬剤を投薬するためにボタン15を押し下げて投薬機構14を動作させることができず、したがって投薬機構14は動作不能になっている。さらに、患者は、針12を伸長位置へ動かすために針作動機構13を動作させることができない。
【0074】
次いで患者は、薬剤送達デバイス10の投薬機構14に薬剤を供給する。より具体的には、患者は、ハウジング11の遠位部分16の外周壁18内の充填ポート18Aを介して軟質バッグ23に薬剤を供給し、それにより軟質バッグ23は、薬剤で充填される(図3に示す)。薬剤は、たとえばシリンジ、容器、または加圧されたキャニスタから供給することができる。代替実施形態では、薬剤リザーバ23は薬剤で充填済みであり、その場合、充填ポート18Aを省略することができる。
【0075】
次にラベル(図示せず)が、遠位部分16の端壁19の外面19A上の粘着剤層(図示せず)から取り外される。次いで粘着剤層は注射部位で患者の皮膚に粘着し、それにより遠位部分16の端壁19は注射部位に固定される。
【0076】
次いで患者は、近位部分17を遠位部分16に対して回転させ、それにより第1および第2のねじ山62、63が係合することで、近位部分17が初期位置から準備完了位置へ動く(図4に示す)。たとえば患者は、片手で近位部分17に力を加えて、近位部分17を遠位部分16に対して捩じることができる。近位部分17が遠位部分16に対して回転することで、近位部分17は遠位部分16に対してハウジング11の中心軸A-Aの方向に動き、それにより近位部分17の端壁21は、遠位部分16の端壁19の方へ動く。
【0077】
近位部分17が準備完了位置へ動かされると、近位部分17の内壁17Aに取り付けられている渦巻きばね25の第1の端部が、最初は静止しているローラ24に取り付けられている渦巻きばね25の第2の端部に対して動かされ、それにより渦巻きばね25が巻かれてローラ24に付勢力を及ぼす。付勢力は、ローラ24を付勢して、ハウジング11に対して弧状経路Xに沿って動かす。投薬機構14の投薬ロック部材は、最初はロック状態にあり、渦巻きばね25の力に逆らってローラ24を定位置で保持する。
【0078】
近位部分17が準備完了位置に到達したとき、近位部分17は、第1および第2のねじ山29、30の係合によって準備完了位置で保持される。巻かれた渦巻きばね25は、近位部分17を付勢して、近位部分17が初期位置から近位位置へ回転した方向とは反対の方向に遠位部分16に対して回転させ、それにより近位部分17は、渦巻きばね25の力によって準備完了位置から離れる方へ付勢される。しかし、第1および第2のねじ山29、30の構成は、近位部分17が渦巻きばね25の力を受けて準備完了位置から離れる方へ動くのを防止するようになっている。これはたとえば、第1および第2のねじ山29、30のピッチによって、または別法として近位部分17を遠位部分16に対して定位置で保持するように係合する掛止部もしくはロック部材によって、実現することができる。したがって、患者が近位部分17を準備完了位置へ動かした後、患者が近位部分17を準備完了位置で保持するために近位部分17に力を加える必要がなくなる。
【0079】
ボタン15は、ハウジング11の近位部分17の内壁17A内に受け入れられ、それにより近位部分17が準備完了位置へ動かされ、したがって近位部分17の端壁21が遠位部分16の端壁19の方へ動かされたとき、近位部分17はボタン15に対して摺動する。これにより、ボタン15は近位部分17から突出する(図4に示す)。したがって、ボタン15は、患者によって作動させることができる。ボタン15は、近位部分17が準備完了位置にあるとき、近位部分17の端壁21から突出する。
【0080】
近位部分17が準備完了位置にある状態で、患者の注射部位へ薬剤を供給するために、薬剤送達デバイス10が準備される。患者は、ボタン15の端壁15Bを押し下げ、それによりボタン15がハウジング11の近位部分17内へ摺動する。これにより、ボタン15は針伸長ロック36に係合し、それにより針伸長ばね32が解放され、針12を伸長位置へ動かす。より詳細には、ボタン15が遠位部分16の端壁19の方へ摺動し、その後ボタン15の突出部15Cが伸長ロック部材38の第2の突出部41の傾斜面41Aに対して付勢され、その結果、伸長ロック部材38はロック状態からロック解除状態へ回転する(図5に示す)。上記で論じたように、これにより、針12のベース12Aが針伸長ばね32の力を受けて伸長保持要素34から離れる方へ動くことが可能になり、それにより針12は軸方向に動き、セプタム31を通過して遠位部分16の端壁19内のアパーチャ19Cから延びる。したがって、針12は伸長位置へ動かされる(図6に示す)。遠位部分16の端壁19は患者の皮膚に粘着しており、したがって針12が伸長位置へ動かされたとき、針12は患者の注射部位に入る。
【0081】
針12が伸長位置へ動かされたとき、針12は軟質バッグ23の内側と流体連通される。一実施形態では、軟質バッグ23の内側と流体連通する導管(図示せず)が設けられる。針12は、針12が伸長位置へ動かされたときに導管と流体連通するように導管と位置合わせされたアパーチャ(図示せず)を含み、それにより薬剤は、針12から投薬されるように、軟質バッグ23から導管を通って針12のアパーチャ内へ流れることができる。導管は、軟質バッグ23の第2の端部23Bに向かうように設けられた出口(図示せず)と流体連通することができる。
【0082】
患者は、引き続きボタン15をハウジング11内へ押し込み、次いでボタン15を投薬ロックに係合させ、それにより、針12が伸長位置へ動かされた後、渦巻きばね25が解放され、ローラ24をハウジング11の遠位部分16に対して弧状経路Xに沿って付勢する(図7および図9に示す)。これにより、ローラ24は軟質バッグ23の壁26を第1の端部23Aから軟質バッグ23の第2の端部23Bへ動き、それにより壁26が変形して軟質バッグ23内の薬剤の圧力を増大させる。これにより、薬剤が軟質バッグ23から投薬される。より具体的には、ボタン15の遠位端が投薬ロック部材の突出部に対して付勢され、その結果、投薬ロック部材はロック状態からロック解除状態へ回転し、それにより投薬ロック部材はローラ24から離れる方へ動かされる。上記で論じたように、これにより、ローラ24は、渦巻きばね25の力を受けて軟質バッグ23の壁26をわたって動くことが可能になる。したがって、軟質バッグ23は、ローラ24と遠位部分16の端壁19との間に圧縮され、それにより軟質バッグ23内の薬剤の圧力が増大して、薬剤が軟質バッグ23の第2の端部23Bの方へ流れる。薬剤は、軟質バッグ23から針12を通って流れ、患者の注射部位に入る。
【0083】
投薬ロック部材がロック解除状態へ動かされて薬剤送達を開始する程度までボタン15が押し下げられた後、患者はボタン15を押すのを止めることができる。ローラ24は引き続き軟質バッグ23の第2の端部23Bの方へ動き、それにより薬剤が針12を介して患者の注射部位へ送達される。したがって、薬剤送達デバイス10を使用することで、患者が連続してボタン15に力を加えることを必要とすることなく、長時間、たとえば数時間にわたって、薬剤を患者の注射部位へ送達することができる。
【0084】
薬剤は引き続き注射部位へ送達され、その後ローラ24は軟質バッグ23の第2の端部23Bに到達し、針後退ロックに係合し、それにより針後退ばね33が解放され、針12を後退位置へ動かす。より詳細には、ローラ24は、渦巻きばね25の力によって軟質バッグ23の第2の端部23Bの方へ動かされ、その後、ローラ24は後退ロック部材の第1の細長い部材の自由端に対して付勢され、その結果、後退ロック部材はロック状態からロック解除状態へ回転する。上記で論じたように、これにより、後退保持要素35は針後退ばね33の力を受けて遠位部分16の端壁19から離れる方へ動くことが可能になり、それにより後退保持要素35は、針12のベース12Aに対して付勢され、針12をハウジング11内へ後退位置に動かす(図10に示す)。次いで患者は、薬剤送達デバイス10を注射部位から取り出すことができる。
【0085】
代替実施形態では、第1および第2のねじ山62、63のうちの一方が省略され、第1および第2のねじ山62、63のうちの他方に係合する突起(図示せず)に置き換えられる。
【0086】
一実施形態(図示せず)では、近位部分17が初期位置にあるときにボタン15を定位置でロックするためのアクチュエータロックを設けることができる。アクチュエータロックは、近位部分17が初期位置にあるときにハウジング11に対するボタン15の動きを防止するためにロック状態にあるアクチュエータロック部材を含むことができる。アクチュエータロック部材は、近位部分17が準備完了位置へ動かされたとき、ロック解除状態へ動かされ、それによりボタン15をハウジング11に対して動かすことができるようになる。
【0087】
前述の実施形態では、近位部分17は、ハウジング11の遠位部分16に対して回転されて渦巻きばね25を巻き、それにより投薬部材24に付勢力がかかる。しかし、代替実施形態(図示せず)では、渦巻きばね25は事前に巻かれており、したがって患者は、投薬部材24に付勢力を及ぼすために近位部分17を遠位部分16に対して回転させる必要はない。1つのそのような実施形態では、ハウジング11の遠位および近位部分16、17は互いに対して固定されており、一体形成することができる。
【0088】
前述の実施形態では、軟質バッグ23は、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに約180度にわたって延びる。しかし、軟質バッグ23は、ハウジング11の中心軸A-Aの周りに異なる角度、たとえば45度または360度にわたって延びることができることを理解されたい。
【0089】
前述の実施形態では、リザーバ23が軟質バッグ23を含むが、代替実施形態(図示せず)では、リザーバ23は異なる構成を有することができる。たとえば、リザーバは代わりに、1つの端部に可撓壁を有する剛性の容器を含むことができ、投薬部材は、可撓壁をわたって動いて可撓壁を変形させるように配置され、それにより薬剤がリザーバから投薬される。別の実施形態では、材料の可撓壁の縁部は、遠位部分16の端壁19の内面19Bに固定され、それにより可撓壁と内面19Bとの間に空間が形成される。空間は、薬剤のためのリザーバを形成する。投薬部材は、可撓壁をわたって動かされてリザーバ内の圧力を増大させ、それにより薬剤がリザーバから投薬される。
【0090】
前述の実施形態では、投薬部材24はローラ24を含む。しかし、ローラ24は省略することができ、それにより投薬部材24が第2の中心軸B-B周りでハウジング11に対して転動しなくなることを理解されたい。1つのそのような実施形態(図示せず)では、投薬部材は代わりに、連結部材27に対して固定され、それにより投薬部材は代わりに、投薬付勢部材25の力を受けて軟質バッグ23の壁26をわたって摺動する。
【0091】
前述の実施形態では、針12は、ハウジング11に対して後退および伸長位置間を可動である。しかし、代替実施形態では、針12は伸長位置で固定され、それにより針12は、ハウジング11から恒久的に突出する。したがって、遠位部分16の端壁19が患者の皮膚に固定されたとき、針12は皮膚を穿孔して患者の注射部位に入る。
【0092】
前述の実施形態では、投薬ロックは機械的に動作し、ボタン15の端部は投薬ロック部材に対して付勢されて、投薬ロック部材をロック状態からロック解除状態へ回転させる。しかし、代替実施形態では、投薬ロックは電気的に動作する。たとえば、投薬ロックは、ローラ24をハウジング11の遠位部分16に対して定位置で保持する電磁ラッチ(図示せず)を含むことができる。ボタン15が患者によって押し下げられたとき、電磁ラッチは状態変化し、それによりローラ24は、ハウジング11に対して弧状経路Xに沿って動くように解放される。同様に、針作動機構は代わりに、電気的に動作することができ、たとえば針12を後退および伸長位置間で動かすモータ(図示せず)を含むことができる。
【0093】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物を説明するために本明細書において使用される。以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つの低分子もしくは高分子、またはその組み合わせを含むことができる。例示的な薬学的に活性な化合物は、低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドを含むことができる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込むことができる。これらの薬物の1つまたはそれ以上の混合物もまた、企図される。
【0094】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。限定されることなく、薬物送達デバイスは、注射デバイス(たとえばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、かん流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば鼻用または肺用)、埋め込み(たとえば、コーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここに説明される薬物は、針、たとえば小ゲージ針を含む注射デバイスで特に有用であることができる。
【0095】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含むことができる。薬物容器は、たとえば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物の保存(たとえば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の容器とすることができる。たとえば、一部の場合、チャンバは、少なくとも1日(たとえば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を保存するように設計することができる。一部の場合、チャンバは、約1ヶ月から約2年の間薬物を保存するように設計することができる。保存は、室温(たとえば約20℃)または冷蔵温度(たとえば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。一部の場合、薬物容器は、薬物製剤の2つまたはそれ以上の成分(たとえば薬物および希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に薬物または薬剤の2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成することができる。たとえば、2つのチャンバは、これらが(たとえば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成することができる。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成することができる。
【0096】
本明細書において説明される薬物送達デバイスおよび薬物は、数多くの異なるタイプの障害の処置および/または予防に使用することができる。例示的な障害は、たとえば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症を含む。さらなる例示的な障害は、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチである。
【0097】
糖尿病または糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のための例示的な薬物は、インスリン、たとえばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容される塩もしくはその溶媒和物、またはそれらの任意の混合物を含む。本明細書において使用される用語「誘導体」は、元の物質と構造的に十分同様のものであり、それによって同様の機能または活性(たとえば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。
【0098】
例示的なインスリン類似体は、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0099】
例示的なインスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。例示的なGLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストは、たとえば:リキシセナチド(Lixisenatide)/AVE0010/ZP10/リキスミア(Lyxumia)、エキセナチド(Exenatide)/エクセンディン-4(Exendin-4)/バイエッタ(Byetta)/ビデュリオン(Bydureon)/ITCA650/AC-2993(アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Liraglutide)/ビクトザ(Victoza)、セマグルチド(Semaglutide)、タスポグルチド(Taspoglutide)、シンクリア(Syncria)/アルビグルチド(Albiglutide)、デュラグルチド(Dulaglutide)、rエクセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド(Langlenatide)/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド(Exenatide)-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0100】
例示的なオリゴヌクレオチドは、たとえば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセン(mipomersen)/キナムロ(Kynamro)である。
【0101】
例示的なDPP4阻害剤は、ビルダグリプチン(Vildagliptin)、シタグリプチン(Sitagliptin)、デナグリプチン(Denagliptin)、サキサグリプチン(Saxagliptin)、ベルベリン(Berberine)である。
【0102】
例示的なホルモンは、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストを含む。
【0103】
例示的な多糖類は、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩を含む。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、HylanG-F20/Synvisc、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0104】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例は、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントを含む。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(たとえばマウス)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。たとえば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、Fc受容体との結合を支持せず、たとえば、これは、突然変異したまたは欠失したFc受容体結合領域を有する。
【0105】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペププチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、二重特異性、三重特異性、および多重特異性抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの単一特異性または多重特異性抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例は、当技術分野で知られている。
【0106】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0107】
例示的な抗体は、アンチPCSK-9mAb(たとえばアリロクマブ(Alirocumab))、アンチIL-6mAb(たとえばサリルマブ(Sarilumab))、およびアンチIL-4mAb(たとえばデュピルマブ(Dupilumab))である。
【0108】
本明細書において説明される化合物は、(a)化合物または薬学的に許容されるその塩、および(b)薬学的に許容される担体を含む医薬製剤において使用することができる。化合物はまた、1つまたはそれ以上の他の医薬品有効成分を含む医薬製剤、または存在する化合物またはその薬学的に許容される塩が唯一の有効成分である医薬製剤において使用することもできる。したがって、本開示の医薬製剤は、本明細書において説明される化合物および薬学的に許容される担体を混合することによって作られる任意の製剤を包含する。
【0109】
本明細書において説明される任意の薬物の薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける使用に企図される。薬学的に許容される塩は、たとえば酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類金属、たとえばNa+、もしくはK+、もしくはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1からR4は互いに独立して:水素、場合により置換されたC1~C6-アルキル基、場合により置換されたC2~C6-アルケニル基、場合により置換されたC6~C10-アリル基、または場合により置換されたC6~C10-ヘテロアリール基を意味する)から選択されるカチオンを有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、当業者に知られている。
【0110】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物またはメタノラート(methanolate)またはエタノラート(ethanolate)などのアルカノラート(alkanolate)である。
【0111】
本発明の完全な範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に記載する物質、調合、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素に修正(追加および/または削除)を加えることができ、本発明は、そのような修正およびそのあらゆる均等物を包含することが、当業者には理解されよう。
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