(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】抗菌性アミノグリコシド誘導体
(51)【国際特許分類】
C07H 15/224 20060101AFI20230323BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20230323BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C07H15/224 CSP
A61K31/7036
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2021571459
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 CN2020093436
(87)【国際公開番号】W WO2020239096
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】201910463155.1
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010299506.2
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521521231
【氏名又は名称】卓和薬業集団股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】湯 東東
(72)【発明者】
【氏名】黄 志剛
(72)【発明者】
【氏名】李 程
(72)【発明者】
【氏名】丁 照中
(72)【発明者】
【氏名】陳 曙輝
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/147836(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/132768(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/067692(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/069138(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0172579(US,A1)
【文献】Khalid Eljaaly et al.,Drugs,79(13),pp.243-269,doi: 10.1007/s40265-019-1054-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(II)で表される化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【化1】
(式(II)中、R’は
【化2】
であり、
Lは-O-CH
2-CH
2-又は-CH
2-であり、
R
1はH又はC
1-3アルキル基であり、
R
2はH、C
1-3アルキル基又は
【化3】
であり、ここで、前記C
1-3アルキル基は、F、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN、-NH
2及び-NO
2から選択されるいずれか1、2又は3個の置換基で置換されていてもよく、
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH
2、-C(=O)-C
1-3アルキル基又はC
1-3アルキル基であり、ここで、前記-C(=O)-C
1-3アルキル基及びC
1-3アルキル基は、1、2又は3個のRで置換されていてもよく、各Rはそれぞれ独立してF、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN又は-NH
2である。)
【請求項2】
前記化合物は、下記の式(I)で表される構造を有する請求項1に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【化4】
(式(I)中、R
1はH又はC
1-3アルキル基であり、
R
2はH、C
1-3アルキル基又は
【化5】
であり、ここで、前記C
1-3アルキル基は、F、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN、-NH
2及び-NO
2から選択されるいずれか1、2又は3個の置換基で置換されていてもよく、
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH
2、-C(=O)-C
1-3アルキル基又はC
1-3アルキル基であり、ここで、前記-C(=O)-C
1-3アルキル基及びC
1-3アルキル基は、1、2又は3個のRで置換されていてもよく、各Rはそれぞれ独立してF、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN又は-NH
2である。)
【請求項3】
前記化合物は下記の式(I-1)で表される構造を有する請求項2に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【化6】
(式(I-1)中、R
a、R
b及びR
1については、請求項2と同義である。)
【請求項4】
R
1はH又は-CH
3である請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項5】
前記化合物は、下記の式(I-2)で表される構造を有する請求項4に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【化7】
(式(I-2)中、R
a及びR
bについては、請求項4と同義である。)
【請求項6】
各Rはそれぞれ独立してF又はClである請求項1又は2に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項7】
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH
2、-C(=O)-CH
3、-CH
3又は-CH
2CH
3であり、ここで、前記-C(=O)-CH
3、-CH
3及び-CH
2CH
3は、1、2又は3個のRで置換されていてもよい請求項1~3、5のいずれか1項に記載の前記的化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項8】
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH
2、-C(=O)-CH
3、-CH
3、-CH(R)
2、-CH
2CH
3又は-CH
2CH(R)
2である請求項7に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項9】
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH又は
【化8】
である請求項8に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項10】
R
2はH、-CH
3、-CH
2CH
3又は
【化9】
であり、ここで、前記-CH
3及び-CH
2CH
3は、F、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN、-NH
2及び-NO
2から選択されるいずれか1、2又は3個の置換基で置換されていてもよい請求項1、2、8又は9のいずれか1項に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項11】
R
2は
【化10】
又は
【化11】
である請求項10に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項12】
構造単位
【化12】
は
【化13】
である請求項1又は2に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項13】
構造単位
【化14】
は
【化15】
又は
【化16】
である請求項12に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項14】
【化17】
【化18】
又は
【化19】
で表される化合物
又はその薬学的に許容される
塩。
【請求項15】
有効成分とする治療有効量の請求項1から14のいずれか1項に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか1項に記載の化合物
又はその薬学的に許容される
塩又は請求項15に記載の医薬組成物からなる、細菌感染関連疾患用治療薬。
【請求項17】
前記の細菌は、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌である請求項16に記載の細菌感染関連疾患用治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、中国特許出願CN201910463155.1(出願日2019年05月30日)及び中国特許出願CN202010299506.2(出願日2020年04月16日)の優先権を主張し、それらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、医薬品分野に関し、具体的には新しいアミノグリコシド誘導体、その薬学的に許容される塩又はその異性体、その薬学的に許容される組成物、及び細菌感染関連疾患の治療薬の製造におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
現代医学では、RNAを結合することによって機能する新しい低分子経口バイオアベイラブル薬の開発が特に注目されている。DNAとタンパク質の間のメッセンジャーとして、RNAは、かつては、構造が著しく複雑になることなく完全に柔軟な分子として考えられている。最近の研究では、RNAはDNAのような単純な配列ではなく、複雑な構造を持つ競合タンパク質を持っていることが示されている。ゲノム配列決定により、タンパク質の配列とタンパク質をコードするmRNAが明らかになった。タンパク質はRNAテンプレートを使用して合成されるため、mRNAの翻訳を妨害してタンパク質の生成を防ぐことでタンパク質を阻害することができる。タンパク質とRNAの両方が潜在的な薬物標的部位であるため、ゲノム配列決定によって明らかになった標的の数は効果的に倍になる。これらの観察は製薬業界に小分子標的RNAを使用する新たな幕を開いた。
【0004】
現代の生化学と分子生物学の研究により、細菌リボソーム30SサブユニットとtRNAの結合はタンパク質合成にとって重要なステップの一つであることが明らかになった。現在までに、少なくとも2種類の細菌(Thermus thermophiles及びEscherichia coli)のリボソーム30Sサブユニットの結晶構造が報告されている。その結晶構造からtRNAと結合する3つの部位(アミノアシル部位A(Aminoacyl)、ペプチド部位P(Peptite)、E(Exit)部位)を明確に識別することができる。アミノグリコシド系薬物は、細菌リボソームの30Sサブユニットの16S rRNAデコード領域のA部位に特異的に結合してmRNAの誤翻訳を引き起こすことによりタンパク質合成を妨害して病原性細菌を殺す。アミノグリコシド系薬物は非常に効果的な広域抗生物質であり、最も一般的に使用されている抗感染症薬である。ほとんどのアミノグリコシド系薬物は、期待される薬物動態特性を持っており、他の抗感染症薬と相乗的に作用して生命を脅かす感染症を治療するための優れた品種になることができる。過去数十年においてこのような抗生物質の多くの種類が、臨床的に人気があった。
【0005】
アミノグリコシド系薬物は、1944年のストレプトマイシンの発見に端を発し、その後、一連の画期的な化合物(カナマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン)の販売に成功し、アミノグリコシド系薬物のグラム陰性細菌感染症の治療における地位が確立された。1970年代から1990年代にかけて、半合成アミノグリコシド系抗生物質のジベカシン、アミカシン、ネチルマイシン、イセパマイシン、エチミシンが次々と登場し、半合成経路により初期の抗生物質耐性菌に対して有効で副作用の少ないアミノグリコシド系抗生物質が成功に得られることを示している。しかし、アミノグリコシド系抗生物質の発展は遅れている。また、アミノグリコシド類薬物に対して広範な基礎と臨床研究を行った。特に、殺菌メカニズムと耐性メカニズムに関する研究は、このような抗生物質に対する理解を深めただけでなく、臨床的に合理的な投薬、耐性菌の減少、新しい耐性菌に対するアミノグリコシド類の設計に理論的基礎を提供した。
【0006】
アミノグリコシド系薬物は、アミノ糖とアミノ環状アルコールが酸素架橋を介して結合したグリコシドである。ストレプトマイシン由来のストレプトマイシンなど、ミニモナス由来のゲンタマイシンなどの天然アミノグリコシド系薬物、及びエチメシン、アミカシンなどの半合成アミノグリコシド系薬物はいずれも広域抗菌薬である。アミノグリコシド系薬物は、主に敏感な好気性グラム陰性桿菌による全身感染症に使用される。近年、様々なセファロスポリンやキノロン系薬物が臨床的に広く使用されているが、アミノグリコシド系薬物は緑膿菌、肺炎菌、大腸菌などによく見られるグラム陰性桿菌に対してPAEが長いため、好気性グラム陰性菌による重症感染症の治療に利用されている。
【0007】
臨床現場でのアミノグリコシド系薬物の長期的かつ大規模な使用に伴い、薬剤耐性の問題も現れている。また、耳毒性や腎毒性などのアミノグリコシド系薬物の一般的な副作用もその使用を制限している。近年、従来の抗生物質耐性の問題を解決できるいくつかの薬物分子、例えば、Achaogen社によって新たに開発されたPlazomicin(WO2009067692)が報告され、第III相臨床試験が完了した。
【0008】
本発明の目的は、エチメチン、アミカシン、ゲンタマイシンなどの従来の抗生物質がパッシベーション酵素に対して強い耐性を有し、耳毒性及び腎毒性を有する問題を解決することである。従来技術よりも簡単な合成方法により、より広い抗菌スペクトル及びより良好な活性を有する新規アミノグリコシド系薬物を製造することができる。
【発明の概要】
【0009】
本発明によれば、式(II)で表される化合物、その薬学的に許容される塩又はその異性体が提供される。
【化1】
式(II)中、R’は
【化2】
であり、
Lは-O-CH
2-CH
2-又は-CH
2-であり、
R
1はH又はC
1-3アルキル基であり、
R
2はH、C
1-3アルキル基又は
【化3】
であり、ここで、C
1-3アルキル基は、F、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN、-NH
2及び-NO
2から選択されるいずれか1、2又は3個の置換基で置換されていてもよく、
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH
2、-C(=O)-C
1-3アルキル基又はC
1-3アルキル基であり、ここで、前記-C(=O)-C
1-3アルキル基及びC
1-3アルキル基は、1、2又は3個のRで置換されていてもよく、各Rはそれぞれ独立してF、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN又は-NH
2である。
【0010】
本発明によれば、式(I)で表される化合物、その薬学的に許容される塩又はその異性体が提供される。
【化4】
式(I)中、R
1はH又はC
1-3アルキル基であり、
R
2はH、C
1-3アルキル基又は
【化5】
であり、ここで、C
1-3アルキル基は、F、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN、-NH
2及び-NO
2から選択されるいずれか1、2又は3個の置換基で置換されていてもよく、
R
a及びR
bはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH
2、-C(=O)-C
1-3アルキル基又はC
1-3アルキル基であり、ここで、前記-C(=O)-C
1-3アルキル基及びC
1-3アルキル基は、1、2又は3個のRで置換されていてもよく、各Rはそれぞれ独立してF、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN又は-NH
2である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、上記化合物は式(I-1)の構造を有する。
【化6】
式(I-1)中、R
a、R
b及びR
1については、本発明に定義されているとおりである。
【0012】
いくつかの実施形態において、上記R1はH又は-CH3であり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記R1はHであり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、上記化合物は式(I-2)の構造を有する。
【化7】
式(I-2)中、R
a及びR
bについては、本発明に定義されているとおりである。
【0015】
いくつかの実施形態において、各Rはそれぞれ独立してF又はClであり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0016】
いくつかの実施形態において、各Rはそれぞれ独立してFであり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0017】
いくつかの実施形態において、Ra及びRbはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH2、-C(=O)-CH3、-CH3又は-CH2CH3であり、ここで、前記-C(=O)-CH3、-CH3及び-CH2CH3は、1、2又は3個のRで置換されていてもよく、R及び他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0018】
いくつかの実施形態において、Ra及びRbはそれぞれ独立してH、-C(=O)-NH2、-C(=O)-CH3、-CH3、-CH(R)2、-CH2CH3又は-CH2CH(R)2であり、R及び他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0019】
いくつかの実施形態において、R
a及びR
bはそれぞれ独立してH又は
【化8】
であり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0020】
いくつかの実施形態において、R
2はH、-CH
3、-CH
2CH
3又は
【化9】
であり、ここで、前記-CH
3及び-CH
2CH
3は、F、Cl、Br、I、-OH、-OCH
3、-CN、-NH
2及び-NO
2から選択されるいずれか1、2又は3個の置換基で置換されていてもよく、R
a、R
b及び他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0021】
いくつかの実施形態において、上記R
2は
【化10】
又は
【化11】
であり、R及び他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
いくつかの実施形態において、上記構造単位
【化12】
は
【化13】
であり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記構造単位
【化14】
は
【化15】
又は
【化16】
であり、他の変量については、本発明に定義されているとおりである。
いくつかの実施形態において、上記化合物は
【化17】
【化18】
又は
【化19】
で表される。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態は、上記変量の任意の組み合わせからなる。
【0024】
本発明によれば、有効成分とする治療有効量の上記化合物、その薬学的に許容される塩又はその異性体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物がさらに提供される。
【0025】
本発明によれば、細菌感染関連疾患の治療薬の製造における上記化合物、その薬学的に許容される塩又はその異性体、及び上記医薬組成物の使用がさらに提供される。本発明のいくつかの実施形態は、上記細菌は、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌である。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、簡単な製造方法により式(II)の化合物及その異性体を合成し、CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)などの超細菌に引き起こされる薬剤耐性菌感染症の治療に適用される新しいアミノグリコシド系抗生物質が得られ、従来の抗生物質の不活化酵素による薬剤耐性、及び耳毒性、腎毒性が存在する問題が解決される。また、本発明の化合物は、抗菌スペクトルがより広く、活性がより高く、細胞毒性を有しない。
【0027】
定義と説明
特に断りのない限り、本明細書で使用される以下の用語及びフレーズは、以下の意味を有することを意図している。特定の用語やフレーズは、特別な定義がない場合、不確実又は不明確であると見なされるべきではなく、通常の意味で理解されるべきである。本明細書に記載されている商品名は、対応する商品又はその有効成分を指すことを意図している。
【0028】
用語「薬学的に許容される」とは、化合物、材料、組成物及び/又は剤形は、信頼できる医学的判断の範囲内において過度の毒性、刺激、アレルギー反応又はその他の問題や合併症を伴わずにヒト及び動物の組織と接触して使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合うことを指す。
【0029】
用語「薬学的に許容される塩」とは、本発明の化合物の塩を指し、本発明で発見された特定の置換基を有する化合物及び比較的無毒の酸又は塩基で製造される。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を有する場合、純溶液又は適宜な不活性溶媒において十分量の塩基とこのような化合物の中性形態と接触させることにより塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミン若しくはマグネシウム塩、又は類似の塩が含まれる。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含む場合、純溶液又は適宜な不活性溶媒において十分量の酸とこのような化合物の中性形態と接触させることにより酸付加塩を得ることができる。薬学的に許容される酸付加塩の例には、無機酸の塩、有機酸の塩が含まれる,無機酸は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、重炭酸イオン、リン酸、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、硫酸、硫酸水素イオン、ヨウ化水素酸、亜リン酸などである。有機酸は、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などである。さらに、アミノ酸(例えば、アルギニンなど)の塩、及びグルクロン酸などの有機酸の塩が含まれる。本発明の特定の化合物は塩基性及び酸性の官能基を含むことにより、任意の塩基又は酸付加塩に変換することができる。
【0030】
本発明の薬学的に許容される塩は、酸基又は塩基を含む母体化合物を用いて通常の化学方法により合成される。このような塩は、通常、水若しくは有機溶媒又は両者の混合物において遊離酸又は塩基形態にあるこれらの化合物と化学量論的に適切な塩基又は酸とを反応させることにより製造される。
【0031】
本発明の化合物は、特定の幾何又は立体的異性体の形態を有することができる。本発明において、このような化合物は全て互変異性体、シス・トランス異性体、(-)-及び(+)-エナンチオマー、(R)-及び(S)-エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)-異性体、(L)-異性体、それらのラセミ混合物及び他の混合物、例えば、エナンチオマー又はジアステレオマーに富む混合物を含む。これらの混合物はいずれも本発明の範囲内に含まれる。アルキル基などの置換基には不斉炭素原子が存在する場合がある。これらの異性体及びそれらの混合物はいずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0032】
特に断りのない限り、用語「エナンチオマー」又は「光学異性体」とは、互いの鏡像である立体異性体を指す。
【0033】
特に断りのない限り、用語「シス・トランス異性体」又は「幾何異性体」は、二重結合又は環形成炭素原子の単結合が自由回転できないことによって引き起こされるものを指す。
【0034】
特に断りのない限り、用語「ジアステレオマー」とは、分子が2つ以上のキラル中心を有し、分子間の関係が非鏡像である立体異性体を指す。
【0035】
特に断りのない限り、「(D)」又は「(+)」は右旋性を意味し、「(L)」又は「(-)」は左旋性を意味し、「(DL)」又は「(±)」はラセミ体を意味する。
【0036】
特に断りのない限り、楔形実線結合
【化20】
及び楔形破線結合
【化21】
で立体中心の絶対配置を示し、直形実線結合
【化22】
及び直形破線結合
【化23】
で立体中心の相対配置を示し、波線
【化24】
で楔形実線結合
【化25】
又は楔形破線結合
【化26】
を示し、或いは波線
【化27】
で直形実線結合
【化28】
及び直形破線結合
【化29】
を示す。
【0037】
本発明の化合物は特定的であり得る。特に断りのない限り、用語「互変異性体」又は「互変異性体形式」とは、室温で異なる官能基異性体が動的平衡状態にあり、すぐに相互変換できることを指す。互変異性体が可能であると(例えば、溶液中)、互変異性体の化学平衡に達することができる。例えば、プロトン互変異性体(proton tautomer)(プロトトロピック互変異性(prototropic tautomer)とも呼ばれる)は、プロトン移動による相互変換(例えば、ケト-エノール異性化及びイミン-エナミン異性化)を含む。原子価互変異性体(valence tautomer)は、結合電子の再結合による相互変換を含む。ここで、ケトエノール互変異性化の具体例は、ペンタン-2,4-ジオンと4-ヒドロキシペント-3-エン-2-オンの2つの互変異性体間の相互変換である。
【0038】
特に断りのない限り、用語「異性体を豊富に含む」、「異性体に富む」、「エナンチオマーを豊富に含む」又は「エナンチオマーに富む」とは、ある異性体又はエナンチオマーの含有量が100%未満であり、かつこの異性体又はエナンチオマーの含有量が60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、又は99.5%以上、又は99.6%以上、又は99.7%以上、又は99.8%以上、又は99.9%以上であることを指す。
【0039】
特に断りのない限り、用語「異性体が過剰である」又は「エナンチオマーが過剰である」とは、この2種類の異性体又は2種類のエナンチオマーの相対百分率の差分を指す。例えば、一方の異性体又はエナンチオマーの含有量が90%、他方の異性体又はエナンチオマーの含有量が10%である場合、異性体又はエナンチオマーは(ee値)80%過剰である。
【0040】
キラル合成、キラル試薬又は他の通常の技術により光学活性の(R)-及び(S)-異性体並びにD及びL異性体を製造することができる。本発明に係るある化合物のエナンチオマーを得るために、不斉合成又は不斉補助剤を有する誘導作用により製造することができる。得られるジアステレオマー混合物を分離し、補助基が開裂して必要な純粋なエナンチオマーを提供する。或いは、分子に塩基性官能基(例えば、アミノ基)又は酸性官能基(例えば、ヒドロキシル基)がある場合、適切な光学活性の酸又は塩基とジアステレオマーの塩を形成し、そして通常の方法によりジアステレオマーの分離を行い、純粋なエナンチオマーを回収する。さらに、エナンチオマーとジアステレオマーの分離は、通常クロマトグラフィー法により行う。クロマトグラフィー法では、キラル固定相を使用し、必要に応じて化学的誘導体化法と併用する(例えば、アミンからカーバメートを生成する)。本発明の化合物は、この化合物を構成する1つ又は複数の原子に非天然存在比で原子同位体を有してもよい。例えば、放射性同位体(トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)又はC-14(14C))で化合物を標識することができる。さらに、重水素で水素を置換して重水素化薬物を形成することができる。重水素と炭素の結合は、通常の水素と炭素の結合よりもより強固であり、重水素化されていない薬物に比べて、重水素化薬物は、毒・副作用を効果的に低減でき、薬物の安定性及び治療効果を向上させ、薬物の生物学的半減期を延長できるなどの利点を有する。本発明の化合物の全ての同位体からなる変換は、放射性にもかかわらず本発明の範囲内に含まれる。「任意」又は「必要に応じて」とは、後述する事件又は状況に応じて発生する可能性があるが、必ず発生するわけではないことを指し、この記述には前記事件又は状況が発生する場合及び発生しない場合が含まれる。
【0041】
薬物又は薬理学的活性剤にとって、用語「有効量」又は「治療有効量」とは、無毒で所望の効果を達成できる薬物又は薬剤の十分な用量を指す。本発明の経口剤形では、組成物におけるある活性物質の「有効量」とは、この組成物における別の活性物質と併用する際に、所望の効果を達成するために必要な用量を指す。有効量の確定はヒトによって異なり、被験体の年齢及び一般状況、具体的な活性物質に依存する。具体的なケースにおける適切な有効量については、当業者が通常の実験によって決定することができる。
【0042】
用語「有効成分」、「治療剤」、「活性物質」又は「活性剤」とは、障害、疾患又は病状を効果的に治療できる化学実体を指す。
【0043】
用語「置換される」とは、特定の原子上のいずれか1つ又は複数の水素原子が置換基によって置換されることを指し、重水素及び水素の変形を含み、この原子の原子価が正常であるとともに、置換後の化合物が安定すればよい。置換基が酸素(即ち、O)である場合、2つの水素原子が置換されることを示す。なお、芳香族基上では酸素置換は発生することがない。用語「必要に応じて置換される」とは、置換されていてもよく、置換されていなくてもよいことを指す。特に指定のない限り、置換基の種類及び数は化学的に達成できる限り任意である。
【0044】
ある変量(例えば、R)が化合物の組成又は構造に1回以上現れる場合、この変量は、いかなる場合においてもその定義が独立する。したがって、ある基が0-2個のRによって置換された場合、この基は、多くとも2つのRによって任意に置換することができ、いかなる場合においてもRは独立した選択肢を有する。さらに、置換基及び/又はその変形の組み合わせは、この組み合わせが安定した化合物を生成する場合にのみ許容される。
【0045】
連結基の数が0である場合(例えば-(CRR)0-)、この連結基が単結合であることを示す。
【0046】
ある変量が単結合から選択されるものである場合、それと連結する2つの基が直接結合することを示す。例えば、A-L-ZにおけるLが単結合である場合、この構造は実質的にA-Zであることを示す。
【0047】
ある置換基が空いている場合、この置換基が存在しないことを示す。例えば、A-XにおけるXが空いている場合、この構造は実質的にAであることを示す。挙げられる置換基におけるどの原子介して置換される基に結合することが指定されていない場合、この置換基は任意の原子を介して結合することができる。例えば、ピリジル基は、置換基としてピリジン環上の任意の炭素原子を介して置換される基に結合することができる。
【0048】
挙げられる連結基の連結方向が指定されていない場合、その連結方向は任意である。例えば、
【化30】
における連結基Lは-M-W-であり、この場合、-M-W-は、左から右への順序と同じ方向で環Aと環Bとを連結して
【化31】
を構成しもてよく、反対方向で環Aと環Bとを連結して
【化32】
を構成してもよい。連結基、置換基及び/又はその変形の組み合わせは、このような組み合わせが安定した化合物を生成する場合にのみ許容される。
【0049】
特に指定のない限り、用語「C1-6アルキル基」とは、1から6の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を指す。C1-6アルキル基は、C1-5、C1-4、C1-3、C1-2、C2-6、C2-4、C6及びC5アルキル基などを含み、一価(例えば、メチル基)、二価(例えば、メチレン基)又は多価(例えば、メチン基)であってもよい。C1-6アルキル基の例には、メチル基(Me)、エチル基(Et)、プロピル基(n-プロピル基及びイソプロピル基を含む)、ブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基を含む)、ペンチル基(n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基を含む)、ヘキシル基などが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
特に指定のない限り、用語「C1-3アルキル基」とは、1から3の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を指す。C1-3アルキル基は、C1-2及びC2-3アルキル基などを含み、一価(例えば、メチル基)、二価(例えば、メチレン基)又は多価(例えば、メチン基)であってもよい。C1-3アルキル基の例には、メチル基(Me)、エチル基(Et)、プロピル基(n-プロピル基及びイソプロピル基を含む)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
用語「脱離基」とは、置換反応(例えば、求核置換反応)により別の官能基又は原子によって置換可能な官能基又は原子を指す。代表的な脱離基には、トリフルオロメタンスルホン酸エステル;塩素、臭素、ヨウ素;スルホン酸エステル基、例えば、メタンスルホン酸エステル、トルエンスルホン酸エステル、p-ブロモベンゼンスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸エステルなど;アシルオキシ、例えば、アセトキシ、トリフルオロアセトキシなどが含まれる。
【0052】
用語「保護基」は、「アミノ保護基」、「ヒドロキシ保護基」又は「チオール保護基」を含むが、これらに限定されない。用語「アミノ保護基」とは、アミノ基の窒素部位での副反応を阻止するのに適した保護基を指す。代表的なアミノ保護基は、ホルミル基;アシル基、例えば、アルカノイル基(例えば、アセチル基、トリクロロアセチル基又はトリフルオロアセチル基);アルコキシカルボニル基、例えば、tert-ブトキシカルボニル基(Boc);アリールメトキシカルボニル基、例えば、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)及び9-フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc);アリールメチル基、例えば、ベンジル基(Bn)、トリチル基(Tr)、1,1-二(4’-メトキシフェニル)メチル基;シリル基、例えば、トリメチルシリル基(TMS)及びtert-ブチルジメチルシリル基(TBS)などを含むが、これらに限定されない。用語「ヒドロキシ保護基」とは、ヒドロキシル基の副反応を阻止するのに適した保護基を指す。代表的なヒドロキシ保護基は、アルキル、例えば、メチル基、エチル基及びtert-ブチル基;アシル基、例えば、アルカノイル基(例えば、アセチル基);アリールメチル基、例えば、ベンジル基(Bn)、p-メトキシベンジル基(PMB)、9-フルオレニルメチル基(Fm)及びジフェニルメチル(DPM);シリル基、例えば、トリメチルシリル(TMS)及びTert-ブチルジメチルシリル(TBS)などを含むが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の化合物は、当業者によく知られている多くの合成方法により調製することができる。これらの合成方法は、以下に示される具体的な実施形態、それと他の化学合成方法とを組み合わせた実施形態、及び当業者によく知られている同等の置換態様を含む。好ましい実施形態は、本発明の実施例を含むが、これに限定されない。
【0054】
本発明で使用される溶媒は市販品である。
【0055】
本発明で使用される略語
CFU:コロニー数
Boc:tert-ブトキシカルボニル基
MIC:最小発育阻止濃度。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】化合物1(用量30mpk)及びPlazomicin(用量30mpk)のマウス大腿筋モデル(腸内細菌ATCC-25922)における体内薬効データである。
【
図2】化合物1(用量10mpk及び30mpk)、Plazomicin(用量10mpk及び30mpk)及びメロペネム(用量100mpk)のマウス肺炎モデル(肺炎クレブシエラ菌ATCC-BAA-1705)における体内薬効データである。
【
図3】複合活動電位の振幅変化であり、周波数32kHzである場合、化合物1、ゲンタマイシン及びPlazomicinのCAP振幅の異なる強度での変化を示す。
【
図4】複合活動電位の振幅の変化、具体的には、固定周波数16kHzにおける化合物1、ゲンタマイシン及びPlazomicinのCAP振幅の異なる強度の変化を示す。
【
図5】複合活動電位の振幅の変化、具体的には、短音(Click)である場合における化合物1、ゲンタマイシン及びPlazomicinのCAP振幅の異なる強度の変化を示す。
【
図6】蝸牛の有毛細胞の損傷状況を示す。
図6Aは、化合物1、ゲンタマイシン及びPlazomicinによる内有毛細胞の損傷の状況を示す。
図6Bは、化合物1、ゲンタマイシン及びPlazomicinによる外有毛細胞の損傷の状況を示す。
【
図7】化合物1、ゲンタマイシン及びPlazomicinによるらせん神経節細胞の密度の変化を示す。
【
図8】HK-2細胞に対するPlazomicinの毒性回帰曲線である。
【
図9】HK-2細胞に対する化合物1の毒性回帰曲線である。
【
図10】HK-2細胞に対するネチルマイシンの毒性回帰曲線である。
【
図11】HK-2細胞に対するアミカシンの毒性回帰曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。当業者は本発明の思想から逸脱しない範囲で本発明の実施形態を変更及び改良することができる。
【0058】
【0059】
ステップ1
ジフェニルホスフィニルヒドロキシルアミン(10g,42.88mmol,1eq)、化合物1-1(13.65g,128.64mmol,12.19mL,3eq)及びナトリウムtert-ブトキシド(4.95g,51.46mmol,1.2eq)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶解し、5-15℃で撹拌しながら16時間反応させた。反応液を濾過し、濾液を濃縮し、化合物1-2を得た。
【0060】
ステップ2
ステップ1で得られた化合物1-2(5.19g,42.84mmol,1eq)のテトラヒドロフラン(100mL)溶液とN,N-二-BOC-1H-ピラゾール-1-ホルムアミジン(13.30g,42.84mmol,1eq)を66℃で撹拌しながら16時間反応させた。反応液を室温に冷却し、そこに水(300mL)を加え、酢酸エチル(100mL×2)で抽出した。有機相を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥して濾過し、濾液を濃縮し、粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィー(シリカ,石油エーテル/酢酸エチル=20/1,1/1(v/v))により精製し、化合物1-3を得た。
【0061】
ステップ3
化合物1-3(1g,2.75mmol,1eq)及び2-ヨードキシ安息香酸(847.59mg,3.03mmol,1.1eq)をジメチルスルホキシド(10mL)に溶解し、反応液を40℃で撹拌しながら1時間反応させた。反応液を濾過し、濾液に水(40mL)を加え、tert-ブチルメチルエーテル(20mL×2回)で抽出。有機相を合わせ、飽和チオ硫酸ナトリウム(10mL)で洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して濃縮し、化合物1-4を得た。
【0062】
ステップ4
アンバーライト(イオン交換樹脂)IRA-402(OH)(500g)をメタノール(500mL)に加え、この溶液を20℃で1時間撹拌した。混合物を濾過し、濾過ケーキをメタノール(500mL)に加え、さらに化合物1-5をこの混合液に加え、混合物を20℃で11時間撹拌した。反応過程において化合物1-5は溶解した。反応液を濾過し、濾液を濃縮し、化合物1-6を得た。LCMS(ESI)m/z:448.4(M+1)。
【0063】
ステップ5
化合物1-6(15g,33.52mmol,1eq)をメタノール(150mL)に溶解し、さらにS-エチル2,2,2-トリフルオロエチルチオエステル(4.24g,26.82mmol,0.8eq)のメタノール(150mL)溶液を上記メタノール溶液に滴下し、混合液を20℃で16時間撹拌した。酢酸亜鉛(14.72g,80.44mmol,2.4eq)を溶液に加え、さらに(N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド)-tert-ブチルエステル(16.85g,60.33mmol,1.8eq)及びトリエチルアミン(10.17g,100.55mmol,14.00mL,3eq)のテトラヒドロフラン(170mL)溶液を混合液に滴下した。反応液を20℃で30時間撹拌した。反応液をグリシン(7g)で停止させた後、濃縮した。ジクロロメタン(1000mL)で濃縮液を希釈し、アンモニア水溶液(300mL、水:アンモニア=7:3)で2回洗浄し、有機相を濃縮した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,ジクロロメタン/メタノール=50/1~5/1(v/v),少量のアンモニア水を含む)により精製し、化合物1-7を得た。LCMS(ESI)m/z:744.3(M+1)。
【0064】
ステップ6
(2S)-4-(tert-ブチルオキシカルボニルアミノ)-2-ヒドロキシ-酪酸(6.85g,31.26mmol,1.5eq)をN,N-ジメチルホルムアミド(150mL)に溶解し、溶液にN-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジイミド(5.60g,31.26mmol,1.5eq)及び1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(4.85g,31.26mmol,5.53mL,1.5eq)を加えた。反応液を20℃で2時間撹拌した。さらに化合物1-7(15.5g,20.84mmol,1eq)を反応液に加え、反応液を20℃で16時間撹拌した。そして水(200mL)で希釈し、それぞれ酢酸エチル(50mL×3)で抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水(100mL)で洗浄し、さらに無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、濾液を濃縮し、混合物を得た。混合物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,ジクロロメタン/メタノール=50/1~10/1(v/v))により精製し、化合物1-8を得た。LCMS(ESI)m/z:945.5(M+1)。
【0065】
ステップ7
化合物1-8(16.40g,17.35mmol,1eq)、ジ-tert-ブチルジカルボナート(4.55g,20.83mmol,4.78mL,1.2eq)、DIEA(2.69g,20.83mmol,3.6mL,1.2eq)をテトラヒドロフラン(170mL)に溶解し、3回窒素置換した後、反応液を20℃で16時間撹拌した。水(200mL)を加えて希釈した後、ジクロロメタン(100mL×2)で抽出し、合わせた有機相を順に0.1M塩酸(20mL)及び飽和食塩水(60mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した。濾液を濃縮した後、固体混合物を得た。混合物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,石油エーテル/酢酸エチル=15/1~0/1(v/v))により精製し、目的化合物1-9を得た。LCMS(ESI)m/z:1045.3(M+1)。
【0066】
ステップ8
化合物1-9(15.00g,14.35mmol,1eq)及びアンモニア水(63.70g,1.82mol,70mL,126.62eq)をメタノール(80mL)に溶解し、混合液を20℃で16時間撹拌した。反応液を濃縮して溶媒を除去し、水(100mL)を加えて希釈し、さらにジクロロメタン(100mL×3次)で抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水(200mL)で洗浄し、さらに無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した。濾液を濃縮した後の混合物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,まず石油エーテル/酢酸エチル=10/1~0/1(v/v)、次いでジクロロメタン/メタノール=6/1(v/v),溶離液に少量のアンモニア水が含まれる)により精製し、化合物1-10を得た。LCMS(ESI)m/z:949.3(M+1)。
【0067】
ステップ9
化合物1-4(50.63mg,0.15mmol)及び化合物1-10(145.00mg,0.15mmol)をメタノール(5.00mL)に溶解し、4A分子篩(0.5g)を加え、窒素雰囲気、18℃で0.5時間撹拌し、そしてシアノ水素化ホウ素ナトリウム(19.20mg,0.30mmol)を加えて1時間撹拌した。LCMSにより完全に反応したことを検出した後、濾過して濃縮し、分取HPLC:Phenomenex Synergi C18 150×25mm×10μm;移動相:[水(0.225%ギ酸)-アセトニトリル];アセトニトリル%:60%-90%,10minにより分離し、化合物1-11を得た。LCMS(ESI)m/z:1294.7(M+1)。
【0068】
ステップ10
化合物1-11(91.00mg,71.97μmol)を無水ジクロロメタン(2.00mL)に溶解し、窒素雰囲気の保護下で0℃に冷却し、トリフルオロ酢酸(1.54g,13.51mmol)を加え、0-19℃で9時間撹拌し、常温で濃縮し、アセトニトリル/メチルtert-ブチルエーテル(4mL,1/3)でスラリー化し、濾過して濃縮し、化合物1を得た。
1H NMR(400MHz,D2O)δ(ppm):5.62(s,1H),5.24(s,1H),5.08(s,1H),4.09-4.06(m,1H),3.98-3.96(m,2H),3.94-3.93(m,5H),3.77-3.73(m,4H),3.24(s,1H),3.22-3.10(m,6H),2.83(s,3H),2.61-2.14(m,2H),2.04-2.14(m,6H),1.26(s,3H);LCMS(ESI)m/z:664.5(M+1)。
【0069】
【0070】
ステップ1
化合物2-1(1g,12.19mmol,71.94μL,1.2eq)、N,N-二-BOC-1H-ピラゾール-1-ホルムアミジン(3.15g,10.16mmol,1eq)及びトリフェニルホスフィン(3.20g,12.19mmol,1.2eq)をテトラヒドロフラン(40mL)に溶解し、0℃でDIAD(2.46g,12.19mmol,2.37mL,1.2eq)を滴下し、そして20℃に昇温し、12時間撹拌した。反応液に水(100mL)を加え、酢酸エチル(50mL,3回)で抽出し、合わせた有機相を水(30mL,3回)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をクロマトグラフィーカラム(シリカ,石油エーテル/酢酸エチル=50/1から20/1(v/v))により精製し、化合物2-2を得た。
【0071】
ステップ2
化合物1-2(2.1g,17.34mmol,1eq)をテトラヒドロフラン(50mL)に溶解し、20℃で化合物2-2(3.25g,8.67mmol,0.5eq)を加え、反応液を67℃で12時間撹拌した。反応液に水(100mL)を加え、酢酸エチル(50mL×3)で抽出し、合わせた有機相を水(30mL,3回)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をクロマトグラフィーカラム(シリカ,石油エーテル/酢酸エチル=10/1から1/1(v/v))により精製し、化合物2-3を得た。
【0072】
ステップ3
化合物2-3(150mg,350.93μmol,1eq)をジメチルスルホキシド(3mL)に溶解し、40℃で2-ヨードキシ安息香酸(108.09mg,386.02μmol,1.1eq)を加え、反応液を40℃で2時間撹拌した。反応液に飽和重炭酸ナトリウム/チオ硫酸ナトリウム(30mL,(v/v))を加え、酢酸エチル(20mL×2)で抽出し、合わせた有機相を飽和重炭酸ナトリウム/チオ硫酸ナトリウム(10mL×3回(1/1,v/v))で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して濃縮し、化合物2-4を得た。
【0073】
ステップ4
化合物1-10(239.32mg,252.16μmol,1eq)を1,2-ジクロロエタン(2mL)に溶解し、20℃で化合物2-5(118mg,277.37μmol,1.1eq)及び4A分子篩(300mg)を加え、1時間撹拌した後、酢酸水素化ホウ素ナトリウム(64.13mg,302.59μmol,1.2eq)を加え、反応液を20℃で12時間撹拌した。反応液に水(20mL)を加え、ジクロロメタン(20mL×3)で抽出し、合わせた有機相を水(10mL×3)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して濃縮し、粗生成物を得た。分取HPLC(カラム:Phenomenex Synergi C18 150×25mm×10μm;移動相:[水(0.225%ギ酸)-アセトニトリル];アセトニトリル%:35%-56%,7min)により精製し、化合物2-6を得た。LCMS(ESI)m/z:1358.7(M+1)。
【0074】
ステップ5
化合物2-8(40mg,29.44μmol,1eq)をジクロロメタン(1mL)に溶解し、0℃でトリフルオロ酢酸(1.54g,13.51mmol,1mL,458.70eq)を加え、20℃に昇温し、2時間撹拌した。反応液を0℃に冷却し、メチルtert-ブチルエーテル(15mL)を加え、濾過し、メチルtert-ブチルエーテル(2mL×3)で洗浄した後、オイルポンプ40℃で乾燥し、化合物2を得た。
1H NMR(400MHz,D2O)δ=6.18-5.87(m,1H),5.63(s,1H),5.28-5.22(m,1H),5.08(d,J=3.8Hz,1H),4.23-4.16(m,1H),4.09-4.03(m,3H),3.98-3.89(m,2H),3.83(br t,J=5.2Hz,1H),3.79-3.68(m,8H),3.46-3.38(m,1H),3.33(br d,J=13.0Hz,1H),3.26-3.22(m,2H),3.16-3.07(m,2H),2.83(s,3H),2.69-2.55(m,1H),2.42-2.28(m,1H),2.19-2.06(m,2H),1.95-1.85(m,1H),1.83-1.71(m,1H),1.29-1.23(m,3H)。
LCMS(ESI)m/z:758.3(M+1)。
【0075】
【0076】
ステップ1
化合物3-1(16.00g,115.12mmol)をアセトニトリル(200.00mL)に溶解し、そこにN-BOC-ヒドロキシルアミン(15.33g,115.12mmol)及びDBU(19.28g,126.63mmol)を加えた。この混合物を11℃-25℃で16時間反応させた後、濃縮した。残留物を酢酸エチル(350mL)で希釈し、水(100mL×3)で洗浄し、飽和食塩水(100mL)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィー(フィラー:シリコーン粉末,溶離液:酢酸エチル/石油エーテル=0-1/1(v/v))により分離し、化合物3-2を得た。
【0077】
ステップ2
化合物3-2(1.00g,5.23mmol)及び塩化水素のジオキサン溶液(10mL,4mmol)を混合し、20℃で16時間撹拌し、そして減圧濃縮し、化合物3-3を得た。
【0078】
ステップ3
化合物3-3(581.27mg,6.38mmol)及びビスBocピラゾールグアニジン(1.80g,5.8mmol)をテトラヒドロフラン(20mL)に溶解し、トリエチルアミン(1mL)を加え、溶液を80℃で16時間撹拌し、LCMSで完全に反応したことを検出した。この混合物を水(100mL)に入れ、酢酸エチル(100mL×3)で希釈し抽出し、飽和食塩水(30mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィー(フィラー:シリコーン粉末,溶離液:酢酸エチル/石油エーテル=50/1-20/1(v/v))により分離し、化合物3-4を得た。
【0079】
ステップ4
化合物3-4(0.40g,1.50mmol)をジメチルスルホキシド(5.00mL)に溶解し、2-ヨードキシ安息香酸(0.34g,1.2mmol)を加え、窒素雰囲気、40℃で3時間撹拌し、酢酸エチル(100mL)で希釈し、水(50mL×2)及び飽和食塩水(50mL)で洗浄し、濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィー(フィラー:シリコーン粉末,溶離液:酢酸エチル/石油エーテル=0-1/1)により分離し、化合物3-5を得た。
【0080】
ステップ5
化合物3-5(50.63mg,0.15mmol)及び化合物1-10(145.00mg,0.15mmol)をメタノール(5.00mL)に溶解し、4A分子篩(0.5g)を加え、窒素雰囲気、18℃で0.5時間撹拌した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(19.20mg,0.30mmol)を加え、1時間撹拌し、LCMSにより完全に反応したことを検出し、濾過して濃縮し、分取-HPLC(Phenomenex Synergi C18 150×25×10μm;移動相:[水(0.225%ギ酸)-アセトニトリル];アセトニトリル%:60%-90%,10min)により分離し、化合物3-7を得た。
【0081】
ステップ6
化合物3-7(91.00mg,71.97μmol)を無水ジクロロメタン(2.00mL)に溶解し、窒素雰囲気の保護下で0℃に冷却し、トリフルオロ酢酸(1.54g,13.51mmol)を加え、0-19℃で9時間撹拌し、常温で濃縮した。残留物をアセトニトリル/メチルtert-ブチルエーテル(4mL,1/3)で洗浄し、化合物3を得た。
1H NMR(400MHz,D2O)δ(ppm):5.62(s,1H),5.24(s,1H),5.08(s,1H),4.09-4.06(m,1H),3.98-3.96(m,2H),3.94-3.93(m,5H),3.77-3.73(m,4H),3.24(s,1H),3.22-3.10(m,6H),2.83(s,3H),2.61-2.14(m,2H),2.04-2.14(m,6H),1.26(s,3H);LCMS(ESI)m/z:664.5(M+1)。
【0082】
生物活性測定
実験例1:化合物の静菌作用の測定(MIC)
3株の腸内細菌E.coli ATCC 25922,E.coli ATCC BAA-2523,K.pneumonia ATCC BAA-1705ヲ用いて臨床及び実験室標準協会(Institute of clinical and laboratory standard,CLSI)の要求に従って、微量液体希釈法により各化合物の最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration,MIC)を測定した。丸底96-ウェルプレート(Catalog# 3788,Corning)に2倍段階希釈化合物(最終濃度の範囲:0.125μg/mL-128μg/mL)を加え、一晩静置したミューラー・ヒントン寒天培地Mueller Hinton II Agar(MHA,Cat.No.211438,BD BBLTM)から新鮮な細菌モノクローンを取り、滅菌生理食塩水に懸濁させ、濃度を1×108CFU/mLに調節し、さらに陽イオンで調整したミューラー・ヒントン培地Cation-Adjusted Mueller Hinton II Broth(MHB,Catalog#212332,BD BBLTM)で5×105CFU/mLに希釈し、100μLを取り、薬物が入った丸底96-ウェルプレートに入れた。プレートを逆さまにし、37℃で20-24h培養した後、MIC値を読み取った。細菌の増殖を抑制できる最低薬物濃度をMICとする。結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
結論:本発明の化合物は良好なインビトロ静菌活性を有する。
【0085】
実験例2:ラット体内での薬物動態評価
実験の目的:ラット体内での本発明の化合物の薬物動態パラメータの測定
実験計画
1)実験薬:化合物1
2)実験動物:3匹の7-9週齢の雄SDラット
3)薬物の調製:適用の薬物を秤量し、生理食塩水に溶解し、60mg/mLの溶液に調製した。
実験の操作
動物に対して、尾静脈単回静脈内注入により用量150mg/kg、濃度60mg/mLの薬物を30min投与した。投与した後の0、0.0333、0.0833、0.25、0.5、1、2、4、6、8及び24時間目に血漿サンプルを差採取した。LC-MS/MS方法により血漿サンプル中の薬物濃度を測定した。得られた試験薬物の動態パラメータを2に示す。
【0086】
【0087】
結論:本発明の化合物はラット体内において良好な薬物動態特性を有する。
【0088】
実験例3:マウス体内での薬物動態研究
実験の目的:化合物の単回静脈内注射及び胃内投与後の薬物動態挙動を評価し、胃内投与後の生物利用度を考察した。
実験操作
7から10週齢のCD-1雄マウスを選択し、静脈内投与の用量は1mg/kgであった。投与前にマウスを少なくとも12時間断食させ、投与の4時間後から給餌を回復し、試験期間中に自由に飲水させた。
実験当日に静脈群の動物に対して尾静脈単回注射により対応する化合物を投与し、投与体積は5mL/kgであった。投与前に動物の体重を計測し、体重に応じて投与体積を計算した。サンプル採取時点は0.083,0.25,0.5,1,2,4,8,24hであった。各時点で伏在静脈から約30μLの全血を採取して血漿を調製し、高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)により濃度を測定した。最後の時点でPKサンプルを採取した後、全ての動物をCO2麻酔により安楽死させた。WinNonlinTM Version 6.3(Pharsight,Mountain View,CA)薬物動態ソフトウェアの非房室モデルにより血漿濃度を処理し、線形対数台形法により薬物動態パラメータを計算した。
実験結果:マウスPK特性評価結果を表3に示す。
【0089】
【0090】
結論:本発明の化合物はマウス体内において良好な薬物動態特性を有する。
【0091】
実験例4:マウス体内での薬効実験評価(マウス大腿筋モデル)
12匹のCD-1雌マウスを3匹/1ケージで4ケージに分け、免疫抑制剤であるシクロホスファミド(150mpk)を腹腔内注射した。
24時間後、4ケージのマウスに対して再度免疫抑制剤シクロホスファミド(100mpk)を腹腔内注射し、MHAプレートで菌株E.coli ATCC-25922(腸内細菌ATCC-25922)を蘇生させた。蘇生したコロニーを生理食塩水に溶解し、濃度1.00E+07CFU/mLのE.coli ATCC-25922菌液を調製し、マウス大腿筋を感染させた。実験マウスの大腿筋に注射される菌液量は100μL/匹であり、即ち、接種量は1.00E+06CFU/マウスであった。感染した2h後に、対照群マウスから大腿筋組織を取り、10mL生理食塩水に置き、大腿筋組織を均質化し、段階希釈してプレートに接種した。
【0092】
マウスに対する具体的な投与状況
(1)感染後の2h目:第1ケージのマウスを感染した2h後に、大腿筋組織を取り、10mL生理食塩水に置き、大腿筋組織を均質化し、段階希釈してプレートに接種した。各マウスに対して2回繰り返した。マウスの大腿筋組織における菌量を計測し、第3、4ケージのマウスにそれぞれ30mpkのPlazomicin及び化合物1を皮下注射した。
(2)感染後の10h目:第3、4ケージのマウスにそれぞれ30mpkのPlazomicin及び化合物1を皮下注射した。第2~4ケージのマウスを感染した24h後に、大腿筋組織を取り、10mL生理食塩水に置き、大腿筋組織を均質化し、段階希釈してプレートに接種した。各マウスに対して2回繰り返した。マウスの大腿筋組織における菌量を計測した。実験結果を
図1に示す。
結論:
図1の結果から明らかなように、化合物1は30mpkである場合体内での薬効はPlazomicinよりも高い。
【0093】
実験例5:マウス体内での薬効実験評価(マウス肺炎モデル)
21匹のCD-1雌マウスを3匹/ケージで7ケージに分けた。4日目に免疫抑制剤であるシクロホスファミド(150mpk)を腹腔内注射した。
1日目に、7ケージのマウスに再度免疫抑制剤であるシクロホスファミド(100mpk)を腹腔内注射した。MHAプレートで菌株Kpn ATCC-BAA-1705(肺炎クレブシエラ菌ATCC-BAA-1705)を蘇生させた。蘇生したコロニーを選択して生理食塩水に溶解し、濃度4.00E+08CFU/mLのKpn ATCC-BAA-1705菌液を調製し、マウスの肺部を感染させた。実験マウスの肺部の感染菌液量は50μL/匹であり、即ち、接種量は2.00E+07CFU/マウスであった。感染後の2h及び24h目に、対照群マウスから肺組織を取り、5mL生理食塩水に置き、肺組織を均質化し、段階希釈してプレートに接種した。
【0094】
マウスに対する具体的な投与状況
(1)感染後の2h目:第1ケージのマウスを感染した2h後に、肺組織を取り、5mL生理食塩水に置き、肺組織を均質化し、段階希釈してプレートに接種した。各マウスに対して2回繰り返した。マウスの肺組織の菌量を計測し、第3、4ケージのマウスにそれぞれ用量30mpk及び10mpkの化合物Plazomicinを皮下注射し、第5、6ケージのマウスにそれぞれ用量30mpk及び10mpkの化合物1を皮下注射し、第7ケージのマウスに100mpkのメロペネムを皮下注射した。
(2)感染後の10h目:第3、4ケージのマウスにそれぞれ30mpkのPlazomicinを皮下注射し、第5、6ケージのマウスにそれぞれ用量30mpk及び10mpkの化合物1を皮下注射し、第7ケージのマウスに100mpkのメロペネムを皮下注射した。第2~7ケージのマウスを感染させた24h後に、肺組織を取り、5mL生理食塩水に置き、肺組織を均質化し、段階希釈してプレートに接種した。各マウスに対して2回繰り返した。マウスの肺組織の菌量を計測した。実験結果を
図2に示す。
結論:
図2の結果から明らかなように、Plazomicin及び化合物1は肺炎クレブシエラ菌株1705肺感染モデルにおいて良好な体内活性を示している。また、化合物1の薬効はPlazomicinよりも高く、10mpk用量の化合物1の薬効は30mpk用量のPlazomicinの薬効に相当する。
【0095】
実験例6:新型アミノグリコシド系抗生物質製剤の聴覚安全性の研究報告
研究目的
モルモット体内における化合物1及び既存抗生物質plazomicinの聴覚機能に対する影響を評価し、化合物1の聴覚毒性作用を評価した。
【0096】
研究方法
健常成年モルモット(150-250g)を研究対象とし、8匹/群でランダムに生理食塩水対照群、ゲンタマイシン群、化合物Plazomicin群及び化合物1群に分けた。皮下投与により、14日間連続投与し、投与終了後に以下のように研究した。
1.異なる薬物のモルモット聴覚機能に対する影響を研究するために、それぞれ投与終了後の14日(29日、即ち4週)目に動物の複合活動電位(Compound Action Potential,CAP)を記録し、結果を分析し、異なる処理群間の閾値シフト及び振幅、潜伏期間などの指標の変化を比較した。
2.異なる群の動物を処理し、聴覚機能データを採取した後、動物の蝸牛を固定、染色し、片側の蝸牛の基底膜をシート化し、有毛細胞の損失を計測し、蝸牛図を作成し、他側の蝸牛を脱灰した後に冷凍スライスし、らせん神経節の密度を計測し、群間の比較を行った。
【0097】
研究結果
1.投与方法及び処理
薬物ゲンタマイシン(Gentamicin)、Plazomicin及び化合物1については、ゲンタマイシンは大連美侖生物技術有限公司から購入され、Plazomicin及び化合物1は武漢明康徳新薬開発有限公司から提供された。使用時に新たに調製され、生理食塩水で溶解し、濃度は50mg/mL、注射用量は100mg/kg体重であった。投与方法は皮下注射であり、毎回注射した後に薬液が滲み出たかを確認した。
【0098】
2.複合活動電位結果(Compound action potential,CAP)の分析
各群の動物に短音(Click)及び異なる周波数の純音(1KHz-32kHz)を聞かせるときの複合活動電位(Compound action potential,CAP)を測定して記録した。主に短音及び中高周波数の純音(16、32kHz)を聞かせるときの振幅及び潜伏期間の変化を比較した。振幅の大きさは有毛細胞及び聴神経の応答能力を反映する。振幅が大きいほど、I/O曲線の傾きは大きくなり、応答性は高くなり、機能も優れる。また、蝸牛の頂回転から基底回転までそれぞれ低周波数から高周波数までの音声に対して応答性(即ち、蝸牛の基底膜の周波数対応性)を有し、異なる周波数の機能変化は、蝸牛の頂回転から基底回転までの異なる構造機能の変化に対応する。潜伏期間の長さも有毛細胞及び聴神経応答の機能に関係する。一般的には、蝸牛が損傷すると、閾値が高くなることで潜伏期間が長くなる。さらに、閾値に顕著な変化がない場合、潜伏期間の延長は、聴神経放電の同期生の低下を反映する。言い換えれば、潜伏期間の延長は機能低下を示す。従来のアミノグリコシド系抗生物質の耳毒性は主に高周波数領域に集中する。本発明の研究において、ゲンタマイシン群は従来の結果と一致し、以下の通りである。
化合物1は、実験群の高周波数(32kHz)CAP振幅の低下のみを引き起こし、高周波数領域での聴力が損傷したことを示したが、その振幅は依然としてゲンタマイシン及びPlazomicin群よりも高かった。Plazomicin群の損傷範囲は大きく、16kHzから32kHzまで損傷があり、かつ32kHzでの損傷は化合物1よりも大きかったが、ゲンタマイシン群よりも顕著に小さかった。ゲンタマイシンの実験群に対する損傷は高周波数(32kHz)領域に集中するが、32kHzでの閾値シフトは顕著で、損傷が他の2群よりも大きかった(
図3~5を参照)。
【0099】
1)16kHz振幅の結果から明らかなように、化合物1と対照群(Control)との間に違いがなく、Plazomicin群では25.9%の損傷が発生した。
2)32kHzでは、CAP振幅の結果は、化合物1、Plazomicin及びGentamicinがそれぞれ32kHzに対して34.7%、48.2%及び74.3%の聴力損傷を引き起こしたことを示し、即ち、化合物1は32kHzでの聴力損傷を引き起こしたが、Plazomicin及びGentamicinによる損傷に比べてそれぞれ13.5%及び39.6%低かった。
3)短音(Click)CAP振幅は、化合物1及びGentamicinがいずれも対照群(Control)と一致し、Plazomicinが聴力損傷を引き起こしたことを示している。
【0100】
具体的なデータは以下の通りである。
1)16kHz CAP振幅:二元配置分散分析(Holm-Sidak method)の結果から明らかなように、4群の動物群の間には違いがあった(F3,570=7.858,p<0.001)。化合物1動物群と対照群(Control)及びGentamicin群とは動物聴力に有意差がなかった。Plazomicin群の動物の聴力はCtrl群(t=4.566,p<0.001)、Gentamicin群(t=4.099,p<0.001)及び化合物1群(t=2.799,p=0.021)よりも低かった(*:p<0.05)。90dBでは各群の応答はいずれも最大であり、この場合、化合物1動物の聴力(381.646±20.895uv)はPlazomicin群(282.058±22.569uv,t=2.799,p=0.021)よりも顕著に高く、対照群(Control)(383.130±19.545)群及びGentamicin群(373.329±15.332uv)と有意差がなかった。
2)32kHz CAP振幅:二元配置分散分析(Holm-Sidak method)の結果から明らかなように、4群の動物群の間には違いがあった(F3,570=100.611,p<0.001)。化合物1動物の聴力は対照群(Control)(t=5.019,p<0.001)よりも低く、Plazomicin群(t=3.128,p=0.002)及びGentamicin群(t=10.484,p<0.001)よりも高かった。90dBでは各群の応答はいずれも最大であり、この場合、化合物1群の動物の聴力(79.420±7.000uv)は対照群(Control)よりも低く(121.608±6.548uv,t=4.401,p<0.001)、Gentamicin群(31.272±5.137uv,t=5.545,p<0.001)及びPlazomicin群(62.982±7.561uv,t=1.595,p=0.111)よりも高かった。
3)短音(Click)CAP振幅:二元配置分散分析(Holm-Sidak method) の結果から明らかなように、4群の動物群の間には違いがあった(F3,570=6.751,p<0.001)。化合物1動物群の聴力はPlazomicin群(t=3.493,p=0.003)よりも顕著に優れ、対照群(Control)及びGentamicin群と有意差がなかった。
まとめると、CAP振幅結果から分かるように、実験動物の聴覚機能に対する化合物1の損傷はゲンタマイシン及びPlazomicinよりも顕著に小さい。
【0101】
3.有毛細胞の数の変化
異なる薬物の有毛細胞に対する影響を比較するために、蝸牛の基底膜全体に対して有毛細胞を染色して計測した。結果から分かるように、ゲンタマイシン群は、中高周波数領域(頂回転から60-100%離れた部位)において12-67.7%の外有毛細胞が喪失し、高周波数がより顕著であった。Plazomicin群は、高周波数(頂回転から70~100%離れた部位)において11.2-28.1%の外有毛細胞が喪失し、頂回転の開始端(10-20%)において16.7-24.2%の外有毛細胞が喪失した。これに対し、化合物1群では、外有毛細胞の喪失は、頂回転から始まった低周波数領域(頂回転から-40%離れた部位)のみに発生し、外有毛細胞の損失率はこの範囲内で約2.5-11%であり、高周波数領域での外有毛細胞は比較的完全であった(
図6B)。具体的なデータを表4に示す。
化合物1群は内有毛細胞がほぼ損傷することがなく、Plazomicin及びゲンタマイシン群は基底回転の末端に近い部位(頂回転から100%離れた部位)にそれぞれ3.5±3.0%及び9.3±4.1%の内有毛細胞が喪失した(
図6Aを参照)具体的なデータを表5に示す。
まとめると、化合物1群は、頂回転にのみ僅かな外有毛細胞の喪失があり、他の部分、基底回転では内有毛細胞が比較的完全に保留しており、有毛細胞に対する毒性はゲンタマイシン群及びPlazomicin群よりも顕著に低かった。
【0102】
4.らせん神経節の変化
モルモットの蝸牛を基底回転から頂回転まで回転(Turn)1、回転2、回転3及び回転4に分け、らせんニューロン(Spiralganglion neuron,SGN)を冷凍スライス上でTuJ標記染色した後、特定の面積内のSGNの密度を計測し、群間比較を行った。化合物1群の各回転でのSGN密度は対照群と有意差がなく、即ち、らせん神経節には損傷がない一方、ゲンタマイシン群の各回転のいずれにも顕著な損傷があり、Plazomicin群では頂回転に近い部位でのSGN密度が低下したが、ゲンタマイシン群よりも優れた。二元配置分散分析により、群間には有意差がある(F(3,74)=35.43,p<0.0001)ことが分かった(
図7を参照)。具体的なデータを表6に示す。
【0103】
結論:異なる群に対する複合活動電位分析により、化合物1群は高周波数(32kHz)にのみ聴力損傷が存在し、Plazomicin及びゲンタマイシン群よりも優れたことが実証された。有毛細胞及びらせん神経節に対する観察により、頂回転から2.5-11%離れた部位に外有毛細胞が損傷した以外、化合物1が他の領域の外有毛細胞の顕著な損傷を引き起こさなく、内有毛細胞の数及びらせん神経節の数も影響されされず、ゲンタマイシン及びPlazomicin群よりも顕著に優れたことが実証された。したがって、化合物1を動物(モルモット)に14日間連続して皮下投与し、さらに14日間回復した後の耳毒性はPlazomicin及びゲンタマイシン群よりも低い。上記各結果により、本発明の化合物1の聴覚毒性はPlazomicin及びゲンタマイシンよりも低い(優れる)ことが実証された。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
実験例7:細胞HK-2に対する本発明の化合物の毒性の実験
細胞の準備
実験の当日に、培養フラスコ内の細胞HK-2コンフルエンスが80%-90%に達したときに、培地を捨てた。ダルベッコリン酸緩衝液(DPBS)で2回洗浄し、3mLのパンクレアチン(T150細胞培養フラスコ)を加えて1~2分間消化した後、直ちに9mlの完全培地(RPMI 1640+10%FBS)を加えて消化を停止させた。その後、ピペットにて軽く均一にピペッティングし、単細胞懸濁液を形成した。1000rpsで5分間遠心分離した。上清を捨て、新鮮な完全培地を加え、均一にピペッティングした。セルカウンターにより実際の細胞密度を測定し、細胞懸濁液を2.5×105細胞/mlに調整した。ピペットにより80μL細胞懸濁液を吸い取り、96ウェルプレート(黒)内に接種した(2×104細胞/ウェル)。次に、96ウェルプレートをCO2インキュベータに置いて4.5時間インキュベートした。これを細胞プレートとした。
【0108】
化合物の調製
a.下表に従って化合物母液を調製した。溶媒は完全培地であった。
【表7】
b.96-vウェルプレート内の第3-11列に50μlの完全培地を加えた。
c.96-vウェルプレートの第2列に75μlの被測定化合物(50mg/mL)及び陽性対照を加えた。
d.第2列から25μl化合物を取り出して第3列に加え、ピペットで複数回ピペッティングし、さらに第3列から25μl取り出して第4列に加え、このように第10列まで3倍段階希釈し、第2列から第11列の化合物の濃度はそれぞれ50,16.67,5.56,1.85,0.62,0.21,0.07,0.02,0.008,0mg/mLであった。
e.ピペットで20μL調製した各濃度の化合物溶液を細胞プレートの対応ウェルに移した。これを試験プレートとした。
【0109】
試験プレートでの培養
全てのプレートを37℃、5%CO2インキュベータに置いて43時間培養した。
【0110】
読み取り
所定時間培養した後、試験プレート内に10μlアラマーブルーを加え、直ちに試験プレートを37℃、5%CO2インキュベータに置いて3時間培養した。次にマイクロプレートリーダーにより試験プレートの各ウェルの蛍光値(波長Ex 540nm/Em 585nm)を読み取った。Prismソフトウェアにより曲線をシミュレートしてCC50値を算出した。
【0111】
【0112】
結論:HK-2細胞に対する化合物1及びPlazomicinの毒性は、ネチルマイシン及びアミカシンよりも顕著に低く、毒性回帰曲線及びソフトウェアにより(
図8~11)HK-2細胞に対する化合物1の毒性がPlazomicinよりも低いことが予測された。