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特許7249418固相モログラフィーによる標的核酸の検出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】固相モログラフィーによる標的核酸の検出
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6825 20180101AFI20230323BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230323BHJP
   C12N 15/49 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
C12Q1/6825 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/49
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021535913
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2019086145
(87)【国際公開番号】W WO2020127620
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】62/782,867
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ハインドル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラウス-ペーター シュテンゲール
(72)【発明者】
【氏名】アリソン ツァン
(72)【発明者】
【氏名】イゴル コズロフ
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー ガッテルダム
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/104818(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0139115(US,A1)
【文献】Nature nanotechnology, 2017, Vol.12, No.11, pp.1089-1095
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的核酸の増幅および検出のための方法において、
(a)単一の反応器中で、前記標的核酸を含む前記試料を
(i)一対のオリゴヌクレオチドプライマーの各オリゴヌクレオチドプライマーが前記標的核酸の対の鎖にハイブリダイズすることができ、そしてそれにより前記標的核酸のアンプリコンを生成することができる、前記一対のオリゴヌクレオチドプライマー
(ii)アニーリング部分とタグ部分とを含むオリゴヌクレオチド配列を含むタグ付きプローブであって、タグ部分が標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、アニーリング部分が標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、オリゴヌクレオチドプライマーの前記対によって結合されている前記標的核酸の域にハイブリダイズし、そしてここで前記タグ部分が前記アニーリング部分の5’末端又は3’末端に結合されているか、又は前記タグ部分がリンカーを介して前記アニーリング部分の5’末端と3’末端の間の任意の箇所に結合されている、前記タグ付きプローブ
と接触させる工程;
(b)各PCRサイクルの伸長工程中にポリメラーゼのヌクレアーゼ活性によってタグ付きプローブのアニーリング部分からタグ部分の切断および分離が可能となるように、5`から3`ヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いるPCRによって前記標的核酸を増幅する工程;
(c)グ付きプローブから切断されたタグ部分を、アニーリング部分と伸長部分とを含むオリゴヌクレオチド配列であって、前記アニーリング部分がタグ付きプローブのタグ部分に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記伸長部分が標的核酸配列またはタグ付きプローブのタグ部分に非相補的な核酸配列を含む、前記オリゴヌクレオチド配列を含むモリゴテンプレートとハイブリダイズさせ、その結果、前記切断されたタグ部分が前記モリゴテンプレートのアニーリング部分にハイブリダイズして部分二本鎖分子を形成する工程であって、前記モリゴテンプレートの長さが、前記タグ付きプローブのタグ部分の長さよりも、少なくとも20ヌクレオチド分長く、前記モリゴテンプレートが固相チップに付着している、ハイブリダイズさせる工程;
(d)部分二本鎖分子を核酸ポリメラーゼと反応させて、切断されたタグ部分をモリゴテンプレートの伸長部分に伸長させる工程;
(e)工程(c)と工程(d)との間のモログラムシグナルの増加が標的核酸の存在の検出を表すモログラフィーによって、工程(d)での伸長を測定する工程
を含む方法であって、
(a)~(e)の全工程が標識がない状態で実施される、方法。
【請求項2】
モリゴテンプレートの長さが、少なくとも20ヌクレオチド分だけ、前記タグ付きプローブのタグ部分の長さよりも長い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モリゴテンプレートの長さが、少なくとも30ヌクレオチド分だけ、前記タグ付きプローブのタグ部分の長さよりも長い、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
モリゴテンプレートの長さが、少なくとも40ヌクレオチド分だけ、前記タグ付きプローブのタグ部分の長さよりも長い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
モリゴテンプレートの長さが、少なくとも50ヌクレオチド分だけ、タグ付きプローブの長さよりも長い、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
タグ付きプローブが配列番号1を含み、モリゴテンプレートが請求番号4を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アニーリング部分とタグ付きプローブのタグ部分が、非ヌクレオチドリンカーによって分離されている、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
リンカーが線状部分または環状部分である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
リンカーが、単一のユニットに由来するか、またはリン酸結合によって分離されている複数の同一のもしくは異なるユニットに由来する、請求項またはのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
焦点モログラフィーを用いて伸長が検出される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための方法、特に、多重PCRを実施するための方法および固相バイオセンサーによる標的核酸の検出に関する。
【0002】
関連出願との相互参照
本出願は、2018年12月20日に出願された米国仮出願第62/782867号(その全内容が本明細書に参照により援用される)の利益を主張する。
【0003】
配列表の参照
本出願は、2019年11月17日に作成された、46kbのサイズを有し、「P34923-WO PCT fling sequence listing」と名付けられた電子テキストファイルとして提出された配列表を含む。
【背景技術】
【0004】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、生物医学研究、疾患のモニタリングおよび診断のユビキタスなツールとなっている。PCRによる核酸配列の増幅は、米国特許第4683195号、第4683202号、および第4965188号に記載されている。PCRは現在、当該技術分野でよく知られており、科学文献に広く記載されている。PCR Applications,((1999) Innis et al., eds., Academic Press, San Diego)、PCR Strategies,((1995) Innis et al., eds., Academic Press, San Diego);PCR Protocols,((1990) Innis et al., eds., Academic Press, San Diego)、およびPCR Technology,((1989) Erlich, ed., Stockton Press, New York)を参照のこと。「リアルタイム」PCRアッセイは、標的配列の開始量の増幅と検出および定量を同時に行うことができる。DNAポリメラーゼの5’から3’ヌクレアーゼ活性を用いる基本的なTaqMan(登録商標)リアルタイムPCRアッセイは、Hollandら、(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.88:7276-7280および米国特許第5210015号に記載されている。ヌクレアーゼ活性なしのリアルタイムPCR(ヌクレアーゼ不含アッセイ)は、2008年12月9日に出願された米国出願シリアル番号第12/330694号に記載されている。リアルタイムPCRにおける蛍光プローブの使用は、米国特許第5538848号に記載されている。
【0005】
現在の方法の大半は、アッセイを多重化する能力は、検出機器によって制限されている。具体的には、同じ反応における複数のプローブの使用は、異なる蛍光標識の使用を必要とする。複数のプローブを同時に検出するには、機器が各プローブにより放射される光シグナルを識別できる必要がある。市場に出回っている現在の技術の大半は、同じ反応器内で4~7を超える別々の波長を検出することができない。したがって、標的ごとに1つの一意的に標識されたプローブを使用すると、同一容器内で4~7以下の別々の標的を検出できるにすぎない。実際には、少なくとも1の標的は、通常、対照核酸である。したがって、実際には、同一チューブ内で3~6以下の実験標的が検出されるにすぎない。蛍光色素の使用もまた、約6または7の色素のみが顕著な重複干渉なしに可視スペクトル内に適合できるスペクトル幅が原因で、制限される。したがって、増幅および検出戦略に根本的な変化が生じない限り、アッセイを多重化する能力は、臨床的必要性に追いつかないであろう。
【0006】
標的核酸の検出のための多くの方法が知られている。現在利用可能な核酸検出のための均一アッセイには、TaqMan(登録商標)、Ampliflour(登録商標)、色素結合、アレル選択的動的PCR、およびScorpion(登録商標)プライマーアッセイが含まれる。上述したように、これらのアッセイ手順は、検出される各標的核酸に対して異なる色素が必要であるために容易には多重化されず、したがって、改良の可能性が限られている。このような制限を克服するために、いくつかの最近の研究は、容易に分離して検出することができる切断可能な「タグ」部分を含むオリゴヌクレオチドプローブの使用を開示している(例えば、Chennaら、米国特許出願公開第2005/0053939号;Van Den Boom、米国特許第8133701号を参照)。さらに最近では、構造に基づくオリゴヌクレオチドプローブ切断を用いることによる多重化核酸標的同定を行う改良された方法が、米国特許出願公開第2014/0272955号、同第2015/0176075号、および同第2015/0376681号に記載されており、これらは全て本明細書に参照により援用される。いわゆるPTO切断および伸長アッセイにおいて「オリゴヌクレオチドのプロービングおよびタグ付け(Probing and Tagging Oligonucleotide)」(PTO)および「オリゴヌクレオチドの捕捉およびテンプレート化(Capturing and Templating Oligonucleotide)」(CTO)の組み合せを用いることによってDNAから、または核酸の混合物から標的核酸配列を検出するさらなる方法は、Chunらによって米国特許第8809239号に記載されている。しかしながら、標的核酸のハイスループット多重検出を行う正確な方法、特に蛍光色素または標識の使用によって制限されないもの(すなわち標的核酸の無標識多重検出)の必要性が依然として存在する。
【0007】
焦点モログラフィーは、特定の生体分子相互作用をリアルタイムで可視化する分析法として最近記載されている(Fattinger C., Physical Review X 4, 031024, 2014; Fattinger C.、米国特許出願公開第2016/0139115号;およびGatterdam, V. et al., Nature Nanotechnology 12, 1089-1095, 2017(これらの開示は全体が参照により本明細書に援用される)を参照)。焦点モログラフィーは、センサー表面上の親和性の変調を、「モログラム」と呼ばれる、分子認識部位の正確に組み立てられたナノパターンに結合される標的分子によって引き起こされる屈折率変調に変換する。このモログラムは、レーザー光が特異的に結合した分子に散乱し、強め合う干渉によりモログラムの焦点において強いシグナルを生成するように設計されているが、非特異的に結合した分子での散乱はこの効果に寄与しない。このモログラムは、光感受性モノリシックグラフト共重合体層上の近接場反応浸漬リソグラフィによりチップ上に提示され得る。モログラムの認識部位に結合する生体分子の選択的、高感度および無標識検出が実証され得る。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、核酸配列検出のための新規な方法、特に、リアルタイムPCRアッセイおよび固相焦点モログラフィーを用いる複数の標的核酸の増幅および検出を提供する。本方法は、各々がアニーリング部分および「タグ付きプローブ」と呼ばれるタグ部分を含むオリゴヌクレオチドプローブの使用によって実施され、タグ部分は標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、アニーリング部分は、標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、かつ、標的核酸のサブ配列の領域にハイブリダイズする。本方法は、「モリゴ(moligo)」と称される、モログラフィーチップ上に付着したオリゴヌクレオチドの使用によっても実施され、各モリゴは、オリゴヌクレオチドプローブの1つのタグ部分に相補的なヌクレオチド配列を含むアニーリング部分と、標的核酸配列またはタグ部分に非相補的であるヌクレオチド配列を含む伸長部分とを含む。
【0009】
したがって、一実施態様では、本発明は、試料中の標的核酸を増幅および検出する方法において、単一の反応器内で前記標的核酸を含む前記試料を一対のオリゴヌクレオチドプライマーと接触させる工程であって、各オリゴヌクレオチドプライマーは、前記標的核酸のサブ配列の反対側の鎖にハイブリダイズすることができ;タグ付きプローブは、アニーリング部分とタグ部分とを含むオリゴヌクレオチド配列を含み、ここで、タグ部分は、標的核酸配列に非相補的であるヌクレオチド配列を含み、アニーリング部分は、標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、かつ、前記一対のオリゴヌクレオチドプライマーによって結合されている前記標的核酸の前記サブ配列の領域にハイブリダイズする、接触させる工程;各PCRサイクルの伸長工程の間にポリメラーゼのヌクレアーゼ活性がタグ付きプローブのアニーリング部分からのタグ部分の切断および分離を可能にするように、5`から3`ヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いるPCRによって標的核酸を増幅する工程;部分二本鎖分子を形成するために、タグ付きプローブから切断されたタグ部分を、タグ付きプローブのタグ部分に相補的なヌクレオチド配列を含むアニーリング部分と標的核酸配列またはタグ付きプローブのタグ部分に非相補的な核酸配列を含む伸長部分とを含むオリゴヌクレオチド配列を含むモリゴテンプレートとハイブリダイズさせる工程であって、前記モリゴテンプレートが固相チップに付着している、ハイブリダイズさせる工程;部分二本鎖分子を核酸ポリメラーゼと反応させて、切断されたタグ部分をモリゴテンプレートの伸長部分に伸長させる工程;ハイブリダイゼーション工程と伸長工程との間のモログラムシグナルの増加が標的核酸の存在の検出を表すモログラフィーによって伸長を測定する工程
を含む方法であって、全ての工程が標識がない状態で実施される、方法に関する。ある特定の実施態様において、モリゴテンプレートの長さは、少なくとも10ヌクレオチド分だけ、タグ付きプローブの長さよりも長い。他の実施態様において、モリゴの長さは、少なくとも、20ヌクレオチドまたは30ヌクレオチドまたは40ヌクレオチドまたは50ヌクレオチド分だけ、タグ付きプローブの長さよりも長い。ある実施態様において、モリゴテンプレートの長さは、少なくとも10ヌクレオチド分だけ、タグ付きプローブのタグ部分の長さよりも長い。他の実施態様において、モリゴの長さは、少なくとも、20ヌクレオチドまたは30ヌクレオチドまたは40ヌクレオチドまたは50ヌクレオチド分だけ、タグ付きプローブのタグ部分の長さよりも長い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の方法を図解したものである。
図2-1】実施例1に記載されているように実施されたPCR実験のHPLCクロマトグラフを示す。
図2-2】実施例1に記載されているように実施されたPCR実験のHPLCクロマトグラフを示す。
図3】実施例2に記載した実験から生成されたモログラムシグナルを示す。
図4】22bpのプライマー配列からなるオリゴヌクレオチドとモリゴ配列に相補的な100bpの配列からなるオリゴヌクレオチドとによる100bpのモリゴでのハイブリダイゼーション間のモログラムシグナルを表す棒グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書で使用される用語「試料」は、核酸を含む標本または培養物(例えば微生物培養物)を含む。「試料」という用語はまた、生物学的試料および環境試料の両方を含むことを意味する。試料は、合成起源の標本を含み得る。生物学的試料には、全血、血清、血漿、臍帯血、絨毛膜絨毛、羊水、脳脊髄液、髄液、洗浄液(例えば、気管支肺胞上皮、胃、腹膜、管、耳、関節鏡視下の)、生検試料、尿、糞便、痰、唾液、鼻粘液、前立腺液、精液、リンパ液、胆汁、涙液、汗、母乳、母体液(breast fluid)、胚細胞、および胎児細胞が含まれる。好ましい実施態様では、生物学的試料は血液であり、より好ましくは血漿である。本明細書で使用される用語「血液」は、一般的な定義のとおり、全血または血液の任意の画分(血清および血漿など)を包含する。血漿とは、抗凝固剤で処理した血液の遠心分離から生じる全血の画分をいう。血清とは、血液試料が凝固した後に残った体液の水様性部分をいう。環境試料には、表面物質、土壌、水および工業試料などの環境物質、ならびに食品および乳製品の加工機器、装置、器具、設備、用具、使い捨ておよび非使い捨てアイテムから得られた試料が含まれる。これらの例は、本発明に適用可能な試料の種類を制限するものとして解釈されてはならない。
【0012】
本明細書で使用される用語「標的」または「標的核酸」は、その存在が検出もしくは測定されるか、またはその機能、相互作用もしくは特性が研究される任意の分子を意味することが意図されている。例えば、標的は、オリゴヌクレオチドプローブと結合することができるか、さもなければオリゴヌクレオチドプローブと接触することができる核酸分子などの生体分子であってよい。
【0013】
用語「核酸」および「核酸分子」は、本開示を通して互換的に使用することができる。上記用語は、オリゴヌクレオチド、オリゴ、ポリヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA(mtDNA)、相補的DNA(cDNA)、細菌DNA、ウイルスDNA、ウイルスRNA、RNA、メッセージRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、siRNA、触媒RNA、クローン、プラスミド、M13、P1、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、増幅核酸、アンプリコン、PCR産物および他のタイプの増幅核酸、RNA/DNAハイブリッド、およびポリアミド核酸(PNA)を指し、これらは全て、一本鎖か二本鎖形態のいずれかであり得、特に限定しない限り、天然由来のヌクレオチドと同様の機能を果たすことができる天然ヌクレオチドの既知のアナログ、ならびにそれらの組み合わせおよび/または混合物を包含する。したがって、用語「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドトリ、ジ、およびモノホスフェートと、ポリ核酸またはオリゴヌクレオチド内に存在するモノホスフェートモノマーとを含む、天然ヌクレオチドおよび修飾/非天然ヌクレオチドの両方を指す。ヌクレオチドはまた、リボ;2’-デオキシ;2’,3’-デオキシ、ならびに当該技術分野でよく知られている無数の他のヌクレオチド模倣物であってもよい。模倣物には、3’-O-メチル、ハロゲン化塩基または糖置換などの鎖終結ヌクレオチド;非糖、アルキル環構造を含む代替糖構造;イノシンを含む代替塩基;デアザ修飾;カイ(chi)、およびプシー(psi)、リンカー修飾;質量標識修飾;ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ボラノホスフェート、アミド、エステル、エーテルを含むホスホジエステル修飾または置換;および光開裂性二トロフェニル部分などの開裂結合を含む、塩基のまたは完全なインターヌクレオチド置換が含まれる。
【0014】
標的の有無は、定量的または定性的に測定できる。標的は、例えば単純もしくは複雑な混合物または実質的に精製された形態を含む、様々な異なる形態があり得る。例えば、標的は、他の成分を含有する試料の一部であっても、または試料の唯一のもしくは主要な成分であってもよい。したがって、標的は、細胞または組織全体の成分、細胞もしくは組織抽出物、その分画ライセート、または実質的に精製された分子であり得る。また、標的は、既知または未知の配列または構造のいずれかを有し得る。
【0015】
用語「増幅反応」とは、核酸の標的配列のコピーを増やすためのあらゆるin vitroの手段を意味する。
【0016】
「増幅」とは、増幅を可能にするのに十分な条件に溶液を供する工程をいう。増幅反応の成分は、例えば、プライマー、ポリヌクレオチドテンプレート、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、dNTP等を含むが、これらに限定されない。用語「増幅」は、通常は、標的核酸の「指数関数的」増加を指す。しかしながら、本明細書で使用される「増幅」は、核酸の選択された標的配列の数の直線的増加を指すこともできるが、1回限りの単一プライマー伸長工程とは異なる。
【0017】
「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」とは、標的二本鎖DNAの特定のセグメントまたはサブ配列が等比数列で増幅される方法を指す。PCRは当業者にはよく知られており、例えば、米国特許第4683195号および第4683202号;およびPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Innis et al.,eds,1990を参照されたい。
【0018】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」とは、ホスホジエステル結合またはそのアナログによって結合された天然または修飾ヌクレオシドモノマーの線状オリゴマーを指す。オリゴヌクレオチドは、標的核酸に特異的に結合することができる、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、それらのアノマー形態、ペプチド核酸(PNA)等を含む。通常、モノマーは、ホスホジエステル結合またはそのアナログによって結合され、数個のモノマー単位(例えば3~4個)から数十個のモノマー単位(例えば40~60個)までのサイズのオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチドが「ATGCCTG」などの文字の配列で表される場合、特に断りのない限り、ヌクレオチドは左から右へ5’-3’の順序であり、「A」はデオキシアデノシンを、「C」はデオキシシチジンを、「G」はデオキシグアノシンを、「T」はデオキシチミジンを、「U」はリボヌクレオシドであるウリジンを示すことが理解されるであろう。通常、オリゴヌクレオチドは、4種類の天然デオキシヌクレオチドを含むが、リボヌクレオシドまたは非天然ヌクレオチドアナログも含み得る。酵素が活性のための特定のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質要件(例えば一本鎖DNA、RNA/DNA二本鎖など)を有する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質の適切な組成の選択は、十分当業者の知識の範囲内である。
【0019】
本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチドプライマー」または単に「プライマー」は、標的核酸テンプレート上の配列にハイブリダイズし、オリゴヌクレオチドプローブの検出を容易にするポリヌクレオチド配列を指す。本発明の増幅実施態様において、オリゴヌクレオチドプライマーは、核酸合成の開始点として働く。非増幅実施態様においては、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、切断剤によって切断することが可能な構造を作成することができる。プライマーの長さは様々であり得、多くの場合、50ヌクレオチド長未満、例えば12~25ヌクレオチド長である。PCRに使用するためのプライマーの長さおよび配列は、当業者に既知の原理に基づいて設計することができる。
【0020】
本明細書で使用される用語「オリゴヌクレオチドプローブ」とは、目的の標的核酸にハイブリダイズしたりアニーリングしたりすることができ、かつ標的核酸の特異的検出を可能にするポリヌクレオチド配列を指す。
【0021】
「標識」または「標識分子」は、検出可能なシグナルを与える分子である。検出可能なシグナルは、例えば比色、蛍光または発光であり得る。逆に、「無標識」とは、検出可能なシグナルを与える分子が存在しないことを指す。本発明において、検出可能なシグナルをそれ自体では与えない親和性タグは標識ではなく、検出可能なシグナルをそれ自体では与えない親和性タグを用いるアッセイは無標識アッセイと考えられる。
【0022】
「ミスマッチヌクレオチド」または「ミスマッチ」とは、その位置(複数可)で標的配列に相補的でないヌクレオチドを指す。オリゴヌクレオチドプローブは、少なくとも1のミスマッチを有していてもよいが、2、3、4、5、6または7あるいはそれ以上のミスマッチヌクレオチドを有していてもよい。
【0023】
本明細書で使用される用語「多型」は、対立遺伝子変異体を指す。多型には、単純配列長多型だけでなく、一塩基多型(SNP’)も含まれ得る。多型は、別の対立遺伝子と比較したある対立遺伝子での1または複数のヌクレオチド置換に起因する可能性があり、または挿入もしくは欠失、重複、逆位、および当該技術分野で知られている他の改変に起因する可能性がある。
【0024】
本明細書で使用される用語「修飾」は、分子レベル(例えば、塩基部分、糖部分またはリン酸骨格)でのオリゴヌクレオチドプローブの改変を指す。ヌクレオシド修飾には、切断ブロッカーまたは切断誘導剤の導入、マイナーグルーブバインダーの導入、同位体濃縮、同位体枯渇、重水素の導入、およびハロゲン修飾が含まれるが、これらに限定されない。ヌクレオシド修飾には、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを増加させる部分、またはオリゴヌクレオチドプローブの融解温度を増加させる部分も含まれ得る。例えば、ヌクレオチド分子を2’および4’炭素を連結する余分なブリッジで修飾し、ヌクレアーゼによる切断に抵抗性であるロックド核酸(LNA)ヌクレオチドをもたらすことができる(Imanishiらの米国特許第6268490号およびWengelらの米国特許第6794499号に記載されているとおりであり、これらはいずれも参照により全体が本明細書に援用される)。オリゴヌクレオチドプローブのタグ部分と消光オリゴヌクレオチド分子の組成は、安定な二本鎖を形成するそれらの能力によってのみ制限される。したがって、これらのオリゴヌクレオチドは、DNA、L-DNA、RNA、L-RNA、LNA、L-LNA、PNA(ペプチド核酸、Nielsenらの米国特許第5539082号に記載)、BNA(架橋核酸、例えば、Rahman et al., J. Am. Chem. Soc. 2008;130(14):4886-96に記載の2’,4’-BNA(NC)[2’-O,4’-C-アミノメチレン架橋核酸]、L-BNA等(ここで「L-XXX」は、核酸の糖単位のL-エナンチオマーを指す)、またはヌクレオチド塩基、糖、もしくはホスホジエステル骨格の任意の他の既知の変化および修飾を含み得る。
【0025】
ヌクレオシド修飾の他の例には、オリゴヌクレオチドの糖部分に導入されるハロ、アルコキシおよびアリルオキシ基などの様々な2’置換が含まれる。2’-置換-2’-デオキシアデノシンポリヌクレオチドはDNAよりもむしろ二本鎖RNAに似ているというエビデンスが提示されている。池原ら(Nucleic Acids Res., 1978, 5, 3315)は、ポリA、ポリIまたはポリCとその相補体との二本鎖中での2’-フルロ置換基が標準的な融解アッセイによって決定されるリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドポリ二本鎖よりも有意に安定であることを示している。井上ら(Nucleic Acids Res., 1987, 15, 6131)は、全ての核酸ヌクレオチド上に2’-OMe(O-メチル)置換基を含有する混合オリゴヌクレオチド配列の合成を記載している。混合された2’-OMe-置換オリゴヌクレオチドは、同じ配列RNA-DNAヘテロ二本鎖よりも有意に強いRNA-RNA二本鎖と同程度に強くそのRNA相補体にハイブリダイズした。したがって、糖の2’位における置換の例には、F、CN、CF3、OCF3、OMe、OCN、O-アルキル、S-アルキル、SMe、SO2Me、ONO2、NO2、NH3、NH2、NH-アルキル、OCH3=CH2、およびOCCHが含まれる。
【0026】
標的ポリヌクレオチドに対するプローブなど、1つの分子のもう1つ別の分子への結合に関する用語「特異的」または「特異性」とは、この2つの分子間の認識、接触、および安定な複合体の形成とともに、その分子とその他の分子との大幅に弱い認識、接触または複合体形成を指す。本明細書で使用される「アニール」という用語は、2つの分子間の安定な複合体の形成を指す。
【0027】
プローブの少なくとも1つの領域が核酸配列の相補体の少なくとも1つの領域と実質的な配列同一性を共有する場合、プローブは、核酸配列に「アニーリングすることができる」。「実質的な配列同一性」は、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、95%または99%、最も好ましくは100%の配列同一性である。DNA配列とRNA配列の配列同一性を決定するために、UとTは同じヌクレオチドと見なされることが多い。例えば、配列ATCAGCを含むプローブは、配列GCUGAUを含む標的RNA配列にハイブリダイズすることができる。
【0028】
本明細書で使用される用語「切断剤」とは、オリゴヌクレオチドプローブを切断して断片を得ることができる任意の手段を指し、酵素を含むがこれに限定されない。増幅が起こらない方法の場合、切断剤は、オリゴヌクレオチドプローブの第2の部分またはその断片を切断し、分解するか、さもなければ分離するためにのみ役立ち得る。切断剤は、酵素であってもよい。切断剤は、天然でも合成でも、修飾されていてもいなくてもよい。
【0029】
増幅が起こる方法の場合、切断剤は、好ましくは、合成(または重合)活性およびヌクレアーゼ活性を有する酵素である。このような酵素は、核酸増幅酵素であることが多い。核酸増幅酵素の一例は、サーマス・アクアティカス(Taq)DNAポリメラーゼ(TaqMan(登録商標))または大腸菌DNAポリメラーゼIなどの核酸ポリメラーゼ酵素である。本酵素は、天然に存在する未修飾のものでも、修飾されたものでもよい。
【0030】
「核酸ポリメラーゼ」とは、核酸へのヌクレオチドの取り込みを触媒する酵素を指す。例示的な核酸ポリメラーゼには、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、末端転移酵素、逆転写酵素、テロメア伸長酵素などが含まれる。
【0031】
「耐熱性DNAポリメラーゼ」とは、選択された期間高温にさらされたときに、安定であり(すなわち、分解または変性に抵抗し)、かつ、十分な触媒活性を保持するDNAポリメラーゼを指す。例えば、耐熱性DNAポリメラーゼは、二本鎖核酸を変性させるのに必要な時間高温にさらされたとき、その後のプライマー伸長反応を引き起こすのに十分な活性を保持する。核酸変性に必要な加熱条件は当該技術分野で周知であり、米国特許第4683202号および第4683195号に例示されている。本明細書で使用されるように、耐熱性ポリメラーゼは、典型的には、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)などの温度サイクル反応における使用に適している。耐熱性核酸ポリメラーゼの例には、サーマス・アクアティカスTaq DNAポリメラーゼ、サーマス種(Thermus sp.)Z05ポリメラーゼ、サーマス・フラブス(Thermus flavus)ポリメラーゼ;TMA-25およびTMA-30ポリメラーゼなどのサーモトガ・マリティマポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼなどが含まれる。
【0032】
「修飾」ポリメラーゼとは、少なくとも1のモノマーが参照配列と異なるポリメラーゼ、例えば、ポリメラーゼの天然もしくは野生型、またはポリメラーゼの別の修飾型を指す。例示的な修飾には、モノマー挿入、欠失および置換が含まれる。修飾ポリメラーゼはまた、2以上の親に由来する識別可能な構成要素配列(例えば構造または機能ドメインなど)を有するキメラポリメラーゼを含む。また、修飾ポリメラーゼの定義の中には、参照配列の化学修飾を含むものも含まれる。修飾ポリメラーゼの例には、G46E E678G CS5 DNAポリメラーゼ、G46E L329A E678G CS5 DNAポリメラーゼ、G46E L329A D640G S671F CS5 DNAポリメラーゼ、G46E L329A D640G S671F E678G CS5 DNAポリメラーゼ、G46E E678G CS6 DNAポリメラーゼ、Z05 DNAポリメラーゼ、△Z05ポリメラーゼ、Z05-ゴールドポリメラーゼ、△Z05Rポリメラーゼ、E615G Taq DNAポリメラーゼ、E678G TMA-25ポリメラーゼ、E678G TMA-30ポリメラーゼ等が含まれる。
【0033】
用語「5’から3’ヌクレアーゼ活性」または「5’-3’ヌクレアーゼ活性」は、典型的には核酸鎖合成に関連する核酸ポリメラーゼの活性を指し、それによりヌクレオチドは核酸鎖の5’末端から除去され、例えば大腸菌DNAポリメラーゼIはこの活性を有するが、クレノウ断片はそうではない。5’から3’ヌクレアーゼ活性を有する酵素の中には、5’から3’エキソヌクレアーゼがある。このような5’から3’エキソヌクレアーゼの例は、枯草菌由来のエキソヌクレアーゼ、脾臓由来のホスホジエステラーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、酵母由来のエキソヌクレアーゼII、酵母由来のエキソヌクレアーゼV、およびアカパンカビ由来のエキソヌクレアーゼが含まれる。
【0034】
用語「プロパンジオール」または「プロパンジオールスペーサー」は、1,3-プロパンジオールを指し、プロパン-1,3-ジオール、1,3-ジヒドロキシプロパン、およびトリメチレングリコールと同義である。用語「HEG」または「HEGスペーサー」は、3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン-1,17-ジオールと同義であるヘキサエチレングリコールを指す。
【0035】
本発明の様々な態様は、核酸ポリメラーゼの特殊な性質に基づく。核酸ポリメラーゼは、いくつかの活性、中でも5’から3’ヌクレアーゼ活性を有することができ、これにより、核酸ポリメラーゼは、モノヌクレオチドまたは小さなオリゴヌクレオチドを、より大きな相補的なポリヌクレオチドにアニーリングされたオリゴヌクレオチドから切断することができる。切断が効率よく起こるためには、上流のオリゴヌクレオチドも、同じより大きなポリヌクレオチドにアニーリングされていなければならない。
【0036】
5`から3`ヌクレアーゼ活性を利用する標的核酸の検出は、米国特許第5210015号;第5487972号;および第5804375号;ならびにHollandら,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:7276-7280(これらは全て参照により本明細書に援用される)に記載されているように、「TaqMan(登録商標)」または「5’-ヌクレアーゼアッセイ」により実施することができる。TaqMan(登録商標)アッセイでは、増幅反応中に増幅領域内でハイブリダイズする標識検出プローブが存在する。このプローブは、それがDNA合成のためのプライマーとして作用しないように改変される。増幅は、5’から3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて実施される。増幅の各合成工程の間、伸長されているプライマーから下流で標的核酸にハイブリダイズする任意のプローブは、DNAポリメラーゼの5’から3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。したがって、新しい標的鎖の合成もプローブの分解をもたらし、分解産物の蓄積は標的配列の合成の尺度となる。
【0037】
標的核酸の検出のための5’ヌクレアーゼアッセイは、5’から3’エキソヌクレアーゼ活性を有する任意のポリメラーゼを使用することができる。したがって、いくつかの実施態様において、5’-ヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼは、耐熱性および熱活性核酸ポリメラーゼである。このような耐熱性ポリメラーゼには、真正細菌属サーマス、サーモトガおよびサーモサイフォ(Thermosipho)の様々な種由来のポリメラーゼネイティブ型および組換え型、ならびにこれらのキメラ型が含まれるが、これらに限定されない。例えば、本発明の方法で使用され得るサーマス種ポリメラーゼには、サーマス・アクアティカス(Taq)DNAポリメラーゼ、サーマス・サーモフィラス(Tth)DNAポリメラーゼ、サーマス種Z05(Z05)DNAポリメラーゼ、サーマス種sps17(sps17)、およびサーマス種Z05(例えば、米国特許第5405774号;第5352600号;第5352600号;第5079352号;第4889818号;第5466591号;第5618711号;第5674738号;第579576号に記載)。本発明の方法で用いることができるサーモトガポリメラーゼには、例えば、サーモトガ・マリティマDNAポリメラーゼおよびサーモトガ・ネアポリタナDNAポリメラーゼが含まれ、一方、用いることができるサーモサイフォポリメラーゼの例は、サーモサイフォ・アフリカヌスDNAポリメラーゼである。サーモトガ・マリティマおよびサーモサイフォ・アフリカヌスDNAポリメラーゼの配列は、国際特許出願番号PCT/US第91/07035号および国際公開第92/06200号に公開されている。サーモトガ・ネアポリタナの配列は、国際特許公開第97/09451号に見出すことができる。
【0038】
5’ヌクレアーゼアッセイにおいて、増幅検出は、典型的には、増幅と同時に行われる(すなわち「リアルタイム」)。いくつかの実施態様において、増幅検出は定量的であり、増幅検出はリアルタイムである。いくつかの実施態様において、増幅検出は定性的である(例えば、標的核酸の存在または非存在の終点検出)。いくつかの実施態様において、増幅検出は増幅の後である。いくつかの実施態様において、増幅検出は定性的であり、増幅検出は増幅の後である。
【0039】
本発明では、単一の反応器(例えばチューブ、ウェル)中の2以上の標的核酸のリアルタイムPCR増幅および検出が、それぞれが2つの異なる部分を含む、標識プローブと呼ばれるオリゴヌクレオチドプローブを用いて行われる。第1の部分はアニーリング部分であり、標的配列とハイブリダイズできるように標的核酸配列と少なくとも部分的に相補的な配列を含む。オリゴヌクレオチドプローブの第2の部分(すなわちタグ付きプローブ)は、タグ部分と呼ばれる。一実施態様において、タグ部分はアニーリング部分の5`末端に付着している。別の実施態様では、タグ部分はアニーリング部分の3`末端に付着している。別の実施態様では、タグ部分は、リンカーを介してアニーリング部分の5`末端と3`末端の間の任意の場所に付着している。タグ部分は、標的核酸配列に相補的ではなく、標的核酸に結合することができない「フラップ」領域を形成するヌクレオチド配列を含み得る(5’フラッププローブの図解は図1を参照のこと)。タグ付きプローブのアニーリング部分およびタグ部分は、任意選択的に非ヌクレオチド「リンカー」によって分離することができる。このリンカーは、炭素、炭素および酸素、炭素および窒素、またはこれらの任意の組合せから構成することができ、任意の長さとすることができる。さらに、リンカーは、線状部分または環状部分から構成することができる。リンカーは、単一のユニットに由来するものであっても、リン酸結合によって分離されている複数の同一のまたは異なるユニットに由来するものであってもよい。リンカーの目的は、タグ付きプローブのアニーリング部分とタグ部分の接合部に領域を作ることである。タグ部分がアニーリング部分から分離されている場合、リンカーはまた、核酸ポリメラーゼによってタグ部分が伸長されるのを防ぐことができる。代替的には、分離されたタグ部分に別の修飾を加えることで、核酸ポリメラーゼによるタグ部分の伸長が不可能になる。
【0040】
5’ヌクレアーゼアッセイにおいて、リアルタイムPCR増幅および標的核酸の検出を行うためにタグ付きプローブを使用する一般的な原理を以下に記載する。まず、標的核酸を含むと思われる試料を準備する。その後、試料を単一の反応器(例えば、単一の試験管またはマルチウェルマイクロプレート中の単一ウェル)内で、標的核酸のアンプリコンを生成することができるオリゴヌクレオチドプライマーおよび新規オリゴヌクレオチドプローブの両方を含むPCR試薬と接触させる。5`から3`ヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いることによってPCR増幅が開始され、各PCRサイクルの伸長工程中にポリメラーゼのヌクレアーゼ活性によってタグ付きプローブのアニーリング部分からタグ部分の切断および分離が可能となる。分離されたタグ部分は、任意選択的に、核酸ポリメラーゼによる伸長が不可能であるような修飾(非ヌクレオチドリンカーなど)を含み得る。
【0041】
その後、分離されたタグ部分を、モログラフィーチップに付着しているオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。付着したオリゴヌクレオチドは「モリゴ」と呼ばれ、2つの部分、すなわち、タグ化プローブのタグ部分に相補的なヌクレオチド配列を含むアニーリング部分と、標的核酸配列またはタグ化プローブのタグ部分に非相補的であるヌクレオチド配列を含む伸長部分とを含む。モリゴは、分離されたタグ部分の伸長のためのテンプレートとして機能し、タグ部分は、モリゴのアニーリング部分とハイブリダイズしてプライマーになり、モリゴの伸長部分に沿って伸長され、伸長された二本鎖分子を形成する。その後、チップ上のこの伸長された二本鎖の生成を、焦点モログラフィーを用いて検出する。
【0042】
最近、生物学的試料中の分子相互作用の検出のための新規分析法として、焦点モログラフィーが記載されている(Fattinger, C., Physical Review X, 4, 031024, 2014; Gatterdam, V. et al., Nature Nanotechnology 12, 1089-1095, 2017参照)。簡単に言えば、焦点モログラフィーでは、コヒーレントレーザー光が、相互作用部位のコヒーレントな集合体で回折される。コヒーレントな集合体は、同一の相互作用部位の正確なサブマイクロメートルのパターンで構成されており、パターン全体にわたって入射コヒーレント光と位相整合されている必要がある。この集合体で回折された光は、回折限界焦点(エアリーディスク)で強め合うように干渉する。このような性質をもつ分子集合体を「モログラム」という。本質的に、モログラムは、分子で構成される合成ホログラムであり、光を回折限界焦点に散乱させ、分子相互作用分析を可能にするように調整されている。モログラムの焦点における回折したコヒーレント光の検出を通して、モログラムシグナルの取得が実現される。モログラム焦点の光強度は、モログラムの表面質量密度変調に二次関数的に比例する。アッセイ表面にランダムに付着している分子によるバックグラウンド散乱は、焦点モログラフィーによりコヒーレントモログラムシグナルから本質的に分離される。モログラフィーは、標識の存在を必要としない。このように、無標識モログラフィーは、モログラム内の認識部位のナノ環境における微細な位相差変化の検出を通して生体分子認識事象を可視化する。これにより、非共有相互作用の分析に新たな視点と可能性がもたらされる。
【0043】
生物学的相互作用を測定する場合、殆どの生物分析法は、バックグラウンドシグナルの重大な問題に直面するか、または手間のかかる参照手順を必要とする。蛍光ベースの手法(例えばフェルスター共鳴エネルギー転移またはFRET)などのいくつかの方法は、これらの問題の一部を回避するが、蛍光色素またはその他の干渉標識の使用の結果として、研究対象の分子相互作用を乱す可能性がある。対照的に、焦点モログラフィーは、モログラムの目に見えない親和性の変調を屈折率変調に変換して光の集束ビームを誘導し、ここで、親和性の変調は、隆起と溝の間の標的分子に対する認識部位密度の差である。特異的結合と非特異的結合の区別は、感知チャネルと参照チャネルの分離を極限まで(光の波長未満に)最小化することによって達成され、一方、数百の参照領域とシグナル領域が単一の感知スポットに組み込まれている。
【0044】
意義のあるモログラフィー測定を行うためには、いくつかの装置要件を満たす必要がある。焦点モログラフィーはモログラムの適切な暗視野照明を必要とし、これは高屈折率薄膜光導波路の導波モードによって実現できる。これにより、高いシグナル/バックグラウンド比が保証される。モログラフィーはまた、認識部位のサブミクロメートルースケールのコヒーレントパターンも必要とするが、これはバイオチップ用に開発された様々な既存のソフトリトグラフィー法によって作成することができる。ある特定の実施態様は、Serranoら(Macromol. Rapid Commun. 37, 622-629, 2016)によって記載されたグラフト共重合体と同様の光活性化可能なグラフト共重合体を用いて、五酸化タンタル(Ta25)薄膜光導波路をコーティングすることを伴う。この共重合体には4つの重要な特性がある:(1)フォトリソグラフィー露光前には、アッセイ表面の共重合体層は、化学的および光学的特性の両面で、モノリシックで均質な状態である。モノリシック層には、コヒーレントに配置された分子が含まれていないため、フォトリソグラフィー工程の前にモログラムシグナルを示さない。(2)共重合体層は非特異的分子吸着に対して耐性がある。この共重合体層はナノメートルスケールで欠陥と不規則性を示しているが、これらの欠陥はコヒーレントに配置されておらず、モログラムシグナルには寄与しない。(3)共重合体層には、光にさらされることによって認識部位を形成するための光活性化可能な官能基が含まれている。(4)形成された共重合体吸着層は、最初の表面コーティング後に必要な化学的および生化学的修飾を可能にし、PCR反応中の温度サイクルを可能にするのに十分な安定性がある。
【0045】
本発明の実施態様を、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない以下の実施例でさらに説明する。
【実施例
【0046】
実施例1 実現可能性研究:溶液中でのHIV-LTRプローブの切断と伸長
リアルタイムPCR実験を実施して、HIV-1 LTR遺伝子のセクションにハイブリダイズすることができるアニーリング部分を含むタグ化プローブおよびユニークタグ部分が、標的HIV-1 LTR遺伝子の存在下で切断されるであろうこと、および放出されたタグ部分が、タグ部分に相補的な配列を含む「モリゴ」テンプレートにアニーリングして、そこから伸長することができるであろうことを検証した。タグ付きプローブとモリゴのヌクレオチド配列を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
PCRアッセイは、標的HIV-1 LTR遺伝子の存在下(FL HIV(+))または非存在下(FL HIV(-))のいずれかで、およびモリゴタグ3テンプレートの存在下または非存在下のいずれかで、個々のウェルに設定された。アッセイの終了時に、ウェルからアリコートを採取し、HPLCクロマトグラフィーにかけ、得られた生成物を分析した。実験の結果を図2のクロマトグラフに示す。標的遺伝子の存在下およびタグ3モリゴの非存在下でのPCR反応において、HIV-1 LTRタグプローブの切断断片を表すピークが観察された(FL HIV(+)モリゴなしのグラフ参照)。これらの切断生成物のピークを詳しく調べると、これらのピークは、完全なタグ部分にアニーリング部分のヌクレオチドが1個(+1)、2個(+2)、3個(+3)、4個(+4)または5個(+5)加わった断片であることがわかった(図2の右下のグラフを参照)。興味深いことに、標的遺伝子とタグ3モリゴの両方の存在下での反応では(FL(HIV(+)モリゴありのグラフを参照)、完全長の標識されたモリゴ相補配列に対応するサイズの小さなピークが観察された。この結果は、切断されたタグ部分が溶液中でモリゴテンプレートにハイブリダイズしてそこから伸長することができることを実証し、固相上に固定化されたモリゴテンプレート上でこのタイプのアッセイを実施する実現可能性を提供した。
【0049】
実施例2 モログラフィーによる核酸ハイブリダイゼーションの検出に関する実現可能性研究
モログラフィーによる核酸ハイブリダイゼーションおよび伸長の検出のための実現可能性研究を、全体が参照により本明細書に援用されるPawlak M.ら、Proteomics 2002;2(4):383-93に記載のZeptochipマイクロアレイチップ(スイス、ヴィッタースヴィルのZeptosens社製)で実施した。20mM Tris、5mM MgCl2、50mM KClからなるランニングDNAバッファー(pH8.0)を、15μL/分の一定流量でチップのフロースラーシステム内のフローチャンバーに適用した。最初に、焦点モログラフィーの正規化シグナルとしてストレプトアビジン(SAv)を注入し、520pg/mm2の表面質量密度変調を行った。親和性タグのないcDNAと固定化SAvとの間の陰性対照は、望ましくない相互作用が行われていないことを表すモログラムシグナル(図3(i)参照)の変化を生じなかった。次に、ビオチンタグ付き100bp HIV-LTRモリゴオリゴヌクレオチド(配列番号4)の固定化は、100nM SAvとビオチン化HIV-LTRモリゴ-100の1:1の比率でプレ複合体として実現した。このプレ複合体の形成は、図3(i)と図3(ii)左側との比較で示されるようにモログラムシグナルの増加をもたらした。その後、固定化されたHIV-LTRモリゴ-100と、モリゴ-100テンプレートのアニーリング部分に結合できる22bpプライマーであるAT-MOLO-3(配列番号3)(図3(iii))またはモリゴ-100テンプレートに完全に相補的な100bpの配列(図3(ii)左側)のいずれかとの間でハイブリダイゼーションを比較した。22bpプライマーと100bp相補配列とのハイブリダイゼーション間のモログラムシグナルの増加は、図4にグラフで表されている。このことから、モログラフィーは切断されたタグが伸長しているものと伸長していないものとを区別できることがわかる。
【0050】
非公式配列表
配列番号1:HIV-1 LTRタグ3プローブ配列
CACACATTGGCACCGCCGTCTTCTCTAGCAGTGGCGCCCGAACAGGGAC
配列番号2:モリゴタグ3オリゴヌクレオチド配列
TTTTTTTTTTTTAGAGAAGACGGCGGTGCCAATGTGTG
配列番号3:AT-MOLO-3オリゴヌクレオチド配列
CACACATTGGCACCGCCGTCTT
配列番号4:HIV-LTR-モリゴ-100オリゴヌクレオチド配列
TTGCATGAGAATAGTAACGTATTGTGTAAAGCAGGATATAGAGTAATTGCCCAGTTGTTCCAAATCGATATTGCAGAGAAGACGGCGGTGCCAATGTGTG
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
【配列表】
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