(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】金属の分離方法、および、金属の分離装置
(51)【国際特許分類】
C22B 3/42 20060101AFI20230323BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20230323BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20230323BHJP
C22B 13/00 20060101ALI20230323BHJP
C22B 19/20 20060101ALI20230323BHJP
C22B 17/00 20060101ALI20230323BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20230323BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20230323BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20230323BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C22B3/42
C22B23/00 102
C22B15/00 104
C22B13/00 101
C22B19/20
C22B17/00 101
C22B47/00
C22B3/02
C02F1/42 G
C02F1/42 A
B01J45/00
(21)【出願番号】P 2020134391
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】599049794
【氏名又は名称】株式会社 イージーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】近藤 治郎
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-130175(JP,A)
【文献】特表2002-504190(JP,A)
【文献】特開2016-7601(JP,A)
【文献】特開2001-20021(JP,A)
【文献】特開平6-108169(JP,A)
【文献】特開2002-105633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/42
C22B 23/00
C22B 15/00
C22B 13/00
C22B 19/20
C22B 17/00
C22B 47/00
C22B 3/02
C02F 1/42
B01J 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A群から選ばれる少なくとも1種の金属(A群金属)と、下記B群から選ばれる少なくとも1種の金属(B群金属)と、を含む水溶液と、下記酸と、下記アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る混合工程(1)と、
前記混合工程(1)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する分離工程(2)と、
を含む、金属の分離方法。
A群:ニッケル、銅、鉛、亜鉛、および、カドミウム
B群:コバルト、鉄、および、マンガン
酸:カルボン酸およびその錯体、ラクトン構造を有する化合物、ならびに、グルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種
アルカリ:アンモニア、および、アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
さらに、前記分離工程(2)で得られたA群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂から、前記A群金属を回収するA群金属回収工程(3)を含む、請求項1に記載の金属の分離方法。
【請求項3】
さらに、前記分離工程(2)で得られたB群金属の酸錯体を含む水溶液から、前記B群金属を回収するB群金属回収工程(4)を含む、請求項1または2に記載の金属の分離方法。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂がキレート樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項5】
前記混合工程(1)で得られた混合溶液のpHが8.5以上14以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項6】
前記酸がヒドロキシ酸およびその錯体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項7】
前記酸がクエン酸である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項8】
前記アルカリがアンモニアである、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項9】
前記A群金属がニッケルであり、前記B群金属がコバルトである、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項10】
前記分離工程(2)では、混合溶液とイオン交換樹脂との接触を、イオン交換樹脂が充填されたカラムに混合溶液を通液することにより実施し、
該カラムに混合溶液を通液する速度は、0.05L/時以上20L/時以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属の分離方法。
【請求項11】
下記A群から選ばれる少なくとも1種の金属(A群金属)と、下記B群から選ばれる少なくとも1種の金属(B群金属)と、を含む水溶液と、下記酸と、下記アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る混合部(11)と、
前記混合部(11)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する分離部(12)と、
前記分離部(12)により分離されたB群金属の酸錯体を含む水溶液を貯水する貯水部(13)と、
を含む、金属の分離装置。
A群:ニッケル、銅、鉛、亜鉛、および、カドミウム
B群:コバルト、鉄、および、マンガン
酸:カルボン酸およびその錯体、ラクトン構造を有する化合物、ならびに、グルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種
アルカリ:アンモニア、および、アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【請求項12】
さらに、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂から、前記A群金属を回収するA群金属回収部(14)を含む、請求項11に記載の金属の分離装置。
【請求項13】
さらに、B群金属の酸錯体を含む水溶液から、前記B群金属を回収するB群金属回収部(15)を含む、請求項11または12に記載の金属の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の分離方法、および、金属の分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車のバッテリー等に用いられるリチウムイオン電池の正極材料として、ニッケルおよびコバルトの需要が高まっている。ニッケルおよびコバルトは、資源を有効活用する観点から、正極材の製造工程において発生する廃液から回収して、再利用することが検討されている。
【0003】
ところが、ニッケルおよびコバルトのように化学的に類似した性質を有する金属が水溶液中に含まれる場合、これらの金属を分離することは容易でなく、これまでに種々の方法で検討が進められている。例えば、特許文献1では、ニッケルおよびコバルトの両方をイオン交換樹脂に吸着させた後、硫酸溶液によりニッケルおよびコバルトを溶離し、さらに、有機溶媒抽出法等を用いてニッケルおよびコバルトを分離する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案される方法では、ニッケルおよびコバルトの両方がイオン交換樹脂に吸着するため、別途、有機溶媒抽出法等によりニッケルおよびコバルトを分離する必要があり、工程が煩雑である。また、有機溶媒抽出法は、環境負荷およびコストの点で問題がある。このような問題は、ニッケルおよびコバルトに限られず、化学的に類似した性質を有する他の金属においても同様に存在する。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、環境負荷およびコストを低減すると共に、効率良く金属を分離させることが可能な金属の分離方法、および、金属の分離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属の分離方法は、下記A群から選ばれる少なくとも1種の金属(A群金属)と、下記B群から選ばれる少なくとも1種の金属(B群金属)と、を含む水溶液と、下記酸と、下記アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る混合工程(1)と、前記混合工程(1)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する分離工程(2)と、を含む。
A群:ニッケル、銅、鉛、亜鉛、および、カドミウム
B群:コバルト、鉄、および、マンガン
酸:カルボン酸およびその錯体、ラクトン構造を有する化合物、ならびに、グルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種
アルカリ:アンモニア、および、アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【0008】
本発明に係る金属の分離装置は、下記A群から選ばれる少なくとも1種の金属(A群金属)と、下記B群から選ばれる少なくとも1種の金属(B群金属)と、を含む水溶液と、下記酸と、下記アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る混合部(11)と、前記混合部(11)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する分離部(12)と、前記分離部(12)により分離されたB群金属の酸錯体を含む水溶液を貯水する貯水部(13)と、を含む。
A群:ニッケル、銅、鉛、亜鉛、および、カドミウム
B群:コバルト、鉄、および、マンガン
酸:カルボン酸およびその錯体、ラクトン構造を有する化合物、ならびに、グルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種
アルカリ:アンモニア、および、アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境負荷およびコストを低減すると共に、効率良く金属を分離させることが可能な金属の分離方法、および、金属の分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験1の実施例1において、金属濃度を測定した結果を示すグラフである。
【
図2】試験1の比較例1において、金属濃度を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】試験1の比較例2において、金属濃度を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】試験2において、金属濃度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[金属の分離方法]
本実施形態に係る金属の分離方法は、A群から選ばれる少なくとも1種の金属(A群金属)と、B群から選ばれる少なくとも1種の金属(B群金属)と、を含む水溶液と、酸と、アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る混合工程(1)と、前記混合工程(1)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する分離工程(2)と、を含む。
【0013】
<混合工程(1)>
混合工程(1)では、A群金属と、B群金属と、を含む水溶液と、酸と、アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る。
【0014】
A群金属は、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、および、カドミウムから選ばれる少なくとも1種の金属である。また、B群金属は、コバルト、鉄、および、マンガンから選ばれる少なくとも1種の金属である。これらの中でも、A群金属がニッケルであり、B群金属がコバルトである場合には、リチウムイオン電池の正極材料として用いられるこれらの金属を効率良く分離させることができる。
【0015】
酸は、B群金属と優先的に結合して酸錯体を形成する。なお、「優先的に」とは、A群金属よりもB群金属の方が多く酸と結合することを意味する。すなわち、A群金属の一部が酸と結合していてもよい。また、B群金属の全部が酸と結合している必要はなく、B群金属の一部が酸と結合していなくてもよい。
【0016】
酸は、カルボン酸およびその錯体、ラクトン構造を有する化合物、ならびに、グルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。カルボン酸としては、例えば、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。ラクトン構造を有する化合物としては、例えば、アスコルビン酸等が挙げられる。これらの中でも、酸は、錯体を形成しやすいという観点から、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシ酸およびその錯体であることが好ましく、クエン酸であることがより好ましい。
【0017】
アルカリは、A群金属と優先的に結合してアルカリ錯体を形成する。なお、「優先的に」とは、B群金属よりもA群金属の方が多くアルカリと結合することを意味する。すなわち、B群金属の一部がアルカリと結合していてもよい。また、A群金属の全部がアルカリと結合している必要はなく、A群金属の一部がアルカリと結合していなくてもよい。
【0018】
アルカリは、アンモニア、および、アミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、アルカリは、錯体を形成しやすいという観点から、アンモニアであることが好ましい。
【0019】
得られた混合溶液のpHは、8.5以上14以下であることが好ましく、10以上12以下であることがより好ましい。混合溶液のpHが前記範囲内であることにより、後述する分離工程(2)において、イオン交換樹脂にA群金属のアルカリ錯体を吸着しやすくする。
【0020】
混合溶液は、pHを前記範囲に調整するため、上述のアルカリとは異なるその他のアルカリを含んでいてもよい。その他のアルカリとしては、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0021】
<分離工程(2)>
分離工程(2)では、前記混合工程(1)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する。A群金属のアルカリ錯体はイオン交換樹脂に吸着しやすい。一方で、B群金属の酸錯体はイオン交換樹脂に吸着しにくいため、B群金属の酸錯体を含む水溶液として流出する。これにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離することができる。なお、A群金属のアルカリ錯体は、全部がイオン交換樹脂に吸着する必要はなく、一部がイオン交換樹脂に吸着すればよい。A群金属のアルカリ錯体は、イオン交換樹脂によるA群金属の除去率が80%以上であることが好ましい。また、B群金属の酸錯体の一部が、イオン交換樹脂に吸着してもよい。
【0022】
このように、本実施形態に係る金属の分離方法では、分離工程(2)においてA群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離することができるため、別途、有機溶媒抽出法等を用いる必要がない。よって、本実施形態に係る金属の分離方法では、環境負荷およびコストを低減すると共に、効率良く金属を分離させることができる。
【0023】
イオン交換樹脂としては、例えば、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、両性イオン交換樹脂、キレート樹脂等が挙げられる。これらの中でも、イオン交換樹脂は、アルカリ錯体を吸着しやすいという観点から、キレート樹脂であることが好ましい。キレート樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、イミノ二酢酸型キレート樹脂、N-メチルグルカミン型キレート樹脂、アミノリン酸型キレート樹脂、チオ尿酸型キレート樹脂、アルキルアミノ基型キレート樹脂、ポリアミン型キレート樹脂、ピリジン系キレート樹脂、アミドオキシム型キレート樹脂、Fe錯体型キレート樹脂等が挙げられる。
【0024】
分離工程(2)では、混合溶液とイオン交換樹脂との接触を、イオン交換樹脂が充填されたカラムに混合溶液を通液することにより実施してもよい。カラムの素材は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、エスロン、ポリアセタール、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ナイロン等の樹脂;ガラス等が挙げられる。カラムは、透明であっても半透明であっても不透明であってもよいが、イオン交換樹脂の変化を目視で確認して交換時期を予測可能にする観点から、透明であることが好ましい。カラムの大きさは、特に限定されるものではなく、例えば、内径が10~600cm、高さが50~200cmのものを用いることができる。
【0025】
カラムに混合溶液を通液する速度は、アルカリ錯体を吸着しやすいという観点から、0.05L/時以上20L/時以下であることが好ましく、0.1L/時以上10L/時以下であることがより好ましい。
【0026】
<A群金属回収工程(3)>
本実施形態に係る金属の分離方法は、さらに、前記分離工程(2)で得られたA群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂から、前記A群金属を回収するA群金属回収工程(3)を含んでいてもよい。
【0027】
A群金属回収工程(3)では、例えば、前記分離工程(2)で得られたA群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂に塩酸、硫酸等の酸を通液してA群金属を含む水溶液を得た後、アルカリ沈殿法を用いてA群金属の水酸化物を回収することができる。
【0028】
<B群金属回収工程(4)>
本実施形態に係る金属の分離方法は、さらに、前記分離工程(2)で得られたB群金属の酸錯体を含む水溶液から、前記B群金属を回収するB群金属回収工程(4)を含んでいてもよい。
【0029】
B群金属回収工程(4)では、例えば、B群金属の酸錯体を含む水溶液のpHを、B群金属の酸錯体がイオン交換樹脂に吸着するよう調整した後、B群金属の酸錯体をイオン交換樹脂に吸着させ、さらに、該イオン交換樹脂に塩酸、硫酸等の酸を通液してB群金属を含む水溶液を得た後、アルカリ沈殿法を用いてB群金属の水酸化物を回収することができる。ここで、B群金属の酸錯体を含む水溶液のpHは、イオン交換樹脂にB群金属の酸錯体を吸着しやすくする観点から、4以上6以下であることが好ましい。
【0030】
[金属の分離装置]
本実施形態に係る金属の分離装置は、A群から選ばれる少なくとも1種の金属(A群金属)と、B群から選ばれる少なくとも1種の金属(B群金属)と、を含む水溶液と、酸と、アルカリと、を混合して、A群金属のアルカリ錯体とB群金属の酸錯体とを含む混合溶液を得る混合部(11)と、前記混合部(11)で得られた混合溶液とイオン交換樹脂とを接触させることにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離する分離部(12)と、前記分離部(12)により分離されたB群金属の酸錯体を含む水溶液を貯水する貯水部(13)と、を含む。
【0031】
混合部(11)では、上述の混合工程(1)を行う。混合部(11)において混合するA群金属とB群金属とを含む水溶液、酸およびアルカリは、上述のものを用いることができる。
【0032】
分離部(12)および貯水部(13)では、上述の分離工程(2)を行う。分離部(12)においてA群金属のアルカリ錯体をイオン交換樹脂に吸着させ、貯水部(13)にB群金属の酸錯体を含む水溶液を貯水することにより、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂と、B群金属の酸錯体を含む水溶液と、に分離することができる。
【0033】
本実施形態に係る金属の分離装置は、さらに、A群金属のアルカリ錯体を吸着したイオン交換樹脂から、前記A群金属を回収するA群金属回収部(14)を含んでいてもよい。A群金属回収部(14)では、上述のA群金属回収工程(3)を行う。
【0034】
本実施形態に係る金属の分離装置は、さらに、B群金属の酸錯体を含む水溶液から、前記B群金属を回収するB群金属回収部(15)を含んでいてもよい。B群金属回収部(15)では、上述のB群金属回収工程(4)を行う。
【0035】
なお、本実施形態に係る金属の分離方法、および、金属の分離装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記以外の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく、上記の1つの実施形態に係る構成や方法等を上記の他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例、および、比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[試験1]
<モデル廃液>
以下に示す方法で、モデル廃液A~Cを作製した。モデル廃液A~Cの各成分濃度(分析値)を表1に示す。
【0038】
(モデル廃液A)
(a)蒸留水3L中に塩化ナトリウム606gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(b)前記(a)で得られた溶液に、クエン酸1水和物586gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(c)前記(b)で得られた溶液に、塩化ニッケル(II)6水和物8.3gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(d)前記(c)で得られた溶液に、塩化コバルト8.2gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(e)前記(d)で得られた溶液に、25質量%水酸化ナトリウム溶液を加えて、pHを10.5に調整した。
【0039】
(モデル廃液B)
(a)蒸留水3L中に塩化ナトリウム606gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(b)前記(a)で得られた溶液に、塩化アンモニウム155gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(c)前記(b)で得られた溶液に、塩化ニッケル(II)6水和物8.3gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(d)前記(c)で得られた溶液に、塩化コバルト8.2gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(e)前記(d)で得られた溶液に、25質量%水酸化ナトリウム溶液を加えて、pHを10.5に調整した。
【0040】
(モデル廃液C)
(a)蒸留水3L中に塩化ナトリウム606gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(b)前記(a)で得られた溶液に、塩化アンモニウム155gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(c)前記(b)で得られた溶液に、クエン酸1水和物586gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(d)前記(c)で得られた溶液に、塩化ニッケル(II)6水和物8.3gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(e)前記(d)で得られた溶液に、塩化コバルト8.2gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(f)前記(e)で得られた溶液に、25質量%水酸化ナトリウム溶液を加えて、pHを10.5に調整した。
【0041】
【0042】
表1中、「Ni」は、ニッケル濃度を表し、「Co」は、コバルト濃度を表し、「TOC」は、全有機炭素濃度を表し、「NH4-N」は、アンモニア態窒素濃度を表し、「CL」は、塩化物イオン濃度を表す。
【0043】
なお、実施例及び比較例において、ニッケル濃度の測定は、JIS K 0102-59.1 ジメチルグリオキシム吸光光度法を、コバルト濃度の測定は、JIS K 0102-60.1 ニトロソR塩吸光光度法を、アンモニア態窒素濃度は、JIS K 0102-42.3 中和滴定法を用いて行った。ただし、アンモニア態窒素濃度は、アンモニウムイオンからアンモニア態窒素に換算した値を用いた。
【0044】
<イオン交換樹脂>
イオン交換樹脂として、イミノ二酢酸型のキレート樹脂(MC-700、住化ケムテックス株式会社製)を使用した。該キレート樹脂100mLを、200mLの樹脂製のメスシリンダー(カラム)に充填し、保持液面まで純水を満たした。
【0045】
<実施例1>
実施例1では、モデル廃液Cをカラムに通液し、経時的に採取した流出液中のニッケル及びコバルトの濃度を測定した。測定結果を表2および
図1に示す。なお、カラムに廃液を通液する速度は200mL/時(SV=2)であった。すなわち、1時間に当該カラム内容量100mLの2倍量を通液することになる。
【0046】
表2および
図1の結果から分かるように、供給量が0.8Lの時、ニッケルは5mg/L、コバルトは86mg/Lであった。また、供給量が17.6Lの時、ニッケルは5.2mg/L、コバルト95mg/Lであった。すなわち、本発明の構成要件を満たすモデル廃液Cを用いた実施例1では、ニッケルはイオン交換樹脂に吸着するが、コバルトはイオン交換樹脂に吸着されずに流出する。よって、ニッケルとコバルトとを分離することができる。
【0047】
<比較例1>
モデル廃液Cの代わりにモデル廃液Aを用いたこと以外は、実施例1と同様にカラムへの通液を行った。測定結果を表2および
図2に示す。
【0048】
表2および
図2の結果から分かるように、供給量4.3Lの時、ニッケルは59mg/L、コバルトは90mg/Lであった。また、供給量17.6Lの時、ニッケルは24mg/L、コバルト81mg/Lであった。すなわち、アルカリを含まないモデル廃液Aを用いた比較例1では、ニッケルおよびコバルトが共にイオン交換樹脂に吸着されずに流出する。よって、ニッケルとコバルトとを分離できない。
【0049】
<比較例2>
モデル廃液Cの代わりにモデル廃液Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にカラムへの通液を行った。測定結果を表2および
図3に示す。
【0050】
表2および
図3の結果から分かるように、どの供給量においてもニッケルおよびコバルトはほぼ0mg/Lであった。すなわち、酸を含まないモデル廃液Bを用いた比較例2では、ニッケルおよびコバルトが共にイオン交換樹脂に吸着される。よって、ニッケルとコバルトとを分離できない。
【0051】
【0052】
[試験2]
以下に示す方法で、モデル廃液Dを作製した。なお、モデル廃液Dは、試験1の実施例1において、イオン交換樹脂に吸着されずに流出した水溶液を想定したものである。モデル廃液Dにおけるコバルトの濃度は、100mg/Lであった。
(a)蒸留水3L中に塩化ナトリウム606gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(b)前記(a)で得られた溶液に、塩化アンモニウム155gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(c)前記(b)で得られた溶液に、クエン酸1水和物586gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(d)前記(c)で得られた溶液に、塩化コバルト16.3gを加え、よく攪拌して溶解させた。
(e)前記(d)で得られた溶液に、25質量%水酸化ナトリウム溶液を加えて、pHを4、6、8にそれぞれ調整した。
【0053】
pHを4、6、8にそれぞれ調整したモデル廃液Dを試験1と同様のカラムに通液し、経時的に採取した流出液中のコバルトの濃度を測定した。測定結果を表3および
図4に示す。なお、カラムに廃液を通液する速度は、試験1と同様である。
【0054】
表3および
図4の結果から分かるように、供給量が1.1Lの時、pH4:0mg/L、pH6:0mg/L、pH8:45mg/Lであり、供給量が3.8Lの時、pH4:9.6mg/L、pH6:0mg/L、pH8:51mg/Lであり、供給量が5.6Lの時、pH4:100mg/L、pH6:4.4mg/L、pH8:54mg/Lであった。すなわち、モデル廃液DのpHが4以上6以下であると、コバルトがイオン交換樹脂に吸着されやすい。
【0055】