(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ボリュメトリック光学コヒーレンストモグラフィ画像データ処理
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2021179160
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2021-11-02
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509012991
【氏名又は名称】オプトス ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラヴィーン アショク
(72)【発明者】
【氏名】アラン アンダーソン
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/160097(WO,A1)
【文献】特開2009-141692(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0029826(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光コヒーレンストモグラフィ(OCT)撮像システムによって取得された
眼の一部のBスキャンの列を含むCスキャンデータを処理して、前記OCT撮像システムによる前記Bスキャンの取得中に前記OCT撮像システムと前記
眼の一部の相対運動によって引き起こされ、それらの間の距離を変化させる、前記Bスキャンの列間の軸方向変位を補償するための補正データを生成する方法であって、
前記Bスキャンの列内の複数の隣接するBスキャンの対の各々について、前記隣接するBスキャン
における共通の眼特徴
の間の軸方向ずれの指標を決定し、
前記Bスキャンの列内の隣接するBスキャンの対に対応する位置における前記決定された指標の変動から、前記OCT撮像システムによる前記Bスキャンの取得中の前記OCT撮像システムと前記
眼の一部の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定することを含む方法。
【請求項2】
前記軸方向ずれの指標のそれぞれは、
前記隣接するBスキャンの対の間の相互相関を計算し、計算された前記相互相関のピークに対応するBスキャンの間のオフセットを指標として決定するか、または、
前記隣接するBスキャンの対における前記共通の眼特徴の各位置を識別し、前記撮像システムの軸方向に対応する前記Bスキャンの軸方向に沿って識別された前記位置の間の変位を決定することにより、前記隣接するBスキャンの各対について決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記
眼の一部が曲率を有し、前記方法が、
前記
眼の一部の曲率を示す変動の第2の周波数成分を決定することをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の周波数成分は、前記決定された指標の変動にm次多項式を当てはめることによって決定され、
前記決定された指標の変動の指標から前記m次多項式の値を減算して補正された指標の変動を算出し、前記補正された指標の変動にn次多項式を当てはめることにより、前記第1の周波数成分を決定され、m、nは整数であり、mはnよりも小さい、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記補正データを使用して、前記第1の周波数成分に基づくオフセットを前記Bスキャンの列におけるBスキャンに適用することによって、前記OCT撮像システムと前記
眼の一部の相対運動によって引き起こされる前記Bスキャンの列における前記Bスキャンの間の軸方向変位を補償することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の周波数成分は、
(i)前記指標の変動における指標とn次多項式の対応する値との差として算出された複数の残差値を算出し、
(ii)複数の残差値が、第1の正の閾値を超えるか、または第1の負の閾値を下回る外れ値を含むかどうかを決定し、
(iii)前記複数の残差値が前記外れ値を含むと決定された場合、前記外れ値に対応する指標を前記指標の変動から除去して更新された指標の変動を生成し、前記残差値が前記外れ値を含まないと決定された場合、前記n次多項式を第1の周波数成分として決定して処理を終了し、
(iv)n次多項式を更新された指標の変動に当てはめる、
前記(i)~(iv)のステップを含む処理の少なくとも2つの反復をさらに実行することによって決定され、
ここで、前記複数の残差値における各残差値は、前記指標の前記補正された変動の指標と、前記指標の前記補正された変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との間の差として、前記処理の第1の反復において計算され、
前記複数の残差値における各残差値は、前記処理の残りの1つ以上の反復の各反復において、前記処理の前の反復において生成された指標の前記更新された変動における指標と、前記処理の前の反復において生成された指標の前記更新された変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として計算される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の残差値のうち、第2の正の閾値よりも大きいか、または第2の負の閾値よりも小さい残差値の数を決定し、ここで、前記第2の正の閾値は前記第1の正の閾値よりも小さく、前記第2の負の閾値は前記第1の負の閾値よりも大きく、
前記決定された残差値の数が第3の閾値よりも小さい場合、前記Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を、前記Bスキャンの列におけるBスキャンに前記第1の周波数成分に基づくオフセットを適用することによって補償し、
前記決定された残差値の数が前記第3の閾値以上である場合、前記Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償しないと決定することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生成された補正データの信頼性を示す信頼性指標を、
前記Bスキャンの列におけるBスキャンの対を使用して、前記Bスキャンの対が取得されたときの前記OCT撮像システムに対する前記
眼の一部の構造の速度及び加速度の少なくとも1つを示す計量の各値を計算し、
前記計量の計算値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えるかどうかを決定し、
前記計量の計算値のうちの少なくとも所定の数が前記第4の閾値を超えたと決定された場合、前記補正データが信頼できないことを示すように前記信頼性指標を設定し、
前記計量の計算値のうちの少なくとも所定の数が前記第4の閾値を超えないと決定された場合、補正データが信頼できることを示すように前記信頼性指標を設定することをさらに含む、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記信頼性指標が、前記補正データが信頼できることを示すように設定された場合、前記Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を、前記Bスキャンの列におけるBスキャンに前記第1の周波数成分に基づくオフセットを適用することによって補償することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
プロセッサによって実行されると、請求項1~9の少なくとも1項に記載の方法をプロセッサに実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項11】
光コヒーレンストモグラフィ(OCT)撮像システムによって取得された
眼の一部のBスキャンの列を含むCスキャンデータを処理して、前記OCT撮像システムによるBスキャンの取得中に前記OCT撮像システムと
前記眼の一部の相対運動によって引き起こされ、前記OCT撮像システムによるBスキャンの取得中にそれらの間の距離を変化させる、Bスキャンの列間の軸方向変位を補償するための補正データを生成するデータ処理装置であって、
前記Bスキャンの列における隣接するBスキャンの複数の対の各対について、前記隣接するBスキャンにおける共通の眼特徴
の間の軸方向ずれの指標を決定するように構成された軸方向ずれ決定部と、
前記列内の対応する隣接するBスキャンの対の位置を有する決定された指標の変動から、前記OCT撮像システムによるBスキャンの取得中の前記OCT撮像システムと
前記眼の一部の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定するように構成された周波数成分決定部と、を備えたデータ処理装置。
【請求項12】
前記軸方向ずれ決定部は、前記隣接するBスキャンの各対に対する軸方向ずれの各指標を、
前記隣接するBスキャンの対の間の相互相関を計算し、計算された前記相互相関のピークに対応するBスキャンの間のオフセットを指標として決定するか、または、
前記隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の各位置を識別し、前記撮像システムの軸方向を表すBスキャンの軸に沿って、前記識別された位置の間の変位を決定するように構成されている請求項11に記載のデータ処理装置。
【請求項13】
前記
眼の一部は、曲率を有し、前記周波数成分決定部は、前記変動のうち、前記
眼の一部の曲率を示す第2の周波数成分を決定するようにさらに構成されている請求項11又は請求項12に記載のデータ処理装置。
【請求項14】
前記周波数成分決定部は、
m次多項式を前記決定された指標の変動に当てはめることによって前記第2の周波数成分を決定し、
前記決定された指標の変動における指標から前記m次多項式の値を減算して補正された指標の変動を生成し、前記補正された指標の変動にn次多項式を当てはめることにより、前記第1の周波数成分を決定するように構成され、ここで、mとnは整数であり、mはnより小さい請求項13に記載のデータ処理装置。
【請求項15】
前記OCT撮像システムによるBスキャンの取得中に、前記OCT撮像システムと
前記眼の一部の相対運動によって引き起こされる前記Bスキャンの列におけるBスキャン間の変位を、前記Bスキャンの列におけるBスキャンに前記第1の周波数成分に基づくオフセットを適用することによって補償するように構成された変位補償部をさらに含む、請求項11~14のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の例示的な態様は、概して、眼科用光コヒーレンストモグラフィ(OCT)撮像システムの分野に関する。より詳細には、OCT撮像システムによってBスキャンを取得する間にOCT撮像システムと撮像対象との間の距離を変化させるOCT撮像システムの相対運動によって引き起こされる、取得されたBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するための補正データを生成するために、OCT撮像システムによって生成されたCスキャンデータを処理するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜などの被検眼の一部を典型的なボリュメトリック光学コヒーレンストモグラフィ(OCT:volumetric Optical Coherence Tomography)スキャン(Cスキャンとも呼ばれる)により取得するには、約1~5秒かかる可能性がある。この間、OCTビームが、OCT撮像システムによって第1のスキャン方向に繰り返し走査されることで(2次元)Bスキャンの列が記録される。Bスキャンの各々は、第1のスキャン方向に沿って網膜の表面上の各点で記録される軸方向スキャン(Aスキャン)の列を含む。Bスキャンの列におけるBスキャンは、通常、第1の方向と直交する方向に配列されている。Cスキャンの取得中、眼は、通常、被験者の不随意の動きのために、(OCTビームの方向に沿って)軸方向に移動する可能性がある。Cスキャン画像のレンダリングを成功させ、Cスキャン画像に基づいて実行される後続の測定の精度を保証するために、Cスキャンの取得中に被検体の動きによって引き起こされるモーションアーチファクトを補正する必要がある場合がある。被検体の動きによって引き起こされるいくつかのBスキャンの間の軸方向のずれを補正するための補償がBスキャンデータに対して実行されない場合、網膜層の識別およびその後の診断測定の精度は、悪影響を受ける可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らが考案した本発明の第1の実施形態によれば、OCT撮像システムによって取得された撮像対象のBスキャンの列を含むCスキャンデータを処理して、OCT撮像システムによるBスキャンの取得中にOCT撮像システムと撮像対象の距離を変化させる相対運動によって引き起こされるBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するための補正データを生成する方法が提供される。この方法は、列内の隣接するBスキャンの複数の対の各々について、隣接するBスキャン内の共通の眼特徴の各表現の間の軸方向ずれの指標を決定することによって、補正データを生成することを含む。この方法は、さらに、列内の隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する決定された指標の変動から、Bスキャン取得中のOCT撮像システムにおける、OCT撮像システムと撮像対象の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定することを含む。
【0004】
軸方向ずれの各指標は、隣接するBスキャンの対の間の相互相関を計算し、計算された相互相関のピークに対応するBスキャン間のオフセットを指標として決定することによって、隣接するBスキャンの対ごとに決定され得る。
【0005】
あるいは、軸方向ずれの各指標は、隣接するBスキャンの対のBスキャンにおける共通の眼特徴の各位置を識別し、撮像システムの軸方向を表すBスキャンの軸に沿った識別された位置の間の変位を決定することによって、隣接するBスキャンの各対について決定されてもよい。
【0006】
上記に記載された方法は、撮像対象の曲率を示す変動の第2の周波数成分を決定するステップをさらに含むことができる。この場合、第2の周波数成分は、決定された指標の変動にm次の多項式を当てはめることによって決定され、第1の周波数成分は、決定された指標の変動における指標からm次の多項式の値を減算して補正された指標の変動を生成し、n次の多項式を補正された指標の変動に当てはめることによって決定されてもよく、ここで、mおよびnは整数であり、mはnよりも小さい。
【0007】
上記の方法は、第1の周波数成分に基づくオフセットをBスキャン列におけるBスキャンに適用することによって、OCT撮像システムと撮像対象(20)の相対運動によって引き起こされるBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するために、補正データを使用することをさらに備え得る。この場合、第1の周波数成分は、以下のステップを含む処理の少なくとも2つの反復をさらに実行することによって決定され得る。
(i)指標の変動における指標とn次多項式の対応する値との差として算出された複数の残差値を算出する。
(ii)複数の残差値が、第1の正の閾値を超えるか、または第1の負の閾値を下回る外れ値を含むかどうかを決定する。
(iii)複数の残差値が外れ値を含むと決定された場合、外れ値に対応する指標を指標の変動から除去して更新された指標の変動を生成し、残差が外れ値を含まないと決定された場合、n次多項式を第1の周波数成分として決定し、処理を終了する。
(iv)n次多項式を更新された指標の変動に当てはめる。
ここで、複数の残差値における各残差値は、補正された指標の変動における指標と、補正された指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との間の差として、処理の第1の反復において計算され、複数の残差値における各残差値は、処理の前回の反復において生成された更新された指標の変動における指標と、処理の前回の反復において生成された更新された指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として、処理の残りの1つ以上の反復の各反復において計算される。本方法は、第2の正の閾値よりも大きいかまたは第2の負の閾値よりも小さい大きさを有する複数の残差値における残差値の数を決定し、ここで、第2の正の閾値が第1の正の閾値よりも小さく、第2の負の閾値が第1の負の閾値よりも大きく、決定された残差値の数が第3の閾値よりも小さい場合、第1の周波数成分に基づくオフセットをBスキャンの列におけるBスキャンに適用することによって、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償し、決定された残差値の数が第3の閾値よりも小さくない場合、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償しないことを決定することを含む。
【0008】
上記に記載の方法は、Bスキャンの列におけるBスキャンの対を使用して、Bスキャンの対が取得されたときのOCT撮像システムに対する撮像対象構造の速度および加速度のうちの少なくとも1つを示す計量の各値を、Bスキャンの列におけるBスキャンの対を使用して計算することによって、生成された補正データの信頼性を示す信頼性指標を生成し、計量の計算された値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えるかどうかを判断し、計量の計算された値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えると判断された場合、補正データが信頼できないことを示すよう信頼性指標を設定し、計量の計算された値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えないと判断された場合、補正データが信頼できることを示すよう信頼性指標を設定することをさらに含む。本方法は、信頼性指標が、補正データが信頼できることを示すよう設定された場合、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を、第1の周波数成分に基づくオフセットをBスキャンの列におけるBスキャンに適用することによって補償することをさらに含む。
【0009】
さらに、本発明者らは、本明細書の第2の例の態様に従って、プロセッサに上記で説明した方法を実行させるコンピュータプログラム命令を含むコンピュータプログラムを考案した。
【0010】
また、本発明者は、本発明の第3の態様によれば、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)撮像システムによって取得された撮像対象のBスキャンの列を含むCスキャンデータを処理し、OCT撮像システムによるBスキャンの取得時にOCT撮像システムと撮像対象の距離が変化することによって生じるBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向の変位を補償するための補正データを生成するように構成されたデータ処理装置を考案した。データ処理装置は、列内の隣接するBスキャンの複数の対の隣接するBスキャンの対毎に、隣接するBスキャン内の共通の眼特徴の各表現の間の軸方向ずれの各指標を決定するように構成された軸方向ずれ決定部を備える。データ処理装置は、さらに、周波数成分決定部を備え、周波数成分決定部は、軸方向ずれが、列内の隣接するBスキャンの対応する対の位置と共にどのように変化するかを示す決定された指標の変動から、OCT撮像システムによるBスキャンの取得中のOCT撮像システムと撮像対象の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定するように構成される。
【0011】
軸方向ずれ決定部は、隣接するBスキャンの対の間の相互相関を計算し、計算された相互相関のピークに対応するBスキャンの間のオフセットを指標として決定することによって、隣接するBスキャンの各対の軸方向ずれの各指標を決定するように構成され得る。あるいは、軸方向ずれ決定部は、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の各位置を識別し、撮像システムの軸方向を表すBスキャンの軸に沿った識別された位置の間の変位を決定することによって、隣接するBスキャンの各対に対する軸方向ずれの各指標を決定するように構成されてもよい。
【0012】
周波数成分決定部は、撮像対象の曲率を示す変動の第2の周波数成分を決定するようにさらに構成され得る。この場合、周波数成分決定部は、決定された指標の変動にm次の多項式を当てはめることによって第2の周波数成分を決定し、決定された指標の変動の指標からm次の多項式の値を減算することによって第1の周波数成分を決定して補正された指標の変動を生成し、n次の多項式を補正された指標の変動に当てはめるように構成することができ、ここで、mおよびnは整数であり、mはnよりも小さい。
【0013】
上記のデータ処理装置は、OCT撮像システムによるBスキャンの取得中に、OCT撮像システムと撮像対象の相対運動によって引き起こされるBスキャンの列におけるBスキャン間の変位を、Bスキャンの列におけるBスキャンに第1の周波数成分に基づくオフセットを適用することによって補償するように構成された変位補償部をさらに備えることができる。
【0014】
周波数成分決定部は、以下のステップを含む処理の少なくとも2つの反復をさらに実行することによって、第1の周波数成分を決定するように構成され得る。
(i)指標の変動の指標とn次多項式の対応する値との差として算出された複数の残差値を算出する。
(ii)複数の残差値が、第1の正の閾値を超えるか、または第1の負の閾値を下回る外れ値を含むかどうかを決定する。
(iii)複数の残差値が外れ値を含むと決定された場合、外れ値に対応する指標を指標の変動から除去して更新された指標の変動を生成し、残差が外れ値を含まないと決定された場合、n次多項式を第1の周波数成分として決定し、処理を終了する。
(iv)n次多項式を更新された指標の変動に当てはめる。
ここで、複数の残差値における各残差値は、補正された指標の変動における指標と、補正された指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として、処理の第1の反復において計算され、複数の残差値における各残差値は、処理の前の反復において生成された更新された指標の変動における指標と、処理の前の反復において生成された更新された指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として、処理の残りの1以上の反復の各反復において計算される。周波数成分決定部は、第2の正の閾値よりも大きいか又は第2の負の閾値よりも小さい大きさを有する複数の残差値のうちのいくつかを決定し、第2の正の閾値が第1の正の閾値よりも小さく、第2の負の閾値が第1の負の閾値よりも大きく、決定された残差値の数が第3の閾値よりも小さい場合、第1の周波数成分に基づくオフセットをBスキャンの列におけるBスキャンに適用することによって、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償し、決定された残差値の数が第3の閾値よりも小さくない場合、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償しないように決定するようにさらに構成される。
【0015】
上記のデータ処理装置は、Bスキャンの列におけるBスキャンの対を使用して、Bスキャンの対が取得されたときのOCT撮像システムに対する撮像対象構造の速度および加速度のうちの少なくとも1つを示す計量の各値を計算し、計量の計算値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えるかどうかを決定し、計量の計算値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えると決定された場合、補正データが信頼できないことを示すよう信頼性指標を設定し、計量の計算値のうちの少なくとも所定の数が第4の閾値を超えないと決定された場合、補正データが信頼できることを示すよう信頼性指標を設定することをさらに含んでもよい。また、変位補償部は、信頼性指標が補正データの信頼性を示すように設定されている場合、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向の変位を、第1の周波数成分に基づくオフセットをBスキャンの列におけるBスキャンに適用することによって補償するように構成されていてもよい。
【0016】
以下、添付の図を参照しながら、非限定的な例としてのみ、例示的な実施形態を詳細に説明する。異なる図に現れる同様の参照番号は、特に断りのない限り、同一または機能的に同様の要素を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るCスキャンデータを処理するデータ処理装置の概略図である。
【
図2A】OCT撮像システムによる網膜の撮像中に、被検体の網膜とOCT撮像システムとの距離を変動させる被検体の移動の一例を示す図である。
【
図2B】OCT撮像システムによって取得されたBスキャンの列における隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の間の軸方向のずれの一例を図示し、軸方向のずれは、
図2Aに示される網膜の移動によって引き起こされる。
【
図3】本実施形態に係るデータ処理装置のプログラマブル信号処理ハードウェアにおける実装例を示すブロック図である。
【
図4】
図1のデータ処理装置がBスキャンの列を含むCスキャンデータを処理して、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するための補正データを生成する方法を示すフロー図である。
【
図5】指標値の列のいくつかのグラフを図示し、各指標値は、Bスキャンの列におけるBスキャンの対における共通の網膜特徴の間の軸方向のずれを示す。グラフは、指標値が、列内の隣接するBスキャンの対応する対の位置と共にどのように変化するかを示す。
【
図6】本明細書で説明される第1の実施形態例による、Bスキャン取得中のOCT撮像システムと網膜の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定するために、データ処理装置の周波数決定部によって実行され得る方法を示す。
【
図7】本明細書で説明される第2の実施形態例による、Bスキャン取得中のOCT撮像システムと網膜の相対運動を示す、変動の第1の周波数成分を決定するために周波数決定部によって実行され得る方法を示す。
【
図8】本明細書の一実施形態例による、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するかどうかを決定するために実行することができる方法を示す。
【
図9】データ処理装置の一部として設けられ得る信頼性指標生成部が、生成された補正データの信頼性を示す信頼性指標を生成するために実行可能な方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、実施形態に係るデータ処理装置10の概略構成図である。データ処理装置10は、OCT撮像システム30によって取得された撮像対象20のBスキャンの列を含むCスキャンデータを処理して、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向の変位を補償するための補正データを生成するように構成されている。また、撮像対象20は、本実施形態のように、被検者の眼25の網膜であってもよいし、例えば、眼25の前方領域など、曲率を有する眼25の他の部分であってもよい。この軸方向の変位は、OCT撮像システム30によるBスキャンの取得中にOCT撮像システム30と撮像対象20の間の距離を変化させる、OCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動によって引き起こされる。軸方向変位は、OCT撮像システム30の使用中に眼25に入射して網膜を撮像するOCT光ビーム40の伝播方向に沿った変位として理解することができる。
【0019】
OCT撮像システム30は、眼科用スキャナを使用して、OCT撮像光ビーム40を撮像対象20全体にわたって走査し、Cスキャンデータを取得し、このCスキャンデータはデータ処理装置10によって処理される。また、データ処理装置10は、本実施形態のように、PCやラップトップなどのスタンドアロンのプロセッサを含む装置として提供され、OCT撮像システム30と(直接又はインターネットなどのネットワークを介して)通信可能に接続され、Cスキャンデータを受信することができる。また、データ処理装置30は、OCT撮像システム30の一部として設けられていてもよい。OCT撮像システム30は、被検者の眼25からOCTデータを取得することができる、当業者に周知の任意の種類のOCTスキャナとすることができる。
【0020】
本実施形態に係るデータ処理装置10は、
図1に示されるように、Bスキャンの列における複数の隣接するBスキャンの対の各対において、隣接するBスキャンにおける共通の眼特徴の表現の間の軸方向ずれの各指標を決定するように構成された軸方向ずれ決定部2を備えている。この軸方向ずれは、本実施形態のように、軸方向(すなわち、Bスキャンを構成するAスキャンの各Aスキャンのデータが配列される方向であって、ここで当該データは、眼25に入射するOCT光ビーム40の伝播方向に沿った様々な深さでの測定によって得られたものである)に対応するBスキャンの軸に沿った隣接するBスキャンにおける共通の眼特徴のずれ(又はオフセット)を表すことができる。本実施形態では、軸方向ずれ決定部2によって処理されるBスキャンの列は、OCT撮像システム30によって取得されたCスキャンデータを形成するBスキャンの完全な列を含む。しかし、軸方向ずれ決定部2によって処理されるBスキャンの列は、前述の完全な列である必要はなく、代替的に、完全な列の部分列、例えば、Bスキャンの完全な列から1つおきずつBスキャンを抽出した部分列等としてもよいことに留意されたい。
【0021】
軸方向ずれ決定部2は、
図1に示されるように、信頼性指標生成部3をさらに備えてもよく、その機能は以下でより詳細に説明される。
【0022】
データ処理装置10は、さらに、周波数成分決定部4を備え、周波数成分決定部4は、列内の隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する決定された指標の変動から、OCT撮像システム30によるBスキャンの取得中のOCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定するように構成される。
【0023】
また、データ処理装置10は、本実施形態のように、OCT撮像システム30によるBスキャンの取得中に、OCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動に起因するBスキャンの列におけるBスキャン間の変位を、具体的には、Bスキャンの列におけるBスキャンに第1の周波数成分に基づくオフセットを適用することによって補償するために、補正データを使用するように構成された軸方向変位補償部6をさらに備えてもよい。
【0024】
Cスキャンは、眼球25の一部の3次元画像を提供するようにレンダリングすることができ、OCT光ビーム40を眼球25の2次元領域にわたってラスタパターンなどで走査することによって通常取得されるBスキャンの列を含む。Bスキャンは、OCT光ビーム40を一方向(例えば、表面又は網膜のX軸方向)に走査することで取得され、眼25の領域の2次元の断面図(X軸及びZ軸方向)を記録する。各Bスキャンは、複数のAスキャンを含み、各Aスキャンは、眼球25の単一の横方向の点に対する眼球25の軸/深さ方向(すなわち、Z軸に沿った)を表す画像データを提供する。
【0025】
図2Aは、OCT撮像システム30に対する撮像対象20(すなわち、この例では網膜)の動きの一例を示し、これによって、Cスキャンデータの収集中に網膜とOCT撮像システム30の間の距離が変化する。
図2Aの例に示されるように、Bスキャンの取得中の被検体の動きによって、網膜とOCT撮像システム30との距離が距離D(軸方向に沿った)だけ縮小される。
【0026】
図2Bは、
図2Aに示される眼球25とOCT撮像システム30の相対移動の前後に捕捉された、210及び220で示された隣接するBスキャンの対で観察される、共通の眼特徴の位置の軸方向ずれを示す。本例では、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴は、眼25の網膜層230である。
図2Bに示されるように、Bスキャンの取得中に生じる網膜の移動のために、Bスキャン220における網膜層230の位置は、Bスキャン210におけるその位置に対してBスキャンのY軸に沿ってdピクセルの距離だけオフセットされる。
図2Bにおいて、Bスキャン210、220のY軸は軸方向を示し、X軸は網膜の表面に沿った横方向を示す。補正されない場合、隣接するBスキャンにおける網膜層230の軸方向のずれによって、Cスキャンデータのレンダリングにモーションアーチファクトが現れ、これによって、網膜下特徴の適切な診断または測定の実行が妨げられる可能性がある。
【0027】
図3は、プログラマブル信号処理ハードウェア300の概略図であり、プログラマブル信号処理ハードウェア300は、本明細書で説明する技法を使用してCスキャンデータを処理するように構成することができ、第1の実施形態例の軸方向ずれ決定部2、信頼性指標生成部3、周波数成分決定部4、および変位補償部6として機能することができる。
【0028】
プログラマブル信号処理装置300は、OCT撮像システム30と通信してCスキャンデータを受信するための通信インターフェース(I/F)310を備えている。信号処理装置300は、プロセッサ(例えば、中央処理装置、CPU、及び/又はグラフィックス処理ユニット、GPU)320、ワーキングメモリ330(例えば、ランダムアクセスメモリ)、並びにプロセッサ320によって実行されると、本明細書で説明される軸方向ずれ決定部2、信頼性指標生成器部3、周波数成分決定部4、及び変位補償部6の機能を含む様々な機能をプロセッサ320に実行させるコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム390を記憶する命令ストア340を更に含む。ワーキングメモリ330は、コンピュータプログラム390の実行時にプロセッサ320が使用する情報を記憶する。命令ストア340は、コンピュータ可読命令がプリロードされたROM(例えば、EEPROM(electrically-erasable programmable read-only memory)またはフラッシュメモリの形態の)を含むことができる。あるいは、命令ストア340は、RAMまたは同様のタイプのメモリを備えることができ、コンピュータプログラム390のコンピュータ可読命令は、CD-ROM、DVD-ROMなどの形態の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体350、またはコンピュータ可読命令を搬送するコンピュータ可読信号360などのコンピュータプログラム製品からそれに入力することができる。いずれの場合も、コンピュータプログラム390は、プロセッサ320によって実行されると、本明細書で説明するようなCスキャンデータを処理する方法をプロセッサ320に実行させる。なお、軸方向ずれ決定部2、信頼度指標生成部3、周波数成分決定部4、及び変位補償部6は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのプログラム不可能なハードウェアによって実現されてもよい。
【0029】
図4は、
図1のデータ処理装置10がCスキャンデータを処理して、取得されたBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するための補正データを生成する方法を示すフロー図である。
【0030】
図4のステップS10において、軸方向ずれ決定部2は、隣接するBスキャンの複数の対の隣接するBスキャンの対毎に、隣接するBスキャンにおける共通の眼特徴の表現間の軸方向ずれの指標を決定する。また、軸方向ずれの指標は、本実施形態のように、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の座標間の距離であって、Bスキャンの軸方向に対応する上記軸方向の軸に沿った距離であってもよい。ただし、軸方向ずれの指標はこれに限定されず、距離に基づいて決定される何等かの値であってもよい。一例として、k=1、2、…、N+1の場合のN+1個のBスキャンの列Bkについて、i=1、2、…、Nの場合のN個の指標Siの集合を、Bスキャンの列におけるBスキャンのN個の対応する対から導出することが可能であり、ここで、指標S
iは、BスキャンB
k=iおよびB
k=i+1から導出され、Bスキャンの対B
k=iおよびB
k=i+1における共通の眼特徴の各表現の間の軸方向のずれを示す。したがって、指標インデックスiは、指標SiをもたらしたBスキャンの列における隣接するBスキャンの対の位置に対応する。
【0031】
また、軸方向ずれの指標は、本実施形態のように、隣接するBスキャン同士の相互相関を算出し、算出した相互相関のピークに対応するBスキャン同士のオフセットを指標として決定することにより、隣接するBスキャン同士の対毎に決定されてもよい。相互相関は、例えば、(Bスキャンの対のうちの)一方のBスキャンにおける眼特徴の表現の位置における(Bスキャンの両軸に沿った)オフセットを、他方のBスキャンにおける同一の眼特徴の表現の位置に対するものとして決定する、隣接するBスキャンの対の正規化された2次元相互相関とすることができる。しかし、軸方向に対応するBスキャンの軸に沿った決定されたオフセットのみを、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の各表現の間の軸方向のずれの指標とみなすことができる。いくつかの状況では、Bスキャンの取得中の眼の横方向の動きが無視できる程度である場合、隣接するBスキャンの対の一次元の相互相関を実行することができ、計算された一次元の相互相関のピークに対応するBスキャン間のオフセットを、軸方向のずれの指標とみなすことができる。
【0032】
また、本実施形態では、相互相関を用いて軸方向ずれの指標を算出しているが、他の適切な方法を採用してもよい。例えば、代替の実施形態では、軸方向ずれの指標は、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の各位置を識別し、上述したように軸方向に対応するBスキャンの軸に沿った識別された位置の間の変位を決定することによって、隣接するBスキャンの各対について決定することができる。隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の各位置は、例えば、機械学習アルゴリズム又は任意の他の適切な画像処理アルゴリズムを使用して識別することができる。
【0033】
図4のステップS20において、周波数成分決定部4は、Bスキャンの列における隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する決定された指標の変動から、OCT撮像システム30によるBスキャンの取得中の、OCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動を示す変動の第1の周波数成分を決定する。Bスキャンの列における隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する決定された指標の変動は、Bスキャンの列における隣接するBスキャンの各対の間の軸方向のずれが、Bスキャンの列におけるBスキャンの対の位置と共にどのように変動するかを表すものとして理解することができる。言い換えると、決定された指標の集合S
i、i=1、2、…、Nについて、Bスキャンの列における隣接するBスキャンの対応する対の位置による決定された指標の変動は、インデックスiの値に対するSiの値の変動として理解することができる。
【0034】
図5は、眼25における撮像対象20のBスキャンの6つの異なる列から決定された指標の6つの異なる集合に対応する6つの例示的なグラフを示す。各グラフは、対応するBスキャンの列について決定された指標の変動を示し、各指標は、列中の隣接するBスキャンの対を相互相関させることによって計算され、隣接するBスキャンの対の間の軸方向のずれを表す。
図5の例では、隣接するBスキャンの各対について決定された指標が、隣接するBスキャンの対にも対応し、したがってBスキャンの列における隣接するBスキャンの対の位置を表す指標インデックスiに対してグラフされている。
図5に示されるように、Bスキャンの列における隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する決定された指標の変動は、異なる原因に起因する複数の周波数成分を含むことができる。例えば、Bスキャンの列の取得中に眼25とOCT撮像システム30との相対運動によって生じる周波数成分に加えて、この変動は、グラフ510、520、及び530で観察することができる、例えば、網膜の湾曲によって生じる低周波成分などの様々な他の周波数成分を含むこともできる。特に、網膜の曲率に起因するBスキャンの列における眼特徴の軸方向ずれの割合が、被検体の動きに起因する軸方向ずれの割合よりも低い可能性があるため、網膜の曲率に起因する周波数成分を、眼球25の動きに起因する周波数成分よりも低くすることができる。さらに、列内の隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する指標の変動は、隣接するBスキャン間の疑似的相関から生じる高周波成分を含むこともある。このような高周波成分は、グラフ540、550、560において観察することができ、各グラフにおいて、指標値の変動における高周波成分の存在の一因となる多数のピークが示されている。
【0035】
図6は、第1の例示的な実装形態による、
図4のステップS20で第1の周波数成分を決定するために周波数決定部4によって実行され得るステップの流れ図を示す。
図6のステップS210において、周波数成分決定部4は、網膜の曲率を示す変動の第2の周波数成分を決定する。周波数成分決定部4は、本例のように、決定した指標の変動にm次の多項式を当てはめることで、第2の周波数成分を決定してよい(mは整数)。例えば、決定された指標の列S
i、i=1、2、…、Nは、N個のデータ点(x
i、S
i)、i=1、2、…、Nの集合として表すことができ、次いで、m次多項式P
m(x)を、データ点(x
i、S
i)内の指標Siに関連するX座標値をx
iとして、指標の列を表す等価データ点(x
i、S
i)、i=1~Nの集合にm次多項式を当てはめることによって、m次多項式P
m(x)を指標の列Si、i=1、2、…、Nに当てはめることができる。
【0036】
図6のステップS220において、頻度決定部4は、決定された指標の変動の指標からm次多項式の値を減算することで、補正後の指標の変動を生成する。例えば、データ点形式(x
i、S
i),i=1,2,…,Nで表された決定された指標の列Si、i=1、2、・・・、Nと指標の列に当てはめたm次多項式P
m(x)の場合、補正された指標の変動は、列値C
i=S
i-P
m(x
i)、i=1、2,…,Nにより与えられる。本例においては、網膜の曲率を示す、変動の第2の周波数成分は、決定された指標の変動に対して2次多項式を当てはめることによって決定される。しかし、撮像対象の期待曲率によっては、異なる次数の多項式を用いてもよい。2次多項式は、本実施例のように、最小二乗法を使用して当てはめられ、指標の変動と2次多項式との間の残差の二乗和を最小限に抑えてもよいが、他の方法で任意の適切な多項式回帰法を使用してもよい。網膜の曲率を表す2次多項式を保持し、後でCスキャンのレンダリングに使用することができる。
【0037】
図6のステップS230において、周波数決定部4は、補正された指標の変動C
i,i=1,2、…、N(nはmよりも大きい整数)にn次の多項式を当てはめることで、指標の変動の第1周波数成分を決定する。したがって、OCT撮像系30と撮像対象20との相対運動を示す第1周波数成分は、n次の多項式で表される。一例として、補正後の指標の変動C
i、i=1、2、…、Nをデータ点(x
i、C
i)、i=1、2、…、Nとして表し、n次多項式P
n(x)をデータ点(x
i、C
i)、i=1、2、…、Nに当てはめてもよい。いくつかの実施形態においては、周波数決定部4は、疑似的相関を起因とするデータ点の過剰適合を防ぐために、n次多項式を当てはめる前に平滑操作(例えば、移動平均フィルタ)を補正された指標に適用してもよい。本実施形態では、補正された指標の変動に対して、n次多項式として5次多項式を当てはめる。ただし、nの値はこれに限定されず、適宜選択すればよい。いくつかの実施形態では、nの値は、走査密度(例えば、網膜の単位面積当たり取得されるB走査の数)及び走査持続時間(すなわち、C走査データを取得するのに要する合計時間)などのC走査データを取得するためにOCT撮像システム30によって使用される走査パラメータに基づいて選択することができる。なお、一般的には、走査密度を高くし、走査時間を長くするために、n次多項式の値を大きくすればよい。
【0038】
また、本実施形態では、指標の変動に低次多項式関数を当てはめることで網膜の曲率を決定しているが、他の方法を用いてもよい。例えば、周波数成分決定部4は、指標(xi,Si)の変動i=1,2、…、Nを離散フーリエ変換して、指標の変動に対する周波数領域のサンプルを決定することで、網膜の曲率を示す第2の周波数成分を決定してもよい。周波数成分決定部4は、網膜の曲率に関連する所定の周波数範囲に対応する周波数領域サンプルの部分集合をさらに抽出することができる。周波数範囲は、例えば、網膜の予想される曲率に基づいて経験的に決定することができる。周波数決定部4は、さらに、周波数領域サンプルの部分集合に対して逆フーリエ変換を実行して、第2の周波数成分に対応する値を取得し、第2の周波数成分は、決定された指標の変動における指標から減算されて、補正された指標の変動を生成し得る。
【0039】
いくつかの例示的な実施形態では、後の使用のために抽出されるのではなく、第2の周波数成分が指標の変動から除去される必要があるだけである場合、周波数成分決定部4は、周波数領域サンプルの部分集合に対して逆フーリエ変換を実行し、指標の変動から第2の周波数成分に対応する取得された値を減算する代わりに、周波数領域サンプルの部分集合をゼロに設定することによって周波数領域サンプルを処理し、処理された周波数領域サンプルに対して逆フーリエ変換を実行して、補正された指標を直接的に取得するようにしてもよい。また、周波数成分決定部4は、指標の変動をバンドパスフィルタリングして網膜の曲率に対応する第2の周波数成分を除去し、補正後の指標の変動を求め、補正後の指標の変動にn次多項式を当てはめてもよい。網膜の予想される曲率に応じてバンドパスフィルタリング処理のより低いカットオフ周波数を選択してもよい。
【0040】
ただし、走査の空間的な範囲が網膜の曲率に対して小さい場合は、網膜の曲率を無視できると考えられるため、第2の周波数成分を決定する必要はない。この場合、n次多項式は、決定された指標列Si、i=1、2、…、Nに直接当てはめられ、OCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動を示す第1の周波数成分として決定されてもよい。
【0041】
再び
図4を参照すると、ステップS30において、変位補償部6は、第1の周波数成分を決定すると、OCT撮像システム30によるBスキャンの取得中に、OCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動によって引き起こされるBスキャンの列におけるBスキャン間の変位を、補正データを使用して、Bスキャンの列におけるBスキャンに第1の周波数成分に基づくオフセットを適用することによって補償する。本実施形態によれば、第1の周波数成分がn次の多項式P
n(x)で与えられるため、変位補償部6は、n次の多項式の値に基づいてBスキャン毎にBスキャンをオフセットさせてオフセットを適用してもよい。例えば、
図4のステップS20において、指標Ci、i=1、…、N(又はより詳細には、対応するデータ点(x
i、C
i)、i=1、2、…、N)の補正後の変動の列に当てはめられたn次多項式P
n(x)について、n番目の多項式のi=1、2、…、Nに対するP
n(x
i)の値の集合を求めることができる。i=1、2、…、Nの場合のP
n(x
i)の値の集合とBスキャンの列のマッピングを使用して、値の集合の各値P
n(x
i)、i=1、2、…、Nを使用してBスキャンの列をオフセットすることができる。本例では、指標S
iはBスキャンB
k=i及びB
k=i+1から導出されるので、多項式値P
n(x
i)を使用してBスキャンB
k=i+1をオフセットすることができる。しかし、各指標は、列内の隣接するBスキャン間の軸方向のずれを示すので、Bスキャンの列内の各BスキャンB
kに適用されるオフセットは、列内の先行する各Bスキャンに適用されるオフセットの累積和(すなわち、kよりも小さいインデックスを有する列内のBスキャン)も含まなければならない。言い換えると、列内の各BスキャンB
kに対して、軸方向の変位を補正するために、Σ
i=1
k-1P
n(x
i)のオフセットをBスキャンに適用することができる。
【0042】
一例として、Bk、k=1、…、100で示される100回のBスキャンの列を含むCスキャンの場合、100回のBスキャンから算出された指標Si、i=1、2、…、99の変動から、まず、指標の変動から網膜曲率を表すm次多項式を減算して、補正された指標の変動Ci、i=1、2、…、99を求め、次に、n次多項式を補正された指標の変動に当てはめることによって、n次多項式Pn(x)を求めることができる。また、変位補償部6は、補正した指標の変動から、n次多項式Pn(x)の値の集合Pn(xi)、i=1、2、…、99を求めてもよい。続いて、i=1、2、…、99の値の集合Pn(xi)を使用して、Bスキャン、Bk、k=1~100をそれぞれオフセットすることができる。例えば、変位補償部6は、BスキャンB2をPn(x1)の値だけオフセットさせ、BスキャンB3をPn(x1)+Pn(x2)の値だけオフセットさせ、より一般的には、BスキャンBkをオフセットΣi=1
k-1Pn(xi)分だけオフセットさせることによって、100回のBスキャン間の変位を補償することができる。
【0043】
なお、
図4のステップS30におけるBスキャンのオフセットは、指標C
i、i=1、…、Nの補正後の変動の列に当てはめられたn次多項式の値に基づいているが、他の実施形態では、指標C
i、i=1、…、Nの補正後の変動の列を第1の周波数成分とし、Bスキャンの列におけるBスキャンを直接オフセットするために使用してもよい。例えば、列内の各BスキャンBkに対して、眼25の軸方向変位を補正するために、オフセットΣ
i=1
k-1C
iをBスキャンに適用することができる。
【0044】
いくつかの実施形態例では、n次多項式を当てはめた後、指標C
i、i=1、…、Nの補正された変動は、
図4のステップS30でBスキャンをオフセットするための第1の周波数成分として直接使用されない。その代わりに、周波数決定部4は、第2の例示的な実装形態による
図4のステップS20で、以下のステップを含む処理の少なくとも2つの反復をさらに実行することによって、第1の周波数成分を決定することができる。
(i)指標の変動における指標とn次多項式の対応する値との差として算出された複数の残差値を算出する。
(ii)複数の残差値が、第1の正の閾値を超えるか、または第1の負の閾値を下回る外れ値を含むかどうかを決定する。
(iii)複数の残差値が外れ値を含むと決定された場合、外れ値に対応する指標を指標の変動から除去して更新された指標の変動を生成し、複数の残差値が外れ値を含まないと決定された場合、処理を終了し、n次多項式を第1の周波数成分として決定する。
(iv)n次多項式を更新された指標の変動に当てはめる。
【0045】
複数の残差値の各残差値は、上記反復処理の第1回目において、補正後の指標の変動の指標と、補正後の指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として算出される。さらに、複数の残差値内の各残差値は、処理の前の反復で生成された更新された指標の変動の指標と、処理の前の反復で生成された更新された指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として、上記処理の残りの1つまたは複数の反復の各反復で計算される。
【0046】
図7は、第2の例示的な実装形態による、第1の周波数成分を決定するために周波数決定部4によって実行され得る処理を示す流れ図である。
図7に示されるように、周波数決定部4は、まず、
図6を参照して上述した処理のステップS210、S220、S230を実行してもよい。しかし、第2の実施形態では、ステップS230でn次多項式を決定した後、ステップS30でn次多項式をそのまま用いてBスキャンをオフセットしない。その代わりに、周波数決定部4は、
図7のステップS240において、指標の変動の指標とn次多項式の対応する値との差分として算出される複数の残差値をさらに算出する。本例では、補正された指標の変動C
i、i=1、2、・・・、Nをデータ点(x
i、C
i)、i=1、2、・・・、Nとして表し、n次多項式をP
n(x)とすると、
図7のステップS240において、複数の残差値R(x
i)=C
i-P
n(x
i)、i=1,2,…,Nとして求めることができる。
【0047】
図7のステップS250において、頻度決定部4は、複数の残差値が、第1の正の所定の閾値よりも高いか、第1の負の所定の閾値よりも低い外れ値を含むか否かを決定する。周波数決定部4は、複数の残差値が外れ値を含むと決定したことに応答して、
図7のステップS260で、指標C
i、i=1、2、…、Nの補正された変動から外れ値に対応する補正された指標Ciを除去して、x=1~Nの指標Uiの更新された変動を生成することができる。外れ値に対応する補正された指標Ciを除去することは、例えば、補正された指標Ciの値をゼロに設定することができる。例えば、補正後の指標C
i=pに対応する残差値が外れ値であると決定された場合、補正後の指標の変動を示すデータ点(x
i、C
i)、i=1、2、…、Nの集合において、データ点(x
p、C
p)をゼロとしてもよい。ただし、実施形態によっては、頻度決定部4は、外れ値に対応する補正済み指標C
pをゼロに設定する代わりに、外れ値に対応する補正済み指標C
iを、例えば、ステップS260で外れ値として決定されなかった残差値を有する1つまたは複数の他のCiの値に基づく、補間によってこれらの値から取得された新しい値に置き換えてもよい。
【0048】
図7のステップS270において、頻度決定部4は、x=1、2、・・・、Nの場合、更新された指標の変動U
iにn次多項式を当てはめ、ステップS240の処理を繰り返し、今度は、更新された指標の変動の指標(ステップS260で決定されたもの)と、更新された指標の変動に当てはめられたn次多項式の対応する値との差として残差値を算出する(ステップS270)。ステップS270が実行された後、
図7のステップS240、S250、S260、およびS270は、反復のために決定された複数の残差値が外れ値を含まないことがステップS250で決定されるまで繰り返され得る。ステップS250において、複数の残差値に外れ値が存在しないと決定された場合、処理はステップS250Aに進み、複数の残差値を生成したn次の多項式を第1の周波数成分とし、
図4のステップS30において、眼25とOCT撮像システム30との相対運動(軸方向の)によって引き起こされるBスキャンの列におけるBスキャン間の変位を補償するために、Bスキャンをオフセットさせる。具体的には、周波数決定部4は、
図4のステップS30について前述したのと同様に、n次多項式の値に基づいてBスキャンをオフセットすることができる。
【0049】
いくつかの例示的な実施形態では、
図7のステップS250において、反復において複数の残差値が外れ値を含まないと決定された場合、周波数決定部4は、複数の残差値を取得するために使用されたn次多項式を第1の周波数成分として取り、
図4のステップS30でBスキャンをオフセットするために使用することができるかどうかを決定するために、複数の残差値をさらに評価することができる。より詳細には、
図8を参照すると、周波数決定部4は、
図8のステップS310において、
図7のステップS250において第2の正の閾値が第1の正の閾値よりも小さく、
図7のステップS250において第2の負の閾値が第1の負の閾値よりも大きいとして、第2の正の閾値よりも大きいか第2の負の閾値よりも小さい値を有する複数の残差値のうちのいくつかの残差値をさらに決定してもよい。
図8のステップS320において、頻度決定部4は、
図8のステップS310で決定された残差値の数が第3の閾値を超えたか否かを決定する。周波数決定部4は、
図8のステップS310で決定された残差値の数が第3の閾値を超えていないと判断した場合、
図8のステップS330Aにおいて、複数の残差値(外れ値を含まない)を生成するために用いたn次多項式を第1の周波数成分として選択し、第1の周波数成分としてn次多項式を用いて
図4のステップS30を実行する。一方、頻度決定部4が、
図8のステップS310で決定された残差値の数が第3の閾値を超えたと決定した場合、
図4のステップS30は実行されない。これは、残差値の数が比較的多い場合には、補正後の指標の変動(又は更新後の指標の変動)に対するn次多項式の適合性が悪いことを示すものとすることができるからである。このように、n次の多項式を用いてBスキャンの列における軸方向変位を補正する代わりに、Bスキャンの列を廃棄し、撮像対象20の新しいOCTスキャンを実行することによって、Bスキャンの新しい列を含む新しいCスキャンデータを取り込むことができる。Bスキャンの新しい列は、OCT撮像システム30と撮像対象20の相対運動によって引き起こされるBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するための補正データを生成するために、前述の方法のいずれかを使用して処理することができる。
【0050】
再び
図1を参照すると、データ処理装置10が信頼性指標生成部2(例えば、本実施形態のように軸方向ずれ決定部2の一部として、又はデータ処理装置10の他の部の一部として、又は独立した部として)を含む実施形態例では、信頼性指標生成部3は、生成された補正データが信頼性があるかどうかを示す信頼性指標を生成するように構成されてもよい。信頼性指標は、例えば、
図4のステップS30を実行するかどうかを決定するために、変位補償部6によって使用され得る。
【0051】
図9は、
図1の信頼性指標生成部3が信頼性指標を生成する処理を示すフローチャートである。
図9のステップS410において、信頼性指標生成部3は、Bスキャンの列におけるBスキャンの対を用いて、Bスキャンの対を取得した際の撮像対象20のOCT撮像システム30に対する速度及び/又は加速度を示す計量の各値を算出する。計量は、本実施形態のように、OCT撮像システム30に対する撮像対象20の(軸方向の)速度を示す速度計量とすることができる。速度計量は、本実施形態のように、Bスキャンの列における隣接するBスキャンの対を使用して
図4のステップS10で決定された指標を使用して計算することができる。各指標は、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の軸方向のずれを示すので、隣接するBスキャンの間の時間で割った場合の指標値は、OCT撮像システム30に対する撮像対象20の速度を表す。しかし、速度計量は、隣接するBスキャンを使用して計算される必要はなく、代わりに、Bスキャンの列における隣接しない対のBスキャンにおける共通の眼特徴の軸方向のずれに基づいて計算されてもよいことを理解されたい。より一般的には、隣接するBスキャンの対における共通の眼特徴の決定された軸方向ずれは、隣接するBスキャンの対の取得間の時間間隔で除算され、共通の眼特徴の軸方向移動速度の指標を提供し、したがって、撮像対象20とOCT撮像システム30の相対運動の速度を示す。計量は、本実施形態の例のように、列内のBスキャンの隣接する各対について計算されてもよいが、代替として、前述のように、すべての取得されたBスキャン対の部分集合のみについて計算されてもよい。
【0052】
図9のステップS420において、信頼性指標生成部3は、計量の算出値が所定数以上閾値を超えたか否かを決定する。信頼性指標生成部3は、計量の算出値の所定数以上が閾値を超えたと決定した場合、信頼性指標を、補正データの信頼性が低いことを示すように設定する(
図9のステップS430A)。一方、
図9のステップS420において、計量の算出値が所定数未満であると決定された場合、信頼性指標生成部3は、信頼性指標を、補正データが信頼できることを示すように設定する(
図9のステップS430B)。計量が速度計量である本実施形態例では、
図9のステップS420で使用される閾値は、OCTのCスキャンデータの取得中に撮像対象20にとって物理的に可能であると考えられる最大速度に対応することができる。この閾値を超える計量の任意の計算値は、撮像対象20とOCT撮像システム30の実際の相対運動ではなく、Bスキャン間の疑似相関によって引き起こされる異常と見なすことができる。したがって、
図9のステップS420における所定数は、信頼性指標生成部3によって、補正データの信頼性が低いと判断される前に受け入れ可能な異常の最大数に基づいて設定されてもよい。
【0053】
また、本実施形態では、計量を速度計量としたが、
図9のステップS410で算出される計量を、OCT撮像システム30に対する撮像対象20の加速度を示す加速度計量としてもよい。なお、ステップS410において計量を加速度計量とした場合、ステップS420において設定される閾値は、現実的又は物理的に可能と考えられる加速度の最大値に基づいて設定されてもよい。信頼性指標生成部3は、第1の対のBスキャンにおける共通の眼特徴の軸方向ずれのレートを示す第1の値と、第2の対のBスキャンにおける共通の眼特徴の軸方向ずれのレートを示す第2の値とを決定することによって加速度計量を計算することができ、第1の対は、少なくとも1つのBスキャンだけ第2の対とは異なる。また、信頼性指標生成部3は、第1の値と第2の値との差分に基づいて加速度計量をさらに評価してもよい。例えば、時刻T1及びT2で取得され、軸方向ずれ値の決定されたレートがA1である第1の対のBスキャンと、時刻T3及びT4(T1及びT2の後に発生する)で取得され、軸方向ずれの決定されたレートがA2である第2の対のBスキャンについて、加速度計量を以下のように計算することができる。
【数1】
【0054】
ただし、加速度計量は上記の形式に限定されず、A2とA2の差と、2対のBスキャンの時間的分離の別の尺度、例えばT3-T1またはT4-T2に基づいて計算することができることを理解されたい。
【0055】
さらに、いくつかの実施形態例では、Bスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位(OCT撮像システムと撮像対象の相対運動によって引き起こされる)を補償するための
図4のステップS30における変位補償部6の動作は、補正データが信頼できることを示すように設定された信頼性指標を条件とすることができ、したがって、
図4のステップS30は、
図9のステップS430Aで補正データが信頼できないことを示すように信頼性指標が設定された場合には実行されない。
【0056】
また、信頼性指標を生成し、
図8の処理を実行する本実施形態のように、信頼性指標が設定されて(
図9のステップS430A)、補正データが信頼できないことを示す場合、
図8のステップS320において、複数の残差値のうち第2の正の閾値を超えるか、第2の負の閾値未満の大きさの残差値の数が、ステップS320の第3の閾値未満であると決定された場合でも、変位補償部6によってステップS30を実行しないと決定されてもよい。
【0057】
本明細書で説明される例示的な態様は、ボリュメトリックOCTデータの取得中に被験者の不随意運動によって典型的に引き起こされるモーションアーチファクトを表示するレンダリングされたボリュメトリックOCTデータをもたらすことができる、従来のOCTデータ処理に関する、特にコンピュータ技術に根ざした制限を回避する。これらのモーションアーチファクトは、例えば、眼特徴識別及びその後の診断測定の精度に悪影響を及ぼす可能性がある。本明細書で説明する例示的態様によれば、OCT撮像システムと撮像対象の相対運動によって引き起こされる可能性がある、Cスキャンを形成するBスキャンの列におけるBスキャン間の軸方向変位を補償するための補正データが生成される。特に、Bスキャンの列における隣接するBスキャンの各対について、隣接するBスキャンにおける共通の眼特徴の各表現の間の軸方向のずれの各指標が決定される。さらに、Cスキャンの取得中の相対運動を示す周波数成分が、列内の隣接するBスキャンの対応する対の位置を有する決定された指標の変動から抽出される。その結果、補正データを用いてBスキャン間の軸方向の変位を補償する際に、対象となる撮像構造のCスキャンをより正確にレンダリングすることができる。また、少なくとも一部の実施形態では、決定された指標の変動から、撮像対象構造の曲率に対応する周波数成分を抽出する。この抽出された曲率情報を保持し、Cスキャンの正確なレンダリングに用いることができる。さらに、少なくともいくつかの例示的な実施形態では、補正データの品質は、相対運動の少なくとも速度または加速度を示す計量に基づく信頼性指標を決定することによって推定することができる。さらに、少なくともいくつかの例示的な実施形態では、決定された指標の変動に対して当てはめた多項式の残差は、補正データの品質を推定するために使用され、したがって、補正データを使用して補償を実行すべきかどうかを決定する。したがって、信頼性のある補正データのみを使用して軸方向変位を補償することができるので、B走査間の軸方向変位を補償するためのB走査の処理を改善することができる。また、コンピュータ技術に根ざした、本明細書で説明される例示的な態様の前述の能力によって、本明細書で説明される例示的な態様は、コンピュータおよびコンピュータ処理/機能を改善し、さらに、少なくとも画像処理、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)およびデータ処理、ならびにOCT画像データの処理の分野(複数可)を改善する。
【0058】
上記の説明では、例示的な態様が、いくつかの例示的な実施形態を参照して説明されている。したがって、本明細書は、限定的ではなく、例示的なものと見なされるべきである。同様に、例示的な実施形態の機能性および利点を強調する、図面に示される図は、例示的な目的のためにのみ提示される。例示的な実施形態のアーキテクチャは、添付の図に示されるもの以外の方法で利用(およびナビゲート)され得るように、十分に柔軟かつ構成可能である。
【0059】
本明細書で提示される例のソフトウェア実施形態は、一実施形態例では、それぞれが非一時的であり得る、機械アクセス可能または機械可読媒体、命令ストア、またはコンピュータ可読記憶装置などの製造品に含まれるか、または記憶された、命令または命令の列を有する1つまたは複数のプログラムなどのコンピュータプログラムまたはソフトウェアとして提供され得る。非一時的な機械アクセス可能媒体、機械可読媒体、命令ストア、またはコンピュータ可読記憶デバイス上のプログラムまたは命令は、コンピュータシステムまたは他の電子デバイスをプログラムするために使用され得る。機械可読媒体またはコンピュータ可読媒体、命令ストア、および記憶装置は、限定はしないが、フロッピー(登録商標)ディスケット、光ディスク、および光磁気ディスク、または電子命令を記憶または送信するのに適した他のタイプの媒体/機械可読媒体/命令ストア/記憶装置を含むことができる。本明細書で説明する技法は、任意の特定のソフトウェア構成に限定されない。それらは、任意のコンピューティング環境または処理環境において適用可能性を見出すことができる。本明細書で使用される「コンピュータ可読」、「機械アクセス可能媒体」、「機械可読媒体」、「命令ストア」、および「コンピュータ可読記憶装置」という用語は、機械、コンピュータ、またはコンピュータプロセッサによって実行される命令または一連の命令を記憶、符号化、または送信することができ、機械/コンピュータ/コンピュータプロセッサに本明細書で説明する方法のうちの任意の1つを実行させる任意の媒体を含むものとする。さらに、当技術分野では、特定のアクションを為すもの、結果を引き起こしたりするものとして、何らかの形(例えば、プログラム、プロシージャ、処理、アプリケーション、部、ユニット、ロジックなど)のソフトウェアと呼ばれることが一般的である。このような表現は、処理システムによるソフトウェアの実行によってプロセッサにアクションを実行させて結果を生成させることを述べる簡単な方法にすぎない。
【0060】
いくつかの実施形態はまた、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイの準備によって、または従来のコンポーネント回路の適切なネットワークを相互接続することによって実装されてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態は、コンピュータプログラム製品を含む。コンピュータプログラム製品は、本明細書で説明する例示的な実施形態の手順のいずれかをコンピュータまたはコンピュータプロセッサに実行させるか、または制御するために使用することができる命令を記憶媒体または媒体、命令ストア(複数可)、あるいは記憶装置(複数可)とすることができ、その中に命令を記憶させることができる。記憶媒体/命令記憶/記憶装置は、例として、限定するものではないが、光ディスク、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、DRAM、VRAM、フラッシュメモリ、フラッシュカード、磁気カード、光カード、ナノシステム、分子メモリ集積回路、RAID、リモートデータ記憶/アーカイブ/ウェアハウジング、及び/又は命令及び/又はデータを記憶するのに適した任意の他の。
【0062】
1つまたは複数のコンピュータ可読媒体、1つまたは複数の命令ストア、または1つまたは複数の記憶装置のうちの任意の1つに記憶された、いくつかの実装形態は、システムのハードウェアを制御し、システムまたはマイクロプロセッサが、本明細書で説明する例示的な実施形態の結果を利用して、人間のユーザまたは他の機構と対話することを可能にするためのソフトウェアを含む。そのようなソフトウェアは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、およびユーザアプリケーションを含むことができるが、これらに限定されない。最終的に、そのようなコンピュータ可読媒体または記憶装置は、上記で説明したように、本明細書の例示的な態様を実行するためのソフトウェアをさらに含む。
【0063】
システムのプログラミングおよび/またはソフトウェアには、本明細書で説明する手順を実施するためのソフトウェア部が含まれる。本明細書のいくつかの例示的な実施形態では、部はソフトウェアを含むが、本明細書の他の例示的な実施形態では、部はハードウェア、またはハードウェアとソフトウェアの組合せを含む。
【0064】
さまざまな実施形態例を上記で説明したが、それらは例として提示されたものであって、限定として提示されたものではないことを理解されたい。当業者には、その中で形態および詳細の様々な変更を行うことができることが明らかであろう。したがって、本発明は、上記の実施形態例のいずれかによって限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ定義されるべきである。
【0065】
さらに、要約の目的は、特許庁及び一般の人々、特に特許又は法律の用語若しくは句読点に精通していない当該技術分野の科学者、エンジニア、及び実務家が、大量の検査から、出願の技術的開示の性質及び本質を迅速に決定することを可能にすることである。要約は、本明細書で提示される例示的な実施形態の範囲に関して何らかの形で限定することを意図しない。また、特許請求の範囲に記載された手順は、提示された順序で実行される必要がないことを理解されたい。
【0066】
本明細書は多くの特定の実施形態の詳細を含むが、これらは限定として解釈されるべきではなく、むしろ本明細書に記載される特定の実施形態に特有の特徴の説明として解釈されるべきである。別々の実施形態の文脈で本明細書に記載される特定の特徴は、単一の実施形態の組み合わせで実施することもできる。逆に、単一の実施形態の文脈で説明される様々な特徴は、複数の実施形態で別々に、または任意の適切なサブコンビネーションで実施することもできる。さらに、特徴は、特定の組合せで作用するものとして上記で説明され、そのようなものとして最初に特許請求されたとしてもよいが、特許請求される組合せからの1つまたは複数の特徴は、場合によっては、その組合せから削除することができ、特許請求される組合せは、サブコンビネーションのサブコンビネーションまたは変形形態を対象とすることができる。
【0067】
特定の状況では、マルチタスキングおよび並列処理が有利であり得る。さらに、上記で説明した実施形態における様々な構成要素の分離は、すべての実施形態においてそのような分離を必要とするものとして理解されるべきではなく、説明したプログラム構成要素およびシステムは、一般に、単一のソフトウェア製品に一緒に統合するか、または複数のソフトウェア製品にパッケージングすることができることを理解されたい。
【0068】
ここでいくつかの例示的な実施形態および実施形態を説明したが、上記は例示的なものであって、限定的なものではなく、例として提示されたことは明らかである。特に、本明細書で提示される例の多くは、装置又はソフトウェア要素の特定の組み合わせを含むが、これらの要素は、同じ目的を達成するために他の方法で組み合わせることができる。一実施形態との関連でのみ論じられるアクト、要素、及び特徴は、他の実施形態又は実施形態における同様の役割から除外されることを意図しない。
【0069】
本明細書で説明する装置およびコンピュータプログラムは、その特性から逸脱することなく、他の特定の形態で実施することができる。前述の実施形態は、説明したシステムおよび方法を限定するものではなく、例示的なものである。したがって、本明細書で説明される装置およびコンピュータプログラムの範囲は、前述の説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の同等性の意味および範囲内に入る変更がその中に包含される。