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▶ サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ドリル装置、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20230323BHJP
   B23P 15/32 20060101ALI20230323BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20230323BHJP
【FI】
B23B51/00 K
B23P15/32
B23K26/364
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019525767
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2017079660
(87)【国際公開番号】W WO2018091683
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】16199337.3
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブロヘデ, ウルリーカ
(72)【発明者】
【氏名】タイケ, マリア
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-287110(JP,A)
【文献】特表2013-537114(JP,A)
【文献】米国特許第09144845(US,B1)
【文献】実開昭62-201611(JP,U)
【文献】特開2005-319544(JP,A)
【文献】特開昭60-067003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00、02
B23C 5/10
B23P 15/32
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル先端(2)と、後方部(3.1)を有するドリルボディ(3)とを有し、
前記ドリル先端(2)が、少なくとも第1の逃げ面(2.1)を備え、
前記ドリルボディ(3)が、少なくとも、マージン(3.3)を有する第1のランド(3.2)を備え、
前記第1の逃げ面(2.1)と前記マージン(3.3)との間にエッジ(4)が存在し、
テクスチャ付き領域(6)が、複数の凹部(6.1)を備え、
前記テクスチャ付き領域(6)が、前記マージン(3.3)の少なくとも一部に沿って、前記ドリルボディ(3)の前記後方部(3.1)の方向に、前記エッジ(4)から200μmの位置から、または前記少なくとも第1の逃げ面(2.1)上のある位置から、またはこれらの間のある位置から延在する、ドリル装置(1)において、前記凹部(6.1)が、細長く連続的な溝筋の形状であり、前記ドリル装置(1)の長手方向回転軸(X)の方向から20°または20°以内である方向(Y)に延在し、
前記溝筋が2~5μmの範囲内で選択される深さ(Z)と、20~30μmの範囲内で選択される所定の周期(P)を有し、
前記周期が、1つの凸部の上表面の端部から隣接する溝筋をまたぎ、次の凸部の端部表面の対応する端部までで決まり、
上幅(TW)が10~30μmの範囲であり、
前記溝筋は下幅(BW)を更に有し、前記上幅(TW)は前記下幅(BW)よりも広く、前記上幅(TW)は前記周期(P)以下であることを特徴とする、ドリル装置(1)。
【請求項2】
前記テクスチャ付き領域(6)が前記エッジ(4)から延在する、請求項1に記載のドリル装置(1)。
【請求項3】
前記エッジ(4)が半径(R)を備え、前記テクスチャ付き領域(6)が、前記エッジ(4)の前記半径(R)の少なくとも一部から延在する、請求項2に記載のドリル装置(1)。
【請求項4】
前記凹部(6.1)が互いに平行に配置される、請求項1から3のいずれか一項に記載のドリル装置(1)。
【請求項5】
前記凹部(6.1)が、前記ドリル装置(1)の長手方向回転軸(X)の方向から10°以内である方向(Y)に延在する、請求項4に記載のドリル装置(1)。
【請求項6】
前記凹部(6.1)が、前記ドリル装置(1)の長手方向回転軸(X)に対して平行に延在する、請求項5に記載のドリル装置(1)。
【請求項7】
前記テクスチャ付き領域(6)が、前記マージン(3.3)のリーディングエッジ(3.8)に対して平行に決定される所定の長さ(L)と、前記エッジ(4)に対して平行に決定される所定の幅(W)とを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のドリル装置(1)。
【請求項8】
前記ドリル装置(1)が、少なくとも第1のランドおよび第2のランド(3.2、3.5)を備え、各ランド(3.2、3.5)が、マージン(3.3、3.6)をそれぞれ備え、各マージン(3.3、3.6)が、複数の凹部(6.1)を備えたテクスチャ付き領域(6)を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のドリル装置(1)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のドリル装置(1)を製造する方法であって、
ドリル先端(2)と、後方部(3.1)を有するドリルボディ(3)とを有するドリル装置(1)を提供するステップであって、前記ドリル先端(2)が、少なくとも第1の逃げ面(2.1)を備え、前記ドリルボディ(3)が、少なくとも、マージン(3.3)を有する第1のランド(3.2)を備え、前記第1の逃げ面(2.1)と前記マージン(3.3)の間にエッジ(4)が存在する、ステップと、
細長く連続的な溝筋の形状である複数の凹部(6.1)を備えたテクスチャ付き領域(6)を形成するステップとを含み、
前記凹部(6.1)が、前記ドリル装置(1)の長手方向回転軸(X)の方向から20°または20°以内である方向(Y)に延在する、方法において、
前記複数の凹部(6.1)がレーザービームによって形成され、前記レーザービームが、前記マージン(3.3)の少なくとも一部に沿って、前記ドリルボディ(3)の前記後方部(3.1)の方向に、前記エッジ(4)から200μmの位置、または前記第1の逃げ面のある位置、またはこれらの間のある位置へと、またはその位置から、動かされ、
前記溝筋が2~5μmの範囲内で選択される深さ(Z)と、20~30μmの範囲内で選択される所定の周期(P)を有し、
前記周期が、1つの凸部の上表面の端部から隣接する溝筋をまたぎ、次の凸部の端部表面の対応する端部までで決まり、
上幅(TW)が10~30μmの範囲であり、
前記溝筋は下幅(BW)を更に有し、前記上幅(TW)は前記下幅(BW)よりも広く、前記上幅(TW)は前記周期(P)以下であることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記レーザービームが、前記ドリルボディ(3)の前記後方部(3.1)から前記マージン(3.3)と前記第1の逃げ面(2.1)の間の前記エッジ(4)に向かう方向で、前記マージン(3.3)の少なくとも一部に沿って動かされる、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テクスチャ付き領域を備えたマージンを有するドリル装置に関する。本開示は、テクスチャ付き領域を備えたマージンを有するドリル装置の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属性の被加工物を機械加工するための、一体式に作られたドリルまたはドリル先端インサートなどのドリル装置では、穿孔作業中、ドリル装置のマージンがかなりの摩耗を受けることが確認されている。耐摩耗性を高めるために、ドリル装置のマージンにテクスチャの付いた領域を提供することが試みられてきた。たとえば、US9144845B1では、マージンの、ドリル先端から遠位な領域に、複数の独立した微小凹部のテクスチャリングが設けられている。しかし、US9144845B1の試験結果は有望に思われるが、金属性材料を機械加工するためのドリル装置の耐摩耗性は、依然として改善される必要がある。
【発明の概要】
【0003】
したがって、本開示の一目的は、従来技術の課題を解決する、または少なくとも軽減するドリル装置を提供することである。具体的には、本開示の一目的は、耐摩耗ドリル装置を提供することである。本開示のさらに別の目的は、効果的な耐摩耗パターンを有するテクスチャ付き領域を備えたマージンを有するドリル装置を提供することである。本開示の別の目的は、耐摩耗ドリル装置の製造方法を提供することである。
【0004】
本開示によれば、ドリル先端2と、後方部3.1を有するドリルボディ3とを有し、
- ドリル先端2が、少なくとも第1の逃げ面2.1を備え、
- ドリルボディ3が、少なくとも、マージン3.3を有する第1のランド3.2を備え、
- 第1の逃げ面2.1とマージン3.3の間にエッジ4が存在し、
- テクスチャ付き領域6が、複数の凹部6.1を備え、
テクスチャ付き領域6が、エッジ4から200μmの位置から、または最少の第1の逃げ面2.1のある位置から、またはこれらの間のある位置から、ドリルボディ3の後方部3.1の方向に、マージン3.3の少なくとも一部に沿って延在し、
- 凹部6.1が、ドリル1の長手方向回転軸Xの方向から20°または20°以内である方向Yに延在する、ドリル装置1により、これらの目的のうちの少なくとも1つが達成される。
【0005】
本開示によるドリル装置を用いた実際の機械加工試験の結果では、意外なことに、機械加工作業に際し、マージンの、ドリル先端に近接した領域が摩耗を受けやすいということが示されている。意外なことに、マージンの先端、またはそれに近い場所からドリル装置の後方の方向に延在するテクスチャ付き領域が、マージンの耐摩耗性、したがってドリル装置の工具寿命に対してかなりの有益な効果をもつことも、さらに示されている。さらに、テクスチャ付き領域の凹部の配向がドリルの工具寿命にとって重要であることが示されており、したがって、凹部は、好ましくはドリル1の長手方向回転軸Xに沿って、またはほぼ沿って配向すべきである。
【0006】
本開示によるドリル装置の別の実施形態および代替形態は、添付の特許請求の範囲および詳細な説明に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1-4】本開示の第1の実施形態によるドリル装置の概略図である。
図5-6】本開示の第2の実施形態によるドリル装置の概略図である。
図7a】本開示の第1の代替形態によるテクスチャ付き領域の概略図である。
図7b】本開示の第2の代替形態によるテクスチャ付き領域の概略図である。
図8】本開示によるドリル装置のマージンの凹部の概略図である。
図9a-9b】本開示によるドリル装置のマージンの概略図である。
図10a-10c】本開示によるドリル装置のSEM画像である。
図11a-11c】本開示によるドリル装置の凹部のSEM画像である。
図12a-12c】機械加工テスト後の、本開示による第1の組のドリル装置のSEM画像である。
図13a-13b】機械加工テスト後の、本開示による第2の組のドリル装置のSEM画像である。
図14a-14c】機械加工テスト前後の、比較のドリル装置のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本開示によるドリル装置を以下により詳細に説明する。しかし、本開示によるドリル装置は多くの様々な形態で具体化されてもよく、本明細書に述べる実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が綿密かつ完全であり、本開示の範囲を十分に当業者に伝えるように、例示のために提供されている。説明の全体を通して、同じ参照番号は同じ要素を指す。
【0009】
図1には、本開示の第1の実施形態によるドリル装置1が概略的に示してある。この場合、ドリル装置は、単一片の超硬合金で製造されたドリルである。ドリル装置1は、ドリル先端2と、ドリル先端2から延在し、後方部3.1を有するドリルボディ3とを備える。保持装置(図示せず)にドリルを取り付けるためのドリルシャンクが、ドリルボディ3の後方部3.1から延在する。ドリルボディ3は、第1のランド3.2および第2のランド3.5、ならびに第1のランド3.2と第2のランド3.5の間に延在する第1の溝3.4および第2の溝3.7を備える。第1のランド3.2および第2のランド3.5、ならびに第1の溝3.4および第2の溝3.7は、後方部3.1からドリル先端2に向かう方向で、ドリルボディ3に沿って螺旋状に延在する。第1のランド3.2は第1のマージン3.3を有し、第2のランド3.5は第2のマージンを有する。
【0010】
図2には、図1に示したドリル装置1のドリル先端2の正面図が示してある。ドリル先端2は、第1の切れ刃2.3および第2の切れ刃2.4を有する。第1の逃げ面2.1が第1の切れ刃2.3から延在し、第2の逃げ面2.2が第2の切れ刃2.4から延在する。
【0011】
図3は、第1のマージン3.3および第2のマージン3.6を示す、図1のドリル装置1の断面図である。マージン3.3、3.6は、ランド3.2、3.5を越えて延在する、ドリルボディ3の円筒形部分である。穿孔中、マージン3.3、3.6により、ボーリング孔内にドリル装置が支持される。
【0012】
図4には、ドリル先端2の斜視図が示してある。このように、マージン3.3は、リーディングエッジ3.8およびトレーリングエッジ3.9を有する。エッジ4により、マージン3.3の上端部と第1の逃げ面2.1が区切られる。図4では第2のマージン3.6は見えていないが、第2のマージン3.6は同一のリーディングエッジ3.8およびトレーリングエッジ3.9、ならびに同一のエッジ4を備えることを理解されたい。
【0013】
本開示によるドリル装置は、第3のランドや第4のランドなど、さらなるランドを備える場合があることもさらに理解されたい。それぞれの追加のランドが上述のマージンを備えてもよいことも、さらに理解されたい。
【0014】
上述のドリル装置1は、ドリルの周りに螺旋状に延在する切りくず溝3.4、3.7が提供された、ひねりドリルまたは螺旋状ドリルでもよい。別法として、ドリル装置1には、ドリルの長手方向Xに延在する、直線的な切りくず溝が提供されてもよい。ドリル装置1には、ドリル先端2が提供されてもよい。
【0015】
ドリル装置は、鋼、またはたとえばWC/Coである超硬合金などの硬質金属から製造することができる。ドリルは、金属、カーバイド粉末およびバインダの混合物をプレスするかまたは押し出し、続いて焼結する方法を含め、従来の方法で製造することができる。ドリルは、たとえばPVDで付けられた、TiN、TiAlN、および/またはTiAl/TiAlCrなどの耐摩耗コーティングをさらに備えてもよい。コーティングは、多層コーティングでもよく、単一層でもよい。別法として、または追加的に、コーティングは、たとえばTiN、TiCN、TiAlN、および/またはAlの層を含むCVDコーティングを含んでもよい。前記コーティングの厚みは、1~5μmであることが好ましい。
【0016】
図5には、本開示の第2の実施形態によるドリル装置1が示してある。この場合、ドリル装置1は、ドリル先端ホルダー10に取外し可能に取り付けることができる交換可能なドリル先端インサートである。第2の実施形態のドリル装置1は図6に詳細に示されており、第1の実施形態のドリル装置と同じ特徴を備える。すなわち、ドリル先端2、後方部3.1を有するボディ3、少なくとも第1の逃げ面、少なくとも第1のマージン3.3を有する少なくとも第1のランド3.2、および逃げ面2.1とマージン3.3の間のエッジ4。逃げ面は、コーナの面取り部を備えてもよい。第2の実施形態によるドリル装置1は、ボディ3の後方部3.1から延在し、ドリル装置1をドリル装置ホルダー10に取り付けるように構成された取付けピン20をさらに備える。
【0017】
本開示によれば、ドリル装置には、ドリル装置の表面に形成された凹部を備える、テクスチャ付き領域が提供される。したがって、テクスチャ付き領域は、マージンと逃げ面の間のエッジから200μmの位置から、または逃げ面から、または逃げ面とエッジから200μmのところとの間のある位置から、ドリルボディの後方部の方向に、マージンに沿って延在する。以下の説明は、本開示によるドリル装置の第1の実施形態と第2の実施形態の両方に適用される。
【0018】
図7aには、ドリル装置1の第1の代替形態の第1のマージン3.3の上部の概略図が示してある。マージン3.3と逃げ面(図示せず)の間のエッジ4も示してある。ドリル装置1の回転軸が、矢印Xで示してある。細長く連続的な溝筋の形をとる複数の凹部6.1を備えたテクスチャ付き領域6が、マージン3.3に沿って、エッジ4からドリルボディの後方部(図示せず)の方向に延在する。凹部6.1が延在する方向が、矢印Yで示してある。方向Xと方向Yの間の角度はαである。テクスチャ付き領域6は、マージン3.3のリーディングエッジ3.8に対して平行に決定される、所定の長さをもつ。記載したこの実施形態では、テクスチャ付き領域6の長さLは、溝筋6.1の長さに対応する。テクスチャ付き領域6は、マージン3.3と逃げ面(図示せず)の間のエッジ4に対して平行に決定される、所定の幅Wをさらに有する。記載したこの実施形態では、溝筋6.1は、マージン3.3のリーディングエッジ3.8に対して平行に、また互いに対して平行に配置されている。さらに、溝筋6.1は互いに対して等距離で配置され、したがってテクスチャ付き領域6の幅Wにわたって均一に分布する。
【0019】
テクスチャ付き領域6の所定の長さLおよび所定の幅Wは、ドリル1の全体的な設計、穿孔用途、および被加工物の材料を考慮して選択することができる。マージンの、穿孔作業に際して孔の表面に接触する部分全体にテクスチャ付き領域が延在するように、所定の長さLを選択することが好ましい。実際の試験では、所定の長さLがドリル装置の直径の10~100%、または10~50%、または10~30%、または10~20%であるとき、良好な耐摩耗性が得られることが示されている。
【0020】
テクスチャ付き領域6の所定の幅Wは、テクスチャ付き領域6がマージンのリーディングエッジ3.8および/またはトレーリングエッジ3.9から距離dのところに位置決めされるように選択することができる。距離dは、ドリル装置の寸法および被加工物の材料に応じて選択することができる。たとえば、所定の距離dは、1~25μm、または1~10μm、または1~5μmである。別法として、テクスチャ付き領域6の所定の幅Wは、テクスチャ付き領域6がマージンのリーディングエッジ3.8および/またはトレーリングエッジ3.9から延在するように選択されてもよい。
【0021】
凹部6.1の配向は方向Yに延在することができ、方向Yは、ドリル1の長手方向回転軸Xの方向から20°、または20°以内であり、すなわちXとYの間の角度αは20°以下である。別法として、凹部6.1は、αが10°以下または5°以下になるように、方向Yに延在してもよい。方向Yは、ドリル1の長手方向回転軸Xの方向から10°以内でもよく、5°以内でもよい。凹部6.1は、ドリル1の長手方向回転軸Xに平行に延在してもよく、すなわち、αはゼロになる。ドリルのリーディングエッジは、ドリルの長手方向回転軸Xに対して角度β(いわゆるねじれ角β)で、ドリルの外周部の周りに螺旋状に位置決めすることができる。したがって、βが20°以下である場合、リーディングエッジに揃えられた凹部は、本発明の範囲に含まれる。本発明の配向に従って揃えた凹部の技術的な効果は、すなわち、ドリルのマージンの摩耗が軽減されるということである。摩耗は、穴の中でドリルを回転させている間、および穿孔中に、穿孔した穴の内壁部とマージンの表面とが摺動している間に生じる。工具寿命の改善は、摺動界面での潤滑が改善することに起因している可能性がある。ドリルの長手方向回転軸Xに対して平行に凹部を配向することは、マージン上の凹部が、穿孔した穴の壁部の摺動方向に対して垂直に配向されることに対応する。
【0022】
本発明の一実施形態では、凹部は方向Yに延在し、角度α、すなわちYとドリルの長手方向回転軸Xの間の角度は、ドリルのリーディングエッジの方向、好ましくはドリル1のドリル先端2でのリーディングエッジの方向と方向Xとの間の、任意の角度である。
【0023】
ドリルがねじれ角βでひねられている、または螺旋状になっている本発明の一実施形態では、凹部が延在する方向Yは、角度αが角度βより小さくなるようにリーディングエッジの方向と異なる。
【0024】
図7bには、ドリル装置1の第2の代替形態による第1のマージン3.3の上部の概略図が示してある。マージン3.3と逃げ面(図示せず)の間のエッジ4も示してある。ドリル装置1の回転軸が、矢印Xで示してある。細長く連続的な溝筋の形をとる複数の凹部6.1を備えたテクスチャ付き領域6が、マージン3.3に沿って、エッジ4からボディの後方部(図示せず)の方向に延在する。凹部6.1が延在する方向が、矢印Yで示してある。この代替形態においても、テクスチャ付き領域6は、マージン3.3のリーディングエッジ3.8に対して平行に決定される所定の長さLと、マージン3.3と逃げ面(図示せず)の間のエッジ4に対して平行に決定される所定のWとを有する。第1の代替形態と全く同様に、テクスチャ付き領域6は、マージン3.3のリーディングエッジ3.8および/またはトレーリングエッジ3.9から所定の距離d(図示せず)で配置される。しかし、テクスチャ付き領域6は、マージンのトレーリングエッジ3.9からリーディングエッジ3.8まで延在してもよい。溝筋6.1は、この実施形態ではドリル1の回転軸Xに対して平行に配向されている。したがって、記載したこの実施形態では、溝筋6.1の一部は、エッジ4から、回転軸Xに対して平行に延在することができ、溝筋6.1の一部は、マージンのリーディングエッジ3.8およびトレーリングエッジ3.9から、あるいはリーディングエッジ3.8および/またはトレーリングエッジ3.9から所定の距離dのところから、回転軸Xに対して平行に延在することができる。実際の試験では、溝筋のこの配向により、マージンの耐摩耗性が大幅に向上することが示されている。
【0025】
一代替形態(図示せず)によれば、テクスチャ付き領域は、エッジ4から200μmの位置から、マージンに沿って延在する。つまり、テクスチャ付き領域は、エッジ4とドリル装置の後方部との間のある位置を起点とする。一代替形態によれば、テクスチャ付き領域は、エッジ4とエッジ4から200μmのところとの間のある位置を起点とする。たとえば、テクスチャ付き領域は、エッジから0~100μmのある位置を起点とし、ドリル装置の後方部に向かう方向で、マージンに沿って延在する。
【0026】
図8には、図7aまたは図7bの幅Wに対して垂直に見た、溝筋6.1の概略断面図が示してある。このように、マージン3.3に形成される各溝筋6.1は、マージン材料の凸部6.2によって隔てられる。溝筋6.1は、深さZ、ならびに上幅TWおよび下幅BWを有する。溝筋6.1は、上幅TWが下幅BWよりも大きくなるように、マージンに形成される。凸部6.2は、隣り合う2つの溝筋6.1を分割する上表面6.3を有する。図8では、溝筋6.1および凸部6.3は、互いに反転した切頭円錐として示してある。しかし、実際には溝筋および凸部の形状はより複雑であり、半径を含む。溝筋6.1は、溝筋6.1と凸部6.2が周期Pで繰り返されるように、ドリル装置の表面に形成される。周期Pは、ある凸部6.2の上表面6.3の端部から、隣り合う溝筋6.1をまたぎ、次の凸部6.2の端部表面6.3の対応する端部までで決まる。溝筋の上幅と周期の間の関係は、TW≦Pであるべきである。周期P、溝筋の上幅TW、および溝筋6.1の深さZは、テクスチャ付き領域6によってもたらされる耐摩耗性に影響する。周期Pは、Pの間隔=10~300μmで選択されることが好ましく、P=20~70μm、または20~30μmであることがより好ましい。上幅TWは間隔TW=10~300μmで選択されることが好ましく、TW=20~50μmであることがより好ましい。深さZは間隔Z=1~50μmで選択されることが好ましく、Z=2~7μm、または2~5μmであることがより好ましい。一例によれば、P=50μm、W=30μm、Z=4μmである。一例によれば、P=25μm、TW=25μm、Z=6μmである。一例によれば、P=25μm、TW=25μm、Z=3μmである。
【0027】
図9aには、ドリル装置1のマージン3.3と逃げ面2.1の間のエッジ4の側面図が示してある。顕微鏡的な視点で見ると、エッジ4は、マージン3.3と逃げ面2.1を接合する半径Rをもつ。図9bには、図7aの正面投影図が概略的に示してある。半径Rは、2本の破線の間の領域として示してある。このように、テクスチャ付き領域6の溝筋6.1は、半径Rとマージン6.3の境界から延在してもよく、半径Rから延在してもよく、半径Rと逃げ面2.1の境界から延在してもよい。図9bには、テクスチャ付き領域が逃げ面2.1からエッジ4を越え、マージン3.3に沿ってドリルボディの後方部の方向に延在する、本開示の第3の代替形態も示してある。これは、右端の溝筋6.1によって概略的に示してある。
【0028】
テクスチャ付き領域は、マージンに沿ってエッジ4へと延在することが好ましい。実際の試験では、この構成により、マージンの耐摩耗性が大幅に向上することが示されている。
【0029】
テクスチャ付き領域は、レーザービームによって付けることができる。レーザービームは、マージンに沿ってエッジ4の方向に動かされることが好ましい。これの利点は、レーザービームがエッジ4の湾曲部に到達したとき、マージンの表面との焦点が合わなくなり、溝筋の形成が止まるということである。これにより、マージンに沿ってエッジ4へと延在する溝筋のテクスチャ付き領域を、容易かつ効果的に形成することが可能になる。
【0030】
特定の実施形態を詳細に開示してきたが、これは単に説明の目的でなされており、限定的なものではない。具体的には、添付の特許請求の範囲に記載の範囲内で、種々の置換、変更および修正を加えてもよいことが企図されている。
【0031】
たとえば、これまで本明細書では、細長い溝筋の2つの代替形態を参照して、テクスチャ付き領域を説明してきた。しかし、テクスチャ付き領域の凹部は、異なる構成および配向を有してもよいことを理解されたい。たとえば、テクスチャ付き領域は、マージンに沿った方向とマージンを横切る方向の両方において所定の周期で分布する、複数の独立した凹部を備えてもよい。連続的な溝筋の他の設計も予見することができる。たとえば、サインカーブの形で延在する溝筋。
【0032】
さらに、本明細書では特定の用語が用いられる場合があるが、これらは単に一般的かつ記述の意味で使用されており、限定を目的としない。最後に、特許請求の範囲での参照符号は、単に明確にするための例として提供されており、いかなる形でも、特許請求の範囲に記載の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例
【0033】
これ以降、実施例を参照して、本開示によるドリル装置を説明する。
【0034】
準備
ねじれ角が25°の複数の870-1400-14-MM(グレードGC2234)交換可能ドリル先端インサートを、以下の説明によるテクスチャ付き領域で準備した。
【0035】
84.74wt%がWC、1.56wt%がCr、0.02wt%がTiC、残りがCoである組成をもつ、ドリル先端インサートの基材を準備した。ドリル先端インサートの基材を、PVDで付けた厚み2μmのTiAlNコーティングでコーティングして、ドリル先端インサートを形成した。GC2234交換可能ドリル先端インサートは、Sandvik Coromant AB社から市販されている。ドリル先端インサートにコーティングを施す前に、ドリル先端インサートのマージンにテクスチャ付き領域を設けた。ドリル先端インサートを3つの群に分けた。各群を2つの組に分け、これら2つの組は、この後2つの別々の機械加工試験(DP1およびDP2)にかけた。テクスチャなしのドリル先端インサートの第1の比較群も準備した。テストに先立ち、工具鋼で作成したドリル先端ホルダーにドリル先端インサートを取り付けた。
【0036】
ドリル先端インサートの第1の群(15UB08)には、マージンのリーディングエッジに対して平行に延在する細長い溝筋を備えたテクスチャ付き領域を設けた。
【0037】
ドリル先端インサートの第2の群(15UB06)にも、マージンのリーディングエッジに対して平行に延在する細長い溝筋を備えたテクスチャ付き領域を設けた。15UB06の溝筋は、15UB08の溝筋と同じ幅、深さ、およびポジショニングのものであった。しかし、溝筋間の距離(すなわち周期)は15UB08の半分だった。
【0038】
ドリル先端インサートの第3の群(15UB07)には、ドリル装置の回転軸に対して平行に延在する細長い溝筋を備えたテクスチャ付き領域を設けた。
【0039】
ドリル先端インサートにテクスチャを生み出すのに使用したレーザーは、Coherentによって製造されているTalisker Ultraレーザー(ダイオード励起YAG)備えたLMI(Preco)のピコ秒レーザーシステムであった。レーザー溝筋の目標値、およびこれら3つの群でのレーザー設定を以下に示す。
【0040】
レーザー溝筋の目標値を以下の表1に示す。
【0041】
各群でのレーザー設定を以下の表2に示す。
【0042】
テクスチャ付き領域の位置は、摩耗が発生する領域をカバーするように選択し、溝筋は、マージン表面と逃げ面が交わるエッジを横切るように延ばした。エッジの辺縁に近い表面に、またマージンの後方に向かってテクスチャを付けることを意図した。マージンは螺旋を形成する表面を有するので、焦点の高さが変動することになり、それにより、マージンに沿ったテクスチャリング距離の限界が設定されるので、テクスチャ付き領域のサイズは、ドリル先端の曲率によって決まる。テクスチャ付き領域の長さは約2mmであり、これはマージンの全長の約20%である。倍率が低いことにより(LOM)、また傾斜した位置では距離がより大きく示されることにより(SEM)、テクスチャ付き領域の幅は、LOMまたはSEM画像を使用して測定することが困難であった。マージンの総幅は0.702mmであり、全幅0.7mmをテクスチャ付けするという目標に、完全には届かなかった。
【0043】
図10aには、高倍率での15UB06のSEM分析が示してある。図10bには15UB07が示してあり、図10cには15UB08が示してある。
【0044】
図11a~図11cには、各サンプル群15UB06、15UB07および15UB08のドリル先端のテクスチャ付き領域での、溝筋のプロファイルが示してある。
【0045】
各サンプル群のレーザートレンチおよびテクスチャ付き領域のサイズの数値結果が、以下の表3に示してある。
【0046】
テスト
ドリル先端を、非合金鋼S235JR+N(Livallco Stal AB)での貫通孔の穿孔でテストした。テスト中、50番目~100番目の穴ごとにLOM画像を撮り、摩耗を測定した。3つの異なる中止基準(stopping criteria)を設定した。
1)フランク摩耗(FW)>0.25mm
2)チッピング(CH)>0.25mm
3)第1逃げ面(primary clearance)に向かって、上方エッジ全体に及ぶマージン摩耗
【0047】
テスト用の切削パラメータが、表4に示してある。
【0048】
ドリル先端インサートの2つの組は、別々の機械加工試験(DP1およびDP2)を受けた。比較のために、各機械加工試験にはテクスチャなしのドリル先端インサートも含めた。
【0049】
テクスチャなしの比較対象物と比較して、テクスチャ付きの変形体15UB07および15UB08は、著しく摩耗が少なかった。15UB06は機能に問題があり、DP1ではひどい騒音およびチッピングがあり、DP2では破損した。15UB07および15UB08と同じ耐摩耗性の改善も示さなかった。すべてのテクスチャ付き変形体は、フランク面に近いコーナおよび上方エッジにおいて脆さを示し、そこはマージンの他の部分よりも早く摩耗する。また、15UB07および15UB08において、マージンのリーディングエッジに最も近い領域では、基材が見える。これはおそらく、レーザーの軌道がこの領域をカバーしなかったためである。
【0050】
テストしたすべての変形体について、工具寿命を記録した。表5には、テストした変形体の工具寿命が示してある。表5では、以下の略語を使用する。
Mw=フランク面に向かって上方エッジ全体に及ぶマージン摩耗
CH(C)=コーナのチッピング
CH(SE)=マージンのリーディングエッジのチッピング
FW=フランク摩耗
【0051】
変形体15UB06は、ひどい騒音および振動を含めた機能的な問題を伴う最低の性能を示し、DP1では早い段階でのチッピングが生じ、DP2では工具の破損が起きた。テクスチャなしの比較対象物(REF LASER)と比較して、15UB07と15UB08はどちらも、工具寿命の延長を示している。工具寿命の延長は、主に2つの理由から、マージンの耐摩耗性の改善ほど好適ではない。
1)このテストでは、穴550個あたりで、フランク摩耗が工具寿命に影響を及ぼし始める。
2)コーナおよび2次エッジ(secondary edge)は、マージンの他の部分に比べて依然としてかなり高い摩耗率を示す。
【0052】
顕微鏡検査
また、走査電子顕微鏡(SEM)によってドリル先端を検査した。
【0053】
図12a~図12cには、DP1での工具寿命の最後での、ドリル先端15UB06、15UB07、15UB08のSEM画像が示してある。図12a(15UB06)では工具寿命は穴400個であり、図12b(15UB07)では工具寿命は穴500個であり、図12c(15UB07)では工具寿命は穴550個であった。図13aおよび図13bには、DP2での工具寿命の最後での、ドリル先端15UB07および15UB08のSEM画像が示してある。図13a(15UB07)では工具寿命は穴450個であり、図13b(15UB08)では工具寿命は穴450個であった。比較として、図14bには、工具寿命が穴450個である、DP1でのテクスチャなしのドリル先端(図14aを参照)のSEM画像が示してあり、図14cには、工具寿命が穴350個である、DP2でのテクスチャなしのドリル先端が示してある。
【0054】
テクスチャ付きのドリルのほうが長く動作しているにもかかわらず、テクスチャなしのドリル先端とテクスチャ付きのドリル先端の間には、マージン摩耗において大きな差があることが、SEM画像から明らかである。凹部の配向が工具寿命に大きく影響することも明らかである。ドリル(15UB08)の長手方向回転軸(X)に対して平行な配向が、最も長い工具寿命を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図10c
図11a
図11b
図11c
図12a
図12b
図12c
図13a
図13b
図14a
図14b
図14c