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  • 特許-電磁波遮蔽性成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽性成形体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20230324BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230324BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230324BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H05K9/00 M
C08L101/00
C08K7/06
C08J5/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018194175
(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2019161208
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2017209052
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017209054
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018043080
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018043082
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】片野 博友
(72)【発明者】
【氏名】片山 弘
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-226493(JP,A)
【文献】特開2014-62189(JP,A)
【文献】特開2015-7216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08L 101/00
C08K 7/06
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記炭素繊維が、前記成形体中の重量平均繊維長が0.1~1.0mmの範囲であり、
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合が0.1~20質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.01mm~5mmで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が25%以上のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項2】
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合が0.1~5質量%であり、
前記熱可塑性樹脂組成物がカルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性ポリプロピレンを含有していないものである、請求項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項3】
前記炭素繊維が、前記成形体中における0.5mm以上の繊維長のものの割合が70質量%以下のものである、請求項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項4】
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合(R)が0.5~20質量%、前記成形体の厚み(T)が0.1mm~5mm、R・Tが1.5~35の範囲であり、
59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数、または75GHz~95GHzの周波数領域全体における電磁波の遮蔽性が30dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が25%以上のものである、請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項5】
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合(R)が0.1~20質量%、前記成形体の厚み(T)が0.01mm~5mm、R・Tが0.1~1.0の範囲であり、
59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が5dB以上30dB未満であり、前記周波数の電磁波の吸収性が40%以上のものである、請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項6】
前記電磁波遮蔽吸収性成形体の電磁波の遮蔽性と吸収性が、75GHz~95GHzの周波数領域全体のものである、請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項7】
前記電磁波遮蔽吸収性成形体の電磁波の遮蔽性と吸収性が、59GHz~100GHzの周波数領域全体のものである、請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記炭素繊維が、前記成形体中の重量平均繊維長が1.05~5.0mmの範囲のものであり、
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合が0.05~45質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.1mm~5mmで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が30dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が5%以上のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項9】
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合が0.1~5質量%であり、
前記熱可塑性樹脂組成物がカルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性ポリプロピレンを含有していないものである、請求項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項10】
前記成形体中の炭素繊維の含有割合(R)と前記成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が0.05~16または16超である、請求項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項11】
前記電磁波の遮蔽性かつ吸収性が周波数75GHz~82GHzのものである、請求項8~10のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項12】
前記電磁波の遮蔽性かつ吸収性が周波数70GHz~85GHzのものである、請求項8~10のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物、スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれるものである、請求項1~12のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項14】
送受信アンテナ用保護部材である、請求項1~13のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定波長の電磁波に対する遮蔽性と吸収性の高い電磁波遮蔽吸収性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転や衝突防止を目的とするミリ波レーダー装置が知られている。
ミリ波レーダー装置は、自動車の前方中央、両側方、後方両側方など各部に取り付けられ、電波を送受信するアンテナが組み込まれた高周波モジュール、該電波を制御する制御回路、アンテナおよび制御回路を収納するハウジング、アンテナの電波の送受信を覆うレドームを備えている(特許文献1の背景技術)。このように構成されたミリ波レーダー装置は、アンテナからミリ波を送受信して、障害物との相対距離や相対速度などを検出することができる。
アンテナは、目的とする障害物以外の路面などに反射したものも受信することがあるため、装置の検出精度が低下するおそれがある。
このような問題を解決するため、特許文献1のミリ波レーダー装置では、アンテナと制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材を設けている。
特許文献1の発明の課題を解決するものとして、繊維長3~30mmの炭素長繊維を含む熱可塑性樹脂組成物と、それから得られるミリ波の遮蔽性能を有している成形体の発明が提案されている(特許文献2)。
その他、平均長さ0.5~15mmの炭素繊維を含む熱可塑性樹脂成形品の電磁波シールド性が良いという発明が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-74662号公報
【文献】特開2015-7216号公報
【文献】特許第6123502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定周波数の電磁波の遮蔽性と吸収性が優れている電磁波遮蔽吸収性成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記炭素繊維が、前記成形体中の重量平均繊維長が0.05~8.0mmの範囲であり、
前記成形体中の前記炭素繊維の含有割合が0.05~45質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.01mm~5mmで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が5%以上のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体を提供する。
本発明の電磁波遮蔽性は、電磁波の吸収性および反射性の両方を合わせた性能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維を使用することで特定周波数の電磁波に対する遮蔽性と吸収性の両方を高くすることができる。
さらに本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素短繊維と炭素長繊維を使用することで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの電磁波に対する遮蔽性と吸収性の両方を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例で使用した電磁波遮蔽性の測定装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の組成物は、熱可塑性樹脂と炭素繊維の組み合わせを所定量含有することが特徴であり、電磁波の遮蔽性および吸収性の両方を合わせた性能を得るためには、前記炭素繊維として、短繊維の所定量または長繊維の所定量を使用することが好ましい。
【0009】
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物(カルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物)、スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれる1または2以上を使用することができる。
熱可塑性樹脂(カルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物を除く)とカルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物(マレイン酸変性ポリプロピレンなど)を併用すると、成形体中における熱可塑性樹脂と炭素繊維(短繊維または長繊維)との密着性が向上されるので好ましいが、炭素繊維の含有量に応じて、カルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物(マレイン酸変性ポリプロピレンなど)を含有しないようにすることもできる。
スチレン系樹脂は、ポリスチレン、スチレン単位を含む共重合体(AS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、MAS樹脂など)を使用することができる。
【0010】
炭素繊維として短繊維を使用するときは、電磁波遮蔽吸収性成形体中の重量平均繊維長が0.05~1.05mm未満の範囲が好ましく、好ましくは0.05~1.0mmの範囲、より好ましくは0.1~0.7mmである。
【0011】
前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の炭素繊維(短繊維)の含有割合は0.1~20質量%であり、0.1~15質量%が好ましい。
なお、前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の炭素繊維(短繊維)の含有割合が0.1~10質量%であるとき、好ましくは0.1~5質量%であるときは、熱可塑性樹脂(カルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物を除く)とカルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物(マレイン酸変性ポリプロピレンなど)を併用しない場合でも、遮蔽性と吸収性を高めることができる。
【0012】
炭素繊維として短繊維を使用するときは、電磁波遮蔽吸収性成形体中における0.5mm以上の繊維長のものの割合が70質量%以下のものが好ましい。但し、熱可塑性樹脂(カルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物を除く)とカルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物を併用しないときは、電磁波遮蔽吸収性成形体中における0.5mm以上の繊維長は、70質量%を超える割合を含有することもできる。
【0013】
炭素繊維として長繊維を使用するときは、電磁波遮蔽吸収性成形体中の重量平均繊維長が1.05~8.0mmの範囲が好ましく、より好ましくは1.05~6.0mm、さらに好ましくは1.05~5.0mm、さらに好ましくは1.05~4.0mmである。
炭素繊維は、熱可塑性樹脂を使用した樹脂含浸繊維束長繊維ペレットの形態で使用することができる。
熱可塑性樹脂を使用した樹脂含浸繊維束長繊維ペレットの製造方法自体は公知であり、例えば、特開2013-107979号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)、特開2013-121988号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)、特開2012-52093号公報(実施例1~9)、特開2012-131104号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造、製造例2の樹脂含浸炭素繊維長繊維束の製造)、特開2012-131918号公報(製造例1の樹脂含浸炭素繊維束の製造、製造例2の樹脂含浸ガラス繊維束の製造)、特開2011-162905号公報(実施例1)、特開2004-14990号公報(実施例1~7)に記載の方法に準じて製造することができる。
【0014】
前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の炭素繊維(長繊維)の含有割合は0.05~45質量%が好ましく、0.1~45質量%がより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましい。炭素繊維(長繊維)の含有量が少量の場合には、無機充填材(ガラス繊維、タルクなど)を含有させることで前記電磁波遮蔽吸収性成形体の機械的強度を高めるようにすることもできる。
なお、前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の炭素繊維(長繊維)の含有割合が0.1~10質量%であるとき、好ましくは0.5~5質量%であるときは、熱可塑性樹脂(カルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物を除く)とカルボキシル基またはカルボニル基を有する酸変性物(マレイン酸変性ポリプロピレンなど)を併用しない場合でも、遮蔽性と吸収性を高めることができる。
【0015】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、課題を解決できる範囲内で公知の樹脂添加剤を含有することができる。公知の樹脂添加剤としては、熱、光、紫外線などに対する安定剤、滑剤、核剤、可塑剤、公知の無機および有機充填材(但し、炭素繊維は除く)、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、軟化剤、分散剤、酸化防止剤、色材などを挙げることができる。
前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の上記公知の樹脂添加剤の合計含有割合は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
<電磁波遮蔽吸収性成形体>
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、射出成形などの公知の樹脂成形法を適用して上記の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体の大きさや形状は、下記厚みを満たす範囲内で用途に応じて適宜調整することができる。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として短繊維を使用するときは、厚みが0.01mm~5mmが好ましく、より好ましくは0.05~5mm、さらに好ましくは0.1~4mmのものである。厚みは実施例に記載の方法により測定されるものである。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として長繊維を使用するときは、厚みは0.1mm~5mmが好ましく、より好ましくは0.5mm~5mm、さらに好ましくは0.5mm~4mmのものである。厚みは実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0017】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として短繊維を使用するときは、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が25%以上のものが好ましい。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として短繊維を使用するときは、炭素繊維の含有割合(R)と厚み(T)を調整することで電磁波遮蔽性と電磁波吸収性を調整することができる。なお、前記成形体中に残存する炭素繊維の重量平均繊維長は0.1~1.0mmの範囲が好ましい。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として短繊維を使用するときは、前記成形体中の炭素繊維の含有割合(R)が0.5~20質量%、前記成形体の厚み(T)が0.1mm~5mm、R・Tが1.5~35の範囲であるとき、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が好ましくは30dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が好ましくは25%以上のものにすることができる。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として短繊維を使用するときは、前記成形体中の炭素繊維の含有割合(R)が0.1~20質量%、前記成形体の厚み(T)が0.01mm~5mm、R・Tが0.1~1.0の範囲であるとき、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が好ましくは5dB以上30dB未満、より好ましくは10~25dBであり、前記周波数の電磁波の吸収性が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上のものにすることができる。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体の電磁波の遮蔽性と吸収性は、炭素繊維として短繊維を使用するときは、いずれも好ましくは周波数75GHz~95GHzの範囲全体、より好ましくは周波数59GHz~100GHzの範囲全体で上記した電磁波遮蔽性と電磁波吸収性を満たすものである。
【0018】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として長繊維を使用するときは、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が、30dB以上が好ましく、より好ましくは40dB以上、さらに好ましくは50dB以上、さらに好ましくは60dB以上にすることができる。
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として長繊維を使用するときは、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の吸収性を5%以上、好ましくは7%以上、より好ましくは10%にすることができる。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体の電磁波の遮蔽性と吸収性は、炭素繊維として長繊維を使用するときは、いずれも好ましくは周波数75GHz~82GHzの範囲全体、より好ましくは周波数70GHz~85GHzの範囲全体で上記した電磁波遮蔽性と電磁波吸収性を満たすものである。
【0019】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、炭素繊維として長繊維を使用するときは、炭素繊維の含有割合(R)と厚み(T)を調整することで電磁波遮蔽性と電磁波吸収性を調整することができる。なお、前記成形体中に残存する炭素繊維の重量平均繊維長は1.05~4.0mmの範囲とすることが好ましい。
成形体(組成物)中の炭素繊維の含有割合(R)と成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が好ましくは0.05~16、より好ましくは0.5~10未満、好ましくは1~8であるときは、周波数70GHz~100GHzの範囲全体における電磁波遮蔽性を40dB以上にすることができ、電磁波吸収性を20%以上にすることができる。
成形体(組成物)中の炭素繊維の含有割合(R)と成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が16超、好ましくは18~100であるときは、周波数70GHz~100GHzの範囲全体における電磁波遮蔽性を70dB以上にすることができ、電磁波吸収性を2%以上にすることができる。
【実施例
【0020】
(1)重量平均繊維長
成形体から約3gの試料を切出し、樹脂を燃焼させて炭素繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)をLUZEX AP((株)ニレコ製)で測定したデータから重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006-274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。
【0021】
(2)厚み(mm)
平板状の電磁波遮蔽吸収性成形体(150×150mm)の中心部分(対角線の交わる部分)の厚さを測定した。
【0022】
(3)引張呼び歪み(%)
ISO527に準じて引張呼び歪みを測定した。
【0023】
(4)電磁波遮蔽性と電磁波吸収性
図1に示す測定装置を使用した。
水平方向に対向させた1対のアンテナ(コルゲートホーンアンテナ)11、12の間に測定対象となる成形体10(縦150mm、横150mm、表に示す厚み)を保持した。アンテナ12と成形体10の間隔は0mm、成形体10とアンテナ11との間隔は0mmである。
この状態にて、下側のアンテナ12から電磁波(65~110GHz)を放射して、測定対象となる成形体10を透過した電磁波を上側のアンテナ11で受信して、下記式1、式2から電磁波遮蔽性(放射波の透過阻害性)を求め、下記式3~6から電磁波吸収性を求めた。
電磁波遮蔽性(dB)=20log(1/|S21|) (式1)
21=(透過電界強度)/(入射電界強度) (式2)
式1のS21は、透過電界強度と入射電界強度の比を表すSパラメータ(式2)で、ネットワークアナライザ20により測定できる。
式1では、電磁波遮蔽性(dB)を正の値で表すため、Sパラメータの逆数の対数をとった。図1の測定装置では、0~約100dBの範囲が測定可能で、電磁波シールド性が測定上限を超える場合は表1において「>100(dB)」と表記した。
11=(反射電界強度)/(入射電界強度) (式3)
式3のS11は、反射電界強度と入射電界強度の比を表すSパラメータで、S21と同じく、ネットワークアナライザにより測定できる。
吸収率は、電力基準として、下記式のように百分率で表記した。
透過率(%)=S21 2×100 (式4)
反射率(%)=S11 2×100 (式5)
吸収率(%)=100-透過率-反射率 (式6)
【0024】
<使用成分>
(熱可塑性樹脂)
PP:ポリプロピレンホモポリマー,商品名「PM900A」,サンアロマー(株)製
酸変性PP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン,商品名「OREVAC CA100」,マレイン酸1.0質量%変性,アルケマ(株)製
PP2:サンアロマーPMB60A(サンアロマー社製、ブロックPP)
PP3:プライムポリプロ S119(プライムポリマー社製、ホモPP)
(炭素繊維)
炭素繊維:商品名「CFU-HC」,日本ポリマー産業(株)製
サイジング剤処理炭素繊維ロービング:トレカT700SC-12000-50C(東レ社製、エポキシ系サイジング剤処理)を使用して、製造例1において製造したペレットPP1
(その他)
安定剤1:フェノール系安定剤,商品名「アデカスタブA0-60」,(株)ADEKA製
安定剤2:イオウ系安定剤,商品名「TOWREXA0180T」,TOWREX社製
滑剤:ステアリン酸カルシウム,商品名「SC-PG」,堺化学工業(株)製
【0025】
製造例1
サイジング剤処理炭素繊維ロービングを、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機,シリンダー温度280℃)から溶融状態のポリプロピレン(PP:酸変性PP=85:15(質量比)の混合物)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ8mmのペレット(円柱状成形体)PP1(炭素長繊維40質量%含有)を得た。
炭素長繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレットPP1は、炭素長繊維が長さ方向にほぼ平行になっていた。
【0026】
製造例2
サイジング剤処理炭素繊維ロービングを、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機,シリンダー温度280℃)から溶融状態のポリプロピレン(PP3,酸変性PPは含まない)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ8mmのペレット(円柱状成形体)PP4(炭素長繊維40質量%含有)を得た。
炭素長繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレットPP4は、炭素長繊維が長さ方向にほぼ平行になっていた。
【0027】
実施例1~19および比較例1、2
表1、表2に示す各成分をドライブレンドした後、押出機(TEX30α,(株)日本製鋼
所)を使用してペレット(熱可塑性樹脂組成物)を製造した。
次に得られたペレットを使用し、射出成形機(α-150iA,ファナック(株)製)により、成形温度220℃、金型温度50℃で成形して本発明の平板状の電磁波遮蔽吸収性成形体(150×150mm)を得た。
得られた電磁波遮蔽吸収性成形体を使用して、表1、表2に示す各測定を実施した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
実施例1~16は、炭素繊維の残存繊維長が1mm以下と短いが、炭素繊維の含有割合(R)と厚み(T)を関連づけて適正範囲に調整することで、広い周波数領域において高い電磁波遮蔽性と電磁波吸収性を得ることができた。
なお、実施例7、9、11、12の0.5mm以上の炭素繊維の割合(本数割合)は50%以下であり、残る他の例も本数割合は50%以下であった。
実施例17~19は、炭素繊維の含有割合が0.1~5.0質量%で、酸変性PPを使用していない例であるが、同程度の炭素繊維を含有している実施例13~16と比べても、同等以上の遮蔽性と吸収性を示していた。
比較例2は、炭素繊維を含有していないことから、遮蔽性、吸収性ともに効果がなかった。
【0031】
実施例20~33、比較例3
PP1(製造例1で得た炭素長繊維40質量%含有ペレット。酸変性PPを含む)、PP2(炭素繊維を含まない)、PP4(製造例2で得た炭素長繊維40質量%含有ペレット。酸変性PPを含まない)の各ペレットを表3に示す割合でドライブレンドし、射出成形機(α-150iA;ファナック(株)製)により、成形温度250℃、金型温度50℃で成形して、本発明の平板状の電磁波遮蔽吸収性成形体(150×150mm)を得た。
得られた電磁波遮蔽吸収性成形体を使用して、表3に示す各測定を実施した。
【0032】
【表3】
【0033】
実施例20~31は、炭素繊維の残存繊維長が1.05mm以上であり、炭素繊維の含有割合(R)と厚み(T)を関連づけて適正範囲に調整することで、広い周波数領域において電磁波遮蔽性と電磁波吸収性を調整することができた。
実施例32、33は、炭素繊維の含有割合が0.5~3質量%で、酸変性PPを使用していない例であるが、同程度の炭素繊維を含有している実施例20~25と比べても、同等以上の遮蔽性と吸収性を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、車両の自動運転や衝突防止を目的として車両に搭載するミリ波レーダー装置用、例えば、ミリ波レーダーの送受信アンテナ制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材(送受信アンテナ用保護部材)、ミリ波レーダー装置のハウジング、ミリ波レーダー装置の取付け用部材などのほか、車両用または車両以外の電気・電子機器のハウジングなどに使用することができる。
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、無線LANや広帯域無線アクセスシステム、通信衛星、簡易無線、車載レーダ、位置認識システムなどの保護部材として使用することができ、さらに具体的には、基地局アンテナ、RRH(無線送受信装置)、BBU(べースバンド装置)、基地向けGaNパワーアンプ、光トランシーバーなどの電波を遮蔽する保護部材として使用することができる。
図1