(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】アレーアンテナ学習モデル検証プログラム、アレーアンテナ学習モデル検証方法、アレーアンテナ励振特性校正プログラム及びアレーアンテナ励振特性校正方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20230323BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20230323BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20230323BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230323BHJP
【FI】
H04B7/06 982
H01Q3/26 Z
G06N3/02
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2022045526
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2022-03-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」の「第5世代移動通信システムの更なる高度化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】家 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松本 昇紘
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-532437(JP,A)
【文献】特開2021-143932(JP,A)
【文献】特開2021-158451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0112425(US,A1)
【文献】特開2012-186562(JP,A)
【文献】Zhao Zhou et al.,Training of Deep Neural Networks in Electromagnetic Problems: a Case Study of Antenna Array Pattern Synthesis,2021 IEEE MTT-S International Wireless Symposium (IWS),2021年08月10日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H01Q 3/26
G06N 3/02
G06N 20/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する前記アレーアンテナの学習モデルを検証するにあたり、
前記各素子の真の励振位相又は真の励振位相振幅が既知である検証放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅を前記学習モデルから出力する学習モデル入出力ステップと、
(1)前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅と、前記各素子の真の励振位相又は真の励振位相振幅と、の間の前記各素子の残差励振位相又は残差励振位相振幅を計算する、あるいは、(2)前記各素子の残差励振位相又は残差励振位相振幅及び指向性パターンに基づいて、残差放射パターンを計算する残差励振特性計算ステップと、
(1)前記各素子の残差励振位相又は残差励振位相振幅に基づいて、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度を計算する、あるいは、(2)前記残差放射パターンと、前記各素子のゼロ励振位相、等しい励振振幅及び指向性パターンに基づく理想放射パターンと、の間の差分に基づいて、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度を計算する励振特性精度計算ステップと、
前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が所定値と比べて高いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功を判断し、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が前記所定値と比べて低いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗を判断する励振特性精度判断ステップと、
前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗のときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功まで、前記残差放射パターンを前記学習モデルへと再帰的入力し、前記学習モデル入出力ステップ、前記残差励振特性計算ステップ、前記励振特性精度計算ステップ及び前記励振特性精度判断ステップを繰り返し、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功までの推定回数を検証する推定回数検証ステップと、
をコンピュータに実行させるためのアレーアンテナ学習モデル検証プログラム。
【請求項2】
前記学習モデル入出力ステップは、前記検証放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相のみを前記学習モデルから出力し、
前記励振特性精度計算ステップは、全ての前記検証放射パターンについて、前記各素子の残差励振位相に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第1推定精度と、前記残差放射パターンと前記理想放射パターンとの間の差分に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第2推定精度と、の間の相関関係をプロット及びフィッティングし、
前記励振特性精度判断ステップは、前記第1推定精度と前記第2推定精度との間のフィッティングにおいて、所望第1推定精度に基づいて、所望第2推定精度を計算し、各々の前記検証放射パターンについて、前記第2推定精度が前記所望第2推定精度と比べて高いときに、前記各素子の励振位相の推定成功を判断し、前記第2推定精度が前記所望第2推定精度と比べて低いときに、前記各素子の励振位相の推定失敗を判断する
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレーアンテナ学習モデル検証プログラム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアレーアンテナ学習モデル検証プログラムが前記コンピュータに実行させる各ステップを備えることを特徴とするアレーアンテナ学習モデル検証方法。
【請求項4】
アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する前記アレーアンテナの学習モデルを適用することにより、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を校正するにあたり、
測定放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅を前記学習モデルから出力する学習モデル入出力ステップと、
前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅に基づいて、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅を校正し、校正放射パターンを測定する励振特性校正ステップと、
前記校正放射パターンと、前記各素子のゼロ励振位相、等しい励振振幅及び指向性パターンに基づく理想放射パターンと、の間の差分に基づいて、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度を計算する励振特性精度計算ステップと、
前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が所定値と比べて高いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功を判断し、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が前記所定値と比べて低いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗を判断する励振特性精度判断ステップと、
前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗のときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功まで、前記校正放射パターンを前記学習モデルへと再帰的入力し、前記学習モデル入出力ステップ、前記励振特性校正ステップ、前記励振特性精度計算ステップ及び前記励振特性精度判断ステップを繰り返し、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の校正処理の高精度化を実行する校正高精度化ステップと、
をコンピュータに実行させるためのアレーアンテナ励振特性校正プログラム。
【請求項5】
前記学習モデル入出力ステップは、前記測定放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相のみを前記学習モデルから出力し、
請求項2に記載のアレーアンテナ学習モデル検証プログラムを用いて、前記励振特性精度計算ステップにおいて、全ての前記検証放射パターンについて、前記各素子の残差励振位相に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第1推定精度と、前記残差放射パターンと前記理想放射パターンとの間の差分に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第2推定精度と、の間の相関関係がプロット及びフィッティングされ、
前記励振特性精度判断ステップは、前記第1推定精度と前記第2推定精度との間のフィッティングにおいて、所望第1推定精度に基づいて、所望第2推定精度を計算し、前記校正放射パターンについての推定精度が前記所望第2推定精度と比べて高いときに、前記各素子の励振位相の推定成功を判断し、前記校正放射パターンについての推定精度が前記所望第2推定精度と比べて低いときに、前記各素子の励振位相の推定失敗を判断する
ことを特徴とする、請求項4に記載のアレーアンテナ励振特性校正プログラム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のアレーアンテナ励振特性校正プログラムが前記コンピュータに実行させる各ステップを備えることを特徴とするアレーアンテナ励振特性校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信は時代とともに通信容量・低遅延性・高信頼性の向上を求められ、電波の発信端であるアンテナもミリ波帯と呼ばれる高周波数帯に対応することで小型化してきた。一方、高周波数帯では空間伝搬損失が非常に大きくなるため、その電力損失を補うべく複数アンテナ素子を並べて、電波を特定方向に集中させて放射するアレーアンテナ及びその関連技術が発展してきた。基地局のアンテナにアレーアンテナを用いる場合、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅には様々なハードウェア要因により誤差が生じてしまう。
【0003】
従来は、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅誤差は、REV法(Rotating element Electric-field Vector method)又はMEP法(Multi-Element Phase-toggle method)により、推定・補正が行われてきた(例えば、非特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】真野清司、片木孝至、“フェイズドアレーアンテナの素子振幅位相測定法-素子電界ベクトル回転法-”、電子情報通信学会論文誌、電子情報通信学会、1982年5月、第B65巻、第5号、pp.555-560.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
REV法は、アレーアンテナの素子ごとに移相器を0度から360度まで1回転させて、アレー合成電力の変化を測定していき、その結果を用いてアレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差を推定する手法である。この手法は、アレー合成電力測定のみで良い一方、アレー合成電力測定の回数がアレーアンテナの素子数に比例して多くなり、アレー合成電力測定に時間がかかるという課題があった。
【0006】
MEP法は、アレーアンテナの素子ごとに移相器による位相シフト量を変えて、複数素子同時に又は全素子同時に励振位相を変化させたときのアレー合成電界(振幅及び位相)を測定していき、その結果を用いてアレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差を推定する手法である。この手法は、REV法に比べ複数素子同時に又は全素子同時に初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差を推定することができるが、位相切り替えを複数回行う必要があり、また、ある周波数一点に着目した場合にアレー合成電力測定より精度上不利なアレー合成電界(振幅及び位相)測定を行う必要があるという課題があった。
【0007】
さらに、通常アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差の推定・補正のための測定を行う前に、補正前後を比較して補正効果を確認するために、アレーアンテナの補正後放射パターンのみならず、アレーアンテナの補正前放射パターンを測定する。このように、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間が必要であった。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、アレーアンテナの放射特性を入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する、学習モデルを生成する。そして、学習モデルにおいて、アレーアンテナの補正前放射パターンを入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する。つまり、事前に学習モデルを生成しておけば、アレーアンテナの補正前放射パターンを測定するのみにより、アレーアンテナの各素子の励振特性を推定することができる。
【0010】
よって、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするための、学習モデルを生成・利用することができる。
【0011】
ところで、学習モデルを検証するにあたり、高い確率で各素子の励振特性を推定することができるが、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定することがある。そこで、各素子の励振特性の推定失敗のときに、各素子の励振特性の推定成功まで、残差放射パターン(各素子の残差励振特性及び指向性パターンに基づいて計算する。)の学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振特性の推定成功までの推定回数を検証する。
【0012】
具体的には、本開示は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する前記アレーアンテナの学習モデルを検証するにあたり、検証放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅を前記学習モデルから出力する学習モデル入出力ステップと、(1)前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅と、前記各素子の真の励振位相又は真の励振位相振幅と、の間の前記各素子の残差励振位相又は残差励振位相振幅を計算する、あるいは、(2)前記各素子の残差励振位相又は残差励振位相振幅及び指向性パターンに基づいて、残差放射パターンを計算する残差励振特性計算ステップと、(1)前記各素子の残差励振位相又は残差励振位相振幅に基づいて、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度を計算する、あるいは、(2)前記残差放射パターンと、前記各素子のゼロ励振位相、等しい励振振幅及び指向性パターンに基づく理想放射パターンと、の間の差分に基づいて、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度を計算する励振特性精度計算ステップと、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が所定値と比べて高いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功を判断し、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が前記所定値と比べて低いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗を判断する励振特性精度判断ステップと、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗のときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功まで、前記残差放射パターンを前記学習モデルへと再帰的入力し、前記学習モデル入出力ステップ、前記残差励振特性計算ステップ、前記励振特性精度計算ステップ及び前記励振特性精度判断ステップを繰り返し、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功までの推定回数を検証する推定回数検証ステップと、をコンピュータに実行させるためのアレーアンテナ学習モデル検証プログラムである。
【0013】
この構成によれば、学習モデルを検証するにあたり、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定しても、各素子の励振特性の推定成功までの推定回数を検証することができる。
【0014】
また、本開示は、前記学習モデル入出力ステップは、前記検証放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相のみを前記学習モデルから出力し、前記励振特性精度計算ステップは、全ての前記検証放射パターンについて、前記各素子の残差励振位相に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第1推定精度と、前記残差放射パターンと前記理想放射パターンとの間の差分に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第2推定精度と、の間の相関関係をプロット及びフィッティングし、前記励振特性精度判断ステップは、前記第1推定精度と前記第2推定精度との間のフィッティングにおいて、所望第1推定精度に基づいて、所望第2推定精度を計算し、各々の前記検証放射パターンについて、前記第2推定精度が前記所望第2推定精度と比べて高いときに、前記各素子の励振位相の推定成功を判断し、前記第2推定精度が前記所望第2推定精度と比べて低いときに、前記各素子の励振位相の推定失敗を判断することを特徴とするアレーアンテナ学習モデル検証プログラムである。
【0015】
この構成によれば、各素子の励振位相を校正するにあたり、校正放射パターンと理想放射パターンとの間の差分に基づいて、各素子の残差励振位相を間接的に推定し、校正放射パターンの学習モデルへの再帰的入力の可否を判断することができる。
【0016】
また、本開示は、以上に記載のアレーアンテナ学習モデル検証プログラムが前記コンピュータに実行させる各ステップを備えることを特徴とするアレーアンテナ学習モデル検証方法である。
【0017】
この構成によれば、以上に記載の効果を有する検証処理を実行することができる。
【0018】
ところで、学習モデルを適用することにより、各素子の励振特性を校正するにあたり、高い確率で各素子の励振特性を推定することができるが、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定することがある。そこで、各素子の励振特性の推定失敗のときに、各素子の励振特性の推定成功まで、校正放射パターン(各素子の励振特性の校正時に測定する。)の学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振特性の校正処理の高精度化を実行する。
【0019】
具体的には、本開示は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する前記アレーアンテナの学習モデルを適用することにより、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を校正するにあたり、測定放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅を前記学習モデルから出力する学習モデル入出力ステップと、前記各素子の推定励振位相又は推定励振位相振幅に基づいて、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅を校正し、校正放射パターンを測定する励振特性校正ステップと、前記校正放射パターンと、前記各素子のゼロ励振位相、等しい励振振幅及び指向性パターンに基づく理想放射パターンと、の間の差分に基づいて、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度を計算する励振特性精度計算ステップと、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が所定値と比べて高いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功を判断し、前記アレーアンテナ全体の励振位相又は励振位相振幅の推定精度が前記所定値と比べて低いときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗を判断する励振特性精度判断ステップと、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定失敗のときに、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の推定成功まで、前記校正放射パターンを前記学習モデルへと再帰的入力し、前記学習モデル入出力ステップ、前記励振特性校正ステップ、前記励振特性精度計算ステップ及び前記励振特性精度判断ステップを繰り返し、前記各素子の励振位相又は励振位相振幅の校正処理の高精度化を実行する校正高精度化ステップと、をコンピュータに実行させるためのアレーアンテナ励振特性校正プログラムである。
【0020】
この構成によれば、各素子の励振特性を校正するにあたり、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定しても、各素子の励振特性の校正処理の高精度化を実行することができる。
【0021】
また、本開示は、前記学習モデル入出力ステップは、前記測定放射パターンを前記学習モデルへと入力し、前記各素子の推定励振位相のみを前記学習モデルから出力し、アレーアンテナ学習モデル検証プログラムを用いて、前記励振特性精度計算ステップにおいて、全ての前記検証放射パターンについて、前記各素子の残差励振位相に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第1推定精度と、前記残差放射パターンと前記理想放射パターンとの間の差分に基づく、前記アレーアンテナ全体の励振位相の第2推定精度と、の間の相関関係がプロット及びフィッティングされ、前記励振特性精度判断ステップは、前記第1推定精度と前記第2推定精度との間のフィッティングにおいて、所望第1推定精度に基づいて、所望第2推定精度を計算し、前記校正放射パターンについての推定精度が前記所望第2推定精度と比べて高いときに、前記各素子の励振位相の推定成功を判断し、前記校正放射パターンについての推定精度が前記所望第2推定精度と比べて低いときに、前記各素子の励振位相の推定失敗を判断することを特徴とするアレーアンテナ励振特性校正プログラムである。
【0022】
この構成によれば、各素子の励振位相を校正するにあたり、校正放射パターンと理想放射パターンとの間の差分に基づいて、各素子の残差励振位相を間接的に推定し、校正放射パターンの学習モデルへの再帰的入力の可否を判断することができる。
【0023】
また、本開示は、以上に記載のアレーアンテナ励振特性校正プログラムが前記コンピュータに実行させる各ステップを備えることを特徴とするアレーアンテナ励振特性校正方法である。
【0024】
この構成によれば、以上に記載の効果を有する校正処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0025】
このように、本開示は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とすることができる。
【0026】
そして、学習モデルを検証するにあたり、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定しても、各素子の励振特性の推定成功まで、残差放射パターンの学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振特性の推定成功までの推定回数を検証することができる。
【0027】
さらに、各素子の励振特性を校正するにあたり、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定しても、各素子の励振特性の推定成功まで、校正放射パターンの学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振特性の校正処理の高精度化を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を示す図である。
【
図2】第1実施形態の学習モデルの検証段階での推定位相誤差を示す図である。
【
図3】第1実施形態の学習モデルの校正段階での推定位相誤差を示す図である。
【
図4】第1実施形態の学習モデルの検証段階での位相推定の失敗例を示す図である。
【
図5】第1実施形態の学習モデル検証装置の構成を示す図である。
【
図6】第1実施形態の学習モデル検証処理の手順を示す図である。
【
図7】第1実施形態の学習モデルの検証段階での推定失敗率を示す図である。
【
図8】第1実施形態の学習モデルの検証段階での再帰的入力の成功例を示す図である。
【
図9】第1実施形態の励振特性校正装置の構成を示す図である。
【
図10】第1実施形態の励振特性校正処理の手順を示す図である。
【
図11】第2実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を示す図である。
【
図12】第2実施形態の学習モデル検証処理の手順を示す図である。
【
図13】第2実施形態の励振特性校正処理の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0030】
(第1実施形態の学習モデルの概要)
第1実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を
図1に示す。学習モデルは、ニューラルネットワーク1であり、入力層11、中間層12及び出力層13を備える。
【0031】
入力層21は、アレーアンテナの電力放射パターンが入力される。出力層23は、アレーアンテナの各素子の励振位相を出力する。中間層22は、アレーアンテナの各素子の励振位相(ランダムに設定)と、アレーアンテナの電力放射パターンと、を備える複数の教師データを用いて、パラメータ(ノード間の結合係数)が学習される。
【0032】
よって、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするための、学習モデルを生成・利用することができる。すると、アレーアンテナの試験時間の大半は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差の推定・補正ではなく、アレーアンテナの本質的な特性評価に充てられる。
【0033】
第1実施形態の学習モデルの検証段階での推定位相誤差を
図2に示す。
図2の左欄では、アレーアンテナの各素子の真の励振位相を実線で示し、アレーアンテナの真の電力放射パターンに基づく、アレーアンテナの各素子の推定励振位相を破線で示す。
図2の右欄では、アレーアンテナの真の電力放射パターンを実線で示し、アレーアンテナの各素子の推定励振位相に基づく、アレーアンテナの推定電力放射パターンを破線で示す。
【0034】
ここで、
図2では、平均の場合として、推定位相誤差δ
RMSE=6.96°(数式1を参照)であった。そして、
図2の左欄では、アレーアンテナの各素子の推定励振位相は、アレーアンテナの各素子の真の励振位相に近かった。さらに、
図2の右欄では、アレーアンテナの推定電力放射パターンは、アレーアンテナの真の電力放射パターンに近かった。
【0035】
第1実施形態の学習モデルの校正段階での推定位相誤差を
図3に示す。
図3の左欄では、アレーアンテナの各素子のREV法の推定励振位相を実線で示し、アレーアンテナの各素子の本開示の推定励振位相を破線で示す。
図3の右欄では、アレーアンテナのREV法の推定電力放射パターンを実線で示し、アレーアンテナの本開示の推定電力放射パターンを破線で示し、アレーアンテナの校正前の測定電力放射パターンを鎖線で示す。
【0036】
ここで、
図3では、推定位相誤差δ
RMSE=11.1°(数式1を参照)であった。そして、
図3の左欄では、アレーアンテナの各素子の本開示の推定励振位相は、アレーアンテナの各素子のREV法の推定励振位相にほぼ近かった。さらに、
図3の右欄では、アレーアンテナの本開示の推定電力放射パターンは、アレーアンテナのREV法の推定電力放射パターンと比べて、アレーアンテナの校正前の測定電力放射パターンにより近かった。
【0037】
第1実施形態の学習モデルの検証段階での位相推定の失敗例を
図4に示す。
図4の左欄では、アレーアンテナの各素子の真の励振位相を実線で示し、アレーアンテナの真の電力放射パターンに基づく、アレーアンテナの各素子の推定励振位相を破線で示す。
図4の右欄では、アレーアンテナの真の電力放射パターンを実線で示し、アレーアンテナの各素子の推定励振位相に基づく、アレーアンテナの推定電力放射パターンを破線で示す。
【0038】
ここで、
図4では、最悪の場合として、推定位相誤差δ
RMSE=89.8°(数式1を参照)であった。そして、
図4の左欄では、アレーアンテナの各素子の推定励振位相は、アレーアンテナの各素子の真の励振位相から外れた。さらに、
図4の右欄では、アレーアンテナの推定電力放射パターンは、アレーアンテナの真の電力放射パターンから外れた。
【0039】
つまり、学習モデルを検証するにあたり、高い確率で各素子の励振位相を推定することができるが、ごくまれに各素子の励振位相を誤推定することがある。そして、学習モデルを適用することにより、各素子の励振位相を校正するにあたり、高い確率で各素子の励振位相を推定することができるが、ごくまれに各素子の励振位相を誤推定することがある。
【0040】
(第1実施形態の学習モデルの検証段階)
第1実施形態の学習モデル検証装置の構成を
図5に示す。第1実施形態の学習モデル検証処理の手順を
図6に示す。教師データ記憶装置Sは、教師データ(訓練データ及び検証データ)を記憶している。学習モデル検証装置Tは、ニューラルネットワーク1、残差励振特性計算部2、励振特性精度計算部3及び励振特性精度判断部4を備え、
図6に示した学習モデル検証プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0041】
第1実施形態の学習モデルの検証段階では、各素子の励振位相の推定失敗のときに、各素子の励振位相の推定成功まで、残差放射パターン(各素子の残差励振位相及び指向性パターンに基づいて計算する。)の学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振位相の推定成功までの推定回数を検証する。以下に具体的な処理を説明する。
【0042】
ニューラルネットワーク1は、検証放射パターン(各素子の真の励振位相δ1、・・・、δ8)を入力する(ステップS1)。ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振位相δ1^、・・・、δ8^(^はハットを示す)を出力する(ステップS2)。
【0043】
残差励振特性計算部2は、各素子の推定励振位相δ1^、・・・、δ8^と、各素子の真の励振位相δ1、・・・、δ8と、の間の各素子の残差励振位相δ1’(=δ1-δ1^)、・・・、δ8’(=δ8-δ8^)を計算する(ステップS3)。残差励振特性計算部2は、各素子の残差励振位相δ1’、・・・、δ8’及び指向性パターンg1(θ)、・・・、g8(θ)に基づいて、残差放射パターンP(θ)を計算する(ステップS4)。
【0044】
励振特性精度計算部3は、各素子の残差励振位相δ
1’、・・・、δ
8’に基づいて、推定位相誤差δ
RMSEを計算する(ステップS5、数式1)。ここで、各素子の残差励振位相δ
1’、・・・、δ
8’の循環性(0°~360°)が考慮されている。
【数1】
【0045】
励振特性精度計算部3は、残差放射パターンP(θ)と、各素子のゼロ励振位相0°、等しい励振振幅A及び指向性パターンg
1(θ)、・・・、g
8(θ)に基づく理想放射パターンI(θ)と、の間の差分に基づいて、放射相違係数D
Cを計算する(ステップS5、数式2)。ここで、P ̄( ̄はバーを示す)は、P(θ)の平均値であり、I ̄( ̄はバーを示す)は、I(θ)の平均値である。そして、放射相違係数D
Cは、放射パターン絶対値によらず、放射パターン形状差が大きい/小さいときに、1/0に近くなる。
【数2】
【0046】
励振特性精度計算部3は、全ての検証放射パターンについて、推定位相誤差δRMSEと放射相違係数DCとの相関関係をプロット及びフィッティングする(ステップS6)。ここで、推定位相誤差δRMSEが増加するにつれて、放射相違係数DCが単調増加している。そして、最小二乗法又はLassoを用いて、多項式フィッティングしている。
【0047】
励振特性精度判断部4は、推定位相誤差δRMSEと放射相違係数DCとの間のフィッティングf(δRMSE)において、所望推定位相誤差δRMSE
thresに基づいて、所望放射相違係数DC
thres(=f(δRMSE
thres))を計算する(ステップS6)。そして、各々の検証放射パターンについて、放射相違係数DCが所望放射相違係数DC
thresと比べて小さいときに、各素子の励振位相の推定成功を判断する(ステップS7)。一方で、各々の検証放射パターンについて、放射相違係数DCが所望放射相違係数DC
thresと比べて大きいときに、各素子の励振位相の推定失敗を判断する(ステップS8)。
【0048】
励振特性精度判断部4は、各々の検証放射パターンについて、推定位相誤差δRMSEが所望推定位相誤差δRMSE
thresと比べて小さいときに、各素子の励振位相の推定成功を判断してもよい(ステップS7)。一方で、各々の検証放射パターンについて、推定位相誤差δRMSEが所望推定位相誤差δRMSE
thresと比べて大きいときに、各素子の励振位相の推定失敗を判断してもよい(ステップS8)。或いは、残差放射パターンP(θ)のメイン/サイドローブの強度/幅に基づいて、各素子の励振位相の推定成功/失敗を判断してもよい。
【0049】
励振特性精度判断部4は、各素子の励振位相の推定失敗のときに(ステップS8)、各素子の励振位相の推定成功まで(ステップS7)、残差放射パターンP(θ)をニューラルネットワーク1へと再帰的入力し(ステップS9)、残差励振特性計算部2、励振特性精度計算部3及び励振特性精度判断部4は、ステップS2~S9を繰り返す。
【0050】
ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振位相δ1^’、・・・、δ8^’を出力する(ステップS10)。残差励振特性計算部2は、各素子の推定励振位相δ1^’、・・・、δ8^’と、各素子の残差励振位相δ1’、・・・、δ8’と、の間の各素子の残差励振位相δ1”(=δ1’-δ1^’)、・・・、δ8”(=δ8’-δ8^’)を計算する(ステップS11)。各素子の正しい推定励振位相は、δk=δk^+δk^’+δk^”+・・・となる。
【0051】
第1実施形態の学習モデルの検証段階での推定失敗率を
図7に示す。各素子の励振位相の推定回数が増加するにつれて、各素子の励振位相の推定失敗率が減少している。特に、所望推定位相誤差δ
RMSE
thresが15°である場合は、各素子の励振位相の推定回数が5回に達したときに、各素子の励振位相の推定失敗率が1%未満となる。
【0052】
第1実施形態の学習モデルの検証段階での再帰的入力の成功例を
図8に示す。
図8の左欄では、アレーアンテナの各素子の1回目の残差励振位相を実線で示し、アレーアンテナの1回目の残差電力放射パターンに基づく、アレーアンテナの各素子の2回目の推定励振位相を破線で示す。
図8の右欄では、アレーアンテナの1回目の残差電力放射パターンを破線で示し、アレーアンテナの2回目の残差電力放射パターンを実線で示し、アレーアンテナの理想電力放射パターン(各素子のゼロ励振位相)を点線で示す。
【0053】
ここで、
図8では、
図4の最悪の場合でも、推定位相誤差δ
RMSE=5.37°(数式1を参照)であった。そして、
図8の左欄では、アレーアンテナの各素子の2回目の推定励振位相は、アレーアンテナの各素子の1回目の残差励振位相に近かった。さらに、
図8の右欄では、アレーアンテナの1回目の残差電力放射パターンは、アレーアンテナの理想電力放射パターンから外れたが、アレーアンテナの2回目の残差電力放射パターンは、アレーアンテナの理想電力放射パターンに近かった。特に、所望推定位相誤差δ
RMSE
thresが15°である場合のみならず、所望推定位相誤差δ
RMSE
thresが10°である場合であっても、アレーアンテナの各素子の励振位相の推定成功が達成された。
【0054】
よって、学習モデルを検証するにあたり、ごくまれに各素子の励振位相を誤推定しても、各素子の励振位相の推定成功までの推定回数を検証することができる。
【0055】
(第1実施形態の励振特性の校正段階)
第1実施形態の励振特性校正装置の構成を
図9に示す。第1実施形態の励振特性校正処理の手順を
図10に示す。アレーアンテナAは、各素子の励振特性を校正する対象となるアレーアンテナである。励振特性校正装置Cは、ニューラルネットワーク1、励振特性校正部5、励振特性精度計算部6及び励振特性精度判断部7を備え、
図10に示した励振特性校正プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0056】
第1実施形態の励振特性の校正段階では、各素子の励振位相の推定失敗のときに、各素子の励振位相の推定成功まで、校正放射パターン(各素子の励振位相の校正時に測定する。各素子の校正励振位相は未知である。)の学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振位相の校正処理の高精度化を実行する。以下に具体的な処理を説明する。
【0057】
ニューラルネットワーク1は、測定放射パターン(各素子の未知の真の励振位相δ1、・・・、δ8)を入力する(ステップS12)。ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振位相δ1^、・・・、δ8^(^はハットを示す)を出力する(ステップS13)。
【0058】
励振特性校正部5は、各素子の推定励振位相δ1^、・・・、δ8^に基づいて、各素子の励振位相を校正し(δ1^、・・・、δ8^だけシフト)、校正放射パターンP(θ)(各素子の未知の校正励振位相δ1’、・・・、δ8’)を測定する(ステップS14、S15)。
【0059】
励振特性精度計算部6は、校正放射パターンP(θ)と、各素子のゼロ励振位相0°、等しい励振振幅A及び指向性パターンg
1(θ)、・・・、g
8(θ)に基づく理想放射パターンI(θ)と、の間の差分に基づいて、放射相違係数D
Cを計算する(ステップS16、数式3)。ここで、P¯(¯はバーを示す)は、P(θ)の平均値であり、I¯(¯はバーを示す)は、I(θ)の平均値である。そして、放射相違係数D
Cは、放射パターン絶対値によらず、放射パターン形状差が大きい/小さいときに、1/0に近くなる。
【数3】
【0060】
励振特性精度計算部6は、各素子の未知の校正励振位相δ1’、・・・、δ8’に基づいて、推定位相誤差δRMSEを計算することができない(数式1)。しかし、放射相違係数DCに基づいて、推定位相誤差δRMSEを間接的に推定することができる(次段落)。
【0061】
励振特性精度計算部3は、全ての検証放射パターンについて、推定位相誤差δRMSEと放射相違係数DCとの相関関係をプロット及びフィッティングする(ステップS6)。ここで、推定位相誤差δRMSEが増加するにつれて、放射相違係数DCが単調増加している。そして、最小二乗法又はLassoを用いて、多項式フィッティングしている。
【0062】
励振特性精度判断部7は、推定位相誤差δRMSEと放射相違係数DCとの間のフィッティングf(δRMSE)において、所望推定位相誤差δRMSE
thresに基づいて、所望放射相違係数DC
thres(=f(δRMSE
thres))を計算する(ステップS17)。そして、校正放射パターンP(θ)の放射相違係数DCが所望放射相違係数DC
thresと比べて小さいときに、各素子の励振位相の推定成功を判断する(ステップS18)。一方で、校正放射パターンP(θ)の放射相違係数DCが所望放射相違係数DC
thresと比べて大きいときに、各素子の励振位相の推定失敗を判断する(ステップS19)。
【0063】
励振特性精度判断部7は、校正放射パターンP(θ)の推定位相誤差δRMSEが計算できないため、推定位相誤差δRMSEに基づいて、各素子の励振位相の推定成功/失敗を判断できないが、校正放射パターンP(θ)のメイン/サイドローブの強度/幅に基づいて、各素子の励振位相の推定成功/失敗を判断してもよい(ステップS18、S19)。
【0064】
励振特性精度判断部7は、各素子の励振位相の推定失敗のときに(ステップS19)、各素子の励振位相の推定成功まで(ステップS18)、校正放射パターンP(θ)をニューラルネットワーク1へと再帰的入力し(ステップS20)、励振特性校正部5、励振特性精度計算部6及び励振特性精度判断部7は、ステップS13~S20を繰り返す。
【0065】
ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振位相δ1^’、・・・、δ8^’を出力する(ステップS21)。励振特性校正部5は、各素子の推定励振位相δ1^’、・・・、δ8^’に基づいて、各素子の励振位相を校正し、校正放射パターンP(θ)(各素子の未知の校正励振位相δ1”、・・・、δ8”)を測定する(ステップS22、S15)。各素子の正しい推定励振位相は、δk=δk^+δk^’+δk^”+・・・となる。
【0066】
よって、各素子の励振位相を校正するにあたり、ごくまれに各素子の励振位相を誤推定しても、各素子の励振位相の校正処理の高精度化を実行することができる。
【0067】
(第2実施形態の学習モデルの概要)
第2実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を
図11に示す。学習モデルは、ニューラルネットワーク1であり、入力層11、中間層12及び出力層13を備える。
【0068】
入力層21は、アレーアンテナの電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンが入力される。出力層23は、アレーアンテナの各素子の励振位相及び励振振幅を出力する。中間層22は、アレーアンテナの各素子の励振位相(ランダムに設定)及び励振振幅(0を含めない)と、アレーアンテナの電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンと、を備える複数の教師データを用いて、パラメータ(ノード間の結合係数)が学習される。
【0069】
よって、アレーアンテナの各素子の初期励振位相振幅誤差の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするための、学習モデルを生成・利用することができる。すると、アレーアンテナの試験時間の大半は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相振幅誤差の推定・補正ではなく、アレーアンテナの本質的な特性評価に充てられる。
【0070】
しかし、
図4に示した失敗例のように、学習モデルを検証するにあたり、高い確率で各素子の励振位相振幅を推定することができるが、ごくまれに各素子の励振位相振幅を誤推定することがある。そして、
図4に示した失敗例のように、学習モデルを適用することにより、各素子の励振位相振幅を校正するにあたり、高い確率で各素子の励振位相振幅を推定することができるが、ごくまれに各素子の励振位相振幅を誤推定することがある。
【0071】
(第2実施形態の学習モデルの検証段階)
第2実施形態の学習モデル検証処理の手順を
図12に示す。学習モデル検証装置Tは、第2実施形態においても第1実施形態と同様な構成を備え、
図12に示した学習モデル検証プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0072】
第2実施形態の学習モデルの検証段階では、各素子の励振位相振幅の推定失敗のときに、各素子の励振位相振幅の推定成功まで、残差放射パターン(各素子の残差励振位相振幅及び指向性パターンに基づいて計算する。)の学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振位相振幅の推定成功までの推定回数を検証する。以下に具体的な処理を説明するにあたり、第2実施形態が第1実施形態と相違する部分のみを説明する。
【0073】
ニューラルネットワーク1は、検証放射パターン(各素子の真の励振振幅A1、・・・、A8)を入力する(ステップS23)。ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振振幅A1^、・・・、A8^(^はハットを示す)も出力する(ステップS24)。
【0074】
残差励振特性計算部2は、各素子の推定励振振幅A1^、・・・、A8^と、各素子の真の励振振幅A1、・・・、A8と、の間の各素子の残差励振振幅A1’(=A1-A1^)、・・・、A8’(=A8-A8^)も計算する(ステップS25)。残差励振特性計算部2は、各素子の残差励振振幅A1’、・・・、A8’及び指向性パターンg1(θ)、・・・、g8(θ)にも基づいて、残差放射パターンP(θ)を計算する(ステップS26)。
【0075】
励振特性精度計算部3は、各素子の残差励振振幅A
1’、・・・、A
8’に基づいて、推定振幅誤差A
RMSEも計算する(ステップS27、数式4)。
【数4】
【0076】
ここで、励振特性精度計算部3は、全ての検証放射パターンについて、推定位相誤差δRMSEと推定振幅誤差ARMSEと放射相違係数DCとの相関関係をプロット及びフィッティングするわけではない(ステップS28)。推定位相誤差δRMSE及び推定振幅誤差ARMSEの組み合わせと、放射相違係数DCとは、1対1に対応しないからである。
【0077】
励振特性精度判断部4は、各々の検証放射パターンについて、推定振幅誤差ARMSEが所望推定振幅誤差ARMSE
thresと比べて小さいときに、各素子の励振振幅の推定成功を判断する(ステップS29)。一方で、各々の検証放射パターンについて、推定振幅誤差ARMSEが所望推定振幅誤差ARMSE
thresと比べて大きいときに、各素子の励振振幅の推定失敗を判断する(ステップS30)。或いは、残差放射パターンP(θ)のメイン/サイドローブの強度/幅に基づいて、各素子の励振振幅の推定成功/失敗を判断してもよい。
【0078】
励振特性精度判断部4は、各素子の励振振幅の推定失敗のときに(ステップS30)、各素子の励振振幅の推定成功まで(ステップS29)、残差放射パターンP(θ)をニューラルネットワーク1へと再帰的入力し(ステップS31)、残差励振特性計算部2、励振特性精度計算部3及び励振特性精度判断部4は、ステップS24~S31を繰り返す。
【0079】
ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振振幅A1^’、・・・、A8^’も出力する(ステップS32)。残差励振特性計算部2は、各素子の推定励振振幅A1^’、・・・、A8^’と、各素子の残差励振振幅A1’、・・・、A8’と、の間の各素子の残差励振振幅A1”(=A1’-A1^’)、・・・、A8”(=A8’-A8^’)も計算する(ステップS33)。各素子の正しい推定励振振幅は、Ak=Ak^+Ak^’+Ak^”+・・・となる。
【0080】
よって、学習モデルを検証するにあたり、ごくまれに各素子の励振位相振幅を誤推定しても、各素子の励振位相振幅の推定成功までの推定回数を検証することができる。
【0081】
(第2実施形態の励振特性の校正段階)
第2実施形態の励振特性校正処理の手順を
図13に示す。励振特性校正装置Cは、第2実施形態においても第1実施形態と同様な構成を備え、
図13に示した励振特性校正プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0082】
第2実施形態の励振特性の校正段階では、各素子の励振位相振幅の推定失敗のときに、各素子の励振位相振幅の推定成功まで、校正放射パターン(各素子の励振位相振幅の校正時に測定する。各素子の校正励振位相振幅は未知である。)の学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振位相振幅の校正処理の高精度化を実行する。以下に具体的な処理を説明するにあたり、第2実施形態が第1実施形態と相違する部分のみを説明する。
【0083】
ニューラルネットワーク1は、測定放射パターン(各素子の未知の真の励振振幅A1、・・・、A8)を入力する(ステップS34)。ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振振幅A1^、・・・、A8^(^はハットを示す)も出力する(ステップS35)。
【0084】
励振特性校正部5は、各素子の推定励振振幅A1^、・・・、A8^に基づいて、各素子の励振振幅も校正し(A1^、・・・、A8^だけシフト)、校正放射パターンP(θ)(各素子の未知の校正励振振幅A1’、・・・、A8’)を測定する(ステップS36、S37)。
【0085】
励振特性精度計算部6は、各素子の未知の校正励振振幅A1’、・・・、A8’に基づいて、推定振幅誤差ARMSEも計算することができない(数式4)。そして、放射相違係数DCに基づいて、推定振幅誤差ARMSEも間接的に推定することができない(次段落)。
【0086】
ここで、励振特性精度計算部3は、全ての検証放射パターンについて、推定位相誤差δRMSEと推定振幅誤差ARMSEと放射相違係数DCとの相関関係をプロット及びフィッティングするわけではない(ステップS28)。推定位相誤差δRMSE及び推定振幅誤差ARMSEの組み合わせと、放射相違係数DCとは、1対1に対応しないからである。
【0087】
励振特性精度判断部7は、校正放射パターンP(θ)の放射相違係数DCが所望放射相違係数DC
thresと比べて小さいときに、各素子の励振振幅の推定成功を判断する(ステップS38、S39、S40)。一方で、校正放射パターンP(θ)の放射相違係数DCが所望放射相違係数DC
thresと比べて大きいときに、各素子の励振振幅の推定失敗を判断する(ステップS41)。或いは、校正放射パターンP(θ)のメイン/サイドローブの強度/幅に基づいて、各素子の励振振幅の推定成功/失敗を判断してもよい。
【0088】
励振特性精度判断部7は、各素子の励振振幅の推定失敗のときに(ステップS41)、各素子の励振振幅の推定成功まで(ステップS40)、校正放射パターンP(θ)をニューラルネットワーク1へと再帰的入力し(ステップS42)、励振特性校正部5、励振特性精度計算部6及び励振特性精度判断部7は、ステップS35~S42を繰り返す。
【0089】
ニューラルネットワーク1は、各素子の推定励振振幅A1^’、・・・、A8^’も出力する(ステップS43)。励振特性校正部5は、各素子の推定励振振幅A1^’、・・・、A8^’に基づいて、各素子の励振振幅も校正し、校正放射パターンP(θ)(各素子の未知の校正励振振幅A1”、・・・、A8”)を測定する(ステップS44、S37)。各素子の正しい推定励振振幅は、Ak=Ak^+Ak^’+Ak^”+・・・となる。
【0090】
よって、各素子の励振位相振幅を校正するにあたり、ごくまれに各素子の励振位相振幅を誤推定しても、各素子の励振位相振幅の校正処理の高精度化を実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示のアレーアンテナ学習モデル検証プログラム及びアレーアンテナ学習モデル検証方法は、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定しても、各素子の励振特性の推定成功までの推定回数を検証することができる。本開示のアレーアンテナ励振特性校正プログラム及びアレーアンテナ励振特性校正方法は、ごくまれに各素子の励振特性を誤推定しても、各素子の励振特性の校正処理の高精度化を実行することができる。
【符号の説明】
【0092】
S:教師データ記憶装置
T:学習モデル検証装置
A:アレーアンテナ
C:励振特性校正装置
1:ニューラルネットワーク
2:残差励振特性計算部
3:励振特性精度計算部
4:励振特性精度判断部
5:励振特性校正部
6:励振特性精度計算部
7:励振特性精度判断部
11:入力層
12:中間層
13:出力層
【要約】 (修正有)
【課題】アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差の推定・補正において多くの測定の手間及び時間を不要とするアレーアンテナ学習モデル検証プログラム及び方法並びにアレーアンテナ励振特性校正プログラム及び方法を提供する。
【解決手段】方法は、放射パターンを入力し、各素子の励振特性を出力する学習モデルを生成し、学習モデルを検証するにあたり、各素子の励振特性の推定を失敗したときに、各素子の励振特性の推定を成功するまで、残差放射パターンの学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振特性の推定を成功するまでの推定回数を検証する。さらに、各素子の励振特性を校正するにあたり、学習モデルを適用することにより、各素子の励振特性の推定を失敗したときに、各素子の励振特性の推定が成功するまで、校正放射パターンの学習モデルへの再帰的入力を繰り返し、各素子の励振特性の校正処理の高精度化を実行する。
【選択図】
図6