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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】鋳物製造用構造体
(51)【国際特許分類】
   B22C 3/00 20060101AFI20230323BHJP
   B22C 9/08 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B22C3/00 A
B22C9/08 E
B22C9/08 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022146318
(22)【出願日】2022-09-14
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木部 義幸
(72)【発明者】
【氏名】池永 春樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】実公昭56-034834(JP,Y1)
【文献】特公昭47-013176(JP,B1)
【文献】特開平10-146655(JP,A)
【文献】特開2002-256365(JP,A)
【文献】特開2021-070052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C
B22D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部と該本体部の内面を被覆する被覆層とを有し、該本体部が電気絶縁性を有し、
前記本体部が無機繊維を含み、
前記本体部は一層であり、
前記本体部は周方向に一体である、鋳物製造用構造体。
【請求項2】
前記本体部と前記被覆層とがいずれも、電気絶縁性を有する、請求項1に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項3】
前記本体部の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であるか、及び/又は、前記本体部の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上である、請求項1に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項4】
前記本体部と前記被覆層とを介して肉厚方向において測定された電気抵抗評価値が、200kΩ/mm以上である、請求項3に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項5】
前記本体部の肉厚が0.3mm以上5mm以下である、請求項1に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項6】
前記被覆層が無機粒子を含む、請求項1に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項7】
前記被覆層の肉厚が1000μm以下である、請求項1に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項8】
前記本体部が更に有機繊維を含有する、請求項に記載の鋳物製造用構造体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の鋳物製造用構造体を、鋳鋼の鋳造における湯道又は揚がり湯道として使用する使用方法。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の鋳物製造用構造体を、該鋳物製造用構造体が有する開口部のうちの一部の開口部を残して鋳物砂に埋設する工程を有する、鋳鋼用鋳型の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の鋳物製造用構造体を、該鋳物製造用構造体が有する開口部のうちの一部の開口部を残して鋳物砂に埋設し、鋳型を製造する鋳型製造工程と、
前記鋳型に溶融金属を注湯する鋳込み工程とを有する、鋳鋼鋳物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳物製造用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物製造用の構造体に関する従来の技術として本出願人は先に、有機繊維、炭素繊維等の無機繊維、無機粒子及びバインダーを含有する本体部と、その内面に形成された被覆層とを有する鋳物製造用構造体を提案した(特許文献1参照)。同文献に記載の構造体によれば、鋳込み時に、本体部に含まれる有機繊維から発生する熱分解ガスを被覆層が遮蔽するので、従来よりも鋳物のガス欠陥が低減するという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-24841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋳造欠陥である湯じわ、亀裂、空洞等は、鋳込み温度の低下に伴い生じる湯流れの不良が原因の一つとなって発生する。近年の鋳物の高品質化に伴い、鋳物製造用の構造体においては、鋳込み時の湯流れに関して更なる向上が要求されている。鋳込み時の湯流れの向上については、特許文献1に記載の構造体についても改善の余地があった。
したがって、本発明の課題は、鋳込み時の湯流れが良好な鋳物製造用構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、筒状の本体部と該本体部の内面を被覆する被覆層とを有し、該本体部が電気絶縁性を有する、鋳物製造用構造体を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鋳込み時の湯流れが良好な鋳物製造用構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の鋳物製造用構造体の一実施形態を示す模式断面図である。
図2図2(a)ないし(d)は、本発明の鋳物製造用構造体の別の実施形態を示す模式断面図である。
図3図3は、本発明の鋳物製造用構造体を用いて製造した鋳型の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1及び図2に示す本発明の鋳物製造用構造体(以下、単に「鋳物用構造体」ともいう。)3は、例えば鋳造に用いられる湯道や揚がり湯道として好適に用いられるものである。本発明の鋳物用構造体3は、後述のとおり、鋳鋼の製造における湯道又は揚がり湯道として特に好適に用いられるものである。
【0009】
鋳物用構造体3は、図1及び図2に示すように、筒状の本体部31と、本体部31の内面の少なくとも一部を被覆する被覆層32とを有する。本明細書における「本体部」とは、鋳物用構造体3における大半の体積を占める部位である。本明細書における「筒状」とは、長手方向と該長手方向に直交する幅方向とを有し、内部が空洞になった構造を意味する。本体部31における空洞の形状は限定されず、空洞の横断面の形状は、例えば円形、楕円形又は多角形などであってもよい。また「筒状」には、図2(a)に示すように鋳物用構造体3の長手方向の一部が屈曲部を有するもの、図2(b)に示すように鋳物用構造体3の長手方向の全体が円弧状に湾曲しているもの、図2(c)及び(d)に示すように鋳物用構造体3が一又は複数の分岐部を有するもの等が含まれる。
本体部31が筒状であることに起因して、鋳物用構造体3も筒状である。
【0010】
鋳物用構造体3においては、鋳込み時に本体部31に溶融金属が流入する面である内面に、被覆層32を有する。本明細書における「被覆層」とは、典型的には本体部31の内面に膜状部位として存在する。本明細書にいう「膜状部位」とは、被覆層32を構成する粒子が微視的に凝集粒子状で存在している部分のことをいう。
本体部31が被覆層32に被覆されず剥き出しの状態にあると、鋳込み時に、本体部31に溶湯が接することで本体部31の含有成分が燃焼し、溶湯中にガスが混入又は溶解することがある。特に、鋳鉄よりも溶湯の温度が高い鋳鋼を鋳込む場合は、溶湯へのガスの溶解量が多いことから、鋳込み時に本体部31の含有成分から発生するガスが、鋳鉄の場合よりも、溶湯中に溶解しやすくなってしまう。それに対して、本実施形態の鋳物用構造体3においては本体部31の内面が被覆層32で被覆されているので、本体部31に溶湯が接することを防ぐことができ、その結果、鋳込み時に本体部31の含有成分が燃焼してガスが発生しても、そのガスが溶湯に溶解することを抑制することができる。この利点は、溶湯中にガスが溶解しやすい鋳鋼の場合に、特に有利となる。
鋳込み時のガスが溶湯に混入することを抑制し、後述するとおり鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から、本体部31における、溶融金属と接する側の被覆層32の表面積は、本体部31の内表面積に対して、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上であり、100%であることが一層好ましい。
【0011】
本体部31は、電気絶縁性を有するように構成されている。
本明細書において「電気絶縁性」とは、電流をまったく通さない性質であるか、又は実質的に電流を通さない性質であることを意味する。
実質的に電流を通さない性質とは、肉厚方向あるいは表面において測定した電気抵抗評価値が所定の値以上であることを意味する。具体的には、肉厚方向において測定した電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であるか、あるいは表面において測定した電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であれば、実質的に電流を通さない性質、すなわち電気絶縁性となる。
【0012】
一般に、物体における熱の移動の一態様として、該物体内の自由電子の移動が知られている。すなわち、自由電子が多いほど、換言すれば物体の電気抵抗率が低いほど、熱伝導性が高くなる。これまで知られている鋳物用構造体には、鋳物用構造体3の含有成分に起因して、本体部31が電気伝導性を有する場合がある。そのような鋳物用構造体3は、熱伝導性が比較的高い。そのような鋳物用構造体3においては、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱の一部が、本体部31を介して鋳物用構造体3外に移動する。それによって、鋳物用構造体3内を流れる溶湯の温度が低下し、鋳込み温度の低下に伴い湯流れが悪化し、湯じわ、亀裂、空洞等の不良が発生するおそれがある。これに対して本実施形態の鋳物用構造体3は、その大部分を占める部位である本体部31が、電気絶縁性を有しているので、換言すれば熱伝導性が低いので、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、本体部31を介して鋳物用構造体3外に移動することが抑制される。その結果、本発明の鋳物用構造体3においては、従来の鋳物用構造体よりも、鋳物用構造体3内の溶湯の温度が低下しにくくなり、鋳込み時の湯流れを良好なまま保つことができる。それによって、湯じわ、亀裂、空洞等の鋳造欠陥の発生を抑制することができる。
【0013】
上述の効果を一層奏させる観点から、本実施形態の鋳物用構造体3は、本体部31の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であるか、及び/又は、本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であることが好ましい。
具体的には、本体部31の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値は、更に好ましくは300kΩ/mm以上、一層好ましく500kΩ/mm以上である。本体部31の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値の上限としては、特に制限されないが、例えば1×1010kΩ/mm以下が現実的である。
また具体的には、本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値は、更に好ましくは1000kΩ/mm以上、一層好ましくは1×10kΩ/mm以上である。本体部31肉厚方向において測定された電気抵抗評価値の上限としては、特に制限されないが、例えば1×1010kΩ/mm以下が現実的である。
本実施形態の鋳物用構造体3においては、本体部31の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値のみが上述の数値範囲を満たしていてもよく、本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値のみが上述の数値範囲を満たしていてもよく、あるいはこれら両方を満たしていてもよい。
【0014】
本体部31における肉厚方向の電気抵抗評価値は、以下の方法で測定することができる。
まずカッターなどの刃物や鑢などを用いて鋳物用構造体3における被覆層32の一部を本体部31から分離させる。分離した本体部31のみを回収し、回収された本体部31を対象として、該本体部31の肉厚、及び肉厚方向での電気抵抗値を測定する。詳細には、デジタルテスターのテストリードを短絡させてゼロ調整を行なった後、本体部31を挟み込むように、本体部31の肉厚方向において対向する位置で該テストリードを本体部31表面にそれぞれ接触させ、電気抵抗値を測定する。電気抵抗値を測定した位置においてダイヤルキャリパーゲージを用いて該位置の肉厚を測定し、該電気抵抗値を該肉厚で除することで電気抵抗評価値を算出する。電気抵抗値及び肉厚の測定は異なる8箇所で行い、8点の電気抵抗評価値の平均値を算出する。デジタルテスターにはマルチ計測器株式会社製のMCD-008ポケットマルチメーターを使用し、ダイヤルキャリパーゲージには株式会社ミツトヨ製、コードNo.209-611、符号DCGO-50RLを使用する。
【0015】
本体部31の外面における電気抵抗評価値は、以下の方法で測定することができる。
詳細には、上述の本体部31における肉厚方向の電気抵抗評価値の測定方法においてデジタルテスターのテストリードを本体部31の外面に当てるときに、該テストリード間の周方向の長さを60mmとして電気抵抗値を測定し、該電気抵抗値を60mmで除することで測定する。上述のテストリードの位置関係は特に限られず、例えば本体部31の長手方向に沿って当ててもよく、本体部31の周方向に沿って当ててもよい。
【0016】
本実施形態の鋳物用構造体3においては、該鋳物用構造体3に流入した溶湯は、被覆層32に接する。そのような鋳物用構造体3においては、本体部31に加えて、被覆層32も電気絶縁性を有するように構成すると、本体部31及び被覆層32の両方の働きによって、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、鋳物用構造体3外に移動することが一層抑制される。その結果、鋳物用構造体3内の溶湯の温度が一層低下しにくくなり、鋳込み時の湯流れを更に良好なまま保つことができる。この観点から、鋳物用構造体3における本体部31のみが、電気絶縁性を有することも好ましいが、本体部31と被覆層32とがいずれも、電気絶縁性を有することが一層好ましい。すなわち、本体部31及び被覆層32を有する本実施形態の鋳物用構造体3を、その全体が電気絶縁性を有するように構成することで、鋳込み時の湯流れを良好なものとすることができる。
【0017】
上述の効果を一層奏させる観点から、本実施形態の鋳物用構造体3においては、被覆層32の内面32Sにおける60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であるか、及び/又は、被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であることが好ましい。
具体的には、被覆層32の内面32Sにおける60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値は、より好ましくは300kΩ/mm以上、更に好ましくは500kΩ/mm以上である。被覆層32の内面32Sにおける60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値の上限としては、特に制限されないが、例えば1×1010kΩ/mm以下が現実的である。
また具体的には、被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値は、より好ましくは1000kΩ/mm以上、更に好ましくは1×10kΩ/mm以上である。被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値の上限としては、特に制限されないが、例えば1×1010kΩ/mm以下が現実的である。
本実施形態の鋳物用構造体3においては、被覆層32の内面32Sにおける60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値のみが上述の数値範囲を満たしていてもよく、被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値のみが上述の数値範囲を満たしていてもよく、あるいはこれら両方を満たしていてもよい。
【0018】
被覆層32における肉厚方向の電気抵抗評価値は、以下の「被覆層における肉厚方向の電気抵抗評価値の測定方法」で測定することができる。
〔被覆層における肉厚方向の電気抵抗評価値の測定方法〕
まずカッターなどの刃物や鑢などを用いて鋳物用構造体3における被覆層32の一部を本体部31から分離させる。分離した被覆層32のみを回収し、回収された被覆層32を対象として、該被覆層32の肉厚、及び肉厚方向での電気抵抗値を測定する。詳細には、デジタルテスターのテストリードを短絡させてゼロ調整を行なった後、被覆層32を挟み込むように、被覆層32の肉厚方向において対向する位置で該テストリードを被覆層32表面にそれぞれ接触させ、電気抵抗値を測定する。電気抵抗値を測定した位置においてダイヤルキャリパーゲージを用いて該位置の肉厚を測定し、該電気抵抗値を該肉厚で除することで電気抵抗評価値を算出する。電気抵抗値及び肉厚の測定は異なる8箇所で行い、8点の電気抵抗評価値の平均値を算出する。
【0019】
被覆層32における肉厚は、以下の「被覆層における肉厚の測定方法」でも測定することができる。
〔被覆層における肉厚の測定方法〕
まず本体部31に被覆層32を形成する前の該本体部31の肉厚を測定する。次いで本体部31に被覆層32を形成した後の鋳物用構造体3の肉厚を測定する。その後、鋳物用構造体3の肉厚から本体部31の肉厚を差し引いて被覆層32の肉厚を求める。詳細には、本体部31に被覆層32を形成する前の該本体部31の肉厚は、該本体部31の外周面に予め目印を付与しておき、ダイヤルキャリパーゲージを用いて該目印の位置で測定する。本体部に31に被覆層32を形成した後の鋳物用構造体3の肉厚は、ダイヤルキャリパーゲージを用いて、該本体部31に付与していた前記目印の位置で測定する。
【0020】
被覆層32の内面32Sにおける電気抵抗評価値は、以下の方法で測定することができる。
詳細には、上述の「被覆層における肉厚方向の電気抵抗評価値」の測定方法においてデジタルテスターのテストリードを被覆層32に当てるときに、該テストリード間の周方向の長さを60mmとして電気抵抗値を測定し、該電気抵抗値を60mmで除することで測定する。テストリードの位置関係は特に限られず、例えば被覆層32の長手方向に沿って当ててもよく、被覆層32の周方向に沿って当ててもよい。
【0021】
本実施形態の鋳物用構造体3は、上述のとおり、その全体が電気絶縁性を有するように構成することが、鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から好ましい。特に、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、被覆層32を介して本体部31に移動し、更にその熱が鋳物用構造体3外に移動することを抑制することによって、鋳込み時の湯流れを一層良好なものとする観点から、本体部31と被覆層32とを介して肉厚方向において測定された電気抵抗評価値は、好ましくは200kΩ/mm以上、より好ましくは1000kΩ/mm以上、更に好ましくは1×10kΩ/mm以上である。また、本体部31と被覆層32とを介して肉厚方向において測定された電気抵抗評価値の上限としては、特に制限されないが、例えば1×1010kΩ/mm以下が現実的である。
【0022】
鋳物用構造体3における本体部31と被覆層32とを介した肉厚方向の電気抵抗評価値は、以下の方法で測定することができる。
デジタルテスターのテストリードを短絡させてゼロ調整を行った後、鋳物用構造体3における本体部31と被覆層32とを挟み込むように、本体部31と被覆層32との肉厚方向において対応する位置で該テストリードを本体部31と被覆層32との表面にそれぞれ接触させ、電気抵抗値の値を測定する。電気抵抗値を測定した位置においてダイヤルキャリパーゲージを用いて、後述する実施例に記載の本体部の肉厚の測定方法と同様の方法で該位置の肉厚を測定し、該電気抵抗値を該肉厚で除することで電気抵抗評価値を算出する。
【0023】
本実施形態の鋳物用構造体3においては、本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値及び被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値がいずれも200kΩ/mm以上であることが好ましい。このような構成を有する鋳物用構造体3によれば、各層31,32において、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、被覆層32を介して本体部31に移動すること、及びその熱が鋳物用構造体3外に移動することを抑制し、鋳込み時の湯流れを一層良好なものとすることができる。
同様の観点から、本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値及び被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値はいずれも、好ましくは1000kΩ/mm以上、より好ましくは1×10kΩ/mm以上である。また、本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値及び被覆層32の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値の上限としては、特に制限されないが、例えば1×1010kΩ/mm以下が現実的である。
【0024】
本体部31が電気絶縁性を有し、鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から、本体部31は電気絶縁性の材料を含むことが好ましい。本実施形態の本体部31は、後述のとおり、主に無機化合物及び有機成分を含むところ、これら双方が電気絶縁性の材料を含むことが好ましい。
【0025】
電気絶縁性の材料として、本体部31は、無機化合物を含むことが好ましく、該無機化合物として無機繊維を含むことがより好ましい。電気絶縁性の無機化合物を鋳物用構造体3中に含有させることによって、鋳込み時の湯流れを良好なものとし、更に、鋳物用構造体3の耐熱性を向上させて、鋳込み時の構造体の強度、寸法安定性及び形状維持性を高めることができる。
無機繊維は、主として鋳物用構造体3において鋳造に用いられる前の状態ではその骨格をなし、鋳造時に溶融金属の熱によっても燃焼せずにその形状を維持する繊維状物である。
無機繊維としては、例えば、人造鉱物繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、並びに天然鉱物繊維などの電気絶縁性の繊維を含むことができ、それらを単独で又は二種以上混合して含むことができる。
人造鉱物繊維は、例えばロックウールなどを含む。
セラミック繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、ムライト繊維、ジルコニア繊維、炭化ケイ素繊維などを含む。
【0026】
本実施形態で用いる無機繊維は、電気絶縁性の無機繊維のみであることが好ましい。本体部31が、電気絶縁性の無機繊維のみを含むことで、本体部31を、電気絶縁性を有するように構成することができる。その結果、上述したとおり、鋳込み時の湯流れを良好なまま保つことができる。更に、本体部31の熱間強度を確保することができる。
【0027】
鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から、本体部31は、電気伝導性の材料を非含有であることが好ましい。「電気伝導性の材料を非含有」とは、本体部31に意図的に電気伝導性の材料を含有させないが、例えば該材料に由来する微小粒子などが本体部31に不可避的に混入することは許容することを意味する。具体的には、本体部31が、電気伝導性の材料を、0質量%以上1質量%以下、特に0.5質量%以下含有する場合には、電気伝導性の材料を非含有であるということができる。
【0028】
無機繊維の平均繊維長は0.2mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。無機繊維の平均繊維長がこの下限値以上であれば、鋳込み時の熱によって、後述する有機バインダーの熱分解に起因する熱収縮を抑制し、鋳物用構造体3の形状維持性を発揮しやすくなる。
一方、無機繊維の平均繊維長は10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましく、4mm以下が更に好ましい。無機繊維の平均繊維長がこの上限値以下であれば、均一な肉厚の本体部31が得られやすくなる。
【0029】
本体部31は、無機繊維を、本体部31全体の質量に対し、0.5質量%以上含むことが好ましく、1質量%以上含むことがより好ましく、1.5質量%以上含むことが更に好ましく、2質量%以上含むことがより更に好ましい。無機繊維の含有量がこの下限値以上であれば、鋳込み時の鋳物用構造体3の強度を担保することができる。この効果は、特に本体部31が後述する有機バインダーを含む場合に顕著である。このことに加えて、鋳込み時の熱に起因する該有機バインダーの炭化によって本体部31の収縮、割れ、被覆層32の剥離等が発生することを防ぐことができる。
また、本体部31は、無機繊維を、本体部31全体の質量に対し、80質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、35質量%以下含むことが更に好ましく、20質量%以下含むことがより更に好ましい。無機繊維の含有量がこの上限値以下であれば、特に、後述する鋳物用構造体3の製造方法における抄造・脱水工程での本体部31の成形性が良好になり、均一な肉厚の本体部31が得られやすくなる。
【0030】
無機繊維は、鋳物用構造体3の熱間強度、鋳物用構造体3の成形性を向上させる観点から、長軸/短軸比が、より好ましくは10以上2000以下、更に好ましくは50以上1000以下である。
【0031】
電気絶縁性の材料として、本体部31は、無機粒子(以下、「第1無機粒子」ともいう。)を含むことも好ましい。本体部31が、第1無機粒子を含むことで、鋳物用構造体3の耐熱性を向上させて、鋳込み時の鋳物用構造体3の強度を高めることができる。この効果を一層奏させる観点から、第1無機粒子は電気絶縁性の無機粒子のみからなることが好ましい。なお、第1無機粒子そのものの電気抵抗率は、例えば鋳物用構造体3の本体部31から分離した第1無機粒子を対象として、日東精工アナリテック社製の粉体抵抗測定システムMCP-PD51を使用することで測定できる。
本体部31が第1無機粒子を含む場合、第1無機粒子は本体部31の表面に少なくとも存在することが好ましく、本体部31の表面及び内部の双方に存在することがより好ましい。
【0032】
上述の第1無機粒子としては、ムライト、黒曜石、ジルコニア、ジルコン、雲母、シリカ、中空シリカ、中空セラミックス、フライアッシュ及びアルミナ等の耐火物の骨材粒子を含むことができる。第1無機粒子は、これらを単独又は二種以上を選択して含むことができる。
中空シリカとは、中空構造を有するシリカ粒子である。
中空セラミックスとはフライアッシュに含まれる中空の粒子であって、水を用いてフライアッシュを浮遊選別することによって得ることができる。
上述の第1無機粒子の中でも、熱伝導率の低さ、入手性、経済性などの観点から、本体部31はシリカ、中空シリカ、黒曜石、ジルコン、雲母、シリカ、中空セラミックス、フライアッシュを含むことが好ましく、シリカを含むことがより好ましい。
【0033】
第1無機粒子の形状は、それぞれ独立して、球状、多面体状、鱗状、層状、紡錘状、繊維状、不定形、又はそれらの組合せであり得る。
第1無機粒子は、これらを単独または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
鋳物用構造体3では、第1無機粒子の平均粒径が特定の範囲内であることが好ましい。
具体的には、第1無機粒子の平均粒径が150μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、27μm以下であることが殊更好ましい。第1無機粒子の平均粒径をこの上限内とすることで、本体部31における第1無機粒子の密度を高めて、本体部31の強度を向上させることができる。また、本体部31の表面粗さを低減させることができるので、鋳物用構造体3を製造するとき、本体部31の内面に、後述する塗液組成物を均一に塗布することができる。具体的には、本体部31の内面に、後述する塗液組成物を塗布することにより形成された被覆層32に、極端に薄い部分が生じることを防ぐことができる。
【0035】
本体部31の成形性を向上させる観点から、第1無機粒子の平均粒径は、1μm超であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。第1無機粒子の平均粒径をこの下限内とすることで、本体部31の中間成形体を抄造により製造するとき、第1無機粒子が抄造用ネットを通過してしまい、歩留りが低下することを防ぐことができるので、本体部31の成形性を向上させることができる。また、本体部31の中間成形体の濾水性を向上させることができるので、脱水や乾燥を容易に行うことができるようになり、本体部31の成形性を向上させることができる。
これらの下限値は、上述した上限値のいずれと組み合わせてもよい。
【0036】
第1無機粒子の平均粒径は、以下の方法で測定することができる。
〔平均粒径の測定方法〕
レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-920)を用いて測定された体積累積50%の平均粒径を、本明細書における平均粒径とする。分析条件は下記のとおりである。
・測定方法:フロー法
・屈折率:各種無機粒子によって異なる(LA-920付属のマニュアル参照)
・分散媒:各種無機粒子に適したものを用いる
・分散方法:撹拌、内蔵超音波(22.5kHz)3分
・試料濃度:2mg/100cm
【0037】
本体部31は、熱間強度を向上させる観点から、第1無機粒子の含有量が本体部31全体の質量に対し、40質量%以上含むことが好ましく、45質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことが更に好ましい。
また、80質量%以下含むことが好ましく、75質量%以下含むことがより好ましく、70質量%以下含むことが更に好ましく、68質量%以下含むことが殊更好ましい。
【0038】
本体部31が電気絶縁性を有し、鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から、本体部31全体の質量に対する無機繊維の含有量及び本体部31全体の質量に対する第1無機粒子の含有量が上述の範囲内にあることを条件として、該無機繊維の含有量に対する該第1無機粒子の含有量は、2.5以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。
また、無機繊維の含有量に対する第1無機粒子の含有量は、13以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
【0039】
前記と同様の理由によって、本体部31全体の質量に対する無機繊維の質量及び第1無機粒子の質量の和の割合は、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
また、本体部31全体の質量に対する無機繊維の質量及び第1無機粒子の質量の和の割合は、87質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。
【0040】
電気絶縁性の材料として、本体部31は、有機成分を含むことが好ましく、該有機成分として更に有機繊維を含有することがより好ましい。有機繊維は、本体部31において鋳造に用いられる前の状態ではその骨格をなし、鋳造時には溶融金属の熱によって、その一部又は全部が燃焼し、鋳物製造後の本体部31内部に空隙を形成する繊維状物である。
本体部31においては、有機繊維どうしが絡み合い、本体部31中に空隙が生じる。その結果、本体部31を有する鋳物用構造体3の断熱性が向上する。更に、鋳造時に溶融金属の熱によって有機繊維の一部又は全部が燃焼すると、有機繊維が燃焼した分、本体部31中に空隙が生じる。その結果、鋳物用構造体3の断熱性が更に一層向上する。
上述の効果を一層奏させる観点から、有機繊維は、好ましくは本体部31の少なくとも表面に分散して存在し、より好ましくは本体部31の表面及び内部に分散して存在する。
【0041】
本明細書における「有機成分」とは、その分子構造に炭化水素原子団を有する天然物又は化合物を指す。したがって、炭素繊維などの炭素元素のみ又は炭素元素及び窒素元素で構成された材料は、本開示における有機成分及び有機成分を含む材料を構成せず、上述の無機繊維に分類される。
【0042】
鋳物用構造体3に有機成分が含まれているか否かは、固体NMRによって得られたC=C結合、C-H結合、C=O結合、O-H結合に相当するピークの有無に基づいて判定することができる。これらの結合のうち、C-H結合又はC=O結合が少なくとも存在していれば、測定対象の材料は有機成分を含むと判定する。
また、鋳物用構造体3に有機繊維が含まれているか否かは、前記固体NMRによる判定とともに、鋳物用構造体3の表面及び内部を顕微FT-IR及びマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番:VHX-500、本明細書のマイクロスコープは全てこれである。)によって観察して判定することができる。詳細には、顕微FT-IRにおいて有機物に由来する官能基がマッピングされる位置を確認し、当該位置において、マイクロスコープによって繊維状物が観察されれば、有機繊維が含まれていると判定する。
【0043】
有機繊維には、木材パルプ等の紙繊維、フィブリル化した合成繊維、再生繊維(例えばレーヨン繊維)等を含むことができ、それらを単独で又は二種以上混合して含むことができる。これらの中でも紙繊維を含むことが好ましい。その理由は、鋳物用構造体3を製造するとき、抄造により多様な形態に成形でき、脱水、乾燥された成形体の湿潤強度特性が優れ、紙繊維の入手性が容易且つ安定的で、経済的だからである。
紙繊維には、木材パルプのほか、コットンパルプ、リンターパルプ、竹や藁その他の非木材パルプを含むことができる。木材パルプとしては、バージンパルプ又は古紙パルプ(回収品)を単独で又は二種以上を混合して用いることができる。入手の容易性、環境保護、製造費用の低減等の点から、古紙パルプを含むことが好ましい。有機繊維は鋳物用構造体3の成形性を向上させる観点及び供給性や経済性の観点から古紙(新聞紙等)を含むことが好ましい。
【0044】
有機繊維の平均繊維長は0.8mm以上が好ましく、0.9mm以上がより好ましい。有機繊維の平均繊維長がこの下限値以上であれば、有機繊維どうしが絡み合いやすくなり、その結果鋳造に用いられる前の状態での骨格を形成しやすくなる。
また、有機繊維の平均繊維長は10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましい。有機繊維の平均繊維長がこの上限値以下であれば、鋳物用構造体3の表面平滑性を確保しやすくなる。
【0045】
本体部31は、靭性を向上させ、使用性を向上させる観点から、有機繊維を本体部31全体の質量に対し、8質量%以上含むことが好ましく、9質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましい。
本体部31における有機繊維の含有量の上限は、例えば、30質量%以下、特に25質量%以下、更には20質量%以下とすることができる。
本明細書における「使用性」とは、使用前に任意の寸法に切断する際に切断時に加わる力で割れが発生したり、鋳込み時の砂の重さによって破損したりしにくいことを意味する。
【0046】
本体部31に加えて、被覆層32が電気絶縁性を有し、鋳込み時の湯流れを一層良好なものとする観点から、被覆層32も電気絶縁性の材料を含むことが好ましい。本実施形態の被覆層32は、後述のとおり、主に無機化合物を含むところ、該無機化合物が電気絶縁性の無機化合物を含むことが好ましく、特に該無機化合物が電気絶縁性の無機化合物のみからなることが好ましい。
【0047】
電気絶縁性の材料として、被覆層32は、無機化合物を含むことが好ましく、該無機化合物として無機粒子(以下、「第2無機粒子」ともいう。)を含むことが好ましい。被覆層32が、第2無機粒子を含むことで、被覆層32の熱間強度を向上させることができる。
被覆層32が第2無機粒子を含む場合、第2無機粒子は鋳物用構造体3の内面に存在することが好ましく、被覆層32の表面及び内部の双方に存在することがより好ましい。
【0048】
上述の第2無機粒子としては、例えば、金属酸化物、及び金属の珪酸塩からなる群から選ばれるものを含むことができる。具体的には、第2無機粒子としては、ムライト、ジルコン、ジルコニア、アルミナ、オリビン、マグネシア、クロマイト等の耐火性無機粒子が挙げられる。第2無機粒子は、これらを単独または二種以上を選択して含むことができる。
耐熱性に優れている観点及び溶融金属との濡れ性が低い観点から、被覆層32は、第2無機粒子としてジルコンを含むことが好ましい。
【0049】
第2無機粒子としては、電気伝導性の材料を用いることもできる。電気伝導性の材料としては、例えば各種金属の粒子が挙げられる。金属としては、例えばチタン、バナジウム、鉄、ニッケル、クロムから選ばれる一種又は二種以上を含むことが好ましい。
チタン及びバナジウムは、それぞれ水酸化チタン及び水酸化バナジウムを含むことが好ましい。これらは鋳造時に熱分解して、それぞれチタン、バナジウムに変化する。
鉄は、水溶媒の接触による酸化防止の目的で、酸化鉄処理したものが好ましい。
【0050】
第2無機粒子の形状は、それぞれ独立して、球状、多面体状、鱗状、層状、紡錘状、繊維状、不定形、又はそれらの組合せであり得る。
第2無機粒子は、これらを単独又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本体部31の表面の封孔性、本体部31と被覆層32との密着性などの観点から、第2無機粒子の平均粒径は1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、15μm以上が殊更好ましい。
また、鋳込み時に本体部31から発生する熱分解ガスが溶湯側に移行することを抑制する観点から、第2無機粒子の平均粒径は100μm以下であり、80μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましく、35μm以下が殊更好ましく、25μm以下が特に好ましい。
第2無機粒子の平均粒径は、前述の第1無機粒子の平均粒径の測定方法と同様に求めることができる。
【0052】
上述の効果を一層奏させる観点から、被覆層32は、第2無機粒子を、被覆層32全体中に40質量%以上94質量%以下含むことが好ましく、60質量%以上90質量%以下含むことがより好ましく、70質量%以上89質量%以下含むことが一層好ましい。
【0053】
電気絶縁性の材料として、被覆層32は、無機化合物の一つである粘土鉱物を含むことが好ましい。
粘土鉱物としては、層状粘土鉱物、複鎖構造型鉱物などが挙げられ、これらは天然、合成を問わない。
層状粘土鉱物としては、スメクタイト属、カオリン属、イライト属に属する粘土鉱物、例えばベントナイト、スメクタイト、ヘクトライト、活性白土、木節粘土、ゼオライト等が挙げられる。
複鎖構造型鉱物としては、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト等が挙げられる。
上述の粘土鉱物は、粒体であってもよく、微粒子粉体であってもよい。
被覆層32が層状粘土鉱物又は複鎖構造型鉱物を含むことで、被覆層32の肉厚方向における電流や熱の移動が抑制され、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、鋳物用構造体3外に移動することが抑制される。その結果、鋳物用構造体3内の溶湯の温度が一層低下しにくくなり、鋳込み時の湯流れを更に良好なまま保つことができる。特に、被覆層32が複鎖構造型鉱物を含む場合、上述の効果が顕著なものとなるので、被覆層32は複鎖構造型鉱物を含有することが好ましい。
上述の効果を一層奏させる観点から、被覆層32は、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、スメクタイトより選ばれる一種又は二種以上を含むことが一層好ましい。
なお、粘土鉱物は、層状構造又は複鎖構造である点で、例えば、六方最密充填構造を主に含み、通常、層状構造又は複鎖構造をとらない第2無機粒子とは区別される。つまり、第2無機粒子は、層状構造を有さず且つ複鎖構造もとらない。
【0054】
被覆層32は、鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から、粘土鉱物を、被覆層32全体中に1.5質量%以上含むことが好ましく、2質量%以上含むことがより好ましく、2.2質量%以上含むことが更に好ましい。
また、鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点から、粘土鉱物を、被覆層32全体中に50質量%以下含むことが好ましく、25質量%以下含むことがより好ましく、10質量%以下含むことが更に好ましい。
【0055】
鋳物用構造体3は、バインダーを含むことが好ましく、該バインダーとして、有機バインダー及び無機バインダーの少なくとも一方を含むことが好ましい。
本体部31が電気絶縁性を有し、鋳込み時の湯流れを良好なものとする観点及び鋳造後の除去性に優れる観点から、本体部31は、有機バインダー及び無機バインダーの双方を含むことが好ましく、有機バインダーのみを含むことがより好ましい。
被覆層32の表面の封孔性の観点から、被覆層32は、有機バインダー及び無機バインダーの双方を含むことが好ましく、無機バインダーのみを含むことがより好ましい。被覆層32の表面の封孔性が向上すると、例えば鋳込み時に本体部31の含有成分が燃焼してガスが発生しても、そのガスが溶湯に混入することを抑制することができる。
【0056】
有機バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、単独又は二種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、可燃ガスの発生が少なく、燃焼抑制効果があり、熱分解(炭化)後における残炭率が高い等の点からフェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0057】
フェノール樹脂としては、ノボラックフェノール樹脂、レゾールタイプ等のフェノール樹脂、尿素、メラミン、エポキシ等で変性した変性フェノール樹脂等が挙げられる。中でも、レゾールタイプのフェノール樹脂を含むことで、酸、アミン等の硬化剤を必要とせず、本体部31成形時の臭気や、本体部31を鋳型として用いた場合の鋳造欠陥を低減することができるので、好ましい。
【0058】
ノボラックフェノール樹脂を含む場合には、硬化剤を併用することが好ましい。硬化剤は水に溶けやすいため、構造体を製造するとき、本体部31の脱水後にその表面に塗工されることが好ましい。硬化剤としては例えば、ヘキサメチレンテトラミン等を含むことが好ましい。
【0059】
無機バインダーとしては、例えば、燐酸系バインダー、珪酸塩等の水ガラス、石膏、硫酸塩、シリカ系バインダー、シリコン系バインダーが挙げられ、単独又は二種以上を混合して用いることができる。
分散媒として水の使用を可能にする観点、及び熱間時の強度を高める観点から、無機バインダーとして、シリカ系バインダーを含むことが好ましい。
【0060】
バインダーは、鋳物用構造体3を製造するとき、鋳込み前において抄造した部品を乾燥成形したときに有機繊維、無機繊維及び無機粒子を強固に結合させる観点から、窒素雰囲気中で1000℃に於ける減量率(TG熱分析測定)が、50質量%以下、特に45質量%以下であることが望ましい。
【0061】
本体部31は、強度を向上させる観点及びガス発生量抑制効果をより発現させる観点から、バインダーを本体部31全体の質量に対し、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上含むことが更に好ましい。
また、本体部31は、耐熱性を向上させる観点、及び、鋳物用構造体3を製造するとき、成形時にべとつくことや、骨格成分の含有量が低減することを防ぎ保形性を向上させる観点から、バインダーを本体部31全体の質量に対し、50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、25質量%以下含むことが更に好ましい。特にバインダーが有機バインダーを含む場合、バインダーの含有量を上述の範囲内とすることにより、耐熱性を向上させるという効果が一層顕著に奏される。
【0062】
被覆層32は、被覆層32表面の封孔性の観点、及び熱間時の強度を高める観点から、バインダーを、被覆層32全体中に5質量%以上含むことが好ましく、6質量%以上含むことがより好ましく、7質量%以上含むことが更に好ましく、8質量部以上含むことが殊更好ましい。
また、被覆層32は、熱間強度を向上させる観点から、バインダーを、被覆層32全体中に30質量%以下含むことが好ましく、20質量%以下含むことがより好ましく、15質量%以下含むことが更に好ましく、12質量%以下含むことが殊更好ましい。特にバインダーが無機バインダーを含む場合、バインダーの含有量を上述の範囲内とすることにより、耐熱性を向上させるという効果が一層顕著に奏される。
【0063】
鋳物用構造体3は、上述の成分に加えて、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分として、例えばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂等の紙力強化剤、ポリアクリルアミド系等の凝集剤、着色剤等を含むことができる。
【0064】
本体部31の肉厚を肉厚Aとしたとき、肉厚Aは、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.8mm以上である。
また、肉厚Aは、好ましくは5mm以下、より好ましくは3.5mm以下、更に好ましくは3mm以下である。
肉厚Aを上述の下限値以上とすることで、本体部31の強度が向上し、鋳物用構造体3の取り扱い性が向上する。更に、本体部31の肉厚方向における電流や熱の移動が抑制され、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、鋳物用構造体3外に移動することが抑制される。その結果、鋳物用構造体3内の溶湯の温度が一層低下しにくくなり、鋳込み時の湯流れを更に良好なまま保つことができる。
肉厚Aを上述の上限値以下とすることで、鋳物用構造体3を軽量化でき、持ち運び性が向上することに加えて、経済的にも有利となる。肉厚Aは、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0065】
被覆層32の肉厚を肉厚Bとしたとき、肉厚Bは、好ましくは5μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは100μm以上である。
また、肉厚Bは、好ましくは1000μm以下、より好ましくは900μm以下、更に好ましくは800μm以下である。
肉厚Bを上述の下限値以上とすることで、被覆層32の強度が向上し、鋳物用構造体3の取り扱い性が向上する。更に、被覆層32の肉厚方向における電流や熱の移動が抑制され、鋳込み時に鋳物用構造体3内に流入した溶湯の熱が、鋳物用構造体3外に移動することが抑制される。その結果、鋳物用構造体3内の溶湯の温度が一層低下しにくくなり、鋳込み時の湯流れを更に良好なまま保つことができる。
肉厚Bを上述の上限値以下とすることで、後述する鋳物用構造体3の製造方法における乾燥工程後に被覆層32に発生し得るひび割れを防ぐことができる。肉厚Bは、肉厚Aと同様に、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0066】
上述の効果を一層奏させる観点から、本体部31と被覆層32との肉厚の合計、すなわち、肉厚Aと肉厚Bとの合計は、好ましくは0.305mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.8mm以上である。
また、肉厚Aと肉厚Bとの合計は、好ましくは6mm以下、より好ましくは4.5mm以下、更に好ましくは4mm以下である。
肉厚Aと肉厚Bとの合計を上述の下限値以上とすることで、鋳物用構造体3の強度が向上し、取り扱い性が向上する。
肉厚Aと肉厚Bとの合計を上述の上限値以下とすることで、鋳物用構造体3を軽量化でき、持ち運び性が向上することに加えて、経済的にも有利となる。
【0067】
上述の効果を一層奏させる観点から、肉厚Aに対する肉厚Bの比B/Aは、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上である。
また、肉厚Aに対する肉厚Bの比B/Aは、好ましくは3.4以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。
肉厚Aに対する肉厚Bの比B/Aを上述の下限値以上とすることで、鋳込み時に発生する熱分解ガスの遮蔽性が向上する。
肉厚Aに対する肉厚Bの比B/Aを上述の上限値以下とすることで、鋳物用構造体3に衝撃などが加わった際に、本体部31から被覆層32が剥離することを抑制することができる。
【0068】
次に、鋳物用構造体3の製造方法について説明する。鋳物用構造体3は、例えば、本体部31を製造した後、製造された本体部31の内面に被覆層32を形成することにより製造することができる。以下、本体部31の製造方法について説明する。
【0069】
本体部31は、抄造工程を有する成形法により製造することができる。このような成形法は、例えば特開2012-024841号公報〔0052〕ないし〔0071〕に記載されている。
上述の製造方法により製造された本体部31の表面に被覆層32を形成することにより、鋳物用構造体3を製造することができる。
【0070】
被覆層32の形成方法として、塗液組成物を用いた塗布、例えば刷毛塗布、スプレー塗布、静電塗装、焼付塗装、ぶっ掛け塗布、浸漬塗布、タンポ塗布、等の方法が挙げられるが、被覆層32の厚みの均一性、効率的及び経済的に鋭意検討を行った結果、浸漬塗布が最も好ましい。浸漬塗布により、内部が中空の本体部31の内面に被覆層32を形成する場合、本体部31の中空部に塗液組成物を充填、接触させることで被覆層32を形成する(以下、「方法1」という。)ことができる。方法1を、中空部が開放状態にある本体部31について行う場合は、例えば、中空部の少なくとも一部の開放部分を封鎖して中空部に塗液組成物を保持できる状態として、塗液組成物を、好ましくは塗液組成物が中空部を満たすように、流し込んで、好ましくは所定時間静置後、塗液組成物を排出することで、被覆層32を形成することができる。いずれの塗布方法においても、塗液組成物の温度は5℃以上40℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは15℃以上30℃以下、更に好ましくは20℃以上30℃以下の範囲で且つ恒温になるように設備設定することが最も好ましい。また、浸漬塗布、中でも方法1では、生産性の面から静置時間は1秒以上60秒以下の範囲が好ましく、バッチ又は連続的に行うことができる。なお、いずれの方法においても、被覆層32の膜厚を調整するために、塗液組成物を塗布した本体部31に、振動テーブル等で振動を与えることができる。本体部31表面に、金属元素をより強固に付着させるためには乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥方法としてヒーターによる熱風乾燥、遠赤外乾燥、マイクロ波乾燥、過熱蒸気乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、限定されるものではない。熱風乾燥機を用いて乾燥させる場合は乾燥炉内中心部の乾燥温度については100℃以上500℃以下の範囲が好ましく、更にバインダーの熱分解による影響を低減させる観点及び発火による安全性を確保する観点から105℃以上300℃以下の範囲が最も好ましい。なお、塗液組成物の分散媒としては、水、アルコール等が挙げられ、水が好ましい。また、分散媒は塗液組成物中の固形分100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下、更に10質量部以上80質量部以下、より更に10質量部以上50質量部以下用いられることが好ましい。
【0071】
本発明の鋳物用構造体3は、例えば、以下のようにして鋳物の製造に用いることができる。
図3に示すように、まず、鋳物用構造体3が有する開口部33のうちの少なくとも一つにキャビティ5を設けるとともに、該鋳物用構造体3を鋳物砂内の所定位置に埋設して砂型6を形成する。砂型6を形成するとき、鋳物用構造体3は、該鋳物用構造体3が有する開口部33のうちの一部(すなわち少なくとも一つの開口部33)の開口部33を残して埋設される。このとき、埋設されていない開口部33の全域が鋳物砂外にあってもよく、該埋設されていない開口部33の一部が鋳物砂内にあってもよい。砂型6の鋳物砂には、従来からこの種の鋳物の製造に用いられている通常のものを制限なく用いることができる。
次いで、埋設されていない開口部33の一端に、鋳物用構造体3内に溶融金属を注ぎ入れるための漏斗状の注湯口7を設置する。図3に示すように、埋設されていない開口部33に接する側の注湯口7の外径は、該開口部33の内径よりも小さいので、該注湯口7は嵌合によって該開口部33に取り付けられる。溶融金属によって溶解しない材料であれば、注湯口7の構成材料に特に制限はなく、従来知られているものを用いることができる。
鋳物用構造体3の埋設方法には特に制限はなく、例えば該鋳物用構造体3を所定位置に配した後、鋳物砂を配してもよいし、鋳物砂を所定の状態に配した後、鋳物用構造体3を配置してもよい。このようにして、鋳物用鋳型4を製造する。
【0072】
鋳物用鋳型4を形成した後、該鋳物用鋳型4のうちの注湯口7から溶融金属を注湯し、キャビティ5内に該溶融金属を供給して鋳込みを行う。鋳込みを終えた後は、所定の温度まで冷却し、鋳物用鋳型4を解体して鋳物砂を取り除き、さらにブラスト処理によって鋳物用構造体3を取り除いて鋳物を露呈させる。その後、必要に応じて鋳物にトリミング処理等の後処理を施してもよい。このようにして、鋳物を製造する。
【0073】
本実施形態の鋳物用構造体3は、上述のとおり、その大部分を占める部位である本体部31が、電気絶縁性を有しているので、鋳込み時に鋳物用構造体3内に注湯した溶融金属の熱が、本体部31を介して鋳物用構造体3外に移動することが抑制される。その結果、本実施形態の鋳物用鋳型4を用いると、従来の鋳物用構造体よりも、鋳物用構造体3内の溶融金属の温度が低下しにくくなり、鋳込み時の湯流れを良好なまま保つことができる。したがって、本実施形態の鋳物用鋳型4によれば、湯じわ、亀裂、空洞等の鋳造欠陥の発生が抑制された鋳物を製造することができる。特に、鋳鉄よりも溶湯の温度が高い鋳鋼を鋳込む場合に、前記の効果が顕著なものとなるので、本実施形態の鋳物用鋳型4は、鋳鋼用鋳型として好適に用いることができる。また当該鋳鋼用鋳型を用いることで、鋳鋼鋳物を製造することができる。
【0074】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の鋳物用構造体3は、本体部31及び被覆層32を有する二層構造であるが、これに代えて鋳物用構造体3は、本体部31及び被覆層32のほかにその他の層構造を有する三層構造であってもよい。鋳物用構造体3が三層構造である場合、上記その他の層構造は、鋳物用構造体3の最外層にあってもよく、最内層にあってもよく、本体部31と被覆層32との間にあってもよい。
【0075】
上述した各実施形態に関し、更に以下の鋳物用構造体3を開示する。
【0076】
<1>
筒状の本体部と該本体部の内面を被覆する被覆層とを有し、該本体部が電気絶縁性を有する、鋳物製造用構造体。
【0077】
<2>
前記被覆層は、前記本体部の内面に膜状部位として存在し、
前記膜状部位は、前記被覆層を構成する粒子が微視的に凝集粒子状で存在している部分である、前記<1>に記載の鋳物製造用構造体。
<3>
前記本体部と前記被覆層とがいずれも、電気絶縁性を有する、前記<1>又は<2>に記載の鋳物製造用構造体。
<4>
前記電気絶縁性は、電流をまったく通さない性質であるか、又は肉厚方向において測定した電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であるか、あるいは表面において測定した電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上である、前記<1>ないし<3>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<5>
前記本体部の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値は、200kΩ/mm以上1×1010kΩ/mm以下、好ましくは300kΩ/mm以上、より好ましくは500kΩ/mm以上である、前記<1>ないし<4>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
【0078】
<6>
前記本体部の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値は、200kΩ/mm以上1×1010kΩ/mm以下、好ましくは1000kΩ/mm以上、より好ましくは1×10kΩ/mm以上である、前記<1>ないし<5>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<7>
前記被覆層の内面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値は、200kΩ/mm以上1×1010kΩ/mm以下、好ましくは300kΩ/mm以上、より好ましく500kΩ/mm以上である、前記<3>に記載の鋳物製造用構造体。
【0079】
<8>
前記被覆層の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値は、200kΩ/mm以上1×1010kΩ/mm以下、好ましくは1000kΩ/mm以上、より好ましくは1×10kΩ/mm以上である、前記<3>に記載の鋳物製造用構造体。
<9>
前記本体部と前記被覆層とを介して肉厚方向において測定された電気抵抗評価値が、200kΩ/mm以上1×1010kΩ/mm以下、好ましくは1000kΩ/mm以上、より好ましくは1×10kΩ/mm以上である、前記<5>又は<6>に記載の鋳物製造用構造体。
<10>
前記本体部の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値及び前記被覆層の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値がいずれも200kΩ/mm以上である、前記<1>ないし<9>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
【0080】
<11>
前記本体部が無機繊維を含み、該無機繊維が電気絶縁性の無機繊維のみからなる、前記<1>ないし<10>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<12>
前記本体部は、電気伝導性の材料を非含有である、前記<11>に記載の鋳物製造用構造体。
<13>
前記本体部は、前記電気伝導性の材料を、0質量%以上1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下含有する、前記<12>に記載の鋳物製造用構造体。
<14>
前記本体部が無機粒子を含み、該無機粒子が電気絶縁性の無機粒子のみからなる、前記<1>ないし<13>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<15>
前記本体部が更に有機繊維を含有する、前記<14>に記載の鋳物製造用構造体。
【0081】
<16>
前記被覆層が無機化合物を含み、該無機化合物が電気絶縁性の無機化合物のみからなる、前記<1>ないし<15>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<17>
前記被覆層が複鎖構造型鉱物を含有する、前記<1>ないし<16>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<18>
前記本体部の肉厚が0.3mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上である、前記<1>ないし<17>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<19>
前記本体部の肉厚が5mm以下、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは3mm以下である、前記<1>ないし<18>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<20>
前記被覆層の肉厚が5μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは100μm以上である、前記<1>ないし<19>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
【0082】
<21>
前記被覆層の肉厚が1000μm以下、好ましくは900μm以下、より好ましくは800μm以下である、前記<1>ないし<20>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<22>
前記本体部と前記被覆層との肉厚の合計が0.305mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上である、前記<1>ないし<21>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<23>
前記本体部と前記被覆層との肉厚の合計が6mm以下、好ましくは4.5mm以下、より好ましくは4mm以下である、前記<1>ないし<22>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<24>
前記本体部の肉厚Aに対する被覆層の肉厚Bの比B/Aが0.001以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上である、前記<1>ないし<23>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<25>
前記本体部の肉厚Aに対する被覆層の肉厚Bの比B/Aが3.4以下、好ましくは2以下、より好ましくは1以下である、前記<1>ないし<24>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
【0083】
<26>
前記本体部における、溶融金属と接する側の被覆層の表面積は、本体部の内表面積に対して、50%以上100%以下、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である、前記<1>ないし<25>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<27>
鋳鋼用の鋳物製造用構造体である、前記<1>ないし<26>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体。
<28>
前記<1>ないし<27>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体を、鋳鋼の鋳造における湯道又は揚がり湯道として使用する使用方法。
<29>
前記<1>ないし<27>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体を、該鋳物製造用構造体が有する開口部のうちの一部の開口部を残して鋳物砂に埋設する工程を有する、鋳鋼用鋳型の製造方法。
<30>
前記<1>ないし<27>のいずれか一に記載の鋳物製造用構造体を、該鋳物製造用構造体が有する開口部のうちの一部の開口部を残して鋳物砂に埋設し、鋳型を製造する鋳型製造工程と、
前記鋳型に溶融金属を注湯する鋳込み工程とを有する、鋳鋼鋳物の製造方法。
【実施例
【0084】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0085】
〔実施例1〕
下記原料スラリーを用いて繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体を脱水、乾燥し、鋳物用構造体を得た。鋳物用構造体は、ストレート形状(図1参照)の本体部と、エルボ形状(図2(a)参照)の本体部とを含む。なお、本体部の組成は表1に示すとおりとした。
【0086】
<原料スラリーの調製>
下記に示す有機繊維と無機繊維とを水に分散させて約1質量%(水性スラリーに対し、有機繊維及び無機繊維の合計質量が1質量%)の水性スラリーを調製した後、該スラリーに第1無機粒子、バインダー、凝集剤及び紙力強化剤を配合し、原料スラリーを調製した。原料スラリー中の有機繊維、無機繊維、第1無機粒子及びバインダーの配合量は、目的とする本体部における各成分の含有割合が表1に示すとおりになるようにした。なお、有機繊維、無機繊維、第1無機粒子及びバインダーの合計の配合量を100質量部(固形分換算)としたときに、原料スラリー中の凝集剤の配合量は0.625質量部となるように該原料スラリー中に配合し、紙力強化剤の配合量は0.025質量部(固形分換算)となるように該原料スラリーに配合した。表1に示すそれぞれの成分は、下記のとおりである。
【0087】
<有機繊維>
・有機繊維:新聞古紙(平均繊維長1mm、フリーネス150mL)
【0088】
<無機繊維>
・無機繊維:アルミナ繊維〔平均繊維長3mm、繊維幅7μm(長軸/短軸比=429)〕
【0089】
<第1無機粒子>
・シリカ:球状粒子形状、平均粒径26μm
【0090】
<バインダー>
・フェノール樹脂(レゾールタイプ):窒素雰囲気中で1000℃における減量率44%(TG熱分析測定)
【0091】
<凝集剤>
・凝集剤:ポリアミドエピクロロヒドリン
【0092】
<紙力強化剤>
・紙力強化剤:カルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液
【0093】
<分散媒>
・分散媒:水
【0094】
<抄造・脱水工程>
抄造型として、前記の本体部(ストレート管とエルボ管)に対応するキャビティ形成面を有する金型を用いた。金型のキャビティ形成面には所定の目開きのネットが配され、キャビティ形成面と外部とを連通する多数の連通孔が形成されている。なお、金型は、一対の割型からなる。原料スラリーをポンプで循環させ、抄造型内に所定量のスラリーを加圧注入する一方で、連通孔を通してスラリー中の水を除去し、所定の繊維積層体を前記ネットの表面に堆積させた。所定量の原料スラリーの注入が完了したら、加圧エアーを抄造型内に注入し、繊維積層体を脱水した。加圧エアーの圧力は、0.2MPa、脱水に要した時間は約30秒であった。
【0095】
<乾燥工程>
乾燥型として、前記の本体部(ストレート管とエルボ管)に対応するキャビティ形成面を有する金型を用いた。当該金型にはキャビティ形成面と外部とを連通する多数の連通孔が形成されている。なお、金型は一対の割型からなる。繊維積層体を抄造型から取り出し、それを200℃に加熱された乾燥型に移載した。そして、乾燥型の上部開口部から袋状の弾性中子を挿入し、密閉された乾燥型内で当該弾性中子内に加圧空気(0.2MPa)を該弾性中子に注入して該弾性中子を膨らませ、該弾性中子で前記繊維積層体を乾燥型の内面に押し付けて、当該乾燥型の内面形状を該繊維積層体表面に転写させつつ乾燥させた。加圧乾燥(60秒間)を行った後、弾性中子内の加圧空気を抜いて当該弾性中子を収縮させて乾燥型内から取り出し、成形体を乾燥型内から取り出して冷却し、熱硬化された本体部31を得た。
【0096】
<第2無機粒子を主成分とする塗液組成物の調製>
固形分材料として下記に示す第2無機粒子、粘土鉱物及びバインダーと、水とを攪拌機にて15分間撹拌し、第2無機粒子を主成分とする塗液組成物を得た。塗液組成物中の第2無機粒子、粘土鉱物及びバインダーの配合量は、目的とする被覆層における各成分の含有割合が表1に示すとおりになるようにした。塗液組成物中の水の量は、該塗液組成物の固形分濃度が85質量%となるように調整した。
【0097】
<第2無機粒子>
・チタン(平均粒径20μm)
【0098】
<粘土鉱物>
・アタパルジャイト:林化成株式会社製、商品名「アタゲル50」
【0099】
<バインダー>
・コロイダルシリカ:日産化学株式会社製、商品名「スノーテックス50-T」
【0100】
<被覆層の形成>
前記熱硬化された本体部(ストレート管とエルボ管)をそれぞれ片方の開放末端を封鎖した状態とし、それらの内部に、上記で調製した塗液組成物を上端まで流し込んで、10秒間静置後、上下逆転し、塗液組成物を排出した。自然乾燥した後、200℃で30分間、熱風乾燥機で乾燥させ、被覆層が形成された鋳物用構造体を得た。
【0101】
〔実施例2〕
被覆層に含まれる第2無機粒子をジルコン(平均粒径20μm)とした以外は、以下の表1に示す割合で各材料を混合して、実施例1と同様に鋳物用構造体を得た。
【0102】
〔比較例1〕
本体部に含まれる無機繊維として、アルミナ繊維に代えて炭素繊維(平均繊維長3mm、繊維幅11μm(長軸/短軸比=273))を用い、以下の表1に示す割合で各材料を混合した以外は、実施例1と同様に鋳物用構造体を得た。
【0103】
〔比較例2〕
本体部に含まれる無機繊維として、アルミナ繊維に代えて炭素繊維を用い、被覆層に含まれる第2無機粒子をジルコンとし、以下の表1に示す割合で各材料を混合した以外は、実施例1と同様に鋳物用構造体を得た。
〔比較例3〕
本体部に含まれる第1無機粒子として、シリカに代えて中空シリカを用い、以下の表1に示す割合で各材料を混合した以外は、比較例2と同様に鋳物用構造体を得た。
【0104】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた鋳物用構造体において、以下の方法に従い、本体部の肉厚(肉厚A)及び被覆層の肉厚(肉厚B)を測定した。
また、上述の方法に従い、本体部の肉厚方向における電気抵抗評価値及び該本体部の外面における電気抵抗評価値、並びに被覆層の肉厚方向における電気抵抗評価値及び該被覆層の内面における電気抵抗評価値を測定し、本体部又は被覆層が電気伝導性を有するか否かを評価した。
鋳物用構造体において電気抵抗評価値が低いと、換言すれば熱の伝導性が低いと、鋳込み時の湯流れが良好なものとなり、鋳込み温度の低下に伴い生じる湯流れの不良が原因の一つとなって発生する鋳造欠陥である湯じわが生じにくくなる。
得られた結果を、表1に示す。
【0105】
<本体部の肉厚(肉厚A)の測定>
本体部31の厚みはダイヤルキャリパーゲージ〔株式会社ミツトヨ製、コードNo.209-611、符号DCGO-50RL〕を用いて、同一平面上の円周方向の任意の8箇所を測定し、その平均値をとって求めた。
【0106】
<被覆層の肉厚(肉厚B)の測定>
被覆層32の厚みは、本体部31に被覆層32を形成した後の鋳物用構造体3の厚みから、本体部31に被覆層32を形成する前の該本体部31の厚みを差し引いて求めた。詳細には、本体部31に被覆層32を形成する前の該本体部31の厚みは、本体部31の外周面に、同一平面上の円周方向の任意の8箇所に予め目印を付与し、上述の通り測定した。本体部31に被覆層32を形成した後の鋳物用構造体3の厚みは、前記本体部31の外周面に目印を付与した任意の8箇所の位置でダイヤルキャリパーゲージ〔株式会社ミツトヨ製、コードNo.209-611、符号DCGO-50RL〕を用いて測定し、その平均値をとって求めた。
【0107】
【表1】
【0108】
表1の記載から分かるとおり、本体部が、その肉厚方向に電気絶縁性を有する実施例1及び2の鋳物用構造体は、その肉厚方向に電気伝導性を有する比較例1ないし3の鋳物用構造体と比べて、電気抵抗評価値が増加し、熱伝導のしにくさが向上した。
【符号の説明】
【0109】
3 鋳物製造用構造体
31 本体部
32 被覆層
32S 被覆層の内面
33 開口部
4 鋳物用鋳型
5 キャビティ
6 砂型
7 注湯口
【要約】
【課題】鋳込み時の湯流れが良好な鋳物製造用構造体を提供すること。
【解決手段】鋳物製造用構造体3は、筒状の本体部31と該本体部31の内面を被覆する被覆層32とを有し、該本体部31が電気絶縁性を有する。本体部31と被覆層32とがいずれも、電気絶縁性を有することが好ましい。本体部31の外面における60mm離れた位置で測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であるか、及び/又は本体部31の肉厚方向において測定された電気抵抗評価値が200kΩ/mm以上であることが好ましい。
【選択図】図1
図1
図2
図3