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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】コーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20230323BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/14 B
C23C16/52
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019567716
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2018064747
(87)【国際公開番号】W WO2018224487
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】17174801.5
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リンダール, エリック
(72)【発明者】
【氏名】エングクビスト, ヤーン
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-523351(JP,A)
【文献】特開2016-137564(JP,A)
【文献】特表2014-530112(JP,A)
【文献】特開2004-148503(JP,A)
【文献】特開2009-166216(JP,A)
【文献】特開平09-174304(JP,A)
【文献】特開2009-028894(JP,A)
【文献】特開2004-223711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C23C 16/52
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 16/00
C23C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とコーティングとを含むコーティングされた切削工具であって、コーティングが
α-Alの副層とTiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層とが交互になったものからなるα-Al多層を含み、前記α-Al多層が少なくとも5つのα-Alの副層を含み、
前記α-Al多層の総厚さが、115μmであり、
α-Al多層中の周期が、50-900nmであり、
α-Al多層が、20°-140°のθ-2θスキャンにわたってXRD回折を示し、0 0 12回折ピークの強度、I(0 0 12)と、1 1 3回折ピークの強度、I(1 1 3)、1 1 6回折ピークの強度、I(1 1 6)、及び0 2 4回折ピークの強度、I(0 2 4)との関係が、I(0 0 12)/I(1 1 3)>1、I(0 0 12)/I(1 1 6)>1、及びI(0 0 12)/I(0 2 4)>1であることを特徴とする、コーティングされた切削工具。
【請求項2】
0 0 12回折ピークの強度、I(0 0 12)に対する、0 1 14回折ピークの強度、I(0 1 14)が、I(0 1 14)/I(0 0 12)<2である、請求項1に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項3】
1 1 0回折ピークの強度、I(1 1 0)と、1 1 3回折ピークの強度、I(1 1 3)、及び0 2 4回折ピークの強度、I(0 2 4)との関係が、I(1 1 0)>I(1 1 3)及びI(0 2 4)の各々である、請求項1又は2のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項4】
0 0 12回折ピークの強度、I(0 0 12)と、1 1 0回折ピークの強度、I(1 1 0)との関係が、 I(0 0 12)>I(1 1 0)である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項5】
TiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層が突起を含み、前記突起が結晶質である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項6】
前記突起が少なくとも1つの双晶境界を含み、突起が(1 1 1)面を共有し、その<2 1 1>方向に延在している、請求項5に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項7】
前記突起の延在方向の長さが10-100nmである、請求項5又は6のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項8】
基材の面法線に垂直な方向で測定される前記突起の高さが、多層の周期よりも小さ、請求項5から7のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項9】
前記α-Al副層の平均厚さが40-800nmである、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項10】
基材とα-Al多層との間に位置し、α-Al多層と直接接触する第1のα-Al層をさらに含み、前記α-Al層の厚さが<1μmである、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項11】
コーティングされた切削工具が、基材とα-Al多層との間に位置するTiC、TiN、TiAlN又はTiCNの少なくとも1つの層を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項12】
TiC、TiN、TiAlN又はTiCN層の厚さが2-15μmである、請求項11に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項13】
コーティングの最外層がα-Al層である、請求項1から12のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項14】
基材が、超硬合金、サーメット、セラミック、高速度鋼又はcBNのものである、請求項1から13のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項15】
基材が、3-14重量%のCo及び50重量%を超えるWCを含む超硬合金のものである、請求項1から14のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、α-Alの副層とTiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層とが交互になったものからなるα-Al多層を含むコーティングされた切削工具に関し、前記α-Al多層は少なくとも5つのα-Alの副層を含み、前記α-Al多層の総厚さは1-15μmであり、かつα-Al多層中の周期は50-900nmである。
【背景技術】
【0002】
背景
金属切削産業において、コーティングされた切削工具は当該技術分野で周知である。CVDコーティングされた切削工具及びPVDコーティングされた切削工具は、コーティングされた切削工具のうちの2つの最も支配的なタイプである。これらのコーティングの利点は、コーティングされた切削工具の長い工具寿命を達成するために重要である化学的摩耗及び研摩摩耗に対する高い耐性である。
【0003】
TiCNの層とアルミナの層とを一緒に含むCVDコーティングは、例えば鋼の旋削加工において良好に機能することが知られている。アルミナの多層は、例えば、TiCNの層及びTiAlOCの層の両方を含むボンディング層によって分離されたアルミナの副層を開示する米国特許第9365925(B2)号から知られている。
【0004】
切削工具の寿命を延ばすことができ、かつ/又は既知の切削工具コーティングよりも高い切削速度に耐えることができる切削工具コーティングを継続的に見いだす必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の1つの目的は、金属切削工具用途において改善された特性を有する耐摩耗性コーティングを提供することである。鋼及び硬化鋼の旋削加工における高い耐剥離性と組み合わせて、高い耐クレータ摩耗性及び高い耐フランク摩耗性を提供する耐摩耗性コーティングを提供することがさらなる目的である。本発明のさらなる目的は、切れ刃の塑性変形に起因する剥離に対する高い耐性と組み合わされた高い耐クレータ摩耗性を有するコーティングを提供することである。
【0006】
これらの目的の少なくとも1つは、請求項1に記載の切削工具を用いて達成される。
【0007】
好ましい実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0008】
本開示は、基材とコーティングとを含むコーティングされた切削工具に関し、コーティングは、α-Alの副層とTiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層とが交互になったものからなるα-Al多層を含み、前記α-Al多層は少なくとも5つのα-Alの副層を含み、前記α-Al多層の総厚さは1-15μmであり、かつα-Al多層中の周期は50-900nmである。α-Al多層は、20°-140°のθ-2θスキャンにわたってXRD回折を示し、0 0 12回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 0 12)と、1 1 3回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 3)、1 1 6回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 6)、及び0 2 4回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 2 4)との関係は、I(0 0 12)/I(1 1 3)>1、I(0 0 12)/I(1 1 6)>1及びI(0 0 12)/I(0 2 4)>1である。一実施態様では、比I(0 0 12)/I(1 1 3)は、好ましくは>2、より好ましくは>3、さらにより好ましくは>4である。一実施態様では、比I(0 0 12)/I(0 2 4)は、好ましくは>2、より好ましくは>3である。薄膜補正は回折データに対して適用されないが、データは以下でより詳細に開示されるように、Cu-Kα2ストリッピング及びバックグラウンドフィッティングにより処理される。
【0009】
驚くべきことに、本発明によるコーティングにおいてα-Al多層を備えたコーティングされた切削工具は、鋼及び硬化鋼の旋削作業における切れ刃の塑性変形に起因するコーティングの剥離に耐えることができることが見いだされた。本発明のこの高度に配向されたα-Al多層は、高い耐クレータ摩耗性及び剥離に対する高い耐性の両方を提供する。
【0010】
本発明の一実施態様では、0 0 12回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 0 12)に対する、0 1 14回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 1 14)は、I(0 1 14)/I(0 0 12)<2、好ましくは<1、より好ましくは<0.8又は<0.7である。
【0011】
本発明の一実施態様では、1 1 0回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 0)と、1 1 3回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 3)、及び0 2 4回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 2 4)との関係は、I(1 1 0)>I(1 1 3)及びI(0 2 4)の各々である。
【0012】
本発明の一実施態様では、0 0 12回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 0 12)と、1 1 0回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 0)との関係は、I(0 0 12)>I(1 1 0)である。
【0013】
本発明の一実施態様では、TiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層は突起を含み、突起は結晶質である。
【0014】
本発明の一実施態様では、前記突起は少なくとも1つの双晶境界を含み、好ましくは突起は(1 1 1)面を共有し、その<2 1 1>方向に延在している。一実施態様では、前記突起の結晶構造は立方晶である。
【0015】
本発明の一実施態様では、前記突起のその延在方向の長さは10-100nmである。
【0016】
本発明の一実施態様では、基材の面法線に垂直な方向で測定される前記突起の高さは、多層の周期よりも小さく、好ましくは多層の周期の80%未満であり、より好ましくは多層の周期の50%以下である。
【0017】
突起は、α-Al多層の副層間の接着のために重要であると考えられる。切削作業中の高い摩耗に耐えるために、良好な接着が必要である。
【0018】
α-Al多層全体にわたる高い配向性は、高い耐フランク摩耗性及び高い耐クレータ摩耗性を提供するために重要であると考えられる。α-Al多層のうちの1つのα-Al副層の高度な配向は、TiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNO副層を介して継続される。
【0019】
前記突起の平均高さは、好ましくはα-Al多層の周期よりも小さい。α-Al副層が連続していない場合、α-Al多層の耐摩耗性は低下するであろう。
【0020】
本発明の一実施態様では、前記α-Al副層の平均厚さは40-800nm、好ましくは80-700nm、より好ましくは100-500nm又は100-300nmである。α-Al副層は、高い耐摩耗性を提供するのに十分な厚さのものであるべきであるが、多層の利点を提供するのに十分に小さいものであるべきである。α-Al副層が大きすぎる厚さのものである場合、多層であるという利点のない単一層として見えるであろう。本発明のα-Al多層は、単一のα-Al層を有するコーティングと比較して、切れ刃の塑性変形での剥離に対するより高い耐性及び切れ刃の塑性変形に対するより高い耐性を提供する。
【0021】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材とα-Al多層との間に位置する第1のα-Al層を含み、前記第1のα-Al層の厚さは、<1μm、好ましくは<0.5μm、より好ましくは<0.3μm又は100-300nmである。基材とα-Al多層との間に位置する第1のα-Al層は、切れ刃の塑性変形での剥離に対する高い耐性を提供するために重要であることが見いだされている。一実施態様では、第1のα-Al層は、α-Al多層のうちのα-Al副層の1つと同じ厚さのものである。
【0022】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材とα-Al多層との間に位置するTiC、TiN、TiAlN又はTiCNの少なくとも1つの層、好ましくはTiCNの層を含む。本発明の一実施態様では、TiC、TiN、TiAlN又はTiCN層の厚さは2-15μmである。
【0023】
本発明の一実施態様では、コーティングの最外層はα-Al層である。あるいは、TiN、TiC、Al及び/又はそれらの組み合わせの層など、1つ又は複数のさらなる層がα-Al層を覆うことができる。本発明の一実施態様では、α-Al層を覆う前記1つ又は複数のさらなる層は、逃げ面又はすくい面又は切れ刃又はこれらの組み合わせから除去される。
【0024】
本発明の一実施態様では、基材は、超硬合金、サーメット、セラミック、高速度鋼又はcBNのものである。基材は、本発明のコーティングに適した硬度及び靭性を有するべきである。
【0025】
本発明の一実施態様では、基材は、3-14重量%のCo及び50重量%を超えるWCを含む超硬合金のものである。本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具の基材は、4-12重量%のCo、好ましくは6-8重量%のCo、任意選択的に0.1-10重量%の、周期表のIVb、Vb及びVIb族の金属、好ましくは、Ti、Nb、Ta又はそれらの組み合わせの、立方晶炭化物、窒化物又は炭窒化物と、残部WCとを含む超硬合金からなる。
【0026】
本発明のさらに他の目的及び特徴は、添付の図面と共に考慮される以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】サンプルMulti A24のコーティングの破壊断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。柱状のTiCN層が、α-Al多層の下に見える。
図2】サンプルMulti A24のα-Al多層の破壊断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。1μmのα-Al層が、α-Al多層の下に見える。
図3】サンプルMulti A32のコーティングの破壊断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。1μmのα-Al層が、α-Al多層の下に見える。
図4】サンプルMulti A28uのα-Al多層の研磨断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図5】サンプルMulti A40uの破壊断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図6】サンプルMulti B38のコーティングの破壊断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図7】サンプルMulti B38のα-Al多層の研磨断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。1μmのα-Al層が、α-Al多層の下に見える。
図8】2つのα-Al副層間のTiCO副層の断面の明視野走査型透過電子顕微鏡(STEM)画像である。
図9】サンプルMulti A32のコーティングのα-Al多層の一部の断面のHAADF走査型透過電子顕微鏡(HAADF STEM)画像である。
図10】サンプルMulti A32のコーティングのTiCO副層の突起の断面のHAADF走査型透過電子顕微鏡(HAADF STEM)画像である。1 1 1面及び1 1 2面が、図中に線で示されている。視野は、0 1 1ゾーン軸に沿って整列される。
図11】サンプルMulti A32のコーティングのTiCO副層の突起の断面のHAADF走査型透過電子顕微鏡(HAADF STEM)画像である。1 1 1面及び1 1 2面が、図中に線で示されている。視野は、0 1 1ゾーン軸に沿って整列される。
図12】サンプルMulti A28uのXRDディフラクトグラムである。強度データに対する補正は行われず、かつCu-Kα2ストリッピングは適用されない。図において、Alに由来するピーク1 1 0、1 1 3、0 2 4、1 1 6、0 0 12及び0 1 14が示されている。
図13】サンプルSingle A1のXRDディフラクトグラムである。強度データに対する補正は行われず、かつCu-Kα2ストリッピングは適用されない。図において、Alに由来するピーク1 1 0、1 1 3、0 2 4、1 1 6、0 0 12及び0 1 14が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
「切削工具」という略語は、本明細書において、切削工具インサート、エンドミル又はドリルを示すことを意図している。適用分野は、金属切削用途であり、例えば、旋削加工、フライス加工又は穿孔加工であり得る。
【0029】
方法
XRD分析
層のテクスチャ又は配向を調べるために、X線回折(XRD)を、PIXcel検出器を備えたPANalytical CubiX3回折計を使用して、逃げ面上で行った。コーティングされた切削工具をサンプルホルダー内に取り付けて、サンプルの逃げ面がサンプルホルダーの基準面に対して平行であること、及び逃げ面が適切な高さにあることを確認した。測定のために、Cu-Kα線を45kVの電圧及び40mAの電流で使用した。1/2度の散乱防止スリット及び1/4度の発散スリットを使用した。コーティングされた切削工具からの回折強度を、20°から140°までの2θの範囲で、すなわち10から70°までの入射角θの範囲にわたって測定した。データのバックグラウンドフィッティング、Cu-Kα2ストリッピング及びプロファイルフィッティングを含むデータ分析は、PANalytical社のX’Pert HighScore Plusソフトウェアを使用して行われた。次に、このプログラムからの出力(プロファイル適合曲線の積分ピーク面積)を使用して、強度比及び/又は関係に関して本発明のコーティングを定義した。
【0030】
通常、層内の吸収及び異なる経路長に起因する強度の違いを補償するために、積分ピーク面積データに対していわゆる薄膜補正が適用されるが、本発明のTiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNO副層は突起を含むため、この層の厚さを設定するのは簡単なことではなく、この層を通過する経路の長さは複雑である。したがって、プロファイル適合曲線の抽出された積分ピーク面積の強度に対して適用される薄膜補正なしのデータに基づいて、多層の配向が設定される。ただし、強度面積が計算される前に、Cu-Kα2ストリッピングがデータに対して適用される。
【0031】
α-Al多層の上の可能性のあるさらなる層は、α-Al多層に入り、コーティング全体を出るX線強度に影響を及ぼし得るので、層内のそれぞれの化合物の線形吸収係数を考慮して、これらについて補正を行う必要がある。あるいは、α-Al多層の上のさらなる層は、XRD測定結果に実質的に影響を与えない方法、例えば化学エッチングによって除去することができる。
【0032】
ピークの重なりは、例えば、いくつかの結晶層を含み、かつ/又は結晶相を含む基材上に堆積されるコーティングのX線回折分析において起こり得る現象であることに留意するべきであり、このことは当業者によって考慮され、補償されなければならない。α-Al層のピークとTiCN層のピークとのピークの重なりは、測定値に影響する可能性があり、考慮する必要がある。例えば、基材中のWCは、本発明の関連するピークに近い回折ピークを有し得ることにも留意されたい。
【0033】
STEM分析
副層の突起を調べるために、STEM分析が、単色化、収差プローブ補正Titan 80-300 TEM/STEMで行われた。
【0034】
STEM分析用のサンプルの試料を調製するために、FEI VERSA3D LoVac(Versa)のデュアル集束イオンビームシステムを使用した。サンプルの表面上にPtストリップを堆積させ、イオンビームを使用して、試料をサンプルに切り取った。オムニプローブをPTストリップに溶接し、その後サンプルから試料を切り離し、銅製の支持グリッドに溶接した。その後、試料を、イオンビームを使用して80-100nmの厚さに薄くした。30kVの電圧と3つの異なる電流を、試料を薄くするために使用した。1nAの電流を使用して、サンプルを約400nmの厚さに薄くした。試料は、薄化中にイオンビームに対して±2度傾けられた。0.3nAの電流を使用して、サンプルを約200nmの厚さに薄くした。試料は、薄化中にイオンビームに対して±1.5度傾けられた。0.1nAの電流を使用して、サンプルを約100nmの厚さに薄くした。試料は、薄化中にイオンビームに対して±1.2度傾けられた。試料を約100nmに薄くした後、低kVイオンを使用して試料の側面を洗浄し、アモルファス材料を除去した。第1の洗浄工程は、5kVの電圧と48pAの電流を使用して行われた。試料は、洗浄中にイオンビームに対して±5度傾けられ、各側面が2分間洗浄された。第2の洗浄工程は、2kVの電圧と27pAの電流を使用して行われた。試料は、洗浄中にイオンビームに対して±7度傾けられ、各側面が30秒間洗浄された。
【0035】
突起の分析は、HAADF STEMを使用して行うことができる。突起の分析において第1の工程は、それぞれの菊池パターンに基づいて突起を整列させることである。突起の結晶構造は立方晶として扱われ(例えば、TiCNOについてはPDF-00-050-0681を参照)、各突起は、突起の結晶学的延在に関する結論が出される前に、0 1 1ゾーン軸などの既知のゾーン軸に沿って配向されるべきである。双晶境界の配向並びに突起の延在の方向は、データのフーリエ変換(高速フーリエ変換)によって特定することができる。
【0036】
本開示は、基材とコーティングとを含むコーティングされた切削工具に関し、コーティングは、α-Alの副層とTiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層とが交互になったものからなるα-Al多層を含み、前記α-Al多層は少なくとも5つのα-Alの副層を含み、前記α-Al多層の総厚さは1-15μmであり、かつα-Al多層中の周期は50-900nmである。α-Al多層は、20°-140°のθ-2θスキャンにわたってXRD回折を示し、0 0 12回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 0 12)と、1 1 3回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 3)、1 1 6回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 6)、及び0 2 4回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 2 4)との関係は、I(0 0 12)/I(1 1 3)>1、I(0 0 12)/I(1 1 6)>1及びI(0 0 12)/I(0 2 4)>1である。一実施態様では、比I(0 0 12)/I(1 1 3)は、好ましくは>2、より好ましくは>3、さらにより好ましくは>4である。一実施態様では、比I(0 0 12)/I(0 2 4)は、好ましくは>2、より好ましくは>3である。薄膜補正は回折データに対して適用されないが、データは以下でより詳細に開示されるように、Cu-Kα2ストリッピング及びバックグラウンドフィッティングにより処理される。
【0037】
驚くべきことに、本発明によるコーティングにおいてα-Al多層を備えたコーティングされた切削工具は、鋼及び硬化鋼の旋削作業における切れ刃の塑性変形に起因するコーティングの剥離に耐えることができることが見いだされた。本発明のこの高度に配向されたα-Al多層は、高い耐クレータ摩耗性及び剥離に対する高い耐性の両方を提供する。
【0038】
本発明の一実施態様では、0 0 12回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 0 12)に対する、0 1 14回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 1 14)は、I(0 1 14)/I(0 0 12)<2、好ましくは<1、より好ましくは<0.8又は<0.7である。
【0039】
本発明の一実施態様では、1 1 0回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 0)と、1 1 3回折ピークの強度(ピーク面積)、I(1 1 3)、及び0 2 4回折ピークの強度(ピーク面積)との関係は、I(1 1 0)>I(1 1 3)及びI(0 2 4)の各々である。
【0040】
本発明の一実施態様では、0 0 12回折ピークの強度(ピーク面積)、I(0 0 12)と、1 1 0回折ピークの強度(ピーク面積)との関係は、I(0 0 12)>I(1 1 0)である。
【0041】
本発明の一実施態様では、TiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNOの副層は突起を含み、突起は結晶質である。
【0042】
本発明の一実施態様では、前記突起は、少なくとも1つの双晶境界を含み、好ましくは突起は(1 1 1)面を共有し、その<2 1 1>方向に延在している。一実施態様では、前記突起の結晶構造は立方晶である。
【0043】
本発明の一実施態様では、前記突起のその延在方向の長さは10-100nmである。
【0044】
本発明の一実施態様では、基材の面法線に垂直な方向で測定される前記突起の高さは、多層の周期よりも小さく、好ましくは多層の周期の80%未満であり、より好ましくは多層の周期の50%以下である。
【0045】
突起は、α-Al多層の副層間の接着のために重要であると考えられる。切削作業中の高い摩耗に耐えるために、良好な接着が必要である。
【0046】
α-Al多層全体にわたる高い配向性は、高い耐フランク摩耗性及び高い耐クレータ摩耗性を提供するために重要であると考えられる。α-Al多層のうちの1つのα-Al副層の高度な配向は、TiCO、TiCNO、AlTiCO又はAlTiCNO副層を介して継続される。
【0047】
前記突起の平均高さは、好ましくはα-Al多層の周期よりも小さい。α-Al副層が連続していない場合、α-Al多層の耐摩耗性は低下するであろう。
【0048】
本発明の一実施態様では、前記α-Al副層の平均厚さは40-800nm、好ましくは80-700nm、より好ましくは100-500nm又は100-300nmである。α-Al副層は、高い耐摩耗性を提供するのに十分な厚さのものであるべきであるが、多層の利点を提供するのに十分に小さいものであるべきである。α-Al副層が大きすぎる厚さのものである場合、多層であるという利点のない単一層として見えるであろう。本発明のα-Al多層は、単一のα-Al層を有するコーティングと比較して、切れ刃の塑性変形での剥離に対するより高い耐性及び切れ刃の塑性変形に対するより高い耐性を提供する。
【0049】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材とα-Al多層との間に位置する第1のα-Al層を含み、前記第1のα-Al層の厚さは、<1μm、好ましくは<0.5μm、より好ましくは<0.3μm又は100-300nmである。基材とα-Al多層との間に位置する第1のα-Al層は、切れ刃の塑性変形での剥離に対する高い耐性を提供するために重要であることが見いだされている。一実施態様では、第1のα-Al層は、α-Al多層のうちのα-Al副層の1つと同じ厚さのものである。
【0050】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材とα-Al多層との間に位置するTiC、TiN、TiAlN又はTiCNの少なくとも1つの層、好ましくはTiCNの層を含む。本発明の一実施態様では、TiC、TiN、TiAlN又はTiCN層の厚さは2-15μmである。
【0051】
本発明の一実施態様では、コーティングの最外層はα-Al層である。あるいは、TiN、TiC、Al及び/又はそれらの組み合わせの層など、1つ又は複数のさらなる層がα-Al層を覆うことができる。本発明の一実施態様では、α-Al層を覆う前記1つ又は複数のさらなる層は、逃げ面又はすくい面又は切れ刃又はこれらの組み合わせから除去される。
【0052】
本発明の一実施態様では、基材は、超硬合金、サーメット、セラミック、高速度鋼又はcBNのものである。基材は、本発明のコーティングに適した硬度及び靭性を有するべきである。
【0053】
本発明の一実施態様では、基材は、3-14重量%のCo及び50重量%を超えるWCを含む超硬合金のものである。本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具の基材は、4-12重量%のCo、好ましくは6-8重量%のCo、任意選択的に0.1-10重量%の、周期表のIVb、Vb及びVIb族の金属、好ましくは、Ti、Nb、Ta又はそれらの組み合わせの、立方晶炭化物、窒化物又は炭窒化物と、残部WCとを含む超硬合金からなる。
【0054】
本発明の一実施態様では、基材は、バインダー相富化表面ゾーンを有する超硬合金からなる。バインダー相富化表面ゾーンの厚さは、基材の表面から基材のコアに向かって測定される場合、好ましくは5-35μmである。バインダー相富化ゾーンは、基材のコア中のバインダー相含有量よりも少なくとも50%高いバインダー相含有量を平均して有する。バインダー相富化表面ゾーンは、基材の靱性を高める。高い靱性を有する基材は、鋼の旋削加工などの切削作業において好ましい。
【0055】
本発明の一実施態様では、基材は、立方晶炭化物を本質的に含まない表面ゾーンを有する超硬合金からなる。立方晶炭化物を本質的に含まない表面ゾーンの厚さは、基材の表面から基材のコアに向かって測定される場合、好ましくは5-35μmである。「本質的に含まない(essentially free)」とは、光光学顕微鏡(light optical microscope)における断面の目視分析において、立方晶炭化物が見えないことを意味する。
【0056】
本発明の一実施態様では、基材は、上記に開示されるような立方晶炭化物を本質的に含まない表面ゾーンと組み合わせた、上記に開示されるようなバインダー相富化表面ゾーンを有する超硬合金からなる。
【0057】
本発明の一実施態様では、コーティングは、CVDコーティングされた層の引張応力を解放し、表面粗さを低減するために、ショットピーニング、ブラスト処理又はブラッシングによって後処理される。
【0058】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材とα-Al多層との間に位置するTiCNの層を含み、前記TiCN層は、CuKα線及びθ-2θスキャンを使用するX線回折により測定される場合、ハリスの式に従って定義されるテクスチャ係数TC(hkl)を示し、
式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDFカード番号42-1489に従った標準強度であり、nは反射の数であり、計算に使用される反射は、(1 1 1)、(2 0 0)、(2 2 0)、(3 1 1)、(3 3 1)、(4 2 0)、(4 2 2)及び(5 1 1)であり、TC(4 2 2)≧2、好ましくは≧3.5を示す。
【0059】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材からコーティングの外表面に向かって以下の層を含む:TiN、TiCN、α-Al、TiCOの副層とα-Alの副層とが交互になったものからなるα-Al多層。
【0060】
本発明の一実施態様では、総コーティング厚さは7-25μmであり、かつα-Al多層は、10-150層のα-Alの副層を含む。α-Al多層の厚さは、好ましくは3ー15μmである。この多層は旋削加工用途において好ましい。
【0061】
本発明の一実施態様では、総コーティング厚さは2-9μmであり、かつα-Al多層は、5-70層のα-Alの副層を含む。α-Al多層の厚さは、好ましくは1ー5μmである。この多層は、フライス加工又は穿孔加工用途において好ましい。
【0062】
本明細書に記載のコーティングされた切削工具は、任意の組み合わせでブラスト処理、ブラッシング又はショットピーニングなどの後処理に供することができる。ブラスト後処理は、例えばアルミナ粒子を使用した湿式ブラスト処理又は乾式ブラスト処理であり得る。
【実施例
【0063】
本発明の例示的な実施態様が、これからより詳細に開示され、参照実施態様と比較されるであろう。コーティングされた切削工具(インサート)が製造され、切削試験において分析され、評価された。
【0064】
サンプルの概要
超硬合金基材は、フライス加工、混合、噴霧乾燥、プレス、及び焼結などの従来のプロセスを利用して製造された。焼結基材は、10000個のハーフインチサイズの切削インサートを収容することができるイオン結合型(Ionbond Type)(530サイズ)のラジアルCVD反応器の中でCVDコーティングされた。超硬合金基材(インサート)のISO型形状はCNMG-120408-PMであった。サンプルのSingle A1、Multi A6、Multi A24、Multi A26、Multi A32、Multi A56、Multi A28u及びMulti A40uの超硬合金の組成は、7.2重量%のCo、2.9重量%のTaC、0.5重量%のNbC、1.9重量%のTiC、0.4重量%のTiN及び残部WCであった。サンプルMulti B38及びMulti B58の超硬合金の組成は、7.5重量%のCo、2.9重量%のTaC、0.5重量%のNbC、1.9重量%のTiC、0.4重量%のTiN及び残部WCであった。サンプルの概要を表1に示す。
表1-サンプルの概要
【0065】
CVD堆積
約0.4μmのTiNの最初の最も内側のコーティングが、400mbar及び885℃でのプロセスにおいてすべての基材上に堆積された。48.8体積%のH、48.8体積%のN、及び2.4体積%のTiClのガス混合物を使用した。
【0066】
その後、約7-7.5μmの厚さのTiCNを、内側のTiCN及び外側のTiCNの二工程において堆積させた。
【0067】
内側のTiCNは、3.0体積%のTiCl、0.45体積%のCHCN、37.6体積%のN、及び残部Hのガス混合物中、55mbarで885℃にて10分間堆積させた。
【0068】
外側のTiCNは、7.8体積%のN、7.8体積%のHCl、2.4体積%のTiCl、0.65体積%のCHCN、及び残部Hのガス混合物中、55mbarで885℃にて堆積させた。
【0069】
MTCVD TiCN層の上には、4つの別々の反応工程からなるプロセスにより、1-1.5μmの厚さのボンディング層を1000℃で堆積させた。
【0070】
最初に、1.5体積%のTiCl、3.4体積%のCH、1.7%のHCl、25.5体積%のN、及び67.9体積%のHのガス混合物を使用して、HTCVD TiCNを400mbarで堆積させた。
【0071】
次の三工程はすべて70mbarで堆積させた。最初の(TiCNO-1)では、1.5体積%のTiCl、0.40体積%のCHCN、1.2体積%のCO、1.2体積%のHCl、12.0体積%のN、及び残部Hのガス混合物を使用した。次の工程(TiCNO-2)では、3.1体積%のTiCl、0.63体積%のCHCN、4.6体積%のCO、30.6体積%のN、及び残部Hのガス混合物を使用した。最後のボンディング層の工程(TiN)では、3.2体積%のTiCl、32.3体積%のN、及び64.5体積%のHのガス混合物を使用した。
【0072】
後続のAl核生成の開始に先だって、ボンディング層は、CO、CO、N、及びHの混合物中で4分間酸化された。
【0073】
すべてのサンプルについて、α-Al層を、二工程において1000℃及び60mbarでボンディング層の上に堆積させた。第1の工程は、1.2体積%のAlCl、4.7体積%のCO、1.8体積%のHCl、及び残部Hのガス混合物を含んでおり、第2の工程は、1.2体積%のAlCl、4.7体積%のCO、2.9体積%のHCl、0.58体積%のHS、及び残部Hのガス混合物を含んでいた。
【0074】
サンプルSingle A1では、この層は約5μmに成長し、サンプルSingle B1では約9μmに成長した。
【0075】
サンプルMulti A6、Multi A24、Multi A26、Multi A32、Multi A56、Multi B38及びMulti B58では、この層は約1μmに成長した。
【0076】
サンプルMulti A28u及びMulti A40uでは、この層はそれぞれ約0.2及び0.1μmに成長した。
【0077】
α-Al多層を、サンプルMulti A6、Multi A24、Multi A26、Multi A32、Multi A56、Multi A28u、Multi A40u、Multi B38及びMulti B58上に堆積させ、TiCOのボンディング副層が、α-Alの副層と交互に配置された。TiCO副層は、すべての例において75秒間堆積させた。1.7体積%のTiCl、3.5体積%のCO、4.3体積%のAlCl、及び90.5体積%のHのガス混合物中で、1000℃及び60mbarで体積させた。α-Al副層は、底のα-Al層に対するものと同じプロセスパラメータを使用して、二工程で堆積させた。第1の工程は2.5分間実行され、第2の工程のプロセス時間は、各サンプルにおける多層の周期厚さに達するように調整された。
【0078】
1周期は、1つのTiCOボンディング副層の厚さと1つのα-Al副層の厚さの合計に等しい。サンプルのα-Al多層中の周期の測定は、α-Al多層の総厚さを層中の周期の数で割ることによって行われた。
【0079】
サンプルの層の厚さは、光光学顕微鏡及びSEMで調べられ、表2に示される。
表2-層の厚さ
【0080】
XRD分析結果
上記の方法のセクションにおいて開示されているように、XRD分析が行われた。強度データに対して薄膜補正は適用されなかった。サンプルのα-Alに由来するピーク1 1 0、1 1 3、0 2 4、1 1 6、0 0 12及び0 1 14の強度が表3に示され、0 0 12の強度が100%に設定されるように値が正規化されている。サンプルMulti A28u及びSingle A1のXRDディフラクトグラムを、それぞれ図12及び13に示す。
表3-α-Alに由来するXRD強度
【0081】
基材とサンプルSingleA1のα-Al単層との間に位置するTiCN層をXRDで調べた。データの単一のα-Al層における薄膜補正及び吸収の補正に続いて、TC値がハリスの式を使用して計算された。結果を表4に示す。
ハリスの式は以下であり、
式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDFカード番号42-1489に従った標準強度であり、nは反射の数であり、計算に使用される反射は、(1 1 1)、(2 0 0)、(2 2 0)、(3 1 1)、(3 3 1)、(4 2 0)、(4 2 2)及び(5 1 1)である。
表4
【0082】
対応するTiCN層は、α-Al多層を備えたすべてのサンプルにも存在していた。α-Al多層のXRDディフラクトグラムは、XRDディフラクトグラムにおいて約36.1°に見られるブロードな111反射を示しており、これにより、この反射の起源がTiCO副層であるべきであると結論付けることができる。TiCO及びTiCNの両方が同様の格子パラメータを有する立方晶であるため、TiCO副層からのXRDシグナルとTiCN層からのシグナルを層の分析において分離することは困難である。TiCN層を分析するために、α-Al多層を、最初にエッチング又は研磨などの機械的又は化学的手段により除去する必要がある。その後、TiCN層を分析することができる。
【0083】
STEM
副層の突起を調べるために、HAADFSTEM分析が、単色化、収差プローブ補正Titan 80-300 TEM/STEMで行われた。
【0084】
試料は、上記の方法セクションで開示された方法に従って調製された。α-Al多層中のTiCO副層のいくつかの突起がSTEMを用いて試験された。突起は立方晶構造のものとして取り扱われ、そのゾーン軸0 1 1に沿って整列していた。突起は双晶境界を含むことが見いだされた。双晶境界は1 1 1面であり、突起は<2 1 1>方向に延在していた。サンプルMulti A32のHAADF STEM画像を図10及び11に示す。
【0085】
摩耗試験
摩耗試験の前に、コーティングされた切削工具のすくい面上にブラスト処理が実施された。使用されたブラスタースラリーは、水中20体積%のアルミナからなり、切削インサートのすくい面とブラスタースラリーの方向との間の角度は90度であった。ガンへのスラリーの圧力は、すべての摩耗試験サンプルについて1.8barであった。
【0086】
PD圧痕
サンプルは、ワークピース材料SS2541(700x180mmのバー)における乾式旋削試験切削において試験された。前記バーに直径178mmから直径60mmまでの面旋削加工が施された。次の切削データが使用された:
切削速度、V:200m/分
送り、f:0.35mm/回転
切削深さ、a:2mm
【0087】
停止基準は、フランク摩耗(Vb)≧0.5mm又は刃の破損時として定義された。剥離は、主に切れ刃の塑性変形に起因して生じると考えられている。5回の切削ごとに各インサートの刃を検査し、主刃上及び副刃上のフランク摩耗を測定した。フランク摩耗が0.4mmの値に達したとき、切れ刃を3回の切削ごとに検査した。Vb=0.3mmでの切削の数(補間値)、及び停止基準に達したときの切削の総数に関連する切れ刃の塑性変形に起因する剥離前の切削の数を表5に示す。
表5
【0088】
サンプルMulti A28u及びMulti A40uは、この試験において剥離に対して最高の耐性を示したサンプルであり、すべての多層サンプルは、参照のSingle A1と比較して、より高い耐フランク摩耗性を示したと結論付けられた。
【0089】
PDくぼみ
サンプルは、ワークピース材料SS2541(700x180mmのバー)における乾燥状態での長手方向旋削において試験された。次の切削データが使用された:
切削速度、V:98又は110m/分
送り、f:0.7mm/回転
切削深さ、a:2mm
切削時間:30s
【0090】
試験を開始する前に、インサートを固定具に配置し、ノーズ上の切れ刃の位置をダイヤルゲージを介してゼロに設定した。30秒の切削時間の後、ノーズ上の切れ刃の新しい位置がダイヤルゲージによって測定され、刃のくぼみの値が得られた。摩耗した刃を光学顕微鏡で観察し、参照サンプルA1に関連する剥離の程度を記録した。3つの並列pd-くぼみ切削試験の平均結果を表6に示す。
表6.
【0091】
サンプルMulti A6は、この切削試験に、参照のSingle A1よりも良好に抵抗しなかったが、他のすべてのサンプルは同様又はより良好に性能を発揮したと結論付けられた。
【0092】
本発明をさまざまな例示的実施態様に関連して記載したが、本発明は開示された例示的実施態様に限定されるものではなく、それどころか、添付の特許請求の範囲内でさまざまな修正及び均等な構成を網羅することを意図していると理解されるべきである。さらに、本発明の任意の開示された形態又は実施態様は、設計上の選択の一般的事項として、その他の開示され又は記載され又は提案された形態又は実施態様に組み込むことができると認識されるべきである。したがって、本明細書に添付された添付の特許請求の範囲によって示されるようにのみ制限されるべきであることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13