(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】T細胞受容体シグナル伝達を阻害または調節することによって、T細胞枯渇を処置する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230323BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230323BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20230323BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20230323BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230323BHJP
C07K 14/245 20060101ALI20230323BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230323BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20230323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230323BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C07K16/30
C07K14/725
C07K14/47
C07K14/245
C12N5/0783
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/31
C12N15/53
A61P35/00
A61K35/17
(21)【出願番号】P 2019553214
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 US2018025459
(87)【国際公開番号】W WO2018183888
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-25
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592116475
【氏名又は名称】ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・リーランド・スタンフォード・ジュニア・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】リン,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】マッコール,クリスタル
(72)【発明者】
【氏名】ワンドレス,トム ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー,エヴァン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-508518(JP,A)
【文献】特表2017-508466(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0272718(US,A1)
【文献】Sci. Rep.,Vol.6, No.18950,2016年01月11日,pp.1-7
【文献】Nat. Med.,2015年06月,Vol.21, No.6, 581-590,pp.1-27
【文献】PLoS One,2013年06月06日,Vol.8, No.6, e65519,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Google/Google Scholar
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)細胞外リガンド結合ドメイン;
b)膜貫通ドメイン;
c)1つ以上のシグナル伝達ドメインを含む細胞質ドメイン;及び
d)調節可能な不安定化ドメイン(RDD)を含
み、
前記RDDが、以下のアミノ酸置換:R12Y、G67S、及びY100Iを含むEscherichia coliジヒドロ葉酸還元酵素不安定化ドメイン(ecDHFR DD)、または以下のアミノ酸置換:E31G、F36V、R71G、及びK105Eを含むFK506-及びラパマイシン-結合タンパク質不安定化ドメイン(FKBP12 DD)を含む、
キメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項2】
以下のうちの1つ以上を特徴とする:
前記細胞外リガンド結合ドメインが、腫瘍抗原に対して特異的に結合し、前記腫瘍抗原が、ジシアロガングリオシドGD2である;
前記細胞外リガンド結合ドメインが、一本鎖可変断片(scFv)ドメインを含む;
前記膜貫通ドメインが、CD28膜貫通ドメインである;
前記細胞質ドメインが、4-1BBシグナル伝達ドメインを含む;
前記細胞質ドメインが、CD28シグナル伝達ドメインを含む;
前記細胞質ドメインが、CD3-ゼータシグナル伝達ドメインを含む;
前記細胞質ドメインが、4-1BBシグナル伝達ドメイン、及び、CD3-ゼータシグナル伝達ドメインを含む
;
前記キメラ抗原受容体が、配列番号40のアミノ酸配列を含む;
前記膜貫通ドメインが、配列番号48のアミノ酸配列を含む;
前記シグナル伝達ドメインが、配列番号50のアミノ酸配列を含むCD28ドメインを含む;
前記シグナル伝達ドメインが、配列番号50のアミノ酸配列を含むCD28ドメイン、及び、配列番号52のアミノ酸配列を含むCD3-ゼータドメインを含む;
前記CD3-ゼータドメインが、配列番号52のアミノ酸配列を含む;
前記
ecDHFR DDが、配列番号70のアミノ酸配列を含む;
前記FKBP12 DDが、配列番号22のアミノ酸配列を含む;
前記キメラ抗原受容体が、配列番号56のアミノ酸配列を含む;
請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
前記scFvが、GD2に対して特異的に結合する抗体の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域を含む、請求項2に記載のCAR。
【請求項4】
前記RDDが、
前記ecDHFR DDを含む、請求項2に記載のCAR。
【請求項5】
請求項1に記載のCA
Rをコードする単離した核酸配列を含む、遺伝子操作したT細胞であって、前記単離した核酸配列が
、
a)共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列:
b)CD3-ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配
列を含む、
前記遺伝子操作したT細胞。
【請求項6】
以下のうちの1つ以上を特徴とする:
前記細胞外リガンド結合ドメインが、腫瘍抗原に対して特異的である;
前記細胞外リガンド結合ドメインが、一本鎖可変断片(scFv)ドメインを含む;
前記核酸配列が、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列である;
前記膜貫通ドメインが、CD28膜貫通ドメインである;
前記細胞質ドメインが、4-1BBシグナル伝達ドメインを含む;
前記細胞質ドメインが、CD28シグナル伝達ドメインを含む;
前記細胞質ドメインが、CD3-ゼータシグナル伝達ドメインを含む
;
前記
ecDHFR DDが、
配列番号70のアミノ酸配列を含む
;
前記
FKBP12 DDが、
配列番号22のアミノ酸配列を含む;
前記細胞外結合ドメインが、配列番号39の核酸配列を含む;
前記膜貫通ドメインが、配列番号47の核酸配列
によってコードされる;
前記シグナル伝達ドメインが、配列番号49の核酸配列
によってコードされるCD28ドメインを含む;
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、配列番号49の核酸配列
によってコードされるCD28ドメイン、及び、配列番号51の核酸配列
によってコードされるCD3-ゼータドメインを含む;
前記CD3-ゼータドメインが、配列番号51の核酸配列
によってコードされる;
前記
ecDHFR DDが、配列番号69の核酸配列
によってコードされる;及び、
前記
CARが、配列番号
56のアミノ酸配列を含む;
請求項5に記載の遺伝子操作したT細胞。
【請求項7】
前記腫瘍抗原が、ジシアロガングリオシドGD2である、請求項6に記載の遺伝子操作したT細胞。
【請求項8】
前記scFvが、GD2に対して特異的に結合する抗体の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域を含む、請求項6に記載の遺伝子操作したT細胞。
【請求項9】
哺乳動物
(ヒトを除く)に抗がん免疫応答を提供する方法であって、前記方法は、CARを発現するように遺伝子操作したT細胞を有効量にて前記哺乳動物に投与することを含み、前記CARが、
a)細胞外リガンド結合ドメイン;
b)膜貫通ドメイン;
c)1つ以上のシグナル伝達ドメインを含む細胞質ドメイン;及び
d)調節可能な不安定化ドメイン(RDD)を含
み、
前記RDDが、以下のアミノ酸置換:R12Y、G67S、及びY100Iを含むEscherichia coliジヒドロ葉酸還元酵素不安定化ドメイン(ecDHFR DD)、または以下のアミノ酸置換:E31G、F36V、R71G、及びK105Eを含むFK506-及びラパマイシン-結合タンパク質不安定化ドメイン(FKBP12 DD)を含む、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2017年3月31日に出願した、米国仮出願第62/479,930号の利益を主張し、本明細書の一部を構成するものとして、同出願の全内容を援用する。
【0002】
発明の分野
本発明は、T細胞枯渇を処置する方法に関する。特に、本発明は、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達を一時的に阻害して、T細胞機能を回復することによって、T細胞枯渇を予防または逆転する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
T細胞は、抗原に結合した後に、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達、及び、共刺激を介して活性化を受ける免疫細胞である。T細胞受容体を介した生理的活性化により、T細胞は、強力な抗腫瘍効果、及び/または、抗感染効果を媒介できるようになる。急性炎症応答が消滅していく間に、活性化したエフェクターT細胞のサブセットは、寿命の長い記憶細胞へと分化する。対照的に、慢性感染症、または、がんの患者において、T細胞は、機能不全の状態に向かう病理学的分化、別名、T細胞枯渇になり得る。T細胞枯渇は、代謝機能、転写プログラミング、エフェクター機能の喪失(例えば、サイトカイン分泌、殺傷能力)、及び、複数の表面阻害受容体の共発現の著しい変化によって、特徴決定をする。T細胞枯渇の根本原因は、連続的なTCRシグナル伝達に至る持続的な抗原曝露である。T細胞の枯渇の予防または逆転は、長らくの間、(例えば、がん、または、慢性感染症の患者において)T細胞の有効性を高める手段として追い求められていた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達を、一時的に阻害することによって、T細胞T細胞枯渇を処置する方法に関する。ある態様では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞枯渇の予防に使用する組成物及び方法を提供する。特に、本発明は、未改変のCAR T細胞が機能不全になる(例えば、枯渇を示す)条件下で、機能性を維持するように改変したCAR T細胞を提供する。本発明の改変したCAR T細胞(例えば、CAR表面発現の調節を介して)、同細胞を含む組成物、及び、同細胞を使用する方法は、例えば、がん、または、感染症に対する活性を含むT細胞機能を増強する。
【0005】
一部の実施形態では、CAR T細胞の枯渇を、CAR表面発現の調節を介して、阻害または逆転する。一部の実施形態では、CAR表面発現の調節は、調節可能な不安定化ドメイン(RDD)のCAR T細胞への融合を介して可能になる。一部の実施形態では、当該RDDは、リガンド調節可能な不安定化ドメインである。例えば、一部の実施形態では、当該CARをRDDと融合することによって、CAR発現の調節が達成されると、得られる改変したCARタンパク質は、不安定になり、プロテアソーム分解を受けやすくなる。小分子または薬物などのリガンド(例えば、Shield-1、または、トリメトプリム(TMP))を追加することで、改変したCARタンパク質は、分解を受けにくくなり、そして、RDDを含むCAR構築物を安定的に発現する(Banaszynski et al.,(2006)Cell 126:995-1004;Banaszynski et al.,(2008)Nat Med 14:1123-1127;Iwamoto et al.,(2010).Chem Biol 17:981-988を参照されたい)。
【0006】
一部の実施形態では、当該RDDは、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)RDDに由来する結合ドメインを含む。一部の実施形態では、当該DHFR由来のRDDは、細菌DHFR由来の結合ドメインを含む。一部の実施形態では、当該細菌DHFRは、Escherichia coli DHFRである。一部の実施形態では、当該DHFR由来のRDDは、ヒトDHFR由来の結合ドメインを含む。一部の実施形態では、当該RDDは、FK506結合タンパク質(FKBP)に由来する結合ドメインを含む。一部の実施形態では、当該FKBPは、FKBP12である。一部の実施形態では、FKBP DDの核酸配列は、配列番号1に記載の配列を含む。ある実施形態では、FKBP DDは、配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARのFKBP DD部分は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む。
【0007】
一部の実施形態では、ecDHFR不安定化ドメインを使用する。一部の実施形態では、ecDHFR DDの核酸配列は、配列番号3に記載の配列を含む。ある実施形態では、当該ecDHFR DDは、配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARのecDHFR DD部分は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む。その他の実施形態では、ecDHFR DDの核酸配列は、配列番号5に記載の配列を含む。ある実施形態では、当該ecDHFR DDは、配列番号6のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARのecDHFR DD部分は、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含む。
【0008】
本発明は、リガンドの種類に対して制限がない。一部の実施形態では、Shield-1またはトリメトプリム(TMP)を使用して、DHFR RDDまたはFKBP RDDを含む融合タンパク質の安定した表面発現を、安定化、及び、促進する。
【0009】
一部の実施形態では、分解(例えば、ユビキチンが媒介した分解、及び/または、プロテオソーム分解)のための、CARに標識されるRDD(例えば、CARに融合したもの)を含むCARを発現するように遺伝子操作したT細胞を提供することで、当該RDDと直接に相互作用(例えば、結合)する安定化小分子薬の添加または存在が、CARの分解を妨げ、かつ、当該RDDと直接に相互作用する安定化小分子薬の除去(例えば、代謝クリアランスによる)または不存在が、CAR分解の発生を許容する。本発明を実施する上でメカニズムの理解は必要ではなく、また、本発明は特定のメカニズムに限定されるものではないが、一部の実施形態では、あらゆるCARタンパク質の表面発現レベルを、持続性CARシグナル伝達を可能にするのに必要な濃度よりも小さくなるように、CARタンパク質の分解または破壊を可能にすることで、持続性CARシグナル伝達を妨げる。一部の実施形態では、当該CARに、かようなRDD「担持薬物」の使用を介したCARタンパク質レベル、及び、CAR表面発現の調節(例えば、抑制)は、持続性CARシグナル伝達に起因するT細胞枯渇の特徴を既に示している枯渇したT細胞を再活性化する。例えば、安定化小分子に曝されているCAR T細胞は、T細胞枯渇の表現型及び機能の特徴のすべてを実証している。しかしながら、安定化小分子を除去し、そして、CARタンパク質レベルをタンパク質分解で低下させると、T細胞枯渇の表現型及び機能指標は逆転し、また、エフェクターT細胞機能は回復する。
【0010】
別の態様では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離した核酸配列を含む遺伝子操作したT細胞を提供するものであり、当該単離した核酸配列は、腫瘍抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片、または、scFv)の核酸配列(例えば、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列)、膜貫通ドメインの核酸配列、1つ以上の共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列、CD3ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配列、及び、RDDドメインの核酸配列を含む。
【0011】
本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離した核酸配列を含むベクターをさらに含んでおり、当該単離した核酸配列は、腫瘍抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片、または、scFv)の核酸配列(例えば、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列)、膜貫通ドメインの核酸配列、1つ以上の共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列、CD3ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配列、及び、RDDドメインの核酸配列を含む。
【0012】
加えて、本発明は、がんを有する対象に抗腫瘍免疫を提供する方法を含む。この方法は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離した核酸配列を含む遺伝子操作したT細胞を有効量にて当該対象に投与することを含んでおり、当該単離した核酸配列は、腫瘍抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片、または、scFv)の核酸配列(例えば、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列)、膜貫通ドメインの核酸配列、1つ以上の共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列、CD3ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配列、及び、RDDドメインの核酸配列を含み、それにより、当該対象に抗腫瘍免疫を提供する。一部の実施形態では、当該対象は、ヒトである。
【0013】
さらに、本発明は、対象における細胞集団、腫瘍または組織に対して、有効に、及び/または、治療的にT細胞が媒介した免疫応答を刺激する方法を含む。この方法は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離した核酸配列を含む遺伝子操作したT細胞を有効量にて当該対象に投与することを含んでおり、当該単離した核酸配列は、腫瘍抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片、または、scFv)の核酸配列(例えば、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列)、膜貫通ドメインの核酸配列、1つ以上の共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列、CD3ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配列、及び、RDDドメインの核酸配列を含み、それにより、当該対象におけるT細胞が媒介した免疫応答を刺激する。
【0014】
対象におけるがんを処置する方法も本明細書で提供する。この方法は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離した核酸配列を含む遺伝子操作したT細胞を治療有効量にて、がんを有する対象に投与することを含んでおり、当該単離した核酸配列は、腫瘍抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片、または、scFv)の核酸配列(例えば、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列)、膜貫通ドメインの核酸配列、1つ以上の共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列、CD3ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配列、及び、RDDドメインの核酸配列を含み、それにより、当該対象のがんを処置する。
【0015】
本発明は、がんと診断された対象において、遺伝子操作したT細胞(例えば、記憶T細胞)の持続性集団を生成する方法をさらに含み、当該方法は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離した核酸配列を含む遺伝子操作したT細胞を有効量にて当該対象に投与することを含んでおり、当該単離した核酸配列は、腫瘍抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片、または、scFv)の核酸配列(例えば、ヒト、マウス、または、ヒト化マウス核酸配列)、膜貫通ドメインの核酸配列、1つ以上の共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列、CD3ゼータシグナル伝達ドメインの核酸配列、及び、RDDドメインの核酸配列を含み、投与後の当該対象において、遺伝子操作したT細胞の持続性集団が(例えば、数週間、1か月、数か月間など)持続する。一部の実施形態では、遺伝子操作したT細胞の持続性集団は、投与後の少なくとも3ヶ月間は、ヒトで持続する。
【0016】
本発明は、RDDを含むCARを発現する手段に対して制限がない。一部の実施形態では、CARを、構成的に発現する。その他の実施形態では、CARを、調節した様式で発現する(例えば、小分子を介して発現を調節するシステムを使用し、または、内因的に調節を受けるシステムを使用する)。別の実施形態では、CARを、レトロウイルス、レンチウイルス、または、その他のウイルスベクターを使用して、または、CRISPR/Cas9をベースとしたシステムを介して、細胞DNAに遺伝的に組み込む。なおも別の実施形態では、CARを、RNA、または、腫瘍溶解性ウイルス、または、当該技術分野で公知のその他の一過性発現系を介して発現する。CARは、養子移入のためにエクスビボでT細胞に送達することができ、または、インビボでの遺伝子導入を介して送達することができる。
【0017】
本発明は、本発明のCARを発現、及び/または、含有するように遺伝子操作したT細胞のタイプに対して制限がない。一部の実施形態では、当該T細胞は、CD3+ T細胞(例えば、CD4+、及び/または、CD8+ T細胞)である。特定の実施形態では、当該T細胞は、CD8+ T細胞である。その他の実施形態では、当該T細胞は、CD4+ T細胞である。一部の実施形態では、当該T細胞は、ナチュラルキラー(NK)T細胞である。一部の実施形態では、当該T細胞は、アルファベータT細胞である。一部の実施形態では、当該T細胞は、ガンマデルタT細胞である。一部の実施形態では、当該T細胞は、CD4+とCD8T+細胞との組み合わせである(例えば、CD3+)。特定の実施形態では、当該T細胞は、記憶T細胞である。特定の実施形態では、当該記憶T細胞は、中枢記憶T細胞である。その他の実施形態では、当該記憶T細胞は、エフェクター記憶T細胞である。一部の実施形態では、当該T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である。特定の実施形態では、当該T細胞は、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、NKT細胞、記憶T細胞、及び/または、ガンマデルタT細胞の組み合わせである。一部の実施形態では、当該T細胞は、サイトカイン誘導性キラー細胞である。
【0018】
一部の実施形態では、CAR T細胞は、腫瘍抗原を認識して応答するCARで遺伝子操作した末梢血由来T細胞を含む。そのような受容体は、一般的に、腫瘍抗原に特異的な一本鎖抗体(scFv)、膜貫通ドメイン、及び、細胞内シグナル伝達ドメインを含む細胞外ドメインから構成される(例えば、Westwood,J.A. et al,2005,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA、102(52):19051-19056を参照されたい)。その他の実施形態では、当該T細胞は、腫瘍抗原を認識するヒトまたはマウス起源のCARを発現するように操作している。本発明は、認識する腫瘍抗原のタイプに対して制限がない。実際のところ、腫瘍抗原を認識するあらゆるCARには、本発明の組成物及び方法において用途がある。例として、HER2、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33/IL3Rα、CD123、CD38、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、ErbB3/4、糖脂質F77、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFR変異体III(EGFRvIII)、T細胞1によって認識される黒色腫抗原(MART-1)、EphA2、FAP、ヒト癌胎児性抗原(CEA)、EGP2、EGP40、メソセリン、TAG72、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、NKG2Dリガンド、B7-H6、IL-13受容体α2、IL-11受容体α、MUC1、MUC16、CA9、ジシアロガングリオシド2(GD2)、GD3、チロシンプロテインキナーゼMet(c-Met)、または、肝細胞増殖因子受容体(HGFR)、HMW-MAA、CD171、ルイスY、G250/CAIX、メラノーマ抗原遺伝子(MAGE)ファミリーメンバーA3(MAGE-A3)、HLA-AI、MAGE Al、NY-ESO-1、PSC1、葉酸受容体-α、CD44v7/8、8H9、NCAM、VEGF受容体、Fetal AchR、NKG2Dリガンド、CD44v6、TEM1、TEM8、GP1000、p53、エプスタインバーウイルス(EBV)タンパク質または抗原、または、腫瘍が発現するその他のウイルス関連抗原、から選択される抗原を認識するCARがあるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明は、CARのタイプに対して制限がない。実際のところ、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原、または、その他のタイプの抗原)に対して特異的に結合するCARを、本明細書に開示及び記載したようにして操作して、CARの表面発現を調節し得る。特定の実施形態では、当該CARは、抗原結合ドメインを含む。特定の実施形態では、当該抗原結合ドメインは、所望の抗原に対して特異的に結合する重鎖及び軽鎖可変領域を含む一本鎖可変断片(scFv)である。一部の実施形態では、当該CARは、膜貫通ドメインと、1つ以上の免疫受容体チロシンをベースとした活性化モチーフ(ITAM)を含むシグナル伝達ドメインとを含む。一部の実施形態では、当該膜貫通ドメインは、T細胞受容体(TCR)アルファ鎖、TCRベータ鎖、CD3ゼータ、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及び、CD154からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインを含む。一部の実施形態では、当該細胞内シグナル伝達ドメインは、4-1BBポリペプチドの機能的シグナル伝達ドメイン、CD3ゼータポリペプチドの機能的シグナル伝達ドメイン、または、その双方を含む。一部の実施形態では、当該CARは、1つ以上の共刺激ドメイン(例えば、T細胞活性化を刺激する第2のシグナルを提供するドメイン)を含む。本発明は、共刺激ドメインのタイプに対して制限がない。実際のところ、CD28、OX40/CD134、4-1BB/CD137/TNFRSF9、高親和性免疫グロブリンE受容体-ガンマサブユニット(FcεRIγ)、ICOS/CD278、インターロイキン2サブユニットベータ(ILRβ)またはCD122、サイトカイン受容体共通サブユニットガンマ(IL-2Rγ)またはCD132、及び、CD40など、当該技術分野で公知のあらゆる共刺激ドメインを使用し得るが、これらに限定されない。ある実施形態では、当該共刺激ドメインは、4-1BBである。
【0020】
本発明は、特定のRDD、または、当該RDDが融合するCAR内のドメインに対して制限がない。一部の実施形態では、当該RDDは、CAR抗原結合ドメインに融合する。その他の実施形態では、当該RDDは、ヒンジ、または、膜貫通CARドメインに融合する。なおもさらなる実施形態では、当該RDDは、CD28、4-1BB、OX-40などの細胞質CAR刺激ドメインに融合するが、これらに限定されない。さらにその他の実施形態では、当該RDDは、CAR CD3ゼータドメインに融合する。実際のところ、本発明の方法及び組成物では、RDDを含むCARを含む細胞は、CARが抗原特異的活性を有する限りは、CARのあらゆる部分に付着したRDDを有し得る。
【0021】
別の態様では、本発明は、RDDを含む、または、RDDに融合したCARを含む有効量のCAR T細胞を、疾患または病態を有する対象(例えば、患者)に投与することを含む、対象の疾患または病態を処置する方法を提供する。本発明は、処置する疾患または病態のタイプに対して制限がない。実際のところ、CAR T細胞の投与を介して処置可能な(例えば、処置の際に疾患の徴候または症状を改善する)あらゆる疾患または病態は、本発明の組成物及び方法を使用して、改善され、かつ、より効果的な方法で処置することができる。ある実施形態では、当該疾患または病態は、がんである。別の実施形態では、当該疾患または病態は、感染症である。本発明は、がんのタイプ、または、感染症のタイプに対して制限がない。実際のところ、CAR T細胞療法を処置に使用する当技術分野で公知のあらゆるがんまたは疾患は、本発明の組成物及び方法で処置し得る。例えば、本発明の組成物及び方法を使用して、治療用CAR T細胞のCARにRDDを遺伝的に導入することで、当技術分野で公知のあらゆるCAR T細胞療法を改変することができる。一部の実施形態では、本発明のCAR T細胞を有効量にて、疾患または病態を有する対象(例えば、患者)へ投与すると、(例えば、DDを欠いた同量のCAR T細胞を投与された対象と比較して)患者のT細胞の枯渇を阻害または逆転する。
【0022】
別の態様では、本発明は、CAR細胞表面発現の選択的調節(例えば、抑制)を介して、CAR T細胞(例えば、そうしなければ、疾患または病態を処置する状況において、抗原誘導的持続性シグナル伝達と枯渇とを示すCAR T細胞)の機能を、維持、回復、または、強化する方法を提供する。一部の実施形態では、RDDを当該CARに組み込むことで、インビトロまたはエクスビボでのT細胞の培養及び増殖の間のCAR発現の調節(例えば、抑制)が可能となり、これにより、対象の疾患または病態を処置する状況において、CAR T細胞の機能(例えば、エフェクター機能)を強化する。本発明は、維持、回復、または、強化する機能の種類に対して制限がない。一部の実施形態では、当該機能性は、抗原誘発性サイトカイン産生である。その他の実施形態では、当該機能性は、CAR T細胞の細胞毒性(例えば、腫瘍標的の認識の増大)である。さらにその他の実施形態では、当該機能性は、記憶細胞形成の増加、及び/または、抗原に応答した増殖の増大である。一部の実施形態では、CAR細胞表面発現の調節(例えば、抑制)は、CAR T細胞におけるPD-1、TIM-3、及び、LAG-3などを含むがこれらに限定されない、枯渇を示すマーカーの測定可能な減少をもたらす。その他の実施形態では、CAR細胞表面発現の調節(例えば、抑制)は、CAR T細胞プログラム細胞死のレベルの減少をもたらす。なおもさらなる実施形態では、CAR T細胞でのCAR細胞表面発現の調節(例えば、抑制)は、CAR T細胞療法の臨床的有効性を著しく高める。
【0023】
別の態様では、本発明は、患者のがんを処置する、または、その進行を遅延する方法を提供するものであり、同方法は、RDDを含む、または、RDDに融合したCARを発現するように改変した(例えば、遺伝子操作した)CAR T細胞を含む組成物を治療有効量にて患者に投与することを含む。特定の実施形態では、治療有効量の、改変したCAR T細胞を含む組成物は、そのような処置を終えた患者でのがん細胞の数を減らす。特定の実施形態では、治療有効量の、改変したCAR T細胞を含む組成物は、そのような処置を終えた患者での全身腫瘍組織量を、減少、及び/または、消滅する。特定の実施形態では、この方法は、当該患者に放射線療法を行う、ことをさらに含む。特定の実施形態では、当該放射線療法は、治療有効量の、改変したCAR T細胞を含む組成物を当該患者が摂取する前、摂取すると同時、及び/または、摂取の後に行う。特定の実施形態では、当該方法は、1つ以上の抗癌剤、及び/または、1つ以上の化学療法剤を患者に投与することをさらに含む。特定の実施形態では、1つ以上の抗癌剤、及び/または、1つ以上の化学療法剤を、治療有効量の、改変したCAR T細胞を含む組成物を当該患者が摂取する前、摂取と同時、及び/または、摂取した後に投与する。特定の実施形態では、治療有効量の改変したCAR T細胞、及び、一連の抗癌剤を用いて処置した患者では、改変したCAR T細胞、または、抗癌剤/放射線だけで処置した患者と比較して、前出の患者では、明確な腫瘍応答と臨床的利益とが認められる。すべての承認済み抗癌剤及び放射線処置の用量は公知であるので、本発明は、それらと改変したCAR T細胞との様々な組み合わせを企図している。
【0024】
特定の実施形態では、本発明は、治療有効量の、本開示にしたがって改変したCAR T細胞を含む(例えば、対象におけるがんの処置、または、進行の遅延における使用のための)組成物を提供する。本明細書に記載したように、当該組成物は、その他のタイプのがんの処置(例えば、化学療法、がんの外科的切除、または、放射線療法)の前、処置の最中、または、処置の後に投与し得る。また、本発明は、細胞周期停止、及び/または、アポトーシスを誘導するための組成物の使用を提供する。また、本発明は、アポトーシス、及び/または、細胞周期停止の誘導因子、及び、細胞周期停止の誘導による正常細胞の化学保護など、さらなる作用物質(複数可)に対して細胞を感作するための当該組成物の使用に関する。本発明の組成物は、あらゆるタイプのがん、または、感染症、さらには、アポトーシス細胞死の誘導に応答するあらゆる細胞の障害など(例えば、がんなどの過剰増殖性疾患を含むアポトーシスの調節不全を特徴とする障害)の処置、改善、または、予防に有用である。特定の実施形態では、当該組成物を使用して、がん療法に対する抵抗性をさらに特徴とするがん(例えば、化学療法抵抗性、放射線抵抗性、ホルモン抵抗性などを有するがん細胞)を処置、改善、または、予防することができる。また、本発明は、医薬として許容される担体に本発明の改変したCAR T細胞を含む組成物(例えば、免疫療法組成物)を含む医薬組成物を提供する。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、患者のがんを処置する、または、がんの進行を遅らせる方法を提供するものであって、同方法は、治療有効量の、本開示にしたがって改変した(例えば、遺伝子操作した)CAR T細胞を含む組成物を、治療有効量のTCRシグナル伝達の阻害剤(例えば、T細胞の枯渇を防ぐためのもの)と組み合わせて、患者に投与することを含む。複数のサイクルの処置を、対象に対して投与し得る。特定の実施形態では、TCRシグナル伝達の当該阻害剤を、標準的な投与計画に従って(例えば、毎日または断続的に)投与する。別の実施形態では、TCRシグナル伝達の当該阻害剤を、少なくとも部分的なT細胞機能を回復するのに十分な期間をかけて投与し、その後に中止する。
【0026】
本発明のこれらの実施形態、及び、その他の実施形態は、当業者であれば、本明細書の開示を考慮することで容易に想到する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】GD2.28z.FKBP CARの特徴決定。T細胞に、活性化して1日後に、GD2.28z.FKBP CARをコードするレンチウイルスを形質導入し、次いで、増殖培地で様々な濃度のShield-1と共に培養した。7日目に、FACSを介して、CAR発現を定量した。
【
図2】培養培地からS1を除去すると、T細胞枯渇マーカーの表面発現が逆転する。
【
図3】培養培地からS1を除去すると、CD62Lの発現を維持し、また、アポトーシスを予防する。
【
図4】培養培地からS1を除去すると、機能T細胞の枯渇が逆転する。
【
図5】表面CARを除去すると、PD-1/PDL-1遮断と比較して、T細胞枯渇を、より効果的に予防する。
【
図6】表面CARを除去すると、わずか4日後に、PD-1/TIM-3/LAG-3トリプルポジティブCAR T細胞の枯渇が回復する。
【
図7】ダサチニブは、腫瘍抗原に応答して、CAR T細胞のサイトカイン分泌を阻害する。
【
図8】ダサチニブは、枯渇マーカーの発現と共発現とを逆転する。
【
図9】ダサチニブ処置は、CD62L発現を維持する。
【
図10】ダサチニブ処置は、腫瘍抗原に応答して、IL-2及びIFNγの分泌を増大する。
【
図11】本発明のある実施形態でのキメラ抗原受容体(CAR)の概略図を示す。例えば、当該CARは、細胞外抗原結合ドメイン(例えば、一本鎖可変断片(scFv))、及び、細胞外ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、細胞内共刺激ドメイン(例えば、CD28、または、4-1BBドメインを含む)、細胞内CD3ゼータドメイン、及び、調節可能な不安定化ドメイン(RDD)を含む。
【
図12】C末端位置で融合したRDDを含む複数のサイズの幾つかの異なるCARの用量依存性調節を示す。A)FKBP12DDに融合したCARは、ラパログshield-1で調節できる。B)E.coli由来のDHFR DDに融合したCARは、トリメトプリムで調節できる。
【
図13】安定化薬/小分子の存在下または非存在下それぞれでの迅速なCARタンパク質の安定化または不安定化を示す。一般的に、IC50、すなわち、表面CARの50%を分解するのに要した時間は、2時間未満であった。
【
図14】安定化薬が、RDD-CARの抗腫瘍活性を調節することを示す。安定化薬が存在しないと、安定化薬、及び、大きなCAR表面発現の存在下で培養したCAR T細胞と比較して、インビトロでのCAR表面発現が小さくなり、また、腫瘍に応答したサイトカイン分泌の減弱と細胞毒性の減弱とを伴う。
【
図15】トリメトプリムが、インビボで、CAR表面発現、及び、DHFR DD-CARの活性を調節することを示す。
図15Aは、CAR発現が、インビボで調節可能であり、また、インビトロで達成されるCAR表面発現のダイナミックレンジが、インビボで認められるものと同様であることを示す。
図15Bは、安定化薬トリメトプリム(TMP)の注射を受けたマウスが、CAR発現を示すのみならず、このグループでの高発現CAR T細胞もより高いCD69表面発現を示しており、このことは、インビボで腫瘍に応答して活性化したことを示す。
図15Cは、ビヒクルを毎日注射したマウスと、TMPを注射したマウスとの全身腫瘍組織量の違いを示す。TMPの注射を受け、そして、表面にCARを発現したマウスは、モック及びビヒクルコントロールよりも腫瘍成長を制御する能力が高いことを示す。
【
図16】HA-GD2.28zにおける持続性シグナル伝達を、融合RDDを介して予防または逆転することを示す。HA-GD2.28z.FKBP CARは、CARがT細胞表面で発現すると、腫瘍抗原の非存在下で持続的にシグナルを送ることを、ウエスタンブロッティングでCAR CD3ゼータドメインが、ベースラインでリン酸化されていることで証明した。この持続性シグナル伝達は、T細胞の枯渇につながり、これらのCAR T細胞の効果が低下する。安定化薬の非存在下で、RDD-CAR T細胞を増殖すると、持続性シグナル伝達が予防される。CARの発現が抑制または阻害され、そして、T細胞表面で発現されなかった場合(shield-1が非存在の場合、CARは常にOFFである)、または、CARがある時点で発現した後に、72時間後に表面から除去した場合(CAR OFF D7)、CD3ゼータリン酸化の減弱を認めた。
【
図17】HA-GD2.28z.FKBPでの標準的な枯渇マーカーの共発現は、培養培地からshield-1を除去すると、急速にダウンレギュレートし、そして、持続性シグナル伝達の予防または逆転は、CAR T細胞の枯渇表現型を改善する、ことを示す。PD-1/TIM-3/LAG-3の共発現は、エフェクター機能の低下と相関している。CARが常に発現される場合(shield-1で培養した、「CARは常にON」)、これらのマーカーは、大部分の細胞で共発現する。しかしながら、CARが表面で発現しない場合(shield-1なし、「CARは常にOFF」)、または、shield-1で7日間培養してから除去すると、枯渇マーカーを共発現する細胞の一部のみが認められる。
図17Bは、T細胞の枯渇と相関する転写因子であるTbetとBlimp-1を共発現する細胞の同様の傾向を示す。
【
図18】持続性シグナル伝達の阻害または除去が、記憶表現型を救済することを示す。T細胞の枯渇は、T細胞の記憶形成能力を阻害する。枯渇した(CARは常にON)細胞は、エフェクターT細胞(Teff)の割合が大きく、そして、幹細胞記憶(Tscm)の割合が小さい。逆に、非枯渇細胞(CARは常にOFF)、または、培養物から安定化薬を除去して枯渇を逆転させた細胞(CAR OFF D7またはCAR OFF D10)は、幹細胞記憶区画の増大を示す。
【
図19】融合FKBP、または、E.coli由来DHFR不安定化ドメイン(DD)を介したCAR表面発現の時間依存性調節を示す。枯渇したCAR T細胞は、腫瘍に応答してエフェクターサイトカインIL-2及びIFNγを分泌することができない。しかしながら、枯渇が予防または逆転したCAR T細胞では、IL-2及びIFNγを分泌する能力が強化されている。
【
図20】枯渇したCAR T細胞が、細胞毒性を顕著に低下させたことを示す。しかしながら、枯渇が予防または逆転したCAR T細胞は、細胞毒性の増強を示す。
【
図21】安定化薬の反復投与に曝したマウスを示す。TMPの代わりにビヒクルを注射して、4日間、T細胞を「休止」させた。その後、TMP注射を、さらに3日間、再開した。データは、「休止」期間の前よりも、「休止」期間の後において全身腫瘍組織量が低く、機能の救済が十分であることを示している。
【
図22】様々な調節可能なDD-CARの用量反応曲線とEC
50値を示す。CAR中央値蛍光強度(MFI)は、まず、CAR+及びCAR-細胞をゲーティングし、次に、CAR+集団のMFIから、CAR-集団のMFIを差し引いて計算した。数値を、薬物滴定研究で、最大CAR MFIに正規化し、そして、非線形回帰、及び、最小二乗適合曲線を生成した。各曲線のEC
50値を、棒グラフにプロットする。GD2.28z.FKBP、HA-GD2.28z.FKBP、GD2.28z.ecDHFRについては、n=3ドナーである。CD19.28z.FKBP、CD19.28z.ecDHFR、及び、HA-GD2.28z.ecDHFRについては、n=2ドナーである。
【
図23】特定の不安定化ドメインが、薬物依存性調節CAR発現に最適であることを示す。(A)T細胞にレンチウイルスを形質導入して、GD2.28z.ecDHFRを発現させ、当該ecDHFRドメインは、R12H、N18T、V19A、及び、G67Sの変異を含んでいた。T細胞を培養物から取り出し、そして、蛍光標識抗イディオタイプ抗体で染色し、続いて、FACSを介してCAR表面発現を評価した。安定化薬の非存在下での高いバックグラウンド発現が故に、薬物依存性が僅かなCAR調節が認められた。(B)T細胞にレンチウイルスを形質導入して、GD2.28z.ecDHFRを発現させたところ、当該ecDHFRドメインは、R12Y、G67S、Y100Iの変異を含んでいた。T細胞を再び培養物から取り出し、抗イディオタイプ抗体で染色し、そして、FACSを介してCAR発現を評価した。異なるecDHFRドメインを、このDD-CARを反復して組み込むと、CAR表面発現の薬物依存性調節が認められた。双方の図面内の点線は、0uM TMPと10uM TMPとの間のCAR発現レベルの違いを強調するように描いた。
【
図24】融合FKBP DDを介したHer.28z CARの薬物依存性調節を示す。このFKBP12 DDドメインは、Her2.28z CARの遠位c末端に融合した。T細胞にレンチウイルスを形質導入して、Her2.28z.FKBPを発現させた。活性化の7日後に、CAR T細胞を、shield-1の存在下または非存在下で培養した。薬物を添加して24時間後に、CAR T細胞を、プロテインLで染色し、そして、FACSを使用してCARの発現を評価した。CAR+細胞とCAR MFIの双方のパーセンテージ(ヒストグラムで定量)は、0.1uMまたはluMのShield-1(S1)のいずれかとインキュベーションすると増加した。
【
図25】本明細書に記載した本発明の実施形態において有用な核酸及びアミノ酸配列の表を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
この明細書を解釈するために、以下の定義を適用するものとし、適切な場合には常に、単数形で使用した用語は複数形を含むものとし、その逆も同様である。以下に記載したあらゆる定義が、本明細書の一部を構成するものとして援用するあらゆる文献と矛盾する場合には、以下に記載した定義を優先する。
【0029】
また、本明細書で使用した用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定を意図するものではない、ことも理解されたい。
【0030】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書において、当該冠詞の文法的対象の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用する。例として、「要素」とは、1つの要素または2つ以上の要素のことを意味する。
【0031】
本明細書で使用する用語「約」とは、量、一時的期間などの測定可能な数値を指す場合には、特定の数値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なおもより好ましくは±0.1%の変動を含むことを意味しており、そのような変化は、本明細書に開示した方法を実行する上で適切である。
【0032】
「T細胞枯渇」とは、感染(例えば、慢性感染)、または、疾患の結果として起こり得るT細胞機能の低下のことを指す。T細胞の枯渇は、PD-1、TIM-3、及び、LAG-3の発現の増加、アポトーシス、及び、サイトカイン分泌の抑制に関連している。したがって、用語「T細胞の枯渇を改善する」、「T細胞の枯渇を抑制する」、「T細胞の枯渇を減らす」などは、次に述べる、PD-1、TIM-3、及び、LAG-3の1つ以上の発現、及び/または、発現レベルの低下;記憶細胞形成の増大、及び/または、記憶マーカー(例えば、CD62L)の維持;アポトーシスの予防;抗原誘導性サイトカイン(例えば、IL-2)の産生、及び/または、分泌の増大;向上した細胞毒性/死滅能力;表面抗原が少ない腫瘍標的の認識の改善;抗原に応答して増進した増殖、の1つ以上を特徴とするT細胞の機能が回復した状態のことを意味する。
【0033】
本明細書で使用する「GD2結合ドメイン」などの用語「抗原結合ドメイン」とは、当業者に公知のあらゆる抗原特異的結合ドメイン(例えば、GD2特異的結合ドメイン)のことを指し得る。ある例では、GD2結合ドメインは、GD2に対して特異的に結合する抗体の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域を含む一本鎖可変断片(scFv)を含む。抗GD2抗体、抗体断片、及び、それらの変異体は、当該技術分野で周知であり、例えば、14G2a、chl4.18、hul4.18K322A、m3F8、hu3F8-IgG1、hu3F8-IgG4、HM3F8、UNITUXIN、DMAb-20、または、GD2に対して特異的に結合するその他の抗体がある。ある実施形態では、当該GD2結合ドメインは、抗GD2抗体の相同体、変異体、異性体、または、機能的断片である。各々の可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0034】
本明細書で使用する用語「活性化」とは、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分に刺激したT細胞の状態のことを指す。活性化は、誘導したサイトカイン産生、及び、検出可能なエフェクター機能とも関連付けができる。用語「活性化T細胞」とは、とりわけ、細胞分裂を受けているT細胞のことを指す。
【0035】
本明細書で使用する用語「抗体」とは、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子のことを指す。抗体は、自然界での供給源、または、組換え供給源に由来するインタクトな免疫グロブリンとすることができ、また、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応性部分とすることができる。抗体は、個々の免疫グロブリン分子の多量体とし得る。本発明の抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、Fab及びF(ab)2、ならびに、一本鎖抗体、ヒト抗体、及び、ヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る(Harlow et al.,1999,In:Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlow et al.,1989、In:Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.;Houston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Bird et al.,1988,Science 242:423-426を参照されたい)。
【0036】
用語「抗体断片」とは、インタクトな抗体の一部のことを指し、好ましくは、インタクトな抗体の抗原決定可変領域のことを指す。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)2、及び、Fv断片、線状抗体、scFv抗体、及び、抗体断片から形成した多重特異性抗体があるが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で使用する用語「抗体重鎖」とは、自然界に存在する立体配座で、すべての抗体分子に存在する2種類のポリペプチド鎖の内の大きい方を指す。本明細書で使用する「抗体軽鎖」とは、自然界に存在する立体配座で、すべての抗体分子に存在する2種類のポリペプチド鎖の内の小さい方を指す。カッパ及びラムダ軽鎖とは、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプのことを指す。
【0038】
本明細書で使用する用語「合成抗体」とは、例えば、本明細書に記載のバクテリオファージにより発現される抗体など、組換えDNA技術を使用して生成する抗体のことを意味する。また、この用語は、抗体、すなわち、当該抗体をコードするDNA分子の合成によって生成した抗体を意味するものと解釈すべきであり、そして、そのDNA分子は、抗体タンパク質、または、当該抗体を特定するアミノ酸配列を発現し、当該DNAまたはアミノ酸配列は、利用可能で、かつ、当該技術分野で周知の合成DNAまたはアミノ酸配列技術を使用して取得する。
【0039】
本明細書で使用する用語「抗原」または「Ag」とは、免疫応答を惹起する分子として定義する。この免疫応答は、抗体産生、または、特定の免疫学的コンピテント細胞の活性化、または、その双方を含む。当業者であれば、実質的にすべてのタンパク質またはペプチドを含むあらゆる高分子が、抗原として機能できることを理解する。さらに、抗原は、組換えDNAまたはゲノムDNAに由来することができる。したがって、当業者であれば、免疫応答を誘発するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含むあらゆるDNAが、その用語が、本明細書で使用する用語「抗原」をコードすることを理解する。さらに、当業者であれば、抗原が、遺伝子の全長ヌクレオチド配列によってのみコードされる必要がない、ことを理解する。さらに、当業者であれば、抗原が、「遺伝子」によってコードされる必要が全くない、ことを理解する。抗原を、生成、合成できること、または、生体試料から誘導できることは自明である。そのような生体試料として、組織試料、腫瘍試料、細胞または生体液があり得るが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用する用語「抗腫瘍効果」とは、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞の数の減少、転移の数の減少、平均余命の増加、または、がんの病態に関連する様々な生理学的症状の改善によって示すことができる生物学的効果のことを指す。「抗腫瘍効果」は、そもそも、腫瘍の発生の予防における、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、抗体(または、その抗原結合部分)、及び、CAR T細胞の能力によって、明らかにすることもできる。
【0041】
本明細書で使用する用語「自己免疫疾患」とは、自己免疫応答に起因する障害として定義する。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切で過剰な反応の結果である。自己免疫疾患の例として、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(I型)、栄養障害性表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎などがあるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用する用語「自己」とは、後に再導入される個体と同じ個体に由来するあらゆる材料を指すことを意味する。「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片のことを指す。「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片のことを指す。
【0043】
本明細書で使用する用語「がん」とは、異常細胞の急速かつ制御されない成長を特徴とする疾患として定義する。がん細胞は、局所的に、または、血流やリンパ系を介して身体のその他の部位に拡がることができる。様々ながんの例として、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、大腸癌、腎癌、肝臓癌、脳癌、リンパ腫、白血病、肺癌などがあるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書で使用する用語「共刺激リガンド」として、T細胞の同種共刺激分子に対して特異的に結合する抗原提示細胞(APC)(例えば、樹状細胞、B細胞など)での分子があり、それにより、例えば、TCR/CD3複合体と、ペプチドを担持したMHC分子との結合によって提供される一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化など、これらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを提供する。共刺激リガンドとして、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、及び、B7-H3と特異的に結合するリガンドがあるが、これらに限定されない。また、共刺激リガンドは、とりわけ、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及び、CD83と特異的に結合するリガンドなど、これらに限定されない、T細胞に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体も含む。
【0045】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドと特異的に結合し、それにより、増殖など、これらに限定されないが、T細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞の同族結合パートナーのことを指す。共刺激分子として、MHCクラスI分子、BTLA、及び、Tollリガンド受容体があるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書で使用する、「共刺激シグナル」とは、TCR/CD3ライゲーションなどの一次シグナルと組み合わせて、T細胞増殖、及び/または、重要な分子のアップレギュレーション、または、ダウンレギュレーションをもたらすシグナルのことを指す。
【0047】
本明細書で使用する用語「有効量」とは、治療的または予防的利益を提供する量のことを意味する。
【0048】
本明細書で使用する用語「治療」とは、処置、及び/または、予防のことを意味する。治療効果は、病状の抑制、寛解、または、根絶として得られる。
【0049】
用語「治療有効量」とは、研究者、獣医師、医師、または、その他の臨床医が追い求めている組織、システム、または、対象の生物学的または医学的応答を引き起こす対象化合物の量のことを指す。用語「治療有効量」とは、投与した場合に、処置した障害または疾患の1つ以上の徴候または症状の発症を予防するか、または、ある程度まで緩和するのに十分な化合物の量を含む。当該治療有効量は、化合物、疾患、及び、その重篤度、ならびに、処置を受ける対象の年齢、体重などに応じて変化する。
【0050】
本明細書で使用する用語、疾患を「処置する」とは、対象が経験した疾患または障害の少なくとも1つの兆候または症状の頻度または重篤度を低下させる、ことを意味する。
【0051】
「コードする」とは、遺伝子、cDNA、またはmRNAなど、ポリヌクレオチド内の特定のヌクレオチドの配列に固有の特性を指すものであり、定義したヌクレオチドの配列(例えば、rRNA、tRNA、及び、mRNA)、または、定義したアミノ酸の配列、及び、それらに起因する生物学的特性のいずれかを有する生物学的プロセスでのその他のポリマー及び高分子の合成のテンプレートとして機能する。したがって、その遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が、細胞またはその他の生物学的システムでタンパク質を産生する場合、遺伝子は、タンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列が、mRNA配列と同一であり、かつ、通常は配列表に記載されているコーディング鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のテンプレートとして使用する非コーディング鎖との双方は、その遺伝子またはcDNAのタンパク質、または、その他の産物をコードすることを指すことができる。
【0052】
本明細書で使用する用語「内因性」とは、生物、細胞、組織、または、システムから、または、その内部で生成されるあらゆる材料のことを指す。本明細書で使用する用語「外因性」とは、生物、細胞、組織、またはシステムの外部から導入または外部で生成するあらゆる材料のことを指す。
【0053】
本明細書で使用する用語「発現」とは、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写、及び/または、翻訳に関する。「また、発現は、細胞表面のタンパク質の存在も指す(例えば、T細胞の表面でのCAR発現)。
【0054】
本明細書で使用する用語「トランスフェクトした」または「形質転換した」または「形質導入した」とは、外因性核酸を、宿主細胞に移入または導入するプロセスのことを指す。「トランスフェクトした」または「形質転換した」または「形質導入した」細胞は、外因性核酸でトランスフェクト、形質転換、または、形質導入した細胞である。当該細胞には、初代対象細胞と、その子孫を含む。
【0055】
「ベクター」は、単離した核酸を含み、かつ、単離した核酸を、細胞の内部に送達するために使用できる物質の組成物である。無数のベクターが当該技術分野で公知であり、線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物、プラスミド、及び、ウイルスに関連するポリヌクレオチドがあるが、これらに限定されない。したがって、用語「ベクター」は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。また、この用語は、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなど、細胞への核酸の移入を促進する非プラスミド及び非ウイルス化合物を含む、と解釈すべきである。ウイルスベクターの例として、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどがあるが、これらに限定されない。
【0056】
「発現ベクター」とは、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に結合した発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターのことを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用要素を含み;発現のための他の要素は、宿主細胞、または、インビトロ発現系で供給することができる。発現ベクターとして、組換えポリヌクレオチドを組み込むコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソームに含有させたもの)、及び、ウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及び、アデノ随伴ウイルス)など、当該技術分野で公知のすべてのものがある。
【0057】
本明細書で使用する「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科の属のことを指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染できるという点で、レトロウイルスの中でもユニークである。レンチウイルス由来のベクターは、大量の遺伝情報を宿主細胞のDNAに送達できるため、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV、及びFIVは、すべてレンチウイルスの例である。
【0058】
「相同」とは、2つのポリペプチドの間、または、2つの核酸分子の間での配列類似性または配列同一性のことを指す。比較をした2つの配列の双方の位置に、同じ塩基、または、アミノ酸モノマーサブユニットがある場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置にアデニンがある場合、それらの分子は、その位置で相同である。2つの配列の間での相同性の割合とは、2つの配列が共有した、一致した位置の数、または、相同な位置の数を、比較した位置の数で割ったものに、100を乗じる関数のことである。例えば、2つの配列の10箇所の内の6箇所が、一致または相同である場合、2つの配列は、60%の相同性である。例として、DNA配列ATTGCC及びTATGGCは、50%の相同性を共有している。一般的に、2つの配列を並べて最大の相同性を得るときに、比較を行う。
【0059】
本明細書で使用する用語「免疫グロブリン」または「Ig」とは、抗体として機能するタンパク質のクラスとして定義される。B細胞が発現する抗体は、B細胞受容体(BCR)、または、抗原受容体と称する場合もある。このクラスのタンパク質に含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgD、及び、IgEである。IgAとは、唾液、涙、母乳、消化管分泌物、気道及び泌尿生殖路の粘液分泌物など、身体分泌物に存在する一次抗体である。IgGとは、最も一般的な循環抗体である。IgMとは、大抵の対象での主要な免疫反応で産生される主要な免疫グロブリンである。このものは、凝集、補体結合、及び、その他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、また、細菌、及び、ウイルスに対する防御において重要である。IgDとは、抗体機能は不明であるが、抗原受容体として機能し得る免疫グロブリンである。IgEとは、アレルゲンへ曝露すると、マスト細胞及び好塩基球からメディエーターを放出して、即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0060】
「単離した」とは、自然状態から改変または取り出したことを意味する。例えば、生きている動物に自然に存在する核酸またはペプチドは「単離した」ものではないが、その自然状態で共存する材料から部分的または完全に分離した同じ核酸またはペプチドは「単離した」ものである。単離した核酸またはタンパク質を、実質的に精製した形で存在させることができ、または、例えば、宿主細胞などの非天然環境下に存在させることができる。
【0061】
本明細書で使用する「実質的に精製した」細胞とは、その他の細胞型を本質的に含まない細胞のことである。また、実質的に精製した細胞とは、その自然発生状態で通常付随しているその他の細胞型から分離した細胞のことを指す。一部の事例では、実質的に精製した細胞の集団とは、細胞の均質な集団のことを指す。その他の事例では、この用語は、単に、それらの自然状態に自然に関連付けられている細胞から分離した細胞のことを指す。一部の実施形態では、これらの細胞を、インビトロで培養する。その他の実施形態では、これらの細胞は、インビトロで培養しない。
【0062】
特に断りがない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いに縮重したバージョンであり、かつ、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という表現は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、何らかのバージョンでイントロン(複数可)を含み得る程度にまでイントロンをも含み得る。
【0063】
用語「作動可能に結合した」とは、調節配列と異種核酸配列との間の機能的結合のことを指し、後者の発現をもたらす。例えば、第1の核酸配列が、第2の核酸配列と機能的な関係にある場合、第1の核酸配列は、第2の核酸配列に作動可能に結合する。例えば、プロモーターが、コード配列の転写または発現に影響を与える場合、当該プロモーターは、当該コード配列に作動可能に結合する。一般的に、機能的に結合したDNA配列は連続しており、そして、必要に応じて、2つのタンパク質コーディング領域を結合するために、同じリーディングフレーム内にある。
【0064】
本明細書で使用する用語「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸は、ヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で使用する核酸とポリヌクレオチドは、互換可能である。当業者であれば、核酸が、ポリヌクレオチドであり、単量体の「ヌクレオチド」に加水分解できる、という一般的な知識を持ち合わせている。単量体ヌクレオチドは、加水分解されてヌクレオシドになることができる。本明細書で使用するポリヌクレオチドは、当該技術分野で利用可能なあらゆる手段によって得られるすべての核酸配列を含むが、これらに限定されず、組換え手段、すなわち、通常のクローニング技術、及び、PCRなどを使用して、組換えライブラリーまたは細胞ゲノムから核酸配列のクローニング、及び、合成をする手段などがあるが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書で使用する用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は互換的に使用しており、そして、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸残基からなる化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドには、少なくとも2つのアミノ酸が含まれている必要があり、そして、タンパク質またはペプチドの配列を構成できるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含むペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書で使用する場合、これらの用語は、例えば、当該技術分野において一般的にペプチド、オリゴペプチド、及び、オリゴマーとも称されている短鎖のもの、及び、当該技術分野において一般的にタンパク質と称されている長鎖のものの双方のことを指し、数多くの種類がある。「ポリペプチド」として、例えば、とりわけ、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質がある。これらのポリペプチドとして、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、または、それらの組み合わせがある。
【0066】
本明細書で使用する用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するために必要な細胞の合成機構、または、導入をした合成機構によって認識されるDNA配列として定義される。本明細書で使用する用語「プロモーター/調節配列」とは、プロモーター/調節配列に作動可能に結合した遺伝子産物の発現に必要な核酸配列のことを意味する。一部の事例では、この配列を、コアプロモーター配列とすることができ、その他の事例では、この配列は、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサー配列とその他の調節要素とを含み得る。当該プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な方法で遺伝子産物を発現し得る。「構成的」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドと作動可能に結合すると、細胞での大半またはすべての生理学的条件下で、細胞内で遺伝子産物を産生するヌクレオチド配列のことである。「誘導性」プロモーターとは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと作動可能に結合すると、実質的に、プロモーターに対応する誘導因子が細胞に存在する場合にのみ、遺伝子産物を細胞で産生させるヌクレオチド配列のことである。「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子をコードするポリヌクレオチドと作動可能に結合すると、実質的に、当該細胞がプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、細胞内で遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列のことである。
【0067】
用語「過剰発現した」腫瘍抗原、または、当該腫瘍抗原の「過剰発現」とは、その組織または臓器由来の正常細胞での発現レベルに対して、患者の特定の組織または臓器での固形腫瘍などの疾患領域由来の細胞における腫瘍抗原の異常な発現レベルを示す、ことを意図している。腫瘍抗原の過剰発現を特徴とする固形腫瘍または血液悪性腫瘍を有する患者は、当該技術分野で公知の標準的なアッセイによって決定することができる。
【0068】
本明細書で使用する用語「調節する」とは、対象での活性レベル(例えば、対象の応答、または、細胞のタンパク質の発現)の検出可能な増加または減少を媒介することを指す。活性レベルの調節は、処置または化合物の存在下で、または、処置または化合物の非存在下で起こり得る。例として、調節可能な不安定化ドメイン(RDD)を含むCARで遺伝子操作したCAR T細胞の表面でのキメラ抗原受容体(CAR)発現のレベルを調節することは、小分子/薬物の非存在下でのCAR発現レベルと比較して、RDDを安定化する当該小分子/薬物に対して、CAR T細胞の曝露を介して、CAR発現を増大させることを意味する。同様に、調節可能な不安定化ドメイン(RDD)を含むCARで遺伝子操作したCAR T細胞の表面でのキメラ抗原受容体(CAR)発現のレベルを調節することは、小分子/薬物の存在下でのCAR発現レベルと比較して、RDDを安定化する当該安定化小分子/薬物の排除を介して、CAR発現を抑制させることで可能となる。この用語は、自然のシグナル、または、応答、または、非調節発現を、攪乱し、及び/または、影響を与えることを含み、それにより、対象、好ましくは、ヒトにおける有用な治療応答を媒介する。
【0069】
免疫原性組成物の「非経口」投与として、例えば、皮下(s.c)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m)、または、胸骨内注射、または、注入技術がある。
【0070】
用語「患者」、「対象」、「個体」などは、本明細書で互換的に使用しており、免疫応答を引き起こすことができる生きている生物(例えば、哺乳動物)を含むことを意図している。対象の例として、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及び、それらのトランスジェニック種がある。
【0071】
抗体に関して本明細書で使用する用語「特異的に結合する」とは、特定の抗原を認識するが、試料に含まれるその他の分子を実質的に認識または結合しない抗体のことを意味する。例えば、ある種の抗原に対して特異的に結合する抗体は、1つ以上の種の抗原にも結合し得る。しかし、そのような異種間反応性それ自体は、抗体の特異的分類を変えることはない。別の例では、抗原に対して特異的に結合する抗体は、当該抗原の異なる対立遺伝子型にも結合し得る。しかし、そのような交差反応性それ自体は、抗体の特異的分類を変更しない。一部の事例では、「特異的な結合」または「特異的に結合する」とは、抗体、タンパク質、または、ペプチドと、第2の化学種との相互作用に関して、当該相互作用が、当該化学種の特定の構造(例えば、抗原決定基、または、エピトープ)の存在に依存すること、例えば、抗体は、タンパク質一般ではなく、特定のタンパク質構造を認識して結合すること、を意味するために使用することができる。抗体が、エピトープ「A」に特異的である場合、標識「A」と抗体とを含む反応におけるエピトープA(または、遊離の非標識A)を含む分子の存在は、当該抗体に結合した標識Aの量を減らす。
【0072】
用語「刺激」とは、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)と、その同族リガンドとの結合によって誘導される一次応答のことを意味しており、それにより、TCR/CD3複合体を介したシグナル伝達など、これに限定されないシグナル伝達事象を媒介する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、IL-2、及び/または、IFN-γの発現増強、及び/または、細胞骨格構造の再編成など、特定の分子の発現の変化を媒介することができる。
【0073】
本明細書で使用する用語「刺激分子」とは、抗原提示細胞に存在する同種の刺激リガンドと特異的に結合するT細胞での分子のことを意味する。
【0074】
本明細書で使用する用語「刺激性リガンド」とは、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、B細胞など)に存在すると、T細胞にて同族結合パートナー(本明細書で「刺激分子」と称する)と特異的に結合することができ、それにより、活性化、免疫応答の開始、増殖など、これらに限定されないT細胞による一次応答を媒介するリガンドのことを意味する。刺激性リガンドは当該技術分野で周知であり、とりわけ、ペプチド、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体、及び、スーパーアゴニスト抗CD2抗体を担持したMHCクラスI分子を含む。
【0075】
本明細書で使用する用語「感作する(sensitize)」及び「感作する(sensitizing)」とは、第1の作用物質の投与を介して作成した動物または動物内の細胞を、第2の作用物質の生物学的効果(例えば、細胞機能の態様の進化または停滞として、細胞分裂、細胞成長、増殖、浸潤、血管新生、壊死、または、アポトーシスなどがあるが、これらに限定されない)に対して、感受性及び応答性を高めることを指す。標的細胞に対する第1の作用物質の感作効果を、当該第1の作用物質の投与を用いて、または、用いずに、第2の作用物質を投与した時に認められる、意図した生物学的効果(例えば、細胞機能の態様の進化または停滞として、細胞成長、増殖、浸潤、血管新生、または、アポトーシスなどがあるが、これらに限定されない)の差異として測定することができる。感作細胞の応答は、当該第1の作用物質の非存在での応答に対して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、または、少なくとも約500%は、増大させることができる。
【0076】
本明細書で使用する用語「がんを有する疑いのある対象」とは、がんであることを示す1つ以上の症状(例えば、顕著なしこり、または、腫瘤)が存在している、あるいは、がんであると(例えば、定期健康診断で)スクリーニングされている対象のことを指す。がんを有する疑いのある対象は、がんを発症する1つ以上のリスク因子を有し得る。がんを有する疑いのある対象は、一般的に、がんの検査を受けていない。しかしながら、「がんを有する疑いのある対象」は、予備診断(例えば、腫瘤を示すCTスキャン)を受けたが、確認検査(例えば、生検、及び/または、組織学)が行われていない、または、がんの種類、及び/または、病期が不明な個体を含む。さらに、この用語は、以前にがんに罹患していた者(例えば、寛解状態の個体)を含む。「がんを有する疑いのある対象」は、がんと診断されることもあれば、がんが見つからないこともある。
【0077】
本明細書で使用する用語「がんと診断した対象」とは、検査を受け、そして、がん細胞を有することが判明した対象のことを指す。がんは、生検、X線、血液検査など、これらを含むがこれらに限定されない適切な方法を使用して診断し得る。
【0078】
本明細書で使用する用語「がんのリスクのある対象」とは、特定のがんを発症する1つ以上のリスク因子を有する対象のことを指す。リスク因子として、性別、年齢、遺伝的素因、環境曝露、及び、がんの既往、既存の非がん性疾患、ライフスタイルなどがあるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書で使用する用語、「対象のがんの特徴決定を行う」とは、対象におけるがん試料の1つ以上の特性の同定のことを指し、同特性として、良性、前がん性、または、がん性組織の存在、及び、がんの病期があるが、これらに限定されない。
【0080】
詳細な説明
本発明は、TCRシグナル伝達の一時的な阻害または調節が、CAR T細胞におけるキメラ抗原受容体(CAR)表面発現の調節を介して、CAR T細胞の枯渇を予防または逆転させ、そして、CAR T細胞の機能を回復させることができる、という発見に基づいている。CARを発現するT細胞は、受容体のクラスター化によって抗原非依存性の持続性シグナル伝達を受け、そして、高レベルのPD-1、TIM-3、及び、LAG-3発現に示されるように、T細胞枯渇の基礎生物学を再現して、抗原誘導性サイトカインの産生、及び、過剰なプログラム細胞死を減少させた。FKBP12不安定化ドメイン(DD)に融合したGD2.28z CAR(GD2.28z.FKBP)が生成され、そして、制御可能なDD(RDD)により、CARが不安定になり、また、CARタンパク質の急速な分解を誘導した(Banaszynski et.al,Cell 2006を参照されたい)。表面発現は、トリメトプリムまたは安定化ラパログshield-1(S1)を培地に加える、または、培地から取り除くことで、迅速かつ用量依存的に調節されることが認められた。CARに融合したE. coli DHFR変異体(GD2.28z.DHFR)を用いて、CAR発現の同様の調節可能性をも達成しており、このものは、トリメトプリムで用量依存的に調節した(実施例1及び2、
図2、12~13、22~24を参照されたい)。
【0081】
持続性シグナル伝達は、CAR T細胞のCAR受容体レベルに大きく依存しているため、CAR発現レベルの制御を使用して、持続性シグナル伝達のレベルを調節することができる(例えば、インビトロ、または、インビボで)。持続性シグナル伝達は、CAR受容体レベルに大きく依存しているため、CAR発現レベルの正確な制御も、持続性シグナル伝達のレベルを正確に調節した。したがって、CAR発現レベルの薬物調節制御により、GD2.28z CAR持続性シグナル伝達の期間と強度の調節が可能となった。このシステムを使用すると、CARシグナル伝達が停止すると、枯渇に伴う表現型と機能の変化が逆転した(実施例1及び2を参照されたい)。培養培地からの小分子または薬物の除去(S1またはトリメトプリム)、及び、結果として、活性化の7日後に表面CARを除去すると、標準的な枯渇マーカー発現が、10日までにコントロールレベルへと逆転した(実施例1、
図2を参照されたい)。このことは、機能不全で枯渇したT細胞に非常に特異的なPD-1/TIM-3/LAG-3トリプル発現細胞のレベルを測定することで説明された。10日目までに、枯渇した細胞の三重発現レベルが増加したが、7日目にS1が取り除かれると、10日目までに、これらのレベルが正常化された。同様の結果を、14日目に得た(実施例1を参照されたい)。
【0082】
したがって、一部の実施形態では、本発明は、CARの表面発現の調節を介して、CAR T細胞シグナル伝達、及び/または、活性を正確に制御する能力を提供する。例えば、本明細書で詳述する通り(実施例2を参照されたい)、本発明は、安定化薬物の用量を滴定する能力を提供し、その結果、CAR発現の急速な抑制をもたらし、これにより、CAR T細胞シグナル伝達、及び/または、活性を阻害、及び/または、排除する。
【0083】
したがって、一部の実施形態では、調節可能なDD-CAR技術を使用して、CAR T細胞療法の分野が現在直面している幾つかの重要な課題に対処することができる。まず、薬物に応答したDD-CAR表面発現の迅速なオン/オフ切り替えは、CAR活性の正確な調節を可能にし、それにより、CAR T細胞毒性(例えば、サイトカイン放出症候群(CRS)、または、標的抗原を発現している正常細胞まで攻撃する毒性)を緩和する機会を与え、その一方で、毒性に対処できれば、治療を継続する選択肢を残す(実施例2を参照されたい)。次に、安定化薬の非存在下でのCAR T細胞の増殖は、CAR持続性シグナル伝達を妨げ、次いで、これらの細胞の機能的能力を高める(実施例2を参照されたい)。最後に、反復薬物投与を介したインビボでのDD-CAR発現の切り替えは、CAR T細胞の枯渇を予防または逆転させ、及び/または、記憶を誘導できる1つの方法であり得る(実施例2を参照されたい)。
【0084】
したがって、本発明は、RDDに融合したCARを発現するように改変したCAR T細胞)(例えば、FKBP RDD、または、DHFR RDD)を提供し、用量、及び、時間依存的に、CAR T細胞の表面でのCAR発現を制御する。CAR T細胞の表面でのCAR発現を制御する能力は、未改変のCAR T細胞(すなわち、RDDドメインに融合したCARを欠いているCAR T細胞)が、T細胞の枯渇、または、機能の欠如を示す条件下で、CAR T細胞の機能を維持する能力を実現する。このようにして、本発明の組成物及び方法は、CAR T細胞の枯渇、及び、CAR T細胞機能性の強化(例えば、がん、または、感染症に対する活性)の予防に用途が認められる。
【0085】
本発明は、維持した、回復した、または、強化した(例えば、持続した)CAR T細胞機能のタイプに対して制限がない。実際のところ、RDDドメインに融合したCARを発現するように改変したCAR T細胞を含む組成物、及び、それを利用する方法は、腫瘍細胞に対する細胞毒性活性;CAR T細胞の生存と機能の増進;T細胞の生存を促進するインターロイキン-2(IL-2)の発現、Fasリガンド(FasL)、及び/または、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)の発現などのサイトカイン発現を誘導して、腫瘍細胞アポトーシスを誘導すること、及び/または、インターフェロン(IFN)ガンマを誘導して、先天性の免疫応答(例えば、がんに対するもの)を活性化すること;及び/または、細胞周期停止、及び/または、アポトーシスの誘導を増強するなど、これらに限定されない、CAR T細胞の機能を維持、回復、または増強するために使用し得る。一部の実施形態では、本発明のCAR T細胞は、がん細胞を感作して、このような誘導刺激に対して通常は抵抗性を示す細胞などでの細胞周期停止、及び/または、アポトーシスを誘導する。
【0086】
RDDドメインに融合したCARを発現するCAR T細胞(例えば、変異体FKBPまたはDHFR)の修飾は、CAR T細胞の枯渇を誘導する条件に曝したCAR T細胞の機能を大幅に強化した(例えば、実施例1及び2を参照されたい)。本発明を実施する上でメカニズムの理解は必要ではなく、また、本発明は特定の作用メカニズムに限定されないが、CAR T細胞表面でのCARの発現の抑制は、CAR T細胞の枯渇に関連したCAR T細胞の機能不全を予防する。一部の実施形態では、本発明のRDDを含むCARを発現するように改変したT細胞の使用は、同じCARを発現するが、RDDを持たないCAR T細胞と比較して、CAR T細胞の抗腫瘍応答を持続する。
【0087】
したがって、本発明は、RDDドメイン(例えば、FKBP12、または、突然変異体DHFR)に融合したCARを発現するように改変され、それにより、CAR T細胞表面でのCAR発現のレベルを厳密に調節する能力をもたらすCAR T細胞を含むCAR T細胞枯渇を減らす組成物及び方法を提供する。本発明は、本発明の改変したCAR T細胞を使用して処置することができる疾患または病態に対して制限がない。実際のところ、本明細書で提供する組成物及び方法は、CAR T細胞の活性を高めることで治療的利益を提供し得る、あらゆる疾患の処置において有用であり得る。
【0088】
したがって、本発明は、RDDドメインに融合したCARを発現するように改変したCAR T細胞を含む組成物を提供する。本発明は、改変したCAR T細胞のタイプに対して制限がない。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、CD3+ T細胞(例えば、CD4+、及び/または、CD8+ T細胞)である。特定の実施形態では、当該CAR T細胞は、CD8+ T細胞である。その他の実施形態では、当該CAR T細胞は、CD4+ T細胞である。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、ナチュラルキラー(NK)T細胞である。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、ガンマデルタT細胞である。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、アルファベータT細胞である。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、CD4+、及び、CD8 T+細胞の組み合わせである(例えば、CD3+である)。特定の実施形態では、当該CAR T細胞は、記憶T細胞である。特定の実施形態では、当該CAR T細胞は、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、NK T細胞、記憶T細胞、アルファベータT細胞、及び/または、ガンマデルタT細胞の組み合わせである。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、サイトカイン誘導性キラーT細胞である。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球である。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、腫瘍抗原特異的CARを発現するように操作している。別の実施形態では、当該CAR T細胞は、感染症抗原に特異的なCARを発現するように操作している。一部の実施形態では、当該CAR T細胞は、抗腫瘍T細胞である。一部の実施形態では、当該組成物は、医薬として許容される担体(例えば、緩衝剤)をさらに含む。
【0089】
したがって、ある態様では、本発明は、その他の疾患の中でも、がんを処置するための組成物及び方法を提供する。当該がんは、血液悪性腫瘍、固形腫瘍、原発腫瘍または転移性腫瘍とし得る。本発明の組成物及び方法を使用して処置可能なその他の疾患として、ウイルス感染、細菌感染、及び、寄生虫感染、ならびに、自己免疫疾患がある。
【0090】
一部の実施形態では、本発明は、CARを発現するように操作したT細胞を提供し、当該CAR T細胞は、抗腫瘍特性を示す。本発明のCARは、CD3ゼータ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインに融合した抗原結合ドメインを有する細胞外ドメインを含むように操作することができる。本発明のCARは、T細胞で発現すると、抗原結合特異性に基づいて、抗原認識を変更することができる。例示的な抗原は、GD2であり、これはすなわち、この抗原は、神経芽腫、骨肉腫、及び、一部の肉腫を含む様々ながんで発現するからである(例えば、Thomas et al.,PLoS One,2016.11(3):p.e0152196;Long et al.,Nature Medicine,2015.21(6):p.581-590;Long et al.,Cancer Immunology Research,2016. 4(10):p.869-880;Yu et al.,N Engl J Med,2010.363(14):p.1324-34;Perez Horta et al.,Immunotherapy,2016.8(9):p.1097-117;Heczey et al,Molecular Therapyを参照されたい)。しかしながら、本発明は、GD2を標的とする、ことに限定されない。むしろ、本発明は、その同族抗原に結合すると、腫瘍細胞に影響を及ぼして腫瘍細胞が成長しなくなる、死滅するように促され、さもなければ、影響を受けて患者の全身腫瘍組織量を減少または消滅させる、あらゆる抗原結合部分を含む。抗原結合部分は、好ましくは、共刺激分子、CD3ゼータ鎖、及び、RDDのうちの1つ以上に由来する細胞内ドメインと融合する。
【0091】
本発明は、細胞外及び細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。一部の実施形態では、本発明のCARは、完全にヒトである。当該細胞外ドメインは、標的特異的結合要素、別名、抗原結合部分を含む。当該細胞内ドメイン、さもなければ、細胞質ドメインは、共刺激シグナル伝達領域、及び、ゼータ鎖部分を含む。当該共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の当該細胞内ドメインを含むCARの一部のことを指す。共刺激分子とは、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる、抗原受容体、または、それらのリガンド以外の細胞表面分子のことである。
【0092】
当該CARの当該細胞外ドメインと当該膜貫通ドメインとの間、または、当該CARの当該細胞質ドメインと当該膜貫通ドメインとの間には、スペーサードメインを組み込み得る。本明細書で使用する用語「スペーサードメイン」とは、一般的に、ドメインを(例えば、当該膜貫通ドメインを、当該ポリペプチド鎖の当該細胞外ドメイン、または、当該細胞質ドメインに)結合するように機能する、あらゆるオリゴまたはポリペプチドのことを意味する。スペーサードメインは、最大で300個のアミノ酸、好ましくは、10~100個のアミノ酸、最も好ましくは、25~50個のアミノ酸を含み得る。
【0093】
キメラ抗原受容体構築物
本明細書に記載したように、RDDに融合したCARを発現するように遺伝子操作した本発明のCAR T細胞は、標的特異的結合要素、別名、抗原結合部分を含むCARを含み得る。成分の選択は、標的細胞の表面を定義するリガンドの種類と数に依存している。例えば、当該抗原結合ドメインは、特定の疾患状態に関連する標的細胞での細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するように選択し得る。当該CARの抗原部分ドメインのリガンドとして作用し得る細胞表面マーカーの例として、ウイルス、細菌、及び、寄生虫感染、自己免疫疾患、及び、がん細胞に関連するものがある。
【0094】
本明細書で使用する用語「抗原」とは、抗体またはT細胞受容体で結合可能な分子のことを指す。抗原は、体液性免疫応答、及び/または、細胞性免疫応答をさらに誘導して、B及び/またはTリンパ球を産生することができる。本発明の実施形態は、免疫原性を低下させるためにヒト化したCAR(hCAR)など、抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドをコードする核酸などの核酸、膜貫通ドメイン、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、共刺激ドメイン、及び/または、CD3ゼータ)、及び、RDDドメインに関係している。ヒトCAR核酸として、ヒト患者の細胞免疫療法を強化するヒト遺伝子を企図している。特定の実施形態では、当該CARは、1つ以上の抗原間の共有空間から構成されたエピトープを認識する。一部の実施形態では、当該CARは、炭水化物抗原に特異的である。
【0095】
一般的に、非ヒト抗原結合領域を、キメラ抗原受容体の構築に使用する。しかしながら、マウスモノクローナル抗体などの非ヒト抗原結合領域の使用に伴う潜在的な問題は、ヒトエフェクター機能の欠如である。さらに、非ヒトモノクローナル抗体を、外来タンパク質として、ヒト宿主は認識することができるので、そのような外来抗体の反復注射は、有害な過敏症反応を招く免疫応答の誘導をもたらすことになり得る。マウスをベースとしたモノクローナル抗体では、大抵の場合、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答と称する。したがって、一部の実施形態では、(例えば、強いHAMA応答を引き起こさないので)ヒト抗体の抗原結合領域を使用する。一部の実施形態では、当該抗原結合ドメインを、キメラ(すなわち、ヒト/マウスキメラ)、または、ヒト化して、そのような免疫原性を最小限にし得る。しかしながら、その他の実施形態では、マウス抗体の抗原結合領域を使用する。
【0096】
一部の実施形態では、当該CARは、a)抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)膜貫通ドメイン、c)細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)RDDを含む。例えば、一部の実施形態では、当該CARは、抗GD2抗原結合ドメイン、CD28膜貫通ドメイン、CD3-ゼータ、CD28、及び/または、4-1BB刺激ドメイン、及び、RDD(例えば、DHFRまたはFKBP DD)を含む。本明細書で詳述するように、RDDを含む数多くの異なるCAR、及び、それを使用する方法を可能にする。ある実施形態では、当該CARは、a)配列番号44を含む抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)配列番号48を含む膜貫通ドメイン、c)配列番号50及び/または配列番号52を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)配列番号54を含むRDDを含む。別の実施形態では、CARは、a)配列番号60を含む抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)配列番号64を含む膜貫通ドメイン、c)配列番号66及び/または配列番号68を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)配列番号:70を含むRDDを含む。別の実施形態では、CARは、a)配列番号76を含む抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)配列番号80を含む膜貫通ドメイン、c)配列番号82及び/または配列番号84を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)配列番号86を含むRDDを含む。さらに別の実施形態では、CARは、a)配列番号92を含む抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)配列番号96を含む膜貫通ドメイン、c)配列番号98及び/または配列番号100を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)配列番号102を含むRDDを含む。別の実施形態では、CARは、a)配列番号108を含む抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)配列番号112を含む膜貫通ドメイン、c)配列番号114及び/または配列番号116を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)配列番号118を含むRDDを含む。別の実施形態では、CARは、a)配列番号124を含む抗原結合領域を含む細胞外ドメイン、b)配列番号130を含む膜貫通ドメイン、c)配列番号132及び/または配列番号134を含む細胞内シグナル伝達ドメイン、及び、d)配列番号136を含むRDDを含む。
【0097】
抗原結合領域
特定の実施形態では、当該結合領域は、モノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)、モノクローナル抗体の可変領域、及び/または、その抗原結合断片を含む。CDRは、抗原を補完する抗原受容体(例えば、免疫グロブリン、及び、T細胞受容体)タンパク質の可変ドメインに認められる短いアミノ酸配列であり、したがって、その特定の抗原に対する特異性を受容体に付与する。抗原受容体の各ポリペプチド鎖は、3つのCDR(CDR1、CDR2、及び、CDR3)を含む。一般的に、当該抗原受容体は、2つのポリペプチド鎖で構成されており、各重鎖及び軽鎖には3つのCDRが含まれているので、抗原と接触することができる各抗原受容体(例えば、抗体またはTCR)には6つのCDRがある。免疫グロブリン及びT細胞受容体に関連するほとんどの配列変異はCDRに認められるので、これらの領域を、超可変ドメインとも称する。
【0098】
CARは、腫瘍細胞での抗原に対して特異的に結合する所望の抗原結合部分を操作することで、目的の腫瘍抗原を標的とするように操作し得る。本明細書で使用する「腫瘍抗原」または「過剰増殖性障害抗原」または「過剰増殖性障害に関連する抗原」または「がん抗原」とは、がんなどの特定の過剰増殖性障害に共通する抗原のことを指す。本明細書で言及する例示的な抗原を、例として含む。これらの例を、排他的なものとする意図はなく、また、当業者であれば、さらなる例は自明である。
【0099】
腫瘍抗原は、免疫応答、特に、T細胞媒介性免疫応答を引き起こす腫瘍細胞によって産生される部分(例えば、タンパク質、炭水化物など)である。したがって、抗原結合部分は、処置を受ける特定の種類のがんに基づいて選択することができる。腫瘍抗原は、当該技術分野で周知であり、例えば、神経膠腫関連抗原、癌胎児性抗原(CEA)、ベータヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、前立腺特異抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、p53、プロステイン、PSMA、Her2/neu、サバイビン、及び、テロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体、メソテリン、及び、本明細書に記載した、または、当該技術分野で公知のその他の腫瘍抗原がある。
【0100】
腫瘍抗原は、悪性腫瘍に関連する1つ以上の抗原性がん抗原/エピトープを含み得る。悪性腫瘍は、免疫攻撃の標的抗原として機能し得る数多くのタンパク質を発現する。これらの分子として、T細胞1によって認識されるメラノーマ抗原(MART-1)、メラノーマのチロシナーゼ及びGP100、ならびに、前立腺癌の前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)及び前立腺特異抗原(PSA)などの組織特異的抗原があるが、これらに限定されない。その他の標的分子は、がん遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子のグループに属する。標的抗原のさらに別のグループは、癌胎児性抗原(CEA)などの癌胎児抗原である。B細胞リンパ腫では、当該腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に固有の真の腫瘍特異的免疫グロブリン抗原を構成する。CD19、CD20、及び、CD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫の標的抗原のその他の候補である。
【0101】
また、腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原(TSA)、または、腫瘍関連抗原(TAA)とし得る。TSAは、腫瘍細胞に固有のものであり、また、身体内のその他の細胞では発生しない。TAAは、腫瘍細胞に固有のものではなく、代わりに、当該抗原に対する免疫寛容の状態を誘導できない条件下で、幾つかの正常細胞に発現する。当該腫瘍での当該抗原の発現は、当該免疫系を当該抗原に反応可能にする条件下で起こり得る。TAAを、当該免疫系が未熟で応答すらできない発育過程の胎児での正常細胞に発現する抗原とし得る、または、正常細胞では通常は非常に低レベルで存在するが、腫瘍細胞では遙かに高レベルで発現する抗原とし得る。
【0102】
TSAまたはTAAの例として、MART-1/MelanA(MART-1)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2、及び、MAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15などの腫瘍特異的多系統抗原などの分化抗原;CEAなどの過剰発現胚抗原;p53、Ras、HER-2/neuなどの過剰発現がん遺伝子、及び、変異腫瘍抑制遺伝子;染色体転座に起因するユニークな腫瘍抗原;BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなど;及び、エプスタインバーウイルス抗原EBVA、及び、ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6及びE7などのウイルス抗原などがあるが、これらに限定されない。その他の大きなタンパク質をベースとした抗原として、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO-1、pl 85erbB2、pl80erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、ベータ-カテニン、CDK4、Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791Tgp72、アルファ-フェトプロテイン、ベータ-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3\CA27.291\BCAA、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、及び、TPSがある。
【0103】
一部の実施形態では、HA-1、サバイビン、WT1、及び、p53などの細胞内腫瘍関連抗原を標的とする。このことは、HLAの関連で細胞内腫瘍関連抗原に由来する加工したペプチドを認識するT細胞で発現するCARにより達成することができる。
【0104】
標的とする所望の抗原に応じて、CARは、所望の抗原標的に特異的な適切な抗原結合部分を含むように操作することができる。例えば、GD2が標的とする所望の抗原である場合、GD2の抗体(例えば、14G2a、chl4.18、hul4.18K322A、m3F8、hu3F8-IgG1、hu3F8-IgG4、HM3F8、UNITUXIN、DMAb-20、または、GD2に対して特異的に結合するその他のあらゆる抗体)を、本発明のCARに組み込むための抗原結合部分として使用することができる。
【0105】
一部の実施形態では、当該抗原は、病原体特異的抗原である。本発明は、病原体特異的抗原の種類に対して制限がない。病原体特異的抗原は、真菌、細菌、または、ウイルスを含むあらゆる病原体に由来し得るものであるが、これらに限定されない。例示的なウイルス病原体として、Adenoviridae、エプスタインバーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、JCウイルス、BKウイルス、HSV、HHV科のウイルス、Picornaviridae、Herpesviridae、Hepadnaviridae、Flaviviridae、Retroviridae、Orthomyxoviridae、Paramyxoviridae、Papovaviridae、Polyomavirus、Rhabdoviridae、及び、Togaviridaeの科にあるウイルス病原体がある。例示的な病原性ウイルスは、天然痘、インフルエンザ、流行性耳下腺炎、麻疹、水痘、エボラ、及び、風疹を引き起こす。例示的な病原性真菌として、Candida、Aspergillus、Cryptococcus、Histoplasma、Pneumocystis、及び、Stachybotrysがある。例示的な病原性細菌として、Streptococcus、Pseudomonas、Shigella、Campylobacter、Staphylococcus、Helicobacter、E.coli、Rickettsia、Bacillus、Bordetella、Chlamydia、Spirochetes、及び、Salmonellaがある。ある実施形態では、病原体受容体Dectin-1を使用して、真菌の細胞壁の炭水化物構造を認識するCARを生成する。Dectin-1の特異性に基づいてCARを発現するように遺伝子改変したT細胞は、Aspergillusを認識して、菌糸の成長を標的にする(例えば、阻害する)。別の実施形態では、ウイルス決定因子(例えば、CMV、または、エボラ由来の糖タンパク質)を認識する抗体に基づいてCARを作成して、ウイルス感染と病状を妨げる。
【0106】
一部の実施形態では、本発明は、全長CAR cDNA、または、コード領域を含む。当該抗原結合領域またはドメインは、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の内容を援用する、米国特許第7,109,304号;第8,822,196号;第9,868,774号;第9,790,282号;第9,765,342号;第9,624,306号;第9,522,915号;第9,359,447号;第9,845,362号;第9,815,901号;第9,777,061号;第9,598,489号;第9,394,368号;第9,446,105号;及び、第9,334,330号に記載されたような特定のヒトモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)のVH及びVL鎖の断片を含むことができる。また、当該断片を、ヒト抗原特異的抗体のあらゆる個数の異なる抗原結合ドメインとし得る。より具体的な実施形態では、当該断片は、ヒト細胞での発現のためのヒトコドン使用のために最適化した配列によってコードした抗原特異的scFvである。
【0107】
当該抗体を、ダイアボディまたはマルチマーなどの多量体とすることができる。これらのマルチマーは、軽鎖と重鎖の可変部分を、ダイアボディと称する箇所で交差してペアリングして形成できる(Winter et al.,Protein Eng. 1996 Mar;9(3):299-305を参照されたい)。当該構築物のヒンジ部分は、全体が削除されることから、最初のシステインを維持すること、セリンではなくプロリンを置換すること、最初のシステインまで切断をすること、などの複数の選択肢を持つことができる。当該Fc部分は削除できる。安定化、及び/または、二量体化するあらゆるタンパク質は、この目的に向けて役目を果たすことができる(例えば、Fcドメインのいずれか一方、例えば、ヒト免疫グロブリン由来のCH2またはCH3ドメインのいずれかを使用できる)。二量体化を改善するために修飾したヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2及びCH3領域も使用することができる。
【0108】
CARの抗原結合ドメインは、抗原に結合するあらゆるドメインとすることができ、同ドメインとして、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及び、それらの断片があるが、これらに限定されない。一部の事例では、当該抗原結合ドメインにとって、当該CARを最終的に使用するのと同じ種に由来することが有益である。例えば、ヒトでの使用については、当該CARの抗原結合ドメインが、ヒト抗体またはその断片を含むことが有益であり得る。したがって、ある実施形態では、当該抗原結合ドメイン部分は、ヒト抗体またはその断片を含む。
【0109】
ヒトでの抗体のインビボでの使用については、好ましくは、ヒト抗体を使用し得る。完全ヒト抗体は、ヒト対象の治療的処置において特に望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを使用するファージディスプレイ法、ならびに、これらの技術の改良を含む、当該技術分野で公知の様々な方法で作製することができる。本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、米国特許第4,444,887号、及び、第4,716,111号;及び、PCT公開WO 98/46645、WO 98/50433、WO 98/24893、WO98/16654、WO96/34096、WO96/33735、及び、WO91/10741も参照されたい。また、重鎖及び軽鎖がヒトDNAの1つ以上の供給源に由来するヌクレオチド配列によってコードした抗体を、ヒト抗体とすることができる。
【0110】
機能的内因性免疫グロブリンを発現できないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現できるトランスジェニックマウスを使用して、ヒト抗体を産生することもできる。例えば、当該ヒト重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体は、ランダムに、または、相同組換えによってマウス胚性幹細胞に導入し得る。あるいは、当該ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子に加えて、当該ヒト可変領域、定常領域、及び、多様性領域を、マウス胚性幹細胞に導入し得る。当該マウスの重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、相同組換えによるヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入とは別個に、または、同時に機能しないようになり得る。例えば、キメラ及び生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらす、との説明がされている。改変した胚性幹細胞を増殖して、胚盤胞に微量注入して、キメラマウスを作出する。次に、当該キメラマウスを交配して、ヒト抗体を発現するホモ接合子孫を作出する。当該トランスジェニックマウスを、選択した抗原で通常の方法で免疫処置する。腫瘍抗原に対する抗腫瘍抗原抗体は、従来のハイブリドーマ技術を使用して、免疫処置したトランスジェニックマウスから取得することができる。当該トランスジェニックマウスが保有する当該ヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化の間に再配置し、その後に、クラススイッチと体細胞変異を受ける。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を産生するためのこの技術の詳細な説明、及び、そのような抗体を産生するためのプロトコルは、例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、PCT公開第WO 98/24893号、WO 96/34096、及び、WO 96/33735;及び、米国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;及び、第5,939,598号を参照されたい。加えて、Abgenix,Inc.(Freemont,Calif.)、及び、Genpharm(San Jose,Calif.)などの企業は、上記したものと同様の技術を使用して、選択した抗原に対するヒト抗体の提供に寄与することができる。抗原接種時にヒト抗体の産生をもたらす生殖細胞系突然変異マウスにおけるヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイの移入の具体的な説明については、例えば、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993);Bruggermann et al.,Year in Immunol,7:33(1993);及び、Duchosal et al.,Nature,355:258(1992)を参照されたい。
【0111】
また、ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーから誘導することができる(Hoogenboom et al.,J. Mol. Biol.,227:381(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991);Vaughan et al.,Nature Biotech.,14:309(1996))。ファージディスプレイ技術(McCafferty et al.,Nature,348:552-553(1990))を使用して、免疫処置していないドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロで、ヒト抗体及び抗体断片を生成できる。この技術では、抗体Vドメイン遺伝子は、M13またはfdなどの糸状性バクテリオファージの主要な、または、主要でないコートタンパク質遺伝子のインフレームにてクローン化し、そして、ファージ粒子の表面に機能的な抗体断片として表示される。当該糸状性粒子は、ファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むため、当該抗体の機能特性に基づいた選択は、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択にもつながる。したがって、ファージは、B細胞の特性の一部を模倣する。ファージディスプレイは、様々な形式で実行することができる;それらの評価については、例えば、Johnson,Kevin S,and Chiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントの幾つかの供給源は、ファージディスプレイに使用することができる。Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)は、免疫処置をしていないマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムなコンビナトリアルライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。免疫処置をしていないヒトドナーに由来するV遺伝子のレパートリーを構築することができ、そして、本質的に、Marks et al.,J. Mol.Biol.,222:581-597(1991)、または、Griffith et al.,EMBO J.,12:725-734(1993)に記載された技術に従って、抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を単離することができる。また、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、米国特許第5,565,332号、及び、第5,573,905号も参照されたい。
【0112】
ヒト抗体は、インビトロで活性化したB細胞でも産生し得る(本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、米国特許第5,567,610号、及び、第5,229,275号を参照されたい)。また、ヒト抗体は、Roder et al.(Methods Enzymol.,121:140-167(1986))に記載されているものなど、これに限定されない、ハイブリドーマ技術を用いてインビトロでも産生し得る。
【0113】
あるいは、一部の実施形態では、非ヒト抗体を、ヒト化して、当該抗体の特定の配列または領域を、ヒトで自然に産生される抗体との類似性を高めるために修飾する。ある実施形態では、当該抗原結合ドメイン部分を、ヒト化する。
【0114】
ヒト化抗体は、当該技術分野で公知の様々な技術を用いて生成することができ、同技術として、CDR移植(例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、欧州特許第EP 239,400号;国際公開公報第WO 91/09967号;及び、米国特許第5,225,539号、第5,530,101号、及び、第5,585,089号を参照されたい)、ベニアリングまたはリサーフェシング(例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、欧州特許第EP 592,106号、及び、第EP 519,596号;Padlan, 1991, Molecular Immunology 28(4/5):489-498;Studnicka et al., 1994, Protein Engineering 7(6):805-814;及び、Roguska et al., 1994, PNAS, 91:969-973を参照されたい)、鎖シャッフリング(例えば、本明細書の一部を構成するものとして、その全内容を援用する、米国特許第5,565,332号を参照されたい)、及び、例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、米国特許出願公開第US2005/0042664号、米国特許出願公開第US2005/0048617号、米国特許第6,407,213号、米国特許第5,766,886号、国際公開公報第WO 9317105号、Tan et al., J. Immunol., 169:1119-25(2002), Caldas et al., Protein Eng., 13(5):353-60(2000), Morea et al., Methods, 20(3):267-79(2000), Baca et al., J. Biol. Chem., 272(16):10678-84(1997), Roguska et al., Protein Eng., 9(10):895-904(1996), Couto et al., Cancer Res., 55(23 Supp):5973s-5977s(1995), Couto et al., Cancer Res., 55(8):1717-22(1995), Sandhu J S, Gene, 150(2):409-10(1994)、及び、Pedersen et al., J. Mol. Biol., 235(3):959-73(1994)に開示された手法があるが、これらに限定されない。多くの場合、フレームワーク領域におけるフレームワーク残基は、抗原結合を変更するため、好ましくは、改善するために、CDRドナー抗体由来の対応する残基で置換する。これらのフレームワーク置換は、当該技術分野で周知の方法、例えば、抗原結合にとって重要なフレームワーク残基を同定するためのCDRとフレームワーク残基との相互作用のモデリングと、特定の位置にある異常なフレームワーク残基を同定するための配列比較で同定する(例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、Queen et al., 米国特許第5,585,089号;及び、Riechmann et al., 1988, Nature,332:323を参照されたい)。
【0115】
ヒト化抗体は、ヒト以外の供給源から、そこに導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「インポート」残基と呼ばれることが多く、一般的には、「インポート」可変ドメインから取得する。したがって、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリン分子由来の1つ以上のCDR、及び、ヒト由来のフレームワーク領域を含む。抗体のヒト化は、当該技術分野において周知であり、本質的には、Winterらの方法(Jones et al., Nature, 321:522-525(1986);Riechmann et al., Nature, 332:323-327(1988);Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536(1988))に従って、ヒト抗体の対応する配列を、齧歯動物のCDRまたはCDR配列へと置換すること、すなわち、CDR移植(本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の全内容を援用する、EP 239,400;PCT公開公報第WO 91/09967号;及び、米国特許第4,816,567号;第6,331,415号;第5,225,539号;第5,530,101号;第5,585,089号;第6,548,640号)によって行うことができる。そのようなヒト化キメラ抗体では、実質的にインタクトではないヒト可変ドメインを、非ヒト種由来の対応する配列で置換する。実際のところ、ヒト化抗体は、一般的には、一部のCDR残基、及び、おそらくは一部のフレームワーク(FR)残基が、齧歯動物抗体における類似部位由来の残基で置換したヒト抗体である。また、抗体のヒト化を、ベニアリングもしくはリサーフェシング(EP 592,106号;EP 519,596号;Padlan, 1991, Molecular Immunology, 28(4/5):489-498;Studnicka et al., Protein Engineering, 7(6):805-814(1994);及び、Roguska et al., PNAS, 91:969-973(1994))、または、鎖シャッフリング(米国特許第5,565,332号)によって達成することができ、そして、これらの全内容は、本明細書の一部を構成するものとして援用する。
【0116】
一部の事例では、ヒトscFvも、酵母ディスプレイライブラリーに由来し得る。
【0117】
ヒト化抗体を作製する上で用いられる、軽鎖および重鎖の双方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低下させることを目的とする。いわゆる「ベストフィット」法に従って、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を、公知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。続いて、齧歯動物のものに最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として受け入れる(Sims et al., J. Immunol, 151:2296(1993);Chothia et al., J. Mol. Biol, 196:901(1987)、本明細書の一部を構成するものとして、これらの全内容を援用する)。別の方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを用いる。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に用いることができる((Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285(1992);Presta et al., J. Immunol., 151:2623(1993)、本明細書の一部を構成するものとして、これらの全内容を援用する)。
【0118】
抗体は、標的抗原に対する高い親和性、及び、その他の有利な生物学的特性を保ったままでヒト化することができる。本発明のある態様では、親配列、及び、ヒト化配列の三次元モデルを用いた親配列、及び、様々な概念上のヒト化産物の分析の過程で、ヒト化抗体を調製する。免疫グロブリンの三次元モデルは一般的に入手可能であり、そして、当業者に周知のものである。選択した候補免疫グロブリン配列に関して可能性のある三次元立体構造を図示および表示するコンピュータープログラムが利用可能である。これらの表示を検討することで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の考え得る役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンが、標的抗原と結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能となる。このようにして、当該標的抗原に対する親和性の増大といった所望の抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント配列およびインポート配列から選択して、組み合わせることができる。一般的に、当該CDR残基は、抗原結合に影響を及ぼすことに、直接的かつ最も実質的に関与している。
【0119】
「ヒト化」抗体は、当初の抗体と同様の抗原特異性、すなわち、本発明では、ヒトGD2に結合する能力を保持している。しかしながら、特定のヒト化方法を用いると、ヒトGD2に対する抗体の結合の親和性、及び/または、特異性を、本明細書の一部を構成するものとして、その全内容を援用する、Wu et al., J. Mol. Biol., 294:151(1999)に記載された「定方向進化」の方法を用いて、高めることができる。
【0120】
ある実施形態では、本発明のCARの抗原結合部の部分は、GD2を標的とする。一部の実施形態では、本発明のCARの抗原結合部の部分は、完全ヒト抗GD2 scFVである。一部の実施形態では、抗GD2 scFVの核酸配列は、配列番号43に記載の配列を含む。ある実施形態では、抗GD2 scFVは、配列番号44のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARの抗GD2 scFV部分は、配列番号44に記載のアミノ酸配列を含む。その他の実施形態では、抗GD2 scFVの核酸配列は、配列番号87に記載の配列を含む。ある実施形態では、抗GD2 scFVは、配列番号88のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARの抗GD2 scFV部分は、配列番号88に記載のアミノ酸配列を含む。
【0121】
その他の態様では、本発明のCARの抗原結合部の部分は、Her2を標的とする。一部の実施形態では、抗Her2 scFVの核酸配列は、配列番号123に記載の配列を含む。ある実施形態では、抗Her2 scFVは、配列番号124のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARの抗Her2 scFV部分は、配列番号124に記載のアミノ酸配列を含む。
【0122】
その他の実施形態では、本発明のCARの抗原結合部の部分は、CD19を標的とする。一部の実施形態では、抗CD19 scFVの核酸配列は、配列番号11に記載の配列を含む。ある実施形態では、抗CD19 scFVは、配列番号12のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARの抗CD19 scFV部分は、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含む。
【0123】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインに関して、当該CARは、当該CARの細胞外ドメインに融合した膜貫通ドメインを含むようにデザインすることができる。ある実施形態では、当該CARにおけるドメインの1つと自然に関連する膜貫通ドメインを使用する。一部の実施形態では、膜貫通ドメインを、アミノ酸置換で選択または修飾して、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに対するそのようなドメインの結合を回避して、受容体複合体のその他のメンバーとの相互作用を最小限に抑える。
【0124】
膜貫通ドメインは、天然または合成の供給源のいずれかに由来し得る。当該供給源が天然の場合、当該ドメインは、あらゆる膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。本発明で特定の用途が認められる膜貫通領域として、T細胞受容体、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、または、CD154のアルファまたはベータ鎖に由来する(すなわち、少なくとも、その膜貫通領域(複数可)を含む)膜貫通領域があるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、ヒトIg(免疫グロブリン)ヒンジなど、様々なヒトヒンジを使用することができる。
【0125】
一部の実施形態では、当該膜貫通ドメインは合成物であり、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含む。一部の実施形態では、フェニルアラニン、トリプトファン、及び、バリンのトリプレットは、合成膜貫通ドメインの各末端に認められる。任意に、好ましくは、2~10個の間のアミノ酸長の短いオリゴまたはポリペプチドリンカーが、当該CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間の結合を形成する。
【0126】
ある実施形態では、本発明のCARの膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインである。ある実施形態では、当該CD28膜貫通ドメインは、配列番号15の核酸配列を含む。ある実施形態では、当該CD28膜貫通ドメインは、配列番号16のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、当該CD28膜貫通ドメインは、配列番号16のアミノ酸配列を含む。
【0127】
一部の実施形態では、CD28ヒンジ領域は、当該CARのCD28膜貫通ドメインに付着している。ある実施形態では、当該CD28ヒンジドメインは、配列番号13の核酸配列を含む。ある実施形態では、当該CD28ヒンジドメインは、配列番号14のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、当該CD28ヒンジドメインは、配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0128】
細胞内または細胞質ドメイン
本発明のCARの細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラ受容体が配置されているT細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与する。用語「エフェクター機能」とは、分化細胞の特殊な機能のことを指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性、または、サイトカインの分泌を含むヘルパー活性とし得る。ナイーブ、記憶、または、記憶型T細胞のエフェクター機能は、抗原依存性増殖を含む。したがって、用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、エフェクター機能シグナルを伝達し、そして、特殊な機能を実行するように当該細胞に指示するタンパク質の部分のことを指す。通常であれば、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用するが、大抵の場合、細胞内ポリペプチド全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインから切り取った部分が使用できる限りは、そのような切り取った部分は、エフェクター機能シグナルを依然として伝達する限りは、インタクトな鎖の代わりに使用し得る。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインから切り取った部分を含む、ことを意味する。
【0129】
細胞内シグナル伝達ドメインの例として、T細胞受容体(TCR)、及び、抗原受容体の関与に続いてシグナル伝達を開始するように協同して作用する共受容体の細胞質配列、ならびに、これらの配列、及び、同じ機能性能を有する合成配列のあらゆる誘導体または変異体があるが、これらに限定されない。TCRのみを介して生成するシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、また、二次または共刺激シグナルも必要である、ことが知られている。したがって、T細胞の活性化は、2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列:TCR(一次細胞質シグナル伝達配列)を介して抗原依存性の一次活性化を開始する配列と、二次または共刺激シグナル(二次細胞質シグナル伝達配列)を提供する抗原非依存的に作用する配列とを媒介することができる。
【0130】
一次細胞質シグナル伝達配列は、刺激的方法、または、阻害的方法のいずれかで、TCR複合体の一次活性化を調節する。刺激的に作用する一次細胞質シグナル伝達配列として、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ、または、ITAMとして知られているシグナル伝達モチーフを含み得る。
【0131】
本発明で特に有用な一次細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例として、CD3ゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及び、CD66dに由来するものを含む。一部の実施形態では、本発明のCARでの当該細胞質シグナル伝達分子は、CD3ゼータに由来する細胞質シグナル伝達配列を含む。
【0132】
当該CARの細胞質ドメインは、CD3-ゼータシグナル伝達ドメインを単独で含むように、または、本発明のCARとの関連で有用なあらゆるその他の所望の細胞質ドメイン(複数可)と組み合わせてデザインすることができる。例えば、当該CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ鎖部分と、共刺激シグナル伝達領域またはドメインとを含むことができる。当該共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含む当該CARの一部のことを指す。共刺激分子とは、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な抗原受容体、または、それらのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例として、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B83-H3、CD83に対して特異的に結合するリガンドなどがある。一部の実施形態では、本明細書に記載したCARは、共刺激シグナル伝達要素としてCD28または4-1BBと組み合わせたITAM含有CD3-ゼータドメインを含む。一部の実施形態では、本明細書に記載したCARは、少なくとも1つのその他の共刺激ドメインと組み合わせて、ITAM含有CD3-ゼータドメインを含み、そして、それらは本発明の範囲内である。
【0133】
細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3-ゼータ、または、あらゆるその相同体(例えば、イータ、デルタ、ガンマ、または、イプシロン)、MB1鎖、B29、Fc RIII、Fc RI、及び、CD3-ゼータやCD28などのシグナル伝達分子の組み合わせ、CD27、4-1BB、DAP-10、OX40、及び、これらの組み合わせを含み得る。FcγRIII及びFcγRIなど、活性化タンパク質ファミリーのその他のメンバーの細胞内シグナル伝達部分を使用することができる(これらの代替膜貫通及び細胞内ドメインを使用したcTCRの開示に関する、Gross et al.(1992),Stacovski et al.,(1993),Moritz et al.(1994),Hwu et al.(1995),Weijtens et al.(1996)、及び、Hekele et al.(1996)を参照されたい)。
【0134】
本発明のCARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、あらゆる順序で互いに連結し得る。任意に、好ましくは2~10個のアミノ酸長の短いオリゴまたはポリペプチドリンカーが結合を形成し得る。グリシン-セリンダブレットは、特に適切なリンカーを提供する。この抗原特異的細胞外ドメイン、及び、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトIgG4FCヒンジ及びFc領域などの膜貫通ドメインによって結合し得る。代替手段として、当該ヒトCD4膜貫通ドメイン、当該ヒトCD28膜貫通ドメイン、当該ヒトCD3-ゼータ膜貫通ドメイン、または、システイン変異ヒトCD3-ゼータ膜貫通、または、CD16及びCD8などのその他のヒト膜貫通シグナル伝達タンパク質由来のその他の膜貫通ドメイン、及び、エリスロポエチン受容体がある。
【0135】
一部の実施形態では、内因性T細胞受容体複合体のあらゆる部分を、当該細胞内ドメインで利用する。1つまたは複数の細胞質ドメインを使用することで、いわゆる第三世代CARは、例えば、相加効果または相乗効果のために互いに融合した少なくとも2つまたは3つのシグナル伝達ドメインを有し得る。
【0136】
ある実施形態では、当該細胞質ドメインは、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインと、CD28のシグナル伝達ドメインとを含む。別の実施形態では、当該細胞質ドメインは、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインと、4-1BB、及び/または、OX-40のシグナル伝達ドメインとを含む。
【0137】
ある実施形態では、本発明のCARの細胞質ドメインは、CD28のシグナル伝達ドメインと、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインとを含み、CD28のシグナル伝達ドメインは、配列番号17に記載の核酸配列を含み、かつ、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインは、配列番号19に記載の核酸配列を含む。ある実施形態では、CD28のシグナル伝達ドメインは、配列番号18のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、CD28のシグナル伝達ドメインは、配列番号18のアミノ酸配列を含む。ある実施形態では、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列を含む。
【0138】
調節可能な不安定化ドメイン
本発明のCARの調節可能な不安定化ドメイン(RDD)を、時間、及び/または、用量依存的にT細胞の表面でのCARの発現を調節する(例えば、抑制させる)ために利用する。このようにして、CAR T細胞の枯渇を、予防/阻害し、または、逆転して、CAR T細胞の機能の維持、回復、または、強化(例えば、持続したエフェクター機能)をもたらすことができる。
【0139】
例えば、一部の実施形態では、RDDを含むCARを発現するように遺伝子操作した(例えば、CARに融合した)CAR T細胞は、ユビキチン媒介分解についてCARをマークし、その結果、RDDに結合する安定化小分子の存在下で、CARの分解を予防し、そして、RDDに結合する安定化小分子の除去または非存在が、CARの分解を招く。一部の実施形態では、CARに対するRDDの融合を介したCARタンパク質レベル、及び、CAR表面発現の調節は、持続的なCARシグナル伝達に起因するT細胞枯渇の特徴が既に明確となったCAR T細胞の枯渇を逆転する。例えば、安定化小分子に曝されているCAR T細胞は、T細胞枯渇の表現型と機能面の特徴のすべてを実証している。しかしながら、安定化小分子を除去し、かつ、CARタンパク質レベルがタンパク質分解を受けて低下すると、T細胞枯渇の表現型、及び、機能指標が逆転し、そして、T細胞機能は回復する。
【0140】
本発明は、特定のRDDに対して制限がない。実際のところ、あらゆるRDD、すなわち、同族の小分子の存在によって当該RDDが安定化されないと、迅速なCARタンパク質分解が起こるようにCARを不安定にし、CARにおけるその構造または存在が、CAR機能を撹乱をもしないRDDを本発明で使用し得る。RDDの例として、本明細書でFKBP DDと称するFK506結合タンパク質(FKBP)に由来するRDD(Banaszynski et al.,Cell 2006を参照されたい)があるが、これに限定されない。FKBP RDDを含むCARの表面発現は、安定化ラパログshield-1(S1)を、CAR T細胞に対して、または、FKBP DDを含むCAR T細胞で処置した生物に対して添加をする、または、そこから取り去ることで、迅速かつ用量依存的に制御できる。RDDの別の例として、本明細書でDHFR DDと称しており、安定化小分子薬トリメトプリムで迅速かつ用量依存的に調節できる、E.coliジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)に由来するものがあるが、これに限定されない。本明細書に記載したように、一部の実施形態では、CAR発現は、臨床的に確立されており、かつ、十分に許容される用量のトリメトプリムを使用して、インビボで達成されている(Kremers et al.,J Clin Pharmacol.1974 Feb-Mar;14(2):112-7を参照されたい)。例えば、トリメトプリムで制御したDHFR RDDを含むCARの最大発現は、約500nMのトリメトプリムで発生しており、当該化合物のEC50である50nMの範囲内である。これは、1日2回、160mgを摂取した場合のトリメトプリムの平均定常状態血漿濃度(1.72μg/mL、約6μΜ)の範囲内である。一部の実施形態では、CAR発現は、臨床的に確立したトリメトプリムの用量を下回る用量を使用して、インビボで達成する。
【0141】
一部の実施形態では、DHFR DDは、E.coli DHFRに由来する。一部の実施形態では、当該DHFR DDは、ヒトDHFRに由来する。同様に、本発明は、使用するRDDのタイプに対して制限がない。例えば、DHFRドメイン、及び、それに付着したタンパク質の不安定化を達成する突然変異を含む、あらゆるDHFRを使用し得る。例えば、あらゆるRDD(DHFRまたはFKBP DD)、すなわち、例えば、トリメトプリムまたはS1を使用しても、当該RDDが安定化されないと、迅速なタンパク質分解を招く不安定性/不安定化をもたらし、CARにおけるその構造または存在が、CARエフェクター機能を攪乱をもしない当該RDDを使用することができる。一部の実施形態では、配列番号6の、アミノ酸12及び100に変異を含むE.coli DHFR DDを使用する。
【0142】
本発明は、CARにおけるRDDの位置に対して制限がない。例えば、一部の実施形態では、RDDは、当該CARのN末端またはC末端に融合(例えば、遺伝子操作して結合)している。CARは、当該CARの細胞内成分に融合した、当該CARの細胞外成分に融合した、または、ヒンジまたは膜貫通領域に融合したRDDで発現することができる。当該CARの細胞内成分の例として、共刺激ドメイン、または、CD3-ゼータドメインがあるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、当該細胞内ドメインは、CD3-ゼータドメインである。
【0143】
当該CARの細胞内成分(例えば、CD3-ゼータ)は、ランダムな順序、または、指定した順序で、RDDに結合する。任意に、好ましくは、2~10個のアミノ酸の長さの短いオリゴまたはポリペプチドリンカーが、結合を形成し得る。
【0144】
CAR発現ベクターと遺伝子操作したT細胞
本発明は、CARの配列を含むDNA構築物を含み、当該配列は、RDDの核酸配列に作動可能に結合した細胞内ドメインの核酸配列に作動可能に結合した抗原結合部分(例えば、腫瘍抗原結合ドメイン、または、病原体抗原結合ドメイン)の核酸配列を含む。本発明のCARで使用できる細胞内ドメインの例として、CD3-ゼータ、CD27、CD28などの細胞内ドメインがあるが、これらに限定されない。一部の事例では、当該CARを、CD3-ゼータ、CD28、4-1BBなどのあらゆる組み合わせを含むことができる。本発明のCARで使用できるDDの例として、DHFR DD及びFKBP DDがあるが、これらに限定されない。
【0145】
ある実施形態では、本発明のCARは、抗GD2 scFv、ヒトCD28ヒンジ、及び、膜貫通ドメイン、ならびに、CD28及びCD3-ゼータシグナル伝達ドメインを含む。ある実施形態では、当該抗GD2 scFvは、完全にヒトである。ある実施形態では、本発明のCARは、配列番号7に記載の核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARは、配列番号8のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARは、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む。
【0146】
一部の実施形態では、本発明のCARは、配列番号23に記載の核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARは、配列番号24のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARは、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む。
【0147】
その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号39に記載の核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARは、配列番号40のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、本発明のCARは、配列番号40に記載のアミノ酸配列を含む。
【0148】
さらにその他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号55に記載の核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号56のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号56に記載のアミノ酸配列を含む。
【0149】
さらにその他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号71に記載の核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号72のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号72に記載のアミノ酸配列を含む。
【0150】
その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号87に記載の核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号88のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号88に記載のアミノ酸配列を含む。
【0151】
その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号103に記載の核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号104のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号104に記載のアミノ酸配列を含む。
【0152】
一部の実施形態では、本発明のCARは、配列番号119に記載の核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号120のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。その他の実施形態では、本発明のCARは、配列番号120に記載のアミノ酸配列を含む。
【0153】
一部の実施形態では、本発明は、RDDに融合したCARをコードするDNA配列を組み込んだ単離した核酸セグメント、及び、発現カセットを提供する。本発明のベクターは、主に、調節した真核生物プロモーター、例えば、EFlαプロモーターMNDU3プロモーター、CMVプロモーター、または、ユビキチンプロモーターの制御下で、免疫細胞、好ましくは、T細胞に所望の遺伝子を送達するようにデザインする。また、その他の理由がない限り、それらのベクターは、選択マーカーを含んでおり、インビトロでの操作を容易にし得る。その他の実施形態では、当該CARは、DNAテンプレートからインビトロで転写したmRNAから発現することができる。
【0154】
RDDに融合したCAR分子は、組換え体であり、そして、抗原に結合し、細胞質尾部に存在する免疫受容体活性化モチーフ(ITAM)を介して活性化シグナルを伝達する、という双方の能力で区別される。抗原結合部分(例えば、一本鎖抗体(scFv)から生成したもの)を利用するCAR構築物は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質が提示した抗原を必要としないという点でHLAに依存しておらず、むしろ、HLAに依存しない方法で標的細胞表面の天然抗原に結合する、というさらなる利点をもたらす。
【0155】
所望の分子をコードする核酸配列は、例えば、遺伝子を発現する細胞からライブラリーをスクリーニングすること、同配列を含むことが公知であるベクターから遺伝子を誘導すること、または、標準技術を使用して、同配列を含む細胞及び組織から直接に単離することで、取得することができる。あるいは、目的の遺伝子は、クローン化するのではなく、合成的に生成することができる。
【0156】
また、本発明は、本発明のDNAを挿入したベクターを提供する。レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターは、導入遺伝子の長期にわたる安定した組み込みと、娘細胞でのその増殖が可能であるため、長期の遺伝子導入を達成するための適切なツールである。レンチウイルスベクターは、肝細胞などの非増殖細胞を形質導入できるという点で、マウス白血病ウイルスなどの腫瘍レトロウイルスに由来するベクターよりもさらなる利点を有する。また、免疫原性が低い、という利点もある。別の実施形態では、当該所望のCARは、トランスポンソンによって、それらの細胞内で発現し得る。
【0157】
CARをコードする天然または合成核酸の発現は、一般的には、CARポリペプチド、または、その部分をコードする核酸をプロモーターに作動可能に結合し、そして、当該構築物を発現ベクターに組み込むことで達成する。これらのベクターは、複製及び真核生物への組込に適し得る。一般的なクローニングベクターは、所望の核酸配列の発現の調節に有用な転写及び翻訳ターミネーター、開始配列、及び、プロモーターを含む。
【0158】
また、本発明の発現構築物は、標準的な遺伝子送達プロトコルを使用して、核酸免疫処置と遺伝子療法に使用し得る。遺伝子送達の方法は、当該技術分野において公知である。例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の内容を援用する、米国特許第5,399,346号、第5,580,859号、第5,589,466号を参照されたい。別の実施形態では、本発明は、遺伝子療法ベクターを提供する。
【0159】
核酸は、数多くのタイプのベクターにクローン化することができる。例えば、当該核酸は、ベクターにクローン化することができ、同ベクターとして、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、及び、コスミドがあるが、これらに限定されない。特に関心のあるベクターとして、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、及び、配列決定ベクターがある。
【0160】
さらに、当該発現ベクターは、ウイルスベクターの形で細胞に提供し得る。ウイルスベクター技術は、当該技術分野で周知であり、例えば、Sambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、ならびに、その他のウイルス学、及び、分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、及び、レンチウイルスがあるが、これらに限定されない。一般的に、適切なベクターは、少なくとも1つの生物で機能する複製起点、プロモーター配列、使い勝手の良い制限エンドヌクレアーゼ部位、及び、1つ以上の選択可能なマーカーを含む(例えば、WO 01/96584;WO 01/29058;及び、米国特許第6,326,193号)。
【0161】
哺乳動物細胞への遺伝子導入のために、数多くのウイルスをベースとしたシステムが開発されている。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムに便利なプラットフォームを提供する。選択した遺伝子は、当該技術分野で公知の技術を使用して、ベクターに挿入され、そして、レトロウイルス粒子に格納することができる。次いで、組換えウイルスを単離し、そして、インビボまたはエクスビボのいずれかで、当該対象の細胞に送達することができる。数多くのレトロウイルスシステムが、当該技術分野で公知である。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターを使用する。その他の実施形態では、アデノウイルスベクターを使用する。数多くのアデノウイルスベクターが、当該技術分野で公知である。
【0162】
さらなるプロモーター要素、例えば、エンハンサーを使用して、転写開始の頻度を調節することができる。一般的には、これらは、開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、最近になって、数多くのプロモーターが、当該開始部位の下流にも機能的要素を含んでいることが明らかにされている。プロモーター要素間の間隔は頻繁に変化するので、要素が互いに反転または移動しても、プロモーター機能は維持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、活性が低下し始める前に、プロモーター要素間の間隔を50bpにまで広げることができる。個々の要素は、転写を活性化するために、協働的に、または、独立して機能する。
【0163】
一部の実施形態では、当該ベクターは、プロモーターを含む。一部の実施形態では、当該プロモーターは、構成的プロモーターである。一部の実施形態では、当該構成的プロモーターは、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列を含む。このプロモーター配列は、そこに作動可能に結合したあらゆるポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動することができる強力な構成的プロモーター配列である。一部の実施形態では、当該構成的プロモーターを、真核生物翻訳伸長因子-1アルファプロモーター配列を含む。一部の実施形態では、当該構成的プロモーターは、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン-バーウイルス前初期プロモーター、及び、ラウス肉腫ウイルスのプロモーターからなる群から選択される。一部の実施形態では、当該構成的プロモーターを、アクチンIプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及び、クレアチンキナーゼプロモーターからなる群から選択する。一部の実施形態では、当該プロモーターは、誘導性プロモーターである。誘導性プロモーターの使用は、そのような発現が望まれる場合に、作動可能に結合したポリヌクレオチド配列の発現をオンにする、または、発現が望まれない場合に発現をオフにする、ことができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例として、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及び、テトラサイクリンプロモーターがあるが、これらに限定されない。
【0164】
CARポリペプチド、または、その一部分の発現を評価するために、細胞に導入する発現ベクターに、選択可能なマーカー遺伝子、または、レポーター遺伝子、または、その双方を取り込ませて、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させようとした細胞の集団から、発現細胞の同定及び選択を促すことができる。その他の態様において、当該選択可能なマーカーを、DNAの別個の断片に保持させ、そして、同時トランスフェクション手順で使用し得る。選択可能なマーカーとレポーター遺伝子の双方に、宿主細胞での発現を可能にする適切な調節配列を隣接させ得る。有用な選択可能なマーカーとして、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子がある。
【0165】
レポーター遺伝子を、潜在的にトランスフェクトした細胞を特定するために、また、調節配列の機能を評価するために使用する。一般的に、レポーター遺伝子は、レシピエント生物または組織に存在せず、または、それらによって発現されない遺伝子であり、その発現が、幾つかの容易に検出可能な特性、例えば、酵素活性により明らかになるポリペプチドをコードする。レポーター遺伝子の発現は、DNAをレシピエント細胞に導入した後の適切な時間にアッセイする。適切なレポーター遺伝子として、ルシフェラーゼ、ベータガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌アルカリホスファターゼ、または、緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子を含み得る(例えば、Ui-Tei et al.,2000 FEBS Letters 479:79-82)。適切な発現系は周知であり、それらは、公知の技術を使用して調製し、あるいは、市販品から入手し得る。一般的に、レポーター遺伝子の最高レベルの発現を示す最小の5’隣接領域を持つ当該構築物を、プロモーターとして同定する。そのようなプロモーター領域を、レポーター遺伝子に連結し、そして、プロモーター駆動転写を調節する能力について作用物質を評価するために使用し得る。
【0166】
遺伝子を細胞に導入及び発現させる方法は、当該技術分野で公知である。発現ベクターに関連して、当該ベクターは、当該技術分野でのあらゆる方法によって、宿主細胞、例えば、哺乳動物、細菌、酵母、または、昆虫細胞に容易に導入することができる。例えば、当該発現ベクターは、物理的、化学的、または、生物学的手段によって、宿主細胞に導入することができる。
【0167】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する物理的方法として、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子衝撃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどがある。ベクター、及び/または、外因性核酸を含む細胞を産生する方法は、当該技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al.(2001, Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)を参照されたい。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための好ましい方法は、リン酸カルシウムのトランスフェクションである。
【0168】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段として、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散システム、及び、水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、及び、リポソームを含む脂質をベースとしたシステムがある。インビトロ及びインビボで送達ビヒクルとして使用するためのコロイド系の例として、リポソーム(例えば、人工膜小胞)がある。
【0169】
非ウイルス性送達システムを利用する事例では、例示的な送達ビヒクルは、リポソームである。脂質製剤の使用を、核酸の宿主細胞への(インビトロ、エクスビボ、または、インビボでの)導入のために企図している。別の態様では、当該核酸は、脂質と会合し得る。脂質が会合した核酸を、リポソームの水性内部にカプセル化し、リポソームの脂質二重層内に散在させ、リポソームとオリゴヌクレオチドの双方に会合する連結分子を介してリポソームに付着させ、リポソームに閉じ込め、リポソームと複合体化させ、脂質を含有する溶液に分散し、脂質と混合し、脂質と組み合わせ、脂質を含む懸濁液として含有させ、ミセルを含有させ、または、ミセルと複合体化させ、または、脂質と関連させ得る。脂質、脂質/DNA、または、脂質/発現ベクター会合組成物は、溶液内の特定の構造に限定されない。例えば、それらは、ミセルとして、または、「崩壊した」構造を備えた二層構造で存在し得る。また、それらは、単に溶液にて点在し得るものであり、大きさまたは形状が均一ではない凝集体を形成している可能性がある。脂質は、天然または合成の脂質とし得る脂肪物質である。例えば、脂質として、細胞質に自然に存在している脂肪滴、ならびに、脂肪酸、アルコール類、アミン類、アミノアルコール類、及び、アルデヒド類などの長鎖脂肪族炭化水素、及び、その誘導体を含む化合物のクラスがある。
【0170】
使用に適した脂質は、市販品から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma,St. Louis,Mo.から入手することができる;リン酸ジセチル(「DCP」)は、K & K Laboratories(Plainview,N.Y.)から入手することができる;コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから入手することができる;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)、及び、その他の脂質は、Avanti Polar Lipids,Inc.(Birmingham,Ala)から入手することができる。「リポソーム」とは、封入した脂質二重層または凝集体の生成によって形成した、様々な単一、及び、多重脂質ビヒクルを含む総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜と内部水性媒体とを備えた小胞構造を有する、ことを特徴とすることができる。多層リポソームは、水性媒体によって分離した複数の脂質層を有する。リン脂質を過剰な水溶液に懸濁すると、それらは自然に形成する。それらの脂質成分は、閉じた構造が形成される前に自己再配列を起こし、そして、脂質二重層の間に水と溶解した溶質を閉じ込める(Ghosh et al.,1991 Glycobiology 5:505-10)。しかしながら、通常の小胞構造とは異なる溶液構造を有する組成物も含まれる。例えば、それらの脂質は、ミセル構造のものとなるか、あるいは、脂質分子の不均一な凝集体として単に存在し得ることとなる。リポフェクタミン-核酸複合体も企図している。
【0171】
一部の実施形態では、CAR構築物をコードする核酸を、レンチウイルスまたはレトロウイルスベクターを使用して細胞に送達する。担体として形質導入細胞を使用して、または、カプセル化した、結合した、または、裸のベクターの無細胞局所送達または全身送達を使用して、CARを発現するレンチウイルスまたはアデノウイルスベクターを、様々な種類の真核細胞、ならびに、組織及び生物全体に送達することができる。使用する方法は、安定した発現が必要または十分となる、あらゆる目的に供することができる。
【0172】
別の実施形態では、当該所望のCARを、トランスポンソンにより細胞内で発現することができる。
【0173】
がん、幹細胞、急性及び慢性感染症、及び、自己免疫疾患の分野において、ここに開示した方法を遺伝子操作したT細胞の能力の評価をし、標的がん細胞を死滅させることを含む、基礎研究及び治療におけるT細胞活性の調節に適用することができる。
【0174】
T細胞のタイプと供給源
ある態様では、本明細書で提供するCAR T細胞は、自己CAR T細胞である。一部の実施形態では、当該自己CAR T細胞は、処置を受ける対象または患者から得たT細胞から製造する。一部の実施形態では、当該対象から得たT細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位の組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び、腫瘍を含む試料から単離する。特定の実施形態では、当該技術分野で入手可能なあらゆる数のT細胞株を使用し得る。本発明の特定の実施形態では、T細胞は、FICOLL(商標)分離などの当業者に公知の幾つもの技術を使用して、対象から回収した血液の単位から得ることができる。一部の実施形態では、個体の循環血液由来の細胞は、アフェレーシスで得る。一般的に、アフェレーシス産物は、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、その他の有核白血球、赤血球、及び、血小板などのリンパ球を含む。ある実施形態では、アフェレーシスで回収した当該細胞を洗浄して、血漿画分を除去し、そして、その後の処理ステップのために適切な緩衝剤または培地に細胞を入れることができる。本発明のある実施形態では、これらの細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄する。別の実施形態では、当該洗浄溶液は、カルシウム、マグネシウム、及び、その他の二価カチオンを含んでいない。洗浄後に、例えば、Ca2+不含、Mg2+不含のPBS、PlasmaLyte A、または、緩衝剤を含む、または、含まないその他の生理食塩水など、様々な生体適合性緩衝剤に対して、これらの細胞を再懸濁し得る。あるいは、当該アフェレーシス試料での望ましくない成分を除去し、そして、これらの細胞を、培養培地に直接に再懸濁し得る。
【0175】
別の実施形態では、例えば、PERCOLL(商標)勾配による遠心分離、または、対向流遠心溶出法によって、赤血球を溶解し、そして、単球を枯渇させることで、T細胞を末梢血リンパ球から単離する。
【0176】
T細胞の特定の亜集団を、ポジティブまたはネガティブ選択技術によって、さらに分離することができる。T細胞の例示的な亜集団として、CD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、及び、CD45RO+T細胞がある。例えば、ある実施形態では、所望のT細胞のポジティブ選択に十分な期間で、DYNABEADS(商標)M-450 CD3/CD28 Tなどの抗CD3/抗CD28結合ビーズを用いたインキュベーションでT細胞を単離する。ある実施形態では、当該期間は、約30分である。さらなる実施形態では、当該期間は、30分から36時間以上の範囲と、その間のすべての整数値の時間である。さらなる実施形態では、当該期間は、少なくとも1、2、3、4、5、または、6時間である。さらに別の好ましい実施形態では、当該期間は、10~24時間である。好ましいある実施形態では、インキュベーション期間は、24時間である。白血病患者からのT細胞の分離については、24時間などの長時間のインキュベーション時間を使用すると、細胞収量を増やすことができる。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を、腫瘍組織または免疫不全の個体から分離する場合など、その他の細胞タイプと比較してT細胞が少ない状況では、長時間のインキュベーションを行ってT細胞を分離し得る。さらに、長時間のインキュベーションを行うと、CD8+T細胞の捕捉効率を向上させることができる。したがって、T細胞がCD3/CD28ビーズに結合する時間を単に短縮または延長することで、及び/または、T細胞に対するビーズの比率を増減することで、培養開始時に、または、プロセスにおけるその他の時点で、T細胞の亜集団を、優先的または非優先的に選択することができる。加えて、ビーズまたはその他の表面での抗CD3及び/または抗CD28抗体の比率を増減させることで、培養開始時に、または、その他の望ましい時点で、T細胞の亜集団を、優先的または非優先的に、選択することができる。当業者であれば、複数回の選択も、本発明の関係で使用できることを認識する。特定の実施形態では、選択手順を実行し、そして、活性化、及び、増殖プロセスで「選択しなかった」細胞を使用する、ことが望ましい場合もあり得る。「選択しなかった」細胞を、さらなる選択ラウンドに供することもできる。
【0177】
ネガティブ選択によるT細胞集団の濃縮は、ネガティブに選択した細胞に特有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせで達成することができる。ある方法は、ネガティブに選択した細胞に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用するネガティブ磁気免疫付着またはフローサイトメトリーを介した、細胞選別、及び/または、選択である。例えば、ネガティブ選択によりCD4+細胞を濃縮するのであれば、モノクローナル抗体カクテルは、一般的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、及び、CD8に対する抗体を含む。特定の実施形態では、一般的には、CD4+、CD25+、CD62Lhi、GITR+、及び、FoxP3+を発現する調節性T細胞を濃縮し、あるいは、ポジティブに選択することが望ましい場合もあり得る。あるいは、特定の実施形態では、T調節細胞は、抗C25共役ビーズ、または、その他の同様の選択方法によって枯渇する。
【0178】
T細胞は、洗浄ステップの後に凍結することもできる。一部の実施形態では、凍結と、その後の解凍ステップは、細胞集団内の顆粒球と単球とをある程度まで除去することで、より均一な産物を提供する。血漿及び血小板を除去する洗浄ステップの後に、これらの細胞を、凍結溶液に懸濁し得る。
【0179】
特定の実施形態では、本明細書に記載したようにして凍結保存した細胞を、解凍及び洗浄し、そして、本発明の方法に従って、使用前に室温で(例えば、1時間以上)放置する。
【0180】
また、本発明に関連して企図しているものは、本明細書に記載した増殖細胞を必要とし得る前の期間において、対象から血液試料またはアフェレーシス産物を回収することである。したがって、増殖を受ける細胞の供給源は、必要に応じてあらゆる時点で取り寄せることができ、そして、T細胞などの所望の細胞を単離及び凍結して、本明細書に記載したような、T細胞療法の恩恵を受ける数多くの疾患または病態に対するT細胞療法で、後に使用することができる。ある実施形態では、血液試料またはアフェレーシスは、一般的に健康な対象から採取する。特定の実施形態では、血液試料またはアフェレーシスは、疾患を発症するリスクがあるが、疾患を未だ発症していない一般的に健康な対象から採取し、そして、目的とする細胞を、単離し、後に使用するために凍結する。特定の実施形態では、T細胞を増殖し、凍結し、そして、後に使用し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載の特定の疾患の診断の直後であるが、処置を行う前に、患者から試料を回収する。
【0181】
T細胞の活性化と増殖
望ましいCARを発現するためのT細胞の遺伝子改変の前後に関係なく、当該T細胞は、例えば、本明細書の一部を構成するものとして、それらの個々の内容を援用する、米国特許第6,352,694号;第6,534,055号;第6,905,680号;第6,692,964号;第5,858,358号;第6,887,466号;第6,905,681号;第7,144,575号;第7,067,318号;第7,172,869号;第7,232,566号;第7,175,843号;第5,883,223号;第6,905,874号;第6,797,514号;第6,867,041号;及び、米国特許出願公開第20060121005号に記載された方法を使用して、一般的には、活性化及び増殖し得る。
【0182】
一般的に、本発明のT細胞は、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する作用物質と、T細胞の表面の共刺激分子を刺激するリガンドとが付着した表面との接触により増殖する。特に、T細胞集団は、抗CD3抗体、または、その抗原結合断片、または、表面に固定化した抗CD2抗体との接触、または、カルシウムイオノフォアと組み合わせたプロテインキナーゼC活性化剤(例えば、ブリオスタチン)との接触など、本明細書に記載したようにして刺激し得る。T細胞の表面のアクセサリー分子の共刺激については、アクセサリー分子に結合するリガンドを使用する。例えば、T細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、T細胞の集団を、抗CD3抗体、及び、抗CD28抗体と接触させて、CD4+ T細胞、または、CD8+ T細胞、抗CD3抗体、及び、抗CD28抗体のいずれかの増殖を刺激することができる。B-T3、XR-CD28(Diaclone,Besancon,France)などの抗CD28抗体の例は、当該技術分野で一般的に公知のその他の方法と同様に使用することができる(Berg et al.,Transplant Proc.30(8):3975-3977,1998;Haanen et al.,J.Exp.Med.190(9):13191328,1999;Garland et al.,J.Immunol Meth.227(l-2):53-63,1999を参照されたい)。
【0183】
特定の実施形態では、T細胞に対する一次刺激シグナル、及び、共刺激シグナルは、異なるプロトコルによって提供し得る。例えば、各シグナルを提供する作用物質は、溶液に含まれているか、あるいは、表面に結合し得る。表面に結合する場合、これらの作用物質は、同じ表面に(すなわち、「シス」形成で)結合し、または、別個の表面に(すなわち、「トランス」形成で)結合し得る。あるいは、一方の作用物質を表面に結合させ、そして、他方の作用物質を溶液で結合し得る。ある実施形態では、当該共刺激シグナルを提供する作用物質は、細胞表面に結合し、そして、当該一次活性化シグナルを提供する作用物質は溶液に含まれており、あるいは、表面に結合している。特定の実施形態では、双方の作用物質は、溶液に含まれ得る。別の実施形態では、当該作用物質は、可溶性形態であり、次いで、Fc受容体、または、抗体、または、当該作用物質に結合するその他の結合作用物質を発現する細胞などの表面に架橋し得る。このことに関しては、例えば、本発明においてT細胞を活性化及び増殖する際の使用を企図している人工抗原提示細胞(aAPC)については、米国特許出願公開第20040101519号、及び、第20060034810号を参照されたい。
【0184】
ある実施形態では、2つの作用物質を、同じビーズ、すなわち「シス」、または、別個のビーズ、すなわち「トランス」のいずれかで、ビーズに固定化する。例として、当該一次活性化シグナルを提供する作用物質は、抗CD3抗体、または、その抗原結合断片であり、そして、当該共刺激シグナルを提供する作用物質は、抗CD28抗体、または、その抗原結合断片であり;及び、双方の作用物質を、等価の分子量で同じビーズに共固定化する。
【0185】
本発明のさらなる実施形態では、T細胞を、作用物質で被覆したビーズと組み合わせ、当該ビーズと当該細胞は、その後に分離し、次いで、細胞を培養する。別の実施形態では、培養の前に、当該作用物質で被覆したビーズ及び細胞は分離せずに、一緒に培養する。さらなる実施形態では、まず、当該ビーズと当該細胞を、磁力などの力を与えて濃縮を行って、細胞表面マーカーの連結を増やし、それにより、細胞刺激を誘発する。
【0186】
例えば、細胞表面タンパク質を、抗CD3、及び、抗CD28が付着する常磁性ビーズをT細胞に接触させることで、連結し得る。ある実施形態では、当該細胞(例えば、104~109 T細胞)、及び、ビーズ(例えば、1:1の比率のDYNABEADS(商標)M-450 CD3/CD28 T常磁性ビーズ)を、緩衝剤、好ましくは、PBS(カルシウム及びマグネシウムなどの二価カチオン不含)と組み合わせる。したがって、あらゆる細胞数が、本発明の範囲内にある。特定の実施形態では、粒子と細胞とを一緒に混合して体積を著しく減少させて(すなわち、細胞の濃度を高めて)、それらの細胞と粒子の最大の接触を保証することが望ましい場合もある。例えば、ある実施形態では、約20億個の細胞/mlの濃度を使用する。別の実施形態では、1億個/mlを超える細胞を使用する。さらなる実施形態では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、または5000万個の細胞/mlの細胞濃度を使用する。さらに別の実施形態では、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、または、1億個の細胞/mlからの細胞濃度を使用する。さらなる実施形態では、1億2500万、または、1億5,000万個の細胞/mlの濃度を使用することができる。
【0187】
本発明のある実施形態では、当該混合物は、数時間(約3時間)~約14日間、または、その間のあらゆる整数値の時間で培養し得る。別の実施形態では、当該混合物は、21日間培養し得る。本発明のある実施形態では、当該ビーズと当該T細胞は、約8日間、一緒に培養する。別の実施形態では、当該ビーズと当該T細胞は、2~3日間、一緒に培養する。T細胞の培養時間を60日以上とするには、数サイクルの刺激が望ましい場合があり得る。T細胞培養に適した条件として、血清(例えば、ウシ胎児またはヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFβ、及び、TNF-α、または、当業者に公知の細胞の成長のためのその他の添加物など、増殖及び生存に必要な因子を含み得る適切な培地(例えば、Minimal Essential Media、または、RPMI Media 1640、または、X-vivo 15(Lonza))がある。細胞の成長のためのその他の添加物として、界面活性剤、プラスマネート、及び、N-アセチル-システインや2-メルカプトエタノールなどの還元剤があるが、これらに限定されない。培地として、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、α-MEM、F-12、X-Vivo 15、及び、X-Vivo 20、オプティマイザーがあり、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、及び、ビタミンを添加したもの、無血清のもの、または、適量の血清(または、血漿)、または、所定のホルモンのセット、及び/または、T細胞の成長と増殖に十分な量のサイトカイン(複数可)を補充したものを含むことができる。抗生物質、例えば、ペニシリンやストレプトマイシンも含み得る。これらの標的細胞を、成長を支持するのに必要な条件、例えば、適切な温度(例えば、37℃)、及び、雰囲気(例えば、空気と5%CO2)で維持する。
【0188】
本明細書に記載したように、CARをT細胞表面で発現すると、CAR T細胞は、腫瘍抗原の非存在下で持続的にシグナル伝達する。持続性シグナル伝達は、ウエスタンブロット法でCAR CD3-ゼータドメインが、ベースラインでリン酸化を受けることを実証する(実施例2、
図16を参照されたい)。持続性シグナル伝達は、T細胞の枯渇を招いて、CAR T細胞を無効なものにする。持続性シグナル伝達は、安定化薬の非存在下で、RDD-CAR T細胞を増殖することで妨げられた。CARの発現を、抑制し、または、阻害され、そして、T細胞表面で発現しない場合(適切な小分子、この場合、shield-1が非存在であると、当該CARは、細胞表面で発現しない-「常にOFF」)、または、CARがある時点では発現したが、その後の一定期間(例えば、72時間-CAR OFF D7)に表面から外れた場合に、CD3-ゼータのリン酸化の減衰が認められた。さらに、CARが表面で発現していない場合(shield-1なし、「CARは常にOFF」)、または、shield-1で7日間培養してから除去すると、枯渇マーカーを共発現する細胞の一部のみが認められた(例2、
図17を参照されたい)。したがって、一部の実施形態では、本発明のRDD-CARを使用したCAR発現の阻害が、CAR持続性シグナル伝達を予防または逆転することで、CAR T細胞の転写レベルでの調節に大きな効果をもたらす、ことを本発明は示している。
【0189】
したがって、一部の実施形態では、CARは、抗原の非存在下で(例えば、培養の間に)持続的にシグナル伝達をするので、当該表面でのCAR発現を阻害するように薬物を安定化せずにRDD-CAR T細胞を増殖させると、CARを継続的に発現しているT細胞と比較して(例えば、インビトロ、または、エクスビボで増殖した場合)、患者を処置するために治療的に使用した場合に、CAR T細胞エフェクター機能を増強する。
【0190】
一部の実施形態では、インビトロでの増殖の間でのCAR発現の抑制は、インビトロでの増殖の間にCAR発現の抑制を受けていないCAR T細胞と比較して、より健全で、機能的な(例えば、正常なエフェクター機能を有する)CAR T細胞を、生成、及び/または、導く。したがって、一部の実施形態では、薬物を添加して発現を強め、あるいは、薬物を除去して発現を弱めることで、培養及び増殖の間にRDD(例えば、トリメトプリムによって調節されるDHFR DD)を含む本発明のCARを含有するT細胞においてCAR発現を調節する(例えば、抑制させる)。一部の実施形態では、培養及び/または増殖の間にCAR発現を抑制すると、持続性シグナル伝達が阻害されなかったT細胞と比較して、対象の病態または疾患の処置に関連して、優れたエフェクター機能を有するT細胞を誘導または生成する持続性シグナル伝達をインビトロで阻害する。
【0191】
様々な刺激時間に曝したT細胞は、異なる特性を示し得る。例えば、一般的な血液またはアフェレーシスな末梢血単核細胞産物は、細胞傷害性またはサプレッサーT細胞集団(Tc、CD8+)よりも大きなヘルパーT細胞集団(TH、CD4+)を有する。CD3及びCD28受容体を刺激してT細胞のエクスビボ増殖を行うと、約8~9日前では、主にTH細胞からなるT細胞の集団を生成し、一方で、約8~9日後でのT細胞の集団は、ますます多くのTC細胞の集団を含む。したがって、処置の目的に応じて、主にTH細胞を含むT細胞集団を対象に注入することが有利となり得る。同様に、Tc細胞の抗原特異的サブセットを単離しているのであれば、このサブセットをさらに増殖することが有益となり得る。
【0192】
さらに、CD4及びCD8マーカーに加えて、その他の表現型マーカーはかなり異なるものではあるが、大部分は、細胞増殖プロセスの過程で再現可能である。したがって、そのような再現性は、特定の目的のための活性化T細胞産物を調製することを可能ならしめる。
【0193】
治療への応用
本発明は、一部の実施形態では、特定の抗体の抗原認識ドメインを、CD3-ゼータ、CD28、4-1BB、または、これらのあらゆる組み合わせの細胞内ドメイン、及び、RDDと組み合わせるCARを発現するように改変した細胞(例えば、T細胞)を提供する。したがって、その標的抗原の存在下で、改変T細胞は、CAR媒介T細胞応答を誘発する。
【0194】
本発明は、CARの使用を提供して、初代T細胞の特異性を腫瘍抗原に対して改めて付与する。したがって、本発明は、対象の標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介免疫応答を刺激する方法も提供し、CARを発現するT細胞を対象に投与するステップを含み、当該CARは、例えば、ヒトCD3-ゼータの細胞内ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、及び、RDDを含むゼータ鎖部分である所定の標的と特異的に相互作用する結合部分を含む。
【0195】
一部の実施形態では、本発明は、RDDを含むCARを発現するようにT細胞を遺伝子操作しており、かつ、当該CAR T細胞を、それを必要とするレシピエントに注入する細胞療法を提供する。当該注入した細胞は、当該レシピエントでのCAR T細胞の標的抗原を発現している腫瘍細胞を死滅させることができる。その他の生物学的療法とは異なり、CAR T細胞は、インビボで複製することができ、その結果、持続的な腫瘍制御を可能にする長期的な持続をもたらす。一部の実施形態では、RDDを含むCARを含むCAR T細胞は、(例えば、RDDを欠いたCARを含むCAR T細胞と比較して)長期の抗腫瘍応答を示す。一部の実施形態では、CARにRDDを含めると、CAR T細胞の活性/機能性を阻害する(例えば、CAR毒性を軽減する)タイプの安全スイッチとして機能する。例えば、一部の実施形態では、CAR T細胞から安定化小分子または薬物(例えば、トリメトプリム)を除去すると、CAR T細胞の表面でのCARの発現を急速に抑制または阻害し、それにより、CAR T細胞の標的指向性及びエフェクター機能を効果的にシャットダウンまたは予防する。特に、実施例2に示したように、IC50(表面CARの50%を分解するのに要する時間)は、安定化薬物/分子の非存在下では、2時間未満である、と認められた(実施例2、
図13を参照されたい)。したがって、一部の実施形態では、DD-CARを摂取する患者から安定化薬を除去することは、迅速で可逆的な安全スイッチとして役立つ。したがって、本発明は、一部の実施形態では、サイトカイン放出症候群(CRS)、または、標的抗原を発現している正常細胞まで攻撃する毒性など、これらに限定されない、CAR T細胞療法で起こり得る毒性事象を緩和または排除する能力を提供する。さらに、一部の実施形態では、標的抗原を発現している正常細胞まで攻撃する毒性に関連して、本発明は、CAR T細胞療法が、所望の標的(例えば、腫瘍抗原)を認識するが、健康な組織は認識しない安定化薬の用量の滴定を可能にする。
【0196】
ある実施形態では、本発明のCAR T細胞は、インビボで強力なT細胞増殖を受け、そして、長期間にわたって持続する。別の実施形態では、本発明のCAR T細胞は、再活性化することができる特定の記憶T細胞へと進化して、あらゆるさらなる腫瘍の形成または成長を阻害する。例えば、本発明のGD2特異的CAR T細胞は、インビボで強力なT細胞増殖を受け、そして、血液及び骨髄において長時間にわたって高レベルで持続し、次いで、特異的記憶T細胞を形成することができる。
【0197】
当該CAR改変T細胞によって誘発される抗腫瘍免疫応答は、能動免疫応答または受動免疫応答であり得る。加えて、当該CAR媒介免疫応答を、CAR改変T細胞が、CARの抗原結合部分に特異的な免疫応答を誘導する養子免疫療法アプローチの一部とし得る。例えば、GD2特異的CAR T細胞は、GD2を発現する細胞に対して特異的な免疫応答を誘発する。
【0198】
本明細書に開示したデータは、抗GD2 scFv(例えば、14G2a scFv)、CD28ヒンジ及び膜貫通ドメイン、CD28及びCD3-ゼータシグナル伝達ドメイン、及び、FKBPまたはDHFRのRDDを含むレンチウイルスベクターを具体的に説明しているが、本発明は、本明細書のその他の箇所に記載した構築物の各成分のあらゆる個数の変形を含むものと解釈すべきである。すなわち、本発明は、CARのあらゆる抗原結合部分を使用して、抗原結合部分に特異的なCAR媒介性のT細胞応答を生成することを含む。例えば、本発明のCARの抗原結合部分は、がんを処置する目的で、腫瘍抗原を標的とすることができる。同様に、本発明は、CARのあらゆるヒンジ、膜貫通ドメイン、刺激ドメイン、及び/または、調節可能な不安定化ドメインを使用して、CAR媒介性のT細胞応答を生成する。実際のところ、本明細書に記載した方法は、所望のエフェクター機能を有し、かつ、CARへのRDDの組み込みを介した調節が可能である、CAR T細胞の特徴決定を行い、かつ、同定する能力を提供する。
【0199】
ある実施形態では、本発明のCARの抗原結合部の部分を、特定のがんを処置するようにデザインする。GD2は、神経芽腫、骨肉腫、及び、一部の肉腫などの様々ながんで発現する(例えば、Thomas et al.,PLoS One,2016.11(3):p.e0152196;Long et al.,Nature Medicine,2015.21(6):p.581-590;Long et al.,Cancer Immunology Research,2016.4(10):p.869-880;Yu et al.,N Engl J Med,2010.363(14):p. 1324-34;Perez Horta et al.,Immunotherapy,2016. 8(9):p.1097-117;Heczey et al,Molecular Therapyを参照されたい)。したがって、GD2を標的とするようにデザインしたCARは、GD2を表示または過剰発現する細胞、及び/または、組織を特徴とする、神経芽細胞腫、骨肉腫、及び、その他の肉腫などのあらゆる疾患または障害の処置に使用することができる。しかし、本発明は、GD2を標的とする、ことに限定されない。実際のところ、本発明は、その同族抗原に結合すると、腫瘍細胞に影響を及ぼして腫瘍細胞の成長を妨げて、死滅に向かわせるか、さもなければ、患者の全身腫瘍組織量を減少または消滅するように影響を及ぼす、あらゆる抗原結合部分を含む。例えば、FRαは、様々な上皮性悪性腫瘍のがん細胞表面で過剰発現するグリコシルホスファチジルイノシトール固定タンパク質であるが、正常組織では限られている。そのため、FRαを標的とするようにデザインしたCARは、FRαの過剰発現を示す細胞、及び/または、組織を特徴とする上皮癌など、これらに限定されない、あらゆる疾患または障害を処置するために使用することができる。例えば、FRαを標的とするようにデザインしたCARは、卵巣癌、肺癌、乳癌、腎癌、大腸癌、その他の固形癌など、これらに限定されない、がん及び障害を処置するために使用することができる。
【0200】
また、本発明のCAR改変T細胞は、哺乳動物におけるエクスビボ免疫処置、及び/または、インビボ療法のための一種のワクチンとして有用であり得る。好ましくは、当該哺乳動物は、ヒトである。エクスビボ免疫処置に関して、当該細胞を哺乳動物に投与する前に、次の:i)細胞の増殖、ii)CARをコードする核酸の細胞への導入、及び/または、iii)細胞の凍結保存、の少なくとも1つをインビトロで生じる。
【0201】
エクスビボ手順は、当該技術分野で周知である。要するに、それらの細胞を、哺乳動物(好ましくは、ヒト)から単離し、そして、本明細書に開示したCARを発現するベクターで遺伝子操作(すなわち、インビトロで形質導入、または、トランスフェクト)する。CARで改変した細胞を、哺乳動物のレシピエントに投与して、治療的有用性を提供することができる。当該哺乳動物のレシピエントを、ヒトとし、そして、当該CAR改変細胞を、レシピエントに対して自己由来とすることができる。あるいは、これらの細胞を、当該レシピエントに対して同種、同系、または、異種とし得る。
【0202】
造血幹細胞及び前駆細胞をエクスビボで増殖するための手順は、本明細書の一部を構成するものとして援用する米国特許第5,199,942号に記載されており、また、本発明の細胞に適用することができる。本発明は、これらの細胞のエクスビボ増殖のためのあらゆる特定の方法に限定されない。要するに、T細胞のエクスビボでの培養と増殖は、(1)末梢血回収物または骨髄外植片から哺乳動物由来のCD34+造血幹細胞及び前駆細胞を採取し、及び、(2)そのような細胞をエクスビボで増殖する、ことを含む。米国特許第5,199,942号に記載された細胞増殖因子に加えて、flt3-L、IL-1、IL-3、及び、c-kitリガンドなどのその他の因子を、これらの細胞の培養及び増殖のために使用することができる。
【0203】
エクスビボ免疫処置に関して細胞をベースとしたワクチンを使用することに加えて、本発明は、患者の抗原に対する免疫応答を誘発するためのインビボ免疫処置のための組成物及び方法も提供する。
【0204】
特に、本発明のCAR改変T細胞を、がんの処置に使用する。特定の実施形態では、本発明の細胞を、がんを発症するリスクのある患者の処置に使用する。したがって、本発明は、それを必要とする対象に対して、治療有効量の、本発明のCAR改変T細胞を投与することを含む、がんの処置または予防のための方法を提供する。
【0205】
本発明のCAR改変T細胞は、それ単独で、または、希釈剤、及び/または、その他の成分である、IL-2、または、その他のサイトカイン、または、細胞集団など、と組み合わせた医薬組成物として投与し得る。要するに、本発明の医薬組成物は、本明細書に記載したCAR T細胞を、医薬として許容される、または、生理学的に許容される担体、希釈剤、または、賦形剤の1つ以上と組み合わせて含み得る。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝剤;グルコース、マンノース、スクロース、または、デキストラン、マンニトールなどの炭水化物;タンパク質;ポリペプチド、または、グリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤;EDTA、または、グルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);及び、防腐剤を含み得る。本発明の組成物は、好ましくは、静脈内投与のために製剤化する。
【0206】
本発明の医薬組成物は、処置(または、予防)をする疾患に対して適切な方法で投与し得る。投与の量と頻度は、患者の病態、患者の疾患の種類と重篤度などの要素によって決定するが、適切な用量は、臨床試験で決定され得る。
【0207】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍有効量」、「腫瘍阻害有効量」、または、「処置量」を示す場合、患者(対象)の年齢、体重、腫瘍の大きさ、感染または転移の程度、及び、病態の個人差を考慮した医師は、投与する本発明の組成物の正確な量を決定することができる。本明細書に記載したCAR T細胞を含む医薬組成物は、104~109個の細胞/体重kg、好ましくは、105~106個の細胞/体重gであって、それらの範囲内にある全数値の用量で投与することができる。また、T細胞組成物も、これらの投与量で、複数回投与し得る。当該細胞を、免疫療法で一般的に公知の注入技術を使用して投与することができる(例えば、Rosenberg et al.,New Eng. J. of Med. 319: 1676, 1988を参照されたい)。特定の患者に対する最適な投与量、及び、処置計画は、当業者であれば、疾患の徴候について患者をモニターし、そして、それに応じて処置を講ずることで、容易に決定することができる。
【0208】
特定の実施形態では、遺伝的に改変したT細胞を対象に投与し、続いて、改めて血液を採取し(または、アフェレーシスを実施し)、本発明に従って、そこからT細胞を活性化させ、及び、これらの活性化及び増殖したT細胞を患者に再注入することが望ましい場合がある。このプロセスは、数週間ごとに、複数回実施することができる。
【0209】
本明細書に記載した組成物の投与は、あらゆる好都合な方法で実施し得る。一部の実施形態では、本発明のT細胞組成物は、好ましくは、i.v.注射で投与する。しかしながら、当該投与は、この経路に限定されない。当該T細胞の組成物は、腫瘍、リンパ節、または、感染部位に直接に注射し得る。本明細書に記載した組成物は、患者に対して、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射によって、または、腹腔内で投与し得る。また、組成物は、例えば、注射、輸血、埋め込み、または、移植によって投与し得る。
【0210】
本発明の特定の実施形態では、本明細書に記載した方法、または、T細胞を治療レベルにまで増殖する当該技術分野で公知のその他の方法を使用して、活性化及び増殖した細胞を、あらゆる数の(例えば、がんまたは感染症疾患のための)処置法を併用して、(例えば、その前、それと同時、または、その後に)患者に対して投与する。例示的な処置法として、抗ウイルス療法、シドフォビル及びインターロイキン-2、シタラビン(別名、ARA-C)、または、MS患者のナタリズマブ処置、または、乾癬患者のエファリズマブ処置などの作用物質を用いた処置があるが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、本発明のT細胞は、化学療法、放射線、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、及び、FK506などの免疫抑制剤、抗体、または、CAM PATH、抗CD3抗体などの他の免疫除去剤、または、その他の抗体療法、サイトキシン、フルダリビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、及び、放射線治療と組み合わせて使用し得る。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリン(シクロスポリン、及び、FK506)、または、成長因子誘導シグナル伝達に重要なp70S6キナーゼ(ラパマイシン)のいずれかを阻害する(Liu et al.,Cell 66:807-815、1991;Henderson et al.,Immun.73:316-321、1991;Bierer et al.,Curr.Opin.Immun.5:763-773, 1993)。さらなる実施形態では、本発明の細胞組成物を、フルダラビンなどの化学療法剤、外部ビーム放射線療法(XRT)、シクロホスファミド、または、OKT3やCAMPATHなどの抗体のいずれかを使用して、骨髄移植、T細胞除去療法と併用して、(例えば、その前、それと同時、または、その後に)患者に対して投与する。別の実施形態では、本発明の細胞組成物を、CD20と反応する作用物質、例えば、リツキサンなどのB細胞除去療法の後に投与する。例えば、ある実施形態では、対象は、高用量化学療法と、それに続く末梢血幹細胞移植による標準処置を受け得る。特定の実施形態では、移植の後に、対象は、本発明の増殖した免疫細胞の注入を受ける。さらなる実施形態では、増殖した細胞を、手術の前または後に投与する。
【0211】
本明細書に記載した方法のいずれかの有効性は、臨床モデルまたは前臨床モデルなどの当該技術分野で公知の様々なモデルで試験し得る。適切な前臨床モデルを、本明細書に例示している。例示的なモデルでは、腫瘍を成長させた後に、処置またはコントロールの処置を受けている処置グループに、マウスをランダムに補充する。腫瘍の大きさ(例えば、腫瘍の体積)を、処置の間に測定し、そして、全体的な生存率もモニターする。
【0212】
一部の実施形態では、処置に対する応答を測定するためのベースラインとして、T細胞で処置する前に(例えば、単独で、または、本明細書に記載の別の療法と組み合わせて)試料を得る。一部の実施形態では、当該試料は、(例えば、ホルマリン固定した、及び、パラフィン包埋(FFPE)した、保存の(archival)、新鮮な、または、凍結した)組織試料である。一部の実施形態では、当該試料は、全血である。一部の実施形態では、当該全血は、免疫細胞、循環腫瘍細胞、及び、それらのあらゆる組み合わせを含む。
【0213】
処置に対する応答性とは、生存期間の延長(全生存、及び、無進行生存など);客観的応答の結果(完全な応答、または、部分的な応答など)、または、がんの徴候または症状の改善、の1つ以上のことを指し得る。一部の実施形態では、応答性とは、がん患者での腫瘍の状態、すなわち、応答している、安定化している、または、進行している、ことを判定するための、公表された一連のRECISTガイドラインでの1つ以上の因子の改善のことを指し得る。これらのガイドラインの詳細については、Eisenhauer et al.,Eur J Cancer 2009;45:228-47;Topalian et al.,N Engl J Med 2012;366:2443-54;Wolchok et al.,Clin Can Res 2009;15:7412-20;及び、Therasse,P.,et al.J.Natl.Cancer Inst.92:205-16(2000)を参照されたい。応答性対象とは、例えば、RECIST基準に基づいた1つ以上の因子に従って、がん(複数可)の改善を示す対象のことを指し得る。非応答性対象とは、例えば、RECIST基準に基づいた1つ以上の因子に従って、がん(複数可)の改善を示さない対象のことを指し得る。
【0214】
従来の応答基準は、免疫療法薬の抗腫瘍活性を特徴決定するのに十分ではない場合があり、新しい病変の出現など、当初の明らかな放射線学的進行を先行させてしまう遅延反応を招きかねない。これを受けて、新しい病変の出現の可能性を考慮し、そして、その後の評価で放射線学的進行を確認できるようにする、修正した応答基準が作成された。したがって、一部の実施形態では、応答性とは、免疫関連応答基準2(irRC)での1つ以上の因子の改善のことを指し得る。例えば、Wolchok et al.,Clin Can Res 2009;15:7412-20を参照されたい。一部の実施形態では、新たな病変を、定義をした全身腫瘍組織量に加え、そして、その後の評価の際に、例えば、放射線学的進行などを追跡する。一部の実施形態では、非標的病変の存在は、完全な応答の評価に含まれているが、放射線学的進行の評価には含まれない。一部の実施形態では、放射線学的進行は、測定可能な疾患のみに基づいて決定し得るものであり、及び/または、最初に記録した日から4週間を超える連続評価で確認し得る。
【0215】
本発明は、本発明の要旨、または、本質的な特徴事項から逸脱することなく、その他の特定の形態で具現化し得る。それ故に、前出の実施形態は、本明細書に記載した本発明を限定するものではなく、あらゆる点で例示のものとして見なすべきである。したがって、本発明の範囲は、前出の説明ではなく、添付した特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の均等の意味、及び、範囲内にあるすべての変更は、同範囲に含まれることを意図する。本明細書で引用したすべての刊行物、特許、及び、特許出願は、あらゆる目的において、本明細書の一部を構成するものとして、それらの全内容を援用する。
【実施例】
【0216】
以下の実施例は、本発明の化合物、組成物、及び、方法を例示するものであって、これらを限定するものではない。臨床療法で通常から普通に認識されており、かつ、当業者に自明である様々な条件及びパラメーターについてのその他の適切な変更及び適応は、本発明の要旨及び範囲内にある。
【0217】
実施例1
TCRシグナル伝達を阻害または調節することで、T細胞の枯渇を予防または逆転する方法
導入
我々は、GD2-CARを発現するT細胞が、培養で10日以内に機能的枯渇になり、そして、抑制性受容体の共発現、腫瘍抗原に応答したサイトカイン分泌不全、及び、異常な代謝機能を特徴とする、ことを以前に報告した(Long et al.,Nat Med 2015)。コントロールの培養物は、非形質導入T細胞(モック)、及び、CD19-CARを発現するものを含むが、これらは、インビトロで持続性シグナル伝達を発現することはなく、枯渇する。このシステムで枯渇を招くためにはゼータ鎖が必要であり、また、CD28シグナル伝達が枯渇を誘発するシグナル伝達刺激の効力を高めることを、以前の研究で示した。このモデルシステムを使用して、T細胞の枯渇について、堅牢で、操作可能で、かつ、再現可能なインビトロでのヒトモデルを最適化して、T細胞の枯渇を予防または逆転する方法を評価する。
【0218】
結果
我々が遺伝子操作をして作り出したFKBP12変異体不安定化ドメインに融合したGD2.28z.CAR(Banaszynski et al.,Cell 2006)(GD2.28z. FKBP)は、当該CARに不安定性を付与し、そして、急速なタンパク質分解を誘発する。我々は、培養培地に対して、安定化ラパログshield-1(S1)を添加する、または、そこから取り去ることで、表面発現を迅速かつ用量依存的に調節できることを認めた(
図1)。CAR発現の同様の調節可能性は、E.coli DHFR変異体(GD2.28z.DHFR、図示せず)を用いて行うことができ、このものは、臨床で一般的に使用されている抗生物質であるトリメトプリムで制御することができる。
【0219】
持続性シグナル伝達は、GD2-CAR受容体レベルに大きく依存しているので、CAR発現レベルの正確な制御も、持続性シグナル伝達のレベルを正確に制御する。したがって、CAR発現のレベルを薬物調節する制御は、GD2.28z持続性シグナル伝達の持続時間と強度の調節も可能にした。このシステムを使用して、我々は、枯渇に関連する表現型、及び、機能の変化が、CARシグナル伝達の停止時に逆転することを実証した。
図2に示したように、培養培地からのS1薬物の除去と、それに続く、活性化して7日後の表面CARの除去により、標準的な枯渇マーカーの発現を、10日目までに、コントロールのレベルにまで逆転する(
図2、n=3)。このことは、機能不全的に枯渇したT細胞に対して非常に特異的なPD-1/TIM-3/LAG-3トリプル発現細胞のレベルを測定することで顕著に表れる。我々は、10日目で、枯渇細胞のトリプル発現レベルの増加を明瞭に誘発するが、7日目にS1を除去すると、10日目までに、これらのレベルが正常化することを実証した。7日目または10日目にS1を培養培地から除去した細胞については、同様の結果を、14日目で得た(図示せず)。
【0220】
加えて、7日目または10日目にS1を除去すると、CARタンパク質が一時的に分解を受けて、記憶マーカー(例、CD62L)を維持し、そして、当該培養(S1)の全期間においてS1を受け入れたT細胞と比較して、14日目までに、アポトーシスの予防(すなわち、アネキシンV染色)(
図3)を可能にする。
【0221】
表現型マーカーは、T細胞機能を完全に予測し得ないので、我々は、培養物にて一時的な薬物曝露に供したCAR T細胞の機能実験も実施した。CAR T細胞を洗浄し、S1を含む培地に再懸濁し、表面GD2を安定して発現するNalm6白血病細胞と1:1の比率で混合した。培養上清を、約24時間後に回収し、そして、サイトカインレベルをELISAで評価した。
【0222】
不安定化ドメインを欠いており、それ故に、高レベルのCARシグナル伝達が持続するGD2.28z CARと同様に、連続的な薬物処置を施したGD2.28z.FKBP CARを発現する細胞(
図4、灰色バー)は、T細胞の枯渇と符合するように、活性化して10日後と14日後の双方で、最小量のIL-2を分泌した。また、培養期間に薬物に曝露しなかったが故に、持続性シグナル伝達を受けなかったCAR T細胞(黒色バー)は、IL-2産生によって測定される顕著な生物活性を示した。最後に、培養の最初の7日間または10日間に薬物に曝露したが故に、T細胞枯渇の表現型及び機能の証拠を得たが、7日目または10日目に培養培地から薬物を除去したCAR T細胞(それぞれ、青色バーと赤色バー)では、腫瘍抗原に応答してIL-2を分泌する能力が回復したことを示した。
【0223】
驚くべきことに、10日目に枯渇したT細胞(灰色バー、10日目のELISA)は、培養培地からS1を除去することで再活性化し、わずか4日間「休止」していた(赤色バー、14日目のELISA)。同様に、培養培地からS1を除去した条件下でのIFNγ分泌でも、劇的にまで至らない増加が認められた。これらの機能データは、すべてのグループが、この共培養アッセイの終了時に同様のレベルの表面CARを示したため、示差的CAR表面発現に起因するものではない(図示せず)。
【0224】
次に、我々は、表面CARの除去によるT細胞枯渇の予防または逆転が、十分に特徴決定された抗PD-1チェックポイント阻害薬であるニボルマブ(Nivo)を用いた処置よりも、どの程度の効果を奏するのかについて比較をした。CAR T細胞は、当該共培養アッセイの時まで、連続S1(つまり、継続的に持続性シグナル伝達を示す)、連続S1+ニボルマブ、または、S1なしで処置をした。興味深いことに、ニボルマブ処置では、10日目には僅かなIL-2分泌の増加を示し、これが14日目まで持続しており、このことは、ニボルマブが、このシステムではT細胞の枯渇の開始を部分的ではあるが予防したことを示唆している(
図5)。
【0225】
逆に、S1なしでCAR T細胞を培養し、次いで、当該共培養アッセイの直前に当該培地に戻すと(左側の図、青色バー)、連続S1を与えたCAR T細胞と比較して、IL-2分泌が、5~10倍にまで増加しており、枯渇の予防に非常に優れている結果を生じた(黒色バー)。さらに、当該培養培地からS1を除去して、7日目に持続性シグナル伝達を除去すると、連続S1を与えたCAR T細胞、及び、連続S1を与え、かつ、同時にS1で処置をしたCAR T細胞と比較して、優れたIL-2分泌を生じた。まとめると、これらのデータは、持続性シグナル伝達の調節は、PD-1阻害と比較して、枯渇の予防または逆転に関して、より強力な効果を示すことを実証している。
【0226】
我々の研究室を含む幾つかのグループが行った機能研究は、PD-1、TIM-3、及び、LAG-3(トリプルポジティブ、TP)の共発現が、高度の機能不全にある枯渇細胞サブセットを示す、ことを確認した。したがって、我々は、この細胞サブセットにおける持続性シグナル伝達の停止が、表現型を逆転させ、そして、腫瘍抗原に応答してIL-2を分泌する能力を回復できるかどうかについて分析を試みた。GD2.28z CARの高親和性バージョン(HA-GD2.28z)は、さらに劇的に枯渇した表現型を示し、その表面発現を制御するために、FKBP12変異体不安定化ドメインに融合した。活性化して10日後に、連続的S1処置を受けたHA-GD2.28z.FKBP CAR T細胞を選別して、純粋なPD-1/TIM-3/LAG-3枯渇集団を単離した。次に、「トリプルポジティブ」枯渇細胞を、S1の有無に関係なく再培養をして、持続性シグナル伝達の除去が、その機能を回復できるかどうかについて、試験をした。FACS及び共培養アッセイは、4日後に実施した。
【0227】
S1の除去は、枯渇した表現型の劇的な逆転をもたらした。S1を含まない当該培地で、僅か4日後に、予め選別したトリプルポジティブ細胞は、CD4+、及び、CD8+ CAR T細胞の双方で、枯渇マーカーの発現が遙かに少ないことを示した(
図6)。重要なことに、S1を除去すると、10~14日目から継続的にS1処置を受けたトリプルポジティブ細胞と比較して、IL-2分泌が2倍にも増加したので、これらの表現型の変化は、IL-2分泌の機能的増加をも実現した(
図6)。
【0228】
CARシグナル伝達にも不可欠であるTCRシグナル伝達経路におけるキナーゼを単に阻害することで、表面CARを除去し、ひいては、持続的にシグナル伝達するという効果を再現できる、という仮説を我々は立てた。そのようなキナーゼの1つがLckであり、TCRまたはCARライゲーションに応答して、CD3-ゼータをリン酸化するように作用する。強力な受容体型チロシンキナーゼ阻害剤であり、BCR/ABL拮抗薬であるダサチニブも、低濃度でLckに結合して阻害することで、T細胞の活性化、増殖、及び、サイトカイン分泌を阻害することが報告されている(Schade et.al,Blood,2008 及び Lee et.al,Leukemia,2010)。
【0229】
100nM、及び、1μΜ濃度で、ダサチニブは、活性化して14日後に腫瘍抗原に応答して、CD19.28z CAR T細胞サイトカイン分泌を強力に阻害しており(
図7)、このことは、ダサチニブが、CARシグナル伝達を撹乱することを証明している。
【0230】
次に、我々は、活性化して10~14日後に、HA-GD2.28z CAR T細胞をダサチニブで処置することで、一過性のダサチニブ曝露が、T細胞の枯渇を回復できるかどうかを確認した。これらの細胞を、ダサチニブで4日間処置し、次いで、薬物を当該培地から徹底的に洗浄し、そして、これらの細胞を、さらに24時間再培養してから、FACS及び腫瘍共培養アッセイで、表現型と機能を調べた。興味深いことに、ダサチニブで4日間の処置をしたところ、枯渇マーカーの発現と共発現を、用量依存的に逆転した(
図8).
【0231】
さらに、ダサチニブ処置は、CD62L発現の維持を介して、用量依存的にT細胞記憶を保存した(
図9)。
【0232】
最後に、表面CARの除去と同様に、ダサチニブ処置したCAR T細胞が、ダサチニブを受けたことが全くないCAR T細胞と比較して、腫瘍抗原に応答して多くのIL-2(及び、比較的規模は小さいが、IFNγ)を分泌したため、機能的に顕著な方法で、枯渇T細胞を再活性化した(
図10)。
【0233】
まとめると、これらのデータは、TCRシグナル伝達の選択的阻害または調節が、がんまたは慢性感染症に関して、連続的な抗原曝露を受けて枯渇したT細胞の機能を大幅に増強できる、ことを実証している。今後の研究で、我々は、この状況での枯渇の逆転の実現可能性と、そのような逆転が、マウスモデルの抗腫瘍効果を高めることができるかについて評価をするインビボ研究を実施する。
【0234】
実施例2
CARへの不安定化ドメインの導入を介した、CAR T細胞の枯渇の予防と、CAR T細胞エフェクター機能の強化
CAR T細胞の表面発現を調節して、CAR T細胞の活性を制御できるかどうかを試験するための実験を行い、細胞を完全に除去せずに毒性を被った患者で、(自殺スイッチとは全く対照的に)CAR T細胞をオフにする方法を提供した。表面CARの非存在下でのCAR T細胞のインビトロでの増殖が、CAR持続性シグナル伝達の緩和を可能にし、より健康的で、より効果的な注入産物を得られるかどうかを決定するための実験を、本発明の実施形態を開発している間にも行った。最後に、調節可能な薬物感受性不安定化ドメインを使用するCAR表面発現の調節が、T細胞枯渇の予防または逆転、及び/または、T細胞記憶の維持/誘導を可能にするかどうかを試験するために、実験を行った。
【0235】
材料と方法
細胞と培養条件
NALM6-GL(GFP及びルシフェラーゼで安定にトランスフェクトした急性リンパ芽球性白血病株)、及び、NALM6-GL-GD2(GD2シンテターゼを過剰発現するように安定にトランスフェクトした)細胞株を、RPMI-1640で培養した。293T及び143B細胞株を、DMEM(Life Technologies)で培養した。DMEM及びRPMI-1640には、10%熱不活性化FBS(Gibco,Life Technologies)、10mM HEPES、100U/mLペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び、2mM L-グルタミン(Gibco,Life Technologies)を加えた。
【0236】
初代ヒトT細胞は、Pan T細胞ネガティブ選択キット(Miltenyi Biotec)を使用して、健康なドナーバフィーコートから得た。次に、ドナーT細胞を、等分し、そして、Cryostor(StemCell Technologies)を含む液体窒素に保存した。T細胞を、5%熱不活性化FBS、10mM HEPES、1%グルタマックス(Gibco,Life Technologies)、及び、100u/uL組換えヒトIL-2(Peprotech)を補充したAimV(Gibco,Life Technologies)で培養した。特に断りのない限り、Shield-1、及び、乳酸トリメトプリム(Sigma Aldrich、または、Alfa Aesar)を、1μΜで培養した。
【0237】
レンチウイルス産生とT細胞形質導入
すべてのDD-CARレンチウイルス上清を、293T細胞株の一過性トランスフェクションを介して産生した。要するに、CARをコードするプラスミドと、パッケージングタンパク質Gag-Pol、REV、及び、エンベロープタンパク質VSVGをコードするプラスミドとを用いて、リポフェクタミン2000(Life Technologies)を介して、293T細胞をトランスフェクションした。トランスフェクションをして24時間後、及び、48時間後に上清を回収し、そして、直ちに凍結するか、あるいは、超遠心分離にて30,000RPMで遠心して最初の濃縮を行い、その後、-80℃で凍結保存する。
【0238】
解凍後、1×106個の細胞/mLの濃度の抗CD3/抗CD28コーティング磁気ビーズ(Dynabeads,Thermo Fisher)を使用して、T細胞を、3:1のビーズ:細胞比で活性化した。活性化して1日後に、レンチウイルスを、T細胞に直接加えた。活性化して4日後に、磁気ビーズを培養物から除去し、その後、毎日、T細胞を、0.5×106個の細胞/mLで培養した。IL-2と安定化薬とを補充した培地を、2日ごとに交換した。導入効率は、すべてのCARで、常に70~90%であった。
【0239】
フローサイトメトリー
すべての試料を、LSR Fortessa(BD Bioscience)、または、Cytoflex(Beckman Coulter)で分析し、そして、FlowJoを使用してデータを分析した。1×106個/mLの細胞を、PBSで2回洗浄し、そして、染色剤を含むPBSで標識した後に、FACSバッファー(2%FBS及び0.4% 0.5M EDTAを補充したPBS)で、2回洗浄した。GD2 CARを、14g2a抗イディオタイプ抗体(クローン1A7)で検出した。CD19 CARを、FMC63抗イディオタイプ抗体(クローン136.20.1)で検出した。T細胞の表現型を、CD4(OKT4,Biolegend)、CD8(SK1,Biolegend)、PD-1(eBioJ105,eBioscience)、TIM-3(F38-2E2,Biolegend)、LAG-3(3DS223H,eBioscience)、CD45RO(UCHL1,eBioscience)、CCR7(150503,BD Biosciences)、CD69(FN50,Biolegend)、IL-2(MQ1-17H12,Biolegend)、及び、IFNγ(4S.B3、Biolegend)を介して評価した。サイトカイン産生の評価を行った共培養アッセイでは、1:1000モネンシン(eBioscience)の存在下で、少なくとも6時間、腫瘍細胞とCAR T細胞とを共培養した。IL-2とIFNyとを評価する場合、細胞を表面染色し、次いで、細胞内抗体とのインキュベーションの前に、固定及び透過化した(eBioscience)。CAR T細胞の表現型データを表示するすべてのFACSプロットは、CAR+細胞に関してプレゲートした。モック-形質導入したT細胞については、すべてのT細胞集団を分析に使用した。
【0240】
CyTOF
T細胞を培養物から取り出し、室温で、10分間、2%PFAに固定し、ペレット化し、そして、-80℃で凍結した。解凍した後、各試料に対して、20-プレックスPdバーコードキット(Fluidigm)でバーコードを付けた。次いで、細胞試料をプールし、そして、表面マーカー発現のために、室温で、30分間、重金属結合抗体で染色した。次に、細胞にメタノールを浸透させ、続いて、重金属結合抗ヒトT-bet(4B10,Biolegend)、及び、抗ヒトBlimp-1(ROS195G,Biolegend)で、室温で、30分間、染色した。試料を、Helios質量サイトメーター(Fluidigm)に適用し、そして、Cytobankオンラインソフトウェアを使用して分析を完了した。
【0241】
Incucyteアッセイ
50,000個のNALM6-GL-GD2腫瘍細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに、IL-2を補充していない200μLの完全AimV培地に、1:2または1:8のE:T比でT細胞と共培養した。プレートをincucyteにロードし、そして、48時間から72時間の間、2時間ごとに、488nmの蛍光画像を撮った。GFP+腫瘍細胞を、大きさと蛍光強度マスクで同定し、そして、計数したすべての腫瘍細胞の合計GFP強度を、個々のウェルごとに定量した。数値を、t=0に正規化し、データ表示のために複製ウェルを平均した。
【0242】
HA-GD2.28z.FKBP T細胞を、shield-1の非存在下で増殖する実験については、腫瘍細胞と共培養する18~24時間前に、1μMのshield-1を、CAR T細胞に加えた。
【0243】
サイトカイン放出アッセイ
50,000個のNALM6-GL-GD2腫瘍細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに、IL-2を補充していない200μLの完全AimV培地に、1:1のE:T比でT細胞と共培養した。24時間後に、上清を除去し、-20℃で保存した。IL-2及びIFNγの分泌を、ELISA(Biolegend)で評価した。
【0244】
HA-GD2.28z.FKBP T細胞を、shield-1の非存在下で増殖する実験については、腫瘍細胞と共培養する18~24時間前に、1μMのshield-1を、CAR T細胞に加えた。
【0245】
ウエスタンブロット
2×106個のCAR-T細胞を、培養物から取り出し、ペレット化し、そして、ホスファターゼ、及び、プロテアーゼ阻害剤(Thermo Fisher)を加えた100uLのRIPA溶解緩衝剤(10mM Tris-Cl pH8.0、1mM EDTA、1%Triton X-100、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、140mM NaCl)に再懸濁した。4℃で30分間インキュベートした後、4℃で20分間、14,000RPMで遠心分離して、上清を除去した。透明な溶解物でのタンパク質濃度を、比色反応(BioRad)で測定した。
【0246】
15μgのタンパク質溶解物を、6×ローディング緩衝剤と混合し、そして、ミニタンパク質電気泳動システム(BioRad)に組み込まれた10%SDS-PAGEゲルにロードした。電気泳動を、tris-グリシン-SDS緩衝剤(BioRad)にて、100Vで、20分間行い、その後、50分間で、150Vにまで上げた。Immobilon-FL PVDF膜へのタンパク質移動を、tris-グリシン緩衝剤(BioRad#1610771)で、1時間、100Vで行った。CD3-ゼータ(細胞シグナル伝達)、及び、pY142-CD3-ゼータ(細胞シグナル伝達)を標的とする一次抗体を使用した。Odyssey(LI-COR)イメージングシステム、LI-COR緩衝剤、及び、(ヤギ抗マウスIgG抗体-800CW-結合した、及び、ヤギ抗ウサギIgG抗体-680LT-結合した)LI-COR二次抗体を、タンパク質検出のために使用した。
【0247】
インビボ実験
6~8週齢のNSGマウスに、静脈内注射で、1×106個のNALM6-GL-GD2を生着させた。生後7日目に、1~5×106個のGD2.28z.DHFR、または、HA-GD2.28z.DHFR CAR+ T細胞を、静脈内に注入した。NALM6-GL-GD2全身腫瘍組織量は、Xenogen IVIS Lumina(Caliper Life Sciences)を使用して評価した。マウスに対して、まず、3mg D-ルシフェリン(Caliper Life Sciences)を腹腔内に注射し、次いで、30秒の露光時間で4分後に画像化するか、あるいは、30秒でシグナルが飽和に達する場合は、「自動」露光を選択した。Living Imageソフトウェア(Caliper Life Sciences)を使用して、発光画像を分析した。
【0248】
トリメトプリムで処置したマウスには、300mg/kgの濃度で腹腔内注射した。ビヒクルで処置したマウスには、等量の水を腹腔内注射した。
【0249】
血液試料を、眼窩後部から採血し、そして、EDTAでコーティングしたMicrovettes(Kent Scientific)に短時間保存した。脾臓を、70-μmフィルター(BD Biosciences)を通過させて機械的に粉砕した。血液と脾臓の双方を、ACK溶解緩衝剤(Fisher Scientific)で5分間溶解し、続いて、FACS分析用の表面マーカー抗体で染色した。
【0250】
CARベクターの構築
すべてのCAR配列を、EF-1アルファプロモーターの制御下で、pELNSレンチウイルスバックボーンに挿入した。CD3zドメインの下流への不安定化ドメイン配列の挿入は、(内在性BmgBI制限部位で始まる)CD3z配列の一部、それに続く、不安定化ドメイン配列、停止コドン、及び、SalI制限部位を含むカスタム遺伝子断片(IDT Technologies)をサブクローニングして行った。CD3zまたはDD配列のいずれにも存在しない他の制限部位は回避した。
【0251】
各CARは、シグナルペプチド、一本鎖可変断片(scFv)、細胞外ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、細胞内共刺激ドメイン、及び、細胞内CD3-ゼータドメインを含む。
【0252】
結果
まず、DD-CAR表面発現の用量依存的調節を、2つの異なるRDDと融合した3つの異なるCARについて試験をした。CD19.28z、GD2.28z、及び、高親和性GD2.28z(HA-GD2.28z)を、それぞれ、12kDa FK506結合タンパク質(FKBP)DDまたはE.coli由来のジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)DDに融合した。別の実験では、当該FKBP DDに融合したHer2.28z CARの調節も試験した(
図24)。ラパログshield-1(S1)を使用してFKBP融合CARを安定化し、一方で、FDAが承認した抗生物質トリメトプリム(TMP)を使用してDHFR融合CARを安定化した。FACSを介して表面CAR発現を評価する前に、安定化薬を、少なくとも48時間、DD-CAR T細胞とインキュベートした。データは、試験した7つのCARすべてについて、表面CARの正確な用量依存的調節を実証している(
図12、24を参照されたい)。DD-CARの異なるEC
50値(
図22B)は、CARが融合したDDとは関係なく、当該安定化薬に対する所定のDD-CARタンパク質の感受性が不均一であることを実証している。また、これらの研究は、各DHFR融合CARが、そのFKBP融合対応物と比較して、安定化薬物に対して高い感受性を示したので、DDの本質的な差異を実証している(
図22を参照されたい)。さらに、すべてのRDDが、CARタンパク質を不安定にするものではなく、たとえ、その他のタンパク質を不安定にするものであっても、そうはならない、ことが認められた(
図23を参照されたい)。以前に報告されたDHFR DDの2つの反復(Iwamoto et al.,Chemistry & Biology 17、981-988(2010)を参照されたい)を、GD2.28z CARに関して試験を行っており、そのうちの一方は、薬物依存性調節を可能にした(
図12、22、33を参照されたい)。
【0253】
次に、DD-CARの薬物依存性調節の動態を試験して、特徴決定を行った。DD-CAR T細胞を、1uMの安定化薬の存在下または非存在下で、少なくとも48時間培養した。薬物の非存在下で培養したDD-CAR T細胞については、薬物を培養物に導入し、そして、48時間にわたって試料を除去してCAR表面発現の増加を評価した(
図13、各プロットの左側を参照されたい)。逆に、薬物の存在下で培養したDD-CAR T細胞については、我々は、培養物から薬物を除去してCAR表面発現の低下を評価した(
図13、各プロットの右側を参照されたい)。これらの研究は、DD-CARの表面発現が、薬物へ曝露して24時間にわたって徐々に増加する、ことを示した。しかしながら、薬物を除去すると、最初の2時間で、当該DD-CAR表面発現の約半分が急速に失われ、その後の46時間にわたって、残りの表面CARが徐々に失われた。DD-CARの急速な「オフ」動力学は、このCAR制御の方法が、臨床状況で、CAR毒性を緩和する現実的な治療機会を提供する、ことを示した。
【0254】
次に、DD-CAR表面発現の違いが、特異的抗腫瘍反応を誘発するかどうかを決定した。つまり、DD-CAR表面発現の薬物依存性調節が、T細胞活性化の調節も可能にするかどうかを評価した。実際のところ、薬物の非存在下でDD-CAR T細胞を抗原担持腫瘍細胞と共培養すると、安定化薬の存在下で共培養したDD-CAR T細胞と比較して、無視できるレベルのサイトカイン分泌(
図14Aを参照されたい)、及び、細胞毒性が認められた(
図14Bを参照されたい)。インビボ状況でも実験を行った。
【0255】
マウスに抗原担持腫瘍を移植し、続いて、CAR T細胞を注入した。次いで、マウスに対して、毎日、安定化薬またはビヒクルコントロールのいずれかを注射した。安定化薬物を1回だけ投与した後に、CAR発現の薬物依存性アップレギュレーションが認められ、インビトロで認められたものと同様のものであった(
図15Aを参照されたい)。安定化薬を投与したマウスでは、高レベルのCD69が認められており、このことは、表面発現が高いDD-CAR T細胞が、腫瘍に反応してさらに活性化していることを示している。最後に、CARを注入して7日後に、安定化薬を投与したマウスでは、ビヒクルコントロールを投与したマウスと比較して、全身腫瘍組織量が劇的に減少していた。まとめると、これらのデータは、CAR表面発現が、CAR T細胞活性に密接に関連しており、したがって、RDD-CAR T細胞活性が、安定化薬の投与を介して(または、それを欠いて)正確に調節できる、ことを示している。
【0256】
本明細書に記載したように、数多くの構成的に発現したCARは、抗原の非存在下で、持続性シグナル伝達を示し、結果的に、それらを枯渇させる(Long et al.,Nature Medicine 21、581-590(2015)を参照されたい)。安定化薬の非存在下でDD-CAR T細胞を増殖させると、この持続性シグナル伝達が緩和され、その結果、健康的で、かつ、強力なCAR T細胞注入産物を得られるかどうか、について決定をした。持続性シグナル伝達に関する1つの読み取り事項は、抗原の非存在下でのCAR CD3-ゼータドメインの構成的リン酸化である。HA-GD2.28z.FKBP CAR T細胞は、S1の存在下で培養したときに、この表現型を示した(
図16、CARは常にON、を参照されたい)。しかしながら、CD3-ゼータリン酸化は、S1の非存在下で培養したDD-CAR T細胞には存在しておらず(CARは常にOFF)、このことは、CAR表面発現が小さいと、持続性シグナル伝達を軽減することを示している。当初はS1で培養を行ったが、培養の7日目に薬物を除去して認められた、DD-CAR T細胞におけるCD3-ゼータリン酸化の欠如から明らかなように、この表現型も可逆的である(
図16、CAR OFF D7)。
【0257】
次に、HA-GD2.28z.FKBPを発現するCAR T細胞における持続性シグナル伝達の予防または逆転が、それらの枯渇表現型を変化させるかどうかを決定した。薬物の存在下で増殖したDD-CAR T細胞(CARは常にON)は、複数の阻害性受容体(
図17Aを参照されたい)、及び、T細胞枯渇に一般的に関連する転写因子の同時発現を示した(
図17B)。しかしながら、薬物の非存在下で増殖したDD-CAR T細胞(CARは常にOFF)、または、1~7日目から薬物において増殖したが、その後は増殖をしなかった細胞(CAR OFF D7)では、枯渇マーカーの共発現が顕著に少なかった(
図17)。同様に、薬物の存在下で増殖した枯渇したDD-CAR T細胞は、文献で認められたものと同様に、高頻度のエフェクターT細胞、及び、付随する低頻度の記憶細胞を示した(
図18)(Wherry and Kurachi,Nature Reviews Immunology 15,nri3862(2015)を参照されたい)。しかしながら、DD-CAR T細胞の記憶における救済は、少なくとも4日間、安定化薬の非存在下で細胞を単純に増殖することで認められており、このことは、CAR T細胞の持続性シグナル伝達の緩和により、枯渇を防ぎ、また、記憶形成を促進できる、ことを示している。
【0258】
次に、持続性シグナル伝達を緩和したときに認められた劇的な表現型の変化が、T細胞機能の増強と符合するかどうか、を決定した。このことを試験するために、安定化薬の存在下(CARは常にON)、または、非存在下(CARは常にOFF)のいずれかで、DD-CAR T細胞を増殖させた。枯渇したCAR T細胞の可塑性を調べて再活性化させるために、細胞を、薬物の存在下で、7または10日間増殖し、その後、薬物を除去してT細胞を「休止」させた(それぞれ、CAR OFF D7、及び、CAR OFF D10)。次に、CAR T細胞を、24時間、抗原担持腫瘍と共培養し、そして、サイトカイン分泌をELISAで評価し(
図19)、または、incucyteで72時間共培養し、その間に、細胞毒性を評価した(
図20)。重要なことに、DD-CAR T細胞を培養する条件に関係なく、当該アッセイにおいてCAR発現の正常化を確実にするために、当該共培養アッセイの18~24時間前に、各条件において薬物を加えた。薬物(CARは常にON)で増殖したCAR T細胞は、腫瘍に反応して低レベルのIL-2及びIFNγを分泌し(
図19)、そして、枯渇したT細胞の表現型と符合する細胞毒性障害を示した(
図20)。逆に、薬物の非存在下で成長したCAR T細胞は、2~10倍ものサイトカインを分泌し(
図19)、そして、腫瘍成長を制限することができており(
図20)、このことは、持続性シグナル伝達の軽減が、CAR T細胞の機能的能力を大幅に増強したことを示す。さらに、7または10日間にわたって持続性シグナル伝達を受けたが、共培養アッセイの前に4~7日間の「休止」を与えられたCAR T細胞は、機能的に再活性化した(
図19及び20、CAR OFF D7、及び、CAR OFF D10)。これらの観察は、DD-CAR T細胞が、DD-CAR発現が低く、かつ、細胞が静止して記憶を形成することができる「休止」の期間の恩恵を受ける、ことを示した。
【0259】
インビトロでの機能研究に基づいて、インビボでのDD-CAR T細胞発現の切り替えが、慢性抗原曝露を制限し、CAR T細胞の枯渇を緩和することで、CAR T細胞の抗腫瘍応答を延長する機会を提供できるかどうかを決定した。このことを試験するために、抗原担持腫瘍細胞をNSGマウスに移植し、その後、2-5E6 HA-GD2.28z.DHFR発現T細胞を注入した。その後、マウスに対して、毎日、TMPを投与した。
【0260】
DD-CARを注入すると、急速な抗腫瘍応答が認められたが、最終的には当該疾患が再発してしまい、このことは、当該CAR T細胞が、機能不全または枯渇し得る、ことを示唆した(
図21を参照されたい)。次いで、マウスに対してビヒクルを、4日間、投与して、DD-CAR T細胞が、回復できる期間を提供した(
図21、「休止」を参照されたい)。この期間において、全身腫瘍組織量は、以前のTMP投与期間と比較して、より急速に増加しており、このことは、実際のところでは、当該抗腫瘍反応が抑制されていた、ことを示している。TMPを3日間再注入すると(
図21、「再刺激」)、インビトロで認められたもの(
図19、20)と同様に、試験したすべてのマウスで、抗腫瘍応答の強力な再活性化が認められた。さらに、3匹の内の2匹のマウスは、TMPの再注入をした後に、休止期間前よりも全身腫瘍組織量が小さくなっており、このことは、反復薬物投与の利点が、ビヒクル注入の間の腫瘍成長の一時的な加速よりも重要であり得る、ことを示している。
【0261】
上記した明細書に記載したすべての刊行物及び特許を、本明細書の一部を構成するものとして援用する。本発明の範囲及び要旨から逸脱せずに、説明を行った本発明の方法及びシステムに対して様々な修正及び変更を加えることは、当業者には自明である。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して説明をしてきたが、特許請求の範囲に記載の本発明は、かような特定の実施形態にまで過度に限定されるべきではない、ことを理解されたい。実際のところ、本発明を実施するために記載したモードの様々な修正は、当業者に自明であり、以下の特許請求の範囲内にあることを意図している。
【配列表】