IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

<>
  • 特許-加飾用粉末分散組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】加飾用粉末分散組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20230323BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20230323BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230323BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20230323BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/19
A61K8/02
A61Q1/02
A61Q1/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019571145
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004412
(87)【国際公開番号】W WO2019156165
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018019830
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100125313
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 浩幸
(74)【代理人】
【識別番号】100067644
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 裕
(72)【発明者】
【氏名】喜納 貫
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-277233(JP,A)
【文献】特開2006-076976(JP,A)
【文献】特開2008-074707(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)寒天、クインスシード、及びペクチンから選択される一種又は二種以上からなる増粘剤0.1~0.8質量%を溶解した水溶液100重量部、
に対し、
(B)パール剤2~30重量部、
を含有することを特徴とする加飾用粉末分散組成物で表面を加飾した固形化粧料
【請求項2】
前記(A)成分の水溶液は、さらにHLB9~9.5の界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1記載の加飾用粉末分散組成物で表面を加飾した固形化粧料
【請求項3】
請求項1又は2に記載する加飾用粉末分散組成物を固形化粧料の表面に噴射して加飾を行うことを特徴とする固形化粧料の加飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイシャドー、ファンデーション、口紅等の固形化粧料の表面を加飾するための加飾用粉末分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アイシャドー、ファンデーション、口紅等の固形化粧料においては、消費者の関心を引きつけることができるよう美麗な外観とするため、光沢を有する雲母チタン(パール剤)などを用いて化粧料の表面に模様や文字を表すなど加飾するための技術が重要となる。
【0003】
インクジェット印刷法は、ノズルの先端から粉体塗料の分散液を被塗装物に吹き付けるため、被塗装物の表面に圧力を加えることなく印刷することができ、細かい模様や文字を表現できるものの、粒径が大きい雲母チタン(パール剤)を含有する粉体塗料を用いると、分散液を噴出するためのノズル内で凝集した粉体が目詰まりを起こすため、連続した作業が困難となる。
【0004】
一方、ノズル内での粉体の凝集を抑えるために、粉体塗料の分散液に増粘剤を配合すると、乾燥後の化粧料の表面に皮膜が形成され、増粘剤の種類や配合量によっては、化粧料がとりにくくなり、使用することが困難となる場合がある。
【0005】
したがって、化粧料の表面を美麗に装飾するため、光沢を有する雲母チタン(パール剤)を含有する粉体塗料をインクジェット印刷法を用いて安定に加飾することを可能としつつ、しかも乾燥後の化粧料において、すぐれた使用性を発揮することができる加飾用粉末分散組成物の開発が求められる。
【0006】
【文献】特開2008-174712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固形化粧料の表面を美麗に装飾するため、パール剤を含有する粉体塗料をインクジェット印刷法により安定に噴射することができ、しかも乾燥後の化粧料においてすぐれた使用性を発揮することができる加飾用粉末分散組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者が検討を行った結果、所定の増粘剤とパール剤とを適量含有した加飾用粉末分散組成物においては、インクジェット印刷法を用いて安定した加飾が可能となり、しかも乾燥後の化粧料においては、すぐれた使用性が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(A)寒天、クインスシード、及びペクチンから選択される一種又は二種以上からなる増粘剤0.1~0.8質量%を溶解した水溶液100重量部、に対し、(B)パール剤2~30重量部、を含有することを特徴とする加飾用粉末分散組成物で表面を加飾した固形化粧料である。
【0010】
さらに本発明は、前記(A)成分の水溶液が、さらにHLB9~9.5の界面活性剤を含有することを特徴とする加飾用粉末分散組成物で表面を加飾した固形化粧料である。
【0012】
また本発明は、前記の加飾用粉末分散組成物を固形化粧料の表面に噴射して加飾を行うことを特徴とする固形化粧料の加飾方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加飾用粉末分散組成物によれば、固形化粧料の表面をインクジェット印刷法を用いて安定に加飾することができ、しかも加飾した乾燥後の化粧料において、すぐれた使用性を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】増粘剤の比較試験の結果を示す図(一部図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の加飾用粉末分散組成物を以下に詳細に説明する。
【0016】
加飾用粉末分散組成物は、(A)寒天、クインスシード、及びペクチンから選択される一種又は二種以上からなる増粘剤0.1~0.8質量%を溶解した水溶液100重量部、に対し、(B)パール剤2~30重量部、を含有することを特徴とする。
【0017】
(A)成分の水溶液に用いる増粘剤は、寒天、クインシード、ペクチンのいずれか、または、これらのいずれか複数を組み合わせて配合することができる。増粘剤の配合量は、水溶液の全量に対し、0.1~0.8質量%とする。増粘剤の配合量が、0.1質量%より少ないと、インクジェットのノズル内でパール剤が凝集し、加飾用粉末分散組成物を安定に噴射することが困難となる。また、増粘剤の配合量が0.8質量%をこえると、乾燥後に形成される化粧料の表面の塗膜が強固となり、使用する際に塗膜が崩壊せず、塗膜下の化粧料を掬い取ることが困難となる。
【0018】
その他、(A)成分の水溶液には、化粧品分野あるいは医薬品分野で汎用される水性成分を配合することができる。水溶性成分としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の低級アルコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ムコイチン硫酸、カロニン酸、アテロコラーゲン、エラスチン、アミノ酸、核酸、コレステリル-12-ヒドロキシステアレート、乳酸ナトリウム、胆汁酸塩、dl-ピロリドンカルボン酸塩、短鎖可溶性コラーゲン、ジグリセリン(EO)PO付加物、イサイヨバラ抽出物、セイヨウノキギリソウ抽出物、メリロート抽出物等の保湿剤などが挙げられる。
【0019】
(B)成分のパール剤は、干渉色、真珠光沢、あるいは金属光沢を呈する板状又は球状の粉末であり、塗料や化粧料の分野において汎用される。このような光沢性を有するパール剤で固形化粧料の表面を加飾すると、加飾による模様や文字等が光輝性を呈して強調され、優れた美感を備えることができる。
【0020】
板状のパール剤としては、例えば、雲母チタン、酸化鉄被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、カルミン・コンジョウ被覆雲母チタン、酸化鉄・カルミン処理雲母チタン、コンジョウ処理雲母チタン、酸化鉄・コンジョウ処理雲母チタン、酸化クロム処理雲母チタン、黒酸化チタン処理雲母チタン、アクリル樹脂被覆アルミニウム末、シリカ被覆アルミニウム末、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、着色酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆合成マイカ、酸化チタン被覆シリカ、酸化チタン被覆アルミナ、酸化チタン被覆ガラス粉、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等が挙げられる。
【0021】
これらの市販品の具体例としては、BASF社のCLOIZONNEシリーズ、MERCK社のCOLORONA(登録商標)シリーズ、TIMIRON(登録商標)シリーズ、CQV社のCosmeticaシリーズ、日本光研工業社のTWINCLEPEARL(登録商標)シリーズ、日本板硝子社のメタシヤイン(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0022】
球状のパール剤としては、球状の二酸化ケイ素、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等の表面を二酸化チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄等で被覆した複合粉末が挙げられるが、この複合粉末については特開平11-236315号公報に記載がある。
【0023】
パール剤の粒径は、6~110μmが好ましいが、さらには6~70μmが好ましく、特に、6~50μmが好ましい。このような粒径のパール剤を使用することで、インクジェットのノズルからパール剤の分散液を安定に噴射することができ、しかも乾燥後の化粧料においてすぐれた使用性を得ることが可能となる。
【0024】
(B)成分のパール剤の配合量は、(A)成分の水溶液100重量部に対し、2~30重量部とする。このような量でパール剤を配合すると、化粧料の表面を美麗に加飾できるとともに、インクジェットのノズルに目詰まりが生じることなく安定に加飾作業を継続することができる。パール剤の配合量が2重量部より少ないと十分な加飾効果を得ることができず、30重量部より多いと、ノズルが詰まり、安定した加飾作業を維持することが困難となる。
【0025】
その他、(A)成分の水溶液には、顔料や機能性粉末を配合することができる。顔料や機能性粉末を配合することにより、さらに見栄えや使用性の向上が可能となる。また、これらの粉末は、表面処理を施すなどして適宜分散性を調整してもよい。
【0026】
(A)成分の水溶液は、さらにHLB9~9.5の界面活性剤を含有することができる。(A)成分の水溶液には、顔料や機能性粉末等を配合することができるが、これら粉末の種類や配合する量によっては、水溶液に均一に分散せず、色むらが生じたり、優れた使用性が十分に発揮されない場合がある。(A)成分の水溶液にHLB9~9.5の界面活性剤を配合することで、顔料等の分散不良を解消し色むら等の問題を防止することが可能となる。
【0027】
本発明の加飾用粉末分散組成物は、インクジェットのノズルから噴射され、アイシャドー、ファンデーション、口紅等の固形化粧料の表面に付着し、固形化粧料を美麗に加飾することを可能とするものであるが、必ずしもインクジェットに限らず、他の方法により塗布した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0028】
加飾の対象となる固形化粧料は、ファンデーション、アイシャドー、口紅、リップクリーム等のメーキャップ化粧料やヘアスティック等の毛髪化粧料など、固形状の化粧料であれば特に限定されるものではないが、パール剤により美麗な加飾効果を発揮するための固形化粧料としては、ファンデーション、アイシャドー等の粉末固形化粧料が特に好ましい。また、固形化粧料は、成形方法により限定されるものではなく、湿式成形、乾式成形、油性成形など、広く採用することができる。
【実施例
【0029】
本発明の加飾用粉末分散組成物について行った効果の確認試験を実施例として記載する。
【0030】
試料は、まず水に所定量の寒天等の増粘剤を溶解した水溶液を調整し、つぎに、この水溶液100重量部に対し、所定量のパール剤等をアウトパーツとして配合することにより作製した。
【0031】
図1は、(A)成分に配合する増粘剤の種類について検討した結果を示す。各種増粘剤を配合した試料について、インクジェットの吐出性(ノズルの詰まりにくさ)と使用性を評価した。使用性は、化粧料の表面に形成された塗膜が、使用する際、容易に崩壊し、化粧料を十分すくい取ることができるか確認した。
【0032】
吐出性については、HOLBEIN社製のエアブラシを用い、ノズルの孔径:0.2mm、噴射圧力:0.15MPa、噴射量:0.03ml/秒、噴射時間:1秒の条件で評価した。尚、ノズルの孔径:0.1~0.8mm、噴射圧力:0.1~0.3MPa、噴射量:0.03~0.15ml/秒、噴射時間:1~5秒の範囲内であれば、同様の評価結果となる。
【0033】
使用性(塗膜崩壊性)は、通常行う化粧操作により化粧ブラシを使用して、加飾した固形化粧料(アイシャドー)の表面を1回擦り、塗膜の崩壊の程度を評価した(パネラー10名)。
【0034】
図1に示すように、増粘剤としてベントナイトを配合した試料は、ノズルが詰まり噴射することができず、化粧料を加飾することができなかった(比較例1)。また、キサンタンガムでは、化粧料の表面に強固な塗膜が形成され、化粧料をすくい取ることができなかった(比較例2)。増粘剤として、寒天、クインスシード、ペクチンを配合した試料は、いずれも良好な結果であることを確認した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1は、増粘剤の配合量について検討した結果を示す。増粘剤(寒天)を0.1~0.8質量%配合した試料(実施例4~8)では、使用性(塗膜崩壊性)、吐出性(ノズル詰まり)ともに良好な結果を得ることができた。
【0037】
【表2】
【0038】
表2は、パール剤の配合量について検討した結果を示す。パール剤を2~30重量部配合した試料(実施例9~13)では、吐出性(ノズル詰まり)、外観(加飾)ともに良好な結果を得ることができた。
【0039】
【表3】
【0040】
表3は、アウトパーツとしてパール剤と顔料を配合した試料について、界面活性剤の種類による分散性への影響について検討した結果を示す。水溶液にHLB9~9.5の界面活性剤を配合した試料(実施例14、15)では良好な分散性を示し、顔料による優れた発色を確認することができた。
図1